(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】予測モデル構築装置および予測装置
(51)【国際特許分類】
G21C 17/02 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
G21C17/02 300
G21C17/02 400
(21)【出願番号】P 2020151815
(22)【出願日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】細川 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】下出 直樹
(72)【発明者】
【氏名】助田 浩子
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮介
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 誠
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-040430(JP,A)
【文献】特開平10-111286(JP,A)
【文献】特表平11-503834(JP,A)
【文献】特開平01-063894(JP,A)
【文献】特開2015-114251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00-17/14
G21D 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラントにおける原子炉の炉水水質を予測する予測モデルを構築する予測モデル構築装置であって、
前記原子炉のガンマ線および中性子線の線量率分布の予測値を含む入力データから物理モデルを用いて前記原子炉内の炉水水質の予測値
を含む炉内予測値を計算するシミュレーション部と、
前記原子炉の線流速、給水流量、炉心流量、主蒸気流量、炉心入口温度、炉心出口温度、給水水素濃度、給水鉄濃度、貴金属注入量、炉水浄化流量、熱出力のなかの何れか少なくとも1つを含むプラント状態量、および前記炉内予測値を入力データとして含み、当該入力データの取得された期間から所定期間後の前記炉内予測値を出力データとして含む教師データを機械学習モデルに学習させて予測モデルを構築する学習部と
を備えることを特徴とする予測モデル構築装置。
【請求項2】
前記物理モデルは、ラジオリシス・腐食電位モデルであって、
前記炉内予測値は、前記原子炉の構造材料の腐食電位
の予測値をさらに含み、
前記炉水水質は、前記原子炉の炉水の酸素、水素、および過酸化水素のなかの何れか少なくとも1つの濃度であ
り、
前記シミュレーション部は、前記物理モデルを用いて前記炉内予測値を計算し、
前記学習部は、前記プラント状態量、および前記炉内予測値を入力データとして含み、当該入力データの取得された期間から所定期間後の前記炉内予測値を出力データとして含む教師データを機械学習モデルに学習させて予測モデルを構築する
ことを特徴とする請求項1に記載の予測モデル構築装置。
【請求項3】
前記学習部は、複数の原子炉の設計データと炉心出力分布とを入力データとして含み、前記複数の原子炉の線量率分布を出力データとして含む教師データを機械学習モデルに学習させて線量率予測モデルを構築し、
前記物理モデルの入力データとなる線量率分布の予測値は、前記原子炉の設計データと炉心出力分布とを入力として前記線量率予測モデルを用いて計算される
ことを特徴とする請求項1に記載の予測モデル構築装置。
【請求項4】
原子力発電プラントにおける原子炉の炉水水質を予測する予測装置であって、
前記原子炉のガンマ線および中性子線の線量率分布の予測値を含む入力データから物理モデルを用いて前記原子炉内の炉水水質の予測値
を含む炉内予測値を計算するシミュレーション部と、
前記原子炉の線流速、給水流量、炉心流量、主蒸気流量、炉心入口温度、炉心出口温度、給水水素濃度、給水鉄濃度、貴金属注入量、炉水浄化流量、熱出力のなかの何れか少なくとも1つを含むプラント状態量、および前記炉内予測値を入力データとして含み、当該入力データの取得された期間から所定期間後の前記炉内予測値を出力データとして含む教師データを機械学習モデルに学習させて構築された予測モデルが記憶される記憶部と、
前記プラント状態量と前記炉内予測値とから、前記予測モデルを用いて当該プラント状態量と当該炉内予測値とが取得された期間から前記所定期間後の炉内予測値を計算する予測部と
を備えることを特徴とする予測装置。
【請求項5】
前記物理モデルは、ラジオリシス・腐食電位モデルであって、
前記炉内予測値は、前記原子炉の構造材料の腐食電位
の予測値をさらに含み、
前記炉水水質は、前記原子炉の炉水の酸素、水素、および過酸化水素のなかの何れか少なくとも1つの濃度であ
り、
前記シミュレーション部は、前記物理モデルを用いて前記炉内予測値を計算し、
前記予測モデルは、前記プラント状態量、および前記炉内予測値を入力データとして含み、当該入力データの取得された期間から所定期間後の前記炉内予測値を出力データとして含む教師データを機械学習モデルに学習させて構築される
ことを特徴とする請求項4に記載の予測装置。
【請求項6】
前記記憶部には、複数の原子炉の設計データと炉心出力分布とを入力データとして含み、前記複数の原子炉の線量率分布を出力データとして含む教師データを機械学習モデルに学習させて構築された線量率予測モデルがさらに記憶され、
前記物理モデルの入力データとなる線量率分布の予測値は、前記原子炉の設計データと炉心出力分布とを入力として前記線量率予測モデルを用いて計算される
ことを特徴とする請求項4に記載の予測装置。
【請求項7】
前記記憶部には、前記プラント状態量のなかで設定可能なプラント状態量の計画値の計画パターンが1つ以上さらに記憶され、
前記計画パターンを含むプラント状態量を入力データとして前記予測部を用いて前記所定期間後の炉内予測値を出力する運転支援部をさらに備える
ことを特徴とする請求項4に記載の予測装置。
【請求項8】
前記運転支援部は、
前記計画パターンに対応する前記所定期間後の炉内予測値のなかで、所定の基準を満たし、前記計画パターンを設定したときの前記原子力発電プラントの運用コストが最小となる計画パターンを出力する
ことを特徴とする請求項7に記載の予測装置。
【請求項9】
前記運用コストが最小となる計画パターン、または、選択された計画パターンに従って、前記設定可能なプラント状態量を設定する
ことを特徴とする請求項8に記載の予測装置。
【請求項10】
前記設定可能なプラント状態量は、給水水素濃度、給水鉄濃度、および貴金属注入量のなかの何れか少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項7に記載の予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントの炉水水質の予測モデル構築装置および予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラント(単にプラントとも記す)として、例えば、沸騰水型原子力発電プラント(BWR、Boiling Water Reactor)や加圧水型原子力発電プラント(PWR、Pressurized Water Reactor)が知られている。これらのプラントにおいて、原子炉圧力容器などの主要な構成部材は、腐食を抑制するために、水が接触する接水部にステンレス鋼やニッケル基合金などが用いられている。これらの構造材料は、水質、材料および応力が、ある特定の条件を満たすと応力腐食割れ(SCC、Stress Corrosion Cracking)が発生進展する。このため、応力腐食割れの防止策が、原子炉の健全性を維持するために適用されている。また、近年では原子炉の設備利用率向上や、長寿命化のような経済性向上の観点からも応力腐食割れの予防策が適用される。
【0003】
