(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】イオン生成装置
(51)【国際特許分類】
H01T 23/00 20060101AFI20240304BHJP
H01T 19/00 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
H01T23/00
H01T19/00
(21)【出願番号】P 2019227924
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183738
【氏名又は名称】春日電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504268744
【氏名又は名称】独立行政法人労働者健康安全機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002446
【氏名又は名称】弁理士法人アイリンク国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076163
【氏名又は名称】嶋 宣之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 輝夫
(72)【発明者】
【氏名】崔 光石
(72)【発明者】
【氏名】長田 裕生
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-113997(JP,A)
【文献】特開平07-326487(JP,A)
【文献】特開平11-276937(JP,A)
【文献】特開昭62-202498(JP,A)
【文献】特開2001-189199(JP,A)
【文献】特開2004-039352(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0254312(US,A1)
【文献】特開平01-221847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 23/00
H01T 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に放電部を備えた導体と、
この導体に高電圧を印加する電源と、
上記導体と電源との間に直列に接続された高抵抗素子と、
上記放電部を突出させながら、上記導体の周囲を囲って上記導体と対向し
、上記導体に対応する浮遊容量を生成する浮遊容量生成手段と
なる接地されたケーシングと
を備え、
上記放電部にコロナ放電を発生させてイオンを生成するイオン生成装置であって、
上記導体と上記
ケーシングとの対向長さに応じて上記浮遊容量の大きさが決められる構成にする一方、
上記浮遊容量に蓄電される最大電荷の放電エネルギーが、処理対象が存在する雰囲気における可燃性物質の最小着火エネルギー未満になるように、上記導体と上記
ケーシングとの対向長さが設定されたイオン生成装置。
【請求項2】
上記導体と上記
ケーシングとの対向長さが、
上記浮遊容量の静電容量が0.1[pF]~5[pF]となる長さを保つ請求項1に記載のイオン生成装置。
【請求項3】
上記高抵抗素子の抵抗値が100[MΩ]~500[MΩ]である請求項1又は2に記載のイオン生成装置。
【請求項4】
上記導体と
上記ケーシングとの対向長さが、上記浮遊容量の静電容量が3[pF]となる長さを保ち、かつ、上記高抵抗素子の抵抗値を100[MΩ]にした請求項1に記載のイオン生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、除電や帯電などに用いるイオン生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、対象物を正または負の電荷で帯電させたり、帯電している物体の表面電荷を中和させたりするために、コロナ放電を利用して正または負のイオンを生成するイオン生成装置が知られている。
このようなイオン生成装置は、先端の放電部でコロナ放電を発生させる導体と、この導体に高電圧を印加する電源とを備えている。また、導体の先端に手などが触れた場合に大電流が流れることを防止するため、上記導体と電源との間には電流制限用の抵抗素子が接続されている。
【0003】
そして、導体にはコロナ放電を発生させるために電源からは高電圧が出力される。このようなイオン生成装置では、高電位領域を少なくすることが安全であるとの考えから、上記抵抗素子をできるだけ電源の近くに接続するようにしていた。
その結果、高抵抗素子から放電部までの導体の長さが長くなって、その部分に対応した浮遊容量の容量が大きくなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなイオン生成装置では、導体先端の放電部と処理対象との距離が適切に保たれている場合には、放電部と処理対象との間に安定したコロナ放電が発生し、イオンが生成される。
