(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】プラズマ活性液を生成する医療機器および方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/04 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
A61B18/04
(21)【出願番号】P 2022549573
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(86)【国際出願番号】 EP2021053911
(87)【国際公開番号】W WO2021165334
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】102020104261.2
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518022178
【氏名又は名称】エバーハルト カール ウニヴェルジテート テュービンゲン メディツィニーシェ ファクルテート
【氏名又は名称原語表記】EBERHARD KARLS UNIVERSITAET TUEBINGEN MEDIZINISCHE FAKULTAET
【住所又は居所原語表記】Geschwister-Scholl-Platz,72074 Tuebingen Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイス,マルティン
【審査官】豊田 直希
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0022669(US,A1)
【文献】特表2008-539055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00-18/00
A61F 2/01
A61N 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ活性液を生成する医療機器(10)であって、該医療機器(10)が、プラズマ放電空間(12)と、これに隣接する送液空間(14)とを備え、両空間の間に形成された界面(20)に、該プラズマ放電空間(12)内の生物活性プラズマ因子は透過するが、該送液空間(14)内の液体(18)は透過しない半透膜(22)が設けられている医療機器(10)
において、
誘電体(24)で絶縁された正電極(26)が前記プラズマ放電空間(12)の界面(20)とは反対側の面に隣接して設けられており、前記送液空間(14)内に、接地電極(28)が配置されており、内視鏡装置と接続するための接続部を備える医療機器。
【請求項2】
前記半透膜(22)が、前記送液空間内の液体中に気泡が
生じないように構成されている、請求項1に記載の医療機器(10)。
【請求項3】
前記半透膜(22)の平均細孔半径が、
5nm未満である、請求項1または2に記載の医療機器(10)。
【請求項4】
前記半透膜(22)の排除限界が、
1000Daである、
請求項1~3のいずれか1項に記載の医療機器(10)。
【請求項5】
管状および/またはホース状である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の医療機器(10)。
【請求項6】
箱型である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の医療機器(10)。
【請求項7】
前記医療機器の筐体となる支持構造(34)を備える、
請求項1~6のいずれか1項に記載の医療機器(10)。
【請求項8】
前記プラズマ放電空間(12)へのキャリアガスの導入と、必要に応じて放出とを行うためのガス接続部(42、44)を有する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の医療機器(10)。
【請求項9】
高圧噴霧装置用および/または高圧スプレー装置用の接続部を備える、
請求項1~8のいずれか1項に記載の医療機器(10)。
【請求項10】
プラズマ活性液を断続的かつ/または連続的に生成するように構成されている、
請求項1~9のいずれか1項に記載の医療機器(10)。
【請求項11】
プラズマ活性液の生成システムであって、
