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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】弁の操作案内装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240304BHJP
   F16K 37/00 20060101ALN20240304BHJP
【FI】
G05B23/02 X
F16K37/00 D
F16K37/00 K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022189064
(22)【出願日】2022-11-28
(62)【分割の表示】P 2018131976の分割
【原出願日】2018-07-12
(65)【公開番号】P2023016897
(43)【公開日】2023-02-02
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】根路銘 良介
(72)【発明者】
【氏名】森村 克
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-232995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00 -23/02
F16K 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作具を用いて操作対象弁を開閉操作する操作者に操作案内情報を提示する弁の操作案内装置であって、
前記操作具に備えたセンサにより計測された前記操作対象弁の弁軸の回転方向、回転速度及び操作トルクを含む操作特性情報を、データ入力部を介して時系列で入力し、前記操作特性情報から前記操作具の断続的操作に伴う非操作時の情報を除去するフィルタ処理を実行する操作特性情報入力処理部と、
前記操作特性情報と対比する前記操作対象弁の教師データとして機能する参照特性情報を記憶部に記憶処理する参照特性情報記憶処理部と、
前記フィルタ処理された前記操作特性情報に基づいて弁開度に対する回転速度または操作トルクを含むトレンドグラフを生成し、操作者が比較して前記操作具を操作できるように前記参照特性情報と前記操作特性情報のトレンドグラフを表示部に表示処理する特性情報比較部と、
を備えている弁の操作案内装置。
【請求項2】
前記特性情報比較部は、前記操作特性情報が前記参照特性情報を基準に予め設定された許容範囲に維持されているか否かを監視し、前記操作特性情報が前記許容範囲を逸脱するとその旨を操作者に認知可能に通知する通知処理を実行するように構成されている請求項1記載の弁の操作案内装置。
【請求項3】
前記特性情報比較部は、前記通知処理の実行時に音響情報、振動情報または表示色情報の何れかを用いて操作者に認知させる請求項2記載の弁の操作案内装置。
【請求項4】
前記参照特性情報記憶処理部は、通信ネットワークを介して接続されたデータベースに記憶された前記操作対象弁に対して予め設定され、操作に関する仕様値を含む操作基準特性情報または過去の操作時に履歴情報として記憶された操作特性情報を前記参照特性情報として取得して、前記記憶部に記憶するように構成されている請求項1記載の弁の操作案内装置。
【請求項5】
前記参照特性情報記憶処理部は、通信ネットワークを介して接続されたデータベースに記憶された前記操作対象弁と型式が同一の操作対象弁に対して予め設定され、操作に関する仕様値を含む操作基準特性情報または過去の操作時に履歴情報として記憶された操作特性情報を前記参照特性情報として取得して、前記記憶部に記憶するように構成されている請求項1記載の弁の操作案内装置。
【請求項6】
前記参照特性情報記憶処理部は、前記履歴情報に含まれる熟練度情報に基づいて、熟練度が高い操作者により操作された履歴情報を前記参照特性情報として取得するように構成されている請求項または記載の弁の操作案内装置。
【請求項7】
前記参照特性情報記憶処理部は、前記履歴情報に含まれる管内流速、稼働年数を含む使用環境に関する情報である環境情報に基づいて、今回と同じ環境情報の履歴情報を前記参照特性情報として取得するように構成されている請求項または記載の弁の操作案内装置。
【請求項8】
前記参照特性情報記憶処理部は、前記履歴情報に含まれる管内流速、稼働年数を含む使用環境に関する情報である環境情報に基づいて、今回の環境情報に近い環境情報の履歴情報を優先して前記参照特性情報として取得するように構成されている請求項または記載の弁の操作案内装置。
【請求項9】
前記操作特性情報入力処理部により入力処理された前記操作特性情報を操作特性履歴情報として、通信ネットワークを介して接続されたデータベースにアップロードするデータ出力処理部を備えている請求項1記載の弁の操作案内装置。
【請求項10】
前記データベースは、管網マッピングシステムに備えられ、管網構成要素の布設位置、固有の識別情報、布設時期、仕様値が格納されるデータベースであり、前記操作対象弁の布設位置または識別情報に基づいて、前記参照特性情報記憶処理部により前記参照特性情報がダウンロードされる請求項または記載の弁の操作案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作具を用いて操作対象弁を開閉操作する操作者に操作案内情報を提示する弁の操作案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上水道管路網には多くの手動式の仕切弁やバタフライ弁が組み込まれている。これらの弁は、管路網の維持管理のため、または緊急災害時の対処に重要な役割を担う。各弁は、例えば弁管理番号、品名、型式、呼び径、開閉方向、締切り回転数、締切りトルクなどの固有情報を有し、これらの固有情報はアクリル樹脂材、アルミニウム材またはラミネート処理された札に記載され、地上から見えるところに取り付けられている。
【0003】
基本的に手動の仕切弁などは全閉または全開で使用されるので開度目盛りを設けていないのが一般的であるが、全閉状態であるのか全開状態であるのかが外観で判断できない場合には開度計を備える例も増えている。
【0004】
配水管理や点検などを目的として地下に埋設された仕切弁やバタフライ弁を操作者が開閉操作する場合、地上のマンホールの操作口から各弁の開度目盛りや札に記載された情報を目視で確認する必要があるが、操作口からマンホール内部を覗いても、開度目盛りや札に泥などが付着して汚れていたり内部が暗かったりすると確認が困難な場合もあり、そのような場合に開閉方向を見誤ると開栓を意図しながら実際には閉栓方向に操作するといった誤操作につながる虞があった。
【0005】
