(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】測位方法及び測位システム
(51)【国際特許分類】
G01S 19/44 20100101AFI20240304BHJP
G01S 19/28 20100101ALI20240304BHJP
【FI】
G01S19/44
G01S19/28
(21)【出願番号】P 2019133030
(22)【出願日】2019-07-18
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 範洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正憲
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸一
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-108960(JP,A)
【文献】特開2010-071686(JP,A)
【文献】特開2018-119818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00 - 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置が既知の基準局及び移動体である移動局が受信した複数の衛星からの衛星信号の搬送波位相をもとに前記移動局の位置を干渉測位する測位方法であって、
前記移動局のフィックス解が算出された後、前記移動局の次の測定時刻における推定位置の複数の従衛星のフロート解を、前記フィックス解に
前記複数の衛星のドップラー速度の平均値である速度ベクトルを加えた値とし
て推定し、該
推定したフロート解が示す実数アンビギュイティの値のうち、整数値からの離隔量が大きい実数アンビギュイティをもつ従衛星から1以上の従衛星を次のフロート解の演算対象から除外し、除外されずに残った複数の従衛星に対して次のフロート解を演算して次のフィックス解を探索して算出する処理を繰り返すことを特徴とする測位方法。
【請求項2】
除外されずに残った複数の従衛星が所定数以下になる場合、前記従衛星の除外は行わないことを特徴とする請求項1に記載の測位方法。
【請求項3】
前記次のフィックス解を探索して算出する処理は、従衛星の除外数が異なる複数の処理を並列処理し、最も安定したフィックス解を選択出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の測位方法。
【請求項4】
位置が既知の基準局及び移動体である移動局が受信した複数の衛星からの衛星信号の搬送波位相をもとに前記移動局の位置を干渉測位する測位システムであって、
前記移動局は、フィックス解が算出された後、次の測定時刻における推定位置の複数の従衛星のフロート解を、前記フィックス解に
前記複数の衛星のドップラー速度の平均値である速度ベクトルを加えた値とし
て推定し、該
推定したフロート解が示す実数アンビギュイティの値のうち、整数値からの離隔量が大きい実数アンビギュイティをもつ従衛星から1以上の従衛星を次のフロート解の演算対象から除外し、除外されずに残った複数の従衛星に対して次のフロート解を演算して次のフィックス解を探索して算出する処理を繰り返す搬送波位相演算部を備えることを特徴とする測位システム。
【請求項5】
前記搬送波位相演算部は、除外されずに残った複数の従衛星が所定数以下になる場合、前記従衛星の除外は行わないことを特徴とする請求項4に記載の測位システム。
【請求項6】
前記搬送波位相演算部における前記次のフィックス解を探索して算出する処理は、従衛星の除外数が異なる複数の処理を並列処理し、最も安定したフィックス解を選択出力することを特徴とする請求項4又は5に記載の測位システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィックス解を安定して高精度に維持できる干渉測位が可能な測位方法及び測位システムに関する。
【背景技術】
【0002】
干渉測位(RTK:Real Time Kinematic GPS)は、衛星と移動体との間の距離として搬送波位相を用いる。搬送波位相は、GPS測位による疑似距離に比較して測距精度が高く、数mmから数cmの測位が可能となる。干渉測位は、座標が既知である固定の基準局に対する移動局の相対位置を求める方法が一般的である。干渉測位では、二重位相差を求めることにより時計誤差を消去することができる(特許文献1参照)。
【0003】
干渉測位は、基準局及び移動局において観測される搬送波位相を測定する。位相は、各受信器内で搬送波のレプリカを発生させ、比較することで知ることができる。しかし、その間にいくつかの波数(整数値バイアス)が存在するのを知ることができず、この整数値バイアス(整数値アンビギュイティ)を決定する必要がある。この整数値アンビギュイティ(Ambiguity)の決定には、推測から収束という手順を踏む。最初の推測値は、単独測位のディファレンシャル測位(DGPS)により求められる。そのディファレンシャル測位解から候補範囲を推測し、収束させていくことになり、最終的な収束解(Fix解:フィックス解)を得るまでに時間がかかる。なお、整数値アンビギュイティが決定するまでの推測解をFloat解(フロート解)という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように干渉測位においてフィックス解を得るまでに時間がかかるため、移動体の干渉測位では、一度、フィックス解が得られた場合、その後フロート解は、前回のフィックス解に速度ベクトルを加えてフィックス解を継続して取得するようにしていた。速度ベクトルは、衛星のドップラー速度を用いている。