一方、振動などの何らかの原因によって処理対象が放電部に異常接近した場合には、放電部と処理対象との間に絶縁破壊が発生し、放電部からは上記浮遊容量に蓄積された電荷が異常放電として放出される。
【0006】
特に、従来のイオン生成装置では、導体の浮遊容量が大きいため、この浮遊容量には多くの電荷が蓄積されている。したがって、異常放電時には、浮遊容量に蓄積された大量の電荷に対応した過大エネルギーが放出される。
【0007】
特に、可燃性ガスが存在するような場所では、上記のように処理対象と放電部との間で発生する異常放電が着火性放電となって、爆発・火災事故の要因になってしまうことがあった。
だからと言って、絶縁破壊による異常放電の発生を確実に防止するため、放電部と処理対象との間隔を必要以上に大きく設定すれば、コロナ放電で生成されたイオンが処理対象に到達しにくくなり、処理効率が落ちてしまうという問題が発生する。
【0008】
この発明の目的は、処理効率を犠牲にすることなく、自らが爆発・火災事故の要因にはならないイオン生成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明のイオン生成装置における構成上の最大の特徴は、導体先端の放電部と処理対象との間に絶縁破壊が発生したとき、高抵抗素子が電源からの給電を抑えて、導体に対応した浮遊容量に蓄積された電荷のみを放電するようにしながら、浮遊容量の大きさを微小に保って、異常放電時の放電エネルギーが雰囲気の最小着火エネルギーに達しないようにしたことである。
上記異常放電とは、放電部と処理対象との間の絶縁破壊によって瞬間的に多くの電荷が流れる状態のことで、コロナ放電のようにわずかな電流しか流れない中での持続的な放電は含まない。
【0010】
そして、この発明の装置では、導体と浮遊容量生成手段である接地されたケーシングとの対向長さによって浮遊容量が決められる。したがって、その対向長さの設定によって浮遊容量の大きさを微小に保つことができる。浮遊容量の大きさが微小であれば、上記した絶縁破壊が発生したとしても、浮遊容量の蓄電量に相当する電荷しか放出されないので、放電エネルギーも小さくなり、着火性放電にはならない。
なお、上記浮遊容量の大きさは上記のように導体と接地されたケーシングとの対向長さによって決まるが、この対向長さも上記導体の断面形状に応じて変化する。例えば、断面が平板状の導体あるいは断面が円形で直径が大きな導体であれば、相対的にその長さを短くできる。
【0011】
また、高抵抗素子によって、電源から大電流が供給されることが抑えられているので、浮遊容量に蓄積された電荷が放電すると、放電部の電位がゼロまで下がって放電は一旦停止する。高抵抗素子を介して浮遊容量に徐々に蓄電されると放電部の電位も徐々に高くなり、放電部が放電開始電圧に達したら、再度放電が起こる。このように、放電が繰り返されたとしても、1回の放電エネルギーは浮遊容量に蓄積された電荷量に比例するので、この蓄積電荷量が小さくなるように設定されたこの発明の装置では、放電エネルギーが小さく着火性放電には至らない。
【0012】
なお、上記導体は、金属やある程度の抵抗を有する導電性樹脂や導電性セラミクスあるいは金属と導電性樹脂や導電性セラミクスを連続させたものであってもよい。
さらに、上記高抵抗素子は、上記放電部と処理対象との間に絶縁破壊が発生したとき、高抵抗素子で電源から導体への大電流の流れを抑制して、上記浮遊容量に蓄積された電荷のみを放電させる機能を発揮するものである。
【0013】
第2の発明は、上記導体と上記接地されたケーシングとの対向長さを、上記浮遊容量の静電容量が0.1[pF]~5[pF]となる長さにしたものである。
第3の発明は、上記高抵抗素子の抵抗値が100[MΩ]~500[MΩ]である。
第4の発明は、上記導体と上記接地されたケーシングとの対向長さが、上記浮遊容量の静電容量が3pFとなる長さを保ち、かつ、上記高抵抗素子の抵抗値を100[MΩ]にしている。
【発明の効果】
【0014】
この発明のイオン生成装置によれば、処理対象と導体先端の放電部との間で絶縁破壊による異常放電が発生しても、そのときの放電エネルギーを雰囲気の最小着火エネルギーよりも小さく抑えられるので、着火性放電を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態のイオン生成装置の構造の概略図である。
【
