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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】ジクアホソル含有点眼液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7084 20060101AFI20240304BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240304BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240304BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
A61K31/7084
A61K9/08
A61K47/18
A61P27/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022039183
(22)【出願日】2022-03-14
(62)【分割の表示】P 2019022692の分割
【原出願日】2013-03-25
(65)【公開番号】P2022075813
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2012069157
(32)【優先日】2012-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂谷 明子
(72)【発明者】
【氏名】池井 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 孝司
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅胤
(72)【発明者】
【氏名】細井 一弘
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 美貴子
(72)【発明者】
【氏名】園田 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】福井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】桑野 光明
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特許第6389544(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7084
A61K 9/08
A61K 47/18
A61P 27/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1~10%(w/v)の濃度のジクアホソルまたはその塩を含有する水性点眼液に、0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を加えることによる、該水性点眼液の保存効力を向上させる方法であって、該水性点眼液がさらに防腐剤を含有し、該防腐剤がベンザルコニウム塩化物である、方法
【請求項2】
キレート剤が、エデト酸、クエン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、リンゴ酸、酒石酸、フィチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
キレート剤が、エデト酸、クエン酸、メタリン酸、ポリリン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
キレート剤が、エデト酸の塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
点眼液中の該キレート剤の濃度が0.0005~0.5%(w/v)である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
点眼液中の該キレート剤の濃度が0.001~0.1%(w/v)である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
点眼液中のジクアホソルまたはその塩の濃度が1~10%(w/v)である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
点眼液中のジクアホソルまたはその塩の濃度が3%(w/v)である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
キレート剤がエデト酸の塩であり、点眼液中の該キレート剤の濃度が0.001~0.1%(w/v)であり、点眼液中のジクアホソルまたはその塩の濃度が3%(w/v)である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0.1~10%(w/v)の濃度のジクアホソルまたはその塩および0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を含有する水性点眼液、およびその製造方法に関する。また、本発明は、0.1~10%(w/v)の濃度のジクアホソルまたはその塩を含有する水性点眼液(以下、単に「ジクアホソル点眼液」ともいう)に、0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を加えることによる、該水性点眼液から不溶性析出物の発生を抑制する方法、該水性点眼液の眼刺激性を軽減する方法、および該水性点眼液の保存効力を向上させる方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ジクアホソルはP,P-ジ(ウリジン-5’)四リン酸またはUpUとも呼ばれるプリン受容体アゴニストであり、特許第3652707号公報(特許文献1)に開示されているように、涙液分泌促進作用を有することが知られている。また、Cornea, 23(8), 784-792(2004)(非特許文献1)には、ジクアホソル四ナトリウム塩を含有する点眼液を点眼投与することにより、ドライアイ患者の角膜上皮障害が改善したことが記載されている。実際、我が国においては、3%(w/v)の濃度のジクアホソル四ナトリウム塩を含有する点眼液がドライアイ治療薬として使用されている(製品名:ジクアス(登録商標)点眼液3%)。
