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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】Cu-Mn-Al系磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240304BHJP
   H01F 1/047 20060101ALI20240304BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240304BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240304BHJP
   C22C 9/05 20060101ALN20240304BHJP
   C22C 30/02 20060101ALN20240304BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240304BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/047
B22F3/00 F
B22F3/24 C
C22C9/05
C22C30/02
C22F1/00 628
C22F1/00 660D
C22F1/00 687
C22F1/00 691Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019231653
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021100065
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-12-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:国立大学法人東北大学 金属材料研究所、刊行物名:東北大学金属材料研究所 強磁場超伝導材料研究センター 平成30年度年次報告、発行年月:2019年6月
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:日本金属学会・日本鉄鋼協会・軽金属学会 九州支部 合同学術講演大会 実行委員会、刊行物名:令和元年度 合同学術講演大会 講演概要集、発行年月日:2019年6月1日 集会名:2019年度合同学術講演会、発表名:「Cu-Mn-Al合金の磁場中熱処理効果」、開催日:2019年6月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:公益社団法人 応用物理学会、刊行物名:2019年第80回応用物理学会秋季学術講演会講演予稿集DVD、発行年月日:2019年9月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:2019年第80回応用物理学会秋季学術講演会、発表名:「Reduction of the Crystallite Size in Cu▲2▼MnAl Alloys by In-field Annealing」(「磁場中熱処理によるCu▲2▼MnAl合金の微細化」)、開催日:2019年9月18日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:Faculty of Engineering Physics and Nanotechnology,VNU University of Engineering and Technology,Vietnam National University,Hanoi(ベトナム国家大学ハノイ校工科大学、工業物理・ナノテクノロジー学部)、刊行物名:FMS-NANOMATA2019 ABSTRACT BOOK(エフエムエス-ナノマタ2019 アブストラクトブック)、発行年月日:2019年11月10日 集会名:Joint 5th International Symposium on Frontiers in Materials Science and 3rd International Symposium on Nano-materials, Technology and Applications(材料科学のフロンティアに関する第5回国際シンポジウムとナノ材料、技術、及び応用に関する第3回国際シンポジウムとの合同シンポジウム)、発表名:「Magnetic properties of Cu-Mn-Al system annealed under high magnetic fields」(「強磁場中熱処理したCu-Mn-Al系の磁気特性」)、開催日:2019年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】三井 好古
