(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法、および三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/295 20170101AFI20240304BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20240304BHJP
B29C 64/20 20170101ALI20240304BHJP
B29C 64/264 20170101ALI20240304BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20240304BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240304BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240304BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240304BHJP
【FI】
B29C64/295
B29C64/118
B29C64/20
B29C64/264
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2019217176
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関根 慎介
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-142147(JP,A)
【文献】特表2019-524511(JP,A)
【文献】特開2019-155697(JP,A)
【文献】特開2017-206011(JP,A)
【文献】特開2019-084814(JP,A)
【文献】特開2019-142148(JP,A)
【文献】特開2019-142149(JP,A)
【文献】特開2019-142150(JP,A)
【文献】特表2017-523063(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0117851(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した熱可塑性樹脂を吐出するノズルを
ステージに対して相対移動させながら
前記ステージ上に所望形状の層を形成する工程を繰り返し行い、前記ステージ上に前記層を積み重ねて三次元造形物を製造する
方法に
おいて、
溶融した熱可塑性樹脂を吐出させながら前記ノズルを前記ステージに対して相対移動させ、吐出した溶融樹脂を固化させて第1層を形成した後に、
前記ノズルを前記ステージに対して相対移動させながら、溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出させて第2層を形成する際に、
前記ステージを平面視した時、
溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出している前記ノズルの現在の位置を基準として、前記相対移動における前記ノズルの進行方法において前記ノズルよりも前方
に位置する前記第1層の
第1領域
に光を照射して前記第1領域を加熱し、溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出している前記ノズルの現在の位置を基準として、前記相対移動における前記ノズルの進行方法に対して前記ノズルの側方
に位置する前記第2層の
第2領域
に光を照射して前記第2領域を加熱しながら、前記ノズルを
前記ステージに対して相対移動させる、
ことを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【請求項2】
光を照射される前記ノズルの側方の前記
第2領域の幅は、前記ノズルから吐出される前記熱可塑性樹脂の幅よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
前記ステージを平面視した時、
前記相対移動における前記ノズルの進行方法において前記ノズルよりも後方の領域を冷却手段を用いて局所冷却しながら、前記ノズルを
前記ステージに対して相対移動させる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項4】
前記ステージを平面視した時、前記ノズルの側方の前記
第2領域が、前記
三次元造形物の外縁部である場合には、前記ノズルの側方の前記
第2領域を加熱する前記
光の出力を抑制する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項5】
