(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】インク及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/033 20140101AFI20240304BHJP
C09D 11/36 20140101ALI20240304BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240304BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C09D11/033
C09D11/36
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B41M5/00 112
(21)【出願番号】P 2022205006
(22)【出願日】2022-12-22
(62)【分割の表示】P 2018132284の分割
【原出願日】2018-07-12
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松村 阿衣子
(72)【発明者】
【氏名】岩見 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】荒川 久満
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203097(JP,A)
【文献】特開2011-094082(JP,A)
【文献】特開2016-044188(JP,A)
【文献】特開2017-214469(JP,A)
【文献】特開2011-194818(JP,A)
【文献】特表2016-539825(JP,A)
【文献】国際公開第2017/223441(WO,A1)
【文献】特開2012-057043(JP,A)
【文献】特開2017-206672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00-13/00
B41J2/01;2/165-2/20;2/21-2/215
B41M5/00;5/50-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、水不溶性の着色剤、アンモニア
のみにより中和された分散剤、
テキサノール、及びグリコールエーテルを含有するインクであって、
前記グリコールエーテルが、以下の(I)~(III)を満たすインク。
(I)沸点が50~270℃である。
(II)1分子が有するヒドロキシ基の数が0又は1である。
(III)50ミリリットルのグリコールエーテルに溶解する、純水の量が5ミリリットルより大きい。
【請求項2】
前記グリコールエーテルの沸点が、75~260℃である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記グリコールエーテルの沸点が、100~250℃である請求項1に記載のインク。
【請求項4】
インクの総質量に対する
テキサノールの含有量が、0.1質量~5質量%である請求項1に記載のインク。
【請求項5】
界面活性剤をさらに含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のインク。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のインクの、インクジェット記録における使用。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のインクの液滴をインクジェットプリンタから吐出して、記録メディアに付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項8】
前記の記録メディアが、インク非吸収メディア、及びインク難吸収メディアより選択されるメディアである、請求項7に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク、そのインクを用いるインクジェット記録方法、及びそのインクが付着した記録メディアに関する。
【背景技術】
【0002】
各種のカラー記録方法の中で、インクジェットプリンタを用いるインクジェット記録方法は、代表的方法の1つである。この方法は、インクの小滴を発生させ、これを紙等の記録メディアに付着させ記録を行う。近年では産業用インクジェット記録の需要が高まり、様々な記録メディアへ記録ができるインクジェット記録方法が求められている。
【0003】
記録メディアのうち、塩化ビニルシートやポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、セロハン、金属、ガラス等のインクを吸収しない記録メディア(以下「非吸収メディア」ともいう。)への記録に用いられるインクとしては、いずれも実質的に水を含有しない、溶剤インク及び硬化性インク等が提案されてきた。しかしながら、これらのインクはVOC、及び皮膚感作性等の、環境及び生物に対する安全性が問題とされてきた。このため、非吸収メディアに対して記録ができる水性インク、特にインクジェットインクの開発が強く望まれてきた。
一方、非吸収メディアに対して、水性インクでインクジェット記録をしても、メディア中にはインクが浸透しない。このため、記録メディアへのインクの浸透による濡れ広がりが生じないことから、個々のインクのドット径が、インク吸収メディアと比較して小さくなる。インクのドット径が小さいと、例えばベタ画像の形成において、必要なインクの量が増加する、印刷時間が長くなる等の経済的な損失が生じる。また、単位面積当たりのインク量が増加すると、ベタ画像の画像ムラ、乾燥不良等も生じ易く、画像品質の劣化にもつながる。このため、非吸収メディアに印刷したときでも、大きなドット径が得られるインクが強く要望されている。
【0004】
特許文献1及び2には、インク非吸収性の記録メディア上にも印字される水性インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2008/102722号ガゼット
【文献】特開2009-197126公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、記録メディア、特に非吸収メディアに付着させたとき、大きなドット径が得られるインク、そのインクを用いるインクジェット記録方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の1)~8)に記載のインクにより、前記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
