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特許7447264水硬性組成物、水硬性組成物混合材料および硬化体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】水硬性組成物、水硬性組成物混合材料および硬化体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20240304BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20240304BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240304BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240304BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B18/08 Z
C04B22/06 Z
C04B22/08 B
C04B22/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022531854
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2021022805
(87)【国際公開番号】W WO2021256484
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020105430
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻野 正貴
(72)【発明者】
【氏名】大脇 英司
(72)【発明者】
【氏名】梶尾 知広
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145033(JP,A)
【文献】特開2003-095718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムと、高炉スラグ微粉末と、膨張材と、消石灰とを含む水硬性組成物であって、
前記炭酸カルシウムの割合が30質量%~70質量%の範囲内であり、
前記膨張材の割合が2~9質量%の範囲内であり、
前記消石灰の割合が2.3質量%以上であり、
前記炭酸カルシウム以外の粉体に占める前記高炉スラグ微粉末の割合が40質量%以上であることを特徴とする、水硬性組成物。
【請求項2】
石灰、フライアッシュ、ポルトランドセメントのうちの少なくとも1種類を含むことを特徴とする、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
前記炭酸カルシウム以外の材料中に30質量%以下の割合でポルトランドセメントを含むことを特徴とする、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の水硬性組成物と硝酸塩化合物とを含む水硬性組成物混合材料であって、
前記水硬性組成物100質量%に対し、硝酸イオンに換算して1~3質量%の割合で前記硝酸塩化合物を含むことを特徴とする水硬性組成物混合材料。
【請求項5】
請求項1に記載の水硬性組成物と、繊維材料、骨材および化学混和剤のうちの少なくとも1種類とを含むことを特徴とする水硬性組成物混合材料。
【請求項6】
請求項1に記載の水硬性組成物と、硝酸塩化合物と、繊維材料、骨材および化学混和剤のうちの少なくとも1種類と、を含む水硬性組成物混合材料であって、
前記水硬性組成物100質量%に対し、硝酸イオンに換算して1~3質量%の割合で前記硝酸塩化合物を含むことを特徴とする水硬性組成物混合材料。
【請求項7】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の水硬性組成物により形成されていることを特徴とする、硬化体。
【請求項8】
表面が研磨されていることを特徴とする、請求項に記載の硬化体。
【請求項9】
請求項乃至請求項のいずれか1項に記載の水硬性組成物混合材料により形成されていることを特徴とする、硬化体。
【請求項10】
表面が研磨されていることを特徴とする、請求項に記載の硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウムを含有する水硬性組成物と、この水硬性組成物を含有する水硬性組成物混合材料と、水硬性組成物または水硬性組成物混合材料により形成された硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
建設部材を構築する際に、CO(二酸化炭素)排出量の削減や耐火性の向上を目的として、コンクリート、モルタル、セメントペーストに炭酸カルシウムを添加する場合がある。例えば、特許文献1には、セメントと、炭酸カルシウムと、骨材と、添加剤と、多孔質材料とを含むセメント系材料が開示されている。
近年、COを回収して炭酸カルシウムを製造する技術が開発されている。この技術によって製造された炭酸カルシウムは、大気や排気ガス中のCOを固定している。水硬性組成物中に炭酸カルシウムを含有させれば、COを固定あるいは貯蔵し、CO排出量の低減化を図ることができる。さらに、炭酸カルシウムは、高温時に吸熱反応が生じるため、周囲の熱を吸収し、自己消火性を発現する。そのため、炭酸カルシウムを使用した建築材料は、火災に強い材料となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-051117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、大気中から回収したCOの安定した保持や貯蔵が可能であるとともに、費用の低減化を図ることが可能な水硬性組成物、この水硬性組成物を含有する水硬性組成物混合材料、および、水硬性組成物または水硬性組成物混合材料により形成された硬化体を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、炭酸カルシウムを含む水硬性組成物と、この水硬性組成物を含有する水硬性組成物混合材料と、水硬性組成物または水硬性組成物混合材料により形成された硬化体に関する。当該水硬性組成物に含まれる前記炭酸カルシウムの割合は30質量%~95質量%、好ましくは40質量%~95質量%、さらに好ましくは60質量%~95質量%の範囲内である。
