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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】コーティング剤、及び、ばね
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20240304BHJP
   F16F 1/12 20060101ALI20240304BHJP
   F16F 1/24 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C09D175/04
F16F1/12 C
F16F1/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023527954
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2022023528
(87)【国際公開番号】W WO2022260180
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2021098247
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊庭野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松田 剛
(72)【発明者】
【氏名】蟻坂 憲史
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-218481(JP,A)
【文献】特開平03-232572(JP,A)
【文献】特開昭61-236865(JP,A)
【文献】特表2005-509705(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108822601(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103089876(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
F16F 1/12
F16F 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)高分子ポリオールと、(B)芳香族イソシアネートを含むイソシアネートと、(C)鎖長延長剤と、を含む組成物、又は(D)ポリオールと芳香族イソシアネートを含むイソシアネートとが反応したプレポリマーを含む組成物からなり、
前記(A)高分子ポリオールが、(A1)ポリカーボネート系ポリオール、(A2)ビスフェノール構造を有するポリエーテル系ポリオール、(A3)ラクトン系ポリオール、(A4)ポリエステル系ポリオール、及び(A5)ポリカーボネート系ポリオールとラクトン系ポリオールとの共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記(B)芳香族イソシアネートを含むイソシアネートが、(B)芳香族イソシアネートのみからなるイソシアネートであり、
前記(D)ポリオールと芳香族イソシアネートを含むイソシアネートとが反応したプレポリマーが、(D)ポリオールと芳香族イソシアネートのみからなるイソシアネートとが反応したプレポリマーであり、
硬化後の硬化物の、25℃での引裂強さが45kN/m以上であり、80℃での引裂強さが20kN/m以上であり、25℃でのタイプAデュロメータ硬度が30~100である、コーティング剤。
【請求項2】
硬化後の硬化物が、ウレタン結合を有する硬化物である請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
前記硬化後の硬化物の、前記25℃での引裂強さが90kN/m以上であり、前記80℃での引裂強さが40kN/m以上であり、前記25℃でのタイプAデュロメータ硬度が70~100である請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項4】
ばね用途である請求項1~請求項のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項5】
表面の少なくとも一部に、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のコーティング剤の硬化物層を有する、ばね。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コーティング剤、及び、ばねに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両などには、種々のばねが使用されている。これらばねの多くは鋼製であり、その表面には、通常、耐食性を付与するための塗装が施されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「所定の表面温度に予熱されたコイルばねの少なくとも軸方向一部分を、内部に融点が250℃以下の熱可塑性樹脂粉体を収容した樋状容器内で転動させ、上記コイルばねのばね素線に付着した樹脂粉体を加熱溶融したのち固化させるようにしたことを特徴とするコイルばねの被覆部形成方法」が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、「厚さが450μm以下の一層の塗膜を有し、該塗膜はエポキシ樹脂と、フェノール樹脂と、亜鉛と、を含むことを特徴とする高耐久性ばね」が開示されている。