IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星ディスプレイ株式會社の特許一覧

特許7446793有機電界発光素子及び有機電界発光素子用多環化合物
<>
  • 特許-有機電界発光素子及び有機電界発光素子用多環化合物 図1
  • 特許-有機電界発光素子及び有機電界発光素子用多環化合物 図2
  • 特許-有機電界発光素子及び有機電界発光素子用多環化合物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】有機電界発光素子及び有機電界発光素子用多環化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20240304BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240304BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20240304BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240304BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20240304BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20240304BHJP
【FI】
C07F5/02 A CSP
C07F5/02 F
C09K11/06 660
H05B33/10
H05B33/14 B
H05B33/22 B
H05B33/22 D
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019215605
(22)【出願日】2019-11-28
(65)【公開番号】P2020090489
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】10-2018-0155179
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】512187343
【氏名又は名称】三星ディスプレイ株式會社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Display Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】1, Samsung-ro, Giheung-gu, Yongin-si, Gyeonggi-do, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002619
【氏名又は名称】弁理士法人PORT
(72)【発明者】
【氏名】イ ジョンソブ
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヘイン
(72)【発明者】
【氏名】パク ヘジョン
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0114929(US,A1)
【文献】特開2008-166258(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0180024(US,A1)
【文献】Hiroki UOYAMA et al.,Highly efficient organic light-emitting diodes from delayed fluorescence,Nature,2012年12月,Vol. 492, No. 7428,pp. 234-238,DOI:10.1038/nature11687
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
H10K
H05B
C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される多環化合物であって、
【化1】

前記化学式1において、
DU1及びDU2は下記化学式2-1または化学式2-2で表され、DU1及びDU2のうち少なくとも一つは下記化学式2-1で表され、
AUは下記化学式3-1または化学式3-2で表され、
mは1または2であり、
【化2】

【化3】

【化4】


前記化学式2-2において、
はNまたはNRであり、
は単結合、CR、または(CR)=(CR)であり、nは1以上2以下であり、
前記化学式2-1及び化学式2-2において、
Ar Arはそれぞれ独立して環形成炭素数5以上60以下の炭化水素環基、または環形成原子として窒素原子を含まない環形成炭素数5以上60以下のヘテロ環基であり、
a~eはそれぞれ独立して0以上4以下の整数であり、
前記化学式3-1において、
はシアノ基または少なくとも一つの窒素原子を環形成原子として含む置換もしくは無置換の環形成炭素数2以上60以下のヘテロ環基であり、
pは1以上3以下の整数であり、fは0以上3以下の整数であり、
前記化学式3-2において、
はO、S、またはSOであり、Yは単結合またはCRであり、
g及びhはそれぞれ独立して0以上3以下の整数であり、
前記化学式2-1、化学式2-2、化学式3-1、及び化学式3-2において、
~R、及びR~Rはそれぞれ独立して重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上10以下のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基、または置換もしくは無置換の環形成炭素数5以上30以下のヘテロアリール基であり、R~R、及びR~Rが結合しない又は他の部分構造との結合に関与しない環形成原子には、水素原子が結合する多環化合物。
【請求項2】
前記化学式1は、下記化学式1-1で表され、
【化6】

前記化学式1-1において、AU、DU2、及びmは前記化学式1で定義した通りであり、Ar~Ar、R~R、及びa~cは前記化学式2-1で定義した通りである請求項1に記載の多環化合物。
【請求項3】
前記DU2は、下記D1~D3のうちいずれか一つで表され、
【化7】

前記D1~D3において、R~R、a~c、及びRは前記化学式2-1及び化学式2-2で定義した通りである請求項2に記載の多環化合物。
【請求項4】
前記化学式2-1は、下記化学式2-1Aで表され、
【化8】

前記化学式2-1Aにおいて、R~R、及びa~cは前記化学式2-1で定義した通りである請求項1に記載の多環化合物。
【請求項5】
前記化学式2-2は、下記化学式2-2Aまたは2-2Bで表され、
【化9】

【化10】

前記化学式2-2A及び化学式2-2Bにおいて、
Ar、Ar、R、R、d、e、X、n、及びRは前記化学式2-2で定義した通りである請求項1に記載の多環化合物。
【請求項6】
AUは、下記A1~A7のうちいずれか一つで表され、
【化11】

前記A1及びA2において、pは1以上3以下の整数である請求項1に記載の多環化合物。
【請求項7】
前記Ar及びArは、置換または無置換のベンゼン環である請求項1に記載の多環化合物。
【請求項8】
前記Rは、シアノ基または置換または無置換のトリアジニル基である請求項1に記載の多環化合物。
【請求項9】
前記化学式1で表される多環化合物は、下記第1化合物群に示した化合物のうちいずれか一つである請求項1に記載の多環化合物。
[第1化合物群]
【化12】


【請求項10】
第1電極と、
前記第1電極の上に配置される第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置される複数の有機層と、を含み、
前記第1電極と前記第2電極は、それぞれ独立して、Ag、Mg、Cu、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、Li、Ca、LiF/Ca、LiF/Al、Mo、Ti、In、Sn、及びZnからなる群から選択されるいずれか一つ、これらの中から選択される複数を含む化合物、これらの中から選択される複数を含む混合物、またはこれらの中から選択される1つ以上の酸化物を含み、
前記有機層のうち少なくとも一つの有機層は、請求項1乃至請求項9のうちいずれか一つに記載の多環化合物含む有機電界発光素子。
【請求項11】
前記有機層は、正孔輸送領域と、
前記正孔輸送領域の上に配置される発光層と、
前記発光層の上に配置される電子輸送領域と、を含み、
前記発光層は前記多環化合物を含む請求項10に記載の有機電界発光素子。
【請求項12】
前記発光層は、遅延蛍光を放出する請求項11に記載の有機電界発光素子。
【請求項13】
前記発光層はホスト及びドーパントを含む遅延蛍光発光層であり、
前記ドーパントは前記多環化合物を含む請求項11に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
前記発光層は、青色光を発光する請求項11に記載の有機電界発光素子。
【請求項15】
前記発光層は、インクジェット方式で提供される請求項11に記載の有機電界発光素子。
【請求項16】
第1電極と、
前記第1電極の上に配置される第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置される複数の有機層と、を含み、
前記有機層のうち少なくとも一つの有機層は、請求項1乃至請求項9のうちいずれか一つである多環化合物を含む有機電界発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子及びそれに使用される多環化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、映像表示装置として、有機電界発光表示装置(Organic Electroluminescence Display)の開発が盛んに行われている。有機電界発光表示装置は液晶表示装置などとは異なって、第1電極及び第2電極から注入された正孔及び電子を発光層において再結合させることで、発光層において有機化合物を含む発光材料を発光させて表示を実現するいわゆる自発光型表示装置である。
【0003】
有機電界発光素子を表示装置に応用するに当たっては、有機電界発光素子の低駆動電圧化、高発光効率化及び長寿命化が要求されており、これを安定的に実現し得る有機電界発光素子用材料の開発が持続的に要求されている。
【0004】
特に、最近は高効率の有機電界発光素子を実現するために三重項状態のエネルギーを利用するりん光発光や、三重項励起子の衝突によって一重項例励起子が生成される現象(Triplet-triplet annihilation、TTA)を利用した遅延蛍光発光に関する技術が開発されており、遅延蛍光現象を利用した熱活性遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence、TADF)材料に関する開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2018/0114929号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0059996号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/0175306号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一つの目的は、発光効率及び素子寿命が改善された有機電界発光素子を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、有機電界発光素子の発光効率と素子寿命を改善することができる多環化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態は、下記化学式1で表される多環化合物を提供する。
【化1】