応力腐食割れ対策として、耐応力腐食割れの高い組成に設計したステンレス鋼やニッケル基合金を使用するとともに、溶接部に生じた残留引っ張り応力を緩和するための種々の応力緩和技術が適用されている。例えば、表面研磨、ピーニング、あるいは高周波残留応力改善法などがある。上記のような材料、応力面での応力腐食割れ対策に加えて、炉水中に僅かに存在する応力腐食割れを促進する有害イオン(塩化物イオン、硫酸イオン、クロム酸イオンなど)を、炉水浄化系を用いて積極的に除去する純水管理がなされている。
【0004】
原子力プラントの運転中に水の放射線分解で生じる酸素や過酸化水素などの酸化性化学種が炉水中に存在すると腐食電位(ECP、Electrochemical Corrosion Potential)が上昇する。材料の耐食性の低下および残留引っ張り応力の存在と同時に、腐食電位の上昇により応力腐食割れが発生進展することから、炉水中に水素を添加して酸化性化学種を再結合反応により水に戻して腐食電位を低下させる水素注入が適用される。水素注入は、PWRでは全てのプラントで、BWRでは多くのプラントに適用されている(特許文献1,2参照)。
【0005】
腐食電位は応力腐食割れの環境指標として用いられており、腐食電位が-300~-200 mV vs. SHE程度の値よりも低くなると応力腐食割れの発生が抑制されることが知られている(R.L.Cowan, et al., "Experience with hydrogen water chemistry in boiling water reactors," Water chemistry of nuclear reactor systems 4, 1, P29, BNES (1986)参照)。
【0006】
さらに近年ではBWRにおいて白金族貴金属を炉水に添加してステンレス鋼やニッケル基合金の表面に付着させ、白金族貴金属の有する酸素と水素の反応に関する電気化学触媒性を付与する貴金属注入という技術(特許文献3参照)が、米国内のBWRを中心に適用されている。貴金属注入の適用によって、腐食電位を目標値以下に低下させるために必要な水素量が大幅に低減でき、さらに腐食電位の低下する範囲も未適用の場合に比べて拡げることが可能となる。
【0007】
これらの従来技術では、応力腐食割れの影響を評価するために構造材料の腐食電位を精度よく知る必要がある。そこで、従来プラントでは、原子炉圧力容器内あるいは原子炉圧力容器に接続された配管に腐食電位センサを設置し、構造材料の腐食電位を測定している。
応力腐食割れおよび腐食疲労による亀裂進展を予測する原子炉一次系構造物の寿命予測が知られている(特許文献4参照)。この寿命予測は、測定した腐食電位および構造材料の亀裂進展特性データを用いて行われる。また、原子力プラントの構造部材の予寿命を推定する他の方法が知られている(特許文献5参照)。
【0008】
構造材料の腐食電位は設置したセンサによって測定されるが、センサ設置位置以外の腐食電位を計算で求めることができる。以下、腐食電位の計算手法について説明する。
腐食電位に影響を与える因子としては、溶存酸素濃度、過酸化水素濃度、および溶存水素濃度に加え、構造材料表面へのこれらの化学種の物質移動速度に関与する流速や水力等価直径がある。流速や水力等価直径は、炉心流量と各部位での流路面積および濡れ縁長さによって決まる。溶存酸素、溶存水素、および過酸化水素濃度は、水の放射線分解反応によって生成されるため、炉心から放出されるガンマ線および中性子の線量率の影響を受ける。これらの圧力容器内の線量率と線量率分布とは、炉心の運転状態、すなわち燃料の出力、軸方向および径方向の出力分布の影響を受ける。
【0009】
水素注入を適用すると、給水水素濃度の増加によって炉内の溶存酸素、過酸化水素、および溶存水素の濃度が低下して分布が変化するため、腐食電位の分布も変化する。さらに、貴金属注入を適用している場合には、構造材料表面の電気化学反応に寄与する貴金属付着量と、酸素量に対して化学量論比について過剰な水素量とが、腐食電位に影響を与える重要な因子となる。
【0010】
貴金属注入は、停止運転時や出力運転中のある期間に、炉水に貴金属(白金が主に使われている)が注入される。このとき、炉水が接触する構造材料表面や燃料棒表面に貴金属が付着する。貴金属の注入が停止されると構造材料表面と燃料棒表面とに付着した貴金属の一部は、溶解あるいは剥離によってそれぞれの表面から炉水へ移行する。炉水に移行した貴金属はその濃度に応じて構造材料表面や燃料棒表面に再び付着するが、一部は浄化系で除去される。
【0011】
任意の場所における構造材料表面の腐食電位を求めるためには、給水の水素注入濃度と炉心の運転状態によって定まる各部位の線量率とから、放射線分解計算によって評価される溶存酸素濃度、過酸化水素濃度、および溶存水素濃度をまず求める。続いて、これらを入力として、各部位の流速と電気化学反応計算によって腐食電位を求める(特許文献1参照)。さらに、貴金属注入条件では構造材料に付着した貴金属によって水素の電気化学反応が触媒されるので貴金属付着量を電気化学反応計算に取り込んで腐食電位を計算する。
【0012】
応力腐食割れ抑制のためには腐食電位を-300~-200 mV vs. SHE程度の値よりも低く維持することが必要となるので、運転中のプラントにおける構造材料の腐食電位が目標値以下まで下がっていることを実測あるいは計算によって確認する必要がある。計算のためには、炉心の出力計画と給水水素注入量の計画値、および評価対象各部位の構造材料まわりの水質、すなわち酸素、過酸化水素および水素の濃度が必要である。また、温度と物質移動係数とが必要であり、さらに貴金属注入を適用した場合には、構造材料表面での貴金属付着量が必要になる。
【0013】
このうち、炉心の出力計画と給水水素注入量の計画値とは、時系列で入手可能な値であるが、炉内の応力腐食割れ保護対象部位の水質と貴金属付着量とは、時系列での実測値はない。このため計算で求める必要があり、物理的および化学的シミュレーションモデルで求めることになる(特許文献6参照)。特許文献6では、現在の水質条件を入力として冷却水中の放射能変化を推定するシミュレーションモデル(マスバランスモデル)を用いて、将来のプラント線量率の予測し、この予測結果に基づき現在の水質条件の良否を診断して、構造材料への放射能付着量を予測している。同様の手法を貴金属に対して使うことで貴金属の構造材料付着量を予測することができる。
【0014】
特許文献7に記載の自己学習診断、予測装置は、プラントの仕様、特性などの時間的な変化に対応してモデルパラメータを自動修繕し予測精度の劣化を防ぐとともに、モデルを自己学習により改良する機能を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特許第2687780号公報
【文献】特開2005-043051号公報
【文献】特開平04-223299号公報
【文献】特開2006-010428号公報
【文献】特開平06-034786号公報
【文献】特開平01-063894号公報
【文献】特開平06-289179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献6に記載の技術は、物理モデルや化学モデルに基づいて設定したモデルのパラメータ(モデルパラメータ)の最適化とその寄与を調整するものであり、モデルが予め準備されている必要がある。このため、予測目標の状態量と入力として使用する状態量との相関関係が数式として記述されている必要がある。
【0017】
モデルで表現される状態量の相関関係は、モデルパラメータが最適化されることで最適化される。しかしながら、相関関係は考えられるが、プラント運転中にモデルパラメータが直接に技術的あるいは経済的に得られない場合がある。例えば、圧力容器内の水質や線量率は測定できない、ないしは仮に測定できても位置が限定的である。また、計算に用いる化学反応速度定数のような物性値が十分に整備されていなかったり、構造材料表面における酸化被膜の特性のように数式化が難しいパラメータがあったり、時間的にデータが欠落したりする。
【0018】
このように、相関関係のデータが時間的、空間的に離散的であったり、相関関係が複雑で数式表現が難しかったりする場合には、適切なモデルを構築できない。このため、複雑で数式で表現できない相関関係がある場合でも、入手可能なデータと物理モデルとを用いて原子力プラントの炉水水質と腐食電位を正確に予測し、運転管理することが求められている。
