(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/03 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
H02K15/03 Z
(21)【出願番号】P 2022563643
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2021038450
(87)【国際公開番号】W WO2022107528
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020192762
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】中川 一葉
(72)【発明者】
【氏名】亀田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】峯田 由計
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-245921(JP,A)
【文献】特開平03-173329(JP,A)
【文献】特開2001-339886(JP,A)
【文献】特開2016-208724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/2726
H02K 15/02
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と共に回転する磁石と、
前記磁石を前記回転軸の回転径方向外側から覆う筒状に形成され、前記磁石の外周面に固定される被覆管と、
を備えたロータの製造方法であって、
前記被覆管が前記磁石の外周面に固定される前に、前記被覆管の内周面から内周部に圧縮残留応力を付与する圧縮残留応力付与工程と、
前記磁石を前記被覆管の内周側に移動させながら、もしくは、前記被覆管を前記磁石の外周側に移動させながら、前記磁石を前記被覆管の内周側に圧入する圧入工程と、を有するロータの製造方法
であって、
前記圧入工程の前に、
前記被覆管の内周面及び前記磁石の外周面の少なくとも一方の面に保護膜を形成する保護膜形成工程をさらに有し、
前記被覆管の内周面に形成された前記保護膜における前記被覆管とは反対側の面を加工することにより、前記被覆管の前記保護膜を含む内径を所定の内径に形成し、前記磁石の外周面に形成された前記保護膜における前記磁石とは反対側の面を加工することにより、前記磁石の前記保護膜を含む外径を所定の外径に形成する保護膜加工工程と、
を有するロータの製造方法。
【請求項2】
前記圧縮残留応力付与工程において、ショットピーニング加工により前記被覆管の内周面から内周部に圧縮残留応力が付与されることを特徴とする請求項
1に記載されたロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007-202371号公報には、ステータと、このステータが発生する回転磁界によって回転するロータと、を含んで構成された電動機が開示されている。この文献に記載された電動機のロータは、軸受に回転可能に支持されたシャフトと、シャフトの外周部に取付けられた磁石と、この磁石を径方向外側から覆う管状の被覆管と、を備えている。このように、磁石が被覆管によって覆われる構成となっていることにより、ロータの高回転時における磁石の飛散が防止又は抑制されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、高回転で使用されるロータでは、磁石を覆う被覆管へ生じる周方向への引張応力が高まりやすい。そのため、被覆管の強度を確保することが重要である。
【0004】
また、磁石と被覆管とがしまりばめで固定される構成では、磁石を被覆管に挿入する際の被覆管の内径面にかじり等の傷や損傷を抑制できることが望ましい。
【0005】
本開示は上記事実を考慮し、被覆管の強度を確保することができるロータ、回転電機、及びロータの製造方法を得ることを第1の目的とし、磁石を被覆管に挿入する際のかじりを抑制できることができるロータ、回転電機、及びロータの製造方法を得ることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は上記事実を考慮し、被覆管の強度を確保することができるロータの製造方法を得ることを第1の目的とし、磁石を被覆管に挿入する際のかじりを抑制できることができるロータの製造方法を得ることを第2の目的とする。