【0006】
しかしながら、従来のドップラー速度を用いた干渉測位は、上空になる衛星全てのドップラー速度の平均値を利用するため、フィックス解としての精度は、10cm程度と比較的低い精度となってしまう。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、フィックス解を安定して高精度に維持できる干渉測位が可能な測位方法及び測位システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる測位方法は、位置が既知の基準局及び移動体である移動局が受信した複数の衛星からの衛星信号の搬送波位相をもとに前記移動局の位置を干渉測位する測位方法であって、前記移動局のフィックス解が算出された後、前記移動局の次の測定時刻における推定位置の複数の従衛星のフロート解を、前記フィックス解に速度ベクトルを加えた値とし、該フロート解が示す実数アンビギュイティの値のうち、整数値からの離隔量が大きい実数アンビギュイティをもつ従衛星から1以上の従衛星を次のフロート解の演算対象から除外し、除外されずに残った複数の従衛星に対して次のフロート解を演算して次のフィックス解を探索して算出する処理を繰り返すことを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる測位方法は、上記の発明において、除外されずに残った複数の従衛星が所定数以下になる場合、前記従衛星の除外は行わないことを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる測位方法は、上記の発明において、前記次のフィックス解を探索して算出する処理は、従衛星の除外数が異なる複数の処理を並列処理し、最も安定したフィックス解を選択出力することを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる測位システムは、位置が既知の基準局及び移動体である移動局が受信した複数の衛星からの衛星信号の搬送波位相をもとに前記移動局の位置を干渉測位する測位システムであって、前記移動局は、フィックス解が算出された後、次の測定時刻における推定位置の複数の従衛星のフロート解を、前記フィックス解に速度ベクトルを加えた値とし、該フロート解が示す実数アンビギュイティの値のうち、整数値からの離隔量が大きい実数アンビギュイティをもつ従衛星から1以上の従衛星を次のフロート解の演算対象から除外し、除外されずに残った複数の従衛星に対して次のフロート解を演算して次のフィックス解を探索して算出する処理を繰り返す搬送波位相演算部を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる測位システムは、上記の発明において、前記搬送波位相演算部は、除外されずに残った複数の従衛星が所定数以下になる場合、前記従衛星の除外は行わないことを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる測位システムは、上記の発明において、前記搬送波位相演算部における前記次のフィックス解を探索して算出する処理は、従衛星の除外数が異なる複数の処理を並列処理し、最も安定したフィックス解を選択出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フィックス解を安定して高精度に維持できる干渉測位が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態である測位システムの概要構成を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した移動体内の移動局の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、搬送波位相演算部による搬送波位相演算処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態である測位システムの概要構成を示す図である。また、
図2は、
図1に示した移動体20内の移動局21の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、干渉測位を行うための6つのGNSS(Global Navigation Satellite System)衛星である衛星SA,S1~S5を有する。衛星SAは、二重位相差を求める際の主衛星であり、衛星S1~S5は従衛星である。
【0018】
図1及び
図2において、基準局10及び移動局21はそれぞれインターネットなどのネットワークに接続される。基準局10は、衛星SA,S1~S5からの衛星信号をもとに測定時刻とともに、疑似距離や搬送波位相などの補正情報を移動局21に送信する。移動局21は、衛星SA,S1~S5からの衛星信号をもとに測定時刻とともに、疑似距離や搬送波位相を測定するとともに、基準局10から受信した測定時刻、疑似距離、搬送波位相を用いて、干渉測位を行う。
【0019】
移動局21は、まず、疑似距離を用いたDGPS測位を行い、このDGPS測位結果と搬送波位相とを用いて、フィックス解を求める干渉測位を行う。移動局21は、一度、フィックス解が算出された後、移動局21の次の測定時刻tにおける推定位置の複数の従衛星のフロート解を、前回のフィックス解に速度ベクトルを加えた値とし、該フロート解が示す実数アンビギュイティの値のうち、整数値からの離隔量が大きい実数アンビギュイティをもつ従衛星から1以上の従衛星を次のフロート解の演算対象から除外し、除外されずに残った複数の従衛星に対し、測定時刻tにおける推定位置での次のフロート解を演算して次のフィックス解を探索して算出する処理を繰り返す。
