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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】呈色組成物
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/22 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
G01N31/22 123
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021155108
(22)【出願日】2021-09-24
(65)【公開番号】P2023046490
(43)【公開日】2023-04-05
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000223045
【氏名又は名称】東洋濾紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516266949
【氏名又は名称】株式会社コア
(73)【特許権者】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大内 一敏
(72)【発明者】
【氏名】松村 一雄
(72)【発明者】
【氏名】山中 真也
(72)【発明者】
【氏名】徳樂 清孝
(72)【発明者】
【氏名】上井 幸司
(72)【発明者】
【氏名】中野 誠一
(72)【発明者】
【氏名】中野 浩幸
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特許第6820575(JP,B1)
【文献】特開2018-039767(JP,A)
【文献】特開2003-072857(JP,A)
【文献】特開昭58-021163(JP,A)
【文献】特公昭50-036193(JP,B1)
【文献】米国特許第04481296(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00 -31/22
A61L 2/00 -12/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHの低下により青色から無色に変色する第1の指示薬と、前記第1の指示薬より低pH側に変色域を有し、pHの低下により黄色から赤色に変色する第2の指示薬と、pH緩衝剤とが水とアルコールとを含む混合溶媒に溶解された呈色組成物であって、
前記pH緩衝剤は、クエン酸三ナトリウム二水和物とクエン酸一水和物とを含むことを特徴とする呈色組成物。
【請求項2】
前記クエン酸一水和物は、前記クエン酸三ナトリウム二水和物の質量の0.16~9.5倍の質量で含有される請求項1記載の呈色組成物。
【請求項3】
前記クエン酸一水和物は、前記クエン酸三ナトリウム二水和物の質量の0.67~0.69倍の質量で含有される請求項2記載の呈色組成物。
【請求項4】
前記クエン酸一水和物の濃度は、6~132mMであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の呈色組成物。
【請求項5】
前記クエン酸一水和物の濃度は、12~61mMであることを特徴とする請求項4記載の呈色組成物。
【請求項6】
前記クエン酸三ナトリウム二水和物の濃度は、9~97mMであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の呈色組成物。
【請求項7】
前記クエン酸三ナトリウム二水和物の濃度は、18~88mMであることを特徴とする請求項6記載の呈色組成物。
【請求項8】
前記第1の指示薬の変色域はpH9.3~10.5の範囲であり、前記第2の指示薬の変色域はpH6.8~8.0の範囲であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項記載の呈色組成物。
【請求項9】
前記第1の指示薬はチモールフタレインであり、前記第2の指示薬はニュートラルレッドであることを特徴とする請求項8記載の呈色組成物。
【請求項10】
前記第1の指示薬の含有量は、1~5g/Lであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項記載の呈色組成物。
【請求項11】
前記第2の指示薬の含有量は、0.2~3g/Lであることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項記載の呈色組成物。
【請求項12】
前記pH緩衝剤の含有量は、7.8~77.4g/Lであることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項記載の呈色組成物。
【請求項13】
前記水と前記アルコールとの容量比は、8:2~2:8であることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項記載の呈色組成物。
