(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】改良した微生物バイオマス測定方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20240304BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12Q1/34
(21)【出願番号】P 2020565530
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019052979
(87)【国際公開番号】W WO2019154898
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-01-28
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520297159
【氏名又は名称】マイコメーター・アクティエセルスカブ
【氏名又は名称原語表記】Mycometer A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100136696
【氏名又は名称】時岡 恭平
(72)【発明者】
【氏名】モルテン・レースレフ
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-514902(JP,A)
【文献】特表2007-525227(JP,A)
【文献】特表2016-529910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/04
C12Q 1/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非真菌源のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ3.2.1.52(NAHA)を含む可能性のあるサンプル中の真菌細胞の定量的または定性的測定方法であって、
サンプルを基質と接触または混合して反応混合物を生成した後、サンプル中の真菌細胞の数または濃度を、反応混合物を生成した後の反応混合物中の基質変換の測定による関数として、検出することを含み、
基質は、真菌細胞によって産生されたNAHAと、非真菌のNAHAとによって変換可能であり、
反応混合物中に、非真菌のNAHAによる基質の酵素変換の優先的な阻害剤が存在しており、
優先的な阻害剤は、真菌細胞との長時間のインキュベーションで、非真菌のNAHA活性の阻害と同様に、真菌細胞からのNAHA活性を阻害するものであり、そして、
優先的な阻害剤が、Ag
+、Hg
2+およびPb
2+から選択される金属イオン;または、2-アセトアミド-1,2-ジデオキシノジリマイシンである、方法。
【請求項2】
ある場所における真菌細胞の相対量を、同じ場所における少なくとも1つの非真菌細胞と比較して、測定する方法であって、次のステップ:
1)その場所から得たサンプルを第1の基質と接触または混合して、第1の反応混合物を生成した後、第1の反応混合物を生成した後の第1の基質の変換率を測定すること、
2)その場所から得たサンプルを第2の基質と接触または混合して、第2の反応混合物を生成した後、第2の反応混合物を生成した後の第2の基質の変換率を測定すること、および、
3)ステップ1で測定した変換率とステップ2で測定した変換率との比率を計算することにより、真菌細胞の相対量を求めること、
を含み、
第1および第2の基質は、真菌細胞によって産生されたβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ3.2.1.52(NAHA)と、非真菌源からのNAHAとの、両方によって変換可能であり、
非真菌源のNAHAによる第1の基質の酵素変換の優先的な阻害剤が、第1の反応混合物に存在し、非真菌源のNAHAによる第2の基質の酵素変換の優先的な阻害剤が、第2の反応混合物に存在せず、
優先的な阻害剤は、真菌細胞との長時間のインキュベーションで、非真菌のNAHA活性の阻害と同様に、真菌細胞からのNAHA活性を阻害するものであり、そして、
優先的な阻害剤が、Ag
+、Hg
2+およびPb
2+から選択される金属イオン;または、2-アセトアミド-1,2-ジデオキシノジリマイシンである、方法。
【請求項3】
第1の基質と第2の基質が、同一である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
真菌細胞が、NAHAを含む真菌の粒子であり、例えば、菌糸または胞子、菌糸断片、または1μm未満のサイズの菌糸マイクロフラグメントの形態の、糸状菌細胞である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
NAHAにより変換した生成物が検出される、および/または、変換しない基質が検出される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
変換が、変換生成物の量の増加、および/または、基質の量の減少、を測定することによって、測定される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
検出される生成物および/または検出される基質が、着色性、発光性、蛍光性、発色性、酵素的に活性、または捕捉剤に対する結合特異的なパートナー、である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
検出される基質および/または生成物が、蛍光性であり、そして、蛍光の変化が、基質をサンプルに添加した後に測定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
蛍光が、断続的または継続的に、好ましくは約30分間にわたって、測定される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
蛍光が、基質をサンプルに添加した後、1時点または複数時点で、測定される、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
優先的な阻害剤が、真菌細胞による基質の変換の阻害と比較して、非真菌のNAHAによる基質の変換を優先的に阻害する、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
基質が、NAHAによって変換されたときに、4-メチルウンベリフェロンまたはその蛍光検出可能な誘導体
を放出する、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記蛍光検出可能な誘導体が、4-メチルウンベリフェリル-β-N-アセチル-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’,N”-トリアセチルキトトリオシド、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドリル-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、インドリル-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコ-ピラノシド、4-ニトロフェニル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、β-トリフルオロメチルウンベリフェリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、N-メチルウム-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、5-ヨード-3-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’,N”-トリアセチルキトトリオース、4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’-ジアセチルキトビオシド、4-メチルウンベリフェリル-7-(6-スルホ-2-アセトアミド-2-デオキシ)-β-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリルα-D-フコシド;4-メチルウンベリフェリルβ-D-フコシド、4-メチルウンベリフェリルα-D-グルコシド、4-メチルウンベリフェリル-7-(6-スルホ-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピロノシド)、4-メチルウンベリフェリル-N-アセチル-α-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリルβ-D-ラクトシド、4-メチルウンベリフェリル-N-アセチルガラクトサミニド、4-メチルウンベリフェリルβ-D-マンノピラノシド、4-メチルウンベリフェリルα-D-マンノピラノシド、4-メチルウンベリフェリルβ-D-キシロシド、レゾルフィン-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリル-N-アセチル-α-D-グルコサミニド、9H-(1,3-ジクロロ-9,9-ジメチルアクリジン-2-オン-7-イル)N-アセチル-β-D-グルコサミニド(DDAO)、および、DDAOのN-アクチル-β-D-グルコサミニドオリゴマー誘導体、からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記DDAOのN-アクチル-β-D-グルコサミニドオリゴマー誘導体が、4-メチルウンベリフェリル-β-N-アセチル-D-グルコサミニド、または4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’,N”-トリアセチルキトトリオシドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