また、これらの弁は全閉状態で所定のシール面圧を発生させるために、所要の締切りトルクで締め付ける必要があるが、口径毎に異なる締切りトルクに応じて操作者が力の入れ具合を適切に調整するのは熟練を要し、小口径の弁であれば過大トルクが働いて弁を破損し、大口径の弁であれば過小トルクで締込み不足となり漏れが発生する虞があった。
【0006】
特許文献1には、人間系による確認作業をサポートするツールまたはシステムを構築し、操作者の負荷の低減および弁開閉誤判定による不適合を防止し、定検作業の効率化と信頼性の向上を図ることを目的とする弁開閉監視装置が開示されている。
【0007】
当該弁開閉監視装置は、手動弁のハンドル締め付けにより発生するトルク値を検知するトルク検知手段と、このトルク検知手段によって検知したトルク値に基づいて手動弁の開閉状態を判定する開閉判定手段と、開閉判定手段によって得られた開閉判定結果と開閉判定結果に基づく操作者に対する操作指示とを表示する表示手段などを備えている。
【0008】
詳述すると、手動弁には弁識別のためのバーコードが表示され、可搬型の弁開閉監視装置であるトルクレンチを接続するためのアダプタが設置されている。弁棒の上部に設置されたアダプタにトルクレンチを差し込んで手動弁を開閉操作するように構成され、バーコードを読み込むことにより予め操作すべき手動弁の締め付けトルク値を表示可能な携帯端末が利用される。トルクレンチから出力される操作時の締め付けトルク値が携帯端末により読み取られて、予め定められたトルク判定値と照合して全開あるいは全閉の判定が可能に構成されている。
【0009】
特許文献2には、RFID(Radio Frequency-Identification)タグを弁に配置し、弁の開閉操作とともに簡単に情報の追加や変更ができる開度検知機能を有する弁操作機が開示されている。
【0010】
当該弁操作機は、非接触で情報の読み出し・書き込みが可能なRFIDタグを配置した弁の開閉操作を行う操作機で、シャフトの一端側に弁棒の操作キャップに嵌合するボス部を有し、シャフトの他端側に操作ハンドルを設け、ボス部にRFIDタグに近接して配置するアンテナを設け、シャフトの他端側にアンテナを通して情報の読み出し・書き込み操作を行う本体装置を設けている。
【0011】
例えば地下に埋設された弁の弁棒の近傍にRFIDタグが配置され、このRFIDタグに弁の固有情報としての弁開度、開閉方向(操作に必要な弁棒の回転方向)、回転数、締切りトルクなどの情報、並びに前後の管路情報や周辺の埋設物情報あるいは過去の作業履歴等がデータとして記録される。
【0012】
地上から弁に向けて挿入した操作機のボス部が弁棒の操作キャップに嵌合されると、RFIDタグに記録した情報がアンテナを通して本体装置へ読み出され、弁開度、開閉方向、回転数、締切りトルクなどの情報が本体装置の表示部に表示され、操作者が表示部に表示された情報を目視確認できるようになる。
【0013】
操作者は表示部に表示された情報に基づく適切な判断の下で、操作ハンドルを回して弁棒を回転させて弁の開閉操作を行う。操作後は新しい弁開度データを本体装置からアンテナを通してRFIDタグに記録し、操作機を引き抜いて作業を完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平10-299941号公報
【文献】特開2003-35380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、上述した従来技術によれば、開閉操作に要する弁軸の回転数や、締切りトルクの仕様値を正確に把握することができるようになるが、開閉操作の過程における弁の開度に対応した適切な回転速度や操作トルクなど、開閉操作に伴うノウハウを把握することができず、不慣れな操作者であっても適切な開閉操作を可能にするという観点で更なる改良の余地があった。
【0016】
また、例えば赤水の発生を回避するなどの観点で前回の点検時と同様の操作を行ないたい場合に、不慣れな操作者では具体的な操作条件がわからず、都度対応せざるを得なかった。
【0017】
さらに、前回の操作時から操作トルクが変化している場合に、弁棒の固着やネジ部の摩耗が懸念されるが、不慣れな操作者では明らかに操作が困難な状況になるまで異常に気付くことができないという問題もあった。
【0018】
そのため、不慣れな操作者であっても適切に弁の開閉操作が行なえるような支援装置が望まれていた。
【0019】
本発明の目的は、上述した問題に鑑み、不慣れな操作者であっても適切に弁の開閉操作が行なえる弁の操作案内装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述の目的を達成するため、本発明による弁の操作案内装置の第一の特徴構成は、操作具を用いて操作対象弁を開閉操作する操作者に操作案内情報を提示する弁の操作案内装置であって、前記操作具に備えたセンサにより計測された前記操作対象弁の弁軸の回転方向、回転速度及び操作トルクを含む操作特性情報を、データ入力部を介して時系列で入力し、前記操作特性情報から前記操作具の断続的操作に伴う非操作時の情報を除去するフィルタ処理を実行する操作特性情報入力処理部と、前記操作特性情報と対比する前記操作対象弁の教師データとして機能する参照特性情報を記憶部に記憶処理する参照特性情報記憶処理部と、前記フィルタ処理された前記操作特性情報に基づいて弁開度に対する回転速度または操作トルクを含むトレンドグラフを生成し、操作者が比較して前記操作具を操作できるように前記参照特性情報と前記操作特性情報のトレンドグラフを表示部に表示処理する特性情報比較部と、を備えている点にある。
【0021】
操作者が操作具を用いて弁を開閉操作する過程で操作具に備えたセンサにより弁軸の回転方向、回転速度及び操作トルクを含む弁の操作特性が検出され、データ入力部を介して操作特性情報として操作案内装置に逐次入力される操作特性情報入力処理部によって時系列で入力された操作特性情報から操作具の断続的操作に伴う非操作時の情報を除去するフィルタ処理が実行されて、操作特性情報が参照特性情報と対比可能な態様のトレンドグラフが生成され、当該トレンドグラフが表示部に表示される。例えば弁開度に対する回転速度がトレンドグラフで示されると、例えば弁の全開位置または全閉位置の近傍とその中間領域での回転速度を調整することができ、弁開度に対する操作トルクがトレンドグラフで示されると、開度に応じた適切な操作トルクで操作することができ、例えば全閉状態で所定のシール面圧を発生させるために適切な締切りトルクで締め付けることができるようになる。操作特性情報が参照特性情報と同等の値となるように、表示部に表示された当該トレンドグラフを確認しつつ操作具を操作すれば、熟練度が浅い操作者であっても参照情報に対応する操作特性で弁を開閉操作することができるようになる。
