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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】検査システム、検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/14 20060101AFI20240304BHJP
   G01N 29/44 20060101ALI20240304BHJP
   G01M 17/08 20060101ALI20240304BHJP
   B61F 5/00 20060101ALI20240304BHJP
   B61K 13/00 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
G01N29/14
G01N29/44
G01M17/08
B61F5/00 Z
B61K13/00 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021046769
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146002
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】碓井 隆
(72)【発明者】
【氏名】高安 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】渡部 一雄
(72)【発明者】
【氏名】大西 敦郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博
(72)【発明者】
【氏名】砂押 貴光
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-096122(JP,A)
【文献】特開2015-204713(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0151964(US,A1)
【文献】国際公開第2007/007122(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01H 17/00
G01M 17/00-17/10
B61F 5/00-5/52
B61K 13/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査システムであって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサと、
前記1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定する位置標定部と、
を備え、
前記1以上のセンサは、前記複数の側梁と前記横梁のそれぞれに少なくとも1つ以上設置され、
前記位置標定部は、前記複数の側梁と前記横梁のそれぞれに設置された各センサによって検出された弾性波の特徴量に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定する
査システム。
【請求項2】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査システムであって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサと、
前記1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定する位置標定部と、
を備え、
前記複数の側梁は、第一の側梁と、第二の側梁であり、
前記1以上のセンサは、少なくとも前記第一の側梁、又は、前記第二の側梁のいずれかの両端部付近に設置され、
前記位置標定部は、前記第一の側梁、又は、前記第二の側梁のいずれかの両端部付近に設置された各センサで検出された弾性波の時刻差に基づいて、側梁において発生した弾性波の発生源位置を標定する
査システム。
【請求項3】
前記位置標定部は、前記両端部付近に設置された各センサのそれぞれで弾性波が検出された時刻又は弾性波の振幅の少なくともいずれかに基づいて、前記横梁から伝搬した弾性波を特定し、特定した前記横梁から伝搬した弾性波を除く弾性波に基づいて、前記側梁において発生した弾性波の発生源位置を標定する、
請求項に記載の検査システム。
【請求項4】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査システムであって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサと、
前記1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定する位置標定部と、
を備え、
前記1以上のセンサは、前記横梁の両端部付近に設置され、
前記位置標定部は、前記横梁の両端部付近に設置された各センサで検出された弾性波の時刻差に基づいて、横梁において発生した弾性波の発生源位置を標定する
査システム。
【請求項5】
前記位置標定部は、前記両端部付近に設置された各センサのそれぞれで弾性波が検出された時刻又は弾性波の振幅の少なくともいずれかに基づいて、側梁から伝搬した弾性波を特定し、特定した前記側梁から伝搬した弾性波を除く弾性波に基づいて、前記横梁において発生した弾性波の発生源位置を標定する、
請求項に記載の検査システム。
【請求項6】
前記横梁の両端部付近は、前記横梁と前記複数の側梁との連結部分である、
請求項4又は5に記載の検査システム。
【請求項7】
前記位置標定部により標定された弾性波の発生源位置に基づいて、前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかの劣化状態を評価する評価部をさらに備える、
請求項2から6のいずれか一項に記載の検査システム。
【請求項8】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査システムであって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサと、
前記1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定する位置標定部と、
を備え、
前記1以上のセンサによって検出された弾性波の特徴量を抽出する信号処理部と、
前記信号処理部によって抽出された前記弾性波の特徴量のデータを送信する無線送信部と、
前記信号処理部と前記無線送信部に給電する電源供給部と、
をさらに備え、
前記信号処理部、前記無線送信部及び前記電源供給部は前記台車に設置される
査システム。
【請求項9】
電源供給部は、前記台車の所定の位置に設置された振動発電機である、
請求項に記載の検査システム。
【請求項10】
前記振動発電機の固有振動数は、前記台車の1次曲げ固有振動数近傍である、
請求項に記載の検査システム。
【請求項11】
前記台車は、鉄道車両の台車であり、
前記振動発電機が設置された前記所定の位置は、前記鉄道車両を支持する空気ばね近傍、又は、軸箱直上位置近傍である、
請求項9又は10に記載の検査システム。
【請求項12】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査装置であって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定する位置標定部、
を備え
前記1以上のセンサは、前記複数の側梁と前記横梁のそれぞれに少なくとも1つ以上設置され、
前記位置標定部は、前記複数の側梁と前記横梁のそれぞれに設置された各センサによって検出された弾性波の特徴量に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定する検査装置。
【請求項13】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査装置であって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定する位置標定部、
を備え
前記複数の側梁は、第一の側梁と、第二の側梁であり、
前記1以上のセンサは、少なくとも前記第一の側梁、又は、前記第二の側梁のいずれかの両端部付近に設置され、
前記位置標定部は、前記第一の側梁、又は、前記第二の側梁のいずれかの両端部付近に設置された各センサで検出された弾性波の時刻差に基づいて、側梁において発生した弾性波の発生源位置を標定する検査装置。
【請求項14】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査装置であって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定する位置標定部、
