(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】積層体、PTP包装体、積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20240304BHJP
B32B 38/18 20060101ALI20240304BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240304BHJP
C09J 7/20 20180101ALI20240304BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20240304BHJP
C09J 123/00 20060101ALI20240304BHJP
C09J 193/04 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
B32B27/00 M
B32B38/18 D
B65D65/40 D
C09J7/20
C09J7/30
C09J123/00
C09J193/04
(21)【出願番号】P 2022077429
(22)【出願日】2022-05-10
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】592245535
【氏名又は名称】株式会社メタルカラー
(73)【特許権者】
【識別番号】000138989
【氏名又は名称】株式会社リーダー
(74)【代理人】
【識別番号】100100044
【氏名又は名称】秋山 重夫
(74)【代理人】
【識別番号】100205888
【氏名又は名称】北川 孝之助
(72)【発明者】
【氏名】高石 和樹
(72)【発明者】
【氏名】岩田 義一
(72)【発明者】
【氏名】北野 浩生
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-266016(JP,A)
【文献】米国特許第04293608(US,A)
【文献】特開平08-209088(JP,A)
【文献】特開2002-030265(JP,A)
【文献】特表2008-507597(JP,A)
【文献】特開平02-198841(JP,A)
【文献】特表2002-527567(JP,A)
【文献】国際公開第2020/071315(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C09J1/00-201/10
B65D65/00-65/46
C08J7/04-7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に接着剤層を有する積層体であって、
接着剤は、溶剤を除く固形分全体の
12~14wt%が無水マレイン酸変性プロピレン-1-ブテン共重合物とされ、18~22wt%がプロピレン-1-ブテン共重合体とされ、14~16wt%が無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィンとされ、18~22wt%が酸変性ポリプロピレンとされ、11~13wt%が含水珪酸マグネシウムとされ、15~25wt%がロジン系樹脂
とされており、
接着剤層の単位面積当たり重量が5g/m
2以上であり、
接着剤層の表面の濡れ性が46dyne/cm以上である、積層体。
【請求項2】
容器のフッ素樹脂面に、請求項
1記載の積層体を蓋材として接着させた、PTP包装体。
【請求項3】
溶剤を除く固形分全体の
12~14wt%が無水マレイン酸変性プロピレン-1-ブテン共重合物とされ、18~22wt%がプロピレン-1-ブテン共重合体とされ、14~16wt%が無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィンとされ、18~22wt%が酸変性ポリプロピレンとされ、11~13wt%が含水珪酸マグネシウムとされ、15~25wt%がロジン系樹脂とされた接着剤を、接着剤層の単位面積当たり重量が5g/m
2以上になるよう載置し、接着剤層の表面を処理することで濡れ性を46dyne/cm以上とする、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、PTP包装体、積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品等の包装用として多用されているPTP包装体は、内容物を格納するための容器と、その容器を密閉するための蓋材の2つの部分からなる。容器はポケット部分を成形したプラスチックシートの加工成形体(いわゆるPTPシート)によって構成される。前記蓋材は、例えば金属箔、特にアルミ箔の片面または両面に印刷層を設け、更にその上のそれぞれの面に、耐熱被膜層と、熱封緘接着剤層を設けて構成される。