【0022】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記特性情報比較部は、前記操作特性情報が前記参照特性情報を基準に予め設定された許容範囲に維持されているか否かを監視し、前記操作特性情報が前記許容範囲を逸脱するとその旨を操作者に認知可能に通知する通知処理を実行するように構成されている点にある。
【0023】
時系列で入力される操作特性情報が、参照特性情報を基準に予め設定された許容範囲に維持されているか逸脱するかが特性情報比較部によって監視され、逸脱すると通知処理が実行されてその旨が操作者に通知され、操作者が認知すると操作具を用いた弁の開閉操作の程度をリアルタイムで調整することができるようになる。
【0024】
同第三の特徴構成は、上述の第二の特徴構成に加えて、前記特性情報比較部は、前記通知処理の実行時に音響情報、振動情報または表示色情報の何れかを用いて操作者に認知させる点にある。
【0025】
操作特性情報が基準範囲を逸脱するような場合に音響情報、振動情報または表示色情報の何れかでその旨が操作者に通知されると、効果的に認知させることができるようになる。
【0026】
同第の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記参照特性情報記憶処理部は、通信ネットワークを介して接続されたデータベースに記憶された前記操作対象弁に対して予め設定され、操作に関する仕様値を含む操作基準特性情報または過去の操作時に履歴情報として記憶された操作特性情報を前記参照特性情報として取得して、前記記憶部に記憶するように構成されている点にある。
【0027】
参照特性情報として操作対象弁に対する仕様値のような予め設定された操作基準特性情報や、過去の操作特性情報を好適に用いることができ、それらの情報は通信ネットワークを介して接続されたデータベースから参照情報記憶処理部によってダウンロードすることで、極めて容易に獲得できるようになる。
【0028】
同第の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記参照特性情報記憶処理部は、通信ネットワークを介して接続されたデータベースに記憶された前記操作対象弁と型式が同一の操作対象弁に対して予め設定され、操作に関する仕様値を含む操作基準特性情報または過去の操作時に履歴情報として記憶された操作特性情報を前記参照特性情報として取得して、前記記憶部に記憶するように構成されている点にある。
【0029】
参照特性情報として、データベースに記憶された操作対象弁と型式が同一の操作対象弁に対する操作基準特性情報または過去の操作時の操作特性情報を好適に用いることができる。
【0030】
同第の特徴構成は、上述の第または第の特徴構成に加えて、前記参照特性情報記憶処理部は、前記履歴情報に含まれる熟練度情報に基づいて、熟練度が高い操作者により操作された履歴情報を前記参照特性情報として取得するように構成されている点にある。
【0031】
履歴情報に含まれる熟練度情報に基づいて参照特性情報を取得することで、熟練度が高い操作者により操作された履歴情報を教師データとして活用でき、当該参照特性情報に追随するように弁軸を開閉操作することができる。
【0032】
同第の特徴構成は、上述の第または第の特徴構成に加えて、前記参照特性情報記憶処理部は、前記履歴情報に含まれる管内流速、稼働年数を含む使用環境に関する情報である環境情報に基づいて、今回と同じ環境情報の履歴情報を前記参照特性情報として取得するように構成されている点にある。
【0033】
今回と同じ環境情報の履歴情報を参照特性情報に用いることで、適切な操作対象弁を適切に開閉操作することができるようになる。
【0034】
同第の特徴構成は、上述の第または第の特徴構成に加えて前記参照特性情報記憶処理部は、前記履歴情報に含まれる管内流速、稼働年数を含む使用環境に関する情報である環境情報に基づいて、今回の環境情報に近い環境情報の履歴情報を優先して前記参照特性情報として取得するように構成されている点にある。
【0035】
今回と同じ環境情報の履歴情報が存在しない場合でも、今回の環境情報に近い環境情報の履歴情報を優先して参照特性情報に用いることで、適切な操作対象弁を適切に開閉操作することができるようになる。
【0036】
同第の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記操作特性情報入力処理部により入力処理された前記操作特性情報を操作特性履歴情報として、通信ネットワークを介して接続されたデータベースにアップロードするデータ出力処理部を備えている点にある。
【0037】
操作特性情報入力処理部により入力処理された操作特性情報を操作特性履歴情報としてデータ出力処理部によりデータベースにアップロードすることにより、次回の開閉操作時の参照属性情報として利用できるようになる。
【0038】
同第の特徴構成は、上述の第または第の特徴構成に加えて、前記データベースは、管網マッピングシステムに備えられ、管網構成要素の布設位置、固有の識別情報、布設時期、仕様値が格納されるデータベースであり、前記操作対象弁の布設位置または識別情報に基づいて、前記参照特性情報記憶処理部により前記参照特性情報がダウンロードされる
点にある。
【0039】
管網マッピングシステムに備えたデータベースには、管や弁栓などの管網構成要素の布設位置、固有の識別情報、布設時期、仕様値が管理されており、そのようなデータベースに格納された操作基準特性情報や過去の操作時に履歴情報として記憶された操作特性情報を参照属性情報として用いることができるようになるので、弁を効率的に管理できるようになる。
【発明の効果】
【0040】
以上説明した通り、本発明によれば、不慣れな操作者であっても適切に弁の開閉操作が行なえる弁の操作案内装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】弁の操作特性情報管理装置及び操作案内装置の説明図
図2】(a),(b)は操作対象弁の説明図
図3】弁の操作特性情報管理装置及び操作案内装置の機能ブロック構成図
図4】(a),(b),(c)は弁の操作案内装置の説明図
図5】(a)は管内流れが有る場合に熟練者により操作された弁の操作特性の説明図、(b)は管内流れが無い場合に熟練者により操作された弁の操作特性の説明図
図6】(a)は未熟な操作者により操作された弁の操作特性の説明図、(b)は熟練者により操作された弁の操作特性の説明図
図7】弁の属性データ及び操作特性の履歴情報の説明図
図8】フィルタ処理及び補間処理の説明図
図9】フローチャート
