(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】車両用表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/01 20060101AFI20240304BHJP
B60K 35/23 20240101ALI20240304BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/23
(21)【出願番号】P 2022002804
(22)【出願日】2022-01-12
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】成島 範昭
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-268883(JP,A)
【文献】特開2020-112758(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0209419(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/23 - 35/235
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されており、かつウインドシールドと対向する開口を有する筐体と、
前記筐体の内部に配置され、
カラー画像
を表示するための
複数の色の表示光を出力する画像表示装置と、
前記筐体の内部に配置され、かつ前記開口を介して前記ウインドシールドと対向しており、前記表示光を前記ウインドシールドに向けて反射するミラーと、
前記開口に配置されており、前記表示光を透過させる透明なカバーと、
を備え、
前記カバーは、前記ウインドシールドと対向する外側面と、前記ミラーと対向する内側面と、を有し、かつ前記筐体の内方に向けて湾曲しており、
前記内側面は、
前記ウインドシールド及び前記ミラーの少なくとも一方において発生する画像の歪み又は収差を補正するように形成された自由曲面であり、
前記内側面の形状は、前記カバーを透過して前記ウインドシールドへ向けて出射する前記表示光において色収差による色の分離角度を1[mrad]以下とする形状である
ことを特徴とする車両用表示装置。
【請求項2】
前記カバーは、前記車両のアイポイントへ向かう前記表示光の光路である所定光路を有し、
前記カバーは、前記所定光路を通って前記ウインドシールドへ向けて出射する前記表示光における前記分離角度を1[mrad]以下とする
請求項1に記載の車両用表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドアップディスプレイ等の車両用表示装置がある。特許文献1には、シリンドリカルレンズを透過した映像光がフロントウインドシールドを反射することで車両の乗員に映像光の虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ装置が開示されている。特許文献1では、屈折率及び色分散が異なる材料からなる複数のレンズを用いて色収差が補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用表示装置において、簡素な構成で色収差を抑制できることが望ましい。例えば、材料の種類や部品数の増加を抑制することと、色収差の抑制とを両立できることが好ましい。
【0005】
本発明の目的は、簡素な構成で色収差を抑制することができる車両用表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用表示装置は、車両に搭載されており、かつウインドシールドと対向する開口を有する筐体と、前記筐体の内部に配置され、画像の表示光を出力する画像表示装置と、前記筐体の内部に配置され、かつ前記開口を介して前記ウインドシールドと対向しており、前記表示光を前記ウインドシールドに向けて反射するミラーと、前記開口に配置されており、前記表示光を透過させる透明なカバーと、を備え、前記カバーは、前記ウインドシールドと対向する外側面と、前記ミラーと対向する内側面と、を有し、かつ前記筐体の内方に向けて湾曲しており、前記内側面は、前記画像の歪み又は収差を補正するように形成された自由曲面であり、前記内側面の形状は、前記カバーを透過して前記ウインドシールドへ向けて出射する前記表示光において色収差による色の分離角度を1[mrad]以下とする形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両用表示装置において、透明なカバーの内側面は、画像の歪み又は収差を補正するように形成された自由曲面である。内側面の形状は、カバーを透過してウインドシールドへ向けて出射する表示光において色収差による色の分離角度を1[mrad]以下とする形状である。本発明に係る車両用表示装置によれば、簡素な構成で表示光の色収差を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る車両用表示装置が搭載された車両を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る車両用表示装置の斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態のカバーを透過する表示光を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態のカバーを透過する表示光を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係る車両用表示装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
[実施形態]
図1から
図4を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、車両用表示装置に関する。
図1は、実施形態に係る車両用表示装置が搭載された車両を示す図、
図2は、実施形態に係る車両用表示装置の斜視図、
