(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】医薬品および化粧品用の摺動層を有する包装材および方法、およびその製造のための調製物
(51)【国際特許分類】
B65D 23/02 20060101AFI20240304BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240304BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240304BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
B65D23/02 Z
B32B27/00 101
C08L83/04
A61J1/05 313Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019163749
(22)【出願日】2019-09-09
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】10 2018 122 001.4
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】323000376
【氏名又は名称】ショット ファーマ アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト アウフ アクチェン
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT Pharma AG&Co.KGaA
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,55122 Mainz,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファニー マンゴルト
(72)【発明者】
【氏名】タマラ スウェーク
【審査官】田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-532530(JP,A)
【文献】国際公開第2005/116153(WO,A1)
【文献】特表2015-519136(JP,A)
【文献】特開2004-189744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 23/02
B32B 27/00
C08L 83/04
A61J 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品または化粧品用の包装材上の摺動層を製造するために中空体の内側上に施与するための調製物であって、
・ 摺動層のシリコーンネットワークを形成するための反応性シリコーン系
であって、架橋可能な基を有するポリシロキサンを有する前記反応性シリコーン系、
・ 前記反応性シリコーン系の架橋反応を触媒するための触媒、
・ 少なくとも1つの非反応性シリコーンオイル、および
・ 少なくとも1つの希釈剤を含み、
ここで、前記希釈剤はケイ素含有化合物を含み、且つ調製物中での前記希釈剤の含有率は、調製物中で45質量パーセント以上且つ95質量%以下であり、23℃で前記調製物は1~50000cStの範囲の粘度を有し、且つ前記非反応性シリコーンオイルは2500cSt~50000cStの範囲の粘度を有する、液体調製物。
【請求項2】
反応性シリコーン系が多成分系であることを特徴とする、請求項1に記載の調製物。
【請求項3】
少なくとも1つの以下の特徴:
・ 前記希釈剤が、最大6個のケイ素原子を有するケイ素含有有機化合物を含むこと、
・ 前記希釈剤が19mN/m未満の表面張力を有すること、
を特徴とする、請求項1または2に記載の調製物。
【請求項4】
少なくとも1つの以下の希釈剤:
・ 環状シリコーン、
・ ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、
・ オクタメチルトリシロキサン、
・ デカメチルテトラシロキサン
を有する、請求項3に記載の調製物。
【請求項5】
前記調製物が、23℃で10~35000cStの範囲の粘度を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項6】
前記調製物が、温度23℃で0.5~200mPasの範囲の粘度を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項7】
前記調製物が、温度23℃で1秒後に、ホウケイ酸ガラス表面上で接触角28°未満を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項8】
体積10μlを有する前記調製物の液滴が、温度23℃で5秒後に、ホウケイ酸ガラス表面上で7.3~20mmの範囲の広がりを有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項9】
前記調製物が、有機金属触媒を含有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項10】
前記調製物中での触媒の割合が0.001~5質量%であり、且つ/または触媒の反応性シリコーン系に対する質量比が0.01~0.2の範囲である、請求項9に記載の調製物。
【請求項11】
前記調製物が、反応性シリコーン系の自発的な反応を阻止するための阻害剤を有する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の調製物。
【請求項12】
医薬品または化粧品用の包装材を製造するための方法であって、請求項1から11までのいずれか1項に記載の調製物を、包装材の中空体の内側に層として施与し、次いでシリコーン多成分系の成分の反応を起こして、シリコーンネットワークが形成されて、硬化された摺動層が得られる、前記方法。
【請求項13】
前記シリコーン多成分系の成分の反応を、施与された調製物を加熱することによって開始する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記調製物が、プライマーでの前処理をせずに容器の内側に直接的に施与され、次いで硬化されることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
