(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】被覆チオアルミネート蛍光体粒子、発光組成物を含む発光装置及び、被覆チオアルミネート蛍光体粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 11/56 20060101AFI20240304BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20240304BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20240304BHJP
C09K 11/62 20060101ALI20240304BHJP
C09K 11/63 20060101ALI20240304BHJP
C09K 11/77 20060101ALI20240304BHJP
C09K 11/84 20060101ALI20240304BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240304BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20240304BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C09K11/56
C09K11/88
C09K11/64
C09K11/62
C09K11/63
C09K11/77
C09K11/84
C09K11/08 G
H01L33/50
G02B5/20
(21)【出願番号】P 2020564402
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(86)【国際出願番号】 US2019032466
(87)【国際公開番号】W WO2019222384
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-09
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507114761
【氏名又は名称】カレント・ライティング・ソルーションズ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【氏名又は名称】小倉 博
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,アラン・シー
(72)【発明者】
【氏名】シエ,ユミン
(72)【発明者】
【氏名】メルマン,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ノーゼル,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ゴ,ヨン・ボク
(72)【発明者】
【氏名】バロウディ,クリステン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,エヴァン
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-260557(JP,A)
【文献】国際公開第2018/080936(WO,A1)
【文献】特開2011-236310(JP,A)
【文献】特表2004-529261(JP,A)
【文献】特開2001-139941(JP,A)
【文献】特開平04-264190(JP,A)
【文献】特表2016-515145(JP,A)
【文献】特開平09-104863(JP,A)
【文献】Zhang Xinmin et al.,Luminescent Properties of SrGa2S4:Eu2+ and Its Application in Green-LEDs,Journal of Rare Earths,2007年,25,701-705
【文献】Chiharu Hidaka et al.,Journal of Physics and Chemistry of Solids,2008年,69,358-361,DOI: 10.1016/j.jpcs.2007.07.016
【文献】Chiharu Hidaka et al.,Journal of Physics and Chemistry of Solids,2005年,66,2058-2060,DOI: 10.1016/j.jpcs.2005.09.048