前記
第1領域において、すでに積層した
前記第1層の温度が、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上で、ガラス転移温度+30℃未満となるよう
光を照射して加熱する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項6】
溶融した熱可塑性樹脂を吐出するノズルを
ステージに対して相対移動させながら
前記ステージ上に所望形状の層を形成する工程を繰り返し行い、前記ステージ上に前記層を積み重ねて三次元造形物を製造する三次元造形装置において、
溶融した熱可塑性樹脂を吐出させながら前記ノズルを前記ステージに対して相対移動させ、吐出した溶融樹脂を固化させて第1層を形成した後に、
前記ノズルを前記ステージに対して相対移動させながら、溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出させて第2層を形成する際に、
前記ステージを平面視した時、
溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出している前記ノズルの現在の位置を基準として、前記相対移動における前記ノズルの進行方法において前記ノズルよりも前方
に位置する前記第1層の
第1領域
に光を照射して前記第1領域を加熱し、溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出している前記ノズルの現在の位置を基準として、前記相対移動における前記ノズルの進行方法において前記ノズルの側方
に位置する前記第2層の
第2領域
に光を照射して前記第2領域を加熱
しながら、前記ノズルを前記ステージに対して相対移動させる、
ことを特徴とする三次元造形装置。
【請求項7】
光を照射される前記ノズルの側方の前記
第2領域の幅は、前記ノズルから吐出される前記熱可塑性樹脂の幅よりも小さい、
ことを特徴とする請求項6に記載の三次元造形装置。
【請求項8】
前記ステージを平面視した時、
前記相対移動における前記ノズルの進行方法において前記ノズルよりも後方の領域を局所冷却する冷却手段を備える、
ことを特徴とする請求項6または7に記載の三次元造形装置。
【請求項9】
前記ステージを平面視した時、前記ノズルの側方の前記
第2領域が、
前記三次元造形物の外縁部である場合には、前記ノズルの側方の前記
第2領域を加熱する前記
光の出力を抑制する、
ことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の三次元造形装置。
【請求項10】
前記
第1領域において、すでに積層した
前記第1層の温度が、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上で、ガラス転移温度+30℃未満となるよう
光を照射して加熱する、
ことを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を溶融させて押出し、積層させることによって三次元造形物を造形する熱溶融積層造形方法、およびそれに用いる三次元造形装置に関する。特に、三次元造形物の機械的強度、剛性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆる3Dプリンタの開発が盛んに行われており、さまざまな方式が試みられている。例えば、粉末積層溶融法、光硬化性樹脂を用いた光造形法、熱溶融積層造形法、等のさまざまな方式が知られている。
【0003】
粉末積層溶融法は、ナイロン樹脂、セラミクス、金属等の原料粉末を層状に敷く工程と、レーザ光を照射して粉末層の一部を選択的に溶融させる工程とを繰り返し行なうことにより三次元造形物を形成する方法である。別名SLS法とも呼ばれ、近年では、高い機械強度や良好な熱伝導性が要求される物品を製造する方法として、金属粉末を原料に用いた粉末積層溶融法が活用されはじめている。
光造形法は、別名SLA法とも呼ばれ、光硬化性の液体樹脂に、紫外線を選択的に照射して硬化層を得る工程を繰り返して3次元構造物を作成する。
【0004】
熱溶融積層造形法は、別名FDM法とも呼ばれ、熱可塑性樹脂を溶融させ、ノズル等から、造形物として得たい部分のみに、材料を選択的に押し出し積層して3次元構造物を作成する。
熱溶融積層造形法の具体例として、例えば特許文献1には、改質アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)材料のフィラメントを、押出ヘッドで溶融させて押出すことが開示されている。CADモデルから切り出した薄層を押出ヘッドを用いて1層毎に堆積させることによって、3Dオブジェクトを形成する方法が記載されている。
