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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】耐火被覆構造およびその施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
E04B1/94 D
E04B1/94 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020035244
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021139115
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-002534(JP,A)
【文献】実開昭63-187610(JP,U)
【文献】特開2020-016030(JP,A)
【文献】特許第7228412(JP,B2)
【文献】特開平08-042018(JP,A)
【文献】特開昭51-034514(JP,A)
【文献】特開2016-223202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形鋼の長手方向の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、
異種の耐火被覆材は、形鋼の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火塗料と、第一の領域に隣接する形鋼の表面の第二の領域に設けられて端部が耐火塗料の表面に重ね合された非発泡性の耐火成形板とからなり、
形鋼がH形鋼であり、耐火成形板の端部側は、第一の領域の耐火塗料の表面に重ねて設けられるとともに形鋼のウェブとフランジによって区画形成される空間において塞ぎ板として配置された第一材と、第一材に隣接して設けられるとともに第二の領域のウェブとフランジによって区画形成される空間においてスペーサーとして配置された第二材と、第一材、第二材およびフランジを外側から被覆する第三材とを含んで構成されることを特徴とする耐火被覆構造。
【請求項2】
耐火塗料に対する耐火成形板の重ね代が15mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐火被覆構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の耐火被覆構造を施工する方法であって、
形鋼の表面の第一の領域に耐火塗料を施工した後、第二の領域および耐火塗料の表面に耐火成形板を施工することを特徴とする耐火被覆構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の柱や梁の表面を材軸方向に異種の耐火被覆材で被覆した耐火被覆構造に関し、特に、材軸方向の一方側を耐火塗料で被覆し、他方側を耐火成形板で被覆した耐火被覆構造およびその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼構造建築物など、鋼材を使った構造物が火災に曝された場合、鋼材は温度上昇によって強度や剛性が低下して、構造物が崩壊する危険性がある。そのため、鉄骨造の梁や柱には、火災加熱による温度上昇を抑制するために、耐火被覆が施される(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
耐火被覆材料の一つとして、ポリリン酸アンモニウムを主成分とする耐火塗料がある。耐火塗料は、火災時に熱を受けると250℃前後で発泡を開始して、20~30倍に発泡して断熱層を形成し、鋼材の温度上昇を抑制する。
【0004】
鉄骨梁の材軸方向の一方側を耐火塗料で耐火被覆し、他方側をロックウールなどの他の耐火被覆材で耐火被覆する仕様を考えた場合、その場合の耐火性能は、耐火塗料と他の耐火被覆材との取り合い部(継手部)の納まりが重要となってくる。その納まり次第では、耐火塗料あるいは他の耐火被覆材が有する断熱性能が有効に発揮されず、所定の耐火性能を得られないおそれがある。
【0005】
このような問題を解決するために、本発明者は既に特許文献2に記載の耐火被覆構造を提案している。この耐火被覆構造は、形鋼の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火塗料と、第一の領域に隣接する形鋼の表面の第二の領域に設けられて端部が耐火塗料の表面に重ね合された非発泡性のロックウールとからなる。これによれば、異種の耐火被覆材の境界部の耐火性能を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-222958号公報
