(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
B41J2/01 307
B41J2/01 303
B41J2/01 451
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2019194622
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000208743
【氏名又は名称】キヤノンファインテックニスカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒木 友和
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-176434(JP,A)
【文献】特開2019-116091(JP,A)
【文献】特開平10-119385(JP,A)
【文献】特公平07-033092(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ユニットと、
前記記録ユニットを支持する支持ユニットと、
記録を行う記録媒体の厚み方向において記録媒体に対する前記記録ユニットの位置を決める位置決め部材と、
前記記録ユニットが主走査方向に移動しながら記録媒体に対する記録を行うよう前記支持ユニットを移動させる移動ユニットと、
前記記録ユニットと前記支持ユニットのいずれか一方に回転可能に設けられたカム部材であって、該カム部材の回転中心からの距離がそれぞれ異なる複数のカム面を有するカム部材と、
前記記録ユニットと前記支持ユニットのいずれか他方に設けられ、前記カム部材が回転されることで前記複数のカム面のそれぞれが当接可能な当接面と、
手動で操作されることで前記カム部材を回転させる操作部と、
を備え、
前記カム部材は、回転軸と、前記複数のカム面を有する第1カムと、前記回転中心からの距離が前記複数のカム面と等しい距離である他の複数のカム面を有する第2カムと、を有し、
前記第1カムは、該第1カムの回転方向において前記回転軸に対して隙間を有した状態で固定され、
前記第2カムは、前記回転軸に対して圧入され、
前記記録ユニットは、前記操作部を介して前記当接面に当接するカム面が変更されることで、前記厚み方向における前記位置決め部材に対する距離が変更される、
ことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記移動ユニットは、前記記録ユニットを前記主走査方向と前記厚み方向とに交差する副走査方向へ移動をさせることが可能であり、
前記記録ユニットは、前記移動ユニットによって前記主走査方向における往路方向へ移動されながら前記記録媒体に対して記録を行った後、前記移動ユニットによって前記副走査方向へ移動され、その後前記移動ユニットによって前記主走査方向における復路方向へ移動されながら前記記録媒体に対して記録を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記支持ユニットは、
前記記録ユニットに対して前記厚み方向に対向配置された板状部材であって、開口が形成された板状部材と、
前記板状部材の前記記録ユニットと対向する面とは反対側の面に対して記録媒体を押圧する押圧部材と、を有し、
前記記録ユニットは、前記開口を介して記録媒体に対して記録を行う、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記カム部材は、前記操作部を回転操作する際に目視可能であって、前記カム部材と共に回転する目印を有し、
前記記録ユニットと前記支持ユニットのいずれか一方は、前記目印の位置によって前記カム部材の回転位置を目視により識別可能な識別表示を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記操作部を介した前記カム部材の回転操作を手動で行う所定位置に前記記録ユニットを移動させる手動回転モードを実行可能な制御手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動しながらインクを吐出する記録ユニットによって記録媒体に記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、記録ヘッドを搭載したキャリッジを走査させ、封書(封筒)やシート等の記録媒体の表面に記録ユニットが有する記録ヘッドの吐出ノズルからインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置が知られている。このような記録装置において、記録媒体に良好な記録を行うためには、記録ヘッドの吐出ノズルと記録媒体との距離を適正な距離とすることが求められる。
【0003】
特許文献1には、カム部材をモータで回転させることによって、プラテン上に載置された記録媒体の厚さに合わせて、記録ヘッドを搭載したキャリッジの高さを調整可能とした構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された記録装置は、記録ヘッドを有する記録ユニットの高さを調整するためのモータや、モータを制御する制御部等が必要であり、装置のコストアップの要因となっていた。
【0006】
本発明は、低コストで記録ユニットの高さ調整が可能な構成を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ユニットと、前記記録ユニットを支持する支持ユニットと、記録を行う記録媒体の厚み方向において記録媒体に対する前記記録ユニットの位置を決める位置決め部材と、前記記録ユニットが主走査方向に移動しながら記録媒体に対する記録を行うよう前記支持ユニットを移動させる移動ユニットと、前記記録ユニットと前記支持ユニットのいずれか一方に回転可能に設けられたカム部材であって、該カム部材の回転中心からの距離がそれぞれ異なる複数のカム面を有するカム部材と、前記記録ユニットと前記支持ユニットのいずれか他方に設けられ、前記カム部材が回転されることで前記複数のカム面のそれぞれが当接可能な当接面と、手動で操作されることで前記カム部材を回転させる操作部と、を備え、前記カム部材は、回転軸と、前記複数のカム面を有する第1カムと、前記回転中心からの距離が前記複数のカム面と等しい距離である他の複数のカム面を有する第2カムと、を有し、前記第1カムは、該第1カムの回転方向において前記回転軸に対して隙間を有した状態で固定され、前記第2カムは、前記回転軸に対して圧入され、前記記録ユニットは、前記操作部を介して前記当接面に当接するカム面が変更されることで、前記厚み方向における前記位置決め部材に対する距離が変更される、ことを特徴とするインクジェット記録装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低コストで記録ユニットの高さ調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係るインクジェット記録装置を示す斜視図。