請求項1~10のいずれか1項に記載の医療機器(10)と、該医療機器(10)に接続可能な、電極(26、28)に高電圧を印加するための高圧電源(30)とを備える、プラズマ活性液の生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ活性液を生成する医療機器、該医療機器を備えるプラズマ活性液の生成システム、およびプラズマ活性液を生成する方法に関する。また、本発明は、術後癒着を予防および治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物理的プラズマとは、原子・分子レベルの粒子の混合物を指す。プラズマは、1920年代に化学者Irving Langmuirによって初めて報告された。プラズマは、部分的に帯電したイオンと電子の粒子混合物で構成されている。プラズマは、例えば、中性ガスを加熱したり、強電磁場に曝したりして、イオン化したガス状物質の導電性を高めることによって人工的に生成することができる。
【0003】
非熱プラズマまたは低温プラズマは、いわゆる誘電体バリア放電を用いる電極システムによって大気圧で発生させることができる。誘電体バリア放電は、少なくとも1つの電極とガス空間をガルバニック絶縁により誘電体を用いて電気的に絶縁した状態で行う交流型ガス放電である。絶縁被覆された電極間にあるガスまたは空気で満たされた空間は、電極間の交流電圧により十分な電界強度が生じると、イオン化されるか、またはプラズマ状態に入る。プラズマの発生には数キロボルトの交流電圧が必要であり、換言すれば、プラズマを発生させるためには高電圧が必要である。また、プラズマの生成にはパルス励起も有利であり、パルス励起によって、数マイクロ秒から数10ナノ秒のパルス持続時間とキロボルト単位の振幅を有する電圧パルスが電極配列に印加される。
【0004】
多くの研究により、低温プラズマが生体系に対して顕著な選択的効果をもたらすことが実証されている。例えば、低温プラズマは、慢性創傷や急性創傷に対して消毒効果を効率的に発揮するとともに、好ましい影響をもたらすことが記載されている。また、低温プラズマで腫瘍を処理すると、アポトーシスにより、がん細胞が不活性化される可能性があることも記載されている。
【0005】
いわゆる「生物学的活性プラズマ因子」は、生体系で観察されるプラズマの効果に関与する因子である。「生物活性プラズマ因子」は、生体系で観察されるプラズマの効果に関与する因子である。このような因子は、本質的には、活性窒素種(RNS)、活性酸素種(ROS)、フリーラジカル、NO2
-、NO3
-、ONOO-などのイオン性化合物、電磁放射線などの活性種であるが、詳細な特性がまだ明らかにされていないその他の種である場合もある。
【0006】
いわゆるプラズマ活性液(PAL)またはプラズマ活性培養液(PAM)は、その使用頻度が増している。プラズマ活性液の抗増殖効果、抗新生物効果、および抗炎症効果は、近年、様々な研究によって実証されている。また、プラズマ活性液は、慢性創傷や急性創傷に対して消毒効果を効率的に発揮するとともに、好ましい影響をもたらす。プラズマ活性液により、創傷治癒の有意な促進や疼痛感受性の低下も期待される。また、プラズマ活性液を使用することで、物理的プラズマを直接使用する場合とは異なり、生物活性プラズマ因子の適用や制御をより良く行うことができる。
【0007】
プラズマ活性液生成機器は、例えば、以下の刊行物、すなわち、Adachi et al.(2015)、Plasma-activated medium induces A549 cell injury via spiral apoptotic cascade involving the mitochondrial-nuclear network,Free Radical Biology and Medicine 79,pp.28-44、Kajiyama et al.(2017)Future perspective of strategic non-thermal plasma therapy for cancer treatment,J.Clin.Bio-chem.Nutr.60,pp.33-38、Nakamura et al.(2017)Novel intraperitoneal treatment with non-thermal plasma-activated medium inhibits metastatic potential of ovarian cancer cells,Nature Scientific Reports 7:6085,pp.1-14、および、Azzariti et al.(2019),Plasma-activated medium triggers cell death and the presentation of immune activating danger signals in melanoma and pancreatic cancer cells,Nature Scientific Reports 9:4099,pp.1-13、に記載されている。
