(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】上衣
(51)【国際特許分類】
A41D 27/00 20060101AFI20240304BHJP
A41D 1/02 20060101ALI20240304BHJP
A62B 17/00 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
A41D27/00 A
A41D1/02 Z
A62B17/00
(21)【出願番号】P 2020033403
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】391009372
【氏名又は名称】ミドリ安全株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐古 かがり
(72)【発明者】
【氏名】松本 和也
【審査官】原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-096003(JP,A)
【文献】特開2020-028320(JP,A)
【文献】実開昭57-052515(JP,U)
【文献】特許第6629944(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 27/00
A41D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
右前身頃と左前身頃とを係止する第1係止手段と、
前記右前身頃及び前記左前身頃のうちいずれか一方の端部の上部から、前記右前身頃及び前記左前身頃の他方に向かって延在する補助布と、
一方が前記補助布の延在方向端部に設けられ、他方が前記右前身頃及び前記左前身頃の他方の
内側の上部に設けられ、前記第1係止手段の延在方向と重複しない位置で前記左前身頃と前記右前身頃とを係止する第2係止手段と、を備え、
前記第2係止手段の上下方向の長さは、前記第1係止手段の上下方向の長さよりも短く、
前記第2係止手段は、スライダを下方から上方に移動させて前記左前身頃と前記右前身頃とを係止するスライドファスナであり、
前記第2係止手段により前記左前身頃と前記右前身頃の上部を係止し、前記第1係止手段により前記右前身頃と前記左前身頃の下部を係止することで、前面部に開口部を形成することができることを特徴とする、フルハーネス型安全帯対応可能な上衣。
【請求項2】
前記補助布に、前記補助布と前記右前身頃及び前記左前身頃の他方とを着脱自在に係合する留め具が設けられることを特徴とする請求項1に記載の上衣。
【請求項3】
前記右前身頃の襟部及び前記左前身頃の襟部には、前記右前身頃及び前記左前身頃を係止するための襟部留め具が設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の上衣。
【請求項4】
前記第1係止手段は、前記右前身頃と前記左前身頃とを身丈方向全長に亘って係止することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の上衣。
【請求項5】
前記第2係止手段の上下方向の長さは、前記第1係止手段の上下方向の長さの5分の1~3分の1の長さであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の上衣。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上衣に関する。
【背景技術】
【0002】
作業服やレインスーツなどの上衣は、前身頃に設けられたファスナなどで左右の前身頃を閉じた状態で使用することが一般的である。そのため、内ポケット等から物を取り出す際には、一度ファスナを開く必要がある。
【0003】
また、高所作業時は、墜落防止用のフルハーネス型安全帯を上衣の内側に着用することがある。そこで、このような上衣に、安全帯と命綱(ランヤード)とを連結する留め具等を通すための貫通孔を設けたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の衣服は、貫通孔から空気が漏れるのを防ぐために、貫通孔を筒状に形成し、さらに当該貫通孔の端部を閉じるストッパを備えている。しかしながら、貫通孔が安全帯のランヤード等を通すことを前提とした構成となっているため、上衣の内ポケット等から物を取り出すのに適しているとは言い難い。また、安全帯を着用しない場合には着用者に不快感を与える虞がある。
【0006】
加えて、安全帯の留め具やランヤードには様々な種類があるため、特に大きなサイズのランヤードを通し難いという課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上衣の内側と外側を連通する手段として、種々の目的に利用できる汎用性の高い開口部を備えた上衣を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る上衣は、左右の前身頃を係止する第1係止手段と、第1係止手段の延在方向と重複しない位置で左右の前身頃を係止する第2係止手段と、を備える構成とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、上衣を上記のように構成することにより、第1係止手段と第2係止手段との間に汎用性の高い開口部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施例1に係る上衣の左前身頃を開いた状態を示す正面図である。
【
