(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】半導体回路
(51)【国際特許分類】
H03F 1/22 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
H03F1/22
(21)【出願番号】P 2019163389
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2021-09-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 豊
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-68445(JP,A)
【文献】国際公開第2018/026578(WO,A1)
【文献】特開2013-161258(JP,A)
【文献】特開2011-146817(JP,A)
【文献】特開2007-66043(JP,A)
【文献】特開平8-335122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05F3/16-3/30
H03F1/00-3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流源と少なくとも1つの第1トランジスタとにより構成され、前記電流源は、一端が接地点に接続され、制御端に印加される電圧に基づく定電流を前記第1トランジスタの電流経路を経由して前記接地点に流し、前記第1トランジスタは出力電圧を発生し、前記出力電圧又は所定の入力電圧が前記制御端に印加される
複数の回路と、
電源と前記第1トランジスタとの間に設けられる電圧フィルタであって、ソースが
前記複数の回路の前記第1トランジスタの電源側に
共通接続され、ゲートが接地され、ドレインに電源電圧が印加されるデプレッション型NMOSトランジスタにより構成される電圧フィルタと、を具備する半導体回路。
【請求項2】
前記第1トランジスタは、NMOSトランジスタにより構成される請求項1に記載の半導体回路。
【請求項3】
前記回路は、
バッファ回路又は定電圧回路である請求項1に記載の半導体回路。
【請求項4】
前記デプレッション型NMOSトランジスタのソースは、前記第1トランジスタの電流経路の電源側に接続される請求項1に記載の半導体回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、NMOSトランジスタで構成された増幅回路として、ソース接地型増幅回路が一般的に使用されている。
【0003】
しかしながら、NMOSトランジスタを用いたソース接地型増幅回路は、電源変動によって、回路を構成するトランジスタの閾値等の特性が影響されるという回路特性を有する。このため、高精度の出力が要求される場合には、特性バラつきが小さいオペアンプが用いられる。しかし、オペアンプは回路規模が大きく、高コストである。また、オペアンプは、信号遅延の影響により、ゲインと動作速度とはトレードオフの関係を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施形態は、電源変動の影響による回路特性の変化を抑制することができる半導体回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の半導体回路は、電流源と少なくとも1つの第1トランジスタとにより構成され、前記電流源は、一端が接地点に接続され、制御端に印加される電圧に基づく定電流を前記第1トランジスタの電流経路を経由して前記接地点に流し、前記第1トランジスタは出力電圧を発生し、前記出力電圧又は所定の入力電圧が前記制御端に印加される複数の回路と、電源と前記第1トランジスタとの間に設けられる電圧フィルタであって、ソースが前記複数の回路の前記第1トランジスタの電源側に共通接続され、ゲートが接地され、ドレインに電源電圧が印加されるデプレッション型NMOSトランジスタにより構成される電圧フィルタと、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る半導体回路を示す回路図。
【
図3】縦軸に電圧をとって実施の形態を説明するための説明図。
【
図4】縦軸に電圧をとって実施の形態を説明するための説明図。