化学式1において、DU1及びDU2は下記化学式2-1または化学式2-2で表され、DU1及びDU2のうち少なくとも一つは下記化学式2-1で表され、AUは下記化学式3-1または化学式3-2で表され、mは1または2である;
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

化学式2-2において、XはNまたはNRであり、Xは単結合、CR、または(CR)=(CR)であり、nは1以上2以下である。
化学式2-1、及び化学式2-2において、Ar及びArはそれぞれ独立して環形成炭素数5以上60以下の炭化水素環基、または環形成原子として窒素原子を含まない環形成炭素数5以上60以下のヘテロ環基であり、a~eはそれぞれ独立して0以上4以下の整数である。
化学式3-1において、Rはシアノ基または少なくとも一つの窒素原子を環形成原子として含む置換もしくは無置換の環形成炭素数2以上60以下のヘテロ環基であり、pは1以上3以下の整数であり、fは0以上3以下の整数である。
化学式3-2において、YはO、S、またはSOであり、Yは単結合またはCRであり、g及びhはそれぞれ独立して0以上3以下の整数である。
化学式2-1、化学式2-2、化学式3-1、及び化学式3-2において、R~R、及びR~Rはそれぞれ独立して重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上10以下のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基、または置換もしくは無置換の環形成炭素数5以上30以下のヘテロアリール基である。また、R~R、もしくはR~Rが結合しない又は他の部分構造との結合に関与しない環形成原子には、水素原子が結合する。
【0009】
化学式1は、下記化学式1-1で表される。
【化6】

化学式1-1において、AU、DU2、及びmは化学式1で定義した通りであり、Ar~Ar、R~R、及びa~cは化学式2-1で定義した通りである。
【0010】
DU2は、下記D1~D3のうちいずれか一つで表される。
【化7】


D1~D3において、R~R、a~c、及びRは化学式2-1及び化学式2-2で定義した通りである。
【0011】
化学式2-1は、下記化学式2-1Aで表される。
【化8】

化学式2-1Aにおいて、R~R、及びa~cは化学式2-1で定義した通りである。
【0012】
化学式2-2は、下記化学式2-2Aまたは2-2Bで表される。
【化9】

【化10】

化学式2-2A及び化学式2-2Bにおいて、Ar、Ar、R、R、d、e、X、n、及びRは化学式2-2で定義した通りである。
【0013】
AUは、下記A1~A7のうちいずれか一つで表される。
【化11】