【0003】
一方、点眼液については、製造および流通過程、ならびに患者による保存過程においても安定した物理化学的性質を有する必要がある。特に、流通過程や患者による保存時に析出物が生じるような点眼液は、事後的に析出物を取り除くことができないので、点眼液としては好ましくない。また、製造過程において析出物が生じる場合、点眼液をろ過滅菌する過程で析出物を取り除くことは可能ではあるが、ろ過中にろ過フィルターが目詰まりを起こすためにろ過滅菌の効率が悪くなり、製造コストが嵩むという問題が生じる。
【0004】
点眼液中の析出物の発生を抑制する方法として、特開2007-182438号公報(特許文献2)において、点眼液中にグリセリンを添加する方法などが開示されているが、同文献にも記載されているように、析出物の性質や状態は有効成分や添加物の種類によってそれぞれ異なるものであり、当然に、析出物の発生を抑制する方法も点眼液ごとに異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3652707号公報
【文献】特開2007-182438号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cornea, 23(8), 784-792(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、安定した物理化学的性質を有するジクアホソル点眼液およびその製造方法を探索することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、鋭意研究の結果、ジクアホソル点眼液の保存中に経時的に不溶性析出物が生じ、さらに、0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を添加することで、該不溶性析出物の発生を抑制しうることを見出し、本発明に至った。また、本発明者等は、ジクアホソル点眼液に0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を添加することで、該点眼液の眼刺激性が軽減すると共に、その保存効力を向上せしめることをも見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、0.1~10%(w/v)の濃度のジクアホソルまたはその塩および0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を含有する水性点眼液(以下、単に「本点眼液」ともいう)である。
【0010】
本点眼液におけるキレート剤は、エデト酸、クエン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、リンゴ酸、酒石酸、フィチン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、エデト酸、クエン酸、メタリン酸、ポリリン酸およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましく、エデト酸の塩であることが特に好ましい。
【0011】
また、本点眼液は、点眼液中の該キレート剤の濃度が0.0005~0.5%(w/v)であることが好ましく、0.001~0.1%(w/v)であることが特に好ましい。
【0012】
また、本点眼液において、ジクアホソルまたはその塩の濃度は1~10%(w/v)であることが好ましく、3%(w/v)であることが特に好ましい。
【0013】
本点眼液はまた、キレート剤がエデト酸の塩であり、点眼液中の該キレート剤の濃度が0.001~0.1%(w/v)であり、点眼液中のジクアホソルまたはその塩の濃度が3%(w/v)であることが好ましい。
【0014】
また本点眼液は、さらに、防腐剤を含有することが好ましい。
また、本発明は、0.1~10%(w/v)の濃度のジクアホソルまたはその塩を含有する水性点眼液の製造方法であって、ジクアホソルまたはその塩および該水性点眼液中のキレート剤の最終濃度が0.0001~1%(w/v)となる量のキレート剤を混合して不溶性析出物の発生が抑制された水溶液を得るステップを含む製造方法(以下、単に「本製造方法」ともいう)についても提供する。
【0015】
また、本製造方法は、得られた水溶液をポアサイズ0.1~0.5μmのろ過滅菌フィルターでろ過するステップを含むことが好ましい。
【0016】
本発明はさらに、0.1~10%(w/v)の濃度のジクアホソルまたはその塩を含有する水性点眼液に、0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を加えることによる、該水性点眼液から不溶性析出物の発生を抑制する方法についても提供する。
【0017】
本発明はさらに、0.1~10%(w/v)の濃度のジクアホソルまたはその塩を含有する水性点眼液に、0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を加えることによる、該水性点眼液の眼刺激性を軽減する方法についても提供する。
【0018】
本発明はさらに、0.1~10%(w/v)の濃度のジクアホソルまたはその塩を含有する水性点眼液に、0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を加えることによる、該水性点眼液の保存効力を向上させる方法についても提供する。
【発明の効果】
【0019】
後述する保存安定性試験およびろ過性能試験の結果から明らかなように、本点眼液では、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液で認められる保存中の不溶性析出物の発生、および製造過程(ろ過滅菌過程)におけるろ過性の低下が抑制された。また、後述する眼刺激性評価試験および保存効力試験の結果で示されるように、本点眼液では、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液と比較して、眼刺激性の軽減および保存効力の増強も確認された。したがって、本点眼液は、製造および流通過程ならびに患者による保存過程においても安定した物理化学的性質を有する上、眼刺激性が軽減されると共に、優れた保存効力をも有する。特に、本点眼液は、製造過程(ろ過滅菌過程)におけるろ過性の低下が抑制されているため、製造過程で効率的なろ過滅菌が可能となり、製造コストの抑制に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】エデト酸塩含有処方、キレート剤非含有処方それぞれのジクアホソル点眼液でのろ過性能試験の結果を示すグラフであり、縦軸はろ過量(g)、横軸は時間(分)である。