内側が請求項1に記載の調製物製の摺動層(10)でコーティングされているシリンダー状の中空体(5)を含む、医薬品または化粧品用の包装材であって、前記摺動層(10)はシリコーンネットワークを有し、そこにシリコーンオイルが取り込まれており、ここで、前記中空体はその中空体内に栓を挿入でき、且つ前記中空体内に装填された栓の、摺動層に対する摩擦の静止摩擦値が、平均の滑り摩擦値よりも最大20%大きくなるように構成されている、前記包装材。
【請求項16】
中空体内に装填された栓の、摺動層に対する摩擦の静止摩擦値が、平均の滑り摩擦値よりも最大10%大きい、請求項15に記載の包装材。
【請求項17】
標準の栓を速度100mm/分で前記摺動層上を動かす際、中空体内に装填された栓の摩擦の静止摩擦値および/または滑り摩擦値が10N未満である、請求項15または16に記載の包装材。
【請求項18】
前記摺動層の表面からシリコーンオイルを除去した後に、摺動層の摺動作用が再生する、請求項15から17までのいずれか1項に記載の包装材。
【請求項19】
前記摺動層の層厚が3μm未満であることを特徴とする、請求項15から18までのいずれか1項に記載の包装材。
【請求項20】
容器が、少なくとも1つの以下の材料:
・ ポリオレフィン
・ ガラス
・ ケイ素不含材料
を含むことを特徴とする、請求項18または19に記載の包装材。
【請求項21】
前記摺動層が、中空体内側に直接的に施与されている、請求項15から20までのいずれか1項に記載の包装材。
【請求項22】
前記包装材が、注射器またはカープルであり、前記摺動層が有利には少なくとも中空体の内側の領域を覆い、前記摺動層上を注射器またはカープルの栓が摺動できることを特徴とする、請求項15から21までのいずれか1項に記載の包装材。
【請求項23】
滑り摩擦係数μ
Gと静止摩擦係数μ
Hとの比μ
G/μ
Hが0.80を上回る、請求項15から22までのいずれか1項に記載の包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、医薬品および化粧品調製物を収容するための容器に関する。特に本発明は、容器を空にするためのピストンもしくは栓(Stopfen)の摺動を容易にする摺動層を備えた容器に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック系の化粧品包装材および医薬品包装材は、何十年もの間、標準的な技術であるが、種々の問題も伴っている。注射器用途のための医薬品包装材としての使用においては、装填された栓をわずかな力で動かすことが最大の問題である。栓の静止摩擦および滑り摩擦が小さいと、その内容物を完全且つ速やかに注射器から押し出すことができ、栓の不均一な移動や栓の停滞によって生じ得る処置される患者にとっての不快感を最小限にする。
【0003】
この問題を解決するために、とりわけ、シリコーン処理された医薬品包装材が従来技術から公知である。
【0004】
米国特許第4767414号明細書(US4767414 A)においては、プラスチック内部表面をプラズマで活性化させた後にシリコーンオイルを内壁上に施与することが記載されている。いずれにせよ、プラズマ活性化の追加的な段階を無くすことができれば望ましい。さらに、化学的に非共有結合のシリコーンオイルは、場合により患者、殊に人間の血流に入りかねない。
【0005】
欧州特許第0920879号明細書(EP0920879 B1)は、シリコーンに基づく混合物を記載している。反応性のシリコーンオイルと非反応性のシリコーンオイルとの混合物は、シリコーン層の基材上への結合、並びに栓の良好な摺動特性を可能にする。
【0006】
さらなる問題は、種々の影響下での包装材上での摺動層の摺動特性を保持することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第4767414号明細書
【文献】欧州特許第0920879号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、外部の影響に対してなるべく鈍感な摺動層を有する、医薬品および化粧品のための容器を提供することである。前記の課題は、独立請求項の対象によって解決される。有利な態様およびさらなる構成は、それぞれ従属請求項に記載される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明は、医薬品または化粧品用の包装材の上で摺動膜もしくは摺動層を製造するために、中空体の内側上に施与するための調製物を提供する。該液体調製物は、
・ 摺動層のシリコーンのネットワークを形成するための反応性シリコーン系、
・ 前記反応性シリコーン系の架橋反応を触媒するための触媒、
・ 少なくとも1つの非反応性シリコーンオイル(好ましくはポリジメチルシロキサン)、
・ 少なくとも1つの希釈剤を含み、
ここで、前記希釈剤はケイ素含有化合物を含み、且つ前記希釈剤の前記調製物中での含有率は、前記調製物中で45質量パーセント以上且つ95質量%以下である。1つの実施態様によれば、調製物中での希釈剤の含有率は好ましくは45質量パーセントを上回り且つ95質量パーセント未満である。
【0010】
非反応性シリコーンオイルとは、本発明の意味において、架橋可能もしくは重合可能な基を有さないポリシロキサンと理解される。殊に、非反応性シリコーンオイルとは、脂肪族基を有するポリシロキサン、例えばポリジメチルシロキサンである。
【0011】
溶剤の割合、つまり希釈剤の割合が調製物の45質量パーセントを上回る場合、摺動層は特に耐性があることが示された。例えば、希釈剤としてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)について、少なくとも50質量パーセント(質量%)の溶剤の割合が特に有利であることが観察された。溶剤の割合の低下は、連続的にあまり硬化されない層をもたらす。溶剤の割合が少ないと、より高い層の強度並びにより良好な硬化が想定され、なぜなら溶剤分子が重合鎖に取り込まれることが回避されるからである。しかし、これは該当しなかった。
【0012】
希釈剤もしくは溶剤は、本発明によればケイ素含有化合物、有利には有機ケイ素化合物を含む。意外なことに、希釈剤のSi含有率は層の付着および硬化の際に決定的な役割を果たすことが判明した。この場合、シロキサンもしくはポリシロキサン、例えばHMDSOの使用が特に有利であることが判明した。この場合、相応の層は均質な組成並びに基板上での層の良好な付着性を有する。基材が有機のプラスチックを含み、且つ通常、調製物中に存在するシリコーンオイルと共有結合性の相互作用をして、高められた層の付着性を達成できるSi-O結合を有さないという点で、良好な層の付着性は殊に意外である。従って、この仮説に限定されることはないが、ケイ素含有希釈剤は、通常はケイ素不含の基材と調製物中のシリコーンオイルとの間の1種の付着剤としても機能すると考えることができる。