【0008】
これらの公知の機器を用いて液体をプラズマで処理して、液体を活性化する。このような公知の機器は、外部のプラズマ発生装置を利用するものであるため、取り扱いにくく、操作者が臨床で直接使用する用途にはあまり適していない。そのため、現行のプラズマ活性液生成機器は、実験系での使用に限られている。
【0009】
また、現行の機器では、製造したプラズマ活性液をすぐに組織に適用することができない。プラズマ活性液は、製造してから時間が経った状態で組織に適用される。従来技術では、プラズマ活性液は、いわば「在庫」として用意されている。しかし、生物活性プラズマ因子は「不安定」であり、すなわち、安定である時間は限られている。したがって、現行の方法で製造されるプラズマ活性液は、ほとんどの場合、保存によって低濃度の生物活性プラズマ因子しか残っていないため、治療的価値はほとんどない。
【0010】
米国特許出願公開第2008/0292497号は、プラズマ衝撃により液体を消毒するための大規模機器を開示している。第1のガス含有区画と第2の区画は、相分離体で分離されている。相分離体は、第1の区画から第2の区画へのガス移動を可能にする細孔を有する多孔質膜または非多孔質膜であってもよい。ガスは、第1の区画に正圧を印加することによって第2の区画に圧送される。これにより、第2の区画内の液体中にマクロな気泡が発生する。この機器は、大規模であることから、医療用途には適していない。さらに、蓄積された気泡が血管系に流れ込み、塞栓症を引き起こす危険性がある。また、子宮鏡などを用いる内視鏡手術においても、発生した気泡によって視認が困難になるため、このような状況での使用も対象外である。
【0011】
独国特許第10 2014 105 720号は、表面上の細菌を不活性化するための、または生物医学的用途のための活性層を開示している。このプロセスでは、プラズマ生成種が放電空間から隣接する空間内の活性培養液へと移送される。この放電空間と活性培養液を含む空間とは、特徴が明記されていない膜で分離されている。また、この機器も、術後癒着の予防や治療には適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような背景から、本発明の基礎となる課題は、従来技術に基づく現行の機器の欠点を回避または少なくとも低減することが可能な、プラズマ活性液を生成する医療機器を提供することである。具体的には、本発明の課題は、処置を行う医師にとって取り扱いが容易で、工業的規模で製造することができるような医療機器を提供することである。また、プラズマ活性液を長時間貯蔵することなく、製造直後に使用できるような医療機器であれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題は、プラズマ活性液を生成する医療機器であって、該医療機器が、プラズマ放電空間と、これに隣接する送液空間とを備え、両空間の間に形成された界面に、該プラズマ放電空間内の生物活性プラズマ因子は透過するが、該送液空間内の液体は透過しない半透膜が設けられている医療機器によって解決される。
【0014】
プラズマ放電空間と送液空間を半透膜で分離することにより、処置を行う医師にとって取り扱いが容易で、大規模に製造することができる医療機器のための構成要件が有利な形で設けられる。
【0015】
前記プラズマ放電空間は、物理的プラズマを生成するのに適した媒体、例えば、アルゴン、ヘリウム、O2、N2、室内空気またはその他の適切なガスなどを受け入れるように構成されている。
【0016】
前記送液空間は、水、生理食塩水、生物学的緩衝液などの液体を受け入れるように構成されている。
【0017】
前記半透膜は、例えば、慣用の透析膜として実装されていてもよい。この半透膜により、プラズマ放電空間と送液空間を明確に分離することができる。同時に、生物活性プラズマ因子が液体中に蓄積されることと、プラズマから生物活性プラズマ因子が半透膜を通って液体中へと移動できることも保証される。
【0018】
