(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】導電性部材、電子写真用プロセスカートリッジ、及び電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/02 20060101AFI20240304BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20240304BHJP
G03G 21/18 20060101ALI20240304BHJP
C08L 9/02 20060101ALI20240304BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20240304BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240304BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240304BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
G03G15/02 101
G03G15/00 551
G03G15/00 550
G03G21/18 114
C08L9/02
C08L9/06
C08L21/00
C08K3/04
F16C13/00 A
(21)【出願番号】P 2020046663
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019069098
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】倉地 雅大
(72)【発明者】
【氏名】山内 一浩
(72)【発明者】
【氏名】西岡 悟
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 健二
(72)【発明者】
【氏名】菊池 裕一
【審査官】市川 勝
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-254215(JP,A)
【文献】特開2007-101603(JP,A)
【文献】特開2013-218275(JP,A)
【文献】特開平01-109376(JP,A)
【文献】特開2004-133287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/02
G03G 15/00
G03G 21/18
C08L 9/02
C08L 9/06
C08L 21/00
C08K 3/04
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体、及び導電層をこの順に有する電子写真用の導電性部材であって、
該導電層は、
第1のゴムの架橋物を含む第1のゴム組成物で構成されたマトリックスと、
該マトリックス中に分散された複数個の導電性を有するドメインと、を有し、
該ドメインの各々は、第2のゴムの架橋物および導電性粒子を含む第2のゴム組成物で構成され、
該第1のゴム、及び該第2のゴムは、ジエン系ゴムであり、
該第1のゴムは、少なくとも1つのモノマー単位を有し、
該第2のゴムは、該第1のゴムが有する該モノマー単位とは異なるモノマー単位を少なくとも1つ有しており、
該第1のゴム、及び該第2のゴムの溶解度パラメーター(SP値)の絶対値の差が、0.2(J/cm
3)0.5以上、4.0(J/cm
3)0.5以下であり、
該第1のゴム組成物の温度23℃、相対湿度50%、周波数80Hzで測定される損失係数tanδ1と、該第2のゴム組成物の温度23℃、相対湿度50%、周波数80Hzで測定される損失係数tanδ2との比(tanδ1/tanδ2)が、0.45以上、2.00以下であ
り、
前記ドメインの体積抵抗率が、1.0×10
1
~1.0×10
4
Ωcmである、ことを特徴とする電子写真用の導電性部材。
【請求項2】
前記第1のゴム、及び前記第2のゴムが、各々独立に、イソプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、及びブタジエンゴムからなる群から選択される請求項1に記載の導電性部材。
【請求項3】
前記第1のゴムが、NBRであり、前記第2のゴムが、SBRまたはイソプレンゴムである請求項1または2に記載の導電性部材。
【請求項4】
前記第1のゴムが、NBRであり、前記第2のゴムが、SBRである請求項3に記載の導電性部材。
【請求項5】
前記第1のゴムが、SBRであり、前記第2のゴムが、NBRまたはイソプレンゴムである請求項1または2に記載の導電性部材。
【請求項6】
前記第1のゴムが、SBRであり、前記第2のゴムが、NBRである請求項5に記載の導電性部材。
【請求項7】
前記SBRにおけるスチレン由来のモノマー単位の含有比率が、18質量%以上40質量%以下である請求項2~6のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項8】
前記NBRにおけるアクリロニトリル由来のモノマー単位の含有比率が、18質量%以上40質量%以下である請求項2~7のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項9】
前記マトリックスの体積抵抗率が、1.0×10
8Ωcm以上である
請求項1~8のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項10】
前記マトリックスの体積抵抗率が、1.0×10
12Ωcm以上である
請求項9に記載の導電性部材。
【請求項11】
前記導電層における前記ドメインの体積分率が、10体積%以上40体積%以下である
請求項1~10のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項12】
前記導電性粒子がカーボンブラックである
請求項1~11のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項13】
前記ドメイン中の前記導電性粒子の量が、前記第2のゴム100質量部に対して30質量部以上200質量部以下である
請求項1~12のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項14】
前記ドメイン中の前記導電性粒子の量が、前記第2のゴム100質量部に対して50質量部以上150質量部以下である請求項13に記載の導電性部材。
【請求項15】
前記ドメイン中の前記導電性粒子の量が、前記第2のゴム100質量部に対して50質量部以上150質量部以下である請求項14に記載の導電性部材。
【請求項16】
前記導電層が、前記第1のゴム、前記第2のゴム、導電性粒子、硫黄、及び加硫促進剤を含む導電層形成用のゴム混合物の架橋体を含み、該加硫促進剤がチアゾール系化合物を含む請求項1~15のいずれか一項に記載の導電性部材。
【請求項17】
前記チアゾール系化合物が、スルフェンアミド系化合物である請求項16に記載の導電性部材。
【請求項18】
電子写真画像形成装置の本体に着脱可能であり、電子写真感光体と、請求項1~17のいずれか一項に記載の導電性部材を具備することを特徴とする電子写真用プロセスカートリッジ。
【請求項19】
前記導電性部材が、前記電子写真感光体を帯電する帯電部材である請求項18に記載の電子写真用プロセスカートリッジ。
【請求項20】
請求項1~17のいずれか一項に記載の導電性部材を具備することを特徴とする電子写真画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は電子写真画像形成に使用される導電性部材に関する。また、本開示は、該導電性部材を用いた電子写真用プロセスカートリッジ、及び電子写真画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置においては、帯電部材、転写部材、及び現像部材として導電性部材が使用されている。帯電部材、及び転写部材は、いずれも対向配置された電子写真感光体や紙の如き被帯電部材に対して放電することで被帯電部材を帯電させる機能を奏するものである。
【0003】
特許文献1は、体積固有抵抗率1×1012Ω・cm以下の原料ゴムAより主になるイオン導電性ゴム材料からなるポリマー連続相と、原料ゴムBに導電粒子を配合して導電化した電子導電性ゴム材料からなるポリマー粒子相とを含んでなるマトリックス・ドメイン構造のゴム組成物、及び該ゴム組成物から形成された弾性体層を有する帯電部材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の一態様は、圧縮永久歪みが生じたとしても、被帯電部材を均一に帯電させ得る電子写真用の導電性部材の提供に向けたものである。また本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資する電子写真用プロセスカートリッジの提供に向けたものである。さらに、本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像を安定して形成することができる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、導電性支持体、及び導電層をこの順に有する電子写真用の導電性部材であって、
該導電層は、第1のゴムの架橋物を含む第1のゴム組成物で構成されたマトリックスと、該マトリックス中に分散された複数個の導電性を有するドメインと、を有し、 該ドメインの各々は、第2のゴムの架橋物及び導電性粒子を含む第2のゴム組成物で構成され、
該第1のゴム、及び該第2のゴムは、ジエン系ゴムであり、
該第1のゴムは、少なくとも1つのモノマー単位を有し、該第2のゴムは該第1のゴムが有するモノマー単位とは異なるモノマー単位を少なくとも一つ有しており、
該第1のゴムと該第2のゴムの溶解度パラメーター(SP値)の絶対値の差が、0.2(J/cm3)0.5以上、4.0(J/cm3)0.5以下であり、
該第1のゴム組成物の温度23℃、相対湿度50%、周波数80Hzで測定される損失係数tanδ1と、該第2のゴム組成物の温度23℃、相対湿度50%、周波数80Hzで測定される損失係数tanδ2との比(tanδ1/tanδ2)が、0.45以上、2.00以下であり、
前記ドメインの体積抵抗率が、1.0×10
1
~1.0×10
4
Ωcmである、電子写真用の導電性部材が提供される。
【0007】
また本開示の他の態様によれば、電子写真画像形成装置の本体に着脱可能であり、電子写真感光体と、上記の導電性部材を具備する電子写真用プロセスカートリッジが提供される。
更に本開示の他の態様によれば、上記の導電性部材を具備する電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様は、圧縮永久歪みが生じたとしても、被帯電部材を均一に帯電させ得る電子写真用の導電性部材を得ることができる。また本開示の他の態様によれば、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資する電子写真用プロセスカートリッジを得ることができる。さらに、本開示の他の態様によれば、高品位な電子写真画像を安定して形成することができる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示に係る導電性部材の長手方向に対して垂直な断面図である。
【
図2】本開示に係る導電性部材の導電層の長手方向に対して垂直な断面図である。
【
図3】本開示に係る導電層の3次元の立体図である。
【
図4】本開示に係るNBRにおけるアクリロニトリル質量%とSP値の相関から得られた検量線の図である。
【
図5】本開示に係るSBRにおけるスチレン質量%とSP値の相関から得られた検量線の図である。
【
図6】本開示に係るプロセスカートリッジの断面図である。
【
図7】本開示に係る電子写真画像形成装置の断面図である。
【
図8】本開示に係る導電性部材の電気抵抗測定装置の概略図である。
【
図9】本開示に係る導電性部材の電気抵抗測定の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に係る帯電ローラは、弾性体層中の導電粒子を均一に存在させるうえで好ましい構成であるとの認識を得た。
しかしながら、特許文献1に係る帯電ローラは、他部材と当接させた状態で放置したときに、弾性体層の他部材との当接位置に容易に回復しない変形(以降、「圧縮永久歪み」ともいう)が生じることがあった。弾性体層の圧縮永久歪みが生じた帯電ローラを電子写真画像の形成に供した場合、電子写真画像に当該圧縮永久歪みに起因するスジ(以降、「放置セットスジ」ともいう)が生じることがあった。
すなわち、特許文献1に係る帯電ローラにおいては、ポリマー粒子相は、カーボンブラックの如き導電粒子を含むため、ゴム弾性が低下している。その結果、ドメインは、外力を受けて変形したときの回復性が低い。そのため、当該帯電ローラは、圧縮永久歪みを生じやすいと考えられる。
また、弾性体層中のポリマー粒子相同士の位置関係は、帯電ローラからの安定放電に重要な役割を果たしていると考えられるが、弾性体層の圧縮永久歪みが生じた部位と、圧縮永久歪みが生じていない部位とでは、ポリマー粒子相同士の位置関係が変化しており、圧縮永久歪みの発生部位と非発生部位とで放電状態が異なっていると考えられる。
【0011】
そこで、本発明者らは、導電粒子を含むドメインをマトリックス中に分散させてなる導電層を有する電子写真用の導電性部材について、圧縮永久歪みに起因する放電ムラの発生を防止し得る新たな構成を得るべく検討を重ねた。
その結果、下記(1)~(4)に記載の要件を満たす電子写真用の導電性部材が、圧縮永久歪みに起因する放電ムラの発生の防止に有効であることを見出した。
【0012】
要件(1)
導電性支持体、及び導電層をこの順に有し、該導電層は、第1のゴムの架橋物を含む第1のゴム組成物で構成されたマトリックスと、該マトリックス中に分散された複数個の導電性を有するドメインと、を有し、該ドメインの各々は、第2のゴムの架橋物及び導電性粒子を含む第2のゴム組成物で構成される。
【0013】
要件(2)
該第1のゴム、及び該第2のゴムは、ジエン系ゴムであり、該第1のゴムは、少なくとも1つのモノマー単位を有し、該第2のゴムは該第1のゴムが有するモノマー単位とは異なるモノマー単位を少なくとも一つ有している。
【0014】
要件(3)
