(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】流路を有する構造体、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20240304BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240304BHJP
B01F 33/301 20220101ALI20240304BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20240304BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G01N37/00 101
B01F33/301
B28B1/30
B81B1/00
(21)【出願番号】P 2019136398
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018157803
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】安居 伸浩
(72)【発明者】
【氏名】大志万 香菜子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 純
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0017386(US,A1)
【文献】特開2018-124201(JP,A)
【文献】特開2017-079839(JP,A)
【文献】実開昭58-162380(JP,U)
【文献】特開2014-199206(JP,A)
【文献】特表2013-534598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 1/00
B81C 1/00
F16L 9/00 - 9/22
F16L 11/00 - 11/26
B01J 19/00
G01N 37/00
B01L 3/00
B29C 64/268
C04B 35/286
B22F 3/16
B22F 3/105
B33Y 10/00
B28B 1/30
B01F 23/232
B01F 25/40 - 25/46
B01F 33/30 - 33/3039
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流路を有する構造体であって、
前記
構造体の断面
には、前記流路の第1の部分と、前記流路の第2の部分と、前記流路の第3の部分と、が
配置され、
前記断面における前記第1の部分および前記第2の部分は、略楕円の長軸の両端を含む略楕円曲線
の形状を有する壁面と線分とに囲まれた
第1の領域と、前記線分を底辺とする三角
形の前記底辺ではない2辺を含む形状を有する壁面と前記線分とに囲まれた第2の領域と
、を連結した形状を有し、
前記第1の部分の前記線分に沿った第1の方向において、前記第1の部分の前記第1の領域と前記第2の部分の前記第1の領域とが並んでおり、かつ、前記第1の部分の前記第2の領域と前記第2の部分の前記第2の領域とが並んでおり、
前記構造体は、前記第1の部分と前記第2の部分との間に位置する部位を有し、
前記第1の方向に直交する第2の方向において、前記部位と前記第3の部分とが並んでおり、
前記第1の部分における前記三角形の
前記2辺のうちの
前記第2の部分の側の辺である第1の辺が前記第1の部分における前記底辺となす底角が45度以上であ
り、
前記第2の部分における前記三角形の前記2辺のうちの前記第1の部分の側の辺である第2の辺が前記第2の部分における前記底辺となす底角が45度以上であり、
前記第3の部分は、前記第1の辺に平行な第3の辺と前記第2の辺に平行な第4の辺とを含む形状を有する壁面に囲まれており、
前記第1の部分と前記第3の部分との間に前記第1の辺および前記第3の辺が位置し、前記第2の部分と前記第3の部分との間に第2の辺および前記第4の辺が位置することを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記構造体は、
互いに独立した第1の流路と第2の流路を有しており、
前記第1の流路が、
前記第1の部分および前記第2の部分を有し、
前記第2の流路が前記第3の部分を有することを特徴とする請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記第3の部分は、前記第3の辺および前記第4の辺を有する四辺形
の4辺を含む形状を有する壁面に囲まれていることを特徴とする請求項
1または2に記載の構造体。
【請求項4】
第1の部分における前記略楕円の
前記長
軸の長さをaとしたとき、前記
第1の部分の面積Sが、πa2/8<S≦(3π+6)a2/16の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の構造体。
【請求項5】
前記長さaが、0.5mm≦a≦3.5mmで
、前記
略楕円の離心率eが
、0≦e≦0.95であることを特徴とする請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記流路の壁面の少なくとも一部が多孔質構造を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
前記第1の部分における前記三角形の前記2辺が前記第1の部分における前記線分となす2つの底角が45度以上であり、
前記第2の部分における前記三角形の前記2辺が前記第2の部分における前記線分となす2つの底角が45度以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項8】
前記第1の部分において、前記
第1の領域の面積に対する前記
第2の領域の面積の比Rが0<R≦3の関係を満たすことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項9】
前記流路の流路長が、前記略楕円の長
軸の長さの10倍以上であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項10】
前記
部位が
、セラミックス材料で構成されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項11】
前記
部位が、酸化ジルコニウム
、酸化アルミニウム、酸化ガドリニウム、酸化イットリウム、酸化テルビウム、酸化プラセオジムおよび炭化シリコンの少なくともいずれかを含有していることを特徴とする請求項
1から9のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項12】
前記部位が、窒化物、酸窒化物、炭化物、あるいはホウ化物を含有していることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項13】
前記
部位が、
樹脂を含有していることを特徴とする請求項
1から9のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の構造体を用いて熱交換を行う方法であって、前記第1の部分および前記第2の部分に流す流体と、前記第3の部分に流す流体との間で熱交換を行うことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか1項に記載の構造体を用いて化学反応を行う方法であって、前記第1の部分および前記第2の部分に流す流体が化学反応することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1から
13のいずれか1項に記載の構造体
を用いて流体を流す方法であって、前記第1の部分および前記第2の部分を含む流路に液体と気体を
流すことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1から1