優先的な阻害剤が、Ag
+、Hg
2+およびPb
2+から選択される金属イオンである、請求項1~
14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
優先的な阻害剤が、2-アセトアミド-1,2-ジデオキシノジリマイシンである、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
優先的な阻害剤が、2-アセトアミド-1,2-ジデオキシノジリマイシンである、請求項12
~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
優先的な阻害剤が、
反応混合物を生成する前に基質と混合または接触させられる、または、
反応混合物を生成するときに、基質とともにサンプルに添加される、または、
反応混合物を生成する前にサンプルに添加される、
請求項1~
17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
優先的な阻害剤が、反応混合物を生成する前にサンプルに添加される場合、優先的な阻害剤は、反応混合物を生成する前の2時間前以内に、例えば、反応混合物を生成する前の、115分以内、100分以内、105分以内、100分以内、95分以内、90分以内、85分以内、80分以内、75分以内、70分以内、65分以内、60分以内、55分以内、50分以内、45分以内、40分以内、35分以内、30分以内、25分以内、20分以内、15分以内、10分以内、および5分以内に、サンプルに添加される、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1または2に記載の方法に使用される、対象となる真菌細胞を測定するためのキットであって、
細胞、および非真菌源のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ3.2.1.52(NAHA)によって、NAHA触媒反応で変換可能な、基質、
非真菌源のNAHAによる基質の変換に対しての、少なくとも1つの優先的な阻害剤、
を含み、
基質は、請求項1または12
~14のいずれか1項で定義されたものであり、
優先的な阻害剤は、請求項1で定義されたものであり、
優先的な阻害剤は、真菌細胞との長時間のインキュベーションで、非真菌のNAHA活性の阻害と同様に、真菌細胞からのNAHA活性を阻害するものである、キット。
【請求項21】
以下のもの:
テストするサンプルを収集する手段、
サンプル、基質および優先的な阻害剤を反応させるための反応容器、
基質および/またはサンプル反応後の変換基質を含む液体を、保持/保存するための、キュベットなどの、容器、
の1つ以上をさらに含む、請求項
20に記載のキット。
【請求項22】
基質および阻害剤が、単一の容器内に単一の溶液中に存在する、あるいは、単一の容器内または2つの分離した容器内の別の部分に封入されて互いに分けられている、請求項
20または
21に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物、特にカビなどの真菌の検出に関する。より具体的には、本発明は、検出されたシグナルにおけるシグナル対ノイズの比が大きく向上する、改良した真菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際特許公開WO98/033934は、サンプル中のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ3.2.1.52(以下「NAHA」と称する)の活性レベルを測定することにより真菌バイオマスを定量化する方法を記載している。NAHAは、菌糸と胞子の両方に存在し、活性が測定可能であることが分かっている。さらに、NAHA活性は、さまざまな種類の環境サンプルの真菌バイオマスと、よく相関することが示されている。
【0003】
環境サンプル中の菌バイオマスのマーカーとして、NAHA活性の測定は、迅速に行うことができ、従来の培養方法を使用する場合に典型的であった数日ではなく数分の過程で、結果が得られる。
【0004】
培地ベースの方法において真菌をコロニー形成単位(CFU)として測定する場合、1つの胞子は、原則として1つの単一コロニーを生じるが、通常複数の細胞を含む菌糸体のサンプルも、1つの単一コロニーを生成するため、一胞子としてカウントされる。糸状菌の増殖は約95~100%の菌糸により構成されるため、胞子と比較して、菌糸増殖形態におけるこの固有の過小発現は深刻となる。しかしながら、NAHA活性は菌糸と胞子の両方に存在し、バイオマス単位あたりほぼ同じレベルにある。これは、NAHA活性の定量により、トータルの菌バイオマス(すなわち、単一細胞の数または濃度)のより正確で一般的な測定が可能になることを意味する。言い換えると、NAHA活性と菌バイオマスとの相関性は、CFUと菌バイオマスとの相関性よりもよい。
【0005】
NAHA活性はすべての糸状菌に大量に存在するが、他のほとんどの酵素活性と同様に、真菌に唯一のものではない。したがって、真菌の定量化の手段としてNAHA活性を用いると、特定の状況下では、測定された非真菌NAHA活性が原因となって、菌バイオマスが著しく過大計測される可能性がある。
【0006】
これは、例えば、サンプルがハウスダストを含んでいる場合に起こり、ハウスダストは、真菌の胞子の他に、花粉、ペットの鱗屑、ヒトの皮膚細胞、ハウスダストのダニを含んでいることがあり、これらは全てNAHA活性をある程度示す。
【0007】
同様に、植物の表面、または非真菌NAHA活性が存在し得るその他の表面からのサンプリングは、同様の真菌NAHA活性の過大計測のリスクがある。
【0008】
血液サンプル中の真菌の検出は、別の例である。ヒトの血液はNAHA活性を有しており、ヒトNAHA活性を選択的に阻害できると、真菌NAHA活性の存在を検出でき、そのため、菌症の診断スクリーニングツールとなり得る。
【0009】
酵素活性に基づいて微生物の他の特定の群(groups)または種(species)を決定するときにも、同様の問題が発生し得る。サンプル中の微生物バイオマスの総量を決定することがそれほど重要でないとき、目的とするバイオマスサブセットの代表物(surrogate)として選択されたものと、類似、相同または同一の酵素から測定された活性は、測定されたシグナルにおいて「ノイズ」を構成し、かなりの量の偽陽性の結果を引き起こす可能性がある。
【0010】
したがって、WO98/033934に開示されている測定、およびWO2005/083109に開示されている測定に対応する環境サンプルの測定を行う場合、「無関係」な微生物からの競合シグナルを減らすことができることが求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の実施形態の目的は、サンプル中に存在する真菌細胞の酵素活性に基づいた(特に環境中の)真菌細胞の測定の改良法を提供することである。本発明の実施形態のさらなる目的は、真菌測定のための試験キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、真菌(典型的にはカビ)が測定される系において、非真菌源からのNAHAを選択的に阻害することができる酵素阻害剤を確認することにフォーカスした調査によってなされた発見に基づく。
【0013】
酵素活性は、多数の阻害剤によって競争的にまたは非競争的に阻害され得る。さまざまなタイプの阻害剤を用いて、本発明者らは、実験において、真菌からのNAHA活性の阻害はほとんど示さないが、いくつかの非真菌源からのNAHA活性について驚くほど強力な阻害を示す、異なるタイプの酵素阻害剤を確認した。
【0014】
驚くべきことに、NAHA活性の特定の阻害剤と、酵素活性の一般的な阻害剤の両方が、同じ選択的効果、すなわち、NAHA測定に基づく真菌細胞の測定において偽陽性の結果を生じさせる細胞/生物のNAHA活性を優先的に阻害する能力、を発揮することを発見した。
【0015】
Ag+、Hg+、およびCu2+などの金属イオン、およびより特異的なNAHA阻害剤であるアザ糖(azasugar)2-アセトアミド-1,2-ジデオキシノジリマイシン(DNJNAc)を、テストした。
