(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】臓器切離部断端固定クリップ
(51)【国際特許分類】
A61B 17/08 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
A61B17/08
(21)【出願番号】P 2021507362
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011641
(87)【国際公開番号】W WO2020189666
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2019050488
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102015
【氏名又は名称】大澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】馬場 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋市
(72)【発明者】
【氏名】井嶋 博之
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0039879(US,A1)
【文献】特表2007-514510(JP,A)
【文献】特表2014-534014(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109199516(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/08
17/122
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1腕部、第2腕部、及び第1及び第2腕部を連結する弾性ヒンジ部からなり、第1及び第2の両腕部は各々の基部において前記弾性ヒンジ部と連結されており、第1腕部は、凸状の外側面と膵臓をクランプする凹状の内側面とを有し、第2腕部は、
凸状の外側面と膵臓をクランプする
凹状の内側面とを有し、第1腕部の内側面と第2腕部の内側面は互いに向かい合いあって
相反する曲面を構成しており、第1腕部はその先端が第2腕部の方へ湾曲した屈撓性フック部を形成し、これによって、閉鎖位置において第2腕部の先端が上記湾曲したフック部の内側へと入り込みフック部と係合してクリップを閉鎖位置にロックするように構成されている膵臓切除術用のポリマー製手術用クリップであって、
第1腕部と第2腕部は、開放位置及び閉鎖位置において略同一の形状を維持し、膵臓をクランプする第1腕部の内側面と第2腕部の内側面は、両内側面の間に空間が生じるように構成さ
れ、
閉鎖位置において第1腕部の内側面と第2腕部の内側面の間に生じる空間の最大幅が3mm以上となるように構成されており、そして、
前記第1腕部、前記第2腕部及び前記弾性ヒンジ部は一体成型されていることを特徴とするポリマー製手術用クリップ。
【請求項2】
閉鎖位置において第1腕部の内側面と第2腕部の内側面の間に生じる最大距離が、第1腕部又は第2腕部の内側面と外側面間の厚みのいずれかよりも大きいことを特徴とする
請求項1に記載のポリマー製手術用クリップ。
【請求項3】
第1腕部の内側面と外側面間の厚みが、第2腕部の内側面と外側面間の厚みと実質的に同じである
請求項1又は2に記載のポリマー製手術用クリップ。
【請求項4】
第1腕部の凹状の内側面の曲率半径が、第2腕部の凹状の内側面の曲率半径と実質的に等しい
請求項1~3のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
【請求項5】
第1腕部及び第2腕部はそれぞれ、側方に延在する1又は2つの突起部を有する、
請求項1~4のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
【請求項6】
さらに、第1腕部の基部付近の内側面及び第2腕部の基部付近の内側面に、それぞれこぶ部を有する、
請求項1~5のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
【請求項7】
第1腕部の内側面及び/又は第2腕部の内側面は、凹凸と有する面または複数の突起を備えた面である、
請求項1~6のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
【請求項8】
閉鎖位置におけるクリップ全体の形状にて形状記憶されている
請求項1~7のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
【請求項9】
生体吸収性ポリマーからなる
請求項1~8のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
【請求項10】
膵切除術により切除された膵臓の切離部断端の固定のために用いられることを特徴とする
請求項1~9のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
【請求項11】
膵臓の切離部断端を固定した際に少なくとも4kPa以上の圧力にて膵臓をクランプするように構成されている、
請求項10に記載のポリマー製手術用クリップ。
【請求項12】
膵体尾部切除術、膵頭十二指腸切除術、膵臓の腫瘍核出術、及び膵中央切除術からなる群から選ばれる手術方法に用いられることを特徴とする
