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特許7446703混合物、プラスチゾル、製品、ポリマー組成物、粘度調整剤、プラスチゾルを製造する方法、混合物を製造する方法、およびポリ塩化ビニルポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】混合物、プラスチゾル、製品、ポリマー組成物、粘度調整剤、プラスチゾルを製造する方法、混合物を製造する方法、およびポリ塩化ビニルポリマー
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/82 20060101AFI20240304BHJP
   C07C 67/02 20060101ALI20240304BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20240304BHJP
   C09K 3/00 20060101ALN20240304BHJP
【FI】
C07C69/82 A CSP
C07C67/02
C08L27/06
C09K3/00 103Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018008247
(22)【出願日】2018-01-22
(65)【公開番号】P2018115161
(43)【公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-11-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】17152394.7
(32)【優先日】2017-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】524012277
【氏名又は名称】エボニック オクセノ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン ベック
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル グラース
(72)【発明者】
【氏名】ベンヤミン ヴォルト
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ フーバー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーネ ブレックス
(72)【発明者】
【氏名】ウルリケ ブルーメンタール
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】齊藤 真由美
【審判官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150940(JP,A)
【文献】特開2016-150939(JP,A)
【文献】特表2013-543917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C, C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸ジイソペンチルおよび可塑剤を含む混合物であって、
テレフタル酸ジイソペンチルは、25モル%超60モル%未満がn-ペンチル基であるペンチル基を含み、
テレフタル酸ジイソペンチルは、少なくとも60モル%が2-メチルブチル基である分岐状の異性体ペンチル基を含み、
前記可塑剤は、アルキルベンゾアート、ジアルキルアジパート、グリセリンエステル、クエン酸トリアルキルエステル、アシル化クエン酸トリアルキルエステル、トリアルキルトリメリタート、グリコールジベンゾアート、フランジカルボン酸のエステル、ジアンヒドロヘキシトールのジアルカノイルエステル及び1,2-、1,3-又は1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のジアルキルエステルからなる群から選択され、
前記混合物は、10℃を上回る温度で1000Pa・s未満の粘度を有し、
テレフタル酸ジイソペンチルと可塑剤との比は、60:40~10:90である、前記混合物。
【請求項2】
前記テレフタル酸ジイソペンチルは、2-メチルブチル基を含み、35モル%超50モル%未満がn-ペンチル基であるペンチル基を含み、
前記テレフタル酸ジイソペンチルは、90未満のベックファクターを有し、
テレフタル酸ジイソペンチルと可塑剤との比は、50:50~20:80である、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
エステル混合物中で結合された分岐状の異性体ペンチル基の少なくとも95モル%が、2-メチルブチル基であり、
前記テレフタル酸ジイソペンチルは、10未満のベックファクターを有し、
テレフタル酸ジイソペンチルと可塑剤との比は、40:60~25:75である、請求項1又は2に記載の混合物。
【請求項4】
-5℃を上回る温度で500Pa・s未満の粘度を有する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の混合物。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の混合物を含む、プラスチゾル。
【請求項6】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の混合物を含む、製品。
【請求項7】
ポリマー組成物中に、可塑剤としての請求項1から4までのいずれか1項に記載の混合物を含むポリマー組成物。
【請求項8】
プラスチゾルの粘度を低下させる及び貯蔵安定性を改善する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の混合物を含む粘度調整剤。
【請求項9】
20℃の周囲温度でポリマーへ請求項1から4までのいずれか1項に記載の混合物を添加する工程を有する、プラスチゾルを製造する方法。
【請求項10】
異性体ペンタノールの混合物とのテレフタル酸のエステル化又はテレフタル酸エステルのエステル交換を行う工程を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の混合物を製造する方法。
【請求項11】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の混合物を含み、アンダーボディー保護、壁装材、人工皮革、ファブリックコーティングおよびフローリングからなる群から選択される製品。
【請求項12】
請求項5に記載のプラスチゾルを含み、アンダーボディー保護、壁装材、人工皮革、ファブリックコーティングおよびフローリングからなる群から選択される製品。
【請求項13】
ポリ塩化ビニルポリマーと、請求項1から4までのいずれか1項に記載の混合物とを含むプラスチゾル
【請求項14】
エステル混合物中で結合された分岐状の異性体ペンチル基の少なくとも95モル%が、2-メチルブチル基である、請求項2に記載の混合物。
【請求項15】
-5℃を上回る温度で1000Pa・s未満の粘度を有する、請求項3に記載の混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレフタル酸ジイソペンチル、その製造、テレフタル酸ジイソペンチルを含む可塑剤混合物、プラスチゾル及び販売品、並びに可塑剤として並びに粘度を低下させるためのテレフタル酸ジイソペンチルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー用の可塑剤の分野において、テレフタル酸エステルは、フタル酸エステルの代用品又は補助品として、すでに数年前から使用されている。その際に、商業的に最も重要なテレフタル酸エステルは、テレフタル酸ジエチルヘキシルであり、これは簡略化してしばしばテレフタル酸ジオクチルとも呼ばれる。8個よりも少ない又は8個よりも多い炭素原子を有するアルコール基を有するテレフタル酸エステルは、先行技術に同様に記載されている。該エステルのアルコール基は、本明細書の範囲内で、(該エステルの)アルキル基とも呼ばれる。
【0003】
該テレフタル酸エステルは、―とりわけ該エステル官能基のアルコール基中の炭素数に依存して―異なる性質を有し、それに応じて、異なる可塑剤用途に多少はよく適している。例えば、より短鎖のテレフタル酸エステルは、傾向上、それらのより長鎖の同族体よりも低い温度でゲル化する。可塑剤の低いゲル化温度は、殊にそのプラスチゾル加工の際の有利な性質である、それというのも、この加工をより低い温度で実施することができ、そのうえ、該加工の際に、高いゲル化温度を有する可塑剤を含有するプラスチゾルの加工の際よりも高い処理量を達成することができるからである。
【0004】
しかしながら、同時に、低い分子量及びそれに応じてアルコール基中の少ない炭素数を有するテレフタル酸エステルは、それらのより重い同族体よりも高い揮発性を有する。可塑剤の高い揮発性は重大な欠点である、それというのも、該可塑剤の漏出の際に、可塑化されたポリマーの性質が変わり、ひいてはその製品の寿命が低下するだけではなく、可塑剤も環境中へ放出されるからである。