【請求項14】
前記アルコールは、
70~90容量部のエタノールと、
15容量部以下のメタノールと、
15容量部以下のイソプロピルアルコールと、
15容量部以下のノルマルプロピルアルコールと
からなる変性エタノールであることを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載の呈色組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呈色組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
消石灰は、主成分である水酸化カルシウムが強アルカリ性を示すことで消毒効果を発揮することから、畜産現場の待ち受け消毒剤として広く利用されている。通常、劣化のない消石灰は、pH12~13を示すが、大気中の二酸化炭素等や大気中の二酸化炭素等が溶け込んだ雨の曝露によって、水酸化カルシウムが徐々に炭酸カルシウムへと変化することで、pHが低下しアルカリ性が弱まる。アルカリ性が弱まると消毒効果が消失してしまうので、消石灰を追加散布する必要がある。
【0003】
水酸化カルシウムから炭酸カルシウムへ変化し消毒効果の消失した消石灰は、外観では強アルカリ性を十分に持つ消石灰と区別することができない。このため、消石灰が追加散布されることなく、消毒効果の乏しい危険な状態に陥る場合がある。あるいは、まだ消毒効果を有している状態にもかかわらず、消石灰が追加散布される場合もある。消石灰の不必要な追加散布は、経済的な損失につながり、労力的にも損失を生じることになる。
【0004】
効率的に消石灰を追加散布して消毒効果を保つためには、消毒効果の低下を把握する必要がある。消石灰の造粒物を含有する消毒剤の消毒効果の低下を検出する方法として、チモールブルー等のpHに応じて色が変化する色素を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、色の相違によって強アルカリ性を十分に持つ消石灰と消毒効果の消失した炭酸カルシウムとを判別して、消毒効果の低下を色の相違によって把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-039767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、使用する色素の種類や造粒物の元の色相によっては色がわずかしか相違せず、相違を判別するためには観察者の熟練を要することもあった。また、色の変化に基づいて消毒剤の消毒効果の有無を判断したところで、消毒効果が消失するまでの途中の状態を把握することはできない。消毒剤が追加散布されるのは、消毒効果の消失が確認された後になる場合が多く、消毒効果の不十分な期間が生じることは避けられない。
【0007】
消毒効果が消失する前段階を、例えば交通信号機のような色の変化により容易に把握して、その時点で消毒剤を追加散布すれば十分な消毒効果を継続できることが予測される。しかしながら、消毒効果が消失する前段階を色の変化により容易に把握するための手法は、未だ得られていないのが現状である。
そこで本発明は、消石灰を含む消毒剤の消毒効果が消失する前段階を、色の変化により容易に把握することができる呈色組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、異なる変色域において異なる色に変色する2種類の指示薬を混合して用い、さらに、所定のpH緩衝剤を配合して呈色領域を調整することによって、消石灰を含む消毒剤の消毒効果の有無に加えて、消毒効果が消失する前段階を誰でも容易に判別可能な交通信号機同様の色の変化により把握できる呈色組成物が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、pHの低下により青色から無色に変色する第1の指示薬と、前記第1の指示薬より低pH側に変色域を有し、pHの低下により黄色から赤色に変色する第2の指示薬と、pH緩衝剤とが水とアルコールとを含む混合溶媒に溶解された呈色組成物であって、前記pH緩衝剤は、クエン酸三ナトリウム二水和物とクエン酸一水和物とを含むことを特徴とする呈色組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、消石灰を含む消毒剤の消毒効果が消失する前段階を、色の変化により容易に把握することができる呈色組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の呈色組成物について詳細に説明する。
本発明の呈色組成物は、消石灰を含む消毒剤の消毒効果を評価するために用いられる。なお、本発明における消毒剤とは、少なくとも65質量%の消石灰が含有されていれば特に限定されない。消毒剤における消石灰の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、72.5質量%以上であることがより好ましい。消石灰を含有する消毒剤中には、例えば酸化マグネシウム、水酸化ドロマイト、酸化ドロマイト等が含有されていてもよい。