3のいずれか1項に記載の構造体に液体注入部と液体排出部を設け
た装置。
【請求項18】
請求項
1から1
3のいずれか1項に記載の構造体の製造方法であって、
造形データに応じて、
直接造形方式の三次元造形方法でで前記構造体を
造形することを特徴とする構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路を有する構造体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路は、流体中の物質を反応、分離、精製、熱交換、検出をする目的で使用されている。前記種々の目的を効率的に達成し、かつ、均質な目的物を安定的に得るためには、流路内の整流性を高める必要がある。
【0003】
特許文献1には、断面が半円形状のマイクロ流路が設けられたデバイスが開示されている。流路を流れる液体の整流性の観点から、マイクロ流路の断面を、円あるいは楕円などの対称な曲線を有する形状とするのが好ましい。
【0004】
マイクロ流路は、折り返しや分岐などの複雑な構造を有している場合が多いため、産業目的で製造されるマイクロ流路は、複数の基材を貼り合せて製造するのが一般的である。具体的には、複数の基材のうち一方の基材に溝を設け、他方の基材の平面を張り合わせて溝に蓋をすることにより、低コストで流路を製造することができる。そのため、特許文献1のように、流路の断面が半円形状となる場合が多い。
【0005】
基板の貼り合わせで作製した半円状の流路の場合、曲面と平面とのつながり部は、基材の張り合わせ面と一致している上に流路が狭くなっており、流体による応力が集中しやすい箇所となっている。そのため、劣化によって曲面と平面とのつながり部に亀裂が入り、流体が漏れ出てしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、複数の基材を張り合わせるのではなく一体で製造することにより、整流性と耐久性に優れるマイクロ流路を備えた構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の構造体は、内部に流路を有する構造体であって、
前記流路の断面が、線分と略楕円曲線とに囲まれた領域と、前記線分を底辺とする三角形状の領域とを連結した形状を有し、
前記線分と略楕円曲線とに囲まれた領域は、半楕円以上であり、前記三角形状の領域の底角が45度以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、整流性と耐久性に優れたマイクロ流路を有する構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は本発明の構造体の全体を示す図、(b)は(a)のA-A´における断面を示す図である。
【
図2】本発明の構造体が有する流路の好適な断面形状の例を示す図である。
【
図3】(a)は本発明にかかる複数の流路を有する構造体の断面図、(b)は比較例の複数の流路を有する構造体の断面図である。
【
図4】粉末ベッド方式を用いた、構造体の製造方法を説明する概略断面図である。
【
図5】クラッディング法を用いた、構造体の製造方法を説明する概略断面図である。
【
図6】粉末ベッド方式を用いて本発明の構造体の好適な造形方法を示す断面図である。
【
図7】実施例1~34においてレーザー照射によって構造体の流路のない部分を造形する過程を示す図である。
【
図8】実施例1~34において、レーザー照射によって流路を造形する過程を示す図である。
【
図9】実施例35で作製した、複数のマイクロ流路を有する構造体を示す図である。
【
図10】実施例35の比較例として作成した、複数のマイクロ流路を有する構造体を示す図である。
【
図11】(a)は実施例36~39で作製した、T字形状のマイクロ流路を有する構造体の全体図、(b)は(a)の構造体に設けた流路を上面からみた図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明にかかる実施形態について説明する。
【0012】
(構造体)
本発明の構造体は、その内部に流路を有する構造体のことである。このような構造体は、化学反応や熱交換などの様々な用途に用いることができる。流路は、折り返しや分岐を有していても良く、1本でも複数であってもよい。本発明における「一本の流路」とは、構造体内部において、他の流路とは独立した流路を指す。例えば、途中で分岐していても、互いに連通していれば、1本の流路である。
【0013】
図1にマイクロ流路を有する構造体の一例を示す。
図1(a)は構造体10の全体図である。
図1(a)では、説明の便宜上、構造体10の内部のマイクロ流路11を可視化している。
図1(b)は、
図1(a)のA-A´における断面を示す図である。
【0014】
マイクロ流路(以下、単に流路と記述する場合がある)11は、
図1(a)に示すように、構造体10の外部と連通した構造を有している。必要に応じて、流路は途中で分岐していてもよい。構造体10の表面には、マイクロ流路11に流す流体を、外部から供給する供給口12Aおよび外部へ排出するための排出口12Bが、それぞれ1か所以上設けられていることが好ましい。
【0015】
マイクロ流路11の流路長Lが長いほど、流路内に流体がとどまる時間が長くなり、化学反応や熱交換のための時間を十分に確保することができる。長い流路長Lが必要な場合は、
図1(a)のように、流路11は構造体の内部で折り返しながら蛇行しているのが好ましい。ここで、流路長Lとは、供給口12Aから排出口12Bに至るまでの流路の総長さをいい、流路11が途中で枝分かれや合流している場合は、互いに連通している流路のうち供給口12Aから排出口12Bまでが最も長い最長の流路の長さをいう。
【0016】
マイクロ流路11を高密度に配置すると、化学反応や熱交換等の効率を高めることができる。このため、構造体の内部において、マイクロ流路11は、
図1(a)のように折り返し部を除いて互いに平行になるよう設けられていることが望ましい。平行に設けられた流路の間隔Pは、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。また、間隔Pが0.3mm以上であると、構造体として十分な強度が得られるため好ましい。
【0017】
構造体10は、用途に応じて、セラミックス、金属、樹脂などの材質から適宜選択することができる。中でも、セラミックス材料は金属や樹脂など他の材質に比べて耐薬品性や耐熱性に優れるため、セラミックス材料からなる構造体は、様々な条件で利用することができるマイクロ流路を実現することができるため、好ましい。
【0018】
セラミックスとは、固体状の無機化合物(ただし、金属を除く)を意味する。また、本発明において、無機化合物とは、水素を除く周期表1族から14族までの元素に、アンチモンおよびビスマスを加えた元素群のうち、1種類以上の元素を含有する酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、あるいはホウ化物を指す。
【0019】
セラミックス材料の中でも、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、炭化シリコンは、強酸や強アルカリに対して溶解度が低く耐食性に優れるのに加え、緻密化して気密性にも優れるため、特に好ましい。従って、構造体は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭化シリコンから選択される少なくとも一種の成分を主成分とするのが好ましい。ここでいう主成分とは、構造体10を構成する材料組成のうち50mol%以上を占める成分をいう。
【0020】
本発明にかかる構造体10をセラミックスで構成する場合は、そのすべてが結晶質である必要はなく、一部が非晶質などで構成されていてもよい。構造体10の耐食性を向上させるためには、接液部は結晶質であることが好ましい。
【0021】
(流路の断面形状)
本発明の構造体10が有する流路の、流路が伸びる方向と交差し、かつ流路の面積積が最小となる方向における断面の好ましい例を、
