IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プロミミック アーベーの特許一覧

特許7447026インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング
<>
  • 特許-インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング 図1a
  • 特許-インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング 図1b
  • 特許-インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング 図2
  • 特許-インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング 図3
  • 特許-インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング 図4
  • 特許-インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング 図5
  • 特許-インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング 図6
  • 特許-インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング 図7
  • 特許-インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング 図8
  • 特許-インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】インプラント及び他の基材用のジルコニウム及びリン酸チタンコーティング
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/32 20060101AFI20240304BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20240304BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20240304BHJP
   A61F 2/32 20060101ALI20240304BHJP
   A61F 2/44 20060101ALI20240304BHJP
   A61C 8/00 20060101ALI20240304BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
A61L27/32
A61L27/56
A61L27/18
A61F2/32
A61F2/44
A61C8/00 Z
C23C26/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020565540
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2019053200
(87)【国際公開番号】W WO2019155021
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】1802184.0
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520299108
【氏名又は名称】プロミミック アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キェーリン、ペル
(72)【発明者】
【氏名】カリー、フレドレック
(72)【発明者】
【氏名】ハンダ、ポール
(72)【発明者】
【氏名】ビキングソン、リネ
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-095735(JP,A)
【文献】特表2010-533708(JP,A)
【文献】特表2010-505586(JP,A)
【文献】特開平05-057010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上にコーティングを含む基材であって、前記コーティングが、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム又はそれらの混合物を含み、前記基材が、インビボでの使用に適したインプラントである基材であって、
リン酸チタン、リン酸ジルコニウム又はそれらの混合物を含む前記コーティングが、約1~約1000nmの厚さを有し、
前記コーティング中の前記リン酸チタン及び/又はリン酸ジルコニウムが、約5~約400m /gの比表面積を有する、
基材
【請求項2】
(A) 前記コーティングが多孔質であ好ましくは、前記多孔質の細孔が、1~100nmの最長寸法を有し、及び/又は、
(B) リン酸チタン、リン酸ジルコニウム又はそれらの混合物を含む前記コーティングが、約5~約250nmの厚さを有する、
請求項1に記載の基材。
【請求項3】
(A) 前記基材が、リン酸カルシウムを含む追加のコーティングを含み、及び/又は、
(B) 前記インプラントが、歯科用スクリュー、股関節ステム、脊椎固定ケージ、オストミーバッグポート、骨固定補聴器、歯科用インプラントアバットメント又は外部固定装置である、
請求項1又は2に記載の基材
【請求項4】
その表面上に多孔質コーティングを含む基材であって、前記コーティングが、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム又はそれらの混合物を含み、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム又はそれらの混合物を含む前記コーティングが、約1~99nmの厚さを有し、前記コーティング中の前記リン酸チタン及び/又はリン酸ジルコニウムが、約5~約400m /gの比表面積を有する基材。
【請求項5】
リン酸チタン、リン酸ジルコニウム又はそれらの混合物を含む前記コーティングが、約5~約80nmの厚さを有し、好ましくは、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム又はそれらの混合物を含む前記コーティングが、約10~約40nmの厚さを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の基材。
【請求項6】
(A) 前記コーティングが、リン酸チタン、リン酸ジルコニウム又はそれらの混合物からなり、
(B) リン酸チタン、リン酸ジルコニウム又はそれらの混合物を含む前記コーティングが抗生物質をさらに含み、及び/又は、
(C) 前記コーティングが非晶質であり、及び/又は、
(D) 前記コーティングが、連続的である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の基材
【請求項7】
前記基材が、金属、セラミック、グラファイト状材料、ポリマー又はケイ素から作製され、好ましくは、
(A) 前記金属が、チタン及びその合金、ジルコニウム及びその合金、ステンレス鋼、タンタル、NiTi合金ならびにコバルト-クロム合金から選択され、前記セラミックが、アルミナ、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア及びSi から選択され、前記グラファイト状材料が、グラフェン及びパイロカーボンから選択され、前記ポリマーが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルケトンケトン、ポリ(スチレン)、ポリ(カーボナート)、ポリ(エチレンテレフタラート)及びポリエーテルエーテルケトンから選択されるか、又は、
(B) 前記基材が、チタン又はその合金、ジルコニウム又はその合金、ステンレス鋼、タンタル、NiTi合金、コバルト-クロム合金、アルミナ、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、パイロカーボン、ポリスルホン、ポリエーテルケトンケトン)、ポリ(スチレン)、ポリ(カーボナート)又はポリエーテルエーテルケトン、より好ましくはポリエーテルエーテルケトンから作製される、
請求項1から6のいずれか一項に記載の基材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、骨組織及び軟組織などの生体組織と有利に相互作用するコーティングを提供する。コーティングは、機械的摩耗及び酸性条件に対して高度に耐性であるため、インビボ(in vivo)で長期間保持され得る。本発明の別の目的は、様々な用途に使用することができる親水性表面を作成することである。さらに具体的には、リン酸ジルコニウム及びリン酸チタンなどの金属リン酸塩のコーティングが記載されている。