A1及びA2において、pは1以上3以下の整数である。
【0014】
Ar及びArは、置換または無置換のベンゼン環である。
【0015】
は、シアノ基または置換もしくは無置換のトリアジン基である。
【0016】
他の実施形態は、第1電極と、第1電極の上に配置された第2電極と、第1電極と第2電極との間に配置された複数の有機層と、を含み、有機層のうち少なくとも一つの有機層は、複数個の電子供与部及び電子供与部を連結する電子受容部を含む多環化合物を含み、電子供与部のうち少なくとも一つはボレピンコアを含む縮合環であり、電子受容部は、少なくとも一つのシアノ基もしくは少なくとも一つの窒素原子を含むヘテロ環基を置換基として含むフェニル基、または酸素原子もしくは硫黄原子を環形成原子として含むヘテロアリール基を含む有機電界発光素子を提供する。また、本発明の一実施形態に係る有機電界発光素子において、前記第1電極と前記第2電極は、それぞれ独立して、Ag、Mg、Cu、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、Li、Ca、LiF/Ca、LiF/Al、Mo、Ti、In、Sn、及びZnからなる群から選択されるいずれか一つ、これらの中から選択される複数を含む化合物、これらの中から選択される複数を含む混合物、またはこれらの中から選択される1つ以上の酸化物を含むことができる。
【0017】
有機層は、正孔輸送領域と、正孔輸送領域の上に配置される発光層と、発光層の上に配置される電子輸送領域と、を含み、発光層は多環化合物を含む。
【0018】
発光層は、遅延蛍光を放出する。
【0019】
発光層はホスト及びドーパントを含む遅延蛍光発光層であり、ドーパントは多環化合物を含む。
【0020】
発光層は青色光を発光する。
【0021】
電子供与部のうち少なくとも一つは、置換または無置換のトリベンゾボレピンを含む。
【0022】
電子受容部は、少なくとも一つのシアノ基を置換基として含むフェニル基、置換もしくは無置換のトリアジニル基を置換基として含むフェニル基、置換もしくは無置換のキサンテニル基、置換もしくは無置換のチオキサンテニル基、置換もしくは無置換のジベンゾチオフェンジオキシド基、または置換もしくは無置換のチオキサンテンジオキシド基である。
【0023】
有機層は、インクジェット方式で提供される。
【0024】
多環化合物は、上述した化学式1で表される。
【0025】
一実施形態は、第1電極と、第1電極の上に配置される正孔輸送領域と、正孔輸送領域の上に配置され、化学式1で表される多環化合物を含む発光層と、発光層の上に配置される電子輸送領域と、電子輸送領域の上に配置される第2電極と、を含む有機電界発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0026】
一実施形態の有機電界発光素子は、低い駆動電圧及び高効率の改善された素子特性を示す。
【0027】
一実施形態の多環化合物は、有機電界発光素子の発光層に含まれて有機電界発光素子の高効率化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態による有機電界発光素子を概略的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態による有機電界発光素子を概略的に示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態による有機電界発光素子を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、多様な変更を加えることができ、多様な形態を有することができるゆえ、特定の実施形態を図面に例示し、本文に詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするのではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変更、均等物又は代替物を含むと理解すべきである。
【0030】
本明細書において、ある構成要素(または領域、層、部分など)が他の構成要素の「上にある」、または「結合される」と言及されれば、それは他の構成要素の上に直接配置・連結・結合され得るか、またはそれらの間に第3の構成要素が配置され得ることを意味する。
図面の同じ符号は同じ構成要素を指す。また、図面において、構成要素の厚さ、割合、及び寸法は技術的内容の効果的な説明のために誇張されている。
【0031】
「及び/または」は、関連する構成が定義する一つ以上の組み合わせを全て含む。第1、第2などの用語は多様な構成要素を説明するのに使用されるが、構成要素は用語に限らない。用語は一つの構造要素を他の構成要素から区別する目的にのみ使用される。例えば、本発明の権利範囲を逸脱しないながらも第1構成要素は第2構成要素と称されてもよく、同様に第2構成要素も第1構成要素と称されてもよい。単数の表現は、文脈上明白に異なるように意味しない限り、複数の表現を含む。
【0032】
また、「下に」、「下側に」、「上に」、「上側に」などの用語は、図面に示した構成の関係を説明するために使用される。用語は相対的な概念であって、図面に示した方向を基準に説明される。
【0033】
異なるように定義されない限り、本明細書で使用された全ての用語(技術的及び科学的用語を含む)は、本発明の属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるようなものと同じ意味を有する。また、一般的に使用される辞書に定義されている用語のような用語は、関連技術の脈絡での意味と一致する意味を有すると解釈すべきであり、理想的な、または過度に形式的な意味に解釈されない限り、明示的にここで定義される。
【0034】
「含む」または「有する」などの用語は明細書の上に記載された特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないと理解すべきである。
【0035】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による有機電界発光素子及びそれに含まれた一実施形態の多環化合物について説明する。
【0036】
図1図3は、本発明の一実施形態による有機電界発光素子を概略的に示す断面図である。図1図3を参照すると、一実施形態の有機電界発光素子10において、第1電極EL1及び第2電極EL2は互いに対向して配置され、第1電極EL1と第2電極EL2との間には複数の有機層が配置される。複数の有機層は正孔輸送領域HTR、発光層EML、及び電子輸送領域ETRを含む。つまり、本発明の一実施形態による有機電界発光素子10は、順次積層された第1電極EL1、正孔輸送領域HTR、発光層EML、電子輸送領域ETR、及び第2電極EL2を含む。一方、複数の有機層のうち少なくとも一つの有機層はインクジェット方式で提供される。例えば、正孔輸送領域HTR、発光層EML、及び電子輸送領域ETRなどの有機層はインクジェット方式で形成されてもよい。
【0037】
一実施形態の有機発光素子10は、第1電極EL1と第2電極EL2との間に配置される複数の有機層の間のうち少なくとも一つの有機層に上述した本発明の一実施形態による多環化合物を含む。例えば、一実施形態の有機電界発光素子10は、正孔輸送領域HTR、発光層EML、及び電子輸送領域ETRのうち少なくとも一つの有機層に後述する一実施形態の多環化合物を含むが、詳しくは、一実施形態の有機電界発光素子10は、一実施形態の多環化合物を発光層EMLの発光材料として含んでもよい。
【0038】
一方、図2図1に比べ、正孔輸送領域HTRが正孔注入層HIL及び正孔輸送層HTLを含み、電子輸送領域ETRが電子注入層EIL及び電子輸送層ETLを含む一実施形態の有機電界発光素子10の断面図を示す。また、図3図1に比べ、正孔輸送領域HTRが正孔注入層HIL、正孔輸送層HTL、及び電子阻止層EBLを含み、電子輸送領域ETRが電子注入層EIL、電子輸送層ETL、及び正孔阻止層HBLを含む一実施形態の有機電界発光素子10の断面図を示す。
【0039】
第1電極EL1は導電性を有する。第1電極EL1は、金属合金または導電性化合物からなる。第1電極EL1はアノード(anode)である。また、第1電極EL1は画素電極である。第1電極EL1は、透過型電極、半透過型電極、または反射型電極である。第1電極EL1が透過型電極であれば、第1電極EL1は透明金属酸化物、例えば、ITO(indium tin oxide)、IZO(indium zinc oxide)、ZnO(zinc oxide)、ITZO(indium tin zinc oxide)などを含む。第1電極EL1が半透過型電極または反射型電極であれば、第1電極EL1はAg、Mg、Cu、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、Li、Ca、LiF/Ca、LiF/Al、Mo、Ti、またはこれらの化合物や混合物(例えば、AgとMgの混合物)を含む。また、これらの物質からなる反射膜や半透過膜、及びITO、IZO、ZnO、ITZOなどからなる透明導電膜を含む複数の層構造である。例えば、第1電極EL1はITO/Ag/ITOの3層構造を有してもよいが、これらに限らない。第1電極EL1の厚さは、約100nm~約1000nm、例えば約100nm~約300nmである。
【0040】
正孔輸送領域HTRは第1電極EL1の上に提供される。正孔輸送領域HTRは、正孔注入層HIL、正孔輸送層HTL、正孔バッファ層(図示せず)、及び電子阻止層EBLのうち少なくとも一つを含む。正孔輸送領域HTRの厚さは、例えば、約5nm~約150nmであってもよい。
【0041】
正孔輸送領域HTRは、単一物質からなる単一層、複数の互いに異なる物質からなる単一層、または複数の互いに異なる物質からなる複数の層を有する多層構造を有する。
【0042】
例えば、正孔輸送領域HTRは正孔注入層HILまたは正孔輸送層HTLの単一層の構造を有してもよく、正孔注入物質及び正孔輸送物質からなる単一層構造を有してもよい。また、正孔輸送領域HTRは、複数の互いに異なる物質からなる単一層の構造を有するか、第1電極EL1から順番に積層された正孔注入層HIL/正孔輸送層HTL、正孔注入層HIL/正孔輸送層HTL/正孔バッファ層(図示せず)、正孔注入層HIL/正孔バッファ層(図示せず)、正孔輸送層HTL/正孔バッファ層、または正孔注入層HIL/正孔輸送層HTL/電子阻止層EBLの構造を有してもよいが、本実施形態はこれらに限らない。
【0043】
正孔輸送領域HTRは、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法(Langmuir-Blodgett)、インクジェットプリント法、レーザプリント法、レーザ熱転写法(Laser Induced Thermal Imaging、LITI)などのような多様な方法を利用して形成される。
【0044】
正孔注入層HILは、例えば、銅フタロシアニンなどのフタロシアニン化合物と、DNTPD(N,N’-ジフェニル-N、N’-ビス-[4-フェニル-m-トリルアミノ)-フェニル]-ビフェニル-4,4’-ジアミン)、m-MTDATA(4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミノ)、TDATA(4,4’,4”-トリス(N,N-ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン)、2-TNATA(4,4’,4”-トリス{N,-(2-ナフチル)-N-フェニルアミノ}-トリフェニルアミン)、PEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルフォナート)、PANI/DBSA(ポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸)、PANI/CSA(ポリアニリン/カンファースルホン酸)、PANI/PSS(ポリアニリン)/ポリ(4-スチレンスルフォナート)、NPB(N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン)、トリフェニルアミンを含むポリエテールケトン(TPAPEK)、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、HAT-CN(ジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル)などが挙げられる。
【0045】
正孔輸送層HTLは、例えば、N-フェニルカルバゾール、ポリビニルカルバゾールなどのカルバゾール系誘導体、フルオレン系誘導体、TPD(N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-[1,1-ビフェニル]-4,4’-ジアミン)、TCTA(4,4’,4”-トリス(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン)などのようなトリフェニルアミン系誘導体、NPB(N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン)、TAPC(4,4’-シクロへキシリデンビス[N,N-ビス(4-メチルフェニル)ベンゼンアミン])、HMTPD(4,4’-ビス[N,N’-(3-トリル)アミノ]-3,3’-ジメチルビフェニル)などを含んでもよい。