図2に示す。
図2の斜線でハッチングされた領域が、流路の断面形状を示している。
図2のハッチングされた領域を囲む線は、流路に面した構造体10の壁面に相当する。流路は、略楕円曲線と線分gとに囲まれた領域(以下、楕円形状部と呼ぶ)21と、前記線分gを底辺とする三角形状の領域(以下三角形状部と呼ぶ)22とを繋いだ形状を有している。
【0022】
そして、楕円形状部21は、半楕円以上である。楕円形状部21の長径をaとしたとき、流路の断面形状は、長径aの半楕円形状を含んでいる、ということもできる。流路の断面は、マイクロ流路を流体の流れ方向に対して垂直に切断したときに現れる孔の形状ということもできる。
【0023】
半楕円とは、楕円を長軸に沿って分割して得られる、楕円の半分の形状を指している。本発明において、略楕円曲線とは、ある曲線を楕円の一部として近似したときに、ある曲線と近似した楕円曲線との距離(誤差r)を、楕円曲線の長径aで除した相対誤差が、20%以下である場合をいう。略楕円は楕円を含む表現である。また、楕円は円を含む。
【0024】
曲線部分の楕円による近似曲線は、例えば、マイクロ流路の断面を光学顕微鏡で観察し、曲線部分を画像処理でエッジを抽出し、最小二乗法を用いて楕円でフィッティングすることで求めることができる。整流性を確保するという観点から、エッジ抽出した曲線部分と近似曲線との誤差rを長径aで除した相対誤差は、15%以下であることが好ましく、より望ましくは10%以下である。
【0025】
半楕円は、流体の圧力が内壁の一部に集中しにくい断面形状である。そのため、流路の断面が半楕円形状を含んでいると、応力集中による破壊を軽減することができる。本明細書では、半楕円形状の近似曲線を、単に半楕円と表記することがある。
【0026】
流路11の断面は、半円形状を含む場合がより好ましい。半円の直径と同じ長さの長径を有する半楕円形状を含んでいる場合よりも、同じ流速で流量を増加させることができるので、より好ましい。
【0027】
本発明の構造体が有する流路の断面積Sは、略楕円曲線の長径をaとすると、πa2/8<S≦(3π+6)a2/16の関係を満たす。以下、長径aを、楕円形状部21の長径と呼ぶ場合がある。
【0028】
流路の断面積Sがπa2/8より大きいと、流路の断面が、直径がaの半円形状を含む流路よりも、同じ流速で多くの流体を流すことができる。流量を増やすという観点で、Sは1.5×πa2/8より大きいことがより好ましい。
【0029】
流路の断面積Sが(3π+6)a2/16以下であると十分な整流性が得られる。断面積Sと同じ面積の円の直径を等価直径cとする。楕円形状部の長径aが等価直径cとかい離すると乱流になる傾向がある。Sが(3π+6)a2/16以下であると、等価直径cと楕円形状部の長径aとの差が小さくなり、良好な整流性を得ることができる。より好ましいSは、0.97×(3π+6)a2/16以下である。
【0030】
前記半楕円の長径aは0.5mm以上3.5mm以下であることが好ましい。より好ましくは0.8mm以上3.2mm以下である。長径aが小さくなると、反応、分離、精製、熱交換、検出などの種々目的に対して、流体の温度や流量の影響が大きくなる傾向があるため、流体を、流路11を通すことによって得られる結果物が不均質となる恐れがある。長径aが0.5mm以上であれば、均質な結果物が得られるため好ましく、0.8mm以上であればより好ましい。また、長径aが大きくなると、流路11を流れる液体に乱流が生じる傾向がある。aが3.5mm以下であれば、均質な結果物を安定的に得るのに十分な整流性を得ることができる。より好ましくは、aは3.2mm以下である。
【0031】
楕円の離心率eは、長径をa、短径をbとした時、以下の式であらわされる。
【0032】
【0033】
流路の断面が含む曲線を楕円で近似したときの楕円の離心率をeとする。本明細書ではeを半楕円の離心率と呼ぶ場合がある。このとき、半楕円の離心率eは0以上、0.95以下であることが好ましい。前記半楕円が半円の場合、eは0となる。eが大きくなると楕円が扁平となって流体の流れが乱れる傾向がある。eは0.95以下が好ましく、0.90以下がより好ましい。液体を流している流路内に気体が残存していると、気体の移動によって整流性の低下を招いて、マイクロ流路での化学反応が不均一になる恐れがある。流路を流れる液体の整流性を高めるには、流路を流れる液体が一定の流量になるまでの間に、流路内の気体をできるだけ流路の外に排出することが望ましい。ところが、実際には、流路内の気体をすべてなくすのは困難である。
【0034】
本発明にかかる流路は、流路の断面に含まれる三角形状部の形状を工夫することにより、流路内の気体を効率よく排気するとともに、流路内に気体が残存しても、残存する気体が反応や整流性に与える影響を低減することができる。具体的には、以下の式で表される、前記略楕円曲線と線分とに囲まれた領域の面積Xに対する前記線分を底辺とする三角形状の領域の面積Yの比Rを、0より大きく3以下とすることが望ましい。
【0035】
【0036】
Rが3以下であると、流路を流れる液体の流量が一定になるまでの間に、気体の多くが流路の外に排出されるため好ましい。Rが2以下であればより好ましく、0.7以下であればさらに好ましい。
【0037】
流路を流れる液体の流量が一定になった時点で流路に残留する気体がある場合、流路の断面が三角形状の領域を有すること、すなわちR>0であることで、前記三角形状の頂点部に気体が保持されやすくなるため好ましい。その結果、優れた整流性や、安定した化学反応を実現することができる。
【0038】
前述したように、マイクロ流路の流路長Lが長いと、液体が流路内にとどまる時間が長くなり、化学反応や熱交換が十分に行われる。従って、流路長Lは長い方が好ましい。流路長Lは、流路の断面を構成する楕円形状部21の長径aの10倍以上であることが好ましく、20倍以上がより好ましい。
【0039】
流路が、
図2のような断面形状を有していると、楕円形状部21の長径aに等しい直径を有する半円よりも断面積が大きいため、単位時間当たりにより多くの流体を流すことができる。また、後に詳述するが、断面が三角形状部を有することで、複数の流路を配置する場合に、隣接する流路間の伝熱をより均一にすることも可能である。これにより、例えば、流路間で熱変換を行なう場合、従来の半円形状の断面形状を有する流路に比べて、より均一で効率的な熱交換を実現することができる。
【0040】
前記三角形状部は、
図2(a)のように半楕円の長軸を一辺とするものであってもよいし、
図2(b)のように略楕円の長軸と平行な線分を一辺とするものであってもよい。
【0041】
使用目的によっては、流路の接液部、すなわち、流路内を流れる流体と接する壁面(流路の壁面)、の一部または全部が、多孔質構造を有してもよい。例えば、流路の接液部に触媒を担持させる場合は、多孔質構造を有することが好ましい。流路の接液面を多孔質構造にすることで比表面積を増大させ、多孔質部に触媒を担持させることで、反応を促進させることができる。多孔質構造の流路内における配置は特に制限されるものではないが、例えば、流路の接液部のうち楕円形状部21の壁面を多孔質構造とすることができる。
【0042】
本発明の構造体内部には、
図3に示すように、複数の流路を有することがより好ましい形態である。複数の流路のそれぞれは、途中で合流や分岐をしてもよい。複数の流路それぞれに流す流体の種類は異なっていてもよい。構造体が複数の流路を有する場合、反応、分離、精製、熱交換、検出などの対象とする流体が流れる流路のうち少なくとも1つの流路は、
図2に示すように、半楕円と該半楕円と辺が接する三角形を組み合わせた断面形状を有しているのが好ましい。断面の一部が三角形状を有することで、複数の流路を配置する場合に流路同士の距離を一定にすることができる。流路間の距離が一定になることでそれぞれの流路を流れる液体間の伝熱をより均一にすることが可能となる。
【0043】
例えば、高温水を流す流路と、反応液を流す流路とを備え、高温水の熱を反応液に伝えることによって、反応を促進させるための構造体について考える。本発明にかかる
