(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】バイオベースであってもよい1,5-ペンタメチレンジアミンに基づくレオロジー添加剤
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240304BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20240304BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240304BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240304BHJP
C09D 7/43 20180101ALI20240304BHJP
【FI】
C09D201/00
C08K5/20
C08L101/00
C09K3/00 103
C09D7/43
(21)【出願番号】P 2021522411
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(86)【国際出願番号】 FR2019052478
(87)【国際公開番号】W WO2020084231
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-17
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カリーヌ・フィユリアール
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルジニー・デュカステル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・ルロワ
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリ・コレスニク
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-031282(JP,A)
【文献】特表2015-535846(JP,A)
【文献】特開平05-202334(JP,A)
【文献】特表2016-530245(JP,A)
【文献】特開昭56-112977(JP,A)
【文献】特開2006-124526(JP,A)
【文献】特開2011-032380(JP,A)
【文献】特開2008-220239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C08K 5/20
C08L 101/00
C09K 3/00
C09D 7/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レオロジー添加剤であって、
A)前記添加剤が以下のものからなる:
a)下記式(I)の少なくとも1つの対称性の脂肪族ジアミド:
(AGH)-CONH-(PMDA)-NHCO-(AGH) (I)
(式中、
- (AGH):ヒドロキシル化脂肪酸R
1CO
2Hから-CO
2Hを除いた残基であって、ここでヒドロキシル化脂肪酸R
1CO
2Hは、12-ヒドロキシステアリン酸(12HSA)、9-ヒドロキシステアリン酸、10-ヒドロキシステアリン酸、又は14-ヒドロキシエイコサン酸から選択される、
- NHCO-又は-CONH-:アミド基、
- (PMDA):1,5-ペンタメチレンジアミンからアミ
ン基を除いた残
基
である。)、
あるいは、
B)前記添加剤が以下のものを含む:
a)式(I)に従う、上で定義した少なくとも1つの対称性の脂肪族ジアミド、及び追加で、
b)下記式(II)の少なくとも1つの別の対称性の脂肪族ジアミド:
(AGH)-CONH-(R)-NHCO-(AGH) (II)
(式中、
(AGH)、-NHCO-、及び-CONH-は、式(I)において付与したものと同じ定義を有し、
(R)は、脂環式、直鎖状脂肪族、又は芳香族ジアミ
ンから選択される、(PDMA)以外のジアミンからアミン基を除いた残基である。)
ことを特徴とする、レオロジー添加剤。
【請求項2】
(PMDA)が、バイオベースの1,5-ペンタメチレンジアミンであるカダベリンからアミン基を除いた残基である、請求項1に記載のレオロジー添加剤。
【請求項3】
前記ヒドロキシル化脂肪酸R
