(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】積層体製造用冶具、積層体の製造方法、梱包体、積層体、電解槽、及び電解槽の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/23 20210101AFI20240304BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240304BHJP
C25B 1/46 20060101ALI20240304BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240304BHJP
C25B 9/63 20210101ALI20240304BHJP
C25B 15/00 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C25B9/23
C25B1/04
C25B1/46
C25B9/00 A
C25B9/00 E
C25B9/63
C25B15/00 302A
(21)【出願番号】P 2023039278
(22)【出願日】2023-03-14
(62)【分割の表示】P 2022027245の分割
【原出願日】2019-09-20
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2018177415
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018177375
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018177213
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019120095
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】和田 義史
(72)【発明者】
【氏名】立原 博
(72)【発明者】
【氏名】松岡 衛
(72)【発明者】
【氏名】船川 明恭
(72)【発明者】
【氏名】角 佳典
(72)【発明者】
【氏名】森川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 挙
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-140653(JP,A)
【文献】特開2017-88952(JP,A)
【文献】特開2010-174346(JP,A)
【文献】特開平10-53887(JP,A)
【文献】特開2017-39067(JP,A)
【文献】特開平4-56790(JP,A)
【文献】特開2016-222961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-9/77
C25B 13/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配される隔膜と、前記陽極を支持する陽極フレーム及び前記陰極を支持する陰極フレームを含む電解セルフレームであって、前記陽極フレーム及び前記陰極フレームを一体化させることにより前記陽極と前記陰極と前記隔膜とを格納する電解セルフレームと、を備える既存電解槽に、電解用電極を配することにより、新たな電解槽を製造するための方法であって、
前記陽極フレーム及び前記陰極フレームの一体化を解除し、前記隔膜を露出させる工程(A1)と、
前記工程(A1)の後、前記隔膜の表面の少なくとも一方に、前記電解用電極を配する工程(B1)と、
前記工程(B1)の後、前記陽極フレーム及び前記陰極フレームを一体化させることにより、前記陽極と前記陰極と前記隔膜と前記電解用電極とを前記電解セルフレームに格納する工程(C1)と、
を有する、電解槽の製造方法。
【請求項2】
前記工程(C1)を経た後の前記電解用電極が、前記陰極と接しており、かつ、当該電解用電極が新たな陰極として機能する、請求項1に記載の電解槽の製造方法。
【請求項3】
前記工程(C1)を経た後の前記電解用電極が、前記陽極と接しており、かつ、当該電解用電極が新たな陽極として機能する、請求項1に記載の電解槽の製造方法。
【請求項4】
前記工程(B1)の前に、前記電解用電極及び/又は前記隔膜を水溶液で湿潤させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解槽の製造方法。
【請求項5】
前記工程(B1)において、前記隔膜に対する前記電解用電極の載置面が、水平面に対して、0°以上90°未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解槽の製造方法。
【請求項6】
前記工程(B1)において、前記電解用電極が前記隔膜上の通電面を覆うように、前記電解用電極を位置決めする、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解槽の製造方法。
【請求項7】
前記電解用電極に付着する水溶液の単位面積あたりの付着量が1g/m
2
~1000g/m
2
である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電解槽の製造方法。
【請求項8】
前記工程(B1)において、前記電解用電極を捲回してなる捲回体を用いる、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解槽の製造方法。
【請求項9】
前記工程(B1)において、前記隔膜上で前記捲回体の捲回状態を解除する、請求項8に記載の電解槽の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体製造用冶具、積層体の製造方法、梱包体、積層体、電解槽、及び電解槽の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩水等のアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解、水の電気分解(以下、「電解」という。)では、隔膜、より具体的にはイオン交換膜や微多孔膜を備えた電解槽を用いた方法が利用されている。
この電解槽は、多くの場合その内部に多数直列に接続された電解セルを備える。各電解セルの間に隔膜を介在させて電解が行われる。
電解セルでは、陰極を有する陰極室と、陽極を有する陽極室とが、隔壁(背面板)を介して、あるいはプレス圧力、ボルト締め等による押し付けを介して、背中合わせに配置されている。
従来、これら電解槽に使用される陽極、陰極は、それぞれ電解セルの陽極室、陰極室に溶接、折り込み等の方法により固定され、その後、保管、顧客先へ輸送される。
一方、隔膜はそれ自体単独で塩化ビニル(塩ビ)製のパイプ等に巻いた状態で保管、顧客先へ輸送される。顧客先では電解セルを電解槽のフレーム上に並べ、隔膜を電解セルの間に挟んで電解槽を組み立てる。このようにして電解セルの製造および顧客先での電解槽の組立が実施されている。
このような電解槽に適用しうる構造物として、特許文献1、2には、隔膜と電極が一体となった構造物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭58-048686号公報
【文献】特開昭55-148775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電解運転をスタートし、継続していくと、様々な要因で各部品は劣化、電解性能が低下し、ある時点で各部品を交換することになる。
隔膜は電解セルの間から抜き出し、新しい隔膜を挿入することにより比較的簡単に更新することができる。
一方、陽極や陰極は電解セルに固定されているため、電極更新時には電解槽から電解セルを取り出し、専用の更新工場まで搬出し、溶接等の固定を外して古い電極を剥ぎ取った後、新しい電極を設置し、溶接等の方法で固定し、電解工場に運搬し、電解槽に戻す、という非常に煩雑な作業が発生するという課題がある。
ここで、特許文献1、2に記載の隔膜と電極とを熱圧着にて一体とした構造物を上記の更新に利用することが考えられるが、当該構造物は、実験室レベルでは比較的容易に製造可能であっても、実際の商業サイズの電解セル(例えば、縦1.5m、横3m)に合わせて製造することは容易ではない。なお、当該構造物は、電解性能(電解電圧、電流効率、苛性ソーダ中食塩濃度等)や耐久性が著しく悪く、隔膜と界面の電極上で塩素ガスや水素ガスが発生するため、長期間電解に使用すると完全に剥離してしまい、実用上使用できるものではないという課題もある。
本発明は、上記の従来技術が有する各課題に鑑みてなされたものであり、以下の積層体製造用冶具、積層体の製造方法、梱包体、積層体、電解槽、及び電解槽の製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
(第1の目的)
本発明は、電解槽における電極及び隔膜の更新の際の作業効率を向上させることができる積層体を製造するための積層体製造用冶具、積層体の製造方法、及び梱包体を提供することを目的の1つとする。
【0006】
(第2の目的)
本発明は、上記第1の目的とは別の観点から、電圧の上昇及び電流効率の低下を抑制でき、優れた電解性能を発現でき、電解槽における電極更新の際の作業効率を向上させることができ、さらに、更新後も優れた電解性能を発現することができる積層体、電解槽、及び電解槽の製造方法を提供することを目的の1つとする。
【0007】
(第3の目的)
本発明は、上記第1の目的及び2の目的とは別の観点から、電解槽における電極更新の際の作業効率を向上させることができる、電解槽の製造方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、第1の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、容易に輸送やハンドリングができる部材であって、電解槽における劣化部品を更新する際の作業が大幅に簡素化できる部材を、イオン交換膜及び微多孔膜などの隔膜と、電解用電極とを、各々所定のロールから巻き出して積層することにより得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]
電解用電極及び隔膜の積層体を製造するための積層体製造用治具であって、
長尺状の電解用電極が捲回された電極用ロールと、
長尺状の隔膜が捲回された隔膜用ロールと、
を備える、積層体製造用治具。
[2]
前記電極用ロール、前記隔膜用ロール、前記電極用ロールから巻き出される電解用電極、及び前記隔膜用ロールから巻き出される隔膜の少なくとも1つに対して水分を供給する保水手段を更に備える、[1]に記載の積層体製造用冶具。
[3]
前記保水手段が、前記電極用ロール及び/又は前記隔膜用ロールを浸漬するための浸漬槽を含む、[2]に記載の積層体製造用冶具。
[4]
前記保水手段が、スプレーノズルを含む、[2]又は[3]に記載の積層体製造用冶具。
[5]
前記保水手段が、水分を含んだスポンジロールを含む、[2]~[4]のいずれかに記載の積層体製造用冶具。
[6]
前記電極用ロール及び前記隔膜用ロールの相対位置を固定する位置決め手段を更に備える、[1]~[5]のいずれかに記載の積層体製造用冶具。
[7]
前記位置決め手段が、バネによって前記電極用ロール及び前記隔膜用ロールを互いに押圧する、[6]に記載の積層体製造用冶具。
[8]
前記電極用ロール及び前記隔膜用ロールの一方が自重によって他方を押圧するように、前記位置決め手段が当該電極用ロール及び当該隔膜用ロールの位置を固定する、[6]に記載の積層体製造用冶具。
[9]
前記電極用ロール及び前記隔膜用ロールが、各々回転軸を有し、
前記位置決め手段が、前記回転軸の軸受部を有する、[6]に記載の積層体製造用冶具。
[10]
前記電極用ロール及び前記隔膜用ロールから各々巻き出される電解用電極及び隔膜の少なくとも一方を押圧するニップロールを更に備える、[1]~[9]のいずれかに記載の積層体製造用冶具。
[11]
前記電極用ロール及び前記隔膜用ロールから各々巻き出される電解用電極及び隔膜を案内するガイドロールを更に備える、[1]~[10]のいずれかに記載の積層体製造用冶具。
[12]
電解用電極及び隔膜の積層体を製造するための方法であって、
長尺状の電解用電極が捲回された電極用ロールから当該電解用電極を巻き出す工程と、
長尺状の隔膜が捲回された隔膜用ロールから当該隔膜を巻き出す工程と、
を含む、積層体の製造方法。
[13]
前記電解用電極が、前記隔膜用ロールに抱き角0°~270°で接触して搬送される、[12]に記載の積層体の製造方法。
[14]
前記隔膜が、前記電極用ロールに抱き角0°~270°で接触して搬送される、[12]に記載の積層体の製造方法。
[15]
前記電解用電極及び/又は隔膜を巻き出す工程において、当該電解用電極及び/又は隔膜が、ガイドロールによって案内され、
前記電解用電極が、前記ガイドロールに抱き角0°~270°で接触して搬送される、[12]に記載の積層体の製造方法。
[16]
前記電解用電極及び/又は隔膜を巻き出す工程において、当該電解用電極及び/又は隔膜が、ガイドロールによって案内され、
前記隔膜が、前記ガイドロールに抱き角0°~270°で接触して搬送される、[12]に記載の積層体の製造方法。
[17]
前記電極用ロールから巻き出される電解用電極に対して水分を供給する工程を更に含む、[12]~[16]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[18]
前記電極用ロール及び前記隔膜用ロールの相対位置を固定した状態で、捲回された前記電解用電極及び隔膜を各々巻き出す、[12]~[17]のいずれかに記載の積層体の製造方法。
[19]
長尺状の電解用電極が捲回された電極用ロール、及び/又は、長尺状の隔膜が捲回された隔膜用ロールと、
前記電極用ロール及び/又は隔膜用ロールを収納する筐体と、
を備える、梱包体。
【0009】
本発明者らは、第2の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、表面に凹凸構造を有し、
所定条件を満たす隔膜を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[20]
電解用電極と、
前記電解用電極の表面上に積層された隔膜と、
を含む積層体であって、
前記隔膜が、その表面に凹凸構造を有し、
前記隔膜の単位面積に対する、前記電解用電極と前記隔膜との隙間体積の割合aが、0.8μmより大きく200μm以下である、積層体。
[21]
前記凹凸構造における高さの最大値と最小値の差である高低差が、2.5μmより大きい、[20]に記載の積層体。
[22]
前記凹凸構造における、前記高低差の標準偏差が、0.3μmより大きい、[20]又は[21]に記載の積層体。
[23]
前記隔膜と前記電解用電極との界面に保持される界面水分量wが、30g/m2以上200g/m2以下である、[20]~[22]のいずれかに記載の積層体。
[24]
前記電解用電極が、前記隔膜への対向面において、1又は複数の起伏部を有し、
前記起伏部が、下記条件(i)~(iii)を満たす、[20]~[23]に記載の積層体。
0.04≦Sa/Sall≦0.55 …(i)
0.010mm2≦Save≦10.0mm2 …(ii)
1<(h+t)/t≦10 …(iii)
(前記(i)中、Saは、前記対向面を光学顕微鏡で観察して得られる観察像における前記起伏部の総面積を表し、Sallは、前記観察像における前記対向面の面積を表し、
前記(ii)中、Saveは、前記観察像における前記起伏部の平均面積を表し、
前記(iii)中、hは、前記起伏部の高さを表し、tは、前記電解用電極の厚みを表す。)
[25]
前記対向面内の一方向D1において、前記起伏部が、各々独立して配置されている、[24]に記載の積層体。
[26]
前記対向面内の一方向D2において、前記起伏部が、連続的に配置されている、[24]又は[25]に記載の積層体。
[27]
前記電解用電極の単位面積あたりの質量が500mg/cm2以下である、[24]~[26]のいずれかに記載の積層体。
[28]
[24]~[27]のいずれかに記載の積層体を備える、電解槽。
[29]
陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配される隔膜と、を備える既存電解槽に、積層体を配することにより、新たな電解槽を製造するための方法であって、
前記既存電解槽における前記隔膜を、前記積層体と交換する工程を有し、
前記積層体が、[20]~[27]のいずれかに記載の積層体である、電解槽の製造方法。
【0010】
本発明者らは、第3の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、既存電解槽における、既存電極を除去せずとも電極の性能を更新できる方法により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[30]
陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配される隔膜と、前記陽極を支持する陽極フレーム及び前記陰極を支持する陰極フレームを含む電解セルフレームであって、前記陽極フレーム及び前記陰極フレームを一体化させることにより前記陽極と前記陰極と前記隔膜とを格納する電解セルフレームと、を備える既存電解槽に、電解用電極を配することにより、新たな電解槽を製造するための方法であって、
前記陽極フレーム及び前記陰極フレームの一体化を解除し、前記隔膜を露出させる工程(A1)と、
前記工程(A1)の後、前記隔膜の表面の少なくとも一方に、前記電解用電極を配する工程(B1)と、
前記工程(B1)の後、前記陽極フレーム及び前記陰極フレームを一体化させることにより、前記陽極と前記陰極と前記隔膜と前記電解用電極とを前記電解セルフレームに格納する工程(C1)と、
を有する、電解槽の製造方法。
[31]
前記工程(B1)の前に、前記電解用電極及び/又は前記隔膜を水溶液で湿潤させる、[30]に記載の電解槽の製造方法。
[32]
前記工程(B1)において、前記隔膜に対する前記電解用電極の載置面が、水平面に対して、0°以上90°未満である、[30]又は[31]に記載の電解槽の製造方法。
[33]
前記工程(B1)において、前記電解用電極が前記隔膜上の通電面を覆うように、前記電解用電極を位置決めする、[30]~[32]のいずれかに記載の電解槽の製造方法。
[34]
前記電解用電極に付着する水溶液の単位面積あたりの付着量が1g/m2~1000g/m2である、[30]~[33]のいずれかに記載の電解槽の製造方法。
[35]
前記工程(B1)において、前記電解用電極を捲回してなる捲回体を用いる、[30]~[34]のいずれかに記載の電解槽の製造方法。
[36]
前記工程(B1)において、前記隔膜上で前記捲回体の捲回状態を解除する、[35]に記載の電解槽の製造方法。
[37]
陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配される隔膜と、前記陽極を支持する陽極フレーム及び前記陰極を支持する陰極フレームを含む電解セルフレームであって、前記陽極フレーム及び前記陰極フレームを一体化させることによって前記陽極と前記陰極と前記隔膜とを格納する電解セルフレームと、を備える既存電解槽に、電解用電極及び新たな隔膜を配することにより、新たな電解槽を製造するための方法であって、
前記陽極フレーム及び前記陰極フレームの一体化を解除し、前記隔膜を露出させる工程(A2)と、
前記工程(A2)の後、前記隔膜を除去し、前記陽極又は陰極上に前記電解用電極及び新たな隔膜を配する工程(B2)と、
前記陽極フレーム及び前記陰極フレームを一体化させることにより、前記陽極と前記陰極と前記隔膜と前記電解用電極及び新たな隔膜とを前記電解セルフレームに格納する工程(C2)と、
を有する、電解槽の製造方法。
[38]
前記工程(B2)において、前記陽極又は陰極上に前記電解用電極を載置し、前記電解用電極上に前記新しい隔膜を載置し、前記新しい隔膜を平坦化させる、[37]に記載の電解槽の製造方法。
[39]
前記工程(B2)において、平坦化手段の前記新しい隔膜に対する接触圧力が0.1gf/cm2~1000gf/cm2である、[38]に記載の電解槽の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
(1)本発明の積層体製造用冶具によれば、電解槽における電極及び隔膜の更新の際の作業効率を向上させることができる積層体を製造することができる。
【0012】
(2)本発明の積層体によれば、電圧の上昇及び電流効率の低下を抑制でき、電解槽における電極更新の際の作業効率を向上させることができ、さらに、更新後も優れた電解性能を発現することができる。
【0013】
(3)本発明に係る電解槽の製造方法によれば、電解槽における電極更新の際の作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
(第1実施形態に対応する図)
【
図1】
図1(A)は、第1実施形態における電解用電極が捲回された電極用ロールの概略図を示す。
図1(B)は、第1実施形態における隔膜が捲回された隔膜用ロールの概略図を示す。
図1(C)は、第1実施形態に係る積層体製造用冶具の一例に係る概略図を示す。
【
図2】
図2は、第1実施形態における保水手段として、スプレーノズルを用いる例の概略図を示す。
【
図3】
図3(A)及び(B)は、第1実施形態における保水手段として、スポンジロールを用いる例の概略図を示す。
【
図4】
図4(A)は、後述する(i)の態様に係る積層体製造用冶具を上面視した際の概略説明図である。
図4(B)は、
図4(A)に示す積層体製造用冶具を、
図4(A)のX方向から正面視した際の概略説明図である。
【
図5】
図5は、後述する(ii)の態様に係る積層体製造用冶具を側面視した際の概略説明図である。
【
図6】
図6は、後述する(iii)の態様に係る積層体製造用冶具を側面視した際の概略説明図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態に係る積層体製造用冶具がガイドロールを備える例の概略図を示す。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係る積層体製造用冶具がガイドロールを備える例の概略図を示す。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係る積層体製造用冶具がニップロールを備える例の概略図を示す。
【
図10】
図10は、第1実施形態における電解用電極の一実施形態を示す模式的断面図を示す。
【
図11】
図11は、第1実施形態におけるイオン交換膜の一実施形態を示す断面模式図を示す。
【
図12】
図12は、第1実施形態におけるイオン交換膜を構成する強化芯材の開口率を説明するための概略図を示す。
【
図13】
図13は、第1実施形態におけるイオン交換膜の連通孔を形成する方法を説明するための模式図を示す。
【
図14】
図14は、第1実施形態における電解セルの模式的断面図を示す。
【
図15】
図15は、第1実施形態における2つの電解セルが直列に接続された状態を示す模式的断面図を示す。
【
図16】
図16は、第1実施形態における電解槽の模式図を示す。
【
図17】
図17は、第1実施形態における電解槽を組み立てる工程を示す模式的斜視図を示す。
【
図18】
図18は、第1実施形態における電解セルが備える逆電流吸収体の模式的断面図を示す。(第2実施形態に対応する図)
【
図19】
図19は、第2実施形態における電解用電極の一例を示す模式断面図を示す。
【
図20】
図20は、第2実施形態における電解用電極の別の一例を示す模式断面図を示す。
【
図21】
図21は、第2実施形態における電解用電極の更に別の一例を示す模式断面図を示す。
【
図24】
図24(A)は、第2実施形態における電解用電極の製造に使用できる金属製ロールの一例における表面を部分的に示す模式図を示し、
図24(B)は、
図24(A)の金属製ロールにより起伏部が形成された電解用電極の表面を部分的に例示する模式図である。
【
図25】
図25は、第2実施形態における電解用電極の製造に使用できる金属製ロールの別の例の表面を部分的に示す模式図を示す。
【
図26】
図26は、第2実施形態における電解用電極の製造に使用できる金属製ロールの別の例の表面を部分的に示す模式図を示す。
【
図27】
図27は、第2実施形態における電解用電極の製造に使用できる金属製ロールの別の例の表面を部分的に示す模式図を示す。(第3実施形態に対応する図)
【
図28】
図28は、第3実施形態における電解セルの模式的断面図である。
【
図29】
図29は、第3実施形態における電解槽の模式図である。
【
図30】
図30は、第3実施形態における電解槽を組み立てる工程を示す模式的斜視図である。
【
図31】
図31は、第3実施形態における電解セルが備えうる逆電流吸収体の模式的断面図である。
【
図32】
図32は、第3実施形態に係る電解槽の製造方法における各工程を例示する説明図である。
【
図33】
図33は、第3実施形態に係る電解槽の製造方法における各工程を例示する説明図である。(第1実施形態の実施例に対応する図)
【
図34】
図34は、隔膜用ロールである捲回体1の概略図を示す。
【
図35】
図35は、電極用ロールである捲回体2の概略図を示す。
【
図36】
図36は、実施例1における積層体の製造工程の概略図を示す。
【
図37】
図37は、実施例2における積層体の製造工程の概略図を示す。
【
図38】
図38は、実施例3における積層体の製造工程の概略図を示す。
【
図39】
図39は、実施例3における積層体の製造工程の概略図を示す。
【
図40】
図40は、実施例4における積層体の製造工程の概略図を示す。
【
図41】
図41は、実施例5における積層体の製造工程の概略図を示す。
【
図42】
図42は、実施例5における積層体の製造工程の概略図を示す。
【
図43】
図43は、実施例6における積層体の製造工程の概略図を示す。
【
図44】
図44は、実施例7における積層体の製造工程の概略図を示す。(第2実施形態の実施例に対応する図)
【
図45】
図45は、実施例で用いた割合aの測定方法の説明図である。
【
図46】
図46は、実施例で用いた割合aの測定方法の説明図である。
【
図47】
図47は、実施例で用いた割合aの測定方法の説明図である。
【
図48】
図48は、実施例で用いた割合aの測定方法の説明図である。
【
図49】
図49は、実施例で用いた割合aの測定方法の説明図である。
【
図50】
図50は、実施例で用いた割合aの測定方法の説明図である。
【
図51】
図51は、実施例で用いた割合aの測定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態ともいう。)について、<第1実施形態>、<第2実施形態>及び<第3実施形態>の順に、必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は以下の内容に限定されない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
なお、添付図面は本実施形態の一例を示したものであり、本実施形態はこれに限定して解釈されるものではない。また、図面中上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づく。図面の寸法及び比率は図示されたものに限られるものではない。
【0016】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について詳細に説明する。
【0017】
〔積層体製造用冶具〕
第1実施形態の積層体製造用冶具は、電解用電極及び隔膜の積層体を製造するための積層体製造用治具であって、長尺状の電解用電極が捲回された電極用ロールと、長尺状の隔膜が捲回された隔膜用ロールと、を備える。第1実施形態の積層体製造用冶具は、このように構成されているため、電解槽における電極及び隔膜の更新の際の作業効率を向上させることができる積層体を製造することができる。すなわち、実際の商業サイズの電解セル(例えば、縦1.5m、横3m)に合わせて比較的大きなサイズの部材が求められる場合であっても、上記の電極用ロール及び隔膜用ロールを所望とする位置に配置して固定し、各ロールから電解用電極及び隔膜を巻き出すという簡単な操作のみで所望とする積層体を容易に得ることができる。
【0018】
本明細書中、「長尺」とは、所定の径を有するロールに捲回するために十分な長さを有していることを意味し、幅及び長さは、積層体を組み込む電解槽の大きさに応じて適宜設定することができる。
具体的には、隔膜及び電解用電極の幅は200~2000mmが好ましく、長さは500~4000mmが好ましい。
より好ましくは、これらの幅は300~1800mm、長さは1200~3800mmである。
また、隔膜及び電解用電極の長さについては、例えば、長さ方向のサイズが約2500mmの五枚分に相当する約10mを、電極用ロール及び隔膜用ロールの各々(以下、「各ロール」ともいう。)から巻き出しながら、所定のサイズで切断してもよい。
電極用ロール及び隔膜用ロールのサイズ、形状、材質、表面の平滑性については、特に限定されるものではない。
具体的には、各ロールのサイズは、隔膜及び電解用電極のサイズに合わせて適宜調整できる。各ロールの断面形状は円形、楕円形、4角形以上の多角形などの、隔膜や電解用電極を巻き付けてもシワや巻き付け痕がつかない形状であればよい。各ロールの材質は、金属製、樹脂製いずれでもよく、輸送重量の観点から樹脂製が好ましい。各ロールの表面の平滑性は隔膜や電解用電極を巻き付けても傷がつかない程度の平滑性であればよい。また、シワの発生をより効果的に抑制する観点から、種々公知のエキスパンダーロールを各ロールに適用してもよい。
【0019】
図1(A)に長尺状の電解用電極101が捲回された電極用ロール100の概略断面図を示す。
図1(A)中、電解用電極101を破線で示す。
図1(B)に長尺状の隔膜201が捲回された隔膜用ロール200の概略断面図を示す。
図1(B)中、隔膜201を実線で示す。
電解用電極101及び隔膜201は、所定の径を有する樹脂製、例えばポリ塩化ビニル製のパイプ300に捲回されている。
なお、
図1において、「+」は回転軸を表し、以降の図においても同様である。
第1実施形態の積層体製造用冶具は、例えば、
図1(C)に示すように、電解用電極101が捲回された電極用ロール100と、隔膜201が捲回された隔膜用ロール200とを備えるものであり、電極用ロール100から電解用電極101が巻き出され、隔膜用ロール200から隔膜201が巻き出され、電解用電極101と隔膜201とが積層されることで、容易に積層体110を得ることができる。
【0020】
第1実施形態の積層体製造用冶具は、電極用ロール、隔膜用ロール、電極用ロールから巻き出される電解用電極、及び隔膜用ロールから巻き出される隔膜の少なくとも1つに対して水分を供給する保水手段を更に備えることが好ましい。かかる保水手段を備える場合、各ロールから巻き出される電解用電極及び隔膜が合流して互いに接触した状態において、電解用電極及び隔膜の界面に水分が存在することにより、当該水分から生ずる表面張力で電解用電極及び隔膜が一体化されやすくなる。
【0021】
水分としては、純水を使用してもよいし、水溶液を使用してもよい。水溶液としては、以下に限定されないが、例えば、アルカリ性の水溶液(例えば、重曹水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液など)が挙げられる。
【0022】
第1実施形態における保水手段は、上述のとおり水分を供給できるものである限り特に限定されず、種々の構成を採用することができるが、電極用ロール及び/又は隔膜用ロールを浸漬するための浸漬槽を含むことが好ましい。
浸漬槽を備える場合、各ロールを浸漬するという簡単な操作により電極用ロール、隔膜用ロール、電極用ロールから巻き出される電解用電極、及び隔膜用ロールから巻き出される隔膜の少なくとも1つに対して水分を供給することができる。
第1実施形態における浸漬槽は、電極用ロール及び/又は隔膜用ロールの少なくとも一部を浸漬できるものであれば、その形状や容量等は限定されない。
なお、浸漬槽を備える場合、各ロールを浸漬し、次いで各ロールを浸漬槽から取り出した後、電解用電極及び/又は隔膜を巻き出してもよく、また、各ロールを浸漬槽に浸漬した状態で電解用電極及び/又は隔膜を巻き出してもよい。
【0023】
第1実施形態における保水手段は、上記浸漬槽に代えて、あるいは、上記浸漬槽に加えて、スプレーノズルを含むことが好ましい。スプレーノズルから水分を噴霧する場合、水分の供給位置や、水量、水圧を調整しやすくなる。スプレーノズルの種類としては、特に限定されないが、扇形ノズル、円環形ノズル及び円形ノズルからなる群より選択される少なくとも1種を含むことができる。これらの具体例としては、以下に限定されないが、ミスミ社より入手可能な充円錐ノズル、充角錐ノズル、扇ノズル、フラットノズル、直進ノズル、噴射形状可変ノズル等が挙げられる。第1実施形態において、スプレーノズルの水圧を調整する観点から、保水手段がレギュレータを有することが好ましい。例えば、保水手段においてレギュレータと水圧計を組み合わせて用いる場合、より好ましく水圧を調整することができる。レギュレータの具体例としては、以下に限定されないが、CKD社製の水用レギュレータWR2が挙げられる。
また、電解用電極と隔膜との間に十分な水分を供給することによってより効率的に積層体を製造する観点から、スプレーノズルから水分を供給するに際して、水分自体の濡れ性や、電解用電極の形状、電解用電極のサイズ、電解用電極の表面組成等を考慮して、様々な噴霧条件を調整することが好ましい。より具体的には、例えば、上述の因子を考慮した上、隔膜又は電解用電極とスプレーノズルとの距離、スプレーノズルの水圧、スプレーノズルの水量、スプレーノズルの位置、水分噴霧の角度、噴霧時の平均液滴径等、種々の条件を調整することが好ましい。
【0024】
第1実施形態の積層体製造用冶具が保水手段を更に備える場合の一例を
図2に示す。
図2の例における積層体製造用冶具は、電解用電極101が捲回された電極用ロール100と、隔膜201が捲回された隔膜用ロール200と、保水手段450とを備えており、電極用ロール100から巻き出された電解用電極101は、例えば、開口部を有するものを採用でき、保水手段450は、開口部を有する電解用電極101に対して水分451を供給する。電解用電極101に供給された水分は、上記開口部を介して隔膜201側に到達し、これにより電解用電極101及び隔膜201の界面において水分に起因する表面張力が生じ、電解用電極101及び隔膜201は自ずと一体化されて積層体110が得られる。なお、
図2では、電解用電極101側に水分を供給する例を示したが、隔膜201側に水分を供給するように保水手段450を配置することもできる。
【0025】
第1実施形態において、保水手段がスプレーノズルを含む場合、電極用ロール及び隔膜用ロールを、各々の軸方向が地面に対して平行となるように設置するときは、スプレーノズルから各ロールに対して均一に水分を供給することができるようにスプレーノズルの配置や数を調整することが好ましい。
水分の供給効率の観点からは、電極用ロール及び隔膜用ロールを、各々の軸方向が地面に対して垂直となるように設置する、すなわち、電極用ロール及び隔膜用ロールを地面に対して直立させた状態で水分を供給することが好ましい。この場合、スプレーノズルから噴霧された水分は隔膜又は電解用電極に到達した後、重力により下方に広がることを利用し、隔膜又は電解用電極の表面における噴霧位置以外にも十分に水分を行き渡らせることができる。すなわち、隔膜又は電解用電極の表面下部(地面側)に直接水分を噴霧する必要はなく、これより高さ方向上部に対して水分を噴霧することでより効率良く隔膜又は電解用電極の表面全体に水分を行き渡らせることができる。
【0026】
第1実施形態における保水手段は、上記浸漬槽及びスプレーノズルに代えて、あるいは、上記浸漬槽及びスプレーノズルに加えて、水分を含んだスポンジロールを含むことが好ましい。スポンジロールを保水手段として採用した際の例を
図3に示す。
図3(A)に例示するように、スポンジロール452は、電極用ロール100のみに接触するものであってもよいし、
図3(B)に例示するように、スポンジロール452は、電極用ロール100及び隔膜用ロール200の双方に接触するものであってもよい。また、図示しないが、スポンジロール452は、隔膜用ロール200のみに接触するものであってもよい。
電解用電極側の水分で電解用電極と隔膜を一体化する場合、
図3(A)に例示する保水手段を採用することにより、例えば電解用電極が開口部を有しないような態様であっても、容易に電解用電極の隔膜側の表面に水分を供給できるため好ましい。
図3(B)に例示する態様も同様であり、隔膜の電解用電極側の表面にも併せて水分を供給できるため、より容易に積層体を得られる傾向にある。
【0027】
第1実施形態における保水手段は、電極用ロールから巻き出される電解用電極に流水を供給する流水供給手段を含むものであってもよい。すなわち、保水手段として前述したスプレーノズルを含むものやスポンジロールによるものに限定されず、流水の状態で水分を電解用電極に供給してもよい。
【0028】
第1実施形態における保水手段は、上述した他、例えば、各ロールから巻き出されて搬送されている状態の隔膜と電解用電極とを、別々に又は積層した状態で、水中にくぐらせるために設置された水槽等であってもよい。
【0029】
第1実施形態においては、位置決め手段によって前記電極用ロール及び前記隔膜用ロールの相対位置を固定することもできる。位置決め手段は、電極用ロールに対する隔膜用ロールの相対位置又は隔膜用ロールに対する電極用ロールの相対位置を固定できるものであれば、特にその構成は限定されず、種々の形態とすることができる。第1実施形態における位置決め手段の典型例としては、以下に限定されないが、(i)バネによって前記電極用ロール及び前記隔膜用ロールを互いに押圧する機構を有するもの、(ii)電極用ロール及び前記隔膜用ロールの一方が自重によって他方を押圧するように、当該電極用ロール及び当該隔膜用ロールの位置を固定するもの、(iii)電極用ロール及び前記隔膜用ロールが、各々回転軸を有する場合に、対応する軸受部に前記回転軸を嵌合して固定するもの等を挙げることができる。