【0005】
可塑剤の放出は問題となる、それというのも、例えば室内用途、医療用製品、玩具、ケーブルの分野に及び自動車分野において、製品の商品化のためには、消費者及び環境に必要な安全性を保証するために、製品から漏出する有機化合物の最大量を規制する規格を満たさなければならないからである。そして、例えば建材の健康影響評価委員会(Ausschuss zur gesundheitlichen Bewertung von Bauprodukten, AgBB)は、欧州議会により採択された建材規則(No.305/2011)に合意して、室内における有害物質の回避及び制限を規制する。それに応じて、建材、ひいては可塑剤含有製品も、規格化された測定方法において、排出されるVOC(揮発性有機化合物)及びSVOC(半揮発性有機化合物)について指定の限界値を超えない場合にのみ、健康上の見地から、建物の室内における使用に適している。DIN ISO 16000-6に従って、無極性カラム上でn-C16-パラフィンより大きくn-C22-パラフィンまでの保持範囲内にある有機化合物が、SVOCとして分類される(AgBB―建材からのVOCの評価スキーム、2015年の水準)。許容されるよりも高い排出を伴う製品は、追加措置、例えば塗料からなる排出バリヤー層の塗布が、最大限認められた排出量の超過を防止する場合にのみ、使用することができる。しかしながら、そのような追加措置の必要性は、製品中の該可塑剤の配合の際の自由の余地を低下させ、ひいては、VOC又はSVOCとして分類されうる可塑剤のそれぞれの使用が値上がりする。そのうえ、そのような追加の保護層の必要性によってさらなる困難が生じることがあり、例えば、塗料により保護されたSVOC含有製品の、ひび割れ(Kratzer)又は剥がれに対する感受性が高まる。
【0006】
欧州特許第1808457号明細書(EP 1 808 457 B1)には、アルコール基の最長の炭素鎖中に炭素原子4~5個を有するテレフタル酸エステルが、急速ゲル化性可塑剤として好適であることが開示されている。しかしながら、テレフタル酸ジブチルは、SVOCとして分類されうるものであり、したがって、それらの使用は、上記の欠点と結び付いている。そのうえ、テレフタル酸ジブチルの幾つかの用途に関連した性質は、該ブチル基の異性体分布に有意な程度に依存し、かつテレフタル酸ジブチル含有ペーストの粘度は、貯蔵の際に著しく高まる。双方の性質は、その使用の際に不利な影響を及ぼす。
【0007】
国際公開第2010/071717号(WO 2010/071717 A1)には、C~C-アルコールのテレフタル酸ジエステルが記載されており、かつ明らかに、テレフタル酸ジヘプチルに焦点が当てられている。しかしながら、テレフタル酸ジヘプチルは、テレフタル酸ジペンチルに比べて、明らかにより高い温度でゲル化し、したがって、急速ゲル化剤としてテレフタル酸ジペンチルほど好適ではない。
【0008】
可塑剤の用途に関連した性質は、それらのエステル官能基のアルコール基中の炭素数だけでなく、これらのアルコール基の分岐度にも依存する。例えば、専門書Plasticisers, Principles and Practice, Alan S. Wilson, The Institute of Materials 1995は、フタラートをもとにして、可塑剤が、それらのエステル官能基のアルコール基が平均して低い分岐度を有する場合に、特に有利な性質、殊に低い粘度及びより低いプラスチゾル粘度を有することを説明する。それに一致して、欧州特許第1808457号明細書(EP 1 808 457 B1)は、テレフタル酸エステルを、それらのアルキル基の大部分が線状ペンチル基である場合に有利であると強調する。当業者は、フタラート及びテレフタラートの有利な異性体分布に関するこれらの知識を、同様にエステル官能基を有するその他の可塑剤に転用する。
【0009】
その結果として、可塑剤製造のための線状アルコールの需要は大きい。しかしながら、ヒドロホルミル化生成物におけるそれらの割合は、限度内でのみ制御可能であるので、高い割合の線状アルコールを含有するヒドロホルミル化生成物の価格は通例高い一方、同時に、分岐状可塑剤アルコールと呼ばれる、分岐状ヒドロホルミル化生成物の市場性を探っている。
【0010】
すでに上記で有利であると述べた、可塑剤の低い粘度及び該可塑剤から製造されるプラスチゾルの低いプラスチゾル粘度は、応用技術的に大きく重要である、それというのも、液体は、普通のポンプで、約1000Pa・sの粘度までのみ、確実にポンプ輸送することができるからである。可塑剤又はプラスチゾルが、この限度を上回る粘度を有する場合には、輸送は、高価な特殊ポンプを用いて又はポンプ輸送すべき媒体の粘度を低下させる、高められた温度でのみ、可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】欧州特許第1808457号明細書
【文献】国際公開第2010/071717号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Plasticisers, Principles and Practice, Alan S. Wilson, The Institute of Materials 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
それに応じて、先行技術の上述の欠点の幾つか、好ましくは全てを克服するという課題が本発明の基礎となっていた。
【0014】
好ましくは、その配合の際のできるだけ大きな自由の余地を保証するために、独国又は国際的なガイドラインによって規制された化合物の定義に含まれない、可塑剤が提供されるべきである。その際に、好ましくは、テレフタル酸エステルをベースとする可塑剤が提供されるべきである。
【0015】
該可塑剤は、経済的に興味深いべきである、すなわち高い原料利用を可能にし、同時に好ましくは、できるだけ低い装置コストで加工可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題は、請求項1に記載のテレフタル酸ジイソペンチルによって解決される。
【0017】
本発明の対象は、テレフタル酸ジイソペンチル(DPT)であり、そのペンチル基の60モル%未満がn-ペンチル基である。
【0018】
言い換えると、前記利点は、異性体の分岐状及び非分岐状のペンチル基を有するテレフタル酸ジペンチルの混合物により達成され、該混合物中で、60モル%未満の該ペンチル基は、線状ペンチル基(n-ペンチル基)である。この混合物は、以下に、本発明によるテレフタル酸ジイソペンチル、本発明による(ペンチル)エステル混合物と呼ばれるか、又は略してDPTとも呼ばれる。
【0019】
本明細書の範囲内で、該エステルの該アルコールに由来する基を論ずる場合には、簡略化してしばしばアルキル基と言う。例えば、エステル官能基のペンタノールに由来する基は、簡略化して、ペンチル基と呼ばれる。
【0020】
意外なことに、本発明によるDPTを含有するプラスチゾルが、低いプラスチゾル粘度を有し、そのうえ、該粘度が経時的に低い程度でのみ増加することが見出された。それに応じて、本発明によるDPTを含有するプラスチゾルは、特に貯蔵安定である。双方の性質―低いプラスチゾル粘度並びに良好な貯蔵安定性―が、一方では、該DPTの異性体組成の、請求の範囲に記載された範囲内で際立って有利であり、かつ他方では、この範囲内で意外なことにあまり変化せず、ひいては該異性体分布とはほぼ独立していることが見出された。同じことは、該プラスチゾルのゲル化温度に当てはまる。それゆえ、本発明によるDPTは、その使用を託された当業者にとって、該異性体分布の変動の場合でも及びそのことを同時に知らない場合でさえも、常に有利で確実に予測できる性質を有する。
【0021】
さらに、本発明によるDPT自体が、同様に低い粘度を有し、かつその粘度が、意外に低い温度で初めて、有意に高まることが見出された。このことは、本発明によるDPTの加工を低い装置コストで可能にする、それというのも、該DPTは、低い又は変動する温度でも、通常のポンプによって搬送することができ、かつ該DPTのポンパビリティーを保証するために加熱されたパイプライン及びタンク又は特殊なポンプを必要としないからである。
【0022】
意外なことに、可塑剤中の線状アルキル基の、前記文献に教示された想定される優位性の背景に対して、本発明によれば高い割合の分岐状ペンチル基を有するDPTが有利に使用可能である。このことは、高い割合の分岐状ペンタノールを含有するヒドロホルミル化生成物の経済的及び生態学的に有利な利用を可能にする。
【0023】
ペンチル基の60モル%未満が、線状ペンチル基(n-ペンチル基)である、異性体の分岐状及び非分岐状のペンチル基を有する本発明によるテレフタル酸ジペンチルの混合物は、上記の通常の試験に従って、VOCにもSVOCにも分類されうるものではない、それというのも、含まれる混合物成分のいずれも、n-C22-パラフィンと同じ又はそれより小さいものの保持範囲内ではないからである。その結果、その使用は、―異性体テレフタル酸ジブチルの混合物の使用とは対照的に―、独国又は国際的なガイドラインによって規制されていない。
