(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置
(51)【国際特許分類】
F02M 25/08 20060101AFI20240304BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240304BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
F02M25/08 Z
F02D45/00 345
F02M25/08 H
F02M37/00 301H
(21)【出願番号】P 2020173276
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】谷田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】品川 昌慶
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-235354(JP,A)
【文献】特開2011-157915(JP,A)
【文献】特開2017-048736(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0297071(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
F02M 37/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内の蒸発燃料をキャニスタ内に吸着して捕捉し、捕捉された蒸発燃料を、エンジンに吸入させる、若しくは燃料タンクに環流させる蒸発燃料処理装置において、
燃料タンク及びキャニスタを含み蒸発燃料を大気に対して封じ込めるベーパ経路における蒸発燃料の漏れの有無を、前記ベーパ経路を封鎖空間とした状態で、前記ベーパ経路の内圧の変化に基づいて診断し、しかも内圧変化に対する燃料蒸気圧の影響を補正して前記ベーパ経路の漏れ診断を行う漏れ診断装置であって、
燃料タンク内における燃料の気化を促進する気化促進手段と、
燃料タンクの気層部における燃料蒸気が飽和状態に達したか否かを判定する飽和判定手段とを備え、
該飽和判定手段が飽和状態に達していないと判定すると、前記気化促進手段を作動させ、
前記飽和判定手段が飽和状態に達していると判定した後に、前記ベーパ経路の漏れ診断を行う
蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記飽和判定手段は、燃料タンク内における燃料の気化の促進に伴って変化する物理量に基づいて飽和状態の判定を行う
蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置。
【請求項3】
請求項2において、
燃料タンクの気層部の圧力を検出する圧力センサを備え、
前記飽和判定手段は、前記圧力センサによって検出される圧力の変化速度を目標圧力変化速度と比較し、両者の差が閾値以内の状態が所定時間以上継続したとき飽和状態にあると判定する
蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置。
【請求項4】
請求項3において、
燃料タンクの気層部の燃料蒸気の温度を検出する温度センサを備え、
燃料蒸気圧の目標圧力変化速度は、燃料タンク内の燃料蒸気が飽和状態にあるときの温度変化に対する燃料蒸気圧変化を表す飽和蒸気圧特性と、前記温度センサによって検出される温度の変化とを用いて設定される
蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置。
【請求項5】
請求項4において、
燃料タンクの燃料をエンジンに供給する燃料ポンプと、
該燃料ポンプからの燃料を、通路断面積を上流側及び下流側に比べて狭くされた狭隘流路に流速を速めて流して、その狭隘流路周りの減圧室にベンチュリ効果により負圧を発生するアスピレータとを備え、
飽和蒸気圧特性は、前記アスピレータの減圧室における内圧により取得される飽和状態の燃料蒸気圧と、前記温度センサによって検出される温度とを用いて推定される
蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置。
【請求項6】
請求項4において、
飽和蒸気圧特性は、前記温度センサによって検出される温度、及び前記圧力センサによって検出される圧力を用いて、燃料タンクの気層部の燃料蒸気の温度変化に伴う圧力変化を、予め記憶されている複数の飽和蒸気圧特性と対比して推定される
蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記飽和判定手段は、前記気化促進手段の作動時間が所定の判定時間が経過したか否かにより飽和状態に達したか否かを判定し、
前記判定時間は、前記気化促進手段の出力及び燃料タンクの気層部の容積に基づいて決定される
蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかにおいて、
前記飽和判定手段により燃料蒸気が飽和状態にあると判定されて後、燃料タンク内における燃料の気化の状態によって変化する物理量に基づいて飽和状態が維持されているか否かを判定する飽和維持判定手段を備え、
該飽和維持判定手段により飽和状態が維持されていないと判定されると、前記気化促進手段が作動される
蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかにおいて、
燃料タンクの燃料をエンジンに供給する燃料ポンプを備え、
前記気化促進手段は、前記燃料ポンプにより燃料タンクからエンジンに供給される燃料のうち、余剰となった燃料を燃料タンクに環流させるプレッシャレギュレータにより構成されている
蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかにおいて、
燃料タンクの燃料をエンジンに供給する燃料ポンプを備え、
前記気化促進手段は、前記燃料ポンプにより燃料タンクからエンジンに供給される燃料を、通路断面積を上流側に比べて狭くされた狭隘流路に流速を速めて流して燃料タンクに環流させ、前記狭隘流路周りの減圧室にベンチュリ効果により負圧を発生するアスピレータにより構成されている
蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置。
【請求項11】
請求項3~6のいずれかにおいて、
燃料蒸気が非飽和の状態で、且つ前記圧力センサによって検出される燃料蒸気圧の変化速度が一定値以下の状態が一定時間継続すると、前記ベーパ経路に蒸発燃料の漏れがあると判定する漏れ検知手段を備える
蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジン車では、燃料タンクで発生する蒸発燃料をキャニスタ内に吸着して捕捉し、エンジン作動時にキャニスタで捕捉された蒸発燃料をパージする蒸発燃料処理装置を備える。一部の蒸発燃料処理装置は、蒸発燃料を閉じ込めるベーパ経路に蒸発燃料の漏れがないことを自動的に診断する漏れ診断装置を備える。例えば、蒸発燃料を閉じ込めるベーパ経路を所定の負圧にした状態で、ベーパ経路を外部空間に対して閉塞するための弁を閉じた状態とし、その後の圧力の上昇具合により漏れの有無を診断している。
【0003】
漏れ診断において、圧力の変化は、漏れの有無の他に、蒸発燃料の蒸気圧の変化によっても生じる。そこで、蒸発燃料の蒸気圧は、燃料温度や燃料の性状によって変化することを考慮して、燃料温度や燃料の性状に応じて漏れ診断の基準値を補正することが行われている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-235354号公報
【文献】特許第5318793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、実際には、蒸発燃料の蒸気圧は、燃料蒸気の濃度によって変化し、燃料温度や燃料の性状のみで蒸気圧を精度良く推定することはできない。
【0006】
本明細書が開示する技術の課題は、蒸発燃料処理装置の漏れ診断時の燃料蒸気の濃度を飽和状態として濃度変化を抑制することにより、漏れ診断の精度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本明細書に開示の蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置は、次の手段をとる。
【0008】
第1の手段は、燃料タンク内の蒸発燃料をキャニスタ内に吸着して捕捉し、捕捉された蒸発燃料を、エンジンに吸入させる、若しくは燃料タンクに環流させる蒸発燃料処理装置において、燃料タンク及びキャニスタを含み蒸発燃料を外気に対して封じ込めるベーパ経路における蒸発燃料の漏れの有無を、前記ベーパ経路を封鎖空間とした状態で、前記ベーパ経路の内圧の変化に基づいて診断し、しかも内圧変化に対する燃料蒸気圧の影響を補正して前記ベーパ経路の漏れ診断を行う漏れ診断装置であって、燃料タンク内における燃料の気化を促進する気化促進手段と、燃料タンクの気層部における燃料蒸気が飽和状態に達したか否かを判定する飽和判定手段とを備え、該飽和判定手段が飽和状態に達していないと判定すると、前記気化促進手段を作動させ、前記飽和判定手段が飽和状態に達していると判定した後に、前記ベーパ経路の漏れ診断を行う。