1CO
2Hが、12-ヒドロキシステアリン酸であることを特徴とする、請求項1
又は2に記載のレオロジー添加剤。
【請求項4】
A)による前記脂肪
族ジアミドa)のみからなることを特徴とする、請求項1
から3のいずれか一項に記載のレオロジー添加剤。
【請求項5】
前記ジアミドがB)に従って定義されたものであることを特徴とする、請求項1
から3のいずれか一項に記載のレオロジー添加剤。
【請求項6】
前記添加剤がB)によるものであり、前記脂肪族ジアミドa)が、a)+b)に対して、0.5~99.5
%の範囲の質量による含有量で存在することを特徴とする、請求項1
から3及び5のいずれか一項に記載のレオロジー添加剤。
【請求項7】
前記添加剤がB)によるものであり、前記脂肪族ジアミドa)が、a)+b)に対して、0.5~99.5%、又は1~95%、又は5~75%、又は5~50%、又は5~45%、又は7~50%、又は7~45%、又は10~50%、又は10~45%、又は50~95%、又は55~95%、又は60~95%、又は70~95%、又は50~90%、又は55~90%、又は60~90%、又は70~90%、又は30~70%、又は35~65%、又は40~60%、又は45~55%の範囲の質量による含有量で存在することを特徴とする、請求項1
から3及び5のいずれか一項に記載のレオロジー添加剤。
【請求項8】
1~15μmの範囲の体積平均粒径に対応する粒径を有する微粉化粉末の形態であることを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項に記載のレオロジー添加剤。
【請求項9】
(R)が、1,3-又は1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-又は1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及びイソホロンジアミンから選択される脂環式ジアミンの残基であることを特徴とする、請求項1
から3及び5から8のいずれか一項に記載のレオロジー添加剤。
【請求項10】
(R)が1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの残基であることを特徴とする、請求項
9に記載のレオロジー添加剤。
【請求項11】
a)+b)の質量に対して、前記脂肪族ジアミドa)の質量による含有量が、5~50%、又は5~45%、又は7~50%、又は7~45%、又は10~50%、又は10~45%、又は50~95%、又は55~95%、又は60~95%、又は70~95%、又は50~90%、又は55~90%、又は60~90%、又は70~90%であることを特徴とする、請求項
9又は10に記載のレオロジー添加剤。
【請求項12】
(R)が、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミンから選択される直鎖状脂肪族ジアミン又はトリアミンの残基であることを特徴とする、請求項1
から3及び5から8のいずれか一項に記載のレオロジー添加剤。
【請求項13】
(R)が1,6-ヘキサメチレンジアミンの残基であることを特徴とする、請求項
12に記載のレオロジー添加剤。
【請求項14】
a)+b)の質量に対して、前記脂肪族ジアミドa)の質量による含有量が
、30~70%、又は35~65%、又は40~60%、又は45~55%の範囲
であることを特徴とする、請求項
12又は13に記載のレオロジー添加剤。
【請求項15】
(R)が、o-、m-及びp-フェニレンジアミン並びにo-、m-及びp-キシリレンジアミ
ンから選択される芳香族ジアミンの残基であることを特徴とする、請求項
1から3及び5から8のいずれか一項に記載のレオロジー添加剤。
【請求項16】
請求項1~
15のいずれか一項にしたがって定義される少なくとも1つのレオロジー添加剤を含むことを特徴とする、有機バインダー組成物。
【請求項17】
コーティング組成物、接着結合剤、又は接着剤組成物、成形組成物
、複合材料、マスチック、又は密封剤組成物、又は化粧品組成物であることを特徴とする、請求項
16に記載の有機バインダー組成物。
【請求項18】