【文献】特願2019-041848号(現時点で未公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、鉄骨梁などの材軸方向の一方側を耐火塗料で耐火被覆し、他方側をロックウールではなく耐火成形板で耐火被覆する場合において、耐火塗料と耐火成形板の境界部の耐火性能を確保することのできる構造が求められていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐火塗料と耐火成形板の境界部の耐火性能を確保することのできる耐火被覆構造およびその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る耐火被覆構造は、形鋼の長手方向の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、異種の耐火被覆材は、形鋼の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火塗料と、第一の領域に隣接する形鋼の表面の第二の領域に設けられて端部が耐火塗料の表面に重ね合された非発泡性の耐火成形板とからなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造は、上述した発明において、形鋼がH形鋼であり、耐火成形板の端部側は、第一の領域の耐火塗料の表面に重ねて設けられるとともに形鋼のウェブとフランジによって区画形成される空間において塞ぎ板として配置された第一材と、第一材に隣接して設けられるとともに第二の領域のウェブとフランジによって区画形成される空間においてスペーサーとして配置された第二材と、第一材、第二材およびフランジを外側から被覆する第三材とを含んで構成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造は、上述した発明において、耐火塗料に対する耐火成形板の重ね代が15mm以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る耐火被覆構造の施工方法は、上述した耐火被覆構造を施工する方法であって、形鋼の表面の第一の領域に耐火塗料を施工した後、第二の領域および耐火塗料の表面に耐火成形板を施工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る耐火被覆構造によれば、形鋼の長手方向の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、異種の耐火被覆材は、形鋼の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火塗料と、第一の領域に隣接する形鋼の表面の第二の領域に設けられて端部が耐火塗料の表面に重ね合された非発泡性の耐火成形板とからなるので、簡易に施工でき、かつ、耐火塗料と耐火成形板の境界部の耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、形鋼がH形鋼であり、耐火成形板の端部側は、第一の領域の耐火塗料の表面に重ねて設けられるとともに形鋼のウェブとフランジによって区画形成される空間において塞ぎ板として配置された第一材と、第一材に隣接して設けられるとともに第二の領域のウェブとフランジによって区画形成される空間においてスペーサーとして配置された第二材と、第一材、第二材およびフランジを外側から被覆する第三材とを含んで構成されるので、H形鋼を耐火被覆する耐火塗料と耐火成形板の境界部を簡易に施工できるとともに、その耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、耐火塗料に対する耐火成形板の重ね代が15mm以上であるので、例えば1時間耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る耐火被覆構造の施工方法によれば、上述した耐火被覆構造を施工する方法であって、形鋼の表面の第一の領域に耐火塗料を施工した後、第二の領域および耐火塗料の表面に耐火成形板を施工するので、簡易に施工でき、かつ、耐火塗料と耐火成形板の境界部の耐火性能を確保することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を示す図である。
図2図2は、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を示す全体図であり、(1)は側面図、(2)はA-A線に沿った断面図、(3)はB-B線に沿った断面図、(4)はC-C線に沿った断面図である。