図3は、実施形態のカバーを透過する表示光を示す斜視図、
図4は、実施形態のカバーを透過する表示光を示す断面図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る車両用表示装置1は、自動車等の車両100に搭載されるヘッドアップディスプレイ装置である。車両用表示装置1は、画像の表示光Ltをウインドシールド110に向けて投影する。表示光Ltは、ウインドシールド110の反射面110aによってアイポイントEPに向けて反射される。車両100のドライバは、表示光Ltによって虚像Viを視認することができる。虚像Viは、車両100の前方の対象物に重畳されて表示されてもよい。虚像Viは、車両100のメータ画像であってもよい。
【0012】
車両用表示装置1は、筐体2、画像表示装置3、ミラー4、カバー5、および制御部6を有する。筐体2は、アイポイントEPに対して車両前方に配置されており、例えば、インストルメントパネル120に収容されている。筐体2は、遮光性の材料で形成される。筐体2は、車両上下方向においてウインドシールド110と対向する開口21を有する。例示された開口21は、筐体2の上面に配置されており、筐体2の前端部に位置する。
【0013】
画像表示装置3およびミラー4は、筐体2の内部に配置されている。画像表示装置3は、画像の表示光Ltを出力する装置である。例示された画像表示装置3は、表示器31およびバックライトユニット32を有する。表示器31は、例えば、TFT-LCD(Thin Film Transistor-Liquid Crystal Display)等の液晶表示装置である。画像表示装置3は、バックライトユニット32の光によって表示光Ltを生成する。表示器31およびバックライトユニット32は、制御部6によって制御される。
【0014】
ミラー4は、表示光Ltをウインドシールド110に向けて反射する反射部材である。ミラー4は、凹状の反射面41を有しており、画像を拡大することができるように構成されている。ミラー4の反射面41は、例えば、画像補正機能を有する自由曲面である。より詳しくは、反射面41の形状は、ウインドシールド110の反射面110aにおいて表示光Ltが反射されるときに生じる画像の歪みを補正するように設計されている。反射面41によって反射された表示光Ltは、更に、ウインドシールド110によってアイポイントEPに向けて反射される。
【0015】
カバー5は、筐体2の開口21に配置され、開口21を閉塞している。カバー5は、透明な部材であり、例えば、透明な樹脂で成型される。カバー5の形状は、筐体2の内方に向けて湾曲した形状である。カバー5の湾曲形状は、外光を見返し130に向けて反射するように定められている。見返し130は、インストルメントパネル120に設けられた遮光壁である。見返し130は、低い反射率を有しており、外光を吸収することができる。見返し130の表面形状は、光を拡散させる形状であってもよい。見返し130は、カバー5に対して車両前方に配置されており、かつ車両上下方向に沿って延在している。
【0016】
カバー5は、外側面51と、内側面52と、を有する。外側面51は、車両上側を向く面であり、ウインドシールド110と対向している。内側面52は、車両下側を向く面であり、ミラー4と対向している。
【0017】
図2には、カバー5の斜視図が示されている。カバー5は、第一方向X、第二方向Y、および第三方向Zを有する。第一方向Xは、虚像Viの画像横方向に対応した方向であり、第二方向Yは、虚像Viの画像縦方向に対応した方向である。第三方向Zは、車両上下方向である。第三方向Zは、例えば、第一方向Xと直交している。YZ平面における外側面51の形状は、湾曲形状であり、例えば、円弧形状である。外側面51は、車両上下方向の下側に向けて湾曲している。XZ平面における外側面51の形状は、例えば、直線形状である。
【0018】
外側面51は、外光L1を見返し130に向けて反射するように形成されている。例えば、外側面51は、ウインドシールド110を透過して外側面51に入射する外光L1を見返し130に向けて反射することができる。見返し130は、カバー5によって反射された外光がアイポイントEPに向かうことを抑制し、虚像Viの視認性を向上させることができる。
【0019】
内側面52の形状は、自由曲面である。例えば、YZ平面における内側面52の形状、およびXZ平面における内側面52の形状は、自由曲線である。内側面52の形状は、画像の歪み又は収差を補正するように定められている。内側面52は、例えば、ミラー4の反射面41において発生する歪み、およびウインドシールド110の反射面110aにおいて発生する歪みの少なくとも一方を補正するように設計される。内側面52は、例えば、反射面41において発生する収差、および反射面110aにおいて発生する収差の少なくとも一方を補正するように設計される。内側面52は、画像の歪みおよび収差の両方を補正してもよく、画像の歪みおよび収差の何れか一方を補正してもよい。
【0020】
カバー5は、ミラー4からウインドシールド110へ向かう表示光Ltを透過させる。本実施形態のカバー5は、以下に説明するように、色収差による色の分離角度を1[mrad]以下とするように構成されている。
図3には、カバー5を透過する表示光Ltが示されている。
【0021】
ミラー4によって反射された表示光Ltは、内側面52からカバー5に入射し、カバー5の内部を通過して外側面51から出射する。出射光Lxは、赤色光LRおよび青色光LBを含む。カバー5は、出射光Lxにおいて色収差による色の分離角度θを1[mrad]以下とするように構成されている。分離角度θは、可視光における色の分離角度であり、例えば、赤色光LRと青色光LBとがなす角度である。
【0022】
表示器31がカラーフィルタを有する場合、赤色光LRは、赤色のフィルタによって生成される光であってもよく、青色光LBは、青色のフィルタによって生成される光であってもよい。画像表示装置3が有機ELディスプレイである場合、赤色光LRは、赤色のEL素子が出力する光であってもよく、青色光LBは、青色のEL素子が出力する光であってもよい。画像表示装置3がレーザ光によって画像を生成する装置である場合、赤色光LRは、赤色レーザ素子が出力する光であってもよく、青色光LBは、青色レーザ素子が出力する光であってもよい。