有機バインダーが、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル及び飽和ポリエステル、ビニルエステル、アルキッド、シラン化樹脂、ポリウレタン、ポリエステルアミド、溶剤型アクリル樹脂、多官能アクリルモノマー及び/又はオリゴマー、又は反応性希釈剤を伴うアクリル化されたアクリル樹脂、又は反応性もしくは非反応性溶媒中に希釈された不活性樹脂、から選択されることを特徴とする、請求項
16又は17に記載の組成物。
【請求項19】
コーティング組成物、接着結合剤又は接着剤組成物、成形用組成物
、複合材料、マスチック又は気密剤組成物、又は化粧品組成物における、請求項1~
15のいずれか一項にしたがって定義されるレオロジー添加剤の使用。
【請求項20】
請求項1~
15のいずれか一項にしたがって定義される少なくとも1つのレオロジー添加剤の使用によって生じる、コーティングフィルム、接着結合剤シール、接着剤シール、マスチックシール、密封材シール、化粧品、又は成形部品
、複合部品から選択される完成品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくはバイオベースであってもよく、より優先的には100%バイオベースである、1,5-ペンタメチレンジアミンから誘導された脂肪族ジアミドに基づくレオロジー添加剤に関する。それはまた、それらの使用、より具体的には、コーティング、接着結合剤、又は接着剤、成形組成物、マスチック、又は密封剤、又は化粧品における用途のためのバインダー組成物中のレオロジー添加剤としての使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
バイオベースのジアミンとしてのカダベリンの細菌による生産の方法、及び二塩基酸とのバイオベースのポリアミドを得るための化石資源由来のジアミンの代替としてのその可能な使用は、Engineering 3 (2017), 308-317にすでに記載されている。これらのバイオベースのポリアミドは、バイオベースの熱可塑性プラスチックとして使用される。
【0003】
ヘキサメチレンジアミンは、例えば国際公開第2014/053774号及び国際公開第2015/011375号に記載されているように、12-ヒドロキシステアリン酸ベースの脂肪族ジアミドに基づくレオロジー添加剤に使用されることが知られている化石資源由来のジアミンである。しかしながら、レオロジー添加剤として使用される脂肪族ジアミド中のヘキサメチレンジアミンの全部又は一部を置き換えるための、任意選択によりバイオベースであってもよい1,5-ペンタメチレンジアミン、例えばカダベリンの使用は、従来技術においては知られていないと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/053774号
【文献】国際公開第2015/011375号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Engineering 3 (2017), 308-317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な脂肪族ジアミドレオロジー添加剤を提案し、それは、レオロジー性能品質に悪影響を及ぼすことなく、むしろ反対に、参照とする1,6-ヘキサメチレンジアミンベースのジアミドと比較して、特に、たわみ抵抗(sag resistance、耐サグ性)に関してその他のゲル化剤の存在下で、レオロジー性能を向上させながら、化石資源からのジアミン、例えば、ヘキサメチレンジアミンの部分的又は全体的な代替物としての、任意選択によりバイオベースであってもよい1,5-ペンタメチレンジアミン、例えばカダベリンに基づいている。
【0007】
ある成分を別の成分に置き換えたときに、脂肪族ジアミドのレオロジー性能品質を予測することは困難である。さらに、新しい有機ゲル化剤の挙動を予測することは、依然として超分子化学の主要な課題の1つのままであり、それは、Langmuir 2009, 25(15), 8392-8394に記載されているとおりである。この添加剤の分子構造による弱い非共有結合性相互作用(水素結合、ファンデルワールス力など)の総和によって決定されているレオロジー添加剤の性能品質について、関与する物理化学的現象は非常に複雑で且つ予測することが難しい。さらに、溶媒の役割及び溶媒-ジアミド相互作用を考慮に入れ、これらの相互作用間の妥協点を発見し、それによりジアミド添加剤が正しく活性化されることができ(ゲルの状態で)、かつ、満足のいくレオロジープロファイルを得ることができ、さらに保管に関して安定であることが必要である。それは決して簡単ではない仕事であることがわかる。