【0024】
好ましくは、本発明によるDPT中のペンチル基の少なくとも2モル%、好ましくは少なくとも10モル%は、n-ペンチル基である。好ましいテレフタル酸ジイソペンチル中で、該ペンチル基の20モル%超、そのうえ好ましくは該エステル混合物中のペンチル基の22.5モル%超、さらに好ましくは25モル%超、さらに好ましくは27.5モル%超及び殊に30モル%超又は35モル%超が、n-ペンチル基である。
【0025】
線状n-ペンチル基に加えて、本発明によるDPTは、分岐状ペンチル基を含有する。分岐状ペンチル基は、好ましくはメチルブチル基である。それに応じて、該エステル混合物中の分岐状ペンチル基の少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも60モル%、さらに好ましくは少なくとも70モル%、そのうえ好ましくは少なくとも80モル%、極めて特に好ましくは少なくとも90モル%及び殊に少なくとも95モル%が、メチルブチル基からなるDPTが好ましい。
【0026】
有利であるのは、該エステル混合物中の分岐状の異性体ペンチル基が、大きな割合の2-メチルブチル基を有する場合である。したがって、好ましい実施態様において、少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらに好ましくは少なくとも80モル%、特に好ましくは少なくとも90モル%及び殊に少なくとも95モル%の、該エステル混合物中で結合された分岐状の異性体ペンチル基が、2-メチルブチル基である。本発明によるDPTは、含まれる全てのペンチル基を基準として、好ましくは20~95モル%、より好ましくは30~85モル%及び殊に40~75モル%の2-メチルブチル基を有する。
【0027】
本発明の好ましい対象は、テレフタル酸ジイソペンチル(DPT)であり、そのペンチル基の2モル%超かつ60モル%未満がn-ペンチル基であり;このDPT中のその他のペンチル基が、分岐状であり、ここで、それらのうち少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも60モル%及び殊に少なくとも70モル%が、2-メチルブチル基である。本発明によるそのようなDPTは、低い粘度の点で優れており、該粘度は-30℃及びそれ未満への周囲温度の低下の際にも、有意に増加しない。そのようなDPTは、極めて低く、かつ変動する温度でも確実に、低いコストで加工することができる。そのようなDPTの有利性は、例15~19に示される。
【0028】
特に好ましい実施態様において、本発明によるDPTの少なくとも75モル%、さらに好ましくは少なくとも90モル%及び殊に少なくとも95モル%が、―好ましくは専ら―2-メチルブチル基及び/又は線状ペンチル基を有するエステルからなり、その際に、このエステル混合物内の2-メチルブチル基と線状ペンチル基とのモル比は、好ましくは95:5~40:60の範囲内、殊に70:30~40:60の範囲内である。
【0029】
該プラスチゾル中の特に低い粘度は、該エステル混合物中の分岐状の異性体ペンチル基の有意な割合から大きな割合が、3-メチルブチル基からなる場合に達成される。そのような場合に、少なくとも10モル%、好ましくは少なくとも20モル%、より好ましくは少なくとも30モル%、さらに好ましくは少なくとも40モル%、そのうえ好ましくは少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも60モル%、さらに好ましくは少なくとも70モル%、特に好ましくは少なくとも80モル%及び殊に少なくとも90モル%の、該エステル混合物中で結合された分岐状の異性体ペンチル基は、3-メチルブチル基である。本発明によるDPTの少なくとも75モル%及び殊に少なくとも90モル%が、―好ましくは専ら―3-メチルブチル基及び/又は線状ペンチル基を有するエステルからなり、かつその際に3-メチルブチル基と線状ペンチル基とのモル比が、95:5~40:60の範囲内、殊に70:30~40:60の範囲内である場合がさらに有利でありうる。
【0030】
すでに記載されたように、本発明によるDPTは、低い温度まで、低い粘度を有し、それゆえ、幅広い温度範囲にわたって、問題なくかつ追加のコストなしでポンプ輸送できる。好ましいDPTは、10℃を上回る温度で、1000Pa・s未満、好ましくは500Pa・s未満の粘度を有する。該粘度は、有利には、5℃を上回る温度で、好ましくは0℃を上回る温度で及び殊に-5℃を上回る温度で、1000Pa・s未満の値である。該粘度は、好ましくは振動プレート-プレート系によるレオメーターで、好ましくは0.5mmの測定間隙幅で、測定される。特に好ましくは、該粘度は、実験の部の例9に記載されたように測定される。
【0031】
意外なことに、本発明による異性体テレフタル酸ジペンチルの混合物(本発明によるDPT)の大部分が確かに、DSC測定(示差走査熱量測定法)によれば、-10℃を下回る範囲の融点(開始(onset))を有するが、それにもかかわらず、これらの温度及びよりいっそう低い温度で、依然として通常のポンプで搬送可能であるほど十分に低い粘度を有することが見出された。100未満、好ましくは90未満、さらに好ましくは70未満、特に好ましくは50未満及び殊に30未満又はそれどころか10未満のベック(Boeck)ファクターを有する本発明によるDPTが、低い温度でも、低い装置コスト及びエネルギーコストでポンプ輸送できることが見出された。該ベックファクターの決定は、実験の部に説明される。好ましくは、本発明によるDPTのベックファクターは、100未満、好ましくは90未満、より好ましくは50未満、殊に10未満の値である。
【0032】
低い温度でさえも低い粘度の効果は、好ましくは、本発明によるDPTと1種以上の可塑剤との混合物で、殊に少なくとも1種の一次可塑剤との混合物でも生じる。したがって、本発明のさらなる対象は、本発明によるDPTと、少なくとも1種の追加の可塑剤とを含む、混合物である。
【0033】
追加の可塑剤として、アジパート、ベンゾアート、例えばモノベンゾアート又はグリコールジベンゾアート、塩素化炭化水素、シトラート、シクロヘキサンジカルボキシラート、エポキシ化脂肪酸エステル、エポキシ化植物油、エポキシ化アシル化グリセリド、フランジカルボキシラート、ホスファート、フタラート(好ましくはできるだけ少ない量で)、スクシナート、スルホンアミド、スルホナート、テレフタラート、トリメリタート又はアジピン酸、コハク酸若しくはセバシン酸をベースとするオリゴマーエステル若しくはポリマーエステルが考慮に値する。特に好ましいのは、アルキルベンゾアート、ジアルキルアジパート、グリセリンエステル、クエン酸トリアルキルエステル、アシル化クエン酸トリアルキルエステル、トリアルキルトリメリタート、グリコールジベンゾアート、その他のジアルキルテレフタラート、フランジカルボン酸のエステル、ジアンヒドロヘキシトール(例えばイソソルビトール)のジアルカノイルエステル及び1,2-、1,3-又は1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のジアルキルエステルである。特に好ましい実施態様において、該可塑剤の混合物は、5質量%未満及び殊に0.5質量%未満のフタラート含有化合物を含有する。さらに好ましい実施態様において、該追加の可塑剤は、テレフタル酸ジヘプチルではない。
【0034】
本発明によるDPTと追加の可塑剤との量比は、好ましくは80:20~3:97、好ましくは60:40~10:90、特に好ましくは50:50~20:80及び殊に40:60~25:75である。
【0035】
好ましい組み合わせは、シクロヘキサンジカルボン酸の1種以上のエステル、殊に該エステル官能基のアルキル基又はアルコール基が炭素原子8~10個を有するその1,2-、1,3-又は1,4-エステルとの混合物での、本発明によるDPTである。特に好ましくは、本発明によるDPTは、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジイソノニルエステル又はシクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ジイソノニルエステルとの混合物で使用される。
【0036】
好都合であるのは、本発明によるDPTと、エステル官能基のアルキル基又はアルコール基中に炭素原子8~10個を有するテレフタラート、殊にテレフタル酸ジイソノニル又はテレフタル酸ジエチルヘキシルとの組み合わせでもある。有利であるのは、同様に、DPTと、エステル官能基のアルキル基が炭素原子8~10個を含むフラノアートとの組み合わせ、DPTと、フェノールのアルキルスルホン酸エステル又はポリオールエステル、例えばペンタエリトリトール-テトラバレラートとの組み合わせである。
【0037】