特許文献2には、「塗膜が、エポキシ樹脂と、フェノール樹脂と、亜鉛と、を含むエポキシ樹脂系粉体塗料の硬化物である」ことも開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、「耐食パウダーコーティングベースコートをその上に有するスチール基体上の耐チップパウダートップコートであって、1以上の強化エポキシ樹脂の1以上の樹脂成分、樹脂100部あたり0.1から5部(phr)の1以上のワックスおよび、任意に最高200phrまでの1以上の増量剤のコーティングパウダーの硬化または融合生成物を含む耐チップパウダートップコート。」が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、「車両のサスペンションに使用されるコイルスプリングであって、使用時の応力が他の部分に比較して高いことと、飛び石による塗膜損傷の確率が他の部分に比較して高いこととの少なくとも一方の条件を満たす部分において、その部分に隣接する部分におけるより塗膜が厚くされたことを特徴とするサスペンションスプリング。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
特許文献1:特開昭57-136972号公報
特許文献2:国際公開WO2017/163877号
特許文献3:特開2009-120812号公報
特許文献4:特開2007-308067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ばね用のコーティング剤において、ばねにコーティングした後の硬化物層(コーティング層)には、ばねの繰り返しの伸び縮み、ばねの線間接触、他の部材への接触に対する耐久性が要求される。また、飛び石等による衝撃にも耐える耐衝撃性も求められる。
しかし、昨今は、要求レベルが高く、常温での耐久性と共に、特に低温下、高温下での耐衝撃性が要求されているが、十分に検討されていないのが現状である。
ばね用コーティング剤以外の用途のコーティング剤にも同様な特性が求められている。
【0009】
そこで、本開示の課題は、常温下及び高温下での耐久性並びに低温下での耐衝撃性に優れた硬化物層を形成可能なコーティング剤、及び、それを利用したばねを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の手段により解決される。
【0011】
<1>
硬化後の硬化物の、25℃及び80℃での引裂強さが20kN/m以上であり、25℃でのタイプAデュロメータ硬度が30~100である、コーティング剤。
<2>
硬化後の硬化物が、ウレタン結合を有する硬化物である<1>に記載のコーティング剤。
<3>
(A)高分子ポリオールと、(B)イソシアネートと、(C)鎖長延長剤と、を含む組成物、又は(D)ポリオールとイソシアネートとが反応したプレポリマーを含む組成物からなる<1>又は<2>に記載のコーティング剤。
<4>
前記(A)高分子ポリオールが、(A1)ポリカーボネート系ポリオール、(A2)ビスフェノール構造を有するポリエーテル系ポリオール、(A3)ラクトン系ポリオール、(A4)ポリエステル系ポリオール、及び(A5)ポリカーボネート系ポリオールとラクトン系ポリオールとの共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を含む<3>に記載のコーティング剤。
<5>
ばね用途である<1>~<4>のいずれか1項に記載のコーティング剤。
<6>
表面の少なくとも一部に、<1>~<5>のいずれか1項に記載のコーティング剤の硬化物層を有する、ばね。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、常温下及び高温下での耐久性並びに低温下での耐衝撃性に優れた硬化物層を形成可能なコーティング剤、及び、それを利用したばねを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は本開示を例示するものであり、本開示を制限するものではない。
【0014】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
本明細書において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本明細書において各成分の量について言及する場合、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0016】
本実施形態に係るコーティング剤は、硬化後の硬化物の、25℃及び80℃での引裂強さが20kN/m以上であり、25℃でのタイプAデュロメータ硬度が30~100である、コーティング剤である。
なお、硬化後の硬化物とは、溶剤を乾燥して形成される硬化物、又は、成分が反応して形成される硬化物を意味する。