【0008】
いかなる先行技術文献も、本発明のジアミドで観察された特定の改善を開示も示唆もしていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の主題は、オプションA)に従い、a)1,5-ペンタメチレンジアミン、好ましくはカダベリン、及びヒドロキシル化脂肪酸に基づく、好ましくはバイオベースの、より優先的には100%バイオベースの対称性の脂肪族ジアミドのみからなる添加剤、及びオプションB)に従い、前記のジアミドa)及びそれに加えてb)1,5-ペンタメチレンジアミン以外、好ましくはカダベリン以外の、脂環式、脂肪族、又は芳香族ジアミンから選択されるジアミン、及びヒドロキシル化脂肪酸に基づく第2の対称性のジアミドを含む添加剤に関する。
【0010】
本発明の第2の主題は、本発明に従って定義される少なくとも1つのレオロジー添加剤(レオロジー調整添加剤)を含む有機バインダー組成物に関する。
【0011】
本発明の最後の主題は、コーティング組成物、接着結合剤又は接着剤組成物、成形用組成物、特に複合材料、マスチック、又は密封剤組成物、又は化粧用組成物における、本発明による上記添加剤の使用に関する。
【0012】
本発明の第1の主題は、したがって、以下のA又はBによるレオロジー添加剤(レオロジー調整添加剤)に関する。
A)上記添加剤は以下のものからなる:
a)下記式(I)の少なくとも1つの対称性の脂肪族ジアミド(これは好ましくはバイオベースのものであり、より優先的には100%バイオベースのものである)
(AGH)-CONH-(PMDA)-NHCO-(AGH) (I)
ここで、
- (AGH):ヒドロキシル化脂肪酸残基R1CO2H(-CO2Hなし)、ここでR1はヒドロキシル基を含むC18~C20、
- NHCO-又は-CONH-:アミド基、
- (PMDA):1,5-ペンタメチレンジアミンからアミノ基を除いた残基、好ましくはバイオベースのジアミンである1,5-ペンタメチレンジアミンであるカダベリンからアミノ基を除いた残基
である。
あるいは、以下のものである:
B)上記添加剤は以下のものを含む:
a)式(I)に従う、上で定義した少なくとも1つの対称性の脂肪族ジアミド、及び追加で、
b)下記式(II)の少なくとも1つの別の対称性の脂肪族ジアミド:
(AGH)-CONH-(R)-NHCO-(AGH) (II)
ここで、
(AGH)、NHCO、及びCONHは、式(I)において付与したものと同じ定義を有し、
(R)は、1,5-ペンタメチレンジアミン以外、好ましくはカダベリン以外のジアミンであって、脂環式、脂肪族、又は芳香族ジアミン、好ましくは脂環式又は直鎖状脂肪族ジアミン、さらに優先的には脂環式ジアミンからアミン基を除いた残基である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
したがって、1つの特定のオプションによれば、本発明による上記添加剤はオプションA)にしたがって定義される。これは、上記添加剤は脂肪族ジアミンa)を100%で含み、好ましくはa)はバイオベースであり、より優先的にはa)は100%バイオベースであり、したがって、上で定義したジアミンb)を0%含む。
【0014】
本発明によれば、「バイオベース」という用語は、再生可能な資源による生物学的起源の原材料に基づくことを意味する。これらの原材料は、炭素14(14C)含有量によって特徴づけられ、且つ化石資源起源の再生不可能な材料から区別することができる。再生可能資源(100%バイオベース)に由来する原材料は、大気のそれに近い14C含有量を有するのに対して、化石由来(0%バイオベース)の原材料のものは、再生可能資源の材料に対して実質的にゼロの含有量を有する。14Cの定量的な決定は、最終生成物中のバイオベースの原料の含有量を決定することも可能にする。そのような分析のためには、生成物又は原材料を燃焼させ、ASTM D-6866法に準拠して、回収したCO2について分析を行う。
【0015】