【背景技術】
【0002】
インプラントは人体の様々な領域で使用されている。歯科用スクリュー、股関節ステム及び脊椎固定ケージは、骨組織と一体化するように設計された装置のほんの数例である。オストミーバッグポート、骨固定補聴器及び歯科用インプラントアバットメントは、軟組織と一体化するように設計された装置の例である。
【0003】
ヒト組織に対するインプラントの一体化を成功させるには、インプラント材料の選択が当然非常に重要である。チタンは、骨と一体化する優れた能力を有し、新たな骨組織の成長を刺激することが1950年代に発見され、この現象は現在、オッセオインテグレーション(osseointegration)と呼ばれている。これらの特性及びその高い機械的強度により、チタンは今日、群を抜いて最も一般的なインプラント材料である。ジルコニア及びアルミナ強化ジルコニアなどのセラミックは、チタンに比べてオッセオインテグレーションが遅いが、股関節カップ及び大腿骨頭など、極端な硬度及び強度が要求される用途に使用される。生体不活性として分類される材料もある。これらは人体に受け入れられるが、一体化されない。そのような材料の例は、ポリアミド及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのポリマーである。
【0004】
骨は、鉱物であるヒドロキシアパタイト(HA)と化学的及び構造的に非常に類似したリン酸カルシウム化合物から主になる。オッセオインテグレーションを改善するために、インプラント表面上にリン酸カルシウムコーティングを塗布することができる。作用機構は完全には理解されていないが、リン酸カルシウムは骨形成の最初の段階に関与するタンパク質を吸着することによって骨成長を誘発すると一般に考えられている。後の段階で、コーティングは徐々に吸収され、新しい骨を形成するための原料として使用される。リン酸三カルシウム(TCP)及びHAなどの材料が骨組織成長に有益な効果を及ぼすことは十分に裏付けられており、これらは、骨足場材料及びインプラントコーティングなどの様々な医療用途で臨床的に使用されている。
【0005】
リン酸カルシウム生体材料の1つの重要なパラメータは、インビボにおける吸収速度である。内因性骨の吸収は自然の過程であり、古い骨は破骨細胞によって絶えず吸収され、新しい骨は骨芽細胞によって作られる。この吸収により、新しい骨の原料として使用され得るカルシウム及びリンが放出される。破骨細胞は酸性環境を作り出すことによって骨を吸収する。HAは中性pHでは非常に溶解度が低いが、pH4未満では急速に溶解する。酸性条件下での溶解度の増加は、他のリン酸カルシウム、例えば、リン酸三カルシウムまたはリン酸八カルシウムでも観察される。厚い(20~60μm)リン酸カルシウムベースのインプラントコーティングでは、インビボ溶解は、コーティングの完全性を低下させ、大きなリン酸カルシウム粒子の剥離を引き起こし、ひいては炎症反応を引き起こす可能性がある。薄い(1μm未満)コーティングではリン酸カルシウムの量は非常に少なく、これらのコーティングでは、リン酸カルシウムは、骨成長のための原料よりもむしろ骨成長のための触媒のように作用する(Meirelles et al.J.Biomed.Mater.Res.A 2 87 299-307)。薄いコーティングは、通常、数週間または数カ月のうちにインビボで迅速に溶解することを意味する。この時間の後、オッセオインテグレーションの最初の工程は終了し、インプラントの長期安定性は基材の特性に依存する。何らかの理由で薄いコーティングが所望よりもはるかに早く溶解すると、コーティングの効率が大幅に低下する。基材自体が一体化能力の低い材料である場合、骨の代わりに結合組織が表面上に形成されるリスクがあるため、これはインプラントの非常に低い固定強度につながる可能性がある。PEEKは、骨組織を形成する能力が低い生体不活性材料の一例である。このため、オッセオインテグレーションの少なくとも最初の重要な数週間にわたって、骨刺激コーティングが経時的に保持されることを確実にすることが非常に重要になる。
【0006】
軟組織とは、人体内の構造、例えば、皮膚、腱、筋膜及び口腔粘膜の広義の用語である。オッセオインテグレーションは成熟した研究分野であり、骨に一体化して治癒する表面の必要性はよく知られているが、軟組織一体化についてはあまり知られていない。一般に、オッセオインテグレーションについて良好に機能する表面は、良好な軟組織一体化も示す。したがって、軟組織一体化を達成するためには、表面はタンパク質に対する高い親和性と高い表面積とを有すべきである。このように、チタンインプラント及びHAコーティングインプラントは、良好な軟組織一体化を有することが示されている。国際公開第02/087648号パンフレットに記載されているように、多孔質二酸化チタン(TiO)コーティング及び二酸化ケイ素(SiO)コーティングも効果的であることが証明されている。
【0007】
上述のように、リン酸カルシウム鉱物は酸性pH値では溶解度が増加し、リン酸カルシウム(CaP)コーティングの吸収は人体の自然の過程である。インビボ吸収に影響を与えるもう1つの重要なパラメータは、基材に対するコーティングの接着強度である。ポリマー材料では、基材に対するCaPコーティングの結合強度は、チタンなどの高帯電表面よりもかなり弱い。したがって、チタン上のコーティングと比較して、インビボで配置されたポリマー上のコーティングは、ポリマー基材からのコーティングの剥離または層間剥離のさらに高いリスク、及びさらに高い溶解速度に直面する。
【0008】
リン酸ジルコニウム及びリン酸チタン(ZrP及びTiPと略される)は、イオン交換特性を有することが当初発見された無機層状鉱物である(K.A.Kraus et al.,JACS,78(3)694,1956)。今日、リン酸ジルコニウムは、イオン交換体、燃料電池において、及び様々な用途における触媒材料として一般的に使用されている。ZrPは、その高い電荷密度、及び他の分子を吸着する能力のために、いくつかの例を挙げると、薬物送達のためのビヒクルとして、ポリマー複合材料及び太陽エネルギー用途の成分としても研究されている。ZrPは、塩化ジルコニル(ZrOCl)などの水溶性Zr源とリン酸(HPO)などのリン源とを混合することにより、水溶液中で合成することができる。これにより、非晶質または結晶性の低いZrPが析出される。次いで、得られた生成物をHPOまたはフッ化水素(HF)中で沸騰させることによって、完全に結晶性の生成物に変換することができる。合成条件を変えることにより、例えば、α-ZrP(Zr(HPOO)及びγ-ZrP(Zr(HPO)(PO)2HO)などのZrPの様々な多形体を得ることができる。TiPもまた、Ti前駆体とリン酸とを混合することにより、水溶液中で合成することができる。ただし、TiClまたはチタンアルコキシドなどのTi前駆体は、水中で加水分解してTiOを形成するため、TiO形成を防ぐように合成を行う必要がある。
【0009】
ZrP合成に関する当初の報告では、粒子成長を制御するための構造指向剤を用いずに、水溶液中での単純な析出が使用された。さらに最近の研究では、多くの場合、界面活性剤系または他のソフトテンプレートの使用により、比表面積及び粒径を増加させることに焦点が当てられている。Jimenez-Jimenezら(Adv.Mater.1998,(10),10,812-815)は、構造指向剤としてセチルトリメチルアンモニウム(CTMA)ブロミドを用いる界面活性剤支援系におけるZrPの合成を記載している。その結果、250~320m/gの比表面積を有する半結晶性粉末が得られるが、表面のコーティングを作製する方法は記載されていない。
【0010】
Yukoら(Langmuir 22(23),2006,9469-9472)は、ジルコニウムイソプロポキシド、リン酸トリエチル、Pluronic P123トリブロックコポリマー、硝酸、エタノール及び水の混合物を使用するスピンコーティングによるシリコン基板上の規則性メソポーラスリン酸ジルコニウム膜の調製を開示している。膜厚は約275nmであった。膜は高いプロトン伝導性を有した。
【0011】
国際公開第03/069712号パンフレットは、プロトン伝導性セラミック膜を開示している。膜は、その上にコーティングを有する基材を含み、基材は、織布または不織布の非導電性繊維から選択される。繊維は、ガラス繊維、セラミック繊維またはそれらの組合せであってよい。コーティングは、5000nm未満、好ましくは1~100nmまたは10~100nmの粒径を有するリン酸ジルコニウムの粒子を含む。コーティングはまた、リン酸ジルコニウム粒子の凝集体を含み得、凝集体は、1μm以上、好ましくは1~25μmのサイズを有する。
【0012】
韓国特許第10-2012-0137710 A号明細書は、抗菌化合物及び多孔質材料を含む抗菌コーティング組成物を開示している。多孔質材料は、ゼオライト、リン酸カリウム、リン酸ジルコニウム及びシリカゲルから選択され得る。
【0013】