本発明の一実施形態では、前記半透膜は、送液空間内で気泡が生じないように、好ましくはマクロな気泡が生じないように、さらに好ましくは肉眼で見えるマクロな気泡、すなわちセンチメートル単位またはミリメートル単位の直径を有するマクロな気泡が生じないように構成されている。この実施形態において、当業者であれば、本質的に生物活性プラズマ因子のみがプラズマ放電空間から送液空間に移行するように、半透膜の材料を適切に選択して細孔径を調整するであろう。これは、慣用の透析膜または慣用の生物学的な対称透析膜、例えば、クプロファン、ヘモファンまたは三酢酸セルロースを用いる場合、ならびに天然高分子である綿セルロースで作られた他の膜を用いる場合と同様である。慣用の透析膜の平均細孔半径は1.72nmであり、これは1000Da、好ましくは500Daの透過障壁に相当し、すなわち、これより大きな分子は膜を透過することができない(Nowack et al.(2019),Dialysis and Nephrology for Professionals,3rd edition,chapter 7,Structure of Dialyzers,pp.89-103を参照)。したがって、本発明において慣用の透析膜を使用することにより、送液空間の液体中に(ガスの)気泡が生じるのを防ぐことができる。
【0019】
本発明の別の実施形態では、前記半透膜の平均細孔半径は、5nm未満、好ましくは2nm以下である。この範囲であれば、送液空間の液体中でマクロな気泡が発生することは物理的に不可能であり、さらにマイクロバブルの発生も物理的に不可能である。
【0020】
本発明によれば、前記プラズマ放電空間は、連続的な空洞として実装されていてもよい。特に、本発明による機器が管状またはホース状の構造である場合は、前記プラズマ放電空間が外側の管状体またはホース状体を形成し、前記送液空間が内側の管状体またはホース状体を形成する。また、逆に配置されている場合は、前記送液空間と前記プラズマ放電空間の間を確保するスペーサが設置されていてもよい。また、前記プラズマ放電空間は、ガラス繊維織布またはプラスチックなどのガス透過性材料で作製されていてもよく、このようなガス透過性材料を含んでいてもよい。この場合、前記プラズマ放電空間と前記送液空間を層状構造にして柔軟な形で実装することができ、スペーサを設ける必要がないという利点がある。
【0021】
本発明の基礎となる目的は、これにより完全に達成される。
【0022】
本発明者は、取り扱いおよび製造が容易であり、炎症性疾患、慢性炎症性疾患、新生物性疾患および腫瘍性疾患を有利な方法で生体内で治療することができるプラズマ活性液を生成する機器を初めて提供する。このプラズマ活性液は、組織で生成された直後に使用できるため、高い有効性が期待できる。
【0023】
また、本発明による機器は、医原性の術後癒着または炎症性疾患に起因する癒着の予防および治療に好適である。外科手術時または内視鏡/腹腔鏡手術時のこのような癒着は、医療システムにとって大きな課題である。プラズマ活性液は抗増殖性、抗炎症性、および創傷治癒特性を有するため、本発明による機器は、術後癒着を防ぐ目的で手術完了時に行われる日常的な治療処置に使用するのに適している。
【0024】
また、本発明による機器は、その非侵襲性および非毒性特性から、生体内適用に適している。本発明による医療機器を用いることにより、物理的プラズマを局所適用する場合と比べて、腹腔または膣腔、口腔および咽頭腔、胸郭腔、胃腸腔、関節腔などの体腔内で広い範囲にわたって均一に処置を行うことができる。
【0025】
一実施形態では、プラズマ放電における放電ギャップの圧力条件は、適切な装置を装備または接続することによって選択的に制御することができる。例えば、プラズマ放電における放電ギャップは、低圧または真空もしくは「ほぼ真空」であることが優位である。この場合、プラズマ生成に必要なエネルギーおよび電圧が大幅に低減され、プラズマをより均一に生成することができるという利点がある。
【0026】
本発明による医療機器の一実施形態では、前記プラズマ放電空間の界面とは反対側の面に、誘電体で絶縁された正電極が隣接して設けられている。
【0027】
これにより、誘電体バリア放電によるプラズマの生成のための構成要件が設けられる。
【0028】
前記正電極の構造は、リング状、格子状、紡錘状、ミアンダ状、ハニカム状であってもよい。このような形態により、電極構造の均一な分布が得られ、その結果、プラズマ放電空間においてプラズマが極めて均一に生成される。また、上記の形態は、電極構造の柔軟性または形状適応性においても有利である。
【0029】
前記誘電体は、ガラス、セラミックまたはプラスチック、例えば、シリコーンで形成されていてもよい。特に、誘電体がシリコーンなどの軟質プラスチックで形成されている場合、誘電体は柔軟性、すなわち、しなやかさを有することができ、これは当該用途において有利である。
