(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム、その製造方法及びそれを使用した光学フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240304BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J5/18 CEX
(21)【出願番号】P 2021086650
(22)【出願日】2021-05-24
【審査請求日】2021-05-24
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-31
(32)【優先日】2021-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(72)【発明者】
【氏名】陳 家穎
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】関根 洋之
【審判官】井口 猶二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-188655(JP,A)
【文献】特開2017-102436(JP,A)
【文献】特表2008-514468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムであって、0.2wt%のホウ酸水溶液で処理後、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry,DSC)で、前記PVAフィルムの任意の箇所で測定した融点(T
m)が>210℃であり、前記PVAフィルムの任意の2か所における融点差(ΔT
m)が<3.2℃である、PVAフィルム。
【請求項2】
0.2wt%のホウ酸水溶液で処理後、DSCで測定した結晶化温度(T
c)が<153.5℃である、請求項1に記載のPVAフィルム。
【請求項3】
0.2wt%のホウ酸水溶液で処理後、前記PVAフィルムの任意の2か所における結晶化温度差(ΔT
c)が<3.85℃である、請求項2に記載のPVAフィルム。
【請求項4】
前記PVAフィルムのTD方向(幅方向)に沿って測定した遅延量の標準偏差が<3nmである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のPVAフィルム。
【請求項5】
前記PVAフィルム0.12gを0.2wt%のホウ酸水溶液で処理し、水で溶解した後の前記水溶液のホウ素含有量が16~19ppmである、請求項4に記載のPVAフィルム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のPVAフィルムにより製造されたものである、光学フィルム。
【請求項7】
偏光フィルムである、請求項6に記載の光学フィルム。
【請求項8】
前記偏光フィルムが有する偏光度は>99.8である、請求項7に記載の光学フィルム。
【請求項9】
(a)ポリビニルアルコール系樹脂を4~20℃/時の昇温速度下で攪拌し、溶解温度が>100℃になった後、2~4時間維持し、且つ1時間に少なくとも
3回攪拌方向を反転させて、ポリビニルアルコール鋳造溶液を形成する工程と、
(b)前記鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込む工程と、
(c)乾燥を経てPVAフィルムを形成する工程と、を含む、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のPVAフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記鋳造ドラムの回転速度は3~7m/minである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程(c)の乾燥は、加熱ローラ又はフローティングドライヤーで処理する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記フローティングドライヤー内でフィルムが幅方向に沿って受ける最大/最小空気流量は≦3.0である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ポリビニルアルコール鋳造溶液は可塑剤をさらに含み、前記可塑剤はポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して3~30重量部である、請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