【
図3】キャリッジユニット及びキャリッジユニットの周辺部品を示す斜視図。
【
図10】(a)第2カム部を示す側面図、(b)第1カム部を示す側面図。
【
図11】(a)第2カム部を示す断面図、(b)第1カム部を示す断面図。
【
図12】(a)キャリッジユニットを示すX方向から視た断面図、(b)キャリッジユニットを示すY方向から視た断面図。
【
図15】(a)往路方向の記録時における着弾位置の違いを説明する図、(b)復路方向の記録時における着弾位置の違いを説明する図、(c)記録ヘッドと記録面との距離が小さい場合の検査パターンを示す図、(d)同じく距離が適正な場合の検査パターンを示す図、(e)同じく距離が大きい場合の検査パターンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態について、
図1乃至
図15を用いて説明する。まず、本実施形態のインクジェット記録装置100の概略構成について、
図1を用いて説明する。
【0011】
[インクジェット記録装置]
本実施形態におけるインクジェット記録装置100は、記録ヘッドHが主走査方向Xに往復移動しながらインクを吐出して、封書(封筒)、カード、シート等の記録媒体Pの記録面(上面)P1に文字や画像の記録(形成)を行う記録装置である。記録ヘッドHは、インクの吐出口やインクを貯留するインクカートリッジ(不図示)がユニット化されている。
【0012】
なお、以下の記載において、主走査方向
(第2の方向)X、主走査方向Xと直交する副走査方向
(第1の方向)Y、上下方向Zを、それぞれ、「X方向」、「Y方向」、「Z方向」とも記載する。また、
図1のX方向に沿った右方(装置を前方から視た場合の右方)を単に「右方」と、
図1のX方向に沿った左方を単に「左方」と、
図1のY方向に沿った後方を単に「後方」(又は奥)と、
図1のY方向に沿った前方を単に「前方」(又は手前)とも記載する。
【0013】
インクジェット記録装置100は、装置本体2、装置本体2に保持されて記録を行う記録媒体Pの下面を支持する支持板3、支持板3に支持された記録媒体Pの位置を位置決めする位置決め機構5、記録ヘッドHを有して主走査方向Xへ往復移動するキャリッジユニット7、キャリッジユニット7を往復移動させる移動装置9、及びパージ装置10を備えている。
【0014】
また、インクジェット記録装置100は、移動装置9が有するモータ(不図示)や記録ヘッドH等、インクジェット記録装置100の各部を制御する制御手段としての制御部50を備えている。制御部50は、CPU、RAM、ROMを有している。CPUは、ROMに格納された制御手順に対応するプログラムを読み出しながら各部の制御を行う。また、RAMには、作業用データや入力データが格納されており、CPUは、前述のプログラム等に基づいてRAMに収納されたデータを参照して制御を行う。制御部50は、詳しくは後述するように、記録ヘッドHと記録面P1とのZ方向(上下方向)における距離が所定距離、即ち適正な距離であることを確認するための記録ヘッド高さ確認モードを実行可能である。
【0015】
位置決め手段としての位置決め機構5は、記録ヘッドHの下方に対向配置された板部材としてのベースプレート21と、ベースプレート21の下方に対向配置された押圧部材及び支持部としてのリフタ22と、を有している。ベースプレート21は、支持板3との間に記録が行われる記録媒体Pがセットされる挿入部Sを形成している。リフタ22は、図示しない昇降機構により昇降可能に構成されている。リフタ22は、下降した状態でベースプレート21と離間して、挿入部Sへの記録媒体Pの挿抜を可能とする。一方、リフタ22は、上昇した状態で、挿入部Sに挿入された記録媒体Pを、ベースプレート21の記録ヘッドHとは反対側の面、即ち下面に向けて押圧する。これにより、記録媒体Pは、厚さによらず一定の圧力によりベースプレート21に押圧されて上下方向Zの位置が位置決めされる。
【0016】
また、位置決め機構5は、挿入された記録媒体Pの主走査方向Xの位置決めを行う不図示の主走査方向位置決め部と、挿入された記録媒体Pの主走査方向Xと直交する副走査方向Yの位置決めを行う不図示の副走査方向位置決め部とを有する。主走査方向位置決め部及び副走査方向位置決め部は、例えば、挿入部Sへの記録媒体Pの挿入方向奥側(
図1の右側及び奥側)のベースプレート21と支持板3との間にそれぞれ形成された壁部である。これにより、挿入部Sに挿入された記録媒体Pの主走査方向X及び副走査方向Yの位置決めがなされる。
【0017】
また、ベースプレート21には、主走査方向Xに延びてキャリッジユニット7の往復移動を案内するV溝状のガイドレール21aが形成されている(
図3、
図4参照)。ガイドレール21aは、例えば、ベースプレート21の副走査方向Yの奥側の端部に一体的に設けられている。また、ベースプレート21には、上下方向に貫通する記録領域開口21bが形成されている。記録領域開口21bは、上述のように挿入部Sに挿入され、リフタ22によりベースプレート21の下面に押し付けられた記録媒体Pの記録面P1における記録が行われる領域である記録領域を、記録ヘッドH側(Z方向の一方である上方)に露出させるものである。
【0018】
また、インクジェット記録装置100は、記録媒体Pが挿入部Sに挿入されて位置決めされた状態であるか否かに応じた信号を制御部50に出力する記録媒体センサ(不図示)を備えている。
【0019】
主移動手段及び第2の移動手段としての移動装置9は、モータ(不図示)、モータからの駆動力により回転するプーリ23、プーリ23により回転するタイミングベルト25等を有しており、モータが正逆転を繰り返すことでキャリッジユニット7をガイドレール21aに沿ってX方向へ往復移動させる。
【0020】