【0003】
容器を形成するプラスチックシートとしては、ある程度の水蒸気バリア性やガスバリア性を有している塩化ビニル樹脂シートやポリプロピレンシートが古くから使用されている。しかし、塩化ビニル樹脂シートやポリプロピレンシートは、必要な水蒸気バリア性を備えていないため、湿度の影響を受けて変質しやすい内容物には使用できない。
【0004】
そこで、アルミ箔を使用した包装材で2次包装を行ったり、アルミ箔と樹脂との複合シートを使用することもあるが、どちらもアルミ箔を使用しているので、水蒸気バリア性は向上する一方、内容物を目視できないという欠点があった。
【0005】
水蒸気バリア性と内容物の視認性の要求を満たすPTP用シートとしてフッ素樹脂を成形シートに用いる方法があり、とくにポリクロロトリフルオロエチレンは成形性があることからPTP包装に使用されている。その代表的なものにHanewell社のAclar(登録商標)がある。ただフッ素樹脂は大部分の他の樹脂と強く熱接着しないという特性があり、そのためフッ素樹脂で容器を成形しても蓋材との熱封緘接着が困難になるという問題があった。その点を補うため、少なくとも1つの層がフッ素樹脂であり、他の層は熱可塑性ポリマーまたはコポリマーであるような多層構造体を使用し、前記他の層と蓋体とを熱封緘接着する方法がとられてきた。
【0006】
しかしながら、フッ素樹脂を構成要素とした多層構造を使用する上で問題となるのは、水分が包装の側面を通って包装中に浸透するという点である。これは、フッ素系樹脂は優れた防湿性特性を示すが、他の熱可塑性樹脂は高い防湿性を示さないからである。従ってこれまでの従来技術では、水分が側面(他の熱可塑性樹脂層)を通って包装に入るのを充分に防ぐように機能しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-51884号公報
【文献】特開2007-002116号公報
【文献】特表2008-507597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フッ素樹脂と直接熱接着可能な積層体と、この積層体を蓋材とするPTP包装体と、フッ素樹脂と直接接着可能な積層体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の積層体(20)は、一方の面に接着剤層(25)を有する積層体であって、接着剤は、溶剤を除く固形分全体の15~25wt%がロジン系樹脂であり、接着剤層(25)の単位面積当たり重量が5g/m2以上であり、接着剤層(25)の表面の濡れ性が46dyne/cm以上であることを特徴としている。
【0010】
上記積層体(20)において、接着剤は、溶剤を除く固形分全体の62~74wt%がポリオレフィン樹脂とされ、11~13wt%がタルクとされ、15~25wt%がロジン系樹脂とされていることが好ましい。
【0011】
さらに、接着剤は、溶剤を除く固形分全体の12~14wt%が無水マレイン酸変性プロピレン-1-ブテン共重合物とされ、18~22wt%がプロピレン-1-ブテン共重合体とされ、14~16wt%が無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィンとされ、18~22wt%が酸変性ポリプロピレンとされ、11~13wt%が含水珪酸マグネシウムとされ、15~25wt%がロジン系樹脂とされていることが好ましい。
【0012】
本発明のPTP包装体(10)は、容器(30)のフッ素樹脂面に、上記いずれかの積層体(20)を蓋材として接着させたことを特徴としている。
【0013】
本発明の積層体(20)の製造方法は、溶剤を除く固形分全体の15~25wt%がロジン系樹脂とされた接着剤を、接着剤層(25)の単位当たり重量が5g/m2以上になるよう載置し、接着剤層(25)の表面を処理することで濡れ性を46dyne/cm以上とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の積層体は、フッ素樹脂と直接熱接着可能であるため、PTP包装体の蓋材として容器のフッ素樹脂面に熱接着させることで優れた防湿性特性を有するPTP包装体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の積層体20は、PTP包装体10の容器30に蓋材として熱接着させるものであり、
図1に示すように、一方の面に容器30と熱接着するための接着剤層25を有している。接着剤層25は、基材23の一方の面に接着剤を載置(例えば液状の接着剤を塗布)することで形成されている。なお、基材23の他方の面には、耐熱被覆剤が載置(例えば液状の耐熱被覆剤が塗布)されて耐熱被覆層(オーバーコート層)21が形成されている。また、積層体20としては、