請求項1~11のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器切離部の断端を固定するためのクリップ、及び該クリップを用いた臓器切離部断端を固定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓の切離手術後に起こる膵液瘻とは、膵液が持続的ないし断続的に漏出する現象である。膵体尾部腫瘍の根治術として膵体尾部切除術が行われているが、膵体尾部切離後に膵断端から膵液(消化酵素)が漏れる膵液瘻が発生することがあり、未だに解決されていない合併症の一つである。膵液瘻は、時に、周囲の組織(動脈など)を融解して大出血を来たし、致死的になる場合がある。術後膵液瘻の発生は、膵体尾部切除術の約30%で起こり、生命を脅かす合併症の発生原因ともなっている。
【0003】
膵体尾部切除術において、切除断端主膵管を結紮し、切除膵頭体部側の膵実質を閉鎖して膵液の漏出を防ぐことが行われるが、その際に生じる膵切離部の損傷が膵液瘻の原因と考えられている。
【0004】
膵体尾部切除術における切除膵頭体部側の膵実質の閉鎖のために種々の技術が用いられてきた。ステープリング、肝円索パッチ法(teres ligament patching)、フィブリンシーリング法、TachoSil(登録商標)パッチ法、及び膵管・空腸(膵管・胃)吻合術、を挙げることができるが、いずれの技術が適しているかについては議論がある。腹腔鏡を用いた膵体尾部切除術の増加に伴い、近年、ステープラーによる切除断端部の閉鎖がより一般的になってきた。
【0005】
現在膵実質切離において臨床使用されているステープラーは、厚い膵体部の切離の際は、膵被膜・膵実質の損傷を来たし、膵主管のステープリングエラーを認める場合がある。そこで、本発明者らは、リンフォーストライステープラーを用い、通常のステープラーと比較して、グレードB又はCの膵液瘻が有意に減少することを報告した(非特許文献1:Yamashita et al., Anticancer Res. 37: 1865-1868, 2017)。そこでは、通常のステープラーを用いた場合のエラー30%に対し、リンフォーストライステープラーを用いた場合は5%であったことが報告されている。
【0006】
一方、手術中血管を結紮して血流を止めるためのクリップが提案されている。例えば、第1及び第2湾曲脚部材からなり、両脚部材はそれらの近接端が弾性丁番手段によって接合し、第1脚部材はその末端が第2脚部材の方へ湾曲した屈撓性フック部となっており、一方第2脚部材はその末端が該フック部に対し相補的にロック部となっている、ポリマー製手術用クリップが提案されている(特許文献1:特開平1-146536号公報)。そこでは、第1脚部材の血管クランプ用内側面と第2脚部材の血管クランプ用の内側面は互いに向かい合っており、第1脚部材の内側の凹面の曲率半径と第2脚部材の内側の凸面の曲率半径は略同じである。そのため、
図7E図に示されるように、両脚部材の近接端から末端までにわたり、それぞれの血管クランプ用内側面が互いに重なり合うように構成されている。
【0007】
また、弾性ヒンジ手段により連結された第1及び第2の湾曲レッグ・メンバーを備え、それぞれのレッグ・メンバーは血管クランプ用内面を有し、一方の血管クランプ用内面が他方の血管クランプ用内面と向かい合うようになっており、それぞれの血管クランプ用内面は複数の突起を有しているポリマー製外科用クリップが提案されている(特許文献2:特開平3-178648号公報)。そこでは、第1湾曲レッグ・メンバーの血管クランプ用内側の凹面の曲率半径と第2湾曲レッグ・メンバーの血管クランプ用内側の凸面の曲率半径は略同じであり、
図12E図に示されるように、両湾曲レッグ・メンバーの近接端(ヒンジ手段近接部)から末端までにわたってそれぞれの血管クランプ用内側面が互いに重なり合うように構成されている。
【0008】
さらに、ヒンジ区画を中心とした移動のために、ヒンジ区画で継合される、上顎部材及び下顎部材を備えた外科手術用クリップが提案されている(特許文献3:特表2014-534014号公報)。そこでは、上顎部材及び下顎部材はそれぞれ、ヒンジ区画の一部に内側凸状区分を含み、組織の近位部分を挟持するように構成されている。また、上顎部材は、概して、凸状である外側表面と、S形状の内側表面を、下顎部材は、概して、凹状である外側表面と、上顎部材の内側表面のプロファイルとほぼ一致または適合するS形状の内側表面とを有する。そのため、
図4に示されるように、両顎部材のヒンジ区画から遠位端までにわたり、それぞれのクランプ用内側面が互いに重なり合うように構成されている。
【0009】
また、血管又は組織構造を結紮するための移動防止外科用結紮クリップが提案されている(特許文献4:特表2018-518271号公報)。そこでは、第1内面と第1内面に配置された複数の第1突起とを含む第1脚部材と、 第2内面と第2内面に配置された複数の第2突起とを含む第2脚部材と、第1脚部材及び前記第2脚部材を接合するヒンジ部材とを備え、複数の第1突起及び複数の第2突起のうちの少なくとも一方が、第1内面又は第2内面の長手方向に沿って延在する切妻構造を含む、血管又は組織構造を結紮するための外科用クリップが開示されている。そして、
図3Aに示されるように、それぞれの脚部材に配置された内面が互いに重なり合うように構成されている。
【0010】
また、血管を結紮するためのクリップとして、ポリマー製のHem-o-lok(登録商標)がTeleflex社より販売されており、そこでは、同じ方向に湾曲した第1及び第2湾曲脚部材からなり、両脚部材はそれらの近接端が弾性ヒンジによって接合し、第1脚部材はその末端が第2脚部材の方へ湾曲した屈撓性フック部となっており、一方第2脚部材はその末端が該フック部に対し相補的にロック部となっている。そこでは、第1脚部材の血管クランプ用内側面と第2脚部材の血管クランプ用の内側面は互いに向かい合っており、第1脚部材の内側の凹面の曲率半径と第2脚部材の内側の凸面の曲率半径は略同じである。そのため、両脚部材の近接端から末端までにわたり、それぞれの血管クランプ用内側面が互いに重なり合うように構成されている(https://www.teleflex.com/usa/en/product-areas/surgical/ligation-solutions/weck-polymer-ligation/)。