水硬性組成物は、炭酸カルシウムに加えて、高炉スラグ微粉末、膨張材、消石灰、生石灰、フライアッシュおよびポルトランドセメントのうちの少なくとも1種類から選ばれる材料を含んでいるのが好ましい。特に、高炉スラグ微粉末、消石灰および膨張材を含んでいるのがより好ましい。この場合、水硬性組成物に含まれる前記炭酸カルシウムの割合は30質量%~70質量%が好ましい。
また、ポルトランドセメントを含む場合には、前記炭酸カルシウム以外の材料中の前記ポルトランドセメントの割合が70質量%以下であり、30質量%以下であるのがより好ましい。
また、膨張材は、水硬性組成物の材料全体に対して2~9質量%の割合であるのが好ましい。
かかる水硬性組成物によれば、硬化前に良好な流動性を発揮し、硬化後に必要な強度を発現するとともに、セメント使用量の減少によるCO排出量の低減化および炭酸カルシウムの使用によるCOの安定した保持や貯蔵が可能となる。また、当該水硬性組成物は、高炉スラグ微粉末やフライアッシュなどの産業副産物を多く含むため、資源の有効利用に貢献し、さらに炭酸カルシウムを多く含むので、耐火性に優れた部材を製造することが可能となる。
また、かかる水硬性組成物によれば、炭酸カルシウムの使用によるCOの保持に加え、供用期間中に中性化反応を生じ、大気中のCOを取り込むことが可能になる。
【0006】
本発明による水硬性組成物を用いて鉄筋コンクリート構造を構成する場合には、供用期間中に必要以上に中性化反応が生じると、コンクリートの内部の鉄筋などの補強材の防錆効果が損なわれる場合がある。このような場合には、前記水硬性組成物100質量%に対して、硝酸イオン(NO3-,式量62)に換算して1~3質量%の割合で硝酸塩化化合物を含んでいるのが好ましい。
また、本発明の水硬性組成物混合材料は、上記水硬性組成物と、繊維材料、骨材および化学混和剤の少なくとも一種類の材料とを含んでいてもよい。
上記水硬性組成物または上記水硬性組成物混合材料に水を加えて混合し、所定の養生期間が経過すると、上記水硬性組成物または上記水硬性組成物混合材料により形成された硬化体が得られる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水硬性組成物、水硬性組成物混合材料および硬化体によれば、炭酸カルシウムを多く添加することで、CO排出量の低減化とCOの安定した保持や貯蔵が可能になるとともに、費用の低減化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】水硬性組成物について実施した実験結果であって、炭酸カルシウムの割合と中性化速度との関係を示すグラフである。
図2】水硬性組成物を含有する水硬性組成物混合材料の硬化体の材齢28日の強度と単位セメント量との関係を示すグラフである。
図3】水硬性組成物の炭酸カルシウムの割合と、当該水硬性組成物を含有する水硬性組成物混合材料の硬化体の材齢28日における圧縮強度との関係を示すグラフである。
図4】水硬性組成物の炭酸カルシウム以外の粉体中のポルトランドセメントの割合と、炭酸カルシウム以外の粉体中のポルトランドセメントの割合が100%であるときを基準としたときの圧縮強度比の関係を示すグラフである。
図5】水硬性組成物混合材料において膨張材の添加量を変化させた場合における凝結始発からの経過日数と収縮ひずみの関係を示すグラフである。
図6】水硬性組成物混合材料において膨張材の添加量を変化させた場合における凝結始発からの経過日数と収縮ひずみの関係を示すグラフである。
図7】硬化体に対して実施した促進対候性試験結果であって、色差と促進時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、CO排出量の低減化とCOの安定した保持や貯蔵を目的として、大気中からCOを多量に回収可能な水硬性組成物、水硬性組成物混合材料および硬化体について説明する。
本実施形態の水硬性組成物は、炭酸カルシウム(CaCO)に加えて、高炉スラグ、膨張材、消石灰、生石灰、フライアッシュおよびポルトランドセメントのうちの少なくとも1種類とを含む粉体からなる。
本実施形態の水硬性組成物混合材料は、上記水硬性組成物に加えて、砂や砂利等の骨材、コンクリート用化学混和剤等の薬剤、金属や高分子材料による繊維材料などを含有するものである。
水硬性組成物の硬化体は、上記水硬性組成物に水を混練して得たペーストを硬化させたものである。また、水硬性組成物混合材料の硬化体は、上記水硬性組成物混合材料に水を混練して得た混練物(フレッシュモルタルやフレッシュコンクリートに相当)を硬化させたものであり、モルタルやコンクリートに相当するものである。
【0010】
炭酸カルシウム(CaCO)の前記粉体中の割合(水硬性組成物中に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合)は、30質量%~95質量%の範囲内、好ましくは40質量%~95質量%、さらに好ましくは60質量%~95質量%の範囲内である。炭酸カルシウム(CaCO)として、例えば、石灰石を粉砕、分級した重質炭酸カルシウム(CaCO)と呼ばれる天然炭酸カルシウム、および化学反応で微細な結晶を析出させた軽質炭酸カルシウムと呼ばれる合成炭酸カルシシウムを使用可能である。なお、COを回収して製造された炭酸カルシウムも、カルシウムとCOの反応により合成されていることから、軽質炭酸カルシウムとして扱うことができる。
【0011】
高炉スラグには、JIS(日本工業規格)R5211「高炉セメント」で使用される高炉スラグ微粉末またはJIS A6206「コンクリート用高炉スラグ」に適合する高炉スラグ微粉末を使用するのが望ましい。また、高炉スラグは、比表面積が2000~10000cm/gのもの、好ましくは3500~7000cm/gのものを使用するのが望ましい。
膨張材には、例えば、JIS A6202「コンクリート用膨張材」に規定される膨張材を使用すればよい。膨張材は、水硬性組成物全体に対して2~9質量%割合で添加するのが望ましい。
消石灰には、例えば、JIS R9001「工業用石灰」に規定されるものを使用すればよい。また、生石灰は水と接触すると消石灰になるため、例えば、JIS R9001「工業用石灰」に規定される生石灰を消石灰の代わりに使用することができる。なお、この場合には、生石灰が消石灰に変化する際に必要な水の量を補正しておくとよい。
フライアッシュには、例えばJIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」に適合するものを使用すればよい。
ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメントを使用するが、ポルトランドセメントには、この他、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等、JIS R5210「ポルトランドセメント」において規定されるもの、およびJIS R5214「エコセメント」も使用可能である。
