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特許7446598触媒、その触媒を含む触媒溶液、およびその触媒溶液を用いた無電解めっき方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】触媒、その触媒を含む触媒溶液、およびその触媒溶液を用いた無電解めっき方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/18 20060101AFI20240304BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240304BHJP
   B22F 1/0545 20220101ALI20240304BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20240304BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240304BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240304BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C23C18/18
B22F1/00 K
B22F1/0545
B22F7/04 A
B82Y30/00
B82Y40/00
H05K3/18 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019204834
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021075770
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・書面1:「京都工芸繊維大学 新技術説明会予稿集」の表紙および奥付、ならびに「室温で液体のように溶ける金属に関する研究」の掲載頁のコピー ・書面2:京都工芸繊維大学 新技術説明会の発表資料のコピー ・書面3:京都工芸繊維大学 新技術説明会パンフレットのコピー ・書面4:「第68回高分子討論会予稿集」の奥付および「室温で液体のように流動する金属原子に関する研究」の掲載頁のコピー ・書面5:第68回高分子討論会の発表スライドのコピー
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】中西 英行
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-224178(JP,A)
【文献】特開2010-265543(JP,A)
【文献】特開2012-184451(JP,A)
【文献】特開2016-199779(JP,A)
【文献】特開2017-101307(JP,A)
【文献】国際公開第2018/056052(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00 - 1/18
B22F 7/04
B22F 9/24 - 9/26
B82Y 30/00 - 40/00
C23C 18/18
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子の表面を保護分子で被覆した触媒と、無極性溶媒とを含む無電解めっき用触媒溶液であって、
前記金属ナノ粒子は、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成され、
前記金属ナノ粒子の平均直径が1~30nmであり、
前記保護分子が、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有し、
前記金属ナノ粒子の表面における前記保護分子の密度が1~4個/nmである触媒溶液。
【請求項2】
粘度が0.01~10mPa・sである請求項に記載の触媒溶液。
【請求項3】
基材に、請求項またはに記載の触媒溶液を適用する工程と、
前記基材を無電解めっき液に浸漬して無電解めっき膜を形成する工程とを含む無電解めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子の表面を保護分子で被覆した触媒、その触媒を含む触媒溶液、およびその触媒溶液を用いた無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器をはじめとして電子機器が目覚ましい進歩を遂げている。電子機器は更なる小型・薄型・軽量化・フレキシブル化等が要求され、しかも生産性の向上も求められている。半導体デバイスをはじめとする電子部品に対する要求は厳しくなり、それらのデバイスの配線についても様々な工夫、改善がさらに必要とされている。
【0003】
デバイスの配線を形成するための方法として、例えば以下の2つの方法が知られている。
第1の配線形成方法は、基材上の配線形成位置に配線材料(例えば金属粒子)を配置し、その配線材料を焼結することによって配線を形成する方法である。
第2の配線形成方法は、基材上の配線形成位置に金属めっきを施して配線を形成する方法である。
【0004】
第1の配線形成方法では、インクジェットやディスペンサ印刷技術の進展により、現在ではナノサイズの金属微粒子が配線材料の一つとして検討が進められている(例えば非特許文献1参照)。
また、特許文献1には、シュウ酸銀とオレイルアミンを反応させて錯化合物を生成させ、これを加熱分解して銀超微粒子を得ることが開示されている。
さらに、特許文献2には、被覆された金属ナノ粒子と分散溶媒とを含む金属ナノ粒子ペーストに、極性溶媒又は溶解補助剤を含む極性溶媒溶液を作用させて、金属ナノ粒子を焼結させ、基材上に配線形成する方法が開示されている。
【0005】
第2の配線形成方法では、無電解めっきによる配線形成が検討されている。無電解めっきで配線を形成するためには、配線領域(めっきすべき領域)に予め触媒を塗布しておく必要がある。触媒が塗布された配線領域にめっき溶液が接触すると、めっき溶液中の金属イオンが還元されてめっき層が形成される。無電解めっきに使用される触媒は、例えば溶液の状態で提供される。
特許文献3には、カルボキシル基および窒素原子を有するポリマーと、貴金属ナノ粒子とを含む、無電解金属めっきのための触媒溶液が開示されている。
特許文献4は、ゼロ価の銀、4-ジメチルアミノピリジン、および銀イオンをゼロ価の銀に還元する電位を有する金属の1種以上のイオンを含む組成物(めっき溶液)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-214695号公報
【文献】特開2008-072052号公報
【文献】特開2013-155437号公報
【文献】特開2017-160541号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】河染満他、「Printed Electronicsのためのナノ粒子微細配線技術」、粉砕、No.50 (2006/2007)、p.27-31
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
第1の配線形成方法では、一般的に、金属粒子を焼結して配線を形成している。しかしながら、常温に近い温度において配線を形成できれば、耐熱性のある材料のみならず、耐熱性のない各種有機材料も配線基材として用いることができる。
【0009】
しかしながら、非特許文献1に記載された従来の金属微粒子は、焼結反応を利用して金属形成させているため、最低でも150℃程度の温度で処理しなければならず、その利用範囲は限られている。このような状況の下、さらなる低温で配線形成が可能な材料が求められている。
特許文献1の銀超微粒子を用いて導電被膜等を形成する場合は、焼結反応を利用するために処理温度は100~300℃であり、さらなる低温焼結可能な方法が求められている。
特許文献2の方法は、金属焼結を利用しているため、形成した配線の電気抵抗率が高くバラつきが大きいという問題点があり、また、低温焼結工法は基材への金属の付着強度が小さいという問題点もある。ちなみに、この特許文献2では、金属粒子の表面を被覆している被覆分子は、金属粒子と配位的な結合を形成するものである。
【0010】
そこで、本発明の第1の目的は、高温で焼結させる必要なしに配線を形成できる金属ナノ粒子を提供することである。
【0011】
第2の配線形成方法では、基材に対するめっき層の接着性を向上するために、めっき前に様々な処理を行う。例えばPdを含む触媒溶液を使用して無電解めっきする場合は、まず、基材をマイクロエッチングして配線領域の表面を粗面化し、次いで、基材をSnCl溶液等に浸漬して、粗面化した配線領域にSn2+イオンを付着させ、その後、基材をPdCl溶液(触媒溶液)に浸漬し、Pd2+イオンをSn2+イオンにより還元して配線領域にPdを担持させる。このように、無電解めっきを行うためには、煩雑な工程が必要となっており、これらの工程を簡略化できる触媒溶液が求められている。
しかしながら、特許文献3および4に開示されている触媒溶液は、基材のマイクロエッチングを必要としている。
【0012】
本発明の第2の目的は、基材のマイクロエッチングを省略できる触媒溶液を形成できる金属ナノ粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、保護分子で表面を保護された金属ナノ粒子である表面保護金属ナノ粒子が、第1の目的および第2の目的を達成しうることを見いだして、本発明を完成するに至った。特に、発明者らは、表面保護金属ナノ粒子が触媒として機能し得るという新たな知見に基づいて、表面保護金属ナノ粒子から成る触媒、その触媒を含む触媒溶液、およびその触媒溶液を用いた無電解めっき方法に係る発明を完成した。
【0014】
本件第1発明は、
金属ナノ粒子の表面を保護分子で被覆した触媒であって、
前記金属ナノ粒子は、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成され、
前記金属ナノ粒子の平均直径が1~30nmであり、
前記保護分子が、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有し、
前記金属ナノ粒子の表面における前記保護分子の密度が3~8個/nmである、触媒である。
【0015】
本件第2発明は、
前記金属ナノ粒子が金、銀、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成されており、
前記触媒の粉末X線回折測定で得られたX線回折パターンは、2θ=50°~60°の範囲にピークが存在しない、本件第1発明に記載の触媒である。
【0016】
本件第3発明は、
金属ナノ粒子の表面を保護分子で被覆した触媒と、無極性溶媒とを含む無電解めっき用触媒溶液であって、
前記金属ナノ粒子は、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成され、
前記金属ナノ粒子の平均直径が1~30nmであり、
前記保護分子が、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有し、
前記金属ナノ粒子の表面における前記保護分子の密度が1~4個/nmである触媒溶液である。
【0017】
本件第4発明は、
粘度が0.01~10mPa・sである本件第3発明に記載の触媒溶液である。
【0018】
本件第5発明は、
基材に触媒を担持する方法であって、
(1)前記触媒を含有する分散液に、基材を接触させる工程を含み、
(2)前記触媒は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した触媒の状態で前記分散液中に分散されており、前記分散液の粘度は、0.01~10mPa・sであり、
(3)前記金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化1】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(4)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a)及び/又は(b)の工程
(a)前記分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記分散液の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b)前記分散液に溶媒及び/又は触媒を添加し、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含む、触媒の担持方法である。
【0019】
本件第6発明は、
基材に、本件第3発明または本件第4発明に記載の触媒溶液を適用する工程と、
前記基材を無電解めっき液に浸漬して無電解めっき膜を形成する工程とを含む無電解めっき方法である。
【0020】
本件第7発明は、
本件第5発明に記載の触媒の担持方法により、基材に触媒を担持する工程と、
前記基材を無電解めっき液に浸漬して無電解めっき膜を形成する工程とを含む無電解めっき方法である。
【0021】
さらに、本発明は、以下の態様を含みうる。
【0022】
第1の態様.金属ナノ粒子を液状化する方法であって、
(1)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で分散液中に分散されており、前記分散液の粘度は、0.01~10mPa・sであり、
(2)前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化2】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(3)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a)及び/又は(b)の工程
(a)前記分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記分散液の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b)前記分散液に溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加し、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含む、金属ナノ粒子を液状化する方法。
【0023】
第2の態様.金属ナノ粒子を液状化する方法であって、
(1)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で分散液中に分散されており、
(2)前記分散液を基材に塗布し、前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させる工程であって、当該溶媒の粘度が0.01~10mPa・sである、接触させる工程を含み、
(3)前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させた際に、前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化3】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(4)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a’)及び/又は(b’)の工程
(a’)前記溶媒の種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記溶媒及び/又は基材の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b’)前記溶媒に、溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加して、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含む、金属ナノ粒子を液状化する方法。
【0024】
第3の態様.前記金属ナノ粒子の平均粒径が1~30nmである上記第1又は第2の態様に記載の方法。
【0025】
