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特許7447046軽水炉ウラン燃料集合体及び核燃料サイクルの運用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】軽水炉ウラン燃料集合体及び核燃料サイクルの運用方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 3/328 20060101AFI20240304BHJP
   G21C 3/326 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
G21C3/328 100
G21C3/326
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021048217
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147101
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平岩 宏司
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 研一
(72)【発明者】
【氏名】木村 礼
(72)【発明者】
【氏名】和田 怜志
(72)【発明者】
【氏名】杉田 宰
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-045482(JP,A)
【文献】国際公開第2020/229288(WO,A1)
【文献】特開2008-215818(JP,A)
【文献】特開平09-090078(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0308741(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 3/328
G21C 3/326
G21C 3/42
G21C 3/30
G21C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料棒を束ねて構成され、使用済み燃料の再処理時にアメリシウム同位体を抽出し、抽出したアメリシウム同位体を燃料に添加する核燃料サイクルに使用される軽水炉ウラン燃料集合体であって、
添加されるアメリシウム241の燃料重金属に対する重量割合W(wt%単位)が、燃料集合体の平均ウラン235濃縮度e(wt%単位)に対し、
W<-0.006e+0.12e-0.43(濃縮度5wt%以上)、
W<-0.000356e+0.00357(濃縮度4.2wt%以上で5.0wt%未満)
の範囲であることを特徴とする軽水炉ウラン燃料集合体。
【請求項2】
燃焼度の範囲が45GWd/t以上、60GWd/t以下であることを特徴とする請求項1記載の軽水炉ウラン燃料集合体。
【請求項3】
核分裂性物質としてウラン同位体を含み毒物は含まないウラン燃料棒と、ウラン同位体と毒物の両方を含む毒物棒で構成され、添加されたアメリシウムはウラン燃料棒のみに含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の軽水炉ウラン燃料集合体
【請求項4】
複数の燃料棒を束ねて構成された軽水炉ウラン燃料集合体を、一定の燃焼度まで炉心内で燃焼させた使用済み燃料集合体を、取り出して再処理する核燃料サイクルの運用方法であって、
再処理時に前記使用済み燃料集合体からアメリシウム同位体を抽出して、前記軽水炉ウラン燃料集合体に添加し、
添加するアメリシウム241の燃料重金属に対する重量割合W(wt%単位)が、燃料集合体の平均ウラン235濃縮度e(wt%単位)に対し、
W<-0.006e+0.12e-0.43(濃縮度5wt%以上)、
W<-0.000356e+0.00357(濃縮度4.2wt%以上で5.0wt%未満)
の範囲であることを特徴とする核燃料サイクルの運用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、軽水炉ウラン燃料集合体及び核燃料サイクルの運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電用軽水炉(以後、軽水炉)で用いられる燃料集合体は、核物質を含む複数の燃料棒を格子状に配列して束ねて構成され、原子炉の出力運転時には燃料棒が内部の核物質の核分裂反応で発熱し、発生した熱を燃料集合体の内部に導かれた冷却水で除熱できるよう構成されている。