【0013】
さらに、例えばHMDSOなどのシロキサンに基づくケイ素含有希釈剤は比較的低い表面張力を有し、そのことは基材表面の濡れに関して有利である。一般に、シロキサンに基づく希釈剤に限らず、この場合、ケイ素含有希釈剤が19mN/m未満の表面張力を有することが好ましい。
【0014】
さらにまた、希釈剤のケイ素もしくはシロキサン官能基は、希釈剤中でのシリコーンオイルの可溶性、ひいては調製物中のシリコーンオイルの均質な分布にも有利な影響を及ぼし、そのことは、相応のコーティングの高い均質性をさらに可能にすると考えられる。
【0015】
これとは異なり、ケイ素不含の溶剤、例えばトルエンを希釈剤として用いた調製物からは、均質な層を得ることができなかった。この場合、希釈剤の含有率を高めることによって層の特性を著しく改善することもできなかった。
【0016】
これに対し、本発明による調製物の場合、より高い割合の希釈剤でも、相応の層の層特性に関して有利であることが判明した。従って、さらなる構成において、調製物中の希釈剤が少なくとも60質量パーセント、好ましくは70質量パーセントを上回る、特に好ましくは80質量パーセントを上回る、およびとりわけ特に82質量パーセントを上回る割合であることがもたらされる。従って、調製物の希釈剤は、容易に、且つそれから製造された摺動層の非常に良好な特性を有して、合計の重量の4/5より多くを占めることができる。
【0017】
層の強度が低いと、一般には摺動層の破損がもたらされ、なぜならそれは、栓によって中空体内の移動の際に剥離されるか、または外部の力の影響がなくても内壁から剥離し得るからである。その際、一般には、静止摩擦および滑り摩擦(SSF値)の望ましい値は達成できない。例えば、希釈剤としてのHMDSOの含有率が少なすぎる場合、中空体の直立の試料上を反応溶液が下方に流れ、下地に蓄積される程度に、反応溶液の重合が低下される。
【0018】
この際、調製物中の希釈剤もしくは溶剤の高い含有率が、架橋層の層強度に及ぼす有利な影響は極めて意外である。例えば、反応性基の低い濃度は通常、より低い重合度、ひいては弱く架橋された層をもたらす。しかしながら、本発明による調製物の架橋の場合は意外なことに、調製物中の高い溶剤割合もしくは希釈剤の割合にもかかわらず、高い架橋度および高い層強度を有する層が得られる。
【0019】
さらに、高い割合の希釈剤を有する調製物により、濡れが非常に均質であることが観察できる。例えば、本発明による希釈剤の場合、濡らされるべき基材上で、例えばいわゆるロータス効果の形での調製物の島の形成は生じない。これは、均質な表面濡れをもたらす。本発明の1つの好ましい実施態様によれば、温度23℃で、洗浄されたホウケイ酸ガラス上、1秒後の調製物の接触角は、28°未満、より好ましくは26°未満、より好ましくは24°未満、より好ましくは22°未満、より好ましくは20°未満、より好ましくは18°未満、より好ましくは15°未満、より好ましくは12°未満、より好ましくは10°未満、およびとりわけ特に好ましくは5°未満である。この際、希釈剤の含有率が増加すると、接触角は減少する。
【0020】
代替的または追加的に、他の実施態様によれば、洗浄されたホウケイ酸ガラス表面に施与された、23℃で体積10μlを有する調製物の1つの液滴は、7.3~20mmの範囲、有利には7.5~18mmの範囲、殊に7.9~17mmの範囲、より好ましくは9~16mmの範囲、より好ましくは9.5~15mmの範囲、より好ましくは10~14mmの範囲、より好ましくは11~13.5mmの範囲、特に好ましくは12~13mmの範囲の広がりを有する。この際、前記の広がりは、液滴の施与の5秒後に、液滴の大きさを光学顕微鏡で測定することによって測定された。
【0021】
本発明による、調製物中の高い割合の希釈剤は、濡れ速度並びに架橋速度にも有利に影響する。調製物中の希釈剤の濃度と共に架橋速度が上昇するので、調製物をより迅速に施与することもできる。
【0022】
前記調製物は、迅速な架橋、並びにコーティングされるべき基材上への調製物の均質な施与、並びに基材上での調製物の有利な広がりを確実にする希釈剤含有率を有する。これに対し、希釈剤含有率が95質量%を上回る調製物は、もはや均質に施与され得ない。さらに、相応の調製物は、測定可能な広がりをもはや有さない。さらに、希釈剤の蒸発後に得られる層は非常にわずかな厚さしか有さないので、この層は不十分な摺動作用しか有さない。さらに、層の特性に良い影響を及ぼさない追加的な割合の溶剤によって、相応に希釈された調製物の施与は、経済的な観点から不利である。
【0023】
さらに、本発明による調製物は、含有するシリコーン量に関して非常に有利である。例えば、調製物中の希釈剤の含有率を介して、シリコーン混合物の濃度を、相応のコーティングがそれぞれ望ましい摩擦特性のために必要とされる最小の層厚を有するように調節できる。従って、過剰なシリコーン混合物の施与が回避され、薄すぎる層についても同様である。この際、調製物中の希釈剤の割合が、45質量パーセント以上且つ95質量パーセント以下、好ましくは45質量パーセントを上回り且つ95質量パーセント未満、より好ましくは50質量パーセント以上且つ95質量パーセント未満、より好ましくは55質量パーセント以上且つ95質量パーセント未満、より好ましくは60質量パーセント以上且つ95質量パーセント未満、より好ましくは65質量パーセント以上且つ95質量パーセント未満、より好ましくは70質量パーセント以上且つ95質量パーセント未満、より好ましくは75質量パーセント以上且つ95質量パーセント未満、より好ましくは80質量パーセント以上且つ90質量パーセント以下、最も好ましくは83質量パーセント以上且つ88質量パーセント以下である調製物が特に有利であることが判明した。
【0024】
本発明の1つの実施態様によれば、前記調製物は温度23℃で、0.5~200mPasの範囲、好ましくは1~50mPasの範囲、特に好ましくは1~10mPasの範囲の粘度を有する。
【0025】
代替的または追加的に、さらなる実施態様によれば、前記調製物は温度23℃で、1~50000cSt、好ましくは10~35000cSt、より好ましくは1000~30000cSt、より好ましくは2500~22000cSt、より好ましくは5000~18000cSt、特に好ましくは8000~10000cStの範囲の粘度を有し得る。