を備え
前記1以上のセンサは、前記横梁の両端部付近に設置され、
前記位置標定部は、前記横梁の両端部付近に設置された各センサで検出された弾性波の時刻差に基づいて、横梁において発生した弾性波の発生源位置を標定する検査装置。
【請求項15】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査装置であって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定する位置標定部
前記1以上のセンサによって検出された弾性波の特徴量を抽出する信号処理部と、
前記信号処理部によって抽出された前記弾性波の特徴量のデータを送信する無線送信部と、
前記信号処理部と前記無線送信部に給電する電源供給部と、
を備え
前記信号処理部、前記無線送信部及び前記電源供給部は前記台車に設置される検査装置。
【請求項16】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査装置が行う検査方法であって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定し、
前記1以上のセンサは、前記複数の側梁と前記横梁のそれぞれに少なくとも1つ以上設置され、
前記複数の側梁と前記横梁のそれぞれに設置された各センサによって検出された弾性波の特徴量に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定する検査方法。
【請求項17】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査装置が行う検査方法であって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定し、
前記複数の側梁は、第一の側梁と、第二の側梁であり、
前記1以上のセンサは、少なくとも前記第一の側梁、又は、前記第二の側梁のいずれかの両端部付近に設置され、
前記第一の側梁、又は、前記第二の側梁のいずれかの両端部付近に設置された各センサで検出された弾性波の時刻差に基づいて、側梁において発生した弾性波の発生源位置を標定する検査方法。
【請求項18】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査装置が行う検査方法であって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定し、
前記1以上のセンサは、前記横梁の両端部付近に設置され、
前記横梁の両端部付近に設置された各センサで検出された弾性波の時刻差に基づいて、横梁において発生した弾性波の発生源位置を標定する検査方法。
【請求項19】
前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査装置が行う検査方法であって、
前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定し、
前記1以上のセンサによって検出された弾性波の特徴量を抽出する信号処理部と、前記信号処理部によって抽出された前記弾性波の特徴量のデータを送信する無線送信部に給電し、
前記信号処理部、前記無線送信部及び前記給電を行う電源供給部は前記台車に設置される検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検査システム、検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の観点から鉄道輸送に対する期待が高まっている。その一方で、鉄道車両の台車の損傷は重大な事故に繋がる可能性があり、台車そのものの健全性を監視するシステムが重要になってきている。しかしながら、従来の手法では、検査に時間を要してしまったり、損傷が大きくなった後でなければ検出することができない。損傷の初期段階で異常を捉えることができればより効果的な対策が期待でき、重大事故防止の観点からも望ましい。なお、上記に示す問題は、鉄道車両の台車に限らず、他の台車においても同様に生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2010-527828号公報
【文献】国際公開第2019/081770号
【非特許文献】
【0004】
【文献】鈴木 康文、長南 征二、阿久津、勝則、“鉄道車両の台車枠の曲げ剛性を考慮した台車振動解析”、 日本機械学会論文集 C編, 1997, 63 巻, 611 号, p. 2221-2228
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、損傷が大きくなる前段階で台車における異常を簡便に特定することができる検査システム、検査装置及び検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の検査システムは、前後方向へ伸びて、左右方向へ離間して配置される複数の側梁と、前記複数の側梁を連結する横梁とで構成される台車の検査を行うための検査システムである。検査システムは、1以上のセンサと、位置標定部とを持つ。1以上のセンサは、前記複数の側梁、又は、前記横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する。位置標定部は、前記1以上のセンサによって検出された前記弾性波に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定、又は、前記弾性波の発生源位置を標定する。前記1以上のセンサは、前記複数の側梁と前記横梁のそれぞれに少なくとも1つ以上設置され、前記位置標定部は、前記複数の側梁と前記横梁のそれぞれに設置された各センサによって検出された弾性波の特徴量に基づいて、前記弾性波が発生した梁を特定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態における台車の一例を示す図。
図2】実施形態における弾性波伝搬モデルの一例を示す図。
図3】第1の実施形態におけるセンサの配置例を示す図。
図4】第1の実施形態における検査システムの構成を表す図。
図5】第1の実施形態における信号処理部の機能を表す概略ブロック図。
図6】第1の実施形態における検査システムの処理の流れを示すシーケンス図。
図7】第2の実施形態におけるセンサの配置例を示す図。
図8】第2の実施形態における検査システムの構成を表す図。
図9】第2の実施形態における検査装置が行う処理の流れを示すフローチャート。
図10】従来手法を用いて標定を行った実験結果と、第2の実施形態における手法を用いて標定を行った実験結果とを表す図。
図11】第3の実施形態におけるセンサの配置例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の検査システム、検査装置及び検査方法を、図面を参照して説明する。
【0009】
(概要)
実施形態における検査システムは、鉄道車両の台車の検査を行うためのシステムである。鉄道車両の台車の検査とは、例えば台車の損傷や損傷などの異常が発生していると推定される位置の特定及び損傷の有無の特定である。実施形態における検査システムでは、鉄道車両の台車の検査に、台車で発生する弾性波を用いる。鉄道台車においては、台車への荷重負荷が印加されたときに、主に構造部材間の溶接部で発生する微小な欠陥から弾性波が発生する。そこで、実施形態における検査システムでは、台車に設置した1以上のセンサにおいて、台車への荷重負荷印加時に発生する弾性波を検出し、検出した弾性波に基づいて、少なくとも弾性波の発生源(以下「弾性波源」という。)の梁の特定又は弾性波源の位置標定を行う。ここで、弾性波源の梁とは、弾性波が発生している梁であって、側梁又は横梁の少なくともいずれかである。
【0010】
鉄道車両の台車1は、図1に示すように、一般的に、鉄道車両の前後方向へ伸びて、鉄道車両の左右方向へ離間して配置される1対2本の側梁2-1~2-2と、2本の側梁2-1~2-2を連結する横梁3と、複数の車輪Wとで構成される(参考文献1~3参照)。なお、以下の説明において側梁2-1~2-2を特に区別しない場合には、側梁2と記載する。鉄道車両の前後方向とは、鉄道車両の長手方向である。鉄道車両の左右方向とは、鉄道車両の長手方向に垂直な方向である。側梁2-1~2-2と、横梁3それぞれの部位には、電動機や、鍛造部品などが溶接により接続されている。
(参考文献1:特開2020-163883号公報)
(参考文献2:特開2019-130982号公報)
(参考文献3:特開2018-75954号公報)
【0011】