一実施態様において、本発明によるDPTは、C~C10-フタラート、殊にC-又はC10-フタラートと組み合わされる。その際に、特に好ましいのは、本発明によるDPTと、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)及び/又はDPHP(フタル酸ジプロピルヘプチル)との組み合わせである。好ましくは、これらの可塑剤混合物は、5質量%未満及び殊に0.5質量%未満のその他のフタラート含有化合物を含有する。
【0038】
本発明のさらなる対象は、本発明によるテレフタル酸ジイソペンチルを含むプラスチゾルである。このプラスチゾルは、上記ですでに記載された利点、殊に低いプラスチゾル粘度及び良好な貯蔵安定性を有する。
【0039】
該プラスチゾルは、好ましくは、1種のポリマー又は複数種のポリマーを含有する。適したポリマーは、好ましくは、ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレン、プロピレン、ブタジエン、酢酸ビニル、グリシジルアクリラート、グリシジルメタクリラート、エチルアクリラート、ブチルアクリラート又は炭素原子1~10個を有する分岐状又は非分岐状のアルコールのアルコキシ基を有するメタクリラート、アクリロニトリル若しくは環式オレフィンをベースとするホモポリマー若しくはコポリマー、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリラート、殊にポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアルキルメタクリラート(PAMA)、ポリ尿素、シリル化ポリマー、フルオロポリマー、殊にポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール、殊にポリビニルブチラール(PVB)、ポリスチレンポリマー、殊にポリスチレン(PS)、発泡性ポリスチレン(EPS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリラート(ASA)、スチレン-アクリロニトリル(SAN)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、スチレン-無水マレイン酸-コポリマー(SMA)、スチレン-メタクリル酸-コポリマー、ポリオレフィン、殊にポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、ポリエチレン-酢酸ビニル(EVA)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリスルフィド(PSu)、バイオポリマー、殊にポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチラール(PHB)、ポリヒドロキシ吉草酸(PHV)、ポリエステル、デンプン、セルロース及びセルロース誘導体、殊にニトロセルロース(NC)、エチルセルロース(EC)、酢酸セルロース(CA)、酢酸/酪酸セルロース(CAB)、ゴム(Gummi)及びシリコーンにより形成される群から選択されている。
【0040】
好ましいポリマーは、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニルとの又はブチルアクリラートとの塩化ビニルのコポリマー、ポリアルキルメタクリラート(PAMA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリウレタン、ポリスルフィド、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチラール(PHB)及びニトロセルロースである。特に好ましいのはPVCである。極めて特に好ましいのは、エマルジョンPVC又はマイクロサスペンションPVCである。
【0041】
好ましくは、該プラスチゾル中の本発明によるDPTの量は、ポリマー100質量部あたり5~120質量部、好ましくは10~100質量部、特に好ましくは15~90質量部及び極めて特に好ましくは20~80質量部である。
【0042】
一実施態様において、該プラスチゾルは、フォームへと加工される。
【0043】
その際に、該プラスチゾルが起泡剤を含有することが好ましい。この起泡剤は、気泡を発生させる化合物であってよく、該化合物は、任意にいわゆる“分解促進剤(Kicker)”と一緒に使用される。そのような分解促進剤として、通例、気泡を発生させる成分の熱分解を触媒し、かつ該起泡剤がガス発生下に反応し、かつ該プラスチゾルを発泡させることをもたらす金属含有化合物を呼ぶ。起泡剤は、発泡剤とも呼ばれる。基本的に、該プラスチゾルを、化学的に(すなわち発泡剤により)又は機械的に(すなわちガス、好ましくは空気の導入により)発泡させることができる。気泡を発生させる成分(発泡剤)として、好ましくは、熱の影響下にガス状成分へ分解し、ひいては該プラスチゾルの膨張を引き起こす化合物が使用される。
【0044】
ポリマーフォームの製造に適した、発泡させるための発泡剤は、無機発泡剤及び有機発泡剤を含めた、公知の発泡剤のあらゆる種類、物理的及び/又は化学的な発泡剤を包含する。
【0045】
化学発泡剤の例は、アゾジカルボンアミド、アゾジイソブチロニトリル、ベンゼンスルホニルヒドラジド、4,4-オキシベンゼンスルホニルセミカルバジド、4,4-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ジフェニルスルホン-3,3-ジスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、N,N-ジメチル-N,N-ジニトロソテレフタルアミド及びトリヒドラジントリアジン、N,N′-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ジニトロソトリメチルトリアミン、炭酸水素ナトリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムとクエン酸との混合物、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、重炭酸カリウム、ジアゾアミノベンゼン、ジアゾアミノトルエン、ヒドラゾジカルボンアミド、ジアゾイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸バリウム及び5-ヒドロキシテトラゾールである。特に好ましくは、使用される発泡剤のうち少なくとも1種が、反応の際にガス状成分、例えばN、CO及びCOを放出するアゾジカルボンアミドである。該発泡剤の分解温度は、該分解促進剤により低下させることができる。
【0046】
機械的に発泡された組成物は、“ホイップフォーム(Schlagschaum)”とも呼ばれる。
【0047】
フォームへの該プラスチゾルの加工とは選択的に、このプラスチゾルは、発泡されずに(すなわち緻密)、例えば、フィルム若しくはシート又はコーティングへと、さらに加工することもできる。好ましいのは、1種以上の異なるプラスチゾルの、多層系への加工であり、該多層系において、1つ以上の層が発泡されたプラスチゾルから、かつ1つ以上の層が発泡されないプラスチゾルから、製造されている。同様に、専ら発泡されたプラスチゾルから、又は選択的に専ら発泡されないプラスチゾルから、製造された多層系が考えられる。この場合に、該層のうち1つのみが、本発明によるDPTを含有するか又は相応する多層系の2つ以上の層が、本発明によるDPTを―任意に1種以上のその他の可塑化する化合物との混合物で―含有することが好ましいことがある。多層系の例は、人工皮革又はCVフロアカバリング(CV=cushion vinyl)である。さらに、プラスチゾルは、手袋へと、玩具、例えば人形の頭部(回転法による)へと、又はアンダーボディー保護(該プラスチゾルを車両下面へ塗布することによる)へも、加工することができる。
【0048】
さらなる加工の種類とは独立して、該プラスチゾルは、添加剤を含有していてよく、該添加剤は、殊に、充填剤/補強剤、顔料、つや消し剤、熱安定剤、可塑化作用を有する共安定剤、酸化防止剤、UV安定剤、共安定剤、溶剤、粘度調整剤、泡安定剤、難燃剤、接着促進剤及び加工助剤もしくはプロセス助剤(例えば滑剤)からなる群から選択されている。
【0049】
すでに記載したように、本発明によるDPTは、可塑剤混合物及びプラスチゾル内部の粘度を低下させるのに特に適している。そのうえ、該DPT含有混合物は、生じるプラスチゾルを含め、改善された貯蔵安定性の点で優れている。したがって、本発明のさらなる対象は、可塑剤混合物又はプラスチゾルの粘度を低下させるため及び/又は貯蔵安定性を改善するための、本発明によるDPTの使用である。
【0050】
低い温度で(例えば-40℃で)も、本発明によるDPTの低い粘度は、特に、気候に制約される建物の外部で、ひいては加熱されない工業プラント中で、多くの原料が高粘度であるか又はそれどころか固体である温度が支配的であるような領域において、有利である。それに応じて、本発明の対象は、不確実に20℃を上回る周囲温度でプラスチゾルを製造する際の本発明によるDPTの使用である。好ましい実施態様において、本発明によるDPTは、不確実に15℃を上回る、10℃を上回る、5℃を上回る、0℃を上回る、-5℃を上回るか又はそれどころか不確実に-10℃を上回る周囲温度でプラスチゾルの製造の際に使用される。本発明の範囲内で、温度が示された値を月に1回のみ又は1年以内に1回のみ下回る場合でも、該温度は不確実に特定の値を上回る。それに応じて、温度が示された値よりも常に高い場合には、該温度は、確実に特定の値を上回る。