【0012】
水硬性組成物中にポルトランドセメントを含む場合には、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体中のポルトランドセメントの割合を70質量%以下とし、30質量%以下とすることが好ましい。
また、ポルトランドセメントと、高炉スラグまたはフライアッシュを用いる場合には、当該成分を予め混合してある、例えばJIS R5211「高炉セメント」、または、例えばJIS R5213「フライアッシュセメント」をそれぞれ単独で、あるいは混合して用いてもよい。
【0013】
本実施形態の水硬性組成物によれば、硬化後に必要な強度を発現する。さらに、本実施形態の水硬性組成物によれば、セメント使用量の削減あるいはポルトランドセメントの省略により、ポルトランドセメントの製造に伴うCO排出量の低減化と、大気や排気ガスから回収して固定したCOの安定した保持や貯蔵が可能となる。高炉スラグと、膨張材、消石灰、生石灰、フライアッシュおよびポルトランドセメントのうちの少なくとも1種類とを含む高環境配慮型の水硬性組成物に炭酸カルシウム(CaCO)を配合した本実施形態の水硬性組成物は、普通ポルトランドセメントに炭酸カルシウム(CaCO)を配合した水硬性組成物に比べて、粉体量に対する炭酸カルシウム(CaCO)の比率を増加させても、強度低下を抑制することができる。また、高炉スラグを多く含む配合では強度低下をより抑えることができる。
また、本実施形態の水硬性組成物は、炭酸カルシウム(CaCO)を多く含んでいるので、耐火性に優れた部材を製造することが可能となる。炭酸カルシウム(CaCO)は、高温(500~900℃)時にCaCO→CaO+COの吸熱反応を生じるため、本実施形態の水硬性組成物は、火災時の自己消火性を有している。
【0014】
以下、本実施形態の水硬性組成物について実施した実験結果について説明する。
(1)中性化速度
まず、水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合を0~50質量%とし、その他の材料を表1の割合で混合した水硬性組成物の硬化体(ケースa~j)に対し、大気中のCOを吸収する速度(すなわち中性化速度)を、CO濃度を5%とした促進条件下にて測定した。表1に示すように、ケースa~cは、水硬性組成物を構成する炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体材料として、高炉スラグ、膨張材、消石灰をそれぞれ異なる配合で含有させた。ケースdでは、粉体材料としてポルトランドセメントと高炉スラグのみを含有させ、ケースeでは、水硬性組成物を構成する粉体材料として炭酸カルシウム(CaCO)、ポルトランドセメントおよび高炉スラグを含有させた。また、ケースfでは粉体材料としてポルトランドセメントと高炉スラグとフライアッシュを含有させた。なお、ケースd、fは、炭酸カルシウム(CaCO)を使用せずに環境負荷の低減を図る場合の配合である。ケースgでは粉体材料として炭酸カルシウム(CaCO)、ポルトランドセメント、高炉スラグおよびフライアッシュを含有させた。さらに、ケースh~jでは、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体材料として、ポルトランドセメントのみを50~100質量%の範囲で添加した。
ここで、水硬性組成物の材料全体に対する炭酸カルシウム(CaCO)の量が30質量%に満たないケースa,b,d,f,h,iは比較例であり、30質量%以上のケースc,e,g,jは実施例である。
【0015】
実験には、以下の材料を使用した。
水 :上水道水
炭酸カルシウム(CaCO):軽質炭酸カルシウム 密度2.67g/cm3、BET比表面積5.0m2/g
ポルトランドセメント:普通ポルトランドセメント 密度3.16g/cm3、ブレーン比表面積3270cm2/g、JIS R5210
高炉スラグ :高炉スラグ微粉末4000 密度2.89g/cm3、ブレーン比表面積4480cm2/g、JIS A6206
膨張材 :膨張剤30型(石灰系膨張材) 密度3.15g/cm3、ブレーン比表面積3810cm2/g、JIS A6202
消石灰 :消石灰特号,密度2.20g/cm3、600μmふるい全通、JIS R9001
フライアッシュ:フライアッシュII種 密度2.30g/cm3、ブレーン比表面積4640cm2/g、JIS A6201
【0016】
【表1】
【0017】
表1の配合による水硬性組成物Pに対して、水粉体比W/Pが0.50となるように水Wを加えて混練し、得られた混練物(ペースト)でφ約3cm×高さ約5cmの供試体を作製し、封かん養生した。供試体は、材齢28日で脱型し、脱型後7日間、気温20℃、湿度60%で保管した。その後、底面の1面以外をアルミニウム製の接着テープでコーティングして、気温20℃、湿度60%、CO濃度5%の環境に静置して、促進中性化試験を行った。
14日間または28日間経過後に、供試体を割裂し、断面に濃度1%のフェノールフタレインのアルコール溶液を噴霧し、呈色しない範囲を中性化が進行した範囲として、促進中性化深さを測定した。測定結果を表2に示す。中性化は中性化期間の平方根に比例して進行することが知られており、中性化期間の平方根に対する促進中性化深さの変化の関係を直線で近似(線形近似)したときの、直線の傾きを中性化速度とすることができる。すなわち、中性化速度は促進中性化期間の平方根の変化に対する中性化深さの変化の割合を示したものである。図1に炭酸カルシウム(CaCO)の割合と中性化速度の関係を示す。
【0018】
【表2】
【0019】
表2および図1に示すように、ケースa~cでは炭酸カルシウム(CaCO)の量を8.6質量%、25質量%、50質量%と増やしており、これらの配合の中性化速度は、それぞれ0.507、0.646、0.861cm/√dとなり、炭酸カルシウム(CaCO)の量が増えるにつれ中性化速度が増加している結果となった。
また、W/P=0.5で固定した同一条件で粉体構成の違いの効果を確認しているケースd~gにおいても炭酸カルシウム(CaCO)の量が増えるにつれ中性化速度が増加する結果となった。
さらに、ケースh~jでも炭酸カルシウム(CaCO)の量が増えるにつれ中性化速度が増加している。
このように、炭酸カルシウム(CaCO)の量が増えるほど、中性化速度が速くなる傾向にあった。なお、ケースjの中性化速度は、同量の炭酸カルシウム(CaCO)を含有するケースc,e,gよりも小さい値であった。