【0003】
軽水炉には燃料集合体内部の熱を蒸気として取出して発電する沸騰水型軽水炉と、高温水として取出して蒸気発生器という熱交換機に導いて蒸気としたのちに発電する加圧水型軽水炉がある。前者はBWR、後者はPWRと呼ばれる。
【0004】
軽水炉(BWRとPWRの双方)で用いられる燃料集合体には、核分裂反応が生じる核物質としてウランのみを含むウラン燃料集合体と、核物質としてプルトニウム(以後、Pu)とウランを含むMOX燃料集合体がある。
【0005】
ウラン燃料集合体には、ウラン元素同位体であるウラン234、ウラン235、ウラン238が含まれ、一部の燃料集合体ではウラン236も含まれるものもある(以後、それぞれU-234,U-235,U-238,U-236)。さらにウラン燃料集合体には、可燃性毒物を含む可燃性毒物入りウラン燃料棒と可燃性毒物を含まないウラン燃料棒の2種類がある。
【0006】
可燃性毒物とは、燃料集合体の中に核物質の核分裂反応を調節するために添加される物質で、例えば沸騰水型原子炉で用いる燃料集合体では、ガドリニウムの酸化物であるガドリニア(Gd)が用いられることがあるが、燃焼によって中性子吸収能力が減衰する特性のある物質はガドリニア以外にも知られている。
【0007】
軽水炉で燃料集合体が所定のエネルギーを出した後の燃料集合体は、使用済燃料(以後、SF)と呼ばれる。SFにはPuが含まれる一方で、核分裂生成物(以後、FP)と残存U-235、U-238などのウラン同位体の他、原子番号がPuよりも大きいものやネプツニウム237(以後、Np-237)などを総称してマイナーアクチニド(以後、MA)と呼ばれる一群の核種が存在している。なおMAとしては上記した以外にもPuやウラン同位体を親核とする核種が存在している。
【0008】
Puについては、有用な核分裂性物質であることから日本やフランスではSFからPuを取出す処理(以後、再処理)を行なって取出したPuと残存ウランを混合酸化物燃料(以後、MOX燃料)として再利用する核燃料リサイクルが行われている。
【0009】
FPとMAは、ほとんどがβ崩壊やα崩壊などを起こす不安定な核種であり、これらの崩壊によって発熱しているSFは、再処理を行える発熱量に低下するまで一定期間貯蔵して冷却することが必要である。冷却したのちに再処理を行なってPuとウランを取出す。残存物にはMAとFPが廃棄物として含まれる。
【0010】
再処理後の廃棄物溶液に含まれるFPとMAも発熱を伴っており、高いレベルの放射能や発熱がある液体であるため高レベル放射性廃棄物(以後、HLW)と呼ばれる。HLWは再処理の後、最終的に地層に安定して埋設処分を行うためにガラスに混入して固める(以後、ガラス固化)処理が行われる。残存物に残るMAとFPのうち特定の核種は化学分離が可能である。例えばアメリシウム、キュリウムと他のMA核種の再処理での分離は可能である。
【0011】
燃焼度などの影響でSFの崩壊熱が増加すると、再処理までの冷却期間が増加し貯蔵施設に貯蔵する期間が長期化する。使用済み燃料は、軽水炉の出力などの条件で一定数のSFが軽水炉から排出されるため、冷却期間が長くなり貯蔵施設から再処理に供される体数が減ると、貯蔵SF体数の増加率が増えて、貯蔵余裕体数は減ることになる。
【0012】
同様に単位体積のHLWの崩壊熱が増加すると、ガラス固化体にはガラス重量あたりの発熱量に上限があるため、ガラス固化体の容積が増加して廃棄物が増量することになる。以上のように崩壊熱は、SFの貯蔵余裕やガラス固化体の埋設容量余裕に影響を与えることになる。
【0013】
後者のガラス固化体の埋設容量余裕に関わり、特定のMA核種を再処理の工程で核種別に抽出し、そのうち一部の核種を軽水炉や高速炉に添加して単寿命の核種に核変換する技術が考えられており、分離変換技術(以後、P&T)と呼ばれる。P&Tの対象となるMA核種は、HLWでの発熱寄与が大きいアメリシウム241とキュリウム244(以後、それぞれAm-241、Cm-244)であることが知られている。
【0014】
SFに含まれるMA中の発熱成分としては、プルトニウム238も大きな割合を占めるが、再処理でPuとして除去されるため、HLWには微量しか含まれず発熱への寄与は無視できるほどになる。
