(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】セルロース含有樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20240304BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240304BHJP
C08G 69/04 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L1/02
C08G69/04
(21)【出願番号】P 2022209542
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2020110462の分割
【原出願日】2018-07-11
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】上野 功一
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123150(WO,A1)
【文献】特開2013-079334(JP,A)
【文献】特開2021-036024(JP,A)
【文献】国際公開第2011/126038(WO,A1)
【文献】特開2013-249341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 69/00-69/50
C08H 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂組成物の製造方法であって、
リンターパルプを解繊しセルロース繊維を得る解繊工程と、
前記セルロース繊維とポリアミド樹脂モノマーとを混合し重合する重合工程と、
を有し、
前記ポリアミド樹脂組成物は、
(A)アミノ基末端濃度[-NH
2]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]とが下記式(1):
[-NH
2] < [-COOH] ・・・(1)
を満たすポリアミド
(但し、全末端基濃度[全末端基]に対するカルボキシル基末端濃度[-COOH]の比[-COOH]/[全末端基]が0.6であるものを除く。)と、
(B)平均繊維径が1nm以上500nm以下のセルロース繊維と
を含み、
前記ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH
2]+[-COOH])が
50μモル/g以上
300μモル/g
未満であり、
前記ポリアミド樹脂組成物中の前記ポリアミド100質量部に対する前記セルロース繊維の量が0.1質量部~100質量部である、ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
ポリアミド樹脂組成物の製造方法であって、
リンターパルプを解繊しセルロース繊維を得る解繊工程と、
前記セルロース繊維とポリアミド樹脂とを混合する混合工程と、
を有し、
前記ポリアミド樹脂組成物は、
(A)アミノ基末端濃度[-NH
2]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]とが下記式(1):
[-NH
2] < [-COOH] ・・・(1)
を満たすポリアミド
(但し、全末端基濃度[全末端基]に対するカルボキシル基末端濃度[-COOH]の比[-COOH]/[全末端基]が0.6であるものを除く。)と、
(B)平均繊維径が1nm以上500nm以下のセルロース繊維と
を含み、
前記ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH
2]+[-COOH])が
50μモル/g以上
300μモル/g
未満であり、
前記ポリアミド樹脂組成物中の前記ポリアミド100質量部に対する前記セルロース繊維の量が0.1質量部~100質量部である、ポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂組成物が、前記セルロース繊維100質量部に対して、分散剤0.1~50質量部を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂組成物が、樹脂ペレット形状であり、かつ水分率が1200ppm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(A)アミノ基末端濃度[-NH
2]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]とが下記式(1):
[-NH
2] < [-COOH] ・・・(1)
を満たすポリアミド
(但し、全末端基濃度[全末端基]に対するカルボキシル基末端濃度[-COOH]の比[-COOH]/[全末端基]が0.6であるものを除く。)と、
(B)平均繊維径が1nm以上500nm以下のセルロース繊維
と
を含み、
前記ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH
2]+[-COOH])が
50μモル/g以上
300μモル/g
未満であり、
前記ポリアミド100質量部に対する前記セルロース繊維の量が0.1質量部~100質量部であり、
前記セルロース繊維が、リンターパルプ由来である、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記セルロース繊維100質量部に対して、分散剤0.1~50質量部を更に含む、請求項5に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
樹脂ペレット形状であり、かつ水分率が1200ppm以下である、請求項5又は6に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物より形成された、成型品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースを含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されている。しかしながら、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多く、樹脂と各種無機材料をコンポジットしたものが一般的に用いられている。
熱可塑性樹脂をガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイなどの無機充填剤である強化材料で強化した樹脂組成物は、比重が高いため、得られる樹脂成形体の重量が大きくなるという課題がある。
【0003】
近年、樹脂の新たな強化材料として、セルロースが用いられるようになってきている。
セルロースは、その単体特性として、アラミド繊維に匹敵する高い弾性率と、ガラス繊維よりも低い線膨張係数を有することが知られている。また、真密度が1.56g/cm3と、低く、一般的な熱可塑性樹脂の補強材として使用されるガラス(密度2.4~2.6g/cm3)やタルク(密度2.7g/cm3)と比較し圧倒的に軽い材料である。
【0004】
セルロースは、樹木を原料とするもののほか、麻・綿花・ケナフ・キャッサバ等を原料とするものなど多岐にわたっている。さらには、ナタデココに代表されるようなバクテリアセルロースなども知られている。これら原料となる天然資源は地球上に大量に存在し、この有効利用のために、樹脂中にセルロースをフィラーとして活用する技術が注目を浴びている。
【0005】
特許文献1~4には、セルロースナノファイバー(以下、CNFと称することがある)と呼ばれる微細な繊維状セルロースを熱可塑性樹脂中に分散させる技術が記載されている。
【0006】
CNFは、パルプ等を原料とし、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミルやディスクミルといった粉砕法により解繊することにより得られるものであり、水中において微細なナノ分散と呼ばれるレベルの高度の分散状態やネットワークを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2011/058678号
【文献】国際公開第2016/199923号
【文献】特表平9-505329号公報
【文献】特開2008-001728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
樹脂中にCNFを配合するためには、CNFを乾燥し粉末化する必要があるが、CNFは水と分離する過程で微分散状態から強固な凝集体となり、再分散しにくいといった課題がある。この凝集力はセルロースが持つ水酸基による水素結合により発現されており、非常に強固であるといわれている。
【0009】
そのため、充分な性能を発現させるためには、CNFに強いせん断等を与えて、ナノメートルサイズ(すなわち1μm未満)の繊維径まで解繊する必要がある。また、解繊自体を充分に実現できても、解繊された状態を樹脂中で維持することは困難である。
【0010】
一方、CNFの構成成分であるセルロースは、塩基性条件下において、還元性末端基が反応し、糖残基が離脱することが知られている(ピーリング反応)。離脱した単糖は熱安定性が悪く、着色を招く。また、この単糖は室内や車内といった閉鎖空間で、臭い(糖臭)の原因となる。ピーリング反応による単糖の離脱は、特に滞留時間の長い大型の成型機ではその影響が顕著となり、深刻な課題となる。
【0011】
本発明は、樹脂中での良好な解繊状態を実現し、CNFの優れた機械特性を発現しつつ、更に、樹脂組成物において系全体を酸性にすることによって、セルロースのピーリング反応を抑制し、セルロース起因の着色、臭気を低減した樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意検討を進めた結果、カルボキシル基末端を多く含むポリアミド樹脂と、セルロース繊維とを含む樹脂組成物が前記の課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1] (A)アミノ基末端濃度[-NH2]とカルボキシル基末端濃度[-COOH]とが下記式(1):
[-NH2] < [-COOH] ・・・(1)
を満たすポリアミドと、
(B)平均繊維径が500nm以下のセルロース繊維と