国際公開第2014/048555号パンフレットは、酸化ジルコニウム表面を酸性リン酸ナトリウム溶液と反応させて、表面上に1.0nm未満の厚さのリン酸イオンの単層を形成する手順を記載している。この例では、得られたリン酸イオン層がZrO基材に非常によく付着することが見出された。ただし、この層は多孔質のZrPコーティングまたはTiPコーティングではない。
【0014】
米国特許第2003/0157349号明細書は、金属表面上に-ZrOHまたは-TiOHなどの表面種を有する金属水酸化物の複合コーティングからなる骨伝導性材料を開示している。コーティングをリン酸塩緩衝液(phosphate buffer)に浸漬し、熱処理すると、金属水酸化物の上にリン酸塩層が形成される。このコーティングは、金属水酸化物の上に配置されたリン酸塩からなり、ナノサイズのZrPまたはTiPを含有しない。
【0015】
ガラス表面上にZrOのコーティングを最初に作製し、次いでZrOコーティングにリン酸溶液(phosphoric acid solution)を塗布し、ZrOコーティング上にホスファート(phosphate)の層を作製することによってセンサを形成する同様のアプローチが、X.Baiらによって記載されている(J.Environ.Monit.,2009,11,326-329)。著者らはこれを「ZrPコーティング」として記載しているが、国際公開第2014/048555号パンフレットと同様に、ZrO層の上のリン酸イオンコーティングであることに留意されたい。このZrO/ホスファートコーティングの厚さは0.9μmであると記載されている。
【0016】
国際公開第2005/123579号パンフレットは、コーティングの形態または粉末としてのナノサイズのリン酸カルシウムの製造を記載している。このコーティング方法は、ナノサイズのリン酸カルシウムの非常に薄い(<150nm)層を作製することができる。粒子の合成は、酸性液晶相に前駆体を溶解して行われ、結晶化は、アンモニアを用いてpHをゆっくり上昇させることにより開始される。液晶相は、ナノサイズの結晶が生成されるようにリン酸カルシウムの成長を制限する構造指向系として機能する。これらの材料は低いpH値で析出し、液晶相に前駆体を加えると前駆体間の即時反応が開始され、制御されない結晶成長がもたらされるため、この方法はZrPまたはTiPの製造には適していない。
【0017】
この文献には、ポリマーマトリックス中に埋め込まれたZrP結晶の薄膜からなる製品も記載されており、例えば、エポキシ/α-ZrP複合材料を記載するM.Wongら(Nature Comm.DOI:10.1038/ncomms4589)、またはポリウレタン/α-ZrP複合材料を記載するT-C Huangら(RSC Adv.,2017,7,9908-9913)が記載されている。これらの材料は表面上に薄いコーティングとして塗布することができるが、コーティングは、純粋なZrPではなく、ポリマーマトリックスによって囲まれたZrP結晶からなる。
【0018】
組織の一体化を促進するコーティングを含む代替のインプラントが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0019】
本発明は、その表面上にコーティングを含む基材を提供し、コーティングは、リン酸チタン、リン酸ジルコニウムまたはそれらの混合物を含み、基材は、インビボでの使用に適したインプラントである。
【0020】
好ましくは、コーティングは多孔質コーティングであり、好ましくは最長寸法が1~100nmの細孔を有する。また好ましくは、コーティングは、リン酸チタン、リン酸ジルコニウムまたはそれらの混合物からなる。
【0021】
コーティングは、好ましくは非晶質であるか、結晶化度が低い。また、好ましくは、コーティングは連続的である。
【0022】
コーティングは、典型的に、約1~約1000nmの厚さを有する。コーティング中のZrP及び/またはTiPは、窒素吸着により測定して、約5~約400m/gの比表面積を有することが好ましい。
【0023】
別の実施形態では、本発明は、その表面上に多孔質コーティングを含む基材を提供し、コーティングは、リン酸チタン、リン酸ジルコニウムまたはそれらの混合物を含み、コーティングは、1~99nmの厚さを有する。好ましくは、コーティングは、リン酸チタン、リン酸ジルコニウムまたはそれらの混合物からなる。コーティングは多孔質コーティングであり、好ましくは最長寸法が1~100nmの細孔を有する。
【0024】
コーティングは、典型的に、約1~約1000nmの厚さを有する。コーティング中のZrP及び/またはTiPは、窒素吸着により測定して、約5~約400m/gの比表面積を有することが好ましい。
【0025】
好ましくは、コーティングは非晶質であるか、結晶化度が低い。また、好ましくは、コーティングは連続的である。
【0026】
本発明はまた、基材の表面上に、リン酸ジルコニウムを含むか又はリン酸ジルコニウムからなるコーティングを形成するための第1の方法を提供し、該方法は、
a)ジルコニウム前駆体を含む第1の油中水型エマルジョンとホスファート前駆体を含む第2の油中水型エマルジョンとを混合し、ジルコニウム前駆体とホスファート前駆体とを一緒に反応させてナノサイズのリン酸ジルコニウム粒子の分散体(dispersion)を形成すること、
b)基材の表面に該分散体を塗布すること、
c)場合により、基材の表面上に分散体の均一な層を作成すること、及び
d)基材の表面上にリン酸ジルコニウムのコーティングを形成するために、分散体のあらゆる他の成分を除去することを含む。
【0027】
上記の方法の代わりに、上記の工程a)を工程a1)に置き換えることができる:
a1)ジルコニウム前駆体を含む油中水型エマルジョンにホスファート前駆体を加えるか又はホスファート前駆体を含む油中水型エマルジョンにジルコニウム前駆体を加え、ジルコニウム前駆体とホスファート前駆体とを一緒に反応させてナノサイズのリン酸ジルコニウム粒子の分散体を形成すること。
【0028】
本発明はさらに、基材の表面上に、リン酸チタンを含むか又はリン酸チタンからなるコーティングを形成するための第2の方法を提供し、該方法は、
e)ホスファート前駆体を含む油中水型エマルジョンにチタン前駆体を加え、チタン前駆体とホスファート前駆体とを一緒に反応させてナノサイズのリン酸チタン粒子の分散体を形成すること、
f)基材の表面に該分散体を塗布すること、
g)場合により、基材の表面上に分散体の均一な層を作成すること、及び
h)基材の表面上にリン酸チタンのコーティングを形成するために、分散体のあらゆる他の成分を除去することを含む。
【0029】
本発明はさらに、基材の表面上に、リン酸チタン及び/またはリン酸ジルコニウムを含むか又はリン酸チタン及び/またはリン酸ジルコニウムからなるコーティングを形成するための第3の方法を提供し、該方法は、
a)有機(非水性)溶媒中にジルコニウム前駆体及び/またはチタン前駆体を含む溶液とホスファート前駆体を含む油中水型エマルジョンとを混合し、ジルコニウム前駆体及び/またはチタン前駆体とホスファート前駆体とを一緒に反応させてナノサイズのリン酸ジルコニウム粒子及び/またはリン酸チタン粒子の分散体を形成すること、
b)基材の表面に該分散体を塗布すること、
c)場合により、基材上に分散体の均一な層を作成すること、及び
d)基材上にリン酸ジルコニウム及び/またはリン酸チタンのコーティングを形成するために、分散体のあらゆる他の成分を除去することを含む。
【0030】
本発明はさらに、基材の表面の親水性を増加させる方法を提供し、該方法は、上記の本発明の方法のいずれかを使用して基材の表面上にコーティングを形成することを含む。好ましくは、基材はポリマー基材、さらに好ましくはPEEKである。
【0031】
本発明はまた、本発明の方法のいずれかによって得ることができるコーティングされた基材を提供する。
【0032】
基材は、歯科用スクリュー、股関節ステム、脊椎固定ケージ、オストミーバッグポート、骨固定補聴器、歯科用インプラントアバットメント及び外部固定装置などのインプラントであり得る。基材はまた、センサまたは医療機器の構成要素など、親水性表面が望ましい構造であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1a】Pluronic L64/p-キシレン/水系を使用した、チタンディスク上の本発明のZrPコーティングのSEM画像。スケールバー=200nm。
図1b】Triton X-100/1-ヘキサノール/シクロヘキサン/水系を使用した、チタンディスク上の本発明のZrPコーティングのSEM画像。スケールバー=200nm。
図2】チタンディスク上の本発明のTiPコーティングのSEM画像。スケールバー=100nm。
図3】本発明によるZrPによってコーティングされたブラストPEEKスクリューの低倍率及び高倍率でのSEM画像、スケールバー=200μm及び200nm。
図4】酢酸に浸漬するか、水中で超音波処理したZrPディスクについて、XPSにより測定したZrPの総量(ZrとPとの原子%の合計として計算した)。