第4の態様.前記遷移金属ナノ粒子を構成する遷移金属は、周期表第10族~第11族で且つ第4周期~第6周期に属する元素の少なくとも一種である、上記第1~第3の態様のいずれか一つに記載の方法。
【0026】
第5の態様.前記遷移金属ナノ粒子を構成する遷移金属は、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種である、上記第1~第4の態様のいずれか一つに記載の方法。
【0027】
第6の態様.前記保護分子は、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有する、上記第1~第5の態様のいずれか一つに記載の方法。
【0028】
第7の態様.基材に金属を形成する方法であって、
(1)金属ナノ粒子を含有する分散液に、基材を接触させる工程を含み、
(2)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で前記分散液中に分散されており、前記分散液の粘度は、0.01~10mPa・sであり、
(3)前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化4】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(4)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a)及び/又は(b)の工程
(a)前記分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記分散液の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b)前記分散液に溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加し、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含む、基材に金属を形成する方法。
【0029】
第8の態様.基材に金属を形成する方法であって、
(1)金属ナノ粒子を含有する分散液を基材に塗布し、前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させる工程であって、当該溶媒の粘度が0.01~10mPa・sである、接触させる工程を含み、
(2)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で前記分散液中に分散されており、
(3)前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させた際に、前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化5】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(4)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a’)及び/又は(b’)の工程
(a’)前記溶媒の種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記溶媒及び/又は基材の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b’)前記溶媒に、溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加して、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含む、基材に金属を形成する方法。
【0030】
第9の態様.金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成され、平均粒径が1~30nmである金属ナノ粒子の表面に、
アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有する保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子が、
無極性溶媒を含む分散媒に分散されており、
粘度が0.01~10mPa・sである分散液。
【発明の効果】
【0031】
本発明の金属ナノ粒子によれば、高温で焼結させる必要なしに配線を形成することができる。また、本発明の金属ナノ粒子によれば、基材のマイクロエッチングを省略できる触媒溶液を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例1の金ナノ粒子が液状化(流動)している様子を示すTEM像である。
図2】実施例2の分散液中での銀ナノ粒子の液状化について示す図である。
図3】実施例3の金属薄膜の電子顕微鏡写真とX線回折結果を示す図である。
図4】実施例6の分散液へのポリウレタンの浸漬前後の変化を示す図である。
図5】実施例7の分散液へのレーヨンの浸漬前後の変化を示す図である。
図6】実施例8の表面保護金属ナノ粒子のX線回折パターンである。
図7】実施例9の表面保護金属ナノ粒子の電気伝導率の測定結果を示す図である。
図8】実施例10の無電解めっき試験における、めっき時間とめっき膜の密度を示すグラフである。
図9】実施例11の表面保護金属ナノ粒子についての、金属ナノ粒子の粒径と脱着平衡定数(Kd)との関係を示すグラフである。
図10】表面保護金属ナノ粒子の熱重量分析で得られる典型的な熱重量損失曲線の例である。
図11】表面保護金属ナノ粒子のTEM像である。
図12】ガラス基板上に無電解めっきで形成したニッケル電極配線の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<実施の形態1>
実施の形態1では、表面保護金属ナノ粒子について説明する。
実施の形態1に係る表面保護金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子と、その表面を被覆する保護分子とを含む。
金属ナノ粒子は、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成される。金属ナノ粒子の平均直径は1~30nmである。
前記保護分子は、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有している。
金属ナノ粒子の表面における前記保護分子の密度は、3~8個/nmである。
以下、表面保護金属ナノ粒子について詳細に説明する。
【0034】
表面保護金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子の表面を保護分子が被覆しているものを指す。ここで、「被覆」とは、保護分子が金属ナノ粒子表面の金属原子に吸着していることを意味する。「金属ナノ粒子の表面を保護分子が被覆」とは、金属ナノ粒子の表面の少なくとも一部を保護分子が被覆していることを意味する。なお、金属ナノ粒子は、その表面に一定数以上の保護分子を吸着することにより不動態化して、粒子の形状を維持することができる。金属ナノ粒子表面の保護分子の数が一定数を下回ると、金属ナノ粒子はその形状を維持できず、金属ナノ粒子を構成する金属原子の拡散移動が起こる(この現象を、本明細書では「金属ナノ粒子の液状化」と呼ぶ)。
【0035】
金属ナノ粒子の形状を維持するのに必要な保護分子の数(密度)は、金属ナノ粒子の粒径、金属ナノ粒子を構成する金属の種類、保護分子の数によって異なる。金属ナノ粒子の平均直径が1~30nmであり、金属ナノ粒子は、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成され、前記保護分子が、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種である場合には、金属ナノ粒子の表面における保護分子の密度が3~8個/nmであると、金属ナノ粒子の液状化を効果的に抑制できる。これにより、溶媒を含まない固体状態で、安定して取り扱うことができる。
【0036】
金属ナノ粒子の表面における保護分子の密度(以下「保護分子の密度」と称することがある)が3~8個/nmとは、例えば、金属ナノ粒子の平均直径が2nm(平均半径1nm)の場合、その表面(約12.57nm)に約38個~約100個と多量の保護分子が存在することを意味する。このように多量の保護分子で覆うことにより、表面保護金属ナノ粒子は、空気中でも安定して存在することができる。
【0037】
本明細書において、「金属ナノ粒子の表面における保護分子の密度」とは、金属粒子表面の単位面積(1nm)当たりに吸着している保護分子の個数のことを意味する。保護分子の密度D(個/nm)は、以下の式(III)から求める。

D = (mmolecule / mmetal) × (Rρ/ 6M) × 6.02 × 102 (III)

ここで、mmolecule (mg): 金属ナノ粒子表面に吸着している保護分子の重量
mmetal (mg): 金属ナノ粒子の重量
R (nm): 金属ナノ粒子の直径
ρ (g/cm3): 金属の密度
M (g/mol): 保護分子のモル質量(分子量)
【0038】
保護分子の重量mmoleculeおよび金属ナノ粒子の重量mmetalは熱重量分析(TGA)を測定して求めることができる。図10は、表面保護金属ナノ粒子の熱重量分析で得られる典型的な熱重量損失曲線の例である。表面保護金属ナノ粒子を加熱して温度を上げていくと、まず保護分子が分解又は気化して、重量が減少する。重量変化がなくなって、グラフが平坦になった時の重量(図10では、500℃での重量)が、金属ナノ粒子の重量mmetalである。なお、金属ナノ粒子に使用する金属は、融点が500℃より高い。測定開始時の表面保護金属ナノ粒子の重量から、金属ナノ粒子の重量mmetalを引いた重量(つまり、測定開始温度から500℃までの間に減少した重量)が、保護分子の重量mmoleculeである。
【0039】
金属ナノ粒子の直径Rは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、画像解析することにより測定することができる。図11は、表面保護金属ナノ粒子のTEM像であり、黒丸が表面保護金属ナノ粒子に含まれる金属ナノ粒子である。このTEM像の画像解析から、各金属ナノ粒子の直径約2nmを求めることができる。
金属の密度ρは便覧等に記載の値を参照する。
保護分子のモル質量Mは、保護分子の化学式から求める。
【0040】
金属ナノ粒子は、遷移金属から構成されるものである。また、1個の金属ナノ粒子は、数10個~数100個程度の金属原子が集まったものである。
遷移金属としては、特に限定されないが、例えば、周期表第3族~第12族に属する元素等が挙げられる。周期表第10族~第11族で且つ第4周期~第6周期に属する元素の少なくとも一種であることが好ましく、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
【0041】
金属ナノ粒子への保護分子の吸着・脱着の観点から、金属ナノ粒子の平均粒径は、1~30nm(ナノメートル)が好ましく、2~20nmがより好ましく、2~10nmがさらに好ましく、2~6nmが特に好ましい。
【0042】
金属ナノ粒子の平均粒径を小さくすると、金属平板(粒径が無限大とみなせる)では吸着できない保護分子でも吸着することができるようになる。
金属ナノ粒子の平均粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡を用い、画像解析することにより測定することができる。具体的には、実施例の項に記載の方法で測定することができる。
【0043】
金属ナノ粒子の表面を被覆する保護分子としては、金属ナノ粒子の表面を被覆することができれば特に限定されないが、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有する化合物であることが好ましい。
アミノ基を含有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~30のアルキルアミン、炭素数2~30のアルケニルアミン、炭素数2~30のアルキニルアミン、アリールアミン、アラルキルアミン等が挙げられる。脱着平衡定数の観点から、炭素数1~30のアルキルアミン、炭素数2~30のアルケニルアミンが好ましく;炭素数10~30のアルキルアミン、炭素数10~30のアルケニルアミンがより好ましく;炭素数10~20のアルキルアミン、炭素数10~20のアルケニルアミンがさらに好ましく;ドデシルアミン、オレイルアミン等が特に好ましい。
【0044】
カルボキシル基を含有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~30のアルキルカルボン酸、炭素数2~30のアルケニルカルボン酸、炭素数2~30のアルキニルカルボン酸、アリールカルボン酸、アラルキルカルボン酸等が挙げられる。脱着平衡定数の観点から、炭素数1~30のアルキルカルボン酸、炭素数2~30のアルケニルカルボン酸が好ましく;炭素数10~30のアルキルカルボン酸、炭素数10~30のアルケニルカルボン酸がより好ましく;炭素数10~20のアルキルカルボン酸、炭素数10~20のアルケニルカルボン酸がさらに好ましく;デカン酸、ドデシルカルボン酸、オレイルカルボン酸等が特に好ましい。
【0045】
表面保護金属ナノ粒子の金属ナノ粒子が金、銀、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成されており、
表面保護金属ナノ粒子の粉末X線回折測定で得られたX線回折パターンは、2θ=50°~60°の範囲にピークが存在しないことが好ましい。
なお、粉末X線回折測定のX線源にはCu Kα線を用いる。
【0046】
金、銀、白金及びパラジウムは、それら単体金属の粉末X線回折測定を行うと、得られたX線回折パターンは2θ=50°~60°の範囲にピークが存在しない。しかしながら、それらの金属が化合物(例えば、酸化物、他の金属との合金等)を形成したときに、2θ=50°~60°の範囲にピークが観察されることがある。例えば、酸化銀(AgO)のX線回折パターンは、2θ=50.355°にピークが存在する。
このことから、X線回折パターンは2θ=50°~60°の範囲にピークが存在しないことにより、金、銀、白金又はパラジウムから構成された金属ナノ粒子が、酸化物を含まず、また他の金属との合金を含まない純金属から成ることを示唆している。
【0047】
金属ナノ粒子が純金属から成ることは、実施の形態2で説明する金属ナノ粒子を液状化する際に、特に有利である。
例えば、銀から成る金属ナノ粒子(つまり、Agナノ粒子)の場合、銀原子100%の純金属であることが好ましい。Agナノ粒子が、酸素原子、銀以外の金属原子(例えば、金原子)等を含むと、Agナノ粒子を液状化したときに、銀原子の流動性が低下する(つまり、銀原子が動きにくくなる)。粉末X線回折測定から、流動性を低下させる原因となるそれらの不純物が入っていないことを確認することができる。
【0048】
なお、本明細書において「ピークが存在しない」とは、ノイズよりも大きいピークが存在することを意図している。式(IV)で計算される値よりも強度が小さいピークはノイズとする。

μ+2σ (IV)

ここで、μ:バックグラウンドノイズの平均値(期待値)
σ:バックグラウンドノイズの標準偏差
【0049】
表面保護金属ナノ粒子は、溶媒等を含まない状態では粉末状である。表面保護金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子の種類によって外観(色み)が異なる。金から成る金属ナノ粒子(金ナノ粒子)を含む表面保護金属ナノ粒子(表面保護金ナノ粒子)は、黒っぽい色である。銀から成る金属ナノ粒子(銀ナノ粒子)を含む表面保護金属ナノ粒子(表面保護銀ナノ粒子)は、青っぽい色である。パラジウムから成る金属ナノ粒子(パラジウムナノ粒子)を含む表面保護金属ナノ粒子(表面保護パラジウムナノ粒子)は、黒色である。
【0050】
粉末状態の表面保護金属ナノ粒子は、高温、多湿、直射日光をさけ、冷暗所に保管するのが好ましい。例えば、温度30℃以下、湿度75%以下の暗所に保管するのが好ましい。空気中の湿気、酸素等とは反応しないため、不活性ガス雰囲気下で保管する必要はない。また、室温でも安定であるため、冷蔵又は冷凍する必要はない。
