(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】覚醒状態および睡眠呼吸障害に応じた可変気道陽圧の送達
(51)【国際特許分類】
A61M 16/00 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
A61M16/00 305A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022018822
(22)【出願日】2022-02-09
(62)【分割の表示】P 2020020347の分割
【原出願日】2015-03-27
【審査請求日】2022-03-08
(32)【優先日】2014-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513259285
【氏名又は名称】フィッシャー アンド ペイケル ヘルスケア リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】ゲレッド アンドリュー ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】ホワイティング デイヴィッド ロビン
【審査官】関本 達基
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-510598(JP,A)
【文献】国際公開第2014/007659(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/075433(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者にある圧力でガスを提供するように構成された流れ発生器と、
前記患者の呼吸を測定するように構成されたセンサと、
制御システムであって、
少なくとも部分的に、前記センサによって収集されるデータの分析に基づいて、睡眠呼吸障害を検出し、
少なくとも部分的に、前記センサによって収集されるデータの分析に基づいて、前記患者の睡眠状態を判定し、
前記睡眠状態が睡眠中であると判定された場合に、有効治療圧範囲内の圧力を提供するように前記流れ発生器を制御し、前記有効治療圧範囲が、低圧と高圧との間にあり、前記圧力が、少なくとも部分的に、睡眠呼吸障害が検出されたか否かに基づいて、提供され、
前記睡眠状態が覚醒中であると判定された場合に、前記低圧とは異なる覚醒圧を提供するように前記流れ発生器を制御し、
前記圧力を前記覚醒圧から前記有効治療圧範囲に上昇させるために、及び、前記圧力を前記有効治療圧範囲から前記覚醒圧に下降させるために、遷移関数を使用し、
覚醒圧から前記低圧への上昇の間は、睡眠呼吸障害が無視される
ように構成された制御システムと、
を備え
、
前記制御システムが、さらに、前記覚醒圧から前記有効治療圧範囲への遷移中に前記患者が覚醒中であるか否かを検出し、前記流れ発生器を制御して前記覚醒圧に下降する圧力を提供するように構成されている、気道陽圧装置。
【請求項2】
前記低圧が、4cmH
2O以上である、請求項1に記載の気道陽圧装置。
【請求項3】
前記高圧が、20cmH
2O以下である、請求項1または2に記載の気道陽圧装置。
【請求項4】
前記圧力範囲への圧力上昇が、終了トリガの発生に基づき、前記終了トリガは、前記患者が睡眠中であることを示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の気道陽圧装置。
【請求項5】
前記終了トリガが、1つまたは複数の睡眠呼吸障害イベントを含む、請求項4に記載の気道陽圧装置。
【請求項6】
前記終了トリガが、予め定められた期間内及び/又は複数回の呼吸内の、複数の睡眠呼吸障害イベントである、請求項4に記載の気道陽圧装置。
【請求項7】
前記終了トリガが、30回の連続した呼吸の移動窓内の2回の無呼吸イベントである、請求項4に記載の気道陽圧装置。
【請求項8】
前記終了トリガが、30回の連続した呼吸の移動窓内の2回の呼吸低下イベントである、請求項4に記載の気道陽圧装置。
【請求項9】
前記終了トリガが、連続した一続きの3回の気流制限呼吸を含むイベントである、請求項4に記載の気道陽圧装置。
【請求項10】
前記覚醒圧から前記圧力範囲への上昇率が、前記患者に対する不快を低減させるかまたは最小限にするように構成されている、請求項1から9のいずれか一項に記載の気道陽圧装置。
【請求項11】
前記上昇率が、約+0.1cmH
2O/秒である、請求項10に記載の気道陽圧装置。
【請求項12】
前記有効治療圧範囲から前記覚醒圧への下降率が、前記覚醒圧から前記有効治療圧範囲への上昇率と同じである、請求項
1~11のいずれか一項に記載の気道陽圧装置。
【請求項13】
前記有効治療圧範囲から前記覚醒圧への下降率が、前記覚醒圧から前記有効治療圧範囲への上昇率と異なる、請求項
1~11のいずれか一項に記載の気道陽圧装置。
【請求項14】
前記有効治療圧範囲から前記覚醒圧への下降率は、ユーザが選択可能である、請求項
1~
13のいずれか一項に記載の気道陽圧装置。
【請求項15】
前記覚醒圧から前記有効治療圧範囲への上昇率は、ユーザが選択可能である、請求項
1~
14のいずれか一項に記載の気道陽圧装置。
【請求項16】
前記覚醒圧が、代替治療圧範囲内であり、前記代替治療圧範囲は、4cmH
2O以上及び/又は前記低圧よりも低い、請求項1~
15のいずれか一項に記載の気道陽圧装置。
【請求項17】
請求項1~
16のいずれか一項に記載の気道陽圧装置と、
前記圧力で前記ガスを前記患者に提供するように構成されたユーザインタフェースと、 前記流れ発生器から前記ユーザインタフェースへの前記ガス用の経路を提供する導管と、
気道陽圧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、患者に気道陽圧を提供することにより閉塞性睡眠時無呼吸を治療するシステムに関し、特に、装置が患者の覚醒状態及び睡眠呼吸障害に応じて治療圧を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