制御部50は、例えば、記録媒体センサからの入力信号により記録媒体Pが位置決めされた状態であることを検知すると、リフタ22を上昇させ、記録媒体Pをベースプレート21に押し付ける。そして、制御部50は、キャリッジユニット7のX方向への移動量に応じた信号を出力するリニアエンコーダ(不図示)からの入力信号に基づいて、モータ及び記録ヘッドHからのインクの吐出を制御する。なお、本実施形態では、DCモータとリニアエンコーダを使用しているが、代わりにDCモータとロータリーエンコーダーを使用してもよいし、DCモータとX方向に複数配置された光学センサを使用してもよいし、ステッピングモータを使用してもよい。
【0021】
このように構成されて、インクジェット記録装置100は、X方向へ往復移動しながら記録領域開口21bを介してインクを吐出する記録ヘッドHによって、位置決めされた記録媒体Pの記録領域に記録を行う。
【0022】
[パージ装置]
次に
図2を用いて、記録ヘッドH(
図1参照)のインクを吐出する吐出口(不図示)をクリーニングするパージ装置10について説明する。インクジェット記録装置100は、上述のようにインクを吐出して記録を行うため、使用によりインクを吐出する吐出口(ノズル)が詰まる可能性がある。また、記録を行っていない状態で吐出口を露出させると、吐出口に付着したインクが固着する可能性がある。このため、パージ装置10は、キャップ10aと、クリーニングブレード10bとを有する。キャップ10aは、吐出口でのインクの固着を防止すべく、記録媒体Pへの記録を待機している状態の記録ヘッドHの位置である待機位置において、記録ヘッドHの吐出口を覆う(キャッピングする)。
【0023】
また、クリーニング手段としてのクリーニングブレード10bは、記録ヘッドHの吐出口をクリーニングするものである。クリーニングブレード10bは、記録ヘッドHによる記録媒体への記録が終了し、記録ヘッドHが待機位置へ移動する過程で、記録ヘッドHの吐出口にクリーニングブレード10bが当接し、付着しているインクを拭き取る。
【0024】
[キャリッジユニット]
次に
図3乃至
図7を用いて、記録ヘッドHを有して主走査方向X及び副走査方向Yに移動するキャリッジユニット7の概略構成について説明をする。
図3に示すように、キャリッジユニット7は、記録ヘッドHと、スライダ31と、キャリッジ32と、スライド部材33と、カム部材35とを有する。スライダ31は、移動装置9(
図1参照)によってX方向へ往復移動するものであり、キャリッジ32を介して記録ヘッドHを保持する。記録ヘッドHは、詳しくは後述するが、副移動手段
及び第1の移動手段としてのスライド部材33により副走査方向Yに移動し、カム部材35により高さ方向(上下方向Z)の位置を調整可能である。
【0025】
図4及び
図5に示すように、スライダ31は、ガイドレール摺動部31aと、規制部31bと、キャリッジガイド部31cと、第1キャリッジ支持面31eと、第2キャリッジ支持面31fとを有する。ガイドレール摺動部31aは、装置本体2内に、主走査方向Xに沿って配置されたガイドレール21aの溝に係合する。規制部31bは、ガイドレール21aのY方向奥側の端部21cに引っ掛けて、スライダ31のガイドレール21aとガイドレール摺動部31aとの摺動位置を中心とした揺動を規制する。
【0026】
より具体的に説明すると、ガイドレール摺動部31aは、X方向視において下端が略半円形状に形成されており、X方向視でV字型のガイドレール21aに略半円形状の一部が入り込んだ状態で摺動する。この際、略半円形状のガイドレール摺動部31aが、ガイドレール21aのY方向両側にそれぞれ当接する。規制部31bは、ガイドレール21aのY方向奥側の端部21cを更に奥側から下方に回り込むように形成され、この端部21cの下面と係合する。スライダ31は、後述するように、ガイドレール摺動部31aよりもY方向手前側で記録ヘッドHなどを支持するため、規制部31bが端部21cの下面と係合する方向に揺動する傾向となる。これにより、スライダ31は、Y方向の移動及び揺動が規制された状態でガイドレール21aに支持されつつ、X方向に沿ってガイドレール21aに案内される。
【0027】
また、キャリッジガイド部31cは、キャリッジ32(
図3参照)に対向する前方の面31jから前方に向けて突出しZ方向に沿って設けられたリブ状の突部である。本実施形態では、キャリッジガイド部31cは、X方向に間隔をあけて一対設けている。第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fは、キャリッジガイド部31cより下方で、面31jよりも前方に向けて突出する突出部31pの上面に形成された面である。第2キャリッジ支持面31fは、第1キャリッジ支持面31eと略同一面となるように形成されており、第1キャリッジ支持面31eに対してX方向に離間して配置されている。このような第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fは、後述するカム部材35のカム面と当接可能な当接面であり、カム部材35を介してキャリッジ32の下方への移動を規制する。
【0028】
図6乃至
図8に示すように、保持手段としてのキャリッジ32は、スライダ31に対して、記録媒体Pの記録面P1と接近及び離間する接離方向、即ちZ方向に移動可能に保持されており、保持移動部としてのメインキャリッジ36と、保持部としてのサブキャリッジ37とを有する。メインキャリッジ36は、サブキャリッジ37をY方向へ移動可能に保持する。サブキャリッジ37は、記録ヘッドH(
図3参照)を保持する。
【0029】
メインキャリッジ36は、スライダ31のY方向の一方である前方側(手前側)に配置され、スライダ31に対向するY方向の他方である後方側(奥側)の面に、Z方向に沿ってガイド溝32aが形成されている。ガイド溝32aは、スライダ31のキャリッジガイド部31cに係合し、メインキャリッジ36をスライダ31に対してZ方向に案内する。
【0030】
また、メインキャリッジ36は、X方向に貫通する貫通穴32bが形成されており、貫通穴32bには、カム部材35が挿通されて回転自在に支持されている。カム部材35は、第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fに当接可能なカム面T1,T2を有している。カム部材35の詳細については、後述する。
【0031】
ここで、メインキャリッジ36とスライダ31との間には、