(72)【発明者】
【氏名】小山 佳一
(72)【発明者】
【氏名】中川 駿
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-059690(JP,A)
【文献】特開2008-041163(JP,A)
【文献】特開2008-091551(JP,A)
【文献】特開2007-180470(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135251(WO,A1)
【文献】特開2006-086508(JP,A)
【文献】特開平04-116131(JP,A)
【文献】特開2017-157738(JP,A)
【文献】特開昭59-004946(JP,A)
【文献】特開2015-063725(JP,A)
【文献】成田賢仁,Cu-Mn-Al磁性合金の高保磁力化機構,日本応用磁気学会誌,日本,日本応用磁気学会,1981年,Vol.5、No.2,93-96
【文献】鹿又 武,ホイスラ―合金の磁性,まてりあ,日本,日本金属学会,2006年,第45巻 第3号,165-171
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/047
B22F 3/00
B22F 3/24
C22F 1/08
C22C 9/05
C22C 30/02
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu、Mn、及びAlを含むCu-Mn-Al系中間体を準備する準備工程と、
前記Cu-Mn-Al系中間体に対し、前記Cu-Mn-Al系中間体に磁場を与えつつ前記Cu-Mn-Al系中間体を加熱する磁場中熱処理を施す磁場中熱処理工程と、
を有
前記磁場中熱処理工程では、前記Cu-Mn-Al系中間体に対し、前記Cu-Mn-Al系中間体に5T以上の前記磁場を与えつつ前記Cu-Mn-Al系中間体を500K以上に加熱する前記磁場中熱処理を、6時間超にわたって施す、
Cu-Mn-Al系磁石の製造方法。
【請求項2】
前記準備工程では、Cu、Mn、及びAlを含む原料粉体を焼結させることにより、Cu、Mn、及びAlの合金を含む前記Cu-Mn-Al系中間体を準備する、
請求項1に記載のCu-Mn-Al系磁石の製造方法。
【請求項3】
前記合金が、L2構造を有するホイスラー合金である、
請求項2に記載のCu-Mn-Al系磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu-Mn-Al系磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2に開示されているように、Mn及びAlを含むMn-Al系磁石の中間体、並びにMn及びBiを含むMn-Bi系磁石の中間体に対して、加熱を磁場中で行う磁場中熱処理を施すことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-157738号公報
【文献】特開2015-063725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2は、強磁性相の合成が促進されるという理由で、磁場中熱処理を推奨している。強磁性相の合成の促進は、得られる磁石の磁化を増強させる要因となる。
【0005】
しかし、磁石の用途によっては、大きすぎる磁化はむしろ望ましくなく、保磁力が充分に大きい磁石が望まれる場合もある。
【0006】
本発明の目的は、磁化を抑えることができる一方、保磁力を高めることができる、Cu-Mn-Al系磁石の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るCu-Mn-Al系磁石の製造方法は、
Cu、Mn、及びAlを含むCu-Mn-Al系中間体を準備する準備工程と、
前記Cu-Mn-Al系中間体に対し、前記Cu-Mn-Al系中間体に磁場を与えつつ前記Cu-Mn-Al系中間体を加熱する磁場中熱処理を施す磁場中熱処理工程と、
を有し、
前記磁場中熱処理工程では、前記Cu-Mn-Al系中間体に対し、前記Cu-Mn-Al系中間体に5T以上の前記磁場を与えつつ前記Cu-Mn-Al系中間体を500K以上に加熱する前記磁場中熱処理を、6時間超にわたって施す
【0008】
前記準備工程では、Cu、Mn、及びAlを含む原料粉体を焼結させることにより、Cu、Mn、及びAlの合金を含む前記Cu-Mn-Al系中間体を準備してもよい。
