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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/462 20100101AFI20240304BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20240304BHJP
   F15B 11/02 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
F16H61/462
E02F9/22 A
F15B11/02 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019195518
(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2021067355
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】福田 祐史
(72)【発明者】
【氏名】濱本 亮太
(72)【発明者】
【氏名】冨田 淳
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-084334(JP,A)
【文献】特開2013-227799(JP,A)
【文献】特開2017-179922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14、61/38-61/64
E02F 9/22
F15B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と、
前記原動機の動力によって作動し且つ作動油を吐出する走行ポンプと、
前記走行ポンプが吐出した作動油により回転可能で、且つ、第1速度にて回転する大容量状態と、前記第1速度よりも高い第2速度にて回転する小容量状態とに切換可能な可変容量型の走行モータと、
前記走行モータの容量を前記大容量状態と前記小容量状態とに切り換える油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータを油圧制御して、前記走行モータを前記第1速度で回転させる第1状態と、前記走行モータを前記第2速度で回転させる第2状態とに切換可能な走行切換弁と、
前記原動機の動力によって作動し且つ前記走行切換弁を前記第1状態と前記第2状態とに切り換えるためのパイロット油を吐出する油圧ポンプと、
前記原動機の第1目標回転数を設定するアクセルと、
前記原動機の実回転数を検出する回転検出装置と、
前記第1状態から前記第2状態に切り換える増速、及び、前記第2状態から前記第1状態に切り換える減速のいずれかを行う場合において、前記原動機に指令する指令回転数を前記第1目標回転数よりも低い第2目標回転数に徐々に近づける低下制御を行う制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記第1目標回転数と前記実回転数との差であるドロップ量が閾値以上であって、前記増速を行う場合には、前記指令回転数を前記第1目標回転数よりも低く前記第2目標回転数よりも高い第3目標回転数に設定した後、前記低下制御によって前記実回転数を前記第2目標回転数に低下させ、当該低下制御による前記実回転数の低下中に前記増速を行い、
前記ドロップ量が前記閾値以上であって、前記減速を行う場合には、前記指令回転数を前記第3目標回転数に設定した後、前記低下制御によって前記実回転数を前記第2目標回転数に低下させ、当該低下制御後に前記指令回転数を前記第1目標回転数に設定して前記実回転数を復帰させる間に前記減速を行う作業機。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第3目標回転数を、前記増速又は前記減速を行う操作が行われたときの前記実回転数の付近に設定する請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記制御装置は、前記増速及び前記減速のいずれも行わない場合は、前記指令回転数を前記第1目標回転数に設定する請求項1又は2に記載の作業機。
【請求項4】
前記原動機、走行ポンプ及び走行モータが設けられた機体と、
前記機体の左側に設けられた第1走行装置と、
前記機体の右側に設けられた第2走行装置と、
を備え、
前記走行モータは、前記第1走行装置に走行の動力を伝達する第1走行モータ及び前記第2走行装置に走行の動力を伝達する第2走行モータであり、
前記走行ポンプは、前記第1走行モータ及び前記第2走行モータを作動可能であり、
前記走行切換弁は、前記第1状態にて、前記第1走行モータ及び前記第2走行モータをともに前記第1速度で回転させるように前記油圧アクチュエータに作用するパイロット油を制御し、前記第2状態にて、前記第1走行モータ及び前記第2走行モータをともに前記第2速度で回転させるように前記油圧アクチュエータに作用するパイロット油を制御する請求項1~3のいずれかに記載の作業機。
【請求項5】
前記走行モータは、斜板を備え、
前記油圧アクチュエータは、前記斜板の角度を変更して、前記斜板を、前記走行モータを前記大容量状態にする第1速度位置と、前記走行モータを前記小容量状態にする第2速度位置とに切り換える請求項1~4のいずれかに記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、スキッドステアローダ、コンパクトトラックローダ、バックホー等の作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作業機において減速及び増速を行う技術として特許文献1に示されているものがある。特許文献1の作業機の油圧システムは、作動油を吐出する油圧ポンプと、作動油の圧力に応じて複数の切換位置に切換可能な油圧切換弁と、油圧切換弁の切換位置に応じて速度が変更可能な走行油圧装置とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-179922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の作業機では、油圧切換弁の受圧部にブリード油路を設けているため、作業機を増速又は減速する際における変速ショックを低減することが可能である。しかしながら、特許文献1では、変速ショックを減少させるためにブリード油路を設けなければならず部品点数が多くなる。
本発明は、上記したような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、簡単に変速ショックを低減することができる作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