図5】XPSにより測定した場合の、模擬体液(Simulated Body Fluid:SBF)に浸漬した非コーティングPEEK及びZrPコーティングPEEKならびにチタンディスクのカルシウム含有量。
図6】模擬塩水溶液(simulated salt water solution)中での1週間及び2週間後の非コーティングPEEK及びZrPコーティングPEEKに対する接触角測定。
図7】最初にZrPによりコーティングされ、次いでナノサイズのHAによりコーティングされたPEEKディスクのSEM画像。スケールバー=500nm。
図8】ウサギ脛骨に埋め込んで6週間後のブラストPEEKインプラント(非コーティング及びZrPコーティング済み)の除去トルク値。
図9】様々な保管時間後の歯科用インプラントスクリューに対する水の液体吸着。●=熱処理、■=ZrPコーティング済み、▲=HAコーティング済み。
【発明を実施するための形態】
【0034】
特に指示しない限り、以下の説明は、任意のタイプの基材、及び本発明のあらゆる実施形態に適用される。
【0035】
本発明のコーティングは、リン酸チタン(TiP)及び/またはリン酸ジルコニウム(ZrP)から形成される。好ましくは、それらは、層またはコーティングが介在することなく、基材の表面上に直接形成される。ZrPまたはTiPなどの酸性ホスファートベースの材料は、リン酸基と結合を形成することができる表面と強く相互作用する。したがって、コーティングは、チタン及びジルコニウムなどの金属だけでなく、ZrO及びAlなどのセラミック、ならびにPEEKなどのポリマーに対しても高い接着強度を有する。HAと同様に、ZrPはタンパク質及びアミノ酸に強く吸着するが、HAとZrPとの間の1つの顕著な差は異なるpHでの安定性である。HAは塩基性条件下で安定であり、低pH値で溶解し始めるが、ZrPの挙動は逆で、低pH値で安定であるが塩基性条件下で溶解し始める。これにより、ZrPは人体の自然溶解過程で生じる酸性環境に対して高い耐性を示す。TiPは、酸性条件でのタンパク質吸着及び安定性に関してZrPと類似の特性を有するが、TiPの方がアルカリ性pH値での溶解度が高い。したがって、ZrP及びTiPのコーティングはインビボで長期間持続し、例えば、本質的に恒久的である。
【0036】
ZrPまたはTiPのインプラントコーティングは、酸性条件に耐性であり、タンパク質吸着の傾向も高い。さらに、ナノメートル範囲の特徴を有するコーティングは、下にある基材の表面エネルギー及び比表面積を増加させ、これにより、タンパク質の接着を改善する。そのようなコーティングはまた、それがPEEKなどのポリマーであろうと、チタンなどの金属であろうと、当該基材の親水性を増加させる。親水性表面は、オッセオインテグレーション及び軟組織一体化のために望ましいが、親水性表面は、例えば、センサでは気泡形成を防止し、カテーテルでは濡れを増加させるのに役立つため、他の用途にも魅力的である。コーティングは非常に薄く連続的にすることができるため、インプラントの下にある構造に追従し、それにより、インプラント表面のトポグラフィーを保持することが可能になる。多くの市販のインプラントは、マイクロメートル範囲の表面粗さ(表面の算術平均高さ(S)が通常0.5~2μm)を有するように加工されるため、ミクロンサイズの粗さを維持するためには、これらの表面の上のコーティングは薄くなければならない。
【0037】
ZrPまたはTiPなどの材料はポリマーまたは金属よりも脆く、機械的特性のこの差は、コーティングが厚すぎると問題を引き起こす可能性がある。例えば、コーティングされたポリマー材料が曲げ力を受けると、コーティングとポリマー基材とでは寸法変形は全く異なる。所与の形状では、任意の材料の柔軟性は、その厚さが減少すると増加するため、薄いコーティングの方が厚いコーティングよりも曲げに対して弾力性がある。したがって、基材がポリマー基材または金属基材である場合、比較的薄いZrPコーティングまたはTiPコーティングを有することが有利である。
【0038】
基材
コーティングは、限定するものではないが、チタン及びその合金、ジルコニウム及びその合金、ステンレス鋼、タンタル、NiTi合金、及びコバルト-クロム合金などの金属;アルミナ、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア及びSiなどのセラミック;グラフェン及びパイロカーボンなどのグラファイト状材料;ケイ素;ならびにポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリ(スチレン)、ポリ(カーボナート)、ポリ(エチレンテレフタラート)及びPEEKなどのポリマーから作製された基材を含む任意の好適な基材に塗布することができる。好ましい基材には、チタン及びその合金、ジルコニウム及びその合金、ステンレス鋼、タンタル、NiTi合金、コバルト-クロム合金、アルミナ、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、パイロカーボン、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリ(スチレン)、ポリ(カーボナート)及びPEEKが含まれる。さらに好ましい基材には、チタン及びその合金、ステンレス鋼、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、パイロカーボン及びPEEKが含まれ、最も好ましくはPEEKが含まれる。
【0039】
好ましい基材は、インビボで使用するためのインプラントの形態である。インプラントの場合、基材は好ましくは生体適合性である。好適なインプラントには、歯科用スクリュー、股関節ステム、脊椎固定ケージ、オストミーバッグポート、骨固定補聴器、歯科用インプラントアバットメント及び外部固定装置が含まれる。ヒトまたは動物の体に埋め込まれた後の一体化を加速するために、粗面を有するインプラントが好ましい。インプラント用の好ましい基材には、チタン及びその合金、ステンレス鋼、コバルト-クロム合金、ジルコニア、アルミナ強化ジルコニア、パイロカーボン及びPEEKが含まれ、最も好ましくはPEEKが含まれる。
【0040】
本発明のZrPコーティング及びTiPコーティングは親水性である。したがって、基材は、装置または構成要素の表面が親水性であることが有益である任意の装置またはその構成要素であり得る。親水性にされる好ましい基材には、ポリマー基材、特にPEEK基材が含まれる。例えば、気泡の形成は、センサを使用した測定を歪めることがあり得る。気泡は疎水性表面に付着する傾向があるため、本発明に従ってZrP及び/またはTiPによりコーティングすることによってセンサの表面を親水性にすると、気泡の形成を防止するのに役立ち得る。親水性表面が好ましい場合がある他の基材には、カテーテル、チューブ、ノズル及びケーブル、例えば、PEEKなどのポリマー材料から作製されたケーブルが含まれる。したがって、さらに好ましい基材は、センサまたはセンサ構成要素、カテーテル及びチューブである。
【0041】
本発明のコーティングされた基材はまた、膜分離、光学装置、膜電極複合体を含む電子機器、及び燃料電池に有用であり得る。
【0042】
コーティング
コーティングは、基材の表面全体、または表面の一部のみにわたって存在し得る。インプラントでは、インプラントの身体対向面の少なくとも25(面積)%、さらに好ましくは少なくとも40%、少なくとも50%または少なくとも70%がコーティングされることが好ましい。
【0043】
下にある表面形態を維持するためには、薄いコーティングが望ましい。厚いコーティングは、割れるか、基材に対して層間剥離する傾向を示すことがある。したがって、好ましくは、基材がインプラントである場合、コーティングの厚さは、1000nm以下、例えば、約1~約1000nmまたは約5~約1000nmである。厚さの下限は、好ましくは少なくとも約1nm、さらに好ましくは少なくとも約3nm、さらに一層好ましくは少なくとも約5nm、例えば少なくとも約10nmである。厚さの上限は、好ましくは約500nm以下、さらに好ましくは約300nm以下、さらに一層好ましくは約250nm以下、例えば約200nm以下である。さらに好ましくは、コーティングの厚さは、約5~約150nmまたは約5~約100nmの範囲である。最も好ましくは、コーティングの厚さは、約10~約40nmである。上記の下限のいずれかと上記の上限のいずれかとを組み合わせることによって得られる範囲も本発明に含まれる。
【0044】
他のタイプの基材では、コーティングの厚さは100nm未満、好ましくは約1~約99nmである。厚さの下限は、好ましくは少なくとも約1nm、さらに好ましくは少なくとも約3nm、さらに一層好ましくは少なくとも約5nm、例えば少なくとも約10nmである。厚さの上限は、好ましくは約95nm以下、さらに好ましくは約80nm以下、さらに一層好ましくは約40nm以下である。さらに好ましくは、コーティングの厚さは、約5~約95nmまたは約5~約80nmの範囲である。最も好ましくは、コーティングの厚さは、約10~約40nmである。上記の下限のいずれかと上記の上限のいずれかとを組み合わせることによって得られる範囲も本発明に含まれる。
