(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】測定装置、測定方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/47 20060101AFI20240304BHJP
G01N 21/57 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
G01N21/47 B
G01N21/57
(21)【出願番号】P 2019121611
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】加藤 成樹
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-126408(JP,A)
【文献】特開2011-218563(JP,A)
【文献】特開2017-026466(JP,A)
【文献】特開2007-033099(JP,A)
【文献】特開2006-170782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00- G01N 21/01
G01N 21/17- G01N 21/61
G01N 21/84- G01N 21/958
G01B 11/00- G01B 11/30
G01J 1/02- G01J 1/04
G01J 1/42- G01J 1/46
G01J 3/00- G01J 3/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検面の反射特性を測定する測定装置であって、
光源からの光で前記被検面を照明する照明部と、
前記照明部により照明された前記被検面からの反射光を検出する検出部と、
前記検出部によって検出された前記反射光に基づいて、拡散度合を示す情報を取得するとともに、正反射光の光量の情報および正反射方向周辺の光量の情報を取得し、前記拡散度合を示す情報、前記正反射光の光量の情報、および、前記正反射方向周辺の光量の情報を重み付け演算することによって像鮮明性に関する評価値を算出する処理部と、を含み、
前記拡散度合を示す情報は、前記検出部によって検出された反射光分布に基づいて得られたBRDFの波形の幅の値、写像性測定値、または、DOI測定値を含
み、
前記処理部は、前記重み付けをコントラスト値と像明るさの情報を含む数値をべき乗することで行うことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記照明部により照明された前記被検面からの反射光分布を検出し、
前記処理部は、前記検出部によって検出された前記反射光分布に基づいて、前記拡散度合を示す情報を取得することを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記被検面からの反射光に基づいて得られたBRDFの情報に基づき、前記正反射光の光量の情報、および、前記正反射方向周辺の光量の情報の少なくとも一方を算出することを特徴とする請求項1
又は2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記正反射光の光量の情報はグロス値を含み、前記正反射方向周辺の光量の情報はヘーズ値を含むことを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項5】
前記処理部は、
算出された前
記像鮮明性に
関する評価値
を対数で変換することを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記処理部は、前記重み付けに用いる係数を前記被検面の性質、測定環境、および、測定目的の少なくとも1つに基づいて設定することを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記処理部は、前記重み付けに用いる係数の組み合わせを複数セット用意し、モード設定によって前記複数セットの中の対応する一つのセットを選択可能としたことを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項8】
前記モードは、屋外環境を想定した屋外モードと、屋内環境を想定した屋内モードのうち少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項
7に記載の測定装置。
【請求項9】