【0051】
粉末状の表面保護金属ナノ粒子は、様々な溶媒(極性溶媒、無極性溶媒)に分散させることができる。そのため、ユーザーは、用途に合わせて溶媒を選択することができる。
表面保護金属ナノ粒子の粉末に溶媒を入れて撹拌すると、表面保護金属ナノ粒子は、容易に分散する。撹拌は、例えばスターラー、撹拌棒、超音波発生器等を用いることができる。
【0052】
表面保護金属ナノ粒子の製造方法は、
金属ナノ粒子を形成する工程と、
溶媒と保護分子とを含む溶液を用いて、金属ナノ粒子の表面を保護分子で覆って表面保護金属ナノ粒子を形成する工程と、
表面保護金属ナノ粒子を溶媒から分離する工程と、
を含む。
以下に、各工程について説明する。
【0053】
(金属ナノ粒子を形成する工程)
金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成されたナノ粒子を製造する。金属ナノ粒子を形成する方法は、金、銀、銅、白金又はパラジウムのナノ粒子を形成する公知の方法を利用することができる。例えば、金属塩又は金属錯体を溶液中で還元して化学的に製造すること等が挙げられる。
金属塩及び金属錯体の濃度、温度を制御することにより、任意の粒径の金属ナノ粒子を形成できる。実施の形態1では、平均直径が1~30nmの金属ナノ粒子を形成する。
使用する金属塩又は金属錯体の溶解性が悪い場合は、界面活性剤(例えばイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等)を混合してもよい。
【0054】
(表面保護金属ナノ粒子を形成する工程)
溶媒と保護分子とを含む溶液を用いて、金属ナノ粒子の表面を保護分子で覆って表面保護金属ナノ粒子を形成する。保護分子を溶解させた溶液中に、金属ナノ粒子を分散させることで、保護分子を金属ナノ粒子に吸着させる。この工程では、溶液を加熱する必要はなく、室温で撹拌すればよい。
なお、保護分子で覆われていない金属ナノ粒子は、粒子形状を維持できないため、金属ナノ粒子を形成する工程と、金属ナノ粒子の表面を保護分子で覆う工程とを、溶液中で連続して行うことが望ましい。例えば、保護分子を溶解させた溶液中で、金属塩又は金属錯体を還元して金属ナノ粒子を形成することにより、金属ナノ粒子の形成の直後に、金属ナノ粒子の表面を保護分子で被覆することができる。
【0055】
表面保護金属ナノ粒子が、金属ナノ粒子の表面における保護分子の密度3~8個/nmを達成できるようにするためには、溶液中の保護分子の濃度を十分に高くする必要がある。溶液中の保護分子の濃度を上昇させることによって、金属ナノ粒子の表面における保護分子の吸着・脱着の化学平衡の平衡点を、吸着の方向に傾ける。これにより、定常的に金属ナノ粒子の表面に吸着している保護分子の数を上昇させることができる。
【0056】
保護分子を溶解させた溶液の濃度は、溶液中に含まれる保護分子の量X(mol)が以下の式(V)を満たすように決定してもよい。

10×N×πR2×D×(1/NA)≦X≦100×N×πR2×D×(1/NA) (V)

ここで、R(nm):金属ナノ粒子の直径
N(個):溶液中の金属ナノ粒子の個数
D(個/nm2):金属ナノ粒子の表面における保護分子の密度
NA:アボガドロ数
【0057】
金属ナノ粒子の表面における保護分子の平衡状態の維持のしやすさやルシャトリエの原理等を考慮すると、下式で定義される溶液全体に対する保護分子の重量分率φは、0.9~1.0が好ましい。

φ=保護分子の重量/(保護分子の重量+溶媒の重量)
【0058】
(表面保護金属ナノ粒子を溶媒から分離する工程)
溶液中で形成された表面保護金属ナノ粒子を、溶媒から分離(回収)して、粉末状の表面保護金属ナノ粒子を得る。表面保護金属ナノ粒子は、溶液中に分散した状態となっているので、溶媒を除去することにより、表面保護金属ナノ粒子を分離することができる。
表面保護金属ナノ粒子の分離方法としては、例えば、デカンテーション、ろ過等の分離方法、溶媒を蒸発させて表面保護金属ナノ粒子を分離する方法等の公知の方法で行うことができる。なお、溶媒を蒸発させる方法としては、真空乾燥、加熱乾燥、室温に放置しての乾燥等がある。加熱乾燥では、保護分子が分解しない温度(例えば0℃~100℃)で行うことが好ましい。
【0059】
このようにして得られた表面保護金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子の表面における保護分子の密度が3~8個/nmであるので、空気中でも安定である。
【0060】
<実施の形態2>
実施の形態2では、金属ナノ粒子の液状化方法、その液状化方法を用いて基材に金属を形成する方法について詳細に説明する。
【0061】
(2-1:金属ナノ粒子の液状化方法)
本発明の金属ナノ粒子の液状化方法では、金属ナノ粒子と吸着分子である保護分子の系に動的化学平衡の原理を適用し、各種条件を変化させることによって、表面保護金属ナノ粒子から保護分子を脱着させて、金属ナノ粒子を容易に液状化させることができる。つまり、本発明の液状化方法は、金属ナノ粒子と吸着分子である保護分子の系に動的化学平衡の原理を適用するものであり、本発明の液状化方法では金属ナノ粒子と保護分子とが配位的な結合を形成するものではない。
実施の形態2では、金属ナノ粒子を液状化する方法として以下の2つの方法を説明する。
第1の液状化方法は、表面保護金属ナノ粒子を分散液中に分散した状態で、表面保護金属ナノ粒子中の金属ナノ粒子を液状化する方法である。分散液中で表面保護金属ナノ粒子から保護分子を脱着させて金属ナノ粒子を液状化する。
第2の液状化方法は、表面保護金属ナノ粒子を含む分散液を基材に塗布した後、表面保護金属ナノ粒子中の金属ナノ粒子を液状化する方法である。分散液が塗布された基材を溶媒に接触させることにより、基材の任意の箇所で金属ナノ粒子を液状化することができる。
以下に、第1および第2の液状化方法の各々について詳述する。
【0062】
・第1の液状化方法
金属ナノ粒子を液状化する第1の液状化方法は、
(1)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で前記分散液中に分散されており、
(2)前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化6】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(3)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a)及び/又は(b)の工程
(a)前記分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記分散液の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b)前記分散液に溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加し、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含むことを特徴とするものである。
【0063】
当該金属ナノ粒子を液状化する方法(第1の液状化方法)においては、分散液中で表面保護金属ナノ粒子から保護分子を脱着させて金属ナノ粒子を液状化することができる。
分散液の粘度は、0.01~10mPa・sであるのが好ましく、0.01~7mPa・sであるのがより好ましい。以下に説明するように、分散液の粘度は、表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間の平衡状態に影響を及ぼす。
【0064】
[Site]は平衡状態に達していない(非平衡状態の)時の保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]は平衡状態に達していない(非平衡状態の)時の遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]平衡状態に達していない(非平衡状態の)時の保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示すとする。
非平衡状態にある混合系は、平衡状態に向かって(つまり、下記の式(II)の量的関係を満たすように)、濃度[Site]、[PM]、[Site-PM]の値を変化させ、それらの値が式(II)の脱着平衡定数Kdの値を満たしたとき、混合系は平衡状態となる。

Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)

〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
【0065】
濃度[Site]、[PM]、[Site-PM]の値は、下記の式(I)の可逆反応(左から右への反応(正反応)と右から左への反応(逆反応))を通じて、変化することができる。
【化7】

〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
【0066】
しかし、粘度が高くなると、分子が動きにくい状態になり、正反応と逆反応の「頻度」が低下してしまう。例えば、1秒間に100000回、正反応が起こっていたのに、粘度が高くなると1秒間に1回しか正反応が起こらなくなる。そうすると、濃度を変化させる速度が著しく低下し、いつまで経っても、平衡状態に到達することができない。このように、粘度は速度論と密接に関係しており、粘度が上昇すると反応速度が低下するため、平衡状態に到達できないようになる。
【0067】
実施の形態2では、速やかに平衡状態に到達することが望ましいため、分散液の粘度は0.01~10mPa・sと低くされているのが好ましい。
【0068】
本明細書において、「金属ナノ粒子が液状化する」とは、表面保護金属ナノ粒子から吸着している保護分子を脱着させて、金属ナノ粒子表面に吸着している保護分子が少なくなると、金属ナノ粒子を構成する金属原子が固定された「固体」状態から、流動する一種の「液体」のような状態に変化する、すなわち「流動」することを意味する。つまり、「液状化」とは、金属原子が液体のような状態に変化して流動することを意味する。
【0069】
本発明者らは、金属ナノ粒子の液状化を効果的に生じさせるためには、金属ナノ粒子の粒径を30nm以下とするのがよいことを見いだした。その理由は定かではないが、以下のような理論に基づくものと推測される。
【0070】
金属ナノ粒子のサイズが小さくなるにつれて、金属ナノ粒子内部の圧力(ラプラス圧)は高くなり(ヤング・ラプラスの式)、熱力学的に不安定になる。本発明のような平均粒径の小さい金属ナノ粒子では、表面に保護分子を吸着することにより安定している。しかしながら、表面に吸着している保護分子の数が減少するにつれて、金属ナノ粒子は熱力学的安定性が低下する。保護分子の数が閾値以下になると、金属ナノ粒子を構成する金属原子のラプラス圧によって粒状を保持できなくなる。その結果、金属原子が液体のように動き始め、金属ナノ粒子が流動化すると考えられる。
【0071】
球状の物体のラプラス圧ΔPは、下式に示すヤング・ラプラスの式から求めることができる。
ΔP=2γ/R

ここで、ΔP:ラプラス圧、γ:表面張力、R:粒子の半径
【0072】
ヤング・ラプラスの式から分かるように、ラプラス圧は表面張力と粒径によって決まり、表面張力は金属ナノ粒子を構成する金属の種類によって決まる。金属ナノ粒子に使用される金属の1つである金を例に検討する。
金の表面張力は1.4N/mである。金属ナノ粒子の粒径が30nm(半径15nm)の場合、金ナノ粒子のラプラス圧は、以下の式で求めたように約190MPaとなる。

ΔP={2×1.4(N/m)}/{15×10-9(m)}≒190MPa
【0073】
金の降伏強度は約100MPa~約200MPaであるため、粒径30nmの金属ナノ粒子のラプラス圧は金の降伏強度の上限値とほぼ等しい。そのため、金ナノ粒子は、粒径が30nm以下であれば、ラプラス圧が金の降伏強度より大きくなり、保護分子が脱離すると金ナノ粒子は液状化すると考えられる。
また、他の金属(銀、銅、白金及びパラジウム)についても、金属ナノ粒子の粒径を30nm以下とすることにより、保護分子を脱離すると液状化できることが分かった。
【0074】
また、金属ナノ粒子と保護分子が分散液中に分散されている場合、金属ナノ粒子表面には分子数の多少はあっても保護分子が吸着されており表面保護金属ナノ粒子となっている。表面保護金属ナノ粒子において、金属ナノ粒子表面に吸着できる保護分子の最大数は、金属の種類や保護分子の種類により様々な値をとりうる。そして、金属ナノ粒子表面に吸着している保護分子の数が一定値(この値も金属の種類や保護分子の種類により様々な値をとりうる)を下回ると、金属ナノ粒子を構成する金属原子が液状化する。
【0075】
金属ナノ粒子は、遷移金属から構成されるものである。また、1個の金属ナノ粒子は、数10個~数100個程度の金属原子が集まったものである。
遷移金属としては、特に限定されないが、例えば、周期表第3族~第12族に属する元素等が挙げられる。脱着平衡定数の観点から、周期表第10族~第11族で且つ第4周期~第6周期に属する元素の少なくとも一種であることが好ましく、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
ここで、脱着平衡定数の観点とは、分散液の保存時(液状化させる前)には脱着平衡定数を小さくさせておき、液状化の際には、脱着平衡定数を大きくして液状化することができるという観点(金属ナノ粒子表面に保護分子が必要量吸着でき、条件を変えれば金属ナノ粒子表面から保護分子が容易に脱着できるという観点)を意味する。
【0076】
金属ナノ粒子への保護分子の吸着・脱着の観点から、金属ナノ粒子の平均粒径は、1~30nm(ナノメートル)が好ましく、1~10nmがより好ましく、2~6nmがさらに好ましく、3~5nmが特に好ましい。
金属ナノ粒子のサイズが小さくなるにつれて金属ナノ粒子の融点降下が大きくなるという観点から、金属ナノ粒子の液状化の温度を下げるためには、2~20nmがより好ましく、2~10nmがさらに好ましく、2~6nmが特に好ましい。
【0077】
金属ナノ粒子の平均粒径を小さくすると、金属平板(粒径が無限大とみなせる)では吸着できない保護分子でも吸着することができるようになる。これは、金属ナノ粒子の粒径を小さくすることにより脱着平衡定数が変化するためである。粒径が小さくなると、脱着平衡定数が小さくなる傾向があるが、粒径はある程度以上小さくなると、脱着平衡定数が著しく低下し、不都合を生じる。選択した保護分子との兼ね合いを考慮した上で金属ナノ粒子の粒径を設定することにより、金属ナノ粒子表面から保護分子を容易に脱着させることができる。
金属ナノ粒子の平均粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡を用い、画像解析することにより測定することができる。具体的には、実施例の項に記載の方法で測定することができる。
【0078】
金属ナノ粒子の表面を被覆する保護分子としては、金属ナノ粒子の表面を被覆することができれば特に限定されないが、脱着平衡定数の観点から、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有する化合物であることが好ましい。
アミノ基を含有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~30のアルキルアミン、炭素数2~30のアルケニルアミン、炭素数2~30のアルキニルアミン、アリールアミン、アラルキルアミン等が挙げられる。脱着平衡定数の観点から、炭素数1~30のアルキルアミン、炭素数2~30のアルケニルアミンが好ましく;炭素数10~30のアルキルアミン、炭素数10~30のアルケニルアミンがより好ましく;炭素数10~20のアルキルアミン、炭素数10~20のアルケニルアミンがさらに好ましく;ドデシルアミン、オレイルアミン等が特に好ましい。
【0079】