ポリビニルアルコール鋳造溶液中の前記ポリビニルアルコール系樹脂含有量は10~60wt%である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は800~10000の間である、請求項14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムとして、特に偏光フィルムとして用い得る、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムは一種の親水性ポリマーであり、透明性、機械的強度、水溶性、良好な加工性などの性能を有し、包装材料又は電子製品の光学フィルムにおいて、特に偏光フィルムにおいて広く用いられている。
【0003】
偏光フィルムを製造する際は、PVAフィルムをホウ酸水溶液中に入れて延伸と染色を行うが、染料分子がPVAフィルムのPVA分子間に拡散進入して規則的に配列されることで、偏光フィルムがその配列方向に平行な光成分を吸収できるようにし、垂直方向の光成分は透過させて、偏光を有する特性が生じるようにさせる。
【0004】
良好な偏光フィルムは色が均一で、色斑が少なく、皺がないなどの特性を有し、優れた光学特性を提供することができる。偏光フィルムの光学特性を向上させるため、従来技術ではポリビニルアルコールの構造を変化させたり、官能基(例えばカチオン基)を加えたりするなどして、粘度や鹸化度を変えることにより光学特性を向上させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PVAフィルムで偏光フィルムを製造する際に光学特性を向上させる方法は公知技術で既に提供されているものの、従来技術では、PVAフィルムを使用して大きなサイズの光学フィルムを製造する際には、染色の不均一、濃度ムラや色斑、又は延伸における色の不均一などの現象がしばしば生じ、光学フィルム製造の難易度が高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の問題を解決するため、本発明はポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムを提供することを目的としており、0.2wt%のホウ酸で処理後、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry,DSC)で測定した融点Tmが>210℃であり、当該PVAフィルムの任意の2か所における融点差(ΔTm)は<3.2℃である。
【0007】
好ましい実施例中、0.2wt%のホウ酸水溶液で処理した後のPVAフィルムは、DSCで測定した結晶化温度(Tc)が<153.5℃を有する。
【0008】
好ましい実施例中、0.2wt%のホウ酸水溶液で処理した後のPVAフィルムの任意の2か所における結晶化温度差(ΔTc)は<3.85℃である。
【0009】
好ましい実施例中、PVAフィルムが有する遅延量の標準偏差は<3nmである。
【0010】
好ましい実施例中、0.12gのPVAフィルムを0.2wt%のホウ酸水溶液で処理後、水で溶解した後の水溶液のホウ素含有量は16~19ppmである。
【0011】
本発明の別の目的は、光学フィルムを提供することであり、それは本発明のPVAフィルムで製造されたものである。
【0012】
好ましい実施例中、光学フィルムは偏光フィルムである。
【0013】
好ましい実施例中、偏光フィルムが有する偏光度は>99.8である。
【0014】
本発明の別の目的は、本発明のPVAフィルムの製造方法を提供することであり、それは、(a)ポリビニルアルコール系樹脂を4~20℃/時の昇温速度下で攪拌し、溶解温度が>100℃になった後、2~4時間維持し、且つ1時間に少なくとも2回攪拌方向を反転させて、ポリビニルアルコール鋳造溶液を形成する工程と、(b)鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込む工程と、(c)乾燥を経てPVAフィルムを形成する工程と、を含む。
【0015】
好ましい実施例中、鋳造ドラムの回転速度は3~7m/minである。
【0016】
好ましい実施例中、工程(c)の乾燥は、加熱ローラ又はフローティングドライヤーで処理する。
【0017】
好ましい実施例中、フローティングドライヤー内でフィルムが幅方向に沿って受ける最大/最小空気流量は≦3.0である。
【0018】
好ましい実施例中、ポリビニルアルコール鋳造溶液は可塑剤をさらに含み、可塑剤はポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して3~30重量部である。
【0019】