実施形態における検査システムで検査を行うにあたり、3次元的に複雑な構造を有する鉄道車両の台車1を、弾性波源の梁の特定又は弾性波源の位置標定という目的の元に単純化することを考える。側梁2と横梁1との接続部分は、溶接により接続されている。そのため、側梁2と横梁1との接続部分である溶接部においては、形状の不連続性により反射などが発生して信号が減衰する。例えば、溶接部ではおよそ20dBほど信号が減衰する。以下の説明では、溶接部では信号が20dB減衰するものとして説明する。この点を踏まえ、台車1を図2に示すように単純化する。以下、図2に示すモデルを弾性波伝搬モデルと記載する。図2は、実施形態における弾性波伝搬モデルの一例を示す図である。
【0012】
図2に示すように、側梁2は台車1の前後方向に延びる1次元要素に単純化し、横梁3は台車1の左右方向へ伸びる1次元要素に単純化する。2本の側梁2-1,2-2は、中央付近で横梁3により接続される。さらに、側梁2と横梁3との接点においては、20dBの信号減衰を加える溶接部4を設けることで、より精度の高い解析が可能になる。その結果、図1に示した台車1は“H”字の構造に単純化することができる。実施形態における検査システムでは、複雑な形状の台車1を単純化した弾性波伝搬モデルを加味して台車1の検査を行う。
以下、検査システムの具体的な構成について説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図3は、第1の実施形態におけるセンサ10の配置例を示す図である。
図3に示すように第1の実施形態では、センサ10を側梁2-1,2-2と、横梁3のそれぞれ1つ設置するものとする。側梁2-1上に設置したセンサ10をセンサ10-1、側梁2-2上に設置したセンサ10をセンサ10-2、横梁3上に設置したセンサ10をセンサ10-3とする。なお、各センサ10-1,10-2,10-3の設置位置は、図3に示す場所に限られず、各センサ10-1,10-2,10-3が設置された梁上であればどの位置であってもよい。さらに、側梁2-1と横梁3との溶接部を溶接部4-1、側梁2-2と横梁3との溶接部を溶接部4-2とする。
【0014】
図4は、第1の実施形態における検査システム100の構成を表す図である。検査システム100は、複数のセンサ10-1~10-n(nは2以上の整数)、信号処理部20、無線通信部30、電源供給部40及び検査装置50を備える。センサ10-1~10-nと信号処理部20とは、有線により通信可能に接続される。第1の実施形態において、センサ10-1~10-n、信号処理部20、無線通信部30及び電源供給部40は、台車1で発生した弾性波を検出する検出装置として構成される。なお、以下の説明において、センサ10-1~10-nを特に区別しない場合にはセンサ10と記載する。
【0015】
センサ10は、台車1に設置される。信号処理部20、無線通信部30及び電源供給部40は、台車1に設置されてもよいし、鉄道車両に搭載されてもよいし、車輪Wに搭載されてもよい。検査装置50は、検出装置と同じ場所に設けられてもよいし、検出装置が設置されている場所と異なる場所(例えば、検査システム100の管理者がいる管理所等)に設けられてもよい。
【0016】
センサ10は、台車1において発生した弾性波を検出する。より具体的には、センサ10は、台車1を構成する側梁2又は横梁3の少なくともいずれかにおいて発生した弾性波を検出する。センサ10は、検出した弾性波を電気信号に変換する。
【0017】
センサ10には、例えば10kHz~1MHzの範囲に感度を有する圧電素子が用いられる。センサ10としてより好適なものは、100kHz~200kHzに感度を有する圧電素子である。センサ10は、周波数範囲内に共振ピークをもつ共振型、共振を抑えた広帯域型等の種類があるが、センサ10の種類はいずれでもよい。センサ10が弾性波13を検出する方法は、電圧出力型、抵抗変化型及び静電容量型等があるが、いずれの検出方法でもよい。センサ10は、増幅器を内蔵していてもよい。
【0018】
センサ10に代えて加速度センサが用いられてもよい。この場合、加速度センサは、台車1において発生した弾性波を検出する。加速度センサは、センサ10と同様の処理を行うことによって、検出した弾性波を電気信号に変換する。
【0019】
信号処理部20は、センサ10から出力された電気信号を入力とする。信号処理部20は、入力した電気信号に対して信号処理を行う。信号処理部20が行う信号処理は、例えば、ノイズ除去、到達時刻の決定、パラメータ抽出等である。信号処理部20は、信号処理により得られた弾性波の特徴量のデータを送信データとして無線通信部30に出力する。
【0020】
信号処理部20は、アナログ回路又はデジタル回路を用いて構成される。デジタル回路は、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やマイクロコンピュータにより実現される。不揮発型のFPGAを用いることで、待機時の消費電力を抑えることができる。デジタル回路は、専用のLSI(Large-Scale Integration)により実現されてもいい。信号処理部20は、フラッシュメモリ等の不揮発メモリや、取り外し可能なメモリを搭載してもよい。
【0021】
無線通信部30は、信号処理部20から出力された送信データを、所定のタイミングで検査装置50に送信する。
【0022】
電源供給部40は、信号処理部20及び無線通信部30に電源を供給する。電源供給部40は、自立電源であることが好ましい。電源供給部40は、例えば1次電池、帰線電流による二次電池の充電又は振動発電機に代表されるエナジーハーベスタを利用する装置である。
【0023】
なお、電源供給部40としては、振動発電機を用いることがより好ましい。振動発電機は、台車の所定の位置に設置され、台車の上下振動を利用して発電する。これにより、電池交換が不要でかつ配線を台車上で完結することができ、設置コストを低減することができる。振動発電機における可動子の固有振動数が、設置する台車枠の固有振動周波数±10%の範囲に含まれるように構成することで、より大きな発電量が得られる。特に振動発電機における可動子の固有振動数が台車枠の1次曲げ固有振動数近傍に設定されることが望ましい。台車枠の1次曲げ固有振動数は、台車加速度のスペクトルのうち、低周波側から数えて2番目の卓越周波数付近に相当する。例えば、台車枠の1次曲げ固有振動数は、40Hz近傍であることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。所定の位置は、側梁2の中央部近傍もしくは両端部近傍であることが望ましい。側梁2の中央部近傍とは、鉄道車両を支持する空気ばね近傍、側梁2の両端部近傍とは軸箱直上位置近傍を含む。
【0024】
検査装置50は、無線通信部30から送信された所定期間分の送信データを用いて、台車1の検査を行う。第1の実施形態における検査装置50では、無線通信部30から送信された所定期間分の送信データを用いて、弾性波が発生した梁を特定する。
【0025】
図5は、第1の実施形態における信号処理部20の機能を表す概略ブロック図である。信号処理部20は、フィルタ21、A/D変換器22、波形整形フィルタ23、ゲート生成回路24、到達時刻決定部25、特徴量抽出部26、送信データ生成部27、メモリ28及び出力部29を備える。
【0026】
フィルタ21では、センサ10から出力された電気信号において信号帯域以外のノイズ成分が除去される。フィルタ21は、例えばバンドパスフィルタ(BPF:Band pass filter)である。
【0027】
A/D変換器22は、ノイズ成分が除去された電気信号を量子化してデジタル信号に変換する。A/D変換器22は、デジタル信号を波形整形フィルタ23に出力する。
【0028】
波形整形フィルタ23は、入力された時系列データのデジタル信号から所定の信号帯域外のノイズ成分を除去する。波形整形フィルタ23は、例えばバンドパスフィルタ(BPF)である。波形整形フィルタ23は、例えばフィルタ21と同じ周波数帯域を通過させるように設定されているものとする。波形整形フィルタ23は、ノイズ成分除去後の信号(以下「ノイズ除去信号」という。)をゲート生成回路24及び特徴量抽出部26に出力する。
【0029】
ゲート生成回路24は、波形整形フィルタ23から出力されたノイズ除去信号を入力とする。ゲート生成回路24は、入力したノイズ除去信号に基づいてゲート信号を生成する。ゲート信号は、ノイズ除去信号の波形が持続しているか否かを示す信号である。
【0030】
ゲート生成回路24は、例えばエンベロープ検出器及びコンパレータにより実現される。エンベロープ検出器は、ノイズ除去信号のエンベロープを検出する。エンベロープは、例えばノイズ除去信号を二乗し、二乗した出力値に対して所定の処理(例えばローパスフィルタを用いた処理やヒルベルト変換)を行うことで抽出される。コンパレータは、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値以上であるか否かを判定する。