【0016】
β-N-アセチルヘキソサミニダーゼ(β-N-acetylhexosaminidases)の特異的な阻害剤は、生物学的プロセスにおけるβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼの役割を解明するために使用することが主な目的であるが、治療的介入の開発のためのツールとしても、非常に注目されている。真菌細胞の酵素ベースのアッセイにおけるシグナル増強剤としてのそのような阻害剤の特定の使用は、これまで考慮されていなかったようである。
【0017】
そこで、第1の態様において、本発明は、サンプル中の少なくとも1つの対象となる真菌の定量的または定性的測定方法であって、
サンプルを基質と接触または混合して反応混合物を生成した後、サンプル中の少なくとも1つの対象となる真菌の数または濃度を、反応混合物を生成した後の反応混合物中の基質変換の測定による関数として、検出することを含み、
基質は、少なくとも1つの対象となる真菌によって産生されたβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ3.2.1.52(NAHA)と、少なくとも1つの無関係な細胞によって産生されたNAHAによって変換可能であり、
反応混合物中に、少なくとも1つの無関係な細胞によって産生されたNAHAによる基質の酵素変換の優先的な阻害剤が存在する、方法、に関する。
【0018】
第2の態様において、本発明は、対象となる真菌細胞を測定するためのキットであって、
対象となる真菌細胞および無関係な細胞によってNAHAにおいて変換可能な基質、
無関係な細胞による基質の変換の阻害剤の少なくとも1つ、
を含む、キット、を提供する。
【0019】
本発明の第3の態様は、ある場所における少なくとも1つの対象となる真菌の相対量を、同じ場所における少なくとも1つの無関係な細胞と比較して、測定する方法であって、次のステップ:
1)その場所から得たサンプルを第1の基質と接触または混合して、第1の反応混合物を生成した後、第1の反応混合物を生成した後の第1の基質の変換率を測定すること、
2)その場所から得たサンプルを第2の基質と接触または混合して、第2の反応混合物を生成した後、第2の反応混合物を生成した後の第2の基質の変換率を測定すること、および、
3)ステップ1で測定した変換率とステップ2で測定した変換率との比率を計算することにより、少なくとも1つの真菌の相対量を求めること、
を含み、
第1および第2の基質は、少なくとも1つの対象となる微生物によって産生されたNAHAと、少なくとも1つの無関係な細胞によって産生されたNAHAとの、両方によって変換可能であり、
少なくとも1つの無関係な細胞によって産生されたNAHAによる第1の基質の酵素変換の優先的な阻害剤が、第1の反応混合物に存在し、NAHAによる第2の基質の酵素変換の優先的な阻害剤が、第2の反応混合物に存在しない、方法、に関する
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、さまざまなサンプルにおける相対カビレベルのパーセント分布を示す。
【
図2】
図2は、カビの問題がないと考えられる場所(右上がり斜線「/」のハッチング)、およびカビの問題があることが分かった場所(右下がり斜線のハッチング)から得た、サンプルにおける相対カビレベルのパーセント分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
本明細書および特許請求の範囲において、「微生物」は、単細胞生物(例えば、細菌または古細菌などの原核生物、または、原生生物、原生動物、藻類、単細胞菌類などの単細胞真核生物、例えば、酵母または分裂酵母)、または多細胞でもよい生物(例えば糸状菌)、のいずれかである。また、微生物として、単細胞形態と多細胞形態とを移行する生物、すなわち粘菌、および特定の菌および藻類、も含まれる。本発明によれば、本明細書に開示される方法を真菌、特に糸状菌/カビ、に適用することが、特に有利である。
【0022】
「基質」は、酵素によって触媒される変換を受けることが可能な物質である。基質、および基質に対する酵素作用による生成物の少なくとも1つ、を検出および識別することができる限り、このような変換はいずれも有利であり得る。例えば、基質が特定のアッセイでは検出不能であってよいが、生成物は検出可能である、といったことや、またはその逆であったり、あるいは、基質と生成物の両方が検出可能であってよいが、アッセイによっても識別可能である、といったことでもよい。
【0023】
「反応混合物」は、本文脈では、少なくともサンプル、基質、および任意に優先的な阻害剤、を含む混合物である。反応混合物を不可欠なものとするアッセイの正確な設計に応じて、他の成分が存在してもよい。
【0024】
「優先的な阻害剤」は、アッセイに特定される条件下(化学的および物理的条件ならびに期間)で、無関係な細胞による基質の変換を阻害する物質であって、その程度が、阻害剤が存在しない状況と比較したときに、変換の測定時点で、少なくとも1つの対象となる真菌により変換された基質と、無関係な細胞によって変換された基質との比率が増加する、物質である。したがって、阻害剤は、実際には真菌のNAHAを、無関係な細胞からのNAHAと同じかそれ以上に阻害することができたとしても、無関係な細胞のNAHAに対して優先的であると考えられるものであり;例えば、阻害剤が、無関係な細胞のNAHAに対して完全な阻害効果を発揮するのに必要とする時間が、対象となる真菌細胞において必要とする時間よりも短い場合には、阻害剤は、真菌および無関係な細胞の両方を含むサンプルと混合した後の一定時間の範囲において、無関係な細胞におけるNAHAを効果的に阻害するだけでよく、そのため、この時間範囲では、NAHAによる基質の変換は、真菌のNAHAによって行われる変換に基本的に限定される。
【0025】
「無関係な細胞」は、対象となる微生物を測定する際に、測定の対象とはならない任意の種類の生物に由来する細胞である。通常、無関係な細胞は、サンプル材料における通常の環境で存在するが、真菌細胞で検出されるものと同様の酵素が存在することにより、偽陽性の結果、すなわち「ノイズ」、を引き起こす可能性のある生物の細胞または細胞群、である。
【0026】
本文脈において、「サンプル」は、対象となる微生物を含み得る任意の材料供給源から採取される。したがって、サンプルは、例えば、空気サンプル、ダストサンプル、土サンプル、乾燥または湿った表面から収集したサンプル、水などの液体材料のサンプル、であり得る。
【0027】
本発明の特定の実施形態
上記のように、本発明の第1の態様は、サンプル中の少なくとも1つの対象となる真菌の定量的または定性的測定方法であって、
サンプルを基質と接触または混合して反応混合物を生成した後、サンプル中の少なくとも1つの対象となる真菌の数または濃度を、反応混合物を生成した後の反応混合物中の基質変換の測定による関数として、検出することを含み、
基質は、少なくとも1つの対象となる真菌によって産生されたβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ3.2.1.52(NAHA)と、少なくとも1つの無関係な細胞によって産生されたNAHAによって変換可能であり、
反応混合物中に、少なくとも1つの無関係な細胞によって産生されたNAHAによる基質の酵素変換の優先的な阻害剤が存在する、方法、に関する。
【0028】
典型的には、少なくとも1つの対象となる真菌は、NAHAを含む真菌の粒子であり、その糸状菌細胞は、菌糸または胞子、菌糸断片、または1μm未満のサイズの菌糸マイクロフラグメントの形態であるが、ここに記載された方法が、WO98/033934に開示の真菌検出技術の改変として実施されているからであり、本発明の実施は、糸状菌の測定に限定されるものではない。本発明は、真菌が、NAHA活性のいくつかの非特異的阻害剤および特異的阻害剤の両方の阻害効果に対しては感受性が低く、一方、真菌を含む疑いのあるサンプルにおける偽陽性シグナルの潜在的な発生源、特に花粉およびハウスダストダニなどの発生源、においてはより感受性がある、ことを示した。しかしながら、対象となる微生物と偽陽性シグナル生成微生物で構成され、ここに開示された選択的阻害がなされ得る他の「ペア」も存在する可能性は高く、一例として、液体サンプル中の藻と細菌の組み合わせがあり得る。
【0029】
典型的には、真菌細胞の測定は、変換生成物を検出すること(すなわち、生成物のシグナルの増加を検出すること)によって、または、基質を検出すること(すなわち、基質のシグナルの減少を検出すること)によって行われ、さらに、両方の物質が検出されてもよい。これは、NAHA誘導変換の生成物が検出可能であること、および/または、変換されない基質が検出可能であることを意味する。感度を考慮すると、変換生成物のみを検出することが好ましいものであり、ほとんどの場合、分解の原因となる酵素の濃度のみが変換率に影響を与える一次酵素反応とするのを確実にするために、余剰の基質が利用可能となっており、そしてそのような場合、基質濃度の変化を測定することは困難である。