該第1のゴムと該第2のゴムの溶解度パラメーター(SP値)の絶対値の差が、0.2(J/cm3)0.5以上、4.0(J/cm3)0.5以下である。
【0015】
要件(4)
該第1のゴム組成物の温度23℃、相対湿度50%、周波数80Hzで測定される損失係数tanδ1と、該第2のゴム組成物の温度23℃、相対湿度50%、周波数80Hzで測定される損失係数tanδ2との比(tanδ1/tanδ2)が、0.45以上、2.00以下である。
【0016】
従来、導電性部材と当接部材の間に生じる変形の抑制に対して、主に導電性部材を構成するゴムの架橋形態の最適化、及びゴムに含まれる充填剤等の配合で制御が成されてきた。また、導電性部材としては、感光ドラムや、中間転写体、印刷媒体などの当接物体に対して、均一な放電を達成するため、ゴム中には必ず導電性物質を含有させる必要が有る。例えば、導電性物質として導電性粒子を用い、ゴム中に含有させると、ゴム弾性が低下するため、変形に対する回復性が悪化する。その結果、セットスジのような画像弊害が顕在化しやすくなる場合がある。
一方で、特に印刷速度の高速化に伴って、単位時間あたりに多量の電荷移動量が必要とされるため、ゴム中に比較的多量に導電性粒子を含有させる必要が有る。ゴム中への多量の導電性粒子の含有は、ゴム弾性の低下を招来し、ひいては、変形回復性の低下を招来することがある。
また、導電性部材に印加されるせん断力などの外力が増大すると同時に、外力により生じた変形に対して、変形の回復が追従できず、機械的歪みが蓄積され続けるため、潜在的に変形の影響を受けやすい。
従って、特に高速プロセス下においては、弾性層の良好な変形回復性と、安定した放電量の確保とは、トレードオフの関係にあると言える。
【0017】
本発明者らは、変形回復性と、安定した放電量とを高いレベルで達成し得る帯電部材を得るべく検討を重ねた。その結果、上記要件(1)~要件(4)を満たす導電層を備えた電子写真用の導電性部材が上記の課題の解決に資することを見出した。
マトリックスは第1のゴムの架橋物を含む第1のゴム組成物で構成され、ドメインは各々第2のゴムの架橋物及び導電性粒子を含む第2のゴム組成物で構成される。
このようなマトリックス・ドメイン構造とすることで、ドメインを構成する第2のゴム同士、及びマトリックスを構成する第1のゴム同士で連結された架橋だけでなく、ドメインとマトリックスの界面においても、架橋が形成される。これらの、三つの複合型の架橋形態は、導電層を構成するゴム内部で、三次元的にネットワークが形成され、特にドメインがマクロな架橋点として振る舞う。その結果、該導電層は、外力に対する優れた機械的歪みの抑制効果を発現することができる。
【0018】
導電層中では、複数個のドメインが導電性を担う。具体的には、マトリックスとドメインとの界面で、トンネル電流を介して、電荷の授受が行われる。従って、ドメインが多量の導電性粒子が含む一方で、マトリックスは、導電性粒子を実質的に含まない。このようなマトリックス・ドメイン構造を有する導電層に対して外力が加わった場合、機械的歪みは主にマトリックスにおいて緩和されると考えられる。また、ドメインが多量の導電性粒子を含有することで、マトリックスに対して、ドメインは相対的に硬く、導電層を変形しにくくする機能を担う。
また、本開示に係る導電性部材によれば、均一な放電に必要な導電性を導電層に付与するための導電性粒子の量を、当該マトリックス・ドメイン構造を有しない導電層を備えた従来の導電性部材と比較して、大幅に低減することができる。
また、マトリックスとドメイン間で架橋反応が進行することで、ドメインがマクロな架橋点として作用し、外力に対する優れた機械的歪みの緩和特性を発現することができる。
【0019】
本発明者らは、マトリックスとドメイン間で架橋反応を進行させ、機械的歪みをよりよく緩和させることについて、相分離構造におけるドメインとマトリックスを構成するゴムの化学構造に着目をした。その結果、マトリックスおよびドメインを構成するゴムとしてジエン系ゴムを用いることが有効であることを見出した。さらに、マトリックスを構成するゴムは少なくとも1つのモノマー単位を有し、ドメインを構成するゴムは、マトリックスに含まれるモノマー単位とは異なるモノマー単位を少なくとも1つ有していることが必要であることを見出した。
即ち、マトリックス及びドメインは互いに異なるゴムで構成される。これは、ドメインを構成するゴムが、マトリックスに含まれるモノマー単位とは異なるモノマー単位を少なくとも1つ有することで、本開示に係る効果の発現に必要なマトリックス・ドメイン構造の形成を可能とするためである。
また、マトリックスとドメインとを構成するゴムの両方が、構造中にジエン骨格を有することで、界面の一部が相溶し、マトリックスとドメインの界面の親和性の向上に寄与する。また、ジエン系ゴムはポリマー主鎖に二重結合を有するため、化学的な反応性が高い。その結果、マトリックス-ドメイン間の架橋反応が進行し、界面の安定性が向上し、優れた変形応答性を発現することができる。
【0020】
また、ゴムの機械的特性は、一般的に粘弾性周波数特性と言われる、ゴムに印加される外力の周波数によって大きく異なる挙動を示す。
例えば、静止状態のような低周波領域と、回転駆動時のような高周波領域における機械的歪みの緩和挙動が大きく異なる場合がある。
【0021】
本開示に係る効果を発現するためには、マトリックス・ドメイン構造においては、この粘弾性周波数特性を近似化することも重要である。
画像出力工程で、様々な周波数領域の機械的歪みが導電性部材に印加される。
従って、例えば、ドメインとマトリックスの粘弾性周波数特性が大きく異なると、回転時と停止時で機械的歪みの緩和挙動がドメインとマトリックスで大きく異なり、マトリックス・ドメイン構造の変化に伴った放電特性の変化を招来する場合があった。
その結果、放置セットスジが顕在化する場合があった。この課題は、導電性粒子をドメインに多量に含有し、放電の起点であるドメインが外力に対して変形しづらい本開示のような構成においても、発生することがわかった。
【0022】
この粘弾性周波数特性は、分子運動性に帰着するため、一般的に材料の分子構造に大きく依存することが知られている。
従って、分子レベルで化学構造を設計し、ドメインとマトリックスを構成する材料の選択をすることが、本開示に係る効果発現のための重要なポイントである。
ここで、マトリックスの第1のゴム組成物を構成する第1のゴムはジエン骨格を含む少なくとも一つのモノマー単位を有する。一方、ドメインの第2のゴム組成物を構成する第2のゴムは、ジエン骨格を含む少なくとも一つのモノマー単位と、第1のゴムが有するモノマー単位とは異なるモノマー単位を少なくとも一つ有する。尚、第2のゴムにおけるジエン骨格を含むモノマー単位と第1のゴムが有するモノマー単位とは異なるモノマー単位が同じモノマー単位であってもよい。その場合、第1のゴムと第2のゴムのジエン骨格を有するモノマー単位がそれぞれ異なるモノマー単位であることを意味する。
【0023】
要件(3)に関し、マトリックスとドメインを構成するゴムの溶解度パラメーターとは、分子の凝集エネルギー密度の平方根であり、分子同士の凝集する力(分子間力)の大小を表す。
SP値差を0.2(J/cm3)0.5以上にすることで、2種類のゴム材料がマトリックス-ドメイン型の相分離構造の形成を可能とし、ドメインとマトリックスの界面が安定化する。その結果、ドメインからマトリックスへの導電性粒子の移行が抑制される。
【0024】
SP値差を4.0(J/cm3)0.5以下にすることで、マトリックス中へのドメインの均一な分散を可能とし、その結果、繰り返し摺動した際に受ける外力を効果的に分散し、変形に対して十分な応答性を発現させることができる。さらに、導電性粒子をドメイン内に安定的に閉じ込めることを可能とし、ドメイン同士の凝集による導電性の変化を抑制することができる。その結果、当接部材と導電性部材との当接箇所と非当接箇所における導電性の変化を抑制し得る。
【0025】
さらに、要件(4)に関して、ゴムや樹脂等の粘弾性体に応力を与えて変形させると、与えられた応力の多くは、内部変形のエネルギーとして貯蔵され、応力の除去に際して、復元の原動力となる。しかし、一部は応力印加時の歪みに伴う分子構造の摩擦のために消費され、熱エネルギーに変換される。この内部摩擦の大小の指標を示す値として、損失正接(以下、「tanδ」ともいう)が用いられる。
【0026】
マトリックス・ドメイン構造におけるマトリックスとドメインとの界面を安定化するには、ドメインとマトリックスのtanδの関係が重要となる。例えば、ドメインとマトリックスのtanδが大きく異なっている場合、ドメイン及びマトリックスのいずれか一方に過剰な外力が集中し、ドメインまたはマトリックスに機械的歪みが過剰に蓄積されることがある。その結果、ドメイン同士が凝集する場合がある。ドメイン同士の凝集は、ドメイン間の電荷の授受を不均一化させることがある。
また、ドメインとマトリックスのtanδが大きく異なっている場合、印刷停止後の機械的歪みの緩和のムラが顕著に発生し、ドメインからマトリックスへの導電性粒子の移動が発生する場合があった。
さらに、マトリックスのtanδ及びドメインのtanδは、マトリックス及びドメインへの応力の負荷と除荷の繰り返しの頻度、すなわち周波数によって異なり、特に、高周波数領域において、マトリックスのtanδとドメインのtanδとが大きく異なる傾向にある。
【0027】
上記要件(4)は、tanδが異なりやすい、応力の負荷と除荷とが高頻度で繰り返される場合に相当する周波数80Hzにおけるドメインとマトリックスの変形に対する応答性の比を規定している。この値が、0.45~2.00の範囲にあることで、応力の負荷と除去とが高頻度で加えられたときにも歪みが、マトリックス及びドメインのいずれか一方に偏って蓄積されることを抑制でき、ドメインとマトリックスの界面をより安定化させることができる。
【0028】
本開示においては、ドメインとマトリックスの材料は、化学構造中にジエン骨格を有するジエン系ゴムから選択される。このジエン骨格の存在によって、tanδの値を近付けることができる。
【0029】
以下、本開示に係る電子写真用の導電性部材の実施形態例として、ローラ形状を有する導電性部材(以降、「導電性ローラ」ともいう)によって詳細に説明する。
【0030】
図1は、導電性ローラ1の長手方向に対して垂直な断面図である。導電性ローラ1は、円柱状または中空円筒状の導電性の導電性支持体2、該導電性支持体の外周に形成された導電層3を有している。
【0031】
図2に導電性ローラの導電層の長手方向に対して垂直な断面図を示す。導電層3は、海領域となるマトリックス3aと島領域となるドメイン3bとからなるマトリックス・ドメイン構造を有する。また、導電性粒子3cが前記ドメイン3bに偏在している。
【0032】
<マトリックス・ドメイン構造の確認方法>
マトリックス・ドメイン構造は、次のようにして確認することができる。
具体的には、導電性部材の導電層から、薄片を作製して、詳細観察を行えばよい。薄片化する手段としては、例えば、鋭利なカミソリや、ミクロトーム、FIBなどが挙げられる。また、マトリックス・ドメイン構造の観察を好適に実施するために、染色処理、蒸着処理など、導電性の相と絶縁性の相とのコントラストが好適に得られる前処理を施してもよい。破断面の形成、前処理を行った薄片に対して、レーザー顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察することができる。
【0033】
<導電性支持体>
導電性支持体を構成する材料としては、電子写真用の導電性部材の分野で公知なものから適宜選択して用いることができる。一例として、アルミニウム、鉄などの金属、銅合金、ステンレスなどの合金、導電性を有する樹脂材料などが挙げられる。更に、これら材料に酸化処理やクロム、ニッケルなどで鍍金処理を施してもよい。鍍金の方法としては電気鍍金、無電解鍍金のいずれも使用することができるが、寸法安定性の観点から無電解鍍金が好ましい。ここで使用される無電解鍍金の種類としては、ニッケル鍍金、銅鍍金、金鍍金、その他各種合金鍍金を挙げることができる。鍍金厚さは、0.05μm以上が好ましく、作業効率と防錆能力のバランスを考慮すると、鍍金厚さは0.1~30μmであることが好ましい。導電性支持体の形状としては、円柱状または中空円筒状を挙げることができる。この導電性支持体の外径は、φ3mm~φ10mmの範囲が好ましい。
【0034】
<導電層>
≪マトリックス≫
マトリックスは、少なくとも1つのモノマー単位を有する第1のゴムを含む。また、マトリックスは、ドメインと比較して相対的に体積抵抗率が高い。すなわち、マトリックスは、ドメインと比較して導電性粒子の含有量が相対的に少ないため、マトリックスは、ドメインと比較して優れたゴム弾性を発現することができる。
【0035】
[第1のゴム組成物]
第1のゴム組成物としては、ジエン系ゴムであり、第2のゴムとは異なる第1のゴムの架橋物を含み、前記SP値差を満たしてマトリックス・ドメイン構造のマトリックスを形成し得るものであれば特に限定されない。ここで、ジエン系ゴムとは、ポリマー主鎖に二重結合を有するゴムと定義される。
一方、ポリマー主鎖が二重結合を有さないか、または、有していても極僅かな場合は非ジエン系ゴムとして定義される。例えば、ジエンを原料モノマーとするエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)は、ジエンが付加反応で消費されて残らないことからジエン系ゴムには含まれない。
また、イソブチレンと少量のイソプレンを低温重合したゴムであるブチルゴム(IIR)は、イソプレン由来の二重結合が極僅かのために非ジエン系ゴムとして分類される。
マトリックスに、補強剤として、第1のゴムの変形回復性に影響がない程度に、補強性カーボンブラックを配合することも可能である。ここで使用する補強性カーボンブラックとしては、導電性が低く表面積が小さい、FEF、GPF、SRF、MTカーボン等を挙げることができる。
さらに、マトリックスを形成する第1のゴムには、必要に応じて、変形回復性を損なわない程度に、ゴムの配合剤として一般に用いられている充填剤、加工助剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、軟化剤、分散剤、着色剤等を添加してもよい。
【0036】
≪ドメイン≫
ドメインは、第2のゴムの架橋物、及び、導電性粒子を含む第2のゴム組成物で構成される。導電性粒子を含むことで、ドメインは導電性を発現する。ここで導電性とは体積抵抗率が1.0×108Ω・cm未満であることを指す。
【0037】
<第2のゴム>