前記処理部は、前記重み付けに用いる係数のセットを追加設定するための設定手段を有することを特徴とする請求項
7または
8に記載の測定装置。
【請求項10】
被検面の反射特性を測定する測定方法であって、
照明部によって照明された前記被検面からの反射光を検出し、
検出された前記反射光に基づいて、拡散度合を示す情報を取得するとともに、正反射光の光量の情報および正反射方向周辺の光量の情報を取得し、前記拡散度合を示す情報、前記正反射光の光量の情報、および、前記正反射方向周辺の光量の情報を重み付け演算することによって像鮮明性に関する評価値を算出し、
前記拡散度合を示す情報は、前記検出された反射光分布に基づいて得られたBRDFの波形の幅の値、写像性測定値、または、DOI測定値を含
み、
前記重み付けをコントラスト値と像明るさの情報を含む数値をべき乗することで行うことを特徴とする測定方法。
【請求項11】
請求項1
0に記載の測定方法の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置、測定方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から物の外観を測定することは重要な命題であり、JISやISOでは光沢等、物体表面(被検面)の反射特性を測定する為の規格が設けられている。人は物の映り込みから質感を判断することから、映り込みの明るさ、換言すると像明るさを示す鏡面光沢度(グロス値)を測定する為の規格としてJIS Z 8741等が定められている。映り込み像まわりの曇り度合(像の不鮮明性とも言う)を表すヘーズ値を測定する規格として、ISO13803、ASTM E 430等が定められている。さらに、映り込み像の鮮鋭さを表す写像性(像鮮明性)を測定する規格として、国内ではJIS K 7374、JIS H 8686等、海外ではASTM E 430、ASTM D 5767等が定められている。また、それぞれの規格には質感の表現において影響する項目が異なるため、観察者(ユーザ)は状況に応じて上記の中から最適な規格を選択し、反射特性を測定する必要がある。
【0003】
図9はJIS Z 8741に規定されている鏡面光沢度(グロス値)の測定法を示す。光源1からの光束は、レンズ2によりスリット31上におおよそ集光され、スリット31により規定の開き角を有する矩形の2次光源が形成される。スリット31からの光束は、レンズ41によりおおよそ平行光束とされ、被検面10に照射される。被検面10で反射された光は、被検面10の状態により特有の反射パターンとなり、レンズ42により再び集光され、スリット31の像が受光スリット32上に形成される。受光スリット32を通過した光は、受光素子100に入射し、受光素子100から光電信号として出力される。
図9の鏡面光沢度を測定する装置は、被検面10で反射した光量と、予め測定された基準面での反射光量との相対強度を用いて被検面10の光沢を算出する。
図9の鏡面光沢度を測定する装置は、光源の写り込みの明るさを定義している。
【0004】
図10は、ASTM E 430に規定されるヘーズ(値)を測定する装置の構成を示している。光源1からの光束はレンズ2によりおおよそ集光され、規格で規定された開き角に設定されたスリット31上におおよそ集光され、スリット31により規定の開き角の2次光源が構成される。スリット31からの光束はレンズ41によりおおよそ平行光とされ、被検面10に照射される。被検面10で反射された光は、被検面10の状態により特有の反射パターンとなり、レンズ42により再び集光され、スリット31の像が受光スリット33上に形成される。受光スリット33を通過した光は、それぞれに対応した受光素子に入射し光電信号として出力される。
【0005】
図11は、JIS K 7374で規定される写像性の試験方法で用いられる装置の構成を示している。光源1からの光束はスリット31で、規格で規定された幅の2次光源となり、レンズ41に入射しおおよそ平行光とされ、被検面10に照射される。被検面10での反射光は被検面10の状態により特有の反射パターンとなり、レンズ42により再び集光され、スリット31の像が櫛歯スリット50上に形成される。櫛歯スリット50は、ピッチの異なる5種類のスリットから構成され、櫛歯スリット50をスリット配列方向に移動させたときの最大透過光量と最小透過光量を演算し、コントラスト値を取得することにより、被検面10の状態を5つのコントラスト値で表現する。写像性の測定方法は、写り込み像の鮮明性をコントラストで評価するため、写り込み像の明るさを議論することはできない。