閉塞性睡眠時無呼吸に対する1つの主な治療法は、患者が睡眠中である期間を通して患者に呼吸ガスを提供することを含む。これらの治療は、気道陽圧療法(PAP)としてまとめて知られている可能性がある。この療法に対する変形には、バイレベル(二層性)(bi-level)PAPまたはbi-PAPとして一般に知られる、異なる吸気および呼気を有するもの、または呼吸イベントに応じた連続的に調整する療法を有するものがある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本明細書に記載するシステム、方法および装置は、革新的な態様を有し、それらの態様のうちのいずれも、必須であるかまたはそれらの望ましい属性に対してそれのみが関与するものではない。ここで、請求項の範囲を限定することなく、有利な特徴のうちのいくつかについて概説する。
【0004】
本開示は、睡眠中の患者にガスを送達する気道陽圧システムについて記載し、ガスは、ある範囲の睡眠圧内の圧力と、患者が覚醒中であるときの異なる覚醒圧とを有し、覚醒圧は、睡眠圧の範囲内の最低圧力より低い。これにより、患者に対する装置の快適さを有利に向上させることができ、それによって、気道陽圧療法のコンプライアンスを向上させることができる。コンプライアンスの向上により、一般に、患者に対する治療の結果が改善される。
【0005】
第1態様では、患者にある圧力でガスを提供するように構成された流れ発生器を含む、気道陽圧システムが提供される。気道陽圧システムはまた、上記圧力でガスを患者に提供するように構成されたユーザインタフェースと、流れ発生器からユーザインタフェースへのガス用の経路を提供する導管とを含む。気道陽圧システムはまた、患者の呼吸を測定するように構成されたセンサを含む。気道陽圧システムはまた、少なくとも部分的に、センサによって収集されるデータの分析に基づいて、睡眠呼吸障害を検出し、少なくとも部分的に、センサによって収集されるデータの分析に基づいて、患者の睡眠状態を判定し、睡眠状態が睡眠中であると判定された場合に、低圧と高圧との間の圧力を提供するように、流れ発生器を制御し、その圧力が、少なくとも部分的に、睡眠呼吸障害が検出されたか否かに基づいて、提供され、睡眠状態が覚醒中であると判定された場合に、上記低圧とは異なる覚醒圧を提供するように流れ発生器を制御し、覚醒圧がユーザによって選択されるように構成された制御システムを含む。
【0006】
第1態様のいくつかの実施形態では、覚醒圧は治療圧である。第1態様のいくつかの実施形態では、覚醒圧は低圧未満である。
【0007】
第1態様のいくつかの実施形態では、コントローラは、流れ発生器によって提供されている圧力が覚醒圧であり、かつ、睡眠状態が睡眠中であると判定されたか、または睡眠呼吸障害が検出されたとき、第1圧力上昇・下降率で経時的に上昇する圧力を提供するように、流れ発生器を制御するようにさらに構成されている。さらなる実施形態では、第1圧力上昇・下降率は、ユーザによって調整可能である。第1態様のいくつかの実施形態では、コントローラは、流れ発生器によって提供されている圧力が、低圧と高圧との間にあり、かつ睡眠状態が覚醒中であると判定されたとき、第2圧力上昇・下降率で経時的に低下する圧力を提供するように、流れ発生器を制御するようにさらに構成されている。さらなる実施形態では、第2圧力上昇・下降率が、ユーザによって調整可能である。
【0008】
第1態様のいくつかの実施形態では、低圧および高圧は、ユーザによって調整可能である。第1態様のいくつかの実施形態では、センサは、流量センサ、圧力センサ、音センサ、モーションセンサまたはプレチスモグラフのうちの1つである。
【0009】
第2態様では、患者に気道陽圧療法を供給する方法が提供される。本方法は、使用者から入力を受け取って覚醒圧を設定するステップと、睡眠呼吸障害の存在を検出するステップと、患者の睡眠状態を判定するステップと、睡眠状態が睡眠中であると判定された場合、低睡眠圧と高睡眠圧との間で調整される睡眠圧を有するガスを送達するステップであって、睡眠圧が、少なくとも部分的に、睡眠呼吸障害の存在によって決まる、ステップと、睡眠状態が覚醒中であると判定された場合、覚醒圧を有するガスを送達するステップであって、覚醒圧が低睡眠圧とは異なる、ステップとを含む。
【0010】
第2態様のいくつかの実施形態では、覚醒圧は治療圧である。第2態様のいくつかの実施形態では、覚醒圧は低睡眠圧未満である。
【0011】
第2態様のいくつかの実施形態では、送達されている圧力が覚醒圧であり、かつ睡眠状態が睡眠中であると判定されるか、または睡眠呼吸障害が検出されたとき、送達されるガスの圧力を第1上昇・下降率で上昇させるステップをさらに含む。さらなる態様では、本方法は、ユーザから入力を受け取って第1上昇・下降率を設定するステップをさらに含む。
【0012】
第2態様のいくつかの実施形態では、本方法は、送達されている圧力が低睡眠圧と高睡眠圧との間であり、かつ睡眠状態が覚醒中であると判定されたとき、送達されるガスの圧力を第2上昇・下降率で低下させるステップをさらに含む。さらなる態様では、本方法は、ユーザから入力を受け取って第2上昇・下降率を設定するステップをさらに含む。
【0013】
第2態様のいくつかの実施形態では、本方法は、ユーザから入力を受け取って、低睡眠圧および高睡眠圧を設定するステップをさらに含む。第2態様のいくつかの実施形態では、睡眠呼吸障害の存在を検出することは、センサからの値を分析することを含み、センサは、流量センサ、圧力センサ、音センサ、モーションセンサまたはプレチスモグラフのうちの少なくとも1つを含む。
【0014】
第3態様では、気道陽圧装置の制御システムに通信可能に結合されたユーザインタフェースが提供される。ユーザインタフェースは、覚醒圧を示す覚醒圧データを受け取るように構成された覚醒圧ノードを含む。ユーザインタフェースは、圧力範囲の下限を示す下限データを受け取るように構成された低圧ノードを含む。ユーザインタフェースは、圧力範囲の上限を示す上限データを受け取るように構成された高圧ノードを含む。ユーザインタフェースは、覚醒圧、圧力範囲の下限および圧力範囲の上限を制御システムに通信し、制御システムは、睡眠状態が覚醒中であると判定された場合、覚醒圧を有する呼吸ガスを供給するように、気道陽圧装置を制御し、覚醒圧は、圧力範囲の下限とは異なる。