図3】実施例1に係る上衣の使用状態を説明するための説明図である。
【
図4】内部に安全帯を着用したときの実施例1に係る上衣の使用状態を説明する説明図である。
【
図7】実施例3に係る上位の左前身頃を開いた状態を示す正面図である。
【
図8】実施例3に係る上衣の使用状態を説明するための説明図である。
【
図9】実施例3に係る上衣の使用状態を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の上衣の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0012】
図1から
図3に示すように、実施例1に係る上衣10の前面部11は、身幅方向の中央から左右に分かれる右前身頃12及び左前身頃14と、右前身頃12と左前身頃14の間を開閉自在に係止する第1係止手段20とを備える。第1係止手段20は、例えばスライドファスナからなる。なお、本明細書にあっては、上衣10を着用した着用者から見た上下左右及び内側外側を基準として各方向を説明する。
【0013】
右前身頃12の上部内側には、左前身頃14に向かって延在する補助布22が縫着される。補助布22の延在方向端部には、右前身頃12と左前身頃14とを部分的に係止する第2係止手段24が設けられる。第2係止手段24は、例えばスライドファスナからなり、一方が補助布22の左側端部に、他方が左前身頃14の内側に縫着部26を介して縫着される。したがって、第2係止手段24は、第1係止手段20の延在方向(上下方向)と重複しない位置で右前身頃12と左前身頃14とを係止する。
【0014】
第2係止手段24の上下方向の長さは、第1係止手段20の上下方向の長さよりも短く、例えば第1係止手段20の5分の1~3分の1程度の長さとされる。
【0015】
このように構成することで、
図3に示すように、第2係止手段24により左右前身頃12,14の上部を係止し、第1係止手段20により左右前身頃12,14の下部を係止することができる。この結果、上衣10の着心地を損なうことなく、前面部11に開口部40を形成することができる。
【0016】
補助布22の身丈方向(上下方向)の長さは、右前身頃12から左前身頃14側に向かうにつれて徐々に短くなる。このため着用者は、開口部40を介してスムースに上衣10の内側から物を取り出すことができる。
【0017】
また、左前身頃14と補助布22とは、留め具30を介して着脱自在に固定される。留め具30は、例えばスナップボタンからなり、左前身頃14の内側に設けられた雌留め具30aと、補助布22に設けられた雄留め具30bを備える。
【0018】
縫着部26は、身幅方向において、上衣10の前中心から縫着部26までの距離Dが左前身頃14の全長Wの約3分の1となる位置に設けられる。縫着部26の位置をこのように設定することで、開口部40として十分なスペースを確保することができる。
【0019】
図4は、実施例1に係る上衣10の内部に高所作業用のフルハーネス型安全帯(墜落制止用器具。図示せず)を着用したときの様子を示す。
図4において、符号50は、フルハーネス型安全帯の胸ベルトに設けられた連結具を示し、ランヤードLのフックFと連結する。なお、「フルハーネス型安全帯」とは、着用者の両肩をそれぞれ巻回する肩ベルト、肩ベルトを連結する胸ベルト、腰部を巻回する腰ベルト、両腿をそれぞれ巻回する腿ベルトを有し、墜落を制止する際に身体の荷重を肩、腰部及び腿部等複数箇所において支持する墜落制止用器具をいう。
【0020】
フルハーネス型安全帯を上衣10の内部に着用する場合、着用者は、当該安全帯の上から上衣10を着用し、第1係止手段20を連結具50の位置まで係止する。次いで、連結具50とランヤードLのフックFとを連結し、第2係止手段24及び留め具30を係止・係合する。なお、第1係止手段20、第2係止手段24、及び留め具30を係止(係合)する順序は上記に限られず、着用者が自由に選択することができる。
【0021】
上記の通り、実施例1に係る上衣10にあっては、開口部40からフルハーネス型安全帯の連結具50を取り出すことができる。したがって、上衣10を着用したままで高所作業を行うことが可能になる。
【0022】
また、連結具50やランヤードL(のフックF)の大きさに応じて第1係止手段20の係止量を調整することができるため、汎用性の高い開口部40を提供できる。
【0023】
また、開口部40の形成時にも、留め具30により左前身頃14の上部と補助布22とを固定することができる。したがって、第1係止手段20を全長に亘って係止していなくとも、左右の前身頃12、14の上部によって着用者の作業が妨げられることがない。
【実施例2】
【0024】
図5は、本発明の実施例2に係る上衣110の正面図を示す。なお、実施例1に係る上衣10と同一の要素、構成については実施例1と同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0025】
図5に示すように、実施例2に係る上衣110は、前身頃12,14の前面に補助布122を設けている。具体的には、補助布122の右側端部は右前身頃12の上部外側に縫着され、補助布122の左側端部に第2係止手段124が設けられる。第2係止手段124は、例えばスライドファスナからなり、一方が補助布122の左側端部に、他方が左前身頃14の外側に縫着部126を介して縫着される。
【0026】
実施例2に係る上衣110は、上記のように構成したので、第2係止手段124の開閉が容易になる。また、開口部40を形成した場合でも、第2係止手段124を係止することで左前身頃14の上部を固定できる。そのため、実施例1の上衣10に設けた留め具30を省略することができる。
