(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】歯車機構、歯車機構の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/08 20060101AFI20240305BHJP
B23P 15/14 20060101ALI20240305BHJP
B23F 19/06 20060101ALI20240305BHJP
B23F 19/05 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
F16H55/08 A
B23P15/14
B23F19/06
B23F19/05
(21)【出願番号】P 2020142351
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】松尾 浩司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 良平
(72)【発明者】
【氏名】深野木 邦彦
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-281441(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104896061(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/08
B23P 15/14
B23F 19/06
B23F 19/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯底と、
前記歯底と接続する第1歯元と、
前記歯底と接続する第2歯元と、
前記第1歯元と接続する第1歯面と、
前記第2歯元と接続する第2歯面と、を有する形状の歯車を有する歯車機構であって、
前記歯底は、曲線状であり、
前記第1歯元の曲率半径は、前記第2歯元の曲率半径よりも大きく、
前記第1歯元及び前記第2歯元における前記歯底との接続点と接続する部分は、前記歯底との接続点に近づくほど前記歯車の軸心からの距離が小さくなり、且つ、前記接続点に近づくほど勾配が小さくなる曲線状であ
り、
前記歯車の軸芯から前記歯面の切削開始点の距離をえぐり発生径と定義すると、
前記第1歯面の前記えぐり発生径と、前記第2歯面の前記えぐり発生径と、が揃うように形成される、歯車機構。
【請求項2】
請求項1において、
前記歯底は上に凸の曲線状である、歯車機構。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記第1歯面の圧力角と前記第2歯面の圧力角とが等しくなるように設計されている、
歯車機構。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
前記歯車機構は、一対の前記歯車を有し、
一対の前記歯車の一方の前記第1歯面の歯面と、一対の前記歯車の他方の前記第1歯面
の歯面と、が接触するように一対の前記歯車が組付けられている、歯車機構。
【請求項5】
歯底と、
前記歯底と接続する第1歯元と、
前記歯底と接続する第2歯元と、
前記第1歯元と接続する第1歯面と、
前記第2歯元と接続する第2歯面と、を有する形状の歯車を有し、
前記歯底は、曲線状であり、
前記第1歯元の曲率半径は、前記第2歯元の曲率半径よりも大きく、
前記第1歯元及び前記第2歯元における前記歯底との接続点と接続する部分は、前記歯
底との接続点に近づくほど軸心からの距離が小さくなり、且つ、前記接続点に近づくほど
勾配が小さくなる曲線状である歯車機構の製造方法であって、
前記歯底と、前記第1歯元と、前記第2歯元と、第1仮歯面と、第2仮歯面と、を形成
した後に、
前記第1仮歯面を加工して前記第1歯面を形成する工程と、前記第2仮歯面を加工し
て前記第2歯面を形成する工程と、を行
い、
前記第1仮歯面のえぐり発生径と、前記第2仮歯面のえぐり発生径と、が揃うように前
記第1仮歯面及び前記第2仮歯面が形成される、歯車機構の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記第1歯面の圧力角と前記第2歯面の圧力角とが等しくなるように設計されている、
歯車機構の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、変速機に用いられる、はす歯の平行歯車を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