【0046】
正孔輸送領域HTRの厚さは、約5nm~約1000nm、例えば約10nm~約500nmであってもよい。正孔注入層HILの厚さは、例えば約3nm~約100nmであり、正孔輸送層HTLの厚さは、約1nm~約100nmであってもよい。例えば、電子阻止層EBLの厚さは、約1nm~約100nmであってもよい。正孔輸送領域HTR、正孔注入層HIL、正孔輸送層HTL、及び電子阻止層EBLの厚さが上述したような範囲を満足すれば、実質的な駆動電圧の上昇なしに満足できる程度の正孔輸送特性が得られる。
【0047】
正孔輸送領域HTRは、上述した物質以外に、導電性を向上するために電荷生成物質を更に含む。電荷発生物質は、正孔輸送領域HTR内に均一にまたは不均一に分散されている。電荷発生物質は、例えば、p-ドーパントである。p-ドーパントはキノン誘導体、金属酸化物及びシアノ基含有化合物のうちいずれか一つであってもよいが、これらに限らない。例えば、p-ドーパントの非制限的な例としては、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)及びF4-TCNQ(2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン)などのようなキノン誘導体、タングステン酸化物、及びモリブデン酸化物のような金属酸化物などが挙げられるが、これらに限らない。
【0048】
上述したように、正孔輸送領域HTRは、正孔輸送層HTL及び正孔注入層HIL以外に、正孔バッファ層(図示せず)及び電子阻止層EBLのうち少なくとも一つを更に含む。正孔バッファ層(図示せず)は、発光層EMLから放出される光の波長による共振距離を補償して光放出効率を増加させる。正孔バッファ層(図示せず)に含まれる物質としては、正孔輸送領域HTRに含まれ得る物質を使用する。電子阻止層EBLは、電子輸送領域ETRから正孔輸送領域HTRへの電子の注入を防止する役割をする層である。
【0049】
発光層EMLは正孔輸送領域HTRの上に提供される。発光層EMLは、例えば、約10nm~約約100nm、または約10nm~約30nmの厚さを有してもよい。発光層EMLは、単一物質からなる単一層、複数の互いに異なる物質からなる単一層、または複数の互いに異なる物質からなる複数の層を有する多層構造を有する。
【0050】
一実施形態の有機電界発光素子10において、発光層EMLは一実施形態の多環化合物を含む。
【0051】
一実施形態の多環化合物は、複数個の電子供与部、及び電子供与部の間に配置された電子受容部を含む。電子受容部は電気供与部を互いに連結する。電気受容部は複数個の電子供与部と結合する。例えば、一実施形態の多環化合物は、2つの電子供与部及び一つの電子受容部を含むか、または3つの電子供与及び一つの電子受容部を含んでもよい。
【0052】
一実施形態において、多環化合物の電子供与部のうち少なくとも一つはボレピン(borepine)コアを含む縮合環である。電子供与部のうち少なくとも一つは、ボレピンコア及びボレピンコアに縮合環3つの炭化水素環基またはヘテロ環基を含む縮合環である。一方、ボレピンコアに縮合したヘテロ環基は窒素原子を含まない。詳しくは、一実施形態の多環化合物の電子供与部のうち少なくとも一つは、置換または無置換のトリベンゾボレピンを含む。
【0053】
多環化合物の電子供与部は、ボレピンコアを含む縮合環以外に窒素原子を含むヘテロアリール基を含む。例えば、多環化合物の電子供与部は、置換または無置換のカルバゾール基を含んでもよい。
【0054】
一実施において、多環化合物の電子受容部は、少なくとも一つのシアノ基または少なくとも一つの窒素原子を含むヘテロ環基を置換基として含むフェニル基である。または、一実施形態の多環化合物の電子受容部は、酸素原子または硫黄原子を環形成原子として含むヘテロアリール基である。
【0055】
電子受容部は、少なくとも一つのシアノ基を置換基として含むフェニル基、置換もしくは無置換のトリアジン基を置換基として含むフェニル基、置換もしくは無置換のキサンテニル基、置換もしくは無置換のチオキサンテニル基、置換もしくは無置換のジベンゾチオフェンジオキシド(dibenzothiphene dioxide)基、または置換もしくは無置換のチオキサンテンジオキシド基(thioxanthene dioxide)である。
【0056】
例えば、電子受容部は2つのシアノ基が置換されたフェニル基、3つのシアノ基が置換されたフェニル基、ジフェニルトリアジニル基に置換されたフェニル基、シアノ基とジフェニルトリアジニル基の両方に置換されたフェニル基、ジメチルキサンテニル基、ジベンゾチオフェンジオキシド基、またはジメチルチオキサンテンジオキシド基であってもよい。しかし、本実施形態はこれらに限らない。
【0057】
一方、本明細書において、「置換もしくは無置換の」とは、重水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、シリル基、オキシ基、チオ基、スルフィニル基、スルホニル基、カルボニル基、ホウ素基、ホスフィンオキシド基、ホスフィンスルフィド基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、炭化水素環基、アリール基、及びヘテロ環基からなる群より選択される一つ以上の置換基に置換される又は置換されないことを意味する。また、例示された置換基それぞれは、置換される又は置換されなくてもよい。例えば、ビフェニル基はアリール基と解釈されてもよく、フェニル基に置換されたフェニル基と解釈されてもよい。
【0058】
本明細書において、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられる。
【0059】
本明細書において、アルキル基は直鎖、分枝鎖、または環状であるアルキル基の炭素数は、1以上50以下、1以上30以下、1以上20以下、1以上10以下、または1以上6以下である。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、i-ブチル基、2-エチルブチル基、3、3-ジメチルブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、シクロペンチル基、1-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-エチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-ブチルヘキシル基、シクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、4-t-ブチルシクロヘキシル基、n-ヘプチル基、1-メチルペプチル基、2、2-ジメチルヘプチル基、2-エチルヘプチル基、2-ブチルヘプチル基、n-オクチル基、tーオクチル基、2-エチルオクチル基、2-ブチルオクチル基、2-ヘキシルオクチル基、3、7-ジメチルオクチル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、アダマンチル基、2-エチルデシル基、2-ブチルデシル基、2-ヘキシルデシル基、2-オクチルデシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、2-エチルドデシル基、2-ブチルドデシル基、2-ヘキシルドデシル基、2-オクチルデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、2-エチルヘキサデシル基、2-ブチルヘキサデシル基、2-ヘキシルヘキサデシル基、2-オクチルヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-イコシル基、2-エチルイコシル基、2-ブチルイコシル基、2-ヘキシルイコシル基、2-オクチルイコシル基、n-ヘンイコシル基、n-ドコシル基、n-トリコシル基、n-テトラコシル基、n-ペンタコシル基、n-ヘキサコシル基、n-ヘプタコシル基、n-オクタコシル基、n-ノナコシル基、及びn-トリアコンチル基などが挙げられるが、これらに限らない。
【0060】
本明細書において、炭化水素環は、脂肪族炭化水素環及び芳香族炭化水素環を含む。ヘテロ環は、脂肪族ヘテロ環及び芳香族ヘテロ環を含む。炭化水素環及びヘテロ環は、単環及び多環である。
【0061】
本明細書において、炭化水素環基は、脂肪族炭化水素環から誘導された任意の作用基または置換基、または芳香族炭化水素環から誘導された任意の作用基または置換基である。炭化水素環基の環形成炭素数は、5以上60以下である。
【0062】
本明細書において、ヘテロ環基は、少なくとも一つのヘテロ原子を環形成原子として含むヘテロ環から誘導された任意の作用基または置換基である。ヘテロ環基の環形成炭素数は、5以上60以下である。
【0063】
本明細書において、アリール基は、芳香族炭化水素環から誘導された任意の作用基または置換基を意味する。アリール基は、単環式アリール基または多環式アリール基である。アリール基の環形成炭素数は、6以上30以下、6以上20以下、または6以上15以下である。アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ビフェニル基、テルフェニル基、クォーターフェニル基、クインクフェニル基、セクシフェニル基、トリフェニルエニル基、ピレニル基、ベンゾフルオランテニル基、クリセニル基などが挙げられるが、これらに限らない。
【0064】
本明細書において、フルオレニル基は置換され、2つの置換基が互いに結合してスピロ構造を形成する。フルオレニル基が置換される場合の例示は以下のようである。但し、これらに限らない。
【化12】
【0065】
本明細書において、ヘテロアリール基はヘテロ原子としてB、O、N、P、Si及びSのうち一つ以上を含む。ヘテロアリール基がヘテロ原子を2つ以上含めば、2つ以上のヘテロ原子は互いに同じであってもよく、異なってもよい。ヘテロアリール基は、単環式へテロ環基または多環式へテロ環基である。ヘテロアリール基の環形成炭素数は、2以上30以下、2以上20以下、または2以上10以下である。ヘテロアリール基の例としては、チオフェニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、トリアゾリル基、ピリジニル基、ビピリジニル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、トリアゾリル基、アクリジニル基、ピリダジニル基、ピリジニル基、キノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、フェノキサニル基、フタラジニル基、ピリドピリミジニル基、ピリドピラジニル基、ピラジノピラジニル基、イソキノリニル基、インドリル基、カルバゾリル基、N-アリールカルバゾリル基、N-ヘテロアリールカルバゾリル基、N-アルキルカルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、チエノチオフェニル基、ベンゾフラニル基、フェナントロリニル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、フェノチアジニル基、ジベンゾシロリル基、及びジベンゾフラニル基などが挙げられるが、これらに限らない。
【0066】
本明細書において、アリーレン基は2価基であることを除いては、上述したアリール基に関する説明が適用される。ヘテロアリーレン基は2価基であることを除いては、上述したヘテロアリール基に関する説明が適用される。
【0067】
本明細書において、シリル基はアルキルシリル基及びアリールシリル基を含む。シリル基の例としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、ビニルジメチルシリル基、プロピルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジフェニルシリル基、フェニルシリル基などが挙げられるが、これらに限らない。
【0068】
本明細書において、アミノ基の炭素数は特に限らないが、1以上30以下である。アミノ基は、アルキルアミノ基及びアリールアミノ基を含む。アミノ基の例としては、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、9-メチル-アントラセニルアミノ基、トリフェニルアミノ基などが挙げられるが、これらに限らない。
【0069】
【0070】
【0071】
一実施形態の有機電界発光素子10に含まれる一実施形態の多環化合物は、下記化学式1で表される。
【化13】