技術的課題を解決するために本発明が講じた技術的手段は、以下の通りである。
作業機は、原動機と、前記原動機の動力によって作動し且つ作動油を吐出する走行ポンプと、前記走行ポンプが吐出した作動油により回転可能で、且つ、第1速度にて回転する大容量状態と、前記第1速度よりも高い第2速度にて回転する小容量状態とに切換可能な可変容量型の走行モータと、前記走行モータの容量を前記大容量状態と前記小容量状態とに切り換える油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータを油圧制御して、前記走行モータを前記第1速度で回転させる第1状態と、前記走行モータを前記第2速度で回転させる第2状態とに切換可能な走行切換弁と、前記原動機の動力によって作動し且つ前記走行切換弁を前記第1状態と前記第2状態とに切り換えるためのパイロット油を吐出する油圧ポンプと、前記原動機の第1目標回転数を設定するアクセルと、前記原動機の実回転数を検出する回転検出装置と、前記第1状態から前記第2状態に切り換える増速、及び、前記第2状態から前記第1状態に切り換える減速のいずれかを行う場合において、前記原動機に指令する指令回転数を前記第1目標回転数よりも低い第2目標回転数に徐々に近づける低下制御を行う制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記第1目標回転数と前記実回転数との差であるドロップ量が閾値以上であって、前記増速を行う場合には、前記指令回転数を前記第1目標回転数よりも低く前記第2目標回転数よりも高い第3目標回転数に設定した後、前記低下制御によって前記実回転数を前記第2目標回転数に低下させ、当該低下制御による前記実回転数の低下中に前記増速を行い、前記ドロップ量が前記閾値以上であって、前記減速を行う場合には、前記指令回転数を前記第3目標回転数に設定した後、前記低下制御によって前記実回転数を前記第2目標回転数に低下させ、当該低下制御後に前記指令回転数を前記第1目標回転数に設定して前記実回転数を復帰させる間に前記減速を行う
【0006】
前記制御装置は、前記第3目標回転数を、前記増速又は前記減速を行う操作が行われたときの前記実回転数の付近に設定する
前記制御装置は、前記増速及び前記減速のいずれも行わない場合は、前記指令回転数を前記第1目標回転数に設定する
作業機は、前記原動機、走行ポンプ及び走行モータが設けられた機体と、前記機体の左側に設けられた第1走行装置と、前記機体の右側に設けられた第2走行装置と、を備え、前記走行モータは、前記第1走行装置に走行の動力を伝達する第1走行モータ及び前記第2走行装置に走行の動力を伝達する第2走行モータであり、前記走行ポンプは、前記第1走行モータ及び前記第2走行モータを作動可能であり、前記走行切換弁は、前記第1状態にて、前記第1走行モータ及び前記第2走行モータをともに前記第1速度で回転させるように前記油圧アクチュエータに作用するパイロット油を制御し、前記第2状態にて、前記第1走行モータ及び前記第2走行モータをともに前記第2速度で回転させるように前記油圧アクチュエータに作用するパイロット油を制御する
前記走行モータは、斜板を備え、前記油圧アクチュエータは、前記斜板の角度を変更して、前記斜板を、前記走行モータを前記大容量状態にする第1速度位置と、前記走行モータを前記小容量状態にする第2速度位置とに切り換える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡単に変速ショックを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態における作業機の油圧システム(油圧回路)を示す図である。
図2A】走行モータを増速した場合の原動機の回転数と走行モータの切換との関係を示した図である。
図2B】走行モータを減速した場合の原動機の回転数と走行モータの切換との関係を示した図である。
図3A】走行モータを増速した場合の制御装置の第1動作フローを示した図である。
図3B】走行モータを減速した場合の制御装置の第2動作フローを示した図である。
図4】実回転数W1と低下時間T1、T11、切換時間Z10、Z11の関係を示す図である。
図5】作業機の一例であるトラックローダを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る作業機の油圧システム及びこの油圧システムを備えた作業機の好適な実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
図5は、本発明に係る作業機の側面図を示している。図5では、作業機の一例として、コンパクトトラックローダを示している。但し、本発明に係る作業機はコンパクトトラックローダに限定されず、例えば、スキッドステアローダ等の他の種類のローダ作業機であってもよい。また、ローダ作業機以外の作業機であってもよい。
【0010】
作業機1は、図5に示すように、作業機1は、機体2と、キャビン3と、作業装置4と、走行装置5とを備えている。本発明の実施形態において、作業機1の運転席8に着座した運転者の前側(図5の左側)を前方、運転者の後側(図5の右側)を後方、運転者の左側(図5の手前側)を左方、運転者の右側(図5の奥側)を右方として説明する。また、前後の方向に直交する方向である水平方向を機体幅方向として説明する。機体2の中央部から右部或いは左部へ向かう方向を機体外方として説明する。言い換えれば、機体外方とは、機体幅方向であって、機体2から離れる方向である。機体外方とは反対の方向を、機体内方として説明する。言い換えれば、機体内方とは、機体幅方向であって、機体2に近づく方向である。
【0011】
キャビン3は、機体2に搭載されている。このキャビン3には運転席8が設けられている。作業装置4は機体2に装着されている。走行装置5は、機体2の外側に設けられている。機体2内の後部には、原動機32が搭載されている。走行装置5は、機体2の左側に設けられた第1走行装置5Lと、機体2の右側に設けられた第2走行装置5Rとを含んでいる。
【0012】
作業装置4は、ブーム10と、作業具11と、リフトリンク12と、制御リンク13と、ブームシリンダ14と、バケットシリンダ15とを有している。
ブーム10は、キャビン3の右側及び左側に上下揺動自在に設けられている。作業具11は、例えば、バケットであって、当該バケット11は、ブーム10の先端部(前端部)に上下揺動自在に設けられている。リフトリンク12及び制御リンク13は、ブーム10が上下揺動自在となるように、ブーム10の基部(後部)を支持している。ブームシリンダ14は、伸縮することによりブーム10を昇降させる。バケットシリンダ15は、伸縮することによりバケット11を揺動させる。
【0013】
左側及び右側の各ブーム10の前部同士は、異形の連結パイプで連結されている。各ブーム10の基部(後部)同士は、円形の連結パイプで連結されている。