【0026】
本発明の範囲における希釈剤は、有機ケイ素化合物、好ましくはSiを含有する溶剤、より好ましくはSiを含有する有機溶剤であって、反応性シリコーン系も非反応性シリコーンオイルも可溶性であるものであってよい。本発明による調製物のシリコーン成分の良好な可溶性を確実にするために、希釈剤として有利には非極性溶剤が使用される。この際、最大で6個のケイ素原子を有する有機ケイ素化合物を希釈剤として使用することが特に有利であることが判明した。
【0027】
特に適した希釈剤は、
・ 環状シリコーン、殊にオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ペンタメチルシクロペンタシロキサン、
・ ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、
・ オクタメチルトリシロキサン、
・ デカメチルテトラシロキサン
である。
【0028】
希釈剤として、混合物、殊に1つまたは複数の上記で挙げられた物質を有する混合物も使用できる。
【0029】
シリコーンネットワークを形成するための反応性シリコーン系は、架橋可能な基を有するポリシロキサンを有する。反応性シリコーン系は、好ましくは多成分系、特に好ましくは2成分系である。高温架橋(HTV系)も、低温架橋または室温架橋のシリコーン多成分系(RTV系)も試験され、且つ適している。この際、反応性シリコーン系は、架橋反応を起こすことができる官能基を含有する。
【0030】
この際、反応性シリコーン系は有利には第1の成分と第2の成分とを有する。その際、第1の成分は、少なくとも1つの第1の官能基を有し、且つ第2の成分は複数の第2の官能基を有する。第1の官能基と第2の官能基が互いに反応して共通の結合を形成する。この際、第1の官能基および第2の官能基は、異なるかまたは同一の化学的形態を有することができる。例えば、第1の官能基も第2の官能基もビニル基であってよい。
【0031】
有利には、反応性シリコーン系における第1の成分の割合は、第2の割合よりも高い。有利には、第1の成分対第2の成分の質量比は10:1~30:1である。従って、第1の成分は、架橋の際に生じるシリコーンのネットワークのベースを形成する一方で、第2の成分は架橋材として機能する。
【0032】
この実施態様のさらなる構成によれば、第1の成分はビニル官能化されたポリシロキサンを含み、且つ第2の成分はSi-H基を有するポリシロキサンを含む。1つの好ましい実施態様は、第1の成分として、ビニル官能化されたポリジメチルシロキサンを含有し、且つ第2の成分として、ジメチルシロキサンモノマー単位およびメチルヒドロシロキサンモノマー単位を有するコポリマーを含有する。この場合、以下の構造を有するコポリマーの使用が特に有利であることが判明した:
【化1】
【0033】
従って、m/nの比およびコポリマー中での2つのモノマー単位の配列によって、摺動層内での架橋位置の数、ひいては架橋度を調節できる。
【0034】
前記調製物の粘度はさらに、含有されるシリコーンオイルの粘度によっても影響される。従って、本発明の1つの実施態様によれば、非反応性のシリコーンオイルは2500cSt~50000cSt、好ましくは5000cSt~35000cSt、および特に好ましくは18000cSt~22000cStの範囲の粘度を有する。
【0035】
前記調製物は、シリコーン多成分系の成分の架橋反応のための触媒も含有する。特に好ましくは、可溶性の白金含有触媒、例えば塩化白金酸が使用される。
【0036】
本発明の実施態様によれば、触媒の割合は反応溶液の0.001~5質量%、好ましくは0.01~1.5質量%である。触媒の反応性シリコーン系に対する質量比が0.01~0.2の範囲、好ましくは0.01~0.1の範囲であることが特に有利であると判明した。この際、触媒の割合を介して、摺動層の重合度もしくは架橋度を調節できる。触媒の量が少なすぎる場合、重合反応もしくは架橋反応は非常にゆっくりとしか生じない。これに対し、非常に高い触媒量の場合、架橋が非常に速く生じるので、特定の状況下では、架橋反応の際に放出される反応熱をもはや取り除くことができず、希釈剤の蒸発が生じる。従って希釈剤の量が減少するので、反応溶液の粘度が上昇する。これはさらに、ポリマー鎖の固定により、低い架橋度もしくは重合度をもたらすことがある。この場合、相応の摺動層は低い安定性しか有さない。
【0037】
特に好ましい実施態様によれば、前記調製物は、反応性シリコーン系の自発的な反応を阻止するための少なくとも1つの阻害剤を含有する。これは、摺動層の施与までの調製物の取り扱いを容易にする。さらに、前記阻害剤は、層の摺動特性および強度にとって不利であることは証明されていない。殊に、三重結合を有する有機化合物が適した阻害剤であることが判明した。この際、前記阻害剤は、触媒と共に可逆性の錯体形成をすることができるので、反応性シリコーン系の自発的な架橋反応が阻害される。
【0038】
本発明は、包装材の製造方法にも関する。この方法によれば、前記調製物を中空体の内側に層として施与し、次いでシリコーン多成分系の成分の反応を起こして、シリコーンネットワークが形成され、硬化された摺動層が得られる。
【0039】
この際、前記調製物の施与を、単純な塗布方法、例えば容器内壁上への噴霧またはワイプによって行うことができる。
【0040】
硬化、つまり架橋は、有利には施与される層を150~280℃の範囲の温度に加熱することによって行われる。前記の温度処理は殊に、赤外線または対流を介して行うことができる。前記の温度処理によって、反応性シリコーンオイル系中で架橋反応が生じる。同時に、希釈剤の少なくとも部分的な蒸発が生じる。代替的に、前記の硬化を、プラズマを通じて遙かに低い温度で行うことができる。
【0041】
耐久性のある摺動層もしくは摺動膜は特に、摺動層の層厚が3μm未満である場合に得られる。特に好ましくは、層厚は1μm未満である。シリコーンオイルの十分な在庫を層内に蓄積することができ、且つその層が、予定される摺動面を連続的に覆うために、層厚が少なくとも0.4μm、好ましくは少なくとも0.5μmである場合が、さらに有利である。この場合、相応の摺動層は、高い機械的安定性を有する。さらに、該摺動層は、水並びに化学物質、例えばエタノールまたは洗浄剤に対する高い耐性を示す。本発明の範囲における高い耐性とは殊に、上述の物質での摺動層の処理後に滑り摩擦が上昇しないか、少なくとも持続的には上昇しないことと理解される。
【0042】