【0045】
好ましくは、窒素吸着を介して、及びブルナウアー・エメット・テラー(BET)モデルを使用して測定した場合のコーティング中のZrP及び/またはTiPの比表面積は、約5~約400m/gである。さらに好ましくは、比表面積は、約50~約350m/gの範囲である。さらに一層好ましくは、比表面積は、約100~約250m/gの範囲である。コーティング中のZrP及び/またはTiPの比表面積を直接測定することはできない。むしろ、それは、コーティング分散体の一部を焼成(燃焼)し、得られた粉末を分析することによって測定され得る。
【0046】
本発明のコーティングは、好ましくは多孔質である。多孔質とは、コーティングが気体または液体を吸収することができることを意味する。好ましくは、コーティングは、最長寸法が約1~約100nmの細孔を有する。本明細書で使用される場合、コーティング中の隣接する粒子間に空間が存在し、これにより気体または液体の吸収が可能になる場合、ZrPまたはTiPの粒子から形成されるコーティングも多孔質であると考えられる。細孔径は、SEM及び画像分析を使用して測定され得る。比表面積は、コーティングの多孔性の間接的な測定としても機能する。比表面積が高ければ、一般に、多孔性の高いコーティングに対応する。
【0047】
上述のように、多くのインプラントは、インビボでの一体化を加速するために粗面を有する。本発明は、基材の下にある表面形態を保存する非常に薄いコーティングを作製することを可能にし、ひいては、粗さを著しく変化させることなくマイクロメートル範囲の特徴をコーティングすることを可能にする。
【0048】
コーティングの厚さの測定はいくつかの方法で行うことができる。厚さが1~10nmの極めて薄いコーティングでは、X線光電子分光法(XPS)を使用して厚さを概算することができる。XPSは、基材の最上部10nmから原子含有量を測定するため、コーティングが均質かつ均一に分布していれば、下にある基材からの信号を返すXPS測定では、コーティングの厚さが1~10nmの範囲であることが示される。比較的厚いコーティング、例えば、10nm超~100nm未満(>10nm to <100nm)では、例えば、強アルカリ性媒体にコーティングを溶解し、誘導結合プラズマ発光分光(ICP-AES)を用いて抽出媒体の原子含有量を測定することによって、厚さを測定することができる。この厚さ範囲にあるコーティングを測定する別の方法は、ミリング及びリフトアウト手順を行い、その後に透過型電子顕微鏡(TEM)分析を行うことによる。比較的厚いコーティング(>100nm)であれば、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、コーティングされた基材の断面を調べることによって測定することができる。
【0049】
好ましくは、コーティングは、非晶質または低結晶性のZrP及び/またはTiPから形成される。非晶質または低結晶性のZrPまたはTiPは、好適な処理によって高結晶性のZrPまたはTiPに変換することができるが、これは任意である。非晶質または低結晶性のZrPまたはTiPを高結晶性材料に変換する方法は、当技術分野で公知である。ただし、高結晶性のZrPまたはTiPへの変換には、一般に沸騰リン酸もしくは沸騰フッ酸による処理、または熱処理が必要である。したがって、基材が処理条件に耐性がない限り、それは適していない。
【0050】
方法
本発明はまた、基材上にZrP及び/またはTiPコーティングを形成する方法、及び基材の親水性を改善または増大する方法を提供する。
【0051】
本発明は、基材の表面上に、リン酸ジルコニウムを含むか又はリン酸ジルコニウムからなるコーティングを形成するための第1の方法を提供し、該方法は、
a)ジルコニウム前駆体及び場合により界面活性剤を含む第1の油中水型エマルジョンとホスファート前駆体及び場合により界面活性剤を含む第2の油中水型エマルジョンとを混合し、ジルコニウム前駆体とホスファート前駆体とを一緒に反応させてナノサイズのリン酸ジルコニウム粒子の分散体を形成すること、
b)好ましくは滴下、噴霧、または分散体に基材を浸漬することによって、基材の表面に該分散体を塗布すること、
c)場合により、好ましくは基材の回転、毛管抽出、重力測定(gravimetric force)の使用、または基材上への圧縮ガスの流れの適用によって、基材の表面上に分散体の均一な層を形成すること、ならびに
d)基材の表面上にリン酸ジルコニウムのコーティングを形成するために、好ましくは熱処理、プラズマ処理、液体抽出またはこれらの組合せによって、分散体のあらゆる他の成分を除去することを含む。
【0052】
上記の方法の代わりに、上記の工程a)を工程a1)に置き換えることができる:
a1)ジルコニウム前駆体及び場合により界面活性剤を含む油中水型エマルジョンにホスファート前駆体を加えるか、ホスファート前駆体及び場合により界面活性剤を含む油中水型エマルジョンにジルコニウム前駆体を加え、ジルコニウム前駆体とホスファート前駆体とを一緒に反応させてナノサイズのリン酸ジルコニウム粒子の分散体を形成すること。
【0053】
本発明はさらに、基材の表面上に、リン酸チタンを含むか又はリン酸チタンからなるコーティングを形成するための第2の方法を提供し、該方法は、
e)ホスファート前駆体及び場合により界面活性剤を含む油中水型エマルジョンにチタン前駆体を加え、チタン前駆体とホスファート前駆体とを一緒に反応させてナノサイズのリン酸チタン粒子の分散体を形成すること、
f)好ましくは滴下、噴霧、または分散体に基材を浸漬することによって、基材の表面に該分散体を塗布すること、
g)場合により、好ましくは基材の回転、毛管抽出、重力測定の使用、または基材上への圧縮ガスの流れの適用によって、基材の表面上に分散体の均一な層を形成すること、ならびに
h)基材の表面上にリン酸チタンのコーティングを形成するために、好ましくは熱処理、プラズマ処理、液体抽出またはこれらの組合せによって、分散体のあらゆる他の成分を除去することを含む。
【0054】
本発明はさらに、基材の表面上に、リン酸チタン及び/またはリン酸ジルコニウムを含むかリン酸チタン及び/またはリン酸ジルコニウムからなるコーティングを形成するための第3の方法を提供し、該方法は、
a)有機(非水性)溶媒中にジルコニウム前駆体及び/またはチタン前駆体及び場合により界面活性剤を含む溶液とホスファート前駆体及び界面活性剤を含む油中水型エマルジョンとを混合し、ジルコニウム前駆体及び/またはチタン前駆体とホスファート前駆体とを一緒に反応させてナノサイズのリン酸ジルコニウム粒子及び/またはリン酸チタン粒子の分散体を形成すること、
b)好ましくは滴下、噴霧、または分散体に基材を浸漬することにより、固体表面上に該分散体を塗布すること、
c)場合により、好ましくは回転、毛管抽出、重力測定の使用、または基材上への圧縮ガスの流れの適用によって、基材上に分散体の均一な層を形成すること、ならびに
d)基材上にリン酸ジルコニウム及び/またはリン酸チタンのコーティングを形成するために、好ましくは熱処理、プラズマ処理、液体抽出またはこれらの組合せによって、分散体のあらゆる他の成分を除去することを含む。
【0055】
本発明はさらに、基材の表面の親水性を増加させる方法を提供し、該方法は、上記の本発明の方法のいずれかを使用して基材の表面上にコーティングを形成することを含む。
【0056】
本発明の方法では、ナノサイズとは、最長寸法が1~100nmの粒子を指す。
【0057】
好ましくは、本発明の方法で使用するための出発エマルジョン及び溶液のそれぞれはまた、1つ以上の界面活性剤を含む。
【0058】
チタン前駆体は、四塩化チタン(TiCl)、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド及びチタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)など、好適な有機溶媒に溶解することができる任意の好適なチタン塩または化合物であり得る。TiCl及びチタンイソプロポキシドを含む多くのチタン化合物は、水と接触すると加水分解して二酸化チタンを形成する。そのため、リン酸チタンコーティングの合成では、チタン前駆体と水との早期の接触を避けることが重要である。したがって、好ましいチタン前駆体は、有機溶媒に可溶な化合物である。二酸化チタン、硫酸チタン、炭化チタンまたはリン酸チタンなどの水に不溶性のチタン塩または化合物は、前駆体として使用するのに適していない。
【0059】