【0051】
本発明によるDPTの使用は、煩雑な加熱系及び断熱系の節約並びに高粘度媒体用の特殊なポンプの使用の放棄を可能にする、それというのも、本発明によるDPT並びにこれから製造される可塑剤混合物は、低い温度でも、それらの低い粘度に基づき問題なくポンプ輸送できるからである。
【0052】
本発明によるDPT、このDPTを含む可塑剤混合物又は本発明によるDPTを含むプラスチゾルは、好ましくは、車両用のアンダーボディー保護材料、壁装材、ファブリックコーティング、人工皮革又はフロアカバリング、殊に弾性フロアカバリングへと、さらに加工される。本発明の対象は、本発明によるDPTを含有する製品、殊にアンダーボディー保護、壁装材、ファブリックコーティング、人工皮革又はフロアカバリングである。該製品は、選択的に、本発明によるDPTと少なくとも1種のさらなる可塑剤との混合物又は本発明によるDPTを含むプラスチゾルを含有していてもよい。
【0053】
プラスチゾルから製造されたかどうかとは独立して、該製品は、1種のポリマー又は複数種のポリマーを含有していてよい。適したポリマーは、好ましくは、ポリ塩化ビニル(PVC)、エチレン、プロピレン、ブタジエン、酢酸ビニル、グリシジルアクリラート、グリシジルメタクリラート、エチルアクリラート、ブチルアクリラート又は炭素原子1~10個を有する分岐状又は非分岐状のアルコールのアルコキシ基を有するメタクリラート、アクリロニトリル若しくは環式オレフィンをベースとするホモポリマー若しくはコポリマー、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリラート、殊にポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアルキルメタクリラート(PAMA)、ポリ尿素、シリル化ポリマー、フルオロポリマー、殊にポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール、殊にポリビニルブチラール(PVB)、ポリスチレンポリマー、殊にポリスチレン(PS)、発泡性ポリスチレン(EPS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリラート(ASA)、スチレン-アクリロニトリル(SAN)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、スチレン-無水マレイン酸-コポリマー(SMA)、スチレン-メタクリル酸-コポリマー、ポリオレフィン、殊にポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、ポリエチレン-酢酸ビニル(EVA)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリスルフィド(PSu)、バイオポリマー、殊にポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチラール(PHB)、ポリヒドロキシ吉草酸(PHV)、ポリエステル、デンプン、セルロース及びセルロース誘導体、殊にニトロセルロース(NC)、エチルセルロース(EC)、酢酸セルロース(CA)、酢酸/酪酸セルロース(CAB)、ゴム及びシリコーンにより形成される群から選択されている。
【0054】
好ましいポリマーは、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニルとの又はブチルアクリラートとの塩化ビニルのコポリマー、ポリアルキルメタクリラート(PAMA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリウレタン、ポリスルフィド、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチラール(PHB)及びニトロセルロースである。特に好ましいのはPVCである。極めて特に好ましいのは、エマルジョンPVC又はマイクロサスペンションPVCである。
【0055】
本発明のさらなる対象は、プラスチック組成物における、殊にPVC含有プラスチック組成物における可塑剤としての本発明によるDPTの使用である。
【0056】
本発明によるDPTは、好ましくは、接着剤、シーラント、コーティング材料、ラッカー(Lacken)、ペイント(Farben)、プラスチゾル、フォーム、人工皮革、フロアカバリング(例えば最上層)、ルーフィングシート、アンダーボディー保護、ファブリックコーティング、ケーブル、ワイヤ絶縁、ホース、押出物品、フィルム若しくはシートにおける、自動車室内分野における、壁装材、インキ(Tinten)、玩具、接触シート(Kontaktfolien)、食品包装又は医療用物品、例えばチューブ又は血液バッグにおける、可塑剤として使用される。
【0057】
本発明によるDPTは、好ましくは、プラスチゾルを特に低く、それゆえ好都合な加工温度で製造し、かつさらに加工することを可能にする、急速ゲル化剤として使用される。
【0058】
ポリマー100質量部を基準として、好ましい材料は、5~200質量部、好ましくは10~150質量部の可塑剤を含有する。
【0059】
本発明の対象は、そのうえ、異性体ペンタノールの混合物とのテレフタル酸のエステル化又はテレフタル酸エステルのエステル交換による、本発明によるDPTを製造する方法である。
【0060】
好ましくは、本発明による方法において、15重量%未満、好ましくは10重量%未満、さらに好ましくは5重量%未満及び殊に2重量%未満又は1重量%未満の、5個よりも多い又は5個よりも多い炭素原子を有する、すなわちペンタノールではない、アルコールが使用される。その際に、重量%の記載は、該方法において使用される全てのアルコールの総計を基準としている。
【0061】
本発明による方法において使用されるペンタノール混合物は、好ましくは60モル%未満のn-ペンタノールを含有する。該異性体ペンタノールの混合物中のn-ペンタノールの最小含量は、好ましくは少なくとも2モル%、より好ましくは少なくとも10モル%、さらに好ましくは20モル%超、そのうえ好ましくは22.5モル%超又はそれどころか25モル%超、さらに好ましくは27.5モル%超、30モル%超又はそれどころか35モル%超である。
【0062】
本発明による方法において使用される異性体ペンタノールの混合物中のn-ペンタノール、2-メチルブタノール及び3-メチルブタノールの好ましい量比及び割合は、本発明によるDPTのアルキル基について上記の部分にすでに記載された量比及び割合に相当する。繰り返しを避けるために、上記の記載箇所を参照することができる。
【0063】
特に好ましくは、本発明による方法において、2モル%超かつ60モル%未満のn-ペンタノール及びそれに加えて分岐状アルキル鎖を有するペンタノールを含有する、異性体ペンタノールの混合物が使用され、その際に、―該ペンタノール混合物中に含まれる、分岐状アルキル鎖を有する全てのペンタノールの量を基準として―少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも60モル%、殊に少なくとも70モル%が、2-メチルブタノールである。
【0064】
本発明による混合物がエステル交換により製造される場合には、好ましくは、エステル官能基のアルキル基がそれぞれ4個未満の炭素原子を含む1種又はそれ以上のテレフタル酸エステルが、異性体ペンタノールの混合物とエステル交換される。
【0065】
好ましくは、テレフタル酸ジメチルエステル又はテレフタル酸ジエチルエステル、殊にテレフタル酸ジメチルエステルがエステル交換されて、本発明による異性体テレフタル酸ジペンチルの混合物となる。
【0066】
該エステル化もしくはエステル交換は、好ましくは、1種の触媒又は複数種の触媒の存在下で、例えば触媒としてのブレンステッド酸若しくはルイス酸又はブレンステッド塩基若しくはルイス塩基を使用しながら、実施される。特に適した触媒として、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸及び金属化合物が判明している。特に好ましい触媒の例は、スズ粉末、酸化スズ(II)、シュウ酸スズ(II)、チタン触媒、例えばテトライソプロピルオルトチタナート、テトラブチルオルトチタナート又はテトラペンチルオルトチタナート並びにジルコニウムエステル、例えばテトラブチルジルコナート又はテトラペンチルジルコナートである。特に好ましい塩基性触媒の例は、アルコラート、例えばナトリウムメタノラート及びカリウムメタノラートである。
【0067】
該反応の際に生じる平衡を、本発明による混合物に有利なように移動させるために、該エステル化の際に生じる水もしくは該エステル交換の際に生じるアルコールを、該反応混合物から留去することが有利でありうる。好ましくは、水及びアルコールのアゼオトロープが留去される。考えられる発泡に基づき、ここでは、塔を用いて操作することができる。
