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特許7446792画像処理装置、画像処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240304BHJP
   B41J 2/205 20060101ALI20240304BHJP
   B41J 2/52 20060101ALI20240304BHJP
   H04N 1/409 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
B41J2/01 205
B41J2/205
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41J2/52
H04N1/409
B41J2/01 209
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019214295
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021084297
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 亮介
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-61663(JP,A)
【文献】特開2014-200970(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0134990(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0019012(US,A1)
【文献】特開2014-144610(JP,A)
【文献】特開2006-297919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 2/52-2/525
H04N 1/00-1/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが配列されたノズル列を搭載した記録ヘッドを前記ノズル列と垂直な方向に記録媒体を相対移動させながら前記ノズルからインクを吐出することにより前記記録媒体上に画像を形成する画像形成装置が使用するハーフトーン画像データを、多値の入力画像データから生成する画像処理装置であって、
前記ノズル列に配列された前記複数のノズルのうち吐出不良が発生している異常ノズル を特定可能な位置情報に基づき、前記入力画像データにおける、前記異常ノズルの画素ライン上の画素値と、前記異常ノズルの近傍に位置する吐出不良が発生していない他のノズルの画素ライン上の画素の画素値とを比較し、前記異常ノズルに対応する画素ライン上の画素の画素値の方が大きい場合に、比較された双方の画素の画素値を交換する交換手段と、
画素値交換後の前記入力画像データに対しハーフトーン処理を行って、前記ハーフトーン画像データを生成するハーフトーン処理手段と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記交換手段は、前記異常ノズルの画素ライン上の画素の画素値が、所定階調値より大きい場合に、前記交換を行うことを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記交換手段は、
前記他のノズルの候補としてn個のノズルを設定し、
前記n個の各ノズルにおいては、前記異常ノズルとの距離が近いほど前記比較を行う優先度が高い、
ことを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項4】
さらに、前記異常ノズルに対応する画素ラインが担う濃度の少なくとも一部を、前記異常ノズルの近傍に位置する吐出不良が発生していない他のノズルに対応する画素ラインに分配する濃度補完処理を行う補完処理手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記補完処理手段は、前記位置情報に基づいて、前記画素値交換後の入力画像データの、前記異常ノズルの画素ラインにおける画素の画素値及び前記他のノズルの画素ラインにおける画素の画素値を補正し、
前記ハーフトーン処理手段は、補正後の入力画像データに対してハーフトーン処理を行って、前記ハーフトーン画像データを生成する、
ことを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記補完処理手段は、前記位置情報に基づいて、前記ハーフトーン処理としてのディザ処理で用いる閾値マトリクスの閾値のうち、前記異常ノズルに対応するマトリクスラインにおける閾値及び前記他のノズルに対応するマトリクスラインにおける閾値を補正し、
前記ハーフトーン処理手段は、前記画素値交換後の入力画像データに対し、補正後の閾値マトリクスを用いて前記ディザ処理を行って、前記ハーフトーン画像データを生成する、
ことを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
さらに、前記複数のノズルそれぞれのノズル位置における記録濃度を目標濃度に近づけるための所定の補正処理を行うヘッドシェーディング処理手段を備えることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記ヘッドシェーディング処理手段は、各ノズル位置における記録濃度を目標濃度に近づけるための補正係数を定めた補正情報を用いて、前記所定の補正処理を行うことを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記所定の補正処理は、前記補正情報に基づいて、前記画素値交換後の入力画像データの、前記異常ノズルの画素ラインにおける画素の画素値及び前記他のノズルの画素ラインにおける画素の画素値を補正する処理である、ことを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記所定の補正処理は、前記補正情報に基づいて、ディザ処理で用いる閾値マトリクスの閾値のうち、前記異常ノズルに対応するマトリクスラインにおける閾値及び前記他のノズルに対応するマトリクスラインにおける閾値を補正する処理である、ことを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