ジルコニウム前駆体は、四塩化ジルコニウム(ZrCl)、オキシ塩化ジルコニル、硝酸ジルコニル、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド及びジルコニウムジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)を含む任意の好適なジルコニウム塩または化合物であり得る。第1の方法で使用する場合、ジルコニウム前駆体は、油中水型エマルジョンの水相中に存在するように、水溶性であるべきである。好適な水溶性前駆体には、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニル及び硝酸ジルコニルが含まれる。第3の方法で使用する場合、ジルコニウム前駆体は有機溶媒に可溶であるべきである。好適な有機可溶性前駆体には、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド及びジルコニウムジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)が含まれる。
【0060】
リン前駆体は、リン酸(HPO)、NaPO、NaHPO、NaHPO、KPO、KHPO、KHPO、亜リン酸(HPO)、次亜リン酸(HPO)、または亜リン酸トリエチルなどの亜リン酸エステルであり得る。好ましくは、リン前駆体は、油中水型エマルジョンの水相中に存在するように、水溶性である。
【0061】
金属前駆体及びホスファート前駆体は、例えば、約1:1~約1:3のZr対ホスファートのモル比、または約1:2のチタン対ホスファートのモル比を提供するために、任意の好適なモル比で使用され得る。
【0062】
本発明の方法で使用される油中水型エマルジョンは、好ましくはマイクロエマルジョンである。エマルジョンは、典型的には界面活性剤を含有するが、ナノサイズの水性ドメインを有する任意の界面活性剤安定化系を使用することができる可能性がある。マイクロエマルジョンは一般に、連続相内に分散された、直径約1~100nm、例えば直径約10~50nmの液滴またはドメインとして存在する分散相を含む。油中水型マイクロエマルジョンでは、水は分散相を形成し、水と混和しないか実質的に混和しない有機溶媒(油)は連続相を形成する。界面活性剤は通常、分散相と連続相との間の界面に存在して、エマルジョンの安定化を助ける(K.Holmberg et al.Surfactants and Polymers in aqueous solutions,Wiley,ISBN 0-471-49883-1)。マイクロエマルジョンの1つの有益な特性は、それがチタンなどの極性かつ親水性の表面であろうと、PEEKなどの非極性かつ疎水性の表面であろうと、ほぼあらゆる表面を濡らし、その上に広がる能力である。
【0063】
理論に拘束されることなく、出発油中水型エマルジョン中の好ましくは界面活性剤によって覆われた分散水ドメインは、ZrPまたはTiPの成長粒子が衝突し、さらに大きな凝集体に成長するのを防止するナノサイズ(例えば、約1~約100nmの範囲の直径を有する)の反応容器として機能すると考えられている。その結果、水ドメインが、分散したナノサイズのZrP粒子またはTiP粒子を含有する分散体が得られる。
【0064】
本発明の方法で使用するためのエマルジョンは、様々な界面活性剤/溶媒/水の組合せを使用して形成することができる。本明細書における方法に使用するのに適した界面活性剤には、限定するものではないが、非イオン性界面活性剤、例えば、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)-ポリ(エチレンオキシド)(PEO)界面活性剤、例えば、PEO-PPO-PEO及びPPO-PEO-PPO界面活性剤、アルコールエトキシラート(C-EO)、ポリソルバート、直鎖アルコール、脂肪酸アミド、アルキルフェノールエトキシラート及びポリグリセロールアルキルエーテル、アニオン性界面活性剤、例えば、アルキルホスファート、アルキルスルホナート及びアルキルスルファート、ならびにカチオン性界面活性剤、例えば、第4級アンモニウム塩が含まれる。好ましい界面活性剤には、ポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)-ポリ(エチレンオキシド)(PEO-PPO-PEO)ブロックコポリマーPluronic L64及びPluronic P84ならびにアルキルフェノールエトキシラートが含まれる。好適なアルキルフェノールエトキシラートには、CAS登録番号9002-93-1を有し、以下の式によって特徴付けられるTriton X-100など、Tritonの商標の下でThe Dow Chemical Companyから入手可能なものが含まれ、
【化1】

式中、nは9~10である。
【0065】
出発エマルジョンまたは溶液を作成するのに適した有機溶媒には、脂肪族、芳香族及び環状炭化水素、アルコール、エステル、エーテル、ケトンならびにそれらの混合物など、水と混和しないか実質的に混和しない任意の溶媒が含まれる。好ましい有機溶媒には、p-キシレン、シクロヘキサン及びヘキサデカンならびにそれらの組合せが含まれる。
【0066】
本明細書に開示される方法で2つの異なるエマルジョン、またはエマルジョン及び有機溶液が使用される場合、同じ有機溶媒が両方で使用されることが好ましい。同様に、同じ界面活性剤が両方で使用されることが好ましい。
【0067】
本発明の方法の混合工程では、金属前駆体とホスファート前駆体とが一緒に反応してTiPまたはZrPを形成するのに十分な時間にわたって、混合が継続されるべきである。典型的には、反応が確実に完了するように、混合は約5~約24時間、好ましくは約6時間継続すべきである。ZrP及びTiPは、水及び使用される有機溶媒に不溶性であるため、沈殿して、ZrP及び/またはTiPのコロイド分散体が生じる本明細書で使用される場合、コロイド分散体とは、液体中に分散され、サイズが約1~約1000nmの粒子を指す。
【0068】
基材の表面に対する分散体の塗布は、噴霧、ディップコーティングを含む当技術分野で公知の任意の技術を使用して、または滴下によって行われ得る。スピンコータなどの装置を使用して、過剰なコーティング分散体を除去することによってコーティング液層の厚さを制御し、液体を広げて基材のあらゆる所望の表面上に均一な層を作成することができる。
【0069】
コーティング分散体が基材に塗布されると、水、有機溶媒及び任意の界面活性剤など、TiPまたはZrP以外の分散体の成分が除去されて、リン酸ジルコニウムまたはリン酸チタンの層のみが残されなければならない。これにより、ZrP及び/またはTiPのナノサイズの粒子が一緒に凝集または融合して、連続的な多孔質コーティングが形成される。乾燥を使用して水及び任意の有機溶媒を除去することができるが、存在する任意の界面活性剤を除去するために他の方法が必要とされ得る。他の全成分を除去するための便利な方法は、界面活性剤を燃焼させ、水及び有機溶媒を蒸発させるのに十分高い温度で熱処理を行うことである。熱処理はまた、ホスファート化合物と基材との間の接着性を増大させ得、無菌のコーティングされた基材を提供するという追加の利点を有し、工業環境でコーティングプロセスを実施することができることが魅力的である。コーティング分散体の層は非常に薄いため、熱処理は約5~約10分以下という短時間で行うことができる。この短時間の熱処理は、基材材料の機械的特性に影響を与えない。熱処理に適した温度は、チタンなどの金属では約300~約550℃、PEEKなどのポリマーでは約300~約350℃である。
【0070】
コーティング分散体の有機成分及び水性成分を除去する別の方法は、イソプロパノールまたはp-キシレンなどの好適な溶媒を使用して抽出を行って、界面活性剤及び溶媒を除去することである。この方法は、高温処理に耐えられない材料、例えば低融点ポリマーに特に適している。
【0071】
コーティング分散体の有機成分及び水性成分を除去するさらに別の方法は、プラズマ洗浄装置を使用することである。真空チャンバ内でイオン化ガス(プラズマ)を用いてインプラント表面を処理することによって、界面活性剤などの分散体の任意の有機成分が完全に酸化され、水及び有機溶媒が蒸発する間に除去され得る。
【0072】
本発明の方法の1つの利点は、それらが、複雑な形状を有する基材など、基材の露出した表面全体にわたってコーティング、好ましくは連続コーティングを形成するために使用することができることである。ポリマーから作製されたインプラントは多くの場合複雑な形状を有し、従来の技術を使用して表面全体をコーティングすることが困難であり得るため、これは、ポリマーから作製されたインプラントには特に有利である。本発明の方法は湿式化学技術であるため、化学蒸着、物理蒸着またはプラズマスプレーなどの視線技術(line of sight technique)とは対照的に、それらは、3Dプリントされた複雑な構造のコーティングに使用するのに(付加製造)、または金属フォームなどの構造をコーティングするのに非常に適している。
【0073】