【0015】
この結果、軽水炉では原子炉停止から取り出されて10年から100年経たSF中のMA崩壊熱の成分は、ほぼAm-241とCm-244となる。これらの時間変化はAm-241については時間とともに崩壊熱が増大し、Cm-244は減少していく特性を示し、既存軽水炉のウラン燃料の例では冷却20年程度で崩壊熱は同程度になることが知られている。
【0016】
Am-241のこの時間経過による増加は、プルトニウム241(以後、Pu-241)が半減期14.4年でβ崩壊してAm-241が生成するため生じている。つまり再処理までの冷却期間が長くなるほどAm-241の崩壊熱成分は増加する関係がある。
【0017】
P&T技術のひとつとして軽水炉の燃料にAm-241を添加して壊変する方法が知られている。例えばPWRの形式であるVVER燃料に添加する例も知られている。この例ではAm-241は熱中性子領域の捕獲断面積が大きいため、燃料集合体の燃焼度が進むにつれて核変換が進みAm-241は減少する。
【0018】
一方で、核変換されたAm-241は、さらに熱中性子吸収による核変換と崩壊が複数回繰り返されてCm-244に到達する。つまり軽水炉でのAm-241核変換では、Am-241の崩壊熱は減る一方でCm-244の崩壊熱は増える関係となっている。
【0019】
BWRの燃料にMAを添加して壊変する例もある。この例では、MAのうちNp-237、Am-241、Am-243、Cm-244の4核種全部を同時に一定割合で特別なMA燃焼用の燃料のみに同時にUO燃料に均質に添加させ、Am核種単独で添加はされていない。さらにこの評価の例としてMAのウラン重量割合が5wt%の場合のみが示されているのみである。またこの例は、ウラン燃料棒のU-235の濃縮度は標準の値としており、MA添加により濃縮度の増加はしていない。
【0020】
一方、軽水炉から生じるMAをP&T以外の方法で減らす例として、取出燃焼度達成に必要となる濃縮度以上にU-235濃縮度を増加させ、生成されるTRU量を減らすというものがある。例えば燃焼度を45GWd/tとし平均ウラン235濃縮度が3.8wt%必要である場合に、10wt%とすることで、SF中のMA総重量割合を、基準の濃縮度を高めない燃料に比べて減少させた例も知られている。
【0021】
この例では、Pu-241生成量とCm-244生成量が、基準の濃縮度を高めない燃料に比べてそれぞれ大幅な減少となる。
【0022】
使用済み燃料が再処理されるまでは、再処理システムが受け入れられる崩壊熱の水準まで冷却することが必要とされ、日本の再処理工場の最新の基準ではウラン燃料ではせん断までに15年以上の冷却が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】特開2017-32408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化された後、地層に埋設して半永久的に保管する地層処分が行われるが、ガラス固化体の量に比例的に地層処分場所が必要になる。地層処分場所に適した場所は長期的に地層変動が少ない場所とする必要があり、使用できる場所は限定される。もしガラス固化体が今後もSF発生量に応じて増えていくならば、廃棄する処分場はいずれ満杯となり、処分ができなくなる。その結果、再処理が行えなくなり、発電そのものができなくなることもあり得る。このように高レベル放射性廃棄物をガラス固化して地層処分を行う現在の核燃料リサイクルは長期的な継続性が無いと考えられ、原子力発電の継続の上での大きな課題になっている。
【0025】
このような課題に対しては、高レベル放射性廃棄物をP&Tによって低減することが考えられてきた。しかしこのP&T技術は高速炉などの軽水炉でない変換炉が前提となっているため、実用化に非常に長い期間が必要であり実用化までにガラス固化体が次々発生してしまう課題がある。したがってこの問題の解決には高速炉の実用化を前提とせず、軽水炉の中で高レベル廃棄物発生とガラス固化体発生量を減らす必要がある。
【0026】
従来知られた範囲では、軽水炉の中で高レベル放射性廃棄物の一部であるAm-241を軽水炉にリサイクルするなどにより、Am-241を削減する方式が知られていた。しかしながらAm-241を軽水炉にリサイクルする方式では、Cm-244が増加し、元々発生していたCm-244に加わってMAの崩壊熱の総量は減らすことができない問題があった。また、軽水炉燃料においてU-235濃縮度を必要な燃焼度以上に高めることでCm-244を含むMAの生成を減らす方式のウラン燃料が知られているが、Am-241については減少できない課題があった。