【0007】
第1の態様のロータによれば、被覆管が磁石の外周面にしまりばめで固定されている。ここで、被覆管は、磁石の外周面に固定される前の状態でその内周面から内周部に圧縮の残留応力が生じた状態となっている。これにより、ロータの回転に伴い被覆管へ生じる周方向への引張応力に対する強度を確保することができる。
【0008】
第2の態様のロータは、第1の態様のロータにおいて、前記被覆管の内周面及び前記磁石の外周面の少なくとも一方の面には、保護膜が形成されている。
【0009】
第2の態様のロータによれば、被覆管の内周面及び磁石の外周面の少なくとも一方の面に保護膜が形成されている。これにより、例えば、磁石を被覆管の内周側に圧入する際に、被覆管の内周面と磁石の外周面との間でかじりが生じることを抑制することができる。
【0010】
第3の態様のロータは、第1の態様又は第2の態様のロータにおいて、前記被覆管の内周面には、複数の凹部が形成されている。
【0011】
第3の態様のロータによれば、例えば、ショットピーニング加工を被覆管の内周面に施すことにより、被覆管の内周面に複数の凹部を形成して、被覆管の内周面から内周部に圧縮の残留応力を生じさせることができる。これにより、ロータの回転に伴い被覆管へ生じる周方向への引張応力に対する強度を確保することができる。
【0012】
第4の態様のロータは、第2の態様の構成を備えた第3の態様のロータにおいて、前記被覆管の内周面には、前記保護膜が形成され、前記被覆管の内周面に形成された前記保護膜における前記磁石側の面が、前記被覆管の内周面よりも平滑になっている。
【0013】
第4の態様のロータによれば、被覆管の内周面に形成された保護膜における前記磁石側の面が、被覆管の内周面よりも平滑になっている。これにより、例えば、磁石を被覆管の内周側に圧入する際に、被覆管の内周面の凹凸と磁石の外周面とが引っ掛かることを抑制することができ、被覆管の内周面と磁石の外周面との間でかじりが生じることをより一層抑制することができる。
【0014】
第5の態様のロータは、第2の態様の構成を備えた第3の態様のロータにおいて、前記被覆管の内周面及び前記磁石の外周面の両方に、前記保護膜が形成されている。
【0015】
第5の態様のロータによれば、被覆管の内周面及び磁石の外周面の両方に保護膜が形成されている。これにより、例えば、磁石を被覆管の内周側に圧入する際に、被覆管の内周面に形成された保護膜と磁石の外周面に形成された保護膜とが摺動することになり、被覆管の内周面と磁石の外周面との間でかじりが生じることをより一層抑制することができる。
【0016】
第6の態様の回転電機は、第1の態様~第5の態様のいずれか1つの態様のロータと、前記ロータの前記磁石と対向して配置されたコイル部と、を備えている。
【0017】
第6の態様の回転電機によれば、コイル部に回転磁界が生じることにより、ロータが回転する。その一方で、ロータが回転することにより、コイル部に電流が生じる。また、ロータの被覆管が磁石の外周面にしまりばめで固定されている。ここで、被覆管は、磁石の外周面に固定される前の状態でその内周面から内周部に圧縮の残留応力が付与されている状態となっている。これにより、ロータの回転に伴い被覆管へ生じる周方向への引張応力に対する強度を確保することができる。
【0018】
第7の態様のロータの製造方法は、回転軸と共に回転する磁石と、前記磁石を前記回転軸の回転径方向外側から覆う筒状に形成され、前記磁石の外周面に固定される被覆管と、を備えたロータの製造方法であって、前記被覆管が前記磁石の外周面に固定される前に、前記被覆管の内周面から内周部に圧縮残留応力を付与する圧縮残留応力付与工程と、前記磁石を前記被覆管の内周側に移動させながら、もしくは、前記被覆管を前記磁石の外周側に移動させながら、前記磁石を前記被覆管の内周側に圧入する圧入工程と、を有する。
【0019】
第7の態様のロータの製造方法によれば、圧縮残留応力付与工程において、被覆管の内周面から内周部に圧縮残留応力を付与する。次に、圧入工程において、磁石を被覆管の内周側に相対的に移動させながら、磁石を被覆管の内周側に圧入する。これにより、被覆管が、磁石の外周面にしまりばめで固定される。ここで、被覆管は、磁石の外周面に固定される前の状態でその内周面から内周部に圧縮の残留応力が付与されている状態となっている。これにより、ロータの回転に伴い被覆管へ生じる周方向への引張応力に対する強度を確保することができる。
【0020】
第8の態様のロータの製造方法は、請求項7に記載されたロータの製造方法の前記圧縮残留応力付与工程において、ショットピーニング加工により前記被覆管の内周面から内周部に圧縮残留応力が付与されることを特徴とする。