【0030】
上記(i)~(iii)のいずれであっても、また、上記で明記しない位置決め手段を採用する場合であっても、電極用ロール及び隔膜用ロールの相対位置が固定されていることにより、より安定に積層体が得られる傾向にある。なお、第1実施形態の積層体製造用冶具が位置決め手段に加えて前述した保水手段を備える場合、電極用ロール及び隔膜用ロールの相対位置を固定しつつ、各ロールから巻き出される電解用電極及び隔膜が合流して互いに接触した状態において、電解用電極及び隔膜の界面に水分が存在することにより、当該水分から生ずる表面張力で電解用電極及び隔膜は自ずと一体化されて積層体が得られる。当該水分は、各ロールから巻き出される電解用電極及び隔膜が合流して互いに接触する前後どちらの段階で隔膜又は電解用電極に供給されたものであってもよい。ここで、電解用電極側の水分で電解用電極と隔膜を一体化する場合、電解用電極が開口部を有すると、当該開口部を介して水分が移動しやすく、電解用電極及び隔膜の界面で表面張力が働きやすいため好ましい。特に、各ロールから巻き出される電解用電極及び隔膜が合流して互いに接触した後に電解用電極に水分を供給する場合については、電解用電極が開口部を有する場合、電解用電極の表面(隔膜とは逆側の面)に供給された水分は、当該開口部を介して隔膜側の表面に到達し、これにより電解用電極及び隔膜の界面において水分由来の表面張力が働くことになるため、とりわけ好ましい。
【0031】
上記(i)の態様について、
図4に示す例を用いて説明する。
図4(A)は、積層体製造用冶具150を上面視した際の概略説明図である。積層体製造用冶具150は、地面に対して直立させた状態の電極用ロール100及び隔膜用ロール200と、当該電極用ロール100及び隔膜用ロール200の相対位置を固定する位置決め手段400と、保水手段450と、を備える。
図4(A)に示すように、位置決め手段400は、一対の押圧板401a及び401bと、これらの間に介在するばね機構402と、を有する。ばね機構402により、押圧板401aにはα方向への力が、押圧板401bにはβ方向への力が、それぞれ付与される。これにより、電極用ロール100及び隔膜用ロール200は、その接触部分において互いに押圧を受けることとなり、互いに密着した状態となる。なお、
図4(B)は、
図4(A)におけるX方向から積層体製造用冶具150を正面視したものであり、
図4(B)に示すように、一対の押圧板401a及び401bは、電解用電極101及び隔膜201と接触しないように構成されている。かかる構成とするべく、電極用ロール100において、ポリ塩化ビニル製のパイプ300の軸方向中央付近に電解用電極101が捲回されている、すなわち、ポリ塩化ビニル製のパイプ300の軸方向両端の表面が露出するように電解用電極101が捲回されていることが好ましい。
図4(B)に示すように、電極用ロール100にかかるα方向への力は、電極用ロール100における電解用電極101ではなくポリ塩化ビニル製のパイプ300(電解用電極101が捲回されていない部分)に対して働くものであり、これによって電解用電極101と押圧板401aとの間で摩擦が生ずることを防止できる。同様に、隔膜用ロール200において、ポリ塩化ビニル製のパイプ300の軸方向中央付近に隔膜201が捲回されている、すなわち、ポリ塩化ビニル製のパイプ300の軸方向両端の表面が露出するように隔膜201が捲回されていることが好ましい。
図4(B)に示すように、隔膜用ロール200にかかるβ方向への力は、隔膜用ロール200における隔膜201ではなくポリ塩化ビニル製のパイプ300(隔膜201が捲回されていない部分)に対して働くものであり、これによって隔膜201と押圧板401bとの間で摩擦が生ずることを防止できる。このような作用が得られるものであれば、一対の押圧板401a及び401bやばね機構402は特に限定されず、種々公知の固定手段を参照して第1実施形態に適用することができる。ばね機構402によって電極用ロール100及び隔膜用ロール200に作用する力も特に限定されず、例えば、後述する(ii)の態様において、電極用ロール及び前記隔膜用ロールの一方が自重によって他方を押圧する場合と同程度の力が作用するものを採用することができる。例えば、幅1500mmのポリ塩化ビニルパイプを使用する場合、以下に限定されないが、1.2kgf程度の力が作用するものを使用することができる。
電極用ロール100及び隔膜用ロール200は、各々、方向rに回転し、これによって電解用電極101及び隔膜201がそれぞれ巻き出される。本態様において、前述のとおり電極用ロール100及び隔膜用ロール200は互いに密着した状態となっており、この状態で電解用電極101及び隔膜201が巻き出されるため、シワの発生がより効果的に抑制される傾向にある。このような観点から、第1実施形態においては、位置決め手段が、バネによって前記電極用ロール及び前記隔膜用ロールを互いに押圧することが好ましい。
巻き出された電解用電極101は、例えば、開口部を有するものを採用でき、保水手段450は、開口部を有する電解用電極101に対して水分451を供給することができる。電解用電極101に供給された水分は、上記開口部を介して隔膜201側に到達し、これにより電解用電極101及び隔膜201の界面において水分に起因する表面張力が生じ、電解用電極101及び隔膜201は自ずと一体化されて積層体110が得られる。
上記は電極用ロール100及び隔膜用ロール200を地面に対して直立させる場合(すなわち、電極用ロール100及び隔膜用ロール200の各回転の軸方向が地面に対して垂直である場合)について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、電極用ロール100及び隔膜用ロール200の各々の軸方向が地面に対して平行となる場合でも、同様の構成を採用することができる。なお、
図4では、電解用電極101側に水分を供給する例を示したが、隔膜201側に水分を供給するように保水手段450を配置することもできる。
また、上述した積層体製造用冶具150の各構成部材に関する説明は、特に断りがない限り、以下の態様においても同様である。
【0032】
上記(ii)の態様について、
図5に示す例を用いて説明する。
図5は、積層体製造用冶具150を側面視した際の概略説明図である。積層体製造用冶具150は、電極用ロール100及び隔膜用ロール200と、当該電極用ロール100及び隔膜用ロール200の相対位置を固定する位置決め手段400と、保水手段450と、を備えており、本態様において、電極用ロール100及び隔膜用ロール200は、各々、回転の軸方向が地面と平行になるように配置されている。なお、本態様においては、電極用ロール100及び隔膜用ロール200の一方の自重を利用してこれらを密着させる観点から、電極用ロール100及び隔膜用ロール200は、地面に対して直立させた状態で配置せず、各々の軸方向が地面と平行になるように配置する。
図5に示す例において、電極用ロール100は、その自重(重力)により、隔膜用ロール200に対してγ方向に押圧することになる。また、位置決め手段400は、電極用ロール100及び隔膜用ロール200を包接する枠材として機能するものであり、位置決め手段400自体が各ロールに対して押圧するものではないが、位置決め手段400によって前述した電極用ロール100の自重による隔膜用ロール200への押圧を維持することができる。これにより、電極用ロール100及び隔膜用ロール200は、その接触部分において、押圧により互いに密着した状態となる。なお、
図5に示す例においても、電解用電極101及び隔膜201と、位置決め手段400との接触による摩擦を防止するべく、位置決め手段400の形状を調整することが好ましい。例えば、
図4(B)に示す押圧板401a及び401bのような形状を採用することにより、電極101及び隔膜201と、位置決め手段400との接触を防止することができる。
したがって、本態様においても、電極用ロール及び前記隔膜用ロール間の密着状態がより良好となり、得られる積層体におけるシワの発生をより抑制することができる。上記のとおり、電極用ロール及び前記隔膜用ロールの一方が自重によって他方を押圧するように、前記位置決め手段が当該電極用ロール及び当該隔膜用ロールの位置を固定することが好ましい。
なお、電極用ロール100及び隔膜用ロール200の位置関係は逆であってもよく、隔膜用ロール200の自重で電極用ロール100を押圧してもよい。この場合、電解用電極101に対して水分451を供給できるように保水手段450の位置を適宜調整すればよい。
また、位置決め手段400の形状は、電極用ロール及び前記隔膜用ロールの一方の自重による他方への押圧を維持できる限り、
図5の例に限定されず、種々公知の形状を採用することができる。
【0033】
上記(iii)の態様について、
図6に示す例を用いて説明する。
図6は、積層体製造用冶具150を側面視した際の概略説明図である。積層体製造用冶具150は、電極用ロール100及び隔膜用ロール200と、当該電極用ロール100及び隔膜用ロール200の相対位置を固定する位置決め手段400と、保水手段450と、を備えている。本態様において、電極用ロール100及び隔膜用ロール200は、各々、回転軸を有するものであり、各々の軸方向が地面と平行になるように配置されている。
図6に示す例において、位置決め手段400は、電極用ロール100に対応する軸受部403a及び隔膜用ロール200に対応する軸受部403bを有するものであり、軸受部403a及び403bで各回転軸を固定することにより、電極用ロール100及び隔膜用ロール200間の密着性を確保することができる。ここで、軸受部は、各ロールの両端において、当該ロールの軸方向に沿って形成された突出部を指す。したがって、本態様においても、電極用ロール及び前記隔膜用ロールの密着状態がより良好となり、得られる積層体におけるシワの発生をより抑制することができる。上記のとおり、電極用ロール及び前記隔膜用ロールが、各々回転軸を有し、前記位置決め手段が、前記回転軸の軸受部を有することが好ましい。
なお、軸受部については、
図6に示す例のように、各ロールの回転軸が嵌合できるような穴部を有する位置決め手段を採用することができるが、これに限定されず、例えば、一対の板を位置決め手段として採用し、当該一対の板の間に各回転軸を挟み込むものであってもよい。
また、電極用ロール100及び隔膜用ロール200の位置関係は逆であってもよく、この場合、電解用電極101に対して水分451を供給できるように保水手段450の位置を適宜調整すればよい。
さらに、上記は電極用ロール100及び隔膜用ロール200の各々の軸方向が地面と平行である場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、電極用ロール100及び隔膜用ロール200を地面に対して直立させる場合でも、同様の構成を採用することができる。
【0034】
また、
図7及び8に例示するように、第1実施形態の積層体製造用冶具は、電極用ロール及び前記隔膜用ロールから各々巻き出される電解用電極及び隔膜を案内するガイドロール302をさらに備えることもできる。なお、
図7及び8において各ロール100、200の位置を入れ替えて、ガイドロール302によって隔膜201を案内する形態としてもよい。
【0035】
図7においては、電解用電極101が、隔膜用ロール200に抱き角θで接触して搬送される形態を表している。
本明細書中、抱き角とは、隔膜、電解用電極、又は積層体が、各々の所定のロールに接触する始点と、離れ始める接触の終点との間の、前記ロールの断面の中心点を基準とした角度である。
図7において、電解用電極101が、隔膜用ロール200に抱き角θで接触して搬送される際の抱き角θは、隔膜と電解用電極をしわなく接触させる観点から0°~270°であることが好ましく、0~150°であることがより好ましく、0~90°であることがさらに好ましく、さらにより好ましくは10~90°である。
図8においては、電解用電極101が、隔膜用ロール200に、抱き角=0°で接触して搬送される形態を表している。
また、
図7及び
図8において、電極用ロール100と隔膜用ロール200との位置を入れ替えて、隔膜201が電極用ロール100に抱き角θで接触して搬送される際の抱き角は、隔膜と電解用電極をしわなく接触させる観点から0°~270°であることが好ましく、0~150°であることがより好ましく、0~90°であることがさらに好ましく、さらにより好ましくは10~90°である。
電解用電極101や隔膜201が、各ロールに接触する際の抱き角θは、
図7及び
図8中に示した矢印の引き出し方向により所定の範囲に制御することができる。
【0036】
また、
図7及び
図8の例において、電解用電極101が、ガイドロール302に抱き角θで接触して搬送される際の抱き角θは、隔膜と電解用電極をしわなく接触させる観点から0°~270°であることが好ましく、0~150°であることがより好ましく、0~90°であることがさらに好ましく、さらにより好ましくは10~90°である。
また、
図7及び
図8の例において、電極用ロール100と隔膜用ロール200との位置を入れ替えてもよく、かかる場合、隔膜201が、ガイドロール302に抱き角θで接触して搬送される際の抱き角は、隔膜と電解用電極をしわなく接触させる観点から0°~270°であることが好ましく、0~150°であることがより好ましく、0~90°であることがさらに好ましく、さらにより好ましくは10~90°である。
電解用電極101や隔膜201が、ガイドロール302に接触する際の抱き角θは、引き出し方向を調整することにより所定の範囲に制御することができる。
【0037】
第1実施形態において、電極用ロール100及び隔膜用ロール200からそれぞれ
電解用電極101及び隔膜201を巻き出し、積層体を製造する形態は、特に限定されず、例えば、
図9のように、ニップロール301と隔膜用ロール200との間で、電極用ロール100から巻き出された電解用電極と隔膜用ロール200から巻き出された隔膜201とを挟み込む形で押圧しつつ、これらを搬送して積層体110を得てもよい。なお、
図9における各ロール100、200の位置を入れ替えて、ニップロール301と電極用ロール100との間で、電極用ロール100から巻き出された電解用電極と隔膜用ロール200から巻き出された隔膜201とを挟み込む形で押圧しつつ、これらを搬送して積層体110を得てもよい。
【0038】
〔積層体の製造方法〕
第1実施形態の積層体の製造方法は、電解用電極及び隔膜の積層体を製造するための方法であって、長尺状の電解用電極が捲回された電極用ロールから当該電解用電極を巻き出す工程と、長尺状の隔膜が捲回された隔膜用ロールから当該隔膜を巻き出す工程と、を含む。第1実施形態の積層体の製造方法は、このように構成されているため、電解槽における電極及び隔膜の更新の際の作業効率を向上させることができる積層体を製造することができる。
第1実施形態の積層体の製造方法は、第1実施形態の積層体製造用冶具を用いることによって好ましく実施することができる。
【0039】
第1実施形態において、より安定に積層体を製造する観点から、電解用電極が、隔膜用ロールに抱き角0°~270°で接触して搬送されることが好ましい。同様の観点から、隔膜が、電極用ロールに抱き角0°~270°で接触して搬送されることも好ましい。
【0040】
第1実施形態において、より安定に積層体を製造する観点から、電解用電極及び/又は隔膜を巻き出す工程において、当該電解用電極及び/又は隔膜が、ガイドロールによって案内され、電解用電極が、ガイドロールに抱き角0°~270°で接触して搬送されることが好ましい。同様の観点から、電解用電極及び/又は隔膜を巻き出す工程において、当該電解用電極及び/又は隔膜が、ガイドロールによって案内され、隔膜が、ガイドロールに抱き角0°~270°で接触して搬送されることも好ましい。
【0041】
第1実施形態において、より容易に積層体を製造する観点から、電極用ロールから巻き出される電解用電極に対して水分を供給する工程を更に含むことが好ましい。
【0042】
第1実施形態において、より安定に積層体を製造する観点から、電極用ロール及び前記隔膜用ロールの相対位置を固定した状態で、捲回された前記電解用電極及び隔膜を各々巻き出すことが好ましい。
【0043】
〔梱包体〕
第1実施形態の梱包体は、長尺状の電解用電極が捲回された電極用ロール、及び/又は、長尺状の隔膜が捲回された隔膜用ロールと、前記電極用ロール及び/又は隔膜用ロールを収納する筐体と、を備える。第1実施形態の梱包体は、第1実施形態の積層体の製造方法に好ましく使用することができる。かかる梱包体としては、例えば、
図1(A)に示す電解用電極101が捲回された電極用ロール100及び/又は
図1(B)に示す隔膜201が捲回された隔膜用ロール200と、電極用ロール100及び/又は隔膜用ロール200を収納する筐体と、を備えるものが挙げられる。
上記のとおり、第1実施形態の梱包体は、例えば、電極用ロール100と隔膜用ロール200とを同一の筐体内に有するものとすることができる。
また、例えば、電極用ロール100を筐体内に有する梱包体と、隔膜用ロール200を筐体内に有する梱包体とを用意し、これらを第1実施形態の積層体の製造方法に使用してもよい。
なお、第1実施形態の梱包体は、電解用電極101及び/又は隔膜201を引き出して搬送させるための所定のスリットを筐体に有するものであってもよい。また、第1実施形態の梱包体は、隔膜201に水分を供給する保水手段を更に備えていてもよい。
【0044】
電極用ロール100と隔膜用ロール200とが、同一の筐体内に収納されている場合において、積層体110を製造する際には、電極用ロール100及び/又は隔膜用ロール200を、前記筐体外へ取り出して、電極用ロール100から電解用電極101を巻き出し、隔膜用ロール200から隔膜201を巻き出し、電解用電極101と隔膜201とを積層し、積層体110を製造することができる。
また、電極用ロール100と隔膜用ロール200とが、同一の筐体内に収納されている場合において、積層体110を製造する際には、電極用ロール100及び隔膜用ロール200を、前記筐体内に収納した状態で、電極用ロール100から電解用電極101を巻き出し、隔膜用ロール200から隔膜201を巻き出し、電解用電極101と隔膜201とを積層し、積層体を製造することもできる。
【0045】
電極用ロール100と隔膜用ロール200とが、各々異なる筐体内に収納されている場合において、積層体110を製造する際には、電極用ロール100及び/又は隔膜用ロール200を、各々の筐体外へ取り出して、電極用ロール100から電解用電極101を巻き出し、隔膜用ロール200から隔膜201を巻き出し、電解用電極101と隔膜201とを積層し、積層体110を製造することができる。
また、電極用ロール100と隔膜用ロール200とが、各々異なる筐体内に収納されている場合において、積層体110を製造する際には、電極用ロール100及び隔膜用ロール200を、各々の筐体内に収納した状態で、電極用ロール100から電解用電極101を巻き出し、隔膜用ロール200から隔膜201を巻き出し、電解用電極101と隔膜201とを積層し、積層体を製造することもできる。
【0046】
〔積層体〕
第1実施形態の積層体製造用治具及び/又は積層体の製造方法によって得られる積層体(以下、「第1実施形態における積層体」と記載する場合がある。)は、電解用電極と、前記電解用電極に接する、隔膜を備える。
第1実施形態における積層体を電解槽に組み込む際には、前記隔膜又は給電体に対する、前記電解用電極の単位質量・単位面積あたりのかかる力は、1.5N/mg・cm2未満であることが好ましい。このように構成されているため、積層体は、電解槽における電極更新の際の作業効率を向上させることができ、さらに、更新後も優れた電解性能を発現することができる。
すなわち、第1実施形態における積層体により、電極を更新する際、電解セルに固定された既存電極を剥がすなど煩雑な作業を伴うことなく、隔膜の更新と同じような簡単な作業で電極を更新することができるため、作業効率が大幅に向上する。
更に、第1実施形態における積層体によれば、電解性能を新品時の性能を維持または向上させることができる。そのため、従来の新品の電解セルに固定され陽極、陰極として機能している電極は、給電体として機能するだけでよく、触媒コーティングを大幅に削減あるいはゼロにすることが可能になる。
第1実施形態における積層体は、たとえば、塩ビ製のパイプ等に巻いた状態(ロール状など)で保管、顧客先へ輸送などをすることが可能となり、ハンドリングが大幅に容易となる。
なお、給電体としては、劣化した電極(すなわち既存電極)や、触媒コーティングがされていない電極当、後述する種々の基材を適用できる。
また、第1実施形態における積層体は、上記した構成を有する限り、一部に固定部を有しているものであってもよい。すなわち、第1実施形態における積層体が固定部を有している場合は、当該固定を有しない部分を測定に供し、得られる電解用電極の単位質量・単位面積あたりのかかる力が、1.5N/mg・cm2未満であることが好ましい。
【0047】
〔電解用電極〕
第1実施形態における積層体を構成する電解用電極は、良好なハンドリング性が得られ、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜、給電体(劣化した電極及び触媒コーティングがされていない電極)などと良好な接着力を有する観点から、単位質量・単位面積あたりのかかる力が、1.6N/(mg・cm2)以下であることが好ましく、より好ましくは1.6N/(mg・cm2)未満であり、さらに好ましくは1.5N/(mg・cm2)未満であり、よりさらに好ましくは1.2N/mg・cm2以下であり、一層好ましくは1.20N/mg・cm2以下である。より一層好ましくは1.1N/mg・cm2以下であり、さらに一層好ましくは1.10N/mg・cm2以下であり、特に好ましくは1.0N/mg・cm2以下であり、1.00N/mg・cm2以下であることがとりわけ好ましい。
電解性能をより向上させる観点から、好ましくは0.005N/(mg・cm2)超であり、より好ましくは0.08N/(mg・cm2)以上であり、さらに好ましくは0.1N/mg・cm2以上であり、よりさらに好ましくは0.14N/(mg・cm2)以上である。大型サイズ(例えば、サイズ1.5m×2.5m)での取り扱いが容易になるとの観点から、0.2N/(mg・cm2)以上が更により好ましい。
上記かかる力は、例えば、後述する開孔率、電解用電極の厚み、算術平均表面粗さ等を適宜調整することで上記範囲とすることができる。より具体的には、例えば、開孔率を大きくすると、かかる力は小さくなる傾向にあり、開孔率を小さくすると、かかる力は大きくなる傾向にある。
また、良好なハンドリング性が得られ、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜、劣化した電極及び触媒コーティングがされていない給電体などと良好な接着力を有し、さらに、経済性の観点から、単位面積あたりの質量が、48mg/cm2以下であることが好ましく、より好ましくは、30mg/cm2以下であり、さらに好ましくは、20mg/cm2以下であり、さらに、ハンドリング性、接着性及び経済性を合わせた総合的な観点から、15mg/cm2以下であることが好ましい。下限値は、特に限定されないが、例えば、1mg/cm2程度である。
上記単位面積あたりの質量は、例えば、後述する開孔率、電極の厚み等を適宜調整することで上記範囲とすることができる。より具体的には、例えば、同じ厚みであれば、開孔率を大きくすると、単位面積あたりの質量は小さくなる傾向にあり、開孔率を小さくすると、単位面積あたりの質量は大きくなる傾向にある。
【0048】
かかる力は、以下の方法(i)または(ii)により測定できる。
かかる力は、方法(i)の測定により得られた値(「かかる力(1)」とも称す)と、方法(ii)の測定により得られた値(「かかる力(2)」とも称す)とが、同一であってもよく、異なっていてもよいが、いずれの値であっても1.5N/mg・cm2未満となる。
【0049】
〔方法(i)〕
粒番号320のアルミナでブラスト加工を施して得られるニッケル板(厚み1.2mm、200mm角)と、イオン交換基が導入されたパーフルオロカーボン重合体の膜の両面に無機物粒子と結合剤を塗布したイオン交換膜(170mm角)と電極サンプル(130mm角)とをこの順で積層させ、この積層体を純水にて十分に浸漬した後、積層体表面に付着した余分な水分を除去することで測定用サンプルを得る。
ここで、イオン交換膜としては、以下に示すイオン交換膜Aを用いる。
強化芯材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、90デニールのモノフィラメントを用い(以下、PTFE糸という。)、犠牲糸として、35デニール、6フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いる(以下、PET糸という。)。まず、TD及びMDの両方向のそれぞれにおいて、PTFE糸が24本/インチ、犠牲糸が隣接するPTFE糸間に2本配置するように平織りして、織布を得る。得られた織布を、ロールで圧着し、厚さ70μmの織布である補強材を得る。
次に、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOCH3との共重合体でイオン交換容量が0.85mg当量/gである乾燥樹脂の樹脂A、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fとの共重合体でイオン交換容量が1.03mg当量/gである乾燥樹脂の樹脂Bを準備する。これらの樹脂A及び樹脂Bを使用し、共押出しTダイ法にて樹脂A層の厚みが15μm、樹脂B層の厚みが84μmである、2層フィルムXを得る。また、樹脂Bのみを使用し、Tダイ法にて厚みが20μmである単層フィルムYを得る。
続いて、内部に加熱源及び真空源を有し、その表面に微細孔を有するホットプレート上に、離型紙(高さ50μmの円錐形状のエンボス加工)、フィルムY、補強材及びフィルムXの順に積層し、ホットプレート表面温度223℃、減圧度0.067MPaの条件で2分間加熱減圧した後、離型紙を取り除くことで複合膜を得る。なお、フィルムXは樹脂Bが下面となるように積層する。
得られた複合膜を、ジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む80℃の水溶液に20分浸漬することでケン化し、次いで水酸化ナトリウム(NaOH)0.5N含む50℃の水溶液に1時間浸漬して、イオン交換基の対イオンをNaに置換し、続いて水洗する。その後、研磨ロールと膜の相対速度が100m/分、研磨ロールのプレス量を2mmとして樹脂B側表面を研磨し、開孔部を形成した後に、60℃で乾燥する。
さらに、樹脂Bの酸型樹脂の5質量%エタノール溶液に、1次粒径1μmの酸化ジルコニウムを20質量%加え、分散させた懸濁液を調合し、懸濁液スプレー法で、上記の複合膜の両面に噴霧し、酸化ジルコニウムのコーティングを複合膜の表面に形成させ、隔膜としてのイオン交換膜Aを得る。ここで、蛍光X線測定で測定される酸化ジルコニウムの塗布密度としては0.5mg/cm2となる。
なお、ブラスト処理後のニッケル板の算術平均表面粗さ(Ra)は、0.5~0.8μmである。算術平均表面粗さ(Ra)の具体的な算出方法は、次のとおりである。
表面粗さ測定には、触針式の表面粗さ測定機SJ-310(株式会社ミツトヨ)を使用する。地面と平行な定盤上に測定サンプルを設置し、下記の測定条件で算術平均粗さRaを測定する。測定は6回実施し、その平均値をRaとする。
<触針の形状>円すいテーパ角度=60°、先端半径=2μm、静的測定力=0.75mN
<粗さ規格>JIS2001
<評価曲線>R
<フィルタ>GAUSS
<カットオフ値 λc>0.8mm
<カットオフ値 λs>2.5μm
<区間数>5
<前走、後走>有
【0050】
温度23±2℃、相対湿度30±5%の条件下で、上述した測定用サンプル中の電極サンプルのみを引張圧縮試験機を用いて、垂直方向に10mm/分で上昇させて、電極サンプルが、垂直方向に10mm上昇したときの加重を測定する。この測定を3回実施して平均値を算出する。
この平均値を、電極サンプルとイオン交換膜の重なり部分の面積、およびイオン交換膜と重なっている部分の電極サンプルにおける質量で除して、単位質量・単位面積あたりのかかる力(1)(N/mg・cm2)を算出する。
【0051】
方法(i)により得られる、単位質量・単位面積あたりのかかる力(1)は、良好なハンドリング性が得られ、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜、劣化した電極及び触媒コーティングがされていない給電体と良好な接着力を有するとの観点から、1.5N/mg・cm2未満であることが好ましく、1.2N/mg・cm2以下あることがより好ましく、さらに好ましくは1.20N/mg・cm2以下であり、さらにより好ましくは1.1N/mg・cm2以下であり、よりさらに好ましくは1.10N/mg・cm2以下であり、一層好ましくは1.0N/mg・cm2以下であり、より一層好ましくは1.00N/mg・cm2以下である。
また、電解性能をより向上させる観点から、好ましくは0.005N/(mg・cm2)超であり、より好ましくは0.08N/(mg・cm2)以上であり、さらに好ましくは、0.1N/(mg・cm2)以上であり、さらに、大型サイズ(例えば、サイズ1.5m×2.5m)での取り扱いが容易になるとの観点から、よりさらに好ましくは、0.14N/(mg・cm2)であり、0.2N/(mg・cm2)以上であることが一層好ましい。
電解用電極が、かかる力(1)を満たすと、例えば、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜あるいは給電体と一体化して(すなわち積層体として)用いることができるため、電極を更新する際、溶接等の方法で電解セルに固定されている陰極及び陽極の張り替え作業が不要となり、作業効率が大幅に向上する。また、電解用電極を、イオン交換膜や微多孔膜あるいは給電体と一体化した積層体として用いることで、電解性能を新品時の性能と同等または向上させることができる。
新品の電解セルを出荷する際には、従来は電解セルに固定された電極に触媒コーティングが施されていたが、触媒コーティングをしていない電極に第1実施形態における電解用電極を組み合わせるのみで、電極として用いることができるため、触媒コーティングをするための製造工程や触媒の量を大幅に削減あるいはゼロにすることができる。触媒コーティングが大幅に削減あるいはゼロになった従来の電極は、第1実施形態における電解用電極と電気的に接続し、電流を流すための給電体として機能させることができる。
【0052】
〔方法(ii)〕
粒番号320のアルミナでブラスト加工を施して得られるニッケル板(厚み1.2mm、200mm角、上記方法(i)と同様のニッケル板)と、電極サンプル(130mm角)とをこの順で積層させ、この積層体を純水にて十分に浸漬した後、積層体表面に付着した余分な水分を除去することで測定用サンプルを得る。
温度23±2℃、相対湿度30±5%の条件下で、この測定用サンプル中の電極サンプルのみを、引張圧縮試験機を用いて、垂直方向に10mm/分で上昇させて、電極サンプルが、垂直方向に10mm上昇したときの加重を測定する。この測定を3回実施して平均値を算出する。
この平均値を、電極サンプルとニッケル板の重なり部分の面積、およびニッケル板と重なっている部分における電極サンプルの質量で除して、単位質量・単位面積あたりの接着力(2)(N/mg・cm2)を算出する。
【0053】
方法(ii)により得られる、単位質量・単位面積あたりのかかる力(2)は、良好なハンドリング性が得られ、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜、劣化した電極及び触媒コーティングがされていない給電体と良好な接着力を有するとの観点から、1.5N/mg・cm2未満であることが好ましく、1.2N/mg・cm2以下あることがより好ましく、さらに好ましくは1.20N/mg・cm2以下であり、さらにより好ましくは1.1N/mg・cm2以下であり、よりさらに好ましくは1.10N/mg・cm2以下であり、一層好ましくは1.0N/mg・cm2以下であり、より一層好ましくは1.00N/mg・cm2以下である。
電解性能をより向上させる観点から、好ましくは0.005N/(mg・cm2)超であり、より好ましくは0.08N/(mg・cm2)以上であり、さらに好ましくは、0.1N/(mg・cm2)以上であり、よりさらに好ましくは、さらに、大型サイズ(例えば、サイズ1.5m×2.5m)での取り扱いが容易になるとの観点から、よりさらに好ましくは0.14N/(mg・cm2)以上である。
第1実施形態における電解用電極が、かかる力(2)を満たすと、たとえば、塩ビ製のパイプ等に巻いた状態(ロール状など)で保管、顧客先へ輸送などをすることが可能となり、ハンドリングが大幅に容易となる。また、劣化した既存電極に、第1実施形態における電解用電極を張り付けて積層体とすることで、電解性能を新品時の性能と同等または向上させることができる。
【0054】
第1実施形態における電解用電極は、弾性変形領域が広い電極であると、より良好なハンドリング性が得られ、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜、劣化した電極及び触媒コーティングがされていない給電体などとより良好な接着力を有する観点から、電解用電極の厚みは、315μm以下が好ましく、220μm以下がより好ましく、170μm以下がさらに好ましく、150μm以下がさらにより好ましく、145μm以下が特に好ましく、140μm以下が一層好ましく、138μm以下がより一層好ましく、135μm以下が更に一層好ましい。
315μm以下であれば、良好なハンドリング性が得られる。
さらに、上記と同様の観点から、130μm以下が好ましく、130μm未満がより好ましく、115μm以下がさらに好ましく、65μm以下がよりさらに好ましい。下限値は、特に限定されないが、1μm以上が好ましく、実用上から5μm以上がより好ましく、20μm以上であることがより好ましい。
なお、第1実施形態において、「弾性変形領域が広い」とは、電解用電極を捲回して捲回体とし、捲回状態を解除した後、捲回に由来する反りが生じ難いことを意味する。また、電解用電極の厚みとは、後述の触媒層を含む場合、電解用電極基材と触媒層を合わせた厚みを言う。
【0055】
第1実施形態における電解用電極は、電解用電極基材及び触媒層を含むことが好ましい。
当該電解用電極基材の厚み(ゲージ厚み)は、特に限定されないが、良好なハンドリング性が得られ、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜、劣化した電極(給電体)及び触媒コーティングがされていない電極(給電体)と良好な接着力を有し、好適にロール状に巻け、良好に折り曲げることができ、大型サイズ(例えば、サイズ1.5m×2.5m)での取り扱いが容易になるとの観点から、300μm以下が好ましく、205μm以下がより好ましく、155μm以下がさらに好ましく、135μm以下がさらにより好ましく、125μm以下が特に好ましく、120μm以下が一層好ましく、100μm以下がより一層好ましく、ハンドリング性と経済性の観点から、50μm以下が更に一層好ましい。
下限値は、特に限定さないが、例えば、1μmであり、好ましく5μmであり、より好ましくは15μmである。
【0056】
イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜と電解用電極、あるいは劣化した既存電極や触媒コーティングがされていない電極などの金属多孔板又は金属板(すなわち給電体)と電解用電極の間には、液体が介在することが好ましい。
当該液体は、水、有機溶媒など表面張力を発生させるものであればどのような液体でも使用することができる。液体の表面張力が大きいほど、隔膜と電解用電極、あるいは金属多孔板又は金属板と電解用電極の間にかかる力は大きくなるため、表面張力の大きな液体が好ましい。
液体としては、次のものが挙げられる(カッコ内の数値は、その液体の20℃における表面張力である)。
ヘキサン(20.44mN/m)、アセトン(23.30mN/m)、メタノール(24.00mN/m)、エタノール(24.05mN/m)、エチレングリコール(50.21mN/m)水(72.76mN/m)
表面張力の大きな液体であれば、隔膜と電解用電極、あるいは金属多孔板又は金属板(給電体)と電解用電極とが一体となり(積層体となり)、電極更新が容易となる。隔膜と電解用電極、あるいは金属多孔板又は金属板(給電体)と電解用電極の間の液体は表面張力によりお互いが張り付く程度の量でよく、その結果液体量が少ないため、当該積層体の電解セルに設置した後に電解液に混ざっても、電解自体に影響を与えることはない。
実用上の観点からは、液体としてエタノール、エチレングリコール、水等の表面張力が24mN/mから80mN/mの液体を使用することが好ましい。特に水、または水に苛性ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を溶解させてアルカリ性にした水溶液が好ましい。また、これらの液体に界面活性剤を含ませ、表面張力を調整することもできる。界面活性剤を含むことで、隔膜と電解用電極、あるいは金属多孔板又は金属板(給電体)と電解用電極の接着性が変化し、ハンドリング性を調整することができる。界面活性剤としては、特に制限はなく、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。
【0057】
第1実施形態における電解用電極は、特に限定されないが、良好なハンドリング性が得られ、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜、劣化した電極(給電体)及び触媒コーティングがされていない電極(給電体)と良好な接着力を有するとの観点から、以下の方法(2)により測定した割合が、90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましく、さらに、大型サイズ(例えば、サイズ1.5m×2.5m)での取り扱いが容易になるとの観点から、95%以上であることがさらに好ましい。上限値は、100%である。
〔方法(2)〕