カルボキシル基を含有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~30のアルキルカルボン酸、炭素数2~30のアルケニルカルボン酸、炭素数2~30のアルキニルカルボン酸、アリールカルボン酸、アラルキルカルボン酸等が挙げられる。脱着平衡定数の観点から、炭素数1~30のアルキルカルボン酸、炭素数2~30のアルケニルカルボン酸が好ましく;炭素数10~30のアルキルカルボン酸、炭素数10~30のアルケニルカルボン酸がより好ましく;炭素数10~20のアルキルカルボン酸、炭素数10~20のアルケニルカルボン酸がさらに好ましく;デカン酸、ドデシルカルボン酸、オレイルカルボン酸等が特に好ましい。
【0080】
金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で前記分散液中に分散されている。但し、実施の形態1に記載した表面保護金属ナノ粒子に比べると、金属ナノ粒子の表面における保護分子の密度が低くなっている(例えば、保護分子の密度は0.1~2個/nm)。
【0081】
上記分散液中には、分散媒が含有される。
分散媒としては、表面保護金属ナノ粒子を分散させることができる媒体であれば、特に限定されず、例えば、無極性溶媒、無極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒等が挙げられる。
なお、本明細書においては、媒質を溶かす性質の有無にかかわらず、媒体を示す用語として「溶媒」を用いる。
【0082】
無極性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等のアルカン;シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン、シクロオクタン等のシクロアルカン;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲンで置換されたアルカン;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル;ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等の炭素数6以上のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の複素環式化合物等が挙げられる。脱着平衡定数の観点から、アルカン、ハロゲンで置換されたアルカン、芳香族炭化水素が好ましく、ヘキサン、塩化メチレン、トルエンがより好ましい。
【0083】
極性溶媒としては、上記無極性溶媒と混合して用いることができる限り特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ペンタノール等の炭素数1~5のアルコール;ホルムアミド、アセトアミド等のアミド;1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート等のイオン液体等が挙げられる。脱着平衡定数の観点から、炭素数1~3のアルコールが好ましく、メタノール、エタノールがより好ましい。
【0084】
上述のように、保護分子は極性基(アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種)を含有する化合物であることが好ましいが、その場合、極性基が金属ナノ粒子表面に吸着し、極性基でない部分が外側(分散媒側)に向いていると考えられる。
そのため、保存時の分散液中に表面保護金属ナノ粒子を安定に分散させる分散媒としては、無極性溶媒が好ましい。
また、表面保護金属ナノ粒子の上記構造から、極性溶媒は、表面保護金属ナノ粒子から保護分子を脱着させる作用がある。そのため、極性溶媒単独では分散媒として用いることはふさわしくないが、無極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒であれば、分散媒として用いることができ、その混合割合により液状化を調節することもできる。
無極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を用いる場合、その混合割合は特に限定されないが、表面保護金属ナノ粒子を分散させて保存する観点から、無極性溶媒と極性溶媒の選択にもよるが、無極性溶媒の体積を100%とした場合に、極性溶媒の体積は、例えば20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であり、いずれも無極性溶媒を主に(溶媒体積全体の半分超)含む構成とする。
【0085】
上記金属ナノ粒子の製造方法は、特に限定されないが、例えば、金属塩や金属錯体を溶液中で還元して化学的に製造すること等が挙げられる。
また、金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の製造方法は、特に限定されないが、例えば、保護分子を溶解させた液中で金属塩や金属錯体を還元して製造すること等が挙げられる。
さらに、表面保護金属ナノ粒子が分散する分散液の製造方法は、特に限定されないが、例えば下記方法等が挙げられる。保護分子を溶解させた液中で金属塩や金属錯体を還元して、金属ナノ粒子を核生成させ、種結晶を合成する。そこから種結晶の周囲で金属塩や金属錯体を還元して、種結晶を大きく成長させる(核成長)。核成長を複数回、段階的に行って反応を制御することにより、平均粒径が1~30nmに調節された、表面保護金属ナノ粒子が分散した分散液を製造することができる。
【0086】
上記分散液において、表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立つ。
【化8】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
【0087】
より詳細には、(Site-PM)は、表面保護金属ナノ粒子における、保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示す。
(Site)は、保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示す。これは、金属ナノ粒子自体の金属原子の吸着サイト、及び、表面保護金属ナノ粒子における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトの両者を示す。
(PM)は、金属ナノ粒子に吸着していない遊離の保護分子を示す。
【0088】
金属原子の吸着サイトとは、以下のものを意味する。
金属ナノ粒子表面を碁盤目状に区切り、1マスにつき、1つの保護分子が吸着できるとみなした場合に、その1マスのことを金属原子の吸着サイトと定義する。一つの保護分子が金属ナノ粒子に吸着する際に、一つの保護分子が占有する面積(つまり1つのマス目の大きさ)は、保護分子の種類や保護分子が吸着している姿勢等の吸着状態によって変わる。
【0089】
本発明の金属ナノ粒子を液状化する方法においては、上記式(I)の化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含む。
保護分子の脱着の方向とは、上記式(I)において右側へ平衡点が動く方向である。
【0090】
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程は、下記(a)及び/又は(b)の工程を含む。
(a)前記分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記分散液の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b)前記分散液に溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加し、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程。
【0091】
工程(a)は、上記式(II)で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程であり、Kdを増大させるために、前記分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記分散液の温度を変えることを行う工程である。
【0092】
保護分子の脱着平衡定数(Kd)は、上記式(I)で表される化学平衡が成り立っているときの平衡定数であり、上記式(II)で表される。
[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。
上記各濃度は、分散液中の各濃度(mol/L)、つまり、分散液の体積(L)中の各成分のモル数(mol)を示す。
【0093】
脱着平衡定数(Kd)は温度の関数であり、温度が決まるとKdの値が決まる。また、同じ温度であっても、溶媒の種類によってKdは異なる値を示す。また、脱着平衡定数(Kd)を大きくして液状化するように、溶媒の種類、濃度、温度を変えればよい。
本発明の液状化方法では、溶媒の種類、濃度、温度によって脱着平衡定数(Kd)を制御するが、金属ナノ粒子の種類、粒径、保護分子の種類によっても脱着平衡定数の値を変えることは可能である。
脱着平衡定数(Kd)の範囲は、特に限定されないが、Kdを大きくして液状化により金属形成させる際には、3×10-4mol/L以上とすることが好ましく、5×10-4mol/L以上とすることがより好ましく、1×10-3mol/L以上とすることが特に好ましい。これは、液状化させる際は、粒子表面に吸着する分子の数がある一定数を下回れば良く、Kdの値が大きくなるにつれて分子が脱着しやすくなるためである。
また、液状化させる前(粒子表面を分子で保護する時)は、粒子表面に吸着する分子の数がある一定数を上回れば良く、脱着平衡定数(Kd)を低くしておくという観点から、1mol/L以下とすることが好ましく、1×10-2mol/L以下とすることがより好ましい。上記の範囲に脱着平衡定数(Kd)を設定しておき、溶媒の種類、濃度、温度等を変えて液状化を制御すればよい。
【0094】
工程(a)においては、脱着平衡定数(Kd)を増大させるように、前記分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記分散液の温度を変える。
【0095】
分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える方法としては、特に限定されないが、例えば、最初の分散液(以下、初期分散液ともいう)に使用されていた分散媒(以下、初期分散媒ともいう)とは異なる溶媒を添加すること、初期分散媒として使用されていた溶媒の構成割合を変えるために溶媒の付加を行うこと、初期分散媒として使用されていた溶媒を気化させること等が挙げられる。これにより、初期分散媒が1種の溶媒である場合及び2種以上の混合溶媒である場合のいずれにおいても、分散媒を構成する種類とその構成割合を変えることができる。なお、平衡点を脱着の方向に移動させる観点から、初期分散媒とは異なる溶媒を添加することが好ましい。
また、初期分散媒が2種以上の混合溶媒である場合は、初期分散媒として使用されていた溶媒のいずれが一方のみを添加することや、初期分散媒で使用されていた全ての溶媒を、初期分散媒とは異なる割合で添加すること等により、分散媒を構成する溶媒の構成割合を変えることができる。
【0096】
添加する溶媒としては、特に限定されないが、保護分子を脱着させやすくするためには、極性溶媒を用いることが好ましい。
極性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ペンタノール等の炭素数1~5のアルコール;ホルムアミド、アセトアミド等のアミド;1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート等のイオン液体等が挙げられる。脱着のしやすさの観点から、炭素数1~3のアルコールが好ましく、メタノール、エタノールがより好ましい。
また、溶媒を気化させる場合は、開放状態で放置して行うことができる。
【0097】
分散液の温度を変える方法としては、特に限定されないが、例えば、分散液をヒーター等の加熱器等を用いて暖めることが挙げられる。
液状化させる前の保存時の分散液は、例えば、冷凍保存、冷蔵保存、常温保存等により保存される。そのため、保存時の分散液の温度としては、特に限定されないが、一般的には-30℃~35℃である。
分散液の温度を変える方法における、金属形成のための液状化時の分散液の加温温度としては、特に限定されないが、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。また、下限温度は、上記保存温度以上に設定することができる。本発明では、焼結法に比べて低い温度で金属形成ができることが特徴である。また、後述のように基材に金属を形成させる場合に、基材の耐熱性を考慮して広い温度範囲に設定することができる。
Kdは通常、分散液の温度が高くなるにつれて大きな値を取ることが多いため、分散液を暖めることにより、分散液の温度を変えることが好ましい。
【0098】
工程(b)は、前記分散液に溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加し、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程である。
【0099】
分散液に溶媒を添加する場合、添加する溶媒は、初期分散媒と同じ種類であっても異なる種類であってもよい。また、初期分散媒が混合溶媒である場合、初期分散媒と同じ混合割合の溶媒でも異なる混合割合の溶媒でも添加することができる。
溶媒を分散液に添加することにより、それまでは成り立っていた前記式(I)の化学平衡がくずれて、非平衡状態となる。しかし、分散液系内において、式(I)の化学平衡を再度成り立たせるように、平衡点が保護分子の脱着の方向に移動する。
添加する溶媒としては、特に限定されないが、保護分子を脱着させやすくするためには、極性溶媒を用いることが好ましい。当該極性溶媒としては、上述のものが挙げられる。
【0100】
分散液に表面保護金属ナノ粒子を添加する場合、添加する表面保護金属ナノ粒子は、初期分散液中に存在していた表面保護金属ナノ粒子と同じ種類であっても異なる種類であってもよいが、吸着エネルギーに分布が生じ、流動する粒子と固体状態を維持する粒子の混合物が生じる可能性がある観点から、同じ種類であるほうが容易に制御できて好ましい。
表面保護金属ナノ粒子を分散液に添加することにより、それまでは成り立っていた前記式(I)の化学平衡がくずれて、非平衡状態となる。しかし、分散液系内において、式(I)の化学平衡を再度成り立たせるように、平衡点が保護分子の脱着の方向に移動する。
【0101】
・第2の液状化方法
金属ナノ粒子を液状化する第2の液状化方法は、
(1)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で分散液中に分散されており、
(2)前記分散液を基材に塗布し、前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させる工程を含み、
(3)前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させた際に、前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化9】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(4)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a’)及び/又は(b’)の工程
(a’)前記溶媒の種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記溶媒及び/又は基材の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b’)前記溶媒に、溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加して、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含むことを特徴とするものである。
【0102】