【0027】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、高速炉を使用せず軽水炉のみでガラス固化体発生の原因となるAm-241とCm-244の両方の発熱量を削減し、ガラス固化体発生量を低減することができる軽水炉ウラン燃料集合体及び核燃料サイクルの運用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
実施形態の軽水炉ウラン燃料集合体は、複数の燃料棒を束ねて構成され、使用済み燃料の再処理時に抽出されたアメリシウム同位体を添加された軽水炉ウラン燃料集合体であって、添加されたアメリシウム241の燃料重金属に対する重量割合W(wt%単位)が、燃料集合体の平均ウラン235濃縮度e(wt%単位)に対し、
W<-0.006e+0.12e-0.43(濃縮度5wt%以上)、
W<-0.000356e+0.00357(濃縮度4.2wt%以上で5.0wt%未満)
の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高速炉を使用せず軽水炉のみでガラス固化体発生の原因となるAm-241とCm-244の両方の発熱量を削減し、ガラス固化体発生量を低減することができる軽水炉ウラン燃料集合体及び核燃料サイクルの運用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例の燃料集合体のウラン燃料棒、可燃性毒物棒の配置位置を示す図。
図2】実施例のウラン235濃縮度、可燃性毒物濃度、Am-241濃度を示す図。
図3】実施例の崩壊熱の推移を示すグラフ。
図4】比較例1の崩壊熱の推移を示すグラフ。
図5】比較例2の崩壊熱の推移を示すグラフ。
図6】比較例3の崩壊熱の推移を示すグラフ。
図7】取出後40年で再処理した場合の崩壊熱の推移を比較して示すグラフ。
図8】実施例のAm-241の重量割合燃焼変化の推移を示すグラフ。
図9】実施例の取出し後Am-241重量割合冷却変化の推移を示すグラフ。
図10】取出後40年で再処理した場合の崩壊熱を比較して示す図。
図11】取出後20年で再処理した場合の崩壊熱を比較して示すグラフ。
図12】取出後20年で再処理した場合の崩壊熱を比較して示す図。
図13】Am-241添加濃度範囲を限定する数式を説明する図。
図14】Pu-241の燃焼中の重量割合の燃焼度による違いを示すグラフ。
図15】各Am-241濃度におけるウラン235濃縮度10wt%時の崩壊熱の推移を示すグラフ。
図16】各Am-241濃度におけるウラン235濃縮度7.5wt%時の崩壊熱の推移を示すグラフ。
図17】各Am-241濃度におけるウラン235濃縮度5.0wt%時の崩壊熱の推移を示すグラフ。
図18】各Am-241濃度におけるウラン235濃縮度3.8wt%時の崩壊熱の推移を示すグラフ。
図19】Am-241添加上限濃度と下限濃度を示した図。
図20】燃料集合体の水平断面の構成例を示す図。
図21】燃料棒の構成例を示す図。
図22】原子炉内の燃料集合体と制御棒の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態に係る軽水炉ウラン燃料集合体及び核燃料サイクルの運用方法ついて、図面を参照して説明する。
【0032】
実施形態では、U-235濃縮度を必要な燃焼度以上に高めることでCm-244を含むMAの生成を減らす方式のウラン燃料に対しウラン燃料のSFを再処理して生じたAm-241を含むアメリシウム核種を一定の濃度範囲でこのウラン燃料に添加する。添加されたAm-241は燃料の燃焼により核種変換が進みその濃度が減少する。一方でAm-241の核種変換によりCm-244濃度が増加する。このとき、Am-241添加によるCm-244の崩壊熱増加に対し、ウラン燃料のU-235濃縮度を高めたウラン燃料を採用したことによるCm-244減少が上回る範囲の値となるようなAm-241添加濃度条件を決めることができる。このようにすることでCm-244の発熱は増やさず生成されたアメリシウムは燃料の添加に使い、添加に使った量だけHLWに含まれるAm-241の量を減らすことができる。これによってHLWのAm-241からの崩壊熱が燃料添加に使った量だけ減ることになり、Cm-244の崩壊熱と合わせた合計のHLWの崩壊熱が減ることでガラス固化体発生量を減らすことができる。