イオン交換膜(170mm角)と、電極サンプル(130mm角)とをこの順で積層させる。温度23±2℃、相対湿度30±5%の条件下で、この積層体中の電極サンプルが外側になるように、ポリエチレンのパイプ(外径280mm)の曲面上に積層体を置き、積層体とパイプを純水にて十分に浸漬させ、積層体表面及びパイプに付着した余分な水分を除去し、その1分後に、イオン交換膜(170mm角)と、電極サンプルとが密着している部分の面積の割合(%)を測定する。
【0058】
第1実施形態における電解用電極は、特に限定されないが、良好なハンドリング性が得られ、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜、劣化した電極(給電体)及び触媒コーティングがされていない電極(給電体)と良好な接着力を有し、好適にロール状に巻け、良好に折り曲げることができるとの観点から、以下の方法(3)により測定した割合が、75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、さらに、大型サイズ(例えば、サイズ1.5m×2.5m)での取り扱いが容易になるとの観点から、90%以上であることがさらに好ましい。上限値は、100%である。
〔方法(3)〕
イオン交換膜(170mm角)と、電極サンプル(130mm角)とをこの順で積層させる。温度23±2℃、相対湿度30±5%の条件下で、この積層体中の電極サンプルが外側になるように、ポリエチレンのパイプ(外径145mm)の曲面上に積層体を置き、積層体とパイプを純水にて十分に浸漬させ、積層体表面及びパイプに付着した余分な水分を除去し、その1分後に、イオン交換膜(170mm角)と、電極サンプルとが密着している部分の面積の割合(%)を測定する。
【0059】
第1実施形態における電解用電極は、特に限定されないが、良好なハンドリング性が得られ、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜、劣化した電極(給電体)及び触媒コーティングがされていない電極(給電体)と良好な接着力を有し、電解中に発生するガスの滞留防止の観点から、多孔構造であり、その開孔率または空隙率が5~90%以下であることが好ましい。開孔率は、より好ましくは10~80%以下であり、さらに好ましくは、20~75%である。
なお、開孔率とは、単位体積あたりの開孔部の割合である。開孔部もサブミクロンオーダーまで勘案するのか、目に見える開口のみ勘案するのかによって、算出方法が様々である。
具体的には、電極のゲージ厚み、幅、長さの値から体積Vを算出し、更に重量Wを実測することにより、開孔率Aを下記の式で算出することができる。
A=(1-(W/(V×ρ))×100
ρは電極の材質の密度(g/cm3)である。例えばニッケルの場合は8.908g/cm3、チタンの場合は4.506g/cm3である。開孔率の調整は、パンチングメタルであれば単位面積あたりの金属を打ち抜く面積を変更する、エキスパンドメタルであればSW(短径)、LW(長径)、送りの値を変更する、メッシュであれば金属繊維の線径、メッシュ数を変更する、エレクトロフォーミングであれば使用するフォトレジストのパターンを変更する、不織布であれば金属繊維径および繊維密度を変更する、発泡金属であれば空隙を形成させるための鋳型を変更する等の方法により適宜調整する。
【0060】
第1実施形態における電解用電極は、ハンドリング性の観点から、以下の方法(A)により測定した値が、40mm以下であることが好ましく、より好ましくは29mm以下であり、さらに好ましくは10mm以下であり、さらにより好ましくは6.5mm以下である。
〔方法(A)〕
温度23±2℃、相対湿度30±5%の条件下、イオン交換膜と前記電解用電極とを積層した積層体のサンプルを、外径φ32mmの塩化ビニル製芯材の曲面上に巻きつけて固定し、6時間静置したのちに当該電解用電極を分離して水平な板に載置したとき、当該電解用電極の両端部における垂直方向の高さL1及びL2を測定し、これらの平均値を測定値とする。
【0061】
第1実施形態における電解用電極は、当該電解用電極を50mm×50mmのサイズとし、温度24℃、相対湿度32%、ピストン速度0.2cm/s及び通気量0.4cc/cm2/sとした場合(以下、「測定条件1」ともいう)の通気抵抗(以下、「通気抵抗1」ともいう。)が、24kPa・s/m以下であることが好ましい。通気抵抗が大きいことは、空気が流れづらいことを意味しており、密度が高い状態を指す。この状態では、電解による生成物が電極中にとどまり、反応基質が電極内部に拡散しにくくなるため、電解性能(電圧等)が悪くなる傾向にある。また、膜表面の濃度が上がる傾向にある。具体的には、陰極面では苛性濃度が上がり、陽極面では塩水の供給性が下がる傾向にある。その結果、隔膜と電極が接している界面に生成物が高濃度で滞留するため、隔膜の損傷につながり、陰極面上の電圧上昇及び膜損傷、陽極面上の膜損傷にもつながる傾向にある。
これらの不具合を防止するべく、通気抵抗を24kPa・s/m以下とすることが好ましい。
上記同様の観点から、0.19kPa・s/m未満であることがより好ましく、0.15kPa・s/m以下であることがさらに好ましく、0.07kPa・s/m以下であることがさらにより好ましい。
なお、通気抵抗が一定以上大きいと、陰極の場合には電極で発生したNaOHが電極と隔膜の界面に滞留し、高濃度になる傾向があり、陽極の場合には塩水供給性が低下し、塩水濃度が低濃度になる傾向があり、このような滞留に起因して生じ得る隔膜への損傷を未然に防止する上では、0.19kPa・s/m未満であることが好ましく、0.15kPa・s/m以下であることがより好ましく、0.07kPa・s/m以下であることが更に好ましい。
一方、通気抵抗が低い場合、電極の面積が小さくなるため、電解面積が小さくなり電解性能(電圧等)が悪くなる傾向にある。通気抵抗がゼロの場合は、電解用電極が設置されていないため、給電体が電極として機能し、電解性能(電圧等)が著しく悪くなる傾向にある。かかる点から、通気抵抗1として特定される好ましい下限値は、特に限定されないが、0kPa・s/m超であることが好ましく、より好ましくは0.0001kPa・s/m以上であり、更に好ましくは0.001kPa・s/m以上である。
なお、通気抵抗1は、その測定法上、0.07kPa・s/m以下では十分な測定精度が得られない場合がある。係る観点から、通気抵抗1が0.07kPa・s/m以下である電解用電極に対しては、次の測定方法(以下、「測定条件2」ともいう)による通気抵抗(以下、「通気抵抗2」ともいう。)による評価も可能である。すなわち、通気抵抗2は、電解用電極を50mm×50mmのサイズとし、温度24℃、相対湿度32%、ピストン速度2cm/s及び通気量4cc/cm2/sとした場合の通気抵抗である。
上記通気抵抗1及び2は、例えば、後述する開孔率、電極の厚み等を適宜調整することで上記範囲とすることができる。より具体的には、例えば、同じ厚みであれば、開孔率を大きくすると、通気抵抗1及び2は小さくなる傾向にあり、開孔率を小さくすると、通気抵抗1及び2は大きくなる傾向にある。
【0062】
第1実施形態における電解用電極は、上述したように、隔膜又は給電体に対する、前記電解用電極の単位質量・単位面積あたりのかかる力が、1.5N/mg・cm2未満であることが好ましい。
このように、第1実施形態における電解用電極は、隔膜又は給電体(例えば、電解槽における既存の陽極又は陰極など)と適度な接着力で接することにより、隔膜又は給電体との積層体を構成することができる。すなわち、隔膜又は給電体と電解用電極とを熱圧着等の煩雑な方法により強固に接着する必要がなく、例えば、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜に含まれうる水分に由来する表面張力のような比較的弱い力のみでも接着して積層体となるため、どのようなスケールであっても容易に積層体を構成することができる。さらに、このような積層体は、優れた電解性能を発現するため、第1実施形態の製造方法により得られる積層体は電解用途に適しており、例えば、電解槽の部材や当該部材の更新に係る用途に特に好ましく用いることができる。
【0063】
以下、電解用電極の一形態について、説明する。
電解用電極は、電解用電極基材及び触媒層を含むことが好ましい。
触媒層は以下の通り、複数の層で構成されてもよいし、単層構造でもよい。
図10に示すように、電解用電極101は、電解用電極基材10と、電解用電極基材10の両表面を被覆する一対の第一層20とを備える。
第一層20は電解用電極基材10全体を被覆することが好ましい。これにより、電解用電極の触媒活性及び耐久性が向上し易くなる。なお、電解用電極基材10の一方の表面だけに第一層20が積層されていてもよい。
また、
図10に示すように、第一層20の表面は、第二層30で被覆されていてもよい。第二層30は、第一層20全体を被覆することが好ましい。また、第二層30は、第一層20の一方の表面だけ積層されていてもよい。
【0064】
(電解用電極基材)
電解用電極基材10としては、特に限定されるものではないが、例えばニッケル、ニッケル合金、ステンレススチール、またはチタンなどに代表されるバルブ金属を使用でき、ニッケル(Ni)及びチタン(Ti)から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
ステンレススチールを高濃度のアルカリ水溶液中で用いた場合、鉄及びクロムが溶出すること、及びステンレススチールの電気伝導性がニッケルの1/10程度であることを考慮すると、電解用電極基材としてはニッケル(Ni)を含む基材が好ましい。
また、電解用電極基材10は、飽和に近い高濃度の食塩水中で、塩素ガス発生雰囲気で用いた場合、材質は耐食性の高いチタンであることも好ましい。
電解用電極基材10の形状には特に限定はなく、目的によって適切な形状を選択することができる。形状としては、パンチングメタル、不織布、発泡金属、エキスパンドメタル、エレクトロフォーミングにより形成した金属多孔箔、金属線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等いずれのものも使用できる。この中でも、パンチングメタルあるいはエキスパンドメタルが好ましい。なお、エレクトロフォーミングとは、写真製版と電気メッキ法を組み合わせて、精密なパターンの金属薄膜を製作する技術である。基板上にフォトレジストにてパターン形成し、レジストに保護されていない部分に電気メッキを施し、金属薄膜を得る方法である。
電解用電極基材の形状については、電解槽における陽極と陰極との距離によって好適な仕様がある。特に限定されるものではないが、陽極と陰極とが有限な距離を有する場合には、エキスパンドメタル、パンチングメタル形状を用いることができ、イオン交換膜と電極とが接するいわゆるゼロギャップ電解槽の場合には、細い線を編んだウーブンメッシュ、金網、発泡金属、金属不織布、エキスパンドメタル、パンチングメタル、金属多孔箔などを用いることができる。
電解用電極基材10としては、金属多孔箔、金網、金属不織布、パンチングメタル、エキスパンドメタル又は発泡金属が挙げられる。
パンチングメタル、エキスパンドメタルに加工する前の板材としては、圧延成形した板材、電解箔などが好ましい。電解箔は、更に後処理として母材と同じ元素でメッキ処理を施して、片面あるいは両面に凹凸をつけることが好ましい。
また、電解用電極基材10の厚みは、前述の通り、300μm以下であることが好ましく、205μm以下であることがより好ましく、155μm以下であることがさらに好ましく、135μm以下であることがさらにより好ましく、125μm以下であることがよりさらに好ましく、120μm以下であることが一層好ましく、100μm以下であることがより一層好ましく、ハンドリング性と経済性の観点から、50μm以下であることがより更に一層好ましい。下限値は、特に限定さないが、例えば、1μmであり、好ましく5μmであり、より好ましくは15μmである。
【0065】
電解用電極基材においては、電解用電極基材を酸化雰囲気中で焼鈍することによって加工時の残留応力を緩和することが好ましい。また、電解用電極基材の表面には、前記表面に被覆される触媒層との密着性を向上させるために、スチールグリッド、アルミナ粉などを用いて凹凸を形成し、その後酸処理により表面積を増加させることが好ましい。または、基材と同じ元素でメッキ処理を施し、表面積を増加させることが好ましい。
【0066】
電解用電極基材10には、第一層20と電解用電極基材10の表面とを密着させるために、表面積を増大させる処理を行うことが好ましい。表面積を増大させる処理としては、カットワイヤ、スチールグリッド、アルミナグリッド等を用いたブラスト処理、硫酸又は塩酸を用いた酸処理、基材と同元素でのメッキ処理等が挙げられる。基材表面の算術平均表面粗さ(Ra)は、特に限定されないが、0.05μm~50μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましく、0.1~8μmがさらに好ましい。
【0067】
次に、電解用電極を食塩電解用陽極として使用する場合について説明する。
(第一層)
図10において、触媒層である第一層20は、ルテニウム酸化物、イリジウム酸化物及びチタン酸化物のうち少なくとも1種類の酸化物を含む。ルテニウム酸化物としては、RuO
2等が挙げられる。イリジウム酸化物としては、IrO
2等が挙げられる。チタン酸化物としては、TiO
2等が挙げられる。第一層20は、ルテニウム酸化物及びチタン酸化物の2種類の酸化物を含むか、又はルテニウム酸化物、イリジウム酸化物及びチタン酸化物の3種類の酸化物を含むことが好ましい。それにより、第一層20がより安定な層になり、さらに、第二層30との密着性もより向上する。
【0068】
第一層20が、ルテニウム酸化物及びチタン酸化物の2種類の酸化物を含む場合には、第一層20に含まれるルテニウム酸化物1モルに対して、第一層20に含まれるチタン酸化物は1~9モルであることが好ましく、1~4モルであることがより好ましい。2種類の酸化物の組成比をこの範囲とすることによって、電解用電極101は優れた耐久性を示す。
【0069】
第一層20が、ルテニウム酸化物、イリジウム酸化物及びチタン酸化物の3種類の酸化物を含む場合、第一層20に含まれるルテニウム酸化物1モルに対して、第一層20に含まれるイリジウム酸化物は0.2~3モルであることが好ましく、0.3~2.5モルであることがより好ましい。また、第一層20に含まれるルテニウム酸化物1モルに対して、第一層20に含まれるチタン酸化物は0.3~8モルであることが好ましく、1~7モルであることがより好ましい。3種類の酸化物の組成比をこの範囲とすることによって、電解用電極101は優れた耐久性を示す。
【0070】
第一層20が、ルテニウム酸化物、イリジウム酸化物及びチタン酸化物の中から選ばれる少なくとも2種類の酸化物を含む場合、これらの酸化物は、固溶体を形成していることが好ましい。酸化物固溶体を形成することにより、電解用電極101はすぐれた耐久性を示す。
【0071】
上記の組成の他にも、ルテニウム酸化物、イリジウム酸化物及びチタン酸化物のうち少なくとも1種類の酸化物を含んでいる限り、種々の組成のものを用いることができる。例えば、DSA(登録商標)と呼ばれる、ルテニウム、イリジウム、タンタル、ニオブ、チタン、スズ、コバルト、マンガン、白金等を含む酸化物コーティングを第一層20として用いることも可能である。
【0072】
第一層20は、単層である必要はなく、複数の層を含んでいてもよい。例えば、第一層20が3種類の酸化物を含む層と2種類の酸化物を含む層とを含んでいてもよい。第一層20の厚みは0.05~10μmが好ましく、0.1~8μmがより好ましい。
【0073】
(第二層)
第二層30は、ルテニウムとチタンを含むことが好ましい。これにより電解直後の塩素過電圧を更に低くすることができる。
【0074】
第二層30が酸化パラジウム、酸化パラジウムと白金の固溶体あるいはパラジウムと白金の合金を含むことが好ましい。これにより電解直後の塩素過電圧を更に低くすることができる。
【0075】
第二層30は、厚い方が電解性能を維持できる期間が長くなるが、経済性の観点から0.05~3μmの厚みであることが好ましい。
【0076】
次に、電解用電極を食塩電解用陰極として使用する場合について説明する。
(第一層)
触媒層である第一層20の成分としては、C、Si、P、S、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の金属及び当該金属の酸化物又は水酸化物が挙げられる。
白金族金属、白金族金属酸化物、白金族金属水酸化物、白金族金属を含む合金の少なくとも1種類を含んでもよいし、含まなくてもよい。
白金族金属、白金族金属酸化物、白金族金属水酸化物、白金族金属を含む合金の少なくとも1種類を含む場合、白金族金属、白金族金属酸化物、白金族金属水酸化物、白金族金属を含む合金が白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウムのうち少なくとも1種類の白金族金属を含むことが好ましい。
白金族金属としては、白金を含むことが好ましい。
白金族金属酸化物としては、ルテニウム酸化物を含むことが好ましい。
白金族金属水酸化物としては、ルテニウム水酸化物を含むことが好ましい。
白金族金属合金としては、白金とニッケル、鉄、コバルトとの合金を含むことが好ましい。
更に必要に応じて第二成分として、ランタノイド系元素の酸化物あるいは水酸化物を含むことが好ましい。これにより、電解用電極101はすぐれた耐久性を示す。
ランタノイド系元素の酸化物あるいは水酸化物としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウムから選ばれる少なくとも1種類を含むことが好ましい。
さらに必要に応じて、第三成分として遷移金属の酸化物あるいは水酸化物を含むことが好ましい。
第三成分を添加することにより、電解用電極101はよりすぐれた耐久性を示し、電解電圧を低減させることができる。
好ましい組み合わせの例としては、ルテニウムのみ、ルテニウム+ニッケル、ルテニウム+セリウム、ルテニウム+ランタン、ルテニウム+ランタン+白金、ルテニウム+ランタン+パラジウム、ルテニウム+プラセオジム、ルテニウム+プラセオジム+白金、ルテニウム+プラセオジム+白金+パラジウム、ルテニウム+ネオジム、ルテニウム+ネオジム+白金、ルテニウム+ネオジム+マンガン、ルテニウム+ネオジム+鉄、ルテニウム+ネオジム+コバルト、ルテニウム+ネオジム+亜鉛、ルテニウム+ネオジム+ガリウム、ルテニウム+ネオジム+硫黄、ルテニウム+ネオジム+鉛、ルテニウム+ネオジム+ニッケル、ルテニウム+ネオジム+銅、ルテニウム+サマリウム、ルテニウム+サマリウム+マンガン、ルテニウム+サマリウム+鉄、ルテニウム+サマリウム+コバルト、ルテニウム+サマリウム+亜鉛、ルテニウム+サマリウム+ガリウム、ルテニウム+サマリウム+硫黄、ルテニウム+サマリウム+鉛、ルテニウム+サマリウム+ニッケル、白金+セリウム、白金+パラジウム+セリウム、白金+パラジウム+ランタン+セリウム、白金+イリジウム、白金+パラジウム、白金+イリジウム+パラジウム、白金+ニッケル+パラジウム、白金+ニッケル+ルテニウム、白金とニッケルの合金、白金とコバルトの合金、白金と鉄の合金、などが挙げられる。
白金族金属、白金族金属酸化物、白金族金属水酸化物、白金族金属を含む合金を含まない場合、触媒の主成分がニッケル元素であることが好ましい。
ニッケル金属、酸化物、水酸化物のうち少なくとも1種類を含むことが好ましい。
第二成分として、遷移金属を添加してもよい。添加する第二成分としては、チタン、スズ、モリブデン、コバルト、マンガン、鉄、硫黄、亜鉛、銅、炭素のうち少なくとも1種類の元素を含むことが好ましい。
好ましい組み合わせとして、ニッケル+スズ、ニッケル+チタン、ニッケル+モリブデン、ニッケル+コバルトなどが挙げられる。
必要に応じ、第一層20と電解用電極基材10の間に、中間層を設けることができる。中間層を設置することにより、電解用電極101の耐久性を向上させることができる。
中間層としては、第一層20と電解用電極基材10の両方に親和性があるものが好ましい。中間層としては、ニッケル酸化物、白金族金属、白金族金属酸化物、白金族金属水酸化物が好ましい。中間層としては、中間層を形成する成分を含む溶液を塗布、焼成することで形成することもできるし、基材を空気雰囲気中で300~600℃の温度で熱処理を実施して、表面酸化物層を形成させることもできる。その他、熱溶射法、イオンプレーティング法など既知の方法で形成させることができる。
【0077】
(第二層)
触媒層である第二層30の成分としては、C、Si、P、S、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の金属及び当該金属の酸化物又は水酸化物が挙げられる。
白金族金属、白金族金属酸化物、白金族金属水酸化物、白金族金属を含む合金の少なくとも1種類を含んでもよいし、含まなくてもよい。第二層に含まれる元素の好ましい組み合わせの例としては、第一層で挙げた組み合わせなどがある。第一層と第二層の組み合わせは、同じ組成で組成比が異なる組み合わせでもよいし、異なる組成の組み合わせでもよい。
【0078】
触媒層の厚みとしては、形成させた触媒層および中間層の合算した厚みが0.01μm~20μmが好ましい。0.01μm以上であれば、触媒として十分機能を発揮できる。20μm以下であれば、基材からの脱落が少なく強固な触媒層を形成することができる。0.05μm~15μmがより好ましい。より好ましくは、0.1μm~10μmである。更に好ましくは、0.2μm~8μmである。
【0079】
電極用電極の厚み、すなわち、電解用電極基材と触媒層の合計の厚みとしては、電解用電極のハンドリング性の点から、315μm以下が好ましく、220μm以下がより好ましく、170μm以下がさらに好ましく、150μm以下がさらにより好ましく、145μm以下がよりさらに好ましく、140μm以下が一層好ましく、138μm以下がより一層好ましく、135μm以下が更に一層好ましい。
315μm以下であれば、良好なハンドリング性が得られる。
さらに、上記と同様の観点から、130μm以下であることが好ましく、より好ましくは、130μm未満であり、更に好ましくは、115μm以下であり、より更に好ましくは、65μm以下である。
下限値は、特に限定されないが、1μm以上が好ましく、実用上から5μm以上がより好ましく、20μm以上であることがより好ましい。なお、電極の厚みは、デジマチックシックスネスゲージ(株式会社ミツトヨ、最少表示0.001mm)で測定することで求めることができる。電極用電極基材の厚みは、電極用電極の厚みと同様に測定することができる。触媒層の厚みは、電極用電極の厚みから電解用電極基材の厚みを引くことで求めることができる。
【0080】
(電解用電極の製造方法)
次に電解用電極101の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。
第1実施形態では、酸素雰囲気下での塗膜の焼成(熱分解)、あるいはイオンプレーティング、メッキ、熱溶射等の方法によって、電解用電極基材上に第一層20、好ましくは第二層30を形成することにより、電解用電極101を製造できる。
このような電解用電極の製造方法では、電解用電極101の高い生産性を実現できる。具体的には、触媒を含む塗布液を塗布する塗布工程、塗布液を乾燥する乾燥工程、熱分解を行う熱分解工程により、電解用電極基材上に触媒層が形成される。ここで熱分解とは、前駆体となる金属塩を加熱して、金属又は金属酸化物とガス状物質に分解することを意味する。用いる金属種、塩の種類、熱分解を行う雰囲気等により、分解生成物は異なるが、酸化性雰囲気では多くの金属は酸化物を形成しやすい傾向がある。電極の工業的な製造プロセスにおいて、熱分解は通常空気中で行われ、多くの場合、金属酸化物あるいは金属水酸化物が形成される。
【0081】
(陽極の第一層の形成)
(塗布工程)
第一層20は、ルテニウム、イリジウム及びチタンのうち少なくとも1種類の金属塩を溶解した溶液(第一塗布液)を電解用電極基材に塗布後、酸素の存在下で熱分解(焼成)して得られる。第一塗布液中のルテニウム、イリジウム及びチタンの含有率は、第一層20と概ね等しい。
【0082】
金属塩としては、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、金属アルコキシド、その他のいずれの形態でもよい。第一塗布液の溶媒は、金属塩の種類に応じて選択できるが、水及びブタノール等のアルコール類等を用いることができる。溶媒としては、水または水とアルコール類の混合溶媒が好ましい。金属塩を溶解させた第一塗布液中の総金属濃度は特に限定されないが、1回の塗布で形成される塗膜の厚みとの兼ね合いから10~150g/Lの範囲が好ましい。
【0083】
第一塗布液を電解用電極基材10上に塗布する方法としては、電解用電極基材10を第一塗布液に浸漬するディップ法、第一塗布液を刷毛で塗る方法、第一塗布液を含浸させたスポンジ状のロールを用いるロール法、電解用電極基材10と第一塗布液とを反対荷電に帯電させてスプレー噴霧を行う静電塗布法等が用いられる。この中でも工業的な生産性に優れた、ロール法又は静電塗布法が好ましい。
【0084】
(乾燥工程、熱分解工程)
電解用電極基材10に第一塗布液を塗布した後、10~90℃の温度で乾燥し、350~650℃に加熱した焼成炉で熱分解する。乾燥と熱分解の間に、必要に応じて100~350℃で仮焼成を実施してもよい。乾燥、仮焼成及び熱分解温度は、第一塗布液の組成や溶媒種により、適宜選択することが出来る。一回当たりの熱分解の時間は長い方が好ましいが、電極の生産性の観点から3~60分が好ましく、5~20分がより好ましい。
【0085】
上記の塗布、乾燥及び熱分解のサイクルを繰り返して、被覆(第一層20)を所定の厚みに形成する。第一層20を形成した後に、必要に応じて更に長時間焼成する後加熱を行うと、第一層20の安定性を更に高めることができる。
【0086】
(第二層の形成)
第二層30は、必要に応じて形成され、例えば、パラジウム化合物及び白金化合物を含む溶液あるいはルテニウム化合物およびチタン化合物を含む溶液(第二塗布液)を第一層20の上に塗布した後、酸素の存在下で熱分解して得られる。
【0087】
(熱分解法での陰極の第一層の形成)
(塗布工程)
第一層20は、種々の組み合わせの金属塩を溶解した溶液(第一塗布液)を電解用電極基材に塗布後、酸素の存在下で熱分解(焼成)して得られる。第一塗布液中の金属の含有率は、焼成後の第一層20と概ね等しい。
【0088】
金属塩としては、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、金属アルコキシド、その他のいずれの形態でもよい。第一塗布液の溶媒は、金属塩の種類に応じて選択できるが、水及びブタノール等のアルコール類等を用いることができる。溶媒としては、水または水とアルコール類の混合溶媒が好ましい。金属塩を溶解させた第一塗布液中の総金属濃度は特に限定されないが、1回の塗布で形成される塗膜の厚みとの兼ね合いから10~150g/Lの範囲が好ましい。
【0089】
第一塗布液を電解用電極基材10上に塗布する方法としては、電解用電極基材10を第一塗布液に浸漬するディップ法、第一塗布液を刷毛で塗る方法、第一塗布液を含浸させたスポンジ状のロールを用いるロール法、電解用電極基材10と第一塗布液とを反対荷電に帯電させてスプレー噴霧を行う静電塗布法等が用いられる。この中でも工業的な生産性に優れた、ロール法又は静電塗布法が好ましい。
【0090】
(乾燥工程、熱分解工程)
電解用電極基材10に第一塗布液を塗布した後、10~90℃の温度で乾燥し、350~650℃に加熱した焼成炉で熱分解する。乾燥と熱分解の間に、必要に応じて100~350℃で仮焼成を実施してもよい。乾燥、仮焼成及び熱分解温度は、第一塗布液の組成や溶媒種により、適宜選択することが出来る。一回当たりの熱分解の時間は長い方が好ましいが、電極の生産性の観点から3~60分が好ましく、5~20分がより好ましい。
【0091】
上記の塗布、乾燥及び熱分解のサイクルを繰り返して、被覆(第一層20)を所定の厚みに形成する。第一層20を形成した後に、必要に応じて更に長時間焼成する後加熱を行うと、第一層20の安定性を更に高めることができる。
【0092】
(中間層の形成)
中間層は、必要に応じて形成され、例えば、パラジウム化合物あるいは白金化合物を含む溶液(第二塗布液)を基材の上に塗布した後、酸素の存在下で熱分解して得られる。あるいは、溶液を塗布することなく基材を加熱するだけで基材表面に酸化ニッケル中間層を形成させてもよい。
【0093】
(イオンプレーティングでの陰極の第一層の形成)
第一層20はイオンプレーティングで形成させることもできる。
一例として、基材をチャンバー内に固定し、金属ルテニウムターゲットに電子線を照射する方法が挙げられる。蒸発した金属ルテニウム粒子は、チャンバー内のプラズマ中でプラスに帯電され、マイナスに帯電させた基板上に堆積する。プラズマ雰囲気はアルゴン、酸素であり、ルテニウムはルテニウム酸化物として基材上に堆積する。
【0094】
(メッキでの陰極の第一層の形成)
第一層20は、メッキ法でも形成させることもできる。
一例として、基材を陰極として使用し、ニッケルおよびスズを含む電解液中で電解メッキを実施すると、ニッケルとスズの合金メッキを形成させることができる。
【0095】
(熱溶射での陰極の第一層の形成)
第一層20は、熱溶射法でも形成させることができる。
一例として、酸化ニッケル粒子を基材上にプラズマ溶射することにより、金属ニッケルと酸化ニッケルが混合した触媒層を形成させることができる。
【0096】
(陰極の第二層の形成)
第二層30は、必要に応じて形成され、例えば、イリジウム化合物、パラジウム化合物及び白金化合物を含む溶液あるいはルテニウム化合物を含む溶液を第一層20の上に塗布した後、酸素の存在下で熱分解して得られる。
【0097】
電解用電極は、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜と一体化して用いることができる。
そのため、膜一体電極として用いることができ、電極を更新する際の陰極及び陽極の張り替え作業が不要となり、作業効率が大幅に向上する。
また、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜との一体電極によれば、電解性能を新品時の性能と同等または向上させることができる。
【0098】
第1実施形態に用いる隔膜としては、イオン交換膜が好適なものとして挙げられる。
以下、イオン交換膜について詳述する。
〔イオン交換膜〕
イオン交換膜は、イオン交換基を有する炭化水素系重合体あるいは含フッ素系重合体を含む膜本体と、該膜本体の少なくとも一方面上に設けられたコーティング層とを有する。また、コーティング層は、無機物粒子と結合剤とを含み、コーティング層の比表面積は、0.1~10m2/gである。かかる構造のイオン交換膜は、電解中に発生するガスによる電解性能への影響が少なく、安定した電解性能を発揮することができる。
上記、イオン交換基が導入されたパーフルオロカーボン重合体の膜とは、スルホ基由来のイオン交換基(-SO3-で表される基、以下「スルホン酸基」ともいう。)を有するスルホン酸層と、カルボキシル基由来のイオン交換基(-CO2-で表される基、以下「カルボン酸基」ともいう。)を有するカルボン酸層のいずれか一方を備えるものである。強度及び寸法安定性の観点から、強化芯材をさらに有することが好ましい。
無機物粒子及び結合剤については、以下コーティング層の説明の欄に詳述する。
【0099】
図11は、イオン交換膜の一実施形態を示す断面模式図である。
イオン交換膜1は、イオン交換基を有する炭化水素系重合体あるいは含フッ素系重合体を含む膜本体1aと、膜本体1aの両面に形成されたコーティング層11a及び11bを有する。
【0100】
イオン交換膜1において、膜本体1aは、スルホ基由来のイオン交換基(-SO3
-で表される基、以下「スルホン酸基」ともいう。)を有するスルホン酸層3と、カルボキシル基由来のイオン交換基(-CO2
-で表される基、以下「カルボン酸基」ともいう。)を有するカルボン酸層2とを備え、強化芯材4により強度及び寸法安定性が強化されている。イオン交換膜1は、スルホン酸層3とカルボン酸層2とを備えるため、陽イオン交換膜として好適に用いられる。
【0101】
なお、イオン交換膜は、スルホン酸層及びカルボン酸層のいずれか一方のみを有するものであってもよい。また、イオン交換膜は、必ずしも強化芯材により強化されている必要はなく、強化芯材の配置状態も
図11の例に限定されるものではない。
【0102】
(膜本体)
先ず、イオン交換膜1を構成する膜本体1aについて説明する。
膜本体1aは、陽イオンを選択的に透過する機能を有し、イオン交換基を有する炭化水素系重合体あるいは含フッ素系重合体を含むものであればよく、その構成や材料は特に限定されず、適宜好適なものを選択することができる。
【0103】
膜本体1aにおけるイオン交換基を有する炭化水素系重合体あるいは含フッ素系重合体は、例えば、加水分解等によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する炭化水素系重合体あるいは含フッ素系重合体から得ることができる。
具体的には、主鎖がフッ素化炭化水素からなり、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な基(イオン交換基前駆体)をペンダント側鎖として有し、かつ溶融加工が可能な重合体(以下、場合により「含フッ素系重合体(a)」という。)を用いて膜本体1aの前駆体を作製した後、イオン交換基前駆体をイオン交換基に変換することにより、膜本体1aを得ることができる。
【0104】
含フッ素系重合体(a)は、例えば、下記第1群より選ばれる少なくとも一種の単量体と、下記第2群及び/又は下記第3群より選ばれる少なくとも一種の単量体と、を共重合することにより製造することができる。また、下記第1群、下記第2群、及び下記第3群のいずれかより選ばれる1種の単量体の単独重合により製造することもできる。
【0105】
第1群の単量体としては、例えば、フッ化ビニル化合物が挙げられる。フッ化ビニル化合物としては、例えば、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられる。特に、イオン交換膜をアルカリ電解用膜として用いる場合、フッ化ビニル化合物は、パーフルオロ単量体であることが好ましく、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選ばれるパーフルオロ単量体が好ましい。
【0106】
第2群の単量体としては、例えば、カルボン酸型イオン交換基(カルボン酸基)に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。カルボン酸基に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、例えば、CF2=CF(OCF2CYF)s-O(CZF)t-COORで表される単量体等が挙げられる(ここで、sは0~2の整数を表し、tは1~12の整数を表し、Y及びZは、各々独立して、F又はCF3を表し、Rは低級アルキル基を表す。低級アルキル基は、例えば炭素数1~3のアルキル基である。)。
【0107】
これらの中でも、CF2=CF(OCF2CYF)n-O(CF2)m-COORで表される化合物が好ましい。ここで、nは0~2の整数を表し、mは1~4の整数を表し、YはF又はCF3を表し、RはCH3、C2H5、又はC3H7を表す。
【0108】
なお、イオン交換膜をアルカリ電解用陽イオン交換膜として用いる場合、単量体としてパーフルオロ化合物を少なくとも用いることが好ましいが、エステル基のアルキル基(上記R参照)は加水分解される時点で重合体から失われるため、アルキル基(R)は全ての水素原子がフッ素原子に置換されているパーフルオロアルキル基でなくてもよい。
【0109】
第2群の単量体としては、上記の中でも下記に表す単量体がより好ましい。
CF2=CFOCF2-CF(CF3)OCF2COOCH3、
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2)2COOCH3、
CF2=CF[OCF2-CF(CF3)]2O(CF2)2COOCH3、
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2)3COOCH3、
CF2=CFO(CF2)2COOCH3、
CF2=CFO(CF2)3COOCH3。
【0110】
第3群の単量体としては、例えば、スルホン型イオン交換基(スルホン酸基)に変換し得る官能基を有するビニル化合物が挙げられる。スルホン酸基に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、例えば、CF2=CFO-X-CF2-SO2Fで表される単量体が好ましい(ここで、Xはパーフルオロアルキレン基を表す。)。これらの具体例としては、下記に表す単量体等が挙げられる。
CF2=CFOCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF2SO2F、
CF2=CF(CF2)2SO2F、
CF2=CFO〔CF2CF(CF3)O〕2CF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF2OCF3)OCF2CF2SO2F。
【0111】
これらの中でも、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF2SO2F、及びCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fがより好ましい。
【0112】
これら単量体から得られる共重合体は、フッ化エチレンの単独重合及び共重合に対して開発された重合法、特にテトラフルオロエチレンに対して用いられる一般的な重合方法によって製造することができる。例えば、非水性法においては、パーフルオロ炭化水素、クロロフルオロカーボン等の不活性溶媒を用い、パーフルオロカーボンパーオキサイドやアゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、温度0~200℃、圧力0.1~20MPaの条件下で、重合反応を行うことができる。