【0068】
そのうえ、該異性体ペンタノールの混合物を全体で過剰量で使用することが有利でありうる。好ましくは、該異性体ペンタノールの混合物は、本発明によるテレフタル酸ジペンチルの混合物の形成に必要なモル量の5~50モル%、殊に9~30モル%の過剰量で使用される。好ましくは、該反応の終了後に残っている過剰アルコールは、さらなるエステル化若しくはエステル交換又はその他の化学反応に再使用される。このためには、該過剰アルコールは、その純度を高めるために後処理することができる。そして、例えば、留去されたアルコール-水アゼオトロープを少なくとも部分的に凝縮し、該凝縮物を水相と有機相とに分離し、該有機相から望ましくない副生物を―例えば該アルコールからの脱水により形成されたオレフィンを―分離し、その後に、ついで精製された有機相を再び該反応系中へ返送するか又はその他の反応のため又はその他の目的に使用することが可能である。
【0069】
そのうえ、該エステル化もしくはエステル交換の反応混合物を、過熱したアルコール蒸気で処理することが可能である。これにより、その他の媒体による該エネルギー入力の一部を節約することができ、並びに該反応媒体の良好な混合を達成することができる。
【0070】
該エネルギー節約のその他の可能性は、周囲温度を上回る温度を有する、例えば40℃又は60℃を有する異性体ペンタノールの混合物を該反応系中へ供給することにある。テレフタル酸ジメチルエステルも、高められた温度を有して、好ましくは溶融物として、本発明による方法において使用することができる。該エネルギー入力の利点に加えて、そのうえ、この手法は、該反応媒体のより良好な混合及び迅速に進行する反応を可能にする。
【0071】
該エステル化又はエステル交換の終了後に、それそれの該反応混合物は、通常のやり方で後処理される。そして、例えば、その粗製エステルを、その支配的な温度での水の蒸気圧と少なくとも同じ大きさの高められた圧力で、水性塩基で処理することが可能である。この方法実施は、良好なフィルタラビリティの反応混合物を得ることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】例1~8からのエステル混合物の低温粘度を示す図。
図2】DPTのDSC(0%n、↑吸熱)。
図3】DPTのDSC(21%n、↑吸熱)。
図4】DPTのDSC(38%n、↑吸熱)。
図5】DPTのDSC(53%n、↑吸熱)。
図6】DPTのDSC(58%n、↑吸熱)。
図7】DPTのDSC(77%n、↑吸熱)。
図8】DPTのDSC(100%n、↑吸熱)。
図9】25℃で7日間の貯蔵後のプラスチゾル粘度を示す図。
図10】プラスチゾルの増粘を示す図。
図11】例15~19からのエステル混合物の低温粘度を示す図。
【実施例
【0073】
例1~8:エステル混合物の製造
撹拌機、温度計、蒸留頭と受器フラスコとを有する取り付けた20cmのラシヒリング塔並びに取り付けた滴下漏斗を有する浸漬管を有する反応フラスコを含む装置中へ、テレフタル酸ジメチル485g(2.5モル、純度 99.9%)及びアルコールA mav及びアルコールB mbvを充填した。該装置を、該浸漬管を通じて窒素(6 l/h)で1時間すすいだ。引き続き、テトラ-n-ブチルチタナート0.43g(1.25・10-3モル、Sigma Aldrich、純度 >97%)を添加した。この反応混合物を、撹拌しながら沸騰温度まで加熱した。この時点からメタノールが生じ、これを、連続的に該蒸留頭を経て、この反応から除去した。該メタノール除去を、65~68℃の頭部温度で行った。68℃を上回ると、メタノールは該系から除去されなかった。引き続き、さらなるアルコールA man及びアルコールB mbnを該滴下漏斗及び該浸漬管を通じて配量したので、その反応温度は200℃未満に低下しなかった。該エステル交換の過程で、メタノール160g(5モル)が生じた。
【0074】
アルコールを完全に添加した後に、1時間ごとに試料を該反応から採取し、かつガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフィーにより0.5面積%未満のモノメチル混合エステルが検出されると直ちに、加熱を止め、ゆっくりと真空を適用した(最終真空1mbar)。最終真空に達した後に、ゆっくりと160℃まで加熱した。該過剰アルコールの除去が行われた後に、加熱を止め、該反応混合物を真空下かつ窒素の導通下に、80℃に冷却した。引き続き、この温度でその粗生成物の酸価を測定した。
【0075】
該粗生成物を、化学量論量の3倍の10%苛性ソーダ液(酸の物質量を基準として)と混合し、窒素下で80℃で15分間撹拌した。引き続き、真空下で160℃に加熱し、窒素を連続的に導通しながら、含まれる痕跡量の低沸成分を除去した。この際に、1時間ごとに試料を採取し、かつガスクロマトグラフィーにより分析した。ガスクロマトグラフィーにより該試料中で0.025面積%未満の残留アルコールに達した後に、該生成物を改めて80℃に冷却し、かつろ紙と、ろ過助剤(PerliteタイプD14)からなる予め圧縮したろ過ケークとを備えたブフナー漏斗を通して、真空により吸引瓶中へろ過した。そのろ液について再びガスクロマトグラフィー分析を実施し、該分析に基づき、その生成物の純度(R)及び組成を分析した。
【0076】
第1表:合成及び得られたエステル混合物の詳細(例1~8)
【表1】
【0077】
2-メチルプロパノール:Oxea社、純度 >99.5%
n-ブタノール:Sigma Aldrich社、純度 >99%
2-メチルブタノール:Sigma Aldrich社、純度 >99.9%
n-ペンタノール:Sigma Aldrich社、純度 >99.9%。
【0078】
該ペンチルエステル混合物もしくは該ブチルエステル混合物の組成の算出は、H-NMR及び13C-NMRによって行うことができる。該NMR分光調査は、原則的に、市販のあらゆるNMR機器を用いて実施することができる。
【0079】
当該場合に、該混合物の組成を、H-NMR分光法によって、重水素化クロロホルム(CDCl)中の該エステルの溶液について測定した。該スペクトルの記録のために、物質20mgをCDCl 0.6ml(TMS 1質量%を含有する)中に溶解させ、かつ5mmの直径を有するNMR管中へ充填した。当該NMR分光調査のために、Bruker社のタイプAvance 500の機器を使用した。該スペクトルを、300Kの温度で、d1=5秒の遅れ(Verzoegerung)、32スキャン(Durchgaenge)、約9.5μsのパルス長(励起パルス90°)及び10000Hzの掃引幅(Sweep Width, 分光幅)で、5mm BBOプローブヘッド(ブロードバンドオブザーバー;Breitbandbeobachtung)を用いて記録した。該共鳴信号を、内標準としてのテトラメチルシラン(TMS=0ppm)の化学シフトに対して記録した。その他の市販のNMR機器を用いても、同じ操作パラメーターで比較可能な結果が得られる。
【0080】
【化1】
該混合物の得られたH-NMRスペクトルは、4.0~4.5ppmの範囲で共鳴信号を有し、該共鳴信号は、そのアルコールもしくはそのアルコール基の酸素に直接隣接したメチレン基の水素原子の信号により形成される(C及びC14;C26及びC30)。この際に、C及びC26上のプロトンは、C14及びC30のプロトン(4.10~4.25ppmの間の多重線)よりも強い低磁場シフト(約4.35ppmでの三重線)を受ける。その定量化は、それぞれの共鳴信号の下の面積、すなわち、ベースラインからの信号によって囲まれた面積の比較測定により行われる。市販のNMR機器は、該信号面積の積分のためのデバイスを有する。当該NMR分光調査において、該積分をソフトウェアTopSpin(登録商標)、Version 3.1を用いて実施した。それぞれの該エステル混合物内部の該線状アルキル基の割合は、次の計算によって推論することができる。
【数1】
【0081】
第2表:調べたエステル混合物及び線状アルキル基の割合[NMRによるモル%]
【表2】
【0082】
第2表からのエステル混合物を、用途に関連した性質に関して調べた。
【0083】
例9:例1~8からのエステル混合物の低温粘度
該エステル混合物の粘度を、レオメーターPhysica MCR 302(Anton Paar Germany GmbH社)で測定した。該レオメーターは、標準装備品に加えて、次の追加ユニットを有する:
温度調節ユニット:CTD 450、Anton Paar Germany GmbH社
測定系:PP 25プレート-プレート系、Anton Paar Germany GmbH社
窒素蒸発器:EVU 10、Anton Paar Germany GmbH社
対応温度調節サーモスタット:Viscotherm VT2、Anton Paar Germany GmbH社
窒素容器:Apollo 100、Cryotherm GmbH & Co KG。
【0084】