第2のゴムとしては、第1のゴムと異なるモノマー単位を有する。また、第1のゴムと絶対値で0.2(J/cm3)0.5以上、4.0(J/cm3)0.5以下のSP値差にあり、相分離構造を形成し得るものであれば特に限定されない。第2のゴムとしては、第1のゴムと同様に、ジエン系ゴムから選択して用いられる。
【0038】
<第1及び第2のゴムの選択>
導電層を構成するドメインとマトリックスの材料について、詳細を説明する。マトリックス・ドメイン構造及び機械的歪みの緩和特性を決定する支配的な因子は、マトリックスとドメインに含まれるゴムの組み合わせである。
【0039】
ドメイン及びマトリックスが含むゴム材料とは、マトリックスを構成する第1のゴム組成物に含まれる第1のゴム及びドメインを構成する第2のゴム組成物に含まれる第2のゴムである。
第1のゴム及び第2のゴムは、ジエン系ゴムから上記要件(3)のSP値差を満足するように選択される。このようなジエン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)および、クロロプレンゴム(CR)を用いることができる。本第1及び第2のゴムのSP値は、材料の選択や、SBRであればスチレン由来のモノマー単位、NBRであればアクリロニトリル由来のモノマー単位を含むセグメントの共重合比の選択などを調整することで制御できる。
【0040】
SBRは、スチレンとブタジエンの共重合体である。SBR中のスチレン由来のモノマー単位の含有比率(スチレン含有量)は、18質量%以上40質量%以下であることが好ましい。SBRはスチレン単位の割合を調整することで、SP値を制御することができる。そして、スチレン含有量を18質量%以上とすることで、相対的に極性の高いNBRと適度なSP値差をSBRに持たせることができる。また、スチレン含有量を40質量%以下とすることで、SBRのSP値の過剰な上昇を抑制し得る。また、マトリックス中において、ジエン骨格を有するモノマー単位が十分に存在するため、ドメインとマトリックスの粘弾性特性の近似化を容易とする。さらに、マトリックス-ドメイン間の、界面の親和性が十分に得られるため、マトリックス-ドメイン間の化学結合量を増加させることができる。
【0041】
SBR中のスチレン含有量は、公知の分析法である熱分解ガスクロマトグラフィー(Py-GC)や固体NMRを用いて定量化することができる。
【0042】
NBRは、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体である。アクリロニトリル由来のモノマー単位の含有比率(ニトリル含有量)は、18質量%以上40質量%以下であることが好ましい。18質量%以上であることで、相対的に極性の低い、ポリイソプレン及びSBRと適度なSP値差の形成を可能とする。一方で、40質量%以下であることで、上述のSBRと同様の理由で、マトリックス-ドメイン間の界面安定化及び、ドメインの均一化、粘弾性周波数特性の近似化の効果を奏する。さらに、マトリックス-ドメイン間の、界面の親和性が十分に得られる。
ニトリル含有量は、SBR中のスチレン含有量の定量と同様に、公知の分析法であるPy-GCや固体NMRを用いて定量化することができる。
【0043】
また、イソプレンゴム(IR)は、構造中に二重結合を2つ持つ炭化水素由来のジエン系ゴムである。イソプレンゴムにおいては、1,2-ポリイソプレン、1,3-ポリイソプレン、3,4-ポリイソプレン、及びcis-1,4-ポリイソプレン、trans-1,4-ポリイソプレン、及びこれらの共重合体などを選択することができる。これらの化学構造及び共重合比は、公知の分析法であるNMRを用いて特定することができる。イソプレンゴムを用いることで、相対的に極性の高い、BR、CR、NBR及びSBRと適度なSP値差の形成を可能とする。また、構造中にジエン骨格を有するモノマー単位が十分に存在するため、ドメインとマトリックスの粘弾性周波数特性の近似化を容易とする。さらに、マトリックス-ドメイン間の、界面の親和性が十分に得られるため、マトリックス-ドメイン間の化学結合量を増加させることができる。
【0044】
クロロプレンゴム(CR)は、メルカプタン変性および硫黄変性の選択や、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来のモノマー単位の含有量等で制御が可能である。
IRおよびCRの化学構造および共重合比は、公知の分析法であるNMRを用いて特定することができる。
上記ジエン系ゴムの中でも、第1のゴムおよび第2のゴムは、各々、独立にイソプレンゴム、NBR、SBRおよびブタジエンゴムから選ばれることが好ましい。また、第1のゴムが、NBRの場合、第2のゴムはSBRまたはイソプレンゴムのどちらかから選択されることが好ましい。さらに、第1のゴムが、SBRの場合、第2のゴムはNBRまたはイソプレンゴムのどちらかから選択されることが好ましい。本開示に係る効果を発現するための重要なポイントは、マトリックスとドメインの界面の形成と、当該界面での反応性向上の両立である。NBRとSBRは、前述の通り、ニトリル含有量とスチレン含有量で、SP値の制御が容易である。その結果、ドメイン中の導電性粒子の移行の抑制と、SP値差の制御によるドメインの均一形成を実現することができる。また、第1のゴム及び第2のゴムの双方にジエン骨格が存在するため、マトリックスとドメインとが形成される過程で両者の界面が相溶しやすくなっており、マトリックス-ドメインはその界面において化学的な結合が形成されていると考えられる。その結果、導電層に外力が加わったときに、マトリックスとドメインとの界面が剥離することが有効に抑制されていると考えられる。さらに、ドメインとマトリックスを構成するゴムの主成分の化学構造の一部が分子レベルで等しいため、粘弾性周波数特性の近似化を高次元なレベルで達成することができる。
【0045】
<SP値の測定方法>
第1及び第2のゴムのSP値は、SP値が既知の材料を用いて、検量線を作成することで、精度良く算出することが可能である。この既知のSP値は、材料メーカーのカタログ値を用いることもできる。例えば、NBR及びSBRは、分子量に依存せず、アクリロニトリル由来のモノマー単位及びスチレン由来のモノマー単位の含有比率でSP値が決定される。従って、マトリックス及びドメインを構成するゴムを、Py-GC及び固体NMR等の分析手法を用いて、ニトリル含有量及びスチレン含有量を解析することで、SP値が既知の材料から得た検量線から、SP値を算出することができる。また、イソプレンは、1,2-ポリイソプレン、1,3-ポリイソプレン、3,4-ポリイソプレン、及びcis-1,4-ポリイソプレン、trans-1,4-ポリイソプレンなどの、構造でSP値が決定される。従って、SBR及びNBRと同様にPy-GC及び固体NMR等でイソプレン異性体構造の含有比率を解析し、SP値が既知の材料から、SP値を算出することができる。
【0046】
<tanδの測定方法>
マトリックスを構成する第1のゴムの架橋物を含む第1のゴム組成物のtanδ1、及びドメインを構成する、第2のゴムの架橋物及び導電性粒子を含む第2のゴム組成物のtanδ2の測定は、公知の動的粘弾性測定装置を用いて行うことができる。測定サンプルは、マトリックスとドメインを構成する原料ゴム、導電性粒子、充填剤などを各々、別に秤量およびゴム練り処理を施し、導電性部材成形用ゴム組成物と同じ比率で、加硫剤/加硫促進剤を添加及び加硫させることで作製する。具体的には、加硫剤を添加した未加硫ドメインゴム組成物及び未加硫マトリックスゴム組成物を、各々、厚み2mmの金型に入れ、10MPa、170℃、60分架橋して、厚さ2mmのゴムシートを得ることができる。このサンプルを、各々、引っ張り試験モードもしくは圧縮試験モードで測定することで、tanδ1及びtanδ2の測定を行うことができる。
【0047】
<粘弾性周波数特性>
上述の通り、導電層中のドメインの凝集を防ぐためには、温度23℃、相対湿度50%、周波数80Hzで測定される第1のゴム組成物の損失正接tanδ1と、同条件で測定される第2のゴム組成物の損失正接tanδ2の比(tanδ1/tanδ2)は、0.45~2.00であることが必要である。
【0048】
<導電性粒子>
導電性粒子としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト等の炭素材料;酸化チタン、酸化錫等の酸化物;Cu、Ag等の金属;酸化物または金属が表面に被覆され導電化された粒子等を例として挙げられる。
また、必要に応じて、これらの導電性粒子の2種類以上を適宜組み合わせて配合してもよい。
中でも、ゴム弾性の大幅な低減の抑制、導電化効率が高い、ゴムとの親和性が大きい、導電性粒子間の距離の制御を容易とする等の理由により、導電性カーボンブラックが好ましい。
導電性カーボンブラックの種類については、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ガスファーネスブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。
【0049】
また、ドメイン中の導電性粒子は、第2のゴムの100質量部に対して、30質量部以上200質量部以下の配合量が好ましい。特に好ましくは、50質量部以上150質量部以下である。ドメイン中の導電性粒子の量を上記範囲内とすることで、ドメインをマトリックスに対して相対的に硬くすることができ、ドメインを外力に対して変形しにくくすることができる。その結果、ドメインに機械的歪みが蓄積されることを抑制し得る。また、ドメインのゴム弾性の過度の低下が抑制され、ドメインの変形に対する追従性を維持し得る。そのため、繰り返し外力が印加されたときにも、ドメイン同士が凝集することが抑制できる。さらに、導電性粒子(導電性カーボンブラック)をドメイン内に安定した状態で存在させることができるため、マトリックスへの導電性粒子の移行を抑制することができる。さらにまた、導電性粒子の量を上記範囲内とすることで、ドメインに十分な導電性を付与し得る。
【0050】
さらに、導電層の厚み方向の断面に現れるドメインの各々の断面積に対して、ドメインの各々が含む導電性粒子の断面積の割合の平均値をμとしたとき、該μが、20%以上40%以下であることが好ましい。
導電性粒子の一例としての導電性カーボンブラックの導電性は、カーボンとカーボンの間を流れるトンネル電流で形成される。このトンネル電流量のバラツキは、カーボン粒子間距離の分布と相関する。よって、ドメインに含まれる導電性カーボンブラックの添加量や面積占有率が高くなるほど、カーボン間距離の分布が均一となり、バラツキを抑制することができる。従って、上記範囲にあることで、均一放電を容易とすることができる。
【0051】
μが20%以上である場合には、導電性カーボンブラックの量が十分であり、ドメイン内でのカーボンブラックの電気的な繋がりがパーコレーション的に安定となる。そのため、当接箇所と非当接箇所とでの放電量の差が生じにくく、放置セットスジがより生じにくくなる。また、μが40%以下であることで、導電性カーボンブラックがドメイン内により安定した状態で存在し、マトリックスへの導電性カーボンブラックの移行をより確実に防止し得る。
【0052】
ドメインに配合される導電性カーボンブラックは、pHが6.0以上の中性の表面を有するものが特に好ましい。さらにドメインに配合される導電性カーボンブラックのDBP吸収量としては、85cm3/100g以上、160cm3/100g以下であることが特に好ましい。尚、カーボンブラックのDBP吸収量は、JIS K 6217に準じて測定することができる。またメーカーカタログ値を用いてもよい。pHが6.0以上で、かつDBP吸収量としては、85cm3/100g以上、160cm3/100g以下である導電性カーボンブラックは、ドメインの導電性を適正な範囲に保つことができ、また、ジエン系ゴムとの優れた親和性を有する。このため、導電性部材が繰り返し外力を受けたのちに歪みが緩和される際に、導電層中のドメイン同士が凝集することを抑制し得る。その結果、特に機械的歪みの影響を受けやすい、当接部材との当接箇所における放電量の変化を抑制し得る。
【0053】
<加硫剤/加硫促進剤>
第1のゴムの架橋物及び第2のゴムの架橋物を得るため、加硫剤及び加硫促進剤を用いることができる。特に限定されないが、加硫剤としては、硫黄、金属酸化物、過酸化物などを用いることができる。これらの加硫剤の中では、硫黄分子により分子鎖と分子鎖を結合させて網目状の構造を形成し、マトリックス-ドメイン界面の化学結合量増加を可能とするという観点で、硫黄がより好ましい。導電層が、硫黄を用いて架橋されることで、マトリックス・ドメイン構造においても、硫黄分子により分子鎖と分子鎖を結合させて三次元ネットワーク状の架橋を形成し、マトリックスとドメインとの界面での化学結合量の増加を容易とする。
また、少量の第1のゴム及び/又は第2のゴムに加硫剤を練りこんだ、マスターバッチ型の加硫剤を好適に用いることができる。マスターバッチ型の加硫剤を用いることで、ゴム原料中へ加硫剤が均一に分散することを容易とする。また、少量の第1のゴム及び/又は第2のゴムに硫黄を練りこんだ、マスターバッチ型の硫黄を好適に用いることができる。マスターバッチ型の硫黄を用いることで、ゴム原料中へ硫黄が均一に分散することを容易とする。その結果、硫黄の偏在を抑制し、マトリックス・ドメイン構造の界面において化学結合量が増加することで、界面の安定化をより容易とする。このマスターバッチ型の硫黄は、ドメインとマトリックス構造を構成する材料や配合比に合せて、二種類以上、任意の比率で混合してもよい。例えば、第1のゴムの架橋物と、第2のゴムの架橋物のブレンド比率が、各々、70質量%および30質量%の場合、第1及び第2のゴムのマスターバッチ型硫黄の添加比率を70質量%および30質量%とすることで、より均一な架橋を形成することができる。硫黄の配合量は、均一な架橋進行およびブルーム抑制の観点から、導電層中の未加硫ゴム成分100質量部(第1及び第2のゴムの合計100質量部)に対し、0.5~7質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1~4質量部である。
【0054】
また、加硫剤と併用して、加硫促進剤を用いて、加硫時間の大幅な低減を果たすことが、界面の架橋形成を行う上で重要である。特に本開示のような二つのゴムをブレンドした系においては、加硫に要する時間が二つのゴムで異なる場合がある。