【0113】
上記共重合において、上記単量体の組み合わせの種類及びその割合は、特に限定されず、得られる含フッ素系重合体に付与したい官能基の種類及び量によって選択決定される。例えば、カルボン酸基のみを含有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群及び第2群から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。また、スルホン酸基のみを含有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群及び第3群の単量体から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。さらに、カルボン酸基及びスルホン酸基を有する含フッ素系重合体とする場合、上記第1群、第2群及び第3群の単量体から各々少なくとも1種の単量体を選択して共重合させればよい。この場合、上記第1群及び第2群よりなる共重合体と、上記第1群及び第3群よりなる共重合体とを、別々に重合し、後に混合することによっても目的の含フッ素系重合体を得ることができる。また、各単量体の混合割合は、特に限定されないが、単位重合体当たりの官能基の量を増やす場合、上記第2群及び第3群より選ばれる単量体の割合を増加させればよい。
【0114】
含フッ素系共重合体の総イオン交換容量は特に限定されないが、0.5~2.0mg当量/gであることが好ましく、0.6~1.5mg当量/gであることがより好ましい。ここで、総イオン交換容量とは、乾燥樹脂の単位質量あたりの交換基の当量のことをいい、中和滴定等によって測定することができる。
【0115】
イオン交換膜1の膜本体1aにおいては、スルホン酸基を有する含フッ素系重合体を含むスルホン酸層3と、カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を含むカルボン酸層2とが積層されている。このような層構造の膜本体1aとすることで、ナトリウムイオン等の陽イオンの選択的透過性を一層向上させることができる。
【0116】
イオン交換膜1を電解槽に配置する場合、通常、スルホン酸層3が電解槽の陽極側に、カルボン酸層2が電解槽の陰極側に、それぞれ位置するように配置する。
【0117】
スルホン酸層3は、電気抵抗が低い材料から構成されていることが好ましく、膜強度の観点から、膜厚がカルボン酸層2より厚いことが好ましい。スルホン酸層3の膜厚は、好ましくはカルボン酸層2の2~25倍であり、より好ましくは3~15倍である。
【0118】
カルボン酸層2は、膜厚が薄くても高いアニオン排除性を有するものであることが好ましい。ここでいうアニオン排除性とは、イオン交換膜1へのアニオンの侵入や透過を妨げようとする性質をいう。アニオン排除性を高くするためには、スルホン酸層に対し、イオン交換容量の小さいカルボン酸層を配すること等が有効である。
【0119】
スルホン酸層3に用いる含フッ素系重合体としては、例えば、第3群の単量体としてCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fを用いて得られた重合体が好適である。
【0120】
カルボン酸層2に用いる含フッ素系重合体としては、例えば、第2群の単量体としてCF2=CFOCF2CF(CF2)O(CF2)2COOCH3を用いて得られた重合体が好適である。
【0121】
(コーティング層)
イオン交換膜は、膜本体の少なくとも一方面上にコーティング層を有する。また、
図11に示すとおり、イオン交換膜1においては、膜本体1aの両面上にそれぞれコーティング層11a及び11bが形成されている。
コーティング層は無機物粒子と結合剤とを含む。
【0122】
無機物粒子の平均粒径は、0.90μm以上であることがより好ましい。無機物粒子の平均粒径が0.90μm以上であると、ガス付着だけでなく不純物への耐久性が極めて向上する。すなわち、無機物粒子の平均粒径を大きくしつつ、かつ上述の比表面積の値を満たすようにすることで、特に顕著な効果が得られるようになる。このような平均粒径と比表面積を満たすため、不規則状の無機物粒子が好ましい。溶融により得られる無機物粒子、原石粉砕により得られる無機物粒子を用いることができる。好ましくは原石粉砕により得られる無機物粒子を好適に用いることができる。
【0123】
また、無機物粒子の平均粒径は、2μm以下とすることができる。無機物粒子の平均粒径が2μm以下であれば、無機物粒子によって膜が損傷することを防止できる。無機物粒子の平均粒径は、より好ましくは、0.90~1.2μmである。
【0124】
ここで、平均粒径は、粒度分布計(「SALD2200」島津製作所)によって測定することができる。
【0125】
無機物粒子の形状は、不規則形状であることが好ましい。不純物への耐性がより向上する。また、無機物粒子の粒度分布は、ブロードであることが好ましい。
【0126】
無機物粒子は、周期律表第IV族元素の酸化物、周期律表第IV族元素の窒化物、及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の無機物を含むことが好ましい。より好ましくは、耐久性の観点から、酸化ジルコニウムの粒子である。
【0127】
この無機物粒子は、無機物粒子の原石を粉砕されることにより製造された無機物粒子であるか、または、無機物粒子の原石を溶融して精製することによって、粒子の径が揃った球状の粒子を無機物粒子であることが好ましい。
【0128】
原石粉砕方法としては、特に限定されないが、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、エッジミル、製粉ミル、ハンマーミル、ペレットミル、VSIミル、ウィリーミル、ローラーミル、ジェットミルなどが挙げられる。また、粉砕後、洗浄されることが好ましく、そのとき洗浄方法としては、酸処理されることが好ましい。それによって、無機物粒子の表面に付着した鉄等の不純物を削減することができる。
【0129】
コーティング層は結合剤を含むことが好ましい。結合剤は、無機物粒子をイオン交換膜の表面に保持して、コーティング層を成す成分である。結合剤は、電解液や電解による生成物への耐性の観点から、含フッ素系重合体を含むことが好ましい。
【0130】
結合剤としては、電解液や電解による生成物への耐性、及び、イオン交換膜の表面への接着性の観点から、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する含フッ素系重合体であることがより好ましい。スルホン酸基を有する含フッ素重合体を含む層(スルホン酸層)上にコーティング層を設ける場合、当該コーティング層の結合剤としては、スルホン酸基を有する含フッ素系重合体を用いることがさらに好ましい。また、カルボン酸基を有する含フッ素重合体を含む層(カルボン酸層)上にコーティング層を設ける場合、当該コーティング層の結合剤としては、カルボン酸基を有する含フッ素系重合体を用いることがさらに好ましい。
【0131】
コーティング層中、無機物粒子の含有量は40~90質量%であることが好ましく、50~90質量%であることがより好ましい。また、結合剤の含有量は、10~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。
【0132】
イオン交換膜におけるコーティング層の分布密度は、1cm2当り0.05~2mgであることが好ましい。また、イオン交換膜が表面に凹凸形状を有する場合には、コーティング層の分布密度は、1cm2当り0.5~2mgであることが好ましい。
【0133】
コーティング層を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることがきる。例えば、無機物粒子を結合剤を含む溶液に分散したコーティング液を、スプレー等により塗布する方法が挙げられる。
【0134】
(強化芯材)
イオン交換膜は、膜本体の内部に配置された強化芯材を有することが好ましい。
【0135】
強化芯材は、イオン交換膜の強度や寸法安定性を強化する部材である。強化芯材を膜本体の内部に配置させることで、特に、イオン交換膜の伸縮を所望の範囲に制御することができる。かかるイオン交換膜は、電解時等において、必要以上に伸縮せず、長期に優れた寸法安定性を維持することができる。
【0136】
強化芯材の構成は、特に限定されず、例えば、強化糸と呼ばれる糸を紡糸して形成させてもよい。ここでいう強化糸とは、強化芯材を構成する部材であって、イオン交換膜に所望の寸法安定性及び機械的強度を付与できるものであり、かつ、イオン交換膜中で安定に存在できる糸のことをいう。かかる強化糸を紡糸した強化芯材を用いることにより、一層優れた寸法安定性及び機械的強度をイオン交換膜に付与することができる。
【0137】
強化芯材及びこれに用いる強化糸の材料は、特に限定されないが、酸やアルカリ等に耐性を有する材料であることが好ましく、長期にわたる耐熱性、耐薬品性が必要であることから、含フッ素系重合体から成る繊維が好ましい。
【0138】
強化芯材に用いられる含フッ素系重合体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、トリフルオロクロルエチレン-エチレン共重合体及びフッ化ビニリデン重合体(PVDF)等が挙げられる。これらのうち、特に耐熱性及び耐薬品性の観点からは、ポリテトラフルオロエチレンからなる繊維を用いることが好ましい。
【0139】
強化芯材に用いられる強化糸の糸径は、特に限定されないが、好ましくは20~300デニール、より好ましくは50~250デニールである。織り密度(単位長さあたりの打ち込み本数)は、好ましくは5~50本/インチである。強化芯材の形態としては、特に限定されず、例えば、織布、不織布、編布等が用いられるが、織布の形態であることが好ましい。また、織布の厚みは、好ましくは30~250μm、より好ましくは30~150μmのものが使用される。
【0140】
織布又は編布は、モノフィラメント、マルチフィラメント又はこれらのヤーン、スリットヤーン等が使用でき、織り方は平織り、絡み織り、編織り、コード織り、シャーサッカ等の種々の織り方が使用できる。
【0141】
膜本体における強化芯材の織り方及び配置は、特に限定されず、イオン交換膜の大きさや形状、イオン交換膜に所望する物性及び使用環境等を考慮して適宜好適な配置とすることができる。
【0142】
例えば、膜本体の所定の一方向に沿って強化芯材を配置してもよいが、寸法安定性の観点から、所定の第一の方向に沿って強化芯材を配置し、かつ第一の方向に対して略垂直である第二の方向に沿って別の強化芯材を配置することが好ましい。膜本体の縦方向膜本体の内部において、略直行するように複数の強化芯材を配置することで、多方向において一層優れた寸法安定性及び機械的強度を付与することができる。例えば、膜本体の表面において縦方向に沿って配置された強化芯材(縦糸)と横方向に沿って配置された強化芯材(横糸)を織り込む配置が好ましい。縦糸と横糸を交互に浮き沈みさせて打ち込んで織った平織りや、2本の経糸を捩りながら横糸と織り込んだ絡み織り、2本又は数本ずつ引き揃えて配置した縦糸に同数の横糸を打ち込んで織った斜子織り(ななこおり)等とすることが、寸法安定性、機械的強度及び製造容易性の観点からより好ましい。
【0143】
特に、イオン交換膜のMD方向(Machine Direction方向)及びTD方向(Transverse Direction方向)の両方向に沿って強化芯材が配置されていることが好ましい。すなわち、MD方向とTD方向に平織りされていることが好ましい。
ここで、MD方向とは、後述するイオン交換膜の製造工程において、膜本体や各種芯材(例えば、強化芯材、強化糸、後述する犠牲糸等)が搬送される方向(流れ方向)をいい、TD方向とは、MD方向と略垂直の方向をいう。そして、MD方向に沿って織られた糸をMD糸といい、TD方向に沿って織られた糸をTD糸という。通常、電解に用いるイオン交換膜は、矩形状であり、長手方向がMD方向となり、幅方向がTD方向となることが多い。MD糸である強化芯材とTD糸である強化芯材を織り込むことで、多方向において一層優れた寸法安定性及び機械的強度を付与することができる。
【0144】
強化芯材の配置間隔は、特に限定されず、イオン交換膜に所望する物性及び使用環境等を考慮して適宜好適な配置とすることができる。
【0145】
強化芯材の開口率は、特に限定されず、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上90%以下である。開口率は、イオン交換膜の電気化学的性質の観点からは30%以上が好ましく、イオン交換膜の機械的強度の観点からは90%以下が好ましい。
【0146】
強化芯材の開口率とは、膜本体のいずれか一方の表面の面積(A)におけるイオン等の物質(電解液及びそれに含有される陽イオン(例えば、ナトリウムイオン))が通過できる表面の総面積(B)の割合(B/A)をいう。イオン等の物質が通過できる表面の総面積(B)とは、イオン交換膜において、陽イオンや電解液等が、イオン交換膜に含まれる強化芯材等によって遮断されない領域の総面積ということができる。
【0147】
図12は、イオン交換膜を構成する強化芯材の開口率を説明するための概略図である。
図12はイオン交換膜の一部を拡大し、その領域内における強化芯材21a及び21bの配置のみを図示しているものであり、他の部材については図示を省略している。
【0148】
縦方向に沿って配置された強化芯材21aと横方向に配置された強化芯材21bによって囲まれた領域であって、強化芯材の面積も含めた領域の面積(A)から強化芯材の総面積(C)を減じることにより、上述した領域の面積(A)におけるイオン等の物質が通過できる領域の総面積(B)を求めることができる。すなわち、開口率は、下記式(I)により求めることができる。
開口率=(B)/(A)=((A)-(C))/(A) …(I)
【0149】
強化芯材の中でも、特に好ましい形態は、耐薬品性及び耐熱性の観点から、PTFEを含むテープヤーン又は高配向モノフィラメントである。具体的には、PTFEからなる高強度多孔質シートをテープ状にスリットしたテープヤーン、又はPTFEからなる高度に配向したモノフィラメントの50~300デニールを使用し、かつ、織り密度が10~50本/インチである平織りであり、その厚みが50~100μmの範囲である強化芯材であることがより好ましい。かかる強化芯材を含むイオン交換膜の開口率は60%以上であることがさらに好ましい。
【0150】
強化糸の形状としては、丸糸、テープ状糸等が挙げられる。
【0151】
(連通孔)
イオン交換膜は、膜本体の内部に連通孔を有することが好ましい。
【0152】
連通孔とは、電解の際に発生するイオンや電解液の流路となり得る孔をいう。また、連通孔とは、膜本体内部に形成されている管状の孔であり、後述する犠牲芯材(又は犠牲糸)が溶出することで形成される。連通孔の形状や径等は、犠牲芯材(犠牲糸)の形状や径を選択することによって制御することができる。
【0153】
イオン交換膜に連通孔を形成することで、電解の際に電解液の移動性を確保できる。連通孔の形状は特に限定されないが、後述する製法によれば、連通孔の形成に用いられる犠牲芯材の形状とすることができる。
【0154】
連通孔は、強化芯材の陽極側(スルホン酸層側)と陰極側(カルボン酸層側)を交互に通過するように形成されることが好ましい。かかる構造とすることで、強化芯材の陰極側に連通孔が形成されている部分では、連通孔に満たされている電解液を通して輸送されたイオン(例えば、ナトリウムイオン)が、強化芯材の陰極側にも流れることができる。その結果、陽イオンの流れが遮蔽されることがないため、イオン交換膜の電気抵抗を更に低くすることができる。
【0155】
連通孔は、イオン交換膜を構成する膜本体の所定の一方向のみに沿って形成されていてもよいが、より安定した電解性能を発揮するという観点から、膜本体の縦方向と横方向との両方向に形成されていることが好ましい。
【0156】
〔イオン交換膜の製造方法〕
イオン交換膜の好適な製造方法としては、以下の(1)工程~(6)工程を有する方法が挙げられる。
(1)工程:イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体を製造する工程。
(2)工程:必要に応じて、複数の強化芯材と、酸又はアルカリに溶解する性質を有し、連通孔を形成する犠牲糸と、を少なくとも織り込むことにより、隣接する強化芯材同士の間に犠牲糸が配置された補強材を得る工程。
(3)工程:イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する前記含フッ素系重合体をフィルム化する工程。
(4)工程:前記フィルムに必要に応じて前記補強材を埋め込んで、前記補強材が内部に配置された膜本体を得る工程。
(5)工程:(4)工程で得られた膜本体を加水分解する工程(加水分解工程)。
(6)工程:(5)工程で得られた膜本体に、コーティング層を設ける工程(コーティング工程)。
【0157】
以下、各工程について詳述する。
【0158】
(1)工程:含フッ素系重合体を製造する工程
(1)工程では、上記第1群~第3群に記載した原料の単量体を用いて含フッ素系重合体を製造する。含フッ素系重合体のイオン交換容量を制御するためには、各層を形成する含フッ素系重合体の製造において、原料の単量体の混合比を調整すればよい。
【0159】
(2)工程:補強材の製造工程
補強材とは、強化糸を織った織布等である。補強材が膜内に埋め込まれることで、強化芯材を形成する。連通孔を有するイオン交換膜とするときには、犠牲糸も一緒に補強材へ織り込む。この場合の犠牲糸の混織量は、好ましくは補強材全体の10~80質量%、より好ましくは30~70質量%である。犠牲糸を織り込むことにより、強化芯材の目ズレを防止することもできる。
【0160】
犠牲糸は、膜の製造工程もしくは電解環境下において溶解性を有するものであり、レーヨン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、セルロース及びポリアミド等が用いられる。また、20~50デニールの太さを有し、モノフィラメント又はマルチフィラメントからなるポリビニルアルコール等も好ましい。
【0161】
なお、(2)工程において、強化芯材や犠牲糸の配置を調整することにより、開口率や連通孔の配置等を制御することができる。
【0162】
(3)工程:フィルム化工程
(3)工程では、前記(1)工程で得られた含フッ素系重合体を、押出し機を用いてフィルム化する。フィルムは単層構造でもよいし、上述したように、スルホン酸層とカルボン酸層との2層構造でもよいし、3層以上の多層構造であってもよい。
【0163】
フィルム化する方法としては例えば、以下のものが挙げられる。
カルボン酸基を有する含フッ素重合体、スルホン酸基を有する含フッ素重合体をそれぞれ別々にフィルム化する方法。
カルボン酸基を有する含フッ素重合体と、スルホン酸基を有する含フッ素重合体とを共押出しにより、複合フィルムとする方法。
【0164】
なお、フィルムはそれぞれ複数枚であってもよい。また、異種のフィルムを共押出しすることは、界面の接着強度を高めることに寄与するため、好ましい。
【0165】
(4)工程:膜本体を得る工程
(4)工程では、(2)工程で得た補強材を、(3)工程で得たフィルムの内部に埋め込むことで、補強材が内在する膜本体を得る。
【0166】
膜本体の好ましい形成方法としては、(i)陰極側に位置するカルボン酸基前駆体(例えば、カルボン酸エステル官能基)を有する含フッ素系重合体(以下、これからなる層を第一層という)と、スルホン酸基前駆体(例えば、スルホニルフルオライド官能基)を有する含フッ素系重合体(以下、これからなる層を第二層という)を共押出し法によってフィルム化し、必要に応じて加熱源及び真空源を用いて、表面上に多数の細孔を有する平板またはドラム上に、透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、補強材、第二層/第一層複合フィルムの順に積層して、各重合体が溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する方法;(ii)第二層/第一層複合フィルムとは別に、スルホン酸基前駆体を有する含フッ素系重合体(第三層)を予め単独でフィルム化し、必要に応じて加熱源及び真空源を用いて、表面上に多数の細孔を有する平板又はドラム上に透気性を有する耐熱性の離型紙を介して、第三層フィルム、強化芯材、第二層/第一層からなる複合フィルムの順に積層して、各重合体が溶融する温度下で減圧により各層間の空気を除去しながら一体化する方法が挙げられる。
【0167】
ここで、第一層と第二層とを共押出しすることは、界面の接着強度を高めることに寄与している。
【0168】
また、減圧下で一体化する方法は、加圧プレス法に比べて、補強材上の第三層の厚みが大きくなる特徴を有している。更に、補強材が膜本体の内面に固定されているため、イオン交換膜の機械的強度が十分に保持できる性能を有している。
【0169】
なお、ここで説明した積層のバリエーションは一例であり、所望する膜本体の層構成や物性等を考慮して、適宜好適な積層パターン(例えば、各層の組合せ等)を選択した上で、共押出しすることができる。
【0170】
なお、イオン交換膜の電気的性能をさらに高める目的で、第一層と第二層との間に、カルボン酸基前駆体とスルホン酸基前駆体の両方を有する含フッ素系重合体からなる第四層をさらに介在させることや、第二層の代わりにカルボン酸基前駆体とスルホン酸基前駆体の両方を有する含フッ素系重合体からなる第四層を用いることも可能である。
【0171】
第四層の形成方法は、カルボン酸基前駆体を有する含フッ素系重合体と、スルホン酸基前駆体を有する含フッ素系重合体と、を別々に製造した後に混合する方法でもよく、カルボン酸基前駆体を有する単量体とスルホン酸基前駆体を有する単量体とを共重合したものを使用する方法でもよい。
【0172】
第四層をイオン交換膜の構成とする場合には、第一層と第四層との共押出しフィルムを成形し、第三層と第二層はこれとは別に単独でフィルム化し、前述の方法で積層してもよいし、第一層/第四層/第二層の3層を一度に共押し出しでフィルム化してもよい。
【0173】
この場合、押出しされたフィルムが流れていく方向が、MD方向である。このようにして、イオン交換基を有する含フッ素系重合体を含む膜本体を、補強材上に形成することができる。
【0174】
また、イオン交換膜は、スルホン酸層からなる表面側に、スルホン酸基を有する含フッ素重合体からなる突出した部分、すなわち凸部を有することが好ましい。このような凸部を形成する方法としては、特に限定されず、樹脂表面に凸部を形成する公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば、膜本体の表面にエンボス加工を施す方法が挙げられる。例えば、前記した複合フィルムと補強材等とを一体化する際に、予めエンボス加工された離型紙を用いることによって、上記の凸部を形成させることができる。エンボス加工により凸部を形成する場合、凸部の高さや配置密度の制御は、転写するエンボス形状(離型紙の形状)を制御することで行うことができる。
【0175】
(5)加水分解工程
(5)工程では、(4)工程で得られた膜本体を加水分解して、イオン交換基前駆体をイオン交換基に変換する工程(加水分解工程)を行う。
【0176】
また、(5)工程では、膜本体に含まれている犠牲糸を酸又はアルカリで溶解除去することで、膜本体に溶出孔を形成させることができる。なお、犠牲糸は、完全に溶解除去されずに、連通孔に残っていてもよい。また、連通孔に残っていた犠牲糸は、イオン交換膜が電解に供された際、電解液により溶解除去されてもよい。
【0177】
犠牲糸は、イオン交換膜の製造工程や電解環境下において、酸又はアルカリに対して溶解性を有するものであり、犠牲糸が溶出することで当該部位に連通孔が形成される。
【0178】
(5)工程は、酸又はアルカリを含む加水分解溶液に(4)工程で得られた膜本体を浸漬して行うことができる。該加水分解溶液としては、例えば、KOHとDMSO(Dimethyl sulfoxide)とを含む混合溶液を用いることができる。
【0179】
該混合溶液は、KOHを2.5~4.0N含み、DMSOを25~35質量%含むことが好ましい。
【0180】
加水分解の温度としては、70~100℃であることが好ましい。温度が高いほど、見かけ厚みをより厚くすることができる。より好ましくは、75~100℃である。
【0181】
加水分解の時間としては、10~120分であることが好ましい。時間が長いほど、見かけ厚みをより厚くすることができる。より好ましくは、20~120分である。
【0182】
ここで、犠牲糸を溶出させることで連通孔形成する工程についてより詳細に説明する。
図13(A)、(B)は、イオン交換膜の連通孔を形成する方法を説明するための模式図である。
【0183】
図13(A)、(B)では、強化糸52と犠牲糸504aと犠牲糸504aにより形成される連通孔504のみを図示しており、膜本体等の他の部材については、図示を省略している。
【0184】
まず、イオン交換膜中で強化芯材を構成することとなる強化糸52と、イオン交換膜中で連通孔504を形成するための犠牲糸504aとを、編み込み補強材とする。そして、(5)工程において犠牲糸504aが溶出することで連通孔504が形成される。
【0185】
上記方法によれば、イオン交換膜の膜本体内において強化芯材、連通孔を如何なる配置とするのかに応じて、強化糸52と犠牲糸504aの編み込み方を調整すればよいため簡便である。
【0186】
図13(A)では、紙面において縦方向と横方向の両方向に沿って強化糸52と犠牲糸504aを織り込んだ平織りの補強材を例示しているが、必要に応じて補強材における強化糸52と犠牲糸504aの配置を変更することができる。
【0187】
(6)コーティング工程
(6)工程では、原石粉砕または原石溶融により得られた無機物粒子と、結合剤とを含むコーティング液を調製し、コーティング液を(5)工程で得られたイオン交換膜の表面に塗布及び乾燥させることで、コーティング層を形成することができる。
【0188】
結合剤としては、イオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体を、ジメチルスルホキシド(DMSO)及び水酸化カリウム(KOH)を含む水溶液で加水分解した後、塩酸に浸漬してイオン交換基の対イオンをH+に置換した結合剤(例えば、カルボキシル基又はスルホ基を有する含フッ素系重合体)が好ましい。それによって、後述する水やエタノールに溶解しやすくなるため、好ましい。
【0189】
この結合剤を、水とエタノールを混合した溶液に溶解する。なお、水とエタノールの好ましい体積比10:1~1:10であり、より好ましくは、5:1~1:5であり、さらに好ましくは、2:1~1:2である。このようにして得た溶解液中に、無機物粒子をボールミルで分散させてコーティング液を得る。このとき、分散する際の、時間、回転速度を調整することで、粒子の平均粒径等を調整することもできる。なお、無機物粒子と結合剤の好ましい配合量は、前述の通りである。
【0190】
コーティング液中の無機物粒子及び結合剤の濃度については、特に限定されないが、薄いコーティング液とする方が好ましい。それによって、イオン交換膜の表面に均一に塗布することが可能となる。
【0191】
また、無機物粒子を分散させる際に、界面活性剤を分散液に添加してもよい。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が好ましく、例えば、日油株式会社製HS-210、NS-210、P-210、E-212等が挙げられる。
【0192】
得られたコーティング液を、スプレー塗布やロール塗工でイオン交換膜表面に塗布することでイオン交換膜が得られる。
【0193】
〔微多孔膜〕
第1実施形態において用いる隔膜としては、微多孔膜も好適なものとして挙げられる。
微多孔膜としては、前述の通り、電解用電極と積層体とすることができれば、特に限定されず、種々の微多孔膜を適用することができる。
微多孔膜の気孔率は、特に限定されないが、例えば、20~90とすることができ、好ましくは30~85である。上記気孔率は、例えば、下記の式にて算出できる。
気孔率=(1-(乾燥状態の膜重量)/(膜の厚み、幅、長さから算出される体積と膜素材の密度から算出される重量))×100
微多孔膜の平均孔径は、特に限定されないが、例えば、0.01μm~10μmとすることができ、好ましくは0.05μm~5μmである。上記平均孔径は、例えば、膜を厚み方向に垂直に切断し、切断面をFE-SEMで観察する。観察される孔の直径を100点程度測定し、平均することで求めることができる。
微多孔膜の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm~1000μmとすることができ、好ましくは50μm~600μmである。上記厚みは、例えば、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製)等を用いて測定することができる。
上述のような微多孔膜の具体例としては、Agfa社製のZirfon Perl UTP 500(第1実施形態において、Zirfon膜とも称す)、国際公開第2013-183584号パンフレット、国際公開第2016-203701号パンフレットなどに記載のものが挙げられる。
【0194】
第1実施形態においては、隔膜が、第1のイオン交換樹脂層と、当該第1のイオン交換樹脂層とは異なるEW(イオン交換当量)を有する第2のイオン交換樹脂層とを含むことが好ましい。また、隔膜が、第1のイオン交換樹脂層と、当該第1のイオン交換樹脂層とは異なる官能基を有する第2のイオン交換樹脂層とを含むことが好ましい。イオン交換当量は導入する官能基によって調整でき、導入しうる官能基については前述したとおりである。
【0195】
第1実施形態における積層体製造用治具により得られる積層体が優れた電解性能を発現する理由は以下のように推定している。
従来技術である隔膜と電解用電極とを熱圧着等の方法により強固に接着している場合、電解用電極が隔膜へめり込む状態となって物理的に接着されている。この接着部分が、ナトリウムイオンの膜内の移動を妨げることとなり、電圧が大きく上昇する。
一方、第1実施形態のように電解用電極が隔膜又は給電体と適度な接着力で接することにより、従来技術で問題であったナトリウムイオンの膜内移動を妨げることがなくなる。
これにより、隔膜又は給電体と電解用電極とが適度な接着力で接している場合、隔膜又は給電体と電解用電極との一体物でありながら、優れた電解性能を発現することができる。
【0196】
〔積層体の製造方法〕
第1実施形態に係る積層体の製造方法は、長尺状の電解用電極が捲回された電極用ロールと、長尺状の隔膜が捲回された隔膜用ロールとを用い、当該電極用ロール及び隔膜用ロールから各々巻き出される電解用電極及び隔膜の積層体を得るための方法であって、前記電極用ロール及び前記隔膜用ロールの相対位置を固定した状態で、捲回された前記電解用電極及び隔膜を各々巻き出す工程と、前記電極用ロールから巻き出される電解用電極に対して水分を供給する工程と、を含む。第1実施形態に係る積層体の製造方法は、このように構成されているため、電解槽における電極及び隔膜の更新の際の作業効率を向上させることができる積層体を製造することができる。すなわち、実際の商業サイズの電解セル(例えば、縦1.5m、横3m)に合わせて比較的大きなサイズの部材が求められる場合であっても、上記の電極用ロール及び隔膜用ロールを所望とする位置に配置して固定し、各ロールから電解用電極及び隔膜を繰り出しながら保水手段より供給される水分で一体化させるという、簡単な操作のみで所望とする積層体を容易に得ることができる。
第1実施形態に係る積層体の製造方法は、第1実施形態における積層体製造用治具により好ましく実施される。
【0197】
〔捲回体〕
第1実施形態における積層体は、捲回体の形態であってもよい。積層体を捲回してサイズダウンさせることにより、よりハンドリング性を向上させることができる。
【0198】
〔電解槽〕
第1実施形態における積層体は、電解槽に組み込まれる。
以下、隔膜としてイオン交換膜を用い、食塩電解を行う場合を例として、電解槽の一実施形態を詳述する。
なお、第1実施形態の電解槽は、食塩電解を行う場合に限定されるものではなく、水電解や燃料電池等にも使用することができる。
【0199】
〔電解セル〕
図14は、電解セル50の断面図である。
電解セル50は、陽極室60と、陰極室70と、陽極室60及び陰極室70の間に設置された隔壁80と、陽極室60に設置された陽極11と、陰極室70に設置された陰極21と、を備える。
必要に応じて基材18aと当該基材18a上に形成された逆電流吸収層18bとを有し、陰極室内に設置された逆電流吸収体18と、を備えてもよい。
1つの電解セル50に属する陽極11及び陰極21は、互いに電気的に接続されている。換言すれば、電解セル50は、次の陰極構造体を備える。
陰極構造体90は、陰極室70と、当該陰極室70に設置された陰極21と、陰極室70内に設置された逆電流吸収体18と、を備え、逆電流吸収体18は、
図18に示すように基材18aと当該基材18a上に形成された逆電流吸収層18bとを有し、陰極21と逆電流吸収層18bとが電気的に接続されている。
陰極室70は、集電体23と、当該集電体を支持する支持体24と、金属弾性体22とを更に有する。
金属弾性体22は、集電体23及び陰極21の間に設置されている。
支持体24は、集電体23及び隔壁80の間に設置されている。
集電体23は、金属弾性体22を介して、陰極21と電気的に接続されている。
隔壁80は、支持体24を介して、集電体23と電気的に接続されている。したがって、隔壁80、支持体24、集電体23、金属弾性体22及び陰極21は電気的に接続されている。
陰極21及び逆電流吸収層18bは電気的に接続されている。
陰極21及び逆電流吸収層18bは、直接接続されていてもよく、集電体、支持体、金属弾性体又は隔壁等を介して間接的に接続されていてもよい。
陰極21の表面全体は還元反応のための触媒層で被覆されていることが好ましい。
また、電気的接続の形態は、隔壁80と支持体24、支持体24と集電体23、集電体23と金属弾性体22がそれぞれ直接取り付けられ、金属弾性体22上に陰極21が積層される形態であってもよい。これらの各構成部材を互いに直接取り付ける方法として、溶接等が挙げられる。また、逆電流吸収体18、陰極21、および集電体23を総称して陰極構造体90としてもよい。
【0200】
図15は、電解槽4内において隣接する2つの電解セル50の断面図である。
図16は、電解槽4を示す。
図17は、電解槽4を組み立てる工程を示す。
図15に示すように、電解セル50、陽イオン交換膜51、電解セル50がこの順序で直列に並べられている。
電解槽4内において、隣接する2つの電解セルのうち一方の電解セル50の陽極室と他方の電解セル50の陰極室との間に、隔膜であるイオン交換膜51が配置されている。
つまり、電解セル50の陽極室60と、これに隣接する電解セル50の陰極室70とは、陽イオン交換膜51で隔てられる。
図16に示すように、電解槽4は、イオン交換膜51を介して直列に接続された複数の電解セル50から構成される。
つまり、電解槽4は、直列に配置された複数の電解セル50と、隣接する電解セル50の間に配置されたイオン交換膜51と、を備える複極式電解槽である。
図17に示すように、電解槽4は、イオン交換膜51を介して複数の電解セル50を直列に配置して、プレス器5により連結されることにより組み立てられる。
【0201】
電解槽4は、電源に接続される陽極端子7と陰極端子6とを有する。
電解槽4内で直列に連結された複数の電解セル50のうち最も端に位置する電解セル50の陽極11は、陽極端子7に電気的に接続される。
電解槽4内で直列に連結された複数の電解セル50のうち陽極端子7の反対側の端に位置する電解セルの陰極21は、陰極端子6に電気的に接続される。
電解時の電流は、陽極端子7側から、各電解セル50の陽極及び陰極を経由して、陰極端子6へ向かって流れる。なお、連結した電解セル50の両端には、陽極室のみを有する電解セル(陽極ターミナルセル)と、陰極室のみを有する電解セル(陰極ターミナルセル)を配置してもよい。この場合、その一端に配置された陽極ターミナルセルに陽極端子7が接続され、他の端に配置された陰極ターミナルセルに陰極端子6が接続される。
【0202】
塩水の電解を行う場合、各陽極室60には塩水が供給され、陰極室70には純水又は低濃度の水酸化ナトリウム水溶液が供給される。
各液体は、電解液供給管(図中省略)から、電解液供給ホース(図中省略)を経由して、各電解セル50に供給される。
また、電解液及び電解による生成物は、電解液回収管(図中省略)より、回収される。電解において、塩水中のナトリウムイオンは、一方の電解セル50の陽極室60から、イオン交換膜51を通過して、隣の電解セル50の陰極室70へ移動する。よって、電解中の電流は、電解セル50が直列に連結された方向に沿って、流れることになる。
つまり、電流は、陽イオン交換膜51を介して陽極室60から陰極室70に向かって流れる。
塩水の電解に伴い、陽極11側で塩素ガスが生成し、陰極21側で水酸化ナトリウム(溶質)と水素ガスが生成する。
【0203】
(陽極室)
陽極室60は、陽極11又は陽極給電体11を有する。
積層体を挿入することによって電解用電極を陽極側へ挿入した場合には、11は陽極給電体として機能する。
積層体を挿入せず、すなわち電解用電極を陽極側へ挿入しない場合には、11は陽極として機能する。また、陽極室60は、陽極室60に電解液を供給する陽極側電解液供給部と、陽極側電解液供給部の上方に配置され、隔壁80と略平行または斜めになるように配置されたバッフル板と、バッフル板の上方に配置され、気体が混入した電解液から気体を分離する陽極側気液分離部とを有することが好ましい。
【0204】
(陽極)
電解用電極を陽極側へ挿入しない場合には、陽極室60の枠内には、陽極11が設けられている。
陽極11としては、いわゆるDSA(登録商標)等の金属電極を用いることができる。DSAとは、ルテニウム、イリジウム、チタンを成分とする酸化物によって表面を被覆されたチタン基材の電極である。
形状としては、パンチングメタル、不織布、発泡金属、エキスパンドメタル、エレクトロフォーミングにより形成した金属多孔箔、金属線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等いずれのものも使用できる。
