(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】無線伝送システム
(51)【国際特許分類】
H04B 17/309 20150101AFI20240304BHJP
H04L 1/00 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
H04B17/309
H04L1/00 B
H04L1/00 E
(21)【出願番号】P 2021038605
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大季
(72)【発明者】
【氏名】仲田 樹広
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/090119(WO,A1)
【文献】特開2009-152877(JP,A)
【文献】特開2010-016638(JP,A)
【文献】特開2012-084996(JP,A)
【文献】特開2020-053787(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0268833(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/309
H04L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置から受信装置へ無線によりデータ伝送を行う無線伝送システムにおいて、
前記受信装置は、受信信号の受信品質を表す複数の指標に基づいてマージン特性が異なる複数のマージンを算出し、これら複数のマージンを各々のマージン特性に応じた比率で合成することで伝送マージンを算出することを特徴とする無線伝送システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線伝送システムにおいて、
前記受信装置は、前記伝送マージンを算出するために、受信信号強度に基づいて算出される第1のマージンと、変調誤差比に基づいて算出される第2のマージンと、相互情報量に基づいて算出される第3のマージンとを合成することを特徴とする無線伝送システム。
【請求項3】
請求項2に記載の無線伝送システムにおいて、
前記受信装置は、マージンが低い領域では前記第3のマージンが主となり、マージンが中程度の領域では前記第2のマージンが主となり、マージンが高い領域では前記第1のマージンが主となるように合成比率を調整することを特徴とする無線伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信装置から受信装置へ無線によりデータ伝送を行う無線伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
放送局では、FPU(Field Pickup Unit)と称する無線伝送装置を用いて、音声や映像を現場から放送局まで無線中継している。FPUは、送受信間に遮蔽物が無い良好な見通し環境や、見通し外で反射波が多く混入するような劣悪環境など、様々な伝搬環境で運用される。また、FPUは生中継で運用されることも多く、伝送エラーによる映像破綻が生じるとテレビの視聴に影響を与えてしまうため、伝送エラーが生じてはならない。そのため、伝送エラーまでの伝送マージンを正確に把握し、フェージングなどの急激な伝搬路変動にも耐えられるように、所定のマージンを確保しながら運用を行っている。
【0003】
伝送マージンの算出に関しては、これまでに種々の発明が提案されている。例えば、特許文献1には、受信信号から誤り訂正符号化の符号化ビットに対する対数尤度比を算出し、符号化ビットに対する対数尤度比に対して平均相互情報量を算出し、平均相互情報量と所要ビット誤り率を満たす復号部入力相互情報量もしくは復調物出力相互情報量から伝送マージンを算出する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】ARIB STD-B33 1.3版 テレビジョン放送番組素材伝送用可搬形OFDM方式デジタル無線伝送システム
【文献】ARIB STD-B71 1.0版 超高精細度テレビジョン放送番組素材伝送用可搬形マイクロ波帯OFDM方式デジタル無線伝送システム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
伝送マージンは、誤り訂正復号後のBER(Bit Error Rate)を用いて判断していることが多い。例えば、非特許文献1に記載されている無線規格では、誤り訂正方式として、畳み込み符号とRS符号の連接符号が用いられている。
図3に示すように、畳み込み符号はCNR対BER特性が緩やかなカーブを呈し、畳み込み復号後のBERが10
-4以下であれば、後続するRS復号によって疑似エラーフリーとなることが知られている。そのため、例えば、通常はBERを10
-6以下で伝送を行い、伝送破綻となる10
-4までの伝送マージンを確保しながら運用することが可能である。このように、BERを観測することで、伝送破綻までの伝送マージンを正確に把握することが可能である。
【0007】