【
図5】横軸に入力電圧VINをとり縦軸に出力電圧VOUTをとって、
図1及び
図2の回路における特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は第1の実施の形態に係る半導体回路を示す回路図である。また、
図2は半導体回路の関連技術を示す回路図である。
図1及び
図2は、NMOSトランジスタを用いたソース接地の増幅回路を示している。本実施の形態の増幅回路は、電源側にデプレッション型のNMOSトランジスタを電圧フィルタとして設けることにより、電源変動の影響による回路特性の変化を抑制することを可能にしたものである。
【0009】
図1及び
図2において同一の構成要素には同一符号を付し、同一構成については重複する説明を省略するものとする。
【0010】
先ず、
図2を参照して関連技術における電源変動の影響について説明する。NMOSトランジスタTr1は、ゲートに入力端子INから入力電圧VINが供給され、ソースは接地点1に接続される。トランジスタTr1のドレインは出力端子OUTに接続されると共に、NMOSトランジスタTr2のソースに接続される。なお、トランジスタTr1のバックゲートは接地される。トランジスタTr2のゲートとドレインとは共通接続されて電源端子2に接続される。トランジスタTr2のソース及びバックゲートはトランジスタTr1のドレインに接続される。
【0011】
なお、
図2では、トランジスタTr1,Tr2の閾値電圧Vth1,Vth2がそれぞれ0.6V,0.1Vであることを例示している。また、電源端子2に供給される電源電圧VDDは3.3Vから±0.3V変動する電圧である例を示している。
【0012】
また、トランジスタTr1,Tr2は、飽和領域で使用する。飽和領域では、トランジスタTr1のドレイン電流Idは、ドレイン・ソース間電圧Vds1に拘わらず一定となる。つまり、トランジスタTr1は電流源として作用する。トランジスタTr2は、ゲートとドレインとが接続されることで、抵抗成分を有する負荷として機能する。トランジスタTr1は、入力電圧VINによってゲート・ソース間電圧Vgs1が変化することで、ドレイン電流Idが変化する。このドレイン電流IdがトランジスタTr2のドレイン・ソース路に流れて、入力電圧VIN及びトランジスタTr2による負荷に応じた出力電圧VOUTが出力端子OUTに得られる。
【0013】
図2において、トランジスタTr1,Tr2は飽和領域で動作しており、短チャネル効果及びバックゲート効果を無視すると、ドレイン電流Idは、下記(1)式によって表される。なお、βは係数であり、β=μ×Cox×(W/L)とする。μは電荷移動度、Coxはゲート酸化膜、Wはゲート幅、Lはゲート長を示す。トランジスタTr1のゲート・ソース間電圧Vgs1は、ゲート電圧Vg1-ソース電圧Vs1である。
【0014】
Id=(β/2)×(Vgs1-Vth1)
2 …(1)
上記(1)式において、入力電圧VINを固定値とすると、トランジスタTr1は固定電流源として振る舞う為、ドレイン電流Idは固定値となる。閾値電圧Vth1も固定値である。従って、電源端子2の電源電圧VDDの変動によってトランジスタTr2のゲート電圧Vg2が変動すると、入力電圧VINが固定値であるにも関わらず、トランジスタTr2のソース電圧Vs2、即ち、出力電圧VOUTが変動することなる。このように、
図2の関連技術の回路は、電源変動によって回路特性が変化してしまうという欠点を有する。
【0015】
そこで、実施の形態では、トランジスタTr2のドレインと電源端子2との間にNMOSトランジスタTr3を設ける。トランジスタTr3のドレインは電源端子2に接続され、ソースはトランジスタTr2のドレイン及びゲートに共通接続される。実施の形態においては、トランジスタTr3はデプレッション型であり、ゲートおよびバックゲートは接地される。トランジスタTr3の閾値電圧Vth3は、例えば-2.8Vである。また、トランジスタTr3も飽和領域で動作させる。
【0016】
本実施の形態の作用について
図3及び
図4を参照して説明する。
図3は
図2の回路、
図4は
図1の回路を説明するための図である。
図3及び
図4は、縦軸に電圧をとり、各部の電圧を示している。
【0017】
図4を参照して、