【0020】
そして、図1に示されるように、炭酸カルシウム(CaCO)を添加しない場合のケースh,d,fの比較から、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体中のポルトランドセメントの量を30質量%以下に減じると中性化速度を大きな値とすることができる。
一方,水硬性組成物(粉体)の材料全体に対する炭酸カルシウム(CaCO)の量を30質量%以上とすると、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体の配合にかかわらず、ポルトランドセメントの量を30質量%以下としたケースf(炭酸カルシウム(CaCO)を使用せずに環境負荷の低減を図る場合の配合)と同等以上の中性化速度になることが期待でき、炭酸カルシウム(CaCO)の量を40質量%以上とすると、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体の配合にかかわらず、ポルトランドセメントの量を30質量%以下としたケースd(炭酸カルシウム(CaCO)を使用せずに環境負荷の低減を図る場合の配合)と同等以上の中性化速度になることが期待できる。
すなわち、粉体中の炭酸カルシウム(CaCO)の量を30質量%以上、好ましくは40質量%以上とすれば、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体の構成に関わらず粉体中のポルトランドセメントの割合を低下させた場合と同等以上の効果がえられる。
このようにして、中性化速度を大きくした水硬性配合物は、硬化後において、大気中のCOをより多く取り込む事が期待でき、供用中に大気中のCOを固定する量の増加が期待できることが確認できた。
【0021】
水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合が等しいケースc,g,e,jを比較すると、水硬性組成物に占める高炉スラグの割合が増えると(すなわち、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体に占める高炉スラグの割合が増えると)、中性化速度が早くなる傾向にあった。したがって、水硬性組成物に高炉スラグを含有させる場合には、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体に占める高炉スラグの割合を、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体(高炉スラグ、ポルトランドセメント、膨張材、消石灰、フライアッシュ)の中で大きくすることが好ましく、さらには、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体に占める高炉スラグの割合を40質量%以上とすることがより好ましい。
【0022】
(2)圧縮強度
水硬性組成物を構造部材として使用する場合には、作用荷重に耐え得る圧縮強度を有していることが望ましい。そこで、水硬性組成物と細骨材(砂)とを含有する水硬性組成物混合材料について、水硬性組成物における炭酸カルシウム(CaCO)の割合、水硬性組成物における炭酸カルシウム(CaCO)以外の各材料の種類や量、水粉体比、を変更した場合における硬化後の圧縮強度(材齢7日強度、材齢28日強度)を測定した。
【0023】
実験には、以下の材料を使用した。
水 :上水道水
ポルトランドセメント:普通ポルトランドセメント 密度3.16g/cm3、比表面積 3270cm2/g、JIS R5210
高炉スラグ :高炉スラグ微粉末4000 密度2.89g/cm3、ブレーン比表面積4480cm2/g、JIS A6206
膨張材 :膨張剤30型(石灰系膨張材) 密度3.15g/cm3、ブレーン比表面積3810cm2/g、JIS A6202
消石灰 :消石灰特号 密度2.20g/cm3、600μmふるい全通、JIS R9001
フライアッシュ:II種 密度2.30g/cm3、比表面積 4640cm2/g、JIS A6201
炭酸カルシウム(CaCO) :軽質炭酸カルシウム 密度2.67g/cm3、BET比表面積 5.0m2/g
細骨材 :君津産山砂,津久見産砕砂,度会産砕砂の混合物 表乾密度2.60g/cm3 吸水率 2.07%
【0024】
表3に配合を示す。また、表4に強度試験結果を示す。なお、表4には、水硬性組成物に高炉スラグを含むケース1~4と、水硬性組成物がポルトランドセメントと炭酸カルシウム(CaCO)とからなるケースA,Bとの間で、水粉体比(W/P)および炭酸カルシウム(CaCO)の割合が同一の場合における強度の比率(圧縮強度比=ケース1~4/ケースA,B)を示す。ここで、ケース1~4およびケースA,Bの後に付加した「25」、「50」等の数字は、水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合(質量%)を示している。したがって、ケース1~4およびケースA,Bのうち、「0」、「25」、「99」の数字が付されたものは比較例であり、それ以外は実施例である。また、表4において、例えば、ケース1-50およびケース2-50の欄に記載された圧縮強度比は、ケースA-50の強度に対する比率であり、ケース4-70の欄に記載された圧縮強度比は、ケースB-70の強度に対する比率である。また、ケース1-25およびケース2-25の欄に記載された圧縮強度比は、ケースA-25の強度に対する比率である。
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
図2は、単位セメント量(kg/m3)と材齢28日(28d)における圧縮強度(表4参照)をグラフにしたものである。水硬性組成物混合材料の特性を明確にするため、W/Pを0.5に統一し、W/Pを0.5とした混練物の硬化体(モルタル)の結果を掲載した。ケースA(水硬性組成物を構成する粉体材料のうち、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体材料を全てポルトランドセメントとしたケース)では、炭酸カルシウム(CaCO)の割合が高くなり、ポルトランドセメントの使用量(単位セメント量)が少なくなると強度が低下した。一方、ケース1~3(水硬性組成物を構成する粉体材料のうち、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体材料としてポルトランドセメント以外の粉体を含むケース)は、単位セメント量が少ない配合においてもケースAと比較して圧縮強度は顕著に大きくなった。このように、炭酸カルシウム(CaCO)を含有する水硬性組成物は、ポルトランドセメントの使用量を大きく減じても実用上、十分な強度を有する。