複数のノズルが配列されたノズル列を搭載した記録ヘッドを前記ノズル列と垂直な方向に記録媒体を相対移動させながら前記ノズルからインクを吐出することにより前記記録媒体上に画像を形成する画像形成システムであって、
前記ノズル列に配列された前記複数のノズルのうち吐出不良が発生している異常ノズル を特定可能な位置情報に基づき、多値の入力画像データにおける、前記異常ノズルの画素ライン上の画素値と、前記異常ノズルの近傍に位置する吐出不良が発生していない他のノズルの画素ライン上の画素の画素値とを比較し、前記異常ノズルに対応する画素ライン上の画素の画素値の方が大きい場合に、比較された双方の画素の画素値を交換する交換手段と、
画素値交換後の前記入力画像データに対しハーフトーン処理を行って、ハーフトーン画像データを生成するハーフトーン処理手段と、
前記ハーフトーン画像データを用いて前記記録媒体上に画像を形成する画像形成手段と、
を備えることを特徴とする画像形成システム。
【請求項12】
複数のノズルが配列されたノズル列を搭載した記録ヘッドを前記ノズル列と垂直な方向に記録媒体を相対移動させながら前記ノズルからインクを吐出することにより前記記録媒体上に画像を形成する画像形成装置が使用するハーフトーン画像データを、多値の入力画像データから生成する画像処理方法であって、
前記ノズル列に配列された前記複数のノズルのうち吐出不良が発生している異常ノズル を特定可能な位置情報に基づき、前記入力画像データにおける、前記異常ノズルの画素ライン上の画素値と、前記異常ノズルの近傍に位置する吐出不良が発生していない他のノズルの画素ライン上の画素の画素値とを比較し、前記異常ノズルに対応する画素ライン上の画素の画素値の方が大きい場合に、比較された双方の画素の画素値を交換するステップと、
画素値交換後の前記入力画像データに対しハーフトーン処理を行って、前記ハーフトーン画像データを生成するステップと、
を含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項13】
複数のノズルが配列されたノズル列を搭載した記録ヘッドを前記ノズル列と垂直な方向に記録媒体を相対移動させながら前記ノズルからインクを吐出することにより前記記録媒体上に画像を形成する画像形成システムの制御方法であって、
前記ノズル列に配列された前記複数のノズルのうち吐出不良が発生している異常ノズル を特定可能な位置情報に基づき、多値の入力画像データにおける、前記異常ノズルの画素ライン上の画素値と、前記異常ノズルの近傍に位置する吐出不良が発生していない他のノズルの画素ライン上の画素の画素値とを比較し、前記異常ノズルに対応する画素ライン上の画素の画素値の方が大きい場合に、比較された双方の画素の画素値を交換するステップと、
画素値交換後の前記入力画像データに対しハーフトーン処理を行って、ハーフトーン画像データを生成するステップと、
前記ハーフトーン画像データを用いて前記記録媒体上に画像を形成するステップと、
を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項14】
コンピュータを、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の画像処理装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不吐ノズルを補完する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のインク吐出口(ノズル)が配列されたノズル列を有する記録ヘッドと記録媒体とを相対移動させつつ、個々のノズルからインク滴を吐出することで、記録媒体上に所望の画像を形成するインクジェット記録装置が用いられている。
【0003】
インクジェット記録装置においては、画像を形成中にインクを吐出できなくなるノズル(以下、「不吐ノズル」と呼ぶ。)が突発的に発生することがある。また、着弾位置誤差が許容値を超えて大きくなるなどの異常が発生したノズルを強制的に使用できないようにして、不吐ノズルとして扱う場合がある。
【0004】
上述のような場合、不吐ノズルによって吐出予定のインク滴を他のノズルで吐出するいわゆる不吐補完処理によって、不吐ノズルに起因する画像上のスジやムラなどの弊害を抑制することも行われている。例えば、特許文献1では、吐出不良が発生したノズルを不吐化し、不吐ノズル以外の他のノズルによって不吐ノズルの出力を補償するように修正された画像データを生成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-71474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の手法では、不吐ノズルの画素ラインにおける各画素の左右に隣接する画素の画素値を補正している。そのため、入力画像データ内の細線などの線画の再現性が劣化してしまうことがあった。
【0007】
本発明の目的は、入力画像データ内に細線などの線画が含まれている場合にその再現性の劣化を抑制しつつ、不吐ノズルの出力を補償することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る画像処理装置は、複数のノズルが配列されたノズル列を搭載した記録ヘッドを前記ノズル列と垂直な方向に記録媒体を相対移動させながら前記ノズルからインクを吐出することにより前記記録媒体上に画像を形成する画像形成装置が使用するハーフトーン画像データを、多値の入力画像データから生成する画像処理装置であって、前記ノズル列に配列された前記複数のノズルのうち吐出不良が発生している異常ノズル を特定可能な位置情報に基づき、前記入力画像データにおける、前記異常ノズルの画素ライン上の画素値と、前記異常ノズルの近傍に位置する吐出不良が発生していない他のノズルの画素ライン上の画素の画素値とを比較し、前記異常ノズルに対応する画素ライン上の画素の画素値の方が大きい場合に、比較された双方の画素の画素値を交換する交換手段と、画素値交換後の前記入力画像データに対しハーフトーン処理を行って、前記ハーフトーン画像データを生成するハーフトーン処理手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示の技術によれば、入力画像データ内に細線などの線画が含まれている場合にその再現性の劣化を抑制しつつ、不吐ノズルの出力を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】画像形成システムのハードウェア構成を示す図