その際、ゴムの溶融粘度の差によって、ゴム中に存在する充填剤や硫黄の如き加硫剤において、移動度の差が生じる。具体的には、加硫が進行しやすいゴムから、加硫が進行し難いゴムへ、充填剤や加硫剤が偏在しやすくなる。その結果、加硫剤の偏在により、マトリックス-ドメイン型構造の界面において化学結合量が減少し、界面が不安定になる。従って、加硫促進剤の併用による加硫時間の低減によって、加硫剤の偏在を抑制し、マトリックス-ドメインの界面の架橋を促進することができる。
加硫促進剤としては、特に限定されないが、例えば、下記に例示したものを用いることができる。アルデヒド-アンモニア系、アルデヒド-アミン系、チオウレア系、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系、キサントゲン酸塩系、これらの混合促進剤。これらの中でも特に、チアゾール系の化合物を含むことが好ましい。さらに好ましくは、スルフェンアミド系化合物である。例として、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、およびN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドを挙げることができる。
【0055】
加硫促進剤は、各々の化学構造によって、ゴムとの親和性の指標である溶解度比が異なる。一般的に、この溶解度比は混合するゴムとのSP値の差と相関するため、ゴムの種類、つまりゴムのSP値によって異なる。即ち、ゴムの化学構造によって、最適な加硫促進剤の配合が異なる。チアゾール系化合物は、本開示の如きドメインとマトリックスを構成する好ましい材料であるブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、SBR及びNBRに対する溶解度比が、ほぼ等しく、ゴム原料中への加硫促進剤の均一な分散を容易とする。その結果、加硫時間の短縮による加硫剤の偏在抑制効果と相まって、導電層中における加硫剤と加硫促進剤の均一な分散を可能とする。これに伴い、ドメインとマトリックスにおける各々の内部で架橋が均一に進行すると同時に、界面における化学結合量が増加する。その結果、要件(1)、(2)及び(3)の効果と相まって、外力印加に対して、機械的歪みの抑制効果を高次元なレベルで発現を可能とする三次元ネットワーク状の架橋を形成することができる。
【0056】
さらに、チアゾール系化合物の加硫促進剤と併用して、上記に例示した他の加硫促進剤を用いることができる。併用する加硫促進剤としては、特にチウラム系、チオウレア系から選ばれる加硫促進剤が好ましい。これらの加硫促進剤を併用することで、加硫時間の調整を容易に行うことができる。その結果、加硫剤の偏在を抑制し、マトリックス-ドメインの界面の架橋を促進することができる。
【0057】
<架橋ゴムの分析法>
導電層中における第1及び第2のゴムの架橋物の有無の解析は、公知の分析法である熱分解ガスクロマトグラフィー(Py-GC)、固体核磁気共鳴分光法(NMR法)、ラマン分光法を用いて行うことができる。ラマン分光法においては、SBRの硫黄架橋の有無が判断できる。ラマンスペクトルの438cm-1、475cm-1及び509cm-1位置に、SBRの硫黄架橋由来のピークが検出されるため、ピークの有無で、硫黄架橋構造を直接検出が可能である。また、NBRとイソプレンゴムに関しては、Py-GCを用いて、硫黄架橋の有無が判断できる。550℃~600℃の温度範囲で、試料を熱分解し、生じた熱分解生成物を分離カラムで分離したものを、水素炎イオン化検出器で検出し、パイログラムを取得する。さらに、同様の条件で測定し、原子発光検出器による検出を行い、炭素及び硫黄のパイログラムを取得し、質量分析を用いてピークの同定を行うことで、硫黄架橋の有無が判断できる。
【0058】
<加硫促進剤の同定法>
導電層中における第1及び第2のゴムの架橋物に含まれる加硫促進剤は、加硫の過程で分解または構造変化によって、低分子化した状態で存在するため、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー法で分析することで同定可能である。具体的には、導電層を100mg分取し、ヘッドスペースサンプラーにセットし、揮発成分をパージして、それを吸着剤にトラップする。次に、キュリーポイント加熱によって揮発成分を熱脱着させ、それをGC/MSで分析することで、加硫促進剤の化学構造を分析することができる。また、硫化ソーダ法、シアナミド法、ヨウ化水素還元法、亜硫酸ソーダ法、アミン法などの公知の加硫促進剤の定量分析を行うことで、加硫促進剤の配合量の分析も可能である。
【0059】
<ドメインの体積分率>
導電層におけるドメインの体積分率は、10体積%以上40体積%以下であることが好ましい。10体積%以上にすることで、十分な量のマトリックス-ドメイン界面の形成を可能とし、ドメインがマクロな架橋点として機能発現することを容易とする。その結果、外力に対する機械的歪みの優れた抑制効果を発現することができる。また、ドメイン中における導電性粒子の過剰な添加を抑制することができる。その結果、ドメインの過剰なゴム弾性の低減を抑制し、ドメインとマトリックスの変形に対する十分な追従性を発現できるため、繰り返し外力が印加されても、ドメイン同士の凝集を抑制することができる。
一方、40体積%以下にすることで、外力印加時及び機械的歪みの緩和時に、ドメイン同士の凝集を抑制し、放電特性の変化抑制を容易とすることができる。また、マトリックスをドメインに対して、相対的に多い構造とすることができるため、ゴム弾性が優れるマトリックスで、変形回復性を発現することができる。さらに、ドメインとマトリックスの界面数の過度な増加を抑制し、繰り返し摺動した際に、応力を効果的に分散することが可能となることで、本開示に係る効果発現を容易とする。
【0060】
<ドメインの体積分率の測定方法>
ドメインの体積は導電層中のドメインの3次元の立体像から求めることができる。
FIB-SEMとはFIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)装置で試料の加工、露出した断面のSEM(scanning electron microscope;走査型電子顕微鏡)を観察する手法である。
ドメインの3次元の立体像は、導電層の数多くの断面画像をFIB-SEMを用いて取得し、その断面画像をコンピュータソフトウェアを用いて3次元に再構築することで形成することができる。
【0061】
ドメイン体積の具体的な測定方法としては、FIB-SEM(エフイー・アイ社製)を使用して(詳細上述)、
図3に代表される3次元の立体画像を取得し、その画像から上記構成を確認した。
図3では、一辺が9μmの立方体形状21において、マトリックス22中にドメイン23が点在する。ドメイン23には導電性粒子24が分散して含まれている。尚、ドメイン23のサイズや配置は
図3の模式的な斜視図中のものに制限されるものではない。
導電層のサンプリングは任意の9箇所から実施され、ローラ形状の場合は、長手方向の長さをlとした時、端部から(1/4)l,(2/4)l、(3/4)l付近の三か所ずつローラの周方向に120度毎に、それぞれから各1つずつサンプルを切り出す。
その後、FIB-SEMを用いた3次元測定を行い、60nm間隔で一辺が9μmの立方体形状の画像を測定する。ここでは、該(1/4)l、(2/4)l、(3/4)lの各断面における導電層断面をローラの周方向に90度毎、芯金位置から表面の中心部での測定を行う。
【0062】
なお、ドメイン構造の観察を好適に実施するために、ドメインとマトリックスとのコントラストが好適に得られる前処理を施すことも好ましい。ここでは、染色処理が好適に用いることができる。
その後得られた画像を、3D可視化・解析ソフトウェア Avizo(登録商標、エフ・イー・アイ社製)を利用して、該一辺が9μmの立方体形状1個のサンプル中に含まれる27個の、一辺が3μmの該単位立方体におけるドメインの体積を算出する。
なお、ドメインの隣接壁面間距離の測定も上記3D可視化・解析ソフトウェアを利用して同様に行うことができ、上記の測定値を得た後に、該合計27サンプルの算術平均により算出することができる。
【0063】
<ドメインサイズ>
ドメインのサイズは、0.1μmから4μmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、0.2μmから2μmの範囲である。0.1μm以上のサイズにすることで、ドメインからマトリックスへの導電性粒子の移動を抑制し、マトリックスのゴム弾性の低減を抑制することができる。また、ドメインがマクロな架橋点として機能発現することを容易とする。その結果、外力に対する機械的歪みの優れた抑制効果を発現することができる。さらに、ドメイン同士の凝集による導電性の変化を抑制することができる。その結果、当接部材と導電性部材との当接箇所と非当接箇所における導電性の変化の抑制を容易とする。一方で、4μm以下にすることで、高速プロセス下においても、トンネル電流による電荷の輸送効果が発現し、帯電不良を抑制することができる。また、ドメイン同士の凝集による放電量の変化を抑制することができる。さらに、2μm以下にすることで、ドメインとマトリックスの界面の面積の低減を抑制し、ドメインがマクロな架橋点として十分な機能を発現することを容易とする。その結果、外力に対する機械的歪みの優れた抑制効果を発現することができる。
【0064】
<ドメインサイズの測定方法>
ドメインサイズの測定方法は、次のように実施すればよい。まず、前述のマトリックス・ドメイン構造の確認における方法と同様の方法で薄片を作製する。次いで、下凍結破断法、クロスポリッシャー法、収束イオンビーム法(FIB)などの手段で破断面を形成することができる。破断面の平滑性と、観察のための前処理を考慮すると、FIB法が好ましい。また、マトリックス・ドメイン構造の観察を好適に実施するために、染色処理、蒸着処理など、導電性の相と絶縁性の相とのコントラストが好適に得られる前処理を施してもよい。
破断面の形成、前処理を行った薄片に対して、レーザー顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察することができる。これらの中でも、導電相の面積の定量化の正確性から、SEMで1000倍~100000倍で観察を行うことが好ましい。
【0065】
ドメインサイズは、上記で撮影画像を定量化することによって得ることができる。SEMでの観察により得られた破断面画像に対し、ImageProPlus(登録商標、Media Cybernetics社製)のような画像処理ソフトを使用して、8ビットのグレースケール化を行い、256階調のモノクロ画像を得る。次いで、破断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理し、2値化を実施する。次いで、画像内のドメインサイズ群のそれぞれの面積値から、円相当径の直径を算出し、算術平均値を出せばよい。
上記ドメインサイズの測定は、導電性部材を周方向に4分割、長手方向に5分割した領域のそれぞれの任意の箇所において、各1つずつ薄片サンプルを切り出して上記の測定を行い、合計20点の測定値の算術平均から算出すればよい。
【0066】
<ドメイン間距離>
ドメイン間の距離は、導電性の相(ドメイン)間に挟まれた絶縁性の相(マトリックス)の距離で定義される。ドメイン間距離の範囲は、0.2μm以上2μm以下である。ドメイン間距離を0.2μm以上にすることで、ドメイン同士の凝集抑制を容易とすることができる。2μm以下にすることで、ドメインとマトリックス間で架橋形成された面積が十分に得られる。その結果、ドメインをマクロな架橋点とした三次元ネットワークの効果を十分に得られるため、外力に対する機械的歪みの優れた抑制効果を発現することを容易とする。
【0067】
<ドメイン間距離の測定方法>
ドメイン間の距離は、上記したドメインサイズの測定方法と同様に試料の破断面を観察することによって測定することができる。具体的には、上記ドメインサイズの測定方法と同様の方法で、破断面内の2値化を行った後に、画像処理ソフトを用いて、画像内のドメイン群の壁面間距離を算出する。このときの壁面間距離は、隣接しているドメインのうち、最も近くに位置しているドメインとの壁面間の最短距離である。
上記ドメイン間距離の測定は、導電性部材を周方向に4分割、長手方向に5分割した領域のそれぞれの任意の箇所において、各1つずつ薄片サンプルを切り出して上記の測定を行い、合計20点の測定値の算術平均から算出すればよい。
【0068】
<ドメインの配置の均一性>
導電層中においては、ドメインは均一に配置されていることが好ましい。具体的には、ドメインの重心間距離の分布が0以上0.4以下である。0.4以下にすることによって、ドメイン間の距離のばらつきが低減できる。これにより、ドメイン及びマトリックスに対する機械的歪みの偏りを抑制することができるため、効率的に機械的歪みの緩和を行うことを容易とする。また、ドメイン同士の凝集は、ドメイン間距離が最も近接する箇所から生じるため、ドメイン間の距離のばらつきを抑制することで、ドメイン同士の凝集抑制を容易とするとともに、均一な放電特性発現を容易とする。
ドメインの配置の均一性は次のようにして測定することができる。
まず、上記のドメインの形状の測定において得た、(1/4)l、(2/4)l、(3/4)lの各断面について、導電層の外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの領域内の任意の3か所に15μm四方の観察領域を設定する。次いで、各観察領域のSEM画像を得たのち、該SEM画像を2値化する。こうして合計9枚の2値化画像を作成する。
当該2値化画像の各々に対して、LUZEX(登録商標:専用画像処理解析システム 商品名:ルーゼックスSE、株式会社ニレコ製)の如き画像処理ソフトを用いて、重心間距離の分布を算出する。当該分布に対し、標準偏差E及び平均値Fを求め、E/Fを算出する。9枚の2値化画像のE/Fの算術平均値を算出し、測定対象の導電性部材のドメインの均一性の指標とする。
【0069】
<ドメインサイズ、ドメイン間距離及びドメインの配置の均一性の制御法>
マトリックス・ドメイン構造において、均一なドメインを形成することは、変形回復性及び安定した放電量の確保をより高いレベルで両立させるうえで好ましい。
ここで、「均一」とは、(1)ドメインのサイズが等しいこと、及び(2)マトリックス中におけるドメインの配置に偏りがないこと、と定義される。
均一なドメインの形成によって、摺動時に生じる変形に対して、部分的な応力集中を抑制し、効率的な機械的歪みの緩和を達成できる。さらに、ドメインとマトリックスの粘弾性周波数特性の近似化の効果と相まって、本開示に係る効果発現を容易とする。