【0017】
本開示のコーティング剤は、上記構成により、常温下及び高温下での耐久性並びに低温下での耐衝撃性に優れた硬化物層を形成可能となる。
【0018】
以下、本実施形態に係るコーティング剤の詳細について説明する。
【0019】
(特性)
本実施形態のコーティング剤において、硬化後の硬化物の、25℃での引裂強さは、20kN/m以上であるが、常温下での耐久性向上の観点から、60kN/m以上が好ましく、90kN/m以上がより好ましい。
ただし、25℃引裂強さの上限は、衝撃吸収性の観点から、例えば、350kN/m以下である。
【0020】
本実施形態のコーティング剤において、硬化後の硬化物の、80℃での引裂強さは、20kN/m以上であるが、高温下での耐久性向上の観点から、30kN/m以上が好ましく、40kN/m以上がより好ましい。
ただし、80℃での引裂強さの上限は、衝撃吸収性の観点から、例えば、150kN/m以下である。
【0021】
ここで、引裂強さは、JIS K 7311:1995で規定された引裂試験に準じて測定される。
【0022】
本実施形態のコーティング剤において、硬化後の硬化物の、25℃でのタイプAデュロメータ硬度は、30~100であるが、低温下での耐衝撃性向上の観点から、50~100が好ましく、70~100がより好ましい。
25℃でのタイプAデュロメータ硬度が上記範囲であれば、低温下での耐衝撃性が高まる。また、本実施形態のコーティング剤を鋼ばね用途に適用する場合、鋼ばねよりも柔らかい硬度となるため、異音防止が図られる。
タイプAデュロメータ硬度は、JIS K 7311:1995に規定された硬さ試験に準じて測定される。
【0023】
(組成)
本実施形態のコーティング剤は、上記特性を満たす硬化物が形成できれば、熱可塑性樹脂の組成物、熱硬化樹脂形成用の組成物のいずれでもよい。
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタラート樹脂、ポリフェニレンスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等が挙げられる。
【0024】
熱硬化樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
その他、天然ゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のゴム材料も挙げられる。
【0025】
これらの中でも、本実施形態のコーティング剤において、硬化後の硬化物が、ウレタン結合を有する硬化物が好ましく、具体的には、ウレタン樹脂であることが好ましい。
特に、本実施形態のコーティング剤は、(A)高分子ポリオールと、(B)イソシアネートと、(C)鎖長延長剤と、を含む組成物、又は(D)ポリオールとイソシアネートとが反応したプレポリマーを含む組成物であることが好ましい。
【0026】
[(A)高分子ポリオールと、(B)イソシアネートと、(C)鎖長延長剤と、を含む組成物]
-(A)高分子ポリオール-
(A)高分子ポリオールとしては、常温下及び高温下での耐久性並びに低温下での耐衝撃性の向上の観点から、(A1)ポリカーボネート系ポリオール、(A2)ビスフェノール構造を有するポリエーテル系ポリオール、(A3)ラクトン系ポリオール、(A4)ポリエステル系ポリオール、及び(A5)ポリカーボネート系ポリオールとラクトン系ポリオールとの共重合体よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0027】
(A1)ポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、グリコールとアルキレンカーボネートとを反応させたポリオール、グリコールとジアリールカーボネートとを反応させたポリオール、グリコールとジアルキルカーボネートとを反応させたポリオール等が挙げられる。
アルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、1,2-プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート等が挙げられる。
ジアリールカーボネートとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、4-メチルジフェニルカーボネート、4-エチルジフェニルカーボネート、4-プロピルジフェニルカーボネート、4,4’-ジメチルジフェニルカーボネート、2-トリル-4-トリルカーボネート、4,4’-ジエチルジフェニルカーボネート、4,4’-ジプロピルジフェニルカーボネート、フェニルトルイルカーボネート、ビスクロロフェニルカーボネート、フェニルクロロフェニルカーボネート、フェニルナフチルカーボネート、ジナフチルカーボネート等が挙げられる。
ジアルキルカーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジ-n-ブチルカーボネート、ジイソブチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート、ジ-n-アミルカーボネート、ジイソアミルカーボネート等が挙げられる。