別の特定のオプションによれば、本発明による上記添加剤は、代替のオプションB)に従って定義される。これは、上記脂肪族ジアミドb)が、本発明による上記添加剤中に上記ジアミドa)と共に存在することを意味する。したがって、そのような場合は、本発明の上記添加剤は、ジアミドa)(これは好ましくはバイオベースであり、より優先的には100%バイオベースである)及び上で定義した脂肪族ジアミドb)の混合物である。B)による上記添加剤において、上記脂肪族ジアミドa)は、特に、a)+b)に対して、0.5~99.5%、好ましくは5~75%、より優先的には7~50%、なおさらに優先的には10~45%の範囲の質量による含有量で存在する。
【0016】
あるいは、B)による上記添加剤中に、上記脂肪族ジアミドa)は特に、a)+b)に対して、0.5~99.5%、又は1~95%、又は5~75%、又は5~50%、又は5~45%、又は7~50%、又は7~45%、又は10~50%、又は10~45%、又は50~95%、又は55~95%、又は60~95%、又は70~95%、又は50~90%、又は55~90%、又は60~90%、又は70~90%、又は30~70%、又は35~65%、又は40~60%、又は45~55%の範囲の質量による含有量で存在し、示した範囲の上限及び下限は、互いに組み合わせることができる。
【0017】
1,6-ヘキサメチレンジアミンに基づくジアミドとは対照的に、バイオベースの脂肪族ジアミドa)は、第2の脂肪族ジアミドb)の存在下で優れた相乗効果及び相容性をもたらすという利点があり、それにより、実施用途に応じて適用能力を調節することを可能にする。
【0018】
ヒドロキシル化脂肪酸R1CO2Hは、12-ヒドロキシステアリン酸(12HSA)、9-ヒドロキシステアリン酸、10-ヒドロキシステアリン酸、又は14-ヒドロキシエイコサン酸、又はそれらの混合物、好ましくは二成分混合物から選択することができる。ヒドロキシル化脂肪酸R1CO2Hは、好ましくは12-ヒドロキシステアリン酸(12HSA)である。
【0019】
第2の脂肪族ジアミドb)のもとになるジアミンH2N-R-NH2に関しては、ジアミドが本発明によるレオロジー添加剤中に存在する場合、それは脂環式、直鎖状脂肪族、又は芳香族、好ましくは脂環式又は直鎖状脂肪族、より好ましくは脂環式であることができる。
【0020】
脂環式一級ジアミン(脂環式とはその構造中に少なくとも1つの飽和C6環を含むことを意味する)として、1,3-又は1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-又は1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及びイソホロンジアミンを挙げることができる。
【0021】
本発明によるレオロジー添加剤の1つの特定のオプションによれば、脂肪族ジアミドb)の残基(R)は、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの残基である。この実施形態では、脂肪族ジアミドa)の質量による含有量は、質量a)+b)に対して、特に、5~50%、又は5~45%、又は7~50%、又は7~45%、又は10~50%、又は10~45%、又は50~95%、又は55~95%、又は60~95%、又は70~95%、又は50~90%、又は55~90%、又は60~90%、又は70~90%の範囲であることができ、示された範囲の上限と下限を互いに組み合わせることができる。
【0022】
直鎖状脂肪族第一級ジアミンの適切な例として、第一級ジアミンであるエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミンを挙げることができる。
【0023】
本発明によるレオロジー添加剤の1つの特定のオプションによれば、脂肪族ジアミドb)の残基(R)は、1,6-ヘキサメチレンジアミンの残基である。この実施形態において、脂肪族ジアミドa)の質量による含有量は、質量a)+b)に対して、特に、30~70%、又は35~65%、又は40~60%、又は45~55%の範囲であることができ、示された範囲の上限と下限を互いに組み合わせることができる。
【0024】
芳香族ジアミン(芳香族とはその構造中に少なくとも1つの芳香環を含むことを意味する)の適切な例として、o-、m-、及びp-フェニレンジアミン、o-、m-、及びp-キシリレンジアミン、好ましくはm-キシリレンジアミンを挙げることができる。
【0025】