【0031】
ゲート生成回路24は、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値以上となった場合、ノイズ除去信号の波形が持続していることを示す第1のゲート信号を到達時刻決定部25及び特徴量抽出部26に出力する。一方、ゲート生成回路24は、ノイズ除去信号のエンベロープが所定の閾値未満になった場合、ノイズ除去信号の波形が持続していないことを示す第2のゲート信号を到達時刻決定部25及び特徴量抽出部26に出力する。
【0032】
到達時刻決定部25は、不図示の水晶発振器などのクロック源から出力されるクロックと、ゲート生成回路24から出力されたゲート信号とを入力とする。到達時刻決定部25は、第1のゲート信号が入力されている間に入力されたクロックを用いて、弾性波到達時刻を決定する。到達時刻決定部25は、決定した弾性波到達時刻を時刻情報として送信データ生成部27に出力する。到達時刻決定部25は、第2のゲート信号が入力されている間に処理を行わない。到達時刻決定部25は、クロック源からの信号をもとに、電源投入時からの累積の時刻情報を生成する。具体的には、到達時刻決定部25は、クロックのエッジをカウントするカウンタとし、カウンタのレジスタの値を時刻情報とすればよい。カウンタのレジスタは所定のビット長を有するように決定される。
【0033】
特徴量抽出部26は、波形整形フィルタ23から出力されたノイズ除去信号と、ゲート生成回路24から出力されたゲート信号とを入力とする。特徴量抽出部26は、第1のゲート信号が入力されている間に入力されたノイズ除去信号を用いて、ノイズ除去信号の特徴量を抽出する。特徴量抽出部26は、第2のゲート信号が入力されている間に処理を行わない。特徴量は、ノイズ除去信号の特徴を示す情報である。
【0034】
特徴量は、例えば波形の振幅[mV]、波形の立ち上がり時間[usec]、ゲート信号の持続時間[usec]、ゼロクロスカウント数[times]、波形のエネルギー[arb.]、周波数[Hz]及びRMS(Root Mean Square:二乗平均平方根)値等である。特徴量抽出部26は、抽出した特徴量に関するパラメータを送信データ生成部27に出力する。特徴量抽出部26は、特徴量に関するパラメータを出力する際に、特徴量に関するパラメータにセンサIDを対応付ける。センサIDは、台車1に設置されているセンサ10を識別するための識別情報を表す。これにより、特徴量に関するパラメータが、どのセンサ10により検出された弾性波の特徴量であるのかを特定することができる。
【0035】
波形の振幅は、例えばノイズ除去信号の中で最大振幅の値である。波形の立ち上がり時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始からノイズ除去信号が最大値に達するまでの時間T1である。ゲート信号の持続時間は、例えばゲート信号の立ち上がり開始から振幅が予め設定される値よりも小さくなるまでの時間である。ゼロクロスカウント数は、例えばゼロ値を通る基準線をノイズ除去信号が横切る回数である。
【0036】
波形のエネルギーは、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗したものを時間積分した値である。なお、エネルギーの定義は、上記例に限定されず、例えば波形の包絡線を用いて近似されたものでもよい。周波数は、ノイズ除去信号の周波数である。RMS値は、例えば各時点においてノイズ除去信号の振幅を二乗して平方根により求めた値である。
【0037】
送信データ生成部27は、センサIDと、時刻情報と、特徴量に関するパラメータとを入力とする。送信データ生成部27は、入力したセンサIDと、時刻情報と、特徴量に関するパラメータとを含む送信データを生成する。送信データ生成部27は、生成した送信データをメモリ28に記録してもよいし、メモリ28に記録せずに出力部29に出力してもよい。
【0038】
メモリ28は、送信データを記憶する。メモリ28は、例えばデュアルポートRAM(Random Access Memory)である。
【0039】
出力部29は、メモリ28に記憶されている送信データ、又は、送信データ生成部27から出力された送信データを無線通信部30に逐次出力する。
【0040】
図4に戻って説明を続ける。
検査装置50は、無線通信部51、制御部52、記憶部53及び表示部54を備える。
【0041】
無線通信部51は、無線通信部30から送信された送信データを受信する。無線通信部51は、受信した送信データを制御部52に出力する。
【0042】
制御部52は、検査装置50全体を制御する。制御部52は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部52は、プログラムを実行することによって、取得部521、イベント抽出部522及び位置標定部523として機能する。
【0043】
取得部521、イベント抽出部522及び位置標定部523の機能部のうち一部または全部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)、FPGAなどのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0044】
取得部521、イベント抽出部522及び位置標定部523の機能の一部は、予め検査装置50に搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムが検査装置50にインストールされることで実現されてもよい。
【0045】
取得部521は、各種情報を取得する。例えば、取得部521は、無線通信部51によって受信された送信データを取得する。取得部521は、取得した送信データを記憶部53に保存する。
【0046】
イベント抽出部522は、記憶部53に記憶されている送信データの中から1イベントにおける送信データを抽出する。イベントとは、台車1で起こった弾性波発生事象を表す。本実施形態における弾性波発生事象は、台車1に対する加重である。例えば、鉄道車両において、台車1には少なくとも台車1に設けられている車体の重さによる荷重が加わる。1回のイベントが発生した場合、複数のセンサ10で略同時刻に弾性波が検出されることになる。すなわち、記憶部53には、略同時刻に検出された弾性波に関する送信データが記憶されていることになる。そこで、イベント抽出部522は、所定の時間窓を設け、到達時刻が時間窓の範囲内に存在する全ての送信データを1イベントにおける送信データとして抽出する。イベント抽出部522は、抽出した1イベントにおける送信データを位置標定部523に出力する。以下、所定の時間窓を設けて1イベントにおける送信データを抽出する方法を第1の抽出方法と記載する。
【0047】
時間窓の範囲Twは、対象とする台車1における弾性波伝搬速度vと、最大のセンサ間隔dmaxを用いて、Tw≧dmax/vの範囲になるように決定してもよい。誤検出を避けるためには、Twをできるだけ小さい値に設定することが望ましいため、実質的にはTw=dmax/vとすることができる。弾性波伝搬速度vは、予め求められていてもよい。
【0048】
弾性波伝搬速度vは、予め用意されたルックアップテーブルを用いてもよい。材料中を伝わる弾性波伝搬速度vは、材質の体積弾性率k(Pa)と、密度ρ(kg/m3)を用いて、以下の式(1)のように表すことができる。
【0049】
【数1】
【0050】
3次元体で考えるとせん断弾性率Gを考慮して、弾性波伝搬速度vは以下の式(2)に基づいて計算することができる。
【0051】
【数2】
【0052】
このことは、伝搬速度が材料固有の物性値であるk、密度ρのみで決定されることを意味している。したがって、材料に対して予め伝搬速度を計算しておき、ルックアップテーブルを用意することができる。位置標定部523において伝搬速度を選択する際に、ルックアップテーブルを参照し、材料に応じて適切な伝搬速度を選択することが可能となる。
【0053】
なお、イベント抽出部522は、送信データに含まれるパラメータ間の類似度を計算することで、1イベントにおける送信データを抽出してもよい。具体的には、イベント抽出部522は、類似度が所定の閾値以上となる送信データを同一の発生源から発生した弾性波から得られたデータとする。類似度の算出には、例えば標準ユークリッド距離、ミンコフスキー距離、マハラノビス距離が用いられてもよい。以下、パラメータ間の類似度を計算して1イベントにおける送信データを抽出する方法を第2の抽出方法と記載する。
【0054】
位置標定部523は、イベント抽出部522によって抽出された1イベントにおける複数の送信データそれぞれに含まれるセンサID及び波形の振幅の情報と、センサ位置情報と、弾性波伝搬モデルとに基づいて弾性波が発生した梁を特定する。
【0055】
