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  • 特許-アルツハイマー病指標表示装置及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】アルツハイマー病指標表示装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20240304BHJP
   C12Q 1/28 20060101ALI20240304BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20240304BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C12M1/34 E
C12M1/34 Z
C12Q1/28
C12Q1/26
G01N33/50 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019540889
(86)(22)【出願日】2018-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2018031554
(87)【国際公開番号】W WO2019049705
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2017173037
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構、 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】510096614
【氏名又は名称】自然免疫制御技術研究組合
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】杣 源一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】數村 公子
(72)【発明者】
【氏名】小林 優多郎
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-537133(JP,A)
【文献】特表2004-527754(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143703(WO,A1)
【文献】特表2008-509668(JP,A)
【文献】特開2003-227837(JP,A)
【文献】特開2010-047616(JP,A)
【文献】国際公開第2016/011335(WO,A1)
【文献】European Journal of Neuroscience,2006年,Vol.23,p.2648-2656
【文献】PLoS ONE,2011年,Vol.6, No.12,e28092, p.1-8
【文献】ZHONGGUO LAONIANXUE ZAZHI,2014年,Vol.34, No.4,p.1046-1047
【文献】Acta Neuropathologica,2016年,Vol.132, No.3,p.377-389
【文献】Gerontology,2002年,Vol.48,pp.128-132
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/34
C12Q 1/00-1/70
G01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢血中の、好中球活性としてのスーパーオキシド産生活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、酸化LDL量、食細胞貪食能、トリグリセリド、空腹時血中グルコース、総コレステロール、ヘモグロビンA1c、及びインスリン、からなる群よりスーパーオキシド産生活性が選ばれる1つ以上を測定する測定手段と、
該測定手段によって測定された指標をアルツハイマー病の病態指標として表示する表示手段と
を備えることを特徴とするアルツハイマー病指標表示装置。
【請求項2】
前記測定手段は、スーパーオキシド産生活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、酸化LDL量、及び食細胞貪食能、からなる群よりスーパーオキシド産生活性が選ばれる2つ以上を測定することを特徴とする請求項1記載のアルツハイマー病指標表示装置。
【請求項3】
前記測定手段は、スーパーオキシド産生活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、及び酸化LDL量を測定することを特徴とする請求項1記載のアルツハイマー病指標表示装置。
【請求項4】
末梢血中の、好中球活性としてのスーパーオキシド産生活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、酸化LDL量、及び食細胞貪食能、を測定する測定手段と、
該測定手段によって測定された指標に対して、a×A+b×B+c×C+d×D、をアルツハイマー病の病態指標として表示する表示手段と