【0005】
特許文献1に記載された方法では、材料は、押出ヘッドに搭載されたノズルを介して押出され、x-y平面にて連続した線として基板上に堆積される。押し出された材料は、既に堆積された下層の材料と融合し、温度の低下とともに固化する。そして、基板に対する押し出しヘッドの位置をx-y平面に垂直なz軸に沿って高めた後、次の層を堆積する。この工程を繰返して、CADモデルに類似した3Dオブジェクトを形成する。
【0006】
また、特許文献2には、積層造形する際に、溶融樹脂が着接する直前の位置を、レーザーを用いて加熱し、押し出されて積層された溶融樹脂の表面を冷風によって冷却し、層のの溶着強度を向上させる手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2010-521339号公報
【文献】特開2005-335380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された熱溶融積層造形法では、以下の理由により、既に堆積されている材料と、後から付加的に押出された材料との融合が、十分には行われない問題があった。
すなわち、基板上に既に堆積された材料は、次の層を堆積させるときには温度が低下しており、溶融状態にはなく、新たに積層された材料との密着性が不十分になる場合が多い。
したがって、特許文献1に開示の熱溶融積層造形法により作成した三次元造形物は、平面方向及び上下方向の層間の密着性が弱く、射出成形等で作成した成形品と比較して機械的強度が劣るという問題があった。
【0009】
その点、特許文献2の技術では、積層造形する際に溶融樹脂が着接する直前の位置を、レーザーを用いて加熱する事によって上下方向の密着強度の向上が図られている。
【0010】
しかし、溶融樹脂が押し出される位置の側方に存在する形成済の層を加熱していない為、一層の形成に時間を要した場合には側方の樹脂は温度が大きく低下して固化しており、十分な溶着強度が得られず平面方向の強度が不十分になるという課題があった。
【0011】
そこで、熱溶融積層造形法において、積層面と平行な方向についても、積層面と垂直な積層方向についても、各層の密着強度が大きく、機械強度の大きな三次元造形物を製造する方法と、そのための三次元造形装置が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、溶融した熱可塑性樹脂を吐出するノズルをステージに対して相対移動させながら前記ステージ上に所望形状の層を形成する工程を繰り返し行い、前記ステージ上に前記層を積み重ねて三次元造形物を製造する方法において、溶融した熱可塑性樹脂を吐出させながら前記ノズルを前記ステージに対して相対移動させ、吐出した溶融樹脂を固化させて第1層を形成した後に、前記ノズルを前記ステージに対して相対移動させながら、溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出させて第2層を形成する際に、前記ステージを平面視した時、溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出している前記ノズルの現在の位置を基準として、前記相対移動における前記ノズルの進行方法において前記ノズルよりも前方に位置する前記第1層の第1領域に光を照射して前記第1領域を加熱し、溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出している前記ノズルの現在の位置を基準として、前記相対移動における前記ノズルの進行方法に対して前記ノズルの側方に位置する前記第2層の第2領域に光を照射して前記第2領域を加熱しながら、前記ノズルを前記ステージに対して相対移動させる、ことを特徴とする三次元造形物の製造方法である。
【0013】
また、本発明の第2の態様は、溶融した熱可塑性樹脂を吐出するノズルをステージに対して相対移動させながら前記ステージ上に所望形状の層を形成する工程を繰り返し行い、前記ステージ上に前記層を積み重ねて三次元造形物を製造する三次元造形装置において、溶融した熱可塑性樹脂を吐出させながら前記ノズルを前記ステージに対して相対移動させ、吐出した溶融樹脂を固化させて第1層を形成した後に、前記ノズルを前記ステージに対して相対移動させながら、溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出させて第2層を形成する際に、前記ステージを平面視した時、溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出している前記ノズルの現在の位置を基準として、前記相対移動における前記ノズルの進行方法において前記ノズルよりも前方に位置する