図3図3は、本発明に係る耐火被覆構造の実施の形態を示す部分図であり、(1)は側面図、(2)はD-D線に沿った断面図、(3)はE-E線に沿った断面図である。
図4図4は、耐火試験に用いた試験体および熱電対位置を示す図であり、(1)は側面図、(2)は断面図である。
図5図5は、耐火試験に用いた試験体の寸法一覧図である。
図6図6は、1時間耐火性能に関する試験結果を示す図である。
図7図7は、2時間耐火性能に関する試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る耐火被覆構造およびその施工方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態では、プレコート部材で図1に示すような架構を構築する際に、接合部や継手部を異種材料で耐火被覆することを想定している。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る耐火被覆構造10は、H形鋼(形鋼)からなる梁12の長手方向の異なる領域R1(第一の領域)を被覆する耐火塗料14と、領域R2(第二の領域)を被覆する耐火成形板16(異種の耐火被覆材)とを備える。
【0020】
図2は要部拡大図である。図3図2の外側被覆部分の図示を省略した部分図である。
これらの図に示すように、梁12は、ウェブ18と上フランジ20、下フランジ22を有し、上フランジ20の上面には、鉄筋コンクリート版やALC版からなる床スラブ24が設けられる。
【0021】
耐火塗料14は、加熱により発泡して増厚する発泡性のものであり、ウェブ18と下フランジ22の表面全体と、上フランジ20の小口および下面に塗装等により設けられる。耐火塗料14の厚さt1は、耐火成形板16の厚さt2に比べて非常に小さく設定されている。耐火成形板16は、板状に成形された非発泡性のものであり、例えば、けい酸カルシウム耐火被覆板で形成することができる。耐火成形板16は、ピースA1、A2(第三材)と、ピースB(第二材)と、ピースC(第一材)により構成される。ピースA1、A2、B、Cは同じ厚さt2であるが,BとCの厚さはA1,A2の厚さ以上であっても良い。耐火塗料14と耐火成形板16の境界部26においては、耐火成形板16の端部16Aが、耐火塗料14の端部14Aの上に重ね代Wを介して重ね合されている。
【0022】
ピースA1は、梁12の側部に配置される矩形状の側板である。このピースA1は、床スラブ24の下面から下フランジ22の下側にかけてウェブ18に対向した側部に設けられる。ピースA2は、梁12の下面に配置される矩形状の底板である。このピースA2は、下フランジ22の下面に対向した底部に設けられる。ピースA1の下端とピースA2の幅方向両端の小口は、図示しないビスや釘等で固定される。ピースA1、A2は、後述するピースB、Cおよび下フランジ22を外側から被覆する。
【0023】
ピースBは、領域R2のウェブ18と上下フランジ20、22によって区画形成される空間においてスペーサーとして配置される略矩形状の板である。このピースBは、後述のピースCに隣接した位置と、ここから梁12の長手方向に所定の間隔をあけた位置とに複数設けられる。ピースBの内側縁部の上下の隅角部は面取りしてある。面取りする理由は、ウェブ18と上下フランジ20、22の溶接部のR形状との干渉を避けるためである。ピースBの外側縁部は、上下フランジ20、22の小口部よりも外側に位置している。ピースBの下側縁部と下フランジ22の間には、小三角形板状のくさび30を挿入している。ピースBの内側縁部と上下縁部は、接着剤28でウェブ18と上下フランジ20、22にそれぞれ固定される。ピースBの外側縁部には、ピースA1が複数の図示しないビスおよび接着剤28で固定される。
【0024】
ピースCは、領域R1の耐火塗料14の表面に重ねて設けられ、ウェブ18と上下フランジ20、22によって区画形成される空間において塞ぎ板として配置される略矩形状の板である。ピースCの厚さt2が重ね代Wに相当する。ピースCの内側縁部の上下の隅角部は面取りしてある。面取りする理由は、ウェブ18と上下フランジ20、22の溶接部のR形状との干渉を避けるためである。ピースCの下側縁部と下フランジ22の耐火塗料14の間には、小三角形板状のくさび30を挿入している。ピースCの内側縁部と上下縁部は、ウェブ18と上下フランジ20、22の耐火塗料14の表面に接着剤28で固定される。ピースCの外側縁部は、ピースA1によって被覆される。
【0025】
ピースA1、A2、B、Cを接着するために用いる接着剤28には、例えば、けい酸ナトリウム系接着剤やシーリングを使用することができる。
【0026】