図3に示すように、付勢手段としてのキャリッジばね39が配置されている。キャリッジばね39は、メインキャリッジ36の一部とスライダ31の一部とに掛け渡されており、メインキャリッジ36をスライダ31に向けて付勢している。また、キャリッジばね39は、メインキャリッジ36及びスライダ31のX方向両側にそれぞれ設けられている。本実施形態では、キャリッジばね39は、メインキャリッジ36を斜め下方に付勢することで、メインキャリッジ36をスライダ31に向けてY方向に押し付けると共に、メインキャリッジ36を下方に付勢している。これにより、メインキャリッジ36のガイド溝32aとスライダ31のキャリッジガイド部31cとをより確実に係合させ、且つ、メインキャリッジ36に支持されたカム部材35のカム面T1、T2を、スライダ31に設けられた第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fに当接させるようにしている。
【0032】
メインキャリッジ36は、ガイド溝32aがキャリッジガイド部31cに係合することによって、スライダ31に対するX方向への相対移動が規制されつつ、スライダ31に対して上下方向Z(高さ方向)に移動する。また、メインキャリッジ36は、カム部材35のカム面T1、T2が第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fに当接することにより、スライダ31に対する高さ方向の位置が決まる。
【0033】
サブキャリッジ37は、記録ヘッドHを着脱自在に保持するもので、メインキャリッジ36に対してY方向に移動可能に保持される。サブキャリッジ37は、記録ヘッドHを保持した(取付けた)状態で記録ヘッドHの接点と制御部50とを電気的に接続する基板(不図示)を有している。記録ヘッドHからは、サブキャリッジ37の基板を介して、記録ヘッドHの装着の有無に応じた信号や、インクの残量に応じた信号等が制御部50に出力される。制御部50からは、サブキャリッジ37の基板を介して、記録ヘッドHを制御するための制御信号が記録ヘッドHに出力される。
【0034】
図3に示すスライド部材33は、メインキャリッジ36の一部とサブキャリッジ37の一部とがY方向に対向する面同士の間に、メインキャリッジ36に対してX方向に摺動自在に保持されている。図示の例では、スライダ31に形成された貫通孔31qを通じて、メインキャリッジ36の一部とサブキャリッジ37の一部とがY方向に対向する面同士の間に挿通されている。スライド部材33は、メインキャリッジ36よりもX方向に長く形成されており、メインキャリッジ36に対するX方向の位置によって、スライド部材33の右端及び左端のいずれか一方、若しくは両方がメインキャリッジ36からX方向へ突出するようにしている。
【0035】
また、スライド部材33は、X方向において、少なくとも2段階にY方向の厚さが異なるように構成されている。本実施形態では、スライド部材33のX方向の片半部よりも他半部の方がY方向の厚さが大きくなるようにして、厚さが異なる面同士を傾斜面により滑らかに連続させている。具体的には、Y方向の片面をX方向全体に亙って平行面とし、Y方向の他面のうち、X方向片側の第1面よりも他側の第2面の方がY方向に突出するようにそれぞれX方向と平行に形成し、第1面と第2面とを傾斜面により連続させている。
【0036】
また、サブキャリッジ37は、ヘッドばね40によりメインキャリッジ36に向けて付勢されている。ヘッドばね40は、メインキャリッジ36及びサブキャリッジ37のX方向両側にそれぞれ設けられている。これにより、スライド部材33がメインキャリッジ36とサブキャリッジ37との間に挟持され、スライド部材33のY方向両面がそれぞれメインキャリッジ36の一部とサブキャリッジ37の一部とに当接するようにしている。
【0037】
サブキャリッジ37は、スライド部材33のX方向の位置により、メインキャリッジ36に対するY方向の位置が決まる。即ち、スライド部材33のY方向の厚さが大きい部分がメインキャリッジ36の一部とサブキャリッジ37の一部とがY方向に対向する面同士の間に位置する場合には、サブキャリッジ37は、メインキャリッジ36から離れた第1位置に位置する。一方、スライド部材33のY方向の厚さが小さい部分がメインキャリッジ36の一部とサブキャリッジ37の一部とがY方向に対向する面同士の間に位置する場合には、サブキャリッジ37は、第1位置よりもメインキャリッジ36に近づいた第2位置に位置する。即ち、スライド部材33がメインキャリッジ36及びサブキャリッジ37に対してX方向に相対移動することにより、サブキャリッジ37がメインキャリッジ36に対してY方向に移動する。
【0038】
本実施形態では、キャリッジ32やスライダ31を含むキャリッジユニット7がX方向に移動することで、スライド部材33のX方向の端部が装置本体2の一部と当接してスライド部材33がX方向に移動するように構成している。具体的には、キャリッジユニット7がX方向の一方である右方へ移動して所定の位置に達すると、スライド部材33の右端が装置本体2に設けられた右当接部(不図示)に当接する。更にキャリッジユニット7が右方へ移動するとスライド部材33が右当接部に押されてメインキャリッジに対して左方へ移動する。そして、記録ヘッドHが記録領域よりも右方側の位置に達するまでキャリッジユニット7が移動すると、サブキャリッジ37は、メインキャリッジ36に対しY方向の移動を開始する。ここでは、スライド部材33の右側に厚さが小さい部分が形成されているとする。すると、サブキャリッジ37は、ヘッドばね40の付勢力によりメインキャリッジ36側(第2位置側)に移動し、記録ヘッドHが待機位置に達する前に第2位置への移動を終了する。
【0039】
また、キャリッジユニット7がX方向の他方である左方へ移動して所定の位置に達すると、スライド部材33の左端が装置本体2に設けられた左当接部(不図示)に当接する。更にキャリッジユニット7が左方へ移動するとスライド部材33が左当接部に押されてメインキャリッジに対して右方へ移動する。そして、記録ヘッドHが記録領域よりも左方側の位置に達するまでキャリッジユニット7が移動すると、サブキャリッジ37は、メインキャリッジ36に対しY方向へ移動を開始する。この際、スライド部材33の厚さが大きい部分がメインキャリッジ36の一部とサブキャリッジ37の一部とがY方向に対向する面同士の間に位置することで、サブキャリッジ37は、ヘッドばね40の付勢力に抗してメインキャリッジ36から離れた側(第1位置側に移動し)、キャリッジユニット7の移動領域左端に達する前に第1位置への移動を終了する。