化学式1において、DU1及びDU2は電子供与部であり、AUは電子受容部である。化学式1において、mは1または2である。つまり、化学式1で表される多環化合物は、2つ以上の電子供与部及び電子供与部の間に配置される電子受容部を含む。
【0072】
化学式1において、DU1及びDU2は同じであるか異なる。また、mの2であれば、2つのDU2は同じであるか異なる。
【0073】
化学式1において、DU1及びDU2は下記化学式2-1または化学式2-2で表される。また、DU1及びDU2のうち少なくとも一つは化学式2-1で表される。
【化14】

【化15】
【0074】
化学式2-1及び化学式2-2において、Ar~Arはそれぞれ独立して環形成炭素数5以上60以下の炭化水素環基、または環形成原子として窒素原子を含まない環形成炭素数5以上60以下のヘテロ環基である。
【0075】
化学式2-1及び化学式2-2において、R~Rはそれぞれ独立して重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上10以下のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基、または置換もしくは無置換の環形成炭素数5以上30以下のヘテロアリール基である。また、R~R、R及びRが結合しない又は他の部分構造との結合に関与しない環形成原子には、水素原子が結合する。
【0076】
また、化学式2-1及び化学式2-2において、a及びeはそれぞれ独立して0以上4以下の整数である。一方、a~eが2以上の整数であれば、複数のR~Rはそれぞれ同じであるか異なる。
【0077】
【0078】
例えば、化学式2-1は、下記化学式2-1Aで表される。
【化16】

化学式2-1Aにおいて、R~R、及びa~cに関しては上述した化学式2-1で説明した内容と同じ内容が適用される。
【0079】
化学式2-2において、XはNまたはNRであり、Xは単結合、CR、または(CR)=(CR)である。また、nは1以上2以下である。
【0080】
化学式2-2において、Ar~Arは同じであるか異なる。例えば、化学式2-2において、Ar~Arは同じであってもよい。詳しくは、化学式2-2において、Ar及びArは置換または無置換のベンゼン環である。
【0081】
化学式2-2において、XはNまたはNRである。
【0082】
また、化学式2-2において、R~Rはそれぞれ独立して重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上10以下のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基、または置換もしくは無置換の環形成炭素数5以上30以下のヘテロアリール基である。例えば、化学式2-2において、Rは無置換のフェニル基であってもよい。また、R~Rが結合しない又は他の部分構造との結合に関与しない環形成原子には、水素原子が結合する。
【0083】
例えば、化学式2-2は、下記化学式2-2Aまたは2-2Bで表されてもよい。化学式2-2Aと化学式2-2Bは、電子受容部であるAUと結合する位置が異なる。
【化17】

【化18】
【0084】
化学式2-2A及び化学式2-2Bにおいて、Ar、Ar、R、R、d、e、X、n、及びRに関しては化学式2-2で説明した内容と同じ内容が適用される。
【0085】
化学式2-2において、XはNまたはNRであり、Xは単結合であり、Ar及びArは置換もしくは無置換のベンゼン環である。詳しくは、化学式2-2は置換もしくは無置換のカルバゾリル基である。例えば、化学式2-2は、下記化学式D2またはD3で表されてもよい。
【化19】
【0086】
D3において、Rに関しては化学式2-2で説明した内容と同じ内容が適用される。
【0087】
化学式1において、AUは下記化学式3-1または化学式3-2で表される。
【化20】

【化21】
【0088】
化学式3-1において、Rはシアノ基または少なくとも一つの窒素原子を環形成原子として含む置換もしくは無置換の環形成炭素数2以上60以下のヘテロ環基である。例えば、Rは、シアノ基であるか置換もしくは無置換のトリアジニル基であってもよい。
【0089】
化学式3-1において、pは1以上3以下の整数である。化学式3-1において、pが2以上の整数であれば、複数個のRは同じであるか少なくとも一つが異なる。
【0090】
化学式3-1において、fは0以上3以下の整数である。fが2以上の整数であれば、複数のR6は同じであるか少なくとも一つが異なる。
【0091】
化学式3-2において、YはO、S、またはSOである。つまり、化学式3-2は酸素原子または硫黄原子を環形成原子として含むヘテロアリーレン基である。
【0092】
化学式3-2において、Yは単結合またはCRであり、g及びhはそれぞれ独立して0以上3以下の整数である。一方、化学式3-2において、g及びhがそれぞれ2以上の整数であれば、複数のR及びRはそれぞれ互いに同じであるか少なくとも一つが異なる。
【0093】
化学式3-1及び化学式3-2において、R~R、R及びRはそれぞれ独立して重水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上10以下のアルキル基、置換もしくは無置換の環形成炭素数6以上30以下のアリール基、または置換もしくは無置換の環形成炭素数5以上30以下のヘテロアリール基である。また、R~Rが結合しない又は他の部分構造との結合に関与しない環形成原子には、水素原子が結合する。
【0094】
一方、化学式3-1は、下記化学式3-1Aまたは3-1Bで表される。化学式3-1Aは2価のフェニル基を示し、化学式3-1Bは3価のフェニル基を示す。例えば、化学式3-1Aで表される電子受容部であるAUは2つの電子供与部と結合してもよく、化学式3-1Bで表される電子受容部であるAUは3つの電子供与部と結合してもよい。
【0095】
【化22】

【化23】
【0096】
一方、化学式1は下記化学式1-1で表される。つまり、一実施形態の多環化合物は、電子供与部としてボレピンコアを有する縮合環を含む。
【化24】
【0097】
化学式1-1において、AU、DU2及びmは化学式1で説明した内容と同じ内容が適用される。また、Ar~Ar、R~R、及びa~cに関しては化学式2-1で説明した内容と同じ内容が適用される。
【0098】
化学式1-1において、DU2は下記D1~D3のうちいずれか一つで表される。
【化25】
【0099】
D1において、R~R、及びa~cに関しては上述した化学式2-1で説明した内容と同じ内容が適用され、D3のRに関しては上述した化学式2-2で説明した内容と同じ内容が適用される。
【0100】
また、化学式1-1において、AUは下記A1~A7のうちいずれか一つで表される。
【化26】
【0101】
A1及びA2において、pは1以上3以下の整数である。
【0102】
一実施形態の多環化合物は、下記第1化合物群に示した化合物のうちいずれか一つである。
[第1化合物群]
【化27】