【0009】
前記合金が、L2構造を有するホイスラー合金であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
これまで強磁性相の合成を促進する目的で行われてきた磁場中熱処理は、Cu-Mn-Al系中間体に対しては、強磁性相の結晶子を微細化し、かつ非磁性相の合成を促進する効果をもたらすことが判明した。強磁性相の結晶子が微細化され、非磁性相の合成が促進される結果、得られるCu-Mn-Al系磁石の磁化を抑えることができる一方、保磁力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】Cu-Mn-Al系磁石の製造方法を例示するフローチャート。
図2】Cu-Mn-Al系磁石のX線回折パターンを示すグラフ。
図3】L2構造を有する結晶子のサイズの時間変化を示すグラフ。
図4】Cu-Mn-Al系磁石の磁気履歴曲線を示すグラフ。
図5】Cu-Mn-Al系磁石の保磁力の時間変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すフローチャートに沿って、実施形態に係るCu-Mn-Al系磁石の製造方法について説明する。
【0014】
(a)混合工程
まず、Cuを主成分とする銅粉体、Mnを主成分とするマンガン粉体、及びAlを主成分とするアルミニウム粉体を混合し、原料粉体を得る(ステップS1)。本明細書において“主成分とする”とは、純度が97質量%以上、好ましくは99質量%以上であることを意味する。
【0015】
原料粉体の粒度は、後述する焼結工程(ステップS3)において合金が生成される反応を促進する観点から、1mm未満であることが好ましく、75μm未満であることがより好ましい。本明細書において、粒子の粒径がd未満とは、粒子がJIS-Z8801に規定する目開きdの篩を通過する粒度であることを意味する。
【0016】
(b)成形工程
次に、上述した原料粉体を成形することにより、成形体となす(ステップS2)。原料粉体の成形方法としては、加圧を伴う方法、例えば、原料粉体を型に充填してプレスする型成形法が典型的である。但し、これに限られない。原料粉体を噴射し、積層させながら造形する積層造形法を用いてもよい。なお、成形に際して、得られる成形体の保形性を高める結合剤を使用してもよい。
【0017】
(c)焼結工程
次に、得られた成形体を焼結させることにより、Cu、Mn、及びAlの合金であるCu-Mn-Al系合金を含むCu-Mn-Al系中間体を得る(ステップS3)。
【0018】
焼結の温度は、合金が生成される反応を有意に進行させるため、Alの合金の融点以上、具体的には、933K以上であることが好ましい。また、焼結の温度は、1073K以上であることがより好ましく、1123K以上であることがより好ましい。
【0019】
Cu-Mn-Al系合金は、bcc構造を有するβ相を含む多結晶体である。また、Cu-Mn-Al系合金は、Cuを内割で40mol%以上含み、Mnを内割で20mol%以上含み、Alを内割で20mol%以上含む。
【0020】
具体的には、Cu-Mn-Al系合金は、いずれも強磁性体であるCu50Mn25Al25、又はCu45Mn20Al35よりなるものであってもよい。このうちCu50Mn25Al25は、L2構造を有するホイスラー合金である。
【0021】
なお、Cu-Mn-Al系合金に占めるCu、Mn、及びAlのモル比は、ステップS1の混合工程における銅粉体、マンガン粉体、及びアルミニウム粉体の配合割合によって調整できる。
【0022】
但し、Cu-Mn-Al系中間体は、その全体が完全に合金化されていなくてもよく、合金化されずに独立しているCu、Mn、及びAlを含んでいてもよい。また、Cu-Mn-Al系中間体は、Cu、Mn、及びAl以外の不可避的不純物を内割で5質量%以下含んでもよい。
【0023】
なお、以上説明したステップS1からS3は、Cu、Mn、及びAlを含むCu-Mn-Al系中間体を準備する準備工程の一例である。
【0024】
(d)磁場中熱処理工程
次に、Cu-Mn-Al系中間体に対し、Cu-Mn-Al系中間体に磁場を与えつつCu-Mn-Al系中間体を加熱する磁場中熱処理を施す(ステップS4)。これにより、等方性磁石であるCu-Mn-Al系磁石が得られる。
【0025】
特許文献1及び2が教示するように、これまで磁場中熱処理は、強磁性相の合成を促進する目的で行われてきた。しかし、本願発明者らの研究によれば、磁場中熱処理は、Cu-Mn-Al系中間体に対しては、従来の効果とは逆の効果、具体的には、強磁性相の結晶子サイズを微細化し、かつ非磁性相の合成を促進する効果をもたらすことが判明した。