【0011】
その他、金属からなる、上顎と下顎及びそれを連結するヒンジ部からなる結紮クリップが提案されている(米国特許第6699258号明細書)。そこでは、応力緩和手段(stress relief mechanism)を備え、外側へと湾曲した金属製の上顎、上顎の湾曲部が延ばされた際に上顎の先端部に係合するように構成されたラッチ部を第1先端部に備え、そしてヒンジ部を第1先端部の反対側の第2先端部に備えた金属製の下顎からなるクリップが開示されている。そのクリップにおいては、
図3に示されるように、血管を閉鎖する際は、上顎の湾曲部は直線となるように延ばされて永久的に変形し、そして上顎の先端が下顎のラッチ部に係合する。つまり、金属で作られた湾曲部を永久的に延ばすことにより係合を達成している。
【0012】
また、虫垂切除術用のクリップとして、AESCULAP(登録商標)DSクリップがビー・ブラウンエースクラップ株式会社より販売されており、そこでは、湾曲した金属からなる上顎及び下顎を永久的に延ばすことにより平行閉鎖を達成している(https://www.bbraun.jp/ja/products/b/ds-titanium-ligationclips.html)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平1-146536号公報
【文献】特開平3-178648号公報
【文献】特表2014-534014号公報
【文献】特表2014-534014合公報
【文献】米国特許第6699258号明細書
【非特許文献】
【0014】
【文献】Yamashita et al., Anticancer Res. 37: 1865-1868, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、臓器の一部を切離する手術において生じる臓器切離部断端、例えば膵臓切離部断端を固定するための器具及び手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の形状を有するポリマー製のクリップを用いることにより、膵切除術により生じる膵臓の切離部断端を容易に固定し、膵液瘻の発生を防止又は軽減できることを見いだし、本発明を完成した。また、本発明は膵臓以外の他の同様の脆い臓器にも適用可能であることが判った。
本発明は以下を含むものである。
[1]第1腕部、第2腕部、及び第1及び第2腕部を連結する弾性ヒンジ部からなり、第1及び第2の両腕部は各々の基部において前記弾性ヒンジ部と連結されており、第1腕部は、凸状の外側面と臓器(好ましくは膵臓)をクランプする凹状の内側面とを有し、第2腕部は、凸状又は平面状の外側面と臓器(好ましくは膵臓)をクランプする凹状又は平面状の内側面とを有し、第1腕部の内側面と第2腕部の内側面は互いに向かい合いあっており、第1腕部はその先端が第2腕部の方へ湾曲した屈撓性フック部を形成し、閉鎖位置において第2腕部の先端が上記湾曲したフック部の内側へと入り込みフック部と係合してクリップを閉鎖位置にロックするように構成されている臓器切除術用(好ましくは膵臓切除術用)のポリマー製手術用クリップであって、
第1腕部と第2腕部は、開放位置及び閉鎖位置において略同一の形状を維持し、臓器(好ましくは膵臓)をクランプする第1腕部の内側面と第2腕部の内側面は、閉鎖位置において両内側面の間に空間が生じるように構成されていることを特徴とするポリマー製手術用クリップ。
[2]第2腕部は、凸状の外側面と臓器(好ましくは膵臓)をクランプする凹状の内側面とを有し、第1腕部の内側面と第2腕部の内側面は互いに向かい合いあって相反する曲面を構成していることを特徴とする上記[1]に記載のポリマー製手術用クリップ。
[3]閉鎖位置において第1腕部の内側面と第2腕部の内側面の間に生じる最大距離が、第1腕部又は第2腕部の内側面と外側面間の厚みのいずれかよりも大きいことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のポリマー製手術用クリップ。
[4]第1腕部の内側面と外側面間の厚みが、第2腕部の内側面と外側面間の厚みと実質的に同じである上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
[5]第1腕部の凹状の内側面の曲率半径が、第2腕部の凹状の内側面の曲率半径と実質的に等しい上記[2]~[4]のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
[6]第1腕部及び第2腕部はそれぞれ、側方に延在する1又は2つの突起部を有する、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
[7]さらに、第1腕部の基部付近の内側面及び第2腕部の基部付近の内側面に、それぞれこぶ部を有する、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
[8]第1腕部の内側面及び/又は第2腕部の内側面は、凹凸と有する面または複数の突起を備えた面である、上記[1]~[7]のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
[9]閉鎖位置におけるクリップ全体の形状にて形状記憶されている上記[1]~[8]のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
[10]生体吸収性ポリマーからなる上記[1]~[9]のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