図2】記録ヘッドの構成例を示す図
図3】第1実施形態に係る、画像処理部の機能構成を示すブロック図
図4】画素値交換処理部における処理の流れを示すフローチャート
図5】(a)は入力画像データの一例を示す図、(b)は画素値交換を行った後の画像データの一例を示す図、(c)は従来の画素値補正を行った後の画像データの一例を示す図
図6】(a)~(c)は、図5(a)~(c)の各画像データに対してそれぞれハーフトーン処理を行って得られた結果を示す図
図7】第2実施形態に係る、画像処理部の機能構成を示すブロック図
図8】第2実施形態に係る、画像処理部における処理の流れを示すフローチャート
図9】(a)は入力画像データの一例を示す図、(b)は、(a)の入力画像データに対して画素値交換処理を行った後の画像データを示す図、(c)は(b)の画素値交換後の画像データに対して不吐補完処理を行った後の画像データを示す図、(d)は(c)の不吐補完処理後の画像データに対してハーフトーン処理を行って得られたハーフトーン画像データを示す図
図10】第3実施形態に係る、画像処理部の機能構成を示すブロック図
図11】(a)は閾値マトリクスの一例を示す図、(b)は不吐補完処理を行った後の閾値マトリクスを示す図、(c)は不吐補完処理後の閾値マトリクスを用いたディザ処理によって得られたハーフトーン画像データを示す図
図12】LUT形式の補正情報の一例を示す図
図13】第4実施形態に係る、画像処理部の機能構成を示すブロック図
図14】第4実施形態の変形例に係る、画像処理部の機能構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。なお、同一の構成については、同じ符号を付して説明する。
【0012】
<第1実施形態>
(画像形成システムのハードウェア構成)
図1は、第1実施形態に係る画像処理装置を含む画像形成システムのハードウェア構成を示す図である。なお、本実施形態では、画像処理装置として、記録媒体上に記録材を用いて画像を形成する画像形成システム内に内蔵された画像処理コントローラをその一例として説明する。
【0013】
画像形成システムは、CPU100、RAM101、ROM102、操作部103、表示部104、外部記憶装置105、画像処理部106、画像形成部107、不吐ノズル検出部108、I/F(インタフェース)部109、バス110を備える。
【0014】
CPU(Central Processing Unit)100は、入力されたデータや後述のRAMやROMに格納されているコンピュータプログラムを用いて、画像形成システム全体の動作を制御する。なお、ここでは、CPU100が画像形成システム全体を制御する場合をその一例として説明するが、複数のハードウェアが処理を分担することにより、画像形成システム全体を制御するようにしてもよい。
【0015】
RAM(Random Access Memory)101は、外部記憶装置105から読み取ったコンピュータプログラムやデータ、I/F部108を介して外部から受信したデータを一時的に記憶する。また、RAM101は、CPU100が各種の処理を実行するときに用いる記憶領域や画像処理部106が画像処理を実行するときに用いる記憶領域として使用される。即ち、RAM101は、各種の記憶領域を適宜提供することができる。ROM(Read Only Memory)102は、画像形成システムにおける各部に設定される設定パラメータやブートプログラム等を記憶する。
【0016】
操作部103は、キーボードやマウス等の入力装置であり、操作者による操作(指示)を受け付ける。即ち、操作部103を介して操作者は、各種の指示をCPU100に対して入力することができる。表示部104は、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)等の表示装置であり、CPU100による処理結果を画像や文字等で表示することができる。なお、表示部104がタッチ操作を検知可能なタッチパネルである場合、表示部104が操作部103の一部として機能してもよい。
【0017】
外部記憶装置105は、ハードディスクドライブに代表される大容量情報記憶装置である。外部記憶装置105には、OS(オペレーティングシステム)やCPU100に各種処理を実行させるためのコンピュータプログラムやデータ等が保存されている。また、外部記憶装置105は、各部の処理によって生成される一時的なデータ(例えば、入出力される画像データや画像処理部106で用いられる閾値マトリクス、不吐ノズルの位置情報、不吐補完情報、濃度ムラ補正情報等)を保持している。外部記憶装置105に記憶されているコンピュータプログラムやデータは、CPU100による制御に従って適宜読み取られ、RAM101に記憶されてCPU100による処理対象となる。
【0018】
画像処理部106は、コンピュータプログラムを実行可能なプロセッサや専用の画像処理回路として実現され、印刷対象として入力された画像データを画像形成部107が出力可能な画像データに変換するため、各種画像処理を実行する。例えば、CPU100から画像処理を実行する指示を受け付けると、外部記憶装置105より入力されたN階調(N:自然数)のデジタル画像データを量子化処理し、M階調(M:自然数、N>M)に量子化後の画像データ(ハーフトーン画像データ)を出力する。
【0019】