非相溶のポリマー2種を溶融混練させた場合の分散粒子径(ドメインサイズ)Dについて、下記に示すTaylorの式、Wuの経験式及びTokitaの式が提案されている。
【0070】
・Taylorの式
D=[C・σ/ηm・γ]・f(ηm/ηd)
【0071】
・Wuの経験式
γ・D・ηm/σ=4(ηd/ηm)0.84・ηd/ηm>1
γ・D・ηm/σ=4(ηd/ηm)-0.84・ηd/ηm<1
【0072】
・Tokitaの式
D=f((1/η)*(1/γ)*(ηd/ηm)*P*φ*σ*(1/EDK)*(1/τ)*χ12)
【0073】
D:ドメインサイズ、C:定数、σ:界面張力、
ηm:マトリックスの粘度、ηd:ドメインの粘度、
γ:せん断速度、η:混合系の粘度、P:衝突合体確率、
φ:ドメイン相体積、EDK;ドメイン相切断エネルギー
τ:臨界壁間距離、χ12:二者間の相互作用を表す無次元パラメーター
【0074】
上記式に示す通りに、ドメインサイズ及びドメイン間距離は、主に下記4点で制御することが可能である。
(1)ドメインとマトリックス間の界面張力差
(2)ドメインとマトリックスの粘度比
(3)混練時のせん断速度/せん断時のエネルギー量
(4)導電層におけるドメインの体積分率
【0075】
(1)の界面張力差は、マトリックスを構成する第1のゴムとドメインを構成する第2のゴムとのSP値差と相関するため、第1及び第2のゴムの材料の選択で制御することが可能である。具体的には、SP値差を低減することで、界面張力を低減することが可能である。従って、ジエン系ゴム、特にイソプレンゴム、NBR,及びSBRから選ばれる第1及び第2のゴムの化学構造の選択で、SP値差の制御と同時に界面張力の制御を行うことができる。
【0076】
(2)のドメインとマトリックスの粘度比は、ゴム原料のムーニー粘度の選択や、充填剤の種類や量の配合によって調整が可能である。また、相分離構造の形成を妨げない程度に、パラフィンオイルなどの可塑剤を添加することでも可能である。さらに、混練する時の温度を調整することで、粘度比の調整を行うことができる。なお、ドメインやマトリックスの粘度は、JIS K6300-1:2013に基づきムーニー粘度ML(1+4)を混練時のゴム温度で測定することで得られる。また原料ゴムのカタログ値で代替えしてもよい。
【0077】
(3)の混練時のせん断速度/せん断時のエネルギー量は、ゴム混練時の回転速度や押し出し成型時の送り速度で制御が可能である。具体的には、ゴム混練時の回転速度及び練り時間や押し出し成型時の送り速度を上げることで、混練時のせん断速度/せん断時のエネルギー量を上昇させることができる。
【0078】
(4)の導電層におけるドメインの体積分率は、ドメインとマトリックスの衝突合体確率と相関する。具体的には、導電層におけるドメインの体積分率を増加させることで、ドメインとマトリックスの衝突合体確率を上昇させることができる。
【0079】
具体的に、ドメインサイズを低減するには以下の手法で制御が可能である。
・ドメインとマトリックスとなるゴム組成物間の界面張力を小さくする
・ドメインとマトリックスとなるゴム組成物間の粘度差を低減する
・混練時のせん断速度を上げる
【0080】
また、ドメイン間距離を低減するには、ドメインサイズの低減の手法に併せて、以下の手法で制御が可能である。
・せん断時のエネルギーを上げる
・ドメインの体積分率を上げる
・衝突合体確率を上げる
【0081】
<ドメインの体積抵抗率>
ドメインは、ドメインとドメイン間に形成されるトンネル電流を利用して、電荷の輸送を行う。したがって、ドメインの体積抵抗率はマトリックスよりも低いほうが好ましい。具体的には、1.0×101~1.0×104Ω・cmである。また、高速プロセスに対応可能な電荷易動性の発現、及び体積抵抗率の低抵抗化という観点で、イオン伝導よりも電子伝導の方が好ましい。ドメインの体積抵抗率を1.0×101Ωcm以上にすることで、ドメイン中における導電性粒子(電子導電剤)の含有量の増加を抑制することができる。その結果、ドメインの過剰なゴム弾性の低減を抑制し、ドメインとマトリックスの変形に対する十分な追従性を発現できるため、繰り返し外力が印加されても、ドメイン同士の凝集を抑制することができる。また、導電性粒子がドメイン内に安定した状態で存在できるため、マトリックスへの導電性粒子の移行を抑制し、本開示に係る効果発現を容易とする。また、ドメインの体積抵抗率を1.0×104Ω・cm以下にすることで、ドメイン中に十分な量の導電性粒子が含有される。このため、ドメインをマトリックスに対して相対的に硬くすることを可能とし、外力に対して変形が生じにくく、機械的歪みの蓄積の抑制を容易とする。また、ドメインの体積抵抗率を1.0×104Ω・cm以下にすることで、特に高速プロセス下においても、十分な放電電荷量を確保できる。さらに、上記範囲内であることで、導電性粒子を用いた場合でも、オーミックな挙動となるので、電圧依存性を低減し、均一な放電の達成を容易とする。その結果、本開示に係る効果発現を容易とする。
【0082】
<ドメインの体積抵抗率の測定方法>
ドメインの体積抵抗率は、当該導電性部材を薄片化し、微小探針によって計測することができる。薄片化する手段としては、例えば、鋭利なカミソリや、ミクロトーム、FIBなどが挙げられる。
薄片の作製に関しては、ドメインのみの体積抵抗率を計測する必要があるため、SEMやTEMなどであらかじめ計測したドメイン間距離よりも小さい膜厚の薄片を作成する必要がある。したがって、薄片化の手段としては、ミクロトームのような非常に薄いサンプルを作成できる手段が好ましい。
体積抵抗率の測定は、まず、当該薄片の片面を接地した後に、SPM、AFM、などで、マトリックスとドメインの体積抵抗率あるいは硬度の分布を計測できる手段によって、薄片中のマトリックスとドメインの場所を特定する。次いで、当該ドメインに探針を接触させ、1VのDC電圧を印加したときの接地電流を測定し、電気抵抗として算出すればよい。このとき、薄片のSPMやAFMのような形状測定も可能な手段であれば、当該薄片の膜厚が計測でき、体積抵抗率が測定可能であるため、好適である。
上記のような体積抵抗率の測定は、導電性部材を周方向に4分割、長手方向に5分割した領域のそれぞれから各1つずつ薄片サンプルを切り出し、上記の測定値を得た後に、合計20サンプルの体積抵抗率の算術平均によって算出する。
【0083】
<マトリックスの体積抵抗率>
本開示に係る導電性部材が、より安定的かつ持続的な放電を実現するうえで、マトリックスの体積抵抗率はドメインよりも高いことが好ましい。具体的には、1.0×108Ω・cm以上、より好ましくは、1.0×1012Ω・cm以上である。体積抵抗率が1.0×108Ω・cm以上であると、ドメイン間が高抵抗なマトリックスによって分断されることとなり、界面でより多くの電荷を蓄積できることとなり、安定かつ持続的な放電の実現により適した構成となる。加えて、このような高い体積抵抗率を実現するためには、マトリックスは実質的に導電性粒子を含まないこととなる。その結果、マトリックスは、優れたゴム弾性を発現し、より優れた変形回復性の発現に有利な構成となる。
【0084】
<マトリックスの体積抵抗率測定法>
マトリックスの体積抵抗率の測定は、50VのDC電圧を印加したときの接地電流を測定した以外は、上記のドメインの体積抵抗率の測定と同様の測定方法で測定すればよい。上記のような体積抵抗率の測定は、導電性部材を周方向に4分割、長手方向に5分割した領域のそれぞれから各1つずつ薄片サンプルを切り出し、上記の測定値を得た後に、合計20サンプルの体積抵抗率の算術平均によって算出する。
【0085】
<導電性部材の形状>
ローラ形状の導電性部材は、電子写真感光体(感光ドラム)を帯電する帯電部材として接触状態として使用される。この場合、感光ドラムに対して、長手方向に延びる帯電部材のニップの幅を、より均一にするために、長手方向中央部の外径が一番太く、長手方向両端部の方向に沿って外径が細くなる形状、いわゆるクラウン形状を有することが好ましい。クラウン量としては、長手方向の中央部の外径と、中央部から90mm離れた位置左右2点の外径の平均値との差が、30μm以上160μm以下であることが好ましい。クラウン量をこの範囲とすることにより、導電性部材と感光ドラムとの接触状態を、より安定にすることができる。その結果、導電性部材と感光ドラムの当接部の全領域に亘って、均一に外力が印加されやすくなることで、部分的な機械的歪みの蓄積及び歪みの緩和のムラを抑制できる。
【0086】
<導電層硬度>
導電性部材の導電層の硬度は、マイクロ硬度(MD-1型)で90°以下が好ましく、より好ましくは、50°以上85°以下である。マイクロ硬度を50°以上とすることで、十分なゴム弾性が得られ、感光ドラムと長時間当接しても、変形が生じ難く、放置セットスジの抑制を容易とすることができる。85°以下とすることにより、感光ドラムとの当接ニップ幅の過度な低減を抑制できるため、当接部における過度な応力集中による部材の変化や、導電性粒子の移動を抑制することができる。その結果、当接箇所と非当接箇所で電気特性、即ち放電量の差を抑制し、放置セットスジの抑制を容易とすることができる。また、上記範囲にあることで、感光ドラムとの当接を安定させることが容易となり、より均一に感光ドラムを帯電することができる。なお、マイクロ硬度(MD-1型)は、マイクロゴム硬度計を用いて、導電層の外表面に押針を押し当てることによって測定される硬度である。導電層の硬度は、導電層形成用の材料混合物中に含まれる硫黄の量、加硫促進剤の種類及び量、加硫温度、加硫時間、導電性粒子及び充填剤の含有量によって、調整することができる。
【0087】
<導電性部材の製造方法>
本開示の一態様に係る導電性部材の製造方法を以下に示す。
【0088】
(A)導電性カーボンブラック及び第2のゴムを含む、ドメイン形成用のカーボンマスターバッチ(CMB)を調製する工程;
(B)マトリックスとなる第1のゴム組成物を調製する工程;
(C)該カーボンマスターバッチと該第1のゴム組成物とを混練して、マトリックス・ドメイン構造を有するゴム組成物を調製する工程。
【0089】
ドメインには、導電性カーボンブラックの如き導電性粒子が偏在している。このような構成とするためには、前記工程(A)のように、予めドメインのみに導電性粒子を添加したマスターバッチを作製し、その後、得られたマスターバッチ及びマトリックスとなる第1のゴム組成物をブレンドし、半導電性ゴム組成物を作製する方法が有効である。即ち、第2のゴム原料に導電性粒子を配合してCMBを調製し、得られたCMBと、マトリックスとなる第1のゴム組成物をブレンドすることにより、ドメインに導電性粒子が偏在されたゴム組成物(ゴム混合物)を製造することができる。
【0090】
前記工程(C)における、ドメインとなるCMBと、マトリックスとなる未加硫ゴム組成物を混練して、マトリックス・ドメイン構造を有する未加硫ゴム組成物とする方法としては、以下のような方法を例示することができる。
・ドメインとなるCMB、及び、マトリックスとなる未加硫ゴム組成物のそれぞれを、バンバリーミキサーや加圧式ニーダーといった密閉型混合機を使用して混合する。その後、オープンロールの様な開放型の混合機を使用して、ドメインとなるCMBとマトリックスとなる未加硫ゴム組成物と加硫剤や加硫促進剤といった原料とを混練して一体とする方法。
・ドメインとなるCMBを、バンバリーミキサーや加圧式ニーダーといった密閉型混合機を使用して混合した後に、ドメインとなるCMBとマトリックスとなる未加硫ゴム組成物の原材料を密閉型混合機にて混合する。その後、オープンロールの様な開放型の混合機を使用して加硫剤や加硫促進剤といった原料を混練して一体とする方法。
【0091】
導電層は、例えば、マトリックス・ドメイン構造を有するゴム組成物を押出成形、射出成形、圧縮成形等の公知の方法により導電性支持体上に形成される。尚、導電層は必要に応じて接着剤を介して導電性支持体上に接着され、その後に、導電性支持体上に形成された導電層は加硫処理され、ゴム混合物の架橋体となる。
導電層のマトリックス・ドメイン構造は、前記密閉型混合機及びオープンロールの様な開放型の混合機の混合時間や、混合機のロールとロール間のクリアランス及び、押出成形、射出成形、圧縮成形等の成型速度によっても、制御することが可能である。
【0092】
<電子写真用プロセスカートリッジ>
図6は本開示に係る導電性部材を帯電ローラとして具備している電子写真用のプロセスカートリッジの概略断面図である。このプロセスカートリッジは、現像装置と帯電装置とを一体化し、電子写真画像形成装置の本体に着脱可能に構成されたものである。現像装置は、少なくとも現像ローラ43とトナー容器46とを一体化したものであり、必要に応じてトナー供給ローラ44、トナー49、現像ブレード48、攪拌羽410を備えていてもよい。帯電装置は、電子写真感光体(感光ドラム)41、クリーニングブレード45、及び帯電ローラ42を少なくとも一体化したものであり、廃トナー容器47を備えていてもよい。帯電ローラ42、現像ローラ43、トナー供給ローラ44、及び現像ブレード48は、それぞれ電圧が印加されるようになっている。
【0093】
<電子写真画像形成装置>
図7は、本開示に係る導電性部材を帯電ローラとして用いた電子写真画像形成装置の概略構成図である。この電子写真画像形成装置は、四つの電子写真用プロセスカートリッジが着脱可能に装着されたカラー電子写真画像形成装置である。各プロセスカートリッジには、ブラック(BK)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)の各色のトナーが使用されている。感光ドラム51は矢印方向に回転し、帯電バイアス電源から電圧が印加された帯電ローラ52によって一様に帯電され、露光光511により、その表面に静電潜像が形成される。一方トナー容器56に収納されているトナー59は、攪拌羽510によりトナー供給ローラ54へと供給され、現像ローラ53上に搬送される。そして現像ローラ53と接触配置されている現像ブレード58により、現像ローラ53の表面上にトナー59が均一にコーティングされると共に、摩擦帯電によりトナー59へと電荷が与えられる。上記静電潜像は、感光ドラム51に対して接触配置される現像ローラ53によって搬送されるトナー59が付与されて現像され、トナー像として可視化される。
【0094】
可視化された感光ドラム上のトナー像は、一次転写バイアス電源により電圧が印加された一次転写ローラ512によって、テンションローラ513と中間転写ベルト駆動ローラ514に支持、駆動される中間転写ベルト515に転写される。各色のトナー像が順次重畳されて、中間転写ベルト上にカラー像が形成される。