1)
水、水不溶性の着色剤、アンモニアにより中和された分散剤、下記式(1)で表される化合物、及びグリコールエーテルを含有するインクであって、
前記グリコールエーテルが、以下の(I)~(III)を満たすインク。
(I)沸点が50~270℃である。
(II)1分子が有するヒドロキシ基の数が0又は1である。
(III)50ミリリットルのグリコールエーテルに溶解する、純水の量が5ミリリットルより多い。
【0008】
【0009】
(式(1)中、R1は、ヒドロキシ基、ヒドロキシ基を有するアルコキシ基、アシロキシ基、又はアリールカルボニルオキシ基を表し、R2は水素原子又はアルキル基を表し、R3は水素原子又はアルキル基を表し、R4は水素原子、ヒドロキシ基、又はアルキル基を表し、R5はアルキル基をそれぞれ表す。)
2)
前記グリコールエーテルの沸点が、75~260℃である上記1)に記載のインク。
3)
前記グリコールエーテルの沸点が、100~250℃である上記1)に記載のインク。
4)
インクの総質量に対する式(1)で表される化合物の含有量が、0.1質量~5質量%である上記1)に記載のインク。
5)
界面活性剤をさらに含有する、上記1)~4)のいずれか一項に記載のインク。
6)
上記1)~5)のいずれか一項に記載のインクの、インクジェット記録における使用。
7)
上記1)~5)のいずれか一項に記載のインクの液滴をインクジェットプリンタから吐出して、記録メディアに付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
8)
前記の記録メディアが、インク非吸収メディア、及びインク難吸収メディアより選択されるメディアである、上記7)に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、記録メディア、特に非吸収メディアに付着させたとき、大きなドット径が得られるインク、そのインクを用いるインクジェット記録方法を提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「C.I.」とは、「カラーインデックス」を意味する。また、本明細書においては、実施例等も含めて「%」及び「部」は、特に断りのない限り、いずれも質量基準で記載する。
【0012】
[水]
前記のインクは水を含有する水性インクである。使用できる水に制限は無いが、無機イオン等の不純物が少ないものが好ましい。そのような水としては、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。
【0013】
[水不溶性の着色剤]
前記の水不溶性の着色剤としては、例えば、顔料、分散染料、溶剤染料、建染染料等が挙げられる。これらの中では顔料、分散染料、及び溶剤染料が好ましく、顔料がよりこのましい。
本明細書において水不溶性の着色剤とは、25℃の水1リットルに対する溶解度が通常5g以下、好ましくは3g以下、より好ましくは1g以下、さらに好ましくは0.5g以下の着色剤を意味する。
なお、特に断りのない限り「水不溶性の着色剤」を、以下「着色剤」ということがある。
前記インクが含有する着色剤の種類は通常3種類以上、黒インクのときは3~5種類が好ましく、黒インク以外のカラーインクのときは通常3種類、好ましくは2種類、又は1種類である。但し、黒インクが着色剤としてカーボンブラックを含有するときは、着色剤の種類は2種類、又は1種類が好ましい。本明細書において、カラーインクとは黒インク以外の有色インク(例えばイエロー、マゼンタ、シアン、レッド、オレンジ、ブラウン、バイオレット、ブルー、グリーン、及びホワイト等の各色のインク)を意味する。
【0014】
顔料としては、無機顔料、有機顔料、及び体質顔料等が挙げられる。
無機顔料としては、例えばカーボンブラック、金属酸化物、水酸化物、硫化物、フェロシアン化物、及び金属塩化物等が挙げられる。
【0015】
カーボンブラックとしてはサーマルブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、ガスブラック、及びチャンネルブラック等のカーボンブラックが挙げられる。
カーボンブラックは、例えば、コロンビア・カーボン社製のRaven シリーズ;キャボット社製のMonarch シリーズ、Regal シリーズ、及びMogul シリーズ;オリオンエンジニアドカーボンズ社製のColorBlack シリーズ、Printex シリーズ、SpecialBlack シリーズ、及びNerox シリーズ;三菱化学社製のMA シリーズ、MCF シリーズ、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、及びNo.2300等として入手することができる。
【0016】
金属酸化物としては、例えば、C.I.Pigment White 6、27;水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0017】
有機顔料として、例えばアゾ、ジアゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジオキサジン、ペリレン、ペリノン、チオインジゴ、アンスラキノン、及びキノフタロン等の各種の顔料が挙げられる。
【0018】
有機顔料の具体例としては、例えばC.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、24、55、73、74、75、83、93、94、95、97、98、108、114、128、129、138、139、150、151、154、155、180、185、193、199、202、213等のイエロー;C.I.Pigment Red 5、7、12、48、48:1、57、88、112、122、123、146、149、150、166、168、177、178、179、184、185、202、206、207、254、255、257、260、264、272等のレッド;C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、25、60、66、80等のブルー;C.I.Pigment Violet 19、23、29、37、38、50等のバイオレット;C.I.Pigment Orange 13、16、68、69、71、73等のオレンジ;C.I.Pigment Green7、36、54等のグリーン;C.I.Pigment Black 1等のブラックといった、各色の顔料が挙げられる。