センサ位置情報には、センサIDに対応付けてセンサ10の設置位置に関する情報が含まれる。センサ位置情報は、例えば検査対象となっている台車1の弾性波伝搬モデル上の位置情報であってもよいし、台車1の特定位置からの水平方向および垂直方向の距離など等の情報であってもよい。
【0056】
記憶部53は、取得部521によって取得された送信データ、弾性波伝搬モデル及びセンサ位置情報を記憶する。記憶部53は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。
【0057】
表示部54は、制御部52の制御に従って情報を表示する。例えば、表示部54は、位置標定部523による特定結果を表示する。表示部54は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の画像表示装置である。表示部54は、画像表示装置を検査装置50に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、表示部54は、特定結果を表示するための映像信号を生成し、自身に接続されている画像表示装置に映像信号を出力する。
【0058】
図6は、第1の実施形態における検査システム100の処理の流れを示すシーケンス図である。
各センサ10は、弾性波を検出する(ステップS101)。各センサ10は、検出した弾性波を電気信号に変換して信号処理部20に出力する。信号処理部20は、各センサ10から出力された各電気信号に対して信号処理を行う(ステップS102)。具体的には、信号処理部20は、各電気信号に対してノイズ除去、到達時刻の決定、パラメータ抽出等の信号処理を行う。信号処理部20は、上記の信号処理をセンサ10から電気信号が得られる度に実行する。
【0059】
信号処理部20は、信号処理後のデータを用いてセンサ10毎の送信データを生成する(ステップS103)。信号処理部20は、生成したセンサ10毎の送信データを無線通信部30に出力する。ここで、信号処理部20は、送信データを生成する度に無線通信部30に出力してもよいし、ある期間分の送信データを生成したタイミングでまとめて無線通信部30に出力してもよい。無線通信部30は、信号処理部20から出力された送信データを無線により検査装置50に送信する(ステップS104)。
【0060】
検査装置50の無線通信部51は、無線通信部30から送信された送信データを受信する。取得部521は、無線通信部51によって受信された送信データを取得する。取得部521は、取得した送信データを記憶部53に記録する(ステップS105)。イベント抽出部522は、記憶部53に記憶されている1イベントにおける複数の送信データを抽出する(ステップS106)。例えば、イベント抽出部522は、第1の抽出方法又は第2の抽出方法のいずれかの方法で1イベントにおける送信データを抽出する。イベント抽出部522は、抽出した1イベントにおける送信データを位置標定部523に出力する。
【0061】
位置標定部523は、1イベントにおける送信データそれぞれに含まれるセンサID及び波形の振幅の情報と、記憶部53に記憶されているセンサ位置情報及び弾性波伝搬モデルとに基づいて弾性波が発生した梁を特定する(ステップS107)。弾性波が発生した梁の特定方法について図3を用いて説明する。なお、センサ10の配置は、図3に示す配置とする。一例として、側梁2-1に損傷があり、側梁2-1で弾性波が発生したことを想定する。
【0062】
上記の想定の場合、側梁2-1上に設置したセンサ10-1では減衰の影響をほとんど受けずに弾性波を検出することができる。一方で、横梁3上に設置したセンサ10-3では、溶接部4-1を介して弾性波を検出することになる。そのため、センサ10-3では、弾性波源における振幅よりもおよそ20dB減衰した弾性波が検出されることになる。さらに、側梁2-2上に設置したセンサ10-2では、センサ10-3で検出される弾性波よりもさらに20dB(弾性波源からは累計40dB)減衰した弾性波が検出されることになる。この場合、側梁2-1上に設置されたセンサ10-1で検出された弾性波の振幅が最も大きくなる。一般的に、弾性波は微弱である。そのため、40dB減衰した弾性波は、雑音レベル以下に低下している可能性があり、検出が困難になる。このように、台車1では、特有の現象が発生する。
【0063】
位置標定部523は、各センサ10(例えば、センサ10-1~10-3)で検出された弾性波の振幅の情報に基づいて、振幅が最も高い弾性波を検出したセンサ10が設置されている梁を、弾性波が発生した梁として特定する。より具体的には、まず位置標定部523は、振幅の情報を用いて、振幅が最も高い弾性波を検出したセンサ10を決定する。次に位置標定部523は、振幅の情報に対応付けられているセンサIDと、センサ位置情報とを用いて、振幅が最も高い弾性波を検出したセンサ10の配置位置を特定する。位置標定部523は、弾性波伝搬モデルにより、各センサ10が台車1のどの位置(例えば、どの梁)に配置されているのかを把握できるため、振幅が最も高い弾性波を検出したセンサ10の配置位置に基づいて弾性波が発生した梁を特定することができる。
【0064】
なお、側梁2-2又は横梁3に損傷がある場合にも、同様の処理を行うことで特定することができる。例えば、横梁3に損傷があり、横梁3で弾性波が発生したとする。この場合、横梁3上に設置されているセンサ10-3では減衰の影響をほとんど受けずに弾性波を検出することができる。一方で、側梁2-1上に設置したセンサ10-1及び側梁2-2上に設置したセンサ10-2ではそれぞれ、溶接部4-1又は4-2を介して弾性波を検出することになる。そのため、センサ10-1及び10-2では、弾性波源における振幅よりもおよそ20dB減衰した弾性波が検出されることになる。この場合、横梁3上に設置されているセンサ10-3で検出された弾性波の振幅が最も大きくなる。
【0065】
そして、位置標定部523は、各センサ10で検出された弾性波の振幅の情報に基づいて、振幅が最も高い弾性波を検出したセンサ10が設置されている梁を、弾性波が発生した梁として特定する。なお、横梁3において発生する弾性波は、横梁3そのものに発生するものと、横梁3に溶接された電動機等との溶接部に発生するものを含んでいる。
【0066】
以上の処理が1イベントにおける送信データに基づく処理である。各梁に損傷がある場合、又は、同じ梁に複数の損傷がある場合には、ステップS106及びステップS107の処理を繰り返し実行することにより、弾性波が発生した梁を特定することができる。
【0067】
位置標定部523は、特定結果を出力する(ステップS108)。例えば、位置標定部523は、弾性波が発生した梁の情報を表示部54に表示させる。
【0068】
従来、台車枠の健全性評価には、超音波探傷法(UT:Ultrasonic Testing)などの非破壊検査手法が適用されてきた。例えば、UTでは超音波プローブを利用して側梁の内部に超音波を送信し、欠陥で反射して戻ってきた超音波を受信することで欠陥の有無を把握する。しかし、検査部位全体を下地処理した後に、超音波プローブを1点1点移動させながら検査を進めるため、台車枠全体では半日以上の時間が必要となる。複数の超音波プローブを使えば検査時間の短縮は可能だが、その数は数十~数百個と膨大となる。その上、1台の鉄道車両には複数台車が存在するため、大幅なコストアップは避けられない。
【0069】
運行中のモニタリングに関しては、加速度センサを台車枠や車軸軸箱に設置し、固有振動の変化から以上を検知する手法が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。しかしながら、固有振動が変化する状態は、すでに大きくき裂が進展するなど剛性に影響が出ている状態であり、初期段階の損傷を検知できない。
【0070】
それに対して、第1の実施形態における検査システム100では、複数の側梁2-1,2-2、横梁3のそれぞれに少なくとも1つ以上設置され、弾性波を検出するセンサ10と、複数の側梁2-1,2-2と横梁3のそれぞれに設置された各センサ10によって検出された弾性波の特徴量に基づいて、弾性波が発生した梁を特定する位置標定部523と、を備える。このように、第1の実施形態における検査システム100では、初期段階の損傷を検出するために、弾性波を検出するセンサを、複数の側梁2-1,2-2、横梁3のそれぞれに設置する。そして、検査システム100では、各センサ10によって検出された弾性波の特徴量に基づいて弾性波が発生した梁を特定する。これにより、どの梁で弾性波が発生したかを特定することができる。そのため、損傷が大きくなる前段階で台車における異常を簡便に特定することができる。
【0071】