【0006】
特許文献1には、被検面の複数種類の反射特性を測定可能な測定装置が開示されている。また、特許文献2には、得られる光学特性の角度分解能の点で有利な計測装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-126408号公報
【文献】特開2016-211999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
外観における像鮮明性は照明環境によって変化する。例えば、メタリック塗装の像鮮明性の観察者の主観による評価(主観評価)を考えると、照明光の映り込みがどれだけ明瞭に見えるかを評価する場合と、その照明光に照明された物体の映り込みがどれだけ明瞭に見えるかを評価する場合では、見え方が異なる。これは、映り込みの背景にあたる光輝材の反射は一定でも、評価対象物の輝度に大きな差があるためである。
【0009】
具体的には、照明光の映り込みにおいては、光輝材の影響は輝度差が大きいため無視できるが、照明光に照明された対象物の映り込みは光輝材との輝度差が少なくなる、あるいは逆転することにより、主観評価による見えやすさは低下する。
【0010】
上述の特許文献に記載の測定装置では、装置構成が一意に決まっている為、再現できる環境は一つであり、測定環境によっては測定結果と実際の主観評価との相関が良好でない場合がある。また、像鮮明性を人が判断する時には、ボケの少なさを重要視する場面や、コントラストを重要視する場面など様々であり、評価の目的(測定目的)により判断基準を変える必要があるが、上述の計測装置では判断基準の変更をすることが困難である。よって、評価の目的によっては測定結果と実際の主観評価との相関が良好でない場合がある。
【0011】
本発明は、例えば、主観評価との相関が良好な測定結果を得る点で有利な測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、被検面の反射特性を測定する測定装置であって、光源からの光で前記被検面を照明する照明部と、前記照明部により照明された前記被検面からの反射光分布を検出する検出部と、前記検出部によって検出された前記反射光分布に基づいて、拡散度合を示す情報を取得するとともに、正反射光の光量の情報、および、正反射方向周辺の光量の情報を取得し、前記拡散度合を示す情報、前記正反射光の光量の情報、および、前記正反射方向周辺の光量の情報を重み付け演算することによって像鮮明性に関する評価値を算出する処理部と、を含み、前記拡散度合を示す情報は、前記検出部によって検出された反射光分布に基づいて得られたBRDFの波形の幅の値、写像性測定値、または、DOI測定値を含み、前記処理部は、前記重み付けをコントラスト値と像明るさの情報を含む数値をべき乗することで行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば、主観評価との相関が良好な測定結果を得る点で有利な測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の測定装置の概略構成図である。
【
図2】第1実施形態の測定装置で得られたBRDF1とBRDF2を示す図である。
【
図3】第1実施形態のグロス値を得るための受光素子の積算領域を示す図である。
【
図4】第1実施形態のヘーズ値Hを得るための受光素子の積算領域を示す図である
【
図5】第1実施形態の像鮮明性評価値θの出力処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】第1実施形態の正反射成分G1と正反射周辺成分H1、H2を算出する領域を示す図である。
【
図7】第2実施形態の測定装置の概略構成図である。
【
図8】第3実施形態の測定装置の概略構成図である。
【
図9】JIS Z 8741で指定される鏡面光沢度の測定装置の構成図である。
【
図10】ASTM E 430で指定されるヘーズ値の測定装置の構成図である。
【
図11】JIS K7374で指定される写像性の測定装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。