【0028】
図2において、点線A~Dは、水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)が同じ割合の配合物の強度を結んだ近似線である。水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合が25質量%である点線A(比較例)は、単位セメント量が小さくなると強度が低下し、水硬性組成物の使用材料や割合を調整しても強度の改善効果が得られていない。一方、水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合が50~90質量%である点線B~D(実施例)においては、単位セメント量が小さくなると強度が増加していることがわかる。すなわち、本実施形態による水硬性組成物および水硬性組成物混合材料は、水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合が高いほど、圧縮強度を弱めることなく単位セメント量を削減できるという大きな効果が得られる。
【0029】
また、図2における直線i~ivは、各ケースについて,炭酸カルシウム(CaCO)を除いた粉体に占めるポルトランドセメントの割合が等しい配合物の強度変化の近似線を引いたものである。近似線は水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合が50質量%以上であり、強度の効果が認められた測定点を対象としている。直線iは炭酸カルシウム(CaCO)を除いた粉体に占めるポルトランドセメントの割合が100質量%の場合であり、直線ii、iii、ivはそれぞれ、30質量%、15質量%、0質量%の場合である。図2の直線i~iiiから分かるように、炭酸カルシウム(CaCO)を除いた粉体に占めるポルトランドセメントの割合が小さいほど、単位セメント量の増加に対する強度の増加率が大きくなる。すなわち、炭酸カルシウム(CaCO)を除いた粉体として、高炉スラグ、膨張材、消石灰、フライアッシュを使用し、ポルトランドセメントの割合を減らせば、単位セメント量を大きく増やさずとも圧縮強度を高めることができるという大きな効果が得られる。
【0030】
図3は、表4に示した28日(28d)における圧縮強度比をグラフにしたものである。図2および図3、表4に示すように、炭酸カルシウム(CaCO)の割合が25質量%(ケース1-25,2-25,3-25,4-25)では、炭酸カルシウム(CaCO)とポルトランドセメントのみのケースA-25,B-25よりも圧縮強度が低くなる結果となった。一方、炭酸カルシウム(CaCO)の割合が50質量%以上(ケース1-50、1-70、1-90、2-50、2-70、2-90、3-70、4-70)になると、炭酸カルシウム(CaCO)とポルトランドセメントのみのケースA-50、A-70、A-90、B-50、B-70よりも圧縮強度が高くなることが確認できた。すなわち、炭酸カルシウム(CaCO)の割合が25質量%を超えると圧縮強度比が1を超える可能性があり、図3のグラフから、炭酸カルシウム(CaCO)の割合が30質量%を超えると圧縮強度比が1を超えることが確認できる。したがって、水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合が30質量%以上であれば、ポルトランドセメントを、高炉スラグと、膨張材、消石灰、生石灰、フライアッシュおよびポルトランドセメントのうちの少なくとも1種類を用いた材料に置き換えた場合であっても、炭酸カルシウム(CaCO)とポルトランドセメントのみの水硬性組成物混合材料と同等以上の強度を発現できる。水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合が40質量%以上であると、圧縮強度比が概ね1.2を超えるため好ましく、さらには60質量%以上であると圧縮強度比が概ね1.4を超えるためより好ましい。
【0031】
図4は、図2に示した直線ii~ivの傾きについて、直線iに対する比率を示したものである。直線i~ivの傾きは単位セメント量あたりの圧縮強度を示すものであるから、直線iに対する直線ii~ivの傾きの比率は、同一の単位セメント量における圧縮強度の比率とみなすことができ、縦軸にはこれを圧縮強度比として示した。
炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体中のポルトランドセメントの割合が小さくなると、圧縮強度比は高くなり、本発明の効果を確認することができる。炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体中のポルトランドセメントの割合が70質量%以下になると圧縮強度比は2を超え、30質量%以下になると圧縮強度比はおおむね4を超えることから、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体中のポルトランドセメントの割合は70質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがより好ましい。
【0032】
また、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体中に占めるポルトランドセメントの割合を30質量%以下としたケース1-50、1-70、1-90と、2-50、2-70、2-90の結果から分かるように、高炉スラグの割合が増えるにつれて圧縮強度が高くなる傾向にある。したがって、水硬性組成物において、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体中に占めるポルトランドセメントの割合が30質量%以下である場合には、炭酸カルシウム(CaCO)以外の粉体中に占める高炉スラグの割合を70質量%以上とすることが好ましく、80質量%以上とすることがより好ましい。
【0033】
(3)炭酸カルシウム(CaCO)の割合を42~70%の間で変化させた場合の圧縮強度
次に、本実施形態の水硬性組成物と細骨材(砂)と粗骨材(砂利)とを含有する水硬性組成物混合材料について、水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合を42~70%の間で変化させ、性状を確認した。具体的には、水硬性組成物混合材料と水との混練物(以下「フレッシュコンクリート」と称する場合がある。)のスランプまたはスランプフローと、混練物の硬化体(以下「コンクリート」と称する場合がある。)の圧縮強度(材齢1日強度、材齢7日強度、材齢28日強度)を測定した。圧縮強度用の試験体(コンクリート)は材齢2日で脱型し、その後は20℃標準水中養生を行った。また、実施例33,35,38では20℃で2時間の封かん養生を行ってから60℃で2.5時間の蒸気養生を行い、材齢1日の圧縮強度を測定した。