歯車の歯元強度を向上させるには、応力集中を緩和させることが好ましい。そのため、歯元の曲率半径を大きくして、歯元への応力集中を緩和させることが好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯元強度を向上すべく、歯元の曲率半径を単純に大きくしていくと、隣接する2つの歯の一方の歯元領域と、隣接する2つの歯の他方の歯元領域とが交差して、隣接する2つの歯の境界領域に、鋭いエッジが形成されてしまうことがある。
歯車の表面に鋭いエッジが形成されると、そこに応力集中が生じるため、応力集中を緩和させる必要がある。
【0006】
そのため、強度向上の観点を含めた歯車への機能要求に対して、バランスのとれた形状を有する歯車を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
歯底と、
前記歯底と接続する第1歯元と、
前記歯底と接続する第2歯元と、
前記第1歯元と接続する第1歯面と、
前記第2歯元と接続する第2歯面と、を有する形状の歯車を有する歯車機構であって、
前記歯底は、曲線状であり、
前記第1歯元の曲率半径は、前記第2歯元の曲率半径よりも大きく、
前記第1歯元及び前記第2歯元における前記歯底との接続点と接続する部分は、前記歯底との接続点に近づくほど前記歯車の軸心からの距離が小さくなり、且つ、前記接続点に近づくほど勾配が小さくなる曲線状であり、
前記歯車の軸芯から前記歯面の切削開始点の距離をえぐり発生径と定義すると、
前記第1歯面の前記えぐり発生径と、前記第2歯面の前記えぐり発生径と、が揃うように形成される、歯車機構である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、機能要求に対してバランスのとれた形状を有する歯車を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両用のベルト式の無段変速機1を搭載した車両Vの概略図である。
【
図2】カウンタギア7を大径歯車71側から見た斜視図である。
【
図3】カウンタギア7を大径歯車71側から見た平面図である。
【
図4】
図3におけるA-A矢視方向から、大径歯車71の外周を見た部分拡大図である。
【
図5】大径歯車71の外周の歯部73の第1側面731と第2側面732の形状を説明する図である。
【
図6】隣接する2つの歯部73、73の間の歯底720a側の拡大図である。
【
図7】歯元周りに形成されたエッジEを説明する図である。
【
図8】歯元周りに形成されたエッジEを説明する図である。
【
図9】歯元周りに形成されたエッジEを説明する図である。
【
図10】歯部73の第1側面731と第2側面732の形成過程を説明する図である。
【
図11】歯部73の第1側面731と第2側面732の形成過程を説明する図である。
【
図12】変形例にかかる歯元周りの形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、無段変速機1の終減速機構6のカウンタギア7に適用した場合を例に挙げて説明する。
図1は、車両用のベルト式の無段変速機1を搭載した車両Vの概略図である。
【0011】
図1に示すように、車両Vの駆動系は、エンジン2と、トルクコンバータ3と、前後進切替装置4と、バリエータ5(変速機構部)と、終減速機構6(歯車機構)と、駆動輪9、9と、を有する。
【0012】
トルクコンバータ3は、トルク増大機能を有する流体伝動装置である。エンジン2からトルクコンバータ3に入力された回転(回転駆動力)は、出力軸31を介して前後進切替装置4側に伝達される。
【0013】
前後進切替装置4は、前進クラッチ41と、後進ブレーキ42と、遊星歯車機構43と、を有している。
前後進切替装置4では、前進クラッチ41が締結されると、トルクコンバータ3側から入力された回転が、順回転でバリエータ5に出力される。後進ブレーキ42が締結されると、トルクコンバータ3側から入力された回転が、逆回転でバリエータ5に出力される。
【0014】
バリエータ5は、入力軸55(回転軸X1)回りに回転するプライマリプーリ51と、出力軸56(回転軸X2)回りに回転するセカンダリプーリ52と、ベルト53と、を有している。ベルト53は、一対のプーリ(プライマリプーリ51、セカンダリプーリ52)に巻き掛けられている。
【0015】
バリエータ5では、プライマリプーリ51とセカンダリプーリ52におけるベルト53の巻掛け半径を変更することで、前後進切替装置4側から入力された回転が、所望の変速比で変速されて、終減速機構6側に出力される。
【0016】
終減速機構6は、カウンタギア7と、差動装置8と、を有している。
カウンタギア7は、大径歯車71と小径歯車75とを有している。カウンタギア7は、回転軸X3周りに回転可能である。
大径歯車71は、バリエータ5の出力軸56に設けた出力歯車57に、回転伝達可能に噛合している。
小径歯車75は、ファイナルギア82に、回転伝達可能に噛合している。
【0017】