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下に、上水道管網設備に備えた手動弁を例にして、本発明の一例である弁の操作特性情報管理装置、及び、操作特性情報管理装置を利用した弁の操作案内装置が組み込まれた弁の操作支援システムを説明する。
【0043】
図1には、弁の操作支援システム1の概略の構成が示され、図3には、弁の操作支援システム1の機能ブロック構成が示されている。当該操作支援システム1は、操作特性情報入力装置10と、操作案内装置20と、上水道の管網マッピングシステム100を備えて構成されている。操作案内装置20は、スマートフォンやタブレットなどの携帯型情報端末装置で構成されている。
【0044】
操作特性情報入力装置10と操作案内装置20とが、例えば、Bluetooth(登録商標)のような近距離無線通信インタフェース(IEEE 802.15.1規格)を介して通信可能に接続され、操作案内装置20と管網マッピングシステム100とが携帯電話回線網やWi-Fi(登録商標)のような無線通信インタフェース(IEEE 802.11規格)などを介してインターネットに接続可能に構成されている。なお、これらの通信規格は例示であり、互いに通信可能に構成されていれば、これらの通信規格に限るものではない。
【0045】
操作特性情報入力装置10は上水道設備の配水管50に組み込まれた操作対象弁40を開閉操作する棒状の操作具16に取付けられている。操作対象弁40は、マンホール内に配置された仕切弁やバタフライ弁などの手動弁であり、地上からマンホール内に操作具16を挿入して開閉操作するように構成されている。
【0046】
図2(a)には、仕切弁の一例であるソフトシール弁40Aが示されている。ソフトシール弁40Aは、弁箱41Aに収容された弁体42Aを周囲にネジ部が形成された弁棒43Aの回転により昇降させることで弁体42Aが上方に移動した開放状態と弁体42Aが下方に移動した閉止状態とに切替える弁であり、弁体42Aが耐塩素性に優れたEPDMで構成され、高い止水効果が得られる弁である。ブッシュ44Aを介して上方に延出した弁棒43Aの上端側に略直方体形状のキャップ45Aが配されている。仕切弁としてソフトシール弁40A以外に弁体42Aが金属で構成されたメタルシール弁が用いられる場合もある。
【0047】
図2(b)には、バタフライ弁40Bが示されている。バタフライ弁40Bは、弁箱41Bに収容された弁体42Bを弁棒43の回転により回転させることで弁体42Bが水流に対して平行姿勢となる開放状態と弁体42Bが水流に対して直交姿勢となる閉止状態とに切替える弁であり、水流に対する交差角度を調整することにより流量を調整可能な弁である。ブッシュ44Bを介して上方に延出した弁棒43Bの上端側に略直方体形状のキャップ45Bが配されている。なお、ブッシュ44Bを介して上方に延出した弁棒43Bの上端側に減速ギヤ機構が介装され、減速ギヤ機構の入力軸側にキャップ45Bが配される態様でもよい。何れの弁も弁棒43A,43Bが弁軸となる。
【0048】
図1に戻って説明を続ける。棒状体の操作具16の下端部には操作対象弁40(40A,40B)のキャップ45(45A,45B)に嵌合するボス部17が設けられ、上端部には開閉操作用のハンドル部18が設けられている。ハンドル部18の直下に位置センサ11及びトルクセンサ12が取り付けられ、その近傍に信号処理部14が係止され、各センサ11,12と信号処理部14とが信号線Sで接続されている。ボス部17には、キャップ45(45A,45B)の外径より僅かに大きな内径の断面矩形の空洞が形成されている。
【0049】
位置センサ11として操作具16の回転速度及び回転角度に応じた電気信号を出力するジャイロセンサまたはエンコーダが用いられ、トルクセンサ12として操作具16のトルクに応じたねじれ量を電圧に変換する歪みゲージが用いられている。
【0050】
ボス部17を操作対象弁40のキャップ45(45A,45B)に嵌合させ、ハンドル部18を把持して操作具16をその軸心周りに回転させることにより操作対象弁40が開閉操作され、その際にトルクセンサ12によって弁軸のトルクが計測され、位置センサ11によって弁軸の回転操作速度が計測される。
【0051】
図3に示すように、操作特性情報入力装置10は、操作具16(図1参照)に組み込まれ、上述した位置センサ11及びトルクセンサ12、信号処理部14、通信インタフェース15を備えている。位置センサ11及びトルクセンサ12で検出された弁の操作特性を示す信号が信号処理部14に入力され、必要に応じて信号処理部14で信号の増幅処理、A/D変換処理、数値演算処理が行なわれて操作特性情報が生成され、内部メモリに記憶される。内部メモリに記憶された操作特性情報は近距離無線通信用の通信インタフェース15を介して所定のインタバルで操作案内装置20に送信される。
【0052】
操作案内装置20は、CPUで構成される演算部21、オペレーティングシステムやアプリケーションプログラム、各種のデータなどが格納されるフラッシュROMやワーキング領域として使用されるRAMを備えた記憶部22、タッチパネル式の表示部23、音源モジュールや振動子(バイブレータ)を備えた報知部24、操作特性情報入力装置10との通信に用いられる第1通信インタフェース25、管網マッピングシステム100との通信に用いられる第2通信インタフェース26などを備えている。
【0053】
記憶部22に格納された弁の操作支援のためのアプリケーションプログラムがCPUで実行されることにより各種の機能ブロックを備えた演算部21が具現化される。即ち、演算部21には、操作特性情報入力処理部21A、属性情報入力処理部21B、履歴情報生成処理部21C、参照情報記憶処理部21D、特性情報比較部(表示処理部)21E、データ出力処理部21Fの各種の機能ブロックが含まれる。これら機能ブロックの詳細は後述する。
【0054】
管網マッピングシステム100は、上水道設備の管路地図情報を管理する管網マッピング管理サーバ110と管網マッピングデータベース120を備えて構成されている。
【0055】
管網マッピングデータベース120には、地中に埋設された各種の配水管や給水管などの布設ルートが地域ごとに区分けされて描画された複数の配管地図情報が格納されるとともに、配管地図を構成する各配水管、給水管、弁、栓などの部品を特定する部品情報が格納されている。配管地図情報は各布設ルートが部品単位で細分化され、対応する部品情報と関連付けされている。これらの部品情報は、布設時に各部品に付されたQRコード(登録商標)のようなコード情報を読み取るスキャナを介して自動入力されている。
【0056】
部品情報は管や弁や栓などの種別ごとにテーブル化されており、部品毎にシリアル番号が付され、布設位置、布設年月日、属性情報が管理されている。属性情報には、管であれば呼び径、型式、管種、製造番号、製造年月日、製造工場などが含まれ、弁であれば呼び径、型式、弁種、製造番号、製造年月日、製造工場、手動弁であれば、全閉から全開に到る弁棒の回転数、開閉方向などが含まれる。