【0205】
(陽極給電体)
積層体を挿入することによって電解用電極を陽極側へ挿入した場合には、陽極室60の枠内には、陽極給電体11が設けられている。
陽極給電体11としては、いわゆるDSA(登録商標)等の金属電極を用いることもできるし、触媒コーティングがされていないチタンを用いることもできる。また、触媒コーティング厚みを薄くしたDSAを用いることもできる。さらに、使用済みの陽極を用いることもできる。
形状としては、パンチングメタル、不織布、発泡金属、エキスパンドメタル、エレクトロフォーミングにより形成した金属多孔箔、金属線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等いずれのものも使用できる。
【0206】
(陽極側電解液供給部)
陽極側電解液供給部は、陽極室60に電解液を供給するものであり、電解液供給管に接続される。
陽極側電解液供給部は、陽極室60の下方に配置されることが好ましい。
陽極側電解液供給部としては、例えば、表面に開口部が形成されたパイプ(分散パイプ)等を用いることができる。かかるパイプは、陽極11の表面に沿って、電解セルの底部19に対して平行に配置されていることがより好ましい。このパイプは、電解セル50内に電解液を供給する電解液供給管(液供給ノズル)に接続される。液供給ノズルから供給された電解液はパイプによって電解セル50内まで搬送され、パイプの表面に設けられた開口部から陽極室60の内部に供給される。パイプを、陽極11の表面に沿って、電解セルの底部19に平行に配置することで、陽極室60の内部に均一に電解液を供給することができるため好ましい。
【0207】
(陽極側気液分離部)
陽極側気液分離部は、バッフル板の上方に配置されることが好ましい。電解中において、陽極側気液分離部は、塩素ガス等の生成ガスと電解液を分離する機能を有する。なお、特に断りがない限り、上方とは、
図14の電解セル50における上方向を意味し、下方とは、
図14の電解セル50における下方向を意味する。
【0208】
電解時、電解セル50で発生した生成ガスと電解液が混相(気液混相)となり系外に排出されると、電解セル50内部の圧力変動によって振動が発生し、イオン交換膜の物理的な破損を引き起こす場合がある。これを抑制するために、電解セル50には、気体と液体を分離するための陽極側気液分離部が設けられていることが好ましい。陽極側気液分離部には、気泡を消去するための消泡板が設置されることが好ましい。気液混相流が消泡板を通過するときに気泡がはじけることにより、電解液とガスに分離することができる。その結果、電解時の振動を防止することができる。
【0209】
(バッフル板)
バッフル板は、陽極側電解液供給部の上方に配置され、かつ、隔壁80と略平行または斜めに配置されることが好ましい。
バッフル板は、陽極室60の電解液の流れを制御する仕切り板である。
バッフル板を設けることで、陽極室60において電解液(塩水等)を内部循環させ、その濃度を均一にすることができる。
内部循環を起こすために、バッフル板は、陽極11近傍の空間と隔壁80近傍の空間とを隔てるように配置することが好ましい。かかる観点から、バッフル板は、陽極11及び隔壁80の各表面に対向するように設けられていることが好ましい。バッフル板により仕切られた陽極近傍の空間では、電解が進行することにより電解液濃度(塩水濃度)が下がり、また、塩素ガス等の生成ガスが発生する。これにより、バッフル板により仕切られた陽極11近傍の空間と、隔壁80近傍の空間とで気液の比重差が生まれる。これを利用して、陽極室60における電解液の内部循環を促進させ、陽極室60の電解液の濃度分布をより均一にすることができる。
【0210】
なお、
図14に示していないが、陽極室60の内部に集電体を別途設けてもよい。
かかる集電体としては、後述する陰極室の集電体と同様の材料や構成とすることもできる。また、陽極室60においては、陽極11自体を集電体として機能させることもできる。
【0211】
(隔壁)
隔壁80は、陽極室60と陰極室70の間に配置されている。
隔壁80は、セパレータと呼ばれることもあり、陽極室60と陰極室70とを区画するものである。
隔壁80としては、電解用のセパレータとして公知のものを使用することができ、例えば、陰極側にニッケル、陽極側にチタンからなる板を溶接した隔壁等が挙げられる。
【0212】
(陰極室)
陰極室70は、積層体を構成する電解用電極を陰極側へ挿入した場合には、21は陰極給電体として機能し、電解用電極を陰極側へ挿入しない場合には、21は陰極として機能する。
逆電流吸収体18を有する場合は、陰極あるいは陰極給電体21と逆電流吸収体18は電気的に接続されている。
また、陰極室70も陽極室60と同様に、陰極側電解液供給部、陰極側気液分離部を有していることが好ましい。
なお、陰極室70を構成する各部位のうち、陽極室60を構成する各部位と同様のものについては説明を省略する。
【0213】
(陰極)
第1実施形態における積層体を挿入せず、すなわち電解用電極を陰極側へ挿入しない場合には、陰極室70の枠内には、陰極21が設けられている。
陰極21は、ニッケル基材とニッケル基材を被覆する触媒層とを有することが好ましい。ニッケル基材上の触媒層の成分としては、Ru、C、Si、P、S、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の金属及び当該金属の酸化物又は水酸化物が挙げられる。
触媒層の形成方法としては、メッキ、合金めっき、分散・複合めっき、CVD、PVD、熱分解及び溶射が挙げられる。これらの方法を組み合わせてもよい。触媒層は必要に応じて複数の層、複数の元素を有してもよい。また、必要に応じて陰極21に還元処理を施してもよい。なお、陰極21の基材としては、ニッケル、ニッケル合金、鉄あるいはステンレスにニッケルをメッキしたものを用いてもよい。
形状としては、パンチングメタル、不織布、発泡金属、エキスパンドメタル、エレクトロフォーミングにより形成した金属多孔箔、金属線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等いずれのものも使用できる。
【0214】
(陰極給電体)
第1実施形態における積層体を挿入することによって電解用電極を陰極側へ挿入した場合には、陰極室70の枠内には、陰極給電体21が設けられている。
陰極給電体21に触媒成分が被覆されていてもよい。
その触媒成分は、もともと陰極として使用されて、残存したものでもよい。触媒層の成分としては、Ru、C、Si、P、S、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の金属及び当該金属の酸化物又は水酸化物が挙げられる。
触媒層の形成方法としては、メッキ、合金めっき、分散・複合めっき、CVD、PVD、熱分解及び溶射が挙げられる。これらの方法を組み合わせてもよい。触媒層は必要に応じて複数の層、複数の元素を有してもよい。また、触媒コーティングがされてない、ニッケル、ニッケル合金、鉄あるいはステンレスに、ニッケルをメッキしたものを用いてもよい。なお、陰極給電体21の基材としては、ニッケル、ニッケル合金、鉄あるいはステンレスにニッケルをメッキしたものを用いてもよい。
形状としては、パンチングメタル、不織布、発泡金属、エキスパンドメタル、エレクトロフォーミングにより形成した金属多孔箔、金属線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等いずれのものも使用できる。
【0215】
(逆電流吸収層)
前述の陰極の触媒層用の元素の酸化還元電位よりも卑な酸化還元電位を持つ材料を逆電流吸収層の材料として選択することができる。例えば、ニッケルや鉄などが挙げられる。
【0216】
(集電体)
陰極室70は集電体23を備えることが好ましい。
これにより、集電効果が高まる。第1実施形態では、集電体23は多孔板であり、陰極21の表面と略平行に配置されることが好ましい。
【0217】
集電体23としては、例えば、ニッケル、鉄、銅、銀、チタンなどの電気伝導性のある金属からなることが好ましい。集電体23は、これらの金属の混合物、合金又は複合酸化物でもよい。なお、集電体23の形状は、集電体として機能する形状であればどのような形状でもよく、板状、網状であってもよい。
【0218】
(金属弾性体)
集電体23と陰極21との間に金属弾性体22が設置されることにより、直列に接続された複数の電解セル50の各陰極21がイオン交換膜51に押し付けられ、各陽極11と各陰極21との間の距離が短くなり、直列に接続された複数の電解セル50全体に掛かる電圧を下げることができる。
電圧が下がることにより、消費電量を下げることができる。また、金属弾性体22が設置されることにより、電解用電極を含む積層体を電解セル50に設置した際に、金属弾性体22による押し付け圧により、該電解用電極を安定して定位置に維持することができる。
【0219】
金属弾性体22としては、渦巻きばね、コイル等のばね部材、クッション性のマット等を用いることができる。金属弾性体22としては、イオン交換膜51を押し付ける応力等を考慮して適宜好適なものを採用できる。金属弾性体22を陰極室70側の集電体23の表面上に設けてもよいし、陽極室60側の隔壁の表面上に設けてもよい。
通常、陰極室70が陽極室60よりも小さくなるよう両室が区画されているので、枠体の強度等の観点から、金属弾性体22を陰極室70の集電体23と陰極21の間に設けることが好ましい。
また、金属弾性体23は、ニッケル、鉄、銅、銀、チタンなどの電気伝導性を有する金属からなることが好ましい。
【0220】
(支持体)
陰極室70は、集電体23と隔壁80とを電気的に接続する支持体24を備えることが好ましい。これにより、効率よく電流を流すことができる。
【0221】
支持体24は、ニッケル、鉄、銅、銀、チタンなど電気伝導性を有する金属からなることが好ましい。
また、支持体24の形状としては、集電体23を支えることができる形状であればどのような形状でもよく、棒状、板状又は網状であってよい。支持体24は、例えば、板状である。
複数の支持体24は、隔壁80と集電体23との間に配置される。複数の支持体24は、それぞれの面が互いに平行になるように並んでいる。支持体24は、隔壁80及び集電体23に対して略垂直に配置されている。
【0222】
(陽極側ガスケット、陰極側ガスケット)
陽極側ガスケット12は、陽極室60を構成する枠体表面に配置されることが好ましい。陰極側ガスケット13は、陰極室70を構成する枠体表面に配置されていることが好ましい。1つの電解セル50が備える陽極側ガスケット12と、これに隣接する電解セルの陰極側ガスケット13とが、イオン交換膜51を挟持するように、電解セル同士が接続される(
図14、15参照)。
これらのガスケットにより、イオン交換膜51を介して複数の電解セル50を直列に接続する際に、接続箇所に気密性を付与することができる。
【0223】
ガスケットとは、イオン交換膜と電解セルとの間をシールするものである。ガスケットの具体例としては、中央に開口部が形成された額縁状のゴム製シート等が挙げられる。ガスケットには、腐食性の電解液や生成するガス等に対して耐性を有し、長期間使用できることが求められる。そこで、耐薬品性や硬度の点から、通常、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDMゴム)、エチレン・プロピレンゴム(EPMゴム)の加硫品や過酸化物架橋品等がガスケットとして用いられる。また、必要に応じて液体に接する領域(接液部)をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素系樹脂で被覆したガスケットを用いることもできる。
これらガスケットは、電解液の流れを妨げないように、それぞれ開口部を有していればよく、その形状は特に限定されない。例えば、陽極室60を構成する陽極室枠又は陰極室70を構成する陰極室枠の各開口部の周縁に沿って、額縁状のガスケットが接着剤等で貼り付けられる。そして、例えばイオン交換膜51を介して2体の電解セル50を接続する場合(
図15参照)、イオン交換膜51を介してガスケットを貼り付けた各電解セル50を締め付ければよい。これにより、電解液、電解により生成するアルカリ金属水酸化物、塩素ガス、水素ガス等が電解セル50の外部に漏れることを抑制することができる。
【0224】
(イオン交換膜)
イオン交換膜51としては、上記、イオン交換膜の項に記載のとおりである。
【0225】
(水電解)
上述した電解槽であって、水電解を行う場合の電解槽は、上述した食塩電解を行う場合の電解槽におけるイオン交換膜を微多孔膜に変更した構成を有するものである。また、供給する原料が水である点において、上述した食塩電解を行う場合の電解槽とは相違するものである。その他の構成については、水電解を行う場合の電解槽も食塩電解を行う場合の電解槽と同様の構成を採用することができる。
食塩電解の場合には、陽極室で塩素ガスが発生するため、陽極室の材質はチタンが用いられるが、水電解の場合には、陽極室で酸素ガスが発生するのみであるため、陰極室の材質と同じものを使用できる。例えば、ニッケル等が挙げられる。また、陽極コーティングは酸素発生用の触媒コーティングが適当である。触媒コーティングの例としては、白金族金属および遷移金属の金属、酸化物、水酸化物などが挙げられる。例えば、白金、イリジウム、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、コバルト、鉄等の元素を使用することができる。
【0226】
(積層体の用途)
第1実施形態により得られる積層体は、前述のとおり、電解槽における電極更新の際の作業効率を向上させることができ、さらに、更新後も優れた電解性能を発現することができる。換言すると、第1実施形態における積層体は、電解槽の部材交換用の積層体として好適に用いることができる。なお、かかる用途に適用する際の積層体は、特に「膜電極接合体」と称される。
【0227】
(包装体)
第1実施形態の製造方法により得られる積層体は、包装材に封入した包装体の状態で運搬等を行うことが好ましい。
すなわち、前記包装体は、積層体と、前記積層体を包装する包装材と、を備える。包装体は、上記のように構成されているため、積層体を運搬等する際に生じ得る汚れの付着や破損を防止することができる。電解槽の部材交換用とする場合、包装体として運搬等を行うことが特に好ましい。包装材としては、特に限定されず、種々公知の包装材を適用することができる。また、包装体は、以下に限定されないが、例えば、清浄な状態の包装材で積層体を包装し、次いで封入する等の方法により、製造することができる。
【0228】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態について詳細に説明する。
【0229】
〔積層体〕
第2実施形態の積層体は、電解用電極と、前記電解用電極の表面上に積層された隔膜と、を含む積層体であって、前記隔膜が、その表面に凹凸構造を有し、前記隔膜の単位面積に対する、前記電解用電極と前記隔膜との隙間体積の割合aが、0.8μmより大きく200μm以下である。第2実施形態の積層体は、このように構成されているため、電圧の上昇及び電流効率の低下を抑制でき、優れた電解性能を発現でき、電解槽における電極更新の際の作業効率を向上させることができ、さらに、更新後も優れた電解性能を発現することができる。
【0230】
特許文献1及び2に記載された構造物のように、電極と隔膜とを同文献記載の方法で一体とした構造物では、電圧が上昇したり、電流効率が低下したりすることがあり、電解性能が十分ではない。かかる文献では、隔膜の形状に言及がされていないが、本発明者らは、当該隔膜の形状について鋭意検討したところ、電解の原料あるいは生成物が電解用電極と隔膜の界面に滞留する傾向にあり、陰極の場合を例にすると、電極で発生したNaOHが電解用電極と隔膜の界面に滞留する傾向にあるという知見を得た。この知見に基づいて、本発明者らは、更に鋭意検討したところ、隔膜が、その表面に凹凸構造を有し、隔膜の単位面積に対する、電解用電極と隔膜との隙間体積の割合aを所定範囲内とすることにより、NaOHの上記界面での滞留が抑制され、その結果、電圧の上昇及び電流効率の低下が抑制され、電解性能を向上できることを見出した。
【0231】
なお、第1実施形態の積層体の製造方法により得られる積層体は、好ましくは、第2実施形態の積層体に係る特徴を有するものである。すなわち、第2実施形態の積層体は、第1実施形態の積層体の製造方法により好ましく得ることができる。上記のとおり、第2実施形態の積層体を構成する電解用電極及び隔膜については、別途言及がない限り、第1実施形態において説明したものと同様であるため、重複する説明は省略する。
【0232】
隔膜と電解用電極との界面に保持される界面水分量wは、30g/m2以上200g/m2以下であることが好ましく、54g/m2以上150g/m2以下であることがより好ましく、63g/m2以上120g/m2以下であることが更に好ましい。界面水分量wが上記範囲内であることにより、NaOHの上記界面での滞留が抑制され、その結果、電圧の上昇及び電流効率の低下が抑制され、電解性能を向上できる傾向にある。界面水分量wは、実施例で後述する方法により求められる。また、界面水分量wは、例えば、隔膜の表面形状、具体的には凹凸の形状、凹凸形状の高さや深さ、凹凸形状の頻度を調整すること等により、上記範囲に調整することができる。同様に電解用電極の表面形状、より具体的には凹凸の形状、凹凸形状の高さや深さ、凹凸形状の頻度を調整すること等により、上記範囲に調整することができる。隔膜、電解用電極の両方に凹凸形状が存在してもよい。より具体的には、電解用電極及び/又は隔膜における凹凸の高さが大きくなると、界面水分量wは多くなる傾向にあり、当該凹凸の頻度が多くなるほど界面水分量wは多くなる傾向にある。
【0233】
〔起伏部〕
第2実施形態における電解用電極は、隔膜への対向面において、1又は複数の起伏部を有し、前記起伏部が、下記条件(i)~(iii)を満たすことが好ましい。
0.04≦Sa/Sall≦0.55 …(i)
0.010mm2≦Save≦10.0mm2 …(ii)
1<(h+t)/t≦10 …(iii)
(前記(i)中、Saは、前記対向面を光学顕微鏡で観察して得られる観察像における前記起伏部の総面積を表し、Sallは、前記観察像における前記対向面の面積を表し、
前記(ii)中、Saveは、前記観察像における前記起伏部の平均面積を表し、
前記(iii)中、hは、前記起伏部の高さを表し、tは、前記電解用電極の厚みを表す。)
【0234】
電解用電極と隔膜とを、特許文献1及び2に記載されているように、一体化した構造物では、電圧が上昇したり、電流効率が低下したりすることがあり、電解性能が十分ではない。かかる文献では、電極形状に言及がされておらず、本発明者らは、電極形状について鋭意検討したところ、電解の原料あるいは生成物が電解用電極と隔膜の界面に滞留する傾向にあり、陰極の場合を例にすると、電極で発生したNaOHが電解用電極と隔膜の界面に滞留する傾向にあるという知見を得た。この知見に基づいて、本発明者らは、更に鋭意検討したところ、電解用電極が、隔膜への対向面に所定の起伏部を有しており、また、当該起伏部が条件(i)~(iii)を満たすと、NaOHの上記界面での滞留が抑制され、その結果、電圧の上昇及び電流効率の低下が抑制され、電解性能を向上できることを見出した。すなわち、第2実施形態の積層体によれば、電圧の上昇及び電流効率の低下を抑制でき、優れた電解性能を発現することができる。
【0235】
(条件(i))
Sa/Sallは、所望とする電解性能を確保する観点から、0.04以上0.55以下であり、電解性能に一層優れる観点から、0.05以上0.55以下であることが好ましく、0.05以上0.50以下であることがより好ましく、0.125以上0.50以下であることがさらに好ましい。Sa/Sallは、例えば、後述する好ましい製法を採用すること等により上述した範囲に調整することができ、その測定方法としては、後述する実施例に記載の方法が挙げられる。
【0236】
(条件(ii))
Saveは、所望とする電解性能を確保する観点から、0.010mm2以上10.0mm2以下であり、電解性能に一層優れる観点から、0.07mm2以上10.0mm2以下が好ましく、0.07mm2以上4.3mm2以下がより好ましく、0.10mm2以上4.3mm2以下がさらに好ましく、0.20mm2以上4.3mm2以下であることが最も好ましい。Saveは、例えば、後述する好ましい製法を採用すること等により上述した範囲に調整することができ、その測定方法としては、後述する実施例に記載の方法が挙げられる。
【0237】
(条件(iii))
(h+t)/tは、所望とする電解性能を確保する観点から、1より大きく10以下であり、電解性能に一層優れる観点から、1.05以上7.0以下であることが好ましく、1.1以上6.0以下であることがより好ましく、2.0以上6.0以下であることがさらに好ましい。(h+t)/tは、例えば、後述する好ましい製法を採用すること等により上述した範囲に調整することができ、その測定方法としては、後述する実施例に記載の方法が挙げられる。ここで、本実施形態における電解用電極は、後述するとおり電解用電極基材と触媒層(触媒コーティング)とを含むものであってよく、後述する実施例においては、凹凸加工後の電解用電極基材に触媒コーティングを実施して作成した電解用電極に対してhを測定しているが、触媒コーティングを実施した後に凹凸加工を施した電解用電極に対して当該hを測定してもよく、凹凸加工が同一である限り双方の測定値はよく一致する。
なお、上記と同様の観点から、h/tの値としては、0より大きく9以下であることが好ましく、0.05以上6.0以下であることがより好ましく、0.1以上5.0以下であることがさらに好ましく、1.0以上5.0以下であることがよりさらに好ましい。また、hの値としては、tの値に応じて条件(iii)を満たすべく適宜調整すればよいが、典型的には、0μmより大きく2700μm以下であることが好ましく、0.5μm以上1000μm以下であることがより好ましく、5μm以上500μm以下であることがさらに好ましく、10μm以上300μm以下であることがよりさらに好ましい。
【0238】
第2実施形態において、起伏部とは、凹部又は凸部を意味し、後述する実施例に記載の測定に供したとき、条件(i)~(iii)を満たすものを意味する。ここで、凹部とは、隔膜とは逆側の方向に突出する部分を意味し、凸部とは、隔膜に向かう方向に突出する部分を意味する。第2実施形態において、電解用電極が複数の起伏部を有する場合、凹部としての起伏部のみを複数有するものであってもよく、凸部としての起伏部のみを複数有するものであってもよく、凹部としての起伏部と凸部としての起伏部の双方を有するものであってもよい。
なお、第2実施形態における起伏部は、電解用電極の表面のうち、隔膜への対向面において形成されているものであるが、当該起伏部と同様の凹部及び/又は凸部が当該対向面以外の電解用電極の表面に形成されていてもよい。
【0239】
第2実施形態において、上記(i)~(iii)の値を掛け算した値M(=Sa/Sall×Save×(h+t)/t)は、条件(i)~(iii)のバランスを示す値であり、電圧上昇を抑制する観点から、0.04以上15以下が好ましく、0.05以上10以下がより好ましく、0.05以上5以下がさらに好ましい。
【0240】
図19~
図21は、第2実施形態における電解用電極の一例を示す模式断面図である。
図19に示す電解用電極101Aでは、複数の起伏部(凸部)102Aが、所定間隔を置いて配置されている。なお、第1実施形態で説明した
図10は、
図19に示す破線Pに囲まれた部分を拡大したものに対応する。
この例では、隣り合う起伏部(凸部)102A間に、平坦部103Aが配置されている。この例では、起伏部が凸部であるが、第2実施形態における電解用電極は、起伏部が凹部であってもよい。また、この例では、各凸部の高さ及び幅が同一であるが、第2実施形態における電解用電極は、各凸部の高さ及び幅が異なっていてもよい。ここで、
図22に示す電解用電極101Aは、
図19に示す電解用電極101Aの平面斜視図である。
図20に示す電解用電極101Bでは、起伏部(凸部)102Bが、連続的に配置されている。この例では、各凸部の高さ及び幅が同一であるが、第2実施形態における電解用電極は、各凸部の高さ及び幅が異なっていてもよい。ここで、
図23に示す電解用電極101Bは、
図20に示す電解用電極101Bの平面斜視図である。
図21に示す電解用電極101Cでは、起伏部(凹部)102Cが、連続的に配置されている。この例では、各凹部の高さ及び幅が同一であるが、第2実施形態における電解用電極は、各凸部又は各凹部の高さ及び幅が異なっていてもよい。
第2実施形態における電解用電極は、対向面内の少なくとも一方向において、起伏部が、下記条件(I)~(III)の少なくとも1つを満たしていることが好ましい。
(I)起伏部が、各々独立して配置されている。
(II)起伏部が、凸部であり、凸部が連続的に配置されている。
(III)起伏部が、凹部であり、凹部が連続的に配置されている。
このような条件を満たすことにより、電解性能に一層優れる傾向にある。各条件の具体例を、
図19~
図21に示す。すなわち、
図19は、条件(I)を満たす一例に該当し、
図20は、条件(II)を満たす一例に該当し、
図21は、条件(III)を満たす一例に該当する。
【0241】
第2実施形態における電解用電極においては、対向面内の一方向D1において、前記起伏部が、各々独立して配置されていることが好ましい。「各々独立して配置」とは、
図19に示すように、各起伏部が、平坦部を介することで所定間隔にて配置されていることをいう。条件(I)を満たす場合に配置される平坦部としては、D1方向に10μm以上の幅を有する部分であることが好ましい。電解用電極における凹凸部分には、通常、凹凸加工による残留応力があるが、この残留応力の大小は電解用電極の取り扱い性に影響し得る。すなわち、残留応力を低減して電解用電極の取り扱い性を向上させる観点から、第2実施形態における電解用電極は、
図19に示すように、条件(I)を満たすことが好ましい。条件(I)を満たす場合、焼鈍処理などの追加の処理を要することなく平坦性を確保できる傾向にあり、製作工程をより簡易なものにできる。
【0242】
第2実施形態における電解用電極は、
図19に示すように、電解用電極のD1方向と、D1に直交する方向D1’において、起伏部が各々独立して配置されていることがより好ましい。これにより、電解反応の原料の供給路形成されることで電極への原料供給が十分行われ、また反応生成物の拡散する経路が形成され、スムーズに電極面から拡散していくことができる。
【0243】
第2実施形態における電解用電極においては、対向面内の一方向D2において、前記起伏部が、連続的に配置されていてもよい。「連続的に配置」とは、
図20や
図21に示すように、2以上の起伏部が、連なって配置されていることをいう。条件(II)や(III)を満たす場合でも、各起伏部の境界において微小な平坦領域があってもよいが、当該領域はD2方向に10μm未満の幅を有するものである。
【0244】
第2実施形態における電解用電極においては、条件(I)~(III)の複数を満たすものであってもよい。例えば、対向面内の一方向において、2以上の起伏部が連続的に配置されている領域と、起伏部が各々独立して配置されている領域とが混在していてもよい。
【0245】
また、良好なハンドリング性が得られ、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜、劣化した電極及び触媒コーティングがされていない給電体などと良好な接着力を有し、さらに、経済性の観点から、電解用電極の単位面積あたりの質量が、500mg/cm2以下であることが好ましく、300mg/cm2以下であることがより好ましく、100mg/cm2以下であることが更に好ましく、50mg/cm2以下(好ましくは48mg/cm2以下、より好ましくは30mg/cm2以下、さらに好ましくは20mg/cm2以下)であることが特に好ましく、さらに、ハンドリング性、接着性及び経済性を合わせた総合的な観点から、15mg/cm2以下であることが好ましい。下限値は、特に限定されないが、例えば、1mg/cm2程度である。
上記単位面積あたりの質量は、例えば、第1実施形態において説明した開孔率、電極の厚み等を適宜調整することで上記範囲とすることができる。より具体的には、例えば、同じ厚みであれば、開孔率を大きくすると、単位面積あたりの質量は小さくなる傾向にあり、開孔率を小さくすると、単位面積あたりの質量は大きくなる傾向にある。
【0246】
前述のとおり、第1実施形態で説明した
図10は、
図19に示す破線Pに囲まれた部分を拡大したものに対応するものであるが、
図10に示した電解用電極基材10は、パンチング加工等により複数の孔が形成された多孔状の形態であることが好ましい。これにより、電解反応面へ十分に反応原料の供給が行われ、かつ反応生成物が素早く拡散することができる。各孔の直径は、例えば、0.1~10mm程度であり、0.5~5mmであることが好ましい。また、開口率は、例えば、10~80%であり、20~60%であることが好ましい。
【0247】
電解用電極基材10は、必ずしも起伏部を形成する必要はないが、条件(i)~(iii)を満たす起伏部が形成されていることが好ましい。このような条件を満たすために、電解用電極基材は、例えば、所定の意匠を表面に形成した金属製ロール及び樹脂製プレッシャーロールを用いて、線圧100~400N/cmにて、エンボス加工されたものが用いられる。所定の意匠を表面に形成した金属製ロールとしては、例えば、
図24(A)及び
図25~
図27に示す金属製ロールが挙げられる。
図24(A)及び
図25~27の矩形状の外枠は、いずれも、金属製ロールの意匠部分を上面視した際の形状に対応しており、この枠内における線で囲まれた部分(各図のシャドウ部)が意匠部分(すなわち金属製ロールにおける起伏部)に対応している。
なお、条件(i)~(iii)を満たすための制御として、以下に限定されないが、例えば、次の方法が挙げられる。
上述したロール表面に形成された凹凸が電解用電極基材に転写されることで、電解用電極が有する起伏部が形成される。ここで、例えば、ロール表面の凹凸の個数、凸部分の高さ、凸部分を平面視したときの面積を調整すること等により、S
a、S
ave及びHの値を制御することができる。より具体的には、ロール表面の凹凸の個数を増やすと、S
aの値は大きくなる傾向にあり、ロール表面の凹凸の凸部分を平面視したときの面積を大きくすると、S
aveの値は大きくなる傾向にあり、ロール表面の凹凸の凸部分の高さを大きくすると、(h+t)の値は大きくなる傾向にある。
【0248】
第2実施形態において、隔膜は、電解用電極の表面上に積層されている。ここでいう「電解用電極の表面」は、電解用電極の両面のいずれかであればよい。具体的には、
図19、
図20及び
図21の電解用電極101A、101B、101Cの場合には、それぞれ、電解用電極101A、101B、101Cの上面上に隔膜が積層されていてもよいし、電解用電極101A、101B、101Cの下面上に隔膜が積層されていてもよい。
【0249】
隔膜は、その表面に凹凸構造を有する。隔膜の単位面積に対する、前記電解用電極と前記隔膜との隙間体積の割合aが、0.8μmより大きく200μm以下であり、13μm以上150μm以下であることが好ましく、14μm以上150μm以下であることがより好ましく、23μm以上120μm以下であることがさらに好ましい。割合aがこのような範囲であることにより、NaOHの上記界面での滞留が抑制され、その結果、電圧の上昇及び電流効率の低下が抑制され、電解性能を向上できる。割合aは、後述する実施例に記載の方法により求められる。割合aは、例えば、隔膜の表面形状、具体的には凹凸の形状、凹凸形状の高さや深さ、凹凸形状の頻度を調整すること等により、上記範囲に調整することができる。同様に電解用電極の表面形状、より具体的には凹凸の形状、凹凸形状の高さや深さ、凹凸形状の頻度を調整すること等により、上記範囲に調整することができる。隔膜、電解用電極の両方に凹凸形状が存在してもよい。より具体的には、電解用電極及び/又は隔膜における凹凸の高さが大きくなると、割合aは多くなる傾向にあり、当該凹凸の頻度が多くなるほど割合aは多くなる傾向にある。
【0250】
隔膜は、その表面に凹凸構造を有していればよく、隔膜の両面(例えば、陽極面及び陰極面)に凹凸構造を有してもよく、隔膜の両面の一方の面(例えば、陽極面又は陰極面)に凹凸構造を有してもよい。ここでいう「陽極面」とは、陽極として用いられる電解用電極と、隔膜との積層体における、電解用電極及び隔膜との界面をいい、「陰極面」とは、陰極として用いられる電解用電極と、隔膜との積層体における、電解用電極及び隔膜との界面をいう。隔膜の両面に凹凸構造を有する場合には、これらの凹凸構造は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0251】
凹凸構造における高さの最大値と最小値の差である高低差が、2.5μmより大きいこと(例えば、2.5μmより大きく、350μm以下)が好ましく、45μm以上が好ましく、46μm以上がより好ましく、90μm以上が更に好ましい。高低差が上記範囲内であることにより、NaOHの上記界面での滞留が一層抑制され、その結果、電圧の上昇及び電流効率の低下が一層抑制され、電解性能を一層向上できる。高低差は、後述する実施例に記載の方法により求められる。なお、上限は特に限定されないが、電圧等の関係から350μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。
【0252】
凹凸構造における、高低差の標準偏差は、0.3μmより大きいこと(例えば、0.3μmより大きく、60μm以下)が好ましく、7μm以上がより好ましく、7μmより大きいことがより好ましく、13μm以上であることが更に好ましい。標準偏差が上記範囲内であることにより、NaOHの上記界面での滞留が一層抑制され、その結果、電圧の上昇及び電流効率の低下が一層抑制され、電解性能を一層向上できる。高低差は、後述する実施例に記載の方法により求められる。なお、上限は特に限定されないが、60μm以下が好ましい。
【0253】
第2実施形態における、隔膜としてのイオン交換膜の製造方法としても、第1実施形態で説明した製造方法と同様とすることができる。すなわち、イオン交換膜の好適な製造方法としては、以下の(1)工程~(6)工程を有する方法が挙げられる。
(1)工程:イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体を製造する工程。
(2)工程:必要に応じて、複数の強化芯材と、酸又はアルカリに溶解する性質を有し、連通孔を形成する犠牲糸と、を少なくとも織り込むことにより、隣接する強化芯材同士の間に犠牲糸が配置された補強材を得る工程。
(3)工程:イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する前記含フッ素系重合体をフィルム化する工程。
(4)工程:前記フィルムに必要に応じて前記補強材を埋め込んで、前記補強材が内部に配置され、表面に所定の割合aを満たす凹凸構造を有する膜本体を得る工程。
(5)工程:(4)工程で得られた膜本体を加水分解する工程(加水分解工程)。
(6)工程:(5)工程で得られた膜本体に、コーティング層を設ける工程(コーティング工程)。
ここで、第2実施形態における割合a、高低差、高低差の標準偏差を所望とする範囲内に調整する観点から、当該製造方法は、以下に述べる事項を更に考慮して実施することが好ましい。
【0254】
(2)工程において、強化芯材や犠牲糸の配置を調整することにより、開口率や連通孔の配置等を制御することができる。また、強化芯材の配置を調整することにより、イオン交換膜の表面に凹凸構造を形成することができる。例えば、
図13(A)に示すように強化糸52を縦糸と横糸とが交差する格子状とすることにより、交差部が凸となる凹凸構造を形成することができる。
【0255】
また、イオン交換膜の表面に突出した部分、すなわち凸部を有する凹凸構造を形成する方法としては、特に限定されず、樹脂表面に凸部を形成する公知の方法(例えば、特許第3075580号、特許第4708133号、特許第5774514号に記載の方法)を採用することができる。具体的には、例えば、膜本体の表面にエンボス加工を施す方法が挙げられる。例えば、前記した複合フィルムと補強材等とを一体化する際に、エンボス加工された離型紙、複合フィルム、及び補強材を積層させて、加熱減圧させ、離型紙を取り除くことによって、上記の凸部を形成させることができる。エンボス加工により凸部を形成する場合、凸部の高さや配置密度の制御は、転写するエンボス形状(離型紙の形状)を制御することで行うことができる。
また、エンボス加工された離型紙を用いずに膜本体を得る工程((4)工程)を行い、
図13(A)に示すような強化糸52の格子状の凹凸構造を形成する方法が挙げられる。
【0256】
ここで、イオン交換膜の陰極面に凹凸構造を形成する場合、凹凸構造における、高低差を大きくする方法としては、以下のような方法が挙げられる。すなわち、前記した複合フィルムと補強材等とを一体化する際の加熱減圧条件において、加熱温度を230~235℃程度とし、減圧度を0.065~0.070MPa程度とし、1~3分間ほど加熱減圧すればよい。一方、イオン交換膜の陰極面に凹凸構造を形成する場合、凹凸構造における、高低差を小さくする方法としては、以下のような方法が挙げられる。すなわち、膜本体の表面にエンボス加工を施す際の加熱減圧条件において、加熱温度を220~225℃程度とし、減圧度を0.065~0.070MPa程度とし、1~3分間ほど加熱減圧すればよい。このとき、必要に応じてカプトンフィルムを複合フィルム及び補強材上に積層させた状態で加熱減圧させ、カプトンフィルムを取り除くことによって、一層高低差を小さくすることができる。
ここで、イオン交換膜の陽極面に凹凸構造を形成する場合、凹凸構造における、高低差を大きくする方法としては、以下のような方法が挙げられる。すなわち、前記した複合フィルムと補強材等とを一体化する際に、PETフィルム、複合フィルム及び補強材を積層させ、200℃程度に加熱した金属ロールとゴムライニングロールを用いてロールラミネーションをした後、PETフィルムを取り除けばよい。一方、イオン交換膜の陽極面に凹凸構造を形成する場合、凹凸構造における、高低差を小さくする方法としては、以下のような方法が挙げられる。すなわち、前記した複合フィルムと補強材等とを一体化する際にエンボス加工されていない離型紙やエンボス加工深さが小さい離型紙を用いることが挙げられる。