【0034】
実験には、以下の材料を使用した。
水 :上水道水
高炉スラグ :高炉スラグ微粉末4000 密度2.89g/cm3、ブレーン比表面積4480cm2/g、JIS A6206
膨張材 :膨張剤30型(石灰系膨張材) 密度3.15g/cm3、ブレーン比表面積3810cm2/g、JIS A6202
消石灰 :消石灰特号 密度2.20g/cm3、600μmふるい全通、JIS R9001
炭酸カルシウム(CaCO):軽質炭酸カルシウム 密度2.67g/cm3、BET比表面積5m2/g
細骨材 :君津産山砂,津久見産砕砂,度会産砕砂の混合物 表乾密度2.60g/cm3 吸水率 2.07%
粗骨材 :青梅産砕石 最大粒径20mm 表乾密度2.66g/cm3 吸水率0.60%
表5に本実験の配合を示す。また、表6に強度試験結果を示す。
【0035】
【表5】
【0036】
【表6】
【0037】
表6に示すように、実施例31,32,33,34,36,37のフレッシュコンクリートは、いずれもスランプフローが46.0cmを超えており、高い流動性を示した。これらは、材料分離も起こらず、高流動コンクリートとして施工可能なフレッシュコンクリートであった。また、実施例35、38のフレッシュコンクリートは、スランプが13.5cm、20cmある。このように、高流動でない通常のフレッシュコンクリートも製造可能である。なお、JIS A 5308において普通コンクリートのスランプまたはスランプフローの範囲が定められている。JISの規定によると、スランプが5.5~22.5cm、または、スランプフローが37.5~70.0cmであることが求められるが、今回製造したフレッシュコンクリートはいずれもこの水準を満足していた。
【0038】
実施例31~38は、材齢7日の時点で圧縮強度が17~40N/mmとなり、材齢28日では、22~55N/mmであった。水和活性のない炭酸カルシウム(CaCO)を水硬性組成物の全粉体中の42~70%と多量に添加しても、20N/mm以上の圧縮強度を担保することができた。また、W/Pを0.241以下とすることで、40N/mmを超える高強度のコンクリートを製造できた。
以上のとおり、水硬性組成物を構成する粉体中の炭酸カルシウム(CaCO)の割合を42~70質量%とした配合について、鉄筋コンクリートなどの構造部材に使用される一般的なコンクリートと同様のワーカビリティを有するフレッシュコンクリートを製造できること、および、一般的なコンクリートの同程度の圧縮強度を有するコンクリートを製造できることを確認できた。
【0039】
(4)硝酸塩化合物または亜硝酸塩化合物を含有する水硬性組成物混合材料の中性化速度
炭酸カルシウム(CaCO)の割合を45質量%、その他の材料を表7の割合とした水硬性組成物と硝酸塩化合物の混合材料(水硬性組成物混合材料)に対し、W/Pが0.305となるように水を混合して水硬性組成物混合材料のペーストを作製し、これを硬化させた。なお、硝酸塩化合物に結合水が含まれる場合、添加する水の量はその結合水の値を除したものとした。また、添加する硝酸塩化合物の量は、水硬性組成物100質量%に対し、窒素原子(N)の量が0.45質量%(硝酸イオン(NO )に換算して2質量%)となるようにした。なお、硝酸塩化合物は、粉体の状態で水硬性組成物と混合してもよいし、水に溶解させてから、水硬性組成物と混合してもよい。なお、Ca(NO・HO、NaNOは、亜硝酸塩化合物であるが、本発明においては亜硝酸塩化合物として記載し、亜硝酸イオン(NO )は硝酸イオン(NO )として換算した。
【0040】
実験には、以下の材料を使用した。
水 :上水道水
高炉スラグ :高炉スラグ微粉末4000 密度2.89g/cm3、ブレーン比表面積4480cm2/g、JIS A6206
膨張材 :膨張剤30型(石灰系膨張材) 密度3.15g/cm3、ブレーン比表面積3810cm2/g、JIS A6202
消石灰 :消石灰特号 密度2.20g/cm3、600μmふるい全通、JIS R9001
炭酸カルシウム(CaCO):軽質炭酸カルシウム 密度2.67g/cm3、BET比表面積5.0m2/g
Ca(NO・HO:関東化学社製、関東化学社1級規格適合品(純度90.0%以上(滴定法))
Ca(NO・4HO:関東化学社製、JIS K8549(純度99.0%以上(差数法))
Mg(NO・6HO:関東化学社製、JISK8567(純度99.0%以上(滴定法))
NaNO:関東化学社製、JISK8019(純度98.5%以上(滴定法))
NaNO:関東化学社製、JISK8542(純度99.0%以上(滴定法))
KNO:関東化学社製、JISK8548(純度99.0%以上(滴定法))
NHNO:関東化学社製、JISK8545(純度99.0%以上(滴定法))
【0041】
【表7】
【0042】
表7の配合からなる水硬性組成物混合材料に所定量の水を混合して得たペーストを用いてφ約3cm×高さ約5cmの供試体を作製し、封かん養生した。材齢28日で脱型し、脱型後7日間、気温20℃、湿度60%で保管した。その後、底面の1面以外をアルミニウム製の接着テープでコーティングして、気温20℃、湿度60%、CO濃度5%の環境に静置して、促進中性化試験を行った。
所定の期間経過後に、供試体を割裂し、断面に濃度1%のフェノールフタレインのアルコール溶液を噴霧し、呈色しない範囲を中性化が進行した範囲として、促進中性化深さを測定した。測定結果を表8に示す。中性化は中性化期間の平方根に比例して進行することが知られており、中性化期間の平方根に対する促進中性化深さの変化の関係を直線で近似(線形近似)したときの、直線の傾きを中性化速度とすることができる。すなわち、中性化速度は促進中性化期間の平方根の変化に対する中性化深さの変化の割合を示したものである。
【0043】
【表8】
【0044】
表8に示すように、亜硝酸カルシウム1水和物(Ca(NO・HO)、硝酸カルシウム4水和物(Ca(NO・4HO)、硝酸マグネシウム6水和物(Mg(NO・6HO)を添加した際には顕著な中性化抑制効果がみられ、硝酸塩を含まない場合に比べて、中性化速度は60%以下に減少した。
したがって、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウムの添加により、水硬性組成物混合材料の硬化体について、中性化速度を抑制できることが確認できた。