該測定を25℃で開始した。該プレート-プレート測定系を、ゼロ点を設定した後に、0.5mmの測定間隙幅へ調節した。使い捨てピペットを用いて、該試料を該プレート系上へ適用した。縁部の位置において、該測定間隙が十分な試料で充填されているかどうかを調べた。該温度調節ユニットCTD 450を閉じ、かつそのサーモスタットにより、該温度調節ユニットのジャケットを23℃に調節した。
【0085】
次のパラメーターを有する測定プログラムを、該ソフトウェアにおいて作製した:
フェーズ1
時間設定値 78測定点、フェーズ期間 13分
測定プロファイル
- 変形 振幅 γ 0.1%;周波数f=10Hz
- 法線力 F=0N
- 温度 T[-1]=+25……-40℃ 線形
フェーズ2
時間設定値 3測定点、フェーズ期間 3分
測定プロファイル
- 法線力 F=0N
- 温度 T[-1]=-40℃
フェーズ3
時間設定値 78測定点、フェーズ期間 13分
測定プロファイル
- 変形 振幅 γ 0.1%;周波数f=10Hz
- 法線力 F=0N
- 温度 T[-1]=-40……+25℃ 線形。
【0086】
その液体窒素温度調節を用いて、該CTD 450を目下25℃に温度調節した。該測定を、温度を1分間一定にした後に、25℃±1℃でスタートした。
【0087】
該粘度の評価を、レオロジーソフトウェアRheoplus 3.6.1によって行った。まず最初に、該曲線から、評価プログラムにおいて自動化された評価モジュール“スムージング”及び“マージング”により、測定誤差を取り除いた。さらなる評価ステップ“内挿”により、1000Pa・sでの温度を次のように決定した:平滑化された該曲線の“粘度の値”(y軸)に対する温度(x軸)の対数的な内挿。第3表には、このようにして決定された、該エステル混合物が1000Pa・sの粘度を有する温度が、まとめられている。
【0088】
線状ブチル基28%を有するテレフタル酸のブチルエステル混合物(DBT 28 % n、例8)は、25℃を上回る融点を有する。したがって、その低温粘度の測定を省略した。
【0089】
測定フェーズ3において得られた粘度値を、その温度に対してプロットした(図1)。図1からは、次の情報を読み取ることができる:
- 線状ペンチル基38%、53%及び58%を有する、調べたペンチルエステル混合物(DPT 38 % n、DPT 53 % n、DPT 58 % n)は、調べた温度範囲(-40℃(+該冷却の過負荷(Uebersteuerung))ないし25℃)内で粘度の特記すべき変化を示さない。該粘度は、一貫して100Pa・sを下回る値である。該エステル混合物は、それゆえ全ての温度範囲内で問題なくポンプ輸送できる。
- 線状ペンチル基21%を有するペンチルエステル混合物(DPT 21 % n)は、温めた際に(-32℃で)初めて凝固し(おそらく動力学的因子に基づく)、ついで、約5℃で再び液状化する(1000Pa・sを下回る粘度)。
- 線状ペンチル基77%を有するペンチルエステル混合物(DPT 77 % n)は、約3℃で液状化する(1000Pa・s未満の粘度)。
- 線状ブチル基54%もしくは78%を有するブチルエステル混合物(DBT 54 % nもしくはDBT 78 % n)は、約-5℃でもしくは約0℃で液状化する(1000Pa・s未満の粘度)。
- ショルダーの説明:可変の測定間隙での該試料の密度変化に基づく変動(測定系の法線力F=0)。
【0090】
第3表:内挿からの1000Pa・sの粘度に達した際の温度
【表3】
【0091】
例10:多様なテレフタル酸ジペンチル混合物のDSC
該DSC測定(示差走査熱量測定法、英語:Differential Scanning Calorimetry)は、定評のあるBoersma又は熱流の原理に基づいており、該原理において試料及び参照の熱流束が比較される。高感度セラミックセンサは、該熱流の差の測定に利用される。この原理を用いて、該試料中の極めて小さい熱変化を算出することができる。例えば、ガラス転移、融解転移、結晶化転移、沸騰転移又は分解転移を測定することができる。熱転移が隣り合ってくっついていることも珍しくない。幾つかの測定パラメーターの変化により、これらを分類することができる。
【0092】
該試料を、アルミニウム容器中で窒素下で、Mettler Toledo社のDSC 1を用いて次の設定下で測定した:
ドライガス 窒素(乾燥ガス):約45l/分
ガス 窒素(パージガス):約180l/分
冷却:液体窒素(補助容器 1.5bar)
方法:再結晶
[ 1] 25.0から-80.0℃、-1.0K/分
[ 2] -80.0から-120.0℃、-25.0K/分
[ 3] -120.0℃、3.00分
[ 4] -120.0から100.0℃、10.0K/分
[ 5] 100から25.0℃、-30.0K/分。
【0093】
同期化された加熱曲線は、図2~8として見出される。試料1gあたりの熱流[ワット]は、その温度[℃]に応じてプロットされている(↑吸熱)。該曲線の評価は、第4表において予測値と対比されている。
【0094】
第4表:テレフタル酸ジペンチル混合物のDSC評価
【表4】
【0095】
1:予測される融解エンタルピーHerwの計算:
【数2】
ここで
PT:テレフタル酸ジ-n-ペンチルの融解エンタルピー
ペンチル:それぞれのDPT中の全てのペンチル基におけるn-ペンチル基のモル分率
D(2-メチルブチル)PT:テレフタル酸ジ(2-メチルブチル)の融解エンタルピー
2-メチルブチル:それぞれのDPT中の全てのペンチル基における2-メチルブチル基のモル分率
2:ベックファクターBFの計算:
【数3】
ここで
erw:1に記載されたようにして計算
gem:測定されたエンタルピー
(該表中に示された温度での)。
【0096】
例11:エステル混合物の凝固挙動及び混濁挙動
液状物質の凝固挙動の測定は、ISO 1392に従って行い、かつOECDによる凍結温度法(ガイドライン102、19節)もしくはEU試験方法A.1(1.4.3節)に大体において対応する。該凝固挙動は、該液状試料の撹拌しながらの冷却及びその温度の記録により算出される。該試料又は試料の一部が凝固する際に、その温度が短時間一定にとどまる。この“温度プラトー”が記録される。該凝固挙動の測定のために、試料液体10mlをその試料容器中へ装入し、該熱電対を該液体中へ浸漬し、かつマグネチックスターラーによって撹拌した。該サーモスタットを-50℃に設定し、該試料を冷却した。該冷却のために、標準プログラムにおいて操作される、冷却剤エタノールを用いるJulabo FN32が使用される。該冷却中に、該温度を記録した。2回の有効な測定を実施し、かつその平均値を第5表に記入した。
【0097】
その曇り点をDIN EN 23015に従って測定した。この規格は、厳密な意味で、石油製品のみに適用され、かつ石油製品の曇り点の測定方法を規定する。該曇り点は、“液体を規定された試験条件下で冷却する際に、その液体中で初めてパラフィン結晶の曇り(混濁)が生じる温度”である(DIN EN 23015:1994)。
第5表に示された曇り点は、初めて混濁が試料容器中で観察された温度に相当する。
【0098】
第5表:該エステル混合物の凝固挙動及び曇り点
【表5】
【0099】
例12:プラスチゾル製造
例えばフロアカバリング用のトップコートフィルムの製造に使用されるような、PVCプラスチゾルを製造した。該プラスチゾルの配合は、第6表に記載されている。
【0100】
第6表:プラスチゾル配合
【表6】
【0101】
まず最初に、該液状成分、ついで粉末状成分をPEカップ中へ量り入れた。該PEカップ中へ添加する前に、該テレフタル酸ジブチル(DBT 28 % n)は溶融しておいたのに対し、その他の可塑剤は、その添加前に25℃に温度調節しておいた。手で、該混合物を、濡れていない粉末がもはや存在しなくなるように、軟膏へらで混ぜ込んだ。該混合カップを、ついで、ディソルバー撹拌機(Kreiss社)の排気容器のクランプ装置へ装着した。該撹拌機を該混合物中へ浸漬した後に、該排気ユニットを閉じ、かつ真空ポンプを用いて20mbarを下回る負圧を発生させた。該混合物を撹拌し、その際に、その回転数を、約400rpmから2000rpmに高めた。その温度センサのデジタル示度の温度が30℃に達するまで、高い回転数で撹拌した。そのため、定義されたエネルギー入力での該プラスチゾルの均質化が達成されることが保証されていた。その後、該回転数を再び400rpmに低下させ、かつ該プラスチゾルをさらに9分間脱気した。脱気後に、まず最初に該撹拌機を止め、かつその排気容器を、再び室内圧に同化させた。完成したプラスチゾルを、直ちにさらなる調査のために恒温恒湿室中で25℃に温度調節した。
【0102】
例13:プラスチゾルのゲル化温度
該プラスチゾルのゲル化挙動の調査を、レオメーターPhysica MCR 101(Anton Paar Germany GmbH社)で振動モードにおいてプレート-プレート測定系(PP25)を用いて行った。追加の温度調節フードを、均質な熱分布及び均一な試料温度を達成するために、該機器に接続した。
【0103】
次のパラメーターを設定した:
モード:温度-勾配
開始温度:25℃
終了温度:180℃
加熱/冷却速度:5℃/分
振動周波数:4~0.1Hz 対数的なランプ(Rampe)
角周波数ω:10s-1
測定点の数:63
測定点期間:0.5分