を含む、ポリアミド樹脂組成物。
[2] 前記セルロース繊維100質量部に対して、分散剤0.1~50質量部を更に含む、上記態様1に記載のポリアミド樹脂組成物。
[3] 前記ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH2]+[-COOH])が10μモル/g以上である、上記態様1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
[4] 前記ポリアミドのカルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度との合計([-NH2]+[-COOH])が500μモル/g以下である、上記態様1~3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[5] 前記セルロース繊維100質量部に対して、1~20質量部のヘミセルロース及び/又は0.1~10質量部のリグニンを含む、上記態様1~4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[6] 樹脂ペレット形状であり、かつ水分率が1200ppm以下である、上記態様1~5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[7] 水を含んだ状態の平均繊維径が500nm以下のセルロース繊維の存在下で、ポリアミド樹脂の原料モノマーを重合反応させることによって得られた、上記態様1~6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
[8] 上記態様1~7のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物より形成された、成型品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物は、樹脂成形体に充分な機械的特性を与えるとともに、実用に耐えうる充分な成型加工性及び色調を与え、更に低臭気であるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0016】
≪ポリアミド≫
ポリアミドとしては、脂肪族、芳香族又はこれらの組合せの構造を有する種々のポリアミドを使用できる。好ましいポリアミドの例示としては、ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12や、1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸などのジカルボン酸類との共重合体として得られる、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C等;及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体(一例としてポリアミド6,T/6,I)等の共重合体が挙げられる。
【0017】
これらポリアミドの中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
【0018】
ポリアミドの末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコールなどの末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
【0019】
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸等のジカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びアジピン酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
【0020】
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等のジアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン及びヘキサメチレンジアミンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
これら、末端調整剤を組成物に添加し末端官能基と反応させる方法は特に制限されないが、一態様として、重合時に任意の割合で末端調整剤を添加し反応させる方法が挙げられる。
【0021】
これら、アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7-228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H-NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003-055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。ただし、混在する添加剤、潤滑剤等の影響をなるべく少なくするためには、1H-NMRによる定量がより好ましい。
【0022】
本発明で使用可能なポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、その末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、更に好ましくは 80μモル/gである。
【0023】
本発明で使用可能なポリアミド系樹脂の末端アミノ基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、その末端アミノ基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、更に好ましくは80μモル/gである。
【0024】
本発明で使用可能なポリアミド系樹脂の末端アミノ基と末端カルボキシル基の合計濃度には特に制限はないが、セルロース繊維の熱分解が一級水酸基の主鎖への攻撃から始まることから、一級水酸基を相互作用により安定化できる末端アミノ基及び末端カルボキシル基が多い方が好ましい。すなわち、合計濃度の下限値は10μモル/gであると好ましく、より好ましくは50μモル/g、更に好ましくは100μモル/g、最も好ましくは135μモル/gである。
【0025】
また樹脂の粘度が低くなると射出成型時にバリが発生するため、ポリアミドの分子量は大きい方が好ましい。すなわち、合計濃度の上限値は、好ましくは500μモル/g、より好ましくは300μモル/g、更に好ましくは135μモル/g、最も好ましくは100μモル/gである。
【0026】
本実施形態のポリアミドにおいて、アミノ末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[NH2])は、1より大きい。カルボキシル末端基比率下限は、好ましくは1.01であり、より好ましくは1.05であり、最も好ましくは1.10である。またカルボキシル末端基比率上限には特に制限はないが、好ましくは10000であり、より好ましくは1000であり、さらにより好ましくは100であり、最も好ましくは10である。上記カルボキシル末端基比率は、セルロース繊維のピーリング反応抑制の観点から1より大きく、ポリアミドの着色の観点から10000以下とすることが望ましい。
【0027】
本発明で使用可能なポリアミドは、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]が、0.6~2.0dL/gであることが好ましく、0.7~1.4dL/gであることがより好ましく、0.7~1.2dL/gであることが更に好ましく、0.7~1.0dL/gであることが特に好ましい。好ましい範囲、その中でも特に好ましい範囲の固有粘度を有する上記ポリアミドを使用すると、樹脂組成物の射出成形時の金型内流動性を大幅に高め、成形片の外観を向上させるという効用を与えることができる。
【0028】
本発明において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。この粘度を求める具体的な方法は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法である。このゼロに外挿した値が固有粘度である。これらの詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice-Hall,Inc 1994)の291ページ~294ページ等に記載されている。このとき濃度の異なるいくつかの測定溶媒の点数は、少なくとも4点とすることが精度の観点より望ましい。このとき、推奨される異なる粘度測定溶液の濃度は、好ましくは、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dLの少なくとも4点である。
【0029】
≪セルロース繊維≫
次に本発明において用いることができるセルロース繊維について詳述する。
【0030】
本発明におけるセルロース繊維とはパルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミルやディスクミル、ミキサーといった粉砕法により解繊したセルロースを指す。
【0031】
セルロース繊維の平均L/D下限は、好ましくは50であり、より好ましくは80であり、より好ましくは100であり、さらにより好ましくは120であり、最も好ましくは150である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下である。本開示の樹脂組成物を用いて得られる樹脂成形体の良好な機械的特性を少量で発揮させるために、セルロース繊維の平均L/D比は上述の範囲内であることが望ましい。
【0032】
本開示で、セルロース繊維の各々の長さ、径、及びL/D比は、セルロース繊維の各々の水分散液を、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×5分間で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本のセルロースが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースの長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。セルロース繊維について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