【0016】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の被検面の反射特性を測定する測定装置の概略構成を示す図である。光源1からレンズ41までの照明部とレンズ42から2次元受光素子(検出部)100までの受光部とは、被検面10の垂線に対して夫々θ、θ’の角度で配置されている。入射角θ、反射角θ’は被検面10の反射特性を規定する各規格に沿うように規格毎に設定されている。反射特性が鏡面光沢度の場合の入射角θ及び受光角θ’は、20°、45°、60°、85°の何れかに設定される。反射特性がヘーズである場合の入射角θ及び反射角θ’は、20°に設定される。反射特性が写像性の場合の入射角θ及び反射角θ’は、45°、60°の何れかに設定される。反射特性がDOIである場合の入射角θ及び反射角θ’は、20°に設定される。
【0017】
光源1から射出された光束は、レンズ2により矩形の開口を有する絞り31上に集光される。絞り31上では光源1の像が一旦結像されて矩形の2次光源(面光源)となる。矩形の開口の絞り31の形状はJIS Z8741で規定された開き角になるよう、レンズ41の焦点距離と併せて規定される。絞り31から射出された光束は、再び発散光束となり、レンズ41によりおおよそ平行光とされ被検面10を照明する。被検面10からの反射光は、被検面10の反射特性による特有の反射パターン(反射光分布)となり、レンズ42で再び集束光となり、受光素子100の受光面により受光される。なお、ここで、受光素子100は、一例として2次元センサとするが、ラインセンサなどであっても良い。
【0018】
受光素子100は、照明部により照明された被検面10からの反射光によって受光面に形成される光の強度分布を検出し、処理部110に第1データを出力する。
【0019】
第1データは以下に述べる工程で処理されたのち表示部120で結果が表示される。処理部110と表示部120は測定器本体に構成されてもよいし、接続されたPC内に構成されてもよい。
【0020】
以下にデータ処理の工程について説明する。
図2は、第1実施形態の測定装置で得られた反射パターンBRDF1とBRDF2を示す図である。第1データは、具体的には角度に応じて強度が変化する反射パターンとなり、照明光学系の光軸と受光光学系の光軸を含む入射面内でみると、
図2に示すBRDF1の様な反射パターンとなる。なお、BRDF(Bidirectional Reflectance Distribution Function:双方向反射率分布関数)は、被検面10の反射率の分布を表す関数であり、入射光照度に対する反射光輝度の比率を表す。より厳密には、物体表面上のある点でのBRDFは、入射・反射の双方向に依存し、照明方向からの入射光の強さに対する観察方向への反射光の強さの比として定義される。
受光素子100で受光した信号は受光素子100上のAA断面で出力を切り取ることで、被検面10特有の反射特性の表現が可能である。
【0021】
受光素子100が受光した反射光の強度分布をAA断面で切り取る事で、例えば、反射特性を定義する各規格の計算への対応が可能である。反射光の強度分布をAA断面で切り取ることに加えて、その他の断面でも切り取ることで、被検面10の反射特性の異方性を測定する事も可能である。受光素子100で受光される反射パターンBRDF1は、
図2に示すように、正反射成分G1と正反射周辺成分H1、H2とを含む。
正反射成分(正反射光)の光量は
図3における領域101の積算光量であればグロス値を表し、正反射周辺成分(正反射方向周辺)の光量は
図4における領域102a、102bの積算光量であればヘーズ値を表すことができる。BRDF1は、任意の方向から入射された光の反射光分布であるともいえる。
【0022】
ここで、受光素子100にできたBRDF1は矩形形状の絞り31に対する反射パターンであるので、処理部110において
図2に示す点光源からのBRDF2として変換する。換言すると、処理部110は、受光素子100によって検出されたBRDF1に基づいて、BRDF2を取得する。点光源からのBRDF2に変換する方法は、特開2014-126408に記載してある事前測定による推定方法などがある。また、特開2016-211999に記載してある、FFT、逆FFTを含むデコンボリューションの手法にてBRDFを算出する方法を適用することもできる。BRDF2は、被検面10から散乱面に遷移する過程で広がり具合と強度のみが変化する単純なガウシアン分布のパターンであり、ここでは拡散度合を示す情報である。
【0023】
また、受光素子100にできた反射パターンBRDF1について、例えば、θ=20°の照明角度の光学系において、
図3に示すJIS Z8741の受光器の開き角に相当する1.8°×3.6°の領域101の出力を積算する。すると、グロス値Gsに相当する値が取得できる。さらに、