を備えることを特徴とするアルツハイマー病指標表示装置。
ただし、
A:正規化スーパーオキシド産生活性
B:正規化ミエロペルオキシダーゼ活性
C:正規化酸化LDL量
D:正規化食細胞貪食能
a:正の係数、b、c、d:0以上の係数
【請求項5】
採血された末梢血中の、好中球活性としてのスーパーオキシド産生活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、酸化LDL量、食細胞貪食能、トリグリセリド、空腹時血中グルコース、総コレステロール、ヘモグロビンA1c、及びインスリン、からなる群よりスーパーオキシド産生活性が選ばれる1つ以上を測定して、当該測定された指標をアルツハイマー病の病態指標として表示することを特徴とするアルツハイマー病指標表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好中球機能評価システム等を用いたアルツハイマー病指標表示装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国では、近年、人口の高齢化とともに認知症の患者数が年々増加している。国内の患者数は現在460万人を超えており、2025年には、700万人、高齢者の5人に1人になると見込まれている。認知症患者の約60%はアルツハイマー症、約20%が血管性認知症であり、残りはレビー小体型認知症などの種々の認知症疾患が含まれている。アルツハイマー症は未だに原因、治療法、予防法が明らかでなく、早急な医学的解決が求められている。2011年にNIA/AA(The National Institute on Aging and the Alzheimer's Association)から提案されたアルツハイマー症の診断基準では、アルツハイマー症を発症前段階、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー症による認知症の3つの段階に分類しており、主要臨床診断基準と研究用診断基準を提示している。前者は、認知機能障害(記憶障害、失語、失行など)や精神障害(抑うつ、不眠、幻覚など)等の臨床的所見である。後者は、アルツハイマー症に関するバイオマーカー評価(脳脊髄液中のアミロイドβやタウタンパク質の定量)、PET(陽電子放出断層撮影)による脳内アミロイド蓄積のイメージング、MRIによる脳萎縮の評価を含むが、このような診断マーカーの多くは病理変化との関係が十分に解明されておらず、高い侵襲性や高額な装置・検査費用等の課題が残されている。そこで、アルツハイマー症の早期診断・発症前診断を行うためには、簡便かつ低侵襲にアルツハイマー症の発症を検出できる生化学的診断マーカーが特に有効であると考えられる。これまでに、血液の生化学マーカーである、各種の炎症性サイトカイン、酸化ストレスマーカー(例えば、過酸化脂質、4-ヒドロキシ-2-ノネナール(4-HNE)、最終糖化産物(AGEs))、マイクロRNA等の測定がアルツハイマー症の診断マーカーとして提唱されている(例えば、非特許文献1)。近年、末梢血の酸化ストレスがアルツハイマー発症の初期段階に関与していることが指摘されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-084757号公報
【文献】特開2017-074008号公報
【文献】特開2017-040473号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】N. Sharma et al., Journal of Clinical and Diagnostic Research, 10, 1-6, 2016
【文献】M. Schrag et al., Neurobiology of Disease, 59, 100-110, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
好中球は、生体防御に関わる免疫担当細胞であり、生体内異物を認識すると、酵素NADPH(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)オキシダーゼにより、活性酸素種であるスーパーオキシドアニオンラジカル(通称スーパーオキシド、O2 ・-)を産生する。さらに、スーパーオキシド代謝産物である過酸化水素を基質として、酵素ミエロペルオキシダーゼ(MPO)は次亜塩素酸を生成する。このような活性酸素種は生理的な濃度において様々な生体内反応(例えば、細胞周期、貪食反応)を制御しているが、過剰に産生されると、組織における炎症反応を惹起することから、脳内の特定の部位における好中球活性等はアルツハイマー症を始めとする酸化ストレス関連疾患の発症に関与していることが指摘されている。これに対して、血液脳関門によって隔てられている脳内とは独立の末梢血中の好中球活性等がアルツハイマー病と関連するとすれば、この末梢血中の好中球活性等を測定することによって簡便にアルツハイマー症の病態指標を評価することができる。ところで、數村らは、蛍光及び化学発光のリアルタイム測定システムを用いて、簡便な操作で、血液のMPO活性及びスーパーオキシド産生活性を同時に評価する方法を開発しており(特許文献1、3)、また、好中球等の食細胞の貪食能を評価する方法も開示されている(特許文献2)。