【0009】
上記第1の手段によれば、燃料蒸気が飽和状態に達したことを判定してからベーパ経路の漏れ診断を行うため、漏れ診断の精度を高めることができる。しかも、気化促進手段により燃料の気化を促進するため、飽和状態に達するまでの時間を短縮することができ、漏れ診断を早期に完了することができる。
【0010】
第2の手段は、上述した第1の手段において、前記飽和判定手段は、燃料タンク内における燃料の気化の促進に伴って変化する物理量に基づいて飽和状態の判定を行う。
【0011】
上記第2の手段において、物理量は、例えば、燃料蒸気圧、若しくは燃料蒸気の濃度である。
【0012】
上記第2の手段によれば、飽和判定手段における飽和状態の判定を簡単な構成で実現できる。
【0013】
第3の手段は、上述した第2の手段において、燃料タンクの気層部の圧力を検出する圧力センサを備え、前記飽和判定手段は、前記圧力センサによって検出される圧力の変化速度を目標圧力変化速度と比較し、両者の差が閾値以内の状態が所定時間以上継続したとき飽和状態にあると判定する。
【0014】
上記第3の手段によれば、他の用途にも使用される圧力センサの検出結果を利用して、飽和判定手段における飽和状態の判定を簡単な構成で精度よく実現できる。
【0015】
第4の手段は、上述した第3の手段において、燃料タンクの気層部の燃料蒸気の温度を検出する温度センサを備え、燃料蒸気圧の目標圧力変化速度は、燃料タンク内の燃料蒸気が飽和状態にあるときの温度変化に対する燃料蒸気圧変化を表す飽和蒸気圧特性と、前記温度センサによって検出される温度の変化とを用いて設定される。
【0016】
上記第4の手段によれば、他の用途にも使用される温度センサの検出結果を利用して、飽和判定手段における目標圧力変化速度を簡単な構成で設定できる。
【0017】
第5の手段は、上述した第4の手段において、燃料タンクの燃料をエンジンに供給する燃料ポンプと、該燃料ポンプからの燃料を、通路断面積を上流側に比べて狭くされた狭隘流路に流速を速めて流して、その狭隘流路周りの減圧室にベンチュリ効果により負圧を発生するアスピレータとを備え、飽和蒸気圧特性は、前記アスピレータの減圧室における内圧により取得される飽和状態の燃料蒸気圧と、前記温度センサによって検出される温度とを用いて推定される。
【0018】
上記第5の手段によれば、アスピレータの減圧室で飽和状態にある燃料蒸気圧を取得できるため、飽和状態にある燃料蒸気圧を簡単に取得することができる。
【0019】
第6の手段は、上述した第4の手段において、飽和蒸気圧特性は、前記温度センサによって検出される温度、及び前記圧力センサによって検出される圧力を用いて、燃料タンクの気層部の燃料蒸気の温度変化に伴う圧力変化を、予め記憶されている複数の飽和蒸気圧特性と対比して推定される。
【0020】
上記第6の手段によれば、温度センサと圧力センサの検出結果のみから飽和蒸気圧特性を推定することができ、アスピレータ等を用いることなく実現できる。
【0021】
第7の手段は、上述した第1の手段において、前記飽和判定手段は、前記気化促進手段の作動時間が所定の判定時間が経過したか否かにより飽和状態に達したか否かを判定し、前記判定時間は、前記気化促進手段の出力及び燃料タンクの気層部の容積に基づいて決定される。
【0022】
上記第7の手段によれば、時間のみによって燃料蒸気が飽和状態に達したか否かを判定するため、システム構成を簡素化できる。
【0023】
第8の手段は、上述した第1の手段~第7の手段のいずれかにおいて、前記飽和判定手段により燃料蒸気が飽和状態にあると判定されて後、燃料タンク内における燃料の気化の状態によって変化する物理量に基づいて飽和状態が維持されているか否かを判定する飽和維持判定手段を備え、該飽和維持判定手段により飽和状態が維持されていないと判定されると、前記気化促進手段が作動される。
【0024】
上記第8の手段において、物理量は、例えば、燃料蒸気圧、若しくは燃料蒸気の濃度である。
【0025】
上記第8の手段によれば、燃料蒸気が飽和状態に達した後、再び非飽和状態に戻ったとき、飽和維持判定手段により再び気化促進手段が作動されるため、ベーパ経路の漏れ診断を高精度に行うことができる。
【0026】
第9の手段は、上述した第1の手段~第8の手段のいずれかにおいて、燃料タンクの燃料をエンジンに供給する燃料ポンプを備え、前記気化促進手段は、前記燃料ポンプにより燃料タンクからエンジンに供給される燃料のうち、余剰となった燃料を燃料タンクに環流させるプレッシャレギュレータにより構成されている。