【0057】
操作案内装置20を用いて管網マッピング管理サーバ110にアクセスして特定の部品を検索する場合、例えば布設ルート上の特定の位置、例えば対応する部品のルート上の位置を指定することにより該当する管や弁が抽出でき、例えば部品のシリアル番号、布設位置、製造番号などの固有のデータで検索すれば、該当する管、弁、栓などの部品情報が抽出できる。
【0058】
また、部品情報のうち、配水制御のために開閉操作する必要のある弁や、点検を要する弁などの配水状態を調整するための機能部品に関しては、属性情報として操作年月日、操作目的、操作状態、操作者を含む操作情報が付加され、後に詳述する操作特性情報が操作情報と関連付けられた履歴情報として格納されている。
【0059】
図7には、管網マッピングデータベース120に記憶された弁の属性情報の構成及び弁の操作特性情報(履歴情報)の構成が示されている。管網マッピング情報で一意に特定されるシリアル番号、製造番号、埋設位置の何れかの属性情報に基づいて弁が一意に特定される。
【0060】
操作情報には、操作年月日ごとに操作目的、操作状態、操作者、環境データ、操作特性情報リンクデータが設定されている。手動弁の場合、操作状態には全開、全閉または弁開度が含まれ、操作目的には定期点検作業、工事などに伴う止水調整作業や配水調整作業、管洗浄作業などが含まれる。
【0061】
従って、操作履歴に含まれる最新の操作年月日に対応する操作状態により弁の最新の状態が把握できる。なお、操作者に替えてまたは操作者に付加して熟練度情報を設けてもよい。例えば初心者1から熟練者5までの5段階の熟練度情報を設定することができる。環境データには、管内流速、稼働年数などが含まれる。
【0062】
また、管網マッピングデータベース120には、操作年月日ごとに操作時の操作特性情報が履歴情報として記憶され、操作履歴情報リンクデータに基づいて所望の操作特性情報が特定できるように構成されている。
【0063】
操作目的に応じて上述した手動弁を操作する場合に、経験の少ない操作者であっても、熟練度の高い操作者と同程度の弁操作が可能なように、弁の操作案内装置20が構築されている。即ち、弁の操作案内装置20は、上述の操作具16を用いて操作対象弁40を開閉操作する操作者に操作案内情報を提示する装置であり、当該操作者に熟練度の高い操作者の操作案内情報を提示するように構成されている。
【0064】
図3に示すように、操作案内装置20は、操作具16に備えたセンサ11,12により計測され、信号処理部14で信号処理された操作特性情報を、データ入力部として機能する近距離無線通信用の第1通信インタフェース25を介して入力処理する操作特性情報入力処理部21Aと、操作特性情報と対比する参照特性情報を記憶部22に記憶処理する参照情報記憶処理部21Dと、操作具16の操作に伴ってデータ入力部25から時系列で入力される操作特性情報に基づいて、参照特性情報と操作特性情報とを比較可能な特性情報比較部21Eと、を備えている。そして、特性情報比較部21Eには、参照特性情報と対比可能な操作特性情報のトレンドグラフを生成し、生成したトレンドグラフを表示部23に表示処理する表示処理部が設けられている。
【0065】
以下、図9に示すフローチャートを参照しつつ、弁の操作支援システムの支援手順を説明する。
操作者が操作案内装置20のタッチパネル式の表示部23をタッチ操作することにより、弁の操作支援のためのアプリケーションプログラムが起動されると、属性情報入力処理部21Bが作動して計測準備処理が実行される(ステップS1)。
【0066】
まず、第1通信インタフェース25を介して操作特性情報入力装置10と通信が行なわれ、表示部23に表示されたセンサ選択画面を介して操作特性情報入力装置10に備えたセンサ11,12が選択操作される。この状態で通信インタフェース15を介して信号処理部14と通信可能な状態になる(ステップS2)。
【0067】
続いて作業日となる操作年月日の入力画面、操作者を特定するID情報入力画面が表示され、それらの入力が完了すると、操作対象弁の指定画面が表示される。操作対象弁を指定する態様として以下の態様の何れかが採用される。
【0068】
図1に示すような弁40に配置された二次元バーコード42を操作案内装置20の内蔵カメラで撮影することにより操作対象弁を指定するように構成する態様。
弁40に予め設置されたRFIDタグ(特許文献2に記載されたようなRFIDタグである。)に書き込まれた弁の識別情報を含む情報を操作具16に備えたアンテナを介して信号処理部14が読み込み、操作案内装置20に送信することで操作対象弁を指定するように構成する態様。
操作案内装置20に組み込まれたGPS受信部によって検知された位置情報が第2通信インタフェース26を介して管網マッピングシステム100に送信され、管網マッピングシステム100側で当該位置情報に最も近い位置に布設された弁を操作対象弁40として特定して操作案内装置20に送信することで操作対象弁を指定するように構成する態様である。
【0069】
次に、操作対象弁40に対する操作目的の選択画面が表示される。定期点検作業、工事などに伴う止水調整作業や配水調整作業、管洗浄作業などの選択肢が表示され、何れかをタッチ操作することにより操作目的が設定される(ステップS3)。
【0070】
次に、参照情報記憶処理部21Dが作動し、第2通信インタフェース26を介して接続された管網マッピング管理サーバ110を経由して管網マッピングデータベース120に記憶された操作対象弁40に対する操作基準特性情報または過去の操作時に履歴情報として記憶された操作特性情報を参照特性情報としてダウンロードして、記憶部22に記憶する(ステップS4)。
【0071】
以上の処理が終了すると、操作対象弁40の操作に対する計測可能な状態に移行する。信号処理部14は、通信インタフェース15を介して操作案内装置20から計測開始指令を受け取ると、予め設定された所定時間間隔(例えば数十ミリ秒間隔)で位置センサ11及びトルクセンサ12により検出された信号を入力して、信号値を時間情報とともに内蔵された記憶部に記憶する。そして、当該記憶部に記憶された時間情報と信号値から操作特性情報を算出する(ステップS5)。
【0072】
位置センサ11による信号値と時間情報から操作者のハンドル部18の操作による操作具16の回転速度つまり弁軸の回転操作速度の時系列的情報が得られ、回転操作速度を積分することにより弁軸の回転位置の時系列的情報が得られる。時間情報を介してトルクセンサ12による信号値と位置センサ11による信号値を対応付けることにより弁軸の回転位置に対応する操作具16のトルクつまり弁軸のトルクの時系列的情報が求まる。これらの時系列情報が信号処理部14の記憶部に記憶され、記憶部に記憶された時系列情報が通信インタフェース15を介して操作案内装置20に送信される。