また、イオン交換膜の平面方向で加熱温度、減圧度条件を制御することや、使用する強化芯材、犠牲糸、離型紙等の形状を制御することにより標準偏差を制御することができる。
【0257】
〔電解槽〕
第2実施形態の電解槽は、第2実施形態の積層体を含む。また、第2実施形態の電解槽の製造方法は、陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配される隔膜と、を備える既存電解槽に、積層体を配することにより、新たな電解槽を製造するための方法であって、前記既存電解槽における前記隔膜を、前記積層体と交換する工程(工程(a))を有し、前記積層体が、第2実施形態の積層体である。
なお、第2実施形態の電解槽を構成する電解セル及びその他の構成部材については、第1実施形態において説明したものと同様であるため、重複する説明は省略する。
【0258】
第2実施形態において、既存電解槽は、陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配される隔膜と、を構成部材として含むものであり、換言すると、電解セルを含むものである。既存電解槽は、上記した構成部材を含む限り特に限定されず、前述した構成とする等、種々公知の構成を適用することができる。
【0259】
第2実施形態において、新たな電解槽は、既存電解槽において既に陽極又は陰極として機能している部材に加えて、電解用電極又は積層体を更に備えるものである。すなわち、新たな電解槽の製造の際に配される「電解用電極」は、陽極又は陰極として機能するものであり、既存電解槽における陰極及び陽極とは別体である。第2実施形態では、既存電解槽の運転に伴って陽極及び/又は陰極の電解性能が劣化した場合であっても、これらとは別体の電解用電極を配することで、陽極及び/又は陰極の性能を更新することができる。さらに、積層体を構成する新たなイオン交換膜も、併せて配されることとなるため、運転に伴って性能が劣化したイオン交換膜の性能も同時に更新することができる。ここでいう「性能を更新」とは、既存電解槽が運転に供される前に有していた初期性能と同等の性能にする、又は、当該初期性能よりも高い性能とすることを意味する。
【0260】
第2実施形態において、既存電解槽は、「既に運転に供した電解槽」を想定しており、また、新たな電解槽は、「未だ運転に供していない電解槽」を想定している。すなわち、新たな電解槽として製造された電解槽をひとたび運転に供すると、「第2実施形態における既存電解槽」となり、この既存電解槽に電解用電極又は積層体を配したものは「第2実施形態における新たな電解槽」となる。
【0261】
第2実施形態における工程(a)では、既存電解槽における隔膜を、積層体と交換する。交換の方法としては、特に限定されないが、例えば、まずは既存電解槽において、プレス器による隣接する電解セル及びイオン交換膜の固定状態を解除し、当該電解セル及びイオン交換膜の間に空隙を形成し、次いで、更新対象となる既存のイオン交換膜を除去し、次いで、積層体を当該空隙に挿入し、再度プレス器により各部材を連結する方法等が挙げられる。このような方法により、積層体を既存電解槽における陽極又は陰極の表面上に配することができ、イオン交換膜、陽極及び/又は陰極の性能を更新することができる。
【0262】
<第3実施形態>
以下、本発明の第3実施形態について詳細に説明する。
【0263】
[電解槽の製造方法]
第3実施形態の第1の態様に係る電解槽の製造方法(以下、「第1の方法」ともいう。)は、陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配される隔膜と、前記陽極を支持する陽極フレーム及び前記陰極を支持する陰極フレームを含む電解セルフレームであって、前記陽極フレーム及び前記陰極フレームを一体化させることにより前記陽極と前記陰極と前記隔膜とを格納する電解セルフレームと、を備える既存電解槽に、電解用電極を配することにより、新たな電解槽を製造するための方法であって、前記陽極フレーム及び前記陰極フレームの一体化を解除し、前記隔膜を露出させる工程(A1)と、前記工程(A1)の後、前記隔膜の表面の少なくとも一方に、前記電解用電極を配する工程(B1)と、前記工程(B1)の後、前記陽極フレーム及び前記陰極フレームを一体化させることにより、前記陽極と前記陰極と前記隔膜と前記電解用電極とを前記電解セルフレームに格納する工程(C1)と、を有する。
上記のように、第1の方法によれば、既存電解槽による陽極及び陰極を除去することなくこれらの少なくとも一方の性能を更新することができるため、電解セルの取出、搬出、古い電極の除去、新しい電極の設置・固定、電解槽への運搬・設置、といった一連の煩雑な作業を伴うことなく、電解槽における部材の更新の際の作業効率を向上させることができる。
第3実施形態の第2の態様に係る電解槽の製造方法(以下、「第2の方法」ともいう。)は、陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配される隔膜と、前記陽極を支持する陽極フレーム及び前記陰極を支持する陰極フレームを含む電解セルフレームであって、前記陽極フレーム及び前記陰極フレームを一体化させることによって前記陽極と前記陰極と前記隔膜とを格納する電解セルフレームと、を備える既存電解槽に、電解用電極及び新たな隔膜を配することにより、新たな電解槽を製造するための方法であって、前記陽極フレーム及び前記陰極フレームの一体化を解除し、前記隔膜を露出させる工程(A2)と、前記工程(A2)の後、前記隔膜を除去し、前記陽極又は陰極上に前記電解用電極及び新たな隔膜を配する工程(B2)と、前記陽極フレーム及び前記陰極フレームを一体化させることにより、前記陽極と前記陰極と前記隔膜と前記電解用電極及び新たな隔膜とを前記電解セルフレームに格納する工程(C2)と、を有する。
上記のように、第2の方法によれば、既存電解槽による陽極及び陰極を除去することなくこれらの少なくとも一方の性能と隔膜の性能とを合わせて更新することができるため、電解セルの取出、搬出、古い電極の除去、新しい電極の設置・固定、電解槽への運搬・設置、といった一連の煩雑な作業を伴うことなく、電解槽における部材の更新の際の作業効率を向上させることができる。
以下、「第3実施形態の製造方法」と称するときは、第1の方法及び第2の方法を包含するものとする。
【0264】
第3実施形態の製造方法において、既存電解槽は、陽極と、前記陽極に対向する陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配される隔膜と、を構成部材として含むものであり、換言すると、少なくとも陽極、陰極及び隔膜を構成部材とする電解セルを含むものである。既存電解槽は、上記した構成部材を含む限り特に限定されず、種々公知の構成を適用することができる。なお、既存電解槽における陽極は、電解用電極と接している場合、実質的には給電体として機能するものであり、電解用電極と接していない場合、それ自体が陽極として機能するものである。同様に、既存電解槽における陰極は、電解用電極と接している場合、実質的には給電体として機能するものであり、電解用電極と接していない場合、それ自体が陰極として機能するものである。ここで、給電体とは、劣化した電極(すなわち既存電極)や、触媒コーティングがされていない電極等を意味する。
【0265】
第1の方法において、新たな電解槽は、既存電解槽における陽極及び陰極に加えて、電解用電極を更に備えるものである。すなわち、新たな電解槽の製造の際に配される電解用電極は、陽極又は陰極として機能するものであり、既存電解槽における陰極及び陽極とは別体である。また、第2の方法において、新たな電解槽は、既存電解槽における陽極及び陰極に加えて、電解用電極及び新たな隔膜を更に備えるものである。
第1の方法においては、既存電解槽の運転に伴って陽極及び/又は陰極の電解性能が劣化した場合であっても、これとは別体の電解用電極が配されることで、陽極及び/又は陰極の性能を更新することができる。さらに、第2の方法においては、新たな隔膜も、併せて配されることとなるため、運転に伴って性能が劣化した隔膜の性能も同時に更新することができる。
本明細書において、「性能を更新」とは、既存電解槽が運転に供される前に有していた初期性能と同等の性能にする、又は、当該初期性能よりも高い性能とすることを意味する。
【0266】
第3実施形態の製造方法において、既存電解槽は、「既に運転に供した電解槽」を想定しており、また、新たな電解槽は、「未だ運転に供していない電解槽」を想定している。すなわち、第3実施形態の製造方法において、新たな電解槽として製造された電解槽をひとたび運転に供すると、「第3実施形態における既存電解槽」となり、この既存電解槽に電解用電極(第2の方法にあっては、更に新たな隔膜)を配したものは「第3実施形態における新たな電解槽」となる。
【0267】
以下、隔膜としてイオン交換膜を用い、食塩電解を行う場合を例として、電解槽の一実施形態を詳述する。但し、第3実施形態において、電解槽は、食塩電解に用いられることに限定されず、例えば、水電解や燃料電池にも用いられる。
なお、本明細書において、特に断りがない限り、「第3実施形態における電解槽」は、「第3実施形態における既存電解槽」及び「第3実施形態における新たな電解槽」の双方を包含するものとして説明する。
また、既存電解槽における隔膜と、新たな隔膜とは、それぞれ、形状・材質・物性において同様とすることができる。したがって、本明細書においては、特に断りがない限り、「第3実施形態における隔膜」は、「第3実施形態における既存電解槽中の隔膜」及び「第3実施形態における新たな隔膜」を包含するものとして説明する。
【0268】
〔電解セル〕
まず、第3実施形態における電解槽の構成単位として使用できる電解セルについて説明する。
図28は、電解セル50の断面図である。
図28に示すように、電解セル50は、陽イオン交換膜51と、陽イオン交換膜51及び陽極フレーム24で画成される陽極室60と、陽イオン交換膜51及び陰極フレーム25で画成される陰極室70と、陽極室60に設置された陽極11と、陰極室70に設置された陰極21と、を備えるものであり、陽極11は陽極フレーム24に、
陰極21は陰極フレーム25に、それぞれ支持されている。なお、本明細書において、電解セルフレームと称するときは、陽極フレーム及び陰極フレームを包含するものとする。また、
図28において、説明の便宜上、陽イオン交換膜51、陽極フレーム及び陰極フレーム25を離して示しているが、電解槽に配置された状態では、これらは接触している。
電解セル50は、必要に応じ、基材18aと当該基材18a上に形成された逆電流吸収層18bとを有し、陰極室内に設置された逆電流吸収体18(
図31参照)を備える構成とすることができる。1つの電解セル50に属する陽極11及び陰極21は互いに電気的に接続されている。換言すれば、電解セル50は次の陰極構造体を備える。すなわち、陰極構造体は、陰極室70と、陰極室70に設置された陰極21と、陰極室70内に設置された逆電流吸収体18と、を備え、逆電流吸収体18は、
図31に示すように基材18aと当該基材18a上に形成された逆電流吸収層18bとを有し、陰極21と逆電流吸収層18bとが電気的に接続されている。陰極室70は、集電体23と、金属弾性体22とを更に有する。金属弾性体22は、集電体23及び陰極21の間に設置されている。集電体23は、金属弾性体22を介して、陰極21と電気的に接続されている。陰極フレーム25は集電体23と電気的に接続されている。したがって、陰極フレーム25、集電体23、金属弾性体22及び陰極21は電気的に接続されている。なお、陰極21及び逆電流吸収層18bは電気的に接続されている。陰極21及び逆電流吸収層は、直接接続されていてもよく、集電体、金属弾性体又は陰極フレーム等を介して間接的に接続されていてもよい。陰極21の表面全体は還元反応のための触媒層で被覆されていることが好ましい。また、電気的接続の形態は、陰極フレーム25と集電体23、集電体23と金属弾性体22がそれぞれ直接取り付けられ、金属弾性体22上に陰極21が積層される形態であってもよい。これらの各構成部材を互いに直接取り付ける方法として、溶接等があげられる。また、逆電流吸収体18、陰極21、および集電体23を総称して陰極構造体ということもできる。
【0269】
図29は、電解槽4を示す。
図30は、電解槽4を組み立てる工程を示す。
図29に示すように、電解槽4は、直列に接続された複数の電解セル50から構成される。つまり、電解槽4は、直列に配置された複数の電解セル50を備える複極式電解槽である。また、
図29~30に示すように、電解槽4は、複数の電解セル50を直列に配置して、プレス器5により連結されることにより組み立てられる。
【0270】
電解槽4は、電源に接続される陽極端子7と陰極端子6とを有する。電解槽4内で直列に連結された複数の電解セル50のうち最も端に位置する電解セル50の陽極11は、陽極端子7に電気的に接続される。電解槽4内で直列に連結された複数の電解セル2のうち陽極端子7の反対側の端に位置する電解セルの陰極21は、陰極端子6に電気的に接続される。電解時の電流は、陽極端子7側から、各電解セル50の陽極及び陰極を経由して、陰極端子6へ向かって流れる。なお、連結した電解セル50の両端には、陽極室のみを有する電解セル(陽極ターミナルセル)と、陰極室のみを有する電解セル(陰極ターミナルセル)を配置してもよい。この場合、その一端に配置された陽極ターミナルセルに陽極端子7が接続され、他の端に配置された陰極ターミナルセルに陰極端子6が接続される。
【0271】
塩水の電解を行なう場合、各陽極室60には塩水が供給され、陰極室70には純水又は低濃度の水酸化ナトリウム水溶液が供給される。各液体は、電解液供給管(図中省略)から、電解液供給ホース(図中省略)を経由して、各電解セル50に供給される。また、電解液及び電解による生成物は、電解液回収管(図中省略)より、回収される。電解において、塩水中のナトリウムイオンは、一方の電解セル50の陽極室60から、陽イオン交換膜51を通過して、陰極室70へ移動する。よって、電解中の電流は、電解セル50が直列に連結された方向に沿って、流れることになる。つまり、電流は、陽イオン交換膜51を介して陽極室60から陰極室70に向かって流れる。塩水の電解に伴い、陽極11側で塩素ガスが生成し、陰極21側で水酸化ナトリウム(溶質)と水素ガスが生成する。
【0272】
(陽極室)
陽極室60は、陽極11または陽極給電体11を有する。ここでいう給電体としては、劣化した電極(すなわち既存電極)や、触媒コーティングがされていない電極等を意味する。第3実施形態における電解用電極を陽極側へ挿入した場合には、11は陽極給電体として機能する。第3実施形態における電解用電極を陽極側へ挿入しない場合には、11は陽極として機能する。また、陽極室60は、陽極室60に電解液を供給する陽極側電解液供給部と、陽極側電解液供給部の上方に配置され、陽極フレーム24と略平行または斜めになるように配置されたバッフル板と、バッフル板の上方に配置され、気体が混入した電解液から気体を分離する陽極側気液分離部とを有することが好ましい。
【0273】
(陽極)
第3実施形態における電解用電極を陽極側へ挿入しない場合には、陽極室60の枠(すなわち、陽極枠)内には、陽極11が設けられている。陽極11としては、いわゆるDSA(登録商標)等の金属電極を用いることができる。DSAとは、ルテニウム、イリジウム、チタンを成分とする酸化物によって表面を被覆されたチタン基材の電極である。
形状としては、パンチングメタル、不織布、発泡金属、エキスパンドメタル、エレクトロフォーミングにより形成した金属多孔箔、金属線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等いずれのものも使用できる。
【0274】
(陽極給電体)
第3実施形態における電解用電極を陽極側へ挿入した場合には、陽極室60の枠内には、陽極給電体11が設けられている。陽極給電体11としては、いわゆるDSA(登録商標)等の金属電極を用いることもできるし、触媒コーティングがされていないチタンを用いることもできる。また、触媒コーティング厚みを薄くしたDSAを用いることもできる。さらに、使用済みの陽極を用いることもできる。
形状としては、パンチングメタル、不織布、発泡金属、エキスパンドメタル、エレクトロフォーミングにより形成した金属多孔箔、金属線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等いずれのものも使用できる。
【0275】
(陽極側電解液供給部)
陽極側電解液供給部は、陽極室60に電解液を供給するものであり、電解液供給管に接続される。陽極側電解液供給部は、陽極室60の下方に配置されることが好ましい。陽極側電解液供給部としては、例えば、表面に開口部が形成されたパイプ(分散パイプ)等を用いることができる。かかるパイプは、陽極11の表面に沿って、電解セルの底部に対して平行に配置されていることがより好ましい。このパイプは、電解セル50内に電解液を供給する電解液供給管(液供給ノズル)に接続される。液供給ノズルから供給された電解液はパイプによって電解セル50内まで搬送され、パイプの表面に設けられた開口部から陽極室60の内部に供給される。パイプを、陽極11の表面に沿って、電解セルの底部19に平行に配置することで、陽極室60の内部に均一に電解液を供給することができるため好ましい。
【0276】
(陽極側気液分離部)
陽極側気液分離部は、バッフル板の上方に配置されることが好ましい。電解中において、陽極側気液分離部は、塩素ガス等の生成ガスと電解液を分離する機能を有する。なお、特に断りがない限り、上方とは、
図28の電解セル50における右方向を意味し、下方とは、
図28の電解セル50における左方向を意味する。
【0277】
電解時、電解セル50で発生した生成ガスと電解液が混相(気液混相)となり系外に排出されると、電解セル50内部の圧力変動によって振動が発生し、イオン交換膜の物理的な破損を引き起こす場合がある。これを抑制するために、第3実施形態における電解セル50には、気体と液体を分離するための陽極側気液分離部が設けられていることが好ましい。陽極側気液分離部には、気泡を消去するための消泡板が設置されることが好ましい。気液混相流が消泡板を通過するときに気泡がはじけることにより、電解液とガスに分離することができる。その結果、電解時の振動を防止することができる。
【0278】
(バッフル板)
バッフル板は、陽極側電解液供給部の上方に配置され、かつ、陽極フレーム24と略平行または斜めに配置されることが好ましい。バッフル板は、陽極室60の電解液の流れを制御する仕切り板である。バッフル板を設けることで、陽極室60において電解液(塩水等)を内部循環させ、その濃度を均一にすることができる。内部循環を起こすために、バッフル板は、陽極11近傍の空間と陽極フレーム24近傍の空間とを隔てるように配置することが好ましい。かかる観点から、バッフル板は、陽極11及び陽極フレーム24の各表面に対向するように設けられていることが好ましい。バッフル板により仕切られた陽極近傍の空間では、電解が進行することにより電解液濃度(塩水濃度)が下がり、また、塩素ガス等の生成ガスが発生する。これにより、バッフル板により仕切られた陽極11近傍の空間と、陽極フレーム24近傍の空間とで気液の比重差が生まれる。これを利用して、陽極室60における電解液の内部循環を促進させ、陽極室60の電解液の濃度分布をより均一にすることができる。
【0279】
なお、
図28に示していないが、陽極室60の内部に集電体を別途設けてもよい。かかる集電体としては、後述する陰極室の集電体と同様の材料や構成とすることもできる。また、陽極室60においては、陽極11自体を集電体として機能させることもできる。
【0280】
(陽極フレーム)
陽極フレーム24は、陽イオン交換膜51と共に陽極室60を画成するものである。陽極フレーム24としては、電解用のセパレータとして公知のものを使用することができ、例えば、チタンからなる板を溶接した金属板が挙げられる。
【0281】
(陰極室)
陰極室70は、第3実施形態における電解用電極を陰極側へ挿入した場合には、21は陰極給電体として機能し、第3実施形態における電解用電極を陰極側へ挿入しない場合には、21は陰極として機能する。逆電流吸収体を有する場合は、陰極あるいは陰極給電体21と逆電流吸収体は電気的に接続されている。また、陰極室70も陽極室60と同様に、陰極側電解液供給部、陰極側気液分離部を有していることが好ましい。なお、陰極室70を構成する各部位のうち、陽極室60を構成する各部位と同様のものについては説明を省略する。
【0282】
(陰極)
第3実施形態における電解用電極を陰極側へ挿入しない場合には、陰極室70の枠(すなわち、陰極枠)内には、陰極21が設けられている。陰極21は、ニッケル基材とニッケル基材を被覆する触媒層とを有することが好ましい。ニッケル基材上の触媒層の成分としては、Ru、C、Si、P、S、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の金属及び当該金属の酸化物又は水酸化物が挙げられる。触媒層の形成方法としては、メッキ、合金めっき、分散・複合めっき、CVD、PVD、熱分解及び溶射が挙げられる。これらの方法を組み合わせてもよい。触媒層は必要に応じて複数の層、複数の元素を有してもよい。また、必要に応じて陰極21に還元処理を施してもよい。なお、陰極21の基材としては、ニッケル、ニッケル合金、鉄あるいはステンレスにニッケルをメッキしたものを用いてもよい。
形状としては、パンチングメタル、不織布、発泡金属、エキスパンドメタル、エレクトロフォーミングにより形成した金属多孔箔、金属線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等いずれのものも使用できる。
【0283】
(陰極給電体)
第3実施形態における電解用電極を陰極側へ挿入した場合には、陰極室70の枠内には、陰極給電体21が設けられている。陰極給電体21に触媒成分が被覆されていてもよい。その触媒成分は、もともと陰極として使用されて、残存したものでもよい。触媒層の成分としては、Ru、C、Si、P、S、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の金属及び当該金属の酸化物又は水酸化物が挙げられる。触媒層の形成方法としては、メッキ、合金めっき、分散・複合めっき、CVD、PVD、熱分解及び溶射が挙げられる。これらの方法を組み合わせてもよい。触媒層は必要に応じて複数の層、複数の元素を有してもよい。また、触媒コーティングがされてない、ニッケル、ニッケル合金、鉄あるいはステンレスに、ニッケルをメッキしたものを用いてもよい。なお、陰極給電体21の基材としては、ニッケル、ニッケル合金、鉄あるいはステンレスにニッケルをメッキしたものを用いてもよい。
形状としては、パンチングメタル、不織布、発泡金属、エキスパンドメタル、エレクトロフォーミングにより形成した金属多孔箔、金属線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュ等いずれのものも使用できる。
【0284】
(逆電流吸収層)
前述の陰極の触媒層用の元素の酸化還元電位よりも卑な酸化還元電位を持つ材料を逆電流吸収層の材料として選択することができる。例えば、ニッケルや鉄などが挙げられる。
【0285】
(集電体)
陰極室70は集電体23を備えることが好ましい。これにより、集電効果が高まる。第3実施形態では、集電体23は多孔板であり、陰極21の表面と略平行に配置されることが好ましい。
【0286】
集電体23としては、例えば、ニッケル、鉄、銅、銀、チタンなどの電気伝導性のある金属からなることが好ましい。集電体23は、これらの金属の混合物、合金又は複合酸化物でもよい。なお、集電体23の形状は、集電体として機能する形状であればどのような形状でもよく、板状、網状であってもよい。
【0287】
(金属弾性体)
集電体23と陰極21との間に金属弾性体22が設置されることにより、陰極21が陽イオン交換膜51に押し付けられ、陽極11と陰極21との間の距離が短くなり、直列に接続された複数の電解セル50全体に掛かる電圧を下げることができる。電圧が下がることにより、消費電量を下げることができる。また、金属弾性体22が設置されることにより、第3実施形態における電解用電極及び新たな隔膜を含む積層体を電解セルに設置した際に、金属弾性体22による押し付け圧により、該電解用電極を安定して定位置に維持することができる。
【0288】
金属弾性体22としては、渦巻きばね、コイル等のばね部材、クッション性のマット等を用いることができる。金属弾性体22としては、イオン交換膜を押し付ける応力等を考慮して適宜好適なものを採用できる。金属弾性体22を陰極室70側の集電体23の表面上に設けてもよいし、陽極室60側の陽極フレーム24の表面上に設けてもよい。通常、陰極室70が陽極室60よりも小さくなるよう両室が区画されているので、枠体の強度等の観点から、金属弾性体22を陰極室70の集電体23と陰極21の間に設けることが好ましい。また、金属弾性体23は、ニッケル、鉄、銅、銀、チタンなどの電気伝導性を有する金属からなることが好ましい。
【0289】
(陰極フレーム)
陰極フレーム25は、陽イオン交換膜51と共に陰極室70を画成するものである。陰極フレーム25としては、電解用のセパレータとして公知のものを使用することができ、例えば、ニッケルからなる板を溶接した金属板が挙げられる。
【0290】
(陽極側ガスケット、陰極側ガスケット)
陽極側ガスケット12は、陽極室60を構成する陽極フレーム24の表面に配置されることが好ましい。陰極側ガスケット13は、陰極室70を構成する陰極フレーム25の表面に配置されていることが好ましい。電解セル50が備える陽極側ガスケット12と、陰極側ガスケット13とが、陽イオン交換膜51を挟持するように、陽極フレーム24及び陰極フレーム25が一体化される(
図28参照)。これらのガスケットにより、上述の一体化の際、接続箇所に気密性を付与することができる。
【0291】
ガスケットとは、イオン交換膜と電解セルとの間をシールするものである。ガスケットの具体例としては、中央に開口部が形成された額縁状のゴム製シート等が挙げられる。ガスケットには、腐食性の電解液や生成するガス等に対して耐性を有し、長期間使用できることが求められる。そこで、耐薬品性や硬度の点から、通常、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDMゴム)、エチレン・プロピレンゴム(EPMゴム)の加硫品や過酸化物架橋品等がガスケットとして用いられる。また、必要に応じて液体に接する領域(接液部)をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素系樹脂で被覆したガスケットを用いることもできる。これらガスケットは、電解液の流れを妨げないように、それぞれ開口部を有していればよく、その形状は特に限定されない。例えば、陽極室60を構成する陽極フレーム24又は陰極室70を構成する陰極フレーム25の各開口部の周縁に沿って、額縁状のガスケットが接着剤等で貼り付けられる。例えば、陽イオン交換膜51を介して陽極フレーム24及び陰極フレーム25を接続する場合(
図28参照)、陽極フレーム24及び陰極フレーム25の各ガスケットを貼り付けた面で陽イオン交換膜51を挟む形で締め付ければよい。これにより、電解液、電解により生成するアルカリ金属水酸化物、塩素ガス、水素ガス等が電解セル50の外部に漏れることを抑制することができる。
【0292】
以下、
図32(A)~(D)を用い、第3実施形態の製造方法における各工程を説明する。まず、第1の方法における工程(A1)~(C1)について詳述する。
【0293】
(工程(A1))
第3実施形態における工程(A1)は、陽極フレーム及び前記陰極フレームの一体化を解除し、前記隔膜を露出させる工程である。
なお、
図32(A)は
図28と同様に電解セル50を示しており、この状態では、陽極フレーム24及び陰極フレーム25が一体化している。すなわち、陽極11と陰極21と陽イオン交換膜51とが電解セルフレームに格納されている。ここでの一体化は、特に限定されないが、例えば、陽極フレーム24及び陰極フレーム25を重ね合わせた状態で、これらの重なり合った端部を、予めボルト穴を開けておいたステンレス製の板で挟み、ボルト締めして固定する方法等が挙げられる。このような
図32(A)の状態から、上述の例では、ボルト締めを解除することによって一体化を解除し、陰極フレーム25を持ち上げる形で陽極フレーム24から陰極フレーム25を離し、
図32(B)に示す状態とする。
図32(B)の状態では、陽イオン交換膜51が露出されることとなる(工程(A1))。
【0294】
(工程(B1))
第3実施形態における工程(B1)は、工程(A1)の後、隔膜の表面の少なくとも一方に、電解用電極を配する工程である。
図32(C)は、陽イオン交換膜51の露出された面(露出面)上に電解用電極101を配する例を示している。この場合、電解用電極101は陰極として機能する。工程(B1)においては、かかる例に限定されず、陽イオン交換膜51の露出面とは反対側の面(反対面)上に電解用電極101を配してもよい。この場合、電解用電極101は陽極として機能する。また、陽イオン交換膜51の露出面上と、反対面上との双方に、各々電解用電極101を配してもよい。この場合、露出面上の電解用電極101は陰極として機能し、反対面上の電解用電極101は陽極として機能する。
【0295】
(工程(C1))
第3実施形態における工程(C1)は、工程(B1)の後、陽極フレーム及び陰極フレームを一体化させることにより、陽極と陰極と隔膜と電解用電極とを電解セルフレームに格納する工程である。上記の一体化は、特に限定されないが、例えば、陽極フレーム24及び陰極フレーム25を重ね合わせた状態で、これらの重なり合った端部を、予めボルト穴を開けておいたステンレス製の板で挟み、ボルト締めして固定する方法等が挙げられる。このようにして一体化することで、
図32(D)に示す状態となる。
図32(D)は、陽イオン交換膜51の露出面上に電解用電極101を配する例を示しており、この場合、陰極21は給電体として機能する。工程(C1)においては、かかる例に限定されず、陽イオン交換膜51の露出面とは反対側の面(反対面)上に電解用電極101を配してもよい。この場合、陽極11は給電体として機能する。また、陽イオン交換膜51の露出面上と、反対面上との双方に、各々電解用電極101を配してもよい。この場合、陽極11及び陰極21の双方が給電体として機能する。
【0296】
なお、
図32においては、陽極フレーム24を下側に、陰極フレーム25を上側に配置する例、すなわち、陽極フレーム24を作業台103に載置する例を示しているが、かかる位置関係に限定されるものではない。陽極フレーム24と陰極フレーム25の位置関係は逆であってもよく、すなわち、陰極フレーム25を作業台103に載置してもよい。この場合、工程(A1)を経た時点で隔膜は陰極上に存在することとなる。
【0297】
次いで、第2の方法について詳述する。
【0298】
(工程(A2))
第3実施形態における工程(A2)は、陽極フレーム及び前記陰極フレームの一体化を解除し、前記隔膜を露出させる工程である。この工程は、上述した工程(A1)と同様に実施することができ、例えば、
図33(A)(
図32(A)と同じ構成の電解セルを
図32(B)の状態にしたときと同様)に示す状態とすることができる。
【0299】
(工程(B2))
第3実施形態における工程(A2)は、工程(A2)の後、隔膜を除去し、陽極又は陰極上に電解用電極及び新たな隔膜を配する工程である。第3実施形態において、電解用電極及び新たな隔膜を別々に準備し、陽極又は陰極上に各々配置してもよく、電解用電極及び新たな隔膜を積層体として陽極又は陰極上に同時に配置してもよい。
積層体を用いる例で説明すると、まず、
図33(A)に示す状態でイオン交換膜51を除去し、
図33(B)に示す状態とする。次いで、電解用電極及び新たな隔膜から構成される積層体104を陽極11上に配することで、
図33(C)に示す状態となる。
【0300】
(工程(C2))
第3実施形態における工程(C2)は、陽極フレーム及び陰極フレームを一体化させることにより、陽極と陰極と隔膜と電解用電極及び新たな隔膜とを電解セルフレームに格納する工程である。この工程は、上述した工程(C1)と同様に実施することができる。例えば、
図33(C)に示す状態から、陽極フレーム24及び陰極フレーム25を重ね合わせ、これらの重なり合った端部を、予めボルト穴を開けておいたステンレス製の板で挟み、ボルト締めして固定する方法等により陽極と陰極と隔膜と電解用電極及び新たな隔膜とを電解セルフレームに格納することで、
図33(D)に示す状態とすることができる。
【0301】
なお、
図33においては、陽極フレーム24を下側に、陰極フレーム25を上側に配置する例を示しているが、かかる位置関係に限定されるものではなく、陽極フレーム24と陰極フレーム25の位置関係は逆であってもよい。この場合、工程(A2)を経た時点で隔膜は陰極上に存在することとなる。
【0302】
以下、第1の方法及び第2の方法の双方について採用しうる好ましい態様について説明する。
【0303】
第3実施形態において、工程(B1)の前に、電解用電極及び/又は隔膜を液体で湿潤させることが好ましい。同様に、工程(B2)の前に、電解用電極及び/又は隔膜を液体で湿潤させることが好ましい。このようにすることで、工程(B1)又は工程(B2)において電解用電極を隔膜上に固定しやすくなる傾向にある。上記液体としては、水、有機溶媒など表面張力を発生させるものであればどのような液体でも使用することができる。液体の表面張力が大きいほど、隔膜と電解用電極との間にかかる力は大きくなるため、表面張力の大きな液体が好ましい。液体としては、次のものが挙げられる(カッコ内の数値は、その液体の20℃における表面張力である)。
ヘキサン(20.44mN/m)、アセトン(23.30mN/m)、メタノール(24.00mN/m)、エタノール(24.05mN/m)、エチレングリコール(50.21mN/m)水(72.76mN/m)
表面張力の大きな液体であれば、隔膜と電解用電極とが一体化しやすく、工程(B1)又は工程(B2)において電解用電極の隔膜上への固定がより容易となる傾向にある。隔膜と電解用電極との間の液体は表面張力によりお互いが張り付く程度の量でよく、その結果液体量が少ないため、電解槽の運転時に電解液に混ざっても、電解自体に影響を与えることはない。
実用状の観点からは、液体としてエタノール、エチレングリコール、水等の表面張力が24mN/mから80mN/mの液体を使用することが好ましい。特に水、または水に苛性ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を溶解させてアルカリ性にした水溶液が好ましい。また、これらの液体に界面活性剤を含ませ、表面張力を調整することもできる。界面活性剤を含むことで、隔膜と電解用電極との接着性が変化し、ハンドリング性を調整することができる。界面活性剤としては、特に限定されず、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。
【0304】
第3実施形態において、電解用電極の隔膜上への固定をより容易とする観点から、電解用電極に付着する水溶液の単位面積あたりの付着量が1~1000g/m2の範囲内で適切に調整することが好ましい。上記付着量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0305】
第3実施形態における工程(B1)において、隔膜に対する電解用電極の載置面が、水平面に対して、0°以上90°未満であることが好ましい。同様に、工程(B2)において、隔膜に対する電解用電極の載置面が、水平面に対して、0°以上90°未満であることが好ましい。
図32(A)の例では、第3実施形態における電解セル50は、作業台103の上に載置される。より具体的には、作業台103上の電解セル載置面103aに電解セル50が載置される。典型的には、作業台103の電解セル載置面103aは、水平面(重力の方向と直角をなす面)と平行であり、載置面103aは水平面とみなすことができる。また、
図32(C)の例において、イオン交換膜51上における電解用電極101の載置面51aは、作業台103の電解セル載置面103aと平行である。この例において、隔膜に対する電解用電極の載置面が、水平面に対して、0°となる。イオン交換膜51上における電解用電極101の載置面51aは、作業台103上の電解セル載置面103aに対して傾いていてもよいが、上記のとおり、その傾きとして0°以上90°未満であることが好ましい。工程(B2)についても同様である。
上記観点から、隔膜に対する電解用電極の載置面が、水平面に対して、0°~60°であることがより好ましく、さらに好ましくは0°~30°である。
【0306】
第3実施形態における工程(B1)において、隔膜の表面に電解用電極を載置し、当該電解用電極を平坦化させることが好ましい。同様に、第3実施形態における工程(B2)において、陽極又は陰極上に電解用電極を載置し、電解用電極上に新しい隔膜を載置し、新しい隔膜を平坦化させることが好ましい。
上記平坦化を行う際、平坦化手段を用いることができ、工程(B1)及び工程(B2)において、平坦化手段の新しい隔膜に対する接触圧力としては、適切な範囲に調整することが好ましく、例えば、後述する実施例に記載の方法により測定して得られる値としては、0.1gf/cm2~1000gf/cm2の範囲であることが好ましい。
【0307】
第3実施形態における工程(B1)において、電解用電極が隔膜上の通電面を覆うように、電解用電極を位置決めすることが好ましい。ここで、「通電面」は、隔膜の表面のうち、陽極室と陰極室との間で電解質の移動が行わるように設計された部分に対応する。
同様の観点から、第3実施形態における工程(B2)において、電解用電極及び新たな隔膜を別々に準備し、陽極又は陰極上に各々配置する場合にあっては、電解用電極が隔膜上の通電面を覆うように、電解用電極を位置決めすることが好ましい。また、工程(B2)において、電解用電極及び新たな隔膜を積層体として陽極又は陰極上に同時に配置する場合にあっては、積層体とする際に電解用電極が隔膜上の通電面を覆うように、電解用電極を位置決めすることが好ましい。