【0015】
第3態様のいくつかの実施形態では、覚醒圧は、圧力範囲の下限未満である。第3態様のいくつかの実施形態では、圧力上昇・下降率を示す上昇・下降率データを受け取るように構成された上昇・下降率ノードをさらに含む。第3態様のいくつかの実施形態では、制御システムは、覚醒圧の提供から圧力上昇・下降率で圧力範囲内の圧力に遷移する。
【0016】
図面を通して、参照番号を再使用して、参照要素間の全体的な対応関係を示す場合がある。図面は、本明細書に記載する実施形態例を例示するために提供され、本開示の範囲を限定するようには意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】患者にPAP療法を提供するように構成されたPAPシステムを示し、PAPシステムは、流れ発生器と、コントローラと、患者インタフェースと、患者インタフェースおよび流れ発生器を接続する導管とを含む。
【
図2】患者が覚醒中であるときの覚醒圧と、患者が睡眠中であるときのある範囲の圧力とを提供するように構成されたPAPシステム例のブロック図を示し、その範囲における最低圧力は覚醒圧とは異なる。
【
図3】時間の関数としての患者に送達する圧力のプロットを示し、プロットは、種々のイベントとそれらのイベントに対する応答を実証している。
【
図4】患者に覚醒圧を送達し、患者が睡眠中であるときはある範囲の圧力を送達する方法例のフローチャートを示し、その範囲における最低圧力は覚醒圧とは異なる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書では、気道陽圧を提供するシステムおよび方法のいくつかの実施形態および例について記載する。システムおよび方法は、概して、患者が睡眠中であると判断されたとときに、睡眠呼吸障害を治療するためのある範囲の圧力を提供し、患者が覚醒中であると判断されたときに覚醒圧を提供することを含む。圧力の範囲および覚醒圧は、治療圧および/または治療圧未満(sub-therapeutic)の圧力を含むことができる。当業者は、本開示が、具体的に開示する実施形態および/または使用ならびにその明らかな変更形態および均等物を越えて広がることを理解するであろう。したがって、本開示の範囲は、本明細書に記載するいかなる特定の実施形態によっても限定されないことが意図されている。
【0019】
本明細書で用いる睡眠呼吸障害という用語は、広義の用語であり、当業者に対してその平易かつ通常の意味を有するように意図され、呼吸パターンの異常(たとえば、呼吸の停止)によって特徴づけられる障害群のうちの少なくとも任意のものを含む。睡眠呼吸障害は、たとえば限定なしに、閉塞性睡眠時無呼吸、上気道抵抗症候群、チェーンストークス呼吸等を含む。
【0020】
本明細書で用いる治療圧という用語は、広義の用語であり、当業者に対してその平易かつ通常の意味を有するように意図され、少なくとも、睡眠呼吸障害を治療するのに有効であるように構成された圧力を含む。治療圧未満の圧力は、比較すると、睡眠呼吸障害を治療するために有効である圧力未満の圧力である。圧力が治療圧であるか否かは、患者および/または時間によって決まる可能性がある。たとえば、10cmH2Oの圧力は、特定の患者に対して1つの瞬間では治療圧である可能性があり、それは、それが、その時点でその患者において睡眠呼吸障害を低減させるかまたはなくすためであり、さらには、10cmH2O未満のあらゆる圧力が、その時点でその患者に対して治療圧未満の圧力となる。
【0021】
気道陽圧(「PAP」)システムは、睡眠呼吸障害(「SDB」)を治療するように構成された連続的に調整可能な圧力を提供するように構成することができる。患者の呼吸を分析して患者に送達する圧力を求める圧力アルゴリズムを使用することができる。患者に送達される圧力、または患者に送達されるように圧力アルゴリズムによって求められる圧力は、圧力範囲内にあるように制約することができる。しかしながら、圧力範囲内の圧力が、覚醒中であるかまたは治療中に覚醒した患者に対して不快である可能性がある。そして、いくつかのPAPシステムでは、患者が覚醒中であると判断されたときに、患者に対する不快を低減させるように、圧力範囲の最低圧を送達することができる。
【0022】
この状況において、SDBの有効な治療を低減させるかまたは阻止する可能性がある、競合する利害関係がある。第1に、SDBの有効な治療に対して圧力範囲を設定することが望ましい。たとえば、圧力調整可能性の量を(たとえば、圧力範囲のサイズを制限することによって)制限することが望ましい。圧力可変性の量を制限することにより、少なくとも部分的に治療圧未満の圧力が不適切に適用されることによるSDBイベントの可能性が低減する可能性がある。圧力可変性の量を制限することにより、圧力の一時的な変動も低減させまたは阻止することができ、不適切なまたは望ましくない圧力の上昇を低減させまたは阻止することができる。
【0023】
第2に、覚醒中の患者の快適さに対して圧力範囲の下限を設定することが望ましい。一般に、圧力が低いほど、覚醒中の患者に対する治療が快適になる。したがって、治療範囲の下限を、比較的低い圧力設定または利用可能な最低圧設定(たとえば、約4cmH2O)に設定することが望ましい場合がある。しかしながら、快適な圧力は、SDBを有効に治療しない可能性がある。そして、圧力範囲の下限を患者に対して快適であるように設定することにより、圧力アルゴリズムがSDBの治療において有効でなくなる。したがって、圧力範囲の下限が、覚醒中の患者に対して快適であるように構成される場合、この圧力をいかに設定するかに関して、臨床医、医師または使用者の側に混乱または葛藤がある可能性がある。たとえば、患者が覚醒中である間に下限を快適であるように設定するべきであるか否か、または睡眠中である間に有効な治療を提供するように高く設定するべきであるか否かに関して、葛藤または混乱がある可能性がある。
【0024】