【0073】
操作特性情報入力処理部21Aは、第1通信インタフェース25を介して入力されたこれらの時系列情報に含まれる回転位置情報の累積値から弁開度を算出し、操作特性情報として弁開度に対応付けた回転速度及びトルクを得る。即ち、先に図7で説明した弁の属性情報に含まれる回転数が全開から全閉までに要する弁軸の回転数となり、全開または全閉を基準に回転位置情報の累積値から求まる弁軸の回転数に基づいて0%(全閉)から100%(全開)の間のその時点の弁開度が求まる(ステップS6)。
【0074】
図5(a),(b)には、操作特性情報入力処理部21Aにより処理された操作特性情報の一つである弁開度に対応するトルク特性が示されている。図5(a)は管内流速が2.0m/sのとき(流れ有の場合)に、熟練度の高い操作者が操作具16を操作した場合の特性であり、図5(b)は管内流速が0.0m/sのとき(流れ無の場合)に、熟練度の高い操作者が操作具16を操作した場合の特性である。
【0075】
図中、左端が全開位置、右端が全閉位置となる。実線で示す特性は全開位置から全閉位置に閉操作する際の弁開度に対応するトルク特性が示され、破線で示す特性は全閉位置から全開位置に開操作する際の弁開度に対応するトルク特性が示されている。
【0076】
図5(a),(b)から、操作者のハンドル部18の操作に対応して、トルク特性が脈打っている様子が認められる。ハンドル部18の操作停止時にはトルクが零となり、操作中にトルクが検出される。閉操作ではトルク値が正値となり、開操作ではトルク値が負値となるので、正負の符号で弁の操作方向とハンドル部18の操作タイミングが判別できる。また、管内に水が流れる状態のときと、流れが無い状態のときとで弁体の受ける力が異なり、弁軸に作用するトルクが異なることが理解される。
【0077】
この例では全閉時及び全開時の最大許容トルク(締切りトルク)は最大で100N-m程度に設定されている。従って、それ以上の大きな操作トルクで締め付けると弁が破損する虞がある。また、操作トルクが100N-mより大きく下回ると漏れが生じる虞がある。操作者がこの様なトルク特性を目視しながら操作具16を操作することにより、適切なトルクで締め付けることが可能になる。
【0078】
図6(a),(b)には、同様に操作特性情報入力処理部21Aにより処理された操作特性情報の一つである弁開度に対応するトルク特性が示されている。図6(a)は未熟な操作者が操作具16を操作した場合の特性であり、図6(b)は熟練度の高い操作者が操作具16を操作した場合の特性である。
【0079】
図6(b)では、全閉時及び全開時の操作トルクがほぼ100N-m近傍に調整されるとともに、全閉と全開の中間の弁開度で操作トルクが20~30N-m程度で安定して操作されていることが判る。
【0080】
これに対して、図6(a)では、全閉時の操作トルクが100N-mより大きく下回り、漏れが発生する虞がある状態となり、全開時の操作トルクが100N-mより大きく上回り、破損を招く虞がある状態となっていることが判る。さらに全閉と全開の中間の弁開度で操作トルクが大きく変動し、不安定に操作されていることが判る。弁開度が全閉位置近傍及び全開位置近傍を除く中間開度では、大きな操作トルクで操作することなく安定した一定の操作トルクで操作することが望まれる。
【0081】
操作特性情報として、弁開度に対応するトルク特性のみならず、弁開度に対応する操作速度特性なども重要となる。弁開度が全閉位置近傍及び全開位置近傍では、操作速度を低下させて目標とする操作トルクになるように全開位置または全閉位置まで操作する必要があり、また全閉状態にある弁を開く際に、赤水の発生を回避するために緩やかに操作する必要もある。また、全閉位置近傍及び全開位置近傍を除く中間開度では、安定した一定のトルクでありながらも大きな操作速度で迅速に操作することで操作時間を短縮できるようになる。
【0082】
図4(a),(b),(c)には、特性情報比較部21Eに備えた表示処理部により表示部23に表示処理された操作特性情報のトレンドグラフが示されている。トレンドグラフは、弁開度‐トルク特性と、弁開度‐操作速度特性で、参照特性情報が破線で示され、操作者による操作特性情報が実線で示されている。当該トレンドグラフによって時系列的に変化する弁開度に対するトルク特性や操作速度特性の傾向が把握できる。
【0083】
弁開度に対する回転速度を示すトレンドグラフを目視した操作者は、操作特性情報が参照特性情報に沿うように操作具16を操作することにより、例えば弁の全開位置または全閉位置の近傍とその中間領域での回転速度を調整することができるようになる。また、弁開度に対する操作トルクを示すトレンドグラフを目視した操作者は、開度に応じた適切な操作トルクで操作具16を操作することができ、例えば全閉状態で所定のシール面圧を発生させるために適切な締切りトルクで締め付けることができるようになる。
【0084】
要約すると、操作者が操作具16を用いて弁40を開閉操作する過程で操作具16に備えたセンサ11,12により検出された弁40の操作特性がデータ入力部25を介して操作特性情報として操作案内装置20に逐次入力され、操作特性情報入力処理部21Aによって入力処理される。
【0085】
操作案内装置20に備えた記憶部22には、予め参照情報記憶処理部21Dによって操作特性情報と対比する参照特性情報が記憶されている。データ入力部25から時系列で入力される操作特性情報に基づいて表示処理部(特性情報比較部21E)によって参照特性情報と対比可能な態様のトレンドグラフが生成され、当該トレンドグラフが表示部23に表示される(ステップS6)。
【0086】
例えば操作特性情報が参照特性情報と同等の値となるように、表示部に表示された当該トレンドグラフを確認しつつ操作具16を操作すれば、熟練度が浅い操作者であっても参照特性情報に対応する操作特性で弁を開閉操作することができるようになる。参照特性情報が教師データとして機能するのである。
【0087】
参照情報記憶処理部21Dは、管網マッピング管理サーバ110を経由して管網マッピングデータベース120に記憶された操作対象弁40に対する操作特性情報(履歴情報)を参照特性情報としてダウンロードする際に、履歴情報に含まれる熟練度情報に基づいて、熟練度が高い操作者により操作された履歴情報を前記参照特性情報として取得するように構成されている。従って、参照特性情報として操作対象弁に対する仕様値のような予め設定された操作基準特性情報や、過去の熟練者による操作特性情報を好適に用いることができる。
【0088】