当該金属ナノ粒子を液状化する方法(第2の液状化方法)は、第1の液状化方法において、表面保護金属ナノ粒子を含む分散液を基材に塗布し、前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させる工程をさらに含むものである。具体的には、表面保護金属ナノ粒子を含む分散液を基材に塗布し、少なくとも基材の分散液が塗布された箇所を、溶媒に接触させる工程をさらに含むものである。
この工程を含むことにより、当該方法においては、基材の表面(その任意箇所)、さらには基材の内部(その任意箇所)で、金属ナノ粒子を液状化することができる。
【0103】
基材としては、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、天然繊維、合成繊維、ガラス、紙、セラミック等が挙げられる。
【0104】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリスルホン、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、酢酸セルロース等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、キシレン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フラン樹脂、アニリン樹脂、アセトン-ホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。
【0105】
ゴムとしては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム;ポリジメチルシロキサン、ポリウレタン、弾性繊維、SBR等の合成ゴム等が挙げられる。
天然繊維としては、特に限定されないが、例えば、綿、絹、羊毛等が挙げられる。
合成繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル、レーヨン、ナイロン等が挙げられる。
【0106】
金属ナノ粒子を含有する分散液を基材に塗布(塗布だけに限定されず、浸漬、スプレー等の各種方法も含む)する方法としては、特に限定されず、例えば、基材を分散液に浸漬させる方法、基材に分散液をスプレーコートする方法、ドロップキャストする方法、スピンコートする方法、ディスペンスする方法等が挙げられる。
【0107】
基材を分散液に浸漬させた場合、浸漬後に、分散液が塗布された基材を取り出し、これを乾燥させてから、溶媒に接触させてもよいし、分散液が塗布された基材を乾燥させることなく、溶媒に接触させてもよいが、乾燥させることが好ましい。
基材を乾燥させる方法としては、特に限定されないが、例えば、室温で静置する方法、窒素等の不活性ガスで液体を吹き飛ばす方法等が挙げられ、室温で静置する方法が好ましい。
基材に分散液をスプレーコートする場合、分散液が塗布された基材には、分散媒は殆ど存在しない。この場合は、分散液が塗布された基材を乾燥させる必要はなく、そのまま溶媒に接触させることができる。
【0108】
分散液の粘度は、0.01~10mPa・sであるのが好ましく、0.01~7mPa・sであるのがより好ましい。分散液の粘度を0.01~10mPa・sと低くすることにより、分散液の流動性が向上し、基材表面の微細な間隙の内側及び微細な凹凸の全体に、表面保護金属ナノ粒子を到達させることができる。これにより、基材表面の間隙の内側および凹凸の全体に金属を組み込むことができるようになり、金属と基材の密着性および接着性を向上できる。
【0109】
分散液が塗布された基材を溶媒に接触させる方法としては、特に限定されず、例えば、溶媒に、分散液が塗布された基材を浸漬させる方法等が挙げられる。
分散液が塗布された基材を溶媒に接触させる工程における溶媒としては、表面保護金属ナノ粒子から保護分子を脱着させる作用を有する溶媒であれば、特に限定されないが、例えば、極性溶媒、極性溶媒と無極性溶媒との混合溶媒等が挙げられる。
【0110】
分散液が塗布された基材を接触させる溶媒の粘度は、0.01~10mPa・sであるのが好ましく、0.01~7mPa・sであるのがより好ましい。上述した分散液の粘度の影響と同様に、溶媒の粘度は、表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間の平衡状態に影響を及ぼす。実施の形態2では、速やかに平衡状態に到達することが望ましいため、溶媒の粘度は0.01~10mPa・sと低くされているのが好ましい。
【0111】
なお、脱着平衡定数Kdを制御して、化学平衡の平衡点を保護分子の脱着または吸着の方向に変化させたとしても、溶媒の粘度が高いと、平衡状態に到達する時間が長くなり、場合によっては平衡状態に達することができない。例えば、高分子材料を添加した溶媒(ペースト状になる)のように粘度が高い状態では、Kdの値を制御しても非平衡状態にしたとしても、保護分子の脱着または吸着がほぼ生じないため、所望の効果(金属ナノ粒子の液状化)を得ることが困難である。
Kdを好ましい範囲に制御するための1つの手段として、金属ナノ粒子の平均粒径を1~30nmとすることがある。この粒径制御とは、溶媒の粘度を低くすることにより、初めて効果を発揮することができる。
【0112】
極性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ペンタノール等の炭素数1~5のアルコール;ホルムアミド、アセトアミド等のアミド;1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート等のイオン液体等が挙げられる。脱着平衡定数の観点から、炭素数1~3のアルコールが好ましく、メタノール、エタノールがより好ましい。
【0113】
無極性溶媒としては、上記極性溶媒と混合して用いることができる限り特に限定されないが、例えば、ヘプタン、ヘキサン、ペンタン、オクタン、ノナン等のアルカン;シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン、シクロオクタン等のシクロアルカン;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲンで置換されたアルカン;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル;ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等の炭素数6以上のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の複素環式化合物等が挙げられる。脱着平衡定数の観点から、アルカン、ハロゲンで置換されたアルカン、芳香族炭化水素が好ましく、ヘキサン、塩化メチレン、トルエンがより好ましい。
【0114】
無極性溶媒は、表面保護金属ナノ粒子を分散させる作用がある。そのため、無極性溶媒単独では、この工程の溶媒として用いることは好ましくないが、極性溶媒と無極性溶媒との混合溶媒であれば、この工程の溶媒として用いることができる。
極性溶媒と無極性溶媒との混合溶媒を用いる場合、その混合割合は特に限定されないが、表面保護金属ナノ粒子から保護分子を脱着させる観点から、極性溶媒の体積を100%とした場合に、無極性溶媒の体積は、例えば40%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下であり、いずれも極性溶媒を主に(溶媒体積全体の半分超)含む構成とする。
【0115】
この方法においては、表面保護金属ナノ粒子を含む分散液が塗布された基材を溶媒に接触させた系内で、上記式(I)の化学平衡が成り立つ。そして、化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程として、上記(a’)及び/又は(b’)の工程を含むことを特徴とする。
工程(a’)及び工程(b’)については、上記第1の液状化方法における工程(a)及び工程(b)において、分散液中で液状化させる代わりに、基材を溶媒に接触させて液状化する以外は、同様にして行うことができる。この第2の液状化方法においては、基材の任意の箇所で液状化することができる。
また、溶媒及び/又は基材の温度を変える際の、溶媒の温度及び基材の温度としては、特に限定されないが、それぞれ、第1の液状化方法における分散液の加温温度と同じ温度範囲を用いることができる。
【0116】
なお、上記式(II)で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)における各成分の濃度は、溶媒(分散液が塗布された基材を接触させた溶媒)中の各濃度(mol/L)、つまり、分散液が塗布された基材を接触させる溶媒の体積(L)中の各成分のモル数(mol)を示す。
【0117】
本発明においては、他の液状化方法も用いることができる。他の液状化方法としては、上記第2の液状化方法の(2)において、「前記分散液を基材に塗布し、前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させる工程」の代わりに、「前記分散液を溶媒に添加する工程」を含む方法である。
この方法においては、溶媒中に分散液を添加(例えば滴下等)することにより、分散液中の金属ナノ粒子表面が液状化し、金属ナノ粒子が互いに集まっていくものである。
使用溶媒は、上記第2の液状化方法で例示したものと同じものが挙げられる。
【0118】
(2-2:基材に金属を形成する方法)
次に、基材に金属を形成する方法について説明する。
本発明の金属形成方法は、金属ナノ粒子を焼結する方法を用いていないので、金属ナノ粒子を適用する基材を高温に加熱する必要がなく、耐熱性のない高分子・繊維基材等を含む様々な基材に適用することができる。また、本発明に用いる金属ナノ粒子は極小であるため、基材である物体の内部に浸透する作用が強く、様々な基材に液状化した金属を注入することができ、基材の表面のみならず内部にも金属を形成することができる。さらに、本発明の方法を用いると、金属ナノ粒子を容易に液状化できるため、様々な形状の基材に金属を形成することができる。そのため、本発明の液状化方法及び金属形成方法により、幅広い高分子・繊維材料等に金属を形成して導体化することや、ナノスケールで金属を様々な形状に成形加工することができる。
また、本発明の基材に金属を形成する方法は、製造工程が非常にシンプルで簡単な優れた方法である。
【0119】
基材に金属を形成する方法としては、以下の2つの方法が挙げられる。
第1の金属形成方法は、表面保護金属ナノ粒子を含む分散液に基材を接触させ、その状態で表面保護金属ナノ粒子から保護分子を脱着させて金属ナノ粒子を液状化することにより、基材に金属を形成する方法である。
第2の液状化方法は、表面保護金属ナノ粒子を含む分散液を基材に塗布した後、表面保護金属ナノ粒子中の金属ナノ粒子を液状化することにより、基材に金属を形成する方法である。分散液が塗布された基材を溶媒に接触させることにより、基材の任意の箇所で金属を形成することができる。
以下に、第1および第2の金属形成方法の各々について詳述する。
【0120】
・第1の金属形成方法
本発明における基材に金属を形成する方法は、
(1)金属ナノ粒子を含有する分散液に、基材を接触させる工程を含み、
(2)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で前記分散液中に分散されており、
(3)前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化10】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(4)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a)及び/又は(b)の工程
(a)前記分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記分散液の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b)前記分散液に溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加し、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含むことを特徴とするものである。
【0121】
当該基材に金属を形成する方法(第1の金属形成方法)においては、分散液中で、基材の表面や内部に金属を形成することができる。
分散液の粘度は、0.01~10mPa・sであるのが好ましく、0.01~7mPa・sであるのがより好ましい。上述したように、分散液の粘度は、表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間の平衡状態に影響を及ぼす。実施の形態2では、速やかに平衡状態に到達することが望ましいため、分散液の粘度は0.01~10mPa・sと低くされているのが好ましい。
【0122】
なお、脱着平衡定数Kdを制御して、化学平衡の平衡点を保護分子の脱着または吸着の方向に変化させたとしても、分散液の粘度が高いと、平衡状態に到達する時間が長くなり、場合によっては平衡状態に達することができない。例えば、ペースト状のように粘度が高い状態では、Kdの値を制御しても非平衡状態にしたとしても、保護分子の脱着または吸着がほぼ生じないため、所望の効果(金属ナノ粒子の液状化)を得ることが困難である。
Kdを好ましい範囲に制御するための1つの手段として、金属ナノ粒子の平均粒径を1~30nmとすることがある。この粒径制御とは、分散液の粘度を低くすることにより、初めて効果を発揮することができる。
【0123】
金属ナノ粒子を含有する分散液に基材を接触させる工程としては、特に限定されず、例えば、分散液に基材を浸漬させる方法等が挙げられる。
【0124】
基材を分散液に浸漬させた場合、式(I)で表される化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含むことにより、分散液から基材を取り出すことなく、分散液中で、基材の表面、又は、表面及び内部に、金属を形成することができる。
【0125】
当該分散液における各種成分については、上述のとおりである。また、用いる基材についても、上述と同じものが挙げられる。さらに、金属ナノ粒子を含有する分散液に基材を接触させた系内で、上記式(I)で表される化学平衡が成り立つ。
化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程としての工程(a)、工程(b)については、上述したとおりである。
【0126】
・第2の金属形成方法
本発明におけるもうひとつの、基材に金属を形成する方法としては、
(1)金属ナノ粒子を含有する分散液を基材に塗布し、前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させる工程を含み、
(2)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で前記分散液中に分散されており、
(3)前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させた際に、前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化11】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(4)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a’)及び/又は(b’)の工程
(a’)前記溶媒の種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記溶媒及び/又は基材の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b’)前記溶媒に、溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加して、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含むことを特徴とするものである。
【0127】
当該基材に金属を形成する方法(第2の金属形成方法)においては、基材を接触させた溶媒中で、基材の表面や内部に金属を形成することができる。