したがって、これらの問題に対処するために、追加のパラメータすなわち覚醒圧を利用するPAPシステムおよび方法が提供される。本明細書に開示するPAPシステムおよび方法は、患者が睡眠中であると判断されるときに使用される圧力治療範囲と、患者が覚醒中であると判断されるときに使用される覚醒圧とを提供し、覚醒圧は患者に対して快適であるように構成される。覚醒圧は、圧力範囲の下限以下であるように構成され、治療圧または治療圧未満の圧力とすることができる。覚醒圧は、少なくとも部分的に患者の選好に応じて異なる可能性がある。本明細書に開示するPAPシステムおよび方法により、有利に、患者が快適であるように覚醒圧を設定することができる一方で、医師、臨床医または使用者が、SDBの有効な治療に対して圧力範囲を適応させることができる。これにより、SDBの治療の効力と患者の治療に対するコンプライアンスとの両方を有利に向上させることができる。
【0025】
気道陽圧装置
図1は、本明細に記載するように確定された圧力で呼吸ガスを供給するように構成されたPAPシステム例を示す図である。システムは、供給呼吸ガスを送達する装置200と、供給導管202と、患者インタフェース204とを含む。装置200によって提供される呼吸ガスの圧力は、システムによって検出される状態に基づいて変化する可能性がある。システムは、睡眠呼吸障害に応じて、提供される圧力を変更することができ、圧力の変動は、下限および上限の範囲内に制約することができる。システムは、患者が覚醒中であると判定されたときに覚醒圧を提供することができ、覚醒圧は、圧力範囲の下限以下である。
【0026】
システムは、ガス供給装置の出口から患者インタフェース204まで延在する供給導管202を含む。供給導管202は、加圧呼吸ガスを患者インタフェース204に送達するように構成される。患者インタフェース204は、患者インタフェース204からの制御された漏れを可能にするバイアス流排気口206を含む。制御された漏れにより、患者インタフェース204の内側を、供給装置200によって供給される新しいガスで連続的にフラッシングすることができる。患者インタフェース204は、PAP送達用の多くのタイプの典型的な患者インタフェース、たとえば、鼻マスク、フルフェイスマスク、口マスク、口インタフェース、鼻ピロー、鼻シールまたは鼻カニューレのうちの任意のものを備えることができる。バイアス流排気口206は、患者インタフェース204に直接、または患者インタフェース204と供給導管202との間でコネクタに患者インタフェース204に隣接して、あるいは患者インタフェース204に近接する供給チューブ202の壁を通して位置することができる。本技術分野において、多種多様の患者インタフェースおよび導管が知られている。
【0027】
供給装置200は、流れ発生器209を含む。流れ発生器209は、電気モータ212によって駆動されるファン210を備えることができる。ファン210によって、空気が、装置200のハウジングの入口214を通して引き込まれる。加圧空気は、供給導管202およびユーザインタフェース204を通して患者に送達されるように、ファン210から出る。いくつかの実施形態では、制御可能な流れ発生器は、高圧ガス源を利用し、高圧ガス源からのガスの流れを調整することができる。
【0028】
装置200は、たとえばパスオーバー式加湿器の形態の加湿器216を含むことができ、そこでは、加湿器チャンバを通過する空気は、水のリザーバ218からある量の水蒸気を採集する。ヒータ220によって水リザーバ218を加熱することができる。加湿器216を、流れ発生器209のハウジングと一体化することができ、または別個の任意選択的な構成要素とすることができる。
【0029】
ヒータ220およびモータ212には、電源222から電力が供給される。モータ212への電力の量とヒータ220への電力の量とは、制御システム224によって制御することができる。制御システム224にもまた、電源222からの電力が供給される。
【0030】
制御システム224を、ユーザインタフェース226から入力を受け取るように構成することができる。たとえば、制御システム224は、ユーザ入力を受け取って、圧力範囲および/または覚醒圧とともに、装置200の動作に関連する他のパラメータを設定することができる。
【0031】
制御システム224は、外部データ源または他の外部システムと接続するための通信ポート228も含むことができる。外部データ源またはシステムは、たとえば、モデムまたはルータ等の通信インタフェースを含むことができ、または、スマートカード、ディスクドライブ、フラッシュメモリ等の外部メモリへのインタフェースであり得る。包括的に使用されるために、通信ポート228は、多くの利用可能な標準規格のうちの任意のものによるデータ通信ポート、たとえばユニバーサルシリアルバス(USB)ポートであり得る。広範囲の周辺デバイスを接続するために、USB(または同様の)インタフェースを使用することができる。
【0032】
図2を参照してより詳細に記載するように、制御システム224は、コンピュータプロセッサ(たとえば、制御プログラムが格納されている組込みマイクロコンピュータ)等のコントローラを含むことができる。いくつかの実施形態では、制御システム224は、プログラムされた機能を実施する固定電子回路、またはプログラムされた機能を実施するプログラムされた論理回路(FPGA等)を備えることができる。さらに、制御システム224は、実行されると、コントローラに対してプログラムされた機能を実行させる実行可能命令を格納するように構成されたコンピュータメモリ等、非一時的記憶媒体を含むことができる。プログラムされた機能の例としては、圧力設定点の確定、患者睡眠状態の判定、睡眠呼吸障害の検出、または装置200を制御するための他の機能が挙げられる。
【0033】
装置200は、1つまたは複数のセンサを含むことができる。1つまたは複数のセンサは、流量センサ230を含むことができ、ファン210の下流に圧力センサ232も含むことができる。流量センサ230は、ファン210の上流である場合もあれば下流である場合もある。1つまたは複数のセンサとしては、たとえば限定なしに、流量センサ230、圧力センサ232、音センサ、モーションセンサ、プレチスモグラフ等を挙げることができる。
【0034】
