(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】アクスルの支持構造
(51)【国際特許分類】
B60B 35/14 20060101AFI20240304BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240304BHJP
F16C 35/077 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
B60B35/14 V
F16C19/18
F16C35/077
(21)【出願番号】P 2019176886
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-07-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(72)【発明者】
【氏名】坂東 正樹
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-073458(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/14
F16C 19/18
F16C 35/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部材に連結されるとともに
アクスル軸方向に延びる中心孔を有するリテーナを介してハブベアリングの外輪部材を支持し、上記ハブベアリングの内輪部材に上記中心孔を通過するアクスルを一体化させて当該アクスルを軸転可能に支持するアクスルの支持構造において、
上記中心孔の車幅方向外方部に、上記外輪部材の車幅方向内端面が当接
し、アクスル軸に直交する当接面を有する拡径部を設けるとともに、上記中心孔の車幅方向内方部に、上記拡径部と上記リテーナの厚み方向において対称形態の追加の拡径部を設け、当該追加の拡径部に、上記アクスルの外周面に固定されて半径方向外方に起立するダストリングを配置したことを特徴とする、アクスルの支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両におけるアクスルの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両におけるアクスルの支持構造としては、例えば特許文献1に示されているように、車輪と一体回転するアクスルを内輪側とし、外輪側が車体に連結されたハブベアリングを採用することがある。
【0003】
このようなハブベアリングを採用するアクスルの支持構造の一例を
図2に示す。
【0004】
このアクスルの支持構造では、車体側の例えばリアアクスルビームエンド11に対し、リテーナ2を介してハブベアリング3の外輪部材31が固定され、当該ハブベアリング3の内輪部材32と一体化された例えばドライブシャフトとしてのアクスル4が軸転可能に支持されている。外輪部材31とリテーナ2とは、外輪部材31の外周に設けたフランジ311と、リテーナ2とを重ね、これらをボルト211を用いた締結手段により連結されている。また、この状態において、外輪部材31の車幅方向内端部31bがリテーナ2の中心孔22に密嵌合させられることにより、ハブベアリング3のリテーナ2に対する位置決めが行われている。
【0005】
また、ハブベアリング3の内端部には、例えば車速検出手段の一要素をなす磁気エンコーダ5が設けられるが、この磁気エンコーダ5が設けられる部位への異物侵入を防止するために、アクスル4の外周にフランジ状のダストリング41が設けられている。
図2に示す例では、リテーナ2の中心孔22の内端部に切欠き部223を設け、この切欠き部223内にダストリング41を近接して位置させてラビリンスを形成することにより、異物侵入防止効果を高めている。
【0006】
しかしながら、
図2に示したアクスル支持構造においては、次のような課題がある。
【0007】
第1に、リテーナ2に対するハブベアリング3の車幅方向の位置決めをするために、外輪部材31のフランジ311とリテーナ2との間にスペーサなどの調整部材を介装する必要があり、組み立て工数および部品点数が増加する。
【0008】
第2に、外輪部材31の車幅方向内端部31bが嵌合するリテーナ2の中心孔22は、精密研磨をする必要があるが、精密研磨するべき軸方領域が広く、加工コストが上昇する。
【0009】