図2に示すように、基材23の両面に印刷層22、24を形成し、一方の印刷層24の表面に接着剤層25を形成し、他方の印刷層22の表面に耐熱被覆層21を形成してもよい。要は、基材23と接着剤層25とが直接接している必要は無く、基材23と接着剤層25との間に他の材質からなる層(介在層)が設けられていてもよい。
【0017】
基材23は、金属箔やプラスチックフィルムからなり、特にアルミ箔を用いることが好ましい。耐熱被覆層21は、バインダーとして例えばメラニン樹脂とエポキシ樹脂、又はメラニン樹脂とニトロセルロール樹脂とを混合させたもの(硝化綿系)が用いられる。印刷層22、24は、顔料及びフィラーを含み、バインダーとして例えば塩酢ビ系樹脂(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系樹脂)が用いられる。接着剤層25については後述する。
【0018】
本発明のPTP包装体10は、容器30と蓋材(積層体)20とを有している。容器30は、
図3に示すように、シートに窪みを設けたものであり、この窪みが内容物(例えば錠剤)41を収容する収容部30aとなる。窪み以外の平坦な部分は蓋材と熱接着するフランジ部30bである。なお、シートには通常複数の窪みが設けられる。
【0019】
上記容器30はフッ素樹脂層31を備えており、蓋材20はフッ素樹脂層31面に熱接着される。すなわち、フランジ部30bの表面はフッ素樹脂である。容器30は、その全体をフッ素樹脂で形成してもよいが、フランジ部30bの裏面や収容部30aの外面を、熱可塑性ポリマーまたはコポリマーであるような多層構造体で構成してもよい。例えば塩化ビニル樹脂(成形層)32が挙げられる。
【0020】
接着剤は、溶剤と固形分とからなり、溶剤を除く固形分全体の15~25wt%がロジン系樹脂とされている。ロジン系樹脂は粘着性付与剤であり、ロジン系樹脂以外の固形分は、接着剤のボディを構成するものである。
【0021】
具体的には、接着剤は、溶剤を除く固形分全体の62~74wt%がポリオレフィン樹脂とされ、11~13wt%がタルクとされ、15~25wt%がロジン系樹脂とされている。
【0022】
さらに具体的には、接着剤は、溶剤を除く固形分全体の12~14wt%が無水マレイン酸変性プロピレン-1-ブテン共重合物とされ、18~22wt%がプロピレン-1-ブテン共重合体とされ、14~16wt%が無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィンとされ、18~22wt%が酸変性ポリプロピレンとされ、11~13wt%が含水珪酸マグネシウムとされ、15~25wt%がロジン系樹脂とされている。なお、ロジン系樹脂とは、例えば未変性ロジン、ロジン誘導体、ロジンフェノール樹脂、ロジンエステル樹脂であり、重合ロジン、不均化ロジン、水素添加ロジン、不飽和カルボン酸変性ロジン、アクリル化ロジン等のロジン誘導体を含むが、特にロジンエステル樹脂が好ましい。また、酸変性ポリプロピレンについては液体を用いる場合があるが、上記wt%の値は固形分の値である。
【0023】
上記構成の接着剤は、基材23の一方の面や、介在層の表面からなる載置面に対して5g/m2以上載置されている。より好ましくは7g/m2以上である。なお、接着力だけの観点であれば接着剤の載置量に上限は無い。ただ10g/m2を超えるとコスト増を招いて現実的ではなくなる。5g/m2未満の場合は十分な接着力が得られない。
【0024】
接着剤層25の表面(熱接着される面)の濡れ性は46dyne/cm以上とされている。このような濡れ性は、接着剤層25の表面を処理することで得られる。表面処理の方法としては、例えば低圧水銀ランプによる紫外線照射(253.7nm、184.9nm)、エキシマ照射(172nm)、プラズマ表面改質、コロナ処理が挙げられる。例えば、コロナ処理の場合、コロナ放電は2.6kWの出力と60m/minのスピードで接着剤層の表面を処理することで上記濡れ性が得られる。但しこの条件以外でも良い。
【0025】
(実施例1)
・接着剤の製造
ボディとロジンエステル樹脂の重量比が85:15(wt%)となるように、無水マレイン酸変性プロピレン-1-ブテン共重合物(東洋紡製:ハードレン PMA-LZ)、プロピレン-1-ブテン共重合体(三井化学製:タフマー XM-7070)、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン(日本製紙製:アウローレン 350S)、酸変性ポリプロピレン(三井化学製:ユニストール R-300)、含水珪酸マグネシウム(日本タルク製:ミクロエース L-1)、ロジンエステル樹脂(荒川化学工業製:スーパーエステル A-100)を配合した固形分をトルエン、MCH(メチルシクロヘキサン)、MEK(メチルエチルケトン)の混合溶剤に溶解して接着剤を得た。なお、配合比率の詳細は、表1に示す。