図2】キレート剤非含有処方、またはエデト酸塩、クエン酸、メタリン酸塩もしくはポリリン酸塩含有処方のそれぞれのジクアホソル点眼液でのろ過性能試験の結果を示すグラフであり、縦軸は有効ろ過面積あたりのろ過量(g/cm)、横軸は時間(分)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ジクアホソルは、下記構造式で示される化合物である。
【0022】
【化1】
【0023】
「ジクアホソルの塩」としては、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛などとの金属塩;塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩;酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩;臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩;臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩;アンモニアとの塩;トリエチレンジアミン、2-アミノエタノール、2,2-イミノビス(エタノール)、1-デオキシ-1-(メチルアミノ)-2-D-ソルビトール、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、プロカイン、N,N-ビス(フェニルメチル)-1,2-エタンジアミンなどの有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0024】
本発明において、「ジクアホソルまたはその塩」には、ジクアホソル(フリー体)またはその塩の水和物および有機溶媒和物も含まれる。
【0025】
ジクアホソルまたはその塩に、結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それらの結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。
【0026】
本発明の「ジクアホソルまたはその塩」として好ましいのはジクアホソルのナトリウム塩であり、下記構造式で示されるジクアホソル四ナトリウム塩(以下、単に「ジクアホソルナトリウム」ともいう)が特に好ましい。
【0027】
【化2】
【0028】
ジクアホソルまたはその塩については、特表2001-510484号公報に開示された方法などにより製造することができる。
【0029】
本点眼液はジクアホソルまたはその塩以外の有効成分を含有することもできるが、好ましくは、ジクアホソルまたはその塩を唯一の有効成分として含有する。
【0030】
本点眼液中のジクアホソルまたはその塩の濃度は0.1~10%(w/v)であるが、1~10%(w/v)であることが好ましく、3%(w/v)であることが特に好ましい。
【0031】
本製造方法におけるジクアホソルまたはその塩の使用量は、本方法によって得られる水性点眼液中のジクアホソルまたはその塩の最終濃度が0.1~10%(w/v)となる量であるが、該濃度が1~10%(w/v)となる量であることが好ましく、該濃度が3%(w/v)となる量であることが特に好ましい。
【0032】
本発明において、「水性点眼液」とは水を溶媒とする点眼液を意味する。
本発明において、「キレート剤」とは、金属イオンをキレート化する化合物であれば特に制限はされないが、例えば、エデト酸(エチレンジアミン四酢酸)、エデト酸一ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸二カリウム、エデト酸三カリウム、エデト酸四カリウムなどのエデト酸またはその塩;クエン酸、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウムなどのクエン酸またはその塩;メタリン酸、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウムなどのメタリン酸またはその塩;ピロリン酸、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸四カリウムなどのピロリン酸またはその塩;ポリリン酸、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウムなどのポリリン酸またはその塩;リンゴ酸一ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウム、リンゴ酸一カリウム、リンゴ酸二カリウムなどのリンゴ酸またはその塩;酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸カリウムナトリウムなどの酒石酸またはその塩;フィチン酸ナトリウム、フィチン酸カリウムなどのフィチン酸またはその塩、などを挙げることができる。なお、本発明において、「エデト酸、クエン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、リンゴ酸、酒石酸、フィチン酸、およびそれらの塩」には、それぞれのフリー体またはそれらの塩の水和物および有機溶媒和物も含まれるものとする。
【0033】
本発明において、好ましいキレート剤はエデト酸、エデト酸の塩(エデト酸塩)、クエン酸、クエン酸の塩(クエン酸塩)、メタリン酸、メタリン酸の塩(メタリン酸塩)、ポリリン酸、ポリリン酸の塩(ポリリン酸塩)であり、エデト酸のナトリウム塩(エデト酸二ナトリウム水和物などの水和物を含む)、クエン酸(クエン酸一水和物などの水和物を含む)、メタリン酸のナトリウム塩(メタリン酸ナトリウム)、ポリリン酸のナトリウム塩(ポリリン酸ナトリウム)が特に好ましい。
【0034】
本発明において、エデト酸塩としても最も好ましいのは、エデト酸二ナトリウム水和物(以下、単に「エデト酸ナトリウム水和物」ともいう)である。