図3】第2実施形態のイオン生成装置の構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示した第1実施形態は、帯電装置などに適用するイオン生成装置の概略図であり、このイオン生成装置は接地されたケーシングAを備え、このケーシングAの開口部分から導体1の先端の放電部1aを突出させている。この導体1はその放電部1aとは反対側に高抵抗素子2を接続するとともに、この高抵抗素子2には高圧ケーブル3を介して高電圧電源4を接続している。
【0017】
上記のようにした導体1に高電圧Vが印加されると、放電部1aと接地されたケーシングAとの間にコロナ放電が発生してイオンが生成される。生成されたイオンは、処理対象5に照射されて処理対象5を帯電させるようにしている。
なお、上記高電圧電源4は、必要に応じて正または負の直流の高電圧を出力するものである。
【0018】
また、このような装置では、上記導体1と接地されたケーシングAとの間に浮遊容量SCが生成される。この第1実施形態では、ケーシングAにおいて導体1と対向する部分を浮遊容量生成手段とし、上記導体1とケーシングAとの間で浮遊容量SCが生成されるようにしたが、例えば導体1の対向相手としては、床面や接地電位を保った他の部材等を用いても良い。
【0019】
上記浮遊容量SCの静電容量Cは、導体1とケーシングAとの対向長さLに応じてその大きさが決まるが、この静電容量Cをできるだけ小さくすることが望ましい。
このように浮遊容量SCの容量Cが微小であれば、導体1の放電部1aと除電対象5との間で絶縁破壊が発生して、浮遊容量SCの蓄電量に相当する電荷が瞬時に放電されたとしても、その放電エネルギーは微小になる。そのため、異常放電が発生しても、それが着火性放電になることはない。
【0020】
なお、上記浮遊容量SCの容量Cは上記のように導体1と浮遊容量生成手段であるケーシングAとの対向長さLによって決まるが、この対向長さLも上記導体1の断面形状に応じて変化する。例えば、断面が平板状の導体あるいは大径の導体など、対向面積が大きな導体であれば、その長さを相対的に短くできる。
【0021】
また、導体1の先端の放電部1aはケーシングAから突出しているが、導体1の突出端がケーシングAに近いので、突出部分もケーシングAと対向して浮遊容量SCを構成すると考えられる。そこで、
図1に示すように、ケーシングAから突出した導体1の先端の放電部1aから高抵抗素子2までの距離を対向長さLとして設定している。
【0022】
さらに、上記高抵抗素子2は、高電圧電源4から導体1へ供給される電流を抑えて、絶縁破壊時の異常放電では浮遊容量SCに蓄電された微少の電荷のみが放出されるようにする抵抗値を保てばよい。高電圧電源4の出力電圧にもよるが、高抵抗素子2の抵抗値としては100[MΩ]~500[MΩ]程度が必要である。
【0023】
一方、浮遊容量SCの容量Cは小さければ小さいほどよい。なぜなら、容量Cが微小であれば、絶縁破壊時の放電エネルギーを小さくできるからである。しかし、放電部1aや処理対象5の周囲の可燃性物質の最小着火エネルギーが大きい場合はそれに応じて容量Cを大きくしても良い。上記浮遊容量SCからの放電エネルギーが、処理対象5が存在する雰囲気における可燃性物質の最小着火エネルギーEに達しなければ、絶縁破壊によって放電が発生してもそれが着火性放電になることはないからである。
【0024】
放電エネルギーWは、
図2の式(1)で示される。ただし、式(1)におけるQは放電する電荷量、Vは放電開始時の導体1の電圧である。そして、上記浮遊容量SCから放電する電荷量Qは電圧Vによって容量Cに蓄電されたもので、Q=C×Vである。
例えば、浮遊容量SCの容量C=3[pF]、放電部1aの電圧V=10[kV]を式(1)に代入して放電エネルギーWを算出すると、W=0.15[mJ]である。
【0025】
これに対し、一般的な溶剤蒸気のほとんどの最小着火エネルギーEは0.20[mJ]以上である。つまり、容量Cが3[pF]であれば、浮遊容量SCに蓄電された電荷の放電エネルギーWが可燃性ガスの最小着火エネルギーEに達しない。そのため、溶剤蒸気が存在する場所で、浮遊容量SCに蓄積された電荷が放電してもそれが着火性放電になることはほとんどない。
【0026】
したがって、導線1とケーシングAとの対向長さLを、浮遊容量SCの容量Cが3[pF]となるように設定すれば、放電部1aに10[kV]を印加したイオンを生成中に、処理対象5が放電部1aに異常接近して異常放電が発生するようなことがあっても、それが着火性放電になって、火災や爆発の要因になることはない。
上記のように放電エネルギーWは容量Cだけでなく放電部1aの電圧Vにも依存するが、実際にはコロナ放電が可能な電圧Vを10[kV]前後とすれば、容量Cが0.1[pF]~5[pF]の範囲であれば許容限度内といえる。
ただし、処理対象5の雰囲気中の可燃性物質の特性によって、上記容量Cの適正値を設定しなければならない。
【0027】