脂肪族ジアミドa)及びb)の調製は、当業者に周知の合成プロセスに従って、ヒドロキシル化脂肪酸を、135~180℃の温度において溶融状態でジアミン又はジアミン混合物と反応させることにより、縮合水を除去しながら実施される。アミン/カルボキシ当量比は、化学量論付近の範囲(0.95/1.05)にある。この反応は、アミン価又は酸価が8mgKOH/g未満、好ましくは5mgKOH/g未満のときに終了したと考えられる。最終的な溶融した脂肪族ジアミドは冷却され、次に微粉化装置中で粉砕され、最終使用前に微粉化された粉末に成形される。
【0026】
より具体的には、本発明によるレオロジー添加剤は、乾燥粒径分析によって測定して、1~15μmの範囲の体積平均粒径に対応する粒径を有する微粉化粉末の形態である。粒径の分析は、Malvern Mastersizer S装置を使用して、ISO規格13320:2009に準拠して決定した。この手法は、レーザービームを通過する粒子は、その粒径に応じて異なる角度で光を回折する:小さな粒子は大きな角度で回折するのに対して、大きな粒径の粒子は小さな角度で回折する、という原理に基づいている。
【0027】
本発明の第2の主題は、上で定義された少なくとも1つのレオロジー添加剤を含む有機バインダー組成物に関する。
【0028】
より具体的には、上記の有機バインダー組成物は、コーティング組成物、接着結合剤、又は接着剤組成物、成形用組成物、特に複合材料、マスチック、又は気密剤組成物、又は化粧用組成物である。
【0029】
より具体的には、コーティング組成物は、非反応性溶媒媒体中の塗料、ワニス、及びインク、並びに反応性溶媒媒体中のゲルコートから選択される。
【0030】
上記有機バインダーは、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル及び飽和ポリエステル、ビニルエステル、アルキッド、シラン化(あるいはシリル化)樹脂、ポリウレタン、ポリエステルアミド、溶剤型アクリル樹脂、多官能アクリルモノマー及び/又はオリゴマー、又は反応性希釈剤を伴うアクリル化されたアクリル樹脂、又は反応性もしくは非反応性溶媒中に希釈された不活性樹脂、から選択することができる。
【0031】
より具体的には、接着剤又は密封剤の架橋可能な組成物の場合、上記バインダーは、シリル化されたポリウレタン、シリル化されたポリエーテル及びポリエステル、シリル化されたポリブタジエンを含むことができる。
【0032】
本発明の別の主題は、コーティング組成物、接着結合剤又は接着剤組成物、成形用組成物、特に複合材料、マスチック又は気密剤組成物、又は化粧用組成物における、本発明に従って規定されるレオロジー添加剤の使用に関する。
【0033】
最後に、本発明の一部はまた、コーティングフィルム、接着結合剤シール、接着剤シール、マスチックシール、気密剤シール、化粧品、又は成形部品、特に複合部品から選択される完成品であり、この完成品は、本発明による上で規定した少なくとも1つのレオロジー添加剤の使用によって生じる。
【0034】
以下の例は、本発明及びその性能品質の説明のために示すものであり、特許請求の範囲によって規定される本発明を決して限定するものではない。
【実施例】
【0035】
1)原材料
下の表1を参照されたい。
【0036】
【0037】
2)試験した添加剤の合成/調製
各添加剤は、以下に説明する手順に従って調製される。
【0038】
例1:本発明の定義a)によるジアミド:12-HSA-PMDA-12-HSA
温度計、ディーンスターク装置、コンデンサー、及び撹拌機を備えた1リットルの丸底フラスコに、69.75gの1,5-ペンタメチレンジアミン(0.68モル、1当量)及び430.25gの12-ヒドロキシステアリン酸(1.36モル、2当量)を添加する。その混合物を不活性雰囲気下で180℃に加熱する。除去された水は、150℃からディーンスターク装置に蓄積される。反応は、酸価及びアミン価によって監視する。酸価及びアミン価がそれぞれ5未満になったら、反応を止める。反応混合物を140℃に冷やし、シリコーン型の中に取り出す。周囲温度まで冷却したら、生成物をフレークにする。
【0039】
例2:先行技術によるジアミド:12-HSA-1.3BAC-12HSA