好ましい実施例中、ポリビニルアルコール鋳造溶液中のポリビニルアルコール系樹脂含有量は10~60wt%である。
【0020】
好ましい実施例中、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は800~10000の間である。
【発明の効果】
【0021】
公知技術と比べて、本発明のPVAフィルムは、染色後の色が均一で、濃度ムラや色斑などの色の不均一問題が生じず、PVAで光学フィルムを製造する際の欠点が効果的に改善され、光学フィルムの製造における歩留まり率が向上し、特に大きいサイズの偏光フィルムを製造するのに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】PVAフィルムの左、中、右で10cm*10cmの面積の試験片を三枚切り出した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の実施形態は、本発明を過度に限定するものではない。本発明が属する技術分野の当業者は、本発明の精神又は範囲から逸脱せずに本明細書中で検討する実施例に対して修正や変更を行うことができ、いずれも本発明の範囲に即する。
【0024】
本明細書中の「1」及び「一種」という用語は、本明細書において文法の対象が1つ以上(即ち少なくとも1つ)存在することを指す。
【0025】
本発明中、MDは機械方向(Machine Direction)、即ちPVAフィルムの縦方向であり、TDは幅方向(Transverse Direction)、即ちPVAフィルムの横方向である。
【0026】
本発明のポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)フィルムの製造方法は、ポリビニルアルコール鋳造溶液を調製した後、ポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込み、乾燥を経てポリビニルアルコール系ポリマーフィルムを形成する、という工程を含む。
【0027】
具体的に、PVAフィルムの製造方法は以下の工程を含む。溶解タンク中、ポリビニルアルコール樹脂を溶液(例えば水)中に溶解してポリビニルアルコール鋳造溶液を形成する。選択的にフィルタでポリビニルアルコール鋳造溶液を濾過してもよい。その後、歯車ポンプ(gear pump)及びコーティング機(例えばT型ダイコーター)を用いてポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込む。最後に、ドラムに成膜されたPVAフィルムを剥離した後、一連の加熱ローラ及び/又は乾燥の熱処理を経てPVAフィルムを得る。
【0028】
ポリビニルアルコール鋳造溶液の調製では、ポリビニルアルコール樹脂を溶解タンク中で溶解するが、溶解タンク中の溶解温度は>100℃であり、好適には>110℃、より好適には>120℃であり、具体的には、例えば105℃、110℃、115℃、120℃、125℃、130℃、135℃又は140℃であるが、本発明はこれらに限定されない。溶解タンクは毎時4~20℃の速度で昇温するのが好ましく、好適には5~15℃、より好適には6~9℃であり、具体的には、例えば4.0℃/hr、5.0℃/hr、6.0℃/hr、7.0℃/hr、8.0℃/hr、9.0℃/hr、10℃/hr、11℃/hr、12℃/hr、13℃/hr、14℃/hr、15℃/hr、16℃/hr、17℃/hr、18℃/hr、19℃/hr又は20℃/hrなどであり、昇温速度が速すぎると、ポリビニルアルコール樹脂にケーキングが発生しやすくなり、溶解が不完全になってしまう。所望の溶解温度まで昇温させた後、ポリビニルアルコール鋳造溶液を2~4時間攪拌し続けるが、好適には3時間であり、且つ1時間に少なくとも2回攪拌方向を変えるが、好適には3回であり、例えば時計回りに20分間回転させた後、反時計回りに20分間回転させる。上述の攪拌過程における方向の反転により、溶解効果を高め、ポリビニルアルコール鋳造溶液中にクラスター(cluster)が残ってしまうのを防ぐことができる。
【0029】
ポリビニルアルコール鋳造溶液の調製では、ポリビニルアルコール樹脂の含有量は10~60wt%であり、好適には15~40wt%、より好適には20~30wt%であり、具体的には、例えば10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60wt%などである。ポリビニルアルコール樹脂の含有量が不足すると、ポリビニルアルコール鋳造溶液の粘度が低くなりすぎて、乾燥負荷が過度に大きくなり、PVAフィルム調製における成膜効率が悪くなってしまう。反対に、ポリビニルアルコール樹脂の含有量が高すぎると、ポリビニルアルコール樹脂が溶解しにくくなって、クラスターが残りやすくなり、PVAフィルムの位相差の均一性が劣化し、後続の製造プロセスにおける染色の均一性に影響を及ぼしてしまう。