表示処理部(特性情報比較部21E)は、操作特性情報が参照特性情報を基準に予め設定された許容範囲に維持されているか否かを監視し、操作特性情報が許容範囲を逸脱するとその旨を操作者に認知可能に通知する通知処理を実行することにより、操作者が操作状況を認知して操作具16を用いた弁40の開閉操作の程度をリアルタイムで調整することができるように構成されている(ステップS8,S9,S10)。
【0089】
通知処理とは、音響情報、振動情報または表示色情報の何れかまたは複数を用いて操作者に認知させる処理をいう。例えば、操作特性情報が許容範囲に収まっている場合と、僅かに逸脱した場合と、大きく逸脱した場合に応じて通知処理の態様を異ならせることができる。
【0090】
操作特性情報が許容範囲に収まっている場合には無音、僅かに逸脱した場合には間欠音、大きく逸脱した場合には連続音とするような音響情報の態様を採用でき、操作特性情報が許容範囲に収まっている場合には無振動、僅かに逸脱した場合には間欠振動、大きく逸脱した場合には連続振動とするような振動情報の態様を採用でき、操作特性情報が許容範囲に収まっている場合には表示部23に緑色表示、僅かに逸脱した場合には黄色表示、大きく逸脱した場合には赤色表示とするような表示色の態様を採用できる。
【0091】
また、音響情報では音色や音量などを異ならせる態様を採用することができ、振動情報では振動振幅を異ならせる態様を採用することができ、各態様を組み合わせることも可能である。
【0092】
図4(a)では、弁開度-トルク特性、弁開度-操作速度特性の双方が許容範囲に収まっており、表示部23に表示された通知処理が緑色表示(図中、黒丸の内部に符号Gで示す)されている。
【0093】
図4(b)では、弁開度-トルク特性が許容範囲から僅かに逸脱した状態となり(図中、破線の丸印で囲まれた部分)、表示部23に表示された通知処理が黄色表示(図中、黒丸の内部に符号Yで示す)に切り替わっている。
【0094】
図4(c)では、弁開度-トルク特性が許容範囲から大きく逸脱した状態となり(図中、破線の丸印で囲まれた部分)、表示部23に表示された通知処理が赤色表示(図中、黒丸の内部に符号Rで示す)に切り替わっている。
【0095】
このようにして、操作対象弁40の開閉操作が行なわれる際に、どのように操作具16を操作しても表示される操作特性情報が参照特性情報に沿わないような場合には、弁の異常と診断され(ステップS11)、予め設定された異常状態処理が実行される(ステップS12)。
【0096】
例えば、弁開度‐操作速度特性が適正であるのにもかかわらず、弁開度‐トルク特性が参照特性情報から大きく逸脱するような場合であるとか、締切りトルクが参照特性情報の締切りトルクに届かない場合など、予め設定された異常条件を満たすような場合に、通知処理部によって異常と判断され、表示部23にその旨の表示が行なわれる。操作者は、当該表示を確認すると、その旨を管理者に通報するとともに、応急処置として当該弁を開閉操作の初期状態に戻す。
【0097】
操作特性情報入力処理部21Aは、図5,6に示すような操作特性情報から操作具16の断続的操作に伴う非操作時の情報を除去するフィルタ処理を実行するように構成され、フィルタ処理により欠落した情報を前後の操作特性情報に基づいて補間するように構成されている。そのため、図4(a)から(c)に示される弁開度-トルク特性が、図5,6で説明した弁開度-トルク特性の脈動特性と異なっている。
【0098】
通常、操作者は操作具16を介して弁軸を連続的に回転操作することは困難であり、例えば操作具16のハンドル部18を持ち替える際に、回転操作が一時的に停止する。そのような場合にフィルタ処理によって操作具16の断続的操作に伴う非操作時の情報がノイズとして操作特性情報から除去され、フィルタ処理により欠落した情報が前後の操作特性情報に基づいて補間処理される。
【0099】
フィルタ処理として、時系列データの微分値が所定の閾値を逸脱するデータを除去するような微分フィルタ処理を採用することができ、補間処理として、多項式補間やスプライン補間を用いた内挿法、欠落したデータの前後のデータの移動平均を用いて補間する線形補間法などを好適に用いることができる。
【0100】
図8の上段には、時系列データである操作特性情報(破線で示されている)から微分フィルタ処理を行なって非操作時の情報が除去された操作特性情報(実線で示されている)が例示され、図8の下段には、フィルタ処理により欠落した操作特性情報が補間処理で補完された後の操作特性情報(実線で示されている)が例示されている。
【0101】
参照情報記憶処理部21Dについて補足する。
参照情報記憶処理部21Dは、操作対象弁40の操作基準特性情報や、過去の熟練者による操作特性情報を参照特性情報として採用するべく、通信ネットワークを介して接続された管網マッピングデータベース120に格納された弁の操作特性情報(履歴情報)から該当する操作特性情報をダウンロードする例を説明したが、図7に示すように、属性情報に含まれる操作履歴の操作特性情報リンクデータで関連付けられた任意の操作特性情報をダウンロード可能に構成されている。
【0102】
操作対象弁が同一であっても点検や配水管理などの操作目的が異なると操作手順が異なり、それに対応して弁軸の回転方向、回転速度及び操作トルクを含む操作対象弁の操作特性情報が異なることになる。そのような場合でも、属性情報に含まれる操作目的情報(定期点検作業、工事などに伴う止水調整作業や配水調整作業、管洗浄作業など)に基づいて適切な操作特性情報を選択することができるようになる。
【0103】
弁の型式が同一の操作対象弁に対する操作基準特性情報または過去の操作時に履歴情報として記憶された操作特性情報を参照特性情報として取得して、記憶部22に記憶するように構成されていると、データベース120に記憶された操作対象弁と型式が同一の操作対象弁に対する操作基準特性情報または過去の操作時の操作特性情報を参照特性情報として好適に用いることができる。
【0104】
例えば、操作対象弁の履歴情報に含まれる複数の操作特性情報に、所望の操作目的の操作特性情報があっても、所望の管内流速の操作特性情報が存在しない場合に、操作対象弁と型式が同一の操作対象弁の操作特性情報に所望の操作目的で所望の管内流速の操作特性情報が存在するような場合に、当該操作特性情報を参照特性情報として活用できる。
【0105】
参照情報記憶処理部21Dは、履歴情報に含まれる環境情報(管内流速、稼働年数など)に基づいて、今回と同じ環境情報の履歴情報を参照特性情報として取得するように構成されている。今回と同じ環境情報の履歴情報を参照特性情報に用いることで、適切な操作対象弁を適切に開閉操作することができるようになる。
【0106】
参照情報記憶処理部21Dは、履歴情報に含まれる環境情報に基づいて、今回の環境情報に近い環境情報の履歴情報を優先して参照特性情報として取得するように構成されていることが好ましい。今回と同じ環境情報の履歴情報が存在しない場合でも、今回の環境情報に近い環境情報の履歴情報を優先して参照特性情報に用いることで、適切な操作対象弁を適切に開閉操作することができるようになる。