【0103】
一実施形態の有機電界発光素子10は、第1化合物群に示した化合物のうち少なくとも一つを少なくとも一つの有機層に含む。例えば、一実施形態の有機電界発光素子10の発光層EMLは、第1化合物群に示した多環化合物のうち少なくとも一つを含んでもよい。
【0104】
一実施形態の有機電界発光素子10において、発光層EMLは遅延蛍光を放出する。例えば、発光EMLは熱活性遅延蛍を発光してもよい。
【0105】
有機電界発光素子10の発光層EMLは青色光を放出する。例えば、一実施形態の有機電界発光素子10の発光層EMLは、480nm以下の領域の青色光を放出してもよい。しかし、本実施形態はこれらに限らず、発光層EMLは赤色光または緑色光を放出してもよい。
【0106】
一方、図示していないが、一実施形態の有機電界発光素子10は複数の発光層を含んでもよい。複数の発光層は順次積層されて提供されるが、例えば、複数の発光層を含む有機電界発光素子10は白色光を放出してもよい。複数の発光層を含む有機電界発光素子10は、タンデム構造の有機電界発光素子である。
【0107】
一実施形態において、発光層EMLはホスト及びドーパントを含み、上述した多環化合物をドーパントとして含む。例えば、一実施形態の有機電界発光素子10において、発光層EMLは遅延蛍光発光用ホスト及び遅延蛍光発光用ドーパントを含むが、上述した多環化合物を遅延蛍光発光用ドーパントとして含んでもよい。発光層EMLは、上述した第1化合物群に示した多環化合物のうち少なくとも一つを熱活性遅延蛍光ドーパントとして含む。
【0108】
一実施形態において、発光層EMLは遅延蛍光発光層であり、発光層MELは公知のホスト材料、及び上述した多環化合物を含む。例えば、一実施形態において、多環化合物はTADFドーパントとして使用されてもよい。
【0109】
一方、一実施形態において、発光層EMLは公知のホスト材料を含む。例えば、一実施形態において、発光層EMLはドーパント材料として、Alq3(トリス(8-ヒドロキシキノリノ)アルミニウム)、CBP(4,4’-ビス(N-カルバゾリル)-1,1’-ビフェニル)、PVK(ポリ(n-ビニルカルバゾール)、ADN(9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン)、TCTA(4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)-トリフェニルアミン)、TPBi(1,3,5-トリス(N-フェニルベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼン)、TBADN(3-tert-ブチル-9,10-ジ(ナフト-2-イル)アントラセン)、DSA(ジスチリルアリレン)、CDBP(4,4’-ビス(9-カルバゾリル)-2,2’-ジメチル-ビフェニル)、MADN(2-メチル-9,10-ビス(ナフタレン-2-イル)アントラセン)、DPEPO(ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテルオキシド)、CP1(ヘキサフェニルシクロトリホスファゼン)、UGH2(1、4-ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン)、DPSiO(ヘキサフェニルシクロトリシロキサン)、DPSiO(オクタフェニルシクロテトラシロキサン)、またはPPF(2、8-ビス(ジフェニルホスフォリル)ジゼンゾフラン)、mCBP(3,3’-ビス(N-カルバゾリル)-1,1’-ビフェニル)、mCP(1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン)などを含んでもよい。しかし、本実施形態はこれらに限らず、提示されたホスト材料以外にも公知の遅延蛍光発光ホスト材料が含まれてもよい。
【0110】
一方、一実施形態の有機電界発光素子10において、発光層EMLは公知のドーパント材料を更に含む。一実施形態において、発光層MELは、ドーパントとして、スチリル誘導体(例えば、1,4-ビス[2-(3-N-エチルカルバゾリル)ビニル]ベンゼン(BCzVB)、4-(ジ-p-トリルアミノ)-4’-[(ジ-p-トリルアミノ)スチリル]スチルベン(DPAVB)、N-(4-((E)-2-(6-((E)-4-(ジフェニルアミノ)スチリル)ナフタレン-2-イル)ビニル)フェニル)-N-フェニルベンゼンアミン(N-BDAVBi))、ペリレン及びその誘導体(例えば、2,5,8,11-テトラ-t-ブチルペリレン(TBP))、ピレン及びその誘導体(例えば、1,1-ジピレン、1,4-ジピレニルベンゼン、1,4-ビス(N、N-ジフェニルアミノ)ピレン)などを含む。
【0111】
図1図3に示した一実施形態の有機電界発光素子10において、電子輸送領域ETRは発光層EMLの上に提供される。電子輸送領域ETRは、正孔阻止層HBL、電子輸送層ETL、及び電子注入層のEILうち少なくとも一つを含むが、本実施形態はこれらに限らない。
【0112】
電子輸送領域ETRは、単一物質からなる単一層、複数の互いに異なる物質からなる単一層、または複数の互いに異なる物質からなる複数の層を有する多層構造を有する。
【0113】
例えば、電子輸送領域ETRは電子注入層のEILまたは電子輸送層ETLの単一層の構造を有してもよく、電子注入物質と電子輸送物質からなる単一層構造を有してもよい。また、電子輸送領域ETRは、複数の互いに異なる物質からなる単一層の構造を有するか、発光層EMLから順番に積層された電子輸送層ETL/電子注入層EIL、正孔阻止層HBL/電子輸送層ETL/電子注入層EILの構造を有してもよいが、これらに限らない。電子輸送領域ETRの厚さは、例えば、約100nm~約150nmであってもよい。
【0114】
電子輸送領域ETRは、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法(Langmuir-Blodgett)、インクジェットプリント法、レーザプリント法、レーザ熱転写法(Laser Induced Thermal Imaging、LITI)などのような多様な方法を利用して形成される。
【0115】
電子輸送領域ETRが電子輸送層ETLを含めば、電子輸送領域ETRはアントラセン系化合物を含む。但し、これらに限らず、電子輸送領域は、例えば、Alq3(トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム)、1,3,5-トリ[(3-ピリジル)-フェン-3-イル]ベンゼン、2,4,6-トリス(3’-ピリジン-3-イル)ビフェニル-3-イル)-1,3,5-トリアジン、2-(4-(N-フェニルベンゾイミダゾリル-1-イルフェニル)-9,10-ジナフチルアントラセン、TPBi(1,3,5-トリ(1-フェニル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)フェニル)、BCP(2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、Bphen(4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、TAZ(3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5-テルト-ブチルフェニル-1,2,4-トリアゾール)、NTAZ(4-(ナフタレン-1-イル)-3,5-ジフェニル-4H-1,2,4-トリアゾール)、tBu-PBD(2-(4-ビフェニルイル)-5-(4-テルトーブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール)、BAlq(ビス(2-メチル-8-キノリノラト-N1,O8)-(1,1’-ビフェニル-4-オラト)アルミニウム)、Bebq2(ベリリウムビス(ベンゾキノリン-10-オラト)、ADN(9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン)、及びこれらの混合物を含んでもよい。電子輸送層ETLの厚さは、約10nm~約100nm、例えば、約15nm~約50nmであってもよい。電子輸送層HTLの厚さが上述したような範囲を満足すれば、実質的な駆動電圧の上昇なしに満足できる程度の電子輸送特性が得られる。
【0116】
電子輸送領域ETRが電子注入層EILを含めば、電子輸送領域ETRは、LiF、LiQ(8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム)、LiO、BaO、NaCl、CsF、Ybのようなランタン族金属、またはRbCl、Rblのようなハロゲン化金属などが使用されてもよいが、これらに限らない。電子注入層EILはまた、電子輸送物質と絶縁性の有機金属塩)が混合された物質からなる。有機金属塩は、エネルギーバンドギャップが約4eV以上の物質である。詳しくは、例えば、有機金属塩は、酢酸金属塩、安息香酸金属塩、アセト酢酸金属塩、金属アセチルアセトナート、または金属ステアレートを含む。電子注入層EILの厚さは、約0.1nm~約10nm、例えば約0.3nm~約9nmである。電子注入層EILの厚さが上述したような範囲を満足すれば、実質的な駆動電圧の上昇なしに満足できる程度の電子注入特性が得られる。
【0117】
電子輸送領域ETRは、上述したように、正孔阻止層HBLを含む。正孔阻止層HBLは、例えば、BCP(2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)、及びBphen(4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン)のうち少なくとも一つを含んでもよいが、これらに限らない。
【0118】
第2電極EL2は、電子輸送領域ETRの上に提供される。第2電極EL2は、共通電極または負極である。第2電極EL2は、透過型電極、半透過型電極、または反射型電極である。第2電極EL2が透過型電極であれば、第2電極EL2は透明金属酸化物、例えば、ITO、IZO、ZnO、ITZOなどからなる。
【0119】
第2電極EL2が半透過型電極または反射型電極であれば、第2電極EL2はAg、Mg、Cu、Al、Pt、Pd、Au、Ni、Nd、Ir、Cr、Li、Ca、LiF/Ca、LiF/Al、Mo、Ti、またはこれらを含む化合物や混合物(例えば、AgとMgの混合物)を含む。また、物質からなる反射膜や半透過膜、及びITO、IZO、ZnO、ITZOなどからなる透明導電膜を含む複数の層構造である。
【0120】
図示していないが、第2電極EL2は補助電極と接続される。第2電極EL2が補助電極と接続されれば、第2電極EL2の抵抗を減少させることができる。
【0121】
一方、図示していないが、一実施形態の有機電界発光素子10の第2電極EL2の上には、キャッピング層(図示せず)が更に配置される。キャッピング層(図示せず)は、例えば、α-NPD、NPB、TPD、m-MTDATA、Alq3、CuPc、TPD15(N4,N4,N4’,N4’-テトラ(ビフェニル-4-イル)ビフェニル-4,4’-ジアミン)、TCTA(4,4’,4”-トリス(カルバゾール ソル-9-イル)トリフェニルアミン)、N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)などを含んでもよい。
【0122】
本発明の一実施形態による有機電界発光素子10は、上述した一実施形態の多環化合物を第1電極EL1と第2電極EL2との間に配置される少なくとも一つの有機層に含むことで、優秀な発光効率を示す。特に、一実施形態による有機電界発光素子10は、上述した一実施形態の多環化合物を発光層EMLに含むことで、低い駆動電圧と高い発光効率特性を示す。また、一実施形態による有機電界発光素子10は、上述した一実施形態の多環化合物を発光層EMLに含み、発光層EMLが熱活性遅延蛍光発光するようにすることで、高い発光効率特性を示す。
【0123】
上述した一実施形態の多環化合物は複数個の電子供与部及び電子供与部を連結する電子受容部を含み、一つの分子の中に電子供与部と電子受容部を全て含むことで分子内における電子移動が容易である。よって、一実施形態の多環化合物は、一実施形態の有機電界発光素子の有機層に使用されて発光効率を改善することができる。また、一実施形態の多環化合物は、ボレピンコアを含む電子供与部を少なくとも一つ含み、電子受容部はシアノ基、トリアジン基、或いは0またはSを環形成原子として含むヘテロアリーレン基を含むことで、分子内で電子供与部と電子受容部との間に双極子モーメントが形成されるようにする。よって、一実施形態の多環化合物は、分子内で双極子モーメントが増加され、有機電界発光素子の発光層に使用される際に発光効率をより向上させることができる。
【0124】
また、一実施形態の多環化合物は、熱活性遅延蛍光発光することで、有機電界発光素子の発光効率を向上させることができる。
【実施例
【0125】
以下では実施例及び比較例を参照し、本発明の一実施形態による多環化合物及び一実施例の有機電界発光素子について詳しく説明する。また、以下に示す実施例は本発明の理解を助けるための一例示であって、本発明の範囲はこれに限らない。
【0126】
1.多環化合物の合成
まず、本実施形態による多環化合物の合成方法について、化合物1、4、7、13、及び18の合成方法を例示して具体的に説明する。また、以下で説明する多環化合物の合成法は一実施例であって、本発明の実施形態による多環化合物の合成法は下記実施例に限らない。
【0127】
(1)化合物1の合成
[反応式1]
【化28】