【0023】
本実施形態のカバー5は、例えば、外光L1を見返し130に反射できるように設計された外側面51に対して、内側面52の形状が設計される。内側面52に対する光学設計の条件は、画像の歪み又は収差を補正する条件、および分離角度θを1[mrad]以下とする条件の両方を含む。すなわち、内側面52には、分離角度θが1[mrad]を超えない範囲で補正機能が付与される。
【0024】
図4に示すように、カバー5は、所定光路Ptを有する。所定光路Ptは、アイポイントEPへ向かう表示光Ltの光路である。所定光路Ptに沿ってカバー5を透過した表示光Ltは、ウインドシールド110の反射面110aによってアイポイントEPに向けて反射される。カバー5は、内側面52の各点に応じた所定光路Ptを有している。
【0025】
カバー5は、所定光路Ptを通ってウインドシールド110へ向けて出射する表示光Ltにおける分離角度θを1[mrad]以下とするように構成されている。アイポイントEPに向かう表示光Ltの分離角度θが十分に小さくなることで、画像の滲み等が抑制される。よって、本実施形態の車両用表示装置1は、虚像Viの画質を向上させることができる。
【0026】
カバー5の光学設計においては、例えば、カバー5の厚さt1、カバー5の材料の屈折率、カバー5の材料のアッベ数等に基づいて内側面52の形状が設計される。カバー5は、入射光Liと出射光Lxとの角度差δを上限角度以下とするように設計されてもよい。なお、入射光Liは、内側面52に入射する表示光Ltである。出射光Lxは、入射光Liに対応する表示光Ltであって、所定光路Ptに沿ってカバー5を透過して外側面51から出射する表示光Ltである。入射光Liと出射光Lxとの角度差δは、例えば、YZ平面における角度である。角度差δを小さくすることにより、分離角度θを小さくすることができる。
【0027】
カバー5が大きなアッベ数を有する場合、カバー5における色収差が抑制される。よって、カバー5がアッベ数の大きい材料で成型される場合、内側面52に対する設計の自由度が大きくなる。例えば、カバー5のアッベ数が大きい場合、角度差δの上限角度が大きくされてもよい。
【0028】
本実施形態の車両用表示装置1では、主としてミラー4によって画像の拡大作用を実現している。カバー5は、歪みなどの収差補正のために形状が決められている。よって、カバー5によって画像を拡大させる場合と比較して、入射光Liと出射光Lxとの角度差δを小さくすることが容易である。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の車両用表示装置1は、筐体2と、画像表示装置3と、ミラー4と、カバー5と、を有する。筐体2は、車両100に搭載されており、かつウインドシールド110と対向する開口21を有する。画像表示装置3は、筐体2の内部に配置されており、画像の表示光Ltを出力する。ミラー4は、筐体2の内部に配置されており、かつ開口21を介してウインドシールド110と対向している。ミラー4は、表示光Ltをウインドシールド110に向けて反射する。カバー5は、開口21に配置されており、表示光Ltを透過させる透明な部材である。
【0030】
カバー5は、ウインドシールド110と対向する外側面51と、ミラー4と対向する内側面と、を有する。カバー5は、筐体2の内方に向けて湾曲している。内側面52は、画像の歪み又は収差を補正するように形成された自由曲面である。内側面52の形状は、カバー5を透過してウインドシールド110へ向けて出射する表示光Ltにおいて色収差による色の分離角度θを1[mrad]以下とする形状である。本実施形態の車両用表示装置1は、表示光Ltにおける色の分離を抑制し、虚像Viの画質を向上させることができる。
【0031】
本実施形態の車両用表示装置1は、カバー5の形状および材料によって色収差を抑制し、虚像Viの画質を向上させることができる。比較例として、複数のレンズを組み合わせて色収差を補正する構成を検討する。比較例では、複数のレンズを用いることで製造費用の増加を招く。本実施形態の車両用表示装置1は、製造費用を抑制しつつ色収差を低減することができる。また、本実施形態の構成では、カバー5の厚みを薄くし、厚みの変化も小さくすることができる。よって、カバー5の製造にかかる時間を短縮し使用する材料も減らすことができる。
【0032】
本実施形態によれば、内側面52が収差補正を行なうことで、内側面52が収差補正の機能を有していない場合と比較してミラー4の倍率を上げることができる。ミラー4の反射面41の倍率を大きくすることにより、車両用表示装置1の小型化が可能である。
【0033】
本実施形態のカバー5は、車両100のアイポイントEPへ向かう表示光Ltの光路である所定光路Ptを有する。カバー5は、所定光路Ptを通ってウインドシールド110へ向けて出射する表示光Ltにおける分離角度θを1[mrad]以下とする。よって、本実施形態のカバー5は、アイポイントEPへ向かう表示光Ltにおける色の分離を抑制し、虚像Viの画質を向上させることができる。
【0034】
なお、カバー5の形状は、アイリプス(Eyellipse)の内部やアイボックスの内部の各点に対して分離角度θを1[mrad]以下とするように設計されることが望ましい。
【0035】
上記の実施形態に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 車両用表示装置
2:筐体、 3:画像表示装置、 4:ミラー、 5:カバー、 6:制御部
21:開口
31:表示器、 32:バックライトユニット
41:反射面
51:外側面、 52:内側面
100:車両、 110:ウインドシールド、 110a:反射面
120:インストルメントパネル、 130:見返し
EP:アイポイント
Lt:表示光、 Li:入射光、 Lx:出射光、 LB:青色光、 LR:赤色光
Pt:所定光路、 Vi:虚像
X:第一方向、 Y:第二方向、 Z:第三方向
θ:分離角度、 δ:角度差