【0027】
上記第9の手段によれば、気化促進手段が既存のプレッシャレギュレータにより構成されるため、システム構成を複雑化しないで漏れ診断装置を構成することができる。
【0028】
第10の手段は、上述した第1の手段~第8の手段のいずれかにおいて、燃料タンクの燃料をエンジンに供給する燃料ポンプを備え、前記気化促進手段は、前記燃料ポンプにより燃料タンクからエンジンに供給される燃料を、通路断面積を上流側及び下流側に比べて狭くされた狭隘流路に流速を速めて流して燃料タンクに環流させ、前記狭隘流路周りの減圧室にベンチュリ効果により負圧を発生するアスピレータにより構成されている。
【0029】
上記第10の手段によれば、アスピレータにより効率的に気化促進を行うことができる。また、既にアスピレータを備えるシステムの場合は、システム構成を複雑化しないで漏れ診断装置を構成することができる。
【0030】
第11の手段は、上述した第3の手段~第6の手段のいずれかにおいて、燃料蒸気が非飽和の状態で、且つ前記圧力センサによって検出される燃料蒸気圧の変化速度が一定値以下の状態が一定時間継続すると、前記ベーパ経路に蒸発燃料の漏れがあると判定する漏れ検知手段を備える。
【0031】
上記第11の手段によれば、ベーパ経路に大きな孔による漏れがある場合、漏れ検知手段により漏れ診断を行うまでもなく漏れを検知でき、早期の漏れ診断を行うことができる。そのため、漏れ診断の機能を無駄に作動させることを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図2】第1実施形態の制御回路のブロック図である。
【
図4】第1実施形態における制御ユニットの漏れ診断ルーチンの処理内容を示すフローチャートである。
【
図5】第1実施形態における制御ユニットの気化促進・飽和判定ルーチンの処理内容を示すフローチャートである。
【
図6】アスピレータの燃料流量に対する減圧室の圧力変化を示す特性図である。
【
図7】飽和蒸気圧特性の推定法を説明する飽和蒸気圧特性図である。
【
図8】飽和判定法を説明するタイムチャートであり、燃料タンクの気層温度が一定の場合を示す。
【
図9】
図8と同様のタイムチャートであり、燃料タンクの気層温度が漸次上昇する場合を示す。
【
図10】第3実施形態における制御ユニットの制御内容を示すフローチャートであり、第1実施形態から変更される部分のみを示す。
【
図11】第3実施形態の飽和蒸気圧特性の推定法を説明するための燃料タンクの気層温度の変化に対する気層圧力の変化を説明するグラフである。
【
図12】第3実施形態の飽和蒸気圧特性の推定法を説明する飽和蒸気圧特性図である。
【
図13】第4実施形態における制御ユニットの制御内容を示すフローチャートであり、第1実施形態から変更される部分のみを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<第1実施形態のシステム構成>
図1は、第1実施形態である蒸発燃料処理装置の漏れ診断装置のシステム構成を示す。第1実施形態は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等のエンジンに適用した例である。
【0034】
図1において、燃料タンク2の気層には、上流側ベーパ通路32が接続され、気層中の蒸発燃料をキャニスタ4の活性炭(図示略)に吸着し、捕捉するように構成されている。そのため、キャニスタ4には、上流側ベーパ通路32と封鎖弁12を介して連通する下流側ベーパ通路34の他端が連通して接続されている。キャニスタ4には、一端が大気弁16を介して大気中に開放された大気通路36の他端が連通して接続されている。そのため、燃料タンク2の気層の燃料蒸気圧が大気圧より高くなり、封鎖弁12及び大気弁16が開放されていると、燃料タンク2中の蒸発燃料がキャニスタ4に流れて吸着され、捕捉される。キャニスタ4には、下流側ベーパ通路34に隣接して上流側パージ通路38が連通して接続されており、上流側パージ通路38の他端は、パージ弁14を介して下流側パージ通路39に連通され、下流側パージ通路39の他端は、エンジン(ENG)6の吸気通路に連通して接続されている。そのため、エンジン6が作動して、パージ弁14及び大気弁16が開放されている状態では、キャニスタ4に吸着され、捕捉されていた蒸発燃料がエンジン6の吸気負圧に吸入されてエンジン6にて燃焼される。燃料タンク2、キャニスタ4、上流側ベーパ通路32、下流側ベーパ通路34、大気通路36、上流側パージ通路38、及び下流側パージ通路39は、蒸発燃料が通流する経路(ベーパ経路)30であり、漏れ診断では、ベーパ経路30に大気への漏れがないか診断される。