次に、上記の耐火被覆構造10の施工方法について説明する。ここでは、耐火塗料14が領域R1に施工された梁12に対してピースCを設置し、その後、ピースB、A1、A2の順に設置して最後に接着剤で目地処理を行う場合を例にとり説明する。
【0027】
まず、寸法を調整したピースCの周囲の縁部に接着剤を塗布する。続いて、ピースCを領域R1の耐火塗料14の表面に設置し、ピースCの下部にくさび30を挿入する。次に、寸法を調整したピースBの周囲の縁部に接着剤を塗布し、このピースBをピースCの領域R2側に隣接して仮固定する。その後、ピースBの下部にくさび30を挿入して本固定し、必要に応じて側面に対してやすり掛けを行うことによってピースB、Cの面合わせを行う。
【0028】
次に、ピースA1をピースBにビスや釘等で留付けた後、ピースA2をピースA1にビスや釘等で留付ける。その後、ピースCと耐火塗料14の表面およびピースA1の目地部分へ接着剤を塗布する。そして、ピースA2と耐火塗料14の表面との目地部分へ接着剤を塗布する。その後、ピースCと耐火塗料14の表面およびピースA1の目地部分への接着剤の押込み・充填を行う。また、ピースA2と耐火塗料14の表面との目地部への接着剤の押込み・充填を行う。以上の手順により、上記の耐火被覆構造10を施工することができる。
【0029】
本実施の形態の耐火被覆構造10によれば、境界部26における発泡性の耐火塗料14の厚さを局所的に厚くすることなく、境界部26のみならず全体の耐火性能を確保することができる。したがって、本実施の形態は、上記の従来の構造に比べて簡易に施工でき、かつ、異種耐火被覆材の境界部26の耐火性能を確保することができる。また、領域R1側からの境界部26の見栄えをよくすることができる。本実施の形態は、プレコート部材で架構を構築する際に、接合部や継手部を異種材料で耐火被覆する場合に境界部の耐火性能を確保するのに特に有効である。
【0030】
上記の実施の形態において、耐火塗料14の厚さt1、耐火成形板16(ピースA1、A2、B、C)の厚さt2、重ね代Wは、本発明の作用効果を阻害しない範囲で適宜変更可能である。例えば、後述の試験結果に示すように、1時間耐火性能を確保するために、耐火塗料14の厚さt1を1.75mm程度、耐火成形板16の厚さt2を15mm程度以上に設定してもよい。また、2時間耐火性能を確保するために、耐火塗料14の厚さt1を4.80mm程度、耐火成形板16の厚さt2を25mm程度以上に設定してもよい。重ね代Wは、耐火成形板16の厚さt2程度以上に設定するのが好ましく、35mm程度に設定するのが望ましい。
【0031】
また、上記の実施の形態では、H形鋼を耐火塗料と耐火成形板で耐火被覆する場合を例にとり説明したが、本発明はH形鋼に限るものではなく、例えば、溝形鋼や山形鋼などを耐火塗料と耐火成形板で耐火被覆する場合にも適用可能である。このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0032】
(本発明の効果の検証)
次に、本発明の効果を検証するために行った試験および結果について説明する。
【0033】
本試験は、本発明に係る耐火被覆構造において、載荷時の異種耐火被覆材の取合い部の耐火性能(1時間耐火性能、2時間耐火性能)を調べたものである。
【0034】
図4は、試験体の概略図である。図中の数字(1~21)は熱電対番号(温度測定位置)である。この図に示すように、試験体は、耐火塗料と耐火成形板で被覆された鉄骨梁(H形鋼)で構成した。H形鋼は、H-400×200×8×13mm、SM490Aを用いた。梁の上側には、厚さ100mm、幅600mのALC版をスタッドボルトで取り付けて床を模擬した。耐火塗料は、関西ペイント(株)製の耐火テクト(登録商標)を使用した。耐火成形板は、日本インシュレーション(株)製のニュータイカライト2号(タイカライトは登録商標)を使用した。取合い部は、上記の境界部の構造を適用し、取合い部以外の一般部は、耐火成形板に規定された納まりと施工要領にしたがって設計した。図5に、取合い部に用いる各ピースの形状・寸法等を示す。取合い部の取り付け施工は、ピースC(塞ぎ板)、ピースB(スペーサー)、ピースA1(側板)、ピースA2(底板)の順に行い、最後に接着剤で目地処理を行った。耐火塗料主材厚さは、1.75mm(1時間耐火試験体の場合)、4.80mm(2時間耐火試験体の場合)とした。ピースCと耐火塗料との重ね代は35mmとした。
【0035】
1時間耐火仕様の耐火塗料による被覆と1時間耐火仕様の耐火成形板による被覆を施した試験体(1時間耐火試験体)に対して、防耐火性能試験・評価業務方法書に準拠して1時間耐火試験を実施した結果(温度測定結果)を図6に示す。また、2時間耐火仕様の耐火塗料による被覆と2時間耐火仕様の耐火成形板による被覆を施した試験体(2時間耐火試験体)に対して、防耐火性能試験・評価業務方法書に準拠して2時間耐火試験を実施した結果(温度測定結果)を図7に示す。