画像形成部107は、画像処理部106から受け取ったハーフトーン画像データに基づいて、記録媒体上に記録材としてのインクを用いて画像を形成する。画像形成部107は、インクをノズルから記録媒体上に吐出することにより画像を形成するインクジェット方式である。画像形成部107が備える記録ヘッドは、インクを吐出可能なノズル(記録素子)を複数配列した、インク色に応じた数のノズル列(記録素子列)を有する。図2は、記録ヘッドの構成例を示す図である。なお、カラー印刷に対応した画像形成システムの場合、記録ヘッドは典型的にはシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各インクに対応した4つのノズル列を搭載する。図2では、説明の簡易化のため、ブラック(K)のノズル列のみ図示されている。図2に示す記録ヘッドは、ノズル列平行方向(y方向)に、描画領域の全幅をカバーする長尺のラインヘッドである。画像形成部107は、ハーフトーン画像データに基づいて、記録ヘッドを制御するための駆動信号を生成する。記録ヘッドは駆動信号に基づき、記録媒体をノズル列平行方向と垂直なノズル列垂直方向(x方向)に相対移動させつつインク滴を吐出してドットを生成することにより、記録媒体上に画像を形成する。本実施形態では、ノズル位置番号が7番のノズルが不吐ノズルとなった場合の例を説明することとする。
【0020】
不吐ノズル検出部108は、画像形成部107から出力された記録媒体を撮像して、記録媒体上に形成された画像情報を取得する。不吐ノズル検出部108は、撮像手段(画像読取手段)としてのイメージセンサ(ラインセンサ又はエリアセンサ)を備え、取得した撮像画像を解析して不吐ノズル位置を特定する機能を有する。イメージセンサは、画像形成システムが搭載する不図示のインラインスキャナや、オフラインスキャナなどを用いてもよい。
【0021】
I/F部109は、画像形成システムと外部機器とを接続するためのインタフェースとして機能する。また、I/F部109は、赤外線通信や無線LAN(Local Area Network)等を用いて通信装置とデータのやりとりを行うためのインタフェースやインターネットに接続するためのインタフェースとしても機能する。なお、上述の各部は、いずれもバス110に接続され、バス110を介してデータの授受を行うことができる。
【0022】
(画像処理部106の機能構成)
次に、図3に示すブロック図を参照しつつ、本実施形態に係る画像処理部106の機能構成について説明する。画像処理部106は、入力されたデジタル画像データ(以下、「入力画像データ」と称する)に対して階調数を低減するための量子化処理(ハーフトーン処理)を実行する。
【0023】
画像処理部106は、図3に示されるように、入力画像取得部301、不吐ノズル位置取得部302、画素値変換処理部303、ハーフトーン処理部304を有する。なお、画像処理部106は、図3に示されるブロック図を構成する専用の画像処理回路として実現される。
【0024】
入力画像取得部301は、画像形成システムに入力された印刷対象の入力画像データを取得する。例えば、画像形成部107が、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、黒(K)の4色インクを用いて出力解像度1200dpiを実現する仕様であるとする。この場合、入力画像データは、CMYKの各色それぞれ解像度1200dpi、階調数8bit(256階調)を持った画像データである。なお、印刷対象となる入力画像データが、CMYKとは異なる色の組み合わせを持っていたり、1200dpi以外の画像解像度であったりすることもあり得る。この場合には、色変換や解像度変換などの前処理を行って、画像形成部17で取り扱い可能な形式に変換した後の画像データを、入力画像取得部301が取得するようにすればよい。
【0025】
不吐ノズル情報取得部302は、RAM101や外部記憶装置105から、予め検出し保持しておいた、ノズル列内の不吐ノズルを特定可能な位置情報(以下、「不吐ノズル情報」と呼ぶ。)を取得する。ここで、「不吐ノズル」には、インクを吐出できなくなったノズルの他、着弾位置誤差が許容値を超えて大きくなるなどの異常が発生したノズルを含むものとする。すなわち、何らかの吐出不良が発生している非正常なノズル(異常ノズル)を指す用語として本明細書では「不吐ノズル」を使用するものとする。そして、不吐ノズル情報においては、ノズルの目詰まりや素子の故障等によりインクを正しく吐出できないノズルが、入力画像データのどの画素ライン(ノズル列垂直方向に延びる画素群)に対応しているかが、上述のノズル位置番号によって示される。この不吐ノズル情報により、画像形成部107においてドットを形成できない画素ラインの特定が可能となる。なお、不吐ノズル情報は、公知の方法によって予め得ておく。公知の方法には、例えば、予め不吐位置検出用のチャート画像を出力し、その出力結果を分析して、インクを吐出できないノズルの位置を特定するといった方法がある。
【0026】
画素値交換処理部303は、不吐ノズルに起因して発生する細線などの線画の消失を抑制し、線画の再現性の良好な画像データを得るための画素値交換処理を行う。具体的には、不吐ノズルの画素ラインにおける画素の画素値を、インクを正常に吐出可能な他のノズルの画素ラインにおける画素の画素値と交換する処理を実行する。本実施形態では、1画素当たり8ビットの入力画像データの各画素の画素値を補正し、1画素当たり8ビットの補正画像データに変換して出力するものとする。
【0027】
ハーフトーン処理部304は、画素値交換処理後の多値の入力画像データに対して、画像形成部107が表現可能な階調数への変換処理、及び、ノズル列内の各ノズルが形成するドットの配置を決定する処理を行って、ハーフトーン画像データを生成する。具体的には、1画素当たり8ビットの入力画像データを、画素毎に「0」か「1」のいずれかの値を有する1ビット2値のハーフトーン画像データに変換する。なお、ハーフトーン画像データにおいて、画素値(出力値)が「0」である画素はドットのオフを、画素値が「1」である画素はドットのオンを表す。そして、このようなハーフトーン画像データは、入力画像データの階調数よりも少ない階調数で、疑似的に入力画像データを再現しているものといえる。なお、本実施形態では、ハーフトーン処理として公知の方法である誤差拡散処理やディザ処理等を適用可能である。