【0006】
そこで、本発明は、特許文献1~3に開示されている好中球活性評価システム(以下、単に「好中球活性評価システム」ともいう)等を用いて、アルツハイマー指標表示装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のアルツハイマー症指標表示装置は、末梢血中の、好中球活性としてのスーパーオキシド産生活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、酸化LDL量、食細胞貪食能、トリグリセリド、空腹時血中グルコース、総コレステロール、ヘモグロビンA1c、及びインスリン、からなる群よりスーパーオキシド産生活性が選ばれる1つ以上を測定する測定手段と、該測定手段によって測定された指標をアルツハイマー病の病態指標として表示する表示手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記測定手段は、スーパーオキシド産生活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、酸化LDL量、及び食細胞貪食能、からなる群よりスーパーオキシド産生活性が選ばれる2つ以上を測定することで、より高い精度でアルツハイマー病の病態指標を提供することができる。
【0009】
また、前記測定手段は、スーパーオキシド産生活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、及び酸化LDL量を測定することで、更により高い精度でアルツハイマー病の病態指標を提供することができる。
【0010】
また、本発明のアルツハイマー病指標表示装置は、末梢血中の、好中球活性としてのスーパーオキシド産生活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、酸化LDL量、及び食細胞貪食能、を測定する測定手段と、該測定手段によって測定された指標に対して、a×A+b×B+c×C+d×D、をアルツハイマー病の病態指標として表示する表示手段とを備えることを特徴とする。
ただし、
A:正規化スーパーオキシド産生活性
B:正規化ミエロペルオキシダーゼ活性
C:正規化酸化LDL量
D:正規化食細胞貪食能
:正の係数、b、c、d:0以上の係数
【0011】
また、本発明のアルツハイマー病指標表示方法は、採血された末梢血中の、好中球活性としてのスーパーオキシド産生活性、ミエロペルオキシダーゼ活性、酸化LDL量、食細胞貪食能、トリグリセリド、空腹時血中グルコース、総コレステロール、ヘモグロビンA1c、及びインスリン、からなる群よりスーパーオキシド産生活性が選ばれる1つ以上を測定して、当該測定された指標をアルツハイマー病の病態指標として表示する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡便、かつ、高精度にアルツハイマー病の病態指標を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】水迷路試験との相関を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に掛かる好中球活性の評価は、特許文献1及び特許文献3に記載の方法に従う。すなわち、試料中のMPO活性はアミノフェニルフルオレセイン(APF: Aminophenyl fluorescein)を指示薬とした蛍光検出法に基づき、スーパーオキシド産生活性は2-メチル-6-(4-メトキシフェニル)-3,7-ジヒドロイミダゾ[1,2-a]ピラジン-3-オン(MCLA)を指示薬とした化学発光法に基づいている。好中球刺激剤を試料に添加することで、好中球の炎症防御能力(抗酸化能又は酸化ストレス防止能ともいえる)を評価することができるため、本実施形態では、ホルボール12-ミリスチン酸13-酢酸塩(PMA)を使用している。好中球刺激剤による試料中の正味のMPO活性又はスーパーオキシド産生活性は、刺激剤添加後の最大蛍光量又は発光量から、刺激前の蛍光量又発光量を各々差し引いた値として、評価することができる。また、試料中の貪食能は、特許文献2に記載の方法に従う。すなわち、pH感受性蛍光色素を標識した貪食粒子(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製)を指示薬とした蛍光検出法に基づいている。マウス末梢血中の酸化LDL量は市販のELISAキット(Kamiya Biomedical Company)を用いて評価できる。
【0016】