【0035】
燃料タンク2の液層の底部には、燃料ポンプ(EFP)8が固定されており、燃料タンク2内の燃料を燃料供給通路56を介してエンジン6に供給可能としている。燃料ポンプ8には、プレッシャレギュレータ(PR)10が設けられている。プレッシャレギュレータ10は、燃料ポンプ8がエンジン6に供給した燃料のうち余剰となった燃料を燃料タンク2内に還流させる。燃料供給通路56には、分岐通路52が分岐接続されており、分岐通路52には、途中分岐弁20が介挿されている。分岐通路52を介した燃料は、アスピレータ(ASP)40に供給されている。アスピレータ40は、概ね燃料タンク2の気層内に位置するように固定されている。アスピレータ40は、燃料を流すことによって負圧を発生させるものであり、発生された負圧は、吸引通路54によって遮断弁18を介してキャニスタ4の下流側ベーパ通路34及び上流側パージ通路38に隣接する位置に連通されている。吸引通路54には、圧力センサ26が設けられ、吸引通路54の圧力を検出している。また、燃料タンク2の気層にも温度センサ22及び圧力センサ24が設けられ、気層の燃料蒸気の温度及び圧力を検出している。
【0036】
図2は、第1実施形態のシステムの制御回路を示す。
図2において、デジタルコンピュータを含んで構成された制御ユニット60には、温度センサ22、圧力センサ24、26からの検出信号が入力されている。また、制御ユニット60は、封鎖弁12、パージ弁14、大気弁16、遮断弁18、分岐弁20、及び燃料ポンプ8に作動信号を出力して、それぞれの作動状態を制御している。更に、制御ユニット60は、警告灯62に作動信号を出力している。警告灯62は、漏れ診断により漏れが検出されたときに点灯されて漏れがあることを運転者に警告する。
【0037】
図3は、アスピレータ40の詳細構造を示す。
図3のように、アスピレータ40は、ベンチュリ部43とノズル部44の組合せから構成されている。ノズル部44からベンチュリ部43に向けて燃料を高速で流し、ベンチュリ部43から燃料タンク2内に燃料を噴出する構成とされている。ベンチュリ部43は、絞り45と、絞り45の燃料流動方向上流側に設けられた先窄まり状の減圧室46と、絞り45の燃料流動方向下流側に設けられた末拡がり状のディフューザ部47と、減圧室46に設けられた吸引ポート42とを備えている。減圧室46、絞り45、およびディフューザ部47は、それぞれ同軸に形成されている。絞り45は、通路断面積を燃料流動方向の上流側及び下流側に比べて狭くされた狭隘流路を形成している。
【0038】
吸引ポート42は、減圧室46に連通形成され、吸引ポート42には、吸引通路54(
図1参照)が連通されている。ノズル部44は、ベンチュリ部43の上流側に接合されている。ノズル部44は、アスピレータ40内に燃料を導入する導入ポート41と、導入された燃料をベンチュリ部43内に噴射するノズル本体48とを備えている。ノズル本体48は減圧室46内に同軸収納されており、当該ノズル本体48の噴射口49は絞り45に臨んでいる。
【0039】
燃料ポンプ8から吐出された燃料の一部は、燃料供給通路56から分岐通路52(
図1参照)を通して導入ポート41からアスピレータ40内へ導入される。導入された燃料は、ノズル本体48から噴射され、絞り45及びディフューザ部47の中央部を軸方向に高速で流動する。このとき、減圧室46においては、ベンチュリ効果によって負圧が発生する。これにより、吸引ポート42および吸引通路54(
図1参照)に吸引力が生じる。吸引通路54を通して吸引ポート42から吸引された気体(本実施形態1ではキャニスタ4からの蒸発燃料及び空気)は、ノズル本体48から噴射された燃料と共にディフューザ部47から燃料タンク2内に混合噴出される。
【0040】
<蒸発燃料処理装置の漏れ診断機能>
蒸発燃料処理装置のベーパ経路の漏れ診断には、いくつかの方式が知られている。例えば、次の方式がある(
図1参照)。
【0041】
第1の方式は、封鎖弁12を開き、大気弁16を閉じた状態で、パージ弁14を開いてエンジン6が発生する負圧を、キャニスタ4及び燃料タンク2を含むベーパ経路30に導入する間に行う。ベーパ経路30に負圧を導入中の圧力センサ24により検出される圧力の低下具合が予め決められた速度よりも遅い場合に、漏れがあると診断される。
【0042】
第2の方式は、第1の方式と同様にベーパ経路30に負圧を導入した後にパージ弁14を閉じて、キャニスタ4及び燃料タンク2を含むベーパ経路30を閉塞して行う。ベーパ経路30を閉塞後の圧力センサ24により検出される圧力の上昇具合が予め決められた速度よりも速い場合に、漏れがあると診断される。