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式RE1-wAwMxEyによって特徴付けられる硫化物蛍光体材料の粒子と、各粒子上の窒化物被覆層と、
を含む
発光組成物であって、式中、
REが、希土類元素、または希土類元素の混合物であり、
Aが、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびそれらの混合物からなる群から選択され、
Mが、アルミニウム、ガリウム、ホウ素、インジウム、スカンジウム、ルテチウム、イットリウムおよびそれらの混合物からなる群から選択され、
Eが、硫黄を含み、硫黄、セレン、酸素、テルルおよびそれらの混合物からなる群から選択され、
0≦w≦1.0であり、
2≦x≦4であり、
4≦y≦7であり、
前記窒化物被覆層が、窒化アルミニウム、窒化ガリウムまたは、窒化アルミニウムと窒化ガリウムとの混合物を含む発光組成物。
【請求項2】
前記窒化物被覆層が窒化アルミニウムを含む、請求項1に記載の発光組成物。
【請求項3】
前記窒化物被覆層が、窒化アルミニウムから本質的になる、請求項1に記載の発光組成物。
【請求項4】
前記窒化物被覆層が窒化ガリウムを含む、請求項1に記載の発光組成物。
【請求項5】
前記窒化物被覆層が、窒化ガリウムから本質的になる、請求項1に記載の発光組成物。
【請求項6】
前記硫化物蛍光体材料が、青色光、紫色光または紫外線を吸収し、それに応答して、可視スペクトルの緑色領域にピーク波長を有する光を放出することができる、請求項1
乃至5のいずれかに記載の発光組成物。
【請求項7】
前記窒化物被覆層が、前記硫化物蛍光体材料上に直接配置される、請求項1
乃至6のいずれかに記載の発光組成物。
【請求項8】
各粒子が、前記硫化物蛍光体材料と窒化アルミニウム被覆層との間に配置された酸化物層を含む、請求項1
乃至6のいずれかに記載の発光組成物。
【請求項9】
各粒子が、前記窒化物被覆層上に配置された第2の被覆層を少なくとも含む、請求項1
乃至8のいずれかに記載の発光組成物。
【請求項10】
前記第2の被覆層が、少なくとも1つの酸化物を含む、請求項9に記載の発光組成物。
【請求項11】
REが、ユーロピウムである請求項1乃至10のいずれかに記載の発光組成物。
【請求項12】
一次光を放出する発光ダイオードと、
請求項1乃至11のいずれかに記載の発光組成物と、
を含む発光装置であって、
前記硫化物蛍光体材料が、前記一次光の少なくとも一部を吸収し、それに応答して、前記一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を放出する
、発光装置。
【請求項13】
前記二次光が、可視スペクトルの緑色領域にピーク波長を有する、請求項1
2に記載の発光装置。
【請求項14】
一次光が青色光である、請求項
12または13に記載の発光装置。
【請求項15】
二次光が、可視スペクトルの緑色領域にピーク波長を有する、請求項
14に記載の発光装置。
【請求項16】
ガス透過性であるが粉末不透過性の膜を有する反応器に希土類活性剤イオンを含む硫化物蛍光体材料の粒子を含む蛍光体粉末を配置するステップと、
前記蛍光体粉末を、重力の下向きの力を打ち消す流動化ガスの上向きの力によって浮遊させるステップであって、前記流動化ガスがアンモニアを含む、前記ステップと、
トリメチルアルミニウム及び/またはトリメチルガリウムを前記蛍光体粉末が浮遊するゾーンに到達させるステップと、
前記ゾーンを加熱し、前記蛍光体粉末の前記粒子上に窒化アルミニウム層、窒化ガリウム層、または窒化アルミニウムと窒化ガリウムとの混合層を形成するステップと、
を含む、発光組成物の製造方法。
【請求項17】
前記蛍光体粉末の前記粒子は、前記蛍光体粉末の洗浄中に形成された酸化物層を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
各粒子が、窒化物被覆層上に配置された第2の被覆層を形成するステップを含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の被覆層が、少なくとも1つの酸化物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記硫化物蛍光体材料が、式RE1-wAwMxEyによって特徴付けられ、式中、