【0020】
速度ベクトルは、測定時刻tの速度と、測定時刻(t-1)の速度との相加平均である。したがって、速度ベクトルの方向の移動距離は、この相加平均に測定間隔時間、例えば1秒を乗算した値となる。すなわち、測定時刻tにおける推定位置は、前回のフィックス解の位置に、速度ベクトルの方向の移動距離を加算したものである。
【0021】
図1では、測定時刻tの推定位置における衛星S1~S5の推定した実数アンビギュイティ(フロート解)の一例を示している。各衛星S1~S5の整数値からの離隔量は、0.234、0.07、0.009、0.101、0.010であり、衛星S1の整数値からの離隔量が最も大きいため、衛星S1が除外され、衛星S1に対するフロート解演算が除外される。これにより、次の測定時刻tにおけるフロート解が減少し、測定時刻tにおけるフィックス解の探索範囲が狭くなり、フィックス解を安定して高精度に維持することができる。
【0022】
移動局21は、衛星信号受信部22、補正情報受信部23、測位制御部24、入出力部27及び記憶部28を有する。衛星信号受信部22は、各衛星SA,S1~S5から衛星信号を受信する。補正情報受信部23は、基準局10から補正情報を受信する。入出力部27は、各種情報の入出力を行う入出力デバイスである。また、記憶部28は、測位結果などを記憶する記憶デバイスである。
【0023】
測位制御部24は、移動局21全体を制御する制御部であり、疑似距離演算部25及び搬送波位相演算部26を有する。疑似距離演算部25は、DGPS測位演算を行う。搬送波位相演算部26は、搬送波位相を用いた干渉測位演算を行う。なお、搬送波位相演算部26は、初期のフィックス解を求める際、DGPS測位結果を用いてフィックス解の探索範囲を狭めて、演算時間の短縮を図る。
【0024】
<搬送波位相演算処理>
次に、搬送波位相演算部26による干渉測位演算である搬送波位相演算処理手順について説明する。
図3は、搬送波位相演算部26による搬送波位相演算処理手順を示すフローチャートである。
【0025】
図3に示すように、搬送波位相演算部26は、まず、初期のフィックス解を求めるため、DGPS測位結果を加味してフロート解の演算を行う(ステップS110)。その後、未知数である整数アンビギュイティの探索処理を行う(ステップS120)。この整数アンビギュイティの探索処理は、例えば、LAMBDA法(Least-square Ambiguity Decorrelation Adjustment Method)のアルゴリズムを用いる。その後、搬送波位相演算部26は、フィックス解が得られたか否かを判定する(ステップS130)。この判定は、Ratioテストなどの整数値の検証結果による。フィックス解が得られない場合(ステップS130,No)には、ステップS110に移行して、上記の処理を繰り返す。
【0026】
一方、フィックス解が得られた場合(ステップS130,Yes)、次の測定時刻tにおける推定位置での、次のフロート解の推定処理を行う(ステップS140)。この推定される次のフロート解は、今回のフィックス解に速度ベクトルを加えたものである。その後、この推定された次のフロート解の値(実数アンビギュイティ)が、最も整数値から離れている1以上の衛星を除外する(ステップS150)。そして、除外された衛星以外の衛星に対するフロート解の演算を行う(ステップS160)。さらに、演算されたフロート解をもとに整数アンビギュイティの探索処理を行い(ステップS170)、測定時刻tでのフィックス解を算出し(ステップS180)、ステップS140に移行し、次の測定時刻(t+1)におけるフィックス解を算出する処理を繰り返し行う。なお、ステップS140,S150の処理は、毎回、全ての衛星を対象とする。
【0027】
なお、上記の搬送波位相演算処理では、実数アンビギュイティが最も整数値から離れている1以上の衛星を除外するようにしていたが、除外されずに残った複数の従衛星の衛星が所定数以下になる場合、衛星の除外は行わないようにすることが好ましい。例えば、従衛星の衛星数が8つ以下になる場合、衛星の除外は行わない。これは、二重位相差などの最低限の測位解析演算を可能にするためである。通常、上空が開けた場所では、衛星が20~30機存在するため、十数機の衛星の削除も可能である。
【0028】
また、実数アンビギュイティが整数値から離れている離隔量が所定値以上の衛星を除外するようにしてもよい。ただし、残りの衛星が所定数以下になる場合は除外しない。
【0029】
さらに、ステップS140~S180の処理、すなわち次のフィックス解を探索して算出する処理は、従衛星の除外数が異なる複数の処理を並列処理し、最も安定したフィックス解を選択出力するようにしてもよい。例えば、実数アンビギュイティが最も整数値から離れている1つの衛星を除外した処理、実数アンビギュイティが次に整数値から離れている衛星を含めた2つの衛星を除外した処理、実数アンビギュイティがさらに次に整数値から離れている衛星を含めた3つの衛星を除外した処理、などを並列処理して、最も安定したフィックス解を選択出力するようにしてもよい。
【0030】
なお、上記の実施の形態で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置及び構成要素の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 基準局
20 移動体
21 移動局
22 衛星信号受信部
23 補正情報受信部
24 測位制御部
25 疑似距離演算部
26 搬送波位相演算部
27 入出力部
28 記憶部
S1~S5,SA 衛星