意外にも、本発明による方法で製造された中空体は、摺動層の洗浄の際に再度、その静止摩擦・滑り摩擦の特性を少なくとも部分的に再生し得ることが判明した。例えば、摺動層の洗浄後、例えば栓の設置もしくは充填物の設置の直前に、例えば熱の作用下での保管によって、元の静止摩擦・滑り摩擦が少なくとも部分的に回復され得る。従って、本発明による包装材は再生特性を有する。
【0043】
従って、本発明による方法で、もしくは本願に記載される調製物で製造された摺動層は、非常に小さい静止摩擦値および滑り摩擦値に加えて、摺動層の表面が洗浄されるか、もしくは一般に摺動作用にとって本質的に寄与する非反応性のシリコーンが表面的に除去される場合、摺動作用に関して層が再生できる特別な特性を有する。
【0044】
再生特性は、層表面を酢酸エチルで洗浄することにより立証できる。SSF値の測定は、洗浄の前後、並びに場合により再生処理(例えば保管、場合により高められた温度での保管)の後に行われる。
【0045】
本発明はさらに、内側が摺動層でコーティングされているシリンダー状の中空体を含む、医薬品または化粧品のための包装材にも関し、ここで、前記摺動層はシリコーンネットワークを有し、そこにシリコーンオイルが取り込まれており、ここで、前記中空体は、その中空体内に栓を挿入でき、中空体内に装填された栓の摺動層に対する摩擦の静止摩擦値が、平均の滑り摩擦値よりも最大20%大きく、好ましくは最大10%大きく、特に好ましくは最大5%大きくなるように構成されている。従って、この摺動層の場合、静止摩擦値および滑り摩擦値はほぼ同じである一方で、従来技術による系は、滑り摩擦値に対し、平均の滑り摩擦に比較して明らかに大きな静止摩擦値を有する。このことは例えば、摺動層上を移動する栓が、一様に動くのではなく、静止摩擦を超えた後に制御されず且つ速く挿入されることをもたらしかねない。これに対し、本発明による包装材は、中空体を通じた非常に一様且つ制御された栓の動きを可能にする。
【0046】
静止摩擦値および滑り摩擦値は、適した栓を中空体中へ装填した直後に100mm/分の一定の速度で中空体を通じて動かし、且つそのために必要な力を挿入深さの関数として測定することにより確認される。典型的な静止摩擦・滑り摩擦のグラフは、栓が動き始めるまで力の線形の上昇を有する。静止摩擦力を超えると栓が動き始め、シリンダーを通じて栓が摺動するようになり、それは良好な摺動層の場合は相対的に一定の推進力を必要とする。栓が滑り運動し始める直前に、通常、静止摩擦・滑り摩擦のグラフは最大値を有し、それが静止摩擦値である。滑り運動の間の相対的に一定の力が滑り摩擦値である。静止摩擦・滑り摩擦のグラフは典型的には、医薬品の一次包装のために栓として使用され且つ相応の密閉性が達成されるが、しかし大きすぎる力の投入は必要とされない栓を用いて測定されるべきである。好ましくは標準の栓が使用される。本願の範囲の標準の栓は、架橋/加硫によって重合されているエラストマーからなる。標準の栓は、非常に薄いシリコーン層で覆われていることがあり、なぜなら、栓は通常、離型のために例えばシリコーン製の付着防止コーティングでコーティングされている型内で加硫されるからである。標準の栓はさらに、摺動ピストンの内径に比して幾分大きな外径を有して、装填された状態では圧縮されている。例えば栓は、6.5mmの「1ml長」形式の注射器の摺動ピストンの典型的な内径の場合に、6.9±0.1mmの外径を有する。
【0047】
本発明の有利な実施態様によれば、静止摩擦値および/または滑り摩擦値は、標準の栓が速度100mm/分で摺動層上を動く際に、10N未満、好ましくは8N未満、またはさらには6N未満である。
【0048】
発明者らは、本発明による包装材が意外にも再生効果を有することを見出した。従って、本発明の実施態様によれば、摺動層は再生効果を有するので、摺動層表面からシリコーンオイルを除去した後に摺動層の摺動作用が再生される。そのような包装材は、例えば包装材に医薬品または化粧品を詰める前に洗浄が行われる場合、非常に有利であることが明らかである。この際、本発明の範囲において、殊に滑り摩擦が最初のレベルから、シリコーンオイルの洗浄除去後5分未満の時間内で測定される高められたレベルへと上昇した後に、滑り摩擦が、シリコーンオイルの洗浄除去後10分より長い再生時間の後に再度有意に低下する場合に、摺動層は、再生効果を有する摺動層として称される。この際、再生効果とは、シリコーンオイルの洗浄除去および引き続く再生時間の後に滑り摩擦が最初のレベル、つまりシリコーンオイルが洗浄除去される前の摩擦値には再度達しない場合、洗浄後の滑り摩擦の低下とも理解される。
【0049】
前記摺動層は、プラスチック製の容器のために、殊にポリオレフィン、例えばシクロオレフィンコポリマー(COC)またはシクロオレフィンポリマー(COP)製の容器のために特に適している。さらに適した材料はガラス、殊にホウケイ酸ガラス、有利にはISO 719による加水分解分類1bのガラスである。適したガラスのさらなる類は、アルミノシリケートガラスである。6質量パーセントを上回るAl2O3含有率を有するシリカガラスがアルミノシリケートガラスと称される。
【0050】
意外なことにポリオレフィンはケイ素を含有せず、ひいてはSi-SiまたはSi-O結合を通じたシリコーンネットワークの基材への共有結合が生じ得ないにもかかわらず、耐久性のある摺動層をポリオレフィン基材、例えばCOCまたはCOP上にも施与できる。この仮説に縛られるわけではないが、発明者らは、ケイ素含有希釈剤が、非極性のケイ素不含基材とシリコーンネットワークとの間を媒介する役目を果たすと考えている。従って、本発明の1つの実施態様によれば、容器は、ケイ素不含材料製である。意外なことに、ケイ素不含材料の場合にも、ケイ素を含有する容器の材料、例えばホウケイ酸ガラスまたはアルミノシリケートガラスの場合にも、摺動層を施与し且つしっかりと硬化するためのプライマーは必要ない。従って、本発明のさらなる実施態様によれば、前記調製物はプライマーでの前処理なく、容器の内側に直接的に施与され、次いで硬化される。従って、摺動層は、容器の内部表面上に直接施与され得る。
【0051】
本発明のさらなる構成によれば、プラスチック表面の粗さを、本発明による層によって低減できる。この際、摺動層の粗さは40nm未満、好ましくは20nm未満である。
【0052】
非反応性シリコーンオイルとして、ポリジメチルシロキサンが特に適している。一般に、非反応性シリコーンオイルに関し、シリコーンオイルの鎖長が長すぎない場合が有利であり、なぜなら、このことが摺動層の再生能力に有利な作用を及ぼすからである。ポリジメチルシロキサンは、23℃の室温でオイルとして存在する、つまり液体であるように少ない平均鎖長もしくはそれに応じた平均モル質量を有する。