前述したように、多くのインプラントは、一体化を加速するために粗面を有する。本発明の方法は、粗さを著しく変化させることなくマイクロメートル範囲の特徴をコーティングすることを可能にする非常に薄いコーティングを作製することを可能にする。例えば、出発エマルジョンまたは溶液中の前駆体の濃度を変化させることにより、スピンコーティング手順中に回転速度を変化させることにより、及び/またはスピンコーティング手順中に圧縮空気を適用することにより、コーティングの厚さを変化させることができる。3Dプリント構造または金属フォームなどの多孔質構造上の厚さを制御する別の方法は、乾燥工程の前に毛管抽出によって構造から一定量のコーティングマイクロエマルジョンを除去することである。この方法では、コーティングされた基材は、コーティングされた基材からコーティング液を抽出する能力を有する多孔質材料上に配置される。多孔質材料の材料、細孔径及び厚さに応じて、抽出されるコーティング液の量は変化し得、これは、乾燥後のコーティング層の厚さに影響を与える。
【0074】
TiP及び/またはZrPコーティングは、それらが塗布される基材の表面を、ポリマーでは親水性にし、または金属では超親水性(水接触角<10°)にする。したがって、本発明はさらに、基材の表面の親水性を増加させる方法を提供し、該方法は、上記の本発明の方法のいずれかを使用して基材の表面上にコーティングを形成することを含む。
【0075】
インプラントには多孔質コーティングが好ましいが、非多孔質コーティングも使用することができる。非多孔質コーティングは、化学蒸着、物理蒸着またはプラズマスプレー技術を使用して、基材上に形成され得る。ただし、これらの技術は、粗面、3Dプリント構造または金属フォームなどの複雑な構造をコーティングするのには適さない可能性がある視線技術である。
【0076】
TiPコーティング及びZrPコーティングは、形成された後、例えば、追加のコーティング層及び/または活性化合物を加えることによって機能化されてもよい。活性化合物は、コーティングによって吸着されてもよいし、コーティングに付着してもよい。好適な活性化合物には、骨成長を刺激するか、細菌の増殖を防ぐ物質が含まれる。骨組織の成長を刺激することができる物質は、限定するものではないが、骨形成タンパク質(BMP)、ビスホスホナート、リン酸カルシウム、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを含む。また、限定するものではないが、ゲンタマイシンもしくはクロロヘキシジンなどの抗生物質、デフェンシンなどの内因性物質、または銀もしくは亜鉛などの無機抗生物質を含む、細菌の増殖を防ぐ物質の付着を用いてコーティングを機能化することも可能である。
【0077】
機能化は、所望の活性化合物または活性化合物の混合物の溶液または分散体に、コーティングされた基材を浸漬することによって行われ得る。
【0078】
基材をコーティングするための公知の技術を使用して、TiPコーティングまたはZrPコーティングの上に追加のコーティング層を堆積させてもよい。例えば、国際公開第2005/123579号パンフレットの方法を使用して、ヒドロキシアパタイトまたは他のリン酸カルシウムの層を堆積させてもよい。好ましい追加のコーティング層は、非晶質リン酸カルシウム、リン酸一カルシウム、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸八カルシウムまたはそれらの混合物、さらに好ましくはヒドロキシアパタイトを含む。このように、インプラント上に複合コーティングが作製されてもよく、この場合、上層は数カ月のうちに吸収され、骨成長を刺激し、TiPまたはZrPの下層は、経時的に吸収されない安定した基材として機能する。
【0079】
本発明は、本明細書に開示される好ましい特徴のありとあらゆる組合せを含む。特に、コーティングされた基材のあらゆる好ましい特徴は、本発明の方法によって得ることができるコーティングされた基材の好ましい特徴でもある。
【0080】

以下は、本発明の非限定的な例である。
略語:
PBS-リン酸緩衝食塩水
Sa-表面の算術平均高さ
SBF-模擬体液
【0081】
例1a.ZrPコーティング分散体の製造
ビーカー1内で、以下の成分を混合してマイクロエマルジョンを形成した:
17.5g Pluronic L64(BASF)
53.75g p-キシレン(Sigma-Aldrich)
3.75g H
0.500g ZrCl(Sigma-Aldrich)
【0082】
ビーカー2内で、以下の成分を混合してマイクロエマルジョンを形成した:
17.5g Pluronic L64(BASF)
53.75g p-キシレン(Sigma-Aldrich)
3.75g H
0.495g HPO 85%(Fluka)
【0083】
ビーカー2の内容物をビーカー1に注ぎ、得られた混合物をマグネチックスターラー上に24時間置いた。得られた分散体は、わずかな濁りを伴う半透明であった。
【0084】
例1b.別のZrPコーティング分散体の製造
ビーカー1内で、以下の成分を混合してマイクロエマルジョンを形成した:
12.5g Triton X-100(Sigma-Aldrich)
3.1g 1-ヘキサノール(Sigma-Aldrich)
23.5g シクロヘキサン
3.40ml H
0.626g ZrOCl*8H
【0085】
ビーカー2内で、以下の成分を混合してマイクロエマルジョンを形成した:
12.5g Triton X-100(Sigma-Aldrich)
3.1g 1-ヘキサノール(Sigma-Aldrich)
23.5g シクロヘキサン
3.40ml H
0.448g HPO 85%(Fluka)
【0086】
ビーカー2の内容物をビーカー1に注ぎ、得られた混合物をマグネチックスターラー上に24時間置いた。得られた分散体は半透明でわずかに濁っていた。
【0087】
例2.TiPコーティング分散体の製造
ビーカー1内で、以下の成分を混合して溶液を形成した:
17.5g Pluronic L64(BASF)
53.75g p-キシレン(Sigma-Aldrich)
0.500g チタンイソプロポキシド(Sigma-Aldrich)
【0088】
ビーカー2内で、以下の成分を混合してマイクロエマルジョンを形成した:
17.55g Pluronic L64(BASF)
53.75g p-キシレン(Sigma-Aldrich)
7.5g H
0.406g HPO 85%(Fluka)
【0089】
ビーカー2の内容物をビーカー1に注ぎ、得られた混合物をマグネチックスターラー上に24時間置いた。得られた分散体は、わずかな濁りを伴う半透明であった。
【0090】
例3a.チタンディスク上へのナノサイズのZrPコーティングの塗布
グレード400のサンドペーパーを用いて、直径6mm及び厚さ2mmのチタンディスクを粗面化し、次いで、イソプロパノール、1 M HNO及び水で洗浄した。スピンコーティング装置上にディスクを置き、その後、例1aで調製した85μlのコーティング分散体を加えた。次いで、スピンコーティング装置を使用して、ディスクを2200rpmで3秒間回転させた。ディスクを室温で乾燥させ、その後、酸素富化雰囲気中で450℃に設定した炉内に5分間置いた。熱処理後、ディスクを室温まで冷却し、SEM及びXPSにより分析した。コーティングされたディスクのSEM画像を図1aに示す(スケールバー=200nm)。この高倍率画像から分かるように、コーティングは多孔質の外観を有し、細孔径は10~30nmである。
【0091】
例3b.チタンディスク上へのナノサイズのZrPコーティングの塗布
異なる組成を有するコーティング分散体の外観を調べるために、グレード400のサンドペーパーを用いて、直径6mm及び厚さ2mmのチタンディスクを粗面化し、次いで、イソプロパノール、1 M HNO及び水で洗浄した。スピンコーティング装置上にディスクを置き、その後、例1bで調製した85μlのコーティング分散体を加えた。次いで、スピンコーティング装置を使用して、ディスクを2200rpmで3秒間回転させた。ディスクを室温で乾燥させ、その後、酸素富化雰囲気中で450℃に設定した炉内に5分間置いた。熱処理後、ディスクを室温まで冷却し、SEM及びXPSにより分析した。コーティングされたディスクのSEM画像を図1bに示す(スケールバー=200nm)。この画像から分かるように、コーティングは、例1aに記載したコーティング分散体と同様の外観を有する。
【0092】
例4.チタンディスク上へのナノサイズのTiPコーティングの塗布
例3に従って、直径6mm及び厚さ2mmのチタンディスクを粗面化し、洗浄した。スピンコーティング装置上にディスクを置き、その後、例2で調製した85μlのコーティング分散体を加えた。次いで、スピンコーティング装置を使用して、ディスクを3000rpmで10秒間回転させた。例3aに従ってディスクを熱処理した。ディスクを室温まで冷却し、SEM及びXPSにより分析した。コーティングされたディスクのSEM画像を図2に示す(スケールバー=100nm)。見て分かるように、コーティングはZrPコーティングと同様の外観を有し、多孔質のフォーム状構造を有する。細孔径は、ZrPコーティングと同じ範囲である。この画像の上部には機械加工による縞模様が見え、興味深いことに、これらのパターンはコーティングされた部分に続き、コーティングが、下にあるトポグラフィーに追従することを示している。