REが、希土類元素、または希土類元素の混合物であり、
Aが、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびそれらの混合物からなる群から選択され、
Mが、アルミニウム、ガリウム、ホウ素、インジウム、スカンジウム、ルテチウム、イットリウムおよびそれらの混合物からなる群から選択され、
Eが、硫黄を含み、硫黄、セレン、酸素、テルルおよびそれらの混合物からなる群から選択され、
0≦w≦1.0であり、
2≦x≦4であり、
4≦y≦7である、請求項16乃至19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記流動化ガスとして無水アンモニアを前記反応器に供給するステップと、
トリメチルアルミニウムバブラにアルゴンガスを通して、アルゴンガスとトリメチルアルミニウムとを前記反応器に供給するステップと、
を含む、請求項16乃至20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記無水アンモニアを0.013L/分の流量で前記反応器に供給するステップと、
前記アルゴンガスと前記トリメチルアルミニウムとを0.016L/分の流量で前記反応器に供給するステップと、
を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ゾーンを加熱する前記ステップは、300℃の反応器温度且つ、1時間の反応器時間で行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
アンモニア/トリメチルアルミニウムの重量比が9である、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、被覆チオアルミネート蛍光体粒子、およびチオアルミネート蛍光体粒子を被覆するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去数年にわたって、LED照明は、エネルギー効率の高い照明を大幅に改善すると同時に、高い品質を可能にしてきた。LED照明の別の特徴は、照明製品の非常に長い寿命であり、典型的には、L70(光源のルーメン出力が初期出力の70%に低下するまでに光源が動作する時間)が25,000時間を超える。対照的に、LEDが取って代わる既存の光源は、典型的には、L70が10,000時間(蛍光灯照明)であるか、約1000時間で壊滅的に故障する(白熱灯)。この長寿命は、LED光源のあらゆる構成要素の機能であるが、特に、青色または紫色発光ダイオード、およびダイオードによって放出された光を吸収し、それを他の色に変換して可視スペクトルを完成させるダウンコンバージョン蛍光体材料の機能である。ダイオードが劣化すると、LEDの明るさは低下するが、そのカラーバランスは維持される。ただし、蛍光体が劣化すると、典型的には、LEDの明るさが低下し、そのカラーバランスも失われる。LEDは白以外の色相を帯びることがある。ユーザの観点からは、色ずれは典型的にはさらに問題がある。
【0003】
LEDパッケージのための最も一般的な構築は、シリコーンマトリックス中に蛍光体材料を分散させてスラリーを形成し、このスラリーを発光ダイオードも含む反射カップ領域内に堆積させることである。パッケージは、2つのタイプの反射領域、典型的にはプラスチックまたはセラミックから作製される拡散反射表面と、電気接点から形成される鏡面反射性の高い表面とを有する。典型的には、鏡面反射表面は、反射性を大幅に高め、パッケージからの光抽出を増加させるために銀によってメッキされる。
【0004】
LED蛍光体は、通常、ホスト内の活性剤イオン、典型的には2価のユーロピウムまたは3価のセリウムから構成される。活性剤イオンは、入射光を直接吸収し、典型的にはダウンコンバージョンと呼ばれるプロセスでさらに長い波長の光を放出する。すなわち、入射光子は、高エネルギーの青色光子から、シアン、緑色、黄色、オレンジ色または赤色などの低エネルギーの光子にダウンコンバートされる。ホストは、活性剤の吸収波長および発光波長の調整を助ける。さらに、活性剤の周りのホストの結晶化度の程度は、吸収および発光の効率に大きな役割を果たし得る。
【0005】