ファイナルギア82は、差動装置8のデフケース81に固定されている。
バリエータ5の出力軸56の回転は、カウンタギア7を介して、デフケース81に伝達される。デフケース81に伝達された回転は、最終的に、デフケース81と一体に回転する駆動軸SH、SHを介して、駆動輪9、9に伝達される。
【0018】
無段変速機1では、エンジン2の出力回転(回転駆動力)の伝達経路上に、複数の歯車機構(遊星歯車機構43、終減速機構6)が設けられている。
終減速機構6のカウンタギア7は、歯車機構を構成する歯車の1つである。
【0019】
図2は、カウンタギア7を大径歯車71側から見た斜視図である。
図2では、大径歯車71の外周に噛合する出力歯車57を仮想線で示している。
図3は、カウンタギア7を大径歯車71側から見た平面図である。
図4は、
図3におけるA-A矢視方向から、大径歯車71の外周を見た部分拡大図である。
なお、
図4では、大径歯車71の外周の歯部73の位置を判り易くするために、歯部73における歯先部730と、第1側面731と、第2側面732に、ハッチングを付して示している。
【0020】
図2に示すように、カウンタギア7において大径歯車71と小径歯車75は、共通の軸心(回転軸X3)上で同芯に配置されている。
図3に示すように、大径歯車71では、円板状の基部72の外周に、歯部73が設けられている。
【0021】
基部72の外周において歯部73は、回転軸X3周りの周方向の全周に亘って設けられている。歯部73は、回転軸X3周りの周方向に設定された間隔で設けられている。周方向で隣接する歯部73、73の間は、相手側歯車の歯部が係合可能な歯溝部74である。
本実施形態では、バリエータ5の出力軸56に設けた出力歯車57が、相手側歯車である。出力歯車57の外周の歯部58が、歯溝部74に挿入されて、出力歯車57と大径歯車71とが噛合する。大径歯車71と出力歯車57が、一対の歯車に相当する。
【0022】
図4に示すように、回転軸X3の径方向から見て、歯部73の各々は、回転軸X3に対して交差する向きで設けられている。歯部73の各々は、回転軸X3方向に延びており、歯部73の一端73aと他端73bは、回転軸X3周りの周方向で所定長さLオフセットしている。
歯部73の先端の歯先部730は、回転軸X3方向の全長に亘って略同じ幅W1で形成されている。
【0023】
図3に示すように、回転軸X3方向から見て歯部73の各々は、基部72の外周から外径側に突出している。歯部73の各々は、外径側に向かうにつれて周方向の幅Wが狭くなる断面形状を有している。
回転軸X3周りの周方向における歯部73の一方側の第1側面731と、他方側の第2側面732は湾曲した表面を有している。
なお、歯部73の断面形状は、回転軸X3方向の全長に亘って同じであり、
図4におけるA-A線に沿う側面も、B-B線に沿う断面も、
図3に示す歯部73の形状と同じである。
【0024】
本実施形態では、第1側面731が、ドライブ側の側面であり、第2側面732がコースト側の側面である。
ここで、ドライブ側の側面とは、エンジン2側から入力される回転駆動力の伝達に関与する側面を意味する。コースト側の側面とは、駆動輪9、9側から入力される回転駆動力の伝達に関与する側面を意味する。
【0025】
例えば、無段変速機1を搭載した車両Vがエンジン2の回転駆動力で走行しているときには、バリエータ5側の出力歯車57からカウンタギア7に回転駆動力が入力される。
本実施形態では、この際に、出力歯車57の歯部58の第1側面581が、歯部73の第1側面731に接触する(
図3参照)。これにより、バリエータ5の出力回転が、歯部73の第1側面731から大径歯車71に入力されて、カウンタギア7が回転軸X3周りに回転する。
【0026】
例えば、無段変速機1を搭載した車両Vが、アクセル開度ゼロ(=0)のコースト走行をしているときには、カウンタギア7は、駆動輪9、9側から入力される回転駆動力で回転する。この際に、歯部73の第2側面732が、出力歯車57の歯部58の第2側面582に接触する。これにより、駆動輪9、9側から入力される回転駆動力が、歯部73の第2側面732から、バリエータ5側の出力歯車57に入力されて、出力軸56が、回転軸X2周りに回転する。
【0027】
図5は、大径歯車71の外周の歯部73の第1側面731と第2側面732の形状を説明する図である。
図5では、周方向で隣接する2つの歯部73、73の間の第1側面731と第2側面732が示されている。
図6は、隣接する2つの歯部73、73の間の歯底720a側の拡大図であって、第1側面731の第1歯元731bと、第2側面732の第2歯元732bと、歯底720aの形状を説明する図である。
【0028】
図5に示すように、歯部73の第1側面731は、歯先部730に隣接する領域が、第1歯面731aであり、この第1歯面731aに隣接する領域が、第1歯元731bである。