【0308】
第3実施形態における工程(B1)において、電解用電極を捲回してなる捲回体を用いることが好ましい。
捲回体を用いる工程の具体例としては、以下に限定されないが、
図32(B)に示す例においてイオン交換膜51上に捲回体を配し、次いでイオン交換膜51上で捲回体の捲回状態を解除し、
図32(C)のようにイオン交換膜51上に電解用電極101を配することが好ましい。第3実施形態においては、電解用電極をそのまま捲回して捲回体としてもよく、電解用電極をコアに捲き付けて捲回体としてもよい。ここで使用しうるコアとしては、特に限定されないが、例えば、略円柱形状を有し、電解用電極に応じたサイズの部材を用いることができる。上述のように捲回体として用いられる電解用電極は、捲回可能なものであれば特に限定されず、その材質や形状等については、第3実施形態における捲回体を用いる工程や電解槽の構成等を考慮し、捲回体とする上で適切なものを適宜選択することができる。具体的には、後述する好ましい態様の電解用電極を使用することができる。
上記と同様に、工程(B2)において、電解用電極、又は電解用電極と新たな隔膜とから構成される積層体を捲回してなる捲回体を用いることが好ましい。
【0309】
〔積層体〕
上述のように、第3実施形態における電解用電極は、イオン交換膜や微多孔膜などの隔膜との積層体として用いることができる。すなわち、第3実施形態における積層体は、電解用電極と隔膜とを含むものである。なお、第3実施形態における新たな積層体は、新たな電解用電極及び新たな隔膜を含むものであり、上述したように、既存電解槽における既存積層体とは別体であれば特に限定されず、当該積層体と同様の構成とすることもできる。
【0310】
〔電解用電極〕
第3実施形態において、電解用電極は、特に限定されないが、上述のように隔膜と積層体を構成できるものであることが好ましく、捲回体として用いられるものであることもまた好ましい。電解用電極は、電解槽において陰極として機能するものであってもよく、陽極として機能するものであってもよい。また、電解用電極の材質・形状・物性等については、第3実施形態の製造方法における各工程や電解槽の構成等を考慮し、適切なものを適宜選択することができる。なお、第1実施形態及び第2実施形態で説明した電解用電極を第3実施形態で好ましく採用することができるが、これらはあくまで好ましい態様の例示に過ぎず、第1実施形態及び第2実施形態で説明した電解用電極以外の電解用電極も適宜採用することができる。
【0311】
〔隔膜〕
第3実施形態において、隔膜は、特に限定されないが、上述のように電解用電極と積層体を構成できるものであることが好ましく、積層体としたときに捲回体として用いられるものであることもまた好ましい。隔膜の材質・形状・物性等については、第3実施形態の製造方法における各工程や電解槽の構成等を考慮し、適切なものを適宜選択することができる。具体的には、第1実施形態及び第2実施形態で説明した隔膜を第3実施形態で好ましく採用することができるが、これらはあくまで好ましい態様の例示に過ぎず、第1実施形態及び第2実施形態で説明した隔膜以外の隔膜も適宜採用することができる。
【実施例】
【0312】
以下の実施例及び比較例により本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0313】
<第1実施形態の検証>
以下に述べるとおりに、第1実施形態に対応する実験例(以降の<第1実施形態の検証>の項において、単に「実施例」と称する。)と、第1実施形態に対応しない実験例(以降の<第1実施形態の検証>の項において、単に「比較例」と称する。)を準備し、下記の方法にてこれらを評価した。
【0314】
〔実施例及び比較例に用いる積層体〕
(隔膜)
積層体の製造に用いる隔膜としては、下記のとおりに製造されたイオン交換膜Aを使用した。
強化芯材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、90デニールのモノフィラメントを用いた(以下、PTFE糸という。)。犠牲糸として、35デニール、6フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、PET糸という。)。まず、TD及びMDの両方向のそれぞれにおいて、PTFE糸が24本/インチ、犠牲糸が隣接するPTFE糸間に2本配置するように平織りして、織布を得た。得られた織布を、ロールで圧着し、厚さ70μmの織布である補強材を得た。
次に、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOCH3との共重合体でイオン交換容量が0.85mg当量/gである乾燥樹脂の樹脂A、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fとの共重合体でイオン交換容量が1.03mg当量/gである乾燥樹脂の樹脂Bを準備した。
これらの樹脂A及び樹脂Bを使用し、共押出しTダイ法にて樹脂A層の厚みが15μm、樹脂B層の厚みが84μmである、2層フィルムXを得た。また、樹脂Bのみを使用し、Tダイ法にて厚みが20μmである単層フィルムYを得た。
続いて、内部に加熱源及び真空源を有し、その表面に微細孔を有するホットプレート上に、離型紙(高さ50μmの円錐形状のエンボス加工)、フィルムY、補強材及びフィルムXの順に積層し、ホットプレート表面温度223℃、減圧度0.067MPaの条件で2分間加熱減圧した後、離型紙を取り除くことで複合膜を得た。なお、フィルムXは樹脂Bが下面となるように積層した。
得られた複合膜を、ジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む80℃の水溶液に20分浸漬することでケン化した。その後、水酸化ナトリウム(NaOH)0.5N含む50℃の水溶液に1時間浸漬して、イオン交換基の対イオンをNaに置換し、続いて水洗した。その後、研磨ロールと膜の相対速度が100m/分、研磨ロールのプレス量を2mmとして樹脂B側表面を研磨し、開孔部を形成した後に、60℃で乾燥した。
さらに、樹脂Bの酸型樹脂の5質量%エタノール溶液に、1次粒径1μmの酸化ジルコニウムを20質量%加え、分散させた懸濁液を調合し、懸濁液スプレー法で、上記の複合膜の両面に噴霧し、酸化ジルコニウムのコーティングを複合膜の表面に形成させ、隔膜としてのイオン交換膜Aを得た。
酸化ジルコニウムの塗布密度を蛍光X線測定で測定したところ0.5mg/cm2だった。ここで、平均粒径は、粒度分布計(島津製作所製「SALD(登録商標)2200」)によって測定した。
【0315】
(電解用電極)
電解用電極としては、下記のものを使用した。
幅280mm、長さ2500mm、厚み22μmのニッケル箔を準備した。
このニッケル箔の片面にニッケルメッキによる粗面化処理を施した。
粗面化した表面の算術平均粗さRaは0.95μmだった。
表面粗さ測定には、触針式の表面粗さ測定機SJ-310(株式会社ミツトヨ)を使用した。
地面と平行な定盤上に測定サンプルを設置し、下記の測定条件で算術平均粗さRaを測定した。測定は、6回実施時、その平均値を記載した。
【0316】
<触針の形状>円すいテーパ角度=60°、先端半径=2μm、静的測定力=0.75mN
<粗さ規格>JIS2001
<評価曲線>R
<フィルタ>GAUSS
<カットオフ値 λc>0.8mm
<カットオフ値 λs>2.5μm
<区間数>5
<前走、後走>有
【0317】
このニッケル箔にパンチング加工により直径1mmの円形の孔をあけ多孔箔とした。開孔率は44%であった。
電極触媒を形成するためのコーティング液を以下の手順で調製した。
ルテニウム濃度が100g/Lの硝酸ルテニウム溶液(株式会社フルヤ金属)、硝酸セリウム(キシダ化学株式会社)を、ルテニウム元素とセリウム元素のモル比が1:0.25となるように混合した。この混合液を充分に撹拌し、これを陰極コーティング液とした。
ロール塗布装置の最下部に上記塗布液を入れたバットを設置した。PVC(ポリ塩化ビニル)製の筒に独立気泡タイプの発泡EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)製のゴム(イノアックコーポレイション、E-4088、厚み10mm)を巻きつけた塗布ロールと塗布液が常に接するように設置した。その上部に同じEPDMを巻きつけた塗布ロールを設置、更にその上にPVC製のローラーを設置した。
電解用電極基材を2番目の塗布ロールと最上部のPVC製のローラーの間を通して塗布液を塗布した(ロール塗布法)。その後、50℃で10分間の乾燥、150℃で3分間の仮焼成を行い、350℃で10分間の焼成を実施した。これら塗布、乾燥、仮焼成、焼成の一連の操作を所定のコーティング量になるまで繰り返した。
作製した電解用電極の厚みは、29μmだった。酸化ルテニウムと酸化セリウムを含む触媒層の厚みは、電解用電極の厚みから電解用電極基材の厚みを差し引いてそれぞれ7μmだった。
コーティングは粗面化されていない面にも形成された。
【0318】
〔積層体の電解性能の評価〕
下記電解実験によって、電解性能を評価した。
陽極が設置された陽極室を有するチタン製の陽極セルと、陰極が設置されたニッケル製の陰極室を有する陰極セルとを向い合せた。セル間に一対のガスケットを配置し、一対のガスケット間に、後述する各実施例、比較例で作製した積層体から170mm角に切り出した測定用サンプルの積層体を挟んだ。
そして、陽極セル、ガスケット、イオン交換膜、ガスケット及び陰極を密着させて、電解セルを得た。
陽極は、前処理としてブラストおよび酸エッチング処理をしたチタン基材上に、塩化ルテニウム、塩化イリジウム及び四塩化チタンの混合溶液を塗布、乾燥、焼成することで作製した。
陽極は、溶接により陽極室に固定した。
陰極室の集電体としては、ニッケル製エキスパンドメタルを使用した。集電体のサイズは縦95mm×横110mmであった。
金属弾性体としては、ニッケル細線で編んだマットレスを使用した。金属弾性体であるマットレスを集電体の上に置いた。その上に直径150μmのニッケル線を40メッシュの目開きで平織したニッケルメッシュを被せ、Niメッシュの四隅を、テフロン(登録商標)で作製した紐で集電体に固定した。このNiメッシュを給電体とした。
この電解セルにおいては、金属弾性体であるマットレスの反発力を利用して、ゼロギャップ構造になっている。
ガスケットとしては、EPDM(エチレンプロピレンジエン)製のゴムガスケットを使用した。
上記電解セルを用いて食塩の電解を行った。
陽極室の塩水濃度(塩化ナトリウム濃度)は205g/Lに調整した。
陰極室の水酸化ナトリウム濃度は32質量%に調整した。
各電解セル内の温度が90℃になるように、陽極室及び陰極室の各温度を調節した。
電流密度6kA/m2で食塩電解を実施し、電圧、電流効率、苛性ソーダ中食塩濃度を測定した。
苛性ソーダ中食塩濃度は苛性ソーダ濃度を50%に換算した値を示した。
【0319】
〔実施例1-1〕
次のようにして、予め、捲回体である電極用ロールと、隔膜用ロールとを作製した。
まず、前記記載の方法で、隔膜として、幅300mm、長さ2800mmのイオン交換膜を準備した。
また、前記記載の方法で、厚み29μm、幅280mm、長さ2500mmの電解用電極を準備した。
イオン交換膜を純水に一昼夜浸漬した後、カルボン酸層側が外側になるように外径76mm、幅400mmのポリ塩化ビニル(PVC)パイプに捲回して捲回体を作製した。
同様に電極も、粗面化処理を施した面が外側になるように外径76mm、幅400mmのPVCパイプに捲回して捲回体を作製した。
このようにして、
図34に示すイオン交換膜(実線)の捲回体(捲回体1)、
図35に示す電解用電極(破線)の捲回体(捲回体2)を作製した。
図36のように、捲回体1及び捲回体2を配置し、電解用電極とイオン交換膜を同時に引き出しながら積層体を作製した。
イオン交換膜に付着している水の表面張力により電解用電極が吸い付くようにイオン交換膜に積層した。
2800mm引き出したが、しわ、折れなく容易に積層体を作製することができた。
実施例1-1で作製した積層体から、170mm角のサイズで、電解性能の評価用のサンプルを切り出し、電解評価を実施した。
積層体の電解用電極面が、陰極給電体側になるようにセットした。
下記表1に、電解性能の評価結果を示した。
【0320】
〔実施例1-2〕
実施例1-1と同じ捲回体1及び捲回体2を用意した。
実施例1-1とは捲回体の配置を逆転させて、
図37に示すように、捲回体1及び捲回体2を配置し、電解用電極とイオン交換膜を同時に引き出しながら積層体を作製した。
イオン交換膜に付着している水の表面張力により電解用電極が吸い付くようにイオン交換膜に積層した。
2800mm引き出したが、しわ、折れなく容易に積層体を作製することができた。電解用電極が落下することもなかった。
【0321】
〔実施例1-3〕
実施例1-1と同じ捲回体1及び捲回体2を用意した。ただし、捲回体2は粗面化処理を施した面が内側になるようにした。
図38のように、捲回体1及び捲回体2を横に配置し、電解用電極の、隔膜用ロールに対する抱き角を約150°にして電解用電極とイオン交換膜を同時に引き出しながら積層体を作製した。
イオン交換膜に付着している水の表面張力により電解用電極が吸い付くようにイオン交換膜に積層した。
2800mm引き出したが、しわ、折れなくきれいに積層体を作製することができた。
また、
図39のように、電解用電極の抱き角を0°にしてもイオン交換膜に付着している水の表面張力により電極が吸い付くようにイオン交換膜に積層した。
2800mm引き出したが、しわ、折れなく容易に積層体を作製することができた。
図38及び
図39において、それぞれ、捲回体1と捲回体2の位置を入れ替えても、容易に積層体を作製することができた。ただし、入れ替えた場合には捲回体1はカルボン酸層側が外側になるようにした。
【0322】
〔実施例1-4〕
実施例1-1と同様に、捲回体1及び捲回体2を用意した。
図40のように、捲回体1及び捲回体2を横に配置し、電解用電極の隔膜用ロールに対する抱き角を180°以上の約230°にして、電解用電極とイオン交換膜を同時に引き出しながら積層体を作製した。
イオン交換膜に付着している水の表面張力により電解用電極が吸い付くようにイオン交換膜に積層した。
2800mm引き出したが、しわ、折れなく容易に積層体を作製することができた。
図40において、捲回体1と捲回体2の位置を入れ替えても、容易に積層体を作製することができた。ただし、入れ替えた場合には捲回体1はカルボン酸層側が外側になるようにした。
【0323】
〔実施例1-5〕
実施例1-1と同様に捲回体1及び捲回体2を用意した。ただし、捲回体2は粗面化処理を施した面が内側になるようにした。
この実施例1-5では、さらにガイドロールとして外径76mm、幅400mmのポリ塩化ビニル(PVC)パイプも用意した(捲回体1、2に使用しているPVCパイプと同じもの)。
図41のように、捲回体1及び捲回体2を配置し、ガイドロールを通して電解用電極を繰り出し、電解用電極とイオン交換膜を同時に引き出しながら積層体を作製した。
イオン交換膜に付着している水の表面張力により電解用電極が吸い付くようにイオン交換膜に積層した。
2800mm引き出したが、しわ、折れなくきれいに積層体を作製することができた。
図42のように、抱き角を0°にしても、しわ、折れなく容易に積層体を作製することができた。
図41及び
図42において、捲回体1と捲回体2の位置を入れ替えても、容易に積層体を作製することができた。ただし、入れ替えた場合には捲回体1はカルボン酸層側が外側になるようにした。
【0324】
〔実施例1-6〕
実施例1-1と同様に、捲回体1及び捲回体2を用意した。ただし、捲回体2は粗面化処理を施した面が内側になるようにした。
この実施例1-6では、さらにニップロールとして外径76mm、幅400mmのポリ塩化ビニル(PVC)パイプも用意した(捲回体1、2に使用しているPVCパイプと同じもの)。
図43のように、捲回体1及び捲回体2を配置し、ニップロールを通して電解用電極を繰り出し、電解用電極とイオン交換膜を同時に引き出しながら積層体を作製した。
イオン交換膜に付着している水の表面張力により電解用電極が吸い付くようにイオン交換膜に積層した。
2800mm引き出したが、しわ、折れなく容易に積層体を作製することができた。
図43において、捲回体1と捲回体2の位置を入れ替えても、容易に積層体を作成することができた。ただし、捲回体1はカルボン酸層側が外側になるようにした。
【0325】
〔実施例1-7〕
実施例1-1と同様に捲回体1及び捲回体2を用意した。ただし、捲回体2は粗面化処理を施した面が内側になるようにした。
この実施例1-7では、一組のニップロールとして外径76mm、幅400mmのポリ塩化ビニル(PVC)パイプを2本用意した(捲回体1、2に使用しているPVCパイプと同じもの)。
図44のように捲回体1及び捲回体2を配置し、ニップロールを通して電解用電極を繰り出し、電解用電極とイオン交換膜を同時に引き出しながら積層体を作製した。
イオン交換膜に付着している水の表面張力により電解用電極が吸い付くようにイオン交換膜に積層した。
2800mm引き出したが、しわ、折れなく容易に積層体を作製することができた。
図44において、捲回体1と捲回体2の位置を入れ替えても、容易に積層体を作成することができた。ただし、入れ替えた場合には捲回体1はカルボン酸層側が外側になるようにした。
【0326】
上述した各実施例では、予め純水をイオン交換膜に供給して湿潤させて、平衡したイオン交換膜を使用したが、重曹水溶液や苛性水溶液で平衡したイオン交換膜を使用しても積層体を容易に作製できることが確認された。
ガイドロール、ニップロールの配置する場合については、代表的な配置を記載しており、任意の配置にすることができる。
【0327】
〔比較例1-1〕
比較例1-1では先行文献(特開昭58-48686号公報の実施例)を参考に電極を隔膜に熱圧着した膜電極接合体を作製した。
陰極電解用電極基材としてゲージ厚み100μm、開孔率33%のニッケルエキスパンドメタルを使用し、前記〔実施例1-1〕と同様に電極コーティングを実施した。その後、電極の片面に、不活性化処理を下記の手順で実施した。
ポリイミド粘着テープ(中興化成株式会社)を電極の片面に貼り付け、反対面にPTFEディスパージョン(三井デュポンフロロケミカル株式会社、31-JR)を塗布、120℃のマッフル炉で10分間乾燥させた。ポリイミドテープを剥がし、380℃に設定したマッフル炉で10分間焼結処理を実施した。この操作を2回繰り返し、電極の片面を不活性化処理した。
末端官能基が「-COOCH3」であるパーフルオロカーボンポリマー(Cポリマー)と、末端基が「-SO2F」であるパーフルオロカーボンポリマー(Sポリマー)の2層で形成される膜を作製した。Cポリマー層の厚みが3ミル(mil)、Sポリマー層の厚みは4ミル(mil)であるものとした。この2層膜にケン化処理を実施し、ポリマーの末端を加水分解によりイオン交換基を導入した。Cポリマー末端はカルボン酸基に、Sポリマー末端はスルホ基に加水分解される。スルホン酸基としてのイオン交換容量は1.0meq/g、カルボン酸基としてのイオン交換容量が0.9meq/gである。
イオン交換基としてカルボン酸基を有する面に、不活性化した電極面を対向させて熱プレスを実施し、イオン交換膜と電極を一体化させた。熱圧着後も、電極の片面は露出している状態であり、電極が膜を貫通している部分はなかった。
その後、電解中に発生する気泡の膜への付着を抑制するために、酸化ジルコニウムとスルホ基が導入されたパーフルオロカーボンポリマー混合物を両面に塗布した。このようにして、比較例1-1の膜電極接合体を作製した。
積層体としての膜電極接合体を作製するために、多数の工程を経る必要があり、積層体を作製するために一日以上の時間を要した。
上述した〔電解性能の評価〕を実施したところ、電圧は高く、電流効率は低く、苛性ソーダ中の食塩濃度(50%換算値)は高くなり、電解性能は著しく悪化した。評価結果を下記表1に示す。
【0328】
【0329】
<第2実施形態の検証>
以下に述べるとおりに、第2実施形態に対応する実験例(以降の<第2実施形態の検証>の項において、単に「実施例」と称する。)と、第2実施形態に対応しない実験例(以降の<第2実施形態の検証>の項において、単に「比較例」と称する。)を準備し、下記の方法にてこれらを評価した。
【0330】
[イオン交換膜F2の作製]
積層体の製造に用いる隔膜としては、下記のとおりに製造されたイオン交換膜F2を使用した。
強化芯材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、90デニールのモノフィラメントを用いた(以下、PTFE糸という。)。犠牲糸として、35デニール、6フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、PET糸という。)。まず、TD及びMDの両方向のそれぞれにおいて、PTFE糸が24本/インチ、犠牲糸が隣接するPTFE糸間に2本配置するように平織りして、織布を得た。得られた織布を、ロールで圧着し、厚さ70μmの織布である補強材を得た。
次に、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOCH3との共重合体でイオン交換容量が0.85mg当量/gである乾燥樹脂の樹脂A、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fとの共重合体でイオン交換容量が1.03mg当量/gである乾燥樹脂の樹脂Bを準備した。
これらの樹脂A及び樹脂Bを使用し、共押出しTダイ法にて樹脂A層の厚みが15μm、樹脂B層の厚みが84μmである、2層フィルムXを得た。また、樹脂Bのみを使用し、Tダイ法にて厚みが20μmである単層フィルムYを得た。
続いて、内部に加熱源及び真空源を有し、その表面に微細孔を有するホットプレート上に、離型紙(高さ50μmの円錐形状のエンボス加工)、フィルムY、補強材及びフィルムXの順に積層し、ホットプレート表面温度233℃、減圧度0.067MPaの条件で2分間加熱減圧した後、離型紙を取り除くことで複合膜を得た。なお、フィルムXは樹脂Bが下面となるように積層した。
得られた複合膜を、ジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む80℃の水溶液に20分浸漬することでケン化した。その後、水酸化ナトリウム(NaOH)0.5N含む50℃の水溶液に1時間浸漬して、イオン交換基の対イオンをNaに置換し、続いて水洗した。その後、研磨ロールと膜の相対速度が100m/分、研磨ロールのプレス量を2mmとして樹脂B側表面を研磨し、開孔部を形成した後に、60℃で乾燥した。
さらに、樹脂Bの酸型樹脂の5質量%エタノール溶液に、1次粒径1μmの酸化ジルコニウムを20質量%加え、分散させた懸濁液を調合し、懸濁液スプレー法で、上記の複合膜の両面に噴霧し、酸化ジルコニウムのコーティングを複合膜の表面に形成させ、隔膜としてのイオン交換膜F2を得た。このようにして得られたイオン交換膜F2は、その両面に凹凸構造が付与されており、その両面の陽極面側には離型紙由来の凹凸形状、その両面の陰極面側には芯材由来の凹凸形状が付与されていた。
酸化ジルコニウムの塗布密度を蛍光X線測定で測定したところ0.5mg/cm2だった。ここで、平均粒径は、粒度分布計(島津製作所製「SALD(登録商標)2200」)によって測定した。
【0331】
[界面水分量wの評価]
下記の式によって積層体の界面水分量wを評価した。
w=(T-e-m-(E-e/2)-(M-m/2))/(1-P/100)
w:単位電極面積当たりの膜/電極界面水分量(膜/電極界面水分量) / g/m2
T:水分を保持した積層体の重量 / g
e:電解用電極の乾燥重量 / g
E:水分を保持した電解用電極の重量 / g
m:表面付着水分を除去したイオン交換膜の重量 / g
M:水分を保持したイオン交換膜の重量 / g
P:電解用電極の開口率 / %
【0332】
・eの測定方法
電解用電極を200mm×200mmサイズに切り出した。50℃の乾燥機で30分以上保管し乾燥させた後、秤量した。この操作を5回実施し、平均値を求めた。
【0333】
・Eの測定方法
上記の電解用電極を25℃の純水が入ったバットに1時間保管した。電解用電極の四隅の一つの端を持ち、吊り上げ、20秒間保持し、自然に滴り落ちる水分を落とすことで、水切りを行った。20秒後、直ちに秤量を行った。この操作を5回実施し、平均値を求めた。
【0334】
・mの測定方法
200mm×200mmのイオン交換膜を25℃の純水が入ったバットに24時間平衡した。イオン交換膜を純水中から取り出し、キムタオル(日本製紙クレシア株式会社)に挟み、幅200mm、重量300g樹脂製ローラーを2往復させて、イオン交換膜の表面に付着した水分を除去した。その後、直ちに秤量を行った。この操作を5回実施し、平均値を求めた。
【0335】
・Mの測定方法
イオン交換膜を200mm×200mmのサイズで切り出し、25℃の純水が入ったバットに24時間平衡した。イオン交換膜の四隅の一つの端を持ち、吊り上げ、20秒間保持し、自然に滴り落ちる水分を落とすことで、水切りを行った。20秒後、直ちに秤量を行った。この操作を5回実施し、平均値を求めた。
【0336】
・Tの測定方法
イオン交換膜を200mm×200mmのサイズで切り出し、電解用電極を200mm×200mmサイズに切り出した。イオン交換膜と電解用電極をイオン交換膜の表面にある水分の界面張力を利用して積層体を形成させた。この積層体を25℃の純水が入ったバットに24時間平衡した。積層体の四隅の一つの端を持ち、吊り上げ、20秒間保持し、自然に滴り落ちる水分を落とすことで、水切りを行った。20秒後、直ちに秤量を行った。この操作を5回実施し、平均値を求めた。
【0337】
・Pの測定方法
電解用電極を200mm×200mmのサイズに切り出した。デジマチックシックスネスゲージ(株式会社ミツトヨ製、最少表示0.001mm)用いて面内を均一に10点測定した平均値を算出した。これを電極の厚み(ゲージ厚み)をとして、体積を算出した。その後、電子天秤で質量を測定し、金属の比重(ニッケルの比重=8.908g/cm3、チタンの比重=4.506g/cm3)から、開孔率あるいは空隙率を算出した。
開孔率(空隙率)(%)=(1-(電極質量)/(電極体積×金属の比重))×100
【0338】
[X線CT測定による割合a(隔膜の単位面積に対する、隙間体積の割合aであり、隙間体積/面積ともいう。)および凹凸構造の評価]
X線CTによりイオン交換膜の割合aおよびイオン交換膜の凹凸構造を評価した。使用したX線CT装置並びに画像処理ソフトウェアは以下を使用した。
X線CT装置 株式会社リガク製 高分解能3DX線顕微鏡 nano3DX
画像解析ソフトウェア ImageJ
X線CT測定用のイオン交換膜の試料は5mm×5mmに切断し、純水に浸し、余分な水分をふき取り、500gの重しを乗せ、室温で24hr乾燥させた後、X線CT測定を実施した。測定条件は以下のとおりとした。
画素解像度 2.16μm/pix
露光時間 8秒/枚
投影数 1000枚/180度
X線管電圧 50kV
X線管電流 24mA
X線ターゲット Mo
イオン交換膜の幅方向にX軸、X軸と直交しかつイオン交換膜の厚み方向にZ軸、X軸とZ軸に垂直な方向にY軸を定義した。
X線CT測定から得られたトモグラム画像(断層像(
図45に示す説明図))から、イオン交換膜の芯材の縦糸が6本分、横糸が6本分の範囲についてイオン交換膜の厚み方向の画像データがすべて入り、かつ直方体のすべての辺がイオン交換膜のX軸、Y軸、Z軸のいずれか一つと平行になるような直方体で画像をトリミングした。これを3次元画像1とした(
図46に示す説明図)。
3次元画像1に対して、画像処理方法のOtsu法を適用し領域分割を実施した。画素の輝度値を空気が0、イオン交換膜が255となるように設定した。このようにして得られた画像を3次元画像2とした(
図47に示す説明図)。この画像で、イオン交換膜の凹凸形状を観察した。
3次元画像2において、評価する面の凹凸評価を実施するため平面(面1)を、イオン交換膜のX軸とY軸で作る平面と平行であり、イオン交換膜と交わることなくかつ評価する表面との間にイオン交換膜が存在しない任意の面として決めた(
図48に示す説明図)。
図49及び
図50の説明図に示すように、面1の各画素からイオン交換膜表面の方向に面1と垂直な線を降ろし、面1からイオン交換膜表面に当たるまでの長さを求めた。面1と同じ画素数の画像を面2として定義し、先に求めた長さを面2の各画素における輝度値として、凹凸高さのコンター図を得た(2次元画像1)。2次元画像1では、イオン交換膜の凹凸を外側から観察した距離の画像であるため、イオン交換膜そのものの凹凸とするため、各画素について次式の画像演算を実施し、2次元画像2を得た(例えば、
図51に示す説明図)。
2次元画像2=2次元画像1の最大値-2次元画像1(各画素について計算)
次に、X線CT測定時の試料の傾斜や、試料のうねりの除去を実施した。2次元画像2に対して、半径300μm相当の影響範囲でMeanフィルターを実施し、2次元画像3を得た。次式の画像演算により、傾斜やうねりを除去した2次元画像4を求めた。これを、イオン交換膜の凹凸を反映した画像とした。
2次元画像4=2次元画像2-2次元画像3
【0339】
(隙間体積/面積の算出)
イオン交換膜の凹凸面と、所定の平面(
図51に示す面3)とに挟まれた3次元的な隙間の体積(
図51に示す斜線の空間)を求めた。ここでいう「所定の平面」(
図51に示す面3)は、イオン交換膜のXY面と平行であり、かつ面3でイオン交換膜の凹凸面を切断した際に面3での切断箇所の面積比率(すなわち、面3全体の面積に対する、凹凸面の切断面の断面積の割合)が2%となるように定義した。すなわち、イオン交換膜表面の凹凸高さの情報である2次元画像4に対して、ある閾値以上の輝度値の画素数が全画素数の2%となる閾値を求め、下記式に基づいて隙間体積/面積を求めた。
隙間体積/面積=Σ(閾値-2次元画像4)/2次元画像4の全画素数
(Σは、総和ではなく、2次元画像4について画素の輝度値が閾値より小さいすべての画素について和を取ることを意味する。)
【0340】
(凹凸情報の算出)
2次元画像4に対して、表面凹凸構造における、高さの最大値および最小値、上記最大値と最小値の差である高低差、高低差の平均値並びに高低差の標準偏差を求めた。
【0341】
なお、実施例2-1~2-7については、隔膜の陰極面側(カルボン酸層側)の割合aを求め、実施例2-8については、隔膜の陽極面側(スルホン酸層側)の割合aを求めた。)
【0342】
[電解用電極の作製方法]
(工程1)
陰極電解用電極基材として、ニッケル箔の片面に電解ニッケルメッキによる粗面化処理を施したゲージ厚みが22μmのニッケル箔を準備した。
(工程2)
このニッケル箔にパンチング加工により直径1mmの円形の孔をあけ多孔箔とした。開孔率は44%であった。
(工程3)
電極触媒を形成するための陰極コーティング液を以下の手順で調製した。ルテニウム濃度が100g/Lの硝酸ルテニウム溶液(株式会社フルヤ金属)、硝酸セリウム(キシダ化学株式会社)を、ルテニウム元素とセリウム元素のモル比が1:0.25となるように混合した。この混合液を充分に撹拌し、これを陰極コーティング液とした。
(工程4)
ロール塗布装置の最下部に上記陰極コーティング液を入れたバットを設置した。PVC(ポリ塩化ビニル)製の筒に独立気泡タイプの発泡EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)製のゴム(イノアックコーポレイション、E-4088、厚み10mm)を巻きつけた塗布ロールと陰極コーティング液が常に接するように設置した。その上部に同じEPDMを巻きつけた塗布ロールを設置、更にその上にPVC製のローラーを設置した。工程2で形成した多孔箔(電極基材)を2番目の塗布ロールと最上部のPVC製のローラーの間を通して陰極コーティング液を塗布した(ロール塗布法)。その後、50℃で10分間の乾燥、150℃で3分間の仮焼成、400℃で10分間の焼成を実施した。これら塗布、乾燥、仮焼成、焼成の一連の操作を所定のコーティング量になるまで繰り返した。このようにして、陰極電解用電極を作成した。
コーティングを形成した後、Sa/Sall、Save、H/tを測定した。
【0343】
[電解評価]
下記電解実験によって、電解性能を評価した。
陽極が設置された陽極室を有するチタン製の陽極セルと、陰極が設置されたニッケル製の陰極室を有する陰極セルとを向い合せた。セル間に一対のガスケットを配置し、一対のガスケット間にイオン交換膜を挟んだ。そして、陽極セル、ガスケット、イオン交換膜、ガスケット及び陰極を密着させて、電解セルを得た。
陽極としては、前処理としてブラスト及び酸エッチング処理をしたチタン基材上に、塩化ルテニウム、塩化イリジウム及び四塩化チタンの混合溶液を塗布、乾燥、焼成することで作製した。陽極は、溶接により陽極室に固定した。陰極としては、上記の方法で作成したものを使用した。陰極室の集電体としては、ニッケル製エキスパンドメタルを使用した。集電体のサイズは縦95mm×横110mmであった。金属弾性体としては、ニッケル細線で編んだマットレスを使用した。金属弾性体であるマットレスを集電体の上に置いた。その上に直径150μmのニッケル線を40メッシュの目開きで平織したニッケルメッシュを被せ、Niメッシュの四隅を、テフロン(登録商標)で作製した紐で集電体に固定した。このNiメッシュを給電体とした。この電解セルにおいては、金属弾性体であるマットレスの反発力を利用して、ゼロギャップ構造となるようにした。ガスケットとしては、EPDM(エチレンプロピレンジエン)製のゴムガスケットを使用した。
陽極が設置された陽極室を有するチタン製の陽極セルと、陰極が設置されたニッケル製の陰極室を有する陰極セルとを向い合せた。セル間に一対のガスケットを配置し、一対のガスケット間に各実施例、比較例で作成した積層体を挟んだ。そして、陽極セル、ガスケット、イオン交換膜、ガスケット及び陰極を密着させて、電解セルを得た。電解面積は104.5cm2であった。イオン交換膜は、樹脂A側が陰極室に向くように設置した。
【0344】
(イオン交換膜F2の樹脂A側に電解用電極を積層して評価する場合(実施例2-1~2-6))
陽極としては、前処理としてブラストおよび酸エッチング処理をしたチタン基材上に、塩化ルテニウム、塩化イリジウム及び四塩化チタンの混合溶液を塗布、乾燥、焼成することで作製した。陽極は、溶接により陽極室に固定した。陰極室の集電体としては、ニッケル製エキスパンドメタルを使用した。集電体のサイズは縦95mm×横110mmであった。金属弾性体としては、ニッケル細線で編んだマットレスを使用した。金属弾性体であるマットレスを集電体の上に置いた。その上に直径150μmのニッケル線を40メッシュの目開きで平織したニッケルメッシュを被せ、Niメッシュの四隅を、テフロン(登録商標)で作製した紐で集電体に固定した。このNiメッシュを給電体とした。この電解セルにおいては、金属弾性体であるマットレスの反発力を利用して、ゼロギャップ構造になっていた。ガスケットとしては、EPDM(エチレンプロピレンジエン)製のゴムガスケットを使用した。
積層体に使用する電解用電極としては、ゲージ厚みが22μmのニッケル箔にパンチング加工により直径1mmの円形の孔をあけ多孔箔とした。開孔率は44%であった。このニッケル箔に電極触媒を形成するためのコーティング液を以下の手順で調製した。
ルテニウム濃度が100g/Lの硝酸ルテニウム溶液(株式会社フルヤ金属)、硝酸セリウム(キシダ化学株式会社)を、ルテニウム元素とセリウム元素のモル比が1:0.25となるように混合した。この混合液を充分に撹拌し、これを陰極コーティング液とした。
ロール塗布装置の最下部に上記塗布液を入れたバットを設置した。PVC(ポリ塩化ビニル)製の筒に独立気泡タイプの発泡EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)製のゴム(イノアックコーポレイション、E-4088、厚み10mm)を巻きつけた塗布ロールと塗布液が常に接するように設置した。その上部に同じEPDMを巻きつけた塗布ロールを設置、更にその上にPVC製のローラーを設置した。電解用電極基材を2番目の塗布ロールと最上部のPVC製のローラーの間を通して塗布液を塗布した(ロール塗布法)。その後、50℃で10分間の乾燥、150℃で3分間の仮焼成を行い、350℃で10分間の焼成を実施した。これら塗布、乾燥、仮焼成、焼成の一連の操作を繰り返した。作製した電解用電極の厚みは、29μmだった。酸化ルテニウムと酸化セリウムを含む触媒層の厚みは、電解用電極の厚みから電解用電極基材の厚みを差し引いてそれぞれ7μmだった。
上記電解セルを用いて食塩の電解を行った。陽極室の塩水濃度(塩化ナトリウム濃度)は205g/Lに調整した。陰極室の水酸化ナトリウム濃度は32質量%に調整した。各電解セル内の温度が90℃になるように、陽極室及び陰極室の各温度を調節した。電流密度6kA/m2で食塩電解を実施し、電圧、電流効率、苛性ソーダ中食塩濃度を測定した。苛性ソーダ中食塩濃度は苛性ソーダ濃度を50%に換算した値を示した。
【0345】
(イオン交換膜F2の樹脂B側に電解用電極を積層して評価する場合(実施例2-7))
電解用電極基材としてゲージ厚み100μm、チタン繊維径が約20μm、目付量が100g/m2、開孔率78%のチタン不織布を使用した。
電極触媒を形成するためのコーティング液を以下の手順で調製した。ルテニウム濃度が100g/Lの塩化ルテニウム溶液(田中貴金属工業株式会社)、イリジウム濃度が100g/Lの塩化イリジウム(田中貴金属工業株式会社)、四塩化チタン(和光純薬工業株式会社)を、ルテニウム元素とイリジウム元素とチタン元素のモル比が0.25:0.25:0.5となるように混合した。この混合液を充分に撹拌し、これを陽極コーティング液とした。
ロール塗布装置の最下部に上記塗布液を入れたバットを設置した。PVC(ポリ塩化ビニル)製の筒に独立気泡タイプの発泡EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)製のゴム(イノアックコーポレイション、E-4088、厚み10mm)を巻きつけた塗布ロールと塗布液が常に接するように設置した。その上部に同じEPDMを巻きつけた塗布ロールを設置、更にその上にPVC製のローラーを設置した。電極基材を2番目の塗布ロールと最上部のPVC製のローラーの間を通して塗布液を塗布した(ロール塗布法)。チタン多孔箔に、上記コーティング液を塗布した後、60℃で10分間の乾燥、475℃で10分間の焼成を実施した。これら塗布、乾燥、仮焼成、焼成の一連の操作を繰り返し実施した後、520℃で1時間の焼成を行った。電極の厚みは114μmだった。触媒層の厚みは、電極の厚みから電解用電極基材の厚みを差し引いて14μmだった。