図1の回路の各電圧について説明する。定電流源としてのトランジスタTr1が発生するドレイン電流Idは、トランジスタTr3、トランジスタTr2及びトランジスタTr1の各ドレイン・ソース路を介して電源端子2から接地点1に流れる。
【0018】
トランジスタTr3のゲート・ソース間電圧をVgs3として、(2)式が成立する。
【0019】
Id=(β/2)×(Vgs3-Vth3)2 …(2)
トランジスタTr3のゲートは接地されて、ゲート電圧Vg3は0V、閾値電圧Vth3は固定値である。なお、トランジスタの閾値電圧には特性ばらつきが存在する。ソース電圧Vs3は、(2)式を変形して(3)式で与えられる。
Vs3=Vg3-Vth3-(2Id/β)0.5 …(3)
(3)式は、ゲート電圧Vg3が接地され、Vth3が固定値であれば、ソース電圧Vs3も固定値となることを示している。即ち、トランジスタTr2のドレイン電圧Vd2(=ゲート電圧Vg2)は固定値である。また、トランジスタTr2については、(1)式と同様の下記(4)式が成立する。
【0020】
Id=(β/2)×(Vgs2-Vth2)2 …(4)
従って、(4)式から、電源電圧VDDの変動に拘わらず、ドレイン電圧Vd1すなわち出力電圧VOUTは、ドレイン電流Idに応じた固定値となる。
【0021】
図3及び
図4の例は、電源電圧VDDが3.0V~3.6Vの範囲で変化することを示している。
図2の回路では、ゲート電圧Vg2は2.0V~2.5Vの範囲で変動し、出力電圧VOUT(Vs2)は1.8V~2.3Vの範囲で変動する。これに対し、
図1の回路では、ゲート電圧Vg2は2.8Vに固定され、出力電圧VOUT(Vs2)は2.7Vに固定される。このように
図1の回路は電源依存性を有しておらず、電源変動に拘わらず回路特性が変動しない。
【0022】
なお、トランジスタTr3を飽和領域で動作させるためには、トランジスタTr3のドレイン・ソース間電圧Vds3は、Vds3>Vgs3-Vth3を満足する必要がある。トランジスタTr3のドレイン電圧Vd3、ゲート電圧Vg3及び閾値電圧Vth3の関係は、Vd3>Vg3-Vgh3であり、ドレイン電圧Vd3(電源電圧)が3.0Vで、ゲート電圧Vg3が0Vの場合には、閾値電圧Vth3が約-3.0Vであれば、飽和領域での動作が可能である。なお、この閾値電圧Vth3の設定は、電源電圧VDDの変動を考慮する。
【0023】
図5は、電源電圧VDDが3.3Vの場合の、
図1及び
図2の回路における特性を示すグラフである。横軸に入力電圧VINをとり、縦軸に出力電圧VOUTをとる。
図5において、破線は
図2の回路の特性(Ar)を示し、実線は
図1の回路の特性(Ae)を示している。
【0024】
図2の回路では、電源電圧VDDが直接トランジスタTr2のドレインに印加されて、出力電圧VOUTは特性Arのようになる。一方、
図1の回路は、電源電圧VDDは、トランジスタTr3を介してトランジスタTr2のドレインに供給される。出力電圧VOUTは特性Aeのようになる。
【0025】
電源電圧VDDが3.3Vから±0.3V変動すると、
図2の回路では、破線に示すように、電源変動に応じて出力特性は比較的大きく変動する。これに対し、
図1の回路では、短チャネル効果及びバックゲート効果を無視すると、電源変動による影響を受けずに出力特性は変化しない。実際には短チャネル効果及びバックゲート効果の影響によって、実線に示すように、特性Aeは若干変動する。この場合でも、
図5に示すように、
図1の回路における電源変動による出力電圧の変動量は、
図2の回路に比べて小さい。
【0026】
本実施の形態においては、ソース接地の増幅回路の電源側に、デプレッション型のNMOSトランジスタを電圧フィルタとして設けて、そのゲートを接地する。これにより、電源電圧に変動が生じた場合でも、その影響によりソース接地の増幅回路の電源側の電圧が変動することを抑制することができ、安定した回路特性を得ることができる。
(第2の実施の形態)
図6は第2の実施の形態を示す回路図である。
図6において
図1と同一の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
図1は半導体回路としてNMOSトランジスタを用いた増幅回路を示したが、NMOSトランジスタを用いた他の回路にも適用可能である。
図6はバッファ回路(ボルテージフォロワ回路)に適用した例を示している。
【0027】