【0040】
上述のように、サブキャリッジ37は、キャリッジユニット7がX方向に往復移動することに伴ってY方向に移動する。このため、サブキャリッジ37に保持される記録ヘッドHは、X方向の往路と復路とでY方向にずれた位置にインクを吐出可能である。
【0041】
インクジェット記録装置100は、上述したように、位置決め機構5により、記録媒体Pの厚さによらず記録が行われる記録面P1に対する記録ヘッドHのZ方向の位置が位置決めされる。即ち、挿入部Sに挿入された記録媒体Pは、リフタ22によりベースプレート21に押し付けられることで、記録面P1のZ方向の位置が決められる。しかしながら、記録ヘッドHの高さ精度に係る各部品、例えば、サブキャリッジ37、メインキャリッジ36、スライダ31、ベースプレート21等の寸法精度によっては、記録ヘッドHと記録面P1との距離が適正な距離から外れてしまうおそれがある。詳しくは後述するが、本実施形態のようにキャリッジユニット7がX方向に往復移動する際にインクの吐出位置がY方向にずれる構成の場合、記録ヘッドHと記録面P1との距離が適正な距離からずれると、往路で形成され画像と復路で形成された画像とがX方向にずれて画像品質が低下するおそれがある。このため、本実施形態に係るインクジェット記録装置100は、スライダ31に対するZ方向の記録ヘッドHの位置をカム部材35によって調整可能として、記録ヘッドHと記録面P1との距離を適正な距離にし、良好な記録を行うことを可能としている。
【0042】
[カム部材]
次に、カム部材35について、
図8乃至
図13を用いて説明する。本実施形態のカム部材35は、ドライバなどの工具を用いて人が手動で回転操作が可能であり、モータなどの駆動源により駆動されるものではない。
図8及び
図9に示すように、カム部材35は、第1カム部41と、第2カム部42と、第1カム部41と第2カム部42とを連結する連結部としての連結軸43と、を有している。第1カム部41及び第2カム部42は、それぞれメインキャリッジ36の右方側と左方側とに互いに離間して配置された状態で、連結軸43によって連結されている。連結軸43は、メインキャリッジ36に形成された貫通穴32bに挿通され、メインキャリッジ36に対して回動自在に支持されている。
【0043】
第1カム部41及び第2カム部42は、それぞれ回転方向の位置に応じて、カム部材35の回転中心である仮想軸線L1(回転軸線)からの距離が異なる複数の平面部を有するカム面T1,T2を有している。
【0044】
[カム面]
図10及び
図11に示すように、第1カム部41及び第2カム部42は、それぞれ、平面部t1、平面部t2、平面部t3、平面部t4及び平面部t5の5つの平面部を含み、略5角形状に形成されたカム面T1,T2を有する。これら各平面部は、カム部材35の回転方向の異なる位置に配置され、カム部材35の回転中心である仮想軸線L1からの距離が互いに異なる複数の平面部である。仮想軸線L1からの距離は、平面部t1が最も小さく、平面部t2、平面部t3、平面部t4、平面部t5の順に、平面部t5が最も距離が大きくなるように形成されている。平面部t1~t5は、回転方向に隣り合う平面部の組合せのうち、t1とt5との組合せを除く他の組合せにおいて、仮想軸線L1からの距離がそれぞれ所定距離ずつ異なっている。本実施形態では、平面部t1と平面部t2、平面部t2と平面部t3、平面部t3と平面部t4、平面部t4と平面部t5は、それぞれ、仮想軸線L1からの距離がそれぞれ0.5mmずつ異なっており、平面部t1と平面部t5とは、仮想軸線L1からの距離が2mm異なっている。
【0045】
また、第1カム部41及び第2カム部42は、平面部t1~t5のうち、カム部材35の回転方向に隣り合う2つの平面部を連続させる角部を有している。例えば、第1カム部41及び第2カム部42は、カム部材35の回転方向に隣り合う第1平面部としての平面部t1と、平面部t1に第2平面部t2と、を連続させる角部C1を有している。各角部は、それぞれ頂点が湾曲している。
【0046】
また、第1カム部41の平面部t1と第2カム部42の平面部t1、第1カム部41の平面部t2と第2カム部42の平面部t2、第1カム部41の平面部t3と第2カム部42の平面部t3、第1カム部41の平面部t4と第2カム部42の平面部t4、第1カム部41の平面部t5と第2カム部42の平面部t5、は、それぞれ仮想軸線L1からの距離が同じ距離となるように形成されている。即ち、第1カム部41と第2カム部42とは、互いのカム面T1、T2が同じ形状を有し、平面部t1、t2、t3、t4、t5は、カム部材35の回転方向の位相が略同じとなるように配置されている。
【0047】
[スライダに対するキャリッジのY方向の位置を調整可能とする構成]
図10乃至
図12に示すように、キャリッジユニット7として組立てられた状態で、連結軸43は、第2キャリッジ支持面31fに第2カム部42の平面部t1~t5のいずれかの平面部が対向している場合、第1カム部41の平面部t1~t5のうち、第2キャリッジ支持面31fに対向している第2カム部42の平面部に対応する平面部、即ち仮想軸線L1との距離が等しい平面部が、第1キャリッジ支持面31eに対向するように、第1カム部41及び第2カム部42を連結している。例えば、連結軸43は、第2カム部42の平面部t1が第2キャリッジ支持面31fに対向している場合、第1カム部41のt1が第1キャリッジ支持面31eに対向するように、第1カム部41及び第2カム部42を連結している。
【0048】
また、本実施形態のカム部材35では、連結軸43が第1カム部41と第2カム部42とを所定角度(所定量)α相対回転可能に連結している。仮に連結軸43が互いに相対回転しないように第1カム部41と第2カム部42と連結している場合、第1カム部41、第2カム部42及び連結軸43の相対回転方向における寸法誤差や面差によって、互いに平面部の位相が若干ずれてしまう可能性がある。この場合、例えば、第1カム部41の平面部が第1キャリッジ支持面31eと平行に当接しても、第2カム部42の同位相の平面部が第2キャリッジ支持面31fに斜めに当接し、仮想軸線L1(回転軸線)からそれぞれの当接位置までの距離が左右で異なって、キャリッジ32が傾斜してしまうおそれがある。
【0049】