リフトリンク12、制御リンク13及びブームシリンダ14は、左側と右側の各ブーム10に対応して機体2の左側と右側にそれぞれ設けられている。
リフトリンク12は、各ブーム10の基部の後部に、縦向きに設けられている。このリフトリンク12の上部(一端側)は、各ブーム10の基部の後部寄りに枢支軸16(枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。また、リフトリンク12の下部(他端側)は、機体2の後部寄りに枢支軸17(枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。枢支軸17は、枢支軸16の下方に設けられている。
【0014】
ブームシリンダ14の上部は、枢支軸18(枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。枢支軸18は、各ブーム10の基部であって、当該基部の前部に設けられている。ブームシリンダ14の下部は、枢支軸19(枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。枢支軸19は、機体2の後部の下部寄りであって枢支軸18の下方に設けられている。
【0015】
制御リンク13は、リフトリンク12の前方に設けられている。この制御リンク13の一端は、枢支軸20(枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。枢支軸20は、機体2であって、リフトリンク12の前方に対応する位置に設けられている。制御リンク13の他端は、枢支軸21(枢支軸)を介して横軸回りに回転自在に枢支されている。枢支軸21は、ブーム10であって、枢支軸17の前方で且つ枢支軸17の上方に設けられている。
【0016】
ブームシリンダ14を伸縮することにより、リフトリンク12及び制御リンク13によって各ブーム10の基部が支持されながら、各ブーム10が枢支軸16回りに上下揺動し、各ブーム10の先端部が昇降する。制御リンク13は、各ブーム10の上下揺動に伴って枢支軸20回りに上下揺動する。リフトリンク12は、制御リンク13の上下揺動に伴って枢支軸17回りに前後揺動する。
【0017】
ブーム10の前部には、バケット11の代わりに別の作業具が装着可能とされている。別の作業具としては、例えば、油圧圧砕機、油圧ブレーカ、アングルブルーム、アースオーガ、パレットフォーク、スイーパー、モア、スノウブロア等のアタッチメント(予備アタッチメント)である。
左側のブーム10の前部には、接続部材50が設けられている。接続部材50は、予備アタッチメントに装備された油圧機器と、ブーム10に設けられたパイプ等の第1管材とを接続する装置である。具体的には、接続部材50の一端には、第1管材が接続可能で、他端には、予備アタッチメントの油圧機器に接続された第2管材が接続可能である。これにより、第1管材を流れる作動油は、第2管材を通過して油圧機器に供給される。
【0018】
バケットシリンダ15は、各ブーム10の前部寄りにそれぞれ配置されている。バケットシリンダ15を伸縮することで、バケット11が揺動される。
左側及び右側の各走行装置5(第1走行装置5L、第2走行装置5R)は、本実施形態ではクローラ型(セミクローラ型を含む)の走行装置が採用されている。なお、前輪及び後輪を有する車輪型の走行装置を採用してもよい。
【0019】
原動機32は、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等の内燃機関、電動モータ等である。この実施形態では、原動機32は、ディーゼルエンジンであるが限定はされない。
次に、作業機の油圧システムについて説明する。
図1に示すように、作業機の油圧システムは、走行装置5を駆動することが可能である。作業機の油圧システムは、第1走行ポンプ53Lと、第2走行ポンプ53Rと、第1走行モータ36Lと、第2走行モータ36Rとを備えている。
【0020】
第1走行ポンプ53L及び第2走行ポンプ53Rは、原動機32の動力によって駆動するポンプである。具体的には、第1走行ポンプ53L及び第2走行ポンプ53Rは、原動機32の動力によって駆動される斜板形可変容量アキシャルポンプである。第1走行ポンプ53L及び第2走行ポンプ53Rは、は、パイロット圧が作用する前進用受圧部53aと後進用受圧部53bとを有している、受圧部53a、53bに作用するパイロット圧によって斜板の角度が変更される。斜版の角度を変更することによって、第1走行ポンプ53L及び第2走行ポンプ53Rの出力(作動油の吐出量)や作動油の吐出方向を変えることができる。
【0021】
第1走行ポンプ53Lと、第1走行モータ36Lとは、循環油路57hによって接続され、第1走行ポンプ53Lが吐出した作動油が第1走行モータ36Lに供給される。第2走行ポンプ53Rと、第2走行モータ36Rとは、循環油路57iによって接続され、第2走行ポンプ53Rが吐出した作動油が第2走行モータ36Rに供給される。
第1走行モータ36Lは、機体2の左側に設けられた走行装置5の駆動軸に動力を伝達するモータである。第1走行モータ36Lは、第1走行ポンプ53Lから吐出した作動油により回転が可能であり、作動油の流量によって、回転速度(回転数)を変更することができる。第1走行モータ36Lには、斜板切換シリンダ37Lが接続され、当該斜板切換シリンダ37Lを一方側或いは他方側に伸縮させることによっても第1走行モータ36Lの回転速度(回転数)を変更することができる。即ち、斜板切換シリンダ37Lを収縮した場合には、第1走行モータ36Lの回転数は低速(第1速度)に設定され、斜板切換シリンダ37Lを伸長した場合には、第1走行モータ36Lの回転数は高速(第2速度)に設定される。つまり、第1走行モータ36Lの回転数は、低速側である第1速度と、高速側である第2速度とに変更が可能である。
【0022】
第2走行モータ36Rは、機体2の右側に設けられた走行装置5の駆動軸に動力を伝達するモータである。第2走行モータ36Rは、第2走行ポンプ53Rから吐出した作動油により回転が可能であり、作動油の流量によって、回転速度(回転数)を変更することができる。第2走行モータ36Rには、斜板切換シリンダ37Rが接続され、当該斜板切換シリンダ37Rを一方側或いは他方側に伸縮させることによっても第2走行モータ36Rの回転速度(回転数)を変更することができる。即ち、斜板切換シリンダ37Rを収縮した場合には、第2走行モータ36Rの回転数は低速(第1速度)に設定され、斜板切換シリンダ37Rを伸長した場合には、第2走行モータ36Rの回転数は高速(第2速度)に設定される。つまり、第2走行モータ36Rの回転数は、低速側である第1速度と、高速側である第2速度とに変更が可能である。
【0023】