92.04gの1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(0.65モル、1当量)及び407.96gの12-ヒドロキシステアリン酸(1.30モル、2当量)を、温度計、ディーンスターク装置、コンデンサー、及び撹拌機を備えた1リットルの丸底フラスコに添加する。その混合物を不活性雰囲気下で180℃に加熱する。 除去された水は、150℃からディーンスターク装置に蓄積される。反応は、酸価及びアミン価によって監視する。酸価及びアミン価がそれぞれ5未満になったら、反応を止める。反応混合物を140℃に冷やし、シリコーン型の中に取り出す。周囲温度まで冷却したら、生成物をフレークにする。
【0040】
例3:先行技術によるジアミド:12-HSA-HMDA-12-HSA
77.83gの1,6-ヘキサメチレンジアミン(0.67モル、1当量)及び422.17gの12-ヒドロキシステアリン酸(1.34モル、2当量)を、温度計、ディーンスターク装置、コンデンサー、及び撹拌機を備えた1リットルの丸底フラスコに入れる。その混合物を不活性雰囲気下で180℃に加熱する。 除去された水は、150℃からディーンスターク装置に蓄積される。反応は、酸価及びアミン価によって監視する。酸価及びアミン価がそれぞれ5未満になったら、反応を止める。反応混合物を140℃に冷やし、シリコーン型の中に取り出す。周囲温度まで冷却したら、生成物をフレークにする。
【0041】
例4:例1のジアミド〔a)によるジアミド〕+例2のジアミド〔b)によるジアミド〕を用いた、本発明による混合物a)+ b)
6.64gの1,5-ペンタメチレンジアミン(0.065モル、0.1当量)、83.26gの1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(0.585モル、0.9当量)、及び410.10gの12-ヒドロキシステアリン酸(1.3モル、2当量) を、温度計、ディーンスターク装置、コンデンサー、及び撹拌機を備えた1リットルの丸底フラスコに入れる。その混合物を不活性雰囲気下で180℃に加熱する。除去された水は、150℃からディーンスターク装置に蓄積される。反応は、酸価及びアミン価によって監視する。酸価とアミン価がそれぞれ5未満になったら、反応を止める。反応混合物を140℃に冷やし、シリコーン型の中に取り出す。周囲温度まで冷却したら、生成物をフレークにする。
【0042】
例5:従来技術による比較混合物:例2のジアミド+例3のジアミド
7.55gの1,6-ヘキサメチレンジアミン(0.065モル、0.1当量)、83.11gの1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(0.585モル、0.9当量)及び409.34gの12-ヒドロキシステアリン酸(1.3モル、2当量) を、温度計、ディーンスターク装置、コンデンサー、及び撹拌機を備えた1リットルの丸底フラスコに入れる。その混合物を不活性雰囲気下で180℃に加熱する。除去された水は、150℃からディーンスターク装置に蓄積される。反応は、酸価及びアミン価によって監視する。酸価とアミン価がそれぞれ5未満になったら、反応を止める。反応混合物を140℃に冷やし、シリコーン型の中に取り出す。周囲温度まで冷却したら、生成物をフレークにする。
【0043】
例6:本発明による混合物:例1のジアミド+例3のジアミド
39.63gの1,6-ヘキサメチレンジアミン(0.34モル、0.5当量)、34.85gの1,5-ペンタメチレンジアミン(0.34モル、0.5当量)及び425.22gの12-ヒドロキシステアリン酸(1.36モル、2当量)を、温度計、ディーンスターク装置、コンデンサー、及び撹拌機を備えた1リットルの丸底フラスコに入れる。その混合物を不活性雰囲気下で180℃に加熱する。除去された水は、150℃からディーンスターク装置に蓄積される。反応は、酸価及びアミン価によって監視する。 酸価とアミン価がそれぞれ5未満になったら、反応を止める。反応混合物を140℃に冷やし、シリコーン型の中に取り出す。周囲温度まで冷却したら、生成物をフレークにする。
【0044】
例7:本発明による混合物:例1のジアミド+例3のジアミド
55.69gの1,5-ペンタメチレンジアミン(0.54モル、0.8当量)、19.37gの1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(0.14モル、0.2当量)及び424.64gの12-ヒドロキシステアリン酸(1.36モル、2当量)を用いて、例4の手順を再度行う。