自動的な間隙追従F:0N
一定の測定点期間
間隙幅 0.5mm。
【0104】
該測定の実施:
該測定系の下部プレート上へ、該へらを用いて、測定すべきプラスチゾル数gを気泡不含で適用した。その際に、該測定系をかみ合わせた(Zusammenfahren)後に、幾分プラスチゾルが該測定系から均一に勢いよくはみ出うることに注意した(周囲に6mm以下)。引き続き、該温度調節フードを、該試料の上に置き、かつ該測定をスタートした。該プラスチゾルのいわゆる複素粘性率を、24h後(Memmert社の温度調節庫中で25℃での該プラスチゾルの貯蔵後)に、その温度に応じて測定した。
【0105】
該複素弾性率の明らかな上昇を該ゲル化の尺度とみなした。したがって、比較値として、1000Pa・sのプラスチゾル粘度に達した際の温度を使用した。
【0106】
第7表:24h後のプラスチゾルのゲル化、1000Pa・sのプラスチゾル粘度に達した際の温度[℃](略して:ゲル化温度)
【表7】
【0107】
該ペンチルエステルのプラスチゾルは、該ペンチル基の異性体分布とは独立した、あまり変わらないゲル化温度を有するのに対し、該ブチルエステルのプラスチゾルのゲル化温度は、明らかにより大きな範囲にわたってばらつく。
【0108】
例14:プラスチゾル粘度の測定
例12において製造されたプラスチゾルの粘度の測定を、レオメーターPhysica MCR 301(Anton Paar Germany GmbH社)で、付属の“Rheoplus Software”を用いて、次のように実施した。
【0109】
該プラスチゾルを、貯蔵容器中でもう一度へらを用いてかき混ぜ、かつ測定系Z3(DIN 25 mm)において操作説明書に従って測定した。該測定は、25℃で、上述のソフトウェアを介して自動的に進行した。次の点を制御した:
60sの期間にわたる100s-1の予備せん断、その際に測定値は記録しなかった。
200s-1で始めてそれから下へ0.1s-1までの下向きのランプ、それぞれ5sの測定点期間での30段の対数級数へ分割される。
【0110】
該測定データの処理を、該測定後に自動的に該ソフトウェアによって実施した。該粘度は、そのせん断速度に応じて示された。該測定をそれぞれ、2h、24h及び7日後に実施した。これらの時点の間で、該ペーストを25℃で貯蔵した。
【0111】
該測定の結果は、図9及び10に示されている。図9は、25℃で7日間の貯蔵後の個々の該ペーストのプラスチゾル粘度を、そのせん断速度に応じて図示する。図10は、それぞれ1日間の及び7日間の貯蔵(25℃で)後の該プラスチゾル粘度の変化を、それらの製造後に、2時間のみ25℃に温度調節されたプラスチゾルの、1s-1、10s-1及び100s-1のせん断速度での粘度に基づいて、%で示し(%での表示)、そのため、該プラスチゾルの増粘挙動による言明を可能にする。
【0112】
該ペンチルエステル混合物のプラスチゾルは、貯蔵後に、該ブチルエステル混合物のプラスチゾルに比べて、より低い粘度を有する。そのうえ、該ペンチルエステル-プラスチゾルの粘度は、―該ペンチル基の異性体分布とは独立して―高い一致性の点で優れている(図9)。7日以内に、該ペンチルエステル-プラスチゾルは、130%未満で増粘するのに対して、該ブチルエステル-プラスチゾルが、例外なく、はるかにより高い増粘傾向を有する(図10)。それゆえ、該ペンチルエステル-プラスチゾルは、該ブチルエステル-プラスチゾルと比べて、その時間に応じて並びに該アルキル基の異性体分布に応じて、より一定で、ひいてはより確実な性質の点で優れている。
【0113】
例15~19:さらなるエステル混合物の製造
例1~8からのエステルの製造に類似して、さらなるエステル混合物を合成し、その際に、使用されるアルコール混合物は、アルコールAを量mavで、アルコールBを量mbvで及びアルコールCを量mcvで、含有していた。これらの例の場合に、―例1~5の場合と同じように―全てのアルコール量を最初に使用し、かつ例6~8の製造の場合とは異なり、アルコール(例1~8の記載及び第1表におけるman及びmbnに相当)を該反応の開始後に配量しなかった(man、mbn及び類似のmcnは、それに応じて、例15~19において0に等しく、したがって第8表に挙げられていない)。実験15~19において、テトラ-n-ブチルチタナート0.85g(Sigma Aldrich、純度 >97%)を使用した。例1~8に記載された方法への追加の変更は実施しなかった。
【0114】
第8表:合成及び得られたエステル混合物の詳細(例15~19)
【表8】
2-メチルブタノール:Sigma Aldrich社、純度 >99.9%
3-メチルブタノール:Sigma Aldrich社、純度 >98.5%
n-ペンタノール:Sigma Aldrich社、純度 >99.9%。
【0115】
該エステル混合物の組成の算出を、例1~8に記載されたように、NMRによって実施した。その定量評価を、H-NMRにより行った。
【0116】
該エステル混合物中のn-ペンチル基、2-メチルブチル基及び3-メチルブチル基の定量化は、H-NMRにおけるそのOCH基の信号の下の該面積の測定により達成される。これらの信号は、該n-ペンチル基について約4.25ppm(三重線)、該2-メチルブチル基について約4.04~4.17ppm(多重線)及び該3-メチルブチル基について約4.29ppm(三重線)にある。該エステル混合物中のそれぞれのアルキル基の割合は、3つ全てのアルキル基の信号の下の面積の総計により除したそれぞれ考慮されるアルキル基の信号面積に相当する。
【0117】
第9表:例15~19からのエステル混合物中の異なるアルキル基の割合[NMRによるモル%]
【表9】
【0118】
例20:例15~19からのエステル混合物の低温粘度
例15~19からのエステル混合物の粘度を、例9に記載されたように、同じハードウェア及びソフトウェアを使用して、測定した。例9に記載された方法との唯一の相違として、測定フェーズ2において、13分のフェーズ期間を選択した。
【0119】
例9のように、ここでも、測定フェーズ3において得られた粘度値を、その温度に対してプロットした(図11)。図11からは、次の情報を読み取ることができる:
- 該分岐状エステル基における該2-メチルブチル基の割合が、78.1%(例19)、84.5%(例18)及び78.0%(例17)である、調べたペンチルエステル混合物は、調べた温度範囲(-40℃(+該冷却の過負荷)ないし25℃)内で粘度の特記すべき変化を示さない。該粘度は、一貫して100Pa・sを下回る値である。該エステル混合物は、それゆえ全ての温度範囲内で問題なくポンプ輸送できる。
- 該分岐状エステル基における2-メチルブチル基54.0%の割合を有するペンチルエステル混合物(例16)及び専ら線状のペンチル基及び3-メチルブチル基を含有する混合物(例15)は、低い温度で固体であり、かつ約-15.5℃(例16)もしくは約-4℃(例15)で液状化する(1000Pa・s未満の粘度)。
- ショルダーの説明:可変の測定間隙での該試料の密度変化に基づく変動(測定系の法線力F=0)。
【0120】
第10表:内挿からの1000Pa・sの粘度に達した際の温度
【表10】
【0121】
本発明の好ましい態様は次のとおりである:
1. ペンチル基の60モル%未満がn-ペンチル基である、テレフタル酸ジイソペンチル。
2. ペンチル基の25モル%超がn-ペンチル基である、態様1に記載のテレフタル酸ジイソペンチル。
3. エステル混合物中で結合された分岐状の異性体ペンチル基の少なくとも50モル%が、2-メチルブチル基であることを特徴とする、態様1又は2に記載のテレフタル酸ジイソペンチル。
4. 10℃を上回る温度で1000Pa・s未満の粘度を有することを特徴とする、態様1から3までのいずれか1つに記載のテレフタル酸ジイソペンチル。
5. 態様1から4までのいずれか1つに記載のテレフタル酸ジイソペンチルと、少なくとも1種の追加の可塑剤とを含む、混合物。
6. 態様1から4までのいずれか1つに記載のテレフタル酸ジイソペンチルを含む、プラスチゾル。
7. 態様1から4までのいずれか1つに記載のテレフタル酸ジイソペンチル、態様5に記載の混合物又は態様6に記載のプラスチゾルを含む、製品、殊にアンダーボディー保護、壁装材、人工皮革、ファブリックコーティング又はフローリング。
8. プラスチック組成物、殊にPVC含有プラスチック組成物における、可塑剤としての、態様1から4までのいずれか1つに記載のテレフタル酸ジイソペンチルの使用。
9. プラスチゾルの粘度を低下させるため及び/又は貯蔵安定性を改善するための、態様1から4までのいずれか1つに記載のテレフタル酸ジイソペンチルの使用。
10. プラスチゾルを不確実に20℃を上回る周囲温度で製造する際の、態様1から4までのいずれか1つに記載のテレフタル酸ジイソペンチルの使用。
11. 態様1から4までのいずれか1つに記載のテレフタル酸ジイソペンチルを、異性体ペンタノールの混合物とのテレフタル酸のエステル化又はテレフタル酸エステルのエステル交換によって、製造する方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11