【0035】
本点眼液中のキレート剤の濃度は0.0001~1%(w/v)であるが、0.0005~0.5%(w/v)が好ましく、0.001~0.1%(w/v)が特に好ましい。
【0036】
本製造方法におけるキレート剤の使用量は、本方法によって得られる水性点眼液中の該キレート剤の最終濃度が0.0001~1%(w/v)となる量であるが、該キレート剤の最終濃度が0.0005~0.5%(w/v)となる量であることが好ましく、該キレート剤の最終濃度が、0.001~0.1%(w/v)となる量であることが特に好ましい。
【0037】
本点眼液はさらに防腐剤を含有することができる。なお、本発明における「防腐剤」としては、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩、パラベン、ソルビン酸、クロロブタノール、ホウ酸、亜塩素酸塩などを挙げることができるが、ベンザルコニウム塩化物が特に好ましい。
【0038】
本点眼液に添加されるベンザルコニウム塩化物としても最も好ましいのは、その一般式:[CCHN(CHR]Clにおいて、アルキル基Rの炭素数が12であるベンザルコニウム塩化物(以下、単に「BAK-C12」ともいう)である。
【0039】
また、本製造方法においては、ジクアホソルまたはその塩およびキレート剤を混合する際に、さらに前記防腐剤を加えることもできる。
【0040】
本点眼液がさらに防腐剤を含有する場合、該防腐剤濃度は、所定の保存効力を奏する濃度であれば特に制限されないが、該防腐剤がベンザルコニウム塩化物の場合、0.0001~0.1%(w/v)が好ましく、0.0005~0.01%(w/v)がさらに好ましく、0.001~0.005%(w/v)が特に好ましい。
【0041】
本製造方法においてさらに防腐剤を使用する場合、該防腐剤の使用量は、所定の保存効力を奏する量であれば特に制限されないが、該防腐剤がベンザルコニウム塩化物の場合、本方法によって得られる水性点眼液中の該防腐剤の最終濃度が、0.0001~0.1%(w/v)となる量であることが好ましく、該濃度が0.0005~0.01%(w/v)となる量であることがさらに好ましく、該濃度が0.001~0.005%(w/v)となる量であることが特に好ましい。
【0042】
本点眼液には、汎用されている技術を用い、必要に応じて製薬学的に許容される添加剤を添加することができ、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、イプシロン-アミノカプロン酸などの緩衝化剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤などを必要に応じて選択し、添加することができる。本点眼液のpHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4~8の範囲内が好ましい。
【0043】
また、本製造方法においては、ジクアホソルおよびキレート剤を混合する際に、さらに前記添加剤を加えることもできる。
【0044】
本点眼液はろ過滅菌またはその他の滅菌処理を行なうことができ、これらの滅菌された本点眼液も本発明の範囲に含まれる。
【0045】
本製造方法においては、ジクアホソルまたはその塩およびキレート剤を混合して得られた水溶液を、さらに滅菌処理することもできる。滅菌方法は、得られた水溶液を滅菌できる方法であれば特に限定されないが、好ましくはろ過滅菌である。
【0046】
本発明において「ろ過滅菌」とは、水溶液をろ過滅菌できる方法であれば特に限定されないが、好ましくは、ポアサイズ0.1~0.5μmのろ過滅菌フィルターを用いてろ過することが好ましい。
【0047】
本発明において、「不溶性析出物」とは本点眼液の製造、流通および/または保存過程において生じる再溶解しない異物を意味する。なお、本発明における「不溶性析出物の発生」とは(a)点眼液中に目視可能な異物が生じること、および(b)点眼液中に目視可能な異物が生じないものの、ろ過滅菌中にろ過性の低下が生じることの両方またはいずれかを意味するものとする。
【0048】
本発明における「不溶性析出物の発生が抑制された」とは、所定の濃度のジクアホソルまたはその塩を含有する点眼液について、同一濃度のジクアホソルまたはその塩を含有し、キレート剤を添加しない点眼液と比較して、(a)製造直後ないし保存中に認められる目視可能な点眼液中の異物の発生頻度および/または量が低減されていること(目視可能な異物が全く認められない場合も含む)、ならびに(b)ろ過滅菌中のろ過性の低下が抑制されていること(ろ過性の低下が全く生じない場合も含む)の両方またはいずれかを意味するものとする。
【0049】
本発明はさらに、ジクアホソルまたはその塩を含有する水性点眼液に、0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を加えることによる、該水性点眼液から不溶性析出物の発生を抑制する方法についても提供する。本発明における「不溶性析出物の発生を抑制する」とは、前記「不溶性析出物の発生が抑制された」と同義である。また、不溶性析出物の発生の抑制方法における各用語の定義は上述したとおりであり、好ましい態様についても上述と同様である。
【0050】
本発明はさらに、ジクアホソルまたはその塩を含有する水性点眼液に、0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を加えることによる、該水性点眼液の眼刺激性を軽減する方法についても提供する。本発明における「眼刺激性を軽減する」とは、所定の濃度のジクアホソルまたはその塩を含有する点眼液をドライアイ患者に点眼した場合の副作用としての眼刺激感の発現頻度(発現率)が、同一濃度のジクアホソルまたはその塩を含有し、キレート剤を含有しない点眼液と比較して、減少していることを意味するものとする。また、眼刺激性の軽減方法におけるその他の用語の定義は上述したとおりであり、好ましい態様についても上述と同様である。
【0051】
本発明はさらに、ジクアホソルまたはその塩を含有する水性点眼液に、0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を加えることによる、該水性点眼液の保存効力を向上させる方法についても提供する。本発明における「保存効力を向上させる」とは、所定の濃度のジクアホソルまたはその塩を含有する点眼液について、同一濃度のジクアホソルまたはその塩を含有し、キレート剤を含有しない点眼液と比較して、保存効力試験に合格するために添加する必要のある防腐剤の量が減少していることを意味するものとする。また、保存効力の向上方法におけるその他の用語の定義は上述したとおりであり、好ましい態様についても上述と同様である。