第3に、ボルト211とアクスル軸Lとの間の距離(ボルトピッチ)Pの短縮が阻害され、リテーナ2やハブベアリング3の小型化、軽量化の阻害要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、リテーナとハブベアリングとの車幅方向位置調整が容易であり、かつリテーナやハブベアリングのさらなる小型化、軽量化が可能なアクスルの支持構造を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0013】
すなわち、本発明により提供されるアクスルの支持構造は、車体側部材に連結されるとともに中心孔を有するリテーナを介してハブベアリングの外輪部材を支持し、上記ハブベアリングの内輪部材に上記中心孔を通過するアクスルを一体化させて当該アクスルを軸転可能に支持するアクスルの支持構造において、上記中心孔の車幅方向外方部に、上記外輪部材の車幅方向内端面が当接する当接面を有する拡径部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
リテーナに対してハブベアリングを組み立てるとき、外輪部材の車幅方向内方側端部がリテーナの中心孔の拡径部に形成した、当接面に当接することにより、リテーナに対するハブベアリングの車幅方向(アクスル軸方向)の位置決めにも適用される。リテーナに対するハブベアリングのアクスル軸直角方向の位置決めにも関連する拡径部は、精密な加工が行われるため、上記のハブベアリングの車幅方向の位置決めもまた、スペーサ等の使用の必要なく、正確におこなわれる。その結果、アクスルの支持構造の組み立て工数の増加や部品点数の増加を招かない。
【0015】
リテーナとハブベアリングのアクスル軸直角方向の位置決めは、リテーナの中心孔に設けた拡径部の内面と外輪部材の車幅方向内方側端部との嵌合により行われる。拡径部の軸方向長さは中心孔の全長よりも短いため、正確な位置決めのために必要な精密加工領域が少なくて済み、加工コストを抑制することができる。
【0016】
ハブベアリングの外輪部材をリテーナの中心孔に嵌合させることに比較し、中心孔に設けた拡径部に嵌合させることにより、リテーナやハブベアリング小型化、軽量化することができる。
【0017】
本発明のその他の特徴および利点は、図面を参照して以下に行う詳細な説明から、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるアクスルの支持構造を示す半裁縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。図面において、車幅方向外方をout、内方をinで示す。
【0020】
図1は、後輪のアクスル4をドライブシャフトとして支持するアクスルの支持構造Aに本発明を適用した例を示す。
図1において、
図2に示した従来例と同一または同等の部材または部分には、同一の符号を付してある。
【0021】
車体側部材1としてのリアアクスルビームエンド11に対してリテーナ2を介してハブベアリング3が支持されている。リテーナ2は、後記する磁気エンコーダ5を保持するとともに、ハブベアリング3のアクスル軸直角方向の位置決めを行う役割を有している。このリテーナ2は、ハブベアリング3を取り囲む環状の部材であり、周部にはリアアクスルビームエンド11を挟んでハブベアリング3の外輪部材31を、これに設けたフランジ311を介して締結するためのボルト211を挿通する複数のボス部21が設けられ、中央部にはアクスル4が通る中心孔22が形成されている。
【0022】
ハブベアリング3は、外輪部材31と内輪部材32とを有し、これら外輪部材31と内輪部材32との間に転動体33が介装されている。内輪部材32は、アクスル4と一体化されており、これにより、アクスル4はその中心軸(アクスル軸L)周りに軸転可能である。内輪部材32の車幅方向外方端には、車輪(図示略)を取付けるためのボルト321が埋め込まれたフランジ322が形成されている。
【0023】
リテーナ2の中心孔22の車幅方向外方部22aには、拡径部221が形成されている。拡径部221は、円筒状拡径内面221aと、アクスル軸Lに直交する当接面221bとを有し、これらの面によりL字状に切欠かれた形態をなす。円筒状拡径内面221aおよび当接面221bは、後記するように車幅方向、およびアクスル軸Lに対する直角方向にかかるリテーナ2に対するハブベアリング3の位置決めを正確に行うために、精密加工により形成される。
【0024】
図1に示されているように、上記拡径部221の円筒状拡径内面221aには外輪部材31の車幅方向内端に位置する円筒外面312が密嵌合され、当接面221bには外輪部材31の車幅方向内端面313が当接しており、これにより、リテーナ2に対するハブベアリング3の車幅方向、およびアクスル軸Lに対する直交方向にかかるリテーナ2に対するハブベアリング3の位置決めが適正に行われる。