[11]臓器切除術(好ましくは膵切除術)により切除された臓器(好ましくは膵臓)の切離部断端の固定のために用いられることを特徴とする上記[1]~[10]のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
[12]膵臓の切離部断端を固定した際に少なくとも4kPa以上、より好ましくは5kPa以上、さらに好ましくは6kPa以上の圧力にて膵臓をクランプするように構成されている、上記[11]に記載のポリマー製手術用クリップ。
[13]膵体尾部切除術、膵頭十二指腸切除術、膵臓の腫瘍核出術、及び膵中央切除術からなる群から選ばれる手術方法に用いられることを特徴とする上記[1]~[12]のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップ。
[14]臓器(好ましくは膵臓)の一部(好ましくは、膵体尾部又は膵頭)を切除する方法であって、上記[1]~[12]のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップで臓器(好ましくは膵臓)の切断部分近くを固定することを特徴とする方法。
[15]膵体尾部切除術又は膵頭十二指腸切除術による外科手術方法であって、上記[1]~[13]のいずれか一つに記載のポリマー製手術用クリップで膵臓の切断部分近くを固定することを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、臓器切離部(好ましくは膵臓切離部)の断端を固定するためのクリップ、及び該クリップを用いた臓器切離部断端(好ましくは膵臓切離部断端)を固定するための方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の手術用クリップの一つの実施態様の側面図である。
【
図3】Aは、
図1の実施態様のクリップを広げた状態の側面図、Bはクリップを閉鎖した状態の側面図である。
【
図4】
図4は、
図1の外科用クリップが、膵臓切離部断端に装着された状態を示す斜視図である。
【
図5】突起部を有する本発明のクリップの一つの実施態様の側面図である。
【
図7】Aは、本発明の手術用クリップの他の実施態様の側面図である。Bは、クリップの閉鎖位置における側面図である。
【
図8】Aは、本発明の手術用クリップの別の実施態様の側面図である。Bは、クリップの閉鎖位置における側面図である。
【
図9】Aは、第1腕部と第2腕部の間が少し開いた状態で形状記憶されたクリップの一つの実施態様である。Bは、第1腕部と第2腕部の間が大きく開いた状態で形状記憶されたクリップの一つの実施態様である。Cは、第1腕部と第2腕部が閉鎖した状態で形状記憶されたクリップの一つの実施態様である。
【
図10】Aは、第1腕部と第2腕部の間が少し開いた状態で形状記憶されたクリップをアプライヤーにセットした状態の側面図である。Bは、クリップを開いた状態の側面図である。
【
図11】第1腕部と第2腕部の間が大きく開いた状態で形状記憶されたクリップをアプライヤーにセットした状態の側面図である。
【
図12】第1腕部と第2腕部が閉鎖した状態で形状記憶されたクリップをアプライヤーにセットした状態の側面図である。但し、クリップを開く操作を容易にするために、第1腕部先端部と第2腕部先端部の係合を解除した後にクリップをアプライヤーにセットした状態を示している。
【
図13】第1腕部と第2腕部が閉鎖した状態で形状記憶されたクリップで膵臓を挟んだ後、クリップを閉鎖状態にする(第1腕部先端部と第2腕部先端部をロックする)ために用いるアプライヤー(クローザー)の一例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として、本発明の実施において使用することができる好ましい方法および材料とともに説明する。なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等または同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
【0020】
本明細書中で、「X~Y」という表現を用いた場合は、下限としてXを上限としてYを含む意味で、或いは上限としてXを下限としてYを含む意味で用いる。本明細書において「約」とは、±10%を許容する意味で用いる。
【0021】
以下、本発明の手術用クリップを、膵臓に適用した場合を例として詳細に説明するが、本発明の手術用クリップは、膵臓に加えて、膵臓と同様に脆く厚みがある他の臓器、例えば、肝臓、肺、虫垂、卵巣にも用いることができる。よって、本発明のクリップは、膵臓、肝臓、肺、虫垂又は卵黄から選ばれる臓器の切断部の断端を固定するためのクリップであり、好ましくは膵臓の切離部断端を固定するためのクリップである。
【0022】
本発明の手術用クリップは、第1腕部、第2腕部、及び第1及び第2腕部を連結する弾性ヒンジ部を備えており、第1及び第2の両腕部は各々の基部においてヒンジ部を介して連結されている。第1及び第2腕部はクリップが閉鎖位置にあるとき、それぞれの末端部(先端部)において係合するように構成されている。ヒンジ部は弾性であって、第1腕部及び第2腕部を、開放位置に移動させること及び開放位置から閉鎖位置へと移動させることが可能となっている。各々の腕部は、相対する内側面を有している。第1腕部の内側面は凹状となっている。第2腕部の内側面は、凹状又は平面状であり、好ましくは、凹状である。これにより、第1腕部と第2腕部の末端部が係合している閉鎖位置でも各々の内側面同士が密に重なり合うことがなく、第1腕部と第2腕部の内側面の間に空間が確保される。そのため、膵臓という脆い臓器を挟んだ場合でも臓器の過度な損傷を防ぐことが可能となる。
【0023】