図4に示すASTM E430で想定される受光器の開き角に相当する、反射角θ’=18.1°および反射角θ’=21.9°をそれぞれ中心とする1.8°×5.5°に相当する領域102aと領域102bの出力を積算する。これにより、ヘーズ値Hを得ることができる。
【0024】
観察者の主観評価における像鮮明性は、例えば、観察する映り込み像のボケと、映り込み像のコントラストと、像の明るさによって決まりうる。この、映り込み像のコントラストと像明るさは、評価する対象や、環境によって変化する。また像鮮明性評価する観察者の重視ポイントによっても評価は変化し、像がどれだけ細かく見えるかを重視する場合と、ぱっと見のコントラストを重視する場合でも異なってくる。
【0025】
本実施形態においては、観察者の主観評価を考慮した像鮮明性評価値θ、換言すると、観察者の主観評価との相関が良好となる像鮮明性評価値θを算出する。処理部110は、像鮮明性評価値θは、以下のような工程で算出する。まず、コントラストに相当するコントラスト値Ctを、グロス値Gsとヘーズ値Hに基づいて以下の式1で計算する。以下の式において、グロス値Gsを得るための受光素子の領域101の面積をSG、ヘーズ値Hを得るための受光素子の領域102aと領域102bを足し合わせた面積をSHとする。
Ct=(Gs/SG-H/SH×a)/(Gs/SG+H/SH×a) ・・・ 式1
【0026】
aは重み付けに用いる係数で、メタリックフレークのようなヘーズ発生要因に照明される光が大きい場合は、aの重み付けを大きくし、映り込み評価対象に当たる光がメタリックフレークに当たる光より明るい場合はaを小さくする。これにより、評価対象物への照明状態に応じたコントラスト値Ctを算出できる。なお、ここで、係数aを0とする場合、ヘーズ値Hを使用しなくてもコントラスト値Ctを算出できるため、ヘーズ値Hを取得しなくても良い。
【0027】
上記計算したコントラスト値Ctに基づいて以下の式2のように像鮮明性評価値θを計算することができる。以下の式2において、映り込み像のボケに相当する数値としてBRDF2の幅に相当する値、例えば半値の幅をh(幅情報)と、像明るさに相当するグロス値をGs、コントラストに対する係数をb、像明るさに対する係数をcとする。
θ=h/(Ct^b)/(Gs^c) ・・・ 式2
【0028】
なお、ここでは像鮮明性評価値θを算出したが、例えば、処理部110に各値に対応する像鮮明性評価値θを含むテーブルを記憶させ、該テーブルから対応する像鮮明性評価値θを取得しても良い。本明細書においては、このような像鮮明性評価値θの取得についてても算出というものとする。
【0029】
屋内オフィスのように天井に多数蛍光灯が並んでいるような環境で、メタリック塗装の表面の像鮮明性の評価を行うような場合は、メタリックのフレークの拡散反射でコントラストが低下する。しかし、前記コントラスト要因の係数b大きくすることで、コントラスト要因での像鮮明性の低下を算出する評価値に反映することができる。具体的にはコントラストに対する係数bを0.5~1.5の間、像明るさに対する係数cを1~3の間に設定すると、メタリック塗装などの屋内オフィス等で実施する像鮮明性の評価に好適である。
【0030】
また、屋外の太陽光の下で、太陽光の映り込みの鮮明性を評価するような場合は、コントラスト要因の係数bを小さくし、像明るさ要因の係数cを大きくすることで高輝度な単一光源に対する像鮮明性を表現できる。具体的には、コントラストに対する係数bを0~0.5、像明るさに対する係数cを1以上に設定するとよい。
【0031】
これ以外の環境を想定する場合は、上記の係数aやbの数値にこだわらず、マイナス領域からプラス領域の10以上の数値まで、様々な数値を入れることができる。よって、再現したい環境で実際に主観評価を実施した場合と、像鮮明性評価値θの値について序列が入れ変わるなどの不具合は極力なくすことができる。なお、ここで、係数bを0とする場合、コントラスト値Ctを使用しなくても像鮮明性評価値θを算出できるため、コントラスト値Ctの算出に必要なヘーズ値Hを取得しなくても良い。さらに、係数bおよびcがともに0である場合は、コントラスト値Ctおよびグロス値Gsを使用しなくても像鮮明性評価値θを算出できるため、グロス値Gsを取得しなくても良い。
【0032】