実験には、アルツハイマー症モデルマウスとして12-14週齢の雄SAMP8マウス(SAMP8/Ta Slc、日本SLC社)を使用し、1週間予備飼育後、2群に分け、一方の群に高脂肪食(35%脂肪を含む飼料(リサーチダイエット))を与え、もう一方の群に低脂肪食を与えた(詳しくは後記のとおり。)。高脂肪食を与えることで、アルツハイマー症の発症を促進した。なお、水は自由飲水で与えた。マウスの飼育は、温度湿度管理された動物施設にて、自由摂食、自由飲水、12時間光照射/12時間暗黒下の環境条件にて行った。17週間飼育後、以下に示す水迷路試験を1週間行い、学習機能を評価した。水迷路試験終了の翌日、心臓より採血をした。本動物実験は香川大学動物実験委員会によって承認されている。
【0017】
生体内の炎症反応に関わる白血球のスーパーオキシド産生活性、MPO活性及び貪食能は、好中球活性評価システム(CFL-P2200、浜松ホトニクス社)(特許文献1~3)を用いて測定した。採血にはヘパリンを抗凝固剤として用いた。血液は遠心分離(1200g 20分)を行い血漿を得た。血漿の生化学分析は以下に示す市販のキットを用いて評価した。
インスリン(insulin):マウスインスリンELISAキット(シバヤギ)
ヘモグロビンA1c(HbA1c):HbA1c測定キット(積水メディカル)
トリグリセリド(TG)、総コレステロール(TC):各測定キット(和光純薬)
空腹時血中グルコース(fasting BG):血糖自己測定器 (ロッシュ・ダイアグノスティク)
【0018】
本実施例では、マウスを以下の2群に分けた。
(1)NC群:4%脂肪を含む飼料(低脂肪飼料)及び水を自由摂取により与えた。
(2)PC群:35%脂肪を含む飼料(高脂肪飼料)及び水を自由摂取により与えた。
【0019】
[スーパーオキシド(O2 ・-)産生活性]と[ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性]
マウス末梢血の好中球活性(O2 ・-産生活性とMPO活性)は好中球活性能評価試作機(特許文献1、3)を用いて評価した。マウス末梢血30μLに溶血試薬(Tonbo Biosciences)500μLを添加し、室温で2分反応後、200×g,3分間遠心処理を行い、細胞懸濁液を回収した。なお、溶血試薬は市販されているものを使用してよいが、細胞固定化剤を含まないものが好ましい。血液30μLから得られた好中球画分に化学発光試薬(MCLA、終濃度0.5μM)及び蛍光試薬(APF、終濃度2μM)を添加し、緩衝液(塩化ナトリウム154mM、塩化カリウム5.6mM、HEPES10mM、塩化カルシウム1mM)を用いて全量を500μLとした。測定試料を好中球活性能評価試作機に設置し、PMA(終濃度1μM)刺激前後における化学発光及び蛍光値をリアルタイム(0.5秒毎)に測定した。スーパーオキシド産生活性及びMPO活性の値は、PMA刺激前後の測定値蛍光強度差とした。各測定値を平均値0,標準偏差1となるように変換(正規化(Wikipedeia:数量を代表値で割るなどして無次元量化し、互いに比較できるようにすることを、正規化という。多変量解析には『平均が 0、分散が 1 になるよう、線形変換する』が使われる。))した。
【0020】
[酸化LDL(oxLDL)]
マウス末梢血中の酸化LDL量は市販のELISAキット(Kamiya Biomedical Company)を用いて測定した。測定方法はキット付属のプロトコルに従い、マウス血漿をキット付属の緩衝液で1000倍希釈したサンプルを測定に供した。各測定値を平均値0,標準偏差1となるように変換(正規化)した。
【0021】
[貪食能(貪食)]
マウス末梢血の食細胞貪食能は食細胞貪食能評価装置(特許文献2)を用いて評価した。測定についは、マウス末梢血30μLにpH感受性蛍光粒子(Green E.Coli)を添加し、37℃で1時間反応させ、陰性対照には、低温(4℃)処理を加え、貪食反応を阻害させた。貪食能の値は、貪食反応後に食細胞貪食能評価装置を用いて10回(5秒間)蛍光を測定した平均値を得、陰性対照の測定値を引いた蛍光強度差の値とした。各測定値を平均値0,標準偏差1となるように変換(正規化)した。
【0022】
[水迷路試験]
(1)装置
市販の黒色インクを円筒形プール(直径100 cm、深さ40 cm)の水(23±1℃)に添加し、水泳中のマウスがプラットフォームを視認できないようにした。なお、透明なプラットフォーム(直径10 cm)は水面下1cmに位置するように設置した。プール水面の真上に設置した市販のデジタルカメラにより、マウスの水泳を動画で記録した。水泳軌跡の解析は、画像解析ソフトAminalTrackerを用いて、「Neuroinformatics, 14, 479-481, 2016」記載の方法に従い行った。
【0023】
(2)手順