【0028】
(A2)ビスフェノール構造を有するポリエーテル系ポリオールとしては、環状ジオール(ビスフェノールA、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールPなどの)にポリエチレンオキド及び/又はポリプロピレンオキシドを付加したポリエーテルポリオール、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。
これらの中でも、ポリエーテル系ポリオールとしては、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物、が好ましい。
【0029】
(A3)ラクトン系ポリオールとしては、ラクトン(ε-カプロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン等)の開環重合体等が挙げられる。
これらの中でも、カプロラクトンの開環重合体(カプロラクトン系ポリオール)が好ましい。
【0030】
(A4)ポリエステル系ポリオールとしては、ラクトン系ポリオール以外の、多塩基酸と多価アルコールとの縮合系ポリエステル系ポリオールが挙げられる。
多塩基酸としては、例えば多価カルボン酸が挙げられる。具体的には、多塩基酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ピロメリット酸、及びこれらの酸無水物が挙げられる。
多価アルコールとしては、グリコール及び3価以上の多価アルコールが挙げられる。具体的には、グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、メチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、3,3-ジエチル-1,5-ペンタンジオール等が挙げられる。3価以上の多価アルコールとして具体的には、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0031】
(A5)ポリカーボネート系ポリオールとラクトン系ポリオールとの共重合体としては、上記(A1)ポリカーボネート系ポリオールと上記(A3)ラクトン系ポリオールとの共重合体が挙げられる。
【0032】
なお、(A)各高分子ポリオールは、各々、1種単独して使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0033】
(A)高分子ポリオールの数平均分子量は、300~12000が好ましく、800~4000がより好ましい。
ここで、数平均分子量は、JIS K0070による水酸基価の測定値と、官能基数より求めた場合の分子量とする。なお、他の成分の数平均分子量も同様に測定する。
【0034】
-(B)イソシアネート-
(B)イソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシレン-1,4-ジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、1,4-ナフチレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;等の周知のポリイソシアネートが挙げられる。
(B)イソシアネートは、1種単独して使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0035】
-(C)鎖長延長剤-
(C)鎖長延長剤としては、分子量60~300で、2官能~4官能ポリオールが挙げられる。
2官能ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオールなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコール、等の脂環式ジオール;キシリレングリコール等の芳香族ジオール;2価のアルコールにアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等)を付加重合させたポリエーテルポリオールも挙げられる。なお、複数種のアルキレンオキサイドの付加重合は、ランダム付加重合でも、ブロック付加重合であってもよい。
3官能ポリオールとしては、3価のアルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、等の炭素数3~10の3価のアルコールが挙げられる。3官能ポリオールとしては、3価のアルコールにアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等)を付加重合させたポリエーテルポリオールも挙げられる。なお、複数種のアルキレンオキサイドの付加重合は、ランダム付加重合でも、ブロック付加重合であってもよい。
4官能ポリオールとしては、例えば、エチレンジアミン、ペンタエリスリトール等にアルキレンオキサイドを付加重合させたポリエーテルポリオールが挙げられる。
その他、低分子ポリオールとしては、アジピン酸及び短鎖ジオールのエチレングリコールや1.4-ブタンジオール等と、グリセリンなど多官能トリオールと、の縮合によるエステル系ポリオール等も挙げられる。