制御システム224は、1つまたは複数のセンサによって収集されるデータを受け取るように構成することができる。少なくとも部分的に、収集されたデータに基づいて、制御システム224を、患者の睡眠状態を検出するように構成することができる。同様に、少なくとも部分的に、収集されたデータに基づいて、制御システム224を、睡眠呼吸障害を検出するように構成することができる。患者が睡眠中であるとき、制御システム224は、圧力アルゴリズムを利用して、患者に供給する呼吸ガスの適切な圧力または標的圧力を求めることができ、そこでは、圧力アルゴリズムによって求められる圧力は、少なくとも部分的に、任意の検出された睡眠呼吸障害イベントに基づく。患者が覚醒中であると判定されると、制御システム224は、覚醒圧を送達するように装置200を制御するように構成することができる。
【0035】
圧力アルゴリズムを、供給される呼吸ガスに対する標的圧力を求めるように構成することができ、標的圧力は、少なくとも部分的に、現時点でのおよび/または履歴的な供給圧力と睡眠呼吸障害の存在とに基づく。いくつかの実施形態では、圧力アルゴリズムは、睡眠呼吸障害が検出されたときに供給呼吸ガスの圧力を上昇させることができる。場合によっては、圧力は、睡眠呼吸障害が続く間、(たとえば、不連続なまたは連続的な圧力増分で)上昇し続けることができる。場合によっては、睡眠呼吸障害がない間、圧力は(たとえば、不連続なまたは連続的な圧力減分で)低下することができる。
【0036】
圧力の範囲に対して圧力アルゴリズムを制限することができる。たとえば、制御システム224は、圧力アルゴリズムに対して最低圧力および最高圧力を提供することができ、それにより、圧力アルゴリズムは、最低圧力および最高圧力を含む範囲内の出力圧力に制限される。圧力の範囲は、治療圧、治療圧未満の圧力、または治療圧および治療圧未満の圧力両方を含むことができる。圧力の範囲は、最低圧力および最高圧力が、確定した圧力、標的圧力または最適圧力の限界を定めるように構成することができる。たとえば、およそ12cmH2Oの圧力が患者に対して有効な治療圧であると判断される場合、圧力範囲の下限を9cmH2Oに設定することができ、圧力範囲の上限を15cmH2Oに設定することができる。この範囲を設定することにより、制御システム224は、圧力アルゴリズムが、異なる圧力に値するかまたはそれを必要とする患者状態の変化に応答することができるが、装置200が過剰な治療および/または不十分な治療を提供するのを制限または防止する。たとえば、圧力アルゴリズムが、患者に対して適切なまたは最適な圧力がおよそ12cmH2Oであると判断した場合、この値は、患者があおむけに寝ているか横向きに寝ているかに応じて変化する可能性がある。たとえば限定なしに、アルコール消費量、睡眠状態、患者の身体的特性等を含む他の要素が、適切な圧力または治療圧に影響を与える可能性がある。
【0037】
患者が覚醒中であるとき、制御システム224は、圧力アルゴリズムによって利用される圧力範囲の下限以下である覚醒圧で呼吸ガスを供給するように、装置200を制御するように構成することができる。覚醒圧は、圧力範囲における圧力に対して患者により快適であるように構成することができる。患者の快適さを向上させることにより、気道陽圧療法のコンプライアンスを向上させることができ、それにより治療の効力が増大する。覚醒圧は、治療圧または治療圧未満の圧力であり得る。覚醒圧は、患者、医師、使用者、臨床医等が調整および/または選択することができる。
【0038】
制御システム224は、覚醒圧で呼吸ガスを供給することと圧力範囲内の呼吸ガスを供給することとの間で遷移するように装置200を制御するように構成することができる。患者の睡眠状態の変化が制御システム224によって判定されると、制御システム224は、遷移関数を使用して、患者が覚醒中であるか眠りについているかに応じて、覚醒圧と圧力範囲との間で圧力を一定の比率で上昇または下降させることができる。
【0039】
気道陽圧制御システム
図2は、患者が覚醒中であるときは覚醒圧を提供し、患者が睡眠中であるときは圧力の範囲を提供する(圧力範囲の下限は覚醒圧より高い)ようにPAP装置(たとえば、
図1を参照して記載した装置200)を制御するように構成された、例としてのPAP制御システム224のブロック図を示す。制御システム224は、センサ302および/またはユーザインタフェース204から入力を受け取り、患者の睡眠状態を判定し、睡眠呼吸障害を検出し、少なくとも部分的に、センサおよび/またはユーザから受け取る入力に基づいて標的圧力を求め、および/または標的圧力を有する呼吸ガスを供給するように流れ発生器を制御するように構成することができる。センサ302は、流量センサ、圧力センサ、音センサ、モーションセンサおよび/またはプレチスモグラフのうちの1つまたは複数を含むことができる。インタフェース226は、ユーザが、タッチスクリーンインタフェース、キーボード、ディスプレイ、ボタン、スイッチ、またはこれらの要素あるいは同様の要素の任意の組合せ等を通して、制御システムにデータを提供することができるようにする、任意の好適なシステムであり得る。制御システム224は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアまたはこれらの任意の組合せを用いて実装することができる。
【0040】
制御システム224は、1つまたは複数のコンピュータプロセッサを備えるコントローラ305を含む。制御システム224は、非一時的コンピュータメモリを備えるデータ記憶装置310を含む。制御システム200は、センサデータおよびユーザ入力を分析して患者に供給するべき標的圧力を求めるように構成されたモジュール320、325、330、335を含む。いくつかの実施形態では、モジュール320、325、330または335のうちの1つまたは複数は、コントローラ305および/またはデータ記憶装置310を利用して、その機能を達成する。コントローラ305、データ記憶装置310ならびにモジュール320、325、330および335は、通信バスを介して互いに通信するように構成することができる。通信バス315は、任意の標準通信バスであり得る。通信バス315は、少なくとも部分的に、無線接続または有線接続を用いる、ネットワーク接続を含むことができる。通信バス315は、モジュール320、325、330あるいは335および/またはコントローラ305のうちの1つまたは複数によって実行されているプロセスまたは機能間の通信を含むことができる。