【0030】
簡便に検出することが可能なシグナルを用いて、変換生成物または基質の量を測定することができる。典型的には、検出される生成物および/または基質は、着色性、発光性、蛍光性、発色性、酵素的に活性、または、抗体または特定の受容体などの捕捉剤に対する結合特異的なパートナー、である。光学測定法による蛍光の変化の測定は容易であるため、検出される基質および/または生成物が蛍光性であり、そして、基質をサンプルに添加した後に蛍光の変化を測定することが、特に好ましい。そのような場合、蛍光は、断続的または継続的に、好ましくは約30分間にわたって、例えば、基質をサンプルに添加した後、1時点または複数時点で測定される。基質をサンプルに添加した後に、1時点または複数時点で蛍光を測定することが望ましいかどうかは、実際の状況と、検査で要求される精度に依存しており、複数時点を用いる場合、蛍光変化における曲線を得ることができ、それによって最大変換率を算定することができる(特に、基質が大過剰であり、基質を変換する酵素が最高速で機能して、曲線が直線状になる場合における変換率)。
【0031】
約30分の時間は幅広く変更することができ、例えば、測定する真菌細胞の量が規定の範囲内にあることが分かっている場合、または測定の物理的条件が反応速度などに制限をもたらす場合に、調整することができる。当業者は、真菌細胞と基質の反応のために最適化した時間が選択されるように、特定のアッセイを容易に変更することができ、これは、所定のアッセイをキャリブレーションする簡単な作業である。注意すべきことは、1)対象となる真菌の少なくとも1つにおいて、および、2)偽陽性細胞において、阻害剤がNAHAを阻害するのに要する時間の違いにより、阻害剤が差異のある阻害を示す場合、許容できる反応時間の上限が与えられ、これは、少なくとも1つの対象となる真菌と無関係な細胞の両方でNAHAに対する阻害効果が同一または類似のレベルになるまでの時間によって設定される。
【0032】
典型的には、阻害剤は、少なくとも1つの対象となる真菌による変換の阻害と比較して、少なくとも1つの無関係な細胞による基質の変換を、優先的に阻害する。実施例に示すように、標準化したアッセイ、および慎重に選択された濃度で阻害剤を用いると、真菌酵素活性の阻害よりも少なくとも10倍高く、無関係な細胞におけるNAHA活性の優先的な阻害が得られる。表現を変えると、比率(AMI1/AMI0)/(AMN1/AMN0)>1である(式中、AMI1およびAMI0は、それぞれ阻害剤を添加した場合と添加しない場合の、少なくとも1つの対象となる真菌におけるNAHAの変換率(活性)であり、AMN1およびAMN0は、それぞれ阻害剤を添加した場合と添加しない場合の、無関係な細胞におけるNAHAの変換率である)。この比率は、典型的には、>2、>3、>4、>5、>6、>6、>7、>8、>9、>10、>15、またはさらに、>20である。下記の実施例においては、実施例2では、比率は、阻害剤濃度24.5μMにおいて約7であり、そして、実施例1では、比率は、阻害剤濃度100μMにおいて約5.5であった。
【0033】
本発明で用いられる所定の阻害剤の正確な濃度は、本発明の方法の所定の実際の適用に応じて決定すべきであることに留意すべきであり、実施例を参照されたい。これは、阻害剤が、少なくとも無関係な細胞においてNAHA阻害が得られるのに有効な濃度で適用されるべきであるからである。しかし、本発明で有用な異なる阻害剤の有効濃度は、標的となるNAHAの異なる濃度に対して調整すること要し(これは、さまざまなタイプのサンプリング設定における真菌および競合細胞のさまざまな予想される実際の濃度を反映する可能性がある)、さらに、同じ濃度のNAHAに対する2つの異なる阻害剤の濃度も相互に独立している。しかしながら、ほとんどの適用(すなわち、屋内環境でのカビ発生の測定)では、このような有効濃度は、広範囲のサンプルにおける無関係な細胞の既知の濃度に関する知識に基づいて、決定することができる。最終的に、無関係な細胞が予想外に高濃度になることを確実に十分に阻害するため、阻害剤は、典型的には、決定された最小有効濃度を少し超過する濃度以上で使用される。
【0034】
本発明において(特に糸状菌の検出のために)用いられる基質は、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼ3.2.1.52(NAHA)によって変換可能なものである。しかしながら、他の適用については、測定しようとする適切な生物に応じて、他の特性を有する酵素を用いることが企図される。また、NAHAは、真菌測定と同等の方法において使用され得る唯一の酵素ではなく、したがって、他の真菌酵素に特異的な基質を使用し得る。
【0035】
基質または変換生成物の検出される部分は、好ましくは、NAHAによって変換される場合、4-メチルウンベリフェロンまたはその蛍光検出可能な誘導体である。そのような誘導体の例は、NAHAによって変換される場合、例えば、4-メチルウンベリフェリル-β-N-アセチル-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’,N”-トリアセチルキトトリオシド、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドリル-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、インドリル-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコ-ピラノシド、4-ニトロフェニル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、β-トリフルオロメチルウンベリフェリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、N-メチルウム-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、5-ヨード-3-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’,N”-トリアセチルキトトリオース、4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’-ジアセチルキトビオシド、4-メチルウンベリフェリル-7-(6-スルホ-2-アセトアミド-2-デオキシ)-β-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリルα-D-フコシド;4-メチルウンベリフェリルβ-D-フコシド、4-メチルウンベリフェリルα-D-グルコシド、4-メチルウンベリフェリル-7-(6-スルホ-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピロノシド)、4-メチルウンベリフェリル-N-アセチル-α-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリルβ-D-ラクトシド、4-メチルウンベリフェリル-N-アセチルガラクトサミニド、4-メチルウンベリフェリルβ-D-マンノピラノシド、4-メチルウンベリフェリルα-D-マンノピラノシド、4-メチルウンベリフェリルβ-D-キシロシド、レゾルフィン-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリル-N-アセチル-α-D-グルコサミニド、9H-(1,3-ジクロロ-9,9-ジメチルアクリジン-2-オン-7-イル)N-アセチル-β-D-グルコサミニド(DDAO)、および、DDAOのN-アクチル-β-D-グルコサミニドオリゴマー誘導体、からなる群から選択されるメチルウンベリフェリル誘導体などの、4-メチルウンベリフェロンまたはその蛍光検出可能な誘導体、である。
【0036】
特に好ましくは、4-メチルウンベリフェリル-β-N-アセチル-D-グルコサミニド、および4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’,N”-トリアセチルキトトリオシド、からなる群から選択されるメチルウンベリフェリル誘導体である。
【0037】
実施例に示すように、阻害剤は、特異的および非特異的なNAHA阻害剤であり得る。非特異的阻害剤は、例えば、Ag+、Hg2+、およびPb2+から選択されるイオンなどの金属イオンである。特異的NAHA阻害剤は、例えば、2-アセトアミド-1,2-ジデオキシノジリマイシンであるが、当技術分野で既知の他の特異的NAHA阻害剤を同様に適用できる。
【0038】
実施例で述べるように、本発明で利用される優先的な阻害の考えられる理由の1つは、試験される生物(例えば、真菌細胞)が、無関係な細胞と同じ速度で阻害剤がNAHAにアクセスするようにさせないことであり、そのため、事前注意として、基質とサンプルが接触する前に、阻害剤がサンプルと接触しないようにすることが好ましい。したがって、基質および阻害剤は、サンプルとの接触前に混合されてもよく、あるいは、それらは、実質的に同時にサンプルに添加されてもよい。