【0019】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、原子力発電プラントの炉水水質の高精度な予測モデルを構築する予測モデル構築装置および予測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記した課題を解決するため、予測モデル構築装置は、原子力発電プラントにおける原子炉の炉水水質を予測する予測モデルを構築する予測モデル構築装置であって、前記原子炉のガンマ線および中性子線の線量率分布の予測値を含む入力データから物理モデルを用いて前記原子炉内の炉水水質の予測値を含む炉内予測値を計算するシミュレーション部と、前記原子炉の線流速、給水流量、炉心流量、主蒸気流量、炉心入口温度、炉心出口温度、給水水素濃度、給水鉄濃度、貴金属注入量、炉水浄化流量、熱出力のなかの何れか少なくとも1つを含むプラント状態量、および前記炉内予測値を入力データとして含み、当該入力データの取得された期間から所定期間後の前記炉内予測値を出力データとして含む教師データを機械学習モデルに学習させて予測モデルを構築する学習部とを備える。
【0021】
また、予測装置は、原子力発電プラントにおける原子炉の炉水水質を予測する予測装置であって、前記原子炉のガンマ線および中性子線の線量率分布の予測値を含む入力データから物理モデルを用いて前記原子炉内の炉水水質の予測値を含む炉内予測値を計算するシミュレーション部と、前記原子炉の線流速、給水流量、炉心流量、主蒸気流量、炉心入口温度、炉心出口温度、給水水素濃度、給水鉄濃度、貴金属注入量、炉水浄化流量、熱出力のなかの何れか少なくとも1つを含むプラント状態量、および前記炉内予測値を入力データとして含み、当該入力データの取得された期間から所定期間後の前記炉内予測値を出力データとして含む教師データを機械学習モデルに学習させて構築された予測モデルが記憶される記憶部と、前記プラント状態量と前記炉内予測値とから、前記予測モデルを用いて当該プラント状態量と当該炉内予測値とが取得された期間から前記所定期間後の炉内予測値を計算する予測部とを備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、原子力発電プラントの炉水水質の高精度な予測モデルを構築する予測モデル構築装置および予測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態に係る原子力発電プラントの概略構成図である。
【
図2】本実施形態に係る原子炉の炉水の放射線分解による酸素、過酸化水素、水素の生成と原子炉の構造材料の腐食電位に関する計算の入出力の関係(ラジオリシス・腐食電位モデル)を説明するための図である。
【
図3】本実施形態に係る炉水水質および腐食電位を予測する予測装置の機能構成図である。
【
図4】本実施形態に係る教師データに含まれる予測モデルの入力データと出力データとを説明するための図である。
【
図5】本実施形態に係る学習処理における予測モデルの教師データの構成を説明するための図である。
【
図6】本実施形態に係る線量率予測モデルの入力データや出力データ(予測結果)を説明するための図である。
【
図7】本実施形態に係る線量率予測モデルの教師データの構成を説明するための図である。
【
図8】本実施形態に係る学習部が実行する学習処理のフローチャートである。
【
図9】本実施形態に係る予測処理における予測モデルの入力データと出力データとを説明するための図である。
【
図10】本実施形態に係る予測部が実行する予測処理のフローチャートである。
【
図11】本実施形態の変形例に係る学習処理における予測モデルの教師データの構成を説明するための図である。
【
図12】本実施形態の変形例に係る予測処理における予測モデルの入力データと出力データ(予測結果)を説明するための図である。
【
図13】上記した実施形態とは異なる実施形態における炉水水質と腐食電位とを予測するラジオリシス・腐食電位モデルを説明するための図である。
【
図14】本実施形態の変形例に係る線量率予測装置を説明するための図である。
【
図15】本実施形態の変形例に係る運転支援装置の機能構成図である。
【
図16】本実施形態の変形例に係る運転支援処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための形態(実施形態)における原子炉の炉水水質および原子炉の構造材料における腐食電位の予測手法を説明する前に、予測の対象となる原子力発電プラントおよび、当該原子力発電プラントにおける炉水水質と腐食電位とを計算する物理モデル(ラジオリシス・腐食電位モデル)を説明する。
【0025】
≪原子力発電プラントの概要≫
図1は、本実施形態に係る原子力発電プラントP100の概略構成図である。
図1を参照して、炉水水質および構造材料の腐食電位を予測する装置が適用される原子力発電プラントP100(ここではBWR)の概略構成を説明する。
原子力発電プラントP100は、原子炉P1、タービンP3、復水器P4、原子炉浄化系および給水系などを備えている。原子炉格納容器P11内に設置された原子炉P1は、燃料集合体(図示せず)で構成された、いわゆる炉心P13を内蔵する原子炉圧力容器P12を有する。原子炉圧力容器P12内には円筒状の炉心シュラウドP15が設置され、炉心P13を保持している。各燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットを燃料被覆管内に充填した複数の燃料棒から構成される。
【0026】
原子炉圧力容器P12の内面と炉心シュラウドP15の外面との間には、環状のダウンカマP17が形成される。インターナルポンプ型のABWR(改良型BWR)の場合は、炉水を循環させるために複数のインターナルポンプP21が原子炉圧力容器P12の底部に設置される。インターナルポンプP21のインペラは、ダウンカマP17の下部に配置される。また、図示していないが、非インターナルポンプ型のBWRでは、再循環系を原子炉圧力容器P12の外に有しており、再循環系に設置した再循環ポンプで炉水を循環する。
【0027】
給復水系は、復水器P4と原子炉圧力容器P12とを連絡する給水配管P10に、復水ポンプP5、復水浄化装置P6、給水ポンプP7、低圧給水加熱器P8、および高圧給水加熱器P9が、この順番に復水器P4から原子炉圧力容器P12に向かって設置されて構成される。水素注入装置P16が、水素注入配管P18によって、復水浄化装置P6と給水ポンプP7の間にある復水昇圧ポンプ(図示せず)の吸い込み側で、給水配管P10に接続されている。開閉弁P19が水素注入配管P18に設けられる。運転中に貴金属注入を行うプラントでは、貴金属注入装置P31が、貴金属注入配管P32によって、原子炉圧力容器P12に近い位置で給水配管P10に接続されている。開閉弁P33が貴金属注入配管P32に設けられる。
【0028】
原子炉浄化系は、原子炉圧力容器P12と給水配管P10とを連絡する浄化系配管P20(炭素鋼、ステンレス鋼、低合金鋼のなかから用途に応じて選定)に、浄化系隔離弁P23、浄化系ポンプP24、再生熱交換器P25、非再生熱交換器P26、およびフィルタとイオン交換樹脂とからなる炉水浄化装置P27が、この順番で設置されて構成される。原子力発電プラントP100に設けられた残留熱除去系は、一端部が原子炉圧力容器P12に接続され、他端部はABWRの場合は炉心P13より上方で原子炉圧力容器P12に接続されて、浄化系配管P20が分岐されている。残留熱除去系の残留熱除去系配管P28には、残留熱除去系ポンプP29および熱交換器P30(冷却装置)が設置される。
【0029】
原子炉圧力容器P12内の炉水は、ダウンカマP17を流れ降り、インターナルポンプP21で昇圧されて、原子炉圧力容器P12下部に位置する下部プレナムに流出する。その後、炉水は、下部プレナムを上昇して炉心P13に流入する。炉心P13で炉水は燃料集合体の燃料棒に含まれる核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された炉水の一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉圧力容器P12上部に流れ上がった後、セパレータ(図示せず)、ドライヤ(図示せず)を抜けた後、主蒸気配管P2を通ってタービンP3に導かれ、タービンP3を回転させる。タービンP3に連結された発電機(図示せず)が回転され、電力が発生する。タービンP3から排出された蒸気は、復水器P4で凝縮されて液体の水に戻る。