しかしながら、非特許文献2に示すような新しいFPUの規格では、誤り訂正符号にLDPC(Low Density Parity Check)が用いられている。
図3に示すように、LDPCはBER特性のカーブが急峻である。そのため、伝送破綻寸前までBERはエラーフリーを示し、若干の伝送劣化により急減に伝送破綻にまで陥ってしまう。LDPCやターボ符号など、シャノン限界に肉薄する高度誤り訂正方式では、CNR対BER特性のカーブが急である。今後、シャノン限界に更に近づくような誤り訂正方式が開発されたとしても、BERカーブは更に急となる。このように、高度誤り訂正方式を用いた場合、BER特性を観測することによって正確な伝送マージンを把握することは困難である。
【0008】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、受信品質が低い状態から高い状態までの広い範囲でマージンを高精度に算出することが可能な無線伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、無線伝送システムを以下のように構成した。
すなわち、送信装置から受信装置へ無線によりデータ伝送を行う無線伝送システムにおいて、受信装置は、受信信号の受信品質を表す複数の指標に基づいてマージン特性が異なる複数のマージンを算出し、これら複数のマージンを各々のマージン特性に応じた比率で合成することで伝送マージンを算出することを特徴とする。
【0010】
ここで、受信装置は、伝送マージンを算出するために、受信信号強度(RSSI)に基づいて算出される第1のマージンと、変調誤差比(MER)に基づいて算出される第2のマージンと、相互情報量(MI)に基づいて算出される第3のマージンとを合成してもよい。
【0011】
また、受信装置は、マージンが低い領域では第3のマージンが主となり、マージンが中程度の領域では第2のマージンが主となり、マージンが高い領域では第1のマージンが主となるように合成比率を調整してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、受信品質が低い状態から高い状態までの広い範囲でマージンを高精度に算出することが可能な無線伝送システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る無線伝送システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図1の受信装置における合成部の構成例を示す図である。
【
図3】畳み込み符号及びLDPCのCNR対BER特性を示す図である。
【
図4】各マージンの合成について説明する図である。
【
図6】MI対α(MIの正規化微分値)の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る無線伝送システムの構成例を示してある。本例の無線伝送システムは、伝送データ(主に圧縮された映像と音声)の信号を送信する送信装置101と、その信号を受信する受信装置102とに大別されるFPUとして実装されている。
【0015】
FPU送信部である送信装置101は、符号化部103と、変調部104と、周波数変換部105と、増幅部106と、送信アンテナ107とを有する。FPU受信部である受信装置102は、受信アンテナ108と、LNA109と、AGC110と、周波数変換部111と、等化部112と、復調部114と、復号部114と、RSSI算出部115と、RSSIマージン算出部116と、MER算出部117と、MERマージン算出部118と、MI算出部119と、MIマージン算出部120と、合成部121と、表示部122とを有する。
【0016】
送信装置101は、伝送データを符号化部103に入力する。符号化部103は、伝送時の誤り訂正のために、伝送データに対して畳み込み符号、LDPC、ターボ符号などの誤り訂正符号化処理を施し、その結果のデータを変調部104に出力する。変調部104は、符号化部103から出力されたデータに対して、シングルキャリアやOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing;直交波周波数分割多重)などの変調処理を行い、その結果の信号を周波数変換部105に出力する。変調部104から出力された信号は、周波数変換部105にて空間伝送に使用する周波数へ変換され、増幅部106にて増幅され、送信アンテナ107から空間に送出される。
【0017】
空間に送出された信号は、受信装置102の受信アンテナ108で受信される。受信アンテナ108による受信信号は、LNA(Low-Noise Amplifier;低雑音増幅器)109にて増幅され、AGC(Automatic Gain Controller;自動利得制御器)110にて受信処理に適したレベルに調整される。AGC110でレベル調整された信号は、周波数変換部111にて受信信号処理を行うための周波数に変換され、等化部112へ出力される。等化部112は、空間伝送により生じた信号の歪を補償するための等化処理を行い、その結果の信号を復調部113へ出力する。
【0018】