なお、可燃性物質には溶剤蒸気や可燃性ガス、可燃性粉塵などが含まれる。そして、特に敏感な可燃性ガスや粉塵は、その最小着火エネルギーEは0.1[mJ]~10[mJ]、一般的な可燃性粉塵の最小着火エネルギーEは0.01[J]~5[J]程度である。
いずれにしても、この発明における浮遊容量SCの大きさは、想定できる雰囲気の最小着火エネルギーに基づいて決められる点に特徴を有する。
【0028】
このような装置で、処理対象5の異常接近によって上記浮遊容量SCの電荷が放電すると、放電部1aの電圧は一旦ゼロまで下がり、異常放電は停止する。その後、高抵抗素子2を介して高電圧電源4から供給される電荷で浮遊容量SCが徐々に蓄電されるとともに、放電部1aの電圧も徐々に高くなる。放電部1aが放電開始電圧に達したら再度、異常放電が起こる。このように浮遊容量SCからの放電が繰り返されたとしても、1回の放電エネルギーは浮遊容量SCに蓄積された電荷量に比例するので、この蓄積電荷量が小さくなるように容量Cが設定されたこの実施形態で、着火性放電に至ることはない。
【0029】
また、この第1実施形態では、接地されたケーシングAが浮遊容量生成手段を構成するとともに、放電部1aに対向してその間でコロナ放電を生成する対向電極を兼ねているが、放電部1aと対向してコロナ放電を生成する対向電極を、ケーシングAとは別に設けてもよい。上記対向電極は、ケーシングA内に限らず、外部に設けてもよい。例えば、処理対象5を挟んで上記放電部1aと反対側に対向電極を設けて、これら放電部1aと上記対向電極との間にコロナ放電を発生させるようにしてもよい。さらに、対向電極を別に設けず、処理対象を対向電極として機能させることもできる。
また、上記対向電極は、放電部1aとの間にコロナ放電可能な電位差を形成できれば、接地に限らない。
【0030】
また、高電圧電源4を直流電源ではなく、交流電源として上記導体1に正と負の電圧を交互に印加し、正イオンと負イオンとを交互に生成するようにしてもよい。この場合には、浮遊容量SCに対する正または負の電荷の蓄電と放電とが繰り返されることになり、その蓄電量は一定しない。しかし、浮遊容量SCの最大蓄電量は容量Cで決まるので、容量Cを微小に設定しておけば、浮遊容量SCに蓄電された電荷が、放電部1aから放電したときの放電エネルギーWが上記最小着火エネルギーEに達しないことは上記した通りである。
【0031】
図3に示す第2実施形態は、この発明のイオン生成装置を除電用に構成したもので、接地されたケーシングA内に一対の導体1,1を設け、その先端1a,1aをケーシングAから突出させて処理対象5に対向させている。
各導体1には高抵抗素子2と高圧ケーブル3を介して高電圧電源4を接続している。
上記のように、ケーシングAに1対の導体1,1を設けた点が第1実施形態と異なるが、第1実施形態と同様の構成要素には第1実施形態と同じ符号を付している。
【0032】
ただし、この第2実施形態では、高電圧電源4が正の出力端子4aと負の出力端子4bとを備え、一方の導体1には正の出力端子4aを、もう一方の導体1には負の出力端子4bを接続している。したがって、高電圧電源4から正負の高電圧が同時に出力されれば、放電部1a,1a間でコロナ放電が発生して正負のイオンを生成する。
この第2実施形態においても、各導体1,1とケーシングAとの対向長さLの部分に浮遊容量SC1、SC2が生成され、これらの容量C1、C2が、想定できる雰囲気を基準にして着火性放電の要因にならない微小値に保たれるように上記対向長さLを設定している。
【0033】
これにより、処理対象5が放電部1aに異常接近して、処理対象5と放電部1aとの間に絶縁破壊が起こって浮遊容量SC1やSC2に蓄電された電荷が放電したとしても、その放電エネルギーが雰囲気に含まれる可燃性物質の最小着火エネルギーEに達することがない。したがって、上記放電が着火原因になることはない。
【0034】
上記のように、第1,2実施形態では、処理対象5が放電部1aに異常接近して異常放電が発生したとしも、その放電が着火性放電にはならないようにしている。つまり、処理対象5と放電部1aとが異常接近したとしても、着火性放電にならない。したがって、異常接近を確実に防止する必要がなく、処理対象5と放電部1aとの距離を大きく設定しなくてもよい。放電部1aと処理対象5との距離が大き過ぎれば、生成されたイオンが処理対象に到達しにくくなって処理効率が落ちてしまうことがあるが、上記実施形態ではそのような問題もない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
可燃性溶剤や粉体などを取り扱う危険な場所での着火事故を防ぐための除電あるいは帯電装置として有効である。
【符号の説明】
【0036】
A…(浮遊容量生成手段)ケーシング、1…導体、2…高抵抗素子、4…高電圧電源、SC,SC1,SC2…浮遊容量、C,C1,C2…(静電)容量、L…対向長さ