【0030】
別の実施形態では、前記電極構造は、プラズマ放電空間側が誘電体で絶縁されていない。この場合、例えば、コロナ放電と同様の放電が可能である。
【0031】
本発明による医療機器のさらなる実施形態では、前記プラズマ放電空間の界面上および/または界面近傍に、接地電極が配置されている。この点に関して、前記接地電極は、界面と一体化されていてもよい。
【0032】
この実施形態では、接地電極が前記正電極に対する対電極として構成されており、これにより、誘電体バリア放電によるプラズマの生成のための構成要件が設けられる。
【0033】
前記接地電極の構造は、前記正電極の構造と同じであってもよい。
【0034】
この実施形態では、生物活性プラズマ因子は、ブラウン運動による受動拡散によってプラズマから半透膜を通って液体中へと移動することができる。したがって、生物活性プラズマ因子の移動は半透膜を通ってゆるやかに行われる。よって、液体中の生物活性プラズマ因子の集積度は、流れる液体の時間当たりの体積またはプラズマのエネルギー入力によって調節することができ、ひいては臨床条件に適合させることができる。
【0035】
接地電極と正電極の間隔は、発熱を回避すると同時に、正電極と接地電極の間で十分な物理的プラズマが形成されるように選択される。これは、上述のスペーサによって、かつ/またはプラズマ放電空間を十分な厚さのガス透過性材料で設計することによって達成することができる。
【0036】
本発明による機器の別の実施形態では、前記送液空間内に、接地電極が配置されている。
【0037】
本発明によれば、送液空間「内」に接地電極を配置することは、接地電極が、少なくとも一面、好ましくは両面または全面で液体と接触できるように配置されることを意味する。この実施形態では、生物活性プラズマ因子は、ブラウン運動と電荷駆動の両方によって加速的にプラズマから半透膜を通って液体中へと移動することができる。したがって、この配置により、液体中の生物活性プラズマ因子の集積が迅速かつ強力に行われる。液体中の生物活性プラズマ因子の集積度は、流れる液体の時間当たりの体積だけでなく、印加電圧によっても調節することができ、臨床条件に適合させることができる。
【0038】
この実施形態においても、接地電極と正電極の間隔は、発熱を回避すると同時に、正電極と接地電極の間で十分な物理的プラズマが形成されるように選択される。これは、既に述べたように、上述のスペーサを使用することによって、かつ/またはプラズマ放電空間を十分な厚さのガス透過性材料で設計することによって達成することができる。
【0039】
別の実施形態では、本発明による医療機器は、管状および/またはホース状である。
【0040】
この場合、管状および/またはホース状の形状とすることで、当該機器における個々の空間および構造体を分離することや、前記電極構造を電気的に絶縁することが容易に行えるという利点がある。さらに、本発明による機器を管状および/またはホース状とすることで、柔軟で折り曲げ可能な設計にすることが容易になる。また、本発明による機器を管状および/またはホース状とすることで、低侵襲性アプローチによる体腔へのアクセス、ならびに同じく管状および/またはホース状の形状を有することが多い体腔および/または開口部への適用が容易になる。本発明において、「管状および/またはホース状」は、当該機器における個々の空間および構造体が入れ子式の管状またはホース状の形態で配置されていることを意味する。この実施形態は、特に、内視鏡装置、高圧噴霧装置および/または高圧スプレー装置などの既存のモジュールとうまく一体化させることができる。
【0041】
したがって、本発明による機器が管状および/またはホース状である第1の実施形態では、前記送液空間は、当該機器の最内部に配置され、その外側に隣接して前記半透膜が配置されている。該半透膜の外側に隣接して前記接地電極が配置され、該接地電極の外側に隣接して前記プラズマ放電空間がスペーサを介して配置されている。前記プラズマ放電空間の外側に隣接して前記誘電体および隣接する前記正電極が配置されている。該正電極は、その外面に外側絶縁体を有していてもよい。本発明による機器の最外層は、支持材で形成されていてもよく、該支持材により、該機器に構造が付与され、場合によっては柔軟性も付与される。
【0042】
本発明による機器が管状および/またはホース状である別の実施形態では、前記接地電極は、本発明による機器の最内部に配置され、前記送液空間に包囲されている。前記送液空間の外側に隣接して前記半透膜が配置されており、該半透膜の外側に隣接して前記プラズマ放電空間が配置されている。前記プラズマ放電空間の外側に隣接して前記誘電体および隣接する前記正電極が配置されている。該正電極は、その外面に外側絶縁体を有していてもよい。本発明による機器の最外層は、支持材で形成されていてもよく、該支持材により、該機器に構造が付与され、場合によっては柔軟性も付与される。