図3(a)の構造体は、高温水を流す流路であって、平行四辺形の断面形状を有する流路31と、反応液を流す流路であって、略半楕円と三角形状を組み合わせた断面形状を有する流路32を備えている。一方、
図3(b)の構造体は、
図3(a)と同様の流路33と、反応液を流す流路であって、楕円の断面形状を有する流路34を備えている。
【0044】
図3(a)の場合、流路31の一壁面と流路32の三角形状部分の壁面とが平行になるように配置することで、流路31と流路32との間の距離35、36が一定となる部分を設けることができる。従って、流路31を流れる流体と流路32を流れる流体との間の距離を一定に保つことが可能となり、高温水から反応液への伝熱を均一にすることができる。それに対して、
図3(b)の場合、流路34には曲面部分しかないため、流路33との間の距離37、38は場所によって異なり、伝熱が均一とならない。
【0045】
(構造体の製造方法)
本発明の構造体の製造方法は特に限定されるものではないが、付加造形技術、言い換えると、直接造形方式である三次元造形方法を適用することが好ましい。中でも粉末ベッド直接造形方式(以下、粉末ベッド方式と記述する)や、材料を肉盛りするような指向性エネルギー積層方式(クラッディング方式)が好適である。これらの方式を適用することで、マイクロ流路を有する本発明の構造体を一体で製造できる。
【0046】
以下、粉末ベッド方式について、セラミックスで造形する例を挙げて説明する。粉末ベッド方式による構造体の製造方法は、以下の工程を有する。
(i)粉末層を形成する工程
(ii)スライスデータに応じて、粉末層の所定領域を選択的に硬化させる工程
まず、粉末ベッド方式の基本的な造形の流れについて
図4の具体例を用いて説明する。先ず、基台130上に粉末101を載置し、ローラー152を用いて粉末層102を形成する(
図4(a)、(b))。構造体の3次元データから生成したスライスデータに基づいて、粉末層102の表面に、エネルギー線源180から射出したエネルギー線をスキャナ部181で走査しながら照射する。すると、エネルギー線が照射された領域の粉末に含まれる粒子が熔融してその後凝固し、粒子同士が互い焼結した凝固部(硬化部)100が形成される(
図4(c))。エネルギー線が照射されない領域は粉末のまま、非凝固部(非硬化部)103として残る。続いて、ステージ151を降下させ、前記凝固部(硬化部)100上に粉末層102を新たに形成する(
図4(d))。新たに生成した粉末層102に、スライスデータに基づいてエネルギー線を照射し、新たな凝固部100と非凝固部103とを形成する(
図4(e))。
【0047】
これら一連の工程を繰り返し、所望形状の造形物500を形成する(
図4(f))。そして、最後に非凝固部103の粉末を除去し、必要に応じて造形物の不要部分の除去や、造形物と基台130との分離を行う(
図4(g)、(h))。
【0048】
続いて、セラミックスの造形に用いる材料粉末について説明した後、各工程について詳細に説明する。
【0049】
<材料粉末>
セラミックスの造形に用いる材料粉末として、無機化合物を主成分とする粉末(以下、無機化合物粉末と記述する)を用いる。本発明において、無機化合物とは、水素を除く周期表1族から14族までの元素に、アンチモンおよびビスマスを加えた元素群のうち、1種類以上の元素を含有する酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、あるいはホウ化物を指す。無機化合物からなる粉末である無機化合物の粉末は1種類の無機化合物により構成されてもよく、2種類以上の無機化合物が混合したものでもよい。後の工程(ii)において、前記無機化合物粉末にエネルギー線を照射して熔融および凝固させると、その結果物をセラミックス状とすることができる。
【0050】
無機化合物粉末とは、本発明の工程(i)(ii)によってセラミックス状のセラミックス構造体を形成することができる粉末ということであって、アモルファス質からなる粉末であってもよい。また、無機化合物粉末の流動性や最終的なセラミックス構造体の性能を調整するために、無機化合物粉末に少量(無機化合物粉末100重量部に対して10重量部以下)の樹脂や金属等を含んでもよい。
【0051】
無機化合物粉末の無機化合物は金属酸化物を主成分とするものからなることが、特に好ましい。酸化物はその他の無機化合物に比べて揮発成分がなく、工程(ii)において安定した熔融が実現できる。また、無機化合物粉末が金属酸化物を主成分とすることで、高強度の構造体を得ることができる。ここで金属酸化物とは上記元素群からホウ素、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、並びに13族(窒素族)および14族(酸素族)の元素を除いた元素群のうち、1種類以上の元素を含有する酸化物を指す。無機化合物粉末、金属酸化物の中でも、酸化アルミニウムまたは酸化ジルコニウムを主成分とすることが好ましい。酸化アルミニウムまたは酸化ジルコニウムが、造形物の主成分であり、骨材となることで、強酸や強アルカリに対する耐食性、気密性、機械強度、環境適合性に優れた構造体を作製することができる。
【0052】
無機化合物粉末は、単体の金属酸化物で構成しても良いが、他の物質と組み合わせて用いることで新たな機能を発現し、さらに望ましくなる場合がある。例えば、酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムとを含む粉末、あるいは、酸化アルミニウムと酸化ガドリニウムや酸化イットリウムなどの希土類金属酸化物とを含む粉末である。このような粉末を用いた造形は、加温時に共晶が形成されるため単体の金属酸化物よりも融解温度が低下し、レーザー照射による熔融・凝固反応が比較的容易になる。そればかりでなく、熔融後に凝固した際には構造体中に共晶組織が発現し、単体の金属酸化物よりもクラックの進展が抑えられるため、機械的強度および気密性が高くなることがある。そのような観点で、無機化合物粉末は、酸化アルミニウムと酸化ガドリニウムとを含有していることが、特に好ましい。
【0053】
複数の物質を組み合わせる場合、それぞれの物質単体からなる粉末を混合した混合粉末であってもよいし、粉末に含まれる粒子が複数の物質の組み合わせで構成されていてもよい。
【0054】
また、工程(ii)におけるエネルギー線がレーザーである場合、無機化合物粉末に十分なエネルギー吸収があることで、粉末における熱の広がりが抑制されて局所的になり、熱ひずみや熱影響部分が低減するため、造形精度が向上する。たとえば、Nd:YAGレーザーを使用する場合は、Tb4O7、Pr6O11などが良好な吸収を示すため、無機化合物粉末に含有されていてもよい。
【0055】
以上の観点から、本発明における好適な無機化合物の組み合わせとして、Al2O3-ZrO2、Al2O3-Gd2O3、Al2O3-Y2O3、Al2O3-Tb4O7、ZrO2-Tb4O7、Al2O3-Gd2O3-Tb4O7、Al2O3-ZrO2-Tb4O7、Al2O3-Y2O3-Tb4O7等が挙げられる。
【0056】
<工程(i):粉末層を形成する工程>
粉末の供給方法は特に限定されないが、例えば、特開平8-281807に開示されているような粉末供給装置(不図示)によって、供給することができる。スライスデータで定義される厚みに応じて、基台130の上面あるいはエネルギー線照射後の粉末層の上面が、コンテナ153の上縁より一層の厚さ分だけ下方となる位置にステージ151の位置を調整する。そして、粉末供給装置により基台130の上に粉末を供給し、粉末をローラー152によって平坦化することにより、粉末層102を形成することができる(
図4(a)、(b))。粉末を供給した後、層厚規制手段(例えばブレードなど)で粉末の表面を均して粉末層102を形成してもよい。基台130には、耐熱性のあるセラミックス製の平板を用いることが好ましい。
【0057】
<工程(ii):粉末層にエネルギー線を照射する工程>