分散液が塗布された基材を接触させる溶媒は、粘度が0.01~10mPa・sであるのが好ましく、0.01~7mPa・sであるのがより好ましい。上述したように、溶媒の粘度は、表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間の平衡状態に影響を及ぼす。実施の形態2では、速やかに平衡状態に到達することが望ましいため、溶媒の粘度は0.01~10mPa・sと低くされているのが好ましい。
【0128】
金属ナノ粒子を含有する分散液を基材に塗布し、前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させる工程において、金属ナノ粒子を含有する分散液を基材に塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、基材を分散液に浸漬させる方法、基材に分散液をスプレーコートする方法、ドロップキャストする方法、スピンコートする方法、ディスペンスする方法等が挙げられる。
【0129】
分散液の粘度は、0.01~10mPa・sであるのが好ましく、0.01~7mPa・sであるのがより好ましい。分散液の粘度を0.01~10mPa・sと低くすることにより、分散液の流動性が向上し、基材表面の微細な間隙の内側及び微細な凹凸の全体に、表面保護金属ナノ粒子を到達させることができる。これにより、基材表面の間隙の内側および凹凸の全体に金属を組み込むことができるようになり、金属と基材の密着性および接着性を向上できる。
【0130】
基材を分散液に浸漬させた場合、浸漬後に、分散液が塗布された基材を取り出し、これを乾燥させてから、溶媒に接触させてもよいし、分散液が塗布された基材を乾燥させることなく、溶媒に接触させてもよい。
基材に分散液をスプレーコートする場合、分散液が塗布された基材には、分散媒は殆ど存在しない。この場合は、分散液が塗布された基材を乾燥させる必要はなく、そのまま溶媒に接触させることができる。
【0131】
この第2の金属形成方法においては、分散液が塗布された基材を溶媒に接触させた系内で、上記式(I)の化学平衡が成り立つ。そして、化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程として、上記(a’)及び/又は(b’)の工程を含むことを特徴とする。
工程(a’)及び工程(b’)については、上記第1の金属形成方法における工程(a)及び工程(b)において、分散液中で基材に金属を形成させる代わりに、基材を溶媒に接触させて金属を形成する以外は、同様にして行うことができる。
【0132】
液状化方法及び金属形成方法によれば、様々な形態の各種基材の表面、又は、表面及び内部に、容易に金属を形成することができる。
また、上記本発明の方法を用いることにより、以下のような利点が得られる。
(1)基材の内部に金属ナノ粒子が浸透することができる。これにより、形成された金属と基材の付着強度が大きく、繰り返し伸張に対する耐久性が高く、しかも少ない金属ナノ粒子量で高い導電率を得ることができる。つまり、柔軟性と導電性が両立できる高分子を得ることができる。
(2)基材表面のナノスケールの凹凸に金属が侵入することができる。これにより、基材と金属間のアンカー効果による高い接着性が得られ、基材に薄く均一に金属が被膜し、曲げても破断しない。
(3)ナノスケールの細孔に金属ナノ粒子が拡散することができる。これにより、液体状の金属を型に流し込むこと等により、容易にナノインプラントのような金属成形加工することができる。
(4)基材に金属を担持でき、金属ナノ粒子を孤立した状態で流動化させて担持すると、金属表面にコーナーやエッジを占める原子の比率が大きくなるため、少量で触媒活性を高めることができる。
【0133】
上記液状化方法及び金属形成方法により得られた各種金属含有基材は、電子部品等の配線用だけでなく、様々な分野で応用することができ、例えば、ストレッチャブルエレクトロニクス、ウェアラブルエレクトロニクス、フレキシブルエレクトロニクス、エネルギー貯蔵基材、触媒、メソポーラス金属等を、応用の一例として挙げることができる。
【0134】
<実施の形態3>
実施の形態3では、表面保護金属ナノ粒子が溶媒に分散された分散液について説明する。分散液は、実施の形態2に記載された金属ナノ粒子を液状化する方法および基材に金属を形成する方法に好適である。また、分散液は、実施の形態4に記載された、無電解めっきの触媒としても利用できる。
【0135】
実施の形態3に係る分散液は、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成され、平均粒径が1~30nmである金属ナノ粒子の表面に、
アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有する保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子が、
無極性溶媒を含む分散媒に分散されていることを特徴とするものである。
【0136】
金属ナノ粒子の平均粒径は、上述のように、1~30nmが好ましく、2~20nmがより好ましく、2~10nmがさらに好ましく、2~6nmが特に好ましい。
【0137】
ここで、保護分子の脱着平衡定数(Kd)は、式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される。
当該分散液においては、金属ナノ粒子を分散媒に分散させる時は、金属ナノ粒子の表面に保護分子を吸着させる(平衡点を吸着の方向に位置させる)観点から、脱着平衡定数は小さい値であることが好ましく、1×10-3(mol/L)以下であることが好ましく、1×10-4(mol/l)以下であることがより好ましい。
一方、金属ナノ粒子を液状化させるときは、脱着平衡定数を大きくし、金属ナノ粒子の表面から保護分子を脱着させる(平衡点を脱着の方向に位置させる)観点から、脱着平衡定数は1×10-4(mol/L)以上が好ましく、分子の脱着のし易さを考慮すれば1×10-3以上であることがより好ましい。
【0138】
また、当該分散液は、上記金属ナノ粒子の液状化方法及び上記基材に金属を形成させる方法に用いることができる。
当該分散液における各種成分については、実施の形態1または2に記載のとおりである。
【0139】
実施の形態2に記載の各方法においては、表面保護金属ナノ粒子を分散媒に分散させた分散液を用いている。表面保護金属ナノ粒子は分散媒によく分散し、その金属濃度が低いために、当該分散液の粘性は、純溶媒の粘性とほとんど変わらない。
従って、スプレーコート法、ディスペンサ法等を用いて、分散液を基材に塗布することができる。そのため、平滑な基材だけでなく、任意の形状(例えば、丸、三角、四角、デコボコ等)を有する基材に、導電性の金属薄膜を成膜することができる。これは、金属ナノ粒子だけでなく様々な物質を含み粘性を上げてペースト状にしている従来の導電性ペーストでは、行うことが困難であった。
【0140】
分散液中の金属濃度としては、特に限定されないが、粘性を低くして加工しやすくすることと、一度に加工する金属ナノ粒子の量を多くする観点から、好ましくは0.1~100mg/ml、より好ましくは1~80mg/ml、さらに好ましくは5~70mg/mlである。
また、上記分散液中の金属濃度を分散液中の金属含有量に換算した場合、使用する金属の種類や溶媒の種類により変わりうるが、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.1~8質量%、さらに好ましくは0.5~7質量%である。
【0141】
分散液の粘度は、0.01~10mPa・sであるのが好ましく、0.01~7mPa・sであるのがより好ましい。上述したように、分散液の粘度を低くすることにより、表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間の平衡状態を迅速に達成することができる。
【0142】
また、分散液の粘度を0.01~10mPa・sと低くすることにより、分散液の流動性が向上し、基材表面の微細な間隙の内側及び微細な凹凸の全体に、表面保護金属ナノ粒子を到達させることができる。
表面保護金属ナノ粒子を用いて金属を形成する場合、分散液の粘度が低いことにより、基材表面の間隙の内側および凹凸の全体に金属を組み込むことができるようになり、金属と基材の密着性および接着性を向上できる。
なお、従来から利用されている金属ナノ粒子のペーストは、粘度が高いため、金属ナノ粒子を微細な間隙の内側及び微細な凹凸の全体に到達させることは困難である。
【0143】
また、表面保護金属ナノ粒子を、無電解めっきの触媒として使用する場合、分散液の粘度が低いことにより、基材表面の間隙の内側および凹凸の全体に触媒を到達させることができるので、無電解めっきで形成されるめっき膜と基材の密着性および接着性を向上できる。
【0144】
また、ステンシル(印刷等で用いる一種の型紙、文字や模様の部分を切り抜き、液体が通過するようにしたもの)等を用いれば、簡単にパターンニングすることができる。
【0145】
表面保護金属ナノ粒子の分散液として、金属ナノ粒子を構成する遷移金属の種類の異なる分散液を混合して用い、本発明の液状化方法を適用すれば、合金にすることができる。合金の組成は、分散液の混合比を変えるだけで、任意の割合に調節できる。
つまり、一般的なスパッタ法、真空蒸着法(真空下で加熱して、固体の金属を気体原子にし、基板に堆積させて成膜する方法)とは異なり、本発明の金属形成方法を用いれば、合金の組成を調節しながら、極めて容易に合金を成膜することができる。
また、銀は、配線基材によく用いられるものの、マイグレーションにより電極が短絡してしまうことが問題であるが、本手法を用いて、パラジウム等を銀に導入し、その導入量を調節すれば、マイグレーションを防ぐことができる。
【0146】
実施の形態2に記載の各方法を用いれば、金属形成が低温度環境下でできるので、耐熱性のない高分子基材(例えば、低密度ポリエチレン等)にも適用することができる。
【0147】
また、高分子の溶解度パラメータと溶媒の溶解度パラメータが近いと、高分子は溶媒を取り込んで膨潤しやすい。
ここで、各種ゴムと溶媒の溶解度パラメータの値を表1に示す。ポリジメチルシロキサン(PDMS)、天然ゴム、ポリウレタンは、代表的なゴム基材(高分子)である。実際に、PDMSはヘキサンに膨潤し、天然ゴムはシクロヘキサンに膨潤し、ポリウレタンは塩化メチレンに膨潤する。
そのため、表面保護金属ナノ粒子の分散液の分散媒として、上記無極性溶媒を用いれば、ゴム基材が溶媒で膨潤する際に、金属ナノ粒子がゴム基材に浸入し、ゴム基材の内部で液状化し、金属を形成することができる。
【0148】
【表1】
【0149】
表面保護金属ナノ粒子を含む分散液は、実施の形態1に記載の固体状(粉末状)の表面保護金属ナノ粒子を、任意の溶媒(分散媒)に分散させることにより製造することができる。この製造方法では、粉末状の表面保護金属ナノ粒子は、様々な溶媒(極性溶媒、無極性溶媒)を利用できるため、ユーザーは、用途に合わせて溶媒を選択することができる利点がある。
【0150】
また、分散液の他の製造方法としては、下記の方法が挙げられる。保護分子を溶解させた液中で金属塩又は金属錯体を還元して、金属ナノ粒子を核生成させ、種結晶を合成する。そこから種結晶の周囲で金属塩や金属錯体を還元して、種結晶を大きく成長させる(核成長)。核成長を複数回、段階的に行って反応を制御することにより、平均粒径が1~30nmに調節された、表面保護金属ナノ粒子が分散した分散液を製造することができる。この製造方法で得られる分散液では、溶液(分散媒)は、保護分子を溶解させるときに使用した溶液となる。この製造方法では、溶液から表面保護金属ナノ粒子を分離すること(つまり、粉末状の表面保護金属ナノ粒子を製造するための処理)が不要となるので、製造コストを低減できる。
【0151】
<実施の形態4>
実施の形態1に記載した表面保護金属ナノ粒子は、無電解めっき用の触媒として使用できる。実施の形態4では、表面保護金属ナノ粒子から成る触媒、その触媒を含む無電解めっき用触媒溶液、およびその触媒溶液を用いた無電解めっき方法について説明する。
【0152】
(4-1:触媒)
実施の形態1に記載の表面保護金属ナノ粒子を、触媒として使用する。
触媒は、金属ナノ粒子の表面を保護分子で被覆した表面保護金属ナノ粒子から成る。
前記金属ナノ粒子は、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成される。
前記金属ナノ粒子の平均直径が1~30nmである。
前記保護分子が、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有している。
前記金属ナノ粒子の表面における前記保護分子の密度が3~8個/nmである。
【0153】
保護分子がアミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有する場合、金属ナノ粒子の表面に保護分子を吸着させた状態では、保護分子の分子鎖が直線にならず屈曲するものが混在する。屈曲した分子鎖は、金属ナノ粒子の表面に保護分子がさらに吸着する際に立体障害となる。そのため、金属ナノ粒子の表面における保護分子の密度は、直線状に配列可能な保護分子を用いた場合に比べて、低下する傾向にある。その結果、表面保護金属ナノ粒子中の金属ナノ粒子は、ところどころで保護分子から露出することになりその露出部分が触媒機能を発揮する。
このように、保護分子の立体的特徴(屈曲状態を取り得る)は、表面保護金属ナノ粒子を触媒として使用するときに有利に働く。
【0154】
無電解めっき用の触媒では、反応物(めっき液中の金属イオン等)が、金属ナノ粒子の表面に吸着することにより進行する。そのため、金属ナノ粒子が保護分子で完全に覆われている場合には、表面保護金属ナノ粒子は触媒活性を示さない。発明者らは、保護分子の密度が比較的低い表面保護金属ナノ粒子であれば、金属ナノ粒子の表面が一部露出して、触媒活性を示すことを見いだして、本発明に係る触媒を完成するに至った。
【0155】
保護分子の密度が3~8個/nmであると、固体として空気中で安定するのに十分でありながら、金属ナノ粒子が保護分子から僅かに露出して触媒として機能できる、という極めて特殊な特性を示す。
なお、保護分子が屈曲状態にあることは、表面保護金属ナノ粒子のFT-IRスペクトルにおいて、官能基(例えばメチレン基)のピークが高波数側にシフトすることにより確認可能である。
【0156】
触媒に含まれる金属ナノ粒子が金、銀、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成されており、
触媒の粉末X線回折測定で得られたX線回折パターンは、2θ=50°~60°の範囲にピークが存在しないことが好ましい。
【0157】
上述した以外の触媒についての詳細は、実施の形態1に記載の表面保護金属ナノ粒子と同様である。
【0158】
(4-2:無電解めっき用の触媒溶液)
無電解めっき用の触媒溶液は、上述した触媒と、無極性溶媒とを含む。
金属ナノ粒子は、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成される。金属ナノ粒子の平均直径は1~30nmである。
前記保護分子は、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有している。
触媒溶液中では、金属ナノ粒子の表面における前記保護分子の密度は、1~4個/nmであるのが好ましい。
【0159】
触媒溶液中においては、触媒は、金属ナノ粒子の表面における前記保護分子の密度が、1~4個/nmであるのが好ましい。触媒溶液中では、粉末状態の触媒に比べると、保護分子の密度が比較的低くされているため、保護分子の間から、金属ナノ粒子の表面の露出面積が増加する。この露出面積の増加により、触媒機能がさらに高くなる。
【0160】
触媒溶液中の触媒(表面保護金属ナノ粒子)は、溶媒及び/又は触媒を添加することにより、金属ナノ粒子の表面上の保護分子の吸着・脱着の平衡反応を利用して、保護分子の密度を制御することができる。保護分子の密度を低くすると、金属ナノ粒子の表面の露出面積が増加するので、反応物が金属ナノ粒子の表面に吸着しやすくなり、触媒活性が向上する。保護分子の密度を高くすると、金属ナノ粒子の表面の露出面積が減少するので、反応物が金属ナノ粒子の表面に吸着しにくくなり、触媒活性が低下する。十分な触媒活性を維持するために、保護分子の密度は1~4個/nmとする。