【0041】
制御システム224は、センサ302のうちの1つまたは複数によって収集されるデータを分析して患者の睡眠状態を判定するように構成された睡眠判定モジュール320を含む。いくつかの実施形態では、睡眠判定モジュール320は、睡眠中であるかまたは覚醒中であるように患者の睡眠状態を割り当てる。概して、睡眠判定モジュール320は、センサデータを分析して、睡眠を示す呼吸パターンを識別することができる。使用者が睡眠中であるかまたは覚醒中であると判断する任意の好適な方法を用いることができる。いくつかの好適な方法は、他の特許公報、たとえば、米国特許第6,988,994号明細書および米国特許出願公開第2008/0092894号明細書に記載されており、それらの各々は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0042】
制御システム224は、センサ302のうちの1つまたは複数によって収集されるデータを分析して、無呼吸、呼吸低下、気流制限等のSDBイベントを検出するように構成されたSDB検出モジュール325を含む。概して、SDB検出モジュール325は、センサデータを分析して、SDBイベントを示す呼吸パターンを識別することができる。SDBイベントを検出するために使用される技法の例は、2011年2月8日に公開され、「Autotitrating Method and Apparatus」と題する、Gardonらの米国特許第7,882,834号明細書に開示されており、その開示内容全体は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0043】
制御システム224は、患者の睡眠状態および任意のSDBイベントを分析して、患者に供給する呼吸ガスの圧力を求めるように構成された圧力制御モジュール330を含む。たとえば、患者が覚醒中である場合、圧力制御モジュール330は、制御システム224に対して、患者に覚醒圧を供給するべきであることを示すことができる。一方、患者が睡眠中である場合、圧力制御モジュール330は、制御アルゴリズムを利用して、患者に供給する圧力を求めることができ、その圧力は、圧力範囲内にある(たとえば、圧力範囲の上限または最高圧力を超えず、圧力範囲の下限または最低圧力未満ではない)。圧力制御モジュール330は、1つまたは複数のSDBイベントの存在を考慮し、応答して標的圧力出力を調整することができる。全体として参照により本明細書に組み込まれる、2011年8月12日に出願されかつ「APPARATUS AND METHOD FOR PROVIDING GASES TO A USER」と題する国際公開第2012/020314号パンフレットに記載されている方法を含む、種々の制御方法または制御アルゴリズムが可能である。制御方法の他の例には、たとえば、マルチナイト(multi-night)、オートcpap、バイレベル、オートバイレベル等が挙げられる。
【0044】
制御システム224は、覚醒の睡眠状態と睡眠の睡眠状態との間の遷移をモニタリングするように構成された遷移モジュール335を含む。遷移モジュール335は、圧力制御モジュール330と協働して、覚醒制御モードと睡眠制御モードとの間で遷移することができる。たとえば、覚醒状態から睡眠状態に遷移しているとき、遷移モジュール335は、覚醒圧から圧力範囲の下限まで圧力を一定の比率で上昇させることができる。圧力が圧力範囲に達すると、圧力制御モジュール330は、患者に供給する圧力を求める制御を引き継ぐことができる。別の例として、睡眠状態から覚醒状態への遷移は、圧力範囲から覚醒圧まで圧力を一定の比率で低下させることができる遷移モジュール335によって、同様に処理することができる。圧力を上昇させる上昇率および圧力を低下させる下降率は、互いに同じである場合もあれば異なる場合もある。上昇・下降率は、臨床医、患者または医師等、システムのユーザが選択または調整することも可能である。いくつかの実施形態では、遷移モジュール335は、覚醒状態から睡眠状態への遷移中にSDBイベントを無視するように構成される。いくつかの実施形態では、圧力範囲から圧力範囲への遷移中に患者が覚醒した場合、遷移モジュール335は、遷移が発生した時点の圧力から覚醒圧に圧力を一定の比率で低下させることができる。
【0045】
図3は、時間の関数としての患者に供給される呼吸ガスの圧力のプロット350を示し、プロットは、種々のイベントとそれらのイベントに対する応答とを実証している。線355は、経時的に患者に供給される圧力を表す。最初に、患者に供給される圧力は、覚醒圧、すなわちP
awakeである。覚醒圧は、約4cmH
2O以上または約4cmH
2O未満等、比較的低い値を有する可能性がある。
【0046】
患者が覚醒中である間、供給される圧力は覚醒圧のままである。終了トリガが発生すると、圧力は、圧力範囲まで、すなわちPminとPmaxの間(両端値を含む)の圧力まで一定の比率で上昇する。終了トリガは、たとえば限定なしに、30回の連続した呼吸の移動窓内の2回の無呼吸イベント(たとえば、中枢性または閉塞性)、30回の連続した呼吸の移動窓内の2回の呼吸低下イベント(たとえば、中枢性または閉塞性)、または連続した一続きの3回の気流制限呼吸を含むイベントであり得る。終了トリガは、覚覚醒の睡眠状態から睡眠の睡眠状態への単なる遷移以上のものを含むことができ、無呼吸イベント、呼吸低下イベント等、患者が睡眠中であるという他の指標も含むことができる。
【0047】
終了トリガが発生すると、供給される圧力は、覚醒圧から圧力範囲の少なくとも下限まで上昇する。圧力の変化率は、患者に対する不快を低減させるかまたは最小限にするように構成することができる。変化率は、臨床医、患者または医師等のユーザが構成するかまたは調整することができる。覚醒圧から圧力範囲への変化率例は、約+0.1cmH2O/秒である。少なくとも約+0.02cmH2O/秒および/または約+2cmH2O/秒以下、少なくとも約+0.05cmH2O/秒および/または約+1cmH2O/秒以下、または少なくとも約+0.1cmH2O/秒および/または約+0.5cmH2O/秒以下等、他の値を使用することも可能である。