【0019】
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、及びホワイトカーボン等が挙げられる。
【0020】
分散染料としては、公知の分散染料が挙げられる。それらの中ではC.I.Dispersから選択される染料が好ましい。その具体例としては、例えば、C.I.Dispers Yellow 9、23、33、42、49、54、58、60、64、66、71、76、79、83、86、90、93、99、114、116、119、122、126、149、160、163、165、180、183、186、198、200、211、224、226、227、231、237等のイエロー;C.I.Dispers Red 60、73、88、91、92、111、127、131、143、145、146、152、153、154、167、179、191、192、206、221、258、283等のレッド;C.I.Dispers Orange 9、25、29、30、31、32、37、38、42、44、45、53、54、55、56、61、71、73、76、80、96、97等のオレンジ;C.I.Dispers Violet 25、27、28、54、57、60、73、77、79、79:1等のバイオレット;C.I.Dispers Blue 27、56、60、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、202、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368等のブルーといった、各色の分散染料が挙げられる。
また、溶剤染料としてはC.I.Solventから選択される染料が好ましい。
【0021】
前記インクの総質量に対する着色剤の含有量は、通常1~30%、好ましくは1~10%、より好ましくは2~7%である。
また、着色剤の平均粒径は通常50nm~300nm、好ましくは60nm~250nmである。本明細書において平均粒径とは、レーザ光散乱法を用いて測定した粒子の平均粒径を言う。
【0022】
[アンモニアにより中和された分散剤]
前記のアンモニアとしては、特に制限されず、気体、水や有機溶剤へ溶解した液体等が使用できる。それらの中ではアンモニア水が好ましい。
「アンモニアにより中和された分散剤」とは、アンモニアにより以下の中和度に調整された分散剤を意味する。分散剤の中和度は、分散剤の酸価の理論等量で中和したときを100%中和度として、通常30~200%、好ましくは50~150%、より好ましくは75~125%、さらに好ましくは90%~110%である。
【0023】
分散剤としては特に制限されず、公知の分散剤が使用できる。分散剤としては、カルボキシ基、スルホ基、ホスホン酸基等の、遊離の形で酸性を示す官能基を有する分散剤が好ましい。それらの中ではスチレン、(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル酸から選択されるモノマー(好ましくは、2種類以上のモノマー、より好ましくは2~6種類のモノマー、より好ましくは2~4種類のモノマー、さらに好ましくは2~3種類のモノマー)から構成される重合体が好ましい。なお、本明細書において(メタ)アクリレートはアクリレート及びメタクリレートの両方を含み、(メタ)アクリル酸等も同様である。
(メタ)アクリレートとしてはアルキル(メタ)アクリレート、及びアリールアルキル(メタ)アクリレートから選択されるモノマーが好ましく、アルキルメタクリレート、及びアリールアルキルメタクリレートから選択されるモノマーが好ましい。
アルキル(メタ)アクリレートとしてはC1-C4アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、C1-C4アルキルメタクリレートがより好ましく、メチルメタクリレート及びブチルメタクリレートから選択されるアルキル(メタ)アクリレートがさらに好ましく、n-ブチルメタクリレートが特に好ましい。
アリールアルキル(メタ)アクリレートとしてはC6-C10アリールC1-C4アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、C6-C10アリールC1-C4アルキルメタクリレートがより好ましく、フェニルC1-C4アルキルメタクリレートがさらに好ましく、ベンジルメタクリレートが特に好ましい。
前記の重合体としては、アルキル(メタ)アクリレート、アリールアルキル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル酸から少なくとも1種類ずつ選択されるモノマーからなる重合体;及び、スチレン-(メタ)アクリル系の重合体から選択される重合体が好ましい。
【0024】
前記アルキル(メタ)アクリレート、アリールアルキル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル酸から少なくとも1種類ずつ選択されるモノマーからなる重合体としては、Aブロック及びBブロックの2つのブロックから構成されるA-Bブロックポリマーが好ましい。
Aブロックはアリールアルキル(メタ)アクリレートで構成されるのが好ましく、(メタ)アクリル酸を含むことができる。このときの(メタ)アクリル酸の含有量は、アリールアルキル(メタ)アクリレートに対して通常0~5モル%、好ましくは0~3モル%、より好ましくは0~1モル%、さらに好ましくは0~0.1モル%である。
Bブロックはアルキル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル酸から構成される共重合体が好ましい。
前記A-Bブロックポリマーとしては、水不溶性ポリマーが好ましい。本明細書において水不溶性ポリマーとは、25℃の水1リットルに対する溶解度が通常5g以下、好ましくは3g以下、より好ましくは1g以下、さらに好ましくは0.5g以下を意味する。溶解度の下限は0gを含む。そのようなA-Bブロックポリマーとしては、例えば、国際公開2013/115071号ガゼットが開示するリビングラジカル重合法により得られるA-Bブロックポリマーが挙げられる。
前記の分散剤は、中和剤がアミン化合物であることを除き、国際公開2013/115071号ガゼットが開示するA-Bブロックポリマーと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。また、A-Bブロックポリマーの製造方法等についても同様である。