【0030】
上述のポリビニルアルコール樹脂は、ビニルエステル系樹脂単量体の重合によりポリビニルエステル系樹脂を形成した後、鹸化反応を行って得たものである。そのうち、ビニルエステル系樹脂単量体は、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ペンタン酸ビニル、オクタン酸ビニルなどのビニルエステル類を含むが、本発明はこれらに限定されず、好適には酢酸ビニルである。また、オレフィン類化合物又はアクリレート誘導体と上述のビニルエステル系樹脂単量体との共重合体も使用可能である。オレフィン類化合物は、エチレン、プロピレン又はブチレンなどを含むが、本発明はこれらに限定されない。アクリレート誘導体はアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル又はアクリル酸n-ブチルなどを含むが、本発明はこれらに限定されない。
【0031】
ポリビニルアルコール樹脂の鹸化度は90%以上であり、好適には99%以上であり、これにより良好な光学特性が得られるが、具体的には、例えば90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9%などである。ポリビニルアルコールの重合度は800~10000の間であり、好適には2200~10000の間であり、具体的には、例えば800、900、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10000などであり、重合度が800を上回ると良好な加工特性を具備するが、重合度が10000を上回ると溶解するのに都合が悪くなる。
【0032】
鋳造溶液中には、ポリビニルアルコール系樹脂のほかに、可塑剤を含めて成膜の加工性を増強することもでき、使用可能な可塑剤には、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール又はグリセロールなどの多価アルコールが含まれるが、本発明はこれらに限定されず、好適にはエチレングリコール及びグリセロールである。可塑剤の添加量は通常、ポリビニルアルコール樹脂100重量部に対して3~30重量部の間であり、好適には7~20重量部の間であり、具体的には、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30重量部などである。可塑剤の含有量が不足すると、形成されるPVAフィルムに結晶が生じやすくなり、後続の加工における染色効果に影響を及ぼしてしまう。反対に、可塑剤の含有量が高すぎると、PVAフィルムの機械的性質が損なわれてしまう。
【0033】
PVAフィルムの製造方法において使用する設備には、溶解タンク、フィルタ、コーティング機及び溶解タンクからコーティング機の前まで接続される輸送配管が含まれ、好ましい状態としては、それら設備に保温装置が被覆されており、保温装置は金属発熱体(電熱線)、又は内部に油や水などの液体が入れられたジャケットでよく、金属ワイヤ又はジャケット内の液体を加熱し、それら設備(特に設備と配管の表面)を均一に加熱して保温状態を維持させることで、設備又は配管の表面温度が失われてポリビニルアルコール鋳造溶液中のポリビニルアルコールにゲルやクラスターが形成されるのを防止する。また、保温温度は過度に高くしてはならず、さもないとポリビニルアルコール鋳造溶液の一部が脱水又はゲル化し、キツネ色又は黒色のゲルが形成され、後工程における塗布成膜後のPVAフィルムの表面品質や均一性に影響を及ぼしてしまう。塗布成形におけるポリビニルアルコール鋳造溶液の保温温度は80~120℃であり、好適には90~110℃、より好適には90~100℃であり、具体的には、例えば80、85、90、95、100、105、110、115、120℃などである。
【0034】
ポリビニルアルコール鋳造溶液を鋳造ドラムに鋳込むとき、鋳造ドラムの回転速度は約3~7m/minであり、好適には4~6m/minである。ドラムの速度が遅すぎると、鋳造溶液が過度に乾燥し、位相差、融点分布が不均一になる傾向がある。反対に、ドラムの速度が速すぎると、鋳造溶液の乾燥が不十分となり、剥離性が低下してしまう。また、好ましい実施形態中、ドラムの温度は85~90℃に設定し、具体的には、例えば85、86、88、87、88、89、90℃などであり、ドラムの温度が高すぎると、ドラム上の鋳造溶液に起泡現象が生じやすくなる。
【0035】