蛍光体の劣化は、典型的には、LEDによって生成される熱および光の存在下での水または酸素の作用に起因する。水または酸素が蛍光体に接触し、劣化を促進するのを防止するために、多くの種類の蛍光体を何らかの層によって被覆することが一般的になっている。典型的には、これらの被覆は無機酸化物であり、溶液相、例えば、ゾルゲル反応または気相反応のいずれかによって蛍光体上に堆積される。
【0006】
蛍光体は、典型的には、3つの機構によって劣化し得る。第一に、活性剤が酸化すると、4f軌道から5d軌道への電荷移動吸収がなくなり、入射光を吸収することができなくなる可能性がある。第二に、ホストは化学的に変形し、活性剤の吸収および発光のエネルギーを変化させ得る。第三に、ホストは物理的に変形し、活性剤の周りの結晶化度を失い、活性剤の吸収および発光の効率を低下させ得る。典型的には、ホストへの低温化学変化も、結晶化度を失わせる。これらの劣化の全体的な影響は、その元の状態または劣化した状態のいずれでも、ホストが材料に水または酸素を透過させる程度に依存する。例えば、セリウムをドープしたイットリウムアルミニウムガーネット蛍光体材料の劣化は、ユーロピウムをドープしたアルカリ土類オルトシリケート蛍光体に比べて非常に遅い。
【0007】
商業的に使用される蛍光体のほぼ全体を構成する酸化物蛍光体および窒化物蛍光体とは異なり、硫化物系蛍光体(例えば、チオアルミネート蛍光体)は、追加のLED故障機構をもたらす。水との加水分解反応は、蛍光体から硫黄を放出し得、これは、例えば、LEDパッケージ内の反射表面を変色させることによって性能を劣化させ得る。この黒化は、蛍光体変換LEDの光出力を大幅に減少させ得る。したがって、硫化物蛍光体を適切に被覆することができないと、酸化物蛍光体または窒化物蛍光体を適切に被覆することができないことよりも大きな問題を引き起こし得る。
【0008】
硫化物蛍光体を効果的に被覆する能力は、これらの蛍光体とそれらの酸化物類似体または窒化物類似体との間の表面化学の相違によって妨げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2014/128676号パンフレット
【発明の概要】
【0010】
本発明の一態様では、チオアルミネート蛍光体粒子は、窒化物を含むか、窒化物から本質的になるか、窒化物からなる被覆を有する。窒化物被覆は、例えば、窒化アルミニウム、窒化ガリウムまたはそれらの混合物を含むか、それらから本質的になるか、それらからなり得る。チオアルミネート蛍光体粒子上の窒化物被覆は、酸化アルミニウム被覆と比較して、水に対する顕著に改善された障壁を提供する。この改善は、不安定な硫化物蛍光体表面から揮発したガスとの窒化物被覆前駆体の非反応性に起因し得る。
【0011】
本発明の別の態様では、そのような窒化物被覆チオアルミネート蛍光体粒子を作製するための方法が開示されている。
【0012】
本発明のさらに別の態様では、蛍光体変換LEDは、そのような窒化物被覆チオアルミネート蛍光体粒子を含む。
【0013】
本発明のこれらおよび他の実施形態、特徴および利点は、最初に簡単に説明される添付の図面と併せて本発明の以下のさらに詳細な説明を参照すると、当業者にはさらに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】蛍光体粒子上への化学気相堆積のための例示的な流動層反応器の概略図を示す。
【
図2】2つの被覆蛍光体試料の硫黄2p領域内のX線光電子分光スペクトルを示す。
【
図3】被覆されていないカルシウムチオアルミネート(calcium thioaluminate)蛍光体の試料の例示的な熱重量-質量分析データを示す。
【
図4A】AgNO
3試験後のAl
2O
3によって被覆されたZnSの試料の顕微鏡画像を示す。
【
図4B】AgNO
3試験後のAlNによって被覆されたZnSの試料の顕微鏡画像を示す。
【
図4C】AgNO
3試験後のAl
2O
3によって被覆されたカルシウムチオアルミネート蛍光体粒子の顕微鏡画像を示す。
【
図4D】AgNO
3試験後のAlNによって被覆されたカルシウムチオアルミネート蛍光体粒子の顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の詳細な説明は、選択的な実施形態を描写し、かつ本発明の範囲を限定することを意図しない図面を参照して読まれるべきである。詳細な説明は、限定ではなく例として、本発明の原理を示している。この説明は、当業者が本発明を作成および使用することを明らかに可能にし、本発明を実施する最良の様式であると現在考えられているものを含む、本発明のいくつかの実施形態、適合、変形例、代替案および使用を説明する。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他のことを示さない限り、複数の指示対象を含む。