【0021】
第8の態様のロータの製造方法によれば、ショットピーニング加工により被覆管の内周面から内周部に圧縮残留応力を容易に付与することができる。
【0022】
第9の態様のロータの製造方法は、第8の態様のロータの製造方法において、前記圧入工程の前に、前記被覆管の内周面及び前記磁石の外周面の少なくとも一方の面に保護膜を形成する保護膜形成工程をさらに有する。
【0023】
第9の態様のロータの製造方法によれば、圧入工程の前に、保護膜形成工程において、被覆管の内周面及び磁石の外周面の少なくとも一方の面に保護膜を形成する。これにより、圧入工程において、被覆管の内周面と磁石の外周面との間でかじりが生じることを抑制することができる。
【0024】
第10の態様のロータの製造方法は、第9の態様のロータの製造方法において、前記被覆管の内周面に形成された前記保護膜における前記被覆管とは反対側の面を加工することにより、前記被覆管の前記保護膜を含む内径を所定の内径に形成し、前記磁石の外周面に形成された前記保護膜における前記磁石とは反対側の面を加工することにより、前記磁石の前記保護膜を含む外径を所定の外径に形成する保護膜加工工程と、を有する。
【0025】
第10の態様のロータの製造方法によれば、保護膜加工工程において、被覆管の内周面に形成された保護膜における被覆管とは反対側の面を加工することにより、被覆管の保護膜を含む内径を所定の内径に形成する。また、磁石の外周面に形成された保護膜における磁石とは反対側の面を加工することにより、磁石の保護膜を含む外径を所定の外径に形成する。これにより、圧入工程において、被覆管の内周面に形成された保護膜と磁石の外周面に形成された保護膜とを摺動させることができると共に、保護膜を含めた圧入代をより高精度に管理することができる。
【発明の効果】
【0026】
本開示に係るロータ、回転電機、及びロータの製造方法は、被覆管の強度を確保することができる、という優れた効果を有する。また、本開示に係るロータ、回転電機、及びロータの製造方法は、磁石を被覆管に挿入する際のかじりを抑制できることができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】回転電機付きターボチャージャーを備えたパワーユニットを示す模式図である。
【
図2】回転電機付きターボチャージャーの一部を構成する回転電機を示す模式図である。
【
図3】磁石が被覆管に圧入される工程を示す側断面図である。
【
図4】
図3に示された一点鎖線4で囲まれた部分を拡大して示す拡大断面図である。
【
図5】磁石が被覆管に圧入される工程を示す側断面図である。
【
図6】
図5に示された一点鎖線6で囲まれた部分を拡大して示す拡大断面図である。
【
図7】磁石が被覆管に圧入される工程を示す側断面図である。
【
図8】被覆管の内周面から内周部に生じている圧縮の残留応力と内周面からの深さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1~
図4を用いて、本開示の実施形態に係る回転電機について説明する。
【0029】
図1には、車両の一部を構成するパワーユニット10が示されている。この図に示されるように、パワーユニット10は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジン12と、エンジン12に供給される空気が流れる吸気部14と、エンジン12から排出される排気ガスが流れる排気部16と、を備えている。また、パワーユニット10は、排気部16を流れる排気ガスのエネルギーや後述する回転電機18の作動によって吸気部14内の圧力を高める回転電機18付のターボチャージャー20を備えている。なお、以下の説明においては、回転電機18付のターボチャージャー20を「電動アシストターボチャージャー20」と呼ぶ。
【0030】
図1及び