【0039】
しかしながら、本発明によれば、アッセイで目的とするNAHA活性の優先的阻害に実質的に悪影響を及ぼさない限りにおいては、基質の添加前に阻害剤をサンプルに添加することが可能である。言い換えると、優先的阻害剤は、
反応混合物を生成する前に基質と混合または接触させられてもよく、または、
反応混合物を生成するときに、基質とともにサンプルに添加されてもよく、または、
反応混合物を生成する前にサンプルに添加されてもよい。
【0040】
これらの3つの場合の後者の場合、阻害剤は、好ましくは、反応混合物を生成する前の2時間前以内に、例えば、反応混合物を生成する前の、115分以内、100分以内、105分以内、100分以内、95分以内、90分以内、85分以内、80分以内、75分以内、70分以内、65分以内、60分以内、55分以内、50分以内、45分以内、40分以内、35分以内、30分以内、25分以内、20分以内、15分以内、10分以内、および5分以内に、サンプルに添加される、
【0041】
第1の態様の実施において、真菌細胞のレベルは、典型的には、問題となる真菌細胞の既知の濃度を含む標準に対して行われる一連のキャリブレーション測定に基づいて、測定される。あるいは、キャリブレーションは、少なくとも1つの対象となる真菌によって様々なレベルの汚染を示すことが知られている環境から得られた実験データに基づく。
【0042】
実施例で示すように、非常に異なるNAHA阻害剤(特異的阻害剤およびより一般的な酵素阻害剤の両方)の使用は、本発明の第1の態様の実施において成功することが確認されている。さらに、本明細書でも考察するように、これらの阻害剤の真菌細胞との長時間のインキュベーションは、真菌細胞からのNAHA活性が、非真菌のNAHA阻害と同様に、阻害されるという作用を有する。
【0043】
これにより、発明者は、NAHA阻害について記載された方法と類似の方法で阻害剤を使用することによって微生物アッセイの特異性を高める原理は、より一般的な方法において適用できると結論付けており、これも本発明の一部と見なされる。少なくとも、本明細書において提示されるデータは、真菌細胞の数/濃度の測定が、測定に無関係な他の細胞において対応物を有する真菌酵素活性のアッセイに依存しているのであるが、アッセイの過程で酵素活性の阻害剤を組み込むことによって、より特異的なものにすることができる、という強い証拠を提供している。これは、提示した実験データが、真菌細胞と相互作用する酵素へのアクセスにおいて、試験サンプル中の無関係な細胞と比較した場合、酵素活性の阻害剤が「遅延」することを強く示唆しているからである。言い換えると、本発明は、本明細書で試験された様々な阻害剤などの多くの物質が、理由は不明であるが、真菌細胞におけるアクセスと比較して、標的となる無関係な細胞の酵素へ容易にアクセスするが、阻害される特定の酵素はあまり関係しないこと、を示しているといえる。
【0044】
したがって、これは、本発明の非常に広い態様を開かせるものであり、これは、サンプル中の少なくとも1つの対象となる真菌の定量的または定性的測定方法であって、サンプルを酵素基質と接触または混合して反応混合物を生成した後、サンプル中の少なくとも1つの対象となる真菌の数または濃度を、反応混合物を生成した後の反応混合物中の基質変換の測定による関数として、検出することを含み、
基質は、少なくとも1つの対象となる真菌によって産生された酵素と、少なくとも1つの無関係な細胞によって産生された競合酵素によって変換可能であり、
反応混合物中に、酵素および競合酵素による基質の酵素的変換の優先的な阻害剤が存在する、方法、として説明することができる。
【0045】
したがって、該方法を実施する方法に関して、第1の態様について上述したNAHAおよびその基質に直接関連しない実施形態はすべて、このより広い態様に適用可能である。当業者は、真菌細胞の選択に有用である選択された酵素に適した基質を選択することができ、そのような酵素の特異的阻害剤を選択することもできる(銀イオンなどの非特異的阻害剤およびその他の非特異的阻害剤は、そのようなアッセイにおいて広い適用性を有することに留意する)。
【0046】
第2の態様:本発明のキット
上述したように、本発明はまた、第2の態様として、対象となる真菌細胞を測定するためのキットであって、
対象となる真菌細胞および無関係な細胞によってNAHAにおいて変換可能な基質、
無関係な細胞による基質の変換の阻害剤の少なくとも1つ、
を含む、キットを提供する。
【0047】
基質および阻害剤はどちらも、好ましくは、上記に詳細に記載されたものである。したがって、本発明の第1の態様の文脈で提示された基質および阻害剤に関する本明細書の開示は、本発明の第2の態様に準用することができる。
【0048】
基質および阻害剤とは別に、キットは、以下のもの:
テストするサンプルを収集する手段、
サンプル、基質および阻害剤を反応させるための反応容器、
基質および/またはサンプル反応後の変換基質を含む液体を、保持/保存するための、キュベットなどの、容器、
の1つ以上を含んでもよい。
【0049】
特定の場合において、キットはまた、変換基質および/または基質を検出するための検出装置または検出試薬を含んでもよい。
【0050】
本発明のキットにおいて、基質および阻害剤は、通常、単一の容器に入れられた単一の溶液中に存在するが、それらはまた、単一の容器の異なる部分、または分離した容器において、互いに分けられていてもよい。後者は、例えば、阻害剤と基質が相互作用してその一方または両方が保存中に不安定になる場合に生じ得る問題を、解決する手段となる。
【0051】
本発明の第3の態様-微生物の相対的測定
上記から明らかなように、本発明の第1の態様の方法は、優先的な方法で、少なくとも一定時間、反応混合物中に存在するNAHA阻害剤の阻害効果の影響を受けにくい真菌(典型的にはカビなどの糸状菌)を識別するものである。また上述したように、阻害剤が反応混合物中に存在しない場合、上記の先行技術の方法などの、基質変換法による少なくとも1つの真菌の測定は、問題となる測定に関係のない細胞に存在するNAHAによる基質の変換により、偽陽性の結果をもたらす可能性がある。
【0052】
ここで、2つのタイプの測定が、同じ場所(同じ部屋や建物など)からのサンプルに対して並行して実施される場合、2つの測定値の比率は、測定された細胞の総量中の微生物の相対量についての明確な指標を与えることができ、また、その潜在的な発生源の存在の定性的な指標を与えることができることを、本発明者は発見した。
【0053】
実際、本発明の第1の態様の方法(および従来技術の方法)で検査される場所は、洗浄および換気に関して非常に多様な条件にさらされる可能性があるものであり、アレルゲン性カビなどの真菌の存在は、発生が疑われる場所からサンプルを収集することによって、測定される。しかしながら、そのような場所が1日に数回効果的に換気されたり、直近に徹底した洗浄がなされたりした場合、得られたサンプル中のカビ由来の物質の存在は低くなり、本発明の第1の態様によって、または従来技術の方法によって行われた測定が、その場所にカビが発生していないという誤った印象を与える可能性がある。しかしながら、測定に使用されるNAHA基質を変換できる細胞の総量の範囲内でカビの相対量を検査することにより、例えば換気や洗浄によって、測定可能な細胞とカビの大部分が取り除かれた場所であっても、発生の存在を確認することが可能になる。
【0054】
実施例3から明らかなように、一般的に、サンプル中の測定されるカビの相対量は、カビの発生がないと見なされた場所と、カビが問題として認識された場所とにおいて、明確な違いがある。一般的に言うと、約35%未満の相対カビ量を示す測定値を与える場所は、通常、カビの絶対量が許容できると考えられる閾値を超えない限り、カビが発生しているとは考えられない。したがって、本発明により、ある場所におけるカビ発生状態のより詳細な分析を得ることが可能になる:
1)カビの総濃度が、本発明の第1の態様により測定された許容可能な閾値を超える場合、カビの発生が存在し、対処すべきであると結論付けることができる。
2)カビの総濃度が、許容可能な閾値レベルを下回っている場合、本発明の第3の態様によるカビの相対量の測定が、潜在的なカビの発生の問題についての情報を提供することができ、例えば、カビ活性の相対量が45%以上であることが判明した場合、本発明の第1の態様によるわずかなあるいは低い測定値でさえ、頻繁で徹底した換気または頻繁で徹底した洗浄などのために検出できなかったカビの局所的な発生源を反映させるであろう。言い換えれば、本発明の第3の態様の方法は、換気や洗浄などの他の要因によって隠される可能性のある隠れたカビの発生源の検出を可能にする。36%以上45%未満の範囲の値を与える測定においては、カビ発生に関する明確な結論を出すことができないため、通常、さらに調査することが求められる。
【0055】
第3の態様の方法によって提供され得る第3の情報は、阻害されない反応混合物が非常に高い測定値を与えるのに対して、阻害された反応混合物はそうではない場合に、発生する。これにより、サンプルの場所はカビが発生していないが、「無関係」な細胞の量が多いという情報が提供される。これは、例えば、サンプルの場所を徹底的に洗浄または消毒するという提案のトリガーとすることができる。