図1に示すように、作業機の油圧システムは、走行切換弁34を備えている。走行切換弁34は、走行モータ(第1走行モータ36L、第2走行モータ36R)の回転速度(回転数)を第1速度にする第1状態と、第2速度にする第2状態とに切換可能である。走行切換弁34は、第1切換弁71L、71Rと、第2切換弁72と、を有している。
第1切換弁71Lは、第1走行モータ36Lの斜板切換シリンダ37Lに油路を介して接続されていて、第1位置71L1及び第2位置71L2に切り換わる二位置切換弁である。第1切換弁71Lは、第1位置71L1である場合、斜板切換シリンダ37Lを収縮し、第2位置71L2である場合、斜板切換シリンダ37Lを伸長する。
【0024】
第1切換弁71Rは、第2走行モータ36Rの斜板切換シリンダ37Rに油路を介して接続されていて、第1位置71R1及び第2位置71R2に切り換わる二位置切換弁である。第1切換弁71Rは、第1位置71R1である場合、斜板切換シリンダ37Rを収縮し、第2位置71R2である場合、斜板切換シリンダ37Rを伸長する。
第2切換弁72は、第1切換弁71L及び第1切換弁71Rを切り換える電磁弁であって、励磁により第1位置72aと第2位置72bとに切り換え可能な二位置切換弁である。第2切換弁72、第1切換弁71L及び第1切換弁71Rは、油路41により接続されている。第2切換弁72は、第1位置72aである場合に第1切換弁71L及び第1切換弁71Rを第1位置71L1、71R1に切り換え、第2位置72bである場合に第1切換弁71L及び第1切換弁71Rを第2位置71L2、71R2に切り換える。
【0025】
つまり、第2切換弁72が第1位置72a、第1切換弁71Lが第1位置71L1、第1切換弁71Rが第1位置71R1である場合に、走行切換弁34は第1状態になり、走行モータ(第1走行モータ36L、第2走行モータ36R)の回転速度を第1速度にする。第2切換弁72が第2位置72b、第1切換弁71Lが第2位置71L2、第1切換弁71Rが第2位置71R2である場合に、走行切換弁34は第2状態になり、走行モータ(第1走行モータ36L、第2走行モータ36R)の回転速度を第2速度にする。
【0026】
したがって、走行切換弁34によって、走行モータ(第1走行モータ36L、第2走行モータ36R)を低速側である第1速度と、高速側である第2速度とに切り換えることができる。
走行モータにおける第1速度と、第2速度との切換は、切換部によって行うことができる。切換部は、例えば、制御装置60に接続された切換スイッチ61であり、作業者等が操作することができる。切換部(切換スイッチ61)は、第1速度(第1状態)から第2速度(第2状態)に切り換える増速と、第2速度(第2状態)から第1速度(第1状態)に切り換える減速とのいずれかに切り換えることができる。
【0027】
制御装置60は、CPU、MPU等の半導体、電気電子回路等から構成されている。制御装置60は、切換スイッチ61の切換操作に基づいて、走行切換弁34を切り換える。切換スイッチ61は、プッシュスイッチである。切換スイッチ61は、例えば、走行モータが第1速度の状態で押圧されると、当該走行モータを第2速度にする指令(走行切換弁34を第2状態にする指令)が制御装置60に出力される。また、切換スイッチ61は、走行モータが第2速度の状態で押圧すると、当該走行モータを第1速度にする指令(走行切換弁34を第1状態にする指令)が制御装置60に出力される。なお、切換スイッチ61は、ON/OFFに保持可能なプッシュスイッチであってもよく、OFFである場合には、走行モータを第1速度に保持する指令が制御装置60に出力され、ONである場合には、走行モータを第2速度に保持する指令が制御装置60に出力される。
【0028】
制御装置60は、走行切換弁34を第1状態にする指令を取得した場合には、第2切換弁72のソレノイドを消磁することで、走行切換弁34を第1状態にする。また、制御装置60は、走行切換弁34を第2状態にする指令を取得した場合には、第2切換弁72のソレノイドを励磁することで、走行切換弁34を第2状態にする。
さて、作業機の油圧システムは、第1油圧ポンプP1と、第2油圧ポンプP2、操作装置54とを備えている。第1油圧ポンプP1は、原動機32の動力によって駆動するポンプであって、定容量型のギヤポンプによって構成されている。第1油圧ポンプP1は、タンク22に貯留された作動油を吐出可能である。特に、第1油圧ポンプP1は、主に制御に用いる作動油を吐出する。説明の便宜上、作動油を貯留するタンク22のことを作動油タンクということがある。また、第1油圧ポンプP1から吐出した作動油のうち、制御用として用いられる作動油のことをパイロット油、パイロット油の圧力のことをパイロット圧ということがある。
【0029】
第2油圧ポンプP2は、原動機32の動力によって駆動するポンプであって、定容量型のギヤポンプによって構成されている。第2油圧ポンプP2は、タンク22に貯留された作動油を吐出可能であって、例えば、作業系の油路に作動油を供給する。例えば、第2油圧ポンプP2は、ブーム10を作動させるブームシリンダ14、バケットを作動させるバケットシリンダ15、予備油圧アクチュエータを作動させる予備油圧アクチュエータを制御する制御弁(流量制御弁)に作動油を供給する。
【0030】
操作装置54は、走行ポンプ(第1走行ポンプ53L、第2走行ポンプ53R)を操作する装置であり、走行ポンプの斜板の角度(斜板角度)を変更可能である。操作装置54は、操作レバー59と、複数の操作弁55とを含んでいる。
操作レバー59は、操作弁55に支持され、左右方向(機体幅方向)又は前後方向に揺動する操作レバーである。即ち、操作レバー59は、中立位置Nを基準とすると、中立位置Nから右方及び左方に操作可能であると共に、中立位置Nから前方及び後方に操作可能である。言い換えれば、操作レバー59は、中立位置Nを基準に少なくとも4方向に揺動することが可能である。尚、説明の便宜上、前方及び後方の双方向、即ち、前後方向のことを第1方向という。また、右方及び左方の双方向、即ち、左右方向(機体幅方向)のことを第2方向ということがある。
【0031】
また、複数の操作弁55は、共通、即ち、1本の操作レバー59によって操作される。複数の操作弁55は、操作レバー59の揺動に基づいて作動する。複数の操作弁55には、吐出油路40が接続され、当該吐出油路40を介して、第1油圧ポンプP1からの作動油(パイロット油)が供給可能である。複数の操作弁55は、操作弁55A、操作弁55B、操作弁55C及び操作弁55Dである。
【0032】
操作弁55Aは、前後方向(第1方向)のうち、操作レバー59を前方(一方)に揺動した場合(前操作した場合)に、前操作の操作量(操作)に応じて出力する作動油の圧力が変化する。操作弁55Bは、前後方向(第1方向)のうち、操作レバー59を後方(他方)に揺動した場合(後操作した場合)に、後操作の操作量(操作)に応じて出力する作動油の圧力が変化する。左右方向(第2方向)のうち、操作弁55Cは、操作レバー59を右方(一方)に揺動した場合(右操作した場合)に、右操作の操作量(操作)に応じて出力する作動油の圧力が変化する。操作弁55Dは、左右方向(第2方向)のうち、操作レバー59を、左方(他方)に揺動した場合(左操作した場合)に、左操作の操作量(操作)に応じて出力する作動油の圧力が変化する。