復調部113は、等化処理後の信号から伝送データを推定するための処理を行い、その結果の信号を復号部114へ出力する。復号部114で用いられる信号としては、受信信号が符号“0”もしくは符号“1”の尤もらしさを示すLLR(Log Likelihood Ratio;対数尤度比)を用いることが多い。LLRは、その絶対値が大きいほど確からしいことを示す。復号部114は、符号化された方式に応じた復号処理を行って、伝搬路で生じたビット誤りを訂正する。
【0019】
以上の処理により、映像や音声のデータを誤りなく伝送することができる。しかしながら、前述したように、伝搬路の品質によってはデータのエラーが発生することがある。そこで、本発明の主眼である、エラーが発生するまでどれくらいの伝送マージンがあるかを算出するための方法について以下に説明する。
【0020】
詳細は後述するが、本システムでは、受信信号の受信品質を表す複数の指標に基づいて複数のマージンを算出し、これら複数のマージンを合成して伝送マージンを算出する。ここでは、RSSI(Received Signal Strength Indicator;受信信号強度)を用いて算出したRSSIマージンと、MER(Modulation Error Ratio;変調誤差比)を用いて算出したMERマージンと、MI(Mutual Information;相互情報量)を用いて算出したMIマージンとを合成することで、受信品質の非常に低い状態から高い状態まで広い範囲で高精度なマージンを算出する。
【0021】
最初に、RSSIを用いてマージンを算出する方法について説明する。RSSI算出部115には、現在のAGC110の制御値が入力される。RSSI算出部115は、AGC110の制御値とRSSIの関係をメモリに予め記憶しており、現在のAGC110の制御値に関してメモリを参照することで、RSSIを算出する。無線通信で用いる指標の数値は10-10 ~103 などと幅広い範囲であり、数値表現を扱い易くするために単位をdB(またはdBm)とすることが多く、上記のRSSIや後述するMERの単位もdBmやdBで表現している。このように、運用を行う上ではdBの単位が扱い易いため、マージンの単位もdBとしている。
【0022】
RSSI算出部115によって算出されたRSSIは、RSSIマージン算出部116に入力される。所要RSSIは、変調方式や符号化率などの伝送モードによって異なる。そこで、RSSIマージン算出部116は、伝送モード毎の所要RSSIをメモリに予め記憶しておき、現在のRSSIから所要RSSIを減算することで、RSSIマージンを算出する。算出されたRSSIマージンは、合成部121に出力される。
【0023】
RSSIマージン算出部116は、広い受信電界範囲でRSSIマージンを算出することができる。しかしながら、熱雑音以下の受信電界では、受信電界よりも熱雑音の電力の方が大きくなり、正確なRSSIを検出することができない、一方、BPSK(Binary Phase-Shift Keying)等にLDPCのような高性能な誤り訂正を組み合わせた方式の場合は、熱雑音以下の受信電界でもエラーフリーで伝送ができるため、そのような受信状態でもマージンを算出する必要がある。
【0024】
次に、MERを用いてマージンを算出する方法について説明する。MER算出部117には、復調部113にて生成された受信コンスタレーション信号が入力される。MERは、一般的には送信信号の変調精度を表す指標であるが、伝搬路を経由した受信信号の受信精度を表す指標としても用いられることが多い。MERは、下記の式(1)により算出される。すなわち、受信部での波形等化後の受信コンスタレーションをR(s)とし(ここで、sはサンプル番号を表す)、変調方式に基づいて判定した結果を理想的な送信信号であると仮定すると、受信コンスタレーションと判定結果の二乗誤差平均がMERとなる。
【0025】
【数1】
ここで、 ̄は平均を示し、DEC[ ]は所定の変調方式による判定関数を示す。MERの単位としてはdBが用いられることも多く、式(1)に示したMERをdB単位に変換することもある。
【0026】
MER算出部117によって算出されたMERは、MERマージン算出部118に入力される。所要MERは、所要RSSIと同様に、変調方式や符号化率などの伝送モードによって異なる。そこで、MERマージン算出部118は、伝送モード毎の所要MERをメモリに予め記憶しておき、現在のMERから所要MERを減算することで、MERマージンを算出する。算出されたMERマージンは、合成部121に出力される。
【0027】
MER算出の実装規模を削減するために、前述の判定には硬判定を用いることが多い。そのため、低マージンの領域では判定エラーが発生し、CNR対MERのカーブが緩やかになるという問題がある。また、予めシミュレーション等で得た結果を用いてMERを補正することは可能だが、精度が低いという問題がある。また、受信機の受信性能以上の領域では、MERが飽和してしまうため、正確なマージンが算出できないという問題もある。これは、周波数変換に用いられる周波数発振器の位相雑音や、受信器内部で発生する雑音電力の影響によりMERに限界が生じるためである。無線信号自体の仕様にもよるが、MERの限界は40dB程度である。そのため、所要CNR(あるいは所要MER)が30dBの変調方式を用いた場合、10dB以上のマージンを算出することは困難となる。