【0012】
口蹄疫ウイルス、病原性大腸菌など一般的な病原体の多くは、pH9以上のアルカリ領域では生存できないとされている。劣化のない消石灰のpHは12~13であるが、徐々に劣化してpHが低下する。本発明者らは、消毒効果が十分にある状態(OK状態)、消毒効果が低下しつつある状態(劣化進行状態)、および消毒効果が消失した状態(NG状態)という3つの状態を把握できる呈色組成物として、所定のpH領域で異なる3つの色を呈する呈色組成物を得た。
【0013】
本発明の呈色組成物は、異なる変色域で変色する第1および第2の指示薬を含有する。第1の指示薬は、pHの低下により青色から無色に変色し、第2の指示薬は、第1の指示薬より低pH側で、pHの低下により黄色から赤色に変色する。例えば、第1の指示薬の変色域は、pH9.3~10.5の範囲であり、第2の指示薬の変色域は、pH6.8~8.0の範囲である。
【0014】
pH9.3~10.5の範囲に変色域を有し、pHの低下により青色から無色に変色する第1の指示薬としては、チモールフタレインが挙げられる。また、pH6.8~8.0の範囲に変色域を有し、pH低下により黄色から赤色に変色する第2の指示薬としては、ニュートラルレッドが挙げられる。呈色組成物中における第1の指示薬の含有量は、1~5g/L程度が好ましく、2~4g/L程度がより好ましく、2~3g/L程度が最も好ましい。また、呈色組成物中における第2の指示薬の含有量は、0.2~3g/L程度が好ましく、0.4~2g/L程度がより好ましく、1~2g/L程度が最も好ましい。
【0015】
第1の指示薬と第2の指示薬との指示薬の混合比は特に限定されず、適宜選択することができる。例えば、チモールフタレイン10質量部に対して、ニュートラルレッドは、1~10質量部程度が好ましく、2.5~10質量部程度がより好ましく、5~10質量部程度がさらに好ましい。
【0016】
本発明の呈色組成物には、第1および第2の指示薬に加えてpH緩衝剤が含有される。pH緩衝剤は、クエン酸三ナトリウム二水和物とクエン酸一水和物とで構成される。クエン酸一水和物の質量は、例えばクエン酸三ナトリウム二水和物の質量の0.16~9.5倍とすることができ、0.67~0.69倍がより好ましい。このpH緩衝剤は、第1および第2の指示薬による呈色領域を所定の範囲にシフトさせる。呈色組成物中におけるpH緩衝剤の含有量は、7.8~77.4g/L程度が好ましく、7.8~59.6g/L程度がより好ましく、27.0~47.8g/L程度が最も好ましい。
【0017】
呈色組成物中におけるクエン酸一水和物の濃度は、6~132mM程度であることが好ましい。この場合、クエン酸三ナトリウム二水和物の濃度が9~97mM程度であれば、上述の混合比とすることができる。クエン酸一水和物の濃度は、12~82mM程度であることがより好ましく、12~61mM程度であることがさらに好ましい。クエン酸三ナトリウム二水和物の濃度は、18~88mM程度であることが好ましい。
【0018】
本発明の呈色組成物は、上述した第1の指示薬、第2の指示薬、およびpH緩衝剤が、水とアルコールとを含む混合溶媒中に溶解されたものである。混合溶媒におけるアルコールとの容量比(水:アルコール)は特に限定されないが、8:2~2:8程度とすることができる。水とアルコールとの容量比は、好ましくは6:4~4:6程度であり、より好ましくは4.5:5.5~5.5:4.5程度である。例えば、45~55mLの水と45~55mLのアルコールとを混合して、総量100mLの混合溶媒として用いることができる。
【0019】
アルコールは、一般的な純度99%以上のエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、またはその混合液を用いることができる。例えば70~90容量部のエタノールと、15容量部以下のメタノールと、15容量部以下のイソプロピルアルコールと、15容量部以下のノルマルプロピルアルコールとからなる変性アルコールを含む。毒性、コストの面から変性アルコールの好ましい組成は、エタノール80~90容量部、イソプロピルアルコール3~6容量部、ノルマルプロピルアルコール8~12容量部であり、より好ましい組成は、エタノール84~87容量部、イソプロピルアルコール3~5容量部、ノルマルプロピルアルコール9~11容量部である。例えば、840~870mLのエタノールと90~110mLのイソプロピルアルコールと30~50mLのノルマルプロピルアルコールとを混合して、総量1,000mLの変性アルコールを調製することができる。
【0020】
本発明の呈色組成物は、消石灰を含む消毒剤の消毒効果の程度に応じて異なる色を呈する。具体的には、後述するOK状態、NG状態および劣化進行状態において、それぞれ青色、赤色および黄色を呈する。一般的な病原体に適用する場合、pH11以上であればOK状態とすることができ、pH9未満の場合にはNG状態とすることができる。pHの境界における±0.5程度の範囲内では、同等の消毒効果が得られるので、OK状態の下限はpH11±0.5、NG状態の上限はpH9±0.5とすることができる。OK状態とNG状態との間、例えばpH9~11の領域が劣化進行状態に相当する。