陰極は以下の手順で調製した。まず、基材として線径150μm、40メッシュのニッケル製金網を準備した。前処理としてアルミナでブラスト処理を実施した後、6Nの塩酸に5分間浸漬し純水で充分洗浄、乾燥させた。次に、ルテニウム濃度が100g/Lの硝酸ルテニウム溶液(株式会社フルヤ金属)、硝酸セリウム(キシダ化学株式会社)を、ルテニウム元素とセリウム元素のモル比が1:0.25となるように混合した。この混合液を充分に撹拌し、これを陰極コーティング液とした。
ロール塗布装置の最下部に上記塗布液を入れたバットを設置した。PVC(ポリ塩化ビニル)製の筒に独立気泡タイプの発泡EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)製のゴム(イノアックコーポレイション、E-4088、厚み10mm)を巻きつけた塗布ロールと塗布液が常に接するように設置した。その上部に同じEPDMを巻きつけた塗布ロールを設置、更にその上にPVC製のローラーを設置した。電極基材を2番目の塗布ロールと最上部のPVC製のローラーの間を通して塗布液を塗布した(ロール塗布法)。その後、50℃で10分間の乾燥、150℃で3分間の仮焼成、350℃で10分間の焼成を実施した。これら塗布、乾燥、仮焼成、焼成の一連の操作を繰り返した。この陰極をNiメッシュ給電体の代わりに陰極セルに設置した。
陽極セルには、劣化して電解電圧が高くなった陽極を溶接で固定し、陽極給電体とした。すなわち、セルの断面構造は、陰極室側から、集電体、マットレス、陰極、隔膜、電解用電極、劣化して電解電圧が高くなった陽極の順番に並び、ゼロギャップ構造を形成させた。劣化して電解電圧が高くなった陽極は、給電体として機能していた。なお、電解用電極と劣化して電解電圧が高くなった陽極との間は、物理的に接触しているのみで、溶接での固定をしなかった。
【0346】
[実施例2-1]
0.1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液でイオン交換膜F2を平衡させた。イオン交換膜F2の樹脂A側に電解用電極を、イオン交換膜F2の表面に付着している水溶液の界面張力を利用して張り付け、積層体を得た。電解用電極の面をNiメッシュ給電体側にして、電解セルに組み込み電解評価を実施した。結果を表2に示した。
表2にはイオン交換膜F2の隙間体積/面積(割合a)、高低差、標準偏差、界面水分量w、および電解用電極のSa/Sall、Save、H/tも示した。また、値Mは0だった。
【0347】
[実施例2-2]
イオン交換膜を作製する際、上部から室温の空気を送風しながら、ホットプレート表面温度223℃、減圧度0.067MPaの条件で2分間加熱減圧した。これ以外は、イオン交換膜F2と同じ方法で作製したイオン交換膜F3を使用した。
0.1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液でイオン交換膜F3を平衡させた。イオン交換膜F3の樹脂A側に電解用電極を、イオン交換膜F3の表面に付着している水溶液の界面張力を利用して張り付け、積層体を得た。電解用電極の面をNiメッシュ給電体側にして、電解セルに組み込み電解評価を実施した。結果を表2に示した。
表2にはイオン交換膜F3の隙間体積/面積(割合a)、高低差、標準偏差、界面水分量w、および電解用電極のSa/Sall、Save、H/tも示した。また、値Mは0だった。
【0348】
[実施例2-3]
イオン交換膜を作製する際、エンボス加工のない離型紙を用いた。これ以外は、イオン交換膜F2と同じ方法で作製したイオン交換膜F4を使用した。
0.1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液でイオン交換膜F4を平衡させた。イオン交換膜F4の樹脂A側に電解用電極を、イオン交換膜F4の表面に付着している水溶液の界面張力を利用して張り付け、積層体を得た。電解用電極の面をNiメッシュ給電体側にして、電解セルに組み込み電解評価を実施した。結果を表2に示した。
表2にはイオン交換膜F4の隙間体積/面積(割合a)、高低差、標準偏差、界面水分量w、および電解用電極のSa/Sall、Save、H/tも示した。また、値Mは0だった。
【0349】
[実施例2-4]
イオン交換膜を作製する際、離型紙(高さ50μmの円錐形状のエンボス加工)、フィルムY、補強材、フィルムX、カプトンフィルムの順に積層し、ホットプレート表面温度223℃、減圧度0.067MPaの条件で2分間加熱減圧した後、離型紙とカプトンフィルムを取り除くことで複合膜を得た。これ以外は、イオン交換膜F2と同じ方法で作製したイオン交換膜F5を使用した。
0.1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液でイオン交換膜F5を平衡させた。イオン交換膜F5の樹脂A側に電解用電極を、イオン交換膜F5の表面に付着している水溶液の界面張力を利用して張り付け、積層体を得た。電解用電極の面をNiメッシュ給電体側にして、電解セルに組み込み電解評価を実施した。結果を表2に示した。
表2にはイオン交換膜F5の隙間体積/面積(割合a)、高低差、標準偏差、界面水分量w、および電解用電極のSa/Sall、Save、H/tも示した。また、値Mは0だった。
【0350】
[実施例2-5]
陰極電解用電極基材として、ニッケル箔の片面に電解ニッケルメッキによる粗面化処理を施したゲージ厚みが22μmのニッケル箔を準備した。
このニッケル箔にパンチング加工により直径1mmの円形の孔をあけ多孔箔とした。開孔率は44%であった。
図24(A)に示すように表面に意匠を形成してある金属製ロールと樹脂製のプレッシャーロールを用いて、線圧333N/cmにて、多孔箔にエンボス加工することにより、表面に起伏部を形成した多孔箔を形成した。なお、金属製ロールは粗面化処理が施されていない面に当てて凹凸加工を実施した。すなわち、粗面化処理面には凸部が形成され、粗面化処理が施されていない面には凹部が形成された。
電極触媒を形成するための陰極コーティング液を以下の手順で調製した。ルテニウム濃度が100g/Lの硝酸ルテニウム溶液(株式会社フルヤ金属)、硝酸セリウム(キシダ化学株式会社)を、ルテニウム元素とセリウム元素のモル比が1:0.25となるように混合した。この混合液を充分に撹拌し、これを陰極コーティング液とした。
ロール塗布装置の最下部に上記陰極コーティング液を入れたバットを設置した。PVC(ポリ塩化ビニル)製の筒に独立気泡タイプの発泡EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)製のゴム(イノアックコーポレイション、E-4088、厚み10mm)を巻きつけた塗布ロールと陰極コーティング液が常に接するように設置した。その上部に同じEPDMを巻きつけた塗布ロールを設置、更にその上にPVC製のローラーを設置した。工程2で形成した多孔箔(電極基材)を2番目の塗布ロールと最上部のPVC製のローラーの間を通して陰極コーティング液を塗布した(ロール塗布法)。その後、50℃で10分間の乾燥、150℃で3分間の仮焼成、400℃で10分間の焼成を実施した。これら塗布、乾燥、仮焼成、焼成の一連の操作を所定のコーティング量になるまで繰り返した。このようにして、電解用電極基材上にコーティング層(触媒層)を有する陰極電解用電極(130mm×130mm×厚みt28μm)を作成した。実施例2-5の電解用電極の表面を部分的に示す模式図を、
図24(B)に示す。同図からわかるように、電解用電極の開孔部を除く部分において、金属製ロールに対応する起伏部が形成されていた。また、電解用電極の対向面内の少なくとも一方向において、起伏部が、各々独立して配置されている領域が観察された。
かかる電解用電極を対象として、後述する方法に基づき、S
a/S
all、S
ave、及びH/tを測定した。さらに、M(=S
a/S
all×S
ave×H/t)についても算出したところ、0.131だった。
次いで、イオン交換膜として、実施例2-2で使用したイオン交換膜F3を使用し、電解用電極の凸部が形成されている面をイオン交換膜F3の樹脂A側に対向させて積層体を得た。電解用電極の面をNiメッシュ給電体側にして、電解セルに組み込み電解評価を実施した。結果を表2に示した。
表2にはイオン交換膜F3の隙間体積/面積(割合a)、高低差、標準偏差、界面水分量w、および電解用電極のS
a/S
all、S
ave、H/tも示した。
【0351】
[実施例2-6]
イオン交換膜として、実施例2-4で使用したイオン交換膜F5を使用したことを除き、実施例2-5と同様にして積層体を得た。すなわち、電解用電極の凸が表れている面をイオン交換膜F5の樹脂A側に対向させて積層体を得た。電解用電極の面をNiメッシュ給電体側にして、電解セルに組み込み電解評価を実施した。結果を表2に示した。
表2にはイオン交換膜F5の隙間体積/面積(割合a)、高低差、標準偏差、界面水分量w、および電解用電極のSa/Sall、Save、H/tも示した。また、値Mは0.131だった。
【0352】
[実施例2-7]
0.1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液でイオン交換膜F2を平衡させた。イオン交換膜F2の樹脂B側にチタン不織布を使用した電解用電極を、イオン交換膜F2の表面に付着している水溶液の界面張力を利用して張り付け、積層体を得た。電解用電極の面を陽極給電体側にして、電解セルに組み込み電解評価を実施した。結果を表2に示した。
表2にはイオン交換膜F5の隙間体積/面積(割合a)、高低差、標準偏差、界面水分量w、および電解用電極のSa/Sall、Save、H/tも示した。また、値Mは0だった。
【0353】
[比較例2-1]
比較例2-1では先行文献(特開昭58-48686の実施例)を参考に電極を隔膜に熱圧着した膜電極接合体を作製した。
陰極電解用電極基材としてゲージ厚み100μm、開孔率33%のニッケルエキスパンドメタルを使用し、実施例2-1と同様に電極コーティングを実施した。その後、電極の片面に、不活性化処理を下記の手順で実施した。ポリイミド粘着テープ(中興化成株式会社)を電極の片面に貼り付け、反対面にPTFEディスパージョン(三井デュポンフロロケミカル株式会社、31-JR)を塗布、120℃のマッフル炉で10分間乾燥させた。ポリイミドテープを剥がし、380℃に設定したマッフル炉で10分間焼結処理を実施した。この操作を2回繰り返し、電極の片面を不活性化処理した。
末端官能基が「-COOCH3」であるパーフルオロカーボンポリマー(Cポリマー)と、末端基が「-SO2F」であるパーフルオロカーボンポリマー(Sポリマー)の2層で形成される膜を製作した。Cポリマー層の厚みが3ミル(mil)、Sポリマー層の厚みは4ミル(mil)であった。この2層膜にケン化処理を実施し、ポリマーの末端を加水分解によりイオン交換基を導入した。すなわち、Cポリマー末端はカルボン酸基に、Sポリマー末端はスルホ基に加水分解された。スルホン酸基としてのイオン交換容量は1.0meq/g、カルボン酸基としてのイオン交換容量が0.9meq/gであった。
イオン交換基としてカルボン酸基を有する面に、不活性化した電極面を対向させて熱プレスを実施し、イオン交換膜と電極を一体化させた。熱圧着後も、電極の片面は露出している状態であり、電極が膜を貫通している部分はなかった。
その後、電解中に発生する気泡の膜への付着を抑制するために、酸化ジルコニウムとスルホ基が導入されたパーフルオロカーボンポリマー混合物を両面に塗布した。このようにして、比較例2-1の膜電極接合体を製作した。
比較例2-1の積層体に使用した隔膜は、フラットな表面をしていた。また、電極と熱圧着で接続させるため、界面水分量wは0であった。
電解評価を実施したところ、電解性能は著しく悪化した(表2)。また、値Mは0だった。
【0354】
(各パラメータの測定方法)
(Saの算出方法)
電解用電極の表面(後述するコーティング層側の表面)を、光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープ)にて40倍の倍率で観察し、電解用電極表面の起伏部の総面積Saを算出した。なお、1視野は、7.7mm×5.7mmであり、5視野分の数値を平均したものを算出値とした。
【0355】
(Sallの算出方法)
電解用電極の表面(後述するコーティング層側の表面)を、光学顕微鏡にて40倍の倍率で観察し、観察視野全体の面積から、観察視野全体中の開孔部面積を引き算することにより算出した。なお、1視野は、7.7mm×5.7mmであり、5視野分の数値を平均したものを算出値とした。
【0356】
(Saveの算出方法)
電解用電極の表面(後述するコーティング層側の表面)を、光学顕微鏡にて40倍の倍率で観察した。この観察像から、電解用電極の表面の起伏部のみを黒塗りした画像を作成した。すなわち、作製した画像は、起伏部の形状のみが表示された画像であった。この画像から、それぞれ独立している起伏部の面積を50か所算出し、その平均値をSaveとした。なお、1視野は、7.7mm×5.7mmであり、独立した起伏部の個数が50個に満たない場合は、観察視野を追加した。
光学顕微鏡を用いて起伏部を観察する際、光を当てているために起伏に起因する陰影が観察された。この陰影の中心を起伏部と平坦部の境目とした。陰影が出にくいサンプルは、光源の角度を極わずかに傾けることで陰影を出した。Saveは単位をmm2として算出した。
【0357】
(H、h及びtの測定方法)
下記H、h及びtを、以下に述べる方法にて測定した。
h:凸部の高さ又は凹部の深さの平均値
t:電極自体の厚みの平均値
H:h+t
tは、電解用電極の断面を走査型電子顕微鏡(S4800 日立ハイテクノロジーズ社製)により観察し、測長により電極の厚みを求めた。観察用サンプルは、電解用電極を樹脂包埋した後に機械研磨により断面を露出させた。電極部の厚みを6か所で測定し、その平均値をtとした。
Hは凹凸加工後の基材に触媒コーティングを実施して作成した電極について、凹凸加工部を含むようにデジマチックシックスネスゲージ(株式会社ミツトヨ、最少表示0.001mm)で面内全体を10点測定し、その平均値とした。
hは、Hからtを引き算することにより算出した(h=H-t)。
【0358】
【0359】
<第3実施形態の検証>
以下に述べるとおりに、第3実施形態に対応する実験例(以降の<第3実施形態の検証>の項において、単に「実施例」と称する。)と、第3実施形態に対応しない実験例(以降の<第3実施形態の検証>の項において、単に「比較例」と称する。)を準備し、下記の方法にてこれらを評価した。
【0360】
(陰極電解用電極の作成)
電極基材として、ゲージ厚みが22μm、縦95mm、横110mmのニッケル箔を準備した。このニッケル箔の片面に電解ニッケルメッキによる粗面化処理を施した。粗面化した表面の算術平均粗さRaは0.71μmだった。表面粗さは触針式の表面粗さ計SJ-310(株式会社ミツトヨ)を用いて測定した。すなわち、地面と平行な定盤上に測定サンプルを設置し、下記の測定条件で算術平均粗さRaを測定した。測定は、6回実施時、その平均値を記載した。
<触針の形状>円すいテーパ角度=60°、先端半径=2μm、静的測定力=0.75mN
<粗さ規格>JIS2001
<評価曲線>R
<フィルタ>GAUSS
<カットオフ値 λc>0.8mm
<カットオフ値 λs>2.5μm
<区間数>5
<前走、後走>有
【0361】
このニッケル箔にパンチング加工により円形の孔をあけ多孔箔とした。次のようにして算出される開孔率は44%であった。
(開孔率の測定)
電解用電極をデジマチックシックスネスゲージ(株式会社ミツトヨ製、最少表示0.001mm)用いて面内を均一に10点測定した平均値を算出した。これを電極の厚み(ゲージ厚み)をとして、体積を算出した。その後、電子天秤で質量を測定し、金属の比重(ニッケルの比重=8.908g/cm3、チタンの比重=4.506g/cm3)から、開孔率あるいは空隙率を算出した。
開孔率(空隙率)(%)=(1-(電極質量)/(電極体積×金属の比重))×100
【0362】
電極触媒を形成するためのコーティング液を以下の手順で調製した。ルテニウム濃度が100g/Lの硝酸ルテニウム溶液(株式会社フルヤ金属)、硝酸セリウム(キシダ化学株式会社)を、ルテニウム元素とセリウム元素のモル比が1:0.25となるように混合した。この混合液を充分に撹拌し、これを陰極コーティング液とした。
ロール塗布装置の最下部に上記塗布液を入れたバットを設置した。PVC(ポリ塩化ビニル)製の筒に独立気泡タイプの発泡EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)製のゴム(イノアックコーポレイション、E-4088、厚み10mm)を巻きつけた塗布ロールと塗布液が常に接するように設置した。その上部に同じEPDMを巻きつけた塗布ロールを設置、さらにその上にPVC製のローラーを設置した。電極基材を2番目の塗布ロールと最上部のPVC製のローラーの間を通して塗布液を塗布した(ロール塗布法)。その後、50℃で10分間の乾燥、150℃で3分間の仮焼成、350℃で10分間の焼成を実施した。これら塗布、乾燥、仮焼成、焼成の一連の操作を所定のコーティング量になるまで繰り返した。このようにして得られた電解用電極(縦95mm、横110mm)の厚みは、28μmだった。触媒層の厚み(酸化ルテニウムと酸化セリウムの合計厚み)は、電極厚みから電解用電極基材の厚みを差し引いて6μmだった。なお、触媒層は粗面化されていない面にも形成されていた。
【0363】
(陽極電解用電極の作成)
陽極電解用電極基材としてゲージ厚み100μm、チタン繊維径が約20μm、目付量が100g/m2、開孔率78%のチタン不織布を使用した
電極触媒を形成するためのコーティング液を以下の手順で調製した。ルテニウム濃度が100g/Lの塩化ルテニウム溶液(田中貴金属工業株式会社)、イリジウム濃度が100g/Lの塩化イリジウム(田中貴金属工業株式会社)、四塩化チタン(和光純薬工業株式会社)を、ルテニウム元素とイリジウム元素とチタン元素のモル比が0.25:0.25:0.5となるように混合した。この混合液を充分に撹拌し、これを陽極コーティング液とした。
ロール塗布装置の最下部に上記塗布液を入れたバットを設置した。PVC(ポリ塩化ビニル)製の筒に独立気泡タイプの発泡EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)製のゴム(イノアックコーポレイション、E-4088、厚み10mm)を巻きつけた塗布ロールと塗布液が常に接するように設置した。その上部に同じEPDMを巻きつけた塗布ロールを設置、更にその上にPVC製のローラーを設置した。電極基材を2番目の塗布ロールと最上部のPVC製のローラーの間を通して塗布液を塗布した(ロール塗布法)。チタン多孔箔に、上記コーティング液を塗布した後、60℃で10分間の乾燥、475℃で10分間の焼成を実施した。これら塗布、乾燥、仮焼成、焼成の一連の操作を繰り返し実施した後、520℃で1時間の焼成を行った。得られた陽極電解用電極(縦95mm、横110mm)の厚みは114μmであった。
【0364】
<イオン交換膜>
隔膜としては、下記のとおりに製造されたイオン交換膜Aを使用した。
強化芯材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製であり、90デニールのモノフィラメントを用いた(以下、PTFE糸という。)。犠牲糸として、35デニール、6フィラメントのポリエチレンテレフタレート(PET)を200回/mの撚りを掛けた糸を用いた(以下、PET糸という。)。まず、TD及びMDの両方向のそれぞれにおいて、PTFE糸が24本/インチ、犠牲糸が隣接するPTFE糸間に2本配置するように平織りして、織布を得た。得られた織布を、ロールで圧着し、厚さ70μmの織布である補強材を得た。
次に、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2COOCH3との共重合体でイオン交換容量が0.85mg当量/gである乾燥樹脂の樹脂A、CF2=CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fとの共重合体でイオン交換容量が1.03mg当量/gである乾燥樹脂の樹脂Bを準備した。
これらの樹脂A及び樹脂Bを使用し、共押出しTダイ法にて樹脂A層の厚みが15μm、樹脂B層の厚みが84μmである、2層フィルムXを得た。また、樹脂Bのみを使用し、Tダイ法にて厚みが20μmである単層フィルムYを得た。
続いて、内部に加熱源及び真空源を有し、その表面に微細孔を有するホットプレート上に、離型紙(高さ50μmの円錐形状のエンボス加工)、フィルムY、補強材及びフィルムXの順に積層し、ホットプレート表面温度223℃、減圧度0.067MPaの条件で2分間加熱減圧した後、離型紙を取り除くことで複合膜を得た。なお、フィルムXは樹脂Bが下面となるように積層した。
得られた複合膜を、ジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む80℃の水溶液に20分浸漬することでケン化した。その後、水酸化ナトリウム(NaOH)0.5N含む50℃の水溶液に1時間浸漬して、イオン交換基の対イオンをNaに置換し、続いて水洗した。その後、研磨ロールと膜の相対速度が100m/分、研磨ロールのプレス量を2mmとして樹脂B側表面を研磨し、開孔部を形成した後に、60℃で乾燥した。
さらに、樹脂Bの酸型樹脂の5質量%エタノール溶液に、1次粒径1μmの酸化ジルコニウムを20質量%加え、分散させた懸濁液を調合し、懸濁液スプレー法で、上記の複合膜の両面に噴霧し、酸化ジルコニウムのコーティングを複合膜の表面に形成させ、隔膜としてのイオン交換膜Aを得た。
酸化ジルコニウムの塗布密度を蛍光X線測定で測定したところ0.5mg/cm2だった。ここで、平均粒径は、粒度分布計(島津製作所製「SALD(登録商標)2200」)によって測定した。
【0365】
(実施例3-1)隔膜を交換しない場合
図28に示すように、電解セルを作成した。まず、陽極が設置された陽極室を有するチタン製の陽極フレームと、陰極が設置されたニッケル製の陰極室を有する陰極フレームとを向い合せた。陽極フレーム、陰極フレームの外寸は、縦150mm×横150mmであった。セル間に一対のガスケットを配置し、一対のガスケット間にイオン交換膜を挟んだ。そして、陽極セル、ガスケット、イオン交換膜、ガスケット及び陰極を密着させて、あらかじめボルト穴をあけておいたステンレス製の板で挟み、ボルト締めして電解セルを固定した。これを一組の電解セルフレームとして、複数の電解セルフレームを直列に接続させて電解槽を形成した。すなわち、一組の電解セルフレームの陽極フレームの背面側に、隣の電解セルフレームの陰極フレームが接続するように設置した。
陽極としては、上述したものと同様の陽極電解用電極基材に対し、前処理としてブラスト及び酸エッチング処理をしたチタン基材上に、上述した「陽極電解用電極の作成」と同様に、塩化ルテニウム、塩化イリジウム及び四塩化チタンの混合溶液を塗布、乾燥、焼成することで作製した。陽極は、溶接により陽極室に固定した。
陰極室の集電体としては、ニッケル製エキスパンドメタルを使用した。集電体のサイズは縦95mm×横110mmであった。
金属弾性体としては、ニッケル細線で編んだマットレスを使用した。
金属弾性体であるマットレスを集電体の上に置いた。
陰極としては、上述した「陰極電解用電極の作成」と同様に、直径150μmのニッケル線を40メッシュの目開きで平織したニッケルメッシュに酸化ルテニウムと酸化セリウムのコーティングを施したものを用い、8年間電解(電解条件:電流密度6.2kA/m
2、塩水濃度3.2~3.7mol/l,苛性濃度31~33%、温度80~88℃としたこと以外は後述する電解条件と同様。)に供した陰極を、上記の集電体上に被せた。すなわち、四隅をテフロン(登録商標)で作製した紐で集電体に固定した。8年間使用しているため、酸化ルテニウムおよび酸化セリウムのコーティング量は、未使用時の値から1/10程度になっていた。
また、イオン交換膜としては、イオン交換膜Aを4年間電解(電解条件:電流密度6.2kA/m
2、塩水濃度3.2~3.7mol/l,苛性濃度31~33%、温度80~88℃としたこと以外は後述する電解条件と同様。)に供したイオン交換膜を使用した。
この電解セルにおいては、金属弾性体であるマットレスの反発力を利用して、ゼロギャップ構造となるようにした。ガスケットとしては、EPDM(エチレンプロピレンジエン)製のゴムガスケットを使用した。
上記電解セルを用いて更新操作前の食塩電解を行った。陽極室の塩水濃度(塩化ナトリウム濃度)は3.5mol/lに調整した。陰極室の水酸化ナトリウム濃度は32質量%に調整した。各電解セル内の温度が90℃になるように、陽極室及び陰極室の各温度を調節した。電流密度6kA/m
2で食塩電解を実施し、電圧、電流効率を測定した。ここで、電流効率とは、流した電流に対する、生成された苛性ソーダの量の割合であり、流した電流により、ナトリウムイオンではなく、不純物イオンや水酸化物イオンがイオン交換膜を移動すると、電流効率が低下する。電流効率は、一定時間に生成された苛性ソーダのモル数を、その間に流れた電流の電子のモル数で除することで求めた。苛性ソーダのモル数は、電解により生成した苛性ソーダをポリタンクに回収して、その質量を測定することにより、求めた。陰極電極として、長期間使用してコーティング量が大きく減少した陰極を使用しているため、電圧が高かった。新品の陰極を使用したときの電圧は、3.02Vであったのに対し、3.20Vと電圧が高く、電流効率は95.3%と低かった。
【0366】
電解を停止し、陽極室、陰極室を水洗した後、
図32(A)に示す状態から、ボルトを緩めて陽極フレーム、陰極フレームの一体化を解除し、
図32(B)に示すようにイオン交換膜の陰極面側を露出させた(工程(A1))。
図32(B)に示す状態において、イオン交換膜を0.1mol/LのNaOH水溶液で湿潤させ、次いで、イオン交換膜の露出面上に、上記の手順で作成した陰極電解用電極を配し、
図32(C)に示す状態とした(工程(B1))。ここで、イオン交換膜に対する陰極電解用電極の載置面は、水平面に対して、0°であった。
図32(C)に示す状態から、再び陽極フレーム、陰極フレームを一体化させて、陽極と陰極とイオン交換膜と陰極電解用電極とを電解セルフレームに格納し、
図32(D)に示す状態とした(工程(C1))。
このようにして組み立てられた電解セルを用い、再び上記と同様の条件で食塩の電解を実施したところ、電圧は2.96Vであった。簡単な操作で電解性能を向上させることができた。
また、工程C1の直前に陰極電解用電極を取り出し、次の方法により水分が付着した状態の重量(E)を測定した。
<電解用電極に付着する水分量の測定>
あらかじめ、各実施例の電解用電極を50℃の乾燥機で30分以上保管し乾燥させた後、秤量した。この操作を5回実施し、平均値を求めた。この値を電解用電極の外寸面積で割った値をe(g/m
2)とした。次に、工程(C1)又は工程(C2)の直前に、イオン交換膜に積層されている電解用電極の四隅の一つの端を持ち、吊り上げてイオン交換膜から当該電解用電極を剥がし、空中で20秒間、吊り下げることで自然に滴り落ちる水分を除去した。20秒後、直ちに秤量を行った。この操作を5回実施し、平均値を求めた。この値を電極の外寸面積で割った値をE(g/m
2)とした。この操作は温度20℃~30℃、湿度30~50%の環境下で実施した。電解用電極の開孔率をPとして、電解用電極に付着する水溶液の単位面積あたりの付着量(以下、単に「付着水分量」ともいう。)W(g/m
2)を以下の式で求めた。
W=(E-e)/(1-P/100)
事前に測定した乾燥重量eおよび開孔率から、実施例3-1に係る電解用電極の付着水分量Wは、58g/m
2だった。
【0367】
(実施例3-2)隔膜と陰極を交換する場合
実施例3-1と同様にして、更新操作前の食塩電解を実施したところ、食塩電解中の電圧は3.18V、電流効率は95%であり、性能が悪かった。
この電解セルを停止し、陽極室、陰極室を水洗した後、
図32(A)に示す状態から、実施例1と同様に、陽極フレーム及び陰極フレームの一体化を解除させ、
図33(A)に示すようにイオン交換膜を露出させた(工程(A2))。次いで、
図33(B)に示す状態から、イオン交換膜を除去し、さらに除去したイオン交換膜と同じ組成・形状のイオン交換膜であって、未使用のイオン交換膜を陽極上に配し、実施例3-1と同じ陰極電解用電極をイオン交換膜の陰極面側に接するように配置した(工程(B2))。ここで、イオン交換膜に対する陰極電解用電極の載置面は、水平面に対して、0°であった。
図33(C)に示す状態から、再び陽極フレーム、陰極フレームを一体化させて、陽極と陰極とイオン交換膜と陰極電解用電極とを電解セルフレームに格納し、
図33(D)に示す状態とした(工程(C2))。
また、工程C2の直前に陰極電解用電極を取り出し、水分が付着した状態の重量(E)を測定した。事前に測定した乾燥重量eおよび開孔率から、電解用電極の付着水分量Wは、55g/m
2だった。
このようにして組み立てられた電解セルを用い、再び食塩の電解を実施したところ、電圧は2.96V、電流効率は97%であり、性能が向上した。簡単な操作で電解性能を向上させることができた。
【0368】
(実施例3-3)隔膜と陽極を交換する場合
以下の点を除き、実施例3-1と同様に電解セルフレームを形成し食塩電解を実施した。すなわち、陽極としては、前処理としてブラスト及び酸エッチング処理をしたチタン基材上に、塩化ルテニウム、塩化イリジウム及び四塩化チタンの混合溶液を塗布、乾燥、焼成することで作製した陽極を、8年間電解(電解条件:電流密度6.2kA/m
2、塩水濃度3.2~3.7mol/l,苛性濃度31~33%、温度80~88℃としたこと以外は後述する電解条件と同様。)に供した陽極を使用した。一方、陰極としては、上述した「陰極電解用電極の作成」と同様に、直径150μmのニッケル線を40メッシュの目開きで平織したニッケルメッシュに酸化ルテニウムと酸化セリウムのコーティングを施したものを用いた。このようにして劣化した陽極及び劣化していない陰極を用いたことを除き、実施例3-1と同様にして、電解セルを準備し、改めて前述同様の食塩電解に供したところ、電圧3.18V、電流効率95%であり、性能が悪かった。
この電解セルを停止し、陽極室、陰極室を水洗した後、
図32(A)に示す状態から、実施例3-1と同様に、陽極フレーム及び陰極フレームの一体化を解除させ、
図33(A)に示すようにイオン交換膜を露出させた(工程(A2))。次いで、
図33(A)に示す状態から、イオン交換膜を除去して
図33(B)に示す状態とし、
図33(B)に示す状態から陽極上に上述の陽極電解用電極を配し、その上に除去したイオン交換膜と同じ組成・形状のイオン交換膜であって、未使用のイオン交換膜を陽極上に配した(工程(B2))。ここで、イオン交換膜に対する陽極電解用電極の載置面は、水平面に対して、0°であった。
図33(C)に示す状態から、再び陽極フレーム、陰極フレームを一体化させて、陽極と陰極とイオン交換膜と陽極電解用電極とを電解セルフレームに格納し、
図33(D)に示す状態とした(工程(C2))。
また、工程C2の直前に陰極電解用電極を取り出し、水分が付着した状態の重量(E)を測定した。事前に測定した乾燥重量eおよび開孔率から、電解用電極の付着水分量Wは、358g/m
2だった。
このようにして組み立てられた電解セルを用い、再び食塩の電解を実施したところ、電圧は2.97V、電流効率97%であった。簡単な操作で電解性能を向上させることができた。
【0369】
(実施例3-4)隔膜、陰極、陽極を交換する場合
実施例3-4では、実施例3-1で使用した8年間電解した陰極及び4年間使用したイオン交換膜、並びに実施例3-3で使用した8年間使用した陽極を用いたこと以外は実施例3-1と同様にして、更新操作前の食塩電解を行った。食塩電解の性能は、電圧3.38V、電流効率95%であり、性能が悪かった。
この電解セルを停止し、陽極室、陰極室を水洗した後、
図32(A)に示す状態から、実施例3-1と同様に、陽極フレーム及び陰極フレームの一体化を解除させ、
図33(A)に示すようにイオン交換膜を露出させた(工程(A2))。次いで、
図33(A)に示す状態から、イオン交換膜を除去して
図33(B)に示す状態とし、
図33(B)に示す状態から陽極上に上述の陽極電解用電極を配し、その上に除去したイオン交換膜と同じ組成・形状のイオン交換膜であって、未使用のイオン交換膜を陽極上に配し、その上に実施例3-1と同様の陰極電解用電極を配置した(工程(B2))。ここで、イオン交換膜に対する陰極電解用電極及び陽極電解用電極の載置面は、水平面に対して、0°であった。再び陽極フレーム、陰極フレームを一体化させて、陽極と陰極とイオン交換膜と陽極電解用電極と陰極電解用電極とを電解セルフレームに格納した(工程(C2))。
また、工程C2の直前に陰極および陽極電解用電極を取り出し、水分が付着した状態の重量(E)を測定した。事前に測定した乾燥重量eおよび開孔率から、電解用電極の付着水分量Wは、陰極は57g/m
2、陽極は355g/m
2だった。
このようにして組み立てられた電解セルを用い、再び食塩の電解を実施したところ、電圧は2.97V、電流効率97%であった。簡単な操作で電解性能を向上させることができた。
【0370】
[比較例3-1]
(従来の電極更新)
実施例3-1と同様に更新操作前の食塩電解を行った後、運転を停止し、電解セルを溶接施工が可能な工場まで運搬した。
運搬後、電解セルのボルトを緩めて陽極フレーム、陰極フレームの一体化を解除し、イオン交換膜を除去した。次いで、溶接で電解セルの陽極フレームに固定されている陽極をはぎ取って除去した後、グラインダー等を用いてはぎ取った部分のバリ等を削り、平滑にした。陰極については、集電体に織り込んで固定された部分を外すようにして陰極を除去した。
その後、陽極室のリブ上に新しい陽極を設置し、スポット溶接で新しい陽極を電解セルに固定した。陰極も同様に新しい陰極を陰極側に設置し、集電体に折り込んで固定した。
更新が終了した電解セルを大型電解槽の場所まで運搬し、ホイストを用いて電解セルを電解槽へ戻した。
電解セル及びイオン交換膜の固定状態を解除してから再度電解セルを固定するまでに要した時間は1日以上であった。
【0371】
<接触圧力>
実施例3-1~3-4の操作において、イオン交換膜を設置する際、わずかなシワが発生する場合があり、人手または樹脂ローラーを用いてそのシワを伸ばした。具体的には工程(B2)を実施する際、イオン交換膜に生じたシワ部分の上に感圧紙(富士フィルム プレスケール)を載せて、かかった圧力を測定した。イオン交換膜の場合は、超微圧用(5LW)を用いても測定できず、60gf/cm2以下であった。
実施例3-1~3-4の操作において、電解用電極を設置する際、わずかなシワが発生する場合があり、人手または樹脂ローラーを用いてそのシワを伸ばした。具体的には工程(B1,B2)を実施する際、電解用電極に生じたシワ部分の上に感圧紙(富士フィルム プレスケール)を載せて、かかった圧力を測定した結果、510gf/cm2以下であった。
【0372】
本出願は、2018年9月21日出願の日本特許出願(特願2018-177213号、特願2018-177415号及び特願2018-177375号)、並びに、2019年6月27日出願の日本特許出願(特願2019-120095号)に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0373】
(第1実施形態に対応する図)
図1に対する符号の説明
100…電極用ロール、101…電解用電極、200…隔膜用ロール、201…隔膜、300…ポリ塩化ビニル製のパイプ
【0374】
図2~3に対する符号の説明
100…電極用ロール、101…電解用電極、200…隔膜用ロール、201…隔膜、450…保水手段、451…水分、452…スポンジロール
【0375】
図4~6に対する符号の説明
100…電極用ロール、101…電解用電極、110…積層体、150…積層体製造用冶具、200…隔膜用ロール、201…隔膜、400…位置決め手段、401a及び401b…押圧板、402…ばね機構、403a及び403b…軸受部、450…保水手段、451…水分、
【0376】
図7に対する符号の説明
101…電解用電極、302…ガイドロール
【0377】
図8に対する符号の説明
101…電解用電極、302…ガイドロール
【0378】
図9に対する符号の説明
110…積層体、301…ニップロール
【0379】
図10に対する符号の説明
10…電解用電極基材、20…基材を被覆する第一層、30…第二層、101…電解用電極
【0380】
図11に対する符号の説明
1…イオン交換膜、1a…膜本体、2…カルボン酸層、3…スルホン酸層、4…強化芯材、11a,11b…コーティング層
【0381】
図12に対する符号の説明
21a,21b…強化芯材
【0382】
図13(A)、(B)に対する符号の説明
52…強化糸、504…連通孔、504a…犠牲糸
【0383】
図14~
図18に対する符号の説明
4…電解槽、5…プレス器、6…陰極端子、7…陽極端子
11…陽極、12…陽極ガスケット、13…陰極ガスケット
18…逆電流吸収体、18a…基材、18b…逆電流吸収層、19…陽極室の底部
21…陰極、22…金属弾性体、23…集電体、24…支持体
50…電解セル、60…陽極室、51…イオン交換膜(隔膜)、70…陰極室
80…隔壁、90…電解用陰極構造体
【0384】
(第2実施形態に対応する図)
図19~23に対する符号の説明
101A、101B、101C…電解用電極、102A、102B、102C…起伏部、103A、103B…平坦部
【0385】
(第3実施形態に対応する図)
図28~33に対する符号の説明
4…電解槽、5…プレス器、6…陰極端子、7…陽極端子、
11…陽極、12…陽極ガスケット、13…陰極ガスケット、
18…逆電流吸収体、18a…基材、18b…逆電流吸収層、19…陽極室の底部、
21…陰極、22…金属弾性体、23…集電体、24…陽極フレーム、25…陰極フレーム、
50…電解セル、60…陽極室、51…イオン交換膜(隔膜)、51a…イオン交換膜上の電解用電極載置面、70…陰極室、101…電解用電極、103…作業台、103a…作業台上の電解セル載置面