【0048】
覚醒圧から圧力範囲までの遷移中、いくつかのイベントを無視することができる。たとえば、遷移中、SDBイベントを無視することができ、それは、そのイベントは、圧力範囲内の圧力を用いて処置されるためである。指示された上昇率より高い率での圧力の上昇は、患者に対して不快をもたらす可能性がある。いくつかの実施形態では、上昇・下降率は、1つまたは複数のSDBイベントに応じて変化する可能性がある。
【0049】
覚醒圧から圧力範囲への遷移中、患者の睡眠状態が覚醒中であると判定される場合。この時点で、供給される圧力を、その現時点での値から覚醒圧まで低減させることができる。覚醒圧への変化率は、覚醒圧からの上昇の変化率と同じ大きさを有する場合があり、または異なる場合がある。覚醒圧への変化率例は、約-0.1cmH2O/秒である。変化の大きさが、少なくとも約0.02cmH2O/秒および/または約2cmH2O/秒以下、少なくとも約0.05cmH2O/秒および/または約1cmH2O/秒以下、または少なくとも約0.1cmH2O/秒および/または約0.5cmH2O/秒以下である場合等、他の値を使用することも可能である。
【0050】
圧力が圧力範囲の下限(たとえば、Pmin)に達すると、本明細書においてより詳細に記載するように、圧力アルゴリズムを用いて圧力を制御することができる。たとえば、供給される圧力を、SDBイベントに応じて上昇させることができる。同様に、患者が正常に呼吸している場合、圧力は低減することができる。両方の場合において、圧力アルゴリズムを通して提供される圧力の範囲は、限界が設けられ、Pminにおける下限およびPmaxにおける上限を有する。例として、圧力範囲は、約4cmH2O/秒から約20cmH2O/秒まで及ぶことができ、Pminは4cmH2O/秒以上であり、Pmaxは20cmH2O/秒以下であり、PminはPmax未満であり、PminはPawakeを超える。
【0051】
圧力が圧力範囲内にある間に患者が覚醒する場合、供給される圧力は、覚醒圧まで指定された変化率で低下することができる。
【0052】
気道陽圧を送達する方法
図4は、患者に覚醒圧を送達し、患者が睡眠中であるときにある範囲の圧力を送達する例としての方法400のフローチャートを示し、その範囲内の最低圧力は覚醒圧とは異なる。説明を容易にするために、方法400のステップは、制御システム224によって実行されるものとして記載する。しかしながら、方法の1つまたは複数のステップは、装置200の1つまたは複数の構成要素および/またはモジュール320、325、330、335によって実行することができる。さらに、単一ステップまたはステップの組合せを、本明細書に記載するシステムおよびモジュールの結合された作用力および機能を通して達成することができる。
【0053】
ブロック405において、制御システム224は、患者の睡眠状態を検出する。1つまたは複数のセンサをモニタリングすることにより、制御システム224は、睡眠状態を検出し、患者が睡眠中であるかまたは覚醒中であるかを判定することができる。いくつかの実施形態では、睡眠状態は、呼吸パターンをモニタリングすることによって検出される。患者の睡眠状態を判定する好適な方法を用いることができる。いくつかの好適な方法は、他の特許公報、たとえば、米国特許第6,988,994号明細書および米国特許出願公開第2008/0092894号明細書に記載されており、それらの各々は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0054】
ブロック410において、制御システム224は、患者が覚醒中であるか否かに応じて、異なる制御ループに沿って進行する。患者が睡眠中である場合、方法400はブロック415に続き、そこで、制御システムは、睡眠呼吸障害を検出する。制御システム224は、センサデータを分析してSDBイベントを検出することができる。SDBイベントを検出するために使用される技法の例は、2011年2月8日に公開された、「Autotitrating Method and Apparatus」と題する、Gradonらの米国特許第7,882,834号明細書に開示されており、その開示内容はすべて、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
制御システム224が、覚醒状態から睡眠状態に遷移している場合、または圧力が圧力範囲に遷移している(たとえば、それが覚醒圧で開始してもしなくても)場合、圧力は、大きい圧力変化に関連する不快を低減させるかまたはなくすように構成された変化率で変化することができる。圧力の変化率、すなわち上昇率は、ユーザが選択し、調整し、または構成することができる。いくつかの実施形態では、上昇率は一定とすることができ、または、少なくとも部分的に、センサによって収集されたデータまたは他の関連データに基づいて変化することができる。遷移中、制御システム224は、ブロック415において検出されるSDBを無視するように構成することができる。
【0056】
圧力が圧力範囲に達すると、制御システム224は、ブロック420において、少なくとも部分的に、任意の検出されたSDBイベントまたはその欠如(たとえば、正常な呼吸)に基づいて、圧力範囲内で圧力を調整する制御方法を採用することができる。全体として参照により本明細書に組み込まれる、2011年8月12日に出願され、「APPARATUS AND METHOD FOR PROVIDING GASES TO A USER」と題する国際公開第2012/020314号パンフレットに記載されている方法を含む、種々の制御方法または制御アルゴリズムが可能である。
【0057】
患者が覚醒中である場合、方法400は、ブロック410からブロック425に進み、そこで、制御システム224は、覚醒圧で呼吸ガスを供給するようにPAPシステムを制御し、覚醒圧は、圧力範囲の下限以下である。制御システム224が睡眠状態から覚醒状態に遷移している場合、または圧力が覚醒圧に遷移している(たとえば、それが圧力範囲で開始してもしなくても)場合、圧力は、大きい圧力変化に関連する不快を低減させるかまたはなくすように構成された変化率で変化することができる。圧力の変化率、すなわち下降率は、ユーザが、選択し、調整し、または構成することができる。いくつかの実施形態では、下降率は一定とすることができ、または、少なくとも部分的に、センサに関連するデータまたは他の関連データに基づいて、変化することができる。