【0043】
さらなる実施形態では、前記正電極は、本発明による機器の最内部に配置されている。この外周面に隣接して、前記プラズマ放電空間が配置されており、該プラズマ放電空間の外側に前記送液空間が設けられている。この実施形態のさらなる構造は、前述の実施形態の構造と同じである。
【0044】
さらなる実施形態では、本発明による機器は箱型である。
【0045】
この別の実施形態では、サンドイッチ工法を有利に利用することができ、それにより、本発明による機器における個々の空間および構造体の(ここでは水平の)配置および順序は、本質的に、上述の管状および/またはホース状の実施形態で説明したものと同じである。また、この実施形態は、既存のモジュールとうまく一体化させることができる。
【0046】
本発明の別の実施形態では、前記医療機器は、該医療機器の筐体となる支持構造を備える。
【0047】
この場合、機器としての構造が付与されるだけでなく、必要に応じて柔軟性または剛性が付与されるという利点がある。さらに、この支持体により、生成されたプラズマを、処置する組織に限定して適用するとともに、身体の他の部分とプラズマとが接触しないようにするためのさらなるバリアが提供される。この支持体は、例えば、金属またはプラスチックで形成されていてもよい。
【0048】
一実施形態では、本発明による医療機器は、前記プラズマ放電空間へのキャリアガスの導入と、必要に応じて放出とを行うためのガス接続部を有する。
【0049】
この構成により、ガス、例えば、アルゴンガスをプラズマ放電空間に導入することができ、例えば、誘電体バリア放電によるプラズマの生成に好適である。
【0050】
一実施形態では、本発明による医療機器は、高圧噴霧装置用および/または高圧スプレー装置用の接続部を備える。
【0051】
この構成により、本発明による機器は、プラズマ活性液を特定の部位のみ、または必要に応じてより広い領域に適用することができる装置と一体化させることができる。したがって、本発明による機器と高圧噴霧装置および/または高圧スプレー装置とを接続することで、腫瘍組織を標的とした処置が可能になる。また、例えば、外科手術を行った組織にプラズマ活性液を霧化および/または噴霧することによって、術後癒着を低減または回避することができる。このような霧化および/または噴霧は、外科手術時または外科手術の直後に行えることから、好ましくは、術後のフォローアップ治療の回避につながる。
【0052】
本発明の別の実施形態では、本発明による医療機器は、内視鏡装置と接続するための接続部を備える。
【0053】
この場合、本発明による機器を内視鏡手術に組み込んだり、既存の内視鏡システムまたは内視鏡トロカールと一体化させたりすることができ、外科手術時または外科手術の直後に使用できるという利点がある。
【0054】
一実施形態によれば、本発明による医療機器は、プラズマ活性液を断続的かつ/または連続的に生成するように構成されている。
【0055】
この実施形態は、例えば、前記送液空間内で液体を送液するためのポンプまたは同等の装置を接続することによって実施することができる。このポンプまたは同等の装置は、前記送液空間内で液体を任意選択で断続的にかつ/または連続的に送液することができる。また、プラズマ放電も、断続的かつ/または連続的な電圧印加によって制御することができる。この場合、使用目的に応じて適切な処置モードを設定することができる。
【0056】
本発明の別の目的は、本発明による医療機器と、該医療機器に接続可能な、前記電極に高電圧を印加するための高圧電源とを備える、プラズマ活性液の生成システムに関する。
【0057】
本発明による機器の特徴、実施形態、および利点は、本発明によるシステムにも同様に適用される。
【0058】
本発明の別の目的は、プラズマ活性液を生成する方法であって、
1.プラズマ放電空間と、これに隣接する送液空間とを備える機器であって、両空間の間に形成された界面に、該プラズマ放電空間内の生物活性プラズマ因子は透過するが、該送液空間内の液体は透過しない半透膜が設けられている機器を提供する工程;
2.前記プラズマ放電空間にガスを流す工程;
3.前記送液空間に液体を流す工程;
4.前記プラズマ放電空間内のガスから生物活性プラズマ因子を含む物理的プラズマを生成する工程;および