図6において、トランジスタTr1は、電流源を構成する。トランジスタTr1は、ゲートがバイアス端子BIASに接続されて、バイアス電圧VBが印加される。トランジスタTr1は、バイアス電圧VBに応じたドレイン電流IdをトランジスタTr3,Tr4,Tr1のドレイン・ソース路に流す電流源として機能する。
【0028】
トランジスタTr4は、ソース及びバックゲートがトランジスタTr1のドレインに接続され、ドレインがトランジスタTr3のソースに接続され、ゲートが入力端子INに接続される。トランジスタTr4は、ソースフォロワを構成する。なお、トランジスタTr4の閾値電圧Vth4は0.1Vの例を示している。また、トランジスタTr3の閾値電圧Vth3が-2.8±0.1Vである例を示している。
【0029】
図6の回路においては、トランジスタTr3のソース電圧Vs3は、電源電圧VDDの変動に拘わらず、閾値電圧Vth3に応じた固定値となる。従って、トランジスタTr4は、電源電圧VDDの変動の影響を受けることはない。本実施の形態の回路は、入力電圧VINに対応した出力電圧VOUTを出力する。
【0030】
このように、本実施の形態においても、電源端子側にゲートが接地されたデプレッション型のNMOSトランジスタを設けていることから、電源電圧が変動した場合でも回路特性の変化を抑制することができる。
(第3の実施の形態)
図7は第3の実施の形態を示す回路図である。
図7において
図1と同一の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
図7は定電圧回路に適用した例を示している。
【0031】
図7の定電圧回路は、入力端子INを省略して、トランジスタTr1のゲートをドレインに接続した点が、
図1の回路と異なる。出力電圧VOUTは、ドレイン電流Id及びトランジスタTr2の負荷によって決定される。ドレイン電流IdはトランジスタTr1のゲートに印加される電圧に応じた固定値となる。この場合において、トランジスタTr2のドレイン電圧Vd2は、電源電圧VDDの変動に拘わらず固定値であるので、出力電圧VOUTは、電源電圧の変動に拘わらず一定となる。
【0032】
このように、本実施の形態においても、電源端子側にゲートが接地されたデプレッション型のNMOSトランジスタを設けていることから、電源電圧が変動した場合でも回路特性の変化を抑制することができる。
(第4の実施の形態)
図8は第4の実施の形態を示す回路図である。上記各実施の形態の回路を複数組み合わせることが可能である。
図8は
図7の定電圧回路と
図6のバッファ回路とを組み合わせた例を示している。
図8において
図7と同一の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
トランジスタTr1~Tr3は、
図7の定電圧回路を構成する。また、トランジスタTr1',Tr3',Tr4'は、
図6のバッファ回路を構成する。即ち、
図8の回路は、バッファ回路のバイアス電圧VBを、
図7の定電圧回路により発生させたものである。
【0034】
図8の回路においては、トランジスタTr3のソース電圧は、電源変動に拘わらず固定値となる。従って、トランジスタTr2のソースからは、電源変動に拘わらず安定した電圧が得られる。この安定した電圧がバッファ回路のバイアス電圧としてトランジスタTr1'のゲートに印加される。また、トランジスタTr3'のソース電圧も、電源変動に拘わらず固定値となる。したがって、電源電圧VDDの変動の影響を受けることなく、入力電圧VINに対応した出力電圧VOUTが得られる。このように本実施の形態においても、電源電圧が変動した場合でも回路特性の変化を抑制することができる。
【0035】
図9は、
図8の変形例の構成を示す回路図である。
図8では、定電圧回路及びバッファ回路の電源端子2及び接地点1を共通にしたが、相互に異なる電源端子及び接地点に接続するようになっていてもよい。また、
図8では、定電圧回路とバッファ回路とで、電圧フィルタを構成するトランジスタTr3,トランジスタTr3'をそれぞれ別に設ける例を説明したが、1つのNMOSトランジスタを共通に用いてもよい。
【0036】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0037】
Tr1~Tr4,Tr1’,Tr3’,Tr4’…NMOSトランジスタ。