このため、本実施形態では、第1カム部41と第2カム部42とを若干の相対回転が可能(所定角度α相対回転可能)に連結軸43により連結している。具体的には、
図10及び
図11に示すように、第1カム部41及び第2カム部42は、それぞれ連結軸43の端部が挿入される連結穴41a及び42aが形成されている。第2カム部42の連結穴42aは、連結軸43の左端が軽圧入されて、第2カム部42と連結軸43とが互いに相対回転しないように固定される。第1カム部41の連結穴41aは、連結軸43の右端が挿入され第1カム部41と連結軸43との間に所定角度αの範囲で相対回転可能な隙間(ガタ、遊び)Mが形成されている。
【0050】
所定角度αは、例えば、第1カム部41が回転操作されて第1キャリッジ支持面31eに対向する第1カム部41の平面部が隣り合う平面部に切換えられた場合、第2カム部42が追従して回転し、第2キャリッジ支持面31fに対向する第2カム部42の平面部も隣り合う平面部に切換わる角度に設定されている。即ち、第1カム部41と第2カム部42とは、一方のカム部の回転に追従して他方のカム部が回転し、且つ、対応する(仮想軸線L1からの距離が同じ)平面部が同じ位相に位置するように、所定角度αを設定している。また、所定角度αは、第1カム部41、第2カム部42及び連結軸43の相対回転方向における寸法誤差を吸収可能な角度となるように(カム部の回転方向に隙間Mとしてのガタが形成されるように)設定されている。これにより、第1カム部41と第2カム部42との間で回転方向の若干の寸法誤差があったとしても、キャリッジユニット7に組み付けた状態で、第1カム部41及び第2カム部42の同位相の平面部が、それぞれ平行に第1キャリッジ支持面41e及び第2キャリッジ支持面31fに当接し、キャリッジ32がスライダ31に対して傾斜せずに適切な状態で高さ位置が設定される。ここで、隙間Mは第1カム部41と連結軸43との間に形成したが、それとは異なり第2カム部と連結軸との間に隙間を形成しても良いし、第1カム部及び第2カム部の両者と連結軸との間に隙間を形成してもよい。
【0051】
また、第1カム部41は、キャリッジばね39の付勢力によって平面部t1~t5のうちいずれかの平面部と第1キャリッジ支持面31eとが当接する方向へ付勢されている。同様に、第2カム部42は、キャリッジばね39の付勢力によって平面部t1~t5のうち第1カム部41の平面部と対応する平面部と第2キャリッジ支持面31eとが当接する方向へ付勢されている。
【0052】
このように構成されて、カム部材35は、第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fと離間してしまうことなく、仮想軸線L1からの距離が等しい第1カム部41及び第2カム部42の平面部が第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fと当接する。
【0053】
また、カム部材35は、回転操作された回転位置に応じてスライダ31の第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fと当接するカム面T1,T2の回転位置が変更されることで、スライダ31に対するキャリッジ32のZ方向の位置(高さ位置)を調整可能としている。また、カム部材35は、キャリッジ32のスライダ31に対するZ方向の位置を、0.5mm刻みで最大2mmまで調整可能としている。
【0054】
なお、本実施形態において、カム部材35のカム面T1,T2は、回転中心からの距離が異なる5つの平面を有しているが、これに限定されない。カム部材は、少なくとも2つの回転位置で回転中心からの距離が異なるカム面を有して、当接面と当接するカム面の位置が変更されることで、キャリッジのスライダに対する接離方向の位置を変化させるように配置されていればよい。
【0055】
[カム部材の回転操作]
次に、
図3、
図5、
図9及び
図13を用いて、カム部材35を作業者が手動で回転操作可能とする構成について説明をする。
図9に示すように、第1カム部41及び第2カム部42は、それぞれカム部材35の仮想軸線L1方向の端部側に面して配置され、カム部材35を手動で回転操作するための手動操作部45を有している。手動操作部45は、目印45aと、溝部45bと、を有している。
【0056】
目印45aは、カム面T1,T2が回転する際、カム面T1,T2の回転位置が目視可能となるように仮想軸線L1に対して非点対称性を有している。具体的には、目印45aは、仮想軸線L1からカム面T1,T2に向けた所定の方向を指し示すマークであり、目印45aが指し示している方向を作業者が目視で識別可能となるように形成されている。本実施形態のカム部材35では、目印45aは、仮想軸線L1から平面部t3へ向かう方向を指し示している。
【0057】
溝部45bは、仮想軸線L1に沿って溝状に形成されており、所定の工具を溝部45bに挿入した状態で回転させることにより、カム部材35に仮想軸線L1回りのトルクを与えることが可能となっている。
【0058】
図3及び
図5に示すように、スライダ31は、第1カム部41よりも右方に配置されて、X方向と交差する方向に沿って形成された右板31kと、第2カム部42よりも左方に配置されて、X方向と交差する方向に沿って形成された左板31mと、を有する。右板31k及び左板31mには、右板31k及び左板31mをX方向に貫通する操作穴31gが形成されている。右板31kの操作穴31gは、キャリッジユニット7が組立てられた状態で第1カム部41の手動操作部45を右方に向けて露出させ、左板31mの操作穴31gは、第2カム部42の手動操作部45を左方に向けて露出させ、それぞれ溝部45bへの工具の挿入及び目印45aの目視を可能としている。
【0059】
図13に示すように、作業者は、操作穴31gを介して溝部45bに所定の工具、例えばマイナスドライバD等の工具の先を挿入し、手動によりカム部材35に仮想軸線L1回りのトルクを加えることにより、第1カム部41及び第2カム部42の回転操作が可能となっている。
【0060】
図3及び
図5に示すように、カム面T1,T2の各角部と仮想軸線L1との距離は、角部を形成する隣り合ういずれの平面部と仮想軸線L1との距離よりも大きいので、カム部材35は、第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fに何れかの平面部が当接した状態から、当該平面部と隣り合う平面部とにより形成される角が当接する状態を越えて、隣接する平面部が当接する状態となるまで回転操作される際、キャリッジばね39の付勢力の変化によってクリック感を伴いながら回転する。