【0093】
例5.PEEKスクリュー上へのナノサイズのZrPコーティングの塗布
吸収性ブラスト媒体(ヒドロキシアパタイト、RBM WAS 180-300,MedicalGroup Corp,France)を用いて、直径3.5mm及び長さ4mmのPEEKスクリュー(PEEK-Optima(Invibio Ltd)から機械加工した)を1.1μmの粗さ(Sa)までブラストした。ブラスト前の粗さは0.55μm(Sa)であった。RBM媒体を溶解し、インプラントの上に例1aで調製した85μlのコーティング分散体を塗布することによりインプラントをコーティングし、スピンコーティング装置上で2500rpm及び5秒間回転させた。インプラントスクリューを室温で乾燥させ、その後、酸素富化雰囲気中で340℃に設定した炉内に5分間置いた。熱処理後、スクリューを室温まで冷却し、SEM及びXPSにより分析した。低倍率(40X)及び高倍率(40000X)でのコーティングされたスクリューのSEM画像を図3に示す。低倍率(上の画像、スケールバー200μm)では、コーティングは見えず、このサイズレベルではトポグラフィーが変化しないことが分かる。高倍率(下の画像、スケールバー200nm)では、コーティングは基材の上の多孔質層として見ることができる。
【0094】
例6.ZrPコーティングの接着性及び耐酸性の調査
例5で使用したパラメータに従って、直径3.5mm及び4mmの機械加工されたPEEKスクリューをコーティングした。水200mlのビーカーにスクリューの一群を浸漬し、5分間超音波処理した。pH4の酢酸200mlのビーカーに別の群を浸漬した。スクリューを洗浄し、乾燥させ、XPSにより分析した。この測定結果を図4に示す(XPSを用いて測定したZrPの総量、ZrとPとの原子%の合計として計算)。この図が示すように、ZrPコーティングは、超音波処理、または酸性pHへの曝露による影響を受けなかった。
【0095】
例7.ZrPコーティングの無機化特性の調査
例3aに記載されているように、直径6mm及び厚さ2mmのチタンディスク及びPEEKディスクを粗面化し、洗浄した。例3aに記載されたパラメータを使用して、チタンディスクをコーティングした。2500rpmで3秒間、325℃の温度で5分間、酸素雰囲気中で回転させてPEEKディスクをコーティングした。次いで、PAA Cell Culture Company製のCa&Mgを含むダルベッコのPBS(1x)(模擬体液)にディスクを浸漬した。24時間後、SBF浴からディスクを取り出し、タイプ1(超純)水で十分にすすいだ。ディスクを乾燥させ、次いで、XPSにより分析した。XPSを用いて測定した様々なサンプルのカルシウム量を図5に示す。この図から分かるように、未処理のPEEKではカルシウムは検出されなかった。ZrPコーティングディスクでは、2.8%のカルシウムが検出された。比較として、チタンディスクもこの試験に含め、これらのディスクのカルシウム量は、ZrPコーティングPEEKディスクに対して検出された量の約2倍であった(5.6%)。これは、PEEK基材上のZrPコーティングが、骨細胞成長に非常に重要であることが知られている特性である無機化を誘導する表面を生成することを示している。
【0096】
例8.模擬塩水に入れられたPEEKディスク上のZrPコーティングのコーティング安定性及び親水性の調査
例3aに従って、直径6mm及び厚さ2mmのPEEKディスクを粗面化し、洗浄した。例3aに記載されているようにZrPによりディスクの半分をコーティングし、残りの半分はコーティングせずに残し、対照サンプルとして使用した。24.615g/l NaCl、4.105g/l NaSO、11.06g/l MgCl・6HO及び1.558g/l CaCl・2HOを含む、天然海水の組成を模倣するように設計された食塩溶液にディスクを浸漬した。0.2M NaOH溶液を用いて、溶液をpH8に調整した。ZrPによりディスクの半分をコーティングし、残りの半分をコーティングせずに残し、対照サンプルとして使用した。1週間後及び2週間後、食塩溶液からディスクを取り出した。タイプ1水でディスクを洗浄し、乾燥させ、水接触角を分析した。この分析の結果を図6に示す。見て分かるように、食塩溶液に浸漬する前は、ZrPコーティングディスクは親水性であり、接触角は約45°であったが、非コーティングディスクは疎水性であり、接触角は約110°であった。コーティングディスクと非コーティングディスクとの接触角の差は、1週間後及び2週間後ではほぼ同じあった。コーティングディスクは親水性を維持し、接触角は45~50°であったのに対して、非コーティングディスクは疎水性であり、接触角は90~100°であった。これは、ZrPコーティングされたサンプルでは親水性が維持されたことを示している。
【0097】
例9.ZrPとHAとの組合せコーティングの調製
例3aに記載されるように、直径6mm及び厚さ2mmのPEEKディスクを粗面化し、洗浄した。スピンコーティング装置上にPEEKディスクを置き、その後、例1aに記載された75μlのコーティング分散体を加えた。スピンコーティング装置を使用して、ディスクを1300rpmで3秒間回転させた。ディスクを120℃で10分間乾燥させ、その後、室温で5分間冷却させた。続いて、空気供給雰囲気(air-fed atmosphere)中で325℃に設定した炉内にディスクを5分間置いた。熱処理後、ディスクを室温まで冷却した。
【0098】
コーティングされたPEEKを再びスピンコーティング装置上に置き、使用したコーティング分散体が国際公開第2005/123579号パンフレットの例2に記載された分散体であったことを除いて、上記のプロセスを繰り返した。熱処理後、ディスクを室温まで冷却し、XPSにより分析した。この分析は、微量のZrとともに8.8%のCaと5.5%のPとを示し、これはCaPコーティングがチタン基材の上に直接形成されたのと同様に挙動したことを示す。ディスクのSEM画像を図7に示す(スケールバー=500nm)。見て分かるように、HA層はZrP層の下にある構造に追従し、ZrPコーティングの上に均一な針状のHA結晶の薄い層を形成する。
【0099】
例10.ZrPコーティングPEEKインプラントのオッセオインテグレーション特性のインビボ試験
例5に従ってPEEKスクリューをブラストし、コーティングした。機械加工PEEKインプラント、ブラストPEEK及びZrPコーティングインプラントは、いずれも同じスクリュー形状のマクロ形状であり、その後7匹のウサギの脛骨に埋め込んだ。インプラントを6週間治癒させた後、動物を殺処分し、Tohnichiトルクゲージを用いてインプラントの除去トルクを測定した。様々な群の除去トルク値(Ncm単位)を図8に示す。ブラスト処理は、回転させたインプラントの6.9Ncmからブラストしたインプラントの9.1Ncmまでインプラントの固定強度を増加させたことが分かる。ZrPによりコーティングすると、固定強度が13.5Ncmに増加した。統計的有意性(Mann-Whitney U)は、ZrPコーティングスクリュー対ブラストスクリューではp(0.05)であった。これは、ZrPコーティングが、生体不活性PEEK表面をオッセオインテグレーションする表面に変換することを示している。
【0100】
例11.保管中の親水性の調査
熱処理のために酸素富化雰囲気中で450℃の温度を使用して、例1aに記載されたコーティング分散体を用いて、約1.0μm(Sa)の粗さを有する酸エッチングした歯科用インプラントをZrPによりコーティングした。第2の試験群では、国際公開第2005/123579号パンフレットに従って、同じタイプのインプラントをHAによりコーティングした。第3の試験群では、ZrP及びHAにより処理されたインプラントと同じ温度を使用して、同じタイプのインプラントを熱処理した。全インプラントをガラスバイアルに入れ、1、2、4、8及び12週間保管した。各期間の後、液体吸着を測定した。各インプラント及び各時間に別個のガラスバイアルを使用し、すなわち、液体吸着測定後、インプラントを廃棄した。下部3つのスレッドが水面下になるまで、タイプ1水を含むビーカー内にインプラントを下降させることにより、液体吸着を測定した。次いで、インプラントに30秒間水を吸着させ、その後インプラントを持ち上げて、インプラントのどの部分も水面に触れないようにした。次いで、インプラントを化学天秤に載せ、重量を記録した。液浸前後のインプラントの重量を比較することにより、吸着水の重量を計算することができた。これらの測定結果を図9に示す(●=熱処理済み(HT)、■=ZrPコーティング済み、▲=HAコーティング済み)。図9から分かるように、ZrP及びHAにより処理されたスクリューは、経時的に親水性を保持していた。熱処理されたスクリューは、最初は親水性であったが、この親水性は保管中に低下した。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9