転写材519は、給紙ローラにより装置内に給紙され、中間転写ベルト515と二次転写ローラ516の間に搬送される。二次転写ローラ516は、二次転写バイアス電源から電圧が印加され、中間転写ベルト515上のカラー像を、転写材519に転写する。カラー像が転写された転写材519は、定着器518により定着処理され、装置外に排紙されプリント動作が終了する。
一方、転写されずに感光ドラム上に残存したトナーは、クリーニングブレード55により掻き取られて廃トナー収容容器57に収納され、クリーニングされた感光ドラム51は、上述の工程を繰り返し行う。また転写されずに一次転写ベルト上に残存したトナーもクリーニング装置517により掻き取られる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を参照して、本開示を具体的に説明するが、本開示は、実施例に具現化された構成に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量比に関する「%」は特に断りがない限り、質量基準である。
まず、実施例及び比較例において用いる出発原料について説明する。
【0096】
<NBR>
・NBR(1)(商品名:JSR NBR N260S、ニトリル含有量:15%、SP値:17.2(J/cm3)0.5、JSR社製、略称:N260S)
・NBR(2)(商品名:JSR NBR N220S、ニトリル含有量:41.5%、SP値:20.6(J/cm3)0.5、JSR社製、略称:N220S)
・NBR(3)(商品名:Nipol DN302、ニトリル含有量:27.5%、SP値:18.8(J/cm3)0.5、日本ゼオン社製、略称:DN302)
・NBR(4)(商品名:Nipol DN401LL、ニトリル含有量:18.0%、SP値:17.4(J/cm3)0.5、日本ゼオン社製、略称:DN401LL)
・NBR(5)(商品名:Nipol N230S、ニトリル含有量:35%、SP値:20.0(J/cm3)0.5、日本ゼオン社製、略称:N230S)
・NBR(6)(商品名:JSR NBR N202S、ニトリル含有量:40.0%、SP値:20.4(J/cm3)0.5、JSR社製、略称:N202S)
【0097】
<イソプレンゴム>
・イソプレン(1)(商品名:Nipol 2200、SP値:16.8(J/cm3)0.5、日本ゼオン社製、略称:IR2200)
【0098】
<SBR>
・SBR(1)(商品名:アサプレン303、スチレン含有量:45%、SP値:17.4(J/cm3)0.5、旭化成社製、略称:A303)
・SBR(2)(商品名:タフデン2000R、スチレン含有量:25%、SP値:17.0(J/cm3)0.5、旭化成社製、略称:T2000R)
・SBR(3)(商品名:タフデン1000、スチレン含有量:18%、SP値:16.8(J/cm3)0.5、旭化成社製、略称:T1000)
・SBR(4)(商品名:Nipol NS612、スチレン含有量:15%、SP値:16.6(J/cm3)0.5、ZSエラストマー社製、略称:NS612)
・SBR(5)(商品名:タフデン4850、スチレン含有量:40%、SP値:17.2(J/cm3)0.5、旭化成社製、略称:T4850)
【0099】
<ブタジエンゴムBR>
・ブタジエンゴム(1)(商品名:UBEPOL BR130B、SP値:16.8(J/cm3)0.5、宇部興産社製、略称:BR130B)
【0100】
<クロロプレンゴム(CR)>
・クロロプレンゴム(商品名:SKYPRENE B31、SP値:17.4(J/cm3)0.5、東ソー社製、略称:B31)
【0101】
<EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)>
・EPDM(1)(商品名:EPT4045、SP値:16.4(J/cm3)0.5、三井化学社製)
・EPDM(2)(商品名:EspreneP524、SP値:15.8(J/cm3)0.5、住友化学社製)
【0102】
<エピクロルヒドリンゴム(EO-EP-AGE三元共化合物)>
・ヒドリン(商品名:エピクロマーCG、SP値:18.5(J/cm3)0.5、大阪ソーダ社製、)
【0103】
<導電性粒子>
・カーボンブラック(1)(商品名:トーカブラック♯5500、東海カーボン社製、略称:♯5500)
・カーボンブラック(2)(商品名:トーカブラック♯7360SB、東海カーボン社製、略称:♯7360SB)
【0104】
<加硫剤>
・加硫剤(1)(商品名:SULFAX200S、硫黄分99.5%、鶴見化学工業社製)
・加硫剤(2)(商品名:サンミックスS-80N、硫黄分80%、NBRマスターバッチ、三新化学工業社製)
・加硫剤(3)(商品名:SULFAX SB、硫黄分50%、SBRマスターバッチ、鶴見化学工業社製)
・加硫剤(4)(商品名:キョーワマグ MF30、純度99.7%、酸化マグネシウム、協和化学工業社製、略称;MgO)
【0105】
<加硫促進剤>
・加硫促進剤(1)(商品名:ノクセラーDM-P、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業社製、略称:DM)
・加硫促進剤(2)(商品名:サンセラーTT、テトラメチルチウラムジスルフィド、三新化学工業社製、略称:TT)
・加硫促進剤(3)(商品名:サンセラーTBZTD、テトラベンジルチウラムジスルフィド、三新化学工業社製、略称:TBZTD)
・加硫促進剤(4)(商品名:ノクセラーCZ-G、テトラベンジルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業社製、略称:CZ)
・加硫促進剤(5)(商品名:ノクセラーM-P(M)、メルカプトベンゾチアゾール、大内新興化学工業社製、略称:M)
・加硫促進剤(6)(商品名:ノクセラーNS-P、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業社製、略称:NS)
・加硫促進剤(7)(商品名:サンセラー22-C、2-イミダゾリン-2-チオール、三新化学工業社製、略称:ETU)
・加硫促進剤(8)(商品名:ノクセラーTRA、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、大内新興化学工業社製、略称:TRA)
・加硫促進剤(9)(商品名:ノクセラーD、1,3-ジフェニルグアニジン、大内新興化学工業社製、略称:DP)
・加硫促進剤(10)(商品名:サンセラーPZ、ジチオカルバミン酸塩、三新化学工業社製、略称:PZ)
【0106】
<実施例1>
(1.未加硫ドメイン組成物の製造)
[1-1.未加硫ドメイン組成物の調製]
表1に示す種類と量の各材料を加圧式ニーダーで混合し未加硫ドメイン組成物を得た。
【0107】
【0108】
[1-2.未加硫ゴム組成物の調製]
表2に示す種類と量の各材料を加圧式ニーダーで混合して未加硫ゴム組成物を得た。
【0109】
【0110】
表3に示す種類と量の各材料とをオープンロールにて混合し導電性部材成形用ゴム組成物を調製した。
【0111】
【0112】
<2.導電性部材の成形>
快削鋼の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施した全長252mm、外径6mmの丸棒を用意した。次にロールコーターを用いて、前記丸棒の両端部11mmずつを除く230mmの範囲の全周にわたって、接着剤としてメタロックU-20(商品名、(株)東洋化学研究所製)を塗布した。本実施例において、前記接着剤を塗布した丸棒を導電性支持体として使用した。
次に、導電性支持体の供給機構、及び未加硫ゴムローラの排出機構を有するクロスヘッド押出機の先端に内径12.5mmのダイスを取付け、押出機とクロスヘッドの温度を80℃に、導電性の軸芯体の搬送速度を60mm/secに調整した。この条件で、押出機より未加硫ゴム組成物を供給して、クロスヘッド内にて導電性支持体の外周部を未加硫ゴム組成物で被覆し、未加硫ゴムローラを得た。
次に、170℃の熱風加硫炉中に前記未加硫ゴムローラを投入し、60分間加熱することで未加硫ゴム組成物を加硫し、導電性支持体の外周部に導電層が形成されたローラを得た。その後、導電層の両端部を各10mm切除して、導電性樹脂層部の長手方向の長さを231mmとした。
最後に、導電層の表面を回転砥石で研磨した。これによって、中央部から両端部側へ各90mmの位置における各直径が8.44mm、中央部直径が8.5mmであるクラウン量60μmの導電性部材(1)を得た。
【0113】
導電性部材(2)~(39)は、表4に示す出発原料を用いた以外は、導電性部材(1)と同様の方法で作製した。各々の導電性部材の作製に用いた出発原料の質量部と物性を表4に示す。また、導電性部材(39)は、表4に示す材料を用い、ストレート形状(クラウン0μm)で押し出し及び研磨処理を施した以外は、導電性部材(22)と同様の方法で作製した。
【0114】
【0115】
【0116】
<3.特性評価>
続いて、実施例、比較例に係る導電性部材について下記の評価を行った。
【0117】
[3-1]ゴム化学構造の同定/硫黄存在の確認
ドメインとマトリックスの化学構造の特定は、従来の固体NMR、熱分解ガスクロマトグラフィー(以降、「Py-GC」とも記す)の如き分析法と、TEM-EELS(電子エネルギー損失分光法)とを組み合わせて行うことができる。
まず、ドメインとマトリックスに含まれる二種類のゴムの同定を固体NMRを用いて行った。その後、切削装置として、クライオミクロトーム(商品名「Leica EM FCS」、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて、-100℃の切削温度で、TEM分析用の100nm以下の導電層の超薄層切片を作成した。その後に、得られた導電層の超薄層切片に対して、酸化オスミウム染色もしくは酸化ルテニウム染色を行い、TEM-EELS(商品名:H-7100FA、日立ハイテクノロジーズ社製)で分析を行った。この時、ドメインとマトリックス及び導電性粒子それぞれにコントラスト差があるよう撮影した。
【0118】
酸化ルテニウム染色は、選択的にラメラの非晶部を染色するため、スチレン骨格のようなベンゼン環を有するゴムは染色され、電子像として暗く観察される。また、酸化オスミウム染色は二重結合と反応して染色されるため、イソプレンのような二重結合が多いゴムは染色され、電子像として暗く観察される。その時のドメインとマトリックスのコントラスト差と、硫黄、窒素及び塩素等の元素マッピング分析から、ドメインとマトリックスに含まれるゴム架橋物各々の化学構造の特定及び硫黄の含有を判断することができる。
【0119】
固体NMRで導電層中にNBRとSBRの存在が確認された導電層の超薄層切片を酸化ルテニウムで染色し、TEM-EELSで観察すると、マトリックス・ドメイン構造が確認された。また、導電性粒子を含むドメインを構成するゴムに対して、マトリックスのゴムの方が、電子像として暗く観察された。また、同時に元素マッピング分析を行い、検出された元素の中から、C、O、N、S,Cl、Mg及び充填剤として添加した金属酸化物の金属(例えば、炭酸カルシウム由来のCa)の7元素のみ選択して、画像を取得した。この時、アクリロニトリル由来のNの検出がドメイン領域内でのみ確認された。従って、ドメインを構成するゴムがNBRであり、マトリックスを構成するゴムがSBRであると特定された。さらに、ドメインとマトリックス全面に亘って、Sの検出が確認された。従って、導電層中に硫黄を含有することが確認された。
【0120】
さらに、固体NMRもしくは、Py-GCで導電層中にNBRとイソプレンの存在が確認された導電層の超薄層切片を酸化オスミウムで染色し、TEM-EELSで観察した。その時、導電性粒子を含むドメインを構成するゴムに対して、マトリックスのゴムの方が、電子像として暗く観察された。また、同時に元素マッピング分析を行い、画像を取得した。この時、アクリロニトリル由来のNの検出がドメイン領域内でのみ確認された。従って、ドメインを構成するゴムがNBRであり、マトリックスを構成するゴムがイソプレンであると特定された。さらに、ドメインとマトリックス全面に亘って、Sの検出が確認された。従って、導電層中に硫黄を含有することが確認された。上記に示した例の通りに、実施例及び比較例における評価を行った。結果を表5及び表8に示す。
【0121】
3-1-1.固体NMR測定法
導電層を分取した後、凍結粉砕し、外径3.2mmの固体NMR用試料管に詰め、NMR装置(装置名:NMR spectrometerECX 500 II、JOEL RESONANCE Inc製)で、分析を行った。下記条件で、13C-NMRスペクトルを測定することで、導電層に含まれるゴムの化学構造の同定を行った。
・測定条件
観測核:13C;
待ち時間:5秒;
MAS速度:15kHz;
積算回数:256回。
【0122】
3-1-2.Py-GC測定法
Py-GCは、ガスクロマトグラフ(装置名:6890A、Agilent社製)の注入口に、熱分解装置(装置名:PY-2020、フロンティア・ラボ社製)を直結させることで、測定を行った。
導電層を分取した後、白金製試料カップに約300μgの試料を秤取し、熱分解装置に設置し、試料カップを550℃に保った熱分解炉に自由落下させた。その際に生じた熱分解生成物を分離カラムで分離したものを、水素炎イオン化検出器で検出し、パイログラムを取得した。さらに、同様の条件で測定し、原子発光検出器による検出を行い、炭素及び硫黄のパイログラムを取得し、質量分析を用いてピークの同定を行うことで、ゴムの化学構造の同定と硫黄架橋の有無を判断した。ピークの同定は、質量分析計を用いた。測定条件は下記の通りである。
・測定条件
注入口温度:300℃;
検出器温度:320℃;
キャリアガス:He(スプリット比 50:1);
GCオーブン温度:50℃(2min)→10℃/min→320℃(10min)。
【0123】
3-1-3.TEM-EELS
・測定条件
加速電圧:100kV;
観察倍率:10000倍;
ビーム径:2nm。
【0124】
[3-2]マトリックス・ドメイン構造の確認
マトリックス・ドメイン構造が好適に形成できるかを確認するため、以下の確認を行った。TEM-EELS測定で作製した導電層の超薄切片を、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて1,000倍で撮影し、断面画像を得た。
マトリックス・ドメイン構造は、この断面画像内において、
図2のように、ドメイン成分は複数の個数がマトリックス中に分散されており、一方で、マトリックスは画像内で連通している状態である。