【0036】
なお、試験体に対する荷重は3等分点2線載荷とし、梁に長期許容曲げモーメント(長期許容引張応力度)を作用させた状態で加熱を行った。加熱は、熱電対によって測定した温度の時間経過がISO834-Part.1の標準加熱温度曲線に沿うように加熱した。加熱時間は60分とし、加熱終了後、鋼材温度が降下過程に入り変位が安定するまで載荷を続けた状態で放冷した。そして、炉内温度・試験体温度・試験体変位・荷重を測定し、梁のたわみ量またはたわみ速度が規定値(最大たわみ量182.25mm、最大たわみ速度8.10mm/min)を超えた場合に、試験体が荷重を支持できなくなったと判定した。
【0037】
一般的な目安として、鉄骨梁の鋼材温度を550℃以下としないと鉄骨梁は長期許容曲げモーメントを支持できなくなるが、図6および図7に示すように、スパン中央(耐火被覆継手部)では450℃程度、耐火成形板側で380℃程度、そして耐火塗料側では500℃程度と、いずれの断面の鋼材温度も550℃以下に収まっている。鋼材最高温度は耐火成形板側<スパン中央<耐火塗料側となっており、耐火被覆の継手部は弱点になっていない。このように鋼材最高温度が550℃以下であり,たわみ量およびたわみ速度が規定値を超えることがなかったことから、1時間耐火にあっては図6(4)、(5)に示すように1時間耐火性能を満足し、2時間耐火にあっては図7(4)、(5)に示すように2時間耐火性能を満足することが確認された。
【0038】
本実施の形態によれば、耐火塗料と耐火成形板を梁の材軸方向に組み合わせた合成耐火被覆工法が可能になる。これにより、耐火塗料を鉄骨ファブリケーターなどの工場で鉄骨梁に施工(プレコート)し、その梁を現場に搬入して建方した後、現場で耐火成形板(乾式耐火被覆)によって残りの無被覆部分を施工することができ、図1のような耐火被覆工法が可能となる。この結果、現場における耐火被覆工事の省力化・工期短縮・環境改善が可能となる。
【0039】
以上説明したように、本発明に係る耐火被覆構造によれば、形鋼の長手方向の表面の異なる領域をそれぞれ被覆する異種の耐火被覆材を備え、この異種の耐火被覆材の端部どうしが所定の重ね代を介して重ね合された耐火被覆構造であって、異種の耐火被覆材は、形鋼の表面の第一の領域に設けられて加熱により発泡する発泡性の耐火塗料と、第一の領域に隣接する形鋼の表面の第二の領域に設けられて端部が耐火塗料の表面に重ね合された非発泡性の耐火成形板とからなるので、簡易に施工でき、かつ、耐火塗料と耐火成形板の境界部の耐火性能を確保することができる。
【0040】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、形鋼がH形鋼であり、耐火成形板の端部側は、第一の領域の耐火塗料の表面に重ねて設けられるとともに形鋼のウェブとフランジによって区画形成される空間において塞ぎ板として配置された第一材と、第一材に隣接して設けられるとともに第二の領域のウェブとフランジによって区画形成される空間においてスペーサーとして配置された第二材と、第一材、第二材およびフランジを外側から被覆する第三材とを含んで構成されるので、H形鋼を耐火被覆する耐火塗料と耐火成形板の境界部を簡易に施工できるとともに、その耐火性能を確保することができる。
【0041】
また、本発明に係る他の耐火被覆構造によれば、耐火塗料に対する耐火成形板の重ね代が15mm以上であるので、例えば1時間耐火性能を確保することができる。
【0042】
また、本発明に係る耐火被覆構造の施工方法によれば、上述した耐火被覆構造を施工する方法であって、形鋼の表面の第一の領域に耐火塗料を施工した後、第二の領域および耐火塗料の表面に耐火成形板を施工するので、簡易に施工でき、かつ、耐火塗料と耐火成形板の境界部の耐火性能を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本発明に係る耐火被覆構造およびその施工方法は、形鋼の長手方向に異なる領域を被覆する耐火塗料と耐火成形板の境界部の耐火性能を確保するのに有用であり、特に、簡易に施工するのに適している。
【符号の説明】
【0044】
10 耐火被覆構造
12 梁(形鋼)
14 耐火塗料
14A,16A 端部
16 耐火成形板
18 ウェブ
20 上フランジ
22 下フランジ
24 床スラブ
26 境界部
28 接着剤
30 くさび
A1,A2 ピース(第三材)
B ピース(第二材)
C ピース(第一材)
R1 領域(第一の領域)
R2 領域(第二の領域)
t1,t2 厚さ
W 重ね代
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7