前記第1層の第1領域に光を照射して前記第1領域を加熱し、溶融した熱可塑性樹脂を前記第1層の上に吐出している前記ノズルの現在の位置を基準として、前記相対移動における前記ノズルの進行方法において前記ノズルの側方に位置する前記第2層の第2領域に光を照射して前記第2領域を加熱しながら、前記ノズルを前記ステージに対して相対移動させる、ことを特徴とする三次元造形装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱溶融積層造形法において、積層面と平行な方向についても、積層面と垂直な積層方向についても、各層の密着強度が大きく、機械強度の大きな三次元造形物を製造する方法と、そのための三次元造形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態1に係る三次元造形装置の全体構成を説明するための模式的な斜視図。
【
図2】実施形態1における押し出しユニットの構成を説明するための模式的な側面図。
【
図3】(a)現在形成中の層を第N層とした場合の第N-1層の模式的な平面図。(b)現在形成中の第N層のみを切り出した模式的な平面図。
【
図4】第N層を形成する際の押し出し位置及び加熱、冷却を説明するための模式的な平面図。
【
図5】第N層を形成中の各段階において、軌道の変曲点における加熱、冷却、押し出し位置を表した模式的な図。
【
図6】実施形態での加熱ユニット及び冷却ユニットの詳細な造形動作を説明するための図。
【
図7】実施形態の三次元造形装置の制御ブロック図。
【
図8】実施形態の三次元造形方法の工程順を示すフローチャート。
【
図10】(a)実施形態2における押し出しユニットの構成を示す図。(b)実施形態2における弁の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、本発明の実施形態である三次元造形物の製造方法と、それに用いる三次元造形装置について説明する。
尚、以下の実施形態の説明において参照する図面では、特に但し書きがない限り、同一の参照番号を付して示す要素は、同一の機能を有するものとする。
【0017】
尚、以下の説明中では、層という用語は、溶融した熱可塑性樹脂を複数回付与することで厚み方向に積み重ねて三次元造形物を形成する場合に、1回の付与で積まれる部分をいう。押し出しヘッドとステージを相対的に走査しながら熱可塑性樹脂を付与して積み重ねる場合には、一回の走査で付与する部分である。
三次元造形物の断面観察等で層と層の境界が確認できる場合もあるが、熱可塑性樹脂の均一性が高い場合などには、層と層の境界が明確に検出されない場合もある。
【0018】
[実施形態1]
(三次元造形装置の構成)
図1を参照して、実施形態1に係る三次元造形装置の全体の構成を説明する。
図1は、三次元造形装置の構成を示した模式的な斜視図である。
図1において、1は造形材を、2はリールを、3は押し出しユニットを、4はステージを、5はステージ移動装置を、6は制御部を、7はコンピュータを示している。
まず、押し出しユニット3について説明するが、多くの要素により構成される機構である為、
図2を参照してその構成を説明する。
【0019】
図2は、押し出しユニット3の構成を説明するための模式的な側面図で、1は
図1に記載の造形材1を、8はローラーを、9は材料導入部を、10は押し出しヘッドを、11は溶融樹脂を示す。また、12は加熱部を、13は押し出し口を、14は押し出しヘッドに搭載した回転しない歯車を、15は加熱ユニットを、16は加熱手段を示している。また、17は前記加熱ユニット15に搭載した歯車を、18は前記歯車17を回転させるモーターを、19は冷却ユニットを、20は冷却手段を、21は前記冷却ユニット19に搭載した歯車を、22は前記歯車21を回転させるモーターを示している。
【0020】
造形材1は、三次元造形に用いる原材料である。本実施形態では、熱可塑性樹脂をフィラメントに成形したものを用いるが、ペレットや粉末等の他の形態の材料を用いることもできる。
造形材1として用いるフィラメントは、たとえば、断面形状が円形で、直径が1.5~3.0mmで、長さが10~1000mのものが、好適である。造形材1は、リール2に巻き取られて収納されている。リール2を図中矢印の方向に回転することにより、造形材1を材料導入部9に供給することができる。
【0021】
また、本実施形態で用いられ得る熱可塑性樹脂は、例えば、PC(ポリカーボネート)樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)樹脂、PC/ABSポリマーアロイがある。さらには、PLA(ポリ乳酸)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、PEI(ポリエーテルイミド)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、およびこれらを改質した樹脂等が挙げられる。