【0025】
スチレン-(メタ)アクリル系の重合体としては、BASF社製のJoncrylシリース゛が好ましい。
【0026】
前記の分散剤の酸価は通常90~200mgKOH/g、好ましくは100~150mgKOH/g、より好ましくは100~120mgKOH/gである。
分散剤の重量平均分子量は通常10000~60000、好ましくは10000~40000、より好ましくは15000~30000である。
着色剤の総質量に対する分散剤の使用比率は通常0.1~1.0、好ましくは0.1~0.6、より好ましくは0.2~0.5である。
【0027】
[式(1)で表される化合物]
前記式(1)中、R1におけるヒドロキシ基を有するアルコキシ基としては通常ヒドロキシC1-C6アルコキシ、好ましくはヒドロキシC1-C4アルコキシ、より好ましくはヒドロキシC2-C4アルコキシの各基が挙げられる。そのアルコキシ部分としては、直鎖、分岐鎖又は環状のアルコキシが挙げられ、直鎖又は分岐鎖のものが好ましく、直鎖のものがより好ましい。また、ヒドロキシ基の置換位置は特に制限されない。その具体例としては、ヒドロキシメトキシ、2-ヒドロキシエトキシ、2-ヒドロキシ-n-プロポキシ、3-ヒドロキシ-n-プロポキシ、2-ヒドロキシ-n-ブトキシ、3-ヒドロキシ-n-ブトキシ、4-ヒドロキシ-n-ブトキシ、2-ヒドロキシ-n-ペントキシ、3-ヒドロキシ-n-ペントキシ、4-ヒドロキシ-n-ペントキシ、5-ヒドロキシ-n-ペントキシ、2-ヒドロキシ-n-ヘキシロキシ、3-ヒドロキシ-n-ヘキシロキシ、4-ヒドロキシ-n-ヘキシロキシ、5-ヒドロキシ-n-ヘキシロキシ、6-ヒドロキシ-n-ヘキシロキシ等の直鎖のもの;2-ヒドロキシイソプロポキシ、2-ヒドロキシイソブトキシ、3-ヒドロキシイソブトキシ、2-ヒドロキシイソペントキシ、3-ヒドロキシイソペントキシ、4-ヒドロキシイソペントキシ、2-ヒドロキシイソヘキシロキシ、3-ヒドロキシイソヘキシロキシ、4-ヒドロキシイソヘキシロキシ、5-ヒドロキシイソヘキシロキシ等の分岐鎖のもの;2-ヒドロキシシクロプロポキシ、2-ヒドロキシシクロブトキシ、3-ヒドロキシシクロブトキシ、2-ヒドロキシシクロペントキシ、3-ヒドロキシシクロペントキシ、2-ヒドロキシシクロヘキシロキシ、3-ヒドロキシシクロヘキシロキシ、4-ヒドロキシシクロヘキシロキシ等の環状のもの;等が挙げられる。これらの中では2-ヒドロキシエトキシが好ましい。
【0028】
R1におけるアシロキシ基としては、直鎖、分岐鎖又は環状の通常C1-C6アシロキシ、好ましくはC1-C5アシロキシ、より好ましくはC2-C5アシロキシの各基が挙げられる。これらの中では直鎖のものが好ましい。また、アシロキシ部分のエステルカルボニル以外に、さらに1つのカルボニル基を有するアシロキシ基が好ましい。その具体例としては、メチルカルボニルオキシ、エチルカルボニルオキシ、n-プロピルカルボニルオキシ、n-ブチルカルボニルオキシ、n-ペンチルカルボニルオキシ等の直鎖のもの;イソプロピルカルボニルオキシ、イソブチルカルボニルオキシ、t-ブチルカルボニルオキシ、イソペンチルカルボニルオキシ、1-エチルプロピルカルボニルオキシ、1,1-ジメチルプロピルカルボニルオキシ、2,2-ジメチルプロピルカルボニルオキシ等の分岐鎖のもの;シクロペンチルカルボニルオキシ、シクロブチルカルボニルオキシ、シクロペンチルカルボニルオキシ等の環状のもの;1-オキソエチルカルボニルオキシ、2-オキソプロピルカルボニルオキシ、2-オキソブチルカルボニルオキシ、3-オキソブチルカルボニルオキシ、2-オキソペンチルカルボニルオキシ、3-オキソペンチルカルボニルオキシ、4-オキソペンチルカルボニルオキシ等の、さらに1つのカルボニル基を有するもの;等が挙げられる。これらの中では1-オキソエチルカルボニルオキシ、3-オキソブチルカルボニルオキシが好ましい。
【0029】
R1におけるアリールカルボニルオキシ基としては、通常C6-C12アリールカルボニルオキシが挙げられる。具体例としては、フェニルカルボニルオキシ、ナフチルカルボニルオキシ、ビフェニルカルボニルオキシ等が挙げられ、これらの中ではフェニルカルボニルオキシが好ましい。
【0030】
前記のうち、R1としてはヒドロキシ基又はヒドロキシ基を有するアルコキシ基が好ましく、ヒドロキシ基がより好ましい。
【0031】
R2~R5におけるアルキル基としては通常C1-C6、好ましくはC1-C4の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基が挙げられる。その具体例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、イソペンチル、t-ペンチル、イソヘキシル、t-ヘキシル等の分岐鎖のもの;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等の環状のもの;等が挙げられる。
R2としては直鎖又は分岐鎖が好ましく、分岐鎖がより好ましい。前記の中ではn-プロピル、イソプロピル、t-ブチルが好ましく、イソプロピルがより好ましい。
R3としては直鎖が好ましく、前記の中ではメチルが好ましい。
R4としては直鎖又は分岐鎖が好ましく、前記の中ではn-プロピル、イソプロピル、t-ブチルが好ましい。
R5としては直鎖又は分岐鎖が好ましく、分岐鎖がより好ましい。前記の中ではエチル、n-プロピル、イソプロピル、t-ブチルが好ましく、イソプロピルがより好ましい。
【0032】
前記のうち、
R1としてはヒドロキシ基又はヒドロキシ基を有するアルコキシ基が好ましく、ヒドロキシ基がより好ましい。
R2としてはアルキル基が好ましく、分岐鎖アルキル基がより好ましい。
R3としてはアルキル基が好ましく、直鎖アルキル基がより好ましい。
R4としては水素原子又はヒドロキシ基が好ましい。
R5としては分岐鎖アルキル基が好ましい。
【0033】
前記式(1)で表される化合物の具体例を下記表1に挙げるが、本発明はこれらの具体例に限定されない。また、表1中の略号等は、以下の意味を有する。
Ph:フェニル。
i-Pr:イソプロピル。
n-Pr:ノルマルプロピル。
t-Bu:ターシャリーブチル。
Et:エチル。
【0034】
【0035】
前記式(1)で表される化合物のうち、市販品としてはイーストマンケミカル社製のテキサノールが挙げられる。
【0036】