【0053】
摺動面は、医薬品または化粧品の吸い上げおよび/または放出のための栓もしくはピストンの摺動を容易にするために、特に注射器またはカープル内に配置されることができる。従って、1つの実施態様によれば、包装材は注射器またはカープルであると考えられる。その際、摺動層は少なくとも中空体の内側の領域を覆い、その上を栓が摺動できる。
【0054】
この特徴は明らかに、シリコーンオイルの洗浄除去後の摺動層の再生能力とは無関係に、高い割合の希釈剤を有する特別な調製物からもたらされる。
【0055】
好ましい実施態様において、摺動層は、滑り摩擦係数μGの静止摩擦係数μHに対する比μG/μHが0.8を上回る。好ましくは比μG/μHは少なくとも0.9またはさらには0.95である。従って、この摺動層の場合、静止摩擦および滑り摩擦はほぼ同じである一方で、従来技術による摺動層は、滑り摩擦と比較して、より大きな静止摩擦を有する。このことは例えば、摺動層上を動く栓が、一様に動くのではなく、止められることをもたらしかねない。
【0056】
本発明を以下で実施例および添付の図面を用いてさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】
図1は、注射器の形態での医薬品または化粧品のための包装材を示す。
【
図2】
図2は、10個の注射器について、栓の変位に対する摩擦値のグラフを示す。
【
図3】
図3は、注射器を60秒間、水中で超音波を用いて処理した後の、栓の変位に対する摩擦値のグラフを示す。
【
図4】
図4は、注射器を60秒間、0.1MのNaOH水溶液中で処理した後の、栓の変位に対する摩擦値のグラフを示し、測定前の保管時間は30分であった。
【
図5】
図5は、注射器を60秒間、アセトン中で超音波を用いて処理した後の、栓の変位に対する摩擦値のグラフを示す。
【
図6】
図6は、非反応性シリコーンオイルを摺動層から除去した(60秒間、酢酸エチルで超音波処理)後の、栓の変位に対する摩擦値のグラフを示す。
【
図7】
図7は、非反応性シリコーンオイルを摺動層から除去し、引き続き24時間室温で保管した後の、栓の変位に対する摩擦値のグラフを示す。
【
図8】
図8は、非反応性シリコーンオイルを摺動層から除去し、引き続き24時間40℃で保管した後の、栓の変位に対する摩擦値のグラフを示す。
【実施例】
【0058】
図面および実施例の説明
実施例1
第1の実施例において、反応容器内に10gのビニル官能化ポリジメチルシロキサンを装入して、65gのデカメチルシクロペンタシロキサンと混合した。800rpmで一定の撹拌をしながら、この反応混合物に、0.5gのメチルヒドロシロキサン・ジメチルシロキサンコポリマー、6.25gの液体のポリジメチルシロキサン、イソプロパノール中で10%の触媒としての0.01gのヘキサクロリド白金酸、および阻害剤としての0.05gの2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールを添加した。その反応溶液は、60秒の撹拌時間の後、使用可能である。この際、ビニル官能化されたポリメチルシロキサン、およびメチルヒドロシロキサン・ジメチルシロキサンコポリマーが反応性シリコーン系を形成し、ポリジメチルシロキサンが非反応性シリコーンオイルを形成し、且つデカメチルシクロペンタシロキサンが希釈剤を形成する。
【0059】
そのように製造された調製物を、ワイプ法を用いてプラスチック中空体の内側に塗布して、20秒間、175℃への加熱によって硬化させた。この際、摺動層を堆積するための基材として、内径6.5mmを有する「1ml長」の標準サイズの1mlのCOC注射器を使用した。引き続き、硬化した摺動層の静止摩擦値および滑り摩擦値を測定した。この際、外径6.9±0.1mmを有するDatwyler Pharma Packaging社の栓V9361 FM457/0 FLNC2 057を、速度100mm/分で注射器に押し込んだ。その際必要な力を記録した。その際、静止摩擦値も滑り摩擦値も10N未満であった。測定の結果を
図2に示す。
【0060】
実施例2
第2の実施例において、反応容器内に80gのビニル官能化ポリジメチルシロキサンを装入して、640gのヘキサメチルジシロキサンと混合した。1000rpmで一定の撹拌をしながら、この反応混合物に、2gのメチルヒドロシロキサン・ジメチルシロキサンコポリマー、48gの液体のポリジメチルシロキサン、1.1gの1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン白金錯体および阻害剤としての0.1gのブチノール(Butinol)を添加した。その調製物は、60秒の撹拌時間の後、使用可能である。
【0061】
前記調製物を、ワイプ法を用いてプラスチック中空体の内側に塗布して、3.5秒間、250℃への加熱によって硬化させた。この際、摺動層を堆積するための基材として、内径6.5mmを有する「1ml長」の標準サイズの1mlのCOC注射器を使用した。引き続き、硬化した摺動層の静止摩擦値および滑り摩擦値を測定した。この際、外径6.9±0.1mmを有するDatwyler Pharma Packaging社の栓V9361 FM457/0 FLNC2 057を、速度100mm/分で注射器に押し込んだ。その際必要な力を記録した。その際、静止摩擦値も滑り摩擦値も10N未満であった。
【0062】
表1に、COC製のコーティングされていない注射器の粗さの値、並びに本発明による摺動層を施与した後の相応の注射器の表面の粗さを示す。
【0063】
【0064】
粗さの値は、DIN EN ISO/IEC 17025に準拠して白色光干渉計を用いて測定された。
【0065】
実施例3
第3の実施例において、反応容器内に80gのビニル官能化ポリジメチルシロキサンを装入して、640gのデカメチルシクロペンタシロキサンと混合した。1000rpmで一定の撹拌をしながら、この反応混合物に、2gのメチルヒドロシロキサン・ジメチルシロキサンコポリマー、48gの液体のポリジメチルシロキサン、イソプロパノール中で10%の触媒としての1.1gのヘキサクロリド白金酸、および阻害剤としての0.1gのブチノールを添加した。その調製物は、60秒の撹拌時間の後、使用可能である。
【0066】