【実施例3】
【0027】
図6から
図8は、本発明の実施例3に係る上衣210を示す。なお、実施例1に係る上衣10と同一の要素、構成については実施例1と同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0028】
図6に示すように、実施例3に係る上衣210は、実施例1,2よりも襟部が上方に長く形成され、着用者の首部を全体的に覆い、顎部の下端まで覆うことができる。また、
図7に示すように、実施例3に係る上衣210は、前身頃12,14の前面に、実施例1,2の補助布22よりも面積の大きい補助布222を備える。なお、実施例3に係る上衣210には、左右の前身頃12,14を襟部で係止するための留め具(例えばボタン)250が設けられる。
【0029】
具体的には、補助布222の上端縁222aの長さが、第1係止手段20を閉じた状態において第1係止手段20の上端と第2係止手段224の上端とを結ぶ直線の長さよりも長く形成される。即ち、
図6及び
図8に示すように、第2係止手段226の係止時において、補助布222の上端縁222aが弛むように形成される。
【0030】
なお、補正布222の上端縁222aは、左方向へ向かうにしたがって下方へ傾くように形成され、補助布222の下端縁222bは、左方向へ向かうにしたがって上方へ傾くように形成されている。さらに、補助布222の左端縁222cは、左方向上方に向けて延在するように形成されている。
【0031】
なお、実施例1,2と同様、補助布222の右端縁222dは、右前身頃12の上部内側に縫着され、補助布222の左端縁222cには第2係止手段224が設けられる。第2係止手段224は、例えばスライドファスナからなり、一方が補助布222の左端縁222cに、他方が左前身頃14の内側に縫着部226を介して縫着される。なお、実施例3に係る上衣210にあっては、補助布222の形状を考慮し、縫着部226が左方向上方に向けて斜めに設けられる。
【0032】
実施例3に係る上衣210は、上記のように構成したので、第2係止手段224の開閉が容易になる。また、補助布222の上端縁222aが実施例1,2よりも左方向へ長く形成されているため、
図8に示すように襟元に余裕ができる。この結果、襟元が突っ張ることや、襟元が着用者の首部や顎部に当たって不快感を与えたり、首の回動を妨げたりするような不都合を防止することができる。
【0033】
また、補助布222には、雄留め具230bが設けられる。雄留め具230bは、右前身頃12に設けられた襟部の雄留め具250bと同一形状をなす。即ち、補助布222に設けられた雄留め具230bは、左前身頃14の内側に設けられた襟元の雌留め具250aと着脱自在に形成される。なお、留め具230,250は、例えばスナップボタンからなる。
【0034】
実施例3に係る上衣210は、上記のように構成したので、
図9に示すように、第2係止手段224を係止して開口部40を形成するときに、留め具250a、230bを介して左前身頃14の上部と補助布222とを固定することができる。したがって、第1係止手段20を全長に亘って係止していなくとも、左右の前身頃12、14の上部によって着用者の作業が妨げられることがない。
【0035】
なお、この実施例3に係る上衣210の場合、縫着部226(補助布222の左端縁222c)は、身幅方向において、上衣210の前中心から縫着部226までの距離Dが左前身頃14の全長Wの約3分の1以上、W未満となる位置に設けられる。縫着部226の位置をこのように設定することで、開口部40として十分なスペースを確保することができる。
【0036】
以上、本発明に係る上衣10,110,210を実施例1から3に基づき説明したが、具体的な構成は上記実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加などは許容される。
【0037】
例えば、第1係止手段20、第2係止手段24,124,224は、一般的なスライドファスナに限られず、クイックオープン式ファスナや面ファスナであってもよく、スナップボタンなどであってもよい。
【0038】
また、第1係止手段20、第2係止手段24,124,224のスライドファスナは、スライダを下方から上方に移動させて左右の前身頃12,14を係止するものに限られず、スライダを上方から下方に移動させて左右の前身頃12,14を係止するものであってもよい。
【0039】
また、実施例1から3にあっては、補助布22,122,222を右前身頃12に縫着する構成としたが、補助布22,122,222の形状を左右で反転させ、補助布22,122,222を左前身頃14に縫着する構成としてもよい。
【0040】
また、実施例1から3にあっては、第1係止手段20によって左右の前身頃12,14を身丈方向全長に亘って係止する構成とした。しかし、第1係止手段は左右の前身頃12,14の一部(例えば、下半分)のみを係止する構成としてもよい。この場合、第1係止手段によって係止されない部分を補助布及び第2係止手段で係止すればよい。
【0041】
また、図示は省略するが、実施例3に係る上衣210に対しても、実施例2の上衣110の如く、前身頃12,14の前面に補助布を設けても良いことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0042】
10,110,220 上衣
11 前面部
12 右前身頃
14 左前身頃
20 第1係止手段
22,122,222 補助布
24,124,224 第2係止手段
26,126,226 縫着部
30,230b 留め具
40 開口部