【0052】
以下に、保存安定性試験、ろ過能試験、眼刺激性評価試験および保存効力試験の結果および製剤例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0053】
[保存安定性試験]
ジクアホソル点眼液の保存中の性状変化の有無を目視で確認するとともに、キレート剤であるエデト酸塩が該性状変化に及ぼす影響を検討した。
【0054】
(試料調製)
・キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15gおよびベンザルコニウム塩化物0.0075gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0055】
・0.001または0.1%(w/v)エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15g、エデト酸ナトリウム水和物0.001gまたは0.1gおよびベンザルコニウム塩化物0.002gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0056】
(試験方法)
上記キレート剤非含有処方および0.001または0.1%(w/v)エデト酸塩含有処方をガラス容器中で、25℃で3ヶ月間保存した後、目視によりその性状の変化の有無を確認した。
【0057】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から明らかなように、キレート剤非含有処方については、保存中に目視可能な不溶性析出物が発生することが確認された。一方で、エデト酸塩含有処方では、これらの不溶性析出物の発生が抑制されることが示された。
【0060】
(考察)
キレート剤を含有するジクアホソル点眼液については、流通過程および患者による保存過程においても、不溶性析出物が発生しないか、または該析出物の発生頻度および量が低減されることが示唆された。
【0061】
[ろ過性能試験]
ジクアホソル点眼液のろ過滅菌時のろ過性能の経時的変化を確認するとともに、キレート剤であるエデト酸塩が該変化に及ぼす影響を検討した。
【0062】
(試料調製)
・キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0063】
・0.001%(w/v)エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5g、エデト酸ナトリウム水和物0.01gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0064】
(試験方法)
各調製物を、ろ過フィルターとして親水性PVDFメンブレンフィルター(日本ポール社製、フロロダインIIディスクフィルターφ47mm、ポアサイズ0.2μm(型式FTKDFL)を2段使用し、ろ過圧力200kPa、室温でろ過を行なった。そのときのろ過時間とろ過量を測定し、その関係をプロットした。
【0065】
(試験結果)
図1は、エデト酸塩含有処方、キレート剤非含有処方それぞれのジクアホソル点眼液でのろ過性能試験の結果を示すグラフであり、縦軸はろ過量(g)、横軸はろ過時間(分)である。図1から明らかなように、キレート剤非含有処方については、ろ過滅菌中にろ過量の低下(ろ過率の低下)が認められる一方、エデト酸塩含有処方では、ろ過率の低下が完全に抑制されることが示された。
【0066】
(考察)
キレート剤を含有するジクアホソル点眼液については、製造過程(ろ過滅菌過程)におけるろ過率の低下が完全に抑制されることから、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液と比較して、効率的にろ過滅菌できることが示唆された。なお、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液において認められたろ過率の低下は、不溶性析出物(目視できないものも含まれる)の目詰まりが原因であるものと考えられる。
【0067】
[ろ過性能試験-2]
エデト酸塩およびエデト酸塩以外のキレート剤が、ジクアホソル点眼液のろ過滅菌時のろ過性能の経時的変化に及ぼす影響を比較検討した。
【0068】
(試料調製)
・キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0069】
・0.01%(w/v)エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5g、エデト酸ナトリウム水和物0.1gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0070】
・0.01%(w/v)クエン酸含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5g、クエン酸一水和物0.1gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0071】
・0.01%(w/v)メタリン酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5g、メタリン酸ナトリウム0.1gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0072】
・0.01%(w/v)ポリリン酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム30g、リン酸水素ナトリウム水和物2g、塩化ナトリウム4.1g、塩化カリウム1.5g、ポリリン酸ナトリウム0.1gおよびベンザルコニウム塩化物0.075gを水に溶解して1000mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.5、浸透圧比1.0とした。
【0073】
(試験方法)