【0033】
又は、組成物中のセルロース繊維の長さ、径、及びL/D比は、固体である組成物を測定サンプルとして、上述の測定方法により測定することで確認することができる。
【0034】
又は、組成物中のセルロース繊維の長さ、径、及びL/D比は、組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒を純水に置換した水分散液を作製し、セルロース濃度を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定するセルロースは無作為に選んだ100本以上での測定を行う。
【0035】
セルロース繊維としては、平均繊維径が500nm以下のものを用いる。本発明で好適に使用可能なセルロース繊維の平均繊維径は、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは5nm以上であり、更により好ましくは10nm以上であり、特に好ましくは15nm以上であり、最も好ましくは20nm以上であり、好ましくは450nm以下であり、より好ましくは400nm以下であり、更に好ましくは350nm以下であり、更により好ましくは300nm以下であり、最も好ましくは250nm以下である。機械的特性を有効に発現させるためには、セルロース繊維の径を上述の範囲内にすることが望ましい。
【0036】
セルロース繊維の結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース繊維自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、セルロース繊維を樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%であり、さらにより好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロース繊維の結晶化度についても上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0037】
また、リグニン等の不純物残存量が多いと、加工時の熱により変色をきたすことがあるため、押出加工時及び成形加工時の樹脂組成物の変色を抑制する観点からも、セルロース繊維の結晶化度は上述の範囲内にすることが望ましい。
【0038】
ここでいう結晶化度は、セルロース繊維がセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=([2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]-[2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度])/[2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]×100
【0039】
また結晶化度は、セルロース繊維がセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =h1 /h0 ×100
【0040】
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本発明で用いるセルロース繊維としては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロース繊維を樹脂に分散させることにより、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂組成物が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロース繊維が好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロース繊維がより好ましい。
【0041】
また、セルロース繊維の重合度は、好ましくは400以上、より好ましくは420以上であり、より好ましくは430以上、より好ましくは440以上、より好ましくは450以上であり、好ましくは3500以下、より好ましく3300以下、より好ましくは3200以下、より好ましくは3100以下、より好ましくは3000以下である。
【0042】
加工性と機械的特性発現との観点から、セルロース繊維の重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0043】
セルロース繊維の重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
【0044】
セルロース繊維の重合度(すなわち平均重合度)を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース繊維質内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。それにより、後記の混練工程中等のセルロース繊維及び分散剤(例えば界面活性剤)に機械的せん断力を与える工程において、セルロース繊維が機械処理を受けやすくなり、セルロース繊維が微細化されやすくなる。その結果、セルロース繊維の表面積が高くなり、分散剤(例えば界面活性剤)との複合化の制御が容易になる。
【0045】
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースをセルロース原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌させながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度等により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調製されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロース繊維内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。なお、加水分解時のセルロース原料の分散液は、水の他、本発明の効果を損なわない範囲において有機溶媒を少量含んでいてもよい。
【0046】
本発明の効果を損なわない範囲で、酸化又はエステル化されたセルロース繊維を用いてもよい。一例として、Cellulose(1998)5,153-164に示されているような2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカルによってセルロース繊維を酸化させた後に、洗浄、機械解繊を経ることにより得られる、微細化セルロース繊維を使用してもよい。
【0047】
ポリアミド100質量部に対するセルロース繊維の量は、好ましくは0.1~100質量部の範囲内である。セルロース繊維の量の下限は、より好ましくは0.5質量部、さらに好ましくは1質量部、最も好ましくは2質量部である。セルロース繊維の量の上限は、より好ましくは80質量部、さらに好ましくは70質量部、最も好ましくは60質量部である。加工性と機械的特性のバランスの観点から、セルロース繊維の量を上述の範囲内とすることが望ましい。
【0048】
≪ヘミセルロース及びリグニン≫
一態様において、樹脂組成物は、ヘミセルロース及び/又はリグニンを更に含む。植物由来のセルロースには、ミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間に、ヘミセルロースと総称される多糖類や、リグニンと総称される芳香族化合物が存在する。一態様においては、セルロース繊維の製造工程でこれらの成分を完全に除去するのではなく、好適な範囲内の含有量で含むことが好ましい。ヘミセルロースはマンナンやキシランなどの糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。また、ヘミセルロースの溶解度パラメータ(SP値)はセルロースよりも疎水性側にあることから、ヘミセルロースは、熱可塑性樹脂とセルロース繊維とのSP値差を緩和する効果を有すると考えられる。
【0049】
ヘミセルロースの含有量は、原料の植物種、及びセルロース繊維を製造する際の前処理工程によって異なる。ポリアミド樹脂組成物中のヘミセルロースの量としては、セルロース繊維100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、20質量部以下が好ましく、18質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。ヘミセルロースが前述の範囲で含まれると、ポリアミド樹脂とセルロース繊維との親和性が向上し、樹脂組成物の分散性及び強度が向上する。
【0050】
リグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。本発明の樹脂組成物中のリグニンの量としては、セルロース繊維100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上がさらに好ましく、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましい。リグニンはヘミセルロースよりもさらに疎水性の化合物であるため、ポリアミド樹脂とセルロース繊維とのSP値差を緩和する効果がさらに増す。リグニンが適切な量存在すると、リグニンの3次元ネットワーク構造と、セルロースのフェノール性ヒドロキシ基とのキレートにより、セルロースのピーリング反応により発生した低分子量成分を吸着、安定化することができ、着色及び臭気を抑制する効果がより大きくなると推測される。ヘミセルロース及びリグニンの量は、樹脂コンポジットにおける耐熱性低下及びそれに伴う変色を誘起しないようにする観点で、それぞれ上記範囲を超えないことが好ましい。
なおヘミセルロース及びリグニンの上記含有量はそれぞれ本開示の[実施例]記載の方法で測定される値である。
【0051】