【0028】
(画素値交換処理部の詳細)
次に、本実施形態に係る、画素値交換処理部303における処理の流れについて、図4に示すフローチャートを参照して詳しく説明する。なお、フローチャートの説明における記号「S」は、ステップを表すものとする。この点、第2実施形態以降のフローチャートの説明においても同様とする。
【0029】
まず、S401では、入力画像取得部301から受け取った入力画像データ内の注目する行の1行分の画像データ(画素値群)が取得される。図5(a)に、画像サイズが8画素×16画素の入力画像データの一例を示す。図5(a)に示す入力画像データ内の各画素の数値は階調値を示している。画像の上部に付された“0”~“15”の数字は、ノズル列垂直方向に延びる画素ラインそれぞれに対応するノズル位置番号であり、前述の図2に示した記録ヘッドにおけるノズル位置番号と一致するものとする。また、入力画像データの左部に付された“L1”~“L8”の記号は、ノズル列垂直方向の記録位置を表す行番号(以下、「記録位置番号」と呼ぶ。)である。通常は、記録位置番号がL1の行から順に注目行として選択され、選択された注目行における1行分の画素値群が取得される。
【0030】
次に、S402では、不吐ノズル情報取得部302から受け取った不吐ノズル情報を基に、対象ノズル列内の全不吐ノズルのうち注目する不吐ノズルに対応する画素ライン、及び、画素値交換の候補となるn個の代替ノズルに対応する画素ラインを特定する。本実施形態では、不吐ノズル情報によって7番のノズルが不吐ノズルとして特定されているものとする。この場合、7番のノズルが注目不吐ノズルとなり、図5(a)に示す入力画像データにおいて、グレイを背景として白抜き文字で階調値が示された7番の画素ラインが注目不吐ノズルに対応する画素ラインとして特定されることになる。また、本実施形態では、n=2として2個の代替ノズルを設定し、不吐ノズルの左右に隣接する6番と8番のノズルに対応する画素ラインを、それぞれ「第1代替ノズルに対応する画素ライン」及び「第2代替ノズルに対応する画素ライン」として特定する。なお、8番のノズルを第1代替ノズル、6番のノズルを第2代替ノズルとしてもよい。いずれにせよ、各代替ノズルに対応する画素ラインは、記録位置番号によらず固定とするのが望ましい。また、n=1として、6番又は8番のいずれか一方のノズルに対応する1つの画素ラインだけを「(第1)代替ノズルに対応する画素ライン」としてもよい。あるいは、n=4とし、5番と9番のノズルに対応する画素ラインを、それぞれ「第3代替ノズルに対応する画素ライン」及び「第4代替ノズル対応する画素ライン」としてもよい。
【0031】
次に、S403では、S401にて取得された注目行の画素値群のうち、S402にて特定された注目不吐ノズルの画素ライン上の画素値と、注目する代替ノズルの画素ライン上の画素値とが比較される。このとき、上述のように第4代替ノズルまで設定していた場合には、第1代替ノズルから順に、注目する代替ノズルとして選択する。すなわち、不吐ノズルとの距離がより近い代替ノズルに対応する画素ラインほど優先度が高く、画素値の比較・交換がなされることになる。比較の結果、注目不吐ノズルの画素ライン上の画素値の方が大きい場合は、S404に進む。一方、注目不吐ノズルの画素ライン上の画素値が注目代替ノズルの画素ライン上の画素値以下の場合は、S405に進む。
【0032】
S404では、S403にて比較した2つの画素値が交換される。すなわち、注目不吐ノズルの画素ライン上の画素値であった値が、新たに注目代替ノズルの画素ライン上の画素値となる。そして、注目代替ノズルの画素ライン上の画素値であった値が、新たに注目不吐ノズルの画素ライン上の画素値となる。
【0033】
次に、S405では、設定されたすべての代替ノズルについてS403~S404の処理が完了したか否かが判定される。n個の代替ノズルのすべてについて処理が完了していればS406に進む。一方、未処理の代替ノズルがあればS403に戻り、次の注目代替ノズルを決定して同様の処理を繰り返す。なお、繰り返し処理において、S403にて比較される注目不吐ノズルの画素ライン上の画素値は、S404にて交換された後の画素値である。
【0034】
次に、S406では、すべての不吐ノズルについてS403~S405の処理が完了したか否かが判定される。不吐ノズル情報で特定されるすべての不吐ノズルについて処理が完了していれば、S407に進む。一方、未処理の不吐ノズルがあればS403に戻り、次の注目不吐ノズルを決定して同様の処理を繰り返す。
【0035】
S407では、注目行についての画素値交換を終えた後の1行分の画像データ(画素値群)が、ハーフトーン処理部304に対して出力される。続くS408では、入力画像データ内のすべての行について処理が完了したか否かが判定される。未処理の行があればS401に戻り、次の行を注目行に決定して同様の処理を繰り返す。一方、入力画像データ内のすべての行についての処理が完了していれば、本処理を終える。
【0036】
以上が、本実施形態に係る、画像処理部106における処理の内容である。なお、図4のフローに従って図5の入力画像データを処理した場合には、L1~L8の1行単位で画素値交換後の画像データが出力されることになる。しかしながら、入力画像データ全体の処理を終えた時点で処理結果をハーフトーン処理部304に出力するようにしてもよい。
【0037】
図5(b)は、図5(a)の入力画像データに対して画素値交換を行った後の画像データを示している。図5(b)に示すように、7番のノズルにて形成予定であったドットが6番のノズルによって形成されるように変化している。つまり、7番の不吐ノズルが描画予定であった1画素幅の細線が、6番の代替ノズルによって描画されることになる。
【0038】
また、本実施形態では、第1代替ノズルと第2代替ノズルのそれぞれに対応する画素ラインを記録位置番号に拠らず固定しているので、一方の画素ラインに優先的に不吐ノズルの画素の画素値が配分されるように交換がなされる。そのため、従来の画素値補正技術である、不吐ノズルの画素値に基づいてその隣接ノズルの画素値を補正する場合と異なり、ドットパターンの崩れを抑えた、細線についての良好な再現性を得ることができる。