各調製物を、ろ過フィルターとして親水性PVDFメンブレンフィルター(日本ポール社製、フロロダインIIディスクフィルターφ25mm、ポアサイズ0.2μm(型式FTKDFL)を2段使用し、ろ過圧力200kPa、室温でろ過を行なった。そのときのろ過時間と有効ろ過面積あたりのろ過量を測定し、その関係をプロットした。
【0074】
(試験結果)
図2は、キレート剤非含有処方、またはエデト酸塩、クエン酸、メタリン酸塩もしくはポリリン酸塩含有処方のそれぞれのジクアホソル点眼液でのろ過性能試験の結果を示すグラフであり、縦軸は有効ろ過面積あたりのろ過量(g/cm)、横軸はろ過時間(分)を示す。図2から明らかなように、キレート剤非含有処方については、ろ過滅菌中にろ過量の低下(ろ過率の低下)が認められる一方、クエン酸、メタリン酸塩またはポリリン酸塩含有処方では、エデト酸塩含有処方同様に、ろ過率の低下が完全に抑制されることが示された。
【0075】
(考察)
キレート剤を含有するジクアホソル点眼液については、製造過程(ろ過滅菌過程)におけるろ過率の低下が完全に抑制されることから、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液と比較して、効率的にろ過滅菌できることが示唆された。
【0076】
[眼刺激性評価試験]
キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液である「ジクアス(登録商標)点眼液3%」の添付文書には、同点眼液を使用したドライアイ患者の6.7%で副作用として眼刺激感が認められたことが記載されている。そこで、ドライアイ患者同様に角膜上皮が障害されたn-ヘプタノール角膜上皮剥離モデルを用いて、キレート剤の添加がジクアホソル点眼液の眼刺激性にどのような影響を及ぼすか否かを検討した。
【0077】
(試料調製)
・3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15gおよびベンザルコニウム塩化物0.0075gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2~7.8、浸透圧比1.0~1.1とした。
【0078】
・3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15g、エデト酸ナトリウム水和物0.01gおよびベンザルコニウム塩化物0.002gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2~7.8、浸透圧比1.0~1.1とした。
【0079】
・8%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム8g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2gおよびベンザルコニウム塩化物0.0075gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2~7.8、浸透圧比1.0~1.1とした。
【0080】
・8%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム8g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、エデト酸ナトリウム水和物0.01gおよびベンザルコニウム塩化物0.002gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2~7.8、浸透圧比1.0~1.1とした。
【0081】
・基剤
リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.75g、塩化カリウム0.15gおよびベンザルコニウム塩化物0.0075gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2~7.8、浸透圧比1.0~1.1とした。
【0082】
(試験方法)
ウサギの左眼の角膜にn-ヘプタノール処置(1分間)を行なった後、角膜上皮を剥離し、その16~18時間後に、基剤、3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/キレート剤非含有処方、または3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/エデト酸塩含有処方を1回点眼し(50μL/眼)、点眼後1分間の瞬目回数の測定および点眼時の痛みに関連する症状の観察を行なった。その後続けて、点眼5分後までの閉目および半眼などの痛みに関する徴候を観察した(1群4例)。
【0083】
上記観察後、約1時間の間隔をあけて、基剤、3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/キレート剤非含有処方、または3%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/エデト酸塩含有処方を点眼したウサギの左眼に、それぞれ、基剤、8%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/キレート剤非含有処方、または8%(w/v)ジクアホソルナトリウム含有/エデト酸塩含有処方を1回点眼し(50μL/眼)、同様の観察を行なった。
【0084】
(試験結果)
試験結果を表2および表3に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
表2および表3から明らかなように、キレート剤を含有しない処方については、3%(w/v)または8%(w/v)ジクアホソルナトリウムのいずれを点眼した場合においても、点眼後1分間の間に4例中2例で半眼が認められ、本傾向は点眼1分~5分後においてさらに顕著であった。一方で、エデト酸塩を含有する処方については、3%(w/v)ジクアホソルナトリウムを点眼した場合にのみ、点眼1分~5分後において、4例中1例で半眼・閉目が認められたが、発現頻度としては基剤点眼群と同程度であった。
【0088】
(考察)