式(1)で表される化合物は水に溶けにくいため、インクの組成により、式(1)の含有量は変化する。この理由から、前記インクの総質量に対する式(1)で表される化合物の含有量を、一概に特定することは困難である。その目安としては通常0.5%~5%、好ましくは0.6%~3%、より好ましくは0.6%~2%、さらに好ましくは0.8%~1.2%程度である。
【0037】
[グリコールエーテル]
前記グリコールエーテルは、以下の(I)~(III)を満たす。
(I)
沸点が通常50~270℃、好ましくは75~260℃、より好ましくは100~250℃である。
(II)
1分子が有するヒドロキシ基の数が0又は1である。
(III)
50ミリリットルのグリコールエーテルに溶解する、純水の量が通常5ミリリットルより多い。好ましくは10ミリリットル以上、より好ましくは15ミリリットル以上である。上限は特になく、水と任意に混和するグリコールエーテルも使用できる。この純水の溶解量は、以下のようにして測定することができる。
[純水の溶解量の測定方法]
100ミリリットルの共栓付きメスシリンダーにグリコールエーテル50ミリリットルを入れ、20℃の恒温水槽で30分静置する。メスシリンダーに水を適量加えて混合した後、20℃の恒温水槽で30分静置する。静置後の液の状態を目視で観察し、均一であれば、さらに水を適量加えて試験を続ける。静置後の液の状態が不均一(通常はうっすらと白く濁る)であれば試験を終了し、均一であることを最後に確認できた水の量を、純水の溶解量とする。
前記の測定をする前に、グリコールエーテルに溶解する水の量を、簡易的に測定しておくことにより、測定の手間を軽減することができる。
また、本明細書においては、グリコールエーテル50ミリリットルに、水50ミリリットルを加えても均一であったときは、水と混和する可能性が有ると判断し、手間の軽減も含めてそれ以上は測定しなかった。
【0038】
前記グリコールエーテルとしては、下記式(2)、又は下記式(3)で表される化合物が好ましい。
【0039】
【0040】
式(2)中、R6及びR7は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアリール基を表わし、R6及びR7の両方が同時に水素原子となることはない。R6及びR7としては水素原子、アルキル基、及びアルケニル基が好ましい。
x及びyは0~3を表わし、xとyの和は1~3である。
但し、R6及びR7の両方が同時に水素原子以外の基のとき、R6及びR7の炭素数の和は通常2~7、好ましくは2~6、より好ましくは2~5、さらに好ましくは2~4である。
また、R6及びR7の両方が同時に水素原子以外の基のとき、xは0~3、yは0又は1が好ましく;xは1~3、yは0がより好ましく;xは2、yが0がさらに好ましい。
【0041】
R6及びR7におけるアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基としては、直鎖、分岐鎖、又は環状の基が挙げられる。これらの中では直鎖、又は分岐鎖の基が好ましい。その炭素数の範囲としては通常C1-C5、好ましくはC1-C4である。但し、アルケニル基、及びアルキニル基の炭素数の範囲としては通常C2-C5、好ましくはC2-C4である。
アルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル等の直鎖アルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、イソペンチル、t-ペンチル等の分岐鎖アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル等の環状アルキル基等が挙げられる。
アルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル、2-プロペニル(アリル)、3-ブテニル、4-ペンテニル等の直鎖アルケニル基;1-メチル-2-プロペニル、1-メチル-3-ブテニル等の分岐鎖アルケニル基;シクロブテニル、シクロペンテニル等の環状アルケニル基が挙げられる。これらの中では直鎖アルケニル基が好ましい。
アルキニル基の具体例としては、例えば、アセチレニル、2-プロピニル、3-ブチニル等の直鎖アルキニル基;1-メチル-2-プロピニル、1-メチル-3-ブチニル等の分岐鎖アルキニル基が挙げられる。
【0042】
R6及びR7におけるアリール基としてはC6-C10アリール基が挙げられる。それらの中ではフェニル基、又はナフチル基が好ましく;フェニル基がより好ましい。
【0043】
【0044】
式(3)中、R8及びR9は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアリール基を表わし、R6及びR7の両方が同時に水素原子となることはない。R8及びR9としては水素原子、及びアルキル基が好ましい。
R8及びR9としては、一方が水素原子、他方が水素原子以外の基が好ましい。
R8及びR9におけるアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、及びアリール基としては、前記R6及びR7において挙げた各基と、好ましいもの等を含めて同じ基が挙げられる。
【0045】
R10としては直鎖、分岐鎖、又は環状C2-C5アルキレンが挙げられる。これらの中では直鎖、又は分岐鎖アルキレンが好ましく、分岐鎖アルキレンがより好ましい。
その具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン等の直鎖アルキレン;メチルエチレン、メチルプロピレン、メチルブチレン、ジメチルエチレン、ジメチルプロピレン等の分岐鎖アルキレン;シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン等の環状アルキレン等が挙げられる。
【0046】
前記インクの総質量中における、グリコールエーテルの含有量は通常3~50%、好ましくは4~40%、より好ましくは4~30%、さらに好ましくは4~25%、特に好ましくは5~20%である。
【0047】
前記インクのpHは、インクの保存安定性の向上、及びインクジェットプリンタ部材の腐食の防止等を目的として通常5~11、好ましくは7~10である。
また、インクの表面張力は通常10~50mN/m、好ましくは20~40mN/mである。
また、インクの粘度は通常30mPa・s以下、好ましくは20mPa・s以下、下限は0.1mPa・s程度である。
【0048】