【0022】
押し出しヘッド10は、造形材1である熱可塑性樹脂を加熱して溶融し、溶融樹脂11として押し出させるヘッドである。押し出しヘッド10は、前記材料導入部9、前記加熱部12、前記押し出し口13を含んでいる。
材料導入部9は、造形材1を押し出しヘッドに導入する部分であるが、
図2にはその構成の一例が図示されている。
図2において、8は2つのローラーである。
造形材1は、2つのローラー8に挟持されており、ローラー8が図中矢印の方向に回転することにより、前記リール2からフィラメントを引込み、加熱部12に送り込むことができる。
前記制御部6がローラー8の回転速度を制御することで、加熱部12への造形材の供給量を調整することができる。
【0023】
(三次元造形方法)
次に本実施形態における三次元造形方法を、順に説明する。
加熱部12は、図示しないヒーターを備えており、材料導入部9から供給される熱可塑性樹脂を加熱して溶融させる。
溶融状態となった熱可塑性樹脂は、後続の材料に押出されることにより、押し出し口13に送り込まれ、溶融樹脂11として、図中Z方向と逆方向、すなわち鉛直方向下向きに押し出しされる。
【0024】
なお、押し出し口13の開口は、直径0.1mm~5mmの物を用い、ローラー8、加熱部12と前記ステージ移動装置5を用い、前記ステージ4に押し出しされ積層される溶融樹脂11の平面方向の幅を制御する。
押し出し口13から押し出しされた溶融樹脂11は、柱状の粘性流体として、鉛直方向すなわちステージ4の方向に進行する。
単一の層を形成するステップでは、前記溶融樹脂11によって形成される線を並べ、列を形成する事によって平面方向の形状を得る。
【0025】
三次元造形物33の第一層目を形成するステップでは、溶融樹脂11は前記ステージ4の表面に着接するが、第二層目以降を形成する場合には、すでに積層された下層の表面に着接する。
どちらの場合であっても、溶融樹脂11は、着接した後に温度がガラス転移点(Tg)以下に降下し、固化する。
ステージ移動装置5は、ステージ4をXYZの3方向に移動させるための機構であり、制御部6の制御の下で動作する。
図示しない押し出しヘッド移動装置は、前記押し出しヘッド10をXYZの3方向に移動させるための機構であり、前記制御部6の制御の下で動作する。
【0026】
尚、三次元造形物を形成する際に、一層を造形するには、押し出しヘッド10とステージ4は、相対的にZ方向の距離を一定にして、XY面内で相対的に走査する動作を行う。
また、次の層を形成するには、押し出しヘッド10とステージ4は、相対的にZ方向の距離を一層分増加させてから、XY面内で相対的に走査する動作を行う。
【0027】
例えば、円筒形状の三次元造形物を造形する場合、溶融樹脂11を押し出しさせながら、押し出しヘッド10か前記ステージ4のいずれか一方にXY平面内での円運動をさせる。そして、積層数が増加するにしたがって、両者のZ方向の距離が、しだいに大きくなるような運動をさせることになる。
【0028】
本実施形態では、ステージ移動装置5と押し出しヘッド移動装置の両方ともXYZの3方向に移動動作可能な機構としたが、上記の動作を行うには必ずしも両方共が3方向に移動動作可能である必要はない。
したがって、たとえばステージ移動装置5をXYの2方向に移動させる機構とし、押し出しヘッド移動装置をZ方向に移動させる機構としてもよい。あるいは、XYZの3方向に移動動作可能な機構として、ステージ移動装置5か押し出しヘッド移動装置のいずれか一方を設け、他方を設けないようにすることも可能である。
【0029】
以上の実施により、三次元造形のための積層自体は達成されるが、本実施形態では、上述した動作と並行し、加熱ユニット15による造形物の表面への加熱と、冷却ユニット19による造形物の表面の冷却を行う。
【0030】
図3(a)、
図3(b)、
図4、
図5を参照して、加熱箇所及び冷却箇所に関して説明する。これらの図は、形成中の3次元造形物を上方より見た模式的な平面図である。
【0031】
図3(a)は現在形成中の層を第N層とした場合の第N-1層の模式的な平面図である。また、
図3(b)は、現在形成中の第N層のみを切り出した模式的な平面図である。図中の線28は押し出された樹脂の列の境界線を、矢印29は現在形成中の層での押し出し口の軌道(移動軌跡)を示している。
一般に、三次元造形物の強度が異方性を持たないようにするため、溶融樹脂11で形成される列の平面視の角度を層ごとに変える事が一般的であり、本実施形態では平面視で層ごとに列の角度を90度変えた場合を例に説明する。
【0032】
また、