導電性部材1(長手方向の長さ:230mm)を長手方向に5個の領域に4等分し、それぞれの領域内から任意に1点ずつ、合計20点から当該切片を作製して上記測定を行った。マトリックス・ドメイン構造を確認できた場合には「○」、できなかった場合は「×」とした(MD構造有無として表示)。本開示の実施例および比較例における評価結果を表5、表7及び表8に示す。
【0125】
[3-3]導電層中におけるドメインの体積分率の測定
前記した方法によりドメインの体積分率を測定した。実施例および比較例における評価結果を表5及び表8に示す。
【0126】
[3-4]SP値の算出
第1のゴム及び第2のゴムのSP値は、SP値が既知の材料を用いた検量線法によって算出された値で定義される。
例えば、NBR及びSBRは、分子量に依存せず、アクリロニトリル由来及びスチレン由来のモノマー単位の含有比率でSP値が決定される。従って、Py-GC等の分析手法を用いて、アクリロニトリル由来及びスチレン由来のモノマー単位の含有比率を解析することで、それぞれの含有比率及びSP値が既知の材料から得た検量線から、SP値を算出することができる。また、イソプレンゴムは、1,2-ポリイソプレン、1,3-ポリイソプレン、3,4-ポリイソプレン、及びcis-1,4-ポリイソプレン、trans-1,4-ポリイソプレンなどの構造や、これらの共重合比でSP値が決定される。従って、SBR及びNBRと同様にPy-GC等で異性体構造単位の含有比率を解析し、SP値が既知の材料から、SP値を算出することができる。
具体的な方法を以下に説明する。まず導電層を測定試料として、[3-1]と同じ条件で、Py-GC法を用いて、分析を行い、次の化学構造の導電層中の存在比率を解析する。
アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン、1,2-ポリイソプレン、1,3-ポリイソプレン、3,4-ポリイソプレン、及びcis-1,4-ポリイソプレン、trans-1,4-ポリイソプレン。
これを、上述の[3-1]及び[3-3]で測定された、各々のドメインとマトリックスの同定結果及び、ドメインの体積比率から、SBR中のスチレン含有量、NBR中のニトリル含有量を算出することができる。さらに異なる構造のイソプレンの共重合比を解析することができる。
【0127】
Py-GC法を用いる場合、定量法として、ゴムごとに、熱分解試料量とキーピークの生成量(面積)の関係を求めておき、分析試料のキーピークの面積から熱分解試料量を定量する絶対検量線法を用いることができる。また、ニトリル含有量及びスチレン含有量が既知の試料を用いて、熱分解試料のキーピークの面積強度比の関係を検量線とする相対面積法を用いて、定量することができる。
例えば、固体NMRもしくはPy-GCで、導電層中の有機物由来のピークとして、アクリロニトリルが18.0質量%、スチレンが8.0質量%、ブタジエンが74.0質量%であることが同定された試料の解析を一例として説明する。上述の解析後、[3-1]の通りに、TEM-EELSでドメインに含まれる第2のゴムがSBRで、マトリックスに含まれる第1のゴムがNBRであることが同定される。さらに、[3-3]の通りに、FIB-SEMを用いて、ドメインの体積比率が30%であることが同定される。SBRの比重が0.94g/cm
3で、NBRの比重が1.0g/cm
3であるため、質量に変換すると、導電層中におけるSBRとNBRの質量比率は、28.7%と71.3%となる。従って、ドメインに含まれるSBRのスチレン含有量は27.9%であり、マトリックスに含まれるNBRのニトリル含有量は25.2%であることが算出される。
その後、ニトリル含有量とSP値の関係が既知の材料から、
図4に示す通りに、最低三プロット以上で、検量線を引くことで、上記マトリックスに含まれるNBRのSP値を算出することができる。具体的には、含有量25.2%では、18.8(J/cm
3)
0.5である。同様に、スチレン含有量とSP値の関係が既知の材料から、
図5に示す通りに、最低三プロット以上で、検量線を引くことで、上記ドメインに含まれるSBRのSP値を算出することができる。具体的には、含有量27.9%では、17.0(J/cm
3)
0.5である。上記の方法に従って算出した、実施例及び比較例に係る第1のゴム及び第2のゴムのSP値差を表5及び表8に示す。
【0128】
[3-5]ドメイン及びマトリックスのtanδの測定
損失正接(tanδ)は以下のようにして測定した。まず、未加硫ドメインゴム組成物及び未加硫マトリックスゴム組成物と同一組成のゴム組成物を用いて加硫ゴムシートを策し得した。これらのゴムシートについて動的粘弾性測定装置(商品名:EPLEXOR-500N、GABO社製)を用いてtanδを測定した。 なお、tanδを測定するための、ゴムシート作成に必要な項目は下記の通りである。
・ドメインおよびマトリックス各々のゴムの化学構造
・加硫剤の種類および配合量
・加硫促進剤の種類および配合量
・充填剤の種類および配合量
・導電性粒子の配合量
【0129】
<充填剤、加硫剤および導電性粒子がドメインもしくはマトリックスどちらか、更には、マトリックスとドメイン両者に含有するかの判別>
具体的には下記の通りである。
上述の[3-1]から[3-4]のローラの解析結果から、ドメインとマトリックスの各々のゴム組成物の配合を解析することで、ゴムの種類、加硫剤の種類および配合量を決定することができる。また、後述の[3-6]の加硫促進剤の分析に併せて、硫化ソーダ法、ジアナミド法、ヨウ化水素還元法、亜硫酸ソーダ法、アミン法などの公知の分析法で、加硫促進剤の種類および配合量を決定することができる。
さらに、[3-1]の元素分析によって、金属酸化物などの充填剤の種類と配合量を決定することができる。この際、元素マッピング分析により、加硫剤および充填剤がドメインもしくはマトリックスどちらか、更には、マトリックスとドメイン両者に含有するかを判別することができる。
また、導電層に含まれる導電性粒子の配合量は、公知の分析法である熱重量分析法(DTA-TG)で解析することが可能である。分析条件を下記に示す。
【0130】
[DTA-TG分析]
導電層からマニュピレーターを用いて、適量切り出した。その後、下記条件で熱重量分析法(DTA-TG)を用いて、導電性粒子の含有量を測定した。この時、窒素雰囲気下の加熱処理で重量減少が生じたものが、導電層のゴム由来のものに相当する。また、酸素雰囲気下の加熱処理で重量減少が生じたものが、導電性粒子由来のものに相当する。その量比関係から、本開示の表面層に含まれる導電性粒子の含有量を求めた。
[測定条件]
・測定機器;Thermo plus TG8120(商品名;リガク社製)
・ 昇温/降温条件:25℃→800℃→200℃(窒素雰囲気下)→800℃(酸素雰囲気下)
・昇温/降温条件;10℃/min
・測定用試料ホルダー;アルミナパン
【0131】
上述のDTA-TG分析と上述の[3-3]の解析結果と併せて、ドメインに含まれる導電性粒子の配合量を決定することができる。
また、上述の[3-1]のTEM-EELS測定の際に、観察倍率50000~200000倍で、ドメイン内部を観察することで、導電性粒子の一次粒子径および凝集体サイズ(二次粒子径)を解析することができる。
また、JIS-Z8901に準拠した方法で、導電性粒子のDBP吸収量を測定することで、導電性粒子の材料を決定することができる。DBP吸収量の測定サンプルは、導電層からマニュピレーターを用いて、適量切り出し、その後500℃、24時間の焼成条件でマトリックス層のポリマーを分解した後、残渣物を洗浄して、導電性粒子を分取することで作成した。
上述の通りに、導電層を解析することで、未加硫ドメインゴム組成物及び未加硫マトリックスゴム組成物の配合の決定を行った。このゴム原料に、上述の分析で解析された加硫剤および加硫促進剤を、解析で明らかになった配合量を添加及び加硫させることで得た。具体的には、加硫剤および加硫促進剤を添加した未加硫ドメインゴム組成物及び未加硫マトリックスゴム組成物を、各々、厚み2mmの金型に入れ、10MPa、170℃、60分架橋して、厚さ2mmのゴムシートを得た。このゴムシートを用い、tanδの測定を下記条件で行った。本開示の実施例及び比較例における評価結果を表5及び表8に示す。尚、粘弾性(tanδ)周波数特性を評価するため、測定周波数は、0.1Hz(低周波数)及び80Hz(高周波数)の二水準で評価を行った。
【0132】
〔測定条件〕
・測定モード:引っ張り試験モード
・測定周波数:0.1Hz及び80Hz
・測定温度:23℃
・測定湿度:50%RH
・トランスデューサー:25N
・動的歪み:0.5%
・静的歪み:1.0%
・測定サンプル形状:幅5.0mm×長さ20mm×厚さ2.0mm
【0133】
[3-6]加硫促進剤の同定法
加硫促進剤の同定は、ヘッドスペースGC-MS(商品名:TRACEGC ULTRA、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で分析を行った。加硫促進剤の構造が既知である標準加硫SBRゴムを加硫促進剤の分析用試料とし、得られたクロマトグラムのスペクトルを比較することで、同定を行った。測定条件は下記の通りである。本開示の実施例及び比較例における評価結果を表6及び表8に示す。
【0134】
・測定条件
試料質量:100mg;
熱抽出温度:130℃(10min保持);
カラム温度:40℃(3min保持)~300℃;
カラム温度昇温速度:10℃/min;
キヤリヤーガス流速:1lml/min;
スプリット比:1/100;
抽出ガス:He。
【0135】
[3-7] ドメインの体積抵抗率の測定
ドメインの体積抵抗率は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)(商品名:Q-Scope250、Quesant Instrument Corporation社製)を用い、コンタクトモードで測定した。
まず、導電性部材の導電層から、ミクロトーム(商品名:Leica EM FCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて、切削温度-100℃にて、2μm程度の厚みの超薄切片として切り出した。次に、当該超薄切片を金属プレート上に設置し、金属プレートに直接接触している箇所の中を選び、ドメインに該当する箇所をSPMのカンチレバーを接触させ、次いで、カンチレバーに1Vの電圧を印加し、電流値を測定した。
当該SPMで当該測定切片の表面形状を観察して、得られる高さプロファイルから測定箇所の厚さを算出した。さらに、表面形状観察結果から、カンチレバーの接触部の凹部面積を算出した。当該厚さと当該凹部面積とから体積抵抗率を算出し、ドメインの体積抵抗率とした。導電性部材A1(長手方向の長さ:230mm)を長手方向に5個の領域に4等分し、それぞれの領域内から任意に1点ずつ、合計20点から当該切片を作製して上記測定を行った。その平均値を、ドメインの体積抵抗率とした。本開示の実施例及び比較例における評価結果を表6及び表8に示す。
【0136】
[3-8]ドメインサイズの測定方法
ドメインのサイズは、走査型電子顕微鏡(SEM)で得られる画像を観察してえられる観察画像を、画像処理することにより得た。
測定試料は、上記マトリックスの体積抵抗率の測定において得られた断面切片を用いた。断面が観察できるように、金属製のサンプル台にセットした。走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、加速電圧:5kV、撮影倍率:1,000倍、撮影画像:二次電子像の条件で撮影し、表面画像を得た。
次いで、当該表面画像を画像処理ソフトImage-pro plus(製品名、Media Cybernetics社製)を使用して、マトリックスが白、ドメインが黒くなるように画像処理(2値化)し、カウント機能で観察画像内の任意の50個のドメインの円相当径を測定し、算術平均値を算出した。これを、導電性部材A1の長手方向を5等分、周方向に4等分し、当該20領域に対して上記の測定結果の算術平均をドメインのサイズとした。実施例及び比較例における評価結果をそれぞれ表6及び表8に示す。
【0137】
[3-9]ドメイン間距離の測定方法
ドメイン間の距離は、走査型電子顕微鏡(SEM)で得られる画像を観察してえられる観察画像を、画像処理することにより得た。
具体的には、上記ドメインのサイズの測定法に対して、撮影倍率5,000倍で測定し、画像処理の方法を、ドメインの壁面間距離をカウントする機能を使用した以外は、同様にして、ドメイン間距離の算出を行った。これを、導電性部材A1の長手方向を5等分、周方向に4等分し、当該20領域に対して上記の測定結果の算術平均をドメイン間距離とした。本開示の実施例及び比較例における評価結果をそれぞれ表6及び表8に示す。
【0138】
[3-10]ドメインの均一性評価
ドメインの配置の均一性を、下記の通りに評価した。前記のドメインの形状の測定において(1/4)l、(2/4)l、(3/4)lの各断面での切片の撮影画像を2値化した2値化画像を解析することによって評価を行った。当該2値化画像に対して、画像処理ソフト(商品名:専用画像処理解析システムルーゼックスSE、株式会社ニレコ製)を用いて、重心間距離の分布を算出した。当該分布に対し、標準偏差E及び平均値Fを統計処理によって計算し、E/Fの算出を行った。上記の測定を、導電層の厚さをTとしたとき、3つの切片のそれぞれ外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所、合計9か所における15μm四方の領域から算出し、9か所の平均値を算出した。本開示の実施例及び比較例における評価結果をそれぞれ表6及び表8に示す。
【0139】
[3-11]マトリックスの体積抵抗率の測定方法
マトリックスの体積抵抗率は、上記ドメインの体積抵抗率の測定において、測定箇所をマトリックスに該当する箇所でカンチレバーに50Vの電圧を印加し、電流値を測定した以外は、同様の方法で行った。本開示の実施例及び比較例における評価結果をそれぞれ表6及び表8に示す。
【0140】
[3-12]導電層のMD-1硬度
導電層のMD-1硬度は、アスカー マイクロゴム硬度計MD-1型タイプA(商品名、高分子計器株式会社製)を用いて測定した。具体的には、常温常湿(温度23℃、相対湿度55%)の環境中に12時間以上放置した導電性部材に対して該硬度計を10Nのピークホールドモードで測定した値を読み取った。これを加硫ゴムローラの軸方向のゴム端部から30~40mmの位置の両端部及び中央部の3箇所、かつ、それぞれの周方向に3箇所ずつ、計9箇所を測定し、得られた測定値の平均値を加硫ゴム層のMD-1硬度とした。本開示の実施例及び比較例における評価結果をそれぞれ表6及び表8に示す。