さらに検査システム100では、1以上のセンサ10と、1以上のセンサ10によって検出された弾性波の特徴量を抽出する信号処理部20と、弾性波の特徴量のデータを含む送信データを無線により送信する無線通信部30と、信号処理部20及び無線通信部30に給電する電源供給部40と、を備え、センサ10と信号処理部20と無線通信部30と電源供給部40とが台車に設置されている。これにより、検出装置は、電源供給部40から給電される電力で動作可能になる。さらに、無線化することにより、ケーブルの敷設や管理の作業コストを削減することができる。
【0072】
(第1の実施形態における検査システム100の変形例)
上記の実施形態では、センサ10が、複数の側梁2-1,2-2、横梁3のそれぞれに少なくとも1つ以上設置される構成を示した。センサ10は、複数の側梁2-1,2-2、又は、横梁3の少なくともいずれかに設置されるように構成されてもよい。
【0073】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、弾性波が発生した梁を特定することはできるが、弾性波が発生した位置を特定することはできない。第2の実施形態では、弾性波が発生した位置を特定する構成について説明する。なお、第2の実施形態では、側梁上における弾性波源の位置を特定する構成について説明する。
【0074】
図7は、第2の実施形態におけるセンサ10の配置例を示す図である。
図7に示すように第2の実施形態では、センサ10を側梁2-1,2-2の両端部付近と、横梁3上に設置するものとする。側梁2-1の両端部付近に設置したセンサ10をセンサ10-11,10-12、側梁2-2の両端部付近に設置したセンサ10をセンサ10-21,10-22、横梁3上に設置したセンサ10をセンサ10-3とする。なお、センサ10-3の設置位置は、図7に示す場所に限られず、センサ10-3が設置された梁上であればどの位置であってもよい。
【0075】
図8は、第2の実施形態における検査システム100aの構成を表す図である。検査システム100aは、複数のセンサ10-1~10-n、信号処理部20、無線通信部30、電源供給部40及び検査装置50aを備える。検査装置50a以外の構成は、第2の実施形態と同様である。
【0076】
検査装置50aは、無線通信部51、制御部52a、記憶部53及び表示部54を備える。制御部52aは、検査装置50a全体を制御する。制御部52aは、CPU等のプロセッサやメモリを用いて構成される。制御部52aは、プログラムを実行することによって、取得部521、イベント抽出部522、位置標定部523a、評価部524として機能する。
【0077】
取得部521、イベント抽出部522、位置標定部523a、評価部524の機能部のうち一部または全部は、ASICやPLD、FPGAなどのハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとの協働によって実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0078】
取得部521、イベント抽出部522、位置標定部523a、評価部524の機能の一部は、予め検査装置50aに搭載されている必要はなく、追加のアプリケーションプログラムが検査装置50aにインストールされることで実現されてもよい。
【0079】
制御部52aは、位置標定部523に代えて位置標定部523aを備える点、評価部524を新たに備える点で制御部52と構成が異なる。以下、相違点について説明する。
【0080】
位置標定部523aは、イベント抽出部522によって抽出された1イベントにおける複数の送信データそれぞれに含まれるセンサID、時刻情報及び波形の振幅の情報と、センサ位置情報と、弾性波伝搬モデルとに基づいて、弾性波源の位置を標定する。第2の実施形態における位置標定部523aは、側梁2において発生した弾性波源の位置を標定する。例えば、第2の実施形態における位置標定部523aは、弾性波源の位置を一次元で標定する。
【0081】
図7のように、側梁2-1の両端部付近に1つずつセンサ10-11,10-12が設置されている場合、センサ10-11,10-12への到達時刻差を基に1次元の位置標定を行うことで、側梁2-1における損傷位置を特定することができる。さらに、側梁2-2の両端部付近に1つずつセンサ10-21,10-22が設置されている場合、センサ10-21,10-22への到達時刻差を基に1次元の位置標定を行うことで、側梁2-2における損傷位置を特定することができる。
【0082】
しかしながら、台車1の構造上、側梁2で発生した弾性波以外に横梁3で発生した弾性波が、溶接部4-1又は4-2を介して、側梁2上に設置されたセンサ10で検出されてしまう。位置標定部523aにおいて横梁3で発生した弾性波を用いて位置標定を行った場合、誤った標定結果が得られてしまう。そのため、第2の実施形態においては、横梁3で発生した弾性波をノイズとして除外する必要がある。
【0083】
横梁3で発生した弾性波の判断基準として、振幅の情報と時刻情報とを用いることができる。横梁3で発生した弾性波は、溶接部4-1又は4-2を介して、側梁2上に設置されたセンサ10-11,10-12,10-21,10-22で検出される。そのため、横梁3で発生した弾性波においては、側梁2上に設置されたセンサ10-11,10-12,10-21,10-22で検出される弾性波の振幅が、横梁3上に設置されたセンサ10-3で検出される弾性波の振幅よりも低くなる。
【0084】
さらに、横梁3で発生した弾性波は、側梁2上に設置されたセンサ10-11,10-12,10-21,10-22へ到達するよりも先に、横梁3上に設置されたセンサ10-3に到達する。そのため、横梁3で発生した弾性波においては、側梁2上に設置されたセンサ10-11,10-12,10-21,10-22で検出される弾性波の到達時刻が、横梁3上に設置されたセンサ10-3で検出される弾性波の到達時刻よりも遅くなる。
【0085】
上記の条件を踏まえ、位置標定部523aは、1イベントにおける送信データの中から、以下の除外条件を満たす送信データをノイズとして除外する。ここでいう除外とは、位置標定に利用しないことを意味する。なお、位置標定部523aは、以下に示す除外条件(1)(2)のうち1つを満たした送信データをノイズとして除外してもよいし、両方を満たした送信データをノイズとして除外してもよい。すなわち、位置標定部523aは、弾性波が検出された時刻、又は、弾性波の振幅の少なくとも一方に基づいて、横梁3から伝搬した弾性波を特定してもよい。
【0086】
(第2の実施形態における除外条件)
(1):(側梁振幅[dB]+減衰値)<横梁振幅[dB]
(2):側梁到達時刻>横梁到達時刻
【0087】
上記の除外条件(1)において、側梁振幅[dB]は側梁2上に設置されたセンサ10-11,10-12,10-21,10-22で検出された弾性波の振幅[dB]を表し、横梁振幅[dB]は横梁3上に設置されたセンサ10-3で検出された弾性波の振幅[dB]を表す。減衰値は、溶接部4-1又は4-2を介したことによる信号の減衰を表す値であり、例えば-10[dB]から-30[dB]の範囲であることが好適である。
【0088】
上記の除外条件(2)において、側梁到達時刻は側梁2上に設置されたセンサ10-11,10-12,10-21,10-22への弾性波の到達時刻を表し、横梁到達時刻は横梁3上に設置されたセンサ10-3への弾性波の到達時刻を表す。上記の除外条件(2)は、側梁到達時刻が横梁到達時刻よりも遅いことを意味している。なお、横梁到達時刻が側梁到達時刻よりも速いと言い換えても同様である。
【0089】
(位置標定の方法)
ここで、一次元で標定する方法について説明する。2つのセンサS1、S2があり、センサS1とセンサS2との間でき裂が発生した場合、弾性波源からセンサS1までの距離と、弾性波源からセンサS2までの距離に応じて、弾性波がセンサに到達するまでの時間差が生じることが分かる。2つのセンサS1,S2間の距離をl、弾性波源のセンサ中心からの距離をΔxとすると、到達時間差Δtは、以下の式(3)のように表される。
【0090】
【数3】
【0091】
よってΔtを観測することで、Δxが求まり、センサS1,S2間の距離lが既知であれば、弾性波源の位置を標定することができる。
【0092】
2次元の場合においても同様の考え方ができる。4つのセンサS1~S4があるとする。SRC1においてき裂が発生した場合、弾性波はSRC1を中心に同心円状に速度Vで伝搬していく。弾性波はセンサS1~S4へ時間差をもって到達する。センサの位置及び伝搬速度が既知であれば、弾性波源の位置のみに依存して時間差が決定する。一方、時間差が検出されると、各センサS1~S4を中心とした円周ARC_S1~ARC_S4上に弾性波源が標定される。複数のセンサS1~S4があればそれぞれの円が交わった位置が推定発生源であると求めることができる。
【0093】
3次元においても、少なくとも(次元数+1)個のセンサを用いることで、同様の位置標定が可能となる。
【0094】