【0025】
図1中、符号5は、ハブベアリング3の車幅方向内方に位置し、かつ外輪部材31と内輪部材32との間に配置された磁気エンコーダを示している。磁気エンコーダ5は、車速検出手段の一要素をなす。車両走行時において、磁気エンコーダ5は、内輪部材32とともに回転する。このとき、図示しない車速センサが、磁気エンコーダ5から発せられる磁力を受けて出力信号を発する。その出力信号は、リテーナ2を介して図示しない所定の制御装置に入力され、種々の走行制御等に供される。
【0026】
上記した磁気エンコーダ5が配置される部位への塵埃等の異物の侵入を阻止するため、リテーナ2の中心孔22とアクスル4との間の隙間を縮小するダストリング41がアクスル4の外面から起立するように設けられるが、本実施形態では、ダストリング41とリテーナ2の中心孔22との関係において、特に次のように構成している。
【0027】
すなわち、
図1に表れているように、中心孔22の車幅方向内方部22bに、追加の拡径部222を形成している。この追加の拡径部222は、円筒状拡径内面222aと、アクスル軸Lに直交する段部222bとを有し、好ましくは、中心孔22の車幅方向外方部22aに形成した拡径部221と同様の形態、すなわち、リテーナ2の厚み方向において上記拡径部221と対称形態とする。そして、ダストリング41を追加の拡径部222の段部222bに近接させて配置することにより、ラビリンスを形成し、異物侵入防止効果を高めている。
【0028】
次に、上記構成のアクスルの支持構造Aの作用について説明する。
【0029】
リテーナ2に対してハブベアリング3を組み立てるとき、外輪部材31の車幅方向内端面313がリテーナ2の中心孔22の拡径部221に形成した当接面221bに当接することにより、リテーナ2に対するハブベアリング3の車幅方向(アクスル軸方向)の位置決めに使うことができる。リテーナ2に対するハブベアリング3のアクスル軸直角方向の位置決めにも関連する拡径部221は、精密な加工が行われるため、ハブベアリング3の車幅方向の位置決めもまた、スペーサ等の使用の必要なく、正確に行われる。その結果、アクスル4の支持構造Aの組み立て工数の増加や部品点数の増加を招かない。
【0030】
リテーナ2とハブベアリング3のアクスル軸直角方向の位置決めは、リテーナ2の中心孔22に設けた拡径部221の円筒状拡径内面221aと外輪部材31の車幅方向内方端部の円筒外面312との嵌合により行われる。拡径部221の軸方向長さは中心孔22の全長よりも短いため、正確な位置決めのために必要な精密加工領域が少なくて済み、加工コストを抑制することができる。
【0031】
ハブベアリング3の外輪部材31をリテーナ2の中心孔22に嵌合させることに比較し、中心孔22の端部に設けた拡径部221に嵌合させることにより、リテーナ2をハブベアリング3の外輪部材31とともにリアアクスルビームエンド11に締結するためのボルト211とアクスル軸Lとの距離(ボルトピッチ)Pを短縮することが可能となり、リテーナ2やハブベアリング3を小型化、軽量化することができる。また、これにより、より小径の車輪を取付けたい等のニーズに対応することができる。
【0032】
さらに、リテーナ2の中心孔22に、厚み方向に対称形態の拡径部221および追加の拡径部222を形成したので、リテーナ2を左右の車輪用に共用することができ、これにより、アクスルの支持構造Aのコストダウンを図ることができる。
【0033】
もちろん、本発明は、上記した実施形態に限定されることはなく、請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に含まれる。
【0034】
上記した実施形態は、駆動輪としての後輪のアクスルを対象としているが、従動輪としての後輪のアクスルや、操舵輪としての前輪のアクスルにおいても本発明を適用できることはもちろんである。
【符号の説明】
【0035】
A 支持構造
L アクスル軸
1 車体側部材
11 リアアクスルビームエンド
2 リテーナ
21 ボス部
211 ボルト
22 中心孔
22a 車幅方向外方部
22b 車幅方向内方部
221 拡径部
221a 円筒状拡径内面
221b 当接面
222 追加の拡径部
222a 円筒状拡径内面
222b 段部
3 ハブベアリング
31 外輪部材
311 フランジ
312 円筒外面
313 車幅方向内端面
32 内輪部材
321 ボルト
322 フランジ
33 転動体
4 アクスル
41 ダストリング
5 磁気エンコーダ