鋳造ドラム上で最初に成膜したPVAフィルムをドラムから剥離した後、乾燥を経てPVAフィルムが形成されるが、乾燥過程は、加熱ローラ上で行うか、又はフローティングドライヤー上で行うか、選択することができる。加熱ローラ及びフローティングドライヤーの数は特に限定されず、必要に応じて調整できる。但し、好ましい実施例中、乾燥室(即ち乾燥器)の温度比は最高/最低が2.0~2.4である。乾燥室の温度比が大きすぎると、結晶化度が不均一になりやすく、PVAフィルムを光学フィルムの製造に使用する際にホウ酸との反応が不均一になってしまう。また、隣接する乾燥室の温度差は65℃以下であるのが好ましく、より好適には60℃以下であり、最適なのは50℃であり、隣接する乾燥室の温度差が大きすぎると、位相差の分布が不均一になりやすくなる。また、フローティングドライヤー内で幅方向(即ち機械方向に垂直)に沿って成形されたPVAフィルムが受ける空気流量は特に限定されないが、最大/最小の空気流量比は3.0以下に制御しなければならず、具体的には、例えば0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5又は3.0である。風量が多い場所は水分が奪われやすいため、乾燥度が高くなるが、この空気流量比範囲であれば、PVAフィルムの各位置が触れる風量を同一に制御して均一に乾燥させることが可能である。また、空気流量比が大きすぎると、PVAフィルムを光学フィルムの製造に使用する際に、ホウ酸との反応が不均一になったり位相差が不均一になったりする問題が生じてしまう。
【0036】
本発明における「0.2wt%のホウ酸水溶液で処理する」とは、(a)約0.1gのPVAフィルムを20gの純水に入れて、PVAフィルムを純水の液面以下に完全に浸漬し、250rpmの攪拌速度で1時間攪拌し、(b)PVAフィルムを純水中から取り出し、0.2wt%のホウ酸水溶液に入れた後、1.0時間静置し、(c)PVAフィルムを0.2wt%のホウ酸水溶液から取り出した後、PVAフィルムを密閉容器中に入れて16.0時間静置・熟成させてホウ酸処理が完了する、というものである。本発明では、低いホウ酸濃度を採用しているが、それは、高い濃度のホウ酸を使用すると、高濃度のホウ酸によってPVAフィルム中の本来反応しにくいエリアまで反応性を持ってしまい、フィルムの均一性が観察されにくいためである。
【0037】
本発明のPVAフィルムは、ホウ酸処理後、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry,DSC)測定で(Tm)>210℃の融点を有し、PVAフィルムの任意の2か所における融点差(ΔTm)は<3.2℃である。具体的には、例えば融点(Tm)は211℃、212℃、215℃、220℃、225℃又は230℃などであるが、本発明はこれらに限定されない。PVAフィルムの任意の2か所におけるΔTmは、具体的には、例えば1℃、1.5℃、2℃、2.5℃、3℃又は3.1℃などであるが、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
PVAフィルムで光学フィルムを製造する際には延伸と染色を行うが、偏光フィルムを例とすると、偏光フィルムの製造工程ではI3-、I5-ヨウ化物イオンが含まれたホウ酸水溶液でPVAフィルムの染色が行われるため、ホウ酸がPVAの無定形(amorphous)エリアとの架橋結合作用を生じた後、ヨウ化物イオンが固定され、ヨウ化物イオンの溶出を防ぐことができる。しかし、PVA分子はホウ酸との架橋結合を生じた後、結晶性が低下し、それに伴い融点も下がる。結晶化度分布が不均一になると、PVAフィルムとホウ酸の反応が不均一になり、I3-、I5-ヨウ化物イオンの固定が不均一になって、色が不均一になってしまう。そのため本発明は、アナログ偏光子の製造工程に採用されるホウ酸浸漬でPVAフィルムのホウ酸処理を行い、且つ低い濃度のホウ酸(本明細書では0.2wt%を採用)を使用しており、示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry,DSC)測定では融点(Tm)が>210℃、PVAフィルムの任意の2か所におけるΔTmは<3.2℃であり、当該PVAフィルムは適度且つ均一な結晶性を有し、延伸と染色を行う際には、色が均一な偏光フィルムを得ることができる。本発明のPVAフィルムは延伸と染色を経るその他の光学フィルムの製造にも用いることができ、偏光フィルムに限られない。
【0039】
さらに、ホウ酸処理後のPVAフィルムは、DSC測定で(Tc)<153.5℃の結晶化温度を有する。具体的には、ホウ酸処理後のPVAフィルムの結晶化温度(Tc)は例えば110℃、115℃、120℃、125℃、130℃、135℃、140℃、150℃又は155℃などであるが、本発明はこれらに限定されない。