【0045】
(5)化学混和剤を含有する水硬性組成物混合材料の中性化速度
炭酸カルシウム(CaCO)の割合を45質量%、その他の材料を表9の割合とした水硬性組成物と化学混和剤の混合材料(水硬性組成物混合材料)に対し、W/Pが0.305となるように水を混合して水硬性組成物混合材料のペーストを作製し、これを硬化させた。得られた硬化体に対し、促進中性化試験を行い、中性化速度を算出した。測定結果を表10に示す。
【0046】
なお、本実験には、以下の材料を使用した。
水 :上水道水
高炉スラグ :高炉スラグ微粉末4000 密度2.89g/cm3、ブレーン比表面積4480cm2/g、JIS A6206
膨張材 :膨張剤30型(石灰系膨張材) 密度3.15g/cm3、ブレーン比表面積3810cm2/g、JIS A6202
消石灰 :消石灰特号 密度2.20g/cm3、600μmふるい全通、JIS R9001
炭酸カルシウム(CaCO):軽質炭酸カルシウム 密度2.67g/cm3、BET比表面積5.0m2/g
化学混和剤:マスターセットFZP99、ポゾリスソリューションズ社製、硝酸イオン換算含有量24質量%
【0047】
【表9】
【0048】
表9の配合からなる水硬性組成物混合材料に所定量の水を混合して得たペーストを用いてφ約3cm×高さ約5cmの供試体を作製し、封かん養生した。材齢28日で脱型し、脱型後7日間、気温20℃、湿度60%で保管した。その後、底面の1面以外をアルミニウム製の接着テープでコーティングして、気温20℃、湿度60%、CO濃度5%の環境に静置して、促進中性化試験を行った。
所定の期間経過後に、供試体を割裂し、断面に濃度1%のフェノールフタレインのアルコール溶液を噴霧し、呈色しない範囲を中性化が進行した範囲として、促進中性化深さを測定した。測定結果を表10に示す。中性化は中性化期間の平方根に比例して進行することが知られており、中性化期間の平方根に対する促進中性化深さの変化の関係を直線で近似(線形近似)したときの、直線の傾きを中性化速度とすることができる。すなわち、中性化速度は促進中性化期間の平方根の変化に対する中性化深さの変化の割合を示したものである。
【0049】
【表10】
【0050】
表10に示すように、硝酸イオン(NO )を含む化学混和剤を水硬性組成物100質量%に対して6質量%以上(NO に換算して1質量%以上)添加した際には顕著な中性化抑制効果がみられ、硝酸塩を含まない場合に比べて中性化速度は半減した。さらに、化学混和剤の量を増やすほど、中性化速度は小さくなった。
したがって、水硬性組成物100質量%に対し、硝酸塩を硝酸イオンに換算して1質量%以上添加することで、水硬性組成物混合材料の硬化体の中性化速度を抑制できることが確認できた。
【0051】
(6)膨張材の添加量を変化させた場合の性状
次に、膨張材を含有する水硬性組成物について、性状を確認した。膨張材は、水硬性組成物(粉体)に占める割合を2~9質量%の範囲内で変化させた。本実験では、水硬性組成物と細骨材(砂)と粗骨材(砂利)とを含む水硬性組成物混合材料を水と混練し、得られた混練物(以下「フレッシュコンクリート」と称する場合がある。)についてスランプまたはスランプフロー、凝結の始発および終結時間を測定し、さらに、混練物の硬化体(以下「コンクリート」と称する場合がある。)について圧縮強度(材齢28日強度)および自己収縮ひずみを測定した。
凝結の始発時間および終結時間の測定方法はJIS A 1147:2019 コンクリートの凝結時間試験方法に準拠して実施した。
【0052】
また、自己収縮ひずみの測定方法は、公益社団法人日本コンクリート工学会・超流動コンクリート研究委員会報告書IIに記載の高流動コンクリートの自己収縮試験方法に準拠して実施した。すなわち、10cm×10cm×40cmのコンクリート角柱供試体の中央に埋め込み型ひずみ計を設置し、コンクリート打設後、材齢2日で脱型し、気温20℃の室内においてビニールにて封かんした後、材齢30日までの収縮量を測定し、その測定値を自己収縮ひずみとした。
表11に本実験の配合を示す。また、表12および図5,6に圧縮強度試験の結果を示す。
【0053】
なお、実験には、以下の材料を使用した。
水 :上水道水
高炉スラグ :高炉スラグ微粉末4000 密度2.89g/cm3、ブレーン比表面積4480cm2/g、JIS A6206
膨張材 :膨張剤30型(石灰系膨張材) 密度3.15g/cm3、ブレーン比表面積3810cm2/g、JIS A6202
消石灰 :消石灰特号 密度2.20g/cm3、600μmふるい全通、JIS R9001
炭酸カルシウム(CaCO):軽質炭酸カルシウム 密度2.6g/cm3、BET比表面積5.0m2/g
細骨材 :君津産山砂,津久見産砕砂,度会産砕砂の混合物 表乾密度2.60g/cm3 吸水率 2.07%
粗骨材 :青梅産砕石 最大粒径20mm 表乾密度2.66g/cm3 吸水率 0.60%
【0054】
【表11】
【0055】
【表12】
【0056】
表12に示すように、全ての実施例においてスランプが19cmまたはスランプフローが40.0~60.0cmであり、普通コンクリートとしてJIS A 5308に定められるスランプが6.5~22.5cm、または、スランプフローが37.5~70.0cmの範囲にあり、適切な流動性を示した。また、材齢28日の圧縮強度は30N/mmを超えており、十分な圧縮強度を有していた。すなわち、実施例61~66の水硬性組成物混合材料は、水硬性組成物に占める膨張材の割合を2~9質量%(膨張材の使用量を14~57kg/m3)と変化させた場合にも、コンクリートとして製造および施工可能な性質を有していた。
【0057】
また、表12および図5に示すように、実施例61および実施例62は、自己収縮ひずみがそれぞれ-442×10-6、-417×10-6と大きい値を示した。一方、水硬性組成物に占める膨張材の割合を6質量%または9質量%(膨張材の使用量を41kg/m3または57kg/m3)にした実施例63および実施例64は、自己収縮ひずみがそれぞれ-347×10-6、-0.16×10-6と大きく減少した。実施例61~64よりも単位水量が大きい実施例65,66においても、膨張材の割合を増やすことで、自己収縮ひずみが減少した(図6参照)
水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合が40~52質量%である配合において、膨張材の割合を2~9質量%と変化させた場合に、通常のコンクリートと同様の手法でコンクリートを製造可能であること、自己収縮ひずみを膨張材の添加で制御可能であることを確認できた。
【0058】
(7)繊維材料を添加した場合の性状