【0016】
硫化物蛍光体は、非常に魅力的なスペクトル特性を有することができる。具体的には、多くの硫化物蛍光体の発光スペクトルは非常に狭く、50nm未満、場合によっては25~30nmと小さい半値全幅(FWHM)によって特徴付けられ得る。このスペクトルの狭さは、ディスプレイのバックライトおよび一般的な照明用途では極めて魅力的であり得る。
【0017】
目的の2価の希土類活性化硫化物蛍光体は、RE1-wAwMxEyを含み、式中、REは、1つ以上の希土類元素(例えば、EuまたはGd)であり得、Aは、Mg、Ca、SrまたはBaの群から選択される1つ以上の元素であり得、Mは、Al、Ga、B、In、Sc、LuまたはYの群から選択される1つ以上の元素であり得、Eは、硫黄を含み、S、Se、OおよびTeから選択される1つ以上の元素であり得、wは、ゼロ以上および約0.99以下または1.0以下であり、2≦x≦4であり、4≦y≦7である。
このような蛍光体は、本明細書では、チオアルミネート蛍光体またはカルシウムチオアルミネート蛍光体と呼ばれ得る。典型的には、それらは、青色光または紫外線を吸収し、それに応答して、可視スペクトルの緑色領域にピーク波長を有する光を放出することができる。
【0018】
これらのチオアルミネート蛍光体は、水と反応してH2Sを放出し、硫化物ホストの一部を酸化物に変換し得る。この変化は、蛍光体の光学特性に影響を与え、典型的には、吸収をはるかに高いエネルギーにシフトさせるほか、活性剤中心の周りの結晶化度の減少に起因して吸収強度および発光強度を減少させる。
【0019】
H2Sまたは同様の種として、硫化物蛍光体の加水分解によって放出されるものなどの遊離硫化物は、いくつかのレベルでパッケージングを破壊する可能性がある。高濃度では、遊離硫化物は、封止に使用されるシリコーンの硬化を阻害する可能性がある。この硬化の阻害は、蛍光体がパッケージ内を移動し、LEDの色点をシフトさせる可能性があり、接点からダイへのワイヤ結合が保護されず、LEDが、電気的接続の破損による破滅的な故障をさらに起こしやすくなることを意味する。低濃度では、硫化物は、経時的に反応して、電気接点パッドの銀と、接点からダイへのワイヤ結合の金とを腐食および黒色化させる可能性がある。この後者の劣化機構はまた、SO2などのカチオン性硫黄源が存在する場合に作用する可能性があり、電流がパッケージを流れる際に存在する電気化学的電位によって加速され得る。
【0020】
これらの機構はいずれも、蛍光体変換LED光源の寿命を縮める。
【0021】
上記のように、蛍光体粒子を被覆すると、水が蛍光体内に進行するのを阻害し、その劣化を遅らせることができることが知られている。被覆の一般的な方法には、ゾルゲルプロセスによるシリカ層または化学気相堆積によるアルミナ層の作製がある。
【0022】
ゾルゲルプロセスでは、蛍光体粒子は溶媒中に懸濁される。溶媒は被覆前駆体を含有し、反応が開始されて、前駆体を蛍光体粒子上の連続被覆に形成する。系に応じて、前駆体は、蛍光体の存在下で開始され得るか、蛍光体の導入前に開始され得る。一例として、蛍光体は、テトラエトキシシラン(TEOS)の水溶液またはエタノール溶液中で撹拌され得る。次いで、アンモニア溶液を加えてpHを変化させ、シランの加水分解速度を加速し、蛍光体上にシリカ被覆を形成することにより、被覆プロセスを開始してもよい。エタノール性チタンイソプロポキシドおよび水性硝酸アルミニウムなどの他の種類の前駆体が知られている。他の多くのゾルゲル化学作用が知られており、利用され得る。
【0023】
化学気相堆積プロセスは、典型的には、流動層で流動化された粒子に対して行われる。流動層の作製は、典型的には、下部にガス透過性であるが粉末不透過性の膜またはフリットを有するカラムに蛍光体粉末を配置することを伴う。粉末は、重力の下向きの力を打ち消すガスの上向きの力によって浮遊する。この流動化により、固体粉末中、または撹拌溶液中であっても、普通なら露出されない蛍光体粒子のあらゆる表面へのアクセスが可能になる。第2のガス流が、被覆のための第2の前駆体を運び得、それを流動化ゾーンの中央近くに送達し得る。例示的な流動化粒子被覆システムを