ヘミセルロースの量は、ヘミセルロースの含有率が高い天然木材原料に対して、精製処理を施すことで所望の量に減らして調整することもできるし、ヘミセルロースの含有率が低い原料を用いた場合は、別の原料から抽出処理して得られたヘミセルロースを添加することで所望の量に調整することができる。このときヘミセルロースの末端などの構造が、精製や抽出処理によって部分的に天然物と異なる形になっていても構わない。
【0052】
また、リグニンの量は、リグニンの含有率が高い天然木材原料に対して、精製処理を施すことで所望の量に減らして調整することもできるし、リグニンの含有率が低い原料を用いた場合は、別の原料から抽出処理して得られたリグニンを添加することで所望の量に調整することができる。このときリグニンの末端などの構造が、精製や抽出処理によって部分的に天然物と異なる形になっていても構わない。
【0053】
≪分散剤≫
本発明の樹脂組成物は、付加的成分として分散剤を含むことが可能である。一態様において、分散剤は、動的表面張力60mN/m以下を有する。また、一態様において、分散剤は、界面活性剤である。分散剤は、ポリアミドに対するセルロース繊維の分散性の向上に寄与する。その好ましい量は、セルロース繊維100質量部に対し、分散剤が50質量部以下の量の範囲内である。より好ましい上限量は45質量部であり、さらにより好ましくは40質量部、さらにより好ましくは35質量部、特に好ましくは30質量部である。付加的成分であるため、下限は特に限定されないが、セルロース繊維100質量部に対し、0.1質量部以上添加することで、取扱い性を高めることができる。下限量は、より好ましくは0.5質量部、最も好ましくは1質量部である。
【0054】
典型的な分散剤としては、炭素原子を基本骨格とし、炭素、水素、酸素、窒素、塩素、硫黄、リンから選ばれる元素から構成される官能基を有するものが挙げられる。分子中に上述の構造を有していれば、無機化合物と上記官能基が化学結合したものも好ましい。
【0055】
分散剤は、単独であってもよく、2種以上の分散剤の混合物であってもよい。混合物の場合、本開示の分散剤の特性値(例えば静的表面張力、動的表面張力、SP値)は、当該混合物の値を意味する。
【0056】
本実施形態においては、分散剤の静的表面張力は20mN/m以上であることが好ましい。この静的表面張力は、ウィルヘルミー法で測定される表面張力を指す。室温で液体状の分散剤を使用する場合は、25℃で測定した値を用いる。室温で固体又は半固形状の分散剤を使用する場合は、分散剤を融点以上に加熱し溶融した状態で測定し、25℃に温度補正した値を用いる。なお本開示で室温とは、25℃を意味する。また、添加を容易にするためなどの目的で、分散剤を有機溶剤や水等に溶解・希釈してもよい。この場合の上記静的表面張力は、使用する分散剤自体の静的表面張力を意味する。
【0057】
また、樹脂組成物を調製する際の、分散剤の添加方法としては、特に制限はないが、ポリアミド、セルロース繊維及び分散剤をあらかじめ混合し溶融混練する方法、樹脂にあらかじめ分散剤を添加し、必要により予備混練した後、セルロース繊維を添加して溶融混練する方法、セルロース繊維と分散剤を予め混合した後、ポリアミドと溶融混練する方法等が挙げられる。セルロース繊維が水に分散している分散液中に分散剤を添加し、乾燥してセルロース製剤を作製したのち、当該製剤をポリアミドに添加する方法も有効である。
【0058】
分散剤の静的表面張力が本開示の特定の範囲内であることは、セルロース繊維の樹脂中での分散性が驚異的に向上するという効果を奏する。理由は定かではないが、分散剤内にある親水性官能基が、セルロース繊維表面の水酸基と水素結合等を介することによって、セルロース繊維の表面を被覆し、樹脂との界面形成を阻害しているためであると考えられる。その親水性基がセルロース繊維側に配されることにより、樹脂側には疎水雰囲気となるため、樹脂側との親和性も増すためと考えられる。
【0059】
分散剤の好ましい静的表面張力の下限は、23mN/mであり、より好ましくは25mN/m、さらに好ましくは30mN/m、更により好ましくは35mN/m、最も好ましくは39mN/mである。分散剤の静的表面張力の好ましい上限は、72.8mN/m、より好ましくは60mN/m、さらに好ましくは50mN/m、最も好ましくは45mN/mである。
【0060】
分散剤のポリアミドに対する親和性とセルロース繊維に対する親和性とを両立し、樹脂中へのセルロース繊維の微分散性、樹脂組成物の流動性、樹脂成形体の強度及び伸びの向上といった特性を発現させる観点で、分散剤の静的表面張力を特定の範囲にすることが好ましい。
【0061】
本開示でいう分散剤の静的表面張力は、市販の表面張力測定装置を用いることで測定することが可能である。具体的に例示すると、自動表面張力測定装置(例えば協和界面科学株式会社製、商品名「CBVP-Z型」、付属のガラス製セルを使用。)を用い、ウィルヘルミー法により測定することができる。この時、分散剤が室温で液体の場合は、付属のステンレス製シャーレに底から液面までの高さを7mm~9mmとなるように仕込み、25℃±1℃に調温した後に測定し、以下の式により求められる。
γ=(P-mg+shρg)/Lcosθ
ここで、γ:静的表面張力、P:つりあう力、m:プレートの質量、g:重力定数、L:プレート周囲長、θ:プレートと液体の接触角、s:プレート断面積、h:(力が釣り合うところまで)液面から沈んだ深さ、ρ:液体の密度である。
【0062】
なお、室温で固体のものは上述の方法では表面張力は測定できないため、便宜上、融点+5℃の温度で測定した表面張力を採用する。融点が未知の物質である場合、まずは目視による融点測定法(JIS K6220)により融点を測定し、融点以上に加熱して溶融させた後、融点+5℃の温度に調節し、上述したウィルヘルミー法により表面張力を測定することで可能である。
【0063】
分散剤の動的表面張力は60mN/m以下であることが好ましい。より好ましい動的表面張力の上限は、55mN/mであり、50mN/mがより好ましく、45mN/mがさらに好ましく、40mN/mが特に好ましい。分散剤の動的表面張力の好ましい下限を挙げるとすると、10mN/mである。より好ましい下限は、15mN/mであり、20mN/mが最も好ましい。
【0064】
ここでいう動的表面張力は、最大泡圧法(液体中に挿した細管(以下、プローブ)に空気を流して、気泡を発生させたときの最大圧力(最大泡圧)を計測し、表面張力を算出する方法)で測定される表面張力のことである。具体的には、分散剤を5質量%としてイオン交換水に溶解又は分散し測定液を調製し、25℃に調温した後、動的表面張力計(例えば英弘精機株式会社製 製品名シータサイエンスt-60型、プローブ(キャピラリーTYPE I(ピーク樹脂製)、シングルモード)を使用し、気泡発生周期を10Hzで測定された表面張力の値を指す。各周期における動的表面張力は、以下の式により求められる。
σ=ΔP・r/2
ここで、σ:動的表面張力、ΔP:圧力差(最大圧力-最小圧力)、r:キャピラリー半径である。
【0065】
最大泡圧法で測定される動的表面張力は、動きの速い場における分散剤の動的な表面張力を意味する。分散剤は水中では、通常ミセルを形成している。動的表面張力が低いということは、ミセル状態からの分散剤の分子の拡散速度が速いことを表し、動的表面張力が高いということは分子の拡散速度が遅いことを意味する。
【0066】
分散剤の動的表面張力が特定値以下であることは、セルロース繊維の樹脂組成物中での分散を顕著に向上させるという効果を奏する点で有利である。この分散性向上の理由の詳細は不明であるが、動的表面張力が低い分散剤は、押出機内での拡散性に優れることで、セルロース繊維と樹脂との界面に局在化できること、さらにセルロース繊維表面を良好に被覆できることが、分散性向上の効果に寄与していると考えられる。この分散剤の動的表面張力を特定値以下とすることにより得られるセルロース繊維の分散性の改良効果は、成形体の強度欠陥を消失させるという顕著な効果を発現させる。
【0067】
分散剤としては、水より高い沸点を有するものが好ましい。なお、水よりも高い沸点とは、水の蒸気圧曲線における各圧力における沸点(例えば、1気圧下では100℃)よりも高い沸点を指す。
【0068】
分散剤として水より高い沸点を有するものを選択することにより、例えば、分散剤の存在下で、水に分散されたセルロース繊維を乾燥させ、セルロース製剤を得る工程において、水が蒸発する過程で水と分散剤とが置換されてセルロース繊維表面に分散剤が存在するようになるため、セルロース同士の凝集を大幅に抑制する効果を奏することができる。
【0069】
分散剤は、その取扱い性の観点より、室温(すなわち25℃)で液体のものが好ましく使用可能である。常温で液体の分散剤は、セルロース繊維と親和しやすく、樹脂にも浸透しやすいという利点を有する。
【0070】
分散剤としては、溶解パラメーター(SP値)が7.25以上であるものがより好ましく使用可能である。分散剤がこの範囲のSP値を有することで、セルロース繊維の樹脂中での分散性が向上する。
【0071】
SP値は、Fodersの文献(R.F.Foders:Polymer Engineering & Science,vol.12(10),p.2359-2370(1974))によると、物質の凝集エネルギー密度とモル分子量の両方に依存し、またこれらは物質の置換基の種類及び数に依存していると考えられ、上田らの文献(塗料の研究、No.152、Oct.2010)によると、後述する実施例に示す既存の主要な溶剤についてのSP値(cal/cm3)1/2が公開されている。
【0072】
分散剤のSP値は、実験的には、SP値が既知の種々の溶剤に分散剤を溶解させたときの、可溶と不溶の境目から求めることができる。例えば、実施例に示す表中のSP値が異なる各種溶剤(10mL)に、分散剤1mLを室温においてスターラー撹拌下で1時間溶解させた場合に、全量が溶解するかどうかで判断可能である。例えば、分散剤がジエチルエーテルに可溶であった場合は、その分散剤のSP値は7.25以上となる。
【0073】
一態様において、分散剤は界面活性剤である。界面活性剤としては、親水性の置換基と疎水性の置換基が共有結合した化学構造を有する化合物が挙げられ、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができる。例えば、以下のものを1種又は2種以上併用して用いる。特に好ましい態様において、分散剤は、前述のような特定の動的表面張力を有する界面活性剤である。