【0033】
まず、従来から使用している燃料集合体、燃料棒、炉心の構成例について説明する。図20図21図22に示すように、燃料ペレットと呼ばれる二酸化ウランを円柱状に焼結した燃料要素1とそれらを複数段積み重ねて燃料被覆管2で格納して構成される燃料棒3、燃料要素1に可燃性毒物物質を含む可燃性毒物入り燃料棒4、内部には燃料要素が無く運転時に内部を冷却水が流れるウォータロッド5、燃料棒を9行9列で束ねそれらを四角柱状の管であるチャンネルボックス6で収納して構成される燃料集合体7とその燃料集合体7を規則的に配置してなる炉心8で構成されている。なお、燃料集合体7中には、複数の部分長燃料棒9が含まれている。
【0034】
燃料棒3の一部は、燃料要素1中に可燃性毒物として酸化ガドリニウムすなわちガドリニアを含んでおり、その平均の濃度は約4%である。燃料被覆管2はジルカロイ2と呼ばれるジルコニウム合金製である。軽水炉の形式は改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)と呼ばれる形式のプラントであり、定格運転時の熱出力は3926MW、炉心当たりの燃料集合体数は872体、燃料1体当たりのウラン金属重量は172kgとなっている。炉心8の熱出力を定格の100%とし1サイクルの運転期間が13ヶ月、燃料要素1の平均取出燃焼度が約45GWd/tとなっている。
【0035】
次に、実施例の構成を図1図2に示す。燃料集合体7は燃料棒4が9行9列で配置され、それらの燃料棒4はウラン燃料棒Uとガドリニアを可燃性毒物物質とする可燃性毒物入燃料棒Gで構成されている。それぞれの燃料棒本数はウラン燃料棒Uが32本、可燃性毒物入燃料棒Gが42本の合計74本である。ウラン燃料棒Uと可燃性毒物入燃料棒Gの平均ウラン235濃縮度はどちらも10wt%である。可燃性毒物の濃度は図2に示すように8wt%である。ウラン燃料棒UにはAm-241が重量割合で0.35wt%添加され、可燃性毒物入燃料棒Gには添加されていない。全燃料棒平均のAm-241重量割合は0.15wt%としている。なお、可燃性毒物入燃料棒Gでは、可燃性毒物の添加量を厳密に管理しなければならないため、本実施形態ではAm-241を添加していない。しかし、可燃性毒物入燃料棒Gに対してもAm-241を添加するようにしてもよい。
【0036】
次に実施形態の効果と原理を従来の技術と比較して示す。図3は実施形態のウラン燃料を燃焼度45GWd/tで燃焼した後に炉心から取出し、その後冷却した場合のAm-241、Cm-244およびその合計の崩壊熱の時間変化を示している。
【0037】
従来技術の場合に同じ燃焼度条件で燃焼し、冷却した場合の比較例の結果を図4図5図6に示す。
【0038】
図4はウラン濃縮度と燃焼度が同じ燃料集合体7においてAm-241を添加しないことだけが異なる場合の第1の比較例の結果である。第1の比較例と比較すると、実施例は冷却初期から概ね70年後の間でAm-241とCm-244および合計の崩壊熱はいずれも増加している。これは実施例がAm-241を添加した結果、第1の比較例と比べてAm-241が燃え残ったことと添加したAm-241が核変換によってCm-244が生成されて増加したためである。実施例は崩壊熱が増えた結果になっているが、後述のように再処理を経た後の崩壊熱からはAm-241成分を除去できCm-244のみにできるため実施例の方が再処理後の崩壊熱は大幅に低くなる。
【0039】
図5は平均ウラン235濃縮度を3.8wt%とした第2の比較例の結果を示すものであり、燃焼度は実施例と同じ45GWd/tである。またAm-241は添加されていない。第2の比較例を実施例と比較するとAm-241とCm-244および合計の崩壊熱はほぼ同じような変化となっている。これは実施例では燃焼度を増加せずに濃縮度を増加したことによるPu-241の生成減少にともなうAm-241への崩壊量の減少と、新燃料に添加されたAm-241のCm-244への核変換量の増加が打ち消しあった結果である。これらの結果、実施例は第2の比較例と崩壊熱が同程度という結果になっているが、前記の理由で再処理を経た後の崩壊熱は本実施例の方が大幅に低くすることができる。
【0040】