【0043】
第3の方式は、大気弁16及び封鎖弁12を閉じた状態で、パージ弁14及び分岐弁20を開いて封鎖弁12よりキャニスタ4側にエンジン6が発生する負圧を供給し、封鎖弁12より燃料タンク2側にアスピレータ40によって吸引される大気圧を燃料タンク2内に導入して漏れ診断を行う。この場合、封鎖弁12よりキャニスタ4側の領域と封鎖弁12より燃料タンク2側の領域に分けて漏れ診断を行う。また、燃料タンク2内に大気圧を供給するため、吸引通路54はキャニスタ4に連通されず大気圧に開放されているものとする。漏れ診断は、封鎖弁12よりキャニスタ4側の領域に封鎖された負圧が大気圧に向けて上昇する速度が予め決められた速度よりも速い場合に、漏れがあると診断される。また、封鎖弁12より燃料タンク2側の領域に封鎖された正圧が大気圧に向けて低下する速度が予め決められた速度よりも速い場合に、漏れがあると診断される。
【0044】
その他の方式として、蒸発燃料の処理をエンジン6へのパージによって行わず、アスピレータ40の吸引により行うパージレスエバポシステムを採用した場合のものがある。パージレスエバポシステムでは、キャニスタ4に捕捉された蒸発燃料をアスピレータ40によって吸引して燃料タンク2内に環流させている。この方式では、アスピレータ40の作動によって封鎖弁12よりキャニスタ4側を負圧とし、封鎖弁12より燃料タンク2側を正圧として第3の方式と同様に漏れ診断を行うものがある。
【0045】
<第1実施形態のベーパ経路漏れ診断機能>
第1実施形態の制御ユニット60(
図2参照)では、
図4に示す漏れ診断ルーチンの処理フローに従ってベーパ経路30(
図1参照)の漏れ診断を行う。まず、ステップS2では、漏れ診断の診断基準が補正される。具体的には、燃料タンク2の気層部の燃料蒸気の飽和蒸気圧が高いほど診断基準は高くされる。補正は、飽和状態の燃料蒸気圧と補正値のマップに基づいて行われる。ステップS3では、上述のいずれかの方式により漏れ診断が行われる。
【0046】
<気化促進、飽和判定機能の詳細>
図5は、気化促進・飽和判定ルーチンの処理フローを示す。以下、
図5の内容を
図1~3を参照しながら説明する。まず、ステップS11では後述のステップS30が肯定判断されたことを記憶するフラグFがリセット状態にある(記憶状態にない)か否かが判定される。初めは、フラグFはリセット状態にあるため、ステップS11は肯定判断され、ステップS12において、アスピレータ(ASP)40を駆動する。ステップS14では、アスピレータ40の減圧室46の圧力を圧力センサ26によって検出して取り込む。ステップS16では、温度センサ22及び圧力センサ24によって検出される燃料タンク2内の気層の温度及び圧力を取り込む。ステップS18では、減圧室46の圧力に基づいて燃料タンク2内の燃料の飽和蒸気圧特性を推定する。減圧室46内は、アスピレータ40の作動が安定した状態では、燃料蒸気が飽和状態となっている。そのため、
図6のように、アスピレータ40に対する燃料ポンプ8からの燃料供給量から算出される減圧室46の負圧(吸引負圧)と、実際に圧力センサ26によって検出される圧力(計測結果)との差から飽和蒸気圧(蒸気圧)を求めることができる。飽和蒸気圧特性の推定は、
図7のように、燃料タンク2内の気層の温度及び飽和蒸気圧に基づいて予め記憶されている複数の飽和蒸気圧特性の中から、破線のように温度に対する蒸気圧が一致する特性が特定される。ここで、燃料タンク2の気層の温度の代わりに、減圧室46の温度を用いることもできる。
【0047】
ステップS20では、圧力センサ24によって検出される燃料タンク2内の気層圧力の変化速度、及び燃料蒸気が飽和した状態にあるときの同じ気層圧力の目標圧力変化速度が算出される。目標圧力変化速度は、ステップS18で推定された飽和蒸気圧特性と温度センサ22によって検出される温度の変化とによって求められる。
図8は、温度が変化しない場合の目標圧力変化速度を×印で示し、網目を施した範囲は目標圧力変化速度の幅(後述の閾値αに相当)を示す。図中、〇印は、燃料蒸気が非飽和で、気化が進んで圧力が徐々に高くなっている状態を示す。また、
図9は、
図8と同様の目標圧力変化速度を示し、温度が変化した場合である。この場合、温度の上昇と共に目標圧力変化速度も上昇している。
図9で、△印は、ベーパ経路30に大きな孔が開いていて圧力が上昇しない状態を示す。
【0048】
ステップS30では、目標圧力変化速度と気層圧力の変化速度との差(絶対値)が閾値α以内か否か、且つ閾値α以内ならその状態が所定時間(例えば、10秒程度)以上続いたか否かが判定される。即ち、気層圧力の変化速度が