しかし、実際に人が活動や生活をする環境は限られてくるので、重み付けに用いる係数の組み合わせを複数セット用意し、モード設定によって複数セットの中の対応する一つのセットを選択可能としても良い。例えば、屋内環境や屋外環境などの測定環境を想定したモードとして、例えば、係数bを1.5とするオフィスモードや、係数bを0にする屋外モード、係数bを0.75とする一般家屋内モード等いくつか用意しても良い。また、測定環境のみに限らず被検面の性質、および、測定目的を考慮して重み付けに用いる係数の組み合わせを複数用意しても良い。さらに、係数のセットを追加設定するための設定手段を処理部110が有することにより、観察者が係数のセットを追加して、任意のモードを設定できるようにしても良い。このようにすることで、係数を自動的に決定することができるので、観察者にとって係数の設定が容易となり、状況に応じた測定がしやすくなる。
【0033】
また、主観評価の着眼点による評価の差、換言すると、測定目的の違いによる評価の差は、以下のように係数bとcを設定することで像鮮明性評価値θに反映できる。映り込み像がどれだけ細かいところまで分解して見えるかという評価手法の場合は、BRDF2の幅に相当するhの像鮮明性評価値θへの寄与率が上がると主観評価との相関が良く取れる。このため、係数bとcを小さく設定するとよく、例えば、bとcを0に設定すると像鮮明性評価値θは、単純な分解能力の評価と同様の評価値にすることもできる。
【0034】
ぱっと見のコントラストを重視するような評価手法と対応が取れるようにするためには、今度はコントラストに対する係数bの値を大きくとればよい。具体的には係数bが1~3の値を取ることで、像鮮明性評価値θはコントラスト重視の主観評価と同様の評価値にすることができる。上記数値に一例を挙げたが、係数は上記以外の環境や、評価方法においてはその他の数値をとっても良い。
【0035】
ここで、
図5を用いて像鮮明性評価値θの出力処理について説明する。
図5は、第1実施形態の像鮮明性評価値θの出力処理の一例を示すフローチャートである。本図に示すフローでは、一例として観察者によりモードが設定されている場合の処理について説明する。なお、本図で示す各動作(ステップ)は、処理部110よって実行されうる。
【0036】
処理部110は、受光素子100から第1データとしてのBRDF1を取得し(S501)、取得したBRDF1を上述の処理によってBRDF2に変換して、拡散度合を示す情報としてのBRDF2を取得する(S502)。次に、処理部110は、グロス値Gsおよびヘーズ値Hを算出する(S503)。その後、処理部110は、係数aを決定し(S504)、係数aを用いて上述の式1によりコントラスト値Ctを算出する(S505)。
【0037】
次に、処理部110は、いずれのモードが設定されているかを判断する(S506)。オフィスモードが設定されている場合、処理部110は、係数bを1.5に設定し、係数cを3に設定する(S507)。屋外モードが設定されている場合、処理部110は、係数bを0に設定し、係数cを1に設定する(S508)。一般家屋内モードが設定されている場合、処理部110は、係数bを0.75に設定し、係数cを2に設定する(S509)。
【0038】
その後、処理部110は、設定された係数bおよび係数cを用いて、上述の式2により像鮮明性評価値θを算出する。
【0039】
なお、これらの係数a、b、cは機械学習を使用して決定することもできる。以下、機械学習の手順を説明する。最初に、想定する測定事例、換言すると、想定する被検面のサンプル群を用意しておく。例えば、塗装のオレンジピールの測定を想定する場合、オレンジピールの程度が異なる塗装のサンプル群を用意し、測定装置でグロス値Gs、ヘーズ値H、BRDF2の幅hを測定しておく。用意するサンプルについては、例えば、散乱光の影響でヘーズ値Hや主観評価時のコントラスト低下に影響すると考えられる複数のメタリック塗装や、メタリックを含まないソリッド色の塗装など、様々な性質の被検面が用意してあることが望ましい。そのサンプル群に対し、所望の環境において主観評価を実施して点数付けして、像鮮明性が高い順番に序列を決定する。これを、測定セットとして、主観評価の点数と像鮮明評価値θが近くなるような、係数a、b、cを最急降下法などを使用して求める。多数のサンプル群について同様のことを実施すると、機械学習に必要なデータセットが用意できる。これらのデータセットを教師として機械学習の回帰の処理でグロス値Gs、ヘーズ値H、BRDF2の幅hと係数a、b、cの関連性が導き出され、未知のデータセットにおける最適なa、b、cを決定することができるようになる。
【0040】