【0030】
この水は、復水・給水として、給水配管P10を通って原子炉圧力容器P12内に循環供給される。給水配管P10(給復水配管)を流れる給水は、復水ポンプP5で昇圧され、フィルタとイオン交換樹脂とからなる復水浄化装置P6で不純物が除去されて、給水ポンプP7でさらに昇圧され、低圧給水加熱器P8および高圧給水加熱器P9で加熱される。抽気配管P14で主蒸気配管P2およびタービンP3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器P8および高圧給水加熱器P9にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。ABWRでは高圧給水加熱器P9のドレンが直接給水に入り熱効率を高めている。低圧給水加熱器P8のドレンは、復水浄化系P6の上流または下流で回収される。
【0031】
原子炉圧力容器P12内の炉水には給水に含まれる金属腐食生成物や原子炉圧力容器P12内の構造材の腐食によって生じた生成物が含まれるため、一定の割合の炉水が炉水浄化系によって浄化される。原子炉圧力容器P12内の炉水は、浄化系ポンプP24の駆動により、残留熱除去系配管P28から分岐した浄化系配管P20を通して再生熱交換器P25および非再生熱交換器P26に供給され、これらの熱交換器により50℃程度まで冷却される。冷却された炉水が炉水浄化装置P27を通ることによって炉水に含まれる金属腐食生成物が除去され、再生熱交換器P25で昇温された後、給水配管P10内を流れる給水と合流して原子炉圧力容器P12に供給される。
【0032】
原子炉P1の運転を停止するときには、再循環流量を下げるとともに全制御棒(図示せず)が炉心P13に挿入される。全制御棒の挿入により核燃料物質の核分裂反応が停止する。炉心P13および原子炉圧力容器P12内の機器に残留する熱は炉水の蒸発によって除去されるが、ある程度、温度が低下すると炉水の蒸発による除熱効率が低下するため、炉水温度が150℃程度まで低下すると残留熱除去系を用いて炉心P13および原子炉圧力容器P12内の機器を冷却する。すなわち、残留熱除去系ポンプP29の駆動により原子炉圧力容器P12内の炉水が残留熱除去系配管P28を通して熱交換器P30に供給され、そして、その炉水は熱交換器P30で冷却されて原子炉圧力容器P12に戻される。
【0033】
原子炉構造材料の応力腐食割れ抑制の観点から水素注入、あるいは水素注入と貴金属注入との組み合わせが実施される。水素注入は、水素注入装置P16から水素注入配管P18を通して開閉弁P19を開として給水に注入する。給水に注入された水素はダウンカマP17の上方で給水スパージャ(図示せず)から炉水に噴出し、炉水と混合する。ダウンカマP17領域のガンマ線の線量率が適度であり再結合反応を促進するため、添加された水素はダウンカマP17を通過するときに炉水中の酸素、過酸化水素と再結合して水を生成する。すなわち、応力腐食割れの環境因子である溶存酸素および過酸化水素を添加された水素が消費することで腐食環境が緩和される。この結果、炉水と接触する構造材料の腐食電位が低下するため、応力腐食割れの発生進展が抑制される。
【0034】
また、貴金属注入は水素注入の効果を触媒作用によって促進する技術である。貴金属注入装置P31から例えば白金(Pt)の化合物の水溶液が、貴金属注入配管P32を通して開閉弁P33を開として給水に注入される。給水に注入された白金は炉水と合流し、微小な白金粒子の状態で炉水と接触する構造材料表面に一部が付着する。残りは燃料表面に付着する。白金粒子表面上で、炉水中の酸素および過酸化水素が水素と電気化学的に触媒反応して水を形成する。水素が酸素(過酸化水素は1/2量の等価な酸素として扱う)よりも化学量論比(H2OはH:O=2:1)で2以上存在すると、水素が酸素に対して余剰となり、水素酸化還元電位である-500mV vs. SHE付近の電位で水素と酸素の反応が進行する。このため、構造材料の腐食電位が混成して-500mV vs. SHE付近まで低下することにより目標電位以下になる。これによって応力腐食割れを抑制できる。
【0035】
水素注入や貴金属注入の応力腐食割れ抑制効果を確認する手段として、腐食電位センサが原子炉P1に一時的あるいは長期的に設置される。ボトムドレンラインP34は、原子炉圧力容器P12の底部から炉水を引き出し、浄化系配管P20に接続されている。このボトムドレンラインP34から分岐ラインを設けてそこに腐食電位センサP35が設置され原子炉圧力容器P12底部の水質の腐食電位を測定している。分岐ラインは炉水のサンプリングライン(図示せず)などに接続される。また、ABWRの場合には、ダウンカマP17部上方領域の水質での腐食電位測定に浄化系配管P20を利用することができる。例えば、同配管にフランジP36を設置し、腐食電位センサP37を装荷して腐食電位を測定することができる。あるいは分岐ラインを設けて、ボトムドレンと同様の測定が可能である。BWRの場合は再循環系配管(図示せず)や浄化系配管P20は、ダウンカマP17下部の炉水が流れる。腐食電位の測定はABWRと同様に腐食電位センサを装荷した分岐ラインあるいはフランジを設置して行われる。
【0036】
また、原子炉圧力容器P12の下部プレナム部あるいは炉心P13にも、中性子計装管P38を改造して腐食電位センサP39を下部プレナムに、腐食電位センサP40が炉心P13に設置することが一部のプラントで行われている。具体的には、中性子計装管P38の内部に腐食電位センサP39,P40を設置し、目的とする領域の炉水が流入するように中性子計装管P38に穴をあけることによって腐食電位の測定が行われる。しかしながら、腐食電位センサが測定可能な位置は先述のように限定的であり、常時腐食電位を測定しているプラントは少ない。炉水水質の測定部位はさらに限定され、通常は炉水浄化系のサンプリングラインでの測定のみであり、ボトムドレンP34の測定が腐食電位センサの設置に合わせて測定される。
【0037】
本実施形態に係る予測装置によれば、原子炉内の水質分布と、構造材料の腐食電位分布とが高精度に予測できる。これらの予測された炉水水質と腐食電位を用いることで、プラントの運用者は、運転中の原子炉構造材料の腐食電位を目標値以下に維持するために水素注入量制御したり、貴金属注入を開始したりするなどの運転計画を立案し、実施できるようになる。
【0038】
≪ラジオリシス・腐食電位の計算モデルの概要≫
図2は、本実施形態に係る原子炉の炉水の放射線分解(ラジオリシス)による酸素、過酸化水素、水素の生成と原子炉の構造材料の腐食電位に関する計算の入出力の関係(ラジオリシス・腐食電位モデル)を説明するための図である。ラジオリシス・腐食電位モデルでは、プラントの設計データM1(機器寸法、運転温度など)、炉心管理M2によって決まる炉心の熱出力の定格に対する比率、炉心流量、原子炉圧力容器内のガンマ線および中性子線の線量率分布M4、給水水質M3(すなわち水素注入時であれば給水水素濃度)を用いて、水の放射線分解に関するモデル(ラジオリシスモデル)を計算する。
【0039】
ラジオリシスモデルの化学反応を解くための入力として、特に水の放射線分解M5の反応機構に関与する30以上の素反応についてのそれぞれの化学反応速度定数と、素反応を構成する各化学種のG値が重要である。これによって、水の分解生成物である、安定な分子性生成物の水素、酸素、過酸化水素の濃度M6、および、反応性の種々のラジカル生成物であるOH、H、e-などの濃度分布が計算される。これらの内、酸素、過酸化水素、および水素の濃度M6を入力として、構造材料の腐食電位M9が腐食電位モデルによって計算される。
【0040】