5.生成した生物活性プラズマ因子を前記半透膜を通して前記液体中へと移行させる工程
を含む方法に関する。
【0059】
本発明による機器の特徴、実施形態および利点は、本発明による方法にも同様に適用される。
【0060】
前記ガスは、好ましくは、アルゴンガス、ヘリウム、O2、N2、室内空気またはその他の適切なガスであってもよい。
【0061】
「生物活性プラズマ因子を移行させる」は、通常、半透膜を透過する生物活性プラズマ因子の移動を指す。具体的には、ブラウン運動により半透膜を透過する生物活性プラズマ因子の受動的拡散、ならびに電荷駆動により半透膜を透過する生物活性プラズマ因子の拡散を含む。
【0062】
本発明による方法の一実施形態では、提供される機器は、本発明による医療機器である。
【0063】
本発明の別の目的は、術後癒着の予防および/または治療におけるプラズマ活性液の使用に関する。
【0064】
前記プラズマ活性液は、好ましくは、本発明による機器および/または本発明による方法により生成されたものである。
【0065】
本発明による機器および本発明による方法の特徴、実施形態および利点は、本発明による使用にも同様に適用される。
【0066】
さらなる利点および特徴は、好ましい実施形態の以下の詳細な説明および添付の図面から明らかであろう。
【0067】
上述した特徴については、以下で詳細に説明するが、個々に明記した組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱しない限りは、他の組み合わせまたは単独でも利用可能であることは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0068】
添付の図面の各図は以下の通りである。
【
図1】本発明による機器の第1の実施形態(A)および第2の実施形態(B)の長手方向の断面図である。
【
図2】本発明による機器の第1の実施形態の分解平面図(A)および断面図(B)である。
【
図3】本発明による機器の第2の実施形態の分解平面図(A)および断面図(B)である。
【
図4】本発明による機器の第3の実施形態の分解平面図である。
【
図5】本発明による機器の婦人科手術時における使用を概略的に示したものである。
【
図6】中皮細胞および線維芽細胞に対するPALの選択的効果を示したものである。a)ヒト線維芽細胞および中皮細胞のPAL用量依存的な増殖。1:2のPAL用量で細胞を処理した場合、線維芽細胞で特異的に増殖が阻害されたが、中皮細胞では変わらず増殖が認められた。b)線維芽細胞(上段)および中皮細胞(下段)の明視野顕微鏡像。c)細胞外の不溶性コラーゲンおよびプロコラーゲンを定量するヒドロキシプロリンアッセイ(左)およびSircolアッセイ(右)。PAL処理により、不溶性コラーゲンの量が減少し、可溶性プロコラーゲンの量が増加した。d)PI染色後のフローサイトメトリー。1:2のPAL用量で処理することにより、線維芽細胞で特異的にG1細胞周期が停止した。e)細胞生存率アッセイ。1:2のPAL用量で処理することにより、線維芽細胞で特異的に、様々な細胞機構を誘導する細胞代謝が低下したが、中皮細胞では細胞代謝が増加した。
【発明を実施するための形態】
【0069】
1.本発明による機器の詳細
図1Aは、全体を表す参照符号10で示される、プラズマ活性液を生成する医療機器の長手方向の拡大断面図である。機器10は、炎症性疾患、慢性炎症性疾患、新生物性疾患および腫瘍性疾患の生体内治療、ならびに術後癒着の予防に適している。本実施形態では、医療機器10は、プラズマ放電空間12とその下側に隣接する送液空間14を有する。物理的プラズマ16、特に、通常の大気圧下または低圧下で生成する低温プラズマまたは室温プラズマを、プラズマ放電空間12内で生成することができる。送液空間14内では、水、緩衝液、生理食塩水などの液体18が断続的または連続的に流れている。
【0070】
プラズマ放電空間12とその下側に隣接する送液空間14により、半透膜22を含む界面20が形成されている。半透膜22は、プラズマ放電空間12で形成されたプラズマ16の生物活性プラズマ因子は透過するが、送液空間14の液体18は透過しない。
【0071】
この実施形態で示されるように、プラズマ放電空間12の上面には、誘電体24でプラズマ放電空間12から絶縁された正電極26が隣接している。散逸性接地電極28は、半透膜22のプラズマ放電空間12側で半透膜22に隣接している。電極26および電極28は、1本のワイヤで形成されていてもよく、格子状、紡錘状、ミアンダ状、またはハニカム状であってもよい。
【0072】