図2に示されるように、電動アシストターボチャージャー20は、回転電機18と、回転電機18の回転軸22の一方側の端部に固定されたポンプインペラ24と、回転軸22の他方側の端部に固定されたターボインペラ26と、を備えている。ポンプインペラ24は、吸気部14内に配置されている。また、ターボインペラ26は、排気部16内に配置されている。そして、エンジン12の回転数の上昇等に伴い排気部16内を流れる排気ガスの流速が高まると、ターボインペラ26が回転する。これにより、ターボインペラ26と回転軸22を介して接続されたポンプインペラ24を回転させることができ、吸気部14内の圧力を高めることができる。また、排気部16内を流れる排気ガスの流速がターボインペラ26を回転させるのに要する流速を下回っている場合であっても、回転電機18の作動により回転軸22を回転させることができる。これにより、ポンプインペラ24を回転させることができ、吸気部14内の圧力を高めることができる。さらに、吸気部14内の圧力が充分に高められている状況下や吸気部14内の圧力を高める必要がない状況下では、排気部16を流れる排気ガスによってターボインペラを回転させて、この排気ガスのエネルギーを回転電機によって回収することができる。
【0031】
図2に示されるように、回転電機18は、ステータ28と、ステータ28の径方向内側に配置されたロータ30と、を含んで構成されている。
【0032】
ステータ28は、導電性の巻線が巻回されることによって形成された複数のコイル部32を備えている。このコイル部32への通電が切替えられることで、ステータ28のまわりに回転磁界が発生して、ロータ30を回転させることが可能となっている。その一方で、ロータ30が回転することで、ステータ28のコイル部32に誘導電流が生じるようになっている。
【0033】
ロータ30は、中実又は中空の棒状に形成された回転軸22と、回転軸22の軸方向の中間部に固定された磁石34と、磁石34の径方向外側の面である外周面34Aに固定された被覆管36と、を備えている。また、ロータ30は、回転軸22に固定されていると共に磁石34の軸方向の両端面を覆う一対の被覆板38を備えている。
【0034】
図3に示されるように、磁石34は、一例としてフェライト磁石であり、厚肉の円筒状に形成されている。なお、磁石34は中実の円柱状に形成されていてもよい。この磁石34の中心部には、回転軸22(
図2参照)が挿入される回転軸挿入孔34Bが形成されている。また、この磁石34には、その外周面34AにおいてN極とS極とが周方向に沿って交互に配列されるように着磁がなされている。また、磁石34の外径D1は、軸方向に沿って一定の寸法に設定されている。
【0035】
被覆管36は、一例として引張強度が820MPa以上、望ましくは1000MPa以上のステンレス鋼やチタン合金を用いて形成されており、磁石34の厚みT1よりも薄い厚みT2に設定された円筒状に形成されている。この被覆管36の軸長L2は、磁石34の軸長L1とほぼ同じ寸法に設定されている。
【0036】
ここで、
図4に示されるように、被覆管36の径方向内側の面である内周面36Aには、ショットピーニング加工等が施されることにより複数の凹部36Bが形成されている。これにより、被覆管36の内周面36Aの表層部分である内周部36Cには、圧縮の残留応力が付与されている状態となっている。なお、ショットピーニング加工等が施されることにより形成される複数の凹部36Bの大きさは、すなわち、ショットピーニング加工等が施されることにより形成される被覆管36の内周面36Aの凸凹の大きさは、なるべく小さなほうが良い。この点については、ショットピーニング加工等が施されることによって被覆管36の内周面36Aに付与される圧縮の残留応力とのバランスを考慮して適宜調節すればよい。
【0037】
また、被覆管36の内周面には、後述する圧入工程において被覆管36の内周面36Aと磁石34の外周面34Aとの直接の接触による摩耗を抑制する保護膜40が形成されている。ここで、保護膜40は、一例として鍍金や溶射膜等の金属膜、PPS(ポリフェニレンサルファイド)やLCP(Liquid Crystal Polymer)等の樹脂膜、エポキシ樹脂等の樹脂膜とすることができる。この保護膜40の厚みT3は、被覆管36の内周面に形成された複数の凹部36Bを埋める程度の厚みに設定されている。また、保護膜40における磁石34側の面である径方向内側の面40Aには、切削や研削等の機械加工が施されることによりショットピーニング加工がなされた被覆管36の内周面36Aよりも平滑になっている。一例として、保護膜40の径方向内側の面40Aの面粗度は、算術平均粗さで1.6μm以下となっている。なお、機械加工に代えてエッチング等の化学処理により保護膜40の径方向内側の面40Aを平滑にしてもよい。
【0038】
図3に示されるように、被覆管36の保護膜40を含む内径D2は、軸方向に沿って一定の寸法に設定されている。また、被覆管36の保護膜40を含む内径D2は、磁石34及び被覆管36が常温となっている状態で磁石34の外径D1よりも小さな内径となっている。これにより、被覆管36は、磁石34の外周面34Aにしまりばめで固定されるようになっている。