位置標定部523aは、位置標定の結果、所定の観測範囲外から生じていると判定された弾性波をノイズとみなして除去してもよい。このようにノイズ除去においては、所定の閾値をもとに、ノイズであるか、意味のある信号であるかを判定するが、検査装置50a側でノイズ処理を行うことにより、閾値条件を柔軟に変更することができる。すなわち、設置状況や、測定対象物の条件、気候条件など、多くの条件を加味し、柔軟に決定できることになり、ノイズをより効果的に除去することができるようになる。
【0095】
評価部524は、位置標定部523aにおける一次元の標定結果に基づいて、側梁2、又は、横梁3の少なくともいずれかの劣化状態を評価する。第2の実施形態における評価部524は、位置標定部523aにおける一次元の標定結果に基づいて、側梁2の劣化状態を評価する。具体的には、評価部524は、一次元の標定結果に基づいて、弾性波源の空間密度が所定の閾値以上となった側梁2の領域に損傷があると評価する。
【0096】
図9は、第2の実施形態における検査装置50aが行う処理の流れを示すフローチャートである。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態におけるステップS101からステップS105までの処理を実行した後に以下の処理を実行する。
位置標定部523aは、記憶部53に記憶されている1イベントにおける複数の送信データを抽出する(ステップS201)。位置標定部523aは、抽出した複数の送信データの中から除外条件に合致する送信データがあるか否かを判定する(ステップS202)。除外条件に合致する送信データがある場合(ステップS202-YES)、位置標定部523aは除外条件に合致する送信データを除外する。
【0097】
位置標定部523aは、除外していない複数の送信データと、センサ位置情報と、弾性波伝搬モデルとに基づいて、側梁2における位置標定を行う(ステップS203)。例えば、位置標定部523aは、側梁2-1における位置標定を行うものとする。この場合、位置標定部523aは、側梁2-2上に設置されたセンサ10-21,10-22で検出された弾性波の送信データを用いなくてもよい。
【0098】
これにより位置標定部523aが行った位置標定では、側梁2-1において発生した弾性波源の位置が標定される。位置標定部523aは、位置標定結果を評価部524に出力する。位置標定部523aは、ステップS201からステップS203までの処理を所定期間実施したか否かを判定する(ステップS204)。ステップS201からステップS203までの処理を所定期間実施していない場合(ステップS204-NO)、検査装置50aはステップS201以降の処理を繰り返し実行する。
【0099】
検査装置50aがステップS201からステップS203までの処理を所定期間実施した場合(ステップS204-YES)、評価部524は所定期間の標定結果を用いて側梁2-1の劣化状態を評価する(ステップS205)。具体的には、評価部524は、一次元の標定結果に基づいて、弾性波源の空間密度が所定の閾値以上となった側梁2-1の領域に損傷があると評価する。
【0100】
ステップS202の処理において、除外条件に合致する送信データがない場合(ステップS202-NO)、位置標定部523aはイベント抽出部522によって抽出された全ての送信データと、センサ位置情報と、弾性波伝搬モデルとに基づいて、側梁2における位置標定を行う(ステップS206)。
【0101】
図10は、従来手法を用いて標定を行った実験結果と、第2の実施形態における手法を用いて標定を行った実験結果とを表す図である。実験では、台車1上でそれぞれ位置を変えた10か所で、き裂による弾性波を模擬した疑似弾性波を発生させた。疑似弾性波を発生させた箇所は、SRC1~SRC10で示されている。ここで、従来手法を用いて標定を行った結果とは、除外条件の処理を行わず、検出された弾性波を全て利用して位置標定を行った結果である。図10において、図10(A)は通常の手法を用いて標定を行った結果を表し、図10(B)は第2の実施形態における手法を用いて標定を行った結果を表す。
【0102】
従来手法では、側梁2-2で発生した弾性波に加え、対向する位置にある側梁2-1、及び横梁3で発生した弾性波が流入し、側梁2-2上の本来のき裂場所ではない位置に、弾性波源が標定されている(図10(A)の誤り標定結果参照)。それに対して、第2の実施形態における手法を用いた場合、側梁2-2上で発生した弾性波の発信源のみが標定され、他の梁で発生した弾性波の影響を排除することができている。
【0103】
なお、除外条件に合致しない送信データは、側梁2-2以外の梁から発生したことを示している。そのため、位置標定部523aは、除外条件に合致しない送信データが、側梁2-1又は横梁3で発生した弾性波の送信データであると特定することもできる。そこで、位置標定部523aは、標定結果の出力に加えて、他の梁で弾性波が発生していることを通知してもよい。これにより、他の梁の検査を早期に行うことができる。
【0104】
以上のように構成された検査システム100aによれば、センサ10が、第一の側梁2-1と、第二の側梁2-2それぞれの両端部付近に設置され、位置標定部523aが、両端部付近に設置された各センサ10で検出された弾性波の時刻差に基づいて、側梁において発生した弾性波源の位置を標定する。そのため、側梁において発生した弾性波源の位置を容易に特定することができる。
【0105】
上述したように横梁3から伝搬した弾性波は、溶接部4を介して、側梁2上に設置されたセンサ10に到達する。溶接部4を介した弾性波は、およそ20dB減衰して側梁2上に設置されたセンサ10に到達する。さらに、横梁で発生した弾性波は、側梁2上に設置されたセンサ10に到達するよりも先に、横梁に設置されたセンサ10に到達する。そこで、位置標定部523aは、両端部付近に設置された各センサ10のそれぞれで弾性波が検出された時刻又は弾性波の振幅の少なくともいずれかに基づいて横梁3から伝搬した弾性波を特定し、特定した横梁3から伝搬した弾性波を除く弾性波に基づいて、側梁2において発生した弾性波源の位置を標定する。このように、第2の実施形態では、横梁3上に設置されたセンサ10-3をガードセンサとして用いる。これにより、横梁3上に設置されたセンサ10-3に早く到達した弾性波、又は、横梁3上に設置されたセンサ10-3で検出された振幅の大きい弾性波を、側梁2上における位置標定に使用しないようにフィルタリングすることが可能となる。その結果、横梁3から伝搬した弾性波を用いたことによる位置標定精度の劣化を抑制することができる。
【0106】
さらに検査システム100aでは、位置標定部523により標定された弾性波源の位置に基づいて、複数の側梁2-1,2-1、又は、横梁3の少なくともいずれかの劣化状態を評価する評価部524をさらに備える。これにより、側梁2-1,2-1、又は、横梁3に損傷があるか否かを評価することができる。
【0107】
(第2の実施形態における検査システム100aの変形例)
図7に示す例では、側梁2-1,2-2それぞれの両端部付近にセンサ10が設置されている構成を示した。位置標定を行う対象となる側梁2が決まっている場合には、位置標定を行う対象となる側梁2-1又は側梁2-2のいずれか一方の両端部付近にセンサ10が設置されてもよい。
【0108】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、横梁上における弾性波源の位置を特定する構成について説明する。第3の実施形態の構成は、基本的には第2の実施形態と同様である。第2の実施形態と異なる点は、センサ10の配置と、除外条件の内容である。以下、第2の実施形態との相違点について説明する。
【0109】
図11は、第3の実施形態におけるセンサ10の配置例を示す図である。
図11に示すように第3の実施形態では、センサ10を側梁2-1,2-2の両端部付近と、横梁3の両端部付近に設置するものとする。側梁2-1の両端部付近に設置したセンサ10をセンサ10-11,10-12、側梁2-2の両端部付近に設置したセンサ10をセンサ10-21,10-22、横梁3の両端部付近に設置したセンサ10をセンサ10-31,10-32とする。
【0110】
図11のように、横梁3の両端部付近に1つずつセンサ10-31,10-32が設置されている場合、センサ10-31,10-32への到達時刻差を基に1次元の位置標定を行うことで、横梁3における損傷位置を特定することができる。しかしながら、台車1の構造上、横梁3で発生した弾性波以外に側梁2で発生した弾性波が、溶接部4-1又は4-2を介して、横梁3上に設置されたセンサ10-31,10-32で検出されてしまう。位置標定部523aにおいて側梁2で発生した弾性波を用いて位置標定を行った場合、誤った標定結果が得られてしまう。そのため、第3の実施形態においては、側梁2で発生した弾性波をノイズとして除外する必要がある。