腐食電位M9を計算するときには、水質(水素、酸素、過酸化水素の濃度M6)以外の入力として炉心流量から決まる各位置での線流速と水力等価直径によって決まる物質移動係数M8(物質移動速度係数)が用いられる。また、複雑な流路形状の場合は水力等価直径を用いずに流動解析コードを用いて構造材料表面の物質移動係数M8を求めてもよい。
【0041】
また、貴金属注入を適用した場合は各部位での貴金属付着量M7(
図2ではPt付着量と記載)が入力として必要である。貴金属付着量M7は、例えば、物理的および化学的シミュレーションモデルで求めることができる(特許文献6参照)。腐食電位モデルでは、構造材料表面上での電気化学反応と各電気化学反応の反応パラメータ(反応速度定数、透過係数)、物質移動係数M8を決めるための拡散係数が必要である。
【0042】
ラジオリシスと腐食電位のモデルについては、例えば以下の論文に記載がある:"Hydrazine and Hydrogen Co-injection to Mitigate Stress Corrosion Cracking of Structural Materials in Boiling Water Reactors (IV)," Y. Wada et al., Journal of Nuclear Science and Technology, 44, 4, P607-622 (2007)。
【0043】
上記の入出力の内、プラント運転中に測定できない量は、ガンマ線、中性子の圧力容器内の線量率分布M4、圧力容器内の水質分布およびBWRの場合は再循環系内での水質分布(水素、酸素、過酸化水素の濃度M6)、並びにセンサの設置できない位置での腐食電位M9である。線量率分布M4は炉心の燃料に係る特定の燃焼度を考慮したときの線源強度を炉心に配置したときのガンマ線および中性子の分布として遮蔽計算コードによって計算される。しかしながら、線量率分布M4をプラントの運転サイクルにわたって時々刻々変化する炉心の出力分布に応じて計算することは従来行われておらず、代表的なサイクル初期あるいは末期あるいは水素注入の応答確認試験が行われた時期など特定の時期のみについて、かつ代表的なプラントでのみで計算されていた。ここでプラントの1つの運転サイクルとは、プラントの原子炉圧力容器の蓋を閉めた後の制御棒の引き抜きに代表される起動運転、電気出力を発生させる出力運転、制御棒挿入から炉水温度の降下、圧力容器の開放に代表される停止運転から構成される運転期間の総体を指す。運転サイクル外の期間は点検、工事、燃料交換が行われる定期検査期間となる。したがって、現在のラジオリシス・腐食電位モデルでは代表的な線量率分布M4を使った計算しか行われていない。
【0044】
≪予測装置の構成≫
以下に、本実施形態に係る原子力発電プラントP100における原子炉内の炉水水質および原子炉内の構造材料の腐食電位を予測する予測装置を説明する。予測装置は、炉心の軸方向および核燃料集合体ごとの出力分布に基づく径方向の出力分布、遮蔽計算結果に基づくガンマ線および中性子の線量率分布、水質実測データ、腐食電位実測データ、放射線監視データなど予測を行う時点までに取得されたプラント状態量(入力データ)から、所定期間後の炉水水質と腐食電位とを予測する(出力する)。予測には、先述のラジオリシスモデルおよび腐食電位モデル(ラジオリシス・腐食電位モデルと記す)と機械学習技術とを用いる。詳しくは、機械学習モデルへの入力の一部として、ラジオリシス・腐食電位モデルを用いたシミュレーションの結果を用いる。
【0045】
図3は、本実施形態に係る炉水水質および腐食電位を予測する予測装置100の機能構成図である。予測装置100は、コンピュータであり、制御部110、記憶部120、および入出力部160を備える。予測装置100は、原子力発電プラントP100で使用されるプロセスコンピュータP110から熱出力、炉心軸方向・径方向の出力分布、炉心流量・給水流量・主蒸気流量・炉水浄化系流量など流量データ、主蒸気系、オフガス系および各建屋内の放射線監視データなどの運転データ、および原子力発電プラントP100内に設置された計測器P120からの出力データを受信する。
【0046】
記憶部120は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)などから構成される。記憶部120には、予測モデル130やラジオリシス・腐食電位モデル140、線量率予測モデル145、プラント状態量データベース150が記憶される。
予測モデル130は、機械学習モデルであり、例えばニューラルネットワークである。予測モデル130は、プラント状態量を入力データとし、当該プラント状態量が取得された期間から所定期間後の炉水水質と腐食電位とを予測結果(出力データ)とする機械学習モデルである。
【0047】
ラジオリシス・腐食電位モデル140(図面ではラジオリシス・ECPモデルとも記す)は、炉水水質および腐食電位のシミュレーションモデルであり、モデルを記述する式やパラメータである。ないしは、ラジオリシス・腐食電位モデル140は、シミュレーションを実行するプログラムであると捉えてもよい。
線量率予測モデル145は、機械学習モデルであり、例えばニューラルネットワークである。線量率予測モデル145は、ラジオリシス・腐食電位モデル140の入力となる線量率分布を予測する機械学習モデルである。
【0048】
予測モデル130、ラジオリシス・腐食電位モデル140、および線量率予測モデル145は、機械学習やシミュレーションのモデルであるが、入力に対して出力を計算するプログラム、または計算主体と見なしてもよい。例えば、予測モデル130がプラント状態量から炉水水質と腐食電位とを予測する、などと記す場合がある。
【0049】
プラント状態量データベース150は、ラジオリシス・腐食電位モデル140に含まれる変数やパラメータの値となる原子力発電プラントP100のプラントデータや給水データ、炉水水質、放射能データ、放射線監視データを含むプラント状態量を記憶する。プラント状態量データベース150は、他に、炉心P13(
図1参照)に装荷されている燃料集合体の種類、燃焼度、炉内滞在期間、炉心での配置を記憶し、さらには熱出力、出力分布などのプラント状態量も記憶する。
【0050】
入出力部160は、プロセスコンピュータP110や計測器P120からのデータを受信して、プラント状態量データベース150に格納する。また、入出力部160は、図示していないディスプレイやキーボード、マウスを備え、予測装置100の利用者からの操作を受け付けたり、予測結果などのデータを表示したりする。
【0051】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成され、学習部111、予測部112、およびシミュレーション部113を備える。学習部111は、プラント状態量データベース150に記憶されるデータを教師データ(学習データ)として学習処理(後記する
図8参照)を行い、所定期間後の炉水水質および腐食電位を予測する予測モデル130を生成する。また、学習部111は、線量率予測モデル145を生成する学習処理を実行する。
【0052】
予測部112は、生成された予測モデル130にプラント状態量データベース150に記憶されるデータを入力して、所定期間後の炉水水質と構造材料の腐食電位とを予測する予測処理(後記する
図10参照)を実行する。また、予測部112は、線量率予測モデル145を用いて線量率を予測する予測処理を実行する。
シミュレーション部113は、ラジオリシス・腐食電位モデル140によるシミュレーションを実行する。シミュレーションの実行結果は、予測モデル130の入力データとなる。学習部111および予測部112の処理の詳細は、後記する
図4~
図10を参照して説明する。
【0053】
≪予測モデルと教師データ≫
図4は、本実施形態に係る教師データに含まれる予測モデル130の入力データと出力データとを説明するための図である。ここでは、N日分のプラント状態量151および線量率分布152から翌日の炉水水質および腐食電位を予測する予測モデル130を説明する。つまり、ここでは、所定期間後とは、翌日のことである。
詳しくは、ラジオリシス・腐食電位モデル140を用いて、線量率分布152(