図4は、第N層を形成する際の押し出し位置及び加熱、冷却を説明するための模式的な平面図である。また、
図5は、第N層を形成中の各段階において、軌道の変曲点における加熱、冷却、押し出し位置を表した模式的な図である。
P1は、
図2記載の押し出し口13より押し出しされる溶融樹脂11が触接する(積層される)領域を、P2はP1がステージ4に対して相対的に進行する方向の加熱領域を、P3はP1の側方の加熱領域を、P4は前記P1の後方の冷却領域を示している。
【0033】
加熱ユニット15は、ステージ4上にて固化した樹脂の領域P2及び領域P3の再加熱を行う。領域P2では現在形成中の層を第N層とした場合の第N-1層の樹脂を再加熱する事により、第N層と第N-1層の溶着強度の向上を図る。領域P3では現在形成中の第N層の現在形成中の列をM列とした場合の、M-1列の領域P1の側方に位置する箇所の樹脂の再加熱する。これにより列同士の溶着強度を向上させ、同一層内の溶着強度の向上を図る。領域P3の幅は、領域P1に押し出され積層される溶融樹脂11の幅以上に加熱を行うとM-1以外の列まで加熱されて所望形状から崩れる虞がある為、溶融樹脂11の幅未満である事が望ましい。また、加熱は、すでに積層した下層の温度が、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上で、ガラス転移温度+30℃未満となるよう局所加熱する。
【0034】
また、領域P2及び領域P3が造形物の端部から吐出される樹脂の幅未満に位置する場合、つまり三次元造形物の外縁部(最外周)近傍を加熱する場合には、過剰な加熱により三次元造形物の形状精度が劣化するのを防ぐため、加熱手段の出力を抑制する。
冷却ユニット19は、溶融樹脂が積層された直後の前記領域P4を局所冷却し、造形物の固化を早めることにより、形状、寸法の安定性を向上させる。
次に、ステージ上の樹脂を加熱、冷却する方法と機構について、詳しく説明する。
駆動機構は、加熱ユニット15及び冷却ユニット19の押し出しヘッドとの相対距離及び相対位置を維持させる。
【0035】
本実施形態は、押し出しヘッド10を中心軸として、押し出しヘッド10に取り付けられた回転しない歯車14と、加熱ユニット15に取り付けられた歯車17と歯車17に動力を伝えるモーターを備えている。また、冷却ユニット19に取り付けられた歯車21と歯車21に動力を伝えるモーターを備えている。歯車17及び歯車21は歯車14と噛み合っており、歯車17及び歯車21は自身が回転する事によって、歯車14を中心に回転する。
また、本実施形態では駆動機構に、押し出しヘッド10を中心として回転する歯車の構成を用いたが、押し出しヘッド10と加熱ユニット15と冷却ユニット19の相対距離及び位置を維持可能な手段であれば、円盤や、ロボットアーム等を用いてもよい。
【0036】
加熱ユニット15は、押し出し口より押し出しされ、外気等により冷却されて固化した樹脂の、押し出し口がステージより相対的に進行する方向及び側方の範囲の加熱を行う。加熱ユニット15の加熱手段は、加熱に要する時間が短いものが望ましい。造形材料が目標温度まで昇温するのに要する時間が長くなると、昇温を待つ為に押し出しヘッドの移動速度を低速で稼働させる必要が生じ、造形時間の増大を招く虞がある。
また、加熱範囲を局所に限定出来ない手法を用いると、造形材料の所定の場所以外までが加熱され、固化していた造形材料の粘度が低下し、造形物の形状が崩れる虞がある。
【0037】
したがって、加熱手段としては、例えば集光又はマスク機能のついた近赤外線ヒーターやレーザーなどのように、加熱範囲を局所に限定出来て、且つ急速に加熱できる手段を用いる事が望ましい。
また前方及び側方を加熱する為に、複数の加熱手段を用いてもよいが、装置が大型化する虞がある為、単一の加熱手段で加熱範囲を制限もしくは制御する事が可能なものが望ましい。
【0038】
そのため、本実施形態では、集光型の近赤外線ヒーターの熱源に半分のリング形状のハロゲンランプを用い、焦点の形状の直径が平面方向に積層される溶融樹脂の直径の3倍以下の半円に照射できる様に集光及び遮光した近赤外線ヒーターを用いる。
【0039】
冷却ユニット19は、押し出し口より押し出しされた樹脂の冷却を行う。
冷却ユニット19には、冷却対象である樹脂を非接触で冷却できる手段を用いるのが望ましい。冷却時に造形材料と接触すると、冷却ユニットに造形材料が付着して造形動作に問題が発生する虞がある。したがって、本実施形態では、ファンを用いて冷風を供給した。
【0040】
制御手段は、駆動手段の動作を制御して、加熱ユニット15が押し出しヘッド10の前方に来るように位置を制御する。その際、シーケンス制御では、システム上の位置と実機とのズレが蓄積される虞があり、それを補正するために定期的に補正(キャリブレーション)を行う必要がある為、本実施形態ではアブソリュートエンコーダーを用いて、フィードバック制御を行った。