【0040】
さらに、ホウ酸処理を経たPVAフィルムの任意の2か所におけるΔTcは<3.85℃である。具体的には、ホウ酸処理を経たPVAフィルムの任意の2か所におけるΔTcは例えば0℃、0.5℃、1℃、1.5℃、2℃、2.5℃、3℃又は3.19℃などであるが、本発明はこれらに限定されない。
【0041】
本発明中、上述のDSC測定方法の工程には、
図1に示す通り、PVAフィルムのうちのMD位置を、TD方向で端部から40cm以内の範囲内とし、TD方向に沿って左、中、右で10cm*10cmの面積の試験片を3枚切り出すことが含まれる。次に、試験片からそれぞれ0.1gのPVAフィルムを秤量して取り、ガラス瓶に入れて20gの純水を加え、PVAフィルムが完全に純水の液面以下にあるようにし、攪拌球を加え、攪拌速度は250rpmとし、常温で1.0時間攪拌した。その後、ガラス瓶内の純水を出し、0.2wt%のホウ酸水溶液を20g加えて、1.0時間静置した後、ホウ酸水溶液を出して、ホウ酸処理後のPVAフィルムを瓶内で密閉して16.0時間静置・熟成させた。最後に、ホウ酸処理後のPVAフィルムを取り出し、スチールプレート上に平らに広げて、105℃で1.0時間乾燥した後、ホウ酸処理後のPVAフィルムを取り出してDSC分析した。DSC試験温度の範囲は30℃~250℃とし、30℃及び250℃において各温度を1分間維持し、1回目の昇温時の融点(T
m)、1回目の降温時の結晶化温度(T
c)、2回目の昇温時のガラス転移温度(T
g)を記録した。DSC測定機器は汎用のDSC測定器でよく、例えばDSCはTA Instruments DSC 25などである。
【0042】
さらに、本発明のPVAフィルムが有する遅延量の標準偏差は<3nmである。具体的には、PVAフィルムの遅延量の標準偏差は例えば0nm、0.5nm、1.0nm、1.5nm、2.0nm、2.5nm又は2.9nmなどであるが、本発明はこれらに限定されない。
【0043】
本発明中、遅延量(Retardation)とは、光がフィルムを通過するときの入射偏光の位相変化量であり、即ち位相が遅延した量のことをいい、単位はnmである。遅延量数値の均一性は分子の配向均一性及び厚み均一性に関わり、後続の光学フィルムの製造工程に大きく影響する。
図1に示す通り、遅延量の測定では、ホウ酸処理後のPVAフィルムのうちのMD位置を、TD方向で端部から40cm以内の範囲内とし、TD方向に沿って左、中、右で10cm*10cmの面積の試験片を3枚切り出して測定を行い、範囲内の全てのポイントにおける遅延量数値及び統計データ(最大値、標準偏差など)を得ることができる。
【0044】
さらに、本発明のPVAフィルム0.12gを0.2wt%のホウ酸水溶液で処理後、水で溶解した後の水溶液のホウ素含有量は16~19ppmである。具体的には、例えば16ppm、16.5ppm、17ppm、17.5ppm、18ppm、18.5ppm又は19ppmなどであるが、本発明はこれらに限定されない。上述のホウ素含有量よりも低いと、PVAフィルムを後に染色する際の固着力が不足するためよくない。上述のホウ素含有量よりも高いと、ホウ酸とPVAの架橋結合度が過度に高くなり、後続の延伸工程に不都合であるためよくない。
【0045】
本発明中、上述のホウ素含有量測定方法の工程には、ホウ酸処理後のPVAフィルムを取り出し、純水に通した後、30mlのガラス製試料採取容器に入れて、純水20gを加え、十分に溶解させてからICP-OESにより溶液中のホウ素濃度を分析することが含まれる。
【0046】
本発明における光学フィルムは、本発明のPVAフィルムを使用して完成させたものである。光学フィルムは偏光フィルム、ブルーライトカットフィルム、フィルターレンズなどを含み、本発明はこれらに限定されない。好適には、光学フィルムは偏光フィルムであり、偏光フィルムが有する偏光度は>99.8である。
【実施例】
【0047】
以下では、実施例と合わせて本発明についてより詳しく説明する。但し、それらの実施例は本発明をより容易に理解できるよう助けるためのものであり、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0048】
実施例1~4
【0049】
PVAフィルムの製作:融点(Tm)がそれぞれ233.21℃、233.24℃、233.01℃及び233.08℃のポリビニルアルコール樹脂をポリビニルアルコール鋳造溶液の主要成分とし、本発明のPVAフィルムの製造方法を用いて実施例1~4のPVAフィルムを製作した。製造方法の操作条件は表1に示す通りである。