図4に示した、工程(ii)では、工程(i)で形成した粉末層の所定領域にエネルギー線を照射して、前記粉末のエネルギー線が照射された部位を熔融および凝固させる例で説明する。エネルギー線の照射は、構造体の3次元データから生成したスライスデータに基づいて行う。また、造形用の粉末としてセラミックス粉末を用いることとする。
【0058】
粉末にエネルギー線を照射すると、粉末がエネルギーを吸収し、該エネルギーが熱に変換されて粉末が熔融する。エネルギー線の照射が終了すると、熔融した粉末は、雰囲気および隣接するその周辺部によって冷却され、凝固し、凝固部100が形成される(
図4(c))。
【0059】
使用するエネルギー線としては、無機化合物粉末の吸収特性に鑑みて、適切な波長を有する光源を選定する。微細な構造を有する構造体を形成するためには、ビーム径が絞れて指向性が高いレーザー線もしくは電子線を採用することが好ましい。酸化アルミニウムを主成分とする粉末に好適なエネルギー線は、レーザー線としては、1μm波長帯のYAGレーザーやファイバーレーザー、10μm波長帯のCO2レーザーなどが挙げられる。粉末が副成分として酸化テルビウムや酸化プラセオジムを含む場合は、1μm波長帯のYAGレーザーが好適である。
【0060】
造形物を得るには、前記工程(i)および(ii)を、所定回数繰り返す。すなわち、工程(ii)で得られた凝固部100の上に、工程(i)によって新たに粉末層102を形成し、新たな粉末層102にエネルギー線を照射する(
図4(d)~(f))。エネルギー線の強度は、凝固部100の上の粉末層102が熔融するとともに、照射領域の粉末層102の下にある先に形成した凝固部100の表面部分が再熔融する程度に調整しておく。これにより、新たにエネルギー線を照射して形成された凝固部100と、先に形成された凝固部100とを一体化することができ、構造体の3次元データに応じた形状を有する造形物を作製することができる(
図4(g))。
【0061】
本発明にかかる流路を有するセラミックス構造体を粉末ベッド方式で製造する場合、
図6に示した矢印の方向、即ち、楕円形状部の底部61の側から三角形状部の頂点64に向かって造形することが好ましい。このような条件で造形すると、緻密性が高く凹凸が少ない壁面で囲まれた流路を製造できる。
【0062】
例えば、
図1に示した構造体を製造する場合は、マイクロ流路の断面に対して垂直な面に粉末層を形成するように、工程(i)および工程(ii)を繰り返し実施することが好ましい。流路となる部分63にはエネルギー線を照射せず、構造体となる部分62にエネルギー線を照射する。エネルギー線が照射されない部分の粉末は熔融および凝固しないため、粉末のままとなる(非凝固部63)。工程(i)および工程(ii)を、構造体のスライスデータに従って所定回数繰り返してセラミックス構造体を造形したのち、非凝固部63の粉末を除去することで流路が形成される。
【0063】
半楕円形状部の造形では、積層方向に対して、流路となる非凝固部62の面積が粉末層の積層回数に応じて徐々に大きくなっていくことが好ましい。流路は、楕円形状部の長軸を含む部分が、積層方向のうち最大の面積となることが好ましい。そして、半楕円形状部の長軸を含む面を境として、流路となる非凝固部63の面積が粉末層の積層回数に応じて徐々に小さくなっていくことが好ましい。
【0064】
図2(a)の三角形状部22の2つの角(底角)θ1とθ2は、ともに45度以上となることが好ましい。45度以下だと非凝固部の一層毎の減少率が大きいことに起因して、流路の形成が不安定になり、流路内壁の表面粗さが増加してしまうため望ましくない。断面方向で見た場合、θ1とθ2のうち一方でも45度以下であると、その角の補角は135度を超えることになる。すると、凝固部のオーバーハングの傾斜が大きくなりすぎ、凝固部を、その直下の非凝固部で支持することが難しくなり、凝固部の形状が乱れてしまうおそれがある。
【0065】
また、2つの角θ1とθ2のうち一方でも90度を超えると三角形状部22のθ1とθ2以外の角が鋭角になりすぎるので、流路の流れを妨げてしまう。好ましくは、θ1とθ2はそれぞれ80度以下であり、より好ましくは60度以下である。また、三角形状部22の角θ3のコーナーアールは、半径0.05mm以上であることが好ましい。
【0066】
図2(b)の場合、三角形状部22は、2つの端点における楕円形状部21の接線と長軸とのなす角θ4およびθ5が45度となる、線分gを一辺とした三角形であることが好ましい。三角形形状22の2つの角θ1とθ2は、互いに等しい角度である必要はないが、
図2(a)と同様の理由で、ともに45度以上となることが好ましい。また、
図2(a)と同様に、角θ1とθ2はともに90度以下であることが好ましく、80度以下がより好ましい。また三角形状部の22の角θ3のコーナーは、アールをつけるなど角の鈍った形状が好ましい。角θ3のコーナーにアールをつける場合は、コーナーを半径0.05mm以上の円の弧とするのが好ましい。角θ3の角を落とす場合は、0.3mm以下の幅で落とすのが好ましい。
【0067】
造形後に、セラミックス構造体の密度上昇や強度向上、あるいは再酸化を目的として、加熱処理を実施してもよい。その際、釉薬として有機化合物や無機化合物を塗布、含浸させると、単なる加熱処理に比べてセラミックス構造体の密度上昇や強度向上が期待できる点で好ましい。
【0068】
加熱手段に制限はなく、抵抗加熱方式、誘導加熱方式、赤外線ランプ方式、レーザー方式、電子線方式など目的に応じて利用することが可能である。
【0069】
前記工程(i)と(ii)の繰り返しによって得られたセラミックス構造体は、製造時の熔融および凝固の過程の急激な温度変化によって、表層および内部に応力が発生し、マイクロクラックが形成される場合がある。そこで、マイクロクラックを補償して、セラミックス構造体の密度上昇や機械強度の向上を図る処理として、下記工程(iii)および(iv)を実施するのが好ましい。
(iii)造形物に金属成分含有液を吸収させる工程
(iv)金属成分含有液を吸収させた造形物を加熱する工程
以下、工程(iii)、(iv)について詳細に説明する。
【0070】
<工程(iii):造形物に金属成分含有液を吸収させる工程>
金属成分含有液について説明する。金属成分含有液は、造形物に吸収させた後に行われる加熱処理によって造形物を構成する相と共晶関係となり得る相に変化する金属成分の原料と、有機溶媒と安定化剤とを含むものが好適である。
【0071】
例えば、造形物が酸化アルミニウム(Al2O3;融点Tm:2070℃)からなる場合は、金属成分含有液としてジルコニウム化合物を含む液を用いることができる。アルミナを主体とした造形物に吸収させる場合は、ジルコニウム以外の金属元素が含まれない原料が好ましい。ジルコニウム成分の原料としては、ジルコニウムの金属アルコキシドや塩化物や硝酸塩などの塩化合物を用いることができる。中でも金属アルコキシドを用いると、ジルコニウム成分含有液を中間造形物のマイクロクラックに均質に吸収させることができるため好ましい。ジルコニウムアルコキシドの具体例として、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラn-プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn-ブトキシド、ジルコニウムテトラt-ブトキシド等が挙げられる。
【0072】
まず、ジルコニウムアルコキシドを有機溶媒に溶解させて、ジルコニウムアルコキシドの溶液を調製する。ジルコニウムアルコキシドに加える有機溶媒の添加量は、化合物に対してモル比で5以上30以下であることが好ましい。より好ましくは、10以上25以下である。なお、本発明において、Xの添加量はYに対してモル比で5とは、添加するXのモル量がYのモル量に対して5倍であることを表している。溶液中のジルコニウムアルコキシドの濃度が低すぎると十分な量のジルコニウム成分を造形物に吸収させることができない。一方で、溶液中のジルコニウムアルコキシドの濃度が高すぎると溶液中のジルコニウム成分が凝集してしまい、中間造形物のマイクロクラック部分にジルコニウム成分を均質に配置することができない。