【0041】
(制御部の構成)
制御部6は、三次元造形装置の各部の動作を制御するための制御回路である。
制御部6は、CPU、制御プログラムや制御用数値テーブルを記憶した不揮発性メモリであるROM、演算等に使用する揮発性メモリであるRAM、装置外や装置内各部と通信するためのI/Oポート、等を備えている。
なお、ROMには、三次元造形装置の基本動作を制御するためのプログラムが記憶されている。
【0042】
コンピュータ7は、記憶装置、演算装置および入出力装置を備えた電子計算機で、三次元形状編集ソフトウェアを実行可能である。コンピュータ7は、造形しようとする三次元モデル情報に基づき、押し出しヘッドで形成するのに適した多層モデルを構築し、各層を順次形成するための指示を制御部6に対して発することができる。
コンピュータ7は、三次元造形装置に内蔵されたコンピュータであってもよいし、ネットワーク等を介して三次元造形装置と接続可能な外部コンピュータであってもよい。
【0043】
次に、
図6を参照して、本実施形態での加熱ユニット15及び冷却ユニット19の詳細な造形動作に関して説明する。
直線部を形成する動作C1では、ステージ4の進行方向に対して、平行に前から加熱ユニット15、押し出しヘッド10、冷却ユニット19の順に並ぶように、加熱ユニット15に搭載した歯車17と、冷却ユニット19に搭載した歯車21を動作させる。かかる動作を伴いながら、押し出し口13より溶融樹脂11を押し出す。
【0044】
曲線部を形成する動作C2では、加熱ユニット15がステージ4の進行方向が変化する変曲点に差しかかった時に、加熱ユニット15の押し出しヘッド10との相対角度を変化させ、次に押し出しヘッド10が通過する軌跡を加熱できる様に動作させる。動作C2では、加熱ユニット15に搭載した歯車17を、モーター18を用い回転させて、押し出しヘッド10に搭載した回転しない歯車14の周りを回転動作させる。
【0045】
曲線部を形成する際の動作C3では、押し出しヘッド10が、ステージ4の進行方向が変化する変曲点に差しかかった時に、冷却ユニット19と押し出しヘッド10との相対角度を変化させ、押し出しヘッド10の通過した軌跡を冷却出来るように動作させる。動作C3では、冷却ユニット19に搭載した歯車21を、モーター22を用いて回転させて、押し出しヘッド10に搭載した回転しない歯車14の周りを回転動作させる。
【0046】
また、動作C1及び動作C3における冷却ユニット19の動作は、加熱ユニット15と干渉する様な変曲点での角度(本実施例では40度以下)である場合は、動作C2の動作を優先させ、冷却ファンの位置を干渉しない位置にして稼働させた。
【0047】
説明した以上の動作C1と動作C2と動作C3を用いて平面形状を形成し、その後ステージを1層の厚さ分だけ降下させ、さらに上記動作の組み合わせを繰り返し、三次元形状を形成する。
【0048】
(制御ブロックの構成)
次に、
図7を参照して、本実施形態の三次元造形装置の制御ブロックの構成を説明する。
図7は、装置各部の制御線の接続関係を示す簡易ブロック図である。図中の、5はステージ移動装置を、7はコンピュータ、18は
図2に記載の歯車17を回転させるモーター、22は歯車21を回転させるモーター、23はローラー駆動部、24は押し出しヘッド移動装置(
図1では不図示)を示している。また、25はヒーター駆動部を、26は冷却駆動部を示している。
ステージ移動装置5、押し出しヘッド移動装置24、制御部6、コンピュータ7の各々の機能については、すでに説明した通りである。
【0049】
ローラー駆動部23は、押し出しヘッド10の材料導入部9に内蔵された二つのローラー8を駆動する回路で、制御部6からの駆動指令を受信する回路や、ローラー駆動用モーターを動かすドライバ回路等を備えている。
【0050】
ヒーター駆動部25は、押し出しヘッド10の加熱部12に内蔵されたヒーターと加熱ユニット15の加熱手段16を駆動する回路で、ヒーター用電源や、通電制御回路、制御部6からの加熱指令を受信する回路等を備えている。
冷却駆動部26は、冷却ユニット19の冷却手段20を駆動させる回路で、送風用電源や、通電制御回路、制御部6からの加熱指令を受信する回路等を備えている。
【0051】
(三次元造形プロセス)
次に、本実施形態の三次元造形プロセスについて、順を追って説明する。
図8は、本実施形態の三次元造形プロセスの工程順を示すフローチャートである。
まず、工程S1では、造形する三次元モデルの三次元形状データを、コンピュータ7に格納する。三次元形状データは、コンピュータ7が作成したものであってもよいし、CADや三次元形状計測装置が作成したデータを、ネットワークや記憶媒体を介して入力したものであってもよい。三次元形状データ形式は、STEP形式、Parasolid形式、STL形式などが用いられるが、三次元形状をデジタルデータとして表現できるものであれば、その種類は限定されない。