【0161】
実施の形態4に係る触媒溶液は、使用できる溶媒の種類が多い点でも有利である。
従来の表面保護金属ナノ粒子では、保護分子としてクエン酸を用いるものが知られているが、その場合には、水等の極性溶媒にしか分散させることができなかった。
実施の形態4では、触媒(表面保護金属ナノ粒子)の保護分子が、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有しているので、極性溶媒にも無極性溶媒にも分散させることができるため、ユーザーは用途に合わせて溶媒を選択することができる。
【0162】
触媒溶液には、溶媒が含有される。
溶媒は少なくとも無極性溶媒を含み、例えば無極性溶媒のみ、無極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒等を利用できる。
【0163】
無極性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等のアルカン;シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロヘプタン、シクロオクタン等のシクロアルカン;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲンで置換されたアルカン;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル;ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等の炭素数6以上のアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の複素環式化合物等が挙げられる。脱着平衡定数の観点から、アルカン、ハロゲンで置換されたアルカン、芳香族炭化水素が好ましく、ヘキサン、塩化メチレン、トルエンがより好ましい。
【0164】
極性溶媒としては、上記無極性溶媒と混合して用いることができる限り特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ペンタノール等の炭素数1~5のアルコール;ホルムアミド、アセトアミド等のアミド;1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート等のイオン液体等が挙げられる。脱着平衡定数の観点から、炭素数1~3のアルコールが好ましく、メタノール、エタノールがより好ましい。
【0165】
触媒溶液の粘度は、0.01~10mPa・sであることが好ましい。分散液の粘度が低いことにより、めっき対象である基材の表面の間隙の内側および凹凸の全体に触媒を到達させることができるので、無電解めっきで形成されるめっき膜と基材の密着性および接着性を向上できる。
【0166】
触媒溶液は、実施の形態3に記載された分散液と同様の方法で製造することができる。
【0167】
(4-3:無電解めっき方法)
無電解めっきでは、電流を流すことなくめっき膜を形成できるので、例えばプラスチック等の絶縁体の表面をめっき膜で被覆することができる。無電解めっきでは、まず、めっき対象となる基材の表面に、触媒を担持させる。その後、基材を無電解めっき液に浸漬すると、基材のうち触媒を担持した範囲のみがめっき膜で被覆される。触媒を担持していない基材表面には、めっき膜は形成されない。
【0168】
無電解めっき方法は、触媒溶液を基材に適用する工程と、基材を無電解めっき液に浸漬して無電解めっき膜を形成する工程とを含む。「触媒溶液を基材に適用」とは、触媒溶液を基材に接触させることであり、例えば、基材を触媒溶液に浸漬すること、触媒溶液を基材に塗布すること等を含む。
以下に、表面保護金属ナノ粒子から成る触媒を含む無電解めっき用触媒溶液を用いた具体的な無電解めっき方法1~3を説明する。
【0169】
(無電解めっき方法1)
触媒(表面保護金属ナノ粒子)を含む触媒溶液に、めっき対象である基材(例えば、紙、ガラス板、プラスチック部品等)を浸漬する。これにより、基材の表面に、触媒溶液中の触媒が付着する(この操作を「担持する」という)。適切な時間(例えば1分以上)だけ触媒溶液に浸漬した後、基材を触媒溶液から取り出す。触媒が担持された基材を、無電解めっき液に浸漬すると、触媒中の金属ナノ粒子と、無電解めっき液中の金属イオンが反応して、基材の表面にめっき膜が形成される。なお、紙等のような多孔性基材では、基材の内部まで触媒溶液が浸透するため、基材内部にもめっき膜を形成できる。
この方法は、基材表面の全体にめっき膜を形成する場合に好適である。
【0170】
(無電解めっき方法2)
触媒(表面保護金属ナノ粒子)を含む触媒溶液を、めっき対象である基材(例えば、紙、ガラス板、プラスチック部品等)の表面に塗布する。塗布した範囲に、触媒が付着(担持)する。なお、塗布方法は、スプレーコートする方法、ドロップキャストする方法、スピンコートする方法、ディスペンスする方法等が挙げられる。表面保護金属ナノ粒子が担持された基材を、無電解めっき液に浸漬すると、触媒中の金属ナノ粒子(触媒)と、無電解めっき液中の金属イオンが反応して、基材表面のうち、触媒溶液を塗布した範囲にめっき膜が形成される。なお、紙等のような多孔性基材において、基材の内部まで触媒溶液が浸透したときは、基材内部にもめっき膜が形成される。
この方法は、マスク(例えばステンシル型紙)等を用いることにより、触媒溶液を塗布する範囲を容易にパターニングできるので、任意形状のめっき膜を形成する場合に好適である。例えば、図12のように、無電解めっきにより、ガラス基板上にニッケル電極配線を容易に形成することができる。
【0171】
(無電解めっき方法3)
触媒(表面保護金属ナノ粒子)を含む触媒溶液に、めっき対象である基材(例えば、ポリウレタン繊維等の高分子材料)を浸漬する。なお、触媒溶液に使用する溶媒には、基材である高分子材料との親和性の高いものを選択する。触媒溶液への浸漬により、基材の表面のみならず、基材の内部まで触媒溶液が浸透し、触媒溶液中の触媒が付着(担持)する。適切な時間(例えば1分以上)だけ触媒溶液に浸漬した後、基材を触媒溶液から取り出す。触媒が担持された基材を、無電解めっき液に浸漬すると、触媒中の金属ナノ粒子と、無電解めっき液中の金属イオンが反応して、基材の表面及び内部にめっき膜が形成される。
この方法では、例えば複数のポリウレタン繊維をより合わせた合成繊維において、各ポリウレタン繊維の表面をめっき膜で覆うことができる。これにより、合成繊維に金属的な性質(導電性、高い熱伝導性)を付与した、機能性繊維を製造することができる。
【0172】
高分子材料と親和性の高い溶媒としては、主に、無極性または極性の低い有機溶媒(例えばトルエン)が挙げられる。高分子材料は、有機溶媒に浸漬すると膨潤するので、有機溶媒を用いた触媒溶液を用いることにより、高分子材料の内部にまで、触媒を担持することができる。高分子材料の内部に担持した触媒により、高分子材料の内部にめっき膜を形成すると、めっき膜の剥離が生じず、従来にない優れた性質の高分子複合材料を得ることができる。このような高分子複合材料は、水にしか分散しない従来の無電解めっき用触媒では製造できない。
【0173】
無電解めっき方法1~3のいずれにおいても、触媒(表面保護金属ナノ粒子)を含む触媒溶液を用いると、無電解めっきの工程を簡略化することができる効果がある。
現在最も代表的な無電解めっき触媒として、パラジウム/スズ混合コロイド触媒が使われている。しかし、コロイド触媒を用いる場合、コロイド触媒を基材に吸着させた後、スズを硫酸で洗い流して、触媒作用を示すパラジウムを露出させる処理(活性化処理)を行ってから、無電解めっき工程を行う。
これに対して、表面保護金属ナノ粒子から成る触媒を含む触媒溶液を用いることにより、活性化処理を必要とせず、基材を触媒溶液に浸漬または基材に触媒溶液を塗布して、基材に触媒(表面保護金属ナノ粒子)を担持させるだけで、すぐに無電解めっき工程を行うことができる。
【0174】
また、無電解めっき方法1および2では、基材表面に触媒(表面保護金属ナノ粒子)を担持させた後に、触媒から保護分子を脱離することにより、金属ナノ粒子を流動化させてもよい。これにより、金属ナノ粒子を構成する金属が基材表面に広がるので、基材表面と触媒との結合を強固にして、触媒の剥離を抑制することができる。
無電解めっき方法3では、高分子材料の内部にまでめっき膜がアンカーされる(高分子材料内にめっき膜が組み込まれる)ので、金属ナノ粒子の流動化をしなくても、めっき膜の剥離が起こりにくい。
【0175】
触媒中の金属ナノ粒子を流動化させて、基材に触媒を担持する方法は、
(1)前記触媒を含有する分散液に、基材を接触させる工程を含み、
(2)前記触媒は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した触媒の状態で前記分散液中に分散されており、前記分散液の粘度は、0.01~10mPa・sであり、
(3)前記金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化12】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(4)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a)及び/又は(b)の工程
(a)前記分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記分散液の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b)前記分散液に溶媒及び/又は触媒を添加し、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含むことができる。
【0176】
この触媒の担持方法における各工程の詳細は、実施の形態2および3に記載されている工程と同様である。
【実施例
【0177】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0178】
下記実施例で用いている略号の説明は以下のとおり。
DA:ドデシルアミン
AuDA:金ナノ粒子の表面を保護分子のドデシルアミンで覆った表面保護金ナノ粒子
AgDA:銀ナノ粒子の表面を保護分子のドデシルアミンで覆った表面保護銀ナノ粒子
PdDA:パラジウムナノ粒子の表面を保護分子のドデシルアミンで覆った表面保護パラジウムナノ粒子
PDMS:ポリジメチルシロキサン
【0179】
また、下記実施例において、各数値は以下のようにして測定した。
(1)金属ナノ粒子の平均粒径は、走査型透過電子顕微鏡(HD-2700、Hitachi)を用い、約500個の金属ナノ粒子の粒径を画像解析によって求め、その数平均を求めて平均粒径とした。
(2)電子顕微鏡観察に用いた電子顕微鏡(TEM)は、日本電子社製JEM-2100である。また、電子顕微鏡(SEM)は、日本電子社製JSM-7600Fである。
(3)分子吸着量は、管状炉(ヒートテック社製ARF-50KC)とマイクロ電子天秤(エーアンドデー社製BM-20)を用い、保護分子を気化させる前と後の重量変化量を計測して測定した。
(4)電気伝導率は、ソースメータ(Keithley社製2450)を用い、4端子法によって測定した。
(5)X線回折は、広角X線回折装置(Rigaku社製RINT2500)を用い、電圧40kV、電流200mAの条件下で測定した。なお、用いた特性X線の波長は1.5418Å(CuKa線)であった。
【0180】
(実施例1)
AuDAをヘキサンに分散させて分散液を作製した。分散液の粘度は、分散媒であるヘキサンの粘度(0.234mPa・s)とほぼ等しいと推測される。この分散液をカーボン支持膜付TEM観察用Cuグリッドに塗布したときのTEM像を図1(A)に示す。保護分子のドデシルアミンを表面に吸着させた表面保護金ナノ粒子が分散して存在していることがわかる。この分散液を塗布したカーボン支持膜付TEM観察用Cuグリッドを、30℃のメタノールに浸漬した際の、金ナノ粒子が液状化している様子を図1(B)、(C)、(D)に示す。図1(B)より、保護分子であるDAが金ナノ粒子の表面から脱着して、金ナノ粒子が液状化し、複数の金ナノ粒子が流動によって集合し、大きな金粒子に成長していることがわかる。図1(C)、(D)は、図1(B)の一部を拡大したものである。図1(C)、(D)より、金ナノ粒子の一部が液状化(流動)し、成長した大きな金粒子の一部として合体していくことがわかる。この様子は、焼結による現象とは異なり、液状化による特長である。
【0181】
(実施例2)
AgDAを塩化メチレンに分散させて分散液を作製した。分散液の粘度は、分散媒である塩化メチレンの粘度(0.43mPa・s)とほぼ等しいと推測される。0℃で24時間静置後の様子を図2(A)に示す。分散液の作製直後と、0℃で24時間静置後で分散液の外見に変化はなかった。0℃で24時間静置後に計測した分子吸着量θ(Agナノ粒子に吸着しているDAの量)は21.3%と高い値を示し、DAが十分にAgナノ粒子の表面を被覆していたことがわかる。また、AgDA分散液から成膜したAgDAの電気伝導率は4.1×10-5S/cmと低い値を示し、Agナノ粒子が絶縁体の保護分子で被覆されていたことがわかる。このとき、Agナノ粒子の粒径が、分散液の作製直後のものから全く変化のないことも、電子顕微鏡観察とX線回折から確認した(図2(A))。
【0182】
次に、0℃で24時間静置後のAgDA分散液を、そのまま0℃から取り出して、室温(約20℃)で静置すると、1時間程度でガラス試験管の内壁に銀が析出した(図2(B)は2時間静置後のもの)。この時、分子吸着量θは0.91%と非常に低い値を示し、Agナノ粒子からDAが脱着していることがわかった。電子顕微鏡で観察すると、銀ナノ粒子が流動して大きい結晶に成長していることが観察された(図2(B))。X線回折からも銀ナノ粒子の粗大化が確認され(図2(B))、銀の析出物は3.9×10S/cmの非常に高い電気伝導率を示した。
【0183】
同様の現象は、分散媒として混合溶媒を用いた場合でも生じた。AgDAをヘキサンとエタノールの混合溶媒に均一に分散させた。室温20℃で長時間静置しても、何ら変化は生じなかったが、分散液の温度を50℃に上昇させると、銀が試験管の内壁に析出した。このように無極性溶媒と極性溶媒の混合溶媒によっても、金属を基材表面に析出させることができた。
【0184】
(実施例3)
AuDA含有分散液(分散媒:ヘキサン)、AgDA含有分散液(分散媒:ヘキサン)、PdDA含有分散液(分散媒:ヘキサン)のそれぞれを、スプレーコート法により基材(ガラス基板)に塗布した。分散液の粘度は、分散媒であるヘキサンの粘度(0.234mPa・s)とほぼ等しいと推測される。AuDA、AgDAを塗布した基材を30℃のメタノールに、PdDAを塗布した基材を40℃の2-プロパノールに1時間浸漬(金属ナノ粒子約3mgに対して溶媒20mlに浸漬)したところ、分散液塗布基材を浸漬した後の金属ナノ粒子に吸着している保護分子の量(分子吸着量θ)は低下し(金属ナノ粒子の表面からDAが脱着し)、電気伝導率が大きく上昇した。この結果を表2に示す。
【0185】
また、このとき基材(ガラス基板)上に形成した金属薄膜の様子を電子顕微鏡で観察すると、金属ナノ粒子は流動して粗大化したことが観察された(図3(A)、(B)、(C))。
さらに、X線回折パターンからも回折ピークの幅(半値全幅)が減少しており、明らかに結晶が大きく成長していることが観察された(図3(A)、(B)それぞれにおいて、下の回折パターンがアルコールに漬ける前の試料で、上の回折パターンがアルコールに漬けた後の試料)。
【0186】
【表2】
【0187】
(実施例4)
分散液が塗布された基材を他のアルコールに浸漬させた以外は、実施例3と同様にして実験を行った。また、対照として水を用いた。その結果を表3に示す。水では大きな電気伝導率の上昇は見られなかったが(平衡点は吸着の方向に位置する)、アルコールでは電気伝導率は大きく上昇した(平衡点は脱着の方向に位置する)。
【0188】
【表3】
【0189】
(実施例5)