【0039】
図5(c)に、本実施形態を適用した場合との比較のために、図5(a)の入力画像データに対して従来の画素値補正技術を適用した後の画像データを示す。また、図6(a)~(c)に、図5(a)~(c)に示す各画像データに対してそれぞれハーフトーン処理を行って得られた結果を示す。まったく補正処理を行わなかったときの図6(a)に示すハーフトーン画像データを用いて画像形成を行った場合、不吐ノズルである7番ノズルではドット形成ができない為、細線は描画されず消失してしまうことになる。また、従来の画素値補正を行ったときの図6(c)に示すハーフトーン画像データを用いて画像形成を行った場合、ドットパターンが崩れてしまっているのが分かる。これに対し、本実施形態を適用したときの図6(b)に示すハーフトーン画像データの場合は、図6(c)のハーフトーン画像データのようなドットパターンの崩れがみられず、再現性の良好な細線を形成可能であることが分かる。なお、本実施形態を適用した場合の図6(b)のハーフトーン画像データでは、図6(a)のハーフトーン画像データと比較して、細線の重心が1画素ずれている。しかしながら、細線そのものの消失やドットパターンの崩れと比較して画質に与える影響の程度は相対的に低いと評価できる。
【0040】
<変形例>
なお、本実施形態では、不吐ノズルと代替ノズルに対応した画素ラインをそれぞれ特定し、当該画素ライン上の画素の画素値を交換した。しかしながら、不吐ノズル情報を基に、不吐ノズル位置にある画素の画素値と、当該不吐ノズル位置の画素の左右に隣接する画素の画素値とを直接交換してもよい。例えば、図5(a)の入力画像データに対して、左から右に着目画素を順次探索し、着目画素が不吐ノズル位置の画素となった場合に、着目画素とその左隣にある画素の画素値を比較し、着目画素の画素値の方が大きければ交換するようにしてもよい。このような方法によっても、再現性の良好な細線を形成することが可能となる。
【0041】
また、本実施形態では、不吐ノズルの画素ライン上の画素の画素値が、代替ノズルの画素ライン上の画素の画素値よりも大きい場合に、互いの画素値を交換した。しかしながら、不吐ノズルの画素ライン上の画素の画素値が、所定階調値(例えば200)より大きい場合だけ、代替ノズルの画素ライン上の画素の画素値との比較・交換を行うようにしてもよい。これにより、所定値以上の階調値を持つ濃い細線のみを対象として本実施形態を適用することができる。この場合、仮に代替ノズルの画素ライン上の画素の画素値の方が大きい画素について画素値の交換を行っても、不吐ノズルの画素ライン上の画素が高い階調値を持っているため、その弊害は少ない。よって、画素値の大小に依らず一律に交換するようにしてもよい。
【0042】
以上のとおり本実施形態によれば、細線などの線画を描画する際に、不吐ノズルに起因して発生し得る線画の消失を抑制して、線画の再現性の良好な画像を形成することができる。
【0043】
<第2実施形態>
次に、第1実施形態で説明した画素値交換処理を行った後、さらに、不吐ノズルによって形成予定のドットを他のノズルで補って形成するいわゆる不吐補完処理を行う態様を、第2実施形態として説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略することとする。
【0044】
(画像処理部の機能構成)
図7は、本実施形態に係る画像処理部106’_1の詳細な構成を示すブロック図である。図7の画像処理部106’_1は、入力画像取得部301、不吐ノズル情報取得部302、画素値交換処理部303、不吐補完処理部701、ハーフトーン処理部304’_1を備える。
【0045】
不吐補完処理部701は、不吐ノズル情報にて特定される不吐ノズルが担うべき濃度を他のノズルで補う処理(「濃度補完処理」とも呼ばれる。)を行う。具体的には、不吐ノズルが形成予定のドットに相当する画素値を、不吐ノズルの近傍に位置する他のノズルに分配する処理を行う。なお、不吐補完処理には公知の手法を適用すればよい。
【0046】
(画像処理部の詳細)
次に、本実施形態に係る、画像処理部106’_1における処理の流れについて、図8に示すフローチャートを参照して詳しく説明する。
【0047】
まず、S801では、入力画像取得301が入力画像データを取得する。ここでは、図9(a)に示す入力画像データが取得されたものする。図9(a)の入力画像データは、1画素幅の細線の周囲に白画素が存在する細線領域901と、白画素が存在しないベタ領域902とで構成されている。
【0048】
次に、S802では、不吐ノズル情報取得部302が、RAM101や外部記憶装置105から、予め用意された不吐ノズル情報を取得する。ここでは、7番のノズル位置を不吐ノズル位置とする情報が取得されたものとする。
【0049】
次に、S803では、画素値交換処理303が、S801にて取得された入力画像データに対し、S802にて取得された不吐ノズル情報に基づいて第1実施形態で説明した画素値交換処理(図4のフローを参照)を行う。図9(b)は、図9(a)の入力画像データに対して画素値交換処理を行った後の画像データを示している。図9(b)に示される画像データにおける細線領域901では、画素値交換によって、6番のノズルに対応する画素ライン上の各画素の画素値が“0”から“128”に変わっている。また、7番のノズルに対応する画素ライン上の各画素の画素値が“128”から“0”に変わっている。つまり、不吐ノズルである7番のノズルで形成予定だった細線が、6番の代替ノズルによって形成されるように画像データが変化している。その一方で、ベタ領域902については、代替ノズルとしての6番及び8番の両ノズルに対応する画素ライン上の各画素の画素値が既に“0”よりも大きい画素値である。そのため、不吐ノズルの画素ライン上の各画素との間で画素値交換をしたとしても、不吐ノズル及び代替ノズルが形成予定のドット(当該ドットに相当する濃度)をすべて補うことはできない。そこで、これに対処するために、次のS804にて不吐補完処理を実行することとしている。