【0111】
側梁2で発生した弾性波の判断基準として、第2の実施形態と同様に振幅の情報と時刻情報とを用いることができる。側梁2で発生した弾性波は、溶接部4-1又は4-2を介して、横梁3上に設置されたセンサ10-31,10-32で検出される。そのため、側梁2で発生した弾性波においては、横梁3上に設置されたセンサ10-31,10-32で検出される弾性波の振幅が、側梁2上に設置されたセンサ10-11,10-12,10-21,10-22で検出される弾性波の振幅よりも低くなる。
【0112】
さらに、側梁2で発生した弾性波は、横梁3上に設置されたセンサ10-31,10-32へ到達するよりも先に、側梁2上に設置されたセンサ10-11,10-12,10-21,10-22に到達する。そのため、側梁2で発生した弾性波においては、横梁3上に設置された10-31,10-32で検出される弾性波の到達時刻が、側梁2上に設置されたセンサ10-11,10-12,10-21,10-22で検出される弾性波の到達時刻よりも遅くなる。
【0113】
上記の条件を踏まえ、位置標定部523aは、1イベントにおける送信データの中から、以下の除外条件を満たす送信データをノイズとして除外する。第3の実施形態における除外条件は、以下の通りである。
【0114】
(第3の実施形態における除外条件)
(1):(横梁振幅[dB]+減衰値)<側梁振幅[dB]
(2):横梁到達時刻>側梁到達時刻
【0115】
第3の実施形態における処理は、図9のフローチャートにおいて、除外条件を第3の実施形態における除外条件とし、側梁2を横梁3、横梁3を側梁2と読み替えればよい。
【0116】
以上のように構成された検査システム100bによれば、センサ10が、横梁3の両端部付近に設置され、位置標定部523aが、横梁3の両端部付近に設置された各センサ10で検出された弾性波の時刻差に基づいて、横梁3において発生した弾性波源の位置を標定する。そのため、横梁3において発生した弾性波源の位置を容易に特定することができる。
【0117】
上述したように側梁2から伝搬した弾性波は、溶接部4を介して、横梁3上に設置されたセンサ10に到達する。溶接部4を介した弾性波は、およそ20dB減衰して横梁3上に設置されたセンサ10に到達する。さらに、側梁2で発生した弾性波は、横梁3上に設置されたセンサ10に到達するよりも先に、側梁2上に設置されたセンサ10に到達する。そこで、位置標定部523aは、横梁3の両端部付近に設置された各センサ10のそれぞれで弾性波が検出された時刻及び弾性波の振幅に基づいて側梁2から伝搬した弾性波を特定し、特定した側梁2から伝搬した弾性波を除く弾性波に基づいて、横梁3において発生した弾性波源の位置を標定する。このように、第3の実施形態では、側梁2上に設置されたセンサ10をガードセンサとして用いる。これにより、側梁2上に設置されたセンサ10に早く到達した弾性波、又は、側梁2上に設置されたセンサ10で検出された振幅の大きい弾性波を、横梁3上における位置標定に使用しないようにフィルタリングすることが可能となる。その結果、側梁2から伝搬した弾性波を用いたことによる位置標定精度の劣化を抑制することができる。
【0118】
(第3の実施形態における検査システム100aの変形例)
図11では、側梁2-1,2-2それぞれの両端部にもセンサ10が設置されているが、側梁2-1,2-2それぞれには少なくとも1つのセンサ10が設置されていればよい。
【0119】
(その他の変形例)
第1の実施形態~第3の実施形態は、他の実施形態と組み合わされもよい。例えば、第2の実施形態と第3の実施形態を組み合わせて、側梁における位置標定と横梁における位置標定の両方を行うように構成されてもよい。例えば、第1の実施形態~第3の実施形態を組み合わせて、まず弾性波が発生した梁を特定し、弾性波が発生した梁に応じて、第2の実施形態の手法又は第3の実施形態の手法を適用するように構成されてもよい。以下、詳細に説明する。
【0120】
まず第2の実施形態と第3の実施形態を組み合わせた構成について説明する。この場合、センサ10を、図11のように、側梁2-1,2-2の両端部付近と、横梁3の両端部付近に設置するものとする。検査装置50aは、まず第2の実施形態に示す方法を用いて、側梁2における弾性波源の位置標定を行う。すなわち、検査装置50aは、図9に示す処理を実行することによって側梁2における弾性波源の位置標定を行う。この際、検査装置50aは、側梁2-1又は側梁2-2のいずれか一方において弾性波源の位置標定を行ってもよいし、側梁2-1と側梁2-2の両方において弾性波源の位置標定を行ってもよい。側梁2-1と側梁2-2の両方において弾性波源の位置標定を行う場合には、例えば、側梁2-1における弾性波源の位置標定を行った後に側梁2-2における弾性波源の位置標定を行えばよい。側梁2における弾性波源の位置標定は、側梁2-1,2-2のどちらが先でもよい。その後、検査装置50aは、第3の実施形態に示す方法を用いて、横梁3における弾性波源の位置標定を行う。
【0121】
第2の実施形態と第3の実施形態を組み合わせた構成において、検査装置50aは、第3の実施形態に示す方法を用いて、横梁3における弾性波源の位置標定を行った後に、第2の実施形態に示す方法を用いて、側梁2における弾性波源の位置標定を行ってもよい。
【0122】
次に第1の実施形態~第3の実施形態を組み合わせた構成について説明する。この場合、センサ10を、図3図11を組み合わせた位置に設置するものとする。なお、側梁2-1,2-2の両端部付近と、横梁3の両端部付近に設置されているセンサ10の一部(例えば、センサ10-11,センサ10-21,センサ10-31)を、弾性波が発生した梁の特定に使用するセンサとする場合には、センサ10を図11のように設置してもよい。検査装置50aは、まず第1の実施形態に示す方法を用いて、弾性波が発生した梁を特定する。
【0123】
次に、検査装置50aは、特定した梁において、第2の実施形態又は第3の実施形態に示す方法を用いて、弾性波源の位置標定を行う。例えば、特定した梁が側梁2である場合には、検査装置50aは第2の実施形態に示す方法を用いて弾性波源の位置標定を行う。例えば、特定した梁が横梁3である場合には、検査装置50aは第3の実施形態に示す方法を用いて弾性波源の位置標定を行う。
【0124】
以上のように他の実施形態を組み合わせることによって、一度の処理で複数の処理を実行することができる。具体的には、側梁2と横梁3それぞれにおいて発生した弾性波の位置標定や、弾性波が発生した梁の特定から弾性波源の位置標定といった複数の処理を実行することができる。これにより、効率的に損傷が大きくなる前段階で台車における異常を簡便に特定することが可能になる。
【0125】
上記の各実施形態では、鉄道車両の台車を例に説明したが、上記の手法は鉄道車両の台車に限定される必要はない。例えば、車両以外に荷物を運搬する台車であってもよい。
【0126】
上述した側梁、横梁は、その名称、機能によらず相対的な位置関係のみで規定されるものであり、他の機能を兼ね備えていてもよい。例えば側梁は、台車前後方向へ伸びて台車左右方向へ離間して配置されている1対の構造物であれば、軸ばね等の機能を兼ね備えた他の名称の部位であってもよい。台車における代表的なき裂発生個所は、負荷のかかる側梁の下部や、横梁に溶接された電動機との接続部などがある。
【0127】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、複数の側梁、又は、横梁の少なくともいずれかに設置され、弾性波を検出する1以上のセンサと、1以上のセンサによって検出された弾性波に基づいて、弾性波が発生した梁を特定、又は、弾性波の発生源位置を標定する位置標定部とを持つことにより、損傷が大きくなる前段階で台車における異常を簡便に特定することができる。
【0128】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0129】
10、10-1~10-n…センサ,20、20a…信号処理部,21…フィルタ,22…A/D変換器,23…波形整形フィルタ,24…ゲート生成回路,25…到達時刻決定部,26…特徴量抽出部,27…送信データ生成部,28…メモリ,29…出力部,30…無線通信部,40…電源供給部,50…検査装置,51…無線通信部,52、52a、52b…制御部,53…記憶部,54…表示部,521…取得部,522…イベント抽出部,523、523a…位置標定部、524…評価部
図1
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図5
図6
図7
図8
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図10
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