【0074】
界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、セルロース繊維との親和性の点で、陰イオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤が好ましく、非イオン系界面活性剤がより好ましい。
【0075】
陰イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系(陰イオン)として、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム,アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム等が挙げられ、直鎖アルキルベンゼン系として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、高級アルコール系(陰イオン)系として、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられ、アルファオレフィン系としてアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム等、ノルマルパラフィン系としてアルキルスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0076】
非イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系(非イオン)として、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の糖脂質、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられ、高級アルコール系(非イオン)としてポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、アルキルフェノール系としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0077】
両性イオン系界面活性剤としては、アミノ酸系として、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム等が挙げられ、ベタイン系としてアルキルベタイン等が挙げられ、アミンオキシド系としてアルキルアミンオキシド等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0078】
陽イオン系界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩系として、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
【0079】
界面活性剤は、油脂の誘導体であってよい。油脂としては、脂肪酸とグリセリンとのエステルが挙げられ、通常は、トリグリセリド(トリ-O-アシルグリセリン)の形態を取るものをいう。脂肪油で酸化を受けて固まりやすい順に乾性油、半乾性油、不乾性油と分類され、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができ、例えば以下のものを、1種又は2種以上併用して用いる。
【0080】
油脂としては、動植物油として、例えば、テルピン油、トール油、ロジン、白絞油、コーン油、大豆油、ゴマ油、菜種油(キャノーラ油)、こめ油、糠油、椿油、サフラワー油(ベニバナ油)、ヤシ油(パーム核油)、綿実油、ひまわり油、エゴマ油(荏油)、アマニ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油、鯨油、鮫油、肝油、カカオバター、ピーナッツバター、パーム油、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)、鶏油、兎脂、羊脂、馬脂、シュマルツ、乳脂(バター、ギー等)、硬化油(マーガリン、ショートニングなど)、ひまし油(植物油)等が挙げられる。
【0081】
特に、上述の動植物油の中でも、セルロース繊維表面への親和性、均一コーティング性の観点から、テルピン油、トール油、ロジンが好ましい。
【0082】
テルピン油(テルビン油ともいう)は、マツ科の樹木のチップ、或いはそれらの樹木から得られた松脂(まつやに)を水蒸気蒸留することによって得られる精油のことであり、松精油、ターペンタインともいう。テルピン油としては、例えば、ガム・テレピン油(松脂の水蒸気蒸留によって得られたもの)、ウッド・テレピン油(マツ科の樹木のチップを水蒸気蒸留或いは乾留することで得られたもの)、硫酸テレピン油(硫酸塩パルプ製造時にチップを加熱処理した時に留出して得られたもの)、亜硫酸テレピン油(亜硫酸パルプ製造時にチップを加熱処理した時に留出して得られたもの)が挙げられ、ほぼ無色から淡黄色の液体で、亜硫酸テレピン油以外は主にα-ピネンとβ-ピネンを成分とする。亜硫酸テレピン油は、他のテレピン油と異なりp-シメンを主成分とする。上述の成分を含んでいれば、前記テルピン油に含まれ、いずれも単独又は複数の混合物の誘導体を、本発明の界面活性剤として使用することができる。
【0083】
トール油は、松材を原料にクラフトパルプを作る際に副成する、樹脂と脂肪酸を主成分とする油である。トール油としては、オレイン酸とリノール酸を主成分とするトール脂肪を用いても、アビエチン酸などの炭素数20のジテルペノイド化合物を主成分とするトールロジンを用いてもよい。
【0084】
ロジンは、マツ科の植物の樹液である松脂等のバルサム類を集めてテレピン精油を蒸留した後に残る残留物で、ロジン酸(アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸等)を主成分とする天然樹脂である。コロホニー或いはコロホニウムとも呼ばれる。中でも、トールロジン、ウッドロジン、ガムロジンが好適に使用できる。これらロジン類に種々の安定化処理、エステル化処理、精製処理などを施したロジン誘導体を、界面活性剤として使用できる。安定化処理とは、上記ロジン類に水素化、不均化、脱水素化、重合処理等を施すことをいう。また、エステル化処理とは、上記ロジン類、又は安定化処理を施したロジン類を各種アルコールと反応させてロジンエステルとする処理のことをいう。このロジンエステルの製造には各種公知のアルコール又はエポキシ化合物等を使用することができる。アルコールとしては、例えば、n-オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコールのような1価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の4価アルコールが挙げられる。また、イソペンチルジオール、エチルヘキサンジオール、エリトルロース、オゾン化グリセリン、カプリリルグリコール、グリコール、(C15-18)グリコール、(C20-30)グリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジグリセリン、ジチアオクタンジオール、DPG、チオグリセリン、1,10-デカンジオール、デシレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチルヒドロキシメチルシクロヘキサノール、フィタントリオール、フェノキシプロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、BG、PG、1,2-ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、ペンチレングリコール、メチルプロパンジオール、メンタンジオール、ラウリルグリコール等の多価アルコールを用いてもよい。また、イノシトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、ラクチトール等の糖アルコールとして分類されるものも、多価アルコールに含まれる。
【0085】
さらに、上記アルコールとしては、アルコール性の水溶性高分子を用いることもできる。アルコール性の水溶性高分子としては、多糖類・ムコ多糖類、デンプンとして分類されるもの、多糖誘導体として分類されるもの、天然樹脂に分類されるもの、セルロース及び誘導体に分類されるもの、タンパク質・ペプチドに分類されるもの、ペプチド誘導体に分類されるもの、合成ホモポリマーに分類されるもの、アクリル(メタクリル酸)酸共重合体に分類されるもの、ウレタン系高分子に分類されるもの、ラミネートに分類されるもの、カチオン化高分子に分類されるもの、その他の合成高分子に分類されるもの等が挙げられ、常温で水溶性のものを用いることができる。より具体的には、ポリアクリル酸ナトリウム、セルロースエーテル、アルギン酸カルシウム、カルボキシビニルポリマー、エチレン/アクリル酸共重合体、ビニルピロリドン系ポリマー、ビニルアルコール/ビニルピロリドン共重合体、窒素置換アクリルアミド系ポリマー、ポリアクリルアミド、カチオン化ガーガムなどのカチオン系ポリマー、ジメチルアクリルアンモニウム系ポリマー、アクリル酸メタクリル酸アクリル共重合体、POE/POP共重合体、ポリビニルアルコール、プルラン、寒天、ゼラチン、タマリンド種子多糖類、キサンタンガム、カラギーナン、ハイメトキシルペクチン、ローメトキシルペクチン、ガーガム、アラビアゴム、アラビノガラクタン、カラヤガム、トラガカントガム、アルギン酸、アルブミン、カゼイン、カードラン、ジェランガム、デキストラン、セルロース(本開示のセルロース繊維ではないもの)、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、カチオン化シリコーン重合体等が挙げられる。
【0086】
上述の各種ロジンエステルの中でも、セルロース繊維表面のコーティング性、樹脂中でのセルロース製剤の分散性がさらに促進される傾向にあるため、ロジンと水溶性高分子がエステル化したものが好ましく、ロジンとポリエチレングリコールとのエステル化物(ロジンエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレングリコール樹脂酸エステル、ポリオキシエチレンロジン酸エステルともいう。)が特に好ましい。