図2記載の線量率分布M4参照)からN日分の水質・腐食電位154を求める。予測モデル130の入力データは、N日分のプラント状態量151とN日分の水質・腐食電位154である。予測モデル130の出力データ(予測結果、正解ラベル)は、翌日の炉水水質と腐食電位である。学習するときには、ラジオリシス・腐食電位モデル140を用いて、翌日の線量率分布152から翌日の水質・腐食電位154Aを求めて出力データとする。
【0054】
図5は、本実施形態に係る学習処理における予測モデル130の教師データ161~169の構成を説明するための図である。ここでは、第1日~第2N日のプラント状態量からNの教師データ161~169を生成する。
教師データ161の入力データは、第1日~第N日のN日分のプラント状態量151と水質・腐食電位154とを含んでいる。教師データ161の出力データ(正解ラベル)は、第N+1日の水質・腐食電位154Aを含んでいる。
【0055】
詳しくは、第1日~第N日のプラント状態量151のそれぞれに含まれる、給水流量、炉心流量、主蒸気流量、再循環流量(再循環系を有するBWRの場合)、炉水の炉心入口温度、炉水の炉心出口温度、圧力容器内各領域の線流速、貴金属注入量、炉水金属濃度(Fe、Ni、Cr、Cu、Co)、炉水浄化流量、熱出力、炉心燃料集合体ごとの出力に基づく軸方向出力分布および径方向出力分布、核燃料集合体出力、放射線監視データ(N16、N13、オフガス核種)、給水水素濃度、主蒸気系酸素・水素の濃度、炉水サンプリング点での放射能濃度(Co60、Co58、Cr51、Na24、Au199)、炉水不純物濃度(イオン例えば塩化物イオン、硫酸イオン、クロム酸イオン等、不溶性成分)、溶存酸素濃度、溶存水素濃度、過酸化水素濃度、腐食電位など実測可能、あるいはすでにプロセスコンピュータP110(
図3参照)内に保存されているプラント状態量151が、予測モデル130の入力データとして含まれる。
【0056】
また、第1日~第N日のプラント状態量に含まれる、給水水素濃度、ガンマ線および中性子線の線量率分布152、炉水の炉心入口温度、炉水の炉心出口温度、炉心流量、主蒸気系流量、線流速からラジオリシス・腐食電位モデル140を用いて計算された原子炉内の酸素・過酸化水素・水素の濃度(炉水水質)および原子炉内の構造材料の腐食電位が、予測モデル130の入力データとして含まれる。この予測モデル130の入力データとなる教師データ161は、
図4記載の水質・腐食電位154に相当する。なお、予測モデル130の入力データとなる原子炉内の水質(炉水水質)および腐食電位を炉内予測値とも記す。
【0057】
教師データ161には、水質・腐食電位154と同様にして、第N+1日のプラント状態量からラジオリシス・腐食電位モデル140を用いて計算された原子炉内の酸素・過酸化水素・水素の濃度および腐食電位が、予測モデル130の出力データ(正解ラベル、予測結果)として含まれる。この予測モデル130の出力データとなる教師データ161は、
図4記載の水質・腐食電位154Aである。
【0058】
教師データ161と同様に、教師データ162の入力データは、第2日~第N+1日のプラント状態量151と、水質・腐食電位154とを含んでいる。教師データ162の出力データ(正解ラベル)は、第N+2日の水質・腐食電位154Aを含んでいる。
教師データ161,162と同様に、教師データ169の入力データは、第N日~第2N-1日のプラント状態量151と、水質・腐食電位154とを含んでいる。教師データ169の出力データ(正解ラベル)は、第2N日の水質・腐食電位154Aを含んでいる。
【0059】
以上に説明した教師データを用いて学習することで、予測モデル130を生成することができる。予測モデル130は、予測するまでのN日分のプラント状態量151と線量率分布152とから、翌日の炉水水質(原子炉内の酸素・過酸化水素・水素の濃度)と腐食電位とを予測するモデルである。
【0060】
≪線量率予測モデルと教師データ≫
ラジオリシス・腐食電位モデル140の入力となるガンマ線および中性子の線量率分布152(
図4参照)は、遮蔽計算によって計算される。しかしながら、プラントの1つの運転サイクル期間にわたり時々刻々の線量率分布を計算することは時間的・経済的に現在のコンピュータ能力では不可能である。本実施形態では、線量率予測モデル145を用いて線量率分布を計算する。
図6は、本実施形態に係る線量率予測モデル145の入力データや出力データ(予測結果)を説明するための図である。入力データには、プラントの設計データ156(機器寸法、運転温度など、
図2記載の設計データM1参照)、および炉心出力分布153(燃料集合体ごとの出力分布から得られる軸方向出力分布および径方向出力分布)が含まれる。線量率予測モデル145の出力データである予測結果は線量率分布152である。
【0061】
図7は、本実施形態に係る線量率予測モデル145の教師データの構成を説明するための図である。教師データは、1つ以上のプラント群の設計データ156、炉心出力分布153、線量率分布152から構築される。
詳しくは、プラントAの遮蔽計算で得られる線量率分布152の計算結果と、線量率分布を計算するときに用いた炉心出力分布153と、プラントAの設計データ156とを教師データとする。
図7では、時期1~時期Lの各時期において設計データ156と炉心出力分布153とから線量率分布152を計算して、1つの教師データとしており、合計L個の教師データを構築している。他のプラントB、・・・、プラントXでも、同様にして教師データを構築する。これらの教師データを学習する(学習部111が教師データを用いて線量率予測モデル145を訓練する)ことで、線量率予測モデル145が作成される。
【0062】
このようにして作成された線量率予測モデル145は、評価対象となるプラントの設計データ156と炉心出力分布153とに基づいて、炉内のガンマ線および中性子の線量率分布152を計算(予測)する。詳しくは、予測部112が、線量率予測モデル145を用いて、設計データ156と炉心出力分布153とから線量率分布152を計算する。
計算結果の線量率分布152は、ラジオリシス・腐食電位モデル140(
図4参照)への入力データとなる。線量率分布152は、ラジオリシス・腐食電位モデル140を介して予測モデル130の入力となっている。また、設計データ156と炉心出力分布153とは、線量率予測モデル145、およびラジオリシス・腐食電位モデル140を介して予測モデル130の入力となっている。
【0063】
以上、線量率予測モデル145を用いた線量率分布152の算出を説明した。炉心出力分布153は、プロセスコンピュータP110(
図3参照)から取得されるデータであって、プラント状態量データベース150に格納される。予測装置100は、炉心出力分布153を取得した時点で線量率分布152を計算してプラント状態量データベース150に格納してもよい。このようにすることで、線量率分布152をプラント状態量151と見なすこともできる。
【0064】
≪予測モデルを生成する学習処理≫
図8は、本実施形態に係る学習部111が実行する学習処理のフローチャートである。
ステップS11において学習部111は、開始日(第1日~第N日、
図5参照)ごとにステップS12~S13を実行する。
【0065】
ステップS12において学習部111の指示を受けてシミュレーション部113は、プラント状態量151を入力データとし、ラジオリシス・腐食電位モデル140によるシミュレーションを実行する。詳しくは、シミュレーション部113は、開始日からN+1日分(開始日を含めN+1日分)のプラント状態量151に含まれる、線量率分布、線流速、給水流量、炉心流量、主蒸気流量、炉心入口温度、炉心出口温度、給水水素濃度、給水鉄濃度、貴金属注入量、炉水浄化流量、熱出力などからラジオリシス・腐食電位モデル140を用いて、炉内予測値である炉水水質(炉内の酸素・過酸化水素・水素の濃度)と腐食電位とを計算する。
【0066】
ステップS13において学習部111は、教師データを生成する。詳しくは、学習部111は、開始日からN日分(開始日を含めN日分)のプラント状態量151それぞれに含まれる、線量率分布、線流速、給水流量、炉心流量、主蒸気流量、炉心入口温度、炉心出口温度、給水水素濃度、給水鉄濃度、貴金属注入量、炉水浄化流量、熱出力などのプラント状態量、ステップS12において算出した開始日からN日分の炉水水質および腐食電位を入力データとし、開始日からN日先(開始日+N日)の炉水水質および腐食電位を出力データ(正解データ)とする教師データを生成する。