【0073】
前記有機溶媒としては、アルコール、カルボン酸、脂肪族系または脂環族系の炭化水素類、芳香族系炭化水素類、エステル、ケトン類、エーテル類、あるいはこれら2種以上の混合溶媒を用いる。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどが好ましい。脂肪族系ないしは脂環族系の炭化水素類としては、n-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンなどが好ましい。芳香族炭化水素類としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどが好ましい。エステル類としては、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどが好ましい。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが好ましい。エーテル類としては、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテルなどが挙げられる。本発明で使用される塗布溶液を調製するに当たり、溶液の安定性の点から上述した各種の溶剤類のうちアルコール類を使用することが好ましい。
【0074】
次に、安定化剤について説明する。ジルコニウムアルコキシドは水に対する反応性が高いため、空気中の水分や水の添加により急激に加水分解され溶液の白濁、沈殿を生じる。白濁や沈殿が生じるのを防止するために安定化剤を添加し、溶液の安定化を図ることが好ましい。安定化剤としては、例えば、アセチルアセトン、3-メチル-2,4-ペンタンジオン、3-エチル-2,4-ペンタンジオン、トリフルオロアセチルアセトンなどのβ-ジケトン化合物類;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸アリル、アセト酢酸ベンジル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸tert-ブチル、アセト酢酸イソブチル、3-オキソヘキサン酸エチル、2-メチルアセト酢酸エチル、2-フルオロアセト酢酸エチル、アセト酢酸2-メトキシエチルなどの、β-ケトエステル化合物類;さらには、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの、アルカノールアミン類等を挙げることができる。安定化剤の添加量は、ジルコニウムアルコキシドに対してモル比で0.1以上3以下が好ましい。より好ましくは、0.5以上2以下である。
【0075】
溶液の調製は、室温で反応させても、還流させて調製しても構わない。
【0076】
また、造形物がAl2O3とGdAlO3の2相からなる場合、造形物の融点は2相の組成比に応じて決まる。例えば、この2相が共晶組成であれば、融点は約1720℃になる。このときの金属成分含有液としては、加熱処理によってZrO2の相が生じるジルコニウム成分含有液を選択することが可能である。
【0077】
工程(i)においてエネルギー線照射によって熔融した粉末は、周囲に冷やされて凝固し、凝固部が形成される。セラミックスの場合は、熔融/凝固の温度差が大きいので、凝固部にはマイクロクラックが発生する場合がある。このマイクロクラックが造形物に残存する。
【0078】
金属成分含有液は、工程(iii)によって、造形物の表層のみならず、マイクロクラックを伝って造形物の内部にも分布する。造形物のマイクロクラックの十分な範囲に、十分な量の金属成分を介在させることができるのであれば、造形物に金属成分含有液を含浸させる手法は問わない。金属成分含有液中に造形物を浸けてもよいし、金属成分含有液を霧状にして造形物に吹き付けてもよいし、刷毛などで塗布してもよい。また、これらの手法を複数組み合わせてもよいし、同じ手法を複数回繰り返してもよい。金属成分含有液を吹き付ける場合、および、金属成分含有液を塗布する場合は、金属成分含有液を含浸していない造形物の5体積%以上20体積%以下の金属成分含有液を吹き付け乃至塗布することが好ましい。5体積%未満であると、造形物のマイクロクラック部分に配置される金属成分量が不足し、マイクロクラック部分が熔融しないおそれがある。
【0079】
<工程(iv):金属成分含有液を吸収させた造形物を加熱する工程>
工程(iii)では、金属成分含有液を吸収させた造形物を加熱する工程を実施する。
【0080】
工程(iii)を施した後の造形物には、金属成分含有液、即ち金属成分が、造形物表層および造形物内部のマイクロクラックに分布して存在している。このような造形物を、加熱処理することによって、造形物の金属成分が存在している部分、具体的には、造形物表層と造形物内部のマイクロクラック部分で、焼結または一部熔融が生じる。加熱する工程では、造形物が到達する最高温度が、金属成分含有液から形成される金属酸化物の相と造形物を構成する相との共晶温度よりも高く、造形物を構成する相の融点よりも低いことが好ましい。
【0081】
マイクロクラック部分が、金属成分含有液から形成される金属酸化物の相と造形物を構成する相との共晶温度よりも高い温度に達すると、マイクロクラック部に分布していた金属成分が造形物の結晶内部に拡散する。そして、金属成分が存在しているマイクロクラック部分の造形物が熔融する。熔融状態では、表面エネルギーが減少する方向に原子の拡散が進み、その後温度を低下させることで、熔融した部分が、金属成分を含んだ状態で結晶が再結晶化し、マイクロクラックが低減する。その結果、造形物の結晶組織間の結合力が強くなり、造形物の耐摩耗性および強度が大きく向上する。
【0082】
前述したように、酸化アルミニウム(Al2O3;融点2070℃)からなる造形物のクラックの補償には、ジルコニウム成分含有液が好適である。ジルコニウム成分含有液からは、加熱処理によってジルコニア(ZrO2;融点2715℃)相が形成される。そして、Al2O3とZrO2との共晶温度は約1900℃である。この場合は、加熱処理時にマイクロック部分が到達する最高温度が、1900℃より高く2070℃より低くなるように加熱するとよい。
【0083】
耐摩耗性を向上させるためには、金属成分を造形物の結晶内部に十分に拡散させる必要がある。そのためには、金属成分含有液から形成される金属酸化物の相と造形物を構成する相との共晶温度よりも高い温度で長時間加熱することが好ましい。マイクロクラック部分の温度が上記温度範囲になるように加熱温度をコントロールすることで、金属成分が存在する部分の近傍のみを熔融させることができるため、造形物の形状を崩さずマイクロクラックを低減することができる。加熱温度がコントロールされていれば、長時間加熱しても造形物形状は維持される。
【0084】
マイクロクラック部分に十分な金属成分が介在すれば、上述のようにマイクロクラックの近傍の造形物が熔融し、マイクロクラックを低減させる効果がある。例えば、マイクロクラック近傍を、酸化アルミニウムを主成分とした造形物78mol%に対して酸化ジルコニウムが22mol%近傍である、共晶組成に近づけることで、造形物のマイクロクラック近傍を選択的に熔融させることができる。
【0085】
このように、造形物に金属成分含有液を含浸させた後に加熱処理することによって、マイクロクラック部分を選択的に熔融および凝固して再結晶化させることができる。このようにして得られる造形物は、マイクロクラックが低減し、処理前に比べて耐摩耗性および機械強度が大きく向上する。
【0086】
以上、粉末ベッド方式を用いて構造体を造形する例について説明したが、クラッディング方式を用いて造形することもできる。
【0087】
クラッディング方式について
図5を用いて説明する。クラッディング方式は、クラッディングノズル201にある複数の粉末供給孔202から粉末を噴出させ、それらの粉末が焦点を結ぶ領域にエネルギー線203を照射して、所望の場所に付加的に凝固部100を形成する(