第1腕部は、その末端にフック部を有しており、フック部は屈撓性(しなるように曲がる性質をもち)であって第2腕部に向かって湾曲している。フック部は屈撓性であるので、第1及び第2腕部がヒンジ部を中心として開放位置から閉鎖位置に向かって移動すると、第2腕部の先端部が上記フック部に当接するが、さらに両腕部が閉鎖位置へと向かうと、フック部は第1腕部の外側方向へと撓み、第2腕部の先端部が第1腕部のフック部の内側へと入り込む。これにより、第2腕部の先端部の外側面が第1腕部のフック部の内側と係合し、クリップが閉鎖位置にロックされる。
フック部の湾曲した形状とは、緩やかなカーブ及び急なカーブを描いているいずれの態様も含むものであり、さらには屈曲と呼べる態様も含むものであるが、好ましくは、急なカーブである湾曲した状態又は屈曲した状態である。それにより、第2の腕部との間で良好な係合状態(ロック状態)を形成し、閉鎖状態を良好に維持できる。但し、フック部への過度な負荷を避けることが望ましい場合、または第1及び第2腕部の間の空間を大きくしたい場合などは、緩やかなカーブを用いることができる。
フック部の内外面は連続的に湾曲せしめることが可能であり、それにより、コーナー部における過度の応力集中の発生を防ぐことができる。
【0024】
本発明のクリップは、第1腕部及び第2腕部のそれぞれにおいて、ヒンジ部から遠位の位置に、側方に延びた円筒形の突起部を1つ又は2つ、好ましくは側面の両側に2つ備えることができる。突起部を備えることにより、クリップをアプライヤーにセットした際に、クリップがアプライヤー内に安定に保持できるとともに、アプライヤーを用いてクリップの開閉操作が容易となる。
【0025】
本発明の手術用クリップは、膵臓の切離部断端の固定のために用いることができる。これに限定されないが、膵切除術、例えば、膵体尾部切除術、膵頭十二指腸切除術、膵中央切除術、腫瘍核出術、好ましくは、膵体尾部切除術において用いることができる。本発明の手術用クリップは、膵実質を固定するために用いることができるが、好ましくは切除膵頭体部側の膵実質を固定するために用いられる。クリップによる固定に先だって切除断端主膵管を結紮するのが好ましいが、結紮を行なわなくてもよい。
また、本発明の手術用クリップは、アプライヤーとともに用いることにより、腹腔鏡下での膵切除術において、膵臓の切離部断端の固定のために用いることができる。
【0026】
以下、図を参照しつつ本発明の手術用クリップの好ましい態様につき説明する。但し、本発明は、以下に説明する態様に限定されるものではない。
【0027】
図1は本発明の手術用クリップの一つの態様を示している。膵臓の切離部断端の固定のために用いることができる本発明のクリップは、第1腕部1及び第2腕部2、及び各々の基部において両腕部を接続しているヒンジ部3により構成されている。ヒンジ部3は弾性である。そのため、第1腕部及び第2腕部を、
図1に示される位置から
図3Aに示される位置へと開放することが可能となっており、そして、
図3Bに示される閉鎖位置へと移動させることが可能となっている。それにより、
図3Aに示される開放状態で第1腕部と第2腕部の間に膵臓を挟み込み、次いで、
図3Bに示される閉鎖状態へと第1腕部及び第2腕部を移動することにより、膵臓を固定することができる。その結果、膵臓を切断する場合に膵臓の切断部の近くの残存する膵臓部分(膵体尾部の切離の場合は、切断部の膵頭側)を固定することができる。膵臓の切離は、本発明のクリップで膵臓の切断部近くの残存させる部分を固定した後、切断を行い、切除部分を切離する方法、あるいは、膵臓の切断を行って切除部分を切離した後、切断部近くを固定する方法で行うことができるが、好ましくは、クリップで固定した後、切断を行う。
図4は、切離後の膵臓の切離部断端を固定したようすを示した図である。
【0028】
第1腕部1は、凹状の内側面11及びそれに対応する凸状の外側面12を有し、その末端部(先端部)側にフック部4が配置されている。第2腕部2は、凹状又は平面状の内側面13及び凸状又は平面状の外側面14を有し、その末端は前記フック部4と係合する先端部7を持つ。
【0029】
フック部4は、第2腕部の方へ湾曲しており、湾曲部5と先端部6からなる。フック部4は屈撓性であり、第1及び第2腕部がヒンジ部を中心として開放位置から閉鎖位置へと移動すると、上記フック部4は第1脚部材の外側方向へと撓み、第2腕部の先端部7が、上記湾曲したフック部の内側へと入り込み、フック部4と係合してクリップを閉鎖位置にロックするように構成されている。閉鎖状態においては、先端部6と先端部7が係合する状態となり、これにより第1腕部及び第2腕部が閉鎖位置に固定される。
【0030】
本発明のクリップは、いずれの状態、例えば、開放状態や閉鎖状態において、第1腕部と第2部はその形状に変化がなく、同一又は略同一である。それゆえ、閉鎖状態において、第1腕部の内側面は凹状の形状のまま維持され、一方、第2腕部の内側面は凹状又は平面状(好ましくは凹状)の形状のまま維持されるので、両内側面の間に空間を確保できる。
【0031】
フック部4の内側の形状と第2腕部の先端部7の形状は、閉鎖状態において両者が係合して、膵臓の切離部断端を固定できる限り特に制限されない。フック部4の湾曲部5の形状は、緩やかなカーブ又は急なカーブのいずれの態様、さらには屈曲と呼べる態様も含むものであるが、好ましくは、急なカーブ又は屈曲した状態である。但し、フック部への過度な負荷を避けることが望ましい場合、または第1及び第2腕部の間の空間を大きくしたい場合などは、緩やかなカーブを用いることができる。一方、第2腕部2の先端部7の形状は、湾曲した又は屈曲した状態の湾曲部5の内側に入り込み易くかつ膵臓を固定した状態で係合が外れない形状が好ましく、例えば、先端に行くほど厚みが小さくなる形状をあげることができる。フック部4及び先端部7のそれぞれに、両者が係合した後に外れないようにするために、例えばツメを設けてもよい。フック部4及び先端部7がこれらの形状をとることにより、膵臓の切断部の膵頭側の固定が容易になるとともに、両者の間で良好な係合(ロック状態)を形成し、膵臓を挟んだ閉鎖状態を良好に維持できる。