【0028】
最後に、MIを用いてマージンを算出する方法について説明する。MI算出部119には、復号部114で処理されるLLRが入力される。MI算出部119は、下記の式(2)を用いてMIの算出を行う。
【数2】
【0029】
LLRに基づいて算出されたMIは、復調受信信号の信頼性を示しており、“0”から“1”の範囲で表現される指標である。MIが“0”の場合は、符号誤りが多く、受信信号から何ら情報を得られていない状態を示し、MIが“1”の場合は、符号誤りが全くない状態を示している。MIマージン算出部120は、事前にMI対マージン特性をシミュレーション等で算出し、その結果を格納したテーブルをメモリに予め記憶しておき、MI算出部119で算出されたMIに関してメモリを参照することで、MIマージンを算出する。変調方式事に受信CNR対MI特性が異なり、また、符号化率毎に所要MIが異なるため、それぞれ個別にテーブルを用意しておく必要がある。
【0030】
MI対マージン特性は、所要CNR付近ではその傾きが急であるが、マージンが高い領域では傾きが緩やかなとなる。そのため、所要CNR付近ではマージンを高精度に算出することができるが、マージンが高い領域ではマージンの精度が低下する問題がある。MIマージン算出部120によって算出されたMIマージンは、合成部121に出力される。
【0031】
合成部121は、RSSIマージン算出部116、MERマージン算出部118、及びMIマージン算出部120によって算出された各マージンを、各々のマージン特性に応じた比率で合成する。合成部121によって合成されたマージンは、表示部122へ出力される。合成部121の処理については、
図2を用いて後述する。
【0032】
以上の3つのマージン算出方法についてのメリットとデメリットについて、(表1)~(表3)を参照して説明する。
(表1)には、受信電界レベルに対する各マージン算出方式の精度を示してある。受信電界「低」は、受信電界が熱雑音以下の状態を表しており、例えば、帯域幅が17.5MでNFが3dBであれば、受信電界レベルが約-100dBm以下の場合である。受信電界「高」は、例えば、受信MERが飽和し始める受信電界の状態を表しており、例えば、受信電界レベルが-60dBm以上の場合である。受信電界「中」は、受信電界レベルがこれらの中間の場合である。(表1)によれば、受信電界「低」ではRSSIマージンの精度が低く、受信電界「高」ではMEマージンの精度が低いことが分かる。
【0033】
【0034】
(表2)には、マージン領域に対する各マージン算出方式の精度を示してある。(表2)によれば、低マージン領域(例えば、5dB以下の領域)ではMIマージンが最も高精度となり、高マージン領域(例えば、10dB以上の領域)ではMI対マージンの傾きが緩やかとなるためにMIマージンの精度が低下する。一方、MERマージンは、低マージン領域の方が、MER算出時の判定エラーによりマージン精度が低下する。
【0035】
【0036】
以上のように、受信電界及びマージン領域に応じて、適切なマージン算出方式が異なる。(表3)には、受信電界及びマージン領域別の最適なマージン算出方式を示してある。(表3)に示すように、低マージン領域では、全ての受信電界領域でMIマージンを用いることが望ましく、中マージン領域では、全ての受信電界領域でMERマージンを用いることが望ましい。また、高マージン領域では、高受信電界領域ではRSSIマージンを用いることが望ましく、低受信電界領域や中受信電界領域ではMERマージンを用いることが望ましい。
【0037】
【0038】
合成部121では、前述したように、上記の3つのマージンを各々のマージン特性に応じた比率で合成することで、広範囲かつ高精度なマージンを算出する。本例では、マージンの合成を下記の式(3)に従って行う。
【数3】
【0039】
ここで、MG
RSSIはRSSIマージン、MG
MER はMERマージン、MG
MIはMIマージン、MG
Hybridは合成マージンである。また、α、βは各マージンの合成比率を定める係数である。
図4に示すように、αを変化させることで、低マージン領域ではMIマージンが主となり、中マージン領域ではMERマージンが主となるように制御し、更にβを変化させることで、高マージン領域ではRSSIマージンが主となるように制御する。
【0040】
次に、
図2を用いて、合成部121の内部処理について説明する。MI算出部119によって算出されたMIは、α算出部201に入力される。α算出部201は、入力されたMI値を用いてαの算出を行う。前述したように、αは、MIマージンとMERマージンの合成比率を定める値である。
【0041】
図5には、MI対マージン特性の例を示してある。
図5に示すように、MIが高い領域では傾きが急峻になっており、マージン算出精度が低下する。そのため、MIが高い領域では、MIマージンの重み付けを小さくして合成を行うことが望ましい。それを実現するための一例を、下記の式(4)に示す。
【0042】
【数4】
ここで、THR
MI_MAXは、MIマージンからMERマージンへの切り替えを行う最大のMIとし、THR