さらに性質の異なる被検面のサンプル、例えば、マット塗装のサンプル群や、フィルムのサンプル群、その他サンプル群においても同じようにグロス値Gs、ヘーズ値H、BRDFの幅hと主観評価の順位入力を順次入力する。そして、グロス値Gs、ヘーズ値H、BRDFの幅情報とそのサンプル群における最適な係数a、b、cを繰り返し学習していくアルゴリズムを、処理部110に搭載する。このように構成することで、被検面の性質に応じた最適な係数a、b、cを求めることもできる。また、入力作業によって観察者が係数の設定を行えるような入力モードを搭載すれば、測定環境に応じた最適な係数a、b、cを観察者が測定装置を使い込んでいく中で設定することも可能である。装置側ではさらに、例えば、オレンジピールモードやマット塗装モードなど、被検面の性質に応じたモードを設け、観察者の測定対象物に近いと思われるモードを選択可能としても良い。このようにすることで、像鮮明性測定値θは観察者の所望の主観評価に近い精度の高い結果を持つことができるし、入力モードによる適切な係数の決定もスムーズに行うことができる。
【0041】
なお、コントラスト値Ctの算出においては、上記例ではグロス値Gs、ヘーズ値Hを使用したが、BRDF1の波形から正反射成分G1と正反射周辺成分H1、H2を使用して算出することもできる。正反射成分G1と正反射周辺成分H1、H2の受光領域は
図6に示す通りである。受光領域103は、正反射成分G1の受光領域である。受光領域104aおよび104bは正反射周辺成分H1、H2の受光領域である。夫々の受光素子をGS1、HS1、HS2とするとコントラスト値Ctは式3で、同様に計算することができる。
Ct=(G1/GS1-(H1+H2)/(HS1+HS2)×a)/(G1/GS1+(H1+H2)/(HS1+HS2)×a) ・・・ 式3
【0042】
得られたCt値と、映り込み像のボケに相当する数値としてBRDF2の半値の幅hを使用し、像鮮明性評価値θは式4のように計算できる。
θ=h/(Ct^b)/(G1^c) ・・・ 式4
上記式3、式4に使用した係数a、b、cは前述のとおりである。
【0043】
像鮮明性評価値θは係数によりコントラスト値Ctと正反射成分G1のべき乗となるので係数によって数値の桁が大きく移動する。これを、使いやすくするためには式5のように対数をとると、係数による桁の移動が起こりにくくなり、使いやすい数値とすることもできる。
θ=log2(h/(Ct^b)/(G1^c)) ・・・ 式5
【0044】
映り込み像のボケに相当する数値は、BRDF2の幅情報を使用すると、そのまま映り込み像のボケ具合を表すことができるが、矩形のスリット31のボケ情報としてのBRDF1の幅情報を使用し、被検物の拡散度合の変化に対応した差分を抽出してもよい。
【0045】
また、幅情報については半値幅を使用したが、1/3値幅や1/4値幅等これに限らずともよい。
【0046】
<第2実施形態>
図7は、第2実施形態の被検面の反射特性を測定する測定装置の概略構成を示す図である。本実施形態では、照明光学系においてθとθ’は60°に設定される。また、構成も第1実施形態と一部異なっており、絞り31がJIS K 7374で規定される幅30μmのスリット形状になっている。照明光学系のレンズ41から被検面10に照射された光束は、その後、被検面10で反射され、レンズ42でおおよそ集光光となり、受光素子100としての2次元エリアセンサで受光される。絞り31のスリット幅は30μmと非常に細いので、2次元エリアセンサで受光した光量の分布をBB断面で見ると、BRDFとして扱うことができる。
【0047】
一方、ハーフミラー150で一部が折り返され受光スリット51の方向へ向かう。受光スリット51はJIS K7374で規定されたピッチの異なる5種類のスリットから構成され、スリット51の開口部分を通った光が受光素子105で受光される。本実施形態においては、受光素子100および受光素子105が検出部となる。櫛歯スリット51をスリット配列方向に移動させたときの最大透過光量と最小透過光量、言い換えると受光素子105によって検出された被検面10からの反射光量に基づいて、処理部110は写像性測定値γを取得する。具体的には、前記最大透過光量と最小透過光量を処理部110でJIS K7374で規定された方法で演算し、被検面10の映り込み像の鮮明性を写像性測定値γとして出力する。本実施形態では、得られた写像性測定値γを拡散度合を示す情報として、以下の工程にて変換すると、環境によって変換する主観評価と同様に扱うことができる。
【0048】