【0032】
好ましい実施態様においては、第1腕部の殆どの部分(つまり先端部及び基部を除く殆どの部分)における内側面11及び外側面12間の厚みは、全般的に、全長にわたりほぼ一定となっている。好ましい実施態様においてはまた、第2腕部の殆どの部分(つまり先端部及び基部を除く殆どの部分)における内側面13と外側面14間の厚みは、全般的に、全長にわたりほぼ一定となっている。また、第1腕部の厚みと第2腕部の厚みは、ほぼ同じ厚みであることが好ましい。第1腕部又は第2腕部の厚みは特に制限がなく、用いる材料に応じて適宜選択できるが、好ましくは、2mm~10mm、より好ましくは2mm~7mm、さらに好ましくは2mm~6mmである。
【0033】
第1腕部の内面側11は凹形状であるが、凹状内面の曲率半径は、固定する対象の大きさや形に合わせて適宜選択できる。第2腕部の内面側13は凹形状又は平面状であるが、好ましくは凹形状である。第2腕部の内面側が凹形状である場合は、凹状内面の曲率半径は、固定する対象の大きさや形に合わせて適宜選択できる。内側面11が凹状であり、一方、内側面13が凹状又は平面状であるため、
図3Bに示されるように、フックが閉じられたとき、内側面同士が平行に重なり合うことがなく、内側面の間に空間21が確保される。これにより、膵臓という脆い臓器を挟んだ場合でも臓器の過度な損傷を防ぐことが可能となる。第1及び第2腕部の内面側がともに凹形状の場合、その曲率半径は、同一か略同一が好ましい。閉鎖位置における内側面の間の空間21の距離は、固定する対象の大きさや形状に合わせて適宜選択される。実際には、膵臓切断部の厚さは、0.5cm~4cm、多くの場合は1cm~2cmであるので、目的とする切断部の厚さに応じ、ある程度しっかりと全体を閉鎖できるが強く閉鎖し過ぎない程度の空間21の距離を持つクリップが適宜選択される。これに限定されないが、空間21における内側面間の最大幅は、下限は、好ましくは、約1mm、より好ましくは約2mm、さらに好ましくは約3mmであり、上限は、好ましくは約15mm、より好ましくは約10mm、さらに好ましくは約8mm、よりさらに好ましくは約5mmである。膵臓の厚みは多くの場合は1cm~2cmであるので、空間21の最大幅が約3mm~約5mmのクリップが最も汎用性が高い。
【0034】
本発明のクリップの長さは特に制限がなく、固定する対象の大きさや形状にあわせて適宜選択できる。これに限定されないが、好ましくは、3cm~15cm、より好ましくは4cm~12cm、さらに好ましくは5cm~10cmである。
【0035】
本発明のクリップの第1腕部におけるフック部4の大きさは、特に制限がないが、フック部4とそれ以外の部分の比(A:Bの比)は、好ましくは1:2~1:10、より好ましくは1:3~1:8、さらに好ましくは1:5~1:7である。
【0036】
本発明のクリップは、クリップを膵臓に固定した後に、クリップのズレやクリップの外れを防止するために、第1腕部の内側表面及び/又は第2腕部の内側表面に滑り止め機構を備えることができる。滑り止め機構は、クリップのズレを防止できるものであれば特に制限なくいずれの機構を用いることもできるが、例えば、内側表面は凹凸を有する面にする、あるいは、内側表面上に複数の突起を備えることにより達成できる。
【0037】
本発明のクリップの他の実施態様を
図5及び
図6に示す。本発明のクリップは、ヒンジ部3から遠位の位置において、側方に延びた円筒形の突起部31、32をそれぞれ第1腕部、第2腕部に備えることができる。突起部の数は、それぞれの腕部において1つ又は2つを備えることができるが、好ましくは2つ備える。それぞれの腕部において2つの突起部を備える場合は、腕部の両側に対をなして備えることが好ましい。それぞれの腕部に一つの突起部を備える場合は、突起部が対となるように腕部の同じ側に備えるのが好ましい。突起部の長さや大きさは、アプライヤーの係止機構に突起部が係合できる限り特に制限がない。
【0038】
本発明のクリップは、形状記憶プラスチック素材を用いて製造することもできる。かかる場合の記憶される形状は、特に限定されない。例えば、
図9Aに示されるような、第1腕部と第2腕部の間が少し開いた状態で形状記憶されたクリップ、
図9Bに示されるような、第1腕部と第2腕部の間が大きく開いた状態で形状記憶されたクリップ、
図9Cのような、第1腕部と第2腕部が閉鎖した状態で形状記憶されたクリップが可能である。
図9Bのように開放状態で形状記憶されたクリップを用いれば膵臓を容易に挟むことができ、一方、
図9Cのように閉鎖状態で形状記憶されたクリップを用いれば閉鎖状態がより安定に維持できる。
【0039】
室温から体温の温度で、好ましくは体温の温度で、
図9Cのように閉鎖位置で形状記憶性をもつクリップは、固定の操作がより容易となり、また固定後に長い期間より安定に閉鎖状態を維持できるので好ましい。これに限定されないが、体温において閉鎖位置で形状記憶性をもつクリップは、例えば、以下のようにして使用することができる。まず、クリップを広げた状態(開いた状態)で、室温以下に冷却、好ましくは氷冷下におき、体温による閉鎖固定を妨げる(記憶された形状への変化を妨げる)。この状態で、膵臓にクリップを装着し、クリップを閉じることにより閉鎖状態へと移行させる。より好ましくは、クリップが開いた状態を模した容器に開いた状態のクリップを保存しておき、使用まで又は使用前に、クリップを冷却する。冷却は、例えば、クリップをそれが入った容器とともに冷蔵庫に入れる、あるいは、氷上に置くことにより行うことができる。使用時に、クリップを容器から取り出して使用する。クリップが膵臓に装着されるとクリップが体温に温められるので、記憶された形状である閉鎖位置へとクリップが形状固定する。形状固定を促進するために、体温に温めた生理食塩水をクリップにかけることもできる。