以上のように、ジクアホソル点眼液は、ドライアイ患者同様に角膜上皮が障害されたn-ヘプタノール角膜上皮剥離モデルにおいて、痛みに関する徴候である半眼・閉目を高頻度で引き起こす一方、該点眼液にキレート剤を添加することで、これらの事象の発現頻度は基剤レベルまで軽減されることが示唆された。すなわち、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液をドライアイ患者に点眼した場合に一定頻度で認められる副作用としての眼刺激は、キレート剤の添加により軽減されるものと思われる。
【0089】
[保存効力試験]
キレート剤がジクアホソル点眼液の保存効力に与える影響を確認するため、保存効力試験を行った。
【0090】
(試料調製)
・キレート剤非含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15gおよびベンザルコニウム塩化物0.0036gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2~7.8、浸透圧比1.0~1.1とした。
【0091】
・0.01%(w/v)エデト酸塩含有処方
ジクアホソルナトリウム3g、リン酸水素ナトリウム水和物0.2g、塩化ナトリウム0.41g、塩化カリウム0.15g、エデト酸ナトリウム水和物0.01gおよびベンザルコニウム塩化物0.0024gを水に溶解して100mLとし、pH調節剤を添加して、pH7.2~7.8、浸透圧比1.0~1.1とした。
【0092】
(試験方法)
保存効力試験は、第十五改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して行なった。本試験では、試験菌として、Esherichia Coli(E.coli)、Pseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)、Staphylococcus aureus(S.aureus)、Candida albicans(C.albicans)およびAspergillus braziliensis(A.braziliensis)を用いた。
【0093】
(試験結果)
試験結果を表4に示す。
【0094】
【表4】
【0095】
なお、表4の試験結果は検査時の生菌数が接種した菌数に比べてどの程度減少したかをlog reductionで示しており、たとえば「1」の場合には、検査時の生菌数が接種菌数の10%に減少したことを示している。
【0096】
表4に示された通り、キレート剤非含有処方では、防腐剤であるベンザルコニウム塩化物の配合濃度が0.0036%(w/v)の場合であっても、日本薬局方の保存効力試験基準(カテゴリーIA)には不適合であった。一方、エデト酸塩含有処方では、ベンザルコニウム塩化物の配合濃度が0.0024%(w/v)であっても前記基準に適合することが示された。したがって、エデト酸塩含有処方は、キレート剤非含有処方と比較して、その保存効力が大幅に増強されていることが示された。
【0097】
(考察)
上記の結果から、ジクアホソル点眼液にキレート剤を添加することで、その保存効力が顕著に向上することが示唆された。すなわち、本点眼液については、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液と比して、点眼液中の防腐剤濃度を低下させ得るものと考えられる。
【0098】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0099】
(処方例1:点眼剤(3%(w/v)))
100ml中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
塩化カリウム 0.01~1g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0100】
(処方例2:点眼剤(3%(w/v)))
100ml中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
塩化カリウム 0.01~1g
BAK-C12 0.1~10g
エデト酸ナトリウム水和物 0.0001~0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0101】
(処方例3:点眼剤(3%(w/v)))
100ml中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
塩化カリウム 0.01~1g
BAK-C12 0.1~10g
クエン酸一水和物 0.0001~0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0102】
(処方例4:点眼剤(3%(w/v)))
100ml中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
塩化カリウム 0.01~1g
BAK-C12 0.1~10g
メタリン酸ナトリウム 0.0001~0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【0103】
(処方例5:点眼剤(3%(w/v)))
100ml中
ジクアホソルナトリウム 3g
リン酸水素ナトリウム水和物 0.1~0.5g
塩化ナトリウム 0.01~1g
塩化カリウム 0.01~1g
BAK-C12 0.1~10g
ポリリン酸ナトリウム 0.0001~0.1g
滅菌精製水 適量
滅菌精製水にジクアホソルナトリウムおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで上記点眼剤を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
0.0001~1%(w/v)の濃度のキレート剤を含有するジクアホソル点眼液では、ジクアホソル点眼液で認められる保存中の不溶性析出物の発生、および製造過程(ろ過滅菌過程)におけるろ過性の低下が抑制された。また、キレート剤を含有するジクアホソル点眼液では、キレート剤を含有しないジクアホソル点眼液に比して、眼刺激性の軽減および保存効力の増強も確認された。したがって、本発明は、製造および流通過程ならびに患者による保存過程においても安定した物理化学的性質を有する上、眼刺激性が軽減されると共に、優れた保存効力をも有する。特に、キレート剤を含有するジクアホソル点眼液は、製造過程(ろ過滅菌過程)におけるろ過性の低下が抑制されているため、製造過程では効率的なろ過滅菌が可能であり、製造コストの抑制に寄与する。
図1
図2