図8、9の網目を施した範囲に入っている時間が所定時間以上か否かが判定される。ステップS30が肯定判断される場合は、ステップS32においてアスピレータ40の作動が停止される。この状態は、燃料タンク2の気層の燃料蒸気が飽和状態となって、それ以上の気化促進は不要としてアスピレータ40を停止している。次のステップS34では、ステップS30が肯定判断されているためフラグFをセットして気化促進・飽和判定ルーチンの処理を終了する。
【0049】
ステップS30が否定判断された場合は、ステップS36において、気層圧力の変化速度がゼロか否か、且つその状態が一定時間(例えば、5秒程度)以上継続しているか否かが判定される。気層圧力の変化速度が
図8、9の網目を施した範囲に入っておらず、ゼロの状態で、
図9の△印で示す状態にある場合は、ステップS36が肯定判断され、ステップS38において、ベーパ経路30に大きな孔が開いて大量の漏れが発生していることが制御ユニット60内のメモリに記録される。ステップS36の判定は、気層圧力の変化速度がゼロを含む一定値以下か否かとされてもよい。
【0050】
ステップS38の処理後は、気化促進・飽和判定ルーチンの処理を終了(エンド)する。ステップS36が否定判断される場合は、燃料タンク2内の燃料の気化を促進するため、アスピレータ40を駆動する。即ち、燃料ポンプ8を作動させ、且つ分岐弁20を開いてアスピレータ40に燃料を通流させる。ステップS28の処理が終了すると、ステップS20に戻って、圧力センサ24によって検出される燃料タンク2内の気層圧力の変化速度、及び燃料蒸気が飽和した状態にあるときの同じ気層圧力の目標圧力変化速度が再び算出される。その後、ステップS30以降の処理が繰り返される。
【0051】
ステップS11が否定判断される場合、即ち、燃料タンク2の気層の燃料蒸気が飽和状態となってステップS30が肯定判断され、フラグFがセット状態にある場合は、ステップS24において気層圧力が減少しているか否かが判定される。即ち、気層の燃料蒸気が飽和状態となって後、飽和状態が維持されずに圧力が低下したか否かを判定している。ステップS24が肯定判断される場合は、飽和状態が維持されていないとして、ステップS26でフラグFをリセットし、次のステップS28にてアスピレータ40を駆動して、再び燃料タンク2内の気化を促進する。その後、ステップS20以降の処理が繰り返される。ステップS24が否定判断される場合は、燃料蒸気の飽和状態が維持されているため、気化促進・飽和判定ルーチンの処理を終了する。ステップS24では、燃料蒸気の飽和状態が維持されているか否かの判定を気層圧力が減少しているか否かによって行うものとしたが、燃料蒸気の濃度が予め決められた濃度に維持されているか否かにより判定してもよい。
【0052】
以上のように
図5の気化促進・飽和判定ルーチンの処理を実行することにより、アスピレータ40を作動させて燃料タンク2内の燃料の気化を促進し、気層の燃料蒸気を早期に飽和状態とする。飽和状態とした後は、
図4の漏れ診断ルーチンのステップS2で飽和蒸気圧に基づいて漏れ診断のための判定基準を補正して、ステップS3で漏れ診断を行う。そのため、燃料蒸気が飽和状態とならない非飽和状態で漏れ診断を行うことは回避でき、診断精度を高めることができる。飽和状態の判定を蒸気圧に基づいて行う代わりに燃料蒸気の濃度に基づいて行うこともできるが、後者の場合は濃度計が必要となるのに対し、第1実施形態では、蒸気圧に基づいて判定を行うため、濃度計を別途設ける必要がないメリットがある。また、飽和状態にあるか否かの判定を行う過程でもベーパ経路30に大きな孔が開いている場合には、それを検出することができる。
図5のステップS38で大きな漏れが発生していると判定された場合、及び
図4のステップS3で漏れがあると判定された場合、いずれの場合も、その後のエンジン6の作動時に警告灯62(
図2参照)が点灯してベーパ経路30に漏れがあることを運転者に警告することができる。
【0053】
<第2実施形態>
第1実施形態では、アスピレータ40を気化促進手段とした。それに対し、第2実施形態では、プレッシャレギュレータ10を気化促進手段としている。プレッシャレギュレータ10を気化促進手段として使用するためには、第1実施形態のアスピレータ40と同様にプレッシャレギュレータ10を作動させることが必要である。そのため、エンジン6が停止しているときも燃料ポンプ8を作動させる。また、エンジン6がアイドリング状態で燃料消費量が少ない場合でも、燃料消費量を上回る燃料を供給するように燃料ポンプ8を作動させる。従って、第2実施形態では、