【0061】
操作穴31gの周囲には、カム部材35の回転位置を目視によって識別可能とする識別表示31hが配置されている。識別表示31hは、平面部t1~t5のそれぞれに対応する値「1」~値「5」の刻印を有しており、カム部材35の回転位置に応じて目印45aが指し示す方向の先に、第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fに当接しているいずれかの平面部に対応する値の刻印が配置されるように形成されている。
【0062】
具体的には、第1キャリッジ支持面31eに第1カム部41の平面部t1が当接している状態では、第1カム部41の目印45aが指し示す方向の先に右板31kの識別表示31hの値「1」の刻印が位置する。同様に、第1キャリッジ支持面31eに、第1カム部41の平面部t2が当接している状態では、目印45aが指し示す方向の先に識別表示31hの値「2」の刻印が位置し、第1カム部41の平面部t3が当接している状態では、目印45aが指し示す方向の先に識別表示31hの値「3」の刻印が位置し、第1カム部41の平面部t4が当接している状態では、目印45aが指し示す方向の先に識別表示31hの値「4」の刻印が位置し、第1カム部41の平面部t5が当接している状態では、目印45aが指し示す方向の先に識別表示31hの値「5」の刻印が位置する。なお、第2カム部42と左板31mの識別表示31hとの関係については、第1カム部41の右板31kの識別表示31hとの関係と同様であるため、省略する。
【0063】
また、上述したように、第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fに平面部t1~t5のいずれの平面部が当接しているかによって、キャリッジ32のスライダ31に対するZ方向の位置が0.5mm刻みで最大2mmまで調整可能となっている。また、第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31fに平面部t3が当接している状態で、キャリッジ32のスライダ31に対するZ方向の位置は、調整範囲の基準位置(中央位置)となる。
【0064】
右板31k及び左板31mは、目印45aが値「3」の刻印を指し示している状態が基準の状態であることを作業者に識別させる基準表示31nを有している。基準表示31nは、値「3」の刻印とその他の刻印とを識別可能な表示であればよく、例えば、値「3」の刻印の近傍に配置された点等で構成されている。なお、基準の状態であることを作業者に目視によって識別させる基準表示は、これに限らず、基準の状態で目印が指し示す刻印が他の刻印よりも大きなフォントで形成されたものであってもよいし、点以外の形状に形成されたものであってもよい。
【0065】
このように、識別表示31h及び基準表示31nは、第1カム部41及び第2カム部42の回転位置に応じた目印45aの位置によって、キャリッジ32のスライダ31に対するZ方向の位置が基準位置であるか否かや、基準位置よりもキャリッジ32がスライダ31に対して上方及び下方のいずれの方向にどれくらい移動した位置となっているかを、作業者が目視によって識別可能としている。
【0066】
以上のように構成されて、本実施形態に係るインクジェット記録装置100は、識別表示31h、基準表示31n及び目印45aとを目視しながら、作業者が工具等により手動でカム部材35を回転操作することにより、モータ等を必要としない低コストな構成で記録ヘッドHと記録面P1との距離を調整することができる。
【0067】
ここで、上述した特許文献1に記載の構成のように、記録ヘッドと記録面との距離が記録を行う記録媒体の厚さにより変化する記録装置においては、記録媒体をセットする毎に手動で記録ヘッドの高さを調整すると記録を行う際の作業効率が大きく低下してしまうため、手動ではなくモータ等により自動で記録ヘッドの高さを調整する構成が望ましい。しかしながら、このような構成とした場合、製造コストが高くなる。
【0068】
これに対して本実施形態に係るインクジェット記録装置100は、記録ヘッドHと記録面P1との距離が記録を行う記録媒体の厚さによらないため、記録ヘッドHと記録面P1との距離の調整の頻度を少なくすることができる。例えば、インクジェット記録装置100は、記録ヘッドHの高さの調整を、部品寸法の誤差に応じて記録ヘッドHと記録面P1との距離を適正な距離にするために製品の出荷時に行う程度で済む。このため、記録ヘッドHと記録面P1との距離を手動で調整する低コストな構成であっても、記録媒体に記録を行う際の作業効率が低下することなく、良好な記録を行うことが可能となる。
【0069】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置100は、識別表示31h、基準表示31n及び目印45aによって、カム部材35の回転位置を目視により識別可能となっているので、低コストな構成であっても記録ヘッドHと記録面P1との距離の調整状況を作業者が容易に識別することができる。
【0070】
[記録ヘッドHの高さ調整の一例]
次に、
図1、
図14及び
図15を用いて、記録ヘッドHと記録面P1との距離を適正な距離とする具体的な手順について説明をする。製造工場でインクジェット記録装置100の組立てが終了すると、まず、作業者は、記録ヘッドHの代わりに、サブキャリッジ37とベースプレート21の下面との距離を測定可能なセンサを搭載した測定器(ダミー記録ヘッド、不図示)をサブキャリッジ37に取付ける。この状態で、作業者は、サブキャリッジ37とベースプレート21の下面との距離を測定器によって測定し、測定結果が適正な距離の範囲から外れている場合には、適正な距離となるようにカム部材35を回転操作してサブキャリッジ37とベースプレート21の下面との距離を調整する。
【0071】
その後、作業者は、サブキャリッジ37から測定器を外して、代わりに記録ヘッドHを取付け、記録ヘッドHと記録面とのZ方向における距離が所定距離、即ち適正な距離であることを確認するための記録ヘッド高さ確認モードを実行する。記録ヘッド高さ確認モードは、挿入部Sに記録媒体をセットした状態で、作業者が装置操作部(不図示)を操作することで実行される。例えば、装置操作部に記録ヘッド高さ確認モード用のボタンを設け、作業者がこのボタンを押下することで、制御部50が記録ヘッド高さ確認モードを実行する。或いは、装置操作部に操作パネルがある場合には、作業者が記録ヘッド高さ確認モードを選択することで、制御部50がこのモードを実行する。