(C)鎖長延長剤は、1種単独して使用してもよいし、2種以上併用してもよい。プレポリマーとしてポリイソシアナートとあらかじめ反応させておいてもかまわない。
【0036】
これらの中でも、(C)鎖長延長剤としては、常温下及び高温下での耐久性並びに低温下での耐衝撃性の向上の観点から、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリンが好ましく、1,4-ブタンジオールと1,6-ヘキサンジオールがより好ましい。
【0037】
[(D)ポリオールとイソシアネートとが反応したプレポリマーを含む組成物]
-(D)プレポリマー-
プレポリマーは、ポリオールとイソシアネートとが反応したプレポリマーである。
ポリオールとしては、上記(A)高分子ポリオール、上記(C)鎖長延長剤で例示された低分子ポリオールが挙げられる。
イソシアネートとしては、上記(B)イソシアネートが挙げられる。
【0038】
(D)プレポリマーを含む組成物には、(D)プレポリマー以外に、(A)高分子ポリオール、(B)イソシアネート、及び(C)鎖長延長剤よりなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0039】
-他の成分-
本実施形態のコーティング剤は、その他成分を含んでもよい。
その他成分としては、触媒、増粘剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、無機フィラー(炭酸カルシウム等)の等の周知の添加剤が挙げられる。
また、温間での機械的特性を向上させるためには、樹脂自体の構造を耐熱性の高いものにしたり、ほかにも、架橋剤や補強剤(CNT等)を添加して耐熱性を高めることができる。
【0040】
-成分の比率-
(A)高分子ポリオール及び(C)鎖長延長剤と(B)イソシアネート及びD)ポリオールとイソシアネートとが反応したプレポリマーとの当量比((A+C)/(B+D))は、常温下及び高温下での耐久性並びに低温下での耐衝撃性の向上の観点から、0.5~1.5、又は0.8~1.2が好ましい。
(A)高分子ポリオールと(C)鎖長延長剤との質量比(A/C)は、常温下及び高温下での耐久性並びに低温下での耐衝撃性の向上の観点から、1.0~35.0、又は1.5~10.0が好ましい。
(D)ポリオールとイソシアネートとが反応したプレポリマーと(C)鎖長延長剤との質量比(D/C)は、常温下及び高温下での耐久性並びに低温下での耐衝撃性の向上の観点から、1.0~15.0、又は5.0~10.0が好ましい。
【0041】
(コーティング剤の用途)
本実施形態のコーティング剤は、例えば、ばね、スタビライザ、バンパー、建築材(壁面タイル等)の保護層形成用のコーティング剤として好適に適用できる。
これらの中でも、本実施形態のコーティング剤は、ばね用のコーティング剤が代用的に挙げられる。
具体的には、本実施形態の物品は、表面の少なくとも一部に、上記本実施形態のばね用コーティング剤の硬化物層を有する。
本実施形態のばねは、表面の少なくとも一部に、上記本実施形態のばね用コーティング剤の硬化物層を有する。ばねは、コイルばね、板ばねのいずれでもよい。
【0042】
コーティング剤の硬化物層を設ける態様としては、例えば、次の通りである。
1)ばね線同士の接触による異音防止の目的で、コイルばねの、ばね線同士が接触する部位の表面
2)塗装保護の目的で、コイルばねの、座巻き部分の表面、もしくはコイルばねの一部または全面
3)衝撃緩和およびササクレ防止の目的で、FRP製の板ばねの、一部または全面
【0043】
(塗布方法)
本実施形態のコーティング剤の塗布方法は、特に制限はなく、浸漬塗布、スプレー塗布、 ローラー塗布、刷毛塗り法、フローコーター法等の塗布方法が適用できる。
ここで、コイルばねに、本実施形態のコーティング剤を塗布する場合、形成する硬化物層の厚みを1mm以上(特に1~2mm)とすることが好ましいことから、塗膜の垂れの問題が懸念される。
そのため、本実施形態のコーティング剤に、増粘剤を配合し、粘度を増加させることも好ましい。
また、紫外線硬化できるように、本実施形態のコーティング剤にアクリレート系樹脂と光重合開始剤を配合して、塗膜形成直後に、紫外線を照射し、塗膜の表層部を硬化させることも好ましい。
【実施例
【0044】
以下に本開示の実施例について説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、配合量(含有量、添加量)に関する「部」、「%」はすべて重量基準である。
【0045】
<実施例1~7、比較例1~8>
予め50℃に加温した、表1に示す量(g)の成分(ただし、イソシアネートを除く)をポリカップに精秤し、プライミクス(株)製 高速乳化・分散機 T.K.ホモディスパー2.5型(DH-2.5/1001)にて、2000rpmで1分間撹拌する。
次に、得られた溶液に、予め50℃に加温した、表1に示すイソシアネートを投入し、プライミクス(株)製「高速乳化・分散機 T.K.ホモディスパー2.5型(DH-2.5/1001)」にて、2000rpmで10秒撹拌し、コーティング剤を調製した。
【0046】