図5のステップS12、S28で燃料ポンプ8を作動(若しくは作動出力を大きく)させ、ステップS32で燃料ポンプ8を作動停止(若しくは作動出力を小さく)する。
【0054】
<第3実施形態>
図10は、第3実施形態の制御ユニット60の制御内容を示すフローチャートであり、第1実施形態から変更された部分のみを示す。「気化促進・飽和判定ルーチン」においてステップS12でアスピレータ40が駆動され、ステップS16で燃料タンク2の気層の圧力及び気層の温度が取り込まれる。次のステップS19では、次のように飽和蒸気圧特性が推定される。
【0055】
まず、
図11のように、気層温度変化(T1からT2)に対する気層圧力変化(ΔP)を求める。それを受けて、
図12のように、気層温度変化(T1からT2)に対する気層圧力変化(ΔP)と、予め記憶されている複数の飽和蒸気圧曲線とを対比し、複数の飽和蒸気圧曲線の中で、気層温度変化(T1からT2)に対する気層圧力変化(ΔP)が一致するものがあるか判定する。一致するものがあれば、その飽和蒸気圧曲線の特性を飽和蒸気圧特性として特定する。一致するものがなければ、未だ飽和状態に至っていないと判断して、一致するものが特定されるまで、この処理を繰り返す。
【0056】
図12の例示では、気層温度変化(T1からT2)に対する気層圧力変化ΔPがP3からP4に変化する場合は、飽和蒸気圧特性RVP1の曲線と一致するため、飽和蒸気圧特性はRVP1であると特定される。一方、気層温度変化(T1からT2)に対する気層圧力変化ΔPがP1からP2に変化する場合は、飽和蒸気圧特性RVP2の曲線と一致せず、この時点では飽和蒸気圧特性を特定することができない。
【0057】
第3実施形態によれば、第1実施形態に比べて、アスピレータ40の減圧室46の圧力を検出する必要がないため、圧力センサ26を省略することができる。
【0058】
<第4実施形態>
図13は、第4実施形態の制御ユニット60の制御内容を示すフローチャートであり、第1実施形態から変更された部分のみを示す。ステップS20の処理を終えると、ステップS31では、「気化促進・飽和判定ルーチン」の処理が開始されて後、気化促進手段としてのアスピレータ40の作動時間が所定の判定時間(例えば、3分間程度)以上経過したか否かが判定される。判定時間は、気化促進手段であるアスピレータ40の作動出力と、燃料タンク2の気層部の容積とに基づいて決定される。なお、アスピレータ40の作動出力は、燃料ポンプ8からアスピレータ40に供給される燃料量により求められる。また、燃料タンク2の気層部の容積は、燃料タンク2の容量と燃料タンク2内の燃料残量との差により求められる。
【0059】
判定時間以上経過していれば、燃料蒸気が飽和状態に達したものとして、ステップS31は肯定判断され、ステップS32において、アスピレータ40の作動を停止する。判定時間以上経過していない間は、ステップS31は否定判断され、ステップS36以降の処理を行う。
【0060】
第4実施形態によれば、第1実施形態に比べて、燃料蒸気が飽和状態に達したか否かの判定が簡単であり、プログラムを簡素化でき、処理速度を速くすることができる。
【0061】
図5、13のフローチャートにおいて、ステップS30、S31の処理は、本明細書に開示の技術における飽和判定手段に相当し、ステップS24の処理は、本明細書に開示の技術における飽和維持判定手段に相当し、ステップS30、S36の処理、並びにS31、S36の処理は、本明細書に開示の技術における漏れ検知手段に相当する。
【0062】
<その他の実施形態>
以上、本明細書に開示の技術を特定の実施形態について説明したが、その他各種の形態で実施可能なものである。例えば、第2実施形態、第3実施形態、及び第4実施形態は、それぞれ第1実施形態の一部を置換するものとしたが、第2実施形態、第3実施形態、及び第4実施形態を適宜組み合わせたものにより第1実施形態の一部を置換してもよい。
【符号の説明】
【0063】
2 燃料タンク
4 キャニスタ
6 エンジン(ENG)
8 燃料ポンプ(EFP)
10 プレッシャレギュレータ(PR)
12 封鎖弁
14 パージ弁
16 大気弁
18 遮断弁
20 分岐弁
22 温度センサ
24、26 圧力センサ
30 ベーパ経路
32 上流側ベーパ通路
34 下流側ベーパ通路
36 大気通路
38 上流側パージ通路
39 下流側パージ通路
40 アスピレータ(ASP)
41 導入ポート
42 吸引ポート
43 ベンチュリ部
44 ノズル部
45 絞り(狭隘流路)
46 減圧室
47 ディフューザ部
48 ノズル本体
49 噴射口
52 分岐通路
54 吸引通路
56 燃料供給通路
60 制御ユニット
62 警告灯