電極26および電極28に高電圧が印加されると、プラズマ放電空間12内に物理的プラズマ16が生成される。プラズマ放電空間12内の生物活性プラズマ因子は、蛇行矢印によって示されるように、ブラウン運動により半透膜22を通って送液空間14内の液体18中へと移動することができる。
【0073】
図1Bに、
図1Aの構造体および構成要素に対応する構造体および構成要素を同じ参照符号で示した第2の実施形態を示す。
図1Bに示される実施形態は、接地電極28がプラズマ放電空間12側にある半透膜22の上面に載置されておらず、送液空間14の内部に配置されているという点で、
図1Aに示される実施形態とは異なる。電極26および電極28に高電圧が印加されると、生物活性プラズマ因子は、ブラウン運動と電荷駆動の両方により半透膜22を通って送液空間14へと「送り込まれる」。
【0074】
図2には、本発明による医療機器10の第1の実施形態(
図1Aに示した配置に対応する)が示されている。
図2Aは、機器10の分解平面図であり、
図2Bは、機器10の断面図である。
図1Aおよび
図1Bに示す構造体および構成要素に対応する構造体および構成要素は、
図1と同じ参照符号で示されている。さらに、この実施形態では、本発明による機器10は、電極26および電極28に高電圧を印加するための高圧電源30と、正電極26の外側を絶縁する外側絶縁体32と、この外側絶縁体を包囲する支持体34とを有する。
【0075】
図3には、本発明による医療機器10の第2の実施形態(
図1Bに示した配置に対応する)が示されている。
図3Aは、機器10の分解平面図であり、
図3Bは、機器10の断面図である。
図2の構造体および構成要素に対応する構造体および構成要素は、
図2と同じ参照符号で示されている。
【0076】
図4には、本発明による医療機器10の第3の実施形態が示されており、本発明に係る構造体および空間が、箱状に設計された支持体34内に水平方向に層をなしてサンドイッチ状に配置されている。
図1、
図2および
図3の構造体および構成要素に対応する構造体および構成要素は、各図と同じ参照符号で示されている。
【0077】
図5は、本発明による機器10の婦人科手術時における使用を概略的に示した図である。また、本発明による機器に接続された、ホース38を通して液体を供給するためのポンプ36、ケーブル40を通して電極に高電圧を印加するための高圧電源または高電圧発生器30、およびプラズマ放電空間12へのキャリアガスの導入と、必要に応じて放出とを行うための、ガス源42およびガスライン44で構成されるガス接続部が示されている。
【0078】
2.術後癒着の予防を目的とした、プラズマ活性液のECM産生結合組織細胞の特異的阻害効果-実験
横行結腸より下部で行われる婦人科手術および一般手術では、術後癒着(PA)や関連する重症疾患のリスクが特に高い。臨床的には、PAは、しばしば腹部、脇腹、または背部の慢性の重度の疼痛症候群を伴うという特徴があるが、何年にもわたって誤診されることが多い。また、PAは、二次性不妊症の全症例の15~20%および機械的イレウス(機械的腸閉塞)の全症例の50~70%を占める。PAは、医療システムに莫大なコストがかかることが推定されている。PAの原因は、腹膜中皮細胞、線維芽細胞および免疫細胞の活性化による細胞外マトリックス(ECM)の過剰形成である。プラズマ活性液(PAL)は、フィブリンおよびECMを産生する結合組織細胞の制御異常や過剰増殖を阻害することによってPAを予防できる可能性がある。
【0079】
初代ヒト中皮細胞および初代ヒト線維芽細胞を、本発明の機器を用いて、PALの用量を変えて処理したところ、再現性のある明確な治療濃度域が示された(ここでは1:2として示す)(
図1a、
図1b)。このPAL濃度では、ECMおよびフィブリンを産生する線維芽細胞の過剰な細胞増殖を有意に阻害することができたが、中皮細胞の生理的増殖に対する有意な変化は見られなかった。細胞外の可溶性プロコラーゲン(架橋度が低い)の量は、PAL処理後に有意に増加し、細胞外の不溶性コラーゲン(架橋度が高い)の量は有意に減少した。また、この初代線維芽細胞に対する選択的な抗増殖効果は、有意なG2細胞周期の停止および細胞生存率の有意な低下との関連が認められた。興味深いことに、中皮細胞を同用量のPALで処理したところ、生存率が有意に上昇した。
【0080】
したがって、本発明の機器を用いた腹膜のPALによる処置は、ECMおよびフィブリンを産生する線維芽細胞の術後の(過剰)増殖、ならびにコラーゲンなどの機能性ECM成分の合成および架橋を選択的に減少させるための医療用途として有望である。