次に、本実施形態の水硬性組成物、繊維材料、細骨材および粗骨材を含有する水硬性組成物混合材料の硬化体(以下「コンクリート」と称する場合がある。)について、性状を確認した。具体的には、水硬性組成物混合材料と水との混練物(以下「フレッシュコンクリート」と称する場合がある。)のスランプまたはスランプフローと、混練物の硬化体の圧縮強度(材齢1日強度、材齢2日強度、材齢28日強度)を測定した。
【0059】
実験には、以下の材料を使用した。
水 :上水道水
高炉スラグ :高炉スラグ微粉末4000 密度2.89g/cm3、ブレーン比表面積4480cm2/g、JIS A6206
膨張材 :膨張剤30型(石灰系膨張材) 密度3.15g/cm3、ブレーン比表面積3810cm2/g、JIS A6202
消石灰 :消石灰特号 密度2.20g/cm3、600μmふるい全通、JIS R9001
炭酸カルシウム(CaCO):軽質炭酸カルシウム 密度2.67g/cm3、ブレーン比表面積 4350cm2/g
細骨材 :行方産陸砂と佐野産石灰砕砂の混合物 表乾密度2.64g/cm3 吸水率 1.91%
粗骨材 :佐野産石灰砕石 最大粒径20mm 表乾密度2.71g/cm3 吸水率 0.97%
繊維材料:鋼繊維、35mm長(Dramix3D、ベカルトジャパン社製)
化学混和剤:マスターセットFZP99、ポゾリスソリューションズ社製、硝酸イオン換算含有量24質量%
表13に本実験の配合を示す。また、表14に強度試験結果を示す。
【0060】
【表13】
【0061】
【表14】
【0062】
表14に示すように、実施例71、72、73、74は、フレッシュコンクリート(鋼繊維添加後の水硬性組成物混合材料)のスランプフローが50.0cmを超えており、高い流動性を示した。鋼繊維や骨材の材料分離も生じておらず、良好に施工可能なフレッシュコンクリートを製造できた。なお、JIS A 5308において普通コンクリートのスランプフローの範囲が定められており、スランプフローが37.5~70.0cmであることが求められている。今回製造した鋼繊維混入後のフレッシュコンクリートはいずれもこの水準を満足していた。
【0063】
実施例71、72、73、74は、材齢1日の時点で圧縮強度が5~10N/mmとなり、材齢2日の時点で圧縮強度は14~23N/mmであった。また、材齢28日の時点で圧縮強度は40~58N/mmであった。炭酸カルシウム(CaCO)は、水和活性を有しないが、水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合を46.4質量%と多量にしても、40N/mm以上の圧縮強度を担保することができた。また、鋼繊維を添加することにより曲げ強度に加えて圧縮強度の増強が期待できる。例えば、実施例72は、実施例66(表11参照)に対して鋼繊維が添加された材料と実質的に同一であるが、材齢28日の圧縮強度を比較すると、鋼繊維が添加されていない実施例66は34N/mmであったのに対し、鋼繊維を添加した実施例72は43N/mmであった。
以上の結果から、水硬性組成物に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合を高くし、さらに、繊維材料を添加した水硬性組成物混合材料でも、通常の繊維補強コンクリートと同様のワーカビリティ、圧縮強度を備えたコンクリートを製造可能であることを確認できた。
【0064】
(8)研磨の効果
次に、本実施形態の水硬性組成物と細骨材と粗骨材とを含有する水硬性組成物混合材料の硬化体について、硬化体の表面を研磨した場合の効果を確認した。以下の水硬性組成物混合材料では、水硬性組成物中に占める炭酸カルシウム(CaCO)の割合を41.3質量%とした。そして、水硬性組成物混合材料(水硬性組成物、細骨材および粗骨材)に水を加えて混練し、混練物(フレッシュコンクリート)を型枠に流し込んで硬化させ、15cm×15cm×厚さ1cmの直方体の供試体を作製した。作製した供試体は、材齢14日まで屋外(外気温0~7℃)にて封かん養生した後に脱型し、その後、石材研磨機を用いて粒度#400による研磨を行った。表15に配合を示す。
【0065】
なお、実験には、以下の材料を使用した。
水 :上水道水
高炉スラグ :高炉スラグ微粉末4000 密度2.89g/cm3、ブレーン比表面積4480cm2/g、JIS A6206
膨張材 :膨張剤30型(石灰系膨張材) 密度3.15g/cm3、ブレーン比表面積3810cm2/g、JIS A6202
消石灰 :消石灰特号 密度2.20g/cm3、600μmふるい全通、JIS R9001
炭酸カルシウム(CaCO):軽質炭酸カルシウム 密度2.67g/cm3、BET比表面積 5.0m2/g
細骨材 :稲田産花崗岩砕砂 表乾密度2.60g/cm3 吸水率 0.38%
粗骨材 :稲田産花崗岩砕石 最大粒径12mm 表乾密度2.62g/cm3 吸水率 0.64%
【0066】
【表15】
【0067】
供試体(水硬性組成物混合材料の硬化体)を気温20℃の室内で保管し、材齢28日後に促進耐候性試験機(XER-W75:岩崎電気製)を用いて、乾湿サイクル2時間(乾燥102分,湿潤18分)、照射強度60W/m、の条件で促進試験を5000時間行った。0,500,1000,2000,3000,4000,5000時間にて、分光色差計(NF333:日本電色工業製)を用いて、供試体の24か所の硬化部分(非骨材部分)のL色空間(JIS Z8781-4)を測定して平均値を算出し、0時間の時の供試体との色差を評価した。図7に促進時間と色差の関係を示す。
【0068】
作製した供試体は研磨により平滑となり、骨材の欠けなどの欠損もなく、大理石などの石材を模した仕上げ材とすることができた。図7に示すように、5000時間経過しても色の変化は観察されず,紫外線による変色などを受けないことを確認できた。
また,別途作製した直径10cm、高さ20cmの円柱供試体を封かん養生し、材齢28日にて圧縮強度試験したところ、圧縮強度は36.2N/mmであった。
炭酸カルシウム(CaCO)を多量に含む水硬性組成物混合材料の硬化体に対して研磨仕上げを施すことにより、石材を模した仕上げ材とすることができた。また、耐候性試験により、硬化体に変色などが生じないことが確認できた。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、炭酸カルシウム(CaCO)、高炉スラグ、膨張材、消石灰、生石灰、フライアッシュおよびポルトランドセメントを構成する材料は、前記実施形態で示したものに限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7