図1に示す。
【0024】
そのような流動化システム構成の1つは、流動化ガスとしてアルゴンを使用し、2つの別個の流れの中で、アルゴンを水を通して泡立たせ、次いでフリットを通して上昇させ、トリメチルアルミニウム(TMA)を通して流動化ゾーンの中央に到達させる。これらの反応物は流動化ゾーンで混合され、ゾーンは100℃~300℃に加熱される。次いで、TMAの加水分解が進行して、蛍光体粒子上に非晶質酸化アルミニウム被覆を形成する。アルゴン以外に、窒素などの他の不活性キャリアガスを使用することができる。
【0025】
アルミナ被覆は、場合によっては原子層堆積(ALD)と呼ばれる、層ごとのプロセスで堆積されてもよく、この場合、蛍光体粒子は、低濃度の水によって処理されて粒子の表面上に水/水酸化物層を形成し、反応チャンバは、あらゆる水を除去するために排気され、次いで、低濃度のTMAによって満たされ、低濃度のTMAは、水から残った表面ヒドロキシルと反応して、酸化アルミニウム層を形成する。チャンバは再び排気され、低濃度の水によって満たされ、所望の数の層が堆積されるまでこの工程が繰り返される。
【0026】
被覆の正確な厚さは、部分的に、使用される方法によって決定される。ALDは最も薄い被覆層を形成し、CVDはそれよりも厚い被覆を形成し、ゾルゲルは一般にはるかに厚い被覆を形成する。
【0027】
様々なゾルゲル法によってチオアルミネート蛍光体材料を被覆する試みは、蛍光体の化学反応性のために、蛍光体材料の吸収特性および発光特性の著しい劣化をもたらしてきた。
【0028】
トリメチルアルミニウムおよび水を用いたCVD/流動層法またはALD法により、チオアルミネート蛍光体材料上にアルミナ被覆、またはアルミナに加えて他の金属酸化物被覆を形成する試みは、被覆プロセス中に材料が完全な劣化を示さなかったという点で、比較的成功した。ただし、これらの被覆方法は、蛍光体材料が通常のLED信頼性試験に耐えることを可能にする障壁を形成しなかった。
【0029】
通常、蛍光体は、パッケージ化されたLEDの一部として、様々な条件下で一定期間にわたってそのルーメンの維持と色ずれとを観察することによって試験される。典型的な試験は、高温動作寿命(HTOL)試験であり、この試験では、高温の試験炉内でLEDの電源が投入される。HTOL試験の典型的な温度は85℃および125℃であり、典型的な期間は1008時間および6000時間である。別の典型的な試験は、湿式の高温動作寿命(WHTOL)試験であり、この試験では、LEDは、全時間にわたって電源が投入され得るか、高温および制御された高湿度の試験炉内で一定の間隔で電源がサイクルされ得る。WHTOL試験の典型的な条件は、60℃/90%相対湿度(60/90)および85℃/85%相対湿度(85/85)であり、典型的な期間は1008時間である。成功基準は、誰が試験を実施するかによって異なり得るが、一般的に、ルーメンの維持は、WHTOL試験の1008時間後に少なくとも80%超であるべきである。すなわち、最終的な輝度は初期輝度の少なくとも80%であるべきであり、Δu’V’(試験期間の開始から試験期間の終了までのCIE 1976色空間で測定された色座標の変化)によって測定される色ずれは少なくとも0.007未満であるべきである。
【0030】
さらに、被覆硫化物蛍光体は、蛍光体粉末を硝酸銀溶液にさらすことによって、硫黄の密封に対する被覆の有効性について試験され得る。溶液中の銀イオンは、被覆によって溶液から遮蔽されていないあらゆる硫化物と反応し、黒色のAg2Sを形成する。この黒色沈殿物は、一度形成されると容易に見ることができ、その出現までの時間は、被覆の有効性の尺度として使用することができる。
【0031】
例えば、十分に試験された蛍光体であるアルミナ被覆ユーロピウムドープストロンチウムチオガレートの一部の試料は、硝酸銀溶液中で約336時間にわたり黒ずみを示さず、1008時間の60/90試験後に初期輝度の約80%を維持する。
【0032】
対照的に、アルミナ被覆ユーロピウムドープカルシウムチオアルミネートのさらに堅牢な試料の一部は、硝酸銀溶液中で約20分後に黒ずみを示し、試験のわずか168時間後には初期輝度の80%を維持することができない。
【0033】