【0040】
本発明のクリップは、アプライヤーを用いて使用することもでき、腹腔鏡手術の場合は特に有用である。
図10~13を用い、アプライヤーを用いた使用例を説明するが、アプライヤーの形状や使用形態はこれらに限定される訳ではない。
図10は、
図9Aに示されるような、第1腕部と第2腕部の間が少し開いた状態にあるクリップを用いた例である。
図10Aは、使用時にクリップ100をアプライヤー400に装着した状態を示している。アプライヤー400は、クリップ100を、脚部41及び脚部42の間の位置に挟んだ状態でセットできる。アプライヤーは、クリップを開口できるように、ハサミ形状をとるのが好ましい。脚部41及び42の内側には、それぞれ係止機構43及び44を備える。係止機構43及び44はそれぞれ、クリップの突起部31及び32と係合してクリップを固定できる。アプライヤーのぞれぞれの脚部に備える係止機構は、1つ又は2つであるが、好ましくは2つである。係止機構は、脚部の先端に向かって開口しているU字型の構造をとるのが好ましい。それにより、クリップを固定した状態で、腹腔内でクリップを膵臓へとアプローチした場合に、クリップが脱落するのを防ぐことができる。
図10Bは、クリップをアプライヤーにセットした際の、クリップの突起部32とアプライヤーの係止機構44とが係合した状態を示した拡大図である。
【0041】
クリップをアプライヤーにセットした後、ハサミ形状のアプライヤーを開くことにより、クリップをさらに開口した状態へと操作できる。クリップはさらに開口された状態では、クリップが元の状態に戻ろうとするため、アプライヤーの係止機構とクリップの突起部において、逆方向の力が働くため、開口したクリップを膵臓にアプローチする際においてクリップのアプライヤーからの脱落を防止することができる。開口したクリップを膵臓の切断部位の膵頭側にセットした後、アプライヤーを閉じることによりクリップを閉鎖状態にロックする。
【0042】
図11は、
図9Bに示されるような、第1腕部と第2腕部の間が大きく開いた状態、つまり開放状態にあるクリップを用いた例である。
図11は、使用時にクリップ100をアプライヤー400に装着した状態を示している。アプライヤー400は、クリップ100を、脚部41及び脚部42の間の位置に挟んだ状態でセットできる。アプライヤーの係止機構43,44は、内側に向かって開口しているU字型の構造をとるのが好ましい。アプライヤーを閉じるとクリップは元の形状の戻ろうとするので、アプライヤーの係止機構とクリップの突起部において、逆方向の力が働くため、腹腔内でクリップを膵臓へとアプローチする際に、クリップが脱落するのを防ぐことができる。開口したクリップを膵臓の切断部位の膵頭側にセットした後、アプライヤーを閉じることによりクリップを閉鎖状態にロックする。
【0043】
図12は、
図9Cに示されるような、第1腕部と第2腕部が閉鎖した状態にあるクリップを用いた例である。
図12は、クリップを開く操作を容易にするために、第1腕部先端部と第2腕部先端部の係合を解除した後にクリップをアプライヤーにセットした状態を示している。アプライヤー400は、クリップ100を、脚部41及び脚部42の間の位置に挟んだ状態でセットできる。アプライヤーの係止機構43,44は、外側に向かって開口しているU字型の構造をとるのが好ましい。アプライヤーを開くとクリップは元の形状の戻ろうとするので、アプライヤーの係止機構とクリップの突起部において、逆方向の力が働くため、腹腔内でクリップを膵臓へとアプローチする際に、クリップが脱落するのを防ぐことができる。開口したクリップを膵臓の切断部位の膵頭側にセットした後、アプライヤーを閉じる。クリップを閉鎖状態にロックすることは、
図12に示されるようなアプライヤーを用いて行うこともできるが、もし、ロックが不十分な場合は、アプライヤーをクリップから外し、次いで、
図13に示されるようなクローザーを用いてクリップをロックすることもできる。クローザーにはクリップの突起部に当接する受部53,54が備えられている。
【0044】
図9Cに示されるような、第1腕部と第2腕部が閉鎖した状態で形状記憶されたクリップを用いる別の態様を以下に記載する。例えば、約30~約38℃、好ましくは体温である約37℃で、
図9Cに示されるような閉鎖位置で記憶形状されたクリップを用いた例を示す。閉鎖状態では腹腔内で膵臓へとクリップをアプローチさせることができないので、クリップを広く開口した状態にする必要がある。まず、クリップを広く広げた状態で、室温以下に冷却、好ましくは約4℃以下に冷却する。約4℃以下への冷却は、例えば、クリップを広げた状態で氷冷することより行うことができる。あるいは、クリップが開いた状態を模した容器に開いた状態のクリップをいれ、使用まで又は使用前に、容器とともにクリップを冷蔵又は冷却する。それによりクリップが、体温の温度に温められることによる閉鎖状態への変化(記憶された形状への変化)を妨げることができるので、クリップが広く開口した状態で維持できる。そのような記憶された形状への変化を妨げる条件は、クリップの材質等に応じ適宜選択できる。次いで、広く開口したクリップをアプライヤーに装着し、膵臓へとアプローチし、膵臓の切断部位の膵頭側にセットする。必要に応じ、クリップの温度が上昇しないように、アプライヤーを予め冷却しておくことやアプライヤーに冷却機構を備えることができる。膵臓にセットしたクリップは、体温に温められるので、記憶された形状に戻ろうとする。そのため、アプライヤーを用いてクリップを閉鎖状態にロックする操作がより容易となる。また、クリップが元の形状に戻るのを促進するために、必要であれば、体温に温めた生理食塩水をクリップにかけることもできる。
【0045】
本発明のクリップの他の実施態様を