【0050】
比較例1~3
【0051】
PVAフィルムの製作:融点(Tm)がそれぞれ233.15℃及び233.17℃のポリビニルアルコール樹脂をポリビニルアルコール鋳造溶液の主要成分とし、本発明のPVAフィルムと同じ製造方法で異なる操作条件を用いて比較例1~3のPVAフィルムを製作した。製造方法の操作条件は表1に示す通りである。
【0052】
実験例
【0053】
PVAフィルムの性質分析:実施例1~4及び比較例1~3における各PVAフィルムの遅延量の標準偏差を測定し、さらに0.2wt%のホウ酸水溶液で処理した後、それらの融点(Tm)、融点差は(ΔTm)、結晶化温度(Tc)、結晶化温度差(ΔTc)、ホウ素含有量を測定した。測定結果は表2に示す通りである。
【0054】
偏光フィルムの製作:実施例1~4及び比較例1~3における各PVAフィルムを約30℃の水中に浸漬し、それらを膨潤させた後、1回目の一軸延伸を行い、MD方向に向かって延伸して、延伸後の長さをPVAフィルムの元の長さの2.0倍にした。次に、1回目の延伸後のPVAフィルムを0.03質量パーセントのヨウ素及び3質量パーセントのヨウ化カリウムが含まれた30℃の水溶液中に浸漬し、2回目の一軸延伸を行い、MD方向に向かって延伸して、延伸後の長さをPVAフィルムの元の長さの3.3倍にした。次に、2回目の延伸後のPVAフィルムを3質量パーセントのヨウ化カリウム及び3質量パーセントのホウ酸が含まれた30℃の水溶液中に浸漬し、3回目の一軸延伸を行い、MD方向に向かって延伸して、延伸後の長さをPVAフィルムの元の長さの3.6倍にした。次に、3回目の延伸後のPVAフィルムを5質量パーセントのヨウ化カリウム及び4質量パーセントのホウ酸が含まれた60℃の水溶液中に浸漬し、4回目の一軸延伸を行い、MD方向に向かって延伸して、延伸後の長さをPVAフィルムの3回目の延伸後における長さの6.0倍にした。最後に、4回目の延伸後のPVAフィルムを3質量パーセントのヨウ化カリウムが含まれた水溶液中に15秒間浸漬した後、60℃で4分間乾燥して、偏光フィルムを得た。実施例1~4及び比較例1~3で得られた偏光フィルムの偏光度と色均一性を測定した。測定結果は表2に示す通りである。
【0055】
偏光度の測定方法:2枚の同じ偏光フィルムを配向方向が同じ状態で重ね、波長下における光透過率(H0)を測定し、別に2枚の同じ偏光フィルムを配向方向が垂直な状態で重ね、波長下における光透過率(H90)を測定し、[(H0-H90)/(H0+H90)]1/2という公式により偏光度を計算した。
【0056】
色均一性の測定方法:2枚の同じ偏光フィルムを直交にして重ね、光束発散度=14000lxのランプハウスを用いていずれかの面に照射を行い、もう一方の面の色均一性を観察し、O:色の不均一がない、Δ:色が若干不均一、X:色が顕著に不均一、というルールに従って評価を行った。
【0057】
【0058】
【0059】
表2に示す通り、実施例1~4のPVAフィルムの融点(Tm)はいずれも>210℃であり、且つ任意の2か所のΔTmはいずれも<3.2℃であり、それらを用いて完成させた偏光フィルムには良好な色均一性が見られた。それに比べ、比較例1~3の各PVAフィルムが有する融点(Tm)は210℃を上回っているか、又は任意の2か所のΔTmが3.2℃を上回るという状況であり、それらを用いて完成させた偏光フィルムには思わしくない色均一性が見られ、色が若干不均一・色が顕著に不均一という状況が存在しており、特に比較例2と3は、結晶化温度(Tc)が153.5℃を上回り、ホウ素含有量が16~19ppmではないか、又は遅延量の標準偏差が3nmを上回っており、それらの偏光フィルムの色均一性は顕著に悪かった(色が顕著に不均一)。本発明のPVAフィルムの融点(Tm)は>210℃であり、且つ任意の2か所のΔTmは<3.2℃であり、偏光フィルムの製造に用いるなら、色均一性を具備させることができ、濃度ムラや色斑の問題が生じにくくなる。
【0060】
要約すると、本発明のPVAフィルムは(Tm)>210℃の融点を有し、且つ任意の2か所におけるΔTmは<3.2℃であり、延伸及び染色後に色均一性を有し、濃度ムラや色斑などの色の不均一問題が生じず、PVAフィルムで光学フィルムを製造する際の欠点が効果的に改善され、光学フィルムの製造において、特に大きいサイズの偏光フィルムの製造において歩留まり率が向上する。
【0061】
以上で本発明について詳細に説明したが、上述は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明の実施範囲を限定するものではない。本発明の特許請求の範囲に基づく同等変化や修飾はいずれも本発明の特許請求の範囲に属するものである。