【0087】
硬化ひまし油型の界面活性剤としては、例えば、トウダイグサ科のトウゴマの種子等から採取する植物油の一種であるひまし油(ひましあぶら、ひましゆ、蓖麻子油)を原料として、水素化されたものを疎水基として、その構造中の水酸基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。ひまし油の成分は、不飽和脂肪酸(リシノール酸が87%、オレイン酸が7%、リノール酸が3%)と少量の飽和脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸などが3%)のグリセリドである。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。
【0088】
鉱物油の誘導体としては、例えば、カルシウム石鹸基グリース、カルシウム複合石鹸基グリース、ナトリウム石鹸基グリース、アルミニウム石鹸基グリース、リチウム石鹸基グリース等のグリース類等が挙げられる。
【0089】
界面活性剤は、アルキルフェニル型化合物であってもよく、例えば、アルキルフェノールエトキシレート、すなわちアルキルフェノールをエチレンオキシドでエトキシル化して得られる化合物が挙げられる。アルキルフェノールエトキシレートは非イオン界面活性剤である。親水性のポリオキシエチレン(POE)鎖と、疎水性のアルキルフェノール基がエーテル結合で結びついていることから、ポリ(オキシエチレン)アルキルフェニルエーテルとも呼ばれる。一般にアルキル鎖長、POE鎖長の異なる多数の化合物の混合物として、平均鎖長の異なる一連の製品が市販されている。アルキル鎖長は炭素数6~12(フェニル基を除く)が市販されているが、代表的なアルキル基の構造は、ノニルフェノールエトキシレートやオクチルフェノールエトキシレートが挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が5~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。
【0090】
界面活性剤は、βナフチル型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、ナフタレンを含み、芳香環の2又は3又は6又は7位の炭素が水酸基と結合したβモノ置換体と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。EO残基が15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。
【0091】
界面活性剤は、ビスフェノールA型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、ビスフェノールA(化学式 :(CH3)2C(C6H4OH)2)を含み、その構造中の二つのフェノール基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。このEO残基は、一つの分子中に、二つのエーテル結合がある場合は、それら二つを足し合わせた平均値を指す。
【0092】
界面活性剤は、スチレン化フェニル型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、スチレン化フェニル基を含み、その構造中のフェノール基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。スチレン化フェニル基は、フェノール残基のベンゼン環にスチレンが1~3分子付加した構造を有する。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4~40までのものがあり、代表的なものとしては15~30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15~30が好ましく、15~25がより好ましく、15~20が特に好ましい。このEO残基は、一つの分子中に、二つのエーテル結合がある場合は、それら二つを足し合わせた平均値を指す。
【0093】
界面活性剤の具体的な好適例としては、例えば、アシルグタミン酸塩等のアシルアミノ酸塩、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウロイルサルコシンナトリウム等のN-アシルサルコシン酸塩等のアニオン性界面活性剤;塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムジアルキルジメチルアンモニウム塩、塩化(N,N’-ジメチル-3,5-メチレンピペリジニウム)、塩化セチルピチジニウム等のアルキルピリジニウム塩、アルキル4級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のアルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体等のカチオン性界面活性剤;2-ウンデシル-N,N,N-(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)2-イミダゾリンナトリウム、2-ココイル-2-イミタゾリニウムヒドロキサイド-1-カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等のイミダゾリン系両性界面活性剤、2-ヘプタデシル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホバタイン等のベタイン系両性界面活性剤等の両性界面活性剤、ソルビタンノモオレエート、ソルビタンモノモイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸グリセリン、α,α’-オレイン酸ピログルタミン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸等のグリセリンポリグリセリン脂肪酸類、モノステアリン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコール脂肪酸エステル類、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン-ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン-ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン-ソルビタンテトラオレエート等のポリオキシエチレン-ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン-ソルビットモノラウレート、ポリオキシエチレン-ソルビットモノオレエート、ポリオキシエチレン-ソルビットペンタオレエート、ポリオキシエチレン-ソルビットモノステアレート、ポリオキシエチレン-グリセリンモノイソステアレート、ポリオキシエチレン-グリセリントリイソステアレート等のポリオキシエチレン-グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンモノジオレエート、システアリン酸エチレングリコール等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノイソステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油トリイソステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノイソステアリン酸ジエステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油マレイン酸等のポリオキシエチレンヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0094】
上述の中でも、セルロース繊維との親和性の点で、親水基としてポリオキシエチレン鎖、カルボン酸、又は水酸基を有する界面活性剤が好ましく、親水基としてポリオキシエチレン鎖を有するポリオキシエチレン系界面活性剤(ポリオキシエチレン誘導体)がより好ましく、非イオン系のポリオキシエチレン誘導体がさらに好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長としては、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。鎖長は長ければ長いほど、セルロース繊維との親和性が高まるが、コーティング性(樹脂及びセルロース繊維との界面への局在性)とのバランスにおいて、上限としては60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましく、20以下が最も好ましい。
【0095】
ポリアミドにセルロース繊維を良好に配合するためには、親水基としてポリオキシエチレン鎖に代えて、ポリオキシプロピレン鎖を有するものを用いることが好ましい。ポリオキシプロピレン鎖長としては、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。鎖長は長ければ長いほど、セルロース繊維との親和性が高まるが、コーティング性とのバランスにおいて、上限としては60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましく、20以下が最も好ましい。
【0096】
上述の界面活性剤でも、特に、疎水基としては、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、硬化ひまし油型が、樹脂との親和性が高いため、好適に使用できる。好ましいアルキル鎖長(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)としては、炭素鎖が5以上であることが好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましく、16以上が特に好ましい。樹脂がポリオレフィンの場合、炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まるため上限は設定されないが、好ましくは30、より好ましくは25である。