図2に示すように、アルミナ被覆によって被覆されたストロンチウムチオガレート(STG)蛍光体およびアルミナ被覆によって被覆されたカルシウムチオアルミネート蛍光体のXPSによる硫黄2p領域の分析は、あるとしても無視できるSTGの信号と、カルシウムチオアルミネート蛍光体の160~172eV(約3原子%)の顕著な強度とを示している。この硫黄は、湿度と反応し、様々な試験方法(硝酸銀溶液およびパッケージ化LED試験)によって決定されるように、蛍光体の故障を促進すると予測される。チオアルミネート蛍光体は、被覆プロセス中に硫化物を揮発させ、その後、被覆の外層に継続的に再堆積すると推測される。
【0034】
チオアルミネートの被覆中の硫黄に関する推測を試験するのを助けるために、質量分析と組み合わせた熱重量分析(TGA-MS)によって、いくつかの被覆されていないカルシウムチオアルミネート蛍光体を分析した。この手法では、流れるガスの下で試料を加熱し、その質量をモニタリングし、質量分析によって流出ガスを分析する。具体的には、いくつかの異なる後処理に供したカルシウムチオアルミネート蛍光体を不活性ガス(アルゴン)下で加熱し、約300℃までの温度で一次質量損失としてH
2Sに対応する質量数34を示した。例示的なデータセットを
図3に示す。
図3にも示すように、質量数44はCO
2またはCH
2CHOに対応し、質量48はSOまたはCH
3SHに対応し、質量64はSO
2に対応し、質量66はH
2S
2に対応する。
【0035】
これらの分析は、チオアルミネート蛍光体表面と酸化物系被覆を堆積するために使用される化学物質との不適合性を示している。この不適合性は、被覆化学物質が表面からいくらかの硫黄を揮発させ、それを被覆層の一部として再堆積させ、水が被覆に浸透し、蛍光体材料と反応する/蛍光体材料を劣化させる連続的な反応経路を生成する際に生じる。
【0036】
カルシウムチオアルミネート蛍光体に酸化物被覆を適用しようとする際に発見された欠陥の結果として、本発明者らには、被覆方法の大幅な変更が必要であることが明らかになった。次いで、本発明者らは、酸化アルミニウムではなく窒化物層によって、チオアルミネート蛍光体材料を被覆することを含む改良された被覆方法を開発した。窒化アルミニウム、窒化ガリウムおよびその2つの混合物は、例えば、そのような被覆に適している可能性がある。このプロセスでは、純粋なアンモニア、または不活性ガスを含むアンモニアが流動化ガスとして使用され、トリメチルアルミニウムが窒化アルミニウム層を堆積するためのアルミニウム源として使用され得る。あるいは、トリメチルアルミニウムの代わりにトリメチルガリウムを使用して、窒化アルミニウム層の代わりに窒化ガリウム層を堆積させてもよい。プロセスでトリメチルアルミニウムおよびトリメチルガリウムの両方を使用することにより、窒化アルミニウムと窒化ガリウムとの混合層を堆積させてもよい。
【0037】
例えば、上記の被覆方法の1つによって、窒化アルミニウム層の上に、例えば、アルミナ、シリカ、またはアルミナおよびシリカなどの別の被覆層を場合により追加してもよい。いくつかの変形例では、窒化アルミニウム層の下に、窒化物被覆の堆積前の蛍光体粒子の洗浄中に形成された酸化物層が存在してもよい。したがって、いくつかの変形例では、窒化物層の上下に酸化物層または他の層が存在してもよい。
【0038】
以下の表1は、一連の被覆実行のデータを示しており、これらはいずれも、同じ蛍光体ロットを用いて実行された。これらのデータは、各被覆実験について、参照番号、反応器に充填された蛍光体の量、回収された蛍光体の量、被覆サイクル中に反応器が保持された温度、被覆サイクルの期間、トリメチルアルミニウムバブラを通って反応器に流入するアルゴンガスの流量(L/分)、反応器への無水アンモニアの流量(L/分)、使用された窒素とアルミニウム前駆体との重量比、および反応器内の蛍光体の量に関連して形成された窒化アルミニウムの理論量である。
【0039】
以下の表2は、被覆前、および各被覆実行後の蛍光体試料に関する分光データを示している。さらに、ALDによって別個のロットの蛍光体を被覆し、被覆前および被覆後の試料の分光データを示している。
【0040】