【0026】
磁場中熱処理によって、Cu-Mn-Al系中間体における強磁性相の結晶子が微細化され、非磁性相の合成が促進される結果、得られるCu-Mn-Al系磁石の磁化を抑えることができる一方、保磁力を高めることができる。
【0027】
なお、磁場中熱処理でCu-Mn-Al系中間体に与える磁場は、磁化を抑制する効果と保磁力を高める効果とを一層充分に得るために、5T以上であることが好ましく、10T以上であることがより好ましい。
【0028】
また、磁場中熱処理でCu-Mn-Al系中間体を加熱する温度は、ステップS3の焼結工程で成形体を加熱する温度よりも低い。但し、磁化を抑制する効果と保磁力を高める効果とを一層充分に得るために、磁場中熱処理でCu-Mn-Al系中間体を加熱する温度は、500K以上であることが好ましく、550K以上であることがより好ましい。
【0029】
また、磁場中熱処理の初期の段階においては、強磁性相の結晶子が粗大化しうる。そこで、強磁性相の結晶子を微細化し、非磁性相の合成を促進する効果を一層確実に得るために、磁場中熱処理を継続させる時間は、6時間超であることが好ましく、10時間以上であることがより好ましく、20時間以上であることがより好ましい。
【0030】
以上、実施形態に係るCu-Mn-Al系磁石の製造方法について例示的に述べたが、以下の変形も可能である。
【0031】
磁場中熱処理に供するCu-Mn-Al系中間体は、必ずしも焼結によって形成されたものでなくてもよい。Cuの原料、Mnの原料、及びAlの原料の混合物を液相状態へと完全に溶融させたものを冷却して得た合金であってもよい。
【0032】
また、ステップS3の焼結工程と、ステップS4の磁場中熱処理工程とを、同一の加熱炉としての電気炉を用いて、連続して行ってもよい。また、Cu-Mn-Al系合金の形成と、強磁性相の結晶子の微細化及び非磁性相の合成とが、1つの工程で行われてもよい。
【0033】
以下、本実施形態に係るCu-Mn-Al系磁石の用途について例示的に述べる。本実施形態に係るCu-Mn-Al系磁石は、例えば、磁気ディスク、磁気テープといった磁気メモリにおける磁気記録層に用いることができる。本実施形態に係るCu-Mn-Al系磁石は、磁場中熱処理によって磁化が抑えられているため、近傍の他の機器に磁気的な悪影響を与えにくい。また、本実施形態に係るCu-Mn-Al系磁石は、磁場中熱処理によって保磁力が高められているので、磁気的な反転が生じ難く、ビット情報を安定して保持できる。
【実施例
【0034】
[実施例1]
まず、いずれも純度が99.9質量%で粒径が75μm未満の銅粉体、マンガン粉体、及びアルミニウム粉体よりなる原料粉体を成形したものを、1173Kの温度で48時間にわたって焼結させたのち、氷水でクエンチした。このようにして、反応焼結法により、L2構造を有するCu50Mn25Al25相の多結晶体であるホイスラー合金よりなるCu-Mn-Al系中間体を準備した。
【0035】
次に、そのCu-Mn-Al系中間体に対して、573Kの温度で磁場中熱処理を施すことにより、Cu-Mn-Al系磁石を得た。
【0036】
磁場中熱処理がもたらす効果の、磁場の強さに対する依存性を確認するために、磁場中熱処理の継続時間を48時間に固定したうえで、Cu-Mn-Al系中間体に与える磁場が、0Tである場合、5Tである場合、及び10Tである場合のそれぞれについてCu-Mn-Al系磁石を得た。そして、得られた3種のCu-Mn-Al系磁石に含まれる晶相を、X線回折装置を用いて同定した。
【0037】
図2に、それら3種のCu-Mn-Al系磁石のX線回折パターンを示す。横軸は、角度2θを単位“度”で示す。縦軸は、回折ビームの強度を相対目盛で示す。なお、図2には、回折ピークによって同定される晶相を付記している。“L2”と付記された回折ピークは、強磁性のCu50Mn25Al25相の存在を示している。“CuAl”と付記された回折ピークは、非磁性のCuAl相の存在を示している。
【0038】
図2に示すように、0Tの熱処理を行った場合は、L2構造に由来する回折ピークだけが観測された。一方、5Tの磁場中熱処理を行った場合、CuAl相に由来する回折ピークも観測された。さらに、10Tの磁場中熱処理を行った場合は、CuAl相に由来する回折ピークの高さが、5Tの磁場中熱処理を行った場合よりも高まった。
【0039】
この結果より、磁場中熱処理が、Cu-Mn-Al系中間体に対しては、非磁性相であるCuAl相の合成を促進する効果をもたらし、かつその効果は、Cu-Mn-Al系中間体に与える磁場が大きいほど高まることが分かった。
【0040】