【0141】
(4.画像評価)
[4-1]放置セットスジ画像評価
導電性部材1を測定環境にならす目的で、23℃、50%RHの環境に48時間放置した。次に、電子写真画像形成装置として、電子写真方式のレーザープリンタ(商品名:Laserjet M608dn、HP社製)を用意した。そして、本電子写真画像形成装置に搭載可能なプロセスカートリッジを用意し、当該プロセスカートリッジの帯電部材として、導電性部材1を組み込んだ。なお、当該帯電部材1とともにプロセスカートリッジに組み込んだ感光体ドラムは、支持体上に層厚23.0μmの有機感光層を形成してなる有機感光体である。また、この有機感光層は、支持体側から電荷発生層とポリアリレート(結着樹脂)を含有する電荷輸送層とを積層してなる積層型感光層であり、この電荷輸送層は感光体の表面層となっている。また、導電性部材を支持する軸受け部品のバネの長さを調整することで、感光体ドラムと導電性部材1の当接圧を500gf(4.9N)となるように改造を施した。
【0142】
高速プロセスにおける評価とするために、当該レーザープリンタを、単位時間当たりの出力枚数が、オリジナルの出力枚数よりも多い、A4サイズの用紙で、75枚/分となるように改造した。その際、記録メディアの出力スピードは370mm/秒、画像解像度は1,200dpiとした。また、23℃、50%RHの環境に48時間放置した。その後、同環境で、20000枚連続で画像出力を行った。このような高速プロセスにおける連続モードでの画像形成は、導電性部材に印加されるせん断力などの外力が増大すると同時に、外力により生じた変形に対して、変形回復の追従が困難となるため、より厳しい評価条件である。
出力した電子写真画像としては、A4サイズの紙上に、サイズが4ポイントのアルファベット「E」の文字が、印字率が1.0%となるように形成されるものとした。その後、レーザープリンタが停止した状態で、同環境で、12時間放置した後、転写部材を新品に交換し、ハーフトーン画像を20枚出力することで、放置セット画像の評価を行った。
【0143】
当接箇所と非当接箇所で、歪みの緩和のムラが原因で、部材の変化や、導電性粒子の移動に差が生じることで、当接箇所と非当接箇所で電気特性、即ち放電量に差が生じ、不均一な放電となる。その結果、特にハーフトーン画像のような放電ムラの影響を受けやすい画像において、スジ状の白抜け画像として顕在化しやすくなる。このスジ状の白抜け画像を放置セット画像と称する。なお、ハーフトーン画像とは、電子写真感光体の回転方向と垂直方向に延びる幅1ドットの横線が、当該回転方向にa2ドットの間隔で描かれた画像である。出力されたハーフトーン画像において、下記基準で、放置セット画像の評価を行った。実施例及び比較例における評価結果をそれぞれ表6及び表8に示す。
【0144】
ランクA:放置セットに起因するスジ等が全く出ていないもの。
ランクB:放置セットに起因するスジ等が極わずかに発生したが、20枚画像出力後に画像不良が完全に消失した。
ランクC:放置セットに起因するスジ等がわずかに発生したが、20枚画像出力後に画像不良は完全に消失しないが、24時間放置後に完全に消失した。
ランクD:放置セットに起因するスジ等がはっきりと発生したもの。24時間放置後にも画像不良が完全には消失しない。
【0145】
[4-2]感光体ドラム当接部と非当接部の電気抵抗ムラの測定
上記[4-1]の画像評価に用いた導電性部材をプロセスカートリッジから取り出し、感光体ドラムとの当接部分と、非当接部における電気抵抗の測定を行った。測定は、ハーフトーン画像を20枚画像出力直後に行った。
図8に導電性部材の電気抵抗測定装置の概略図を示す。導電性部材は軸芯体の両端部を不図示の押圧手段で直径30mmの円柱状アルミドラムに圧接され、アルミドラムの回転駆動に伴い従動回転する。この状態で、導電性部材の芯金部分に電源を用いて直流電圧を印加し、アルミドラムに直列に接続した基準抵抗にかかる電圧を測定することによって、導電性部材に流れる電流値の測定を行った。測定は、基準抵抗を1kΩ、アルミドラムの回転数を30rpmとし、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、直流200Vの電圧を印加して行った。
測定は基準抵抗にマルチメーターを接続し、サンプリング周波数100Hzで実施した。
図9に測定結果の例を示す。
図9に示すように、導電性部材の感光体ドラムとの当接部分において、測定電流値の極大値が観察され、低抵抗化していることがわかる。この非当接部分の電流値を基準値とし、基準値で極大値を除した値を電気抵抗のムラとした。例えば、極大値が12000μAで、基準値が6000μAの場合、電気抵抗のムラは2.0である。実施例及び比較例における評価結果をそれぞれ表6及び表8に示す。
【0146】
<実施例2~39>
実施例1の導電性部材(1)と同様に、導電性部材(2)~(39)について、導電層における上記特性の評価を行った。また、導電性部材(2)~(39)を帯電部材として用いて画像形成し、画像評価を行った。実施例2~39における、各種特性の評価及び画像評価の結果を表5及び6に示す。
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
<実施例40>
導電性支持体を、直径5mmに変更し、導電性部材の研磨後の外径を10.0mmとした以外は、実施例39と同様にして、導電性部材B1を製造した。
ついで、導電性部材B1を、転写部材として下記の評価を実施した。特性評価に関しては実施例1と同様の評価を行った。画像評価に関しては、下記の評価を実施した。
まず、導電性部材B1を測定環境にならすため、温度23℃、相対湿度50%の環境に48時間放置した。次に、電子写真画像形成装置として、電子写真方式のレーザープリンタ(商品名:Laserjet M608dn、HP社製)を用意した。そして、転写部材として、導電性部材B1を組み込んだ。なお、プロセスカートリッジに組み込んだ感光ドラムは、導電性部材(1)~(39)の評価に使用した同じものを用いた。また、帯電部材は、導電性部材(22)の評価に使用した同じものを用いた。また、導電性部材を支持する軸受け部品のバネの長さを調整することで、感光ドラムと導電性部材B1の当接圧を1250gf(12.26N)となるように改造を施した。
【0151】
高速プロセスにおける評価とするために、当該レーザープリンタを、単位時間当たりの出力枚数が、オリジナルの出力枚数よりも多い、A4サイズの用紙で、75枚/分となるように改造した。その際、記録メディアの出力スピードは370mm/秒、画像解像度は1,200dpiとした。また、23℃、50%RHの環境に48時間放置した。その後、同環境で、20000枚連続で画像出力を行った。
出力した電子写真画像としては、A4サイズの紙上に、サイズが4ポイントのアルファベット「E」の文字が、印字率が1.0%となるように形成されるものとした。その後、レーザープリンタが停止した状態で、同環境で、12時間放置した後、帯電部材を新品の導電性部材18に交換し、ハーフトーン画像を20枚出力することで、放置セット画像の評価を行った。
その後、前述の[4-1]と同様の条件で、放置セットスジ画像評価を行った。その後、[4-2]と同様の条件で、導電性部材B1の感光体ドラム当接部と非当接部の電気抵抗ムラの測定を行った。導電性部材B1の特性評価及び画像評価結果を表7に示す。
【0152】
【0153】
<比較例1>
ドメインのゴム原料として、EPDM(1)、マトリックスのゴム原料として、ヒドリンにした以外は実施例1と同様に導電性部材C1を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、マトリックス・ドメイン構造の形成を確認できたが、ドメインおよびマトリックス共に非ジエン系ゴムで構成されている。そのため、マトリックス-ドメイン間の化学結合が十分得られず、ドメイン同士の凝集などの構造変化によって、感光体ドラムとの当接部と非当接部において放電特性の差が生じたと推測される。また、高周波数領域(80Hz)におけるtanδ1/tanδ2の値が低く、導電層が連続した画像形成時に変形を十分に回復できなかったものと考えられる。
その結果、放置セット画像評価後に測定した抵抗ムラが3.6と、非常に大きくなり、放置セット画像はランクDとなった。
【0154】
<比較例2>
ドメインのゴム原料として、イソプレン(1)、マトリックスのゴム原料として、SBR(3)に変更した以外は実施例1と同様に導電性部材C2を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、ドメインとマトリックスを構成するゴムのSP値差が0のため、マトリックス・ドメイン構造の形成を確認できなかった。その結果、ドメインとマトリックスの界面における架橋を介した、三次元的なネットワーク形成ができず、外力に対する機械的歪みの優れた抑制効果を発現できない構成となった。また、導電性粒子がマトリックス中に混在することで、マトリックスで優れたゴム弾性を発現することができなかった。
その結果、放置セット画像評価後に測定した抵抗ムラが3.3となり、放置セット画像はランクDとなった。尚、本比較例に関しては、ドメインとマトリックスのゴムが相溶してしまったため、元々、ドメインやマトリックスに含まれていた導電性粒子や充填剤の配合比率の解析が不可能であった。そのため、ドメイン及びマトリックスを構成するゴムシートの再現ができなく、動的粘弾性の測定は行えなかった。表8中のドメイン体積分率は、化学構造解析により同定されたイソプレンの体積比率を記載したものである。
【0155】
<比較例3>
ドメインのゴム原料として、EPDM(2)、マトリックスのゴム原料として、NBR(5)に変更した以外は実施例1と同様に導電性部材C3を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、マトリックス・ドメイン構造の形成を確認できたが、ドメインを構成するゴムが非ジエン系ゴムのEPDMであった。EPDMに含まれるジエン骨格由来のモノマーは極わずかのため、マトリックス―ドメイン間の化学結合が十分に得られない。また、ドメインとマトリックスの化学構造がモノマー単位で大きく異なるため、高周波数領域(80Hz)におけるtanδ1/tanδ2の値が低かった。このことにより、導電層は連続した画像形成時に変形を十分に回復できなかったものと考えられる。
また、ドメインとマトリックスのゴムのSP値差が4.2と非常に大きく、ドメインの分散が不均一となり、変形に対する十分な応答性が発現できない構成となった。
その結果、放置セット画像評価後に測定した抵抗ムラが3.5と、非常に大きくなり、放置セット画像はランクDとなった。これは、不均一に分散した大きいサイズのドメイン同士の凝集などの構造変化によって、感光体ドラムとの当接部と非当接部において放電特性の差が顕著に生じたためと推測される。
【0156】
<比較例4>
加硫促進剤(1)を加硫促進剤(9)(PZ)に変更した以外は実施例11と同様に導電性部材C4を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、マトリックス・ドメイン構造の形成を確認できた。さらに、ドメインとマトリックスを構成するゴムがジエン系ゴムのSBRおよびBRであることも確認された。しかし、高周波数領域(80Hz)におけるtanδ1/tanδ2の値が非常に低かった。このことにより、導電層は連続した画像形成時に変形を十分に回復できなかったものと考えられる。これは、加硫促進剤とドメインとマトリックスを構成するゴムとの親和性が不十分で、ドメイン内部、マトリックス内部およびマトリックス-ドメイン界面の架橋反応が不均一となったためと推測される。
その結果、放置セット画像評価後に測定した抵抗ムラが3.1となり、放置セット画像はランクDとなった。
【0157】
<比較例5>
加硫促進剤(1)を加硫促進剤(9)(PZ)に変更した以外は実施例38と同様に導電性部材C5を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、マトリックス・ドメイン構造の形成を確認できた。さらに、ドメインとマトリックスを構成するゴムがジエン系ゴムのSBRおよびNBRであることも確認された。しかし、高周波数領域(80Hz)におけるtanδ1/tanδ2の値が非常に高く、連続印刷時に生じる機械的歪みの緩和挙動に偏りが非常に大きい構成となった。
具体的には、マトリックスに蓄積された歪みの緩和が不十分な構成である。そのため、マトリックスで優れたゴム弾性を発現できず、外力に対して、著しく変形応答性が低下し、マトリックス・ドメイン構造の変化が生じたと推測される。これは、比較例4同様に、加硫促進剤とドメインとマトリックスを構成するゴムとの親和性が不十分なためと考えられる。
その結果、放置セット画像評価後に測定した抵抗ムラが3.2となり、放置セット画像はランクDとなった。
【0158】
<比較例6>
ドメインのゴム原料として、NBR(3)、マトリックスのゴム原料として、NBR(4)に変更した以外は実施例1と同様に導電性部材C6を製造し、評価した。評価結果を表8に示す。
本比較例においては、マトリックス・ドメイン構造の形成を確認できなかった。また、化学構造の解析の結果、ゴムとしては、NBRのみが検出された。したがって、ドメインとマトリックスの界面における架橋を介した、三次元的なネットワーク形成ができず、外力に対する機械的歪みの優れた抑制効果を発現できない構成となった。また、導電性粒子がマトリックス中に混在することで、マトリックスで優れたゴム弾性を発現することができなかった。
その結果、放置セット画像評価後に測定した抵抗ムラが3.4となり、放置セット画像はランクDとなった。尚、本比較例に関しては、ドメインとマトリックスのゴムが完全に相溶しているため、元々、ドメインやマトリックスに含まれていた導電性粒子や充填剤の配合比率の解析が不可能であった。そのため、ドメイン及びマトリックスを構成するゴムシートの再現ができなく、動的粘弾性の測定は行えなかった。また、SP値の解析も行うことができなかった。したがって、表8中のSP値差は、参考データとして、本比較例に用いた二種類のNBRのSP値差を記載したものである。
【0159】
【符号の説明】
【0160】
1 導電性部材(導電性ローラ)
2 導電性支持体
3 導電層
3a、22 マトリックス
3b、23 ドメイン
3c、24 導電性粒子