蛍光体粉末を上記の硝酸銀溶液試験に供することによって、窒化アルミニウムまたはAl2O3によって被覆されたチオアルミネート試料を試験した。これらの試験では、数mgの被覆蛍光体を小さなバイアルに入れた。数mLの0.01M AgNO3(aq)をバイアルに加え、硫化銀の形成による所定のレベルの黒化が肉眼によって観察された時間を記録した。記録された時間は故障寿命(TTF)であり、被覆の有効性の相対的な尺度を提供する。以下の表3は、最良のAl2O3被覆を有する試料、ALDによって堆積されたAlN被覆を有する試料、およびCVD AlN被覆を有する2つの試料について、AgNO3故障寿命を報告している。19分後、最良のAl2O3被覆に黒ずみが観察された。40分までに、ALDによるAlN試料は黒ずんでいた。3時間後、CVDによる初期AlN(NBG20180326)試料に黒ずみが観察されたが、CVDによる後期AlN(NBG20180327)試料では、4.5時間後に初めて黒ずみが観察されている。
【0041】
これらの試験結果(例えば、NBG20180327について)は、300℃の反応温度が、チオアルミネート蛍光体粒子上に、本試験のために調製された最良のアルミナ被覆よりも効果的な窒化アルミニウムの障壁被覆を提供するのに十分であることを示す。断面NBG20180327蛍光体粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)観察および透過型電子顕微鏡観察は、窒化アルミニウム障壁被覆が多結晶質であり、50~60nmの厚さを有することを示している。EDSによって窒化アルミニウムを識別した。最良のアルミナ被覆によって被覆された断面チオアルミネート蛍光体粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)観察および透過型電子顕微鏡観察は、アルミナ被覆が200nmを超える厚さを有することを示している。
【0042】
追加の試験では、両面テープを用いてスライドガラスに試料を貼り付け、硝酸銀溶液に浸漬し、数時間にわたって観察した。4つの試料、すなわち、
図4Aに示す、Al
2O
3によって被覆された硫化亜鉛、
図4Bに示す、AlNによって被覆された硫化亜鉛、
図4Cに示す、先に識別された最良のアルミナ被覆によって被覆されたチオアルミネート蛍光体試料NBG20180301、および
図4Dに示す、AlNによって被覆された同じ蛍光体ロットの試料(例NBG20180327)を比較した。約8時間後、試料を比較した。アルミナ被覆を有する硫化亜鉛は黒ずみを示さなかったが、窒化アルミニウムを被覆した硫化亜鉛はある程度の黒ずみを示した。アルミナ被覆を有する蛍光体試料ではいくつかの緑色蛍光体粒子が残っていたが、この試料はほぼ完全に黒ずんでいたのに対して(
図4C)、窒化アルミニウム被覆を施した試料では、黒ずみが半分以下であるように見えた(
図4D)。
【0043】
本発明の窒化物被覆チオアルミネート蛍光体は、任意の従来の方法で励起源と光学的に結合し得る。さらに一般的な方法の1つには、本明細書に開示される窒化物被覆チオアルミネート蛍光体などの緑色発光蛍光体と、赤色蛍光体および場合により青色蛍光体および/または黄色蛍光体とを組み合わせることがある。
蛍光体は、一緒に組み合わされてから、シリコーン、エポキシまたは他の何らかのポリマーなどの封止剤に加えられてもよいか、蛍光体は、封止剤に加えられている最中に組み合わされてもよい。次いで、蛍光体が添加された封止剤が、励起源の光路、例えば、紫外線、紫色光または青色光を放出するLEDまたはレーザダイオードに配置されてもよい。一般的な方法の1つには、LEDダイを含有するLED(発光ダイオード)パッケージに、単数または複数の蛍光体のスラリーを堆積することがある。次いで、スラリーは硬化し、封止されたLEDパッケージを形成する。他の方法は、封止剤をある形状に形成すること、またはすでに特定の形状にあり得るか、その後特定の形状に形成され得る基板上に封止剤を被覆することを含む。さらに、蛍光体含有封止剤は、ライトガイドの結合内領域上もしくはその付近(例えば、その上に被覆される)に、またはディスプレイに使用するのを意図したライトガイドなどのライトガイドの結合外領域上に配置されてもよい。あるいは、蛍光体組成物は、LEDダイまたは別の基板上に薄膜として堆積され、その後、光源に光学的に結合され得る。本発明の励起源と蛍光体との組合せは、一般的な照明、特定分野の照明用途、ディスプレイバックライトまたは他の照明用途に使用されてもよい。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
本開示は例示的なものであり、限定的なものではない。さらなる変更は、本開示に照らして当業者には明らかであり、添付の特許請求の範囲の範囲内に入ることが意図される。