【0128】
<中間体Aの合成>
1,2-ジヨードベンゼン(1eq)と(2-ブロモフェニル)ボロン酸(2.1eq)を500mlのトルエンに溶解させた。Pd(PPh(0.02eq)を添加した。更にトルエン400ml及び2M KCO飽和溶液70mlを添加した後、5時間還流撹拌させた。反応終結後、メチレンクロライド(MC)400mlと蒸留水150mlで洗浄及び抽出してから、溶媒を除去した後、生成された個体をカラムクロマトグラフィで精製して所望の中間体A(収率65.7%)を得た。質量分析器で測定した分子量から、中間体Aであることを確認した。(HRMS for C1812Br [M]+:calcd:388、found:387)
【0129】
<中間体Bの合成>
中間体A(1eq)を500mlのヘキサンに溶解させた。反応容器を0℃に下降し、dimethyl borochloridate(2.2eq)を徐々に滴下した後、5時間撹拌した。反応終結後、MC200mlと蒸留水150mlで洗浄及び抽出してから、溶媒を除去した後、生成された個体をMeOH、エーテルで再結晶して中間体B(収率55.8%)を得た。質量分析器で測定した分子量から、中間体Bであることを確認した。(HRMS for C1812BCl [M]+:calcd:275、found:274)
【0130】
<化合物1の合成>
[反応式2]
【化29】

【0131】
(9,9-ジメチル-10,10-ジオキシド-9H-チオキサンテン-2,7-ジイル)ジボロン酸(1eq)と中間体B(2.2eq)を500mlのトルエンと溶解させた。Pd(PPh(0.02eq)及び2M KCO飽和溶液70mlを添加した後、4時間還流撹拌させた。反応終結後、MC400mlと蒸留水200mlで洗浄及び抽出してから、溶媒を除去した後、生成された個体をカラムクロマトグラフィで精製して所望の化合物1(収率77.5%)を得た。質量分析器で測定した分子量から、化合物1であることを確認した。(HRMS for C5136S [M]+:calcd:734、found:733)
【0132】
(2)化合物4の合成
一実施例による多環化合物4は、例えば、下記反応式3によって合成される。
[反応式3]
【化30】
【0133】
(4,6-ジシアノ-1,3-フェニレン)ジボロン酸(1eq)と中間体B(2.2eq)を500mlのトルエンに溶解させた。Pd(PPh(0.02eq)及び2M KCO飽和溶液70mlを添加した後、4時間還流撹拌させた。反応終結後、MC400mlと蒸留水200mlで洗浄及び抽出してから、溶媒を除去した後、生成された個体をカラムクロマトグラフィで精製して所望の化合物4(収率66.2%)を得た。質量分析器で測定した分子量から、化合物4であることを確認した。(HRMS for C4426 [M]+:calcd:604、found:603)
【0134】
(3)化合物7の合成
[反応式4]
【化31】

【0135】
<中間体Cの合成>
(9,9-ジメチル-10,10-ジオキシド-9H-チオキサンテン-2,7-ジイル)ジボロン酸(1eq)と中間体B(1eq)を500mlのトルエンに溶解させた。Pd(PPh(0.02eq)及び2M KCO飽和溶液70mlを添加した後、4時間還流撹拌させた。反応終結後、MC400mlと蒸留水200mlで洗浄及び抽出してから、溶媒を除去した後、生成された個体をカラムクロマトグラフィで精製して所望の中間体C(収率69.4%)を得た。質量分析器で測定した分子量から、中間体Cであることを確認した。(HRMS for C3326S [M]+:calcd:540、found:539)
【0136】
<化合物7の合成>
中間体C(1eq)とカルバゾール(1.2eq)を500mlのトルエンに溶解させた。Pd(PPh(0.02eq)及び2M KCO飽和溶液70mlを添加した後、4時間還流撹拌させた。反応終結後、MC400mlと蒸留水200mlで洗浄及び抽出してから、溶媒を除去した後、生成された個体をカラムクロマトグラフィで精製して所望の化合物7(収率82.4%)を得た。質量分析器で測定した分子量から、化合物7であることを確認した。(HRMS for C4532BNOS [M]+:calcd:661、found:660)
【0137】
(4)化合物13の合成
[反応式5]
【化32】