図7に示す。そこでは、ヒンジ部3がより大きな曲率半径であるとともに、それぞれの腕部の基部付近に、内側方向に向けてこぶ状構造8を有する。ヒンジ部3がより大きな曲率半径をとることにより、第1腕部と第2腕部間の開口部が大きくなり、膵臓の挟み込みがより容易になる、又はより厚みのある膵臓を挟み込むことができるという効果を生じる。また、
図7Bに示すように、閉鎖状態で、2つのこぶ状構造8が互いに接することにより、クリップの腕部内側面が、ヒンジ部から先端部の全体に渡って膵臓に同等の力をかけることができ、膵臓の固定が十分となる。
【0046】
本発明のクリップの別の実施態様を
図8に示す。そこでは、ヒンジ部3がより大きな曲率半径であるとともに、それぞれの腕部の基部付近に内側方向に向けてこぶ状構造8を有し、さらに、第1腕部の湾曲部5がより緩やかなカーブであるとともに第1腕部の先端部分にこぶ構造9を2つ有する。湾曲部5はより緩やかなカーブとなるので成型が容易となるばかりでなくクリップの開閉操作がより容易となる。また、第1腕部と第2腕部間の開口部が大きくなり、内側面間の空間21をより大きく設計できるので、厚みが大きい膵体部の固定に適している。
【0047】
本発明のクリップで膵臓の切離部断端を固定すると、膵閉鎖部の主膵管、及び必要に応じさらに副膵管が閉鎖されるので、膵断端からの膵液の漏れ(膵液瘻)を防止することができる。膵液の漏れを防止するためには、主膵管の耐圧能がある一定以上となるようにクリップで主膵管を閉鎖することが必要となる。膵液の漏れを防ぎ、膵液瘻を防止するために要求される主膵管の耐圧能は、少なくとも約4kPa以上、好ましくは約5kPa以上、より好ましくは約6kPa以上であることが望ましい。従って、望ましい主膵管の耐圧能を達成できる程度に、本発明のクリップにより膵臓の切離部断端を固定することにより、膵液瘻を防止できる。よって、本発明のクリップは、膵臓の切離部断端を固定した際に、少なくとも約4kPa以上、好ましくは約5kPa以上、さらに好ましくは約6kPa以上の圧力にて膵臓をクランプするように構成されているのが望ましく、一方、上限は、本発明のクリップで挟まれた膵臓の閉鎖部が壊死を起こさない程度の圧力にて膵臓をクランプするように構成されているのが望ましい。
【0048】
本発明のクリップは、プラスチック一体成型品として製造されることが望ましい。プラスチック材料は、生体適合性を有するものであれば特に制限なく用いることができるが、好ましくは、商業的に入手可能な、比較的高強度の生体適合性プラスチック又は生分解性プラスチックである。好ましいプラスチックの例は、外科インプラント手術において使用されているものである。これらのプラスチック材料から目的に応じて任意に選択できる。これに限定されないが、例えば生体適合性材料としては、ポリエチレン、テフロン(登録商標)、ポリオキシメチレン、ポリウレタン、ポリジオキサノン、ポリε-カプロラクトン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、及びそれら誘導体をあげることができ、例えば生分解性又は生体吸収性材料としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、及びそれらの共重合体、ポリジオキサノン、及びポリε-カプロラクトン、並びにそれらの誘導体を上げることができる。また、複数の上記の任意の材料を任意の割合で配合したものをあげることができる。
【0049】
本発明のクリップに形状記憶性を持たせる場合は、形状記憶性をもつ上記プラスチック材料又はそれらの誘導体を用いることができ、あるいは、複数の任意の材料を任意の割合で配合して用いることもできる。
本発明の外科用クリップは、公知の樹脂成型手段を用いて製造できるが、例えば、射出成型、押出し成型、を用いて製造できる。
【0050】
上記の如く、膵臓の切除を例に本発明を説明したが、本発明の手術用クリップを、膵臓に加えて、膵臓と同様に脆く厚みがある臓器である肝臓、肺、虫垂や卵巣にも用いることができる。肝臓、肺、虫垂や卵巣の切除において用いる本発明のクリップは、両腕部の内側面間の距離、腕部の長さや厚み、フック部と腕部の比、その他の構成については、目的とする臓器の種類、切除する部分の大きさや状態、その他の条件に応じて、適宜選択できる。
【実施例】
【0051】
本発明の外科用プラスチックを以下のようにして作成した。
シリコーンゴムでクリップの鋳型を作製した。弾性率に優れた分子量約8万のポリカプロラクトンを加熱融解し、上記鋳型に充填した。自然放熱冷却により目的の形状を有するクリップを作製した。
【0052】
上記で作製したクリップを用いて、ブタの膵切離術を行った。ブタ(膵体尾部切除モデル、2例)の腹部を開腹し、目視下で、膵臓の体部にクリップを装着した。その後、尾部側をメッチェンで切離した。術後1月後に、ブタを擬死させて膵液瘻を確認したが、腹腔内に膵液瘻は認められなかった。また、本発明のクリップで固定した膵臓部分は、良好な状態で維持されていた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の外科用クリップは、膵臓の切離部断端の固定に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
1・・・第1腕部
2・・・第2腕部
3・・・ヒンジ部
4・・・フック部
5・・・湾曲部
6・・・第1腕部先端部
7・・・第2腕部先端部
8,9・・・こぶ状構造
11・・・第1腕部内側面
12・・・第1腕部外側面
13・・・第2腕部内側面
14・・・第2腕部外側面
21・・・内側面間の空間
31,32・・・突起部
41,42・・・アプライヤー脚部
43,44・・・係止機構
51,52・・・クローザー脚部
53,54・・・受部
100・・クリップ
400・・・アプライヤー
500・・・クローザー