・積層体の製造
上記構成の接着剤を厚さ20μmのアルミ箔(硬箔)の一方の面に塗布し、180℃で10秒間乾燥させて5.0g/m2の接着剤層を形成し、アルミ箔の他方の面に硝化綿系のオーバーコートを1.6g/m2塗布し、さらに接着剤層の表面を2.6kWの出力と60m/minのスピードでコロナ処理し、接着剤層の表面の濡れ性を46dyne/cm以上とすることで積層体を得た。
・PTP包装体の製造
シート状の塩化ビニル樹脂の一方の面にフッ素樹脂層が形成されたPTPシート(厚み223μm)のフッ素樹脂面に、上記構成の積層体の接着剤層面を合せた上で、ロールシールにてシール温度190℃、シールスピード(ロールシール回転スピード)約11m/min、シール圧力0.22MPaで熱融着することでPTP包装体(実施例1)を得た。
【0026】
(実施例2)
ボディとロジンエステル樹脂の重量比が80:20(wt%)となるように配合した他は実施例1と同じである。
【0027】
(実施例3)
ボディとロジンエステル樹脂の重量比が75:25(wt%)となるように配合した他は実施例1と同じである。
【0028】
(比較例1:ロジンエステル樹脂が少ない)
ボディとロジンエステル樹脂の重量比が90:10(wt%)となるように配合した他は実施例1と同じである。
【0029】
(比較例2:ロジンエステル樹脂が多い)
ボディとロジンエステル樹脂の重量比が70:30(wt%)となるように配合した他は実施例1と同じである。
【0030】
(比較例3:接着剤の量が少ない)
接着剤層の単位当たり重量を3g/m2とした他は実施例1と同じである。
【0031】
(比較例4:コロナ処理なし)
コロナ処理を行わない他は実施例1と同じである。なお、接着剤層の濡れ性は38dyne/cmであった。
【0032】
(比較例5、6:ロジンエステル樹脂以外)
実施例1のロジンエステル樹脂の代わりに、脂肪族飽和炭化水素樹脂を用いたものを比較例5、芳香族変性テルペン炭化水素樹脂を用いたものを比較例6とした。
【0033】
(比較例7:シートを裏返し)
PTPシートの塩化ビニル樹脂面に積層体を熱融着した他は実施例1と同じである。
【0034】
【0035】
・試験方法(減圧試験)
上記実施例1~3と、比較例1~6のPTP包装体を水没下で0.068MPaに減圧し5分間放置した。
【0036】
・試験結果
実施例1~3はいずれもシール浮きが生じず、封緘性を保つことができた。なお、接着剤層の単位当たり重量を7g/m2と増やした場合や、シール温度を210℃、230℃、250℃、270℃と上げた場合でもシール浮きが生じず、封緘性を保つことができることを確認している。
【0037】
一方で比較例1~6はいずれもシール浮き(蓋材が剥がれて収容部に水が入り込む)が生じ、封緘性を保つことができなかった。なお、接着剤層の単位当たり重量を7g/m2と増やした場合(但し比較例3は除く)や、シール温度を210℃、230℃、250℃、270℃と上げた場合でもシール浮きが生じ、封緘性を保つことができなかった。
【0038】
・試験方法(水蒸気バリア性)
上記実施例1と比較例7の水蒸気バリア性を測定した。具体的には、内容物として塩化カルシウムを充填した上で容器と蓋材とを熱接着し、40℃75%の恒温恒湿槽に放置して重量の変化(透過して塩化カルシウムに吸湿される水分量)を測定した。
【0039】
・試験結果
比較例7に対して実施例1の重量変化は小さく、水蒸気バリア性が優れていることが分かった。なお、実施例2、3でも同様の結果となった。また、接着剤層の単位当たり重量を7g/m2と増やした場合や、シール温度を210℃、230℃、250℃、270℃と上げた場合でも同様の結果となった。これは、フッ素樹脂が他の樹脂を介さず直接蓋材と接着されるため、PTP包装体の側面からの水蒸気の浸入を防ぎ、フッ素樹脂の水蒸気バリア機能を充分に発揮させることができたためだと考えられる。
【0040】
実施例は本願発明の例示であって、本願発明はこれらの例に限定されず、これらの例に周知技術や慣用技術、公知技術を組み合わせたり、一部を置き換えたりしてもよい。また当業者であれば容易に思いつく改変発明も本願発明に含まれる。例えば、オーバーコートとして、アルミ箔の他方の面に硝化綿系のオーバーコートを1.6g/m2塗布していたが、硝化綿系に限定される必要は無く、また塗布量や塗布する順番(例えば接着剤層を形成する前に塗布する等)についても限定されるものでは無い。
【符号の説明】
【0041】
10 PTP包装体
20 積層体(蓋材)
21 耐熱被膜層(オーバーコート層)
22 印刷層
23 基材(アルミ箔)
24 印刷層
25 接着剤層
30 容器
30a 収容部
30b フランジ部
31 フッ素樹脂層
32 成形層(塩化ビニル層)
41 内容物(錠剤)