【0021】
なお、第1の指示薬としてのチモールフタレインと第2の指示薬としてのニュートラルレッドとを2:1程度の質量比で混合した場合には、pH7.5未満で赤色に呈色し、pH7.5~9で黄色に呈色し、pH10以上で青色に呈色する。こうした領域での呈色は、消石灰を含む消毒剤の消毒効果の程度を必ずしも反映していない。本発明においては、第1の指示薬と第2の指示薬との混合物に所定のpH緩衝剤を配合して呈色領域をシフトさせて、消毒効果の異なる3つの状態(NG状態、劣化進行状態およびOK状態)を、赤色、黄色および青色の呈色で把握することを可能とした。
【0022】
本発明の呈色組成物は、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、第1の指示薬、第2の指示薬、クエン酸三ナトリウム二水和物、およびクエン酸一水和物を、所定量で配合して混合することにより調製することができる。本発明の効果に影響を及ぼさない範囲であれば、呈色組成物に任意の成分を添加してもよい。添加し得る成分としては、例えばグリセリン等が挙げられる。
【0023】
なお、病原体の種類によって生存可能なpH領域は異なる場合がある。例えば鳥インフルエンザウイルスは、pH11程度までは生存できるとされており、上述とは異なるpH領域で消毒効果が要求される。消石灰を含む消毒剤を鳥インフルエンザウイルス用として用いる場合には、OK状態はpH12.5±0.5以上、NG状態はpH11±0.5未満であり、これらの間が劣化進行状態となる。したがって、呈色組成物は、pH12.5±0.5以上で青色、pH11±0.5未満で赤色、これらの間のpH領域では黄色に呈色することが求められる。
【0024】
こうした呈色領域を有する呈色組成物は、pH緩衝剤におけるクエン酸一水和物の配合比を高め、含有量を高くして調製することができる。具体的には、クエン酸三ナトリウム二水和物1質量部に対して、クエン酸一水和物を1.9質量部以上配合し、呈色組成物中における呈色組成物中におけるpH緩衝剤の含有量を25g/L以上とすればよい。pH緩衝剤の組成を適宜変更することにより、病原体の生存可能なpH領域に応じて呈色領域を制御して、適切な呈色組成物を得ることができる。
【0025】
消石灰を含む消毒剤の消毒効果を評価する際には、例えば1kgの消毒剤に対して、本発明の呈色組成物を0.1~1mL程度滴下する。通常、呈色組成物を滴下後、10~60秒程度で呈色が確認される。青色の場合には、十分な消毒効果を有しているOK状態であり、赤色では消毒効果が消失したNG状態である。黄色の場合には、消毒効果が消失する前段階(劣化進行状態)である。したがって、この時点で消毒剤の追加散布を行うことによって、消毒効果を継続的に得ることができる。
【0026】
なお、本発明において、青色、黄色、および赤色は、以下のとおり定義される。目視により評価した各色は定義された範囲と一致するので、目視により評価することができる。
青色とは、CIE1976(L***)色空間において、a*が-20~10であり、b*が-30~20の領域、もしくはa*が-30~20であり、b*が-60~-30の領域と定義される。その際のL*は15~50の範囲である。
黄色とは、CIE1976(L***)色空間において、a*が0~20であり、b*が20~60の領域、もしくはa*が20~35であり、b*が30~60の領域と定義される。その際のL*は45~65の範囲である。
赤色とは、CIE1976(L***)色空間において、a*が20~40であり、b*が0~30の領域、もしくはa*が40~60であり、b*が-25~30の領域と定義される。その際のL*は35~55の範囲である。
【0027】
本発明の呈色組成物は、粉末および粒状の任意の形態の消石灰に適用することができる。粉末とは、JIS R 9001:2006に規定される粉末度試験方法において、600μmの標準網ふるいを通過するものをさし、粒状とは、直径0.5~5mm程度の塊状のものをさす。消石灰は、乾燥および湿潤のいずれの状態でもよい。なお、乾燥とは消石灰表面に水気がなく、乾いてさらさらとした手触りの状態をさし、湿潤とは消石灰表面に水気がある状態をさす。本発明の呈色組成物は、消石灰の形態(粉末、粒状)、状態(乾燥、湿潤)を問わず、消毒効果の程度に応じて所定の色(赤色、黄色、または青色)を呈するので、有用性は大きい。
【実施例
【0028】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、含有量、配合比等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0029】
呈色組成物の調製に用いる試薬を以下に示す。
チモールフタレイン(TP):富士フィルム和光純薬(株)製試薬特級
ニュートラルレッド(NR):東京化成工業(株)製
クエン酸三ナトリウム二水和物:富士フィルム和光純薬(株)製試薬特級