【0045】
例8:従来技術による比較混合物:例2のジアミド+例3のジアミド
62.38gの1,6-ヘキサメチレンジアミン(0.54モル、0.8当量)、19.08gの1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(0.13モル、0.2当量)、及び418.25gの12-ヒドロキシステアリン酸(1.34モル、2当量)を用いて、例5の手順を再度行う。
【0046】
3)塗料配合物の調製
調製されたアミドを、キシレン中の高固形分含有量(又は高い乾燥抽出物)のエポキシ塗料の配合で評価した。
「ミルベース」配合物を、下の表2に示されている比率を用いて、以下の方法で調製する。
以下の連続した操作は、ジャケットシステムによって加熱された分散ボウル(Dispermill(登録商標)2075イエローライン、供給元:Erichsen)中で実施する。
・ エポキシバインダーとさらに分散剤、及び消泡剤を導入する。 均質化は、800回転/分(1分当たり800回転、すなわち800rpm)で2分間行う。
・ フィラーと顔料を導入し、次に、7cmのブレードを使用して3000rpmで30分間粉砕する。ジャケット付きのボウルを使用すると、このステップを、冷水浴(20℃)を用いて、周囲温度で行うことができる。
・ 溶媒(表2によるブタノール)を導入し、均質化する。
【0047】
【0048】
レオロジー性能品質を評価するには、表3に示す配合に従う硬化剤であるパートBを添加する必要がある。
【0049】
【0050】
4)添加剤の活性化
ミルベースの調製の24時間後、その配合物を4cmのブレードを使用して3000rpmで再び分散させる。評価するジアミドをそのミルベースに導入し、55℃で20分間、3000rpmでその場で活性化する。
【0051】
評価は、活性化の24時間後、及びキシレン中の希釈した硬化剤をミルベースへ添加した30分後にのみ実施し(表3を参照されたい)、このようにして得られた塗料は、Brookfield(登録商標)CAP1000粘度計を使用して、25℃、2500s-1においてコーン4で測定して、約0.4Pあるいは約400mPa.s(より具体的には0.37~0.38Pあるいは370~380mPa.s)に、キシレン/ブタノール混合物(重量で1/1)を使用して塗料塗布粘度に関して調整をする。硬化剤と10種類の溶剤の混合物の比率を下の表4に示す。粘度調整に使用する1/1キシレン/ブタノール混合物の量は変わりうるが、一般に、試験ごとに1%未満しか異ならない。調整後、塗料を1500rpmで25分間混合/均質化し、次に、24時間後の評価の前に30分間放置する。
【0052】
【0053】
【0054】
6)結論
耐サグ性試験の結果は、PMDAに基づく例1のジアミドが、HMDAに基づく例3のジアミドと少なくとも同等の性能品質を示すことを明確に示している。したがって、研究したシステムのレオロジー性能品質を損なうことなく、ジアミン1,6-ヘキサメチレンジアミンを1,5-ペンタメチレンジアミン、好ましくはカダベリンであるバイオベースのアミンで完全に置き換えることが完全に可能であると結論付けることができる。
【0055】
さらに、PMDAに基づく例1のジアミドとHMDAに基づく例3のジアミドとの混合物は、個別に用いた各ジアミドと比較して、耐サグ性(たるみ耐性)試験において正の相乗効果を示す(例6に対する例1及び3の比較)。したがって、1,6-ヘキサメチレンジアミンを1,5-ペンタメチレンジアミンで部分的に置き換えることは、研究したシステムのレオロジー性能品質を向上させると結論付けることができる。
【0056】
さらに、PMDAに基づく例1のジアミドと別のジアミド、例えば、1.3BACに基づく例2のジアミドとの混合物は、HMDAに基づく例3のジアミドを含む比較混合物と比較して、同じ比率において、耐サグ性(たるみ耐性)試験において正の相乗効果を示す(本発明による例5と比較例4の比較、又は本発明による例7と比較例8の比較を参照されたい)。
【0057】
1,5-ペンタメチレンジアミン(好ましくはバイオベースのもの)に基づく添加剤の使用は、環境問題に対応することを可能にするだけでなく、優れたレオロジー性能品質を、特に高い乾燥抽出物(高い固形分)をもつ塗料配合において得ることも可能にする。