試験前日に、マウスをプールに馴れさせるために、各々1回泳がせた。手順は、水面上1cmに固定したプラットフォームにマウスを20秒間静置したのち、30秒間自由に泳がせた。その後、実験者の手でマウスをプラットフォーム上に誘導し、20秒間静置した。また、プールに入れる際はマウスをプールの壁向きに入水させ、実験者は速やかにマウスから見えない位置に移動した。1~5日目はマウスにプラットフォームの位置を記憶させるトレーニング(4回/日)を実施した。トレーニングの手順は、マウスを任意の位置からプールに入れ、60秒間泳がせ、水面下1cmに設置したプラットフォームを探索させた。プラットフォーム到達に要する時間を記録し、60秒で到達できない場合は60秒と記録した。また、時間内にプラットフォームに到達しないマウスは実験者の手でプラットフォームに誘導した。プラットフォームに到達後、20秒間静置し、マウスをプールから取り出した。なお、5日間のトレーニングにより、いずれの群においてもプラットフォーム到達に要する時間の短縮が認められたが、群間で差は認められなかった。6日目にプローブ試験を実施した。プローブ試験は、プールからプラットフォームを取り除き、マウスを60秒間泳がせ、プールのプラットフォームがあった4分円領域内での滞在時間を測定した。なお、プローブ試験は各マウスにつき1回行った。
【0024】
[学習機能]
アルツハイマー病モデルマウス(SAMP8)のデータに基づいて、統計解析を検討した。好中球活性・酸化LDL・貪食能の各測定値と学習機能評価の従来法(水迷路試験)との相関解析を行った結果、好中球活性(O2 ・-産生活性)との間にとても強い相関(相関係数:-0.81)、酸化LDLとの間に強い相関(相関係数:-0.63)が認められた(図1)。好中球活性・貪食能・酸化LDLの各測定値を統合化し、学習機能の予測が可能となるか検討を行った。
【0025】
各測定値を平均値0,標準偏差1となるように変換した。この変換値(正規化した測定値)に重回帰分析法を適用し、次のとおりの結果を得た。

(水迷路試験)= -0.78×(O2 ・-産生活性)-0.08×(酸化LDL)
相関係数=0.8228 (1)

(水迷路試験)= -1.29×(O2 ・-産生活性)+0.62×(MPO活性)
相関係数=0.9131 (2)

(水迷路試験)= -1.295×(O2 ・-産生活性)+0.620×(MPO活性)+0.021×(貪食能)
相関係数=0.9133 (3)

(水迷路試験)= -1.264×(O2 ・-産生活性)+0.787×(MPO活性)-0.316×(酸化LDL)
相関係数=0.9480 (4)

(水迷路試験)= -1.24×(O2 ・-産生活性)+0.79×(MPO活性)-0.05×(貪食能)-0.33×(酸化LDL)
相関係数=0.9489 (5)
【0026】
統合化した測定値は、単独の測定値に比べて、水迷路試験とのより高い相関性(統合化:0.9489、単独:-0.21~-0.81)を示したことから、好中球活性、酸化LDL、貪食能を統合化することの意義を見出した。
【0027】
また、これらの結果から、
4変数の場合には、(O2 ・-産生活性)、(MPO活性)、(酸化LDL)、(貪食能)
3変数の場合には、(O2 ・-産生活性)、(MPO活性)、(酸化LDL)
2変数の場合には、(O2 ・-産生活性)、(MPO活性)
1変数の場合には、(O2 ・-産生活性)
を用いた場合に、より高い相関係数が認められているために、より望ましいことが分かる。
【0028】
中でも、単独での場合は、酸化LDLとの間に強い相関(相関係数:-0.63)が認められているのに対して、2変数の場合は、(O2 ・-産生活性)と(酸化LDL)との組合せよりも(相関係数=0.8228)、(O2 ・-産生活性)と(MPO活性)との組合せのほうがより高い相関係数(相関係数=0.9131)が認められた点は注目に値する。
【0029】
各測定値を平均値0,標準偏差1となるように変換した。この変換値(正規化した測定値)に重回帰分析法を適用し、次のとおりの結果を得た。
【0030】
正規化測定値の重回帰分析
(重回帰式を作ることで、単独の相関式(単回帰式)よりも高い相関係数が得られる順)
【0031】
【表1】
*重回帰式を構成する項目が単独で示す(水迷路試験)との相関係数のうち、最も高い値と重回帰式を作ることで得られた相関係数との差。
【0032】
正規化測定値の単回帰分析
(単回帰式で高い相関係数を示した順)
【0033】
【表2】
【0034】
重回帰式により得られた相関係数が単回帰式の相関係数よりも高くなっていることは、重回帰したことにより水迷路試験(認知機能)をより正確に予測する式になっているといえる。したがって、選択した複数の項目を評価することは認知機能を改善評価に有用であることを示している。以上の点で、表1に示すように、単回帰よりも0.129も相関係数が高くなった4つの項目(O2 ・-、MPO、貪食、oxLDL)を測定することが最も有用である。その他にも0.1以上高くなった組合せ(O2 ・-、MPO、oxLDL)、(HbA1c、貪食)、(TG、O2 ・-)、(MPO、oxLDL)が次いで有望である。また、0.05以上高くなった組合せ(O2 ・-、MPO、貪食)、(O2 ・-、MPO)、(TG、MPO)、(MPO、貪食、oxLDL)、(貪食、oxLDL)、(HbA1c、O2 ・-)、(MPO、貪食)、(TG、貪食)、(fasting BG、O2 ・-)も有用である。
【0035】
本明細書で引用したすべての刊行物、特許及び特許出願は、そのまま参考として、ここにとり入れるものとする。
また、明細書、特許請求の範囲及び図面を含む2017年 9月 8日に出願の日本国特許出願2017-173037の開示は、そのまま参考として、ここにとり入れるものとする。
図1