【0097】
これらの疎水基の中でも、環状構造を有するもの、又は嵩高く多官能構造を有するものが好ましく、環状構造を有するものとしては、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型が好ましく、多官能構造を有するものとしては、硬化ひまし油型が特に好ましい。これらの中でも、特にロジンエステル型、硬化ひまし油型が最も好ましい。
【0098】
したがって、特に好ましい態様において、界面活性剤は、ロジン誘導体、アルキルフェニル誘導体、ビスフェノールA誘導体、βナフチル誘導体、スチレン化フェニル誘導体、及び硬化ひまし油誘導体からなる群より選択される1種以上である。
【0099】
界面活性剤以外の分散剤としては、油脂、脂肪酸、及び鉱物油からなる群から選択される1種以上でかつ上記界面活性剤に包含されない化合物が挙げられる。油脂としては、界面活性剤の項で油脂として例示したものが挙げられる。
【0100】
脂肪酸とは、一般式CnHmCOOH(n、mは整数)で表せる化合物をいい、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができる。例えば、以下のものを1種又は2種以上併用して用いる。
【0101】
例えば、飽和脂肪酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸 、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、トリコシル酸、リグノセリン酸等が挙げられ、不飽和脂肪酸としては、例えば、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等のω-3脂肪酸;リノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサペンタエン酸等のω-6脂肪酸;パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸等のω-7脂肪酸;オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸等のω-9脂肪酸が挙げられる。
【0102】
鉱物油としては、流動パラフィン、シリコンオイル、シリコングリース等のグリース類;ナフテン系及びパラフィン系鉱物油;鉱物油や高度水素分解油にPAOやエステル(或いは水素化分解油)を混合し得られる部分合成油;PAO(ポリアルファオレフィン)等の化学合成油・全合成油・合成油等が挙げられる。
【0103】
セルロース繊維100質量部に対する分散剤の量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは35質量部以下、特に好ましくは30質量部以下である。付加的成分であるため、下限は特に限定されないが、セルロース繊維100質量部に対し、合計量が0.1質量部以上であることで、取扱い性を高めることができる。合計量は、より好ましくは0.5質量部以上、特に好ましくは1質量部以上である。
【0104】
≪樹脂組成物の製造方法≫
本発明の樹脂組成物の製法として特に制限はないが、具体例としては以下の様な方法が挙げられる。
ポリアミド樹脂モノマーとセルロース繊維の水分散液とを混合し、重合反応を行い、得られた樹脂組成物をストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体として得る方法、単軸又は、二軸押出機を用いて、樹脂とセルロース繊維との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体として得る方法、単軸又は、二軸押出機を用いて、樹脂とセルロース繊維との混合物を溶融混練し、棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体として得る方法、単軸又は、二軸押出機を用いて、樹脂とセルロース繊維との混合物を溶融混練し、Tダイより押出しシート、又はフィルム状の成形体を得る方法、単軸又は、二軸押出機を用いて、樹脂とセルロース繊維との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体として得る方法等が挙げられる。好ましい態様においては、水を含んだ状態のセルロース繊維の存在下で、ポリアミドの原料モノマーの重合反応を行う。
【0105】
本発明の樹脂組成物の水分率は特に制限はないが、溶融時のポリアミドの分子量上昇を抑えるために、10ppm以上であることが好ましく、溶融時のポリアミドの加水分解を抑えるために1200ppm以下であることが好ましく、900ppm以下であることが更に好ましく、700ppm以下であることが最も好ましい。水分率は、ISO 15512に準拠した方法でカールフィッシャー水分計を用いて測定される値である。
【0106】
また、樹脂とセルロース繊維との混合物の溶融混練方法の具体例としては、樹脂と所望の比率で混合されたセルロース混合粉末とを、分散剤(例えば界面活性剤)の存在下/又は非存在下で混合した後、一括溶融混練する方法、樹脂及び必要により分散剤を溶融混練した後、所望の比率で混合されたセルロース混合粉末及び必要により分散剤を添加して、更に溶融混練する方法、樹脂、所望の比率で混合されたセルロース混合粉末及び水、並びに必要により分散剤を混合した後、一括で溶融混練する方法、樹脂及び必要により分散剤を溶融混練した後、所望の比率で混合されたセルロース混合粉末及び水、並びに必要により分散剤を添加して、更に溶融混練する方法等が挙げられる。
【0107】
本発明の樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの場合、その好ましい大きさは、ペレット直径として1mm以上、3mm以下である。また、円柱状ペレットの場合の好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
【0108】
本発明の樹脂組成物は、種々の樹脂成形体として利用が可能である。樹脂成形体の製造方法に関しては特に制限はなく、いずれの製造方法でも構わないが、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、発泡成形法などが使用可能である。これらの中では射出成形法がデザイン性とコストの観点より、最も好ましい。
【0109】
本発明の樹脂組成物は、高機械的特性及び低線膨張性を有し、大型部品に対応可能な滞留安定性を有しているため、種々の大型部品用途に好適に使用可能である。
【実施例】
【0110】
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0111】
[原料及び評価方法]
以下に、使用した原料及び、評価方法について説明する。
【0112】
≪ポリアミド樹脂≫
・「UBEナイロン 1013B」宇部興産株式会社製
ポリアミド6(以下、PAと称す。)
カルボキシル末端基比率が、([COOH]/[全末端基])=0.58
・「ε-カプロラクタム」 宇部興産株式会社製
・「アジピン酸」 東京化成工業株式会社製(以下、末端調整剤-Aと称す。)
・「安息香酸」 東京化成工業株式会社製(以下、末端調整剤-Bと称す。)
・「ヘキサメチレンジアミン」 東京化成工業株式会社製(以下、末端調整剤-Cと称す。)
【0113】
≪セルロース繊維≫
・セルロース繊維A(以下、CF-Aと略すことがある)
リンターパルプを裁断後、オートクレーブを用いて、120℃以上の熱水中で3時間加熱し、ヘミセルロース部分を除去した精製パルプを、圧搾し、純水中に固形分率が1.5質量%になるように叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で4時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに1.5時間叩解を実施し、セルロース繊維Aを得た。得られたセルロース繊維の特性を後述の方法で評価した。結果を下記に示す。
平均L/D=300
平均繊維径=90nm
結晶化度=80%
重合度=600
【0114】
・セルロース繊維B(以下、CF-Bと略すことがある)
解繊処理の条件を、操作圧:85MPaにて5回処理とする以外は、CF-Aと同じ条件とし、以下のセルロースファイバーBを得た。
平均L/D=450
平均繊維径=400nm
結晶化度=82%
重合度=700
【0115】
・セルロース繊維C(以下、CF-Cと略すことがある)
特許第5885658号の製造例1、実施例8に記載の方法に従ってバクテリアセルロースを製造し、以下のセルロース繊維Cの分散液を得た。
平均L/D=1000
平均繊維径=40nm
結晶化度=95%
重合度=650
【0116】
・セルロース繊維D(以下、CF-Dと略すことがある)
CF-Cに市販のリグニン(ナカライテスク株式会社製)を加えて、セルロース繊維Dの分散液を得た。
【0117】
・セルロース繊維E(以下、CF-Eと略すことがある)
CF-Cに、「木材研究」第34号(1965)第100頁に記載の竹ヘミセルロース製造法によって製造したヘミセルロースを加えて、セルロース繊維Eの分散液を得た。
【0118】
・セルロース繊維F(以下、CF-Fと略すことがある)
原料を、アバカパルプとする以外は、CF-Aと同じ条件とし、以下のセルロース繊維Dを得た。
平均L/D=500
平均繊維径=30nm
結晶化度=80%
重合度=600
【0119】
<セルロース繊維の重合度>
「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定した。
<セルロース繊維の結晶形、結晶化度>
X線回折装置(株式会社リガク製、多目的X線回折装置)を用いて粉末法にて回折像を測定(常温)し、Segal法で結晶化度を算出した。また、得られたX線回折像から結晶形についても測定した。
【0120】
<セルロース繊維の平均繊維径及び平均L/D>
セルロース繊維を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを、原子間力顕微鏡(AFM)で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロース繊維が観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロース繊維の長径(L)、短径(D)及びこれらの比(L/D)を求め、100本のセルロース繊維の加算平均を算出した。