【0058】
ブロック420またはブロック425において動作が完了した後、方法400は、ブロック405に戻り、そこで、制御システム224は患者の睡眠状態を検出する。したがって、制御ループは、連続ループで進行し、PAPシステムを制御し、患者の睡眠状態の変化と睡眠呼吸障害イベントとに応答することができる。
【0059】
結論
睡眠中の患者に対してある範囲の圧力を提供し、覚醒中の患者に対してそれより低い圧力を提供するPAPシステムおよび方法の例について、図を参照して記載した。図における表現は、覚醒圧力設定を有するPAP療法に関連する原理を明確に例示するために提示されており、モジュールまたはシステムの分割に関する詳細は、別個の物理的実施形態を線引きしようとするものではなく、説明を容易にするために提供されている。例および図は、本明細書に記載する実施形態の範囲を例示するように意図されており、限定するようには意図されていない。
【0060】
本明細書で用いる「コントローラ」または「プロセッサ」という用語は、広義に、命令を実行する任意の好適なデバイス、論理ブロック、モジュール、回路、または素子の組合せを指す。たとえば、コントローラ305は、Pentium(登録商標)プロセッサ、MIPS(登録商標)プロセッサ、Power PC(登録商標)プロセッサ、AMD(登録商標)プロセッサ、ARM(登録商標)プロセッサまたはALPHA(登録商標)プロセッサ等、任意の従来の汎用シングルチップまたはマルチチップマイクロプロセッサを含むことができる。さらに、コントローラ305は、デジタル信号プロセッサ等、任意の従来の専用マイクロプロセッサを含むことができる。本明細書に開示する実施形態に関連して記載した様々な例示的な論理ブロック、モジュールおよび回路は、本明細書に記載する機能を実行するように設計された、汎用プロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)あるいは他のプログラマブルロジックデバイス、ディスクリートゲートあるいはトランジスタロジック、ディスクリートハードウェアコンポーネント、またはそれらの任意の組合せを用いて、実装または実施することができる。コントローラ305は、コンピューティングデバイスの組合せ、例えば、DSPとマイクロプロセッサとの組合せ、複数のマイクロプロセッサ、DSPコアに関連する1つまたは複数のマイクロプロセッサ、または他の任意のこうした構成として実装することができる。
【0061】
データ記憶装置310は、情報、典型的にはコンピュータまたはデジタルデータを格納および検索できるようにする電子回路を指すことができる。データ記憶装置310は、外部デバイスまたはシステム、例えばディスクドライブまたはソリッドステートドライブを指すことができる。データ記憶装置310はまた、高速半導体記憶装置(チップ)、たとえばランダムアクセスメモリ(RAM)またはさまざまな形態のリードオンリメモリ(ROM)を指すことも可能であり、これらは、通信バスまたはコントローラ305に直接接続される。他のタイプのメモリとしては、バブルメモリおよびコアメモリが挙げられる。データ記憶装置は、非一時的な媒体にデータを格納するように構成された物理的ハードウェアであり得る。
【0062】
特に「できる」、「場合がある」、「可能性がある」、「たとえば」等、本明細書で用いる仮定的な(conditional)言い回しは、特に別段の定めのない限り、または使用される文脈で別段の理解のない限り、概して、所定の実施形態が、所定の特徴、要素および/または状態を含み、他の実施形態は含まないことを意味するように意図される。したがって、こうした仮定的な言い回しは、概して、特徴、要素および/または状態が1つまたは複数の実施形態にいかなるようにも必須であることを示唆するものとは意図されない。本明細書で用いる、「備える」、「含む」、「有する」またはそれらの任意の他の活用形は、非排他的な包含を網羅するように意図される。たとえば、要素のリストを含むプロセス、方法、物品または装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されず、明示的には列挙されていない他の要素、またはそうしたプロセス、方法、物品あるいは装置に固有の他の要素を含む可能性がある。また、「または」という用語は、(その排他的な意味ではなく)その包含的な意味で使用され、そのため、たとえば要素のリストを関連づけるために使用されるとき、「または」という用語は、そのリスト内の要素の1つ、いくつかまたはすべてを意味する。「X、YおよびZのうちの少なくとも1つ」という句等の選言的な言い回しは、特に別段の定めのない限り、一般的に使用される文脈で、YまたはZのいずれかである可能性があることを意味するように理解される。したがって、こうした選言的な言い回しは、所定の実施形態において、Xのうちの少なくとも1つ、Yのうちの少なくとも1つ、およびZのうちの少なくとも1つが各々存在する必要があることを示唆するものとは、概して意図されていない。特に、「約」、「およそ」等、概算、推定または不正確な値を示唆する、本明細書で使用する言い回しは、特に明記しない限り、または使用される文脈で矛盾しない限り、その言い回しによって記載される値が、その述べられている値の10%以内、述べられている値の5%以内、または述べられている値の1%以内であることを伝えるように、概して意図されている。
【0063】
本明細書に記載する実施形態に対して多くの変形および変更を行うことができ、それらの要素は、他の許容可能な例の間にあるものと理解されるべきであることが強調されるべきである。こうした変更および変形のすべてが、本開示の範囲内に含まれ、以下の特許請求の範囲によって保護されるように意図される。さらに、上述した開示のいずれも、いかなる特定の構成要素、特徴またはプロセスステップが必須または本質的であることを示唆するようには意図されていない。