図6は平均ウラン235濃縮度が3.8wt%とする第3の比較例の結果を示すものであり、燃焼度は実施例と同じ45GWd/tである。またAm-241は実施例と同じ濃度0.15wt%で添加されている。第3の比較例を実施例と比較するとCm-244の崩壊熱が大幅に低下し、Am-241の崩壊熱の若干の減少も加わって合計の崩壊熱は特に冷却初期で大きく減少する。これは実施例では燃焼度を増加せずに濃縮度を増加したことによるAm-241とCm-244の崩壊熱が低減する効果と新燃料へのAm-241の添加がほぼ打ち消し合う結果になっているのに対し、第3の比較例では新燃料に添加されたAm-241によりCm-244とAm-241の崩壊熱が両者とも大きくなっている。
【0041】
図7に実施例のSFを炉心から取出後に40年経過した時点で再処理し、Am-241とCm-244を含むHLWをガラス固化する場合のAm-241とCm-244の合計の崩壊熱を示す(図7中の一点鎖線3)。比較する崩壊熱の値は、図中の実線1が第2の比較例、点線2が第1の比較例である。本実施例ではAm-241は再処理後に全量をウラン燃料へ添加することでHLW側にAm-241が残留することがないため再処理後のHLWの崩壊熱合計からAm-241崩壊熱の全部を除外している。
【0042】
このようにできる理由は次の通りである。図8に本実施例のAM-241重量割合の燃焼度変化を、図9にその使用済み燃料を燃焼度45GWd/tで取り出して冷却していった場合のAm-241重量割合の時間変化を示す。初期にAm-241は0.15wt%であったものが燃焼で燃焼度45GWd/tにおいて0.03wt%程度になり、その後冷却によってPu-241の崩壊成分が加わって増加する。その後はAm-241は最大値0.11wt%となった後は減少する。つまりAm-241の0.15wt%添加を行っても取出時においては0.15wt%を下回るため、燃焼で生じたAm-241をAm-241の全量を燃料への添加に使用すればHLW側にはAm-241は残留させないで良い。つまりAm-241を適切な濃度範囲でウラン燃料に添加することを繰り返していけば、燃料の燃焼で生じたAm-241はウラン燃料を用いる軽水炉の炉心に常に閉込めておくことができる。これに対し比較例はいずれもウラン燃料にAm-241を添加する方式ではなく、Am-241の崩壊熱はHLWの崩壊熱に含まれ、その分だけHLWの崩壊熱が大きくなりガラス固化体量が多くなる。なお、Am-241の0.15wt%添加を繰り返すとSF中に残るAm-241量は次第に減少してくるが例えば4~5体のSFからのAm-241を集めて用いれば0.15wt%のAm-241添加は常に可能であり、本発明の適用は常に可能である。
【0043】
図10に本実施例の再処理後のAm-241とCm-244合計の崩壊熱の値を第1の比較例(図中の2)、第2の比較例(図中の1)と比較して示す。なお、図10中FORSETI(登録商標)は、過剰濃度の濃縮ウランを用いた軽水炉ウラン燃料集合体のことを示している。本実施例(図中の3)では、再処理後にAm-241を除外できるため残る崩壊熱はCm-244由来の成分のみとなり、第2の比較例と比べて大きく減少し11%とすることができる。ガラス固化体は一定の温度以下になるようにその中のHLW発熱量を制限されるため、HLWの崩壊熱の減少によってガラス固化体の量は比例的に減少する。なお、この例ではガラス固化体中にはFPを含めない場合を示したが、FPが存在していたとしても本実施例によってガラス固化体を削減できることは明らかである。
【0044】
図11に本実施例のSFを炉心から取出後に20年経過した時点で再処理を行う場合のAm-241とCm-244の崩壊熱合計値の冷却時間変化(図7中の一点鎖線3)を、第1の比較例(図中の点線2)、第2の比較例(図中の実線1)とともに示す。本実施例は図7と同様な効果が得られるが、再処理時期が早まることでSFの取出後のCm-244減衰が少ないために崩壊熱量は図7の例よりは増加することになる。図12に崩壊熱の値を比較して示すが、第2の比較例と比べて大きく減少し23%倍になる。このように再処理までの冷却期間を短縮しても本実施例によればガラス固化体を大きく減少することができる。
【0045】
次に本実施例も含むAm-241の添加すべき濃度の範囲を図13に示す。Am-241の濃度をW(wt%)とし、ウラン235濃縮度をe(wt%)とした場合には、上限を定める以下の不等式、