【0121】
ヘミセルロースの定量分析は、以下の方法で行った。微細セルロースの分散液、又は樹脂組成物から樹脂を溶解除去して得た微細セルロースの再分散液から分散媒を除去し、セルロース残渣を回収して、105℃で乾燥した乾燥試料の質量を測定した。
【0122】
乾燥したセルロース残渣を粉砕して、粉砕試料をソックスレー抽出器でアルコール(エタノール)/ベンゼン混合溶媒で6時間抽出した後、アルコールでさらに4時間抽出を行って脱脂試料を得た。脱脂試料2.5gに蒸留水150mL、亜塩素酸ナトリウム1.0g、酢酸0.2mLを加えて、70~80℃で1時間加熱処理を行い、再び亜塩素酸ナトリウム1.0g、酢酸0.2mLを加えて、70~80℃で1時間加熱する操作を、試料が白く脱色するまで3~4回繰り返した。得られた試料をろ過して、水及びアセトンで洗浄し、105℃で乾燥してホロセルロース画分の質量を測定した。
【0123】
続いて、ホロセルロース画分1.0gに17.5質量%水酸化ナトリウム水溶液25mLを加え、3分後、膨潤状態になるまでガラス棒で軽く潰した。20℃で静置し、水酸化ナトリウム水溶液を加えてから30分後、蒸留水25mLを加え、正確に1分間かき混ぜて、20℃で5分静置し、ガラスフィルターでろ過して、ろ液が中性になるまで洗浄した。さらに10質量%酢酸40mLを吸引ろ過し、次に沸騰水1Lを吸引ろ過して洗浄した試料を105℃で質量が一定になるまで乾燥してαセルロース画分の質量を測定した。
【0124】
上記のように求めたホロセルロース画分とαセルロース画分との質量から、次式によってヘミセルロースの含有率を求めた。
ホロセルロース(%)=ホロセルロース画分(g)/試料(無水ベース)(g)×100
αセルロース(%)=αセルロース画分(g)/試料(無水ベース)(g)×100
ヘミセルロース(%)=ホロセルロース(%)-αセルロース(%)
【0125】
リグニンの定量分析は、以下の方法で行った。上記のヘミセルロース定量分析中に得た脱脂試料300mgに、72質量%硫酸3mLを加え、30℃で1時間静置した後、蒸留水84mLで耐圧びん(125mL容量)に流し入れた。120℃で1時間のオートクレーブ処理を行い、冷める前にガラスフィルターでろ過して酸不溶性リグニンをろ別し、ろ液も回収した。酸不溶性リグニンは蒸留水で洗浄して105℃で乾燥後、酸不溶性リグニン画分の質量を測定し、ろ液は紫外可視分光光度計で吸光度を測定した。
【0126】
下記式から酸不溶性リグニン及び酸可溶性リグニンの含有率を算出した。これらを合計して総リグニン含有率が求められる。
酸不溶性リグニン(%) = 酸不溶性リグニン画分(g)/試料量(無水ベース)(g)×100
酸可溶性リグニン(%)=((d × v ×(As-Ab))/(a × w))×100
リグニン(%)=酸不溶性リグニン(%)+酸可溶性リグニン(%)
d : 希釈倍率
v : ろ液定容量(L)
As: 試料溶液の吸光度
Ab: ブランク溶液の吸光度
a : リグニンの吸光係数(110 L/g・cm)
w : 試料量(無水ベース)(g)
【0127】
≪分散剤≫
分散剤としては以下のものを用いた。
・「ブラウノンN-515」青木油脂工業株式会社製
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル:以下、単に界面活性剤と称する。
静的表面張力34.8mN/m、動的表面張力40.9mN/m、常圧下沸点100℃超
【0128】
<静的表面張力の測定>
各分散剤を用い、自動表面張力測定装置(協和界面科学株式会社製、商品名「CBVP-Z型」、付属のガラス製セル)を用い、ウィルヘルミー法により静的表面張力を測定した。各分散剤は常温で液体であったので、装置に付属のステンレス製シャーレに底から液面までの高さを7mm~9mmとなるように仕込み、25℃±1℃に調温した後に測定し、以下の式により求めた。γ=(P-mg+shρg)/Lcosθ。ここで、P:つりあう力、m:プレートの質量、g:重力定数、L:プレート周囲長、θ:プレートと液体の接触角、s:プレート断面積、h:(力が釣り合うところまで)液面から沈んだ深さ、ρ:液体の密度(分散剤は密度が1±0.4g/mLであったので、1を用いた。)、である。
【0129】
常温で固体のものは、融点以上に加熱して溶融させた後、融点+5℃の温度に調節し、上述したウィルヘルミー法により表面張力を測定した。
【0130】
<動的表面張力の測定>
各分散剤を用い、動的表面張力計(英弘精機株式会社製 製品名シータサイエンスt-60型、プローブ(キャピラリーTYPE I(ピーク樹脂製)、シングルモード)を使用し、最大泡圧法により気泡発生周期を10Hzで動的表面張力を測定した。各分散剤を5質量%としてイオン交換水に溶解又は分散し測定液を調製し、その溶液又は分散液100mLを、100mL容量のガラス製ビーカーに仕込み、25℃±1℃に調温された後、測定された値を用いた。動的表面張力は、以下の式により求められた。σ=ΔP・r/2。ここで、σ:動的表面張力、ΔP:圧力差(最大圧力-最小圧力)、r:キャピラリー半径、である。
【0131】
<分散剤のSP値の測定>
SP値は、各サンプル1mLをSP値が既知の下表の溶剤10mLに室温で滴下し、スターラーで1時間撹拌した後、相分離なく溶解した溶剤のSP値の範囲から求めた。
【0132】
≪引張降伏強度≫
最大型締圧力75トンの射出成形機を用いて、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形し、JIS K6920-2に準拠した条件で実施した。なお、ポリアミド樹脂は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
【0133】
≪線膨張係数≫
多目的試験片の中央部から、精密カットソーにて縦4mm、横4mm、長さ10mmの立方体サンプルを切り出し、測定温度範囲-20~80℃で、ISO11359-2に準拠して測定し、0℃~60℃の間での膨張係数を算出した。この際、測定に先立ち、120℃環境下で5時間静置してアニーリングを実施した。
【0134】
≪水分率≫
後述する実施例及び比較例で製造したポリアミド樹脂組成物のペレットを用い、ISO 15512に準拠した方法でカールフィッシャー水分計(三菱化学アナリテック社製 電量滴定方式微量水分測定装置CA-200型)を用いてペレット中の水分率(ppm)を測定した。
【0135】
≪末端アミノ基濃度[NH2]の測定≫
秤量した試料を、90質量%フェノール水溶液に溶解し、25℃にて1/50N塩酸で電位滴定して算出した。
【0136】
≪末端カルボキシル基濃度[COOH]の測定≫
秤量した試料を、160℃のベンジルアルコールに溶解し、指示薬に25℃にて1/50N塩酸で電位滴定して算出した。
【0137】
≪着色性評価≫
実施例及び比較例で得られたペレットを用いて、最大型締圧力4000トンの射出成形機のシリンダー温度を250℃に設定し、該ペレットを用いて10回パージ作業を行った後、成型を行い、成型片の着色状態を、以下の4段階で評価した。
◎ 軽微な着色(薄黄色)
○ 軽度の着色(黄色)
△ 中程度の着色(茶色)
× 激しい着色(こげ茶色~黒)
【0138】
≪臭気評価≫
着色性と同様に、成型中の臭気発生を、以下の4段階で評価した。
◎ かすかな臭気(樹脂由来臭)
○ かすかな臭気(糖由来臭)
△ 成型機周辺で感知できる臭気(糖由来臭)
× 室内全域で感知できるほどの臭気(糖由来臭)
【0139】
≪実施例1~3、5~8、参考例1及び2、比較例1~3≫
表1に記載のセルロース繊維含有量が3質量%となるよう水分散液を調製した。このセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部と、表1に記載の質量部の末端調整剤と分散剤とを、均一な分散液となるまでミキサーで撹拌、混合した。続いて、この分散液を撹拌し、徐々に水蒸気を放出しながら240℃まで加熱し、240℃で1時間重合反応を行った。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させた。多目的試験片を得る際の射出成形条件は、シリンダー温度250℃、金型温度70℃とした。
【0140】
≪実施例4≫
末端調整剤-Aを0.16質量部、重合反応時間を5時間とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0141】
≪実施例9~10≫
セルロース繊維の水分散液(3質量%)と、表1に記載の質量部の分散剤とをミキサーにて混合した後、この分散液を、遠心分離機を用いてセルロース繊維20質量部になるまで濃縮した。濃縮した分散液を乾燥処理した後、粉砕処理を実施して、粉末状セルロース繊維を得た。
PAと粉末状セルロース繊維を表1に記載の質量部で混合し、東芝機械(株)製のTEM48SS押出機で、スクリュー回転数350rpm、吐出量140kg/hrで溶融混練し、真空脱揮した後、ダイからストランド状に押出し、水浴で冷却し、ペレタイズした。
【0142】
≪実施例11≫
精錬後の乾燥を実施しないこと以外は、実施例2と同様に行った。
【0143】
【0144】
【0145】
表1から明らかなように、実施例1~11で得られたポリアミド樹脂組成物は、カルボキシル基末端濃度とアミノ基末端濃度とが式(1)を満たすポリアミドと、(B)平均繊維径が500nm以下のセルロース繊維とを含むポリアミド樹脂組成物であるため、優れた機械特性に加えて、樹脂組成物の色調及び、臭気低減特性が飛躍的に向上していた。一方、比較例1~3のポリアミド樹脂組成物はカルボキシル基末端比率が小さくなるにつれて、大型射出成型機における滞留時の組成物の色調及び臭気が悪化する傾向が見られた。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、特に、大型射出成型機を用いたサイクル時間の長い成型において、優れた特性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の樹脂組成物は、例えば、高い強度と低い線膨張性とを樹脂成形体に与えることができるとともに、大型部品の成型に好適であるため、自動車の内装材料及び外装材料用途等の分野で好適に利用できる。