前記調製物を、ワイプ法を用いてプラスチック中空体の内側に塗布して、3.5秒間、250℃への加熱によって硬化させた。この際、摺動層を堆積するための基材として、内径6.5mmを有する「1ml長」の標準サイズの1mlのCOC注射器を使用した。引き続き、硬化した層の静止摩擦値および滑り摩擦値を測定した。この際、外径6.9±0.1mmを有するDatwyler Pharma Packaging社の栓V9361 FM457/0 FLNC2 057を、速度100mm/分で注射器に押し込んだ。その際必要な力を記録した。その際、静止摩擦値も滑り摩擦値も10N未満であった。
【0067】
本発明による摺動層は小さい粗さを有する。殊に、摺動層の粗さRmsは最大40nm、好ましくは最大30nm、および特に好ましくは最大20nmである。粗さが小さいことによって、特に低い静止摩擦値および滑り摩擦値を達成できる。さらに、本発明のさらなる構成によれば、使用された基材の粗さを、本発明による摺動層の施与によって低減することができる。このことは、ガラスに比べて粗さがより大きいプラスチック基材、例えばCOC基材を使用する場合に殊に有利である。このさらなる構成の1つの実施態様によれば、本発明による摺動層でコーティングされた基材は、コーティングされていない相応の基材に対して、少なくとも20%、好ましくは少なくとも40%、および特に好ましくは少なくとも40%だけ低減された粗さRmsを有する。
【0068】
以下で、比較例を用いて、個々の成分が調製物もしくは摺動層の特性に及ぼす影響を示す。
【0069】
比較例1: 希釈剤含有率の影響
反応容器内に80gのビニル官能化ポリジメチルシロキサンを装入して、80gのヘキサメチルジシロキサンと混合した。400rpmで一定の撹拌をしながら、この反応混合物に、2gのメチルヒドロシロキサン・ジメチルシロキサンコポリマー、48gの液体のポリジメチルシロキサン、イソプロパノール中で10%の触媒としての1.1gのヘキサクロリド白金酸、および阻害剤としての0.1gのブチノールを添加した。その反応溶液は、60秒の撹拌時間の後、使用可能である。
【0070】
前記反応溶液を、ワイプ法を用いてプラスチック中空体の内側に塗布して、3.5秒間、250℃への加熱によって硬化させることを試みた。
【0071】
しかしながら、その反応溶液は、開口部を下向きにして直立させて保管するプラスチック中空体内では完全には残らず、もしくは水平の保管の際にはプラスチック中空体内の下方に集まった。プラスチック中空体内での層の不均質性が高いことに基づき、静止摩擦値および滑り摩擦値の測定は断念した。
【0072】
比較例2(希釈剤の影響)
この比較例においては、希釈剤としてトルエンを使用し、これは希釈剤の中では、Si原子を含有せず非極性であることを特徴とする。そこで、反応容器内に80gのビニル官能化ポリジメチルシロキサンを装入して、640gのトルエンと混合した。400rpmで一定の撹拌をしながら、この反応混合物に、2gのメチルヒドロシロキサン・ジメチルシロキサンコポリマー、48gの液体のポリジメチルシロキサン、触媒としての1.1gの1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン白金錯体、および阻害剤としての0.1gのブチノールを添加した。その反応溶液は、60秒の撹拌時間の後、使用可能である。
【0073】
その調製物を、ワイプ法を用いてプラスチック中空体の内側に塗布して、3.5秒間、250℃への加熱によって硬化させることを試みた。
【0074】
その調製物は、濡れ性に顕著な欠陥があり、均質な膜を形成しなかった。顕著な液滴の形成が可視であった。その反応溶液は完全には硬化しなかった。プラスチック中空体内での層の不均質性が高いことに基づき、静止摩擦値および滑り摩擦値の測定は断念した。従って、希釈剤は、その相溶性に関するだけではなく、つまり個々の調製物成分の可溶性に関して選択され得ることが明らかとなった。
【0075】
比較例3(希釈剤の影響)
比較可能な結果は、第3の比較例の際にも得られた。
【0076】
反応容器内に80gのビニル官能化ポリジメチルシロキサンを装入して、640gのシクロヘキサンと混合した。400rpmで一定の撹拌をしながら、この反応混合物に、2gのメチルヒドロシロキサン・ジメチルシロキサンコポリマー、48gの液体のポリジメチルシロキサン、触媒としての1.1gの1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン白金錯体を添加した。
【0077】
前記反応溶液を、ワイプ法を用いてプラスチック中空体の内側に塗布して、3.5秒間、250℃への加熱によって硬化させることを試みた。
【0078】
その反応溶液は、濡れ性に顕著な欠陥があり、均質な膜を形成しなかった。液滴の形成および縞の形成が観察できた。その反応溶液は完全には硬化しなかった。プラスチック中空体内での層の不均質性が高いことに基づき、静止摩擦値および滑り摩擦値の測定は断念した。
【0079】
比較例4(触媒量)
反応容器内に80gのビニル官能化ポリジメチルシロキサンを装入して、640gのトルエンと混合した。400rpmで一定の撹拌をしながら、この反応混合物に、2gのメチルヒドロシロキサン・ジメチルシロキサンコポリマー、48gの液体のポリジメチルシロキサン、触媒としての11gの1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン白金錯体を添加した。この比較例における触媒の割合は、1.4質量%である。触媒の質量と反応性シリコーン系の質量との比は1:7.45である。
【0080】
触媒の割合を非常に高めたことに基づき、調製物は顕著な発熱反応を示し、ガスを形成した。この際、これはガス状のトルエンであったと考えられる。その調製物はゲル化し、膜の施与は不可能であった。
【0081】
さらなる実施例および比較例の組成を表2に示す。
【0082】
【0083】
例B~Dは実施例である一方で、例Aは希釈剤の割合が本発明による調製物よりも低減された(40質量%)調製物についての比較例であり、例Eは希釈剤の割合が本発明による調製物よりも高められた(99質量%)調製物についての比較例である。
【0084】
表3は、個々の例A~Eの広がりの挙動の測定についての測定結果を示す。このために、各々、相応の調製物の体積10μlを有する液滴を温度23℃で、洗浄されたホウケイ酸板ガラス上に施与した。その液滴のサイズ、つまり、ガラス表面上での液滴の横方向の寸法を、光学顕微鏡を用いて測定した。この際、最初の測定(t0)は液滴の形成後、できるだけ速く、つまり液滴をガラス表面に施与した後、1秒以内で実施した。