次に、コーティング剤を、離型剤を塗布したアルミ製板に塗布した。コーティング剤を塗布したアルミ製板を、オーブンに入れ、温度160℃及び20分で保持した後、オーブンから取り出し10分室温冷却した。
アルミ製板から、コーティング剤の硬化物を剥がした。
このようにして、厚さ1.5mm、直径5cmの、円盤状のコーティング剤の硬化物を得た。
ただし、ウレタンプレポリマーを使用する例では、表1に示す成分を、プライミクス(株)製「高速乳化・分散機 T.K.ホモディスパー2.5型(DH-2.5/1001)」にて、2000rpmで10秒撹拌し、コーティング剤を調製した。
【0047】
<評価>
得られた各例のコーティング剤の硬化物について、次の評価を実施した。
【0048】
(引裂強さ、タイプAデュロメータ硬さ)
既述の方法に従って、硬化物の、25℃及び80℃での引裂強さ、25℃での伸び、25℃でのタイプAデュロメータ硬度、25℃でのタイプDデュロメータ硬度を測定した。
【0049】
(常温下耐久性)
得られた各例のコーティング剤の硬化物の常温下耐久性は、常温(25℃下)で2tonの疲労試験を実施し、評価した。具体的には、次の通りである。
コイルばねにコーティング材を塗布し、加熱硬化させ、試験体を作製した。この試験体に2tonの荷重を繰り返し与え、与えた荷重の回数ごとにコーティング材が破断していないかを試験した。そして、下記評価基準で評価した。
◎: 30000回までは破断が確認されない。
〇: 5000回までは破断が確認されない。
×: 5000回までで破断が確認された。
【0050】
(高温下耐久性)
得られた各例のコーティング剤の硬化物の高温下耐久性は、温間(80℃下)で2tonの疲労試験を実施し、評価した。具体的には、次の通りである。
コイルばねにコーティング材を塗布し、加熱硬化させ、試験体を作製した。この試験体に高温下で2tonの荷重を繰り返し与え、与えた荷重の回数ごとにコーティング材が破断していないかを試験した。そして、下記評価基準で評価した。
◎: 30000回までは破断が確認されない。
〇: 5000回までは破断が確認されない。
×: 5000回までで破断が確認された。
【0051】
(低温下耐衝撃性)
自動車の足回り部品には、飛び石が衝突するため、低温下でも塗膜の割れが発生しないように、塗膜には柔軟性が求められる。そこで、コーティング剤の低温下での柔軟性を評価するために、厚さ1.5mm、幅30mm、長さ60mmの注型板を-36℃環境に24時間静置し、その後、取り出して即座に180°屈曲させ、割れの有無を確認した。
〇:割れない
×:割れた
【0052】
以下、表1での表記の詳細は、次の通りである。
-高分子ポリオール-
・PH50 :ポリカーボネート系ポリオール(宇部興産(株)製「ETERNACOLL PH50」)
・BENEBIOL HS0830B :ポリカーボネート系ポリオール(三菱ケミカル(株)製「BENEBIOL HS0830B」)
・C-3090 :ポリカーボネート系ポリオール((株)クラレ製「クラレポリオール C-3090」)
・BPX-33:ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物((株)ADEKA製「アデカポリエーテル BPX-33」)
・BPX-55:ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物((株)ADEKA製「アデカポリエーテル BPX-55」)
・T2305 :カプロラクトン系ポリオール((株)ダイセル製「PLACCEL T2305」)
・L220LA :カプロラクトン系ポリオール((株)ダイセル製「PLACCEL L220LA」)
・P-530 :ポリエステル系ポリオール((株)クラレ製「クラレポリオール P-530」)
・F-3010 :ポリエステル系ポリオール((株)クラレ製「クラレポリオール F-3010」)
・Capa7203 :ポリカーボネート系ポリオールとラクトン系ポリオールとの共重合体(INGEVITY社製「Capa 7203」)
【0053】
-イソシアネート-
・コロネートMX :1,4-MDI(モノメリックMDI)(東ソー(株)製「コロネート MX」)
【0054】
-ウレタンプレポリマー-
・アジプレン E740 : ポリエーテル系ポリオールとPPDIとの共重合体であるウレタンプレポリマー(ランクセス(株)製「アジプレン E740」)
・ハイ-アド 2867B : ポリエステル系ポリオールとMDIとの共重合体であるウレタンプレポリマー(エッチ・アンド・ケー(株)製「ハイ-アド 2867B」)
【0055】
-(C)鎖長延長剤-
・14BD:1,4-ブタンジオール
【0056】
-可塑剤-
・LIR-30:ポリイソプレン((株)クラレ製「クラプレンLIR-30」)
【0057】
以下、各例の物理特性の測定結果、各種試験の結果について、表1に一覧にして示す。
【0058】
【表1】

【0059】
上記結果から、本実施例のコーティング剤は、耐久性並びに低温下での耐衝撃性に優れた硬化物層を形成可能であることがわかる。
【0060】
なお、日本国特許出願第2021-098247号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。