【0033】
複数の操作弁55と、走行ポンプ(第1走行ポンプ53L,第2走行ポンプ53R)とは、走行油路45によって接続されている。言い換えれば、走行ポンプ(第1走行ポンプ53L,第2走行ポンプ53R)は、操作弁55(操作弁55A、操作弁55B、操作弁55C、操作弁55D)から出力した作動油によって作動可能な油圧機器である。
走行油路45は、第1走行油路45a、第2走行油路45b、第3走行油路45c、第4走行油路45dと、第5走行油路45eとを有している。第1走行油路45aは、走行ポンプ53Lの前進用受圧部53aに接続された油路である。第2走行油路45bは、走行ポンプ53Lの後進用受圧部53bに接続された油路である。第3走行油路45cは、走行ポンプ53Rの前進用受圧部53aに接続された油路である。第4走行油路45dは、走行ポンプ53Rの後進用受圧部53bに接続された油路である。第5走行油路45eは、操作弁55、第1走行油路45a、第2走行油路45b、第3走行油路45c、第4走行油路45dを接続する油路である。
【0034】
操作レバー59を前方(図1では矢示A1方向)に揺動させると、操作弁55Aが操作されて該操作弁55Aからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は、第1走行油路45aを介して第1走行ポンプ53Lの受圧部53aに作用すると共に第3走行油路45cを介して第2走行ポンプ53Rの受圧部53aに作用する。これにより、第1走行ポンプ53L及び第2走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、第1走行モータ36L及び第2走行モータ36Rが正転(前進回転)して作業機1が前方に直進する。
【0035】
また、操作レバー59を後方(図1では矢示A2方向)に揺動させると、操作弁55Bが操作されて該操作弁55Bからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は、第2走行油路45bを介して第1走行ポンプ53Lの受圧部53bに作用すると共に第4走行油路45dを介して第2走行ポンプ53Rの受圧部53bに作用する。これにより、第1走行ポンプ53L及び第2走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、第1走行モータ36L及び第2走行モータ36Rが逆転(後進回転)して作業機1が後方に直進する。
【0036】
また、操作レバー59を右方(図1では矢示A3方向)に揺動させると、操作弁55Cが操作されて該操作弁55Cからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は、第1走行油路45aを介して第1走行ポンプ53Lの受圧部53aに作用すると共に第4走行油路45dを介して第2走行ポンプ53Rの受圧部53bに作用する。これにより、第1走行ポンプ53L及び第2走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、第1走行モータ36Lが正転し且つ第2走行モータ36Rが逆転して作業機1が右側に旋回する。
【0037】
また、操作レバー59を左方(図1では矢示A4方向)に揺動させると、操作弁55Dが操作されて該操作弁55Dからパイロット圧が出力される。このパイロット圧は第3走行油路45cを介して第2走行ポンプ53Rの受圧部53aに作用すると共に第2走行油路45bを介して第1走行ポンプ53Lの受圧部53bに作用する。これにより、第1走行ポンプ53L及び第2走行ポンプ53Rの斜板角度が変更され、第1走行モータ36Lが逆転し且つ第2走行モータ36Rが正転転して作業機1が左側に旋回する。
【0038】
また、操作レバー59を斜め方向に揺動させると、受圧部53aと受圧部53bとに作用するパイロット圧の差圧によって、第1走行モータ36L及び第2走行モータ36Rの回転方向及び回転速度が決定され、作業機1が前進又は後進しながら右旋回又は左旋回する。
すなわち、操作レバー59を左斜め前方に揺動操作すると該操作レバー59の揺動角度に対応した速度で作業機1が前進しながら左旋回し、操作レバー59を右斜め前方に揺動操作すると該操作レバー59の揺動角度に対応した速度で作業機1が前進しながら右旋回し、操作レバー59を左斜め後方に揺動操作すると該操作レバー59の揺動角度に対応した速度で作業機1が後進しながら左旋回し、操作レバー59を右斜め後方に揺動操作すると該操作レバー59の揺動角度に対応した速度で作業機1が後進しながら右旋回する。
【0039】
さて、制御装置60には、原動機回転数を設定するアクセル65が接続されている。アクセル65は、運転席8の近傍に設けられている。アクセル65は、揺動自在に支持されたアクセルレバー、揺動自在に支持されたアクセルペダル、回転自在に支持されたアクセルボリューム、スライド自在に支持されたアクセルスライダー等である。なお、アクセル65は、上述した例に限定されない。また、制御装置60には、原動機回転数を検出する回転検出装置66が接続されている。回転検出装置66によって、制御装置60は、原動機32の実原動機回転数(実回転数)を把握することができる。
【0040】
制御装置60は、アクセル65の操作量に基づいて、目標の原動機回転数(目標回転数)を設定して、設定した目標回転数になるように実回転数を制御する。即ち、制御装置60は、例えば、原動機32の実回転数が目標回転数になるように、指令回転数を原動機32に出力することによって、原動機32の実回転数を変更する。
さて、制御装置60は、走行切換弁34を第1状態(第1速度)から第2状態(第2速度)に切り換える際に、即ち、走行モータの回転速度を第1速度から第2速度に増速する場合に原動機回転数を低下させる。
【0041】
図2Aは、走行モータを第1速度から第2速度に増速する場合の原動機の回転数(目標回転数、実回転数)と、走行モータの切換との関係を示した図である。図2AのZ10は、切換スイッチ61によって増速指令を行ってから走行切換弁34を第1状態から第2状態に切り換えるまでの切換時間である。