前記インクは必要に応じ、前記以外の成分としてインク調製剤を含有することができる。インク調製剤としては水溶性有機溶剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、ワックス剤等のインク調製剤が挙げられる。インク調製剤は、1種類を使用することも、2種類以上を併用することもできる。
【0049】
水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール又は第三ブタノール等のC1-C6アルコール(モノオール);N,N-ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン又はN-メチルピロリジン-2-オン等のラクタム;1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン又は1,3-ジメチルヘキサヒドロピリミド-2-オン等の環式尿素類;アセトン、2-メチル-2-ヒドロキシペンタン-4-オン、エチレンカーボネート等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、分子量400、800、1540又はそれ以上のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール又はジチオジグリコール等のC2-C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサン-1,2,6-トリオール等のポリオール(トリオール);γ-ブチロラクトン又はジメチルスルホキシド等が挙げられる。
また、前記グリコールエーテル以外のグリコールエーテル、例えば、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等も挙げられる。
【0050】
防腐剤の例としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、又は無機塩系等の化合物が挙げられる。
また、アーチケミカル社製の商品名プロクセルGXL(S)、及びプロクセルXL-2(S)等のプロクセルシリーズが好ましく挙げられる。
【0051】
防黴剤の具体例としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン-1-オキシド、p-ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン及びその塩等が挙げられる。
【0052】
pH調整剤は、pHを前記の範囲に調整できる任意の物質を使用できる。その具体例としては、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等のアミン類;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;ケイ酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;及び、リン酸二ナトリウム等のアルカリ金属のリン酸塩等が挙げられる。
【0053】
キレート試薬の具体例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、及びウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0054】
防錆剤の具体例としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、及びジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0055】
水溶性紫外線吸収剤の例としては、例えばスルホ化されたベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ-ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、及びトリアジン系化合物が挙げられる。
【0056】
酸化防止剤の例としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及び複素環類等が挙げられる。
【0057】
界面活性剤の例としては、例えばアニオン、カチオン、ノニオン、両性、シリコーン系、フッ素系等の、公知の界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の種類は特に限定されず、必要に応じて適宜使用することができる。
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、N-アシルアミノ酸又はその塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型リン酸エステル、アルキル型リン酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩、株式会社ADEKA製のアデカコール EC-8600等が挙げられる。
【0058】
カチオン界面活性剤としては2-ビニルピリジン誘導体、ポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0059】
ノニオン界面活性剤としてはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(アルコール)系、及びそれらのC2-C4アルキレンオキシ付加物;ポリグリコールエーテル系等が挙げられる。
【0060】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0061】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。その一例としては、エアープロダクツ社製のダイノール 960、980;日信化学株式会社製のシルフェイス SAG001、SAG002、SAG003、SAG005、SAG503A、SAG008、SAG009、SAG010;及びビックケミー社製のBYK-345、347、348、349、3455、LPX 23298等が挙げられる。これらの中では、ビックケミー社製のBYKシリーズ等で知られるポリエーテル変性シロキサンが好ましい。
【0062】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、例えばDuPont社、オムノバ社、DIC株式会社、及びビックケミー社等から、様々な種類の製品を容易に購入することができる。