エタノールとヘキサンの混合溶液にAgDAを分散させた。分散液の粘度は、ヘキサンの粘度(0.234mPa・s)より高く、エタノールの粘度(1.2mPa・s)より低いと推測される。その分散液(30℃)にPDMSを浸漬した。PDMSは直ちに膨潤し、AgDAもPDMSの内部に浸透した(金属ナノ粒子のサイズが小さいため、膨潤した高分子鎖の間にAgDAが浸透した)。そのまま1時間静置して、AgDAをPDMSの内部にさらに浸透させた。その後、分散液の温度を50℃に上昇させると、平衡点が脱着の方向に移動して、DAが銀ナノ粒子表面から脱着し、銀ナノ粒子が液状化して、PDMSの内部で銀が析出した。
新しいAgDAの分散溶液を使って同じ操作を3回繰り返したところ、シート抵抗が1ohm/sq程度のPDMSが生成した。
【0190】
(実施例6)
塩化メチレンにAgDAを分散させた分散液にポリウレタンを浸漬した以外は、実施例5と同様にして、銀をポリウレタン内部に析出させた(図4)。図4左は、分散液に浸漬前のポリウレタンの写真で、図4右は分散液に浸漬後のポリウレタンの写真である。その後、この内部に銀が析出したポリウレタンを延伸させ、これに電流を流すと通電した。電気伝導率は1.1×10S/cmを示した。
【0191】
(実施例7)
AgDAを塩化メチレン中に分散した分散液に、レーヨン繊維を浸漬して取り出した繊維のSEM写真を図5に示す。分散液の粘度は、分散媒である塩化メチレンの粘度(0.43mPa・s)とほぼ等しいと推測される。図5左は0℃で保存した時の繊維断面(上)と繊維平面(下)のSEM写真であり、図5右は室温25℃で1時間静置した時の繊維断面(上)と繊維平面(下)のSEM写真である。図5より、液体状態になった銀が、レーヨン繊維表面の凸凹に流れ込み繊維を被覆しているのがわかる。繊維表面の凸凹と銀がかみ合う(アンカー効果)ことにより、繊維表面に薄く厚みの均一な銀膜が生成した。銀で被覆されたレーヨン繊維の電気伝導率は10S/cmであり、優れた電気特性を示した。また、高い接着性と繰り返し屈曲に対する耐久性も持ち、繰り返し湿潤・乾燥(体積変化)に対する耐久性も高いことが確認された。
【0192】
(実施例8)
粒径4nmの金ナノ粒子から形成したAuDA(表面保護金ナノ粒子)と、粒径3nmのAgナノ粒子から形成したAgDA(表面保護Agナノ粒子)について、粉末X線回折測定を行った。保護分子にはドデシルアミンを用いた。
表面保護金属ナノ粒子を含む溶液を基材(ガラス基板)に塗布し、X線回折測定をおこなった。次いで、基材を室温(20℃)でメタノールに24時間浸して、金属原子を流動させたあと(金属ナノ粒子を液状化したあと)、再びX線回折測定を行った。なお、X線回折測定の条件が以下の通りである。
測定条件:
走査範囲 30~90°
走査速度 4 deg/min
ステップ 0.02 deg
線源 Cu Kα
管電圧 40kV
環電流 15mA
装置名 Rigaku MiniFlex600
【0193】
得られたX線回折パターンを図6に示す。図6に示したX線回折パターンは、上から、メタノール浸漬前のAuDA、メタノール24時間浸漬後のAuDA、メタノール浸漬前のAgDA、メタノール24時間浸漬後のAgDAのものである。
図6から分かるように、2θ=50°~60°には、ピークが現れなかった。
【0194】
(実施例9)
分散液の粘度の影響を調べた。
粒径4.6nmの金ナノ粒子から形成したAuDA(表面保護金ナノ粒子)を準備した。保護分子にはドデシルアミンを用いた。
AuDAを含む溶液を基材(ガラス基板)に塗布し、厚さ1μm程度の塗膜を形成した。基材を、室温(約20℃)の極性溶媒であるエチレングリコール(文献値:20℃での粘度20mPa・s)に24時間浸漬した。その後、電気伝導率を計測した(図7)。しかし、電気伝導率は低い値のままであった。このことから、基材上に塗布したAuDAは、保護分子の脱離が進んでいないことが分かる。
【0195】
なお、極性溶媒としてメタノール(文献値:20℃での粘度0.59mPa・s)を用いる以外は同じ条件で行った電気伝導率の計測では、10 S/cmと極めて高い電気伝導率を示した。また、基材上において、金属ナノ粒子が液体化していた。このことから、基材上に塗布したAuDAは、保護分子の脱離が進んだことが分かる。
【0196】
このように、表面保護金属ナノ粒子を塗布した基材を浸漬する溶媒の粘度が高いと、表面保護金属ナノ粒子からの保護分子の脱離が進行せず、溶媒の粘度が低いと保護分子の脱離が進行することが確認された。
【0197】
(実施例10)
粒径2nmのパラジウムナノ粒子から形成したPdDA(表面保護パラジウムナノ粒子)を、トルエン溶媒に分散させて、無電解めっき用触媒溶液を調製した。保護分子にはドデシルアミンを用いた。触媒溶媒中のPdDA濃度は5μg/mLであった。触媒溶液の粘度は、0.58mPa・sであった。室温(20℃)の触媒溶液に、基材(紙)を1分浸漬して、基材に表面保護パラジウムナノ粒子を付着(担持)した。その後、基材を80℃の無電解ニッケルめっき液(ブルーシューマー(日本カニゼン社製))に浸漬した。浸漬後、数秒でニッケルのめっき膜が析出した。
得られためっき基材では、基材表面にむらなくめっき膜が形成されていた。また、基材(紙)を曲げても、めっき膜は全く剥離しなかった。また、めっき後の基材は電気伝導性を示した(電気抵抗値:0.1Ω/sq)。
【0198】
粒径2nmのパラジウムナノ粒子から形成したPdDAについて、保護分子の密度を変えて、触媒性能を確認した。
図8は、無電解めっき試験における、めっき時間とめっき膜の密度を示すグラフである。縦軸は、析出したニッケルめっき膜の単位面積(cm)当たりの質量(mg)であり、ICPで測定した(Spectroblue、日立テックサイエンス)。横軸は、無電解めっきのめっき時間である。図中の円印(●)は、保護分子の密度D=2個/nmの表面保護パラジウムナノ粒子を含む触媒溶液を用いた無電解めっき、四角形(◆)は、保護分子の密度D=5個/nmのパラジウムナノ粒子を含む触媒溶液を用いた無電解めっきの実験結果を示す。保護分子の密度が高いと、パラジウムナノ粒子の表面が露出せず、触媒効果が発揮されていないことが分かった。
【0199】
また、保護分子の密度D=2個/nmの表面保護パラジウムナノ粒子を含む触媒溶液を用いた無電解めっき試験において、めっき時間30秒で、基材(白色の紙)の表面がめっき膜で覆われ黒っぽい色になった。一方、保護分子の密度D=5個/nmの表面保護パラジウムナノ粒子を含む触媒溶液を用いた無電解めっき試験では、めっき時間30秒では、基材の色(白色)から変化しなかった。
【0200】
(実施例11)
金属ナノ粒子の粒径と脱着平衡定数(Kd)との関係を調べた。
保護分子を溶解させた溶液を調製した。その溶液に金ナノ粒子を分散させて、表面保護金ナノ粒子の分散液を調製した。これを250mlのメスフラスコに移す。メスフラスコに含まれる金原子の重量は10mg程度であった。30℃に設定された恒温槽にメスフラスコを移し、そのまま48時間静置し、吸着と脱着が平衡した状態に到達させた。その後、分散液から表面保護金ナノ粒子だけを取り出し、乾燥させた。乾燥させた固体の表面保護金ナノ粒子凝集体(粉末)を、熱重量測定(TGA)し、保護分子の吸着量を求めた。
【0201】
同様の実験を、保護分子を溶解させた溶液の保護分子濃度を変えて実験を行い、それぞれの濃度における保護分子の吸着量を求めた。使用した溶液の保護分子の濃度に対して、保護分子の吸着量をプロットし、Langmuir解析の理論式に当てはめることで、脱着平衡定数(Kd)を求めた。
【0202】
金属ナノ粒子の直径を変えて、上述の手法によりKdを求めた。金属ナノ粒子の直径に対してKdをプロットしたグラフを図9に示す。
図9において黒塗りの下向き三角形は、保護分子としてドデシルアミン(アミノ基及びカルボキシル基を含み、本願要件を満たす)を用いた実験結果である。白抜きの下向き三角形は、保護分子としてドデカンチオール(アミノ基及びカルボキシル基を含まないので、本願要件を満たさない)を用いた実験結果である。
【0203】
ドデシルアミンを用いた表面保護金ナノ粒子では、金属ナノ粒子の平均粒径が2~10nmにおいては、Kdが3×10-3~1mol/Lの範囲にあり、適切な脱着平衡定数を達成できた。
一方、ドデカンチオールを用いた表面保護金ナノ粒子では、Kdが低く、保護分子が脱離しくいことがわかった。
【0204】
本発明は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
金属ナノ粒子を液状化する方法であって、
(1)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で分散液中に分散されており、
(2)前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化13】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(3)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a)及び/又は(b)の工程
(a)前記分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記分散液の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b)前記分散液に溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加し、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含む、金属ナノ粒子を液状化する方法。
【0205】
(態様2)
金属ナノ粒子を液状化する方法であって、
(1)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で分散液中に分散されており、
(2)前記分散液を基材に塗布し、前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させる工程を含み、
(3)前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させた際に、前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化14】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(4)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a’)及び/又は(b’)の工程
(a’)前記溶媒の種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記溶媒及び/又は基材の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金
属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b’)前記溶媒に、溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加して、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含む、金属ナノ粒子を液状化する方法。
【0206】
(態様3)
前記金属ナノ粒子の平均粒径が1~30nmである態様1又は2に記載の方法。
【0207】
(態様4)
前記遷移金属ナノ粒子を構成する遷移金属は、周期表第10族~第11族で且つ第4周期~第6周期に属する元素の少なくとも一種である、態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0208】
(態様5)
前記遷移金属ナノ粒子を構成する遷移金属は、金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種である、態様1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0209】
(態様6)
前記保護分子は、アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有する、態様1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0210】
(態様7)
基材に金属を形成する方法であって、
(1)金属ナノ粒子を含有する分散液に、基材を接触させる工程を含み、
(2)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で前記分散液中に分散されており、
(3)前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化15】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(4)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a)及び/又は(b)の工程
(a)前記分散液に含まれる分散媒を構成する種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記分散液の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b)前記分散液に溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加し、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含む、基材に金属を形成する方法。
【0211】
(態様8)
基材に金属を形成する方法であって、
(1)金属ナノ粒子を含有する分散液を基材に塗布し、前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させる工程を含み、
(2)前記金属ナノ粒子は、遷移金属ナノ粒子の表面に保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子の状態で前記分散液中に分散されており、
(3)前記分散液が塗布された基材を溶媒に接触させた際に、前記表面保護金属ナノ粒子、金属ナノ粒子及び保護分子の間に、下記式(I)で表される化学平衡が成り立ち、
【化16】
〔式中、(Site-PM)は保護分子が吸着している金属原子の吸着サイトを示し、(Site)は保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイトを示し、(PM)は遊離の保護分子を示す。〕
前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程を含み、
(4)前記化学平衡の平衡点を保護分子の脱着の方向に移動させる工程が、下記(a’)及び/又は(b’)の工程
(a’)前記溶媒の種類及び/又はその構成割合を変える、及び/又は、前記溶媒及び/又は基材の温度を変えることにより、下記式(II):
Kd={[Site]eq[PM]eq}/[Site-PM]eq (II)
〔式中、[Site]eqは平衡状態における保護分子が吸着していない金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示し、[PM]eqは平衡状態における遊離の保護分子の濃度(mol/L)を示し、[Site-PM]eqは平衡状態における保護分子が吸着している金属原子の吸着サイト濃度(mol/L)を示す。〕
で表される保護分子の脱着平衡定数(Kd)を増大させる工程、
(b’)前記溶媒に、溶媒及び/又は表面保護金属ナノ粒子を添加して、前記式(II)における3つの濃度のうちの少なくとも1つを変化させて、前記式(I)の化学平衡が成り立たない非平衡状態とする工程、
を含む、基材に金属を形成する方法。
【0212】
(態様9)
金、銀、銅、白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種から構成され、平均粒径が1~30nmである金属ナノ粒子の表面に、
アミノ基及びカルボキシル基の少なくとも一種を含有する保護分子が被覆した表面保護金属ナノ粒子が、
無極性溶媒を含む分散媒に分散されている分散液。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12