図2Aに示すように、制御装置60は、時点Q1において、切換スイッチ(切換SW)61が操作され、当該制御装置60は、第1状態(第1速度)から第2状態(第2速度)にする増速指令(2速指令)を取得したとする。制御装置60は、2速指令を取得すると、アクセル65で設定された目標回転数(第1目標回転数)W2と、回転検出装置66によって検出された実回転数とのドロップ量ΔD2を演算する。制御装置60は、第1目標回転数W2と実回転数W1とのドロップ量ΔD2が閾値以上であるときは、原動機32に指令する指令回転数K1を、第1目標回転数W2よりも低く第2目標回転数W3よりも高い第3目標回転数W5に急峻に変更した後、指令回転数K1を第2目標回転数W3にすることで、実回転数を第2目標回転数W3に低下させる低下制御を行う。例えば、制御装置60は、切換スイッチ(切換SW)61が操作された時点Q1の付近の実回転数と同じ回転数に第3目標回転数W5を設定する。より詳しくは、制御装置60は、時点Q1の実回転数、時点Q1よりも所定時間前(例えば、1秒以内)の実回転数W1の平均値、或いは、時点Q1から遡って0.1秒以内の実回転数のいずれかに、第3目標回転数W5を設定する。
【0042】
第2目標回転数W3は、第1速度から第2速度へ切り換えた場合の変速ショックを軽減する回転数であり、例えば、実回転数W1から低下量ΔD1を減算した値である。なお、制御装置60は、ドロップ量ΔD2が閾値以上である場合に第3目標回転数W5に急峻に変更しているが、ドロップ量ΔD2の値に関わらず、第3目標回転数W5に急峻に変更してもよい。
【0043】
制御装置60は、時点Q2において、実回転数W1が第2目標回転数W3に達すると、実回転数W1を第1目標回転数W2に復帰させる。ここで、制御装置60は、実回転数W1を第2目標回転数W3から第1目標回転数W2に復帰させる復帰時間T2を低下時間T1よりも長くする。即ち、制御装置60は、実回転数W1を第2目標回転数W3に低下させる低下速度を、実回転数W1を第2目標回転数W3から第1目標回転数W2に復帰させる復帰速度よりも早くする。なお、実回転数W1を第2目標回転数W3から第1目標回転数W2に復帰させる場合において、原動機32に負荷がない場合には、復帰時間T2を短くすることができる。言い換えれば、制御装置60は、原動機32に掛かる負荷が低減している場合は、目標の復帰時間T2を短くすることができる。
【0044】
また、制御装置60は、少なくとも低下時間T1中、即ち、実回転数W1を第2目標回転数W3から第1目標回転数W2に復帰させる制御を開始する前に、走行切換弁34のソレノイドを励磁する信号を出力して、走行切換弁(切換弁)34を第1状態(第1速度)から第2状態(第2速度)に切り換える。言い換えれば、制御装置60は、走行切換弁34を第2状態に切り換えた後に、実回転数W1を第1目標回転数W2に復帰させる。
【0045】
図3Aは、走行モータの回転速度を第1速度から第2速度に変更する場合の制御装置60の制御フローを示す図である。なお、作業機は停止状態ではなく走行している走行状態である。
制御装置60は、切換スイッチ61が第1速度から第2速度に切り換えられたか否かを判断する(S1)。切換スイッチ61が第2速度に切り換えられていない場合、即ち、第1速度に維持されている場合(S1、No)、制御装置60は、指令回転数K1を第1目標回転数W2に設定する(S2)。切換スイッチ61が第1速度から第2速度に切り換えられた場合(S1、Yes)、制御装置60は、ドロップ量ΔD2を演算する(S3)。ドロップ量ΔD2が閾値以上である場合(S4、Yes)、指令回転数K1を瞬時に第3目標回転数W5に変更する(S5)。その後、指令回転数K1を徐々に第2目標回転数W3に近づける低下処理(低下制御)を行う(S6)。制御装置60は、実回転数W1が第2目標回転数W3に達する前に、制御装置60は、走行切換弁34を第1状態(第1速度)から第2状態(第2速度)に切り換える(S7)。制御装置60は、実回転数W1が第2目標回転数W3に達しているか否かを判断し(S8)、実回転数W1が第2目標回転数W3に達すると(S8、Yes)、指令回転数K1を第1目標回転数W2に設定する(S9)。なお、実回転数W1が第2目標回転数W3に達していない場合(S8、No)、制御装置60は、S5の低下処理(低下制御)に戻り、実回転数を低下させる。
【0046】
走行切換弁34を、既に第1状態(第1速度)から第2状態(第2速度)に切り換えている場合(S7の処理を既に行っている場合)は、S7の処理をスキップして、S8の処理に移行する。また、制御装置60において、実回転数W1を第2目標回転数W3に向けて低下させる処理と、走行切換弁34を切り換える処理とを個別に並列に処理してもよい。
【0047】
さて、上述した実施形態では、作業機1を第1速度から第2速度に増速する場合に、原動機回転数を低下させているが、作業機1を第2速度から第1速度に減速する場合に、原動機回転数を低下させてもよい。
制御装置60は、走行切換弁34を第2状態(第2速度)から第1状態(第1速度)に切り換える際に、即ち、走行モータの回転速度を第2速度から第1速度に切り換える際に原動機回転数を低下させる。
【0048】
図2Bは、走行モータを第1速度から第2速度に減速する場合の原動機の回転数(目標回転数、実回転数)と、走行モータの切換との関係を示した図である。図2BのZ11は、切換スイッチ61によって減速指令を行ってから走行切換弁34を第2状態から第1状態に切り換えるまでの切換時間である。
図2Bに示すように、制御装置60は、時点Q11において、切換スイッチ(切換SW)61が操作され、当該制御装置60は、第2状態(第2速度)から第1状態(第1速度)にする減速指令(1速指令)を取得したとする。制御装置60は、1速指令を取得すると、第1目標回転数W2と、実回転数とのドロップ量ΔD2を演算する。制御装置60は、第1目標回転数W2と実回転数W1とのドロップ量ΔD2が閾値以上であるときは、原動機32に指令する指令回転数K1を、第1目標回転数W2よりも低く第2目標回転数W3よりも高い第3目標回転数W5に変更した後、指令回転数K1を第2目標回転数W3にすることで、実回転数を第2目標回転数W3に低下させる低下制御を行う。
【0049】
制御装置60は、時点Q12において、実回転数W1が第2目標回転数W3に達すると、実回転数W1を第1目標回転数W2に復帰させる。制御装置60は、実回転数W1を第2目標回転数W3から第1目標回転数W2に復帰させる復帰時間T12を低下時間T11よりも短くする。即ち、制御装置60は、実回転数W1を第2目標回転数W3に低下させる低下速度を、実回転数W1を第2目標回転数W3から第1目標回転数W2に復帰させる復帰速度よりも遅くする。なお、実回転数W1を第2目標回転数W3から第1目標回転数W2に復帰させる場合において、原動機32に負荷がない場合には、復帰時間T12を短くすることができる。言い換えれば、制御装置60は、原動機32に掛かる負荷が低減している場合は、目標の復帰時間T12を短くすることができる。
【0050】
また、制御装置60は、少なくとも実回転数W1が第2目標回転数W3になった後、第1目標回転数W2に達する前に、走行切換弁34のソレノイドを消磁する信号を出力して、走行切換弁(切換弁)34を第2状態(第2速度)から第1状態(第1速度)に切り換える。言い換えれば、制御装置60は、走行切換弁34を第1状態に切り換えた後に、実回転数W1を第1目標回転数W2に復帰させる。
【0051】