【0050】
S804では、不吐補完処理部701が、S803にて画素値交換処理がなされた後の画像データに対し、S802にて取得された不吐ノズル情報に基づいて不吐補完処理を行う。具体的には、不吐ノズルに対応する画素ライン上の画素値の半分を、不吐ノズルの左右にある隣接ノズルの画素ライン上の画素にそれぞれ分配する処理を行う。図9(c)は、図9(b)に示す画素値交換後の画像データに対して、不吐補完処理を行った後の画像データを示している。図9(c)に示すように、不吐補完処理によって、ベタ領域902において、不吐ノズルで形成予定であったドット分の濃度が、不吐ノズルの左右に位置する隣接ノズルによって補われることになる。
【0051】
次に、S805では、ハーフトーン処理部304’_1が、S804にて不吐補完処理がなされた後の画像データに対してハーフトーン処理を行って、ハーフトーン画像データを生成する。図9(d)は、図9(c)に示す不吐補完処理後の画像データに対して、ハーフトーン処理を行って得られたハーフトーン画像データを示している。図9(d)に示すように、S803での画素値交換処理によって不吐ノズルで形成予定のドットが代替ノズルで形成されるように画素値が置き換えられているので、細線領域901においてドットパターンの崩れが抑制されている。これにより、細線を良好に再現することが可能になる。さらに、ベタ領域902においても、S804での不吐補完処理によって不吐ノズルの画素ライン上の各画素の画素値を、その隣接ノズルの画素ライン上の画素に分配して濃度を補っているため、不吐ノズルに起因して生じるスジやムラなどが抑制される。そして、細線領域901については上述の画素値交換によって不吐ノズル分の画素値が代替ノズルへ移動しているので、その後に不吐補完処理を行ったとしてもドットパターンの崩れが生じない。つまり、画素値交換処理を行った後に不吐補完処理を行うことで、互いの処理が干渉せず、両方の処理が持つ効果をいずれも十分に得ることが可能となる。
【0052】
以上のとおり本実施形態によれば、入力画像内に細線などの線画領域とベタ領域とが混在する場合において、不吐ノズルに起因して発生し得る線画の消失や画像上のスジやムラの発生を抑制して、線画の再現性の良好な画像を形成することができる。
【0053】
<第3実施形態>
第2実施形態では、画素値交換処理に続けて行う不吐補完処理において、入力画像データにおける画素値を補正する態様を説明した。次に、ハーフトーン処理としてディザ処理を行うことを前提とし、不吐補完処理として、不吐ノズル情報に基づきディザ処理用の閾値マトリクスを補正する態様を、第3実施形態として説明する。なお、第1及び第2実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略することとする。
【0054】
(画像処理部の機能構成)
図10は、本実施形態に係る画像処理部106’_2の詳細な構成を示すブロック図である。図10の画像処理部106’_2は、入力画像取得部301、不吐ノズル情報取得部302、画素値交換処理部303、閾値マトリクス取得部1001、不吐補完処理部701’、ハーフトーン処理部304’_2を備える。
【0055】
閾値マトリクス取得部1001は、予め用意されたディザ処理用の閾値マトリクスをRAM101や外部記憶装置105から取得する。ここで、ディザ処理とは、中間調を再現するために、入力画像データにおける各画素の画素値とそれに対応する閾値とを比較することによりドットのオン或いはオフを決定する処理を意味するものとする。そして、本実施形態では、画素値が閾値以上の場合は出力値を“1”としてドットのオンを表すこととし、画素値が閾値未満である場合は出力値を“0”としてドットのオフを表すこととする。図11(a)は、前述の図9(a)に示す16画素×16画素の入力画像データと同サイズの閾値マトリクスの一例を示す。閾値マトリクス内の各数値が、入力画像データにおける各画素値と比較される閾値を示している。なお、閾値マトリクスの横幅が画像幅よりも小さい場合、閾値マトリクスをタイル状に順次展開することで、画像幅全体をカバーする。
【0056】
不吐補完処理部701’は、不吐ノズルが担うべき濃度がその隣接ノズルによって補われるように、予め用意した隣接ノズルに対する補正情報及び不吐ノズル情報に基づき、閾値マトリクス内の閾値を補正する不吐補完処理を行う。図12は、LUT形式の補正情報の一例を示している。図12のLUTにおいては、不吐ノズルに対応した入力閾値と出力閾値との関係を細実線T1201で示し、隣接ノズルに対応した入力閾値と出力閾値との関係を点線T1202で示している。加えて、比較のために、補正対象外である正常ノズルに対応した入力閾値と出力閾値との関係を太実線T1200で示している。図12に示すLUTの場合、点線1202と太実線T1200との比較から、隣接ノズルについては、正常ノズルの1/1.5 倍の閾値が得られるような補正特性となっている。つまり、図12のLUTを用いた補正後の閾値と入力階調値との比較によって得られるハーフトーン画像において、正常ノズルの1.5倍のインク吐出量が得られることになる。これにより、不吐ノズルの両隣に位置する2つの代替ノズルによって、不吐ノズルにて形成予定であったドット(当該ドット分の濃度)が補われる。一方、不吐ノズルについては、細実線1201で示すように、補正後の閾値はすべて最大値“255”となる。つまり、入力階調値との比較によってハーフトーン画像を生成した場合に、常にドットはオフとなってインクの吐出を行わないように制御される。図11(b)は、上述の図11(a)に示す閾値マトリクスに対して、図12のLUTを用いて不吐補完処理を行った後の閾値マトリクスを示している。図11(b)の閾値マトリクスでは、6番と8番の隣接ノズルに対応するマトリクスラインの閾値が、不吐補完処理前と比較して小さくなっている。そして、ノズル位置番号が7番の不吐ノズルに対応するマトリクスラインの閾値が、すべて最大値である“255”になっている。つまり、不吐ノズルからはインク吐出を行わないように、そして、本来は不吐ノズルが担う予定であった分の濃度を隣接ノズルが補完するように、閾値マトリクスが補正されていることが分かる。