MI_MINは、MIマージンからMERマージンへの切り替えを行う最小のMIとする。
【0043】
その他にも、下記の式(5)に示すように、CNR対MI曲線の微分を行い、その最大値で正規化することで、αを算出する方法もある。算出結果であるMI対α(MIの正規化微分値)の特性の例を
図6に示す。
【数5】
【0044】
以上のようにして算出されたαは、α乗算部202にてMIマージンに乗算される。また、(1-α)乗算部203では、MERマージンに対して(1-α)が乗算される。それぞれの乗算結果は、加算器204にて加算され、β乗算部205に出力される。
【0045】
次に、βの算出について説明する。βは、MI-MER合成マージンと、RSSIマージンの合成比率を定める値である。MI-MER合成マージンとは、MIマージンとMERマージンとを合成したマージンである。MER算出部117より算出されたMERは、β算出部206に入力される。
図7には、MER対マージン特性(256QAM 符号化率5/6 LDPC)の例を示してある。
図7に示すように、マージンの低い領域と高い領域とで傾きが急峻なため、マージンの算出精度が低下する。前述したように、βは、MERが高い領域での合成比率を決定する値である。それを実現するためのβを算出する一例を、下記の式(6)に示す。
【0046】
【数6】
ここで、THR
MER_MAX は、MI-MER合成マージンからRSSIマージンへの切り替えを行う最大のMERであり、THR
MER_MIN は、MI-MER合成マージンからRSSIマージンへの切り替えを行う最小のMERである。
【0047】
以上のようにして算出されたβは、β乗算部205にてMI-MER合成マージンに乗算される。また、(1-β)乗算部207では、RSSIマージンに対して(1-β)が乗算される。それぞれの乗算結果は、加算器208にて加算される。この加算結果が、3つのマージンを合成して得られる伝送マージンとして、表示部121に表示される。
【0048】
以上に説明したように、本例の無線伝送システムでは、受信装置(FPU受信部)102が、受信信号の受信品質を表す複数の指標に基づいてマージン特性が異なる複数のマージンを算出し、これら複数のマージンを各々のマージン特性に応じた比率で合成することで伝送マージンを算出するように構成されている。具体的には、RSSIマージン算出部116が、RSSI算出部115により算出されたRSSIに基づいてRSSIマージンを算出し、MERマージン算出部118が、MER算出部117により算出されたMERに基づいてMERマージンを算出し、MIマージン算出部120が、MI算出部119により算出されたMIに基づいてMIマージンを算出し、合成部121が、これらマージンを各々のマージン特性に応じた比率で合成することで伝送マージンを算出している。
【0049】
これにより、受信品質のレベルに応じた適切なマージン特性を有するマージンを優先的に合成して伝送マージンを算出することができるため、受信品質が低い状態から高い状態までの広い範囲で伝送マージンを高精度に算出することが可能となる。従って、様々な受信状態や運用形態であっても、正確な伝送マージンを把握することができ、安定した運用を行うことが可能となる。
【0050】
ここで、上記の説明では、RSSIマージン、MERマージン、MIマージンの3つを、それぞれのメリットを活かしつつデメリットを補完し合う形で合成しているが、受信品質を表す他の指標に基づくマージンを更に合成してもよい。また、上記の各マージンのうちの2つだけを合成しても、比較的広い範囲で高精度に伝送マージンを算出することが可能である。
【0051】
以上、本発明について一実施形態に基づいて説明したが、本発明はここに記載された構成に限定されるものではなく、他の構成のシステムに広く適用することができることは言うまでもない。
また、本発明は、例えば、上記の処理に関する技術的手順を含む方法や、上記の処理をプロセッサにより実行させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0052】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。更に、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、送信装置から受信装置へ無線によりデータ伝送を行う無線伝送システムに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
101:送信装置、 102:受信装置、 103:符号化部、 104:変調部、 105:周波数変換部、 106:増幅部、 107:送信アンテナ、 108:受信アンテナ、 110:AGC、 111:周波数変換部、 112:等化部、 113:復調部、 114:復号部、 115:RSSI算出部、 116:RSSIマージン算出部、 117:MER算出部、 118:MERマージン算出部、 119:MI算出部、 120:MIマージン算出部、 201:α算出部、 202:α乗算部、 203:(1-α)乗算部、 204:加算器、 205:β乗算部、 206:β算出部、 207:(1-β)乗算部、 208:加算器