クエン酸一水和物:富士フィルム和光純薬(株)製試薬特級
【0030】
25mLの変性エタノール(エタノール20mL、イソプロピルアルコール2mL、ノルマルプロピルアルコール3mL)と25mLの水とを混合して、混合溶媒を調製した。ここに、第1の指示薬としてのチモールフタレイン0.13g、第2の指示薬としてのニュートラルレッド0.08gを加え、呈色組成物原液とした。チモールフタレインおよびニュートラルレッドの濃度は、それぞれ1.6g/Lおよび2.6g/Lである。
【0031】
クエン酸三ナトリウム二水和物とクエン酸一水和物とを種々の組成で組み合わせてpH緩衝剤を調製し、前述の呈色組成物原液に加えて呈色組成物を調製した。
得られた呈色組成物を用いて、乾燥状態または湿潤状態の消石灰の呈色確認試験を行った。消石灰としては、粉末状のものおよび粒状のものを用意した。いすれについても、未使用のもの、所定期間使用したもの(3種)の4種類を試料として準備した。粉末消石灰は東洋鉱業株式会社製、水酸化カルシウム含有量70質量%以上のものである。粒状消石灰は、1質量部の水と2質量部の消石灰を混合して調製した。具体的には、まず、混合式造粒機(太平洋機工株式会社製、WB-5型)を用いて、混合物を粒径0.5~3.5mmに造粒した。造粒物を60℃で12時間乾燥した後、ふるい分けすることで粒状消石灰を作製した。
【0032】
<乾燥状態>
まず、各試料10gをビーカーにそれぞれ収容し、25mLの純水を注いだ。1分後のpHをpHメーター(F-52、株式会社堀場製作所製)で測定して、4種類の試料のpHを求めた。粉末消石灰の試料(4種類)のpHは、それぞれ12.9、11.1、9.5、および9.1であり、粒状消石灰の試料(4種類)のpHは、それぞれ12.1、10.7、9.1、および8.6であった。
次に、各試料に呈色組成物を滴下して、1分後の呈色を測色計(モバイルカラーピッカーPico、Palette Pty Ltd.製)により確認した。上述したように定義した青色、黄色、および赤色を、それぞれ“B”、“Y”、および“R”とする。
【0033】
粉末消石灰、および粒状消石灰についての結果を、それぞれ下記表1および表2にまとめる。表中には、pH緩衝剤における各成分の濃度(mM)、およびそれらの混合比(クエン酸三ナトリウム二水和物(mM)を1とした際のクエン酸一水和物の添加量(mM))を示した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
上記表に示されるように、第1の指示薬および第2の指示薬に加えて、1質量部のクエン酸三ナトリウム二水和物と0.67~0.69質量部のクエン酸一水和物とを含むpH緩衝剤が含有された本発明の呈色組成物は、粉末消石灰および粒状消石灰のいずれについても、消毒効果の程度に応じて所定の色(青色、黄色、および赤色)を呈した。
【0037】
青色が確認されたのは、pH12.9、pH12.1およびpH10.7であり、赤色が確認されたのは、pH9.5、pH9.1およびpH8.7である。OK領域の下限(pH11±0.5)およびNG領域の上限(pH9±0.5)と一致しており、黄色の呈色から劣化進行状態が把握される。
【0038】
<湿潤状態>
まず、湿潤状態の各試料10gをビーカーにそれぞれ収容し、25mLの純水を注いだ。60分後のpHをpHメーターで測定して、4種類の試料のpHを求めた。粉末消石灰の試料(4種類)のpHは、それぞれ12.9、11.8、9.7、および9.0であり、粒状消石灰の試料(4種類)のpHは、それぞれ12.7、11,8、9.8、および8.7であった。
次に、各試料に呈色組成物を滴下して、1分後の呈色を測色計により確認した。上述したように定義した青色、黄色、および赤色を、それぞれ“B”、“Y”、および“R”とする。
【0039】
粉末消石灰、および粒状消石灰についての結果を、それぞれ下記表3および表4にまとめる。表中には、pH緩衝剤における各成分の濃度(mM)、およびそれらの混合比(クエン酸三ナトリウム二水和物(mM)を1とした際のクエン酸一水和物の添加量(mM))を示した。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
上記表に示されるように、第1の指示薬および第2の指示薬とともに、1質量部のクエン酸三ナトリウム二水和物と0.67~0.69質量部のクエン酸一水和物とを含むpH緩衝剤が含有された本発明の呈色組成物は、粉末消石灰および粒状消石灰のいずれについても、消毒効果の程度に応じて所定の色(青色、黄色、および赤色)を呈した。
【0043】
青色が確認されたのは、pH12.9、pH12.7およびpH11.8であり、赤色が確認されたのは、pH9.0およびpH8.7である。OK領域の下限(pH11±0.5)およびNG領域の上限(pH9±0.5)と一致しており、黄色の呈色から劣化進行状態が把握される。
【0044】
本発明の呈色組成物を用いることによって、消石灰を含む消毒剤の消毒効果が消失する前段階を把握することができ、消毒剤を適切に追加散布して、消毒効果を継続的に得ることが可能となった。