【0039】
次に、以上説明したロータ30の製造方法の一部の工程について説明する。
【0040】
図3及び
図4に示されるように、本実施形態のロータ30の製造方法では、先ず、被覆管36の内周面36Aに、ショットピーニング加工を施す。これにより、被覆管36の内周面36Aに複数の凹部36Bを形成することにより当該被覆管36の内周面36Aから内周部36Cに圧縮の残留応力を生じさせる。なお、この工程を「残留応力付与工程」と呼ぶ。
【0041】
次に、被覆管36の内周面36Aに保護膜40を形成する。なお、この工程を「保護膜形成工程」と呼ぶ。
【0042】
次に、被覆管36の内周面36Aに形成された保護膜40における被覆管36とは反対側の面40Aを加工することにより、すなわち、保護膜40の径方向内側の面40Aを加工することにより、保護膜40の径方向内側の面40Aを被覆管36の内周面36Aよりも平滑にする。なお、この工程を「保護膜加工工程」と呼ぶ。また、この保護膜加工工程において、被覆管36の保護膜40を含む内径D2を所定の内径にする。
【0043】
次に、
図3に示されるように、磁石34と被覆管36とを同軸上に配置して、磁石34を被覆管36の内周側に相対的に移動させながら、磁石34を被覆管36の内周側に圧入する。なお、この工程を「圧入工程」と呼ぶ。ここで、本実施形態の圧入工程では、被覆管36を固定して、磁石34を矢印A方法へ移動させることで、磁石34を被覆管36の内周側に圧入する。
【0044】
(本実施形態の作用並びに効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0045】
図2、
図3及び
図4に示されるように、本実施形態の回転電機18及びロータ30では、被覆管36が磁石34の外周面34Aにしまりばめで固定されている。ここで、被覆管36は、圧入工程を経る前の状態でその内周面36Aから内周部36Cに圧縮の残留応力が付与されている状態となっている。これにより、ロータ30の回転に伴い被覆管36へ生じる周方向への引張応力に対する強度を確保することができる。詳述すると、圧入工程を経る前の状態で被覆管36の内周面36Aから内周部36Cに圧縮の残留応力が生じていない構成と比べて、ロータ30の回転に伴い被覆管36へ生じる周方向への引張応力に対する強度を向上させることができる。これにより、被覆管36の薄肉化を図ることができ、被覆管36を貫く交番磁束によって発生する渦電流による回転電機18の損失を抑制することができる。また、渦電流による回転電機18の損失を抑制することができることにより、被覆管36の温度上昇も抑制され、その結果、磁石34の温度上昇による磁束の低下を抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態では、被覆管36の内周面36Aに保護膜40が形成されている。これにより、圧入工程において被覆管36の内周面36Aと磁石34の外周面34Aとの間でかじりが生じることを抑制することができる。
【0047】
さらに、本実施形態では、残留応力付与工程においてショットピーニング加工を被覆管36の内周面36Aに施すことにより、被覆管36の内周面36Aに複数の凹部36Bを形成して、被覆管36の内周面36Aから内周部36Cに圧縮の残留応力を生じさせることができる。これにより、ロータ30の回転に伴い被覆管36へ生じる周方向への引張応力に対する強度を確保することができる。なお、残留応力付与工程において、ショットピーニング加工とは異なる方法により、被覆管36の内周面36Aから内周部36Cに圧縮の残留応力を生じさせてもよい。一例として、バニシング加工を用いてもよい。例えば、ローラ圧縮加工を被覆管36の内周面36Aに施すことにより、被覆管36の内周面36Aから内周部36Cに圧縮の残留応力を生じさせてもよい。ローラ圧縮加工では、ローラを被覆管36の内周面36Aに押し付けながら被覆管36を回転させることで、被覆管36の内周面36Aから内周部36Cに圧縮の残留応力を生じさせる。
【0048】
また、本実施形態では、保護膜加工工程を経た後の状態で、被覆管36の内周面36Aに形成された保護膜40の径方向内側の面40Aが、被覆管36の内周面36Aよりも平滑になっている。これにより、圧入工程において被覆管36の内周面36Aの凹凸と磁石34の外周面34Aとが引っ掛かることを抑制することができ、被覆管36の内周面36Aと磁石34の外周面34Aとの間でかじりが生じることをより一層抑制することができる。また、保護膜加工工程を経ることにより、磁石34と被覆管36との圧入代が所望の圧入代となる。このように、圧入代をより高精度に管理することができることにより、磁石34に適切な圧縮応力を付与することができる。