【0063】
前記インクを調製するときは、公知の分散インクの製造方法を使用することができる。その一例としては、例えば、着色剤と分散剤とから水性の分散液を調製し、この分散液にグリコールエーテル、及び必要に応じてインク調製剤を加えて混合することにより、インクを調製する方法が挙げられる。
水不溶性の分散剤により着色剤を分散する方法としては、例えば、転相乳化法が挙げられる。すなわち、2-ブタノン等の有機溶剤に分散剤を溶解し、中和剤の水溶液を加えて乳化液を調製する。得られた乳化液に着色剤を加えて分散処理を行い、液を得る。このようにして得られた液から有機溶剤と一部の水を減圧留去することにより、目的とする着色剤の分散液を得ることができる。
分散処理としては、例えば、着色剤と分散剤とをサンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等に入れて、分散を行う方法が挙げられる。一例として、サンドミルを用いるときは、粒子径が0.01mm~1mm程度のビーズを使用し、ビーズの充填率を適宜設定して分散処理を行うことができる。
前記のようにして得られた分散液に対して、ろ過及び/又は遠心分離等の操作をすることができる。この操作により、分散液が含有する粒子の粒子径の大きさを揃えることができる。
【0064】
前記インクをインクジェットインクとして使用するときは、金属陽イオンの塩化物(例えば塩化ナトリウム)、及び硫酸塩(例えば硫酸ナトリウム)等の無機不純物の含有量の少ないインクが好ましい。このような無機不純物は、市販品の着色剤に含まれることが多い。無機不純物含有量の目安は、おおよそ着色剤の総質量に対して1質量%以下程度であり、下限は分析機器の検出限界以下、すなわち0%でよい。無機不純物の少ない着色剤を得る方法としては、例えば、逆浸透膜を用いる方法;着色剤の固体をメタノール等のC1-C4アルコール及び水の混合溶媒中で懸濁撹拌し、着色体を濾過分離して、乾燥する方法;又は、イオン交換樹脂で無機不純物を交換吸着する方法;等の脱塩処理が挙げられる。このような方法により、着色剤の総質量に対する無機不純物の含有量を1%以下とするのが好ましい。下限は検出機器の検出限界以下、すなわち0%とすることができる。
また、前記インクをインクジェットインクとして使用するときは、インクを精密濾過することが好ましい。精密濾過をするときは、メンブランフィルター及び/又はガラス濾紙等を用いることができる。精密濾過を行うときのフィルター等の孔径は通常0.5μm~20μm、好ましくは0.5μm~10μmである。
【0065】
前記インクは、各種の記録・印刷分野に使用することができる。例えば、筆記、印刷、情報記録、捺染等の用途に好適である。特に、インクジェット記録に用いることが好ましい。
【0066】
前記インクジェット記録方法は、前記インクの液滴をインクジェットプリンタから吐出して、記録メディアに付着させることにより記録を行う方法である。インクの吐出を行うインクジェットプリンタのインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
インクジェット記録方法としては、インク中の着色剤の含有量の低いインクを小さい体積で多数射出して画質を改良する方法;実質的に同じ色相で、インク中の着色剤の含有量が異なる複数のインクを用いて画質を改良する方法;及び、無色透明のインクと、着色剤を含有するインクとを併用することにより、記録メディアに対する着色剤の定着性を向上させる方法等も挙げられる。前記インクは、これらの方法においても着色剤を含有するインクとして使用することができる。
【0067】
インクジェット記録方式は、公知の方式を使用できる。その一例としては、例えば、電荷制御方式、ドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式ともいう。)、音響インクジェット方式、サーマルインクジェット方式等が挙げられる。
【0068】
前記記録メディアは、前記インクにより着色される物質であれば特に制限されない。その一例としては、インク受容層を有する紙、及び繊維等の記録メディア;及び、インク受容層を有さないインク難吸収性の記録メディア(以下、「難吸収メディア」ともいう。)、及び非吸収メディアが挙げられる。
ここで、難吸収メディア、及び非吸収メディアに対して、通常の水性インクで記録を行うと、インクの吸収が困難であるためにモットリングを生じたり、インクがはじかれる現象が生じる。一方、前記インクはそのような記録メディアに対してもインクがはじかれることなく記録を行うことができる。このため、記録メディアとしては難吸収メディア、及び非吸収メディアが好ましく、非吸収メディアが特に好ましい。難吸収メディアとしては、例えば普通紙、グラビア印刷やオフセット印刷等に用いられるメディア、アート紙、コート紙、マット紙、キャスト紙等が挙げられる。また、非吸収メディアとしては塩化ビニルシート、高分子樹脂からなるシート、ガラス、ゴム等が挙げられる。
難吸収メディア、又は非吸収メディアに対して、前記インクで記録を行うときは、各メディアを加熱しながら記録を行うことができる。メディアの加熱温度は通常30℃~70℃、好ましくは30℃~60℃、より好ましくは35℃~50℃である。
【0069】
前記インクジェット記録方法で記録メディアに記録するときは、例えば前記インクを含有する容器(インクタンク等という。)をインクジェットプリンタの所定の位置に装填し、前記の記録方法で記録メディアに記録する。
前記インクジェット記録方法は、前記カラーインクから選択される複数のインクのインクセットとして、フルカラーの記録ができる。そのときは、各色のインクを含有する容器を前記と同様にインクジェットプリンタの所定の位置に装填し、前記の記録方法で記録メディアに記録する。
【0070】
前記した全ての成分は、特に断りのない限り、そのうちの1種類を単独で使用できるし、2種類以上を併用することもできる。
前記した全ての事項について、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましく、より好ましいもの同士の組み合わせはさらに好ましい。好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ、より好ましいものとさらに好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
【0071】