【0085】
【0086】
表3に示される時間は、t0と、ガラス表面上での液滴の分布もしくは広がりの測定との間の時間間隔を記載する。例Eについては、60秒後に広がりはもはや測定できず、なぜなら、調製物の大部分がこの時点で既に蒸発していたからである。
【0087】
表4は、接触角の測定のための液滴の輪郭分析の結果を示す。
【0088】
【0089】
接触角を測定するために、液滴の輪郭分析を使用した(Drop Shape Analysis、DSA)。この際、液滴の輪郭分析は、ガラス表面上に存在する液滴の影の画像から接触角を測定するための画像分析法である。この際、各々、調製物の液滴を温度23℃で、洗浄されたホウケイ酸板ガラス上に施与した。カメラを用いて液滴の画像を撮影し、これを液滴の輪郭分析ソフトウェアDSAに転送した。輪郭の認識は画像の濃淡分析によって行われ、引き続き、液滴の輪郭を記載する幾何学的モデルを、液滴の輪郭にフィッティングした。ここから、液滴の輪郭と試料表面との間の角度として、接触角を調べた。
【0090】
図面の説明
図1には、本発明のために特に好ましい態様における、医薬品または化粧品を投与するための注射器3としての包装材1が示される。例えばガラスまたは有利にはプラスチック製の注射器3は、シリンダー部7とルアーテーパー18とを有する中空体5であり、前記ルアーテーパー18の上に例えば注射針を取り付けることができる。シリンダー部に栓12が装填されており、それは押子13への圧力によって軸方向に変位可能である。取り扱いのために、シリンダー部は、栓12のための挿入口の端に、フランジ15を有する。
【0091】
包装材1は内側に、ここでは特にシリンダー部7の内側に摺動層10を備えている。従って、摺動層は中空体5の内側の領域を覆い、その上を栓12が、注射器を空にする際に、または吸い上げる際に摺動できる。
【0092】
摺動層10はシリコーンネットワークとして形成され、そこにシリコーンオイルが取り込まれている。
【0093】
本願で記載される調製物および方法によって製造できる摺動層10は、一般に、栓の移動の際の摩擦値が低いだけでなく、非常に均質であることも特徴とする。このことは、栓が変位する経路沿いの摩擦値のばらつきも、異なる包装材間の差にも該当する。
【0094】
図2のグラフがこれを裏付ける。グラフには、10個の異なる注射器についての栓の移動の際の摩擦値が示されている。摩擦力は、可能な変位の経路全体について記録された。静止摩擦・滑り摩擦曲線を測定するために、栓を注射器内に装填し、次いで静止摩擦・滑り摩擦曲線を記録した。示されるとおり、試験された異なるサンプル間での変動は最大でほぼ1ニュートンであり、その際、ここで材料および栓の寸法における誤差も本質的に寄与する。さらに、
図2から、全ての測定された注射器が、0.95を上回る摩擦係数の比μ
G/μ
Hを有することが明らかである。結果を表5に要約する。
【0095】
【0096】
この際、比μG/μHを、表5に記載された摩擦値から直接的に読み取ることができる。従って、栓の変位プロセスの開始後すぐに測定された力を静止摩擦に割り当て、平均の滑り摩擦を、変位プロセスの間に測定された力に割り当てることができる。この際、表5に記載された力F滑り摩擦は、3~30mmの範囲内で栓を変位させた際に得られた全ての測定値について平均化された滑り摩擦についての値である。従って、両方の力の値の除算によって、比μG/μHを算出できる。
【0097】
1つだけの注射器を観察すると、変位経路に沿った変動は各々さらに明らかに小さい。全ての場合において、滑り摩擦は経路に沿って0.5ニュートン未満しか変動しない。このことは、包装材の内容物を放出する際の一様な動きおよび一様な力の投入を確実にするために有利である。示された例の場合、滑り摩擦は4ニュートンから5ニュートンの間である。摩擦力の絶対的な大きさは寸法にも依存するが、相対的な変動は、本質的にそれに依存しない大きさである。特に示された実施例に限定されることなく、1つの実施態様によれば、栓の変位可能な経路に沿った摩擦は最大でも摩擦の平均値の1/10だけ変動すると考えられる。
【0098】
変位の開始時の曲線が、事実上、高められた静止摩擦に基づく隆起を示さないことも、注目に値する。
【0099】
前記調製物で製造された摺動層は、中空体の内部空間の種々の処理に対して耐久性があることも判明している。これについての1つの例を
図3のグラフに示す。
図2と同様に、グラフは、注射器に沿って摺動層上を栓が変位する際の摩擦力の測定値を示す。ここでもまた、10個のサンプルが測定された。注射器を測定前に60秒間、水中での超音波処理に供した。
図2の測定値との比較は、摩擦が影響を受けておらず、殊に超音波処理後に摩擦が顕著には上昇しないことを示す。
【0100】
図4は類似して、測定される注射器を60秒間、0.1MのNaOH水溶液中で超音波処理した後に摺動層上で栓を変位させた際の摩擦力の測定値を示す。ここでも、摩擦はほとんど影響を受けず、そのことは、高いpH値に対しても摺動層の安定性が高いことを示している。
【0101】
図5に、相応の注射器をアセトン中、60秒間超音波処理した後に摺動層上で栓を変位させた際の摩擦力の測定値を示す。その処理によって摩擦はほとんど影響を受けず、そのことは、極性有機溶剤に対する摺動層の耐性が高いことを示している。
【0102】
図6~8は、本発明による摺動層の再生能力を示す。その際、再生特性は、層表面を酢酸エチルで(60秒間、超音波中で)洗浄することにより検査される。SSF値は、洗浄後(
図6)、並びに場合により再生処理後(例えば、場合により高められた温度での保管後、
図7および8)に測定される。
【0103】
意外にも、本発明による方法で製造されたプラスチック中空体は、摺動層の洗浄の際に再度、その静止摩擦・滑り摩擦の特性を少なくとも部分的に再生し得ることが判明した。洗浄直後(
図6)の測定値は明らかに高められたSSF値を示す一方で、保管によって元の静止摩擦・滑り摩擦を少なくとも部分的に回復できる。このことは、
図7を用いて示され得る。従って、その注射器は再生特性を有する。
【0104】
図8から、わずかに高められた温度がこのために特に有利であることがわかる。
【0105】
これに対し、シリコーンのネットワークが、機械的な作用によって、例えばパイプクリーナーでの洗浄によって大々的に破壊されると、再生効果はもはや観察できなかった。
【符号の説明】
【0106】
1 包装材
3 注射器
5 中空体
7 シリンダー部
10 摺動層
12 栓
13 押子
15 フランジ
18 ルアーテーパー