【0052】
次に、工程S2では、複数の層を積層して三次元モデルを形成するときに用いる各層の形状データを、三次元形状データに基づいて、コンピュータ7が作成する。工程S2では、コンピュータ7は、内蔵する演算装置と三次元形状編集ソフトウェアを用いて、本実施形態の三次元造形装置で積層可能な一層の厚みで三次元モデル形状を分割した分割モデルを作成する。
【0053】
たとえば、
図9に示すように、造形しようとする三次元モデルが直方体27であった場合、三次元造形装置で積層可能な一層の厚みtでスライスモデルに分割する。説明の便宜のため、ここではN個の層に分割したものとし、下から順に各スライスモデルを27-1層、27-2層、・・、27-N層と呼ぶことにする。
【0054】
工程S3では、コンピュータ7は、工程S2で作成した分割モデルを参照しながら、三次元造形装置が三次元モデルを造形するために必要な命令セットを作成し、制御部6に送信する。尚、コンピュータ7が分割モデルを制御部6に送信し、制御部6が造形するために必要な命令セットを作成する構成としてもよい。命令セットは、1層目からN層目までを積層する手順を含むが、加熱及び冷却を行う箇所に関する命令も含んでいる。
【0055】
次に、工程S4では、制御部6は命令セットに従い装置各部を動作させ、単層の形成及び加熱冷却を行う。工程S4の動作はすでに説明した通りである。工程S4により、工程S2で作成した分割モデルの1層分の三次元造形が完了する。
【0056】
工程S5では、制御部6は、N層の1次分割モデルの全層の三次元造形が完了したかを判断し、未完了の場合は工程S4を再度行い、完了したら三次元造形を終了する。
【0057】
本実施形態によれば、従来の加熱及び冷却を用いない方法と比べ、平面方向及び積層方向の強度が高く且つ形状安定性の高い3次元造形物を作成する事が可能である。
【0058】
[実施形態2]
以下、図面を参照して、実施形態2について説明する。本実施形態は、実施形態1に対して、押し出しユニット3の構成及び動作の点で相違する。実施形態1と共通する部分についての説明は省略する。
【0059】
本実施形態の押し出しユニットの構成を、
図10(a)、
図10(b)を参照して説明する。本実施形態では、
図10(a)に示すように、押し出しヘッド10を中心とした円上に加熱手段を一つもしくは複数設け、そのすべてに対して、弁30を設ける。弁30の開閉により、造形動作に対応した積層上面の加熱位置の変化及び、出力の変更に対応する。
【0060】
実施形態2の第1の具体例としては、加熱手段16にリング型ハロゲンランプを用いる。
図10(b)に平面形状を示すように、弁30には、押し出しヘッド10を中心とした円上に、アーチ長穴32が形成された円形状の板31を用いる。円形状の板31を二枚準備し、押し出しヘッド10を中心に、それぞれ別に回転可能なように、重ねて保持させた。二枚の円形状の板31を造形動作に同期させてそれぞれを回転させ、アーチ長穴32の長穴形状の重なり位置を制御することで、ハロゲンランプより出る近赤外線光を透過する開口の形状及び位置を変更し、造形面における局所加熱位置の制御を行った。
【0061】
実施形態2の第2の具体例としては、加熱手段16に8つの熱風トーチを用いた。押し出しヘッド10を中心とした円上に、等ピッチに8つの熱風トーチを配置し、それぞれに開閉弁を取り付けた。開閉弁の操作により、加熱位置を変更し、造形上面の加熱位置の制御を行った。
【0062】
本実施形態では、加熱手段の各々に、局所加熱を制御するための弁を設けることにより、局所加熱する位置と熱量を精密に制御することができる。それにより、平面方向及び積層方向の強度が高く且つ形状安定性の高い3次元造形物を作成する事が可能である。
【0063】
[他の実施形態]
なお、本発明は、以上説明した実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。
本発明は、実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0064】
1・・・造形材/2・・・リール/3・・・押し出しユニット/4・・・ステージ/5・・・ステージ移動装置/6・・・制御部/7・・・コンピュータ/8・・・ローラー/9・・・材料導入部/10・・・押し出しヘッド/11・・・溶融樹脂/12・・・加熱部/13・・・押し出し口/14・・・歯車/15・・・加熱ユニット/18・・・モーター/19・・・冷却ユニット/20・・・冷却手段/21・・・歯車/22・・・モーター/33・・・三次元造形物