図3Bは、走行モータの回転速度を第2速度から第1速度に変更する場合の制御装置60の制御フローを示す図である。なお、作業機は停止状態ではなく走行している走行状態である。
制御装置60は、切換スイッチ61が第2速度から第1速度に切り換えられたか否かを判断する(S10)。切換スイッチ61が第1速度に切り換えられていない場合、即ち、第2速度に維持されている場合(S10、No)、制御装置60は、指令回転数K1を第1目標回転数W2に設定する(S11)。切換スイッチ61が第2速度から第1速度に切り換えられた場合(S10、Yes)、制御装置60は、ドロップ量ΔD2を演算する(S12)。ドロップ量ΔD2が閾値以上である場合(S13、Yes)、指令回転数K1を瞬時に第3目標回転数W5に変更する(S14)。その後、指令回転数K1を徐々に第2目標回転数W3に近づける低下処理(低下制御)を行う(S15)。制御装置60は、実回転数W1が第2目標回転数W3に達しているか否かを判断し(S16)、実回転数W1が第2目標回転数W3に達すると(S16、Yes)、制御装置60は、走行切換弁34を第2状態(第2速度)から第1状態(第1速度)に切り換える(S17)。即ち、制御装置60は、実回転数W1が第2目標回転数W3に達した後、制御装置60は、走行切換弁34を第2状態(第2速度)から第1状態(第1速度)に切り換える。また、制御装置60は、指令回転数K1を第1目標回転数W2に設定する(S18)。なお、実回転数W1が第2目標回転数W3に達していない場合(S16、No)、制御装置60は、S5の低下処理(低下制御)に戻り、実回転数を低下させる。なお、制御装置60において、実回転数W1を第2目標回転数W3に向けて低下させる処理と、走行切換弁34を切り換える処理とを個別に並列に処理してもよい。
【0052】
作業機1は、原動機32と、原動機32の動力によって作動し且つ作動油を吐出する走行ポンプ(第1走行ポンプ53L、第2走行ポンプ53R)と、走行ポンプ(第1走行ポンプ53L、第2走行ポンプ53R)が吐出した作動油により回転可能で、且つ、回転速度が第1速度と第1速度よりも高い第2速度とに切換可能な走行モータ(第1走行モータ36L、第2走行モータ36R)と、原動機32、走行ポンプ(第1走行ポンプ53L、第2走行ポンプ53R)及び走行モータ(第1走行モータ36L、第2走行モータ36R)が設けられた機体2と、走行モータ(第1走行モータ36L、第2走行モータ36R)の回転速度を第1速度にする第1状態と、走行モータ(第1走行モータ36L、第2走行モータ36R)の回転速度を第2速度にする第2状態とに切換可能な走行切換弁34と、原動機32の第1目標回転数W2を設定するアクセル65と、原動機32の実回転数W1を検出する回転検出装置66と、第1状態から第2状態に切り換える増速、及び、第2状態から第1状態に切り換える減速のいずれかに切り換える場合において、原動機32に指令する指令回転数を第1目標回転数W2よりも低い第2目標回転数W3に設定する制御装置と、を備え、制御装置60は、増速及び減速のいずれかに切り換える場合において、指令回転数を第1目標回転数W2よりも低く第2目標回転数W3よりも高い第3目標回転数W5に設定後、実回転数W1を第2目標回転数W3に低下させる低下制御を行う。
【0053】
これによれば、原動機32の実回転数W1がアクセル65によって設定した第1目標回転数W2に比べて低くドロップしている場合には、指令回転数を第1目標回転数W2から第3目標回転数W5に下げた後に、実回転数W1を第2目標回転数W3に下げる低下処理を行うことから、原動機32の回転数が負荷等によりドロップしている場合でも変速ショックを低減することができる。
【0054】
制御装置60は、第3目標回転数W5を切り換える操作が行われたときの実回転数の付近に設定する。これによれば、原動機32の実回転数W1を第2目標回転数W3に低下させる低下制御を行う前に、第3目標回転数W5をドロップ状態にある原動機32の実回転数W1にほぼ合わせることができ、より、変速時(増速時、減速時)の変速ショックを低減することができる。
【0055】
制御装置60は、増速及び減速のいずれかを行わない場合は、指令回転数を第1目標回転数W2に設定する。これによれば、増速及び減速には、目標回転数を変更することによって原動機32の実回転数を下げることで変速ショックを低減する一方で、増速及び減速のいずれかを行わない場合は、オペレータが任意にアクセル65で設定した第1目標回転数W2によって作業をスムーズに行うことができる。
【0056】
作業機1は、機体2の左側に設けられた第1走行装置5Lと、機体2の右側に設けられた第2走行装置5Rと、を備え、走行モータは、第1走行装置5Lに走行の動力を伝達する第1走行モータ36及び第2走行装置5Rに走行の動力を伝達する第2走行モータ36Rであり、走行ポンプは、第1走行モータ36L及び第2走行モータ36Rを作動可能であり、走行切換弁は、第1走行モータ36L及び第2走行モータ36Rを第1速度と第2速度とに切り換え可能である。これによれば、第1走行装置5L及び第2走行装置5Rによって走行時の変速時における変速ショックを簡単に低減することができ、作業性を向上させることができる。
【0057】
制御装置60は、第2速度から第1速度に減速する場合に、実回転数W1に基づいて低下量ΔD1を変更してもよい。制御装置60は、時点Q1における実回転数W1になるように、低下量ΔD1を変更する。或いは、制御装置60は、時点Q1よりも少し前の実回転数W1になるように、低下量ΔD1を変更する。或いは、制御装置60は、時点Q1よりも所定時間前の実回転数W1の平均値になるように、低下量ΔD1を変更する。
【0058】
制御装置60は、例えば、減速する場合において、実回転数W1が高いほど、低下量ΔD1を大きく、実回転数W1が低いほど、低下量ΔD1を小さくする。制御装置60は、減速する場合において、実回転数W1を第2目標回転数W3に達するまでの速度低下速度を、実回転数W1が第2目標回転数W3から第1目標回転数W2に達するまでの速度上昇速度よりも遅くする。
【0059】
制御装置60は、減速及び増速のいずれかを行う場合において、実回転数W1を第2目標回転数W3に向けて低下させてから、第1目標回転数W2に向けて復帰を開始するタイミングと、走行切換弁34を切り換えるタイミングとを対応付けてもよい(相関性を持たせる)。
図4は、減速及び増速の操作時における実回転数W1と、低下時間T1、T11、切換時間Z10、Z11の関係を示した図である。図4において、横軸の実回転数の最小値は、アイドリング回転数よりも大きな値である。
【0060】
図4に示すように、低下時間T1、T11、切換時間Z10、Z11のそれぞれを示すラインは、実回転数W1が大きくなるにつれて徐々に大きくなる直線であって、実回転数W1とは比例関係にある。