【0138】
<中間体Dの合成>
(2-ブロモフェニル)ボロン酸に代わって(2-ブロモ-3-メチルフェニル)ボロン酸を使用したことを除いては、中間体Aの合成方法と同じ方法で中間体D(収率68%)を得た。質量分析器で測定した分子量から、中間体Dであることを確認した。(HRMS for C2016Br [M]+:calcd:416、found:415)
【0139】
<中間体Eの合成>
中間体Dを利用して、中間体Bの合成方法と同じ方法で中間体E(収率51.7%)を得た。質量分析器で測定した分子量から、中間体Eであることを確認した。(HRMS for C2016BCl [M]+:calcd:302、found:301)
【0140】
<化合物13の合成>
[反応式6]
【化33】

【0141】
(9,9-ジメチル-10,10-ジオキシド-9H-チオキサンテン-2,7-ジイル)ジボロン酸(1eq)と中間体E(1.2eq)を使用し、化合物1の合成方法と同じく化合物13(収率82.7%)を得た。質量分析器で測定した分子量から、化合物13であることを確認した。(HRMS for C5544S [M]+:calcd:790、found:789)
【0142】
(5)化合物18の合成
[反応式7]
【化34】
【0143】
中間体B(1eq)と(3,5-ジ(9H-カルバゾール-9-イル)-2,4,6-トリシアノフェニル)ボロン酸(1.2eq)を500mlのトルエンに溶解させた。Pd(PPh(0.02eq)及び2M KCO飽和溶液70mlを添加した後、4時間還流撹拌させた。反応終結後、MC400mlと蒸留水200mlで洗浄及び抽出してから、溶媒を除去した後、生成された個体をカラムクロマトグラフィで精製して所望の化合物18(収率77.9%)を得た。質量分析器で測定した分子量から、化合物18であることを確認した。(HRMS for C5128BN [M]+:calcd:721、found:720)
【0144】
2.化合物のエネルギー準位の評価
下記表1は、実施例化合物である化合物1、化合物4、化合物7、化合物13、及び化合物18のHOMOエネルギー準位、LUMOエネルギー準位、最低一重項励起エネルギー準位(S1 level)、最低三重項励起エネルギー準位(T1 level)、及びΔEST値を示している。
【0145】
表1におけるエネルギー準位値は、非経験的分子軌道法によって計算された。詳しくは、Gaussian社製のGaussian09を利用し、B3LYP/6-31G(d)で計算された。ΔESTは最低一重項励起エネルギー順位(S1 level)と最低三重項励起エネルギー準位(T1 level)の差を示す。
【表1】
【0146】
実施例化合物である化合物1、化合物4、化合物7、化合物13、及び化合物18のΔEST値が0.25eV以下の値を有する。これから、化合物1、化合物4、化合物7、化合物13、及び化合物18は熱活性遅延蛍光ドーパント材料として使用可能であると判断される。また、比較例化合物C1も同じく低いΔEST値を示すことから、熱活性遅延蛍光ドーパント材料として使用可能であると判断される。
【0147】
3.多環化合物を含む有機電界発光素子の作製及び評価
(有機電界発光素子の作製)
一実施例の多環化合物を発光層に含む一実施例の有機電界発光素子を下記方法で製造した。上述した化合物1、4、7、13、及び18の多環化合物を発光層のドーパント材料として使用し、実施例1~実施例5の有機電界発光素子を作製した。
【0148】
比較例1は、下記BH-1をホスト材料として使用し、BD-1をドーパント材料として使用して作製した有機電界発光素子に当たる。
【化35】

【0149】
比較例2は実施例と同じくmCBPをホスト材料として使用し、比較例化合物C1をドーパント材料として使用して作製した有機電界発光素子に当たる。
【0150】
実施例1~実施例5で使用した化合物及び比較例化合物C1は、表2に示した。
【表2】
【0151】
ガラス基板の上に厚さ120nmのITOをパターニングした後、イソプロピルアルコール及び超純水で洗浄し、超音波で洗浄した後、30分間UVを照射してから、オゾン処理を行った。その後、厚さ40nmでNPBを蒸着して正孔注入層を形成し、次に厚さ1nmでmCPを蒸着して正孔輸送層を形成した。
【0152】
正孔輸送層の上にmCBPと本発明の一実施例の多環化合物または比較例化合物を85:15の割合で共蒸着し、厚さ20nmの発光層を形成した。つまり、共蒸着して形成した発光層は、実施例1~実施例5ではそれぞれ化合物1、4、7、13、及び18をmCBPと混合して蒸着し、比較例1ではBH1及びBD1を混合して蒸着し、比較例2では比較例化合物C1をmCBPと混合して蒸着した。
【0153】
発光層の上にETL1物質で厚さ30nmの電子輸送層を形成し、次に、アルミニウム(Al)で厚さ120nmの第2電極を形成した。
【0154】
実施例及び比較例の有機電界発光素子の作製に使用した化合物を以下に開示した。
【化36】

【0155】
(有機電界発光素子の特性評価)
表3は、実施例1~実施例5、及び比較例1~比較例2に対する有機電界発光素子の評価結果を示している。表3は、作製された有機電界発光素子の駆動電圧、発光効率及び外部量子効率(EOE)を比較して示している。表3に示した実施例及び比較例に対する特性評価結果において、発光効率は電流密度10mA/cmに対する電流効率値を示す。
【表3】
【0156】
表3の結果を参照すると、本発明の一実施例の多環化合物を発光層材料として使用した有機電界発光素子の実施例の場合、比較例に比べ、低い駆動電圧、及び高い発光効率と高い外部量子効率を示すことが分かる。
【0157】
一方、比較例1は一般的な蛍光発光用ドーパント材料であるBD1を発光層に含むが、実施例1~実施例5の場合、比較例1に比べ高い発光効率を示すことから、実施例の多環化合物は熱活性遅延蛍光発光することが分かる。
【0158】
また、比較例2は実施例1~実施例5で使用したホスト物質を同じく使用し、ドーパントである比較例化合物C1を使用しているが、実施例に使用した多環化合物に比べ、比較例化合物C1は電子受容部を含んでおらず、実施例1~実施例5は比較例2に比べ依然として低い駆動電圧、及び高い発光効率と高い外部量子効率を示すことが分かる。つまり、比較例2で使用した比較例化合物C1の場合、低いΔEST値を有することで実施例化合物と同様に熱活性遅延蛍光発光材料として使用されることで、比較例1より高い発光効率を示している。しかし、比較例化合物C1は実施例化合物と異なる分子構造を有することで、実施例と比べると高い駆動電圧、及び低い発光効率と低い外部量子効率を示すことが分かる。
【0159】
つまり、比較例1または比較例2のドーパント化合物に比べ、実施例で使用された本発明の多環化合物の場合、電子供与部と電子受容部を一つの化合物単位で含むことで遅延蛍光発光することができ、高い素子効率を示すことができる。また、実施例で使用された多環化合物の場合、比較例に比べ低い駆動電圧でも優秀な素子効率を示すことができる。
【0160】
これまで本発明の好ましい実施例を参照して説明したが、該当技術分野における熟練した当業者または該当技術分野における通常の知識を有する者であれば、後述する特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び技術領域から逸脱しない範囲内で本発明を多様に修正及び変更し得ることを理解できるはずである。
【0161】
よって、本発明の技術的範囲は明細書の詳細な説明に記載されている内容に限らず、特許請求の範囲によって決められるべきである。
【符号の説明】
【0162】
10:有機電界発光素子 EL1:第1電極
EL2:第2電 極HTR:正孔輸送領域
EML:発光層 ETR:電子輸送領域
図1
図2
図3