【0049】
(他の形態のロータ)
次に、
図5及び
図6を用いて、第2の形態のロータ42の構成について説明し、
図7を用いて、第3の形態のロータ44の構成について説明する。なお、第2の形態のロータ42において前述のロータ30と対応する部材及び部分については、ロータ30と対応する部材及び部分と同じ符号を付して、その説明を省略することがある。また、第3の形態のロータ42において既に説明したロータ30、42と対応する部材及び部分については、ロータ30、42と対応する部材及び部分と同じ符号を付して、その説明を省略することがある。
【0050】
図5及び
図6に示されるように、第2の形態のロータ42では、保護膜40が磁石34の外周面34Aに形成されている。なお、被覆管36の内周面36Aには、保護膜40は形成されていない。第2の形態のロータ42では、保護膜形成工程において磁石34の外周面34Aに保護膜40を形成し、保護膜加工工程において磁石34の外周面34Aに形成された保護膜40の径方向外側の面40Bを加工して、磁石34の保護膜40を含む外径D1を所定の外径にする。そして、圧入工程において、被覆管36を固定して、磁石34を矢印A方法へ移動させることで、磁石34を被覆管36の内周側に圧入する。
【0051】
以上説明した第2の形態のロータ42では、被覆管36の内周面36Aに形成された保護膜40に変えて磁石34の外周面34Aに保護膜40を形成することにより、圧入工程において被覆管36の内周面36Aと磁石34の外周面34Aとの間でかじりが生じることを抑制することができる。
【0052】
図7に示されるように、第3の形態のロータ44では、保護膜40が被覆管36の内周面36Aに形成されていると共に、保護膜40が磁石34の外周面34Aに形成されている。第3の形態のロータ44では、保護膜形成工程において、被覆管36の内周面36Aに保護膜を形成すると共に、磁石34の外周面34Aに保護膜40を形成する。次に、保護膜加工工程において、被覆管36の内周面36Aに形成された保護膜40の径方向内側の面40Aを加工して、被覆管36の保護膜40を含む内径D2を所定の内径にすると共に、磁石34の外周面34Aに形成された保護膜40の径方向外側の面40Bを加工して、磁石34の保護膜40を含む外径D1を所定の外径にする。そして、圧入工程において、被覆管36を固定して、磁石34を矢印A方法へ移動させることで、磁石34を被覆管36の内周側に圧入する。
【0053】
以上説明した第3の形態のロータ44では、被覆管36の内周面36A及び磁石34の外周面34Aの両方に保護膜40が形成されている。これにより、圧入工程において、被覆管36の内周面36Aに形成された保護膜40と磁石34の外周面34Aに形成された保護膜40とが摺動することになり、被覆管36の内周面36Aと磁石34の外周面34Aとの間でかじりが生じることをより一層抑制することができる。
【0054】
なお、以上説明した例では、保護膜形成工程の後に保護膜加工工程を有する例について説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、保護膜形成工程で形成される保護膜40の厚みが数μm程と極めて薄い場合等においては、保護膜加工工程を省略した構成としてもよい。
【0055】
また、以上説明した例では、被覆管36の内周面36A及び磁石34の外周面34Aの少なくとも一方に保護膜40を形成した例について説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、圧入工程において被覆管36の内周面36Aと磁石34の外周面34Aとの間でかじりが生じにくい設定の場合においては、保護膜40を省略した構成としてもよい。
【0056】
また、以上説明した例では、磁石34を被覆管36の内周側に圧入することにより、被覆管36を磁石34の外周面34Aに固定した例について説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、焼きばめや冷やしばめにより、被覆管36を磁石34の外周面34Aに固定してもよい。
【0057】
また、以上説明した例では、ステータ28の内側にロータ30が配置されたインナロータ型の回転電機18に本開示の構成を適用した例について説明したが、本開示はこれに限定されない。本開示の構成は、ステータ28の外側にロータ30が配置されたアウタロータ型の回転電機に適用することもできる。