【0056】
少なくとも1つの対象となる真菌と、サンプル中の(測定可能な)バイオマス合計は、両方とも、標準サンプルに対してキャリブレーションされた基質変換率に基づいて簡便に測定でき、そのため、各測定タイプの変換率は、微生物濃度と総細胞濃度をそれぞれ示す数値に変換される。上述したように、標準に対するキャリブレーションの代わりに、少なくとも1つの対象となる真菌を比較的明確なレベルで有する場所で測定を実施し、その初期測定値をキャリブレーション値として使用することもできる。
【0057】
したがって、上述したように、本発明の第3の態様は、ある場所における少なくとも1つの対象となる真菌の相対量を、同じ場所における少なくとも1つの無関係な細胞と比較して、測定する方法であって、次のステップ:
1)その場所から得たサンプルを第1の基質と接触または混合して、第1の反応混合物を生成した後、第1の反応混合物を生成した後の第1の基質の変換率を測定すること、
2)その場所から得たサンプルを第2の基質と接触または混合して、第2の反応混合物を生成した後、第2の反応混合物を生成した後の第2の基質の変換率を測定すること、および、
3)ステップ1で測定した変換率とステップ2で測定した変換率との比率を計算することにより、少なくとも1つの対象となる真菌の相対量を求めること、
を含み、
第1および第2の基質は、少なくとも1つの対象となる真菌によって産生されたNAHAと、少なくとも1つの無関係な細胞によって産生されたNAHAとの、両方によって変換可能であり、
少なくとも1つの無関係な細胞によって産生されたNAHAによる第1の基質の酵素変換の優先的な阻害剤が、第1の反応混合物に存在し、少なくとも1つの無関係な細胞によって産生されたNAHAによる第2の基質の酵素変換の優先的な阻害剤が、第2の反応混合物に存在しない、方法、に関する。
【0058】
テストされる2つのサンプルは、好ましくは、サンプルが真菌細胞と無関係な細胞とが同じ割合であるのを反映させることを確実にするために、その場所で採取した同じオリジナルサンプルに由来する単位試料である。
【0059】
「場所」は、典型的には、屋内環境であり、単一の部屋でもよいが、空気サンプルや表面サンプルなどのサンプルが複数のサンプリングサイトで収集される家全体でもよい。
【0060】
一般的に、本発明の第3の態様のステップ1は、本発明の第1の態様の方法を実施するのと同様の方法で実施する。言い換えれば、サンプルの種類、測定すべき微生物、基質の選択、測定の詳細などに関するすべての考慮事項は、第1の態様のステップ1に必要な変更を加えて適用され、本発明の第1の態様を実施するために用いられる手段および測定が阻害剤の使用に関連しない程度において、本発明の第1の態様の実施形態に係る詳細は、第3の態様の方法における第2のステップにも必要な変更を加えて適用される。
【0061】
本発明の第3の態様は、したがって、第1の基質と第2の基質とが同一であることが好ましいが、必須ではない:各物質の変換率は、典型的には、関連する標準サンプルに対するキャリブレーションを介した細胞濃度指数に変換されるため、本発明の実施においては、有意義で有用な結果を得るために2つの基質が同じであることを絶対に必要とはしないが、実際には、テストを通して同じ試薬を使用することがより簡便である。
【0062】
本発明の第1の態様と同様に、重要な実施形態では、少なくとも1つの対象となる真菌は、菌糸または胞子の形態の糸状菌(カビ)の群から選択される。
【0063】
本発明の第1の態様の場合と同様に、NAHAによる変換生成物が検出可能であるか、および/または、未変換の基質が検出可能であるかは、選択の問題であり、変換は、変換生成物の量の増加、および/または、基質の量の減少、を測定することによって、測定される。シグナルの相対的変化が、特に初期は、基質量の減少を測定する場合よりもはるかに高いため、通常、変換生成物の量の増加を測定するのが好ましい。
【0064】
第1の態様の場合と同様に、検出される生成物および/または検出される基質は、着色性、発光性、蛍光性、発色性、酵素的に活性、または捕捉剤に対する結合特異的なパートナー、である。検出される基質および/または生成物は蛍光性であり、そして、蛍光の変化が、基質をサンプルに添加した後に測定されることが好ましい。蛍光は、断続的または継続的に、好ましくは約30分間にわたって測定できるものであり、基質をサンプルに添加した後、1時点または複数時点で蛍光を測定することが望ましいかどうかは、実際の状況と、検査で要求される精度に依存しており、複数時点を用いる場合、蛍光変化における曲線を得ることができ、それによって、最大変換率を算定することができる(すなわち、基質が大過剰であり、基質を変換するNAHAが最高速で機能して、曲線が直線状になる場合における変換率)。
【0065】
また、本発明の第3の態様の実施形態では、優先的な阻害剤は、少なくとも1つの対象となる微生物による変換の阻害と比較して、少なくとも1つの無関係な細胞による第1の基質の変換を優先的に阻害する。
【0066】
基質は、第3の態様の好ましい実施形態においては、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼ3.2.1.52(NAHA)によって変換される。
【0067】
特に好ましい基質は、NAHAによって変換される場合、4-メチルウンベリフェロンまたはその蛍光検出可能な誘導体を放出するものである。そのような誘導体の例は、NAHAによって変換される場合、例えば、4-メチルウンベリフェリル-β-N-アセチル-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’,N”-トリアセチルキトトリオシド、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドリル-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、インドリル-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコ-ピラノシド、4-ニトロフェニル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、β-トリフルオロメチルウンベリフェリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、N-メチルウム-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、5-ヨード-3-インドリル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’,N”-トリアセチルキトトリオース、4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’-ジアセチルキトビオシド、4-メチルウンベリフェリル-7-(6-スルホ-2-アセトアミド-2-デオキシ)-β-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリルα-D-フコシド;4-メチルウンベリフェリルβ-D-フコシド、4-メチルウンベリフェリルα-D-グルコシド、4-メチルウンベリフェリル-7-(6-スルホ-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピロノシド)、4-メチルウンベリフェリル-N-アセチル-α-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリルβ-D-ラクトシド、4-メチルウンベリフェリル-N-アセチルガラクトサミニド、4-メチルウンベリフェリルβ-D-マンノピラノシド、4-メチルウンベリフェリルα-D-マンノピラノシド、4-メチルウンベリフェリルβ-D-キシロシド、レゾルフィン-N-アセチル-β-D-グルコサミニド、4-メチルウンベリフェリル-N-アセチル-α-D-グルコサミニド、9H-(1,3-ジクロロ-9,9-ジメチルアクリジン-2-オン-7-イル)N-アセチル-β-D-グルコサミニド(DDAO)、および、DDAOのN-アクチル-β-D-グルコサミニドオリゴマー誘導体、からなる群から選択されるメチルウンベリフェリル誘導体などの、4-メチルウンベリフェロンまたはその蛍光検出可能な誘導体、からなる群から選択される。
【0068】
特に好ましくは、4-メチルウンベリフェリル-β-N-アセチル-D-グルコサミニド、および4-メチルウンベリフェリル-β-D-N,N’,N”-トリアセチルキトトリオシド、からなる群から選択されるメチルウンベリフェリル誘導体である。
【0069】
第1の態様と同様に、阻害剤は、特異的および非特異的なNAHA阻害剤の両方であり得る。非特異的阻害剤は、例えば、Ag+、Hg2+、およびPb2+から選択されるイオンなどの金属イオンである。特異的NAHA阻害剤は、例えば、2-アセトアミド-1,2-ジデオキシノジリマイシンであるが、当技術分野で既知の他の特異的NAHA阻害剤を同様に適用できる。