【0057】
ハーフトーン処理部304’_2は、画素値交換処理後の画像データに対して、不吐補完処理部303’によって補正が施された閾値マトリクスを用いてディザ処理を行い、ハーフトーン画像データを生成する。図11(c)は、図11(b)の不吐補完処理後の閾値マトリクスを用いて、図9(b)の画素値交換処理後の画像データをディザ処理して得られたハーフトーン画像データを示している。前述の図9(d)のハーフトーン画データと同様、細線領域901においてドットパターンの崩れが抑制された上で、隣接ノズルの画素ライン上の画素に分配して濃度を補うことで不吐ノズルに起因して生じるスジやムラなどが抑制されているのが分かる。なお、図11(c)の細線領域901においては、図9(d)の細線領域901と比較してオンのドットが増えてより高濃度の細線となるが、細線そのものの消失やドットパターンの崩れと比較して画質に与える影響の程度は低いと評価できる。また、画素値交換によって不吐ノズルに対応する画素ラインの画素値が“0”となる場合、隣接ノズルに対応するマトリクスラインの閾値を補正前の閾値に戻すようにしてもよい。この場合、細線の濃度が変わらないようにできる。
【0058】
<第4実施形態>
第2実施形態では、画素値交換後の画像データに対して不吐補完処理を行う態様を説明した。次に、画素値交換後の画像データに対してヘッドシェーディング処理を行う態様を、第4実施形態として説明する。ここで、ヘッドシェーディング処理とは、テスト印刷を行ってノズル毎の濃度特性を求め、各ノズルにおける出力濃度が適正になるよう補正する技術である。不吐補完処理に代えてこのヘッドシェーディング処理を行うことによっても、第2実施形態と同等の効果を得ることができる。なお、先の実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、詳細な説明を省略することとする。
【0059】
(画像処理部の機能構成)
図13は、本実施形態に係る画像処理部106”_1の詳細な構成を示すブロック図である。図13の画像処理部106”_1は、入力画像取得部301、不吐ノズル情報取得部302、画素値交換処理部303、濃度ムラ補正情報取得部1301、ヘッドシェーディング処理部1302、ハーフトーン処理部304”_1を備える。
【0060】
濃度ムラ補正情報取得部1301は、RAM101や外部記憶装置105から、予め検出し保持しておいた、各ノズル位置における記録濃度が目標濃度に近づくように補正するための情報(濃度ムラ補正情報)を取得する。濃度ムラ補正情報は、ある決まった濃度パターン(テストパターン)の印刷出力結果をインラインセンサ等で読み取ってノズル単位の濃度を測定し、濃度ムラが生じないような補正係数をノズル毎に求めることによって得られる。濃度ムラ補正情報は、ルックアップテーブル(LUT)形式や関数形式で保持される。
【0061】
ヘッドシェーディング処理部1302は、上述の濃度ムラ補正情報を参照し、入力画像データ内の各ノズルに対応する画素ライン上の画素値を、ノズル毎の濃度特性に応じた画素値に変換する処理を行う。これにより、不吐ノズルの影響も含んだ濃度補正が行われることになり、画像上のスジやムラなどの弊害を抑制することができる。ここで、ヘッドシェーディング処理は、不吐ノズルの画素ライン上の画素については、濃度が濃くなるように作用する。したがって、不吐ノズルが自然回復してインク滴が吐出可能となった場合、不吐ノズルの画素ラインに沿って黒スジが発生してしまう。これを避けるため、不吐ノズルについては、インク滴を吐出できないようにする不吐化処理が通常は施される。このような状況においても、本実施形態の場合、不吐ノズルの画素ライン上の画素の画素値と代替ノズルの画素ライン上の画素の画素値とが交換されるので、細線の消失が抑制されることになる。また、画素値交換処理では、不吐ノズルの画素ラインと代替ノズルの画素ラインとの間で画素値の交換をしているだけなので、均一階調の画像に対しては変化が少なくて済む。そのため、画素値交換処理に続いて適用されるヘッドシェーディング処理においても、その効果を十分に得ることが可能となる。
【0062】
<変形例>
上述したヘッドシェーディング処理は、閾値マトリクスに対して行ってもよい。図14は、本変形例に係る画像処理部106”_2の詳細な構成を示すブロック図である。図14の画像処理部106”_2では、閾値マトリクス取得部1001が加わり、その出力がヘッドシェーディング処理部1302’に入力されている。また、ヘッドシェーディング処理部1302’の出力が、ハーフトーン処理部304”_2に入力されている。そして、ヘッドシェーディング処理部1302’は、濃度ムラ補正情報を参照し、閾値マトリクス内の各ノズルに対応するマトリクスライン上の閾値を、ノズル毎の濃度特性に応じた画素値が得られるような閾値に変換する処理を行う。このように閾値マトリクス内の閾値を補正することでも同じ効果を得ることができる。
【0063】
以上のとおり、本実施形態によっても、入力画像内に細線などの線画領域とベタ領域とが混在する場合において、不吐ノズルに起因して発生し得る線画の消失や画像上のスジやムラの発生を抑制して、線画の再現性の良好な画像を形成することができる。
【0064】
<その他の実施形態>
第1実施形態~第4実施形態では、画像形成部107が同一画素ラインを描くノズルを一つ備えるヘッドを搭載した場合を例に説明を行った。しかしながら、各実施形態で述べた内容は、同一画素ラインを描くノズルを複数備える多列ヘッドを搭載した画像形成部にも同様に適用可能である。すなわち、不吐ノズルの周辺画素ラインを描く他のノズル列におけるノズルを画素値交換の候補である代替ノズルとして画素値交換処理を行う場合にも同様に適用することができる。
【0065】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0066】
106 画像処理部
301 入力画像取得部
302 不吐ノズル
情報取得部
303 画素値交換部
304 ハーフトーン処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14