コントラスト値Ctを、第1実施形態と同様に式3で得る。そして、受光素子100で受光した光量分布BRDF1からBRDF2を第1実施形態と同様に計算し、得られたCt値とBRDF1の正反射成分G1を使用し、像鮮明性評価値θは以下の式6のように計算できる。
θ=γ/(Ct^b)/(G1^c) ・・・ 式6
なお、上記式6に使用した係数b、cは前述のとおりである。
【0049】
以上のように構成することで、従来からの写像性測定方法を取得すると同時に主観評価にあった像鮮明性評価値も同時に出力することが可能である。また、第1実施形態と同様に桁の移動が起こりにくくするために、像鮮明性評価値θは、対数をとっても良いことは言うまでもない。
【0050】
<第3実施形態>
図8に、第3実施形態の被検面の反射特性を測定する測定装置の概略構成を示す。本実施例では、被検面10からの反射光はレンズ42を介して受光側絞り32で規定領域の光のみが選択されて、受光素子112、113、114で受光される。受光側絞り32にはJIS Z8741鏡面光沢度法、ASTM E430で規定された正反射方向の光を受光する開口32bと、正反射周辺光量を受光する開口32aと32cが含まれる。受光素子113で受光し得た信号はグロス値Gs、受光素子112、114で受光し得た信号を合算するとヘーズ値Hとして処理部110に出力する。本実施例においては、コントラスト値Ctは第1実施形態で記載した式1で同様に得られる。
【0051】
一方、ハーフミラー150で折り返された光束はASTM E430のDOI測定法で規定された受光スリット61を介し、夫々のスリット部に対応した受光領域を持つ受光素子106(ラインセンサ)で受光される。本実施形態においては、受光素子112、113、114および受光素子106が検出部となる。受光素子106からの出力信号は処理部110で処理され、ASTM E430で規定されたDOI値D(DOI測定値)として出力される。
【0052】
第3実施形態において、像鮮明性評価値θは、DOI値Dを拡散度合を示す情報として、式7のように計算される。
θ=D/(Ct^b)/(Gs^c) ・・・ 式7
上記式6に使用した係数b、cは前述のとおりである。
【0053】
以上のように構成することで、従来からのDOI値、グロス値、ヘーズ値を取得すると同時に主観評価にあった像鮮明性評価値も出力することが可能である。
また、実施例1と同様に桁の移動が起こりにくくするために、像鮮明性評価値θは、対数をとっても良いことは言うまでもない。
【0054】
受光スリット33は、3つのスリット33a、33b、33cで構成され、スリット33a~33cは、夫々被検面10の垂線に対して18.1°、20°、21.9°で設置されている。スリット33bは、鏡面光沢度の測定に使用し、スリット33a、33cはヘーズ値の測定に使用される。ヘーズ値は、像の不鮮明性の度合いを示す指標である。しかし、スリット33a、33cの鏡面反射光からの角度差が少ないため、ヘーズ値の測定に適した被検面10の状態は限られたものである。写り込み像が原形を留めないような不鮮明さを呈するようになると、
図7の測定装置による測定結果からヘーズ値を求めることは難しくなる。
【0055】
DOIは、
図7の装置と同様の構成の装置を用いて測定されるが、各スリットのディメンジョンと値の計算式が異なる。具体的には、スリット33a、33b、33cの被検面10の垂線に対する角度が19.7°、20°、20.3°であり、また、各スリットの大きさが異なる。ヘーズ値等の測定と同様に、写り込み像が原形を留めないような不鮮明さを呈する被検面10ではDOI(値)を求めることが難しい。
【0056】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明してきたが、本発明はこれらの実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内において様々な変更が可能である。
【0057】
また、本発明における制御の一部または全部を上述した実施形態の機能を実現するコンピュータプログラムをネットワーク又は各種記憶媒体を介して撮像装置や情報処理装置に供給するようにしてもよい。そしてその撮像装置や情報処理装置におけるコンピュータ(又はCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。その場合、そのプログラム、及び該プログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成することとなる
【符号の説明】
【0058】
1 光源
10 被検面
100 受光素子
110 処理部