また、5Tの磁場中熱処理を行った場合、L2構造に由来する回折ピークの高さが、0Tの熱処理を行った場合よりも低下した。10Tの磁場中熱処理を行った場合は、L2構造に由来する回折ピークの高さがさらに低下した。
【0041】
この結果より、磁場中熱処理が、Cu-Mn-Al系中間体に対しては、強磁性相であるCu50Mn25Al25相の、非磁性相であるCuAl相への分解を伴う微細化を促進する効果をもたらし、かつその効果は、Cu-Mn-Al系中間体に与える磁場が大きいほど高まることが分かった。
【0042】
また、回折ピークの半値幅は、その回折ピークによって同定される結晶子のサイズ(以下、結晶子サイズと記す。)に依存する。具体的には、結晶子が小さいほど半値幅が広い。なお、“結晶子”とは、多結晶体において単結晶とみなせる最大の集まりを意味する。
【0043】
そこで、Cu-Mn-Al系磁石におけるCu50Mn25Al25相の結晶子サイズの、磁場中熱処理の継続時間に対する依存性を確認するために、Cu-Mn-Al系中間体に与える磁場が、0Tである場合、及び5Tである場合のそれぞれについて、磁場中熱処理の継続時間を種々変更した。
【0044】
図3に、Cu50Mn25Al25相の結晶子サイズの時間変化を示す。横軸は、磁場中熱処理の継続時間を示す。縦軸は、Cu-Mn-Al系磁石に含まれるCu50Mn25Al25相の平均的な結晶子サイズを示す。結晶子サイズは、X線回折パターンの回折ピークの半値幅を用い、Halder-Wagnerの関係式によって推定した。
【0045】
図3に示すように、Cu-Mn-Al系中間体に与える磁場が0Tである場合、及び5Tである場合のいずれにおいても、6時間までは、Cu50Mn25Al25相の結晶子が粗大化した。一方、その後は、いずれの場合においても、Cu50Mn25Al25相の結晶子が微細化する傾向がみられる。
【0046】
但し、5Tの磁場中熱処理を行った場合の方が、0Tの熱処理を行った場合よりも、Cu50Mn25Al25相の結晶子が速やかに微細化されている。
【0047】
この結果より、Cu-Mn-Al系中間体に対しては、磁場中熱処理が、強磁性相であるCu50Mn25Al25相の結晶子の微細化を促進する効果をもたらすことが判明した。
【0048】
次に、磁場中熱処理で得られたCu-Mn-Al系磁石の磁気履歴曲線を、振動試料型磁力計によって測定した。また、比較のために、0Tの熱処理で得られたCu-Mn-Al系磁石の磁気履歴曲線も測定した。
【0049】
図4に、それぞれのCu-Mn-Al系磁石の磁気履歴曲線を示す。横軸は、Cu-Mn-Al系磁石に与えた外部磁場の強さを表す。縦軸は、Cu-Mn-Al系磁石の単位質量あたりの磁化を表す。
【0050】
図4に示すように、0Tの熱処理を行った場合の飽和磁化は77emu/gであるのに対し、10Tの磁場中熱処理を行った場合の飽和磁化は、それよりも著しく小さい12emu/gであった。また、0Tの熱処理を行った場合の保磁力は略ゼロであったのに対し、10Tの磁場中熱処理を行った場合の保磁力は、2.3kOe以上であった。
【0051】
この結果より、磁場中熱処理は、Cu-Mn-Al系中間体に対しては、磁化を抑える一方、保磁力を高める効果をもたらすことが分かった。
【0052】
磁化が抑えられる理由は、図2を参照して述べたように、磁場中熱処理によって、強磁性相の合成が抑えられ、かつ非磁性相の合成が促進されたためである。
【0053】
また、保磁力が高められる理由は、強磁性相の結晶子が微細化され、かつ非磁性相が合成されたことにより、微細な強磁性相の結晶子が非磁性相によって分断されて組織中に散在した状態になるためと推定される。
【0054】
[実施例2]
Cu-Mn-Al系中間体におけるCu、Mn、Alのモル比が実施例1の場合と異なる場合にも、磁場中熱処理によって保磁力が高められるか否かを確認するために、反応焼結法によって、Cu45Mn20Al35相の多結晶体であるCu-Mn-Al系中間体を得た。反応焼結の条件は実施例1と同じである。
【0055】
そして、そのCu-Mn-Al系中間体に磁場中熱処理を施すことで得たCu-Mn-Al系磁石の保磁力を調べた。また、比較のために、0Tの熱処理で得たCu-Mn-Al系磁石の保磁力も調べた。
【0056】
図5に、それぞれのCu-Mn-Al系磁石の保磁力の時間変化を示す。横軸は、磁場中熱処理又は熱処理の継続時間を示す。縦軸は、保磁力を示す。図5に示すように、磁場中熱処理は、Cu45Mn20Al35相の多結晶体に対しても保磁力の上昇を促進する効果を示すことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5