【0070】
実施例で述べるように、本発明で利用される優先的な阻害の考えられる理由の1つは、検出される少なくとも1つの真菌が、無関係な細胞と同じ速度で阻害剤がNAHAにアクセスするようにさせないことであり、そのため、事前注意として、基質とサンプルが接触する前に、阻害剤がサンプルと接触しないようにすることが好ましい。したがって、基質および阻害剤は、サンプルとの接触前に混合されてもよく、あるいは、それらは、実質的に同時にサンプルに添加されてもよい。
【0071】
しかしながら、本発明の第3の態様によれば、アッセイで目的とするNAHA活性の優先的阻害に実質的に悪影響を及ぼさない限りにおいては、ステップ1の基質の添加前に阻害剤をサンプルに添加することが可能である。言い換えると、優先的阻害剤は、
反応混合物を生成する前に基質と混合または接触させられてもよく、または、
反応混合物を生成するときに、基質とともにサンプルに添加されてもよく、または、
反応混合物を生成する前にサンプルに添加されてもよい。
【0072】
これらの3つの場合の後者の場合、阻害剤は、好ましくは、反応混合物を生成する前の2時間前以内に、例えば、反応混合物を生成する前の、115分以内、100分以内、105分以内、100分以内、95分以内、90分以内、85分以内、80分以内、75分以内、70分以内、65分以内、60分以内、55分以内、50分以内、45分以内、40分以内、35分以内、30分以内、25分以内、20分以内、15分以内、10分以内、および5分以内に、サンプルに添加される。
【0073】
本発明の第1の態様に従えば、利用される優先的な阻害は、阻害剤のその酵素標的へのアクセスを明らかに遅くする真菌細胞の特徴によるものであるという発見のため、第3の態様は、より広い変形例がある(上記の第1の態様の記載の最後の部分の説明を参照)。第3の態様の広い変形例は、ある場所における少なくとも1つの対象となる真菌の相対量を、同じ場所における少なくとも1つの無関係な細胞と比較して、測定する方法であって、次のステップ:
1)その場所から得たサンプルを第1の酵素基質と接触または混合して、第1の反応混合物を生成した後、第1の反応混合物を生成した後の第1の酵素基質の変換率を測定すること、
2)その場所から得たサンプルを第2の酵素基質(これは第1の基質と同じでもよい)と接触または混合して、第2の反応混合物を生成した後、第2の反応混合物を生成した後の第2の酵素基質の変換率を測定すること、および、
3)ステップ1で測定した変換率とステップ2で測定した変換率との比率を計算することにより、少なくとも1つの対象となる真菌の相対量を求めること、
を含み、
第1および第2の基質は、少なくとも1つの対象となる真菌によって産生された酵素と、少なくとも1つの無関係な細胞によって産生された酵素とによって、変換可能であり、
少なくとも1つの真菌により、および、少なくとも1つの無関係な細胞により、産生された酵素による第1の基質の酵素変換の優先的な阻害剤が、第1の反応混合物に存在し、そのような優先的な阻害剤が、第2の反応混合物に存在しない、方法、として説明することができる。
【0074】
したがって、この方法を実施する実施態様に関して本発明の第3の態様について上述したNAHAおよびその基質に直接関連しないすべての実施態様は、このより広い変形例に適用可能である。当業者は、真菌細胞の選択に有用である選択された酵素に適した基質を選択することができ、そのような酵素の特異的阻害剤を選択することもできる(銀イオンなどの非特異的阻害剤およびその他の非特異的阻害剤は、そのようなアッセイにおいて広い適用性を有することに留意する)。
【実施例】
【0075】
実施例1
NAHA阻害剤としてのAg+
さまざまなサンプルのNAHA活性を測定するために、WO98/033934の技術を利用した。乾燥または凍結乾燥した生物体を含むサンプルを、20μMの濃度の4-メチルウンベリフェリルN-アセチル-β-D-グルコサミニドを含むバッファー溶液に加える。反応時間は、周囲温度に応じて変化させ、さまざまな温度での真菌NAHA活性のために予め作成した反応時間/温度データシートに従って、23℃で30分とした。反応時間中に発生した蛍光を、キャリブレーションされた蛍光光度計でモニタリングする。
【0076】
パイロット実験では、10μMの濃度のAg+が、草花粉(grass pollen)およびサヤアシニクダニ(Lepidoglyphus)におけるNAHA活性のほぼ完全な阻害を示した。一方、Ag+は、試験した3つの真菌(アルテルナリア属(Alternaria spp.)、アクレモニウム属(Acremonium spp.)、クラドスポリウム(Cladosporium spp.))のNAHA活性に対して有意な作用を示さなかった。
Hg+(10μM)は、同様の効果があり、非真菌の阻害は高く、真菌NAHA活性の阻害は少ない(ただしAg+よりも多い)。一方、500μMの濃度のCu2+は、すべての供給源からのNAHA活性に対して、全く阻害しなかったか、ごくわずかな阻害作用しか示さなかった。
【0077】
これらの結果から、およびHg+の毒性の高さのため、以降の研究では、Ag+の作用のみにフォーカスすることとした。様々な濃度のAgN03を分析用基質に添加することで、実験を行った。さらに、無傷の細胞と断片化した細胞の両方が存在すると予想される乾燥材料または凍結乾燥材料で、実験を行った。表1は、非真菌バイオマス源におけるNAHA活性に対する濃度増加でのAg+の作用を示し、表2は、真菌バイオマス源からのNAHAに対する作用を示している。
その結果、酵素活性のレベルはAg+の濃度に依存していることが示されたが、400μMでも、真菌NAHA活性の高いパーセンテージが維持されているのに対し、非真菌源は、対照の平均13%しか維持されていない。平均して、アッセイの基質中に100μMの濃度のAg+は、非真菌NAHA活性を82%減少させ、また、真菌NAHA活性の減少をゼロから非常に低いものとした。したがって、Ag+の使用は、偽陽性シグナルの大幅な減少をもたらし、その結果、酵素活性測定の特異性が向上する。さらに、この特異性の向上(真菌NAHA活性の検出において感度のわずかな低下を伴う)により、アッセイの精度において予想外の向上をもたらす。
【0078】
【0079】
実施例2
阻害剤として、2-アセトアミド-1,2-ジデオキシノジリマイシン(DNJNAc)
非特異的阻害剤を用いることを変更し、実施例1と同様の実験を行い、さまざまなバイオマス含有サンプルのNAHA活性に対するさまざまな濃度のDNJNAcの作用を調べた。表3は、非真菌バイオマスのサンプルで観測された作用を示し、表4aおよび表4bは、真菌バイオマスのサンプルで観測された作用を示している。
【0080】
これらの表に示される結果は、酵素活性のレベルがDNJNAcの濃度に依存していることを示している。試験した最高濃度(196μM)では、真菌NAHA活性が平均60%で維持されたのに対し、非真菌の供給源は、平均して対照の5%しか維持していなかった。アッセイの基質においてDNJNAc濃度が24.5μMの場合、非真菌活性では平均11%の維持であったのに対し、真菌NAHAでは平均83%であった。
【0081】
【0082】
実施例1および2の結果の考察
NAHA阻害剤の濃度は、阻害の選択性を得るために重要である。濃度が高すぎる場合、真菌と非真菌の両方のNAHA活性が阻害される。しかし、実施例により、真菌NAHA活性の阻害はわずかであるが、非真菌NAHA活性はほとんど完全に阻害される阻害剤濃度の範囲が存在することが示されている。言い換えると、特定の阻害剤濃度では、非真菌NAHA活性が優先的に抑制される。
銀イオンや水銀イオンなどの非特異的酵素阻害剤と、DNJNAcなどのより特異的なタイプのNAHA阻害剤の両方において、この選択的効果が得られることは驚くべきことである。銀/水銀はDNJNAcなどのグリコンベースの基質類似体とは働きが異なることが予想される。
実験では、優先的阻害に関してのメカニズムは明らかになっていない。実験は、特定の阻害に対する実験で通常使用される精製酵素ではなく、全体として細胞/生物体の培養物を用いて行われた。ただし、Ag+およびHg+で観察された驚くべき非特異的阻害効果は、他のタイプのバイオマスと比較した場合、阻害剤が真菌のNAHA酵素と物理的に接触するのが遅れているためである可能性がある。このことは、酵素アッセイの前に真菌培養物にAg+を添加すると、他のタイプのバイオマスの阻害と同様に、真菌NAHA活性が完全に阻害されることが見られることによって支持される。
【0083】
実施例3
サンプル中の相対的なカビの存在の測定
並行するサンプル(空気または表面ダスト)において、DNJNAcなどのNAHA阻害剤を用いた場合と用いない場合とにおけるNAHA活性を比較することで、次の3つの問題に対する回答を得ることが可能である;1)サンプル中のカビの定量的な量/レベル(阻害剤の存在下での測定)はどうか、2)(微)生物の定量的な量/レベル(阻害剤のない状態での測定)はどうか、および、3)一般的な微生物レベルを構成するカビのレベルの割合を計算することによって、相対的なカビのレベルはどうか?