低下時間T1及び切換時間Z10を示すラインは、低下時間T11及び切換時間Z11を示すラインに比べてなだらか増減の傾きが小さい。即ち、低下時間T11及び切換時間Z11を示すラインは、低下時間T1及び切換時間Z10を示すラインよりも傾いていて増減の傾きが大きい。
【0061】
低下時間T11が大きくなると、切換時間Z11も比例して大きくなり、低下時間T11が小さくなると、切換時間Z11も比例して小さくなる。また、低下時間T1が大きくなると、切換時間Z10も比例して大きくなり、低下時間T1が小さくなると、切換時間Z10も比例して小さくなる。
図4に示すように、例えば、制御装置60は、減速及び増速を行うに際して、操作時の実回転数W1が高くなるにつれて、実回転数を低下させてから復帰を始めるまでの低下時間T1、T11を次第に長くし、且つ、増速及び減速のいずれかの操作から走行切換弁34を切り換えるまでの切換時間Z10,Z11を次第に長くする。言い換えれば、制御装置60は、減速及び増速を行うに際して、実回転数W1が低い程、低下時間T1、T11を短くし且つ、減速及び増速のいずれかの操作がされてから走行切換弁34を切り換えるまでの切換時間Z10,Z11を短くする。
【0062】
制御装置60は、減速及び増速を行うに際して、実回転数W1がアイドリング回転数以下である場合は、低下制御(低下処理)を行わず、走行切換弁34を即座に切り換える(切換時間Z10,Z11が零)。制御装置60は、作業機1の走行時には、減速の操作時において低下制御を行い、作業機1の走行の停止時には、低下制御を行わない。
作業機1は、原動機32と、原動機32の動力によって作動し且つ作動油を吐出する走行ポンプ(第1走行ポンプ53L、第2走行ポンプ53R)と、走行ポンプ(第1走行ポンプ53L、第2走行ポンプ53R)が吐出した作動油により回転可能で、且つ、回転速度が第1速度と第1速度よりも高い第2速度とに切換可能な走行モータと、原動機32、走行ポンプ(第1走行ポンプ53L、第2走行ポンプ53R)及び走行モータが設けられた機体2と、走行モータの回転速度を第1速度にする第1状態と、走行モータの回転速度を第2速度にする第2状態とに切換可能な走行切換弁34と、原動機32の第1目標回転数W2を設定するアクセル65と、原動機32の実回転数W1を検出する回転検出装置66と、第1状態から第2状態に切り換える増速、及び、第2状態から第1状態に切り換える減速のいずれかに切り換える場合において、原動機32の回転数を低下させる制御装置60と、を備え、制御装置60は、増速及び減速のいずれかを行う際に、実回転数W1を低下後、実回転数W1を第1目標回転数W2に向けて復帰を始める復帰タイミングと、走行切換弁34を増速側及び減速側のいずれかに切り換える切換タイミングと、を対応付ける。これによれば、復帰タイミングと切換タイミングとを対応付けることによって、実回転数W1がどのような状態であっても変速ショックを低減することができる。
【0063】
制御装置60は、実回転数W1が高くなるにつれて、実回転数W1を低下させてから復帰を始めるまでの低下時間T1,T11を次第に長くし、且つ、増速及び減速のいずれかの操作から走行切換弁34を切り換えるまでの切換時間Z10,Z11を次第に長くする。これによれば、実回転数W1が高くなるにつれて低下時間T1,T11を次第に長く、走行切換弁34を切り換えるまでの切換時間Z10,Z11を長くしているため、走行切換弁34を安定して切り換えられることができ、変速ショックを低減することができる。
【0064】
制御装置60は、実回転数W1が低くなるにつれて、実回転数W1を低下させてから復帰を始めるまでの低下時間T1、T11を次第に短くし、且つ、増速及び減速のいずれかの操作から走行切換弁34を切り換えるまでの切換時間Z10,Z11を次第に短くする。
これによれば、実回転数W1が低くなるにつれて低下時間T1,T11を次第に短く、走行切換弁34を切り換えるまでの切換時間Z10,Z11を短くしているため、走行切換弁34を安定して切り換えられることができ、変速ショックを低減することができる。
【0065】
制御装置60は、増速及び減速のいずれかの操作が行われた場合に、実回転数W1がアイドリング回転数以下である場合は、原動機32の回転数を低下させない。これによれば、アイドリング回転数以下では、原動機32の回転数を維持しながら変速することができる。
制御装置60は、機体2が走行している場合に減速の操作が行われると、原動機32の回転数を低下させ、機体2が停止している場合に減速の操作が行われると、原動機32の回転数の低下を行わない。これによれば、機体2が走行している状態において変速ショックを低減しながら走行及び作業を継続する一方、機体2が停止している状態においては原動機32の回転数の低下を行わないので作業性を維持することができる。
【0066】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
上述した実施形態では、切換部を作業者等が手動などで操作することができる切換スイッチ61で構成していたが、制御装置60に内蔵してもよい。制御装置60に内蔵した場合、切換部は、当該制御装置60に格納されたプログラム、電気、電子部品(電子電子回路)で構成される。この場合、制御装置60の切換部は、作業機1に設けた様々な検出装置、例えば、センサからの検出情報に基づいて1速状態と2速状態とに切り換えるか判断し、判断結果に基づいて、走行切換弁34に制御信号を出力する。走行切換弁34は、1速状態の制御信号を取得した場合には、1速状態に切り換わり、2速状態の制御信号を取得した場合には、2速状態に切り換わる。
【0067】
走行切換弁34は、走行モータ(第1走行モータ36L、第2走行モータ36R)を第1速度にする第1状態と、第2速度にする第2状態とに切換可能である弁であればよく、方向切換弁とは異なる比例弁であってもよい。
走行モータは、第1速度、第2速度との間に中立(ニュートラル)を有するモータであってもよい。
【0068】
走行モータ(第1走行モータ36L、第2走行モータ36R)は、アキシャルピストンモータであってもラジアルピストンモータであってもよい。走行モータがアキシャルピストンモータ及びラジアルピストンモータである場合、モータ容量が大きくなることで、第1速に切り換えることができ、モータ容量が小さくなり、第2速に切り換えることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 :作業機
2 :機体
5L,5R:走行装置
32 :原動機
34 :走行切換弁
36 :第1走行モータ
36L、36R:走行モータ
53L、53R :走行ポンプ
60 :制御装置
65 :アクセル
66 :回転検出装置
K1 :指令回転数
W1 :実回転数
W2 :第1目標回転数
W3 :第2目標回転数
W5 :第3目標回転数
ΔD2 :ドロップ量
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5