【0107】
換言すると、参照情報記憶処理部21Dは、管網マッピングデータベース120に格納された複数の弁の操作特性情報(履歴情報)のうち、操作対象弁の操作特性情報の中で今回の弁の開閉操作に対する条件と最も近い条件の操作特性情報を優先して選択し、今回の弁の開閉操作に対する条件の教師データとして採用可能な操作特性情報が存在しない場合には、他の弁の操作特性情報の中で今回の弁の開閉操作に対する条件と最も近い条件の操作特性情報を優先して選択するように構成されている。
【0108】
操作案内装置20には、さらに操作特性情報入力処理部21Aにより入力処理された操作特性情報を操作特性履歴情報として、通信ネットワークを介して接続された管網マッピングデータベース120にアップロードするデータ出力処理部21Fを備えている。
【0109】
操作特性情報入力処理部21Aにより入力処理された操作特性情報を操作特性履歴情報としてデータ出力処理部21Fにより管網マッピングデータベース120にアップロードすることにより、次回の開閉操作時の参照属性情報として利用できるようになる(ステップS13)。
【0110】
なお、管網マッピングデータベース120に替えて、専用の操作特性履歴情報データベースを構築してもよい。この場合にも。図7に示すような属性情報で管理すればよい。
【0111】
以下に、操作対象弁40の開閉操作に伴って得られる操作特性情報を収集して管理する弁の操作特性情報管理装置について詳述する。操作特性情報管理装置は、弁の操作支援システム1に組み込まれており、上述した操作特性情報入力装置10と、操作案内装置20の各機能ブロックの一部で構成されている。
【0112】
具体的に、操作特性情報管理装置は、操作対象弁40を開閉操作する操作具16に設けられ、操作具16を介して操作される弁軸の回転方向、回転速度及び操作トルクを含む操作対象弁40の操作特性を計測する操作特性計測処理部14と、操作特性計測処理部14により計測された操作特性情報を、データ入力部25を介して入力処理する操作特性情報入力処理部21Aと、操作対象弁40を個別に識別する識別情報及び操作内容を含む属性情報を入力処理する属性情報入力処理部21Bと、操作具16を介して操作される弁軸の回転方向、回転速度及び操作トルクが含まれる操作特性情報に基づいて、操作対象弁40の弁開度と回転速度または操作トルクとを関連付けた操作特性トレンド情報を生成するとともに、操作対象弁40に操作特性トレンド情報を関連付けた履歴情報を生成する履歴情報生成処理部21Cと、履歴情報生成処理部21Cで生成された履歴情報を記録処理する記録処理部としてのデータ出力処理部21Fと、を備えている。
【0113】
既に説明したように、属性情報入力処理部21Bでは、操作対象弁40の識別情報、操作年月日、操作者を特定するID情報、操作目的などの弁操作に関する属性情報が入力される。
【0114】
また、操作特性情報入力装置10に組み込まれた信号処理部14によって操作特性計測処理部が構成される。
【0115】
履歴情報生成処理部21Cによって生成される操作特性トレンド情報は、図4(a),(b),(c)の弁開度‐トルク特性、弁開度‐操作速度特性において実線で示される情報であり、実質的には操作特性情報入力処理部21Aで入力され、フィルタ処理及び補間処理された操作特性情報である。
【0116】
履歴情報生成処理部21Cは、操作対象弁40に操作特性トレンド情報(操作特性情報)を関連付けた履歴情報、詳述すると、操作対象弁40の識別情報、操作年月日、操作者を特定するID情報、操作目的などの弁操作に関する属性情報と操作特性トレンド情報とを関連付けた履歴情報を生成する。
【0117】
そして、履歴情報生成処理部21Cで生成された履歴情報が、データ出力処理部21Fによって第2通信インタフェース26を介して管網マッピングデータベース120に格納される。
【0118】
このようにして記録された履歴情報が、上述した参照情報記憶処理部21Dによって読み込まれ、熟練度の浅い操作者による弁の開閉操作時に教師データとして効果的に用いられるようになる。
【0119】
記録処理部がデータ出力処理部21Fで構成される例を説明したが、記憶処理部が履歴情報を操作案内装置20の記憶部22に記憶するように構成されていてもよいし、記憶処理部が履歴情報を弁の管理専用のデータベースに送信するようなデータ出力処理部で構成されていてもよい。
【0120】
以下、別実施形態を説明する。
操作具16に組み込まれる位置センサ11として、ジャイロセンサやエンコーダ以外にホール素子など、操作具16の回転速度または回転角度を検出可能な任意のセンサを用いることができる。
【0121】
弁に水流計を設置して管内の水流を検出するように構成し、当該水流計の出力を操作特性情報入力装置10の信号処理部14に入力するように構成し、全開時の管内流速を環境データとして取り込むように構成することができる。水流計として超音波方式の水流計を好適に用いることができる。
【0122】
上述した実施形態では、弁を開閉操作する操作具16が棒状の操作具である場合を説明したが、操作具16の形状は棒状に限るものではなく、弁棒を回転操作可能な操作具であればよい。
【0123】
上述した実施形態では、操作特性情報入力処理部21Aが操作案内装置20に組み込まれた例を説明したが、操作特性情報入力処理部21Aが操作情報入力処理装置10に組み込まれていてもよい。また、操作情報入力処理装置10に組み込まれている信号処理部14が操作案内装置20に組み込まれていてもよい。
【0124】
操作情報入力処理装置10及び操作案内装置20の各機能ブロックの具体的な構成は本発明による作用効果を奏する範囲において適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0125】
1:弁の操作支援システム
10:操作特性情報入力装置
11:位置センサ
12:トルクセンサ
14:信号処理部(操作特性情報計測処理部)
15:通信インタフェース
20:操作案内装置
21:演算部
21A:操作特性情報入力処理部
21B:属性情報入力処理部
21C:履歴情報生成処理部
21D:参照情報記憶処理部
21E:特性情報比較部(表示処理部)
21F:データ出力処理部
22:記憶部
23:表示部
24:報知部
40:操作対象弁
40A:ソフトシール弁
45A:キャップ
40B:バタフライ弁
45B:キャップ
50:配水管
100:管網マッピングシステム
110:管網マッピング管理サーバ
120:管網マッピングデータベース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9