式<1> W<-0.006e+0.12e-0.43(濃縮度5wt%以上)、
式<2> W<-0.000356e+0.00357(濃縮度4.2wt%以上で5.0wt%未満)
を適用する。
Am-241のウラン燃料への添加濃度Wの上限は次のような利点が得られることから範囲を限定している。
【0046】
上限はSF中のAm-241とCm-241の崩壊熱が基準の濃縮度3.8wt%の燃料の崩壊熱を越えないように設定するものである。なおSF中の崩壊熱にはFP由来の成分も含まれるが、FP崩壊熱は燃料の組成や燃焼度の影響がほとんどないためAm-241添加があっても上記の理屈はそのまま成り立つものである。
【0047】
なお本実施例を適用できる燃焼度の範囲についても一定の条件を設定することが考えられる。この点を図14を用いて説明する。図14はAm-241の添加重量割合が0.15wt%の場合にウラン235濃縮度を3.8wt%、5.0wt%、7.5wt%、10.0wt%と変化させた場合の燃焼中のPu-241重量割合を燃焼度30GWd/tから60GWd/tの範囲で示している。SFを取出した後の冷却中にPu-241は半減期14.4年で崩壊しAm-241に核種変換する。再処理がSF取出し15年以上経過してから行われること、またSF取出直後のAm-241の重量割合はPu-241の数10分の1であること、を考慮すれば再処理時点ではSF中のAm-241はSF取出し時のPu-241量が上限となる。したがって再処理時のSF中のAm-241重量割合は冷却期間によらず図14で示されるPu-241重量割合が上限ということになる。燃焼度60GWd/t以下の範囲ではPu-241の重量割合は0.14wt%が上限であることから、HLW中のAm-241重量割合もこの燃焼範囲では0.14wt%を上回ることはない。
【0048】
本実施例のようにAm-241を0.15wt%で添加した場合、上記の燃焼度範囲であればいかなる冷却期間においても添加時のAm-241がHLW中のAm-241重量割合を上回ることができる。このことはAm-241をウラン燃料に全量閉込めてHLW側には移行しないようにできることを意味する。ただしAm-241をウラン燃料に全量閉込める条件を付さないならばウラン燃料に添加するAm-241重量割合を<式1><式2>の範囲で決めて良いことになる。
【0049】
上限設定<式1>と<式2>の根拠を、図15図16図17図18を用いて説明する。まず図15について説明する。平均ウラン235濃縮度を10wt%、燃焼度45GWd/tとする実施例の燃料集合体においてAm-241の添加濃度(wt%単位)を0.0,0.05,0.10,0.15,0.20と変化させた場合のSFのAm-241とCm-244の合計の崩壊熱の合計値を基準とする第2の比較例(ウラン235濃縮度3.8wt%)の崩壊熱と比較して示している。濃縮度10wt%の場合は、Am-241とCm-244の合計の崩壊熱はAm-241重量割合にほぼ比例的に増加する。基準燃料の崩壊熱未満にできるAm-241添加濃度は図を読み取ると0.17wt%である。すなわち平均ウラン235濃縮度を10wt%の場合は、Am-241添加濃度は0.17wt%未満にしないと基準とする第2の比較例の崩壊熱を超過してしまう。
【0050】
図16図17図18は、図15と同様な検討をウラン235濃縮度(wt%単位)についてそれぞれ7.5,5.0,3.8に変えた場合ついて示している。図14と同じ考え方で濃縮度に対するAm-241上限濃度は0.135,0.02、0.0である。当然ながら濃縮度3.8wt%の場合はAm-241は添加できない結果である。さらに図示していないが図17図18の大小関係から直線内挿すると濃縮度4.2wt%の場合では上限は0.056wt%である。
【0051】
図19は、図15図16図17図18で得たAm-241添加濃度の上限値を表としてまとめており、<式1>と<式2>はこの値に基づいて数式化したものである。
【0052】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1……燃料要素、2……燃料被覆管、3……燃料棒、4……可燃性毒物入り燃料棒、5……ウォータロッド、6……チャンネルボックス、7……燃料集合体、8……炉心、9……部分長燃料棒。
図1
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