カビの問題のある建物とない建物のサンプルを入手した。積極的空気サンプリングは、積極的な空気サンプリングのための以下のプロトコルに従って行った。
【0084】
積極的空気サンプリングのプロトコル
サンプル量:150~300L
流量:10~20L/min。20L/minが理想的な流量、10は最小流量(流量を記録し、サンプル量の計算に使用)。清浄な品質管理のための最小流量は15L/minである(225Lのサンプリング量)。
サンプリング時間:15分。(常時)。
サンプリング高さ:1.5m。
フィルター:MMエアフィルターのみ使用(MCEフィルターのポアサイズ、0.8μm)。
フィルター方向:蓋全体を取り外し、開口部を上に向けて配置。
安全性:呼吸保護具が部屋にいる全員に義務づけられる。
部屋のサイズ:最大60m2の部屋に1つのサンプル。より大きな部屋では複数のサンプルを採取。
【0085】
サンプリング前に、すべての窓を6時間以上閉じた。換気機器、除湿器、空気清浄機などが作動しているかどうかに注意。
1.ポンプと三脚をセットアップする。
2.フィルターにIDを付けて、チューブに取り付ける。
3.タイマー(2分)、およびタイマー(15分)を設定する。
4.呼吸保護具を着用する。
5.ここで、マキタブロワー(速度設定3)で約2m離れた表面に吹き付ける。天井から始め、壁、家具および床で終わる。洗浄してから間のない保菌物(たとえば、ラジエーターのヒダの間)からほこりを放出するために、近い距離から吹きつけないようにする。20m2の部屋で約2分、ブロワーを使用し、そこから小さいまたは大きい部屋に出入りする。
6.ブローが終了したら、ストップウォッチを開始する(2分)。
7.ストップウォッチの合図が出たら、フィルターの蓋(青いストッパーだけでなく)を取り外し、エアポンプとタイマー(15分)を開始する。
8.流量を20L/minに調整する。
9.タイマーの合図が出たら、ポンプを停止し、蓋をフィルターに戻す。
【0086】
吹き飛ばされた大きなダストボールの影響を避けるために、2分間の一時停止が、ブラストとエアポンプの始動の間に導入されている。複数のサンプルが連続して採取される場合、または空気中に多くの粒子がある場合、ポンプは非常に熱くなる可能性があり、流量が影響を受ける可能性がある。したがって、サンプリング中に流量が正常なことを定期的に確認する。ポンプが非常に熱くなった場合、遮断する機構がしばしばあることに留意する。このプロトコルから外れると、サンプリング効率が影響を受ける可能性があり、結果のカテゴリーが適用できないことになる可能性がある。
空気サンプルは、室温で保管した場合、サンプリング日から1週間以内に分析する必要がある。サンプリング後はできるだけ早くサンプルを分析することが常に推奨される。
【0087】
実験
上記のようにして多数の並行ツインサンプルを採取し、その後、NAHA活性を分析した。ツインサンプルの各セットについて、基質溶液の添加剤としてDNJNAcを含むサンプルと含まないサンプルを分析した。
DNJNAcおよび他の阻害剤の非存在下で分析したサンプルは、NAHA活性を示す屋内細胞材料のすべての供給源:真菌、イエダニ、花粉、犬および猫の鱗屑など、ならびに人間の皮膚の鱗屑、からのNAHA活性を表している。DNJNAcの存在下で分析されたサンプルは、実施例2に示されているように真菌を表している。2つの並行サンプルの結果を比較することにより、DNJNAcありのNAHA活性をDNJNAcなしのNAHA活性で割ることで、相対カビ量または相対カビレベル/指数が計算される。したがって、2つの並列サンプルから次の3つの情報が得られる:1)カビのレベル、2)一般的な細胞材料のレベル、および、3)一般的な細胞材料に対するカビの相対的レベル。
【0088】
図1は、サンプルで測定された相対カビレベルの分布を示している。84.4%のサンプルは、相対カビレベルが30%以下であった(白色のバー)。13%のサンプルは、相対カビレベルが30%を超え45%以下であり(横線ハッチングのバー)、2.6%のサンプルは、45%を超える相対的カビレベルであった(クロスハッチングのバー)。
【0089】
表4は、(カビ問題と水質に関して)問題のない建物と考えられる18棟の建物の異なる部屋からの空気サンプルにおける酵素反応に、DNJNAcを添加した場合と添加しなかった場合のNAHA活性を示している。相対カビ指数は、DNJNAcありのNAHA活性をDNJNAcなしのNAHA活性で割り算したものとして、計算される。
【0090】
【0091】
表5は、カビの問題がある程度見られるさまざまな部屋の空気サンプルにおいて、酵素反応にDNJNAcを添加した場合と添加しない場合のNAHA活性を示している。相対カビ指数は、DNJNAcありのNAHA活性をDNJNAcなしのNAHA活性で割り算したものとして、計算される。
【0092】
【0093】
図2は、表4および5のデータから得た相対カビレベルの分布を示している。カビ問題/水質ダメージがないと考えられる部屋/建物と、カビ問題が確認されている部屋/建物は、1つの外れ値(
図2において矢印で示されている)を除いて、良好に分けられている。この特定の外れ値の相対カビ指数は、調査者によって開示されていないが、これまでは気付かなかったカビ発生源が存在している可能性があるという疑いを生じさせる。