【0058】
(被覆管36の材質及び被覆管36の内周部36Cの圧縮残留応力値の詳細について)
次に、被覆管36の材質について説明し、その次に、被覆管36の内周部36Cの圧縮残留応力値について説明する。
【0059】
前述の説明では、被覆管36の材質としてステンレス鋼やチタン合金を用いることができることについて述べた。ここで、被覆管36の材質としてチタン合金を用いる場合、公称組成が「Ti-5Al-2Fe-3Mo」で表されたチタン合金を用いることができる。また、その他のチタン合金としては、公称組成が「Ti-6Al-4V」「Ti-13V-11Cr-3Al」「Ti-3Al-8V-6Cr-4Mo-4Zr」「Ti-5Al-2.5Sn」「Ti-5Al-2Sn-2Zr-4Cr-4Mo」「Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo」「Ti-10V-2Fe-3Al」「Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al」「Ti-3Al-2.5V」等で表されたチタン合金を用いることができる。
【0060】
チタン合金を用いて被覆管36を形成した場合、当該被覆管36の内周面36A生じさせる圧縮の残留応力の応力値は、高い値であるほど耐疲労性が優れ、特にき裂の発生を抑制できる。なお、被覆管36の内周面36A生じさせる圧縮の残留応力の応力値のことを「表面圧縮残留応力」と呼ぶ。また、被覆管36の内周面36A生じさせる表面圧縮残留応力を300MPa以上とすることで、き裂発生の抑制効果が現れる。また、被覆管36の内周面36A生じさせる表面圧縮残留応力を600MPa以上とすることで、き裂発生の抑制効果が顕著になる。このこと及び製造上の制約等を考慮すると、被覆管36の内周面36A生じさせる表面圧縮残留応力を300MPa以上とすると共に、好ましくは600MPa以上に設定すると共に、被覆管36の内周面36A生じさせる表面圧縮残留応力を被覆管36の素材の降伏応力以下に設定すればよい。
【0061】
チタン合金を用いて被覆管36を形成した場合、当該被覆管36の内周面36Aから内周部36C生じさせる圧縮の残留応力の最大応力値は、高い値であるほど耐疲労性が優れ、特にき裂の発生を抑制できる。なお、被覆管36の内周面36Aから内周部36C生じさせる圧縮の残留応力の応力値のことを「最大圧縮残留応力」と呼ぶ。また、被覆管36の内周面36Aから内周部36C生じさせる最大圧縮残留応力を400MPa以上とすることで、き裂発生の抑制効果が現れる。また、被覆管36の内周面36Aから内周部36C生じさせる最大圧縮残留応力を700MPa以上とすることで、き裂発生の抑制効果が顕著になる。このこと及び製造上の制約等を考慮すると、被覆管36の内周面36Aから内周部36C生じさせる最大圧縮残留応力を400MPa以上とすると共に、好ましくは700MPa以上に設定すると共に、被覆管36の内周面36Aから内周部36C生じさせる最大圧縮残留応力を被覆管36の素材の降伏応力以下に設定すればよい。
【0062】
また、被覆管36において圧縮の残留応力を生じさせる深さ(内周面36Aからの深さ)は、深くなるほど耐疲労性が優れ、特にき裂の進展を抑制できる。被覆管36において圧縮の残留応力を生じさせる深さは、0.05mm以上とすることでき裂発生の抑制効果が現れ、0.08mm以上とすることでき裂発生の抑制効果が顕著になる。このこと及び製造上の制約等を考慮すると、被覆管36において圧縮の残留応力を生じさせる深さは、被覆管36の径方向への厚みをt(mm)として、0.05~t/4(mm)に設定する、好ましくは0.08~t/4(mm)に設定すればよい。
【0063】
図8には、公称組成が「Ti-5Al-2Fe-3Mo」で表されたチタン合金を用いて形成された被覆管36の内周面36Aから内周部36Cに生じている圧縮の残留応力の応力値と内周面36Aからの深さとの関係を示すグラフが示されている。一例として、この連では、表面圧縮残留応力を720MPaに設定し、最大圧縮残留応力を800MPaに設定し、圧縮の残留応力を生じさせる深さ0.1mmに設定している。これにより、被覆管36のき裂抑制効果を高められている。
【0064】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。
【0065】
2020年11月19日に出願された日本国特許出願2020-192762号の開示は、その全体が参照により本明細書に取込まれる。