【0072】
図14に示すように、検査パターンRは、第1の画像R1及び第2の画像R2からなる。制御部50は、記録ヘッド高さ確認モードを開始すると、記録ヘッドHが待機位置に位置している状態から、記録ヘッドH(キャリッジユニット7)が往路方向X1(左方側、一方側)に移動しながら記録媒体の記録面にインクを吐出して第1の画像R1を形成する第1動作を行うように、移動装置9及び記録ヘッドHを制御する。第1の画像R1は、Y方向に延びて、X方向に等ピッチで複数配置された同じ太さの線である。記録ヘッドHが記録領域よりも左方側の位置に達すると、サブキャリッジ37は、メインキャリッジ36に対し前方へ移動する。
【0073】
その後、制御部50は、記録ヘッドH(キャリッジユニット7)が復路方向X2(右方側、他方側)に移動しながらインクを吐出して記録媒体の記録面に第2の画像R2を形成する第2動作を行うように、移動装置9及び記録ヘッドHを制御する。第2の画像R2は、Y方向に延びて、X方向に等ピッチで複数配置された同じ太さの線である。また、第2の画像R2は、各線のピッチ、配置された本数、及びX方向の長さ、即ち各線の幅が第1の画像R1と同じ幅で、かつ第1の画像R1に対してY方向の一方側(前方側)に隣接するように記録される。本実施形態では、第1の画像R1と第2の画像R2とは同じであり、記録ヘッド高さ確認モードでは、同じ画像を往路と復路でY方向にずらして形成している。記録ヘッドHと記録面との距離、即ち記録ヘッドHの高さが適正な位置(所定の位置)である場合、
図14及び
図15(d)に示すように、第1の画像R1及び第2の画像R2は、X方向の位置が一致して、第1の画像R1及び第2の画像R2の境界線L2に対して線対称となるように形成される。
【0074】
図15(a)及び(b)に示すように、記録ヘッドHはX方向に移動しながらインクを吐出するため、記録ヘッドHと記録面との距離が変化すると、X方向の同じ位置からインクを吐出しても記録面に到達するインクの位置(以下、着弾位置という)が変化する。即ち、記録ヘッドHと記録面との距離が離れる程、記録ヘッドHの移動方向側にインクの着弾位置がずれてしまう。このため、記録ヘッドHと記録面との距離が適正な距離よりも小さい場合、
図15(c)に示すように、第1の画像R1に対し第2の画像R2が左方にずれて形成される。また、記録ヘッドHと記録面との距離が適正な距離よりも大きい場合、
図15(e)に示すように、第1の画像R1に対し第2の画像R2が右方にずれて形成される。作業者は、このような検査パターンRを形成し、
図15(c)或いは(e)の検査パターンが形成された場合には、カム部材35により記録ヘッドHの高さを調整する。そして、検査パターンRが
図15(d)の状態となった状態で、工場から出荷する。
【0075】
このような記録ヘッド高さ確認モードは、ユーザが実行することも可能である。即ち、ユーザが記録ヘッドHと記録面との距離を測定して、記録ヘッドHの高さを調整することは困難である。そこで、上述のように記録ヘッド高さ確認モードを実行し、形成された検査パターンに応じてカム部材35を操作することで、実際に記録ヘッドHと記録面との距離を測定することなく、記録ヘッドHの高さを調整可能である。この際、カム部材35の操作穴31gにマイナスドライバなどの工具を差し込んで回すだけで、カム部材35を回転操作できるため、容易な操作で記録ヘッドHの高さ調整が可能である。
【0076】
なお、インクジェット記録装置100は、作業者がカム部材35を手動で回転操作する際、制御部50がカム部材35の回転操作を行いやすい位置へキャリッジユニット7を移動させる手動回転モードを実行可能に構成されていてもよい。具体的には、作業者が装置操作部をボタンなどを操作して手動回転モードを開始すると、制御部50は、キャリッジユニット7が所定位置、例えば
図1に示す位置へ移動するように移動装置9を制御する。これにより、キャリッジユニット7の右方にカム部材35の回転操作を行うための作業スペースが形成されるので、作業性を向上することができる。
【0077】
<他の実施形態>
本実施形態において、カム部材35は、メインキャリッジ36に回転自在に支持され、カム面T1,T2がスライダ31の第1キャリッジ支持面31e及び第2キャリッジ支持面31f(当接面)に当接可能に構成されているが、これに限定されない。カム部材は、メインキャリッジ及びスライダのいずれか一方に回転自在に支持され、カム面がメインキャリッジ及びスライダのいずれか他方の当接面に当接可能に構成されていればよく、例えば、カム部材は、スライダに回転自在に支持され、当接面がメインキャリッジに形成されていてもよい。
【0078】
また、本実施形態において、検査パターンRは、Y方向に隣接して記録され、共にY方向に延びて、X方向に等ピッチで同数配置された同じ太さの線である第1の画像R1及び第2の画像R2からなるが、目視で第1の画像と第2の画像とのずれが確認できれば、これに限定されない。例えば、第1の画像と第2の画像のY方向に隣接する部分における主走査方向の長さが同じであれば、第1の画像及び第2の画像は、記録ヘッドHの高さが適正な位置である場合にY方向の位置が一致した状態で、互いの境界線に対して線対称とならないようなパターンでも良い。
【符号の説明】
【0079】
5・・・位置決め機構(位置決め手段)/9・・・移動装置(主移動手段)/21・・・ベースプレート(板部材)/22・・・リフタ(押圧部材)/31・・・スライダ/31e・・・第1キャリッジ支持面(当接面)/31f・・・第2キャリッジ支持面(当接面)/31h・・・識別表示/32・・・キャリッジ(保持手段)/33・・・スライド部材(副移動手段)/35・・・カム部材/36・・・メインキャリッジ(保持移動部)/37・・・サブキャリッジ(保持部)/39・・・キャリッジばね(付勢手段)/41・・・第1カム部/42・・・第2カム部/43・・・連結軸(連結部)/45・・・手動操作部/45a・・・目印/50・・・制御部(制御手段)/100・・・インクジェット記録装置/H・・・記録ヘッド/L1・・・仮想軸線(回転中心)/P・・・記録媒体/P1・・・記録面/R1・・・第1の画像/R2・・・第2の画像/t1~t5・・・平面部/X・・・主走査方向/Y・・・副走査方向/Z・・・接離方向(上下方向)