図5(a))。かかる工程を繰り返し行って所望形状の造形物500を得る(
図5(b)、(c))手法である。最後に、必要に応じて造形物500の不要部分の除去や造形物500と基台130との分離を実施する。
【0088】
クラッディング方式は、粉末ベッド方式に比べて、造形物表面に凹凸ができやすい。そのため、内壁の凹凸が小さいマイクロ流路を形成して、流路内の抵抗を小さくするという観点においては、クラッディング方式よりも粉末ベッド方式の方が好適である。
【0089】
また、セラミックス材料を用いて造形したセラミックス構造体について説明したが、本発明はセラミックス材料に限定されるものではない。無機化合物粉末を用いた造形と同様に、金属粉末あるいは樹脂粉末を用いて、本発明にかかるマイクロ流路を含む金属構造体あるいは樹脂構造体を作成することができる。
【実施例】
【0090】
以下に実施例を挙げて、本発明の構造体を説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0091】
(実施例1)
図2(a)の断面形状を有する流路を、内部に2mmピッチで12本備える60mm×57mm×13mmの構造体を作製した。
【0092】
まず、α-Al2O3粉末、Gd2O3粉末、Tb2O3.5粉末(Tb4O7粉末)を用意し、モル比がAl2O3:Gd2O3:Tb2O3.5=77.4:20.8:1.8となるように各粉末を秤量した。秤量粉末を乾式ボールミルで30分間混合して混合粉末(材料粉末)を得た。
【0093】
次に、上述した
図4に示す工程と基本的に同様な工程を経て実施例1の造形物を形成した。
【0094】
造形物の形成には、300WのNd:YAGレーザー(ビーム径65μm)が搭載されている3D SYSTEMS社のProX DMP 200を用いた。
【0095】
最初に、ローラーを用いてアルミナ製の基台上に前記材料粉末の20μm厚の一層目の粉末層を形成した(工程(i))。次いで、30Wのレーザービームを、前記粉末層に照射し、60mm×57mmの長方形の領域にある材料粉末を熔融および凝固させた。描画速度は100mm/sから140mm/s、描画ピッチは100μmとした。また、
図7(a)に示すように、描画ラインは長方形に対して斜め45度となるようにした。(工程(ii))。次に、前記熔融および凝固部を覆うように20μm厚の粉末層をローラーで新たに形成した(工程(i))。
図7(b)に示すように、一層目の描画ラインと直交するような形で前記長方形の領域の真上にある粉末層にレーザーを照射し、60mm×57mmの領域を熔融および凝固させた(工程(ii))。このような工程を繰り返して、60mm×57mmの長方形で高さ5.5mmの中間造形物を形成した。この中間造形物の上に20μm厚の粉末層を形成し、
図8(a)に示すように断面方向で非凝固部の長さが398μmで断面と鉛直方向に60mmとなるようにレーザーをスキャンして流路の略楕円部の底部近傍を形成した。なお、レーザー照射によって熔融および凝固する幅(凝固線幅)をあらかじめ計測して補正することで、所望寸法の造形物が得られるよう調整した。この時の積層回数をn=1とする。この後、非凝固部の長さが2×(20μm×n×(2×1mm-20μm×n))
0.5となるようにレーザーをスキャンして積層を繰り返し、
図8(b)に示すように流路の楕円形状部の高さが1mmになるまで
図8造形した。流路は2mmピッチで12本形成した。次に
図8(c)に示すように流路の三角形形状部を、非凝固部の幅が断面方向に1960μmで、非凝固部の長さが断面と鉛直方向に60mmとなるようにレーザーをスキャンして形成した。この時の積層回数をm=1とする。断面方向における非凝固部の幅が2×(1mm-20um×m)となるようにレーザーをスキャンして積層を繰り返し、
図8(d)に示すように流路の三角形形状部の高さが1mmになるまで造形した。その後、
図8(e)に示すようにさらに高さ5.5mmの厚さの凝固部を形成し、内部に非固溶部を有する造形物を得た。前記中間造形物をアルミナ製の基台から切り離し、洗浄によって造形物内の非凝固粉末を取り除くことで、流路を有する造形物を得た。光学顕微鏡で前記造形物の表面を観察したところ、造形物表面の凹凸は20μm以下であった。
【0096】
続いて、得られた造形物にジルコニウム成分含有液を吸収させて加熱し、マイクロクラックを低減する処理を行った。
【0097】
ジルコニウム成分含有液は、次のように作製した。85重量%のジルコニウム(IV)ブトキシド(以下、Zr(O-n-Bu)4と表記する)を1-ブタノール中に溶解させた溶液を用意した。前記Zr(O-n-Bu)4の溶液を2-プロパノール(IPA)中に溶解させ、安定化剤としてアセト酢酸エチル(EAcAc)を添加した。各成分モル比は、Zr(O-n-Bu)4:IPA:EAcAc=1:15:2とした。その後、室温で約3時間攪拌することにより、ジルコニウム成分含有液を作製した。
【0098】
実施例1の造形物をジルコニウム成分含有液に浸漬し、1分減圧脱気して、内部まで液を浸透させたのち、1時間自然乾燥させた(工程(iii))。
【0099】
ジルコニウム成分含有液を含浸させた造形物を電気炉に入れて加熱した。大気雰囲気にて1670℃まで4時間で昇温させ、1670℃で30分保持した後、6時間かけて200℃以下に冷却した(工程(iv))。
【0100】
以上の手順により、
図2(a)のように、楕円形状部と三角形状部とからなる断面形状を有する流路を内部に備えるセラミックス構造体を得た。
【0101】
(実施例2~34)
原料粉末の種類や流路の断面形状を変えて、複数種のセラミックス構造体を作製した。
【0102】
実施例2から実施例23のセラミックス構造体は、実施例1と同様に、流路の断面の三角形状部の一辺が楕円形状部の長径である、
図2(a)の形状となるように設計し、用いる原料粉末の組成を変えて作成したものである。
【0103】
実施例1から実施例23の楕円形状部と三角形状部の設計寸法、および原料粉末の配合比を表1に示す。構造体の造形は実施例1と同様に行ったが、「工程(iii)および工程(iv)」の欄に無と記載されている実施例は、造形後にクラックを低減する処理を実施しなかった。
【0104】
実施例24から実施例34のセラミックス構造体では、流路の断面の楕円形状部21が半楕円形状よりも大きい
図2(b)の形状となるように設計した。楕円形状部21の2本の接線と長軸のなす角θ4およびθ5を45度とし、三角形状部22の一辺が、前記2本の接線と楕円形状部21との2つの接点を結んだ線分gとなるようにした。実施例24から実施例34の楕円形状部と三角形状部の設計寸法および原料粉末の配合比を表2に示す。
【0105】
【0106】
【0107】
(比較例1)
実施例1と同様にして、流路断面の三角形状部の一辺が楕円形状部の長径となるような形状の構造体を作製した。比較例1の構造体の設計寸法を表1に示す。比較例1は、三角形状部の各θ1、θ2が共に20度であり、45度未満となっている。
【0108】
(実施例35)
実施例1と同様の工程を経て、
図9(a)に示すような、構造体の端部に折返し部を有するマイクロ流路を備える構造体を作成した。
図9の(b)にA-A‘断面の断面図を示す。
図9の(b)に示すように高温液体用の流路111と低温液体用の流路112を設けた。高温液体用の流路111は、対角線が2mmの正方形の断面形状を有する流路である。低温液体用の流路112の断面は、楕円形状部21が直径2mmの半円であり、三角形状部が前記半円の直径を一辺とする直角2等辺三角形とした。それぞれの流路の流路長は1mとなるように設計した。
【0109】
(比較例2)
上記実施例35と比較するために、
図10に示すような断面を有する、マイクロ流路を備える構造体を作製した。
図10のマイクロ流路は、高温液体用の流路115と低温液体用の流路116が、いずれも直径2mmの半円形をしている。各流路間の最短距離は実施例1の
図9(b)と同じ2mm、流路長さはいずれも1mとなるように設計した。
【0110】
(実施例36~69)