【0067】
ステップS14において学習部111は、全ての開始日ごとにステップS12~S13を実行したならばステップS15に進み、未処理の開始日があればステップS12に戻って、未処理の開始日についてステップS12~S13を処理する。
ステップS15において学習部111は、ステップS13で生成した教師データを用いて予測モデル130を訓練して(予測モデル130に教師データを学習させて)、予測モデル130を構築する。
【0068】
上記した予測処理により、N日分のプラント状態量からその翌日における原子炉の炉水水質および原子炉の構造材料の腐食電位を予測する予測モデル130が構築できる。続いて、予測モデル130を用いた炉水水質および構造材料の腐食電位を予測する処理を説明する。
【0069】
≪予測モデルを用いた予測処理≫
図9は、本実施形態に係る予測処理における予測モデル130の入力データと出力データとを説明するための図である。
プラント状態量151に含まれるN日分の線量率分布、線流速、給水流量、炉心流量、主蒸気流量、炉心入口温度、炉心出口温度、給水水素濃度、給水鉄濃度、貴金属注入量、炉水浄化流量、熱出力などのプラント状態量などのプラント状態量が、予測モデル130の入力データとして含まれる。この入力データは、
図9記載のプラント状態量151から予測モデル130に向かう矢印に相当する。
【0070】
また、プラント状態量151を入力データとし、ラジオリシス・腐食電位モデル140によるシミュレーションを実行される。詳しくは、シミュレーション部113は、プラント状態量151に含まれる、N日分の線量率分布、線流速、給水流量、炉心流量、主蒸気流量、炉心入口温度、炉心出口温度、給水水素濃度、給水鉄濃度、貴金属注入量、炉水浄化流量、熱出力などを入力とし、ラジオリシス・腐食電位モデル140を用いて、水質・腐食電位154(炉内予測値)を計算する。この水質・腐食電位154が、予測モデル130の入力データとして含まれる。
これら入力から、予測モデル130を用いることで予測結果として、N日分の入力データの翌日における水質・腐食電位155を計算することができる。
【0071】
図10は、本実施形態に係る予測部112が実行する予測処理のフローチャートである。
図10を参照して、基準日(予測処理の実行日)を含む過去N日分のプラント状態量から、基準日翌日の炉水水質と腐食電位とを予測する予測処理を説明する。
ステップS21において予測部112の指示を受けてシミュレーション部113は、プラント状態量151を入力データとし、ラジオリシス・腐食電位モデル140によるシミュレーションを実行して、基準日を含めて過去N日分の炉水水質と腐食電位とを計算する。
【0072】
ステップS22において予測部112は、予測モデル130に入力データを入力する。詳しくは、予測部112は、基準日を含めて過去N日分のプラント状態量、ステップS21において計算した炉水水質および腐食電位を予測モデル130に入力する。
ステップS23において予測部112は、予測モデル130を実行して炉水水質および腐食電位の出力を取得することで、炉水水質および腐食電位を予測する。
【0073】
基準日が現在である場合には、過去の実績値(実測値)であるプラント状態量151から、水質・腐食電位155が予測できる。また、基準日を過去にすると、予測を検証することができる。詳しくは、過去の実績値であるプラント状態量から腐食電位を算出して、実績値の腐食電位と比較することで、予測の精度を評価することができる。例えば、基準日を1日前としたときにおける本日の腐食電位の予測結果と、本日の腐食電位の実測値とを比較することで、予測の精度を評価できる。
【0074】
≪変形例:複数の予測日≫
上記した実施形態では、基準日翌日の炉水水質と腐食電位とを予測している。基準日翌日を含めN日先までを予測するようにしてもよい。この場合には、予測モデル130の出力データとなる教師データとなる水質・腐食電位154A(
図4、
図5参照)をN日分とする。例えば、教師データ161では、N+1日~2N日までの水質・腐食電位154Aを出力データ(正解データ)とする。
予測する期間はN日とは限らず、他の日数であってもよい。また、基準日翌日(基準日の1日後)の炉水水質と腐食電位を予測とは限らず、基準日の所定日数後(所定期間後)の炉水水質と腐食電位とを予測するようにしてもよい。
【0075】
≪変形例:計画値を含んだ予測≫
上記した実施形態では、基準日までの実績データ(プラント状態量151)から予測しているが、計画されたデータ(計画値)を含めて予測するようにしてもよい。
図11は、本実施形態の変形例に係る学習処理における予測モデル130の教師データの構成を説明するための図である。教師データの入力データは、2N-1日分のプラント状態量、炉水水質、腐食電位である。また、教師データの出力データ(予測結果、正解データ)は、その翌日の炉水水質および腐食電位である。例えば、1日~2N-1日のプラント状態量、炉水水質、腐食電位が入力データであり、2N日の炉水水質と腐食電位とが出力データである。
図11には、入力データの開始日が1日からN日までのNの教師データが記載されている。
学習処理においては、この教師データから予測モデルを生成する。生成された予測モデルは、2N-1日分のプラント状態量、炉水水質および腐食電位から、その翌日の炉水水質および腐食電位を予測する予測モデルである。
【0076】
図12は、本実施形態の変形例に係る予測処理における予測モデルの入力データと出力データ(予測結果)を説明するための図である。予測処理においては、基準日を含めて過去N日分のプラント状態量、炉水水質、腐食電位に加えて、基準日翌日からN-1日分の計画値となるプラント状態量、炉水水質、腐食電位を入力データとする。
例えば、給水流量、炉心流量、給水水素濃度、給水鉄濃度、貴金属注入量、炉水浄化流量、熱出力は、運転計画で決められている(予測可能である)、ないしは原子力発電プラントの操作(設定)により調整可能であるので、予測モデルへの入力に加えてもよい。また、線量率分布は、炉心出力分布から算出するので予測可能である。炉水水質と腐食電位とについても、ラジオリシス・腐食電位モデル140を用いて、プラント状態量から計算可能であり、予測モデルへの入力に加えることができる。他の入力データについても、運転計画で決める、または予測して、予測モデルへの入力に加えることができる。
予想日に近い日の入力データを加えることで、予測装置は、腐食電位をより高精度に予測可能となる。
【0077】
≪変形例:予測装置を用いた運転計画立案≫
腐食電位を所望する値以下に抑えるための運転計画立案のためには、計画値となるプラント状態量を変えながら、繰り返し予測処理を実行すればよい。例えば、プラント状態量としての給水水素濃度や給水鉄濃度、貴金属注入量を変えながら予測処理を繰り返して、腐食電位が所望の値以下となる給水水素濃度や給水鉄濃度、貴金属注入量を探し出す。この給水水素濃度や給水鉄濃度、貴金属注入量に基づいてプラントを運用することで腐食電位を所望の値以下とすることができるようになる。
【0078】
≪学習処理と予測処理の特徴≫
炉水水質および腐食電位に強く影響するガンマ線と中性子の線量率分布は、炉心の出力分布と熱出力で決まる。構造材料表面の貴金属付着量は、貴金属注入量、燃料棒表面への付着速度、および構造材料表面への付着速度に強い影響を受ける。これらは、原子力発電プラントの運転中には計測できず、出力分布を用いて遮蔽計算を実施したり、定期検査など原子力発電プラントの停止中に炉心P13(
図1参照)から燃料棒を取り出したり、炉内、炉外構造材料にアクセスしたりして始めて計測できる値である。
【0079】
また、炉水水質(炉内の水質)は実測できず、少数のサンプリングラインを通して炉外に引き出された状態での水質が測定される。したがって、過酸化水素はサンプリングライン内で分解しているため実際の炉内の濃度は不明である。また、腐食電位は炉内の限定された位置でのみ実測されている。腐食電位はセンサの置かれたごく近傍の状態を測定しているので、センサから離れた部位での腐食電位は不明なので、計算による評価との組み合わせが必須である。