本発明のインクは実質的に水を含有する水性インクであり、インクジェット専用紙等のインク受容層を有する記録メディア、及びインク受容層を有さない汎用普通紙、難吸収メディア、及び非吸収メディア等のいずれを使用しても、はじきのない高画質な記録画像を得ることができる。
また、本発明のインクにより得られた記録画像のインクのドット径は、通常のインクにより得られた記録画像のドット径よりも大きい。このため、複数のパスで印刷することなく、1パスの印刷でも効率よくベタ印刷が行えることから、本発明のインクを使用すると印刷時間、及びインクの消費量の両方を低減することができる。この効果は、産業用途において特に有用である。また、ドット径が小さいために複数のパスでベタ印刷を行うと、インクの使用量が増加するため記録画像がモットリング及び/又は粒状感を生じることがある。しかし、本発明のインクにより得られる記録画像は、そのような現象を生じることもない。
また、本発明のインクにより得られた記録画像は耐擦過性に優れ、記録メディア上でのインクドットの真円度が高く、平滑性があり、光沢感を損なわない画像が得られる。さらに、耐水性、耐光性、耐熱性、耐酸化ガス(例えば耐オゾンガス)性等の各種堅牢性に優れた記録画像を得ることができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。また、各合成反応及び晶析等の操作は、特に断りのない限り、いずれも攪拌下に行った。
顔料固形分の測定が必要なときは、株式会社エイ・アンド・デイ社製、MS-70を用いて、乾燥重量法により求めた。なお、実施例中の顔料固形分とは、乾燥重量法により求めた測定値からの顔料固形分のみの換算値である。
【0073】
[(A)分散液1の調製]
国際公開第2013/115071号の合成例3に記載のブロック共重合体を調製した。得られた共重合体6.6部を、2-ブタノン20部に溶解させ、均一な溶液とした。この液に、0.21部の28%アンモニア水溶液を51部のイオン交換水に溶解させた液を加え、1時間攪拌することにより乳化液を得た。得られた乳化液にC.I.Pigment Blue 15:3(大日精化工業社製シアニンブルー A220J)22部を加え、1500rpmの条件下で15時間、サンドグラインダー中で分散処理を行い液を得た。得られた液にイオン交換水100部を滴下し、ろ過して分散用ビーズを取り除いた後、エバポレータで2-ブタノン及び水を減圧留去することにより、顔料固形分が11.9%のシアン分散液「Dp1」を得た。
【0074】
[(B)インクの調製]
下記表2及び表3に記載の各成分を混合した後、0.8μmのシリンジフィルターで濾別することにより、実施例1~13、及び比較例1~4の各インクを得た。各インクが含有する顔料固形分が5%になるように、残部としてイオン交換水で調整した。
【0075】
下記表2及び表3中の略号等は、以下の意味を有する。
Tex:テキサノール。
LPX:BYK LPX 23289。
EC:アデカコール EC-8600。
DPGMPE:ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル。
DEGDEE:ジエチレングリコールジエチルエーテル。
DEGEME:ジエチレングリコールエチルメチルエーテル。
DEGMBE:ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル。
DPGMME:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル。
TPGMME:トリプロピレングリコールモノメチルエーテル。
EGMAE:エチレングリコールモノアリルエーテル。
EGMiPE:エチレングリコールモノイソプロピルエーテル。
3M3MBA:3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール。
PGMPE:プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル。
PGMME:プロピレングリコールモノメチルエーテル。
DEGMiPE:ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル。
TEGMBE:トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル。
DEGDBE:ジエチレングリコールジ-n-ブチルエーテル。
DPGDME:ジプロピレングリコールジメチルエーテル。
DPG:ジプロピレングリコール。
TEG:トリエチレングリコール。
溶解量:前記「純水の溶解量の測定方法」において測定した、純水の溶解量。数値はミリリットル。「M」は、純水50ミリリットルを加えても、均一の溶液だったことを意味する。
【0076】
【0077】
【0078】
[(C)ドット径の測定]
上記実施例及び比較例のインクを、セイコーエプソン社製インクジェットプリンタ、商品名 PX205にてポリ塩化ビニルシートに10%Duty画像としてベタ印刷を行った。その後、90℃の恒温槽で5分間乾燥させることにより評価用の試験片を得た。
得られた試験片を、光学顕微鏡にて観察し、各インクのドット径を測定した。
結果を前記の表2及び表3に示す。
【0079】
上記の結果から明らかなように、実施例のインクは非吸収メディアに対してドット径の大きい記録画像を得ることが確認できた。
また、比較例1及び2のインクは、油滴のようなものが分離して、インクの表面に浮いていた。そこで、DEGDBEやDPGDMEを増量したが、分離の状態がさらに悪化した。このため、比較例1及び2については表3の組成のまま、ドット径の測定試験を実施した。その結果、ドット径は小さいことが分かった。また、ベタ埋まりしていない状態も観察され、画質についても不良であることが分かった。さらに、比較例1及び2のインクは、ドット径の測定を複数回行うと、その再現性が極めて悪く、ドット径の数値がばらつくことが分かった。その理由は不明であるが、インクが均一な状態ではないことに起因すると思われた。このため、前記表3中の比較例1及び2のドット径は、参考程度の数値である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のインクにより、記録メディア、特に非吸収メディアに付着させたとき、ドット径の大きい記録画像を得られる。すなわち、本発明のインクを使用すると印刷時間、及びインクの消費量の両方を低減することができる。このため、本発明のインクは各種の記録用インク、特にインクジェットインクとして極めて有用である。