実施例1と同様の工程を経て、流路の断面形状がそれぞれ実施例1から実施例34と同じで、
図11に示すようなT字形状のマイクロ流路を実施例36から実施例69として造形した。
図11(a)が作成した構造体の全体図、(b)に構造体に設けた流路を上面からみた図である。
【0111】
(比較例3)
実施例36と比較するために、流路の断面形状を比較例1と同じ形状に変更した点を除いて、実施例36と同様の構造体を比較例3として作製した。
【0112】
(形状の評価)
実施例1~34、および比較例1の構造体を切断・研磨し、流路断面の形状を光学顕微鏡で観察した。その時の流路断面積と半楕円部分の長径を測定した。測定した断面積と長径を表3に示す。さらに、光学顕微鏡で測定したマイクロ流路の断面のエッジを画像処理により抽出し、設計した外形と最小二乗法を用いてフィッティングを行った。その際の最大の誤差の絶対値を求めた。
【0113】
比較例1は、最大の誤差が0.5mmを超えており、これは流路内壁の凹凸が大きく、流れを妨げているので望ましくない。
【0114】
【0115】
(組成の評価)
実施例1~34、および比較例1の造形物の一部を酸で溶解し、ICP発光分光分析法で組成分析を行った。その結果、表1および表2で示したような組成であることを確認した。
【0116】
(性能の評価)
図9に示す実施例35の高温液体用の流路111に80℃の水を循環させ、低温液体用の流路112に25℃の水を流して出口の温度を測定したところ、最大75℃となっており、熱交換による水の温度上昇が確認された。
【0117】
図10に示す比較例2の高温液体用の流路に80℃の水を循環させ、低温液体用の流路に25℃の水を流して出口の温度を測定したところ、最大でも60℃程度であり、熱交換による水の温度上昇は実施例35より小さかった。
【0118】
実施例36から実施例69で作製した、T字形状の流路を有する構造体の2つの供給口から、有機溶媒113と水114をそれぞれ供給して合流させたところ、サイズの均一なエマルションになることを確認した。本発明である実施例36から実施例69の流路は整流性に優れているため、均質な分散液が得られた。このことから、本発明の流路を用いれば、均質な化学反応を実現することも可能である。一方で、比較例3の流路に同じく有機溶媒と水を流して合流させたところ、サイズが不均一なエマルションとなった。比較例3では乱流となり、均質な分散液は得られなかった。
【0119】
実施例3と比較例1を比較すると、比較例1は実施例3よりも長径aが長いにもかかわらず断面積は小さかった。その結果、同じ流速での流量が劣っていた。
【0120】
実施例1から実施例35の流路にヘリウムガスを流し、リークテストをしたが、リークは認められず、良好な気密性を示すことを確認した。
【0121】
実施例1から実施例35の構造体を水酸化ナトリウムおよび塩酸にそれぞれ浸漬したが、構造体の変形は認められなかった。また、浸漬後の溶媒をICP発光分光分析法で組成分析したが、各実施例の構造体の成分は数ppm以下であり、各実施例の構造体の耐食性が高いことを確認した。
【0122】
実施例1から実施例34の流路に流体を流し、流量が一定になるまでに各流路から排出される気泡の量をカメラで測定した。流路の出口につないだガラス管を通過する気泡の二次元画像(気泡の投影像)を取得し、前記投影像の面積から円相当径と、前記径を有する球の体積を算出し、これを気泡の体積とした。3分間の撮影を行い、出てきた気泡の体積を概算した。その結果、Rが3以下である実施例1から7、実施例9から34は、Rが3より大きい実施例8と比べて排出される気泡の量が2割多かった。Rが3以下である実施例1から7、実施例9から34は、Rが3より大きい実施例8に比べて流路内のより多くの気体が外部に排出され、より優れた整流性を得ることができた。
【0123】
次に、実施例1から実施例34、および比較例1の流路に流体を流し、流量が一定になったのち、上記と同様の測定を行って各流路から出てくる気泡の量を算出した。その結果、流路断面に三角形状部を有する実施例1から34は、三角形状部がない比較例1にくらべて流路から出てくる気泡の量が2割少なかった。これは、実施例1から34では、流量が一定になった後の流路内の残留気体の移動が抑制されたことを示す。これは、三角形状の頂点部付近に残留気体が保持されたためと考えられる。これにより、比較例1に比べて優れた整流性が得られた。
【0124】
以上、セラミックス粉末を用い、粉末層にエネルギー線を照射して、スライスデータに応じた所定領域を選択的に硬化させる例を示したが、粉末層を硬化させる方法は、この例に限定されるものではない。
【0125】
例えば、インクジェット法などを用いて、粉末層にスライスデータに応じてバインダーを吐出して硬化させる方法や、無機材料とバインダーとなる樹脂材料を混合した粉末層に、結合開始材を吐出する方法などが挙げられる。あるいは、無機材料とバインダーとなる樹脂材料を混合した粉末層に、樹脂材料を選択的に溶融する熱をレーザー等で与え、スライスデータに応じた所定領域を選択的に硬化させる方法を採用することもできる。
【0126】
また、粉末とバインダーとを混合した粘性の高い混合流体を、スライスデータに基づいて積層することで、本発明の流路を有する構造体を製造することも可能である。この場合、バインダーの種類は問わないが、例えば酢酸ビニルやワックス等の熱可塑性バインダーが好適である。熱可塑性バインダーを使用した場合、例えば、以下の手順によって構造体が製造される。
【0127】
まず、セラミックや金属などの原料となる粉末と熱可塑性バインダーを加熱混練した混合物を射出成形機や押し出し成形機に投入する。次に、前記成形機のシリンダ内において、前記混合物を混練加熱すると、熱可塑性バインダーが溶融して流動性を有する混合流体となる。そして、混合流体を成形機から押し出し、積層していくことで所望の内部流路形状を有する成形体が完成する。
【0128】
前記成形体が非酸化物セラミックおよび金属の場合は、真空中または水素等還元雰囲気中において、前記成形体が酸化物セラミックの場合は大気中において加熱すれば、熱可塑性バインダーが分解気化し、原料粉末が焼結することで所望の内部流路形状を有する構造体が得られる。
【0129】
造形に用いる粉末は、セラミックス粉末に限定されるものではなく、金属粉末や樹脂粉末、これらの混合粉末などの中から、造形方法や製造する構造体の特性に応じて適宜選択して用いることができる。
【0130】
また、マイクロ流路について説明をしてきたが、本発明は、流路のサイズが限定されるものではなく、様々な用途に用いられる各種サイズの流路に適用することができる。
【0131】
本発明にかかる流路を反応システムの一部として用いる際、流路の供給口には、流路に液体やガスなどの流体を供給する流体供給装置が接続され、流体供給装置が備える加圧機構によって、流体を流路内へと供給するシステムを構成するのが好ましい。加圧機構は、加圧ポンプや、位置エネルギーを利用して流体に勢いを与える方法を採用することもできる。これにより、流体が流路内にとどまることなく、流路の排出口からの流体を取り出すことができる。供給口が複数ある場合は、供給口ごとに、個別に流体供給装置を接続してもよいし、供給する流体が同じ場合は、複数の供給口を1つの流体供給機構に接続してもよい。また、流路が細い場合や長い場合など、流路から流体が排出されにくい場合は、排出口に吸引機構を接続して流体の排出を促してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の流路を有するセラミックス構造体は、酸やアルカリの溶解度の低いセラミックスを一体形成しているため、気密性と耐食性に優れる。このような特徴を活かし、過酷な条件下での化学反応が望まれる分野でのマイクロリアクターに適用可能である。
【符号の説明】
【0133】
10 構造体
11 マイクロ流路
21 楕円形状部
22 三角形状部
100 凝固部
101 粉末
102 粉末層
103 非凝固部
130 基台
151 ステージ
152 ローラー
180 エネルギー線源
500 造形物