【0080】
予測装置100は、物理モデルであるラジオリシス・腐食電位モデル140と機械学習モデルである予測モデル130(例えばニューラルネットワーク)とを組み合わせて炉水水質と腐食電位とを予測している。これによって、空間的、時間的にプラントデータが欠落していたり、物理モデルに含まれている不確かさ、および現実をモデル化するときに取り込まれなかった現象による乖離が存在したりしていても、プラント状態量と解析(シミュレーション)結果とを組み合わせて機械学習モデルによってより精度の高い炉水水質と腐食電位との予測が可能となる。
【0081】
換言すれば、上記した実施形態における予測モデル130の入力データは、線量率予測モデル145で予測された線量率分布、およびラジオリシス・腐食電位モデル140を用いて計算された炉水水質と腐食電位とを含んでいる。運転中には計測できないが、炉水水質および腐食電位に強い影響を与えるプラント状態量を予測モデル130の入力データに加えることで、プラント状態量の実測値のみを入力とするモデルと比べて、炉水水質および腐食電位の予測精度を向上させることができるようになる。また、ラジオリシス・腐食電位モデル140単独による予測と比べて、ラジオリシス・腐食電位モデルに含まれないプラント状態量の相関関係を考慮した予測となっており、精度が向上する。
【0082】
≪変形例≫
線量率予測モデル145(
図6参照)に関して、物理モデルであるラジオリシス・腐食電位モデル140の計算精度が十分に高い場合は、予測モデル130を用いずに、ラジオリシス・腐食電位モデル140の計算結果をプラント運転に使用してもよい。
図13は、上記した実施形態とは異なる実施形態における炉水水質と腐食電位とを予測するラジオリシス・腐食電位モデル140を説明するための図である。線量率予測モデル145は、プラント状態量151に含まれる炉心出力分布を入力として、線量率分布152を出力する。出力された線量率分布152を入力として、シミュレーション部113は、ラジオリシス・腐食電位モデル140を実行して、炉水水質および腐食電位(水質・腐食電位154)が得られる。
【0083】
得られた腐食電位に基づいて、対象部位の腐食電位が目標値(例えば-300~-200mV vs. SHE)以下に低下するように給水水素濃度を制御し、必要に応じて炉水への貴金属注入量を増加すればよい。
得られた炉内での線量率分布152に基づいて、炉内のチェレンコフ光の強度分布を計算することに用いることもできる。これは炉内の酸化物の光起電力による腐食の促進・抑制の評価に用いることができる。炉心部でのシャドウコロージョンや光触媒がある。
【0084】
≪変形例:学習処理と予測処理を実行する装置の分離≫
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で変更することができる。例えば、予測装置100が実行する学習処理(
図8参照)および予測処理(
図10参照)を、別の装置で実行してもよい。予測モデル構築装置が学習処理を実行して予測モデル130を構築し、この構築された予測モデル130を取得した予測装置が、予測処理を実行してもよい。
【0085】
線量率予測を別の装置で実施してもよい。
図14は、本実施形態の変形例に係る線量率予測装置170を説明するための図である。複数のプラントが保有するそれぞれの遮蔽計算結果から、線量率予測モデル145を線量率予測装置170で構築する。この後、予測対象のプラントのプラント状態量、具体的には炉心出力分布を入力として、線量率分布152を計算して出力する。出力された線量率分布152は、予測装置100のラジオリシス・腐食電位モデル140への入力データとなり、炉水水質および腐食電位の予測値を出力する。
【0086】
≪変形例:運転支援装置≫
給水水素濃度や給水鉄濃度、貴金属注入量を変えることで、炉水水質や腐食電位が変化する。換言すれば、給水水素濃度や給水鉄濃度、貴金属注入量を適切に調整することで、所望の炉水水質や腐食電位を維持することができるようになる。詳しくは、予測装置は、給水水素濃度や給水鉄濃度、貴金属注入量の計画パターンをいくつか用意しておき、計画パターンごとに予測処理を行う。予測装置は、炉水水質や腐食電位の予測結果が所望の値を満たし、給水水素濃度や給水鉄濃度、貴金属注入量が少ない計画パターンを選択する。さらに、予測装置は、運転支援装置として、選択した計画パターンに応じて、給水水素濃度や給水鉄濃度、貴金属注入量を調整(設定)して、プラントを運用してもよい。
【0087】
図15は、本実施形態の変形例に係る運転支援装置100Aの機能構成図である。予測装置100(
図3参照)と比較すると、記憶部120に計画パターン121が、制御部110に運転支援部114が、さらに含まれる。計画パターン121は、上記した給水水素濃度や給水鉄濃度、貴金属注入量の計画値のパターンである。計画値のパターンとしては、例えば、計画期間当初に濃度/注入量を所定値とし、その後に0または低くするパターン、所定期間に所定量ずつ濃度/注入量を増加/削減し、その後は増加/削減後の値に保つパターンなどがある。運転支援部114は、後記する
図16に記載の運転支援処理を実行する。
【0088】
図16は、本実施形態の変形例に係る運転支援処理のフローチャートである。
ステップS31において運転支援部114は、計画パターン121ごとに、ステップS32を実行する処理を開始する。
ステップS32において運転支援部114は、予測部112に指示して、計画パターン121に示されるプラント状態量を入力データとして予測処理(
図10参照)を実行する。
【0089】
ステップS33において運転支援部114は、全ての計画パターン121ごとに、ステップS32を実行したならばステップS34に進み、未処理の計画パターン121があればステップS32に戻って、未処理の計画パターンについて処理する。
ステップS34において運転支援部114は、ステップS32の予測処理の結果(予測結果)を出力する(入出力部160のディスプレイに表示する)。
【0090】
ステップS35において運転支援部114は、最適な計画パターン121を選択する。詳しくは、運転支援部114は、予測結果のなかで、予め設定された炉水水質と腐食電位との基準を満たし、給水水素濃度や給水鉄濃度、貴金属注入量が最適な計画パターン121を選択する。運転支援部114は、例えば、給水水素濃度、給水鉄濃度および貴金属注入量に割り振られた重み付けをして給水水素濃度、給水鉄濃度および貴金属注入量を設定してプラントを運用するコストを算出して、コストが最小の計画パターン121を選択する。
ステップS36において運転支援部114は、ステップS35で選択された計画パターン121に従って、給水水素濃度、給水鉄濃度および貴金属注入量を設定してプラントを運用する。
【0091】
上記した運転支援装置100Aを用いることで、運用者は、低いコストで炉水水質と腐食電位とを所望の値を満たしながらプラントを運用することができる。また、運用者の作業負担を削減することができる。
【0092】
≪その他の変形例≫
上記した実施形態では、日ごとのデータを入力データとしていたが、これに限定されず、例えば、2日おきのデータであったり、6時間おきのデータであったりしてもよい。また、一定間隔に限らず、例えば、予測日に遠い入力データの間隔は長くなるようにしてもよい。間隔を長くして入力データ数を減らすことで、予測装置100は、学習処理や予測処理を高速化できる。
【0093】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
100 予測装置(予測モデル構築装置)
100A 運転支援装置(予測装置)
111 学習部
112 予測部
113 シミュレーション部
114 運転支援部
121 計画パターン
130 予測モデル
140 ラジオリシス・腐食電位モデル(物理モデル)
145 線量率予測モデル
151 プラント状態量
152 線量率分布
153 炉心出力分布
154,154A 水質・腐食電位(炉内予測値)
155 水質・腐食電位
156 設計データ
170 線量率予測装置
P1 原子炉
P100 原子力発電プラント