第1歯面731aは、湾曲した断面形状を有している。断面視において第1歯面731aは、歯溝部74を間に挟んで隣接する他の歯部73側に膨出した曲線状に形成されている。
図6に示すように、第1歯元731bは、湾曲した断面形状を有している。断面視において第1歯元731bは、隣接する他の歯部73から離れる方向に窪んだ曲線状に形成されている。
歯部73の第1歯元731bは、大径歯車71の内径側(回転軸X3側に近づく方向の下側)に向けて窪んでおり、仮想円IM1に沿う弧状を成している。
【0029】
第1歯面731aと第1歯元731bは、連続的に接続しており、第1歯面731aと第1歯元731bとの接続点P1に、エッジが形成されないようになっている。
第1歯元731bの内径側は、歯底720aに連続的に接続しており、第1歯元731bと歯底720aとの接続点P2に、エッジが形成されないようになっている。
【0030】
歯底720aは、円弧状の断面形状を有している。断面視において歯底720aは、大径歯車71の外径側(回転軸X3から離れる方向の上側)に膨出した曲線状に形成されている。
大径歯車71の回転軸X3方向(軸心方向)から見て、歯底720aは、回転軸X3を中心とした仮想円IMaに沿う円弧状を成している。歯底720aは、上側(外径側)に凸の曲線状に形成されている。
【0031】
図5に示すように、歯部73の第2側面732は、歯先部730に隣接する領域が、第2歯面732aであり、この第2歯面732aに隣接する領域が、第2歯元732bである。
第2歯面732aは、湾曲した断面形状を有している。断面視において第2歯面732aは、歯溝部74を間に挟んで隣接する他の歯部73側に膨出した曲線状に形成されている。
図6に示すように、第2歯元732bは、湾曲した断面形状を有している。断面視において第2歯元732bは、隣接する他の歯部73から離れる方向に膨出した曲線状に形成されている。
歯部73の第2歯元732bは、大径歯車71の内径側(回転軸X3側に近づく方向の下側)に向けて窪んでおり、仮想円IM2に沿う弧状を成している。
【0032】
第2歯面732aと第2歯元732bは、連続的に接続しており、第2歯面732aと第2歯元732bとの接続点P3に、エッジが形成されないようになっている。
第2歯元732bの内径側は、歯底720aに連続的に接続しており、第2歯元732bと歯底720aとの接続点P4に、エッジが形成されないようにしている。
【0033】
ここで、大径歯車71の歯部73の歯元(第1歯元731b、第2歯元732b)の強度を向上させるためには、歯元側での応力集中を緩和させることが好ましい。
応力集中を緩和させる方法の一例として、歯元(第1歯元731b、第2歯元732b)の曲率半径を大きくすることが考えられる。
【0034】
歯元の強度を向上すべく、歯元の曲率半径を単純に大きくしていくと、隣接する2つの歯の一方の歯元領域と、隣接する2つの歯の他方の歯元領域とが交差して、隣接する2つの歯の境界領域に、鋭いエッジEが形成されてしまうことがある。
【0035】
例えば、
図7の場合には、第1歯元731bxの曲率半径r1xと、第2歯元732bxの曲率半径r2xが同じ(r1x=r2x)である。そして、第1歯元731bxと第2歯元732bxとの交点に、上側に突出する向きのエッジEが形成されている。
【0036】
例えば、
図8の場合には、第1歯元731byの曲率半径r1yのほうが、第2歯元732byの曲率半径r2yよりも大きい(r1y>r2y)。そして、第1歯元731byと第2歯元732byとの交点に、上側に突出する向きのエッジEが形成されている。
【0037】
例えば、
図9の場合には、第1歯元731bzの曲率半径r1zと、第2歯元732bzの曲率半径r2zが略同じ(r1z≒r2z)である。そして、第1歯元731bzと第2歯元732bzとの交点に、下側に突出する向きのエッジEが形成されている。
【0038】
このように、大径歯車71の歯部73X、73Y、73Zにおいて、第1歯元731bx、731by、731bzと、第2歯元732bx、732by、732bzとの交点にエッジEが形成されていると、エッジEとその近傍領域に応力集中が生じる。
【0039】
そのため、本実施形態では、
図6に示すように、第1歯元731bと第2歯元732bとの間に、歯底720aが残るようにして、第1歯元731bと第2歯元732bの曲率半径r1、r2が設定されている。
これにより、第1歯元731bと第2歯元732bにおける応力集中を緩和できるようにしている。
【0040】
さらに、本実施形態では、歯底720aにおける応力集中を緩和するために、歯底720aを曲線状に形成してある。具体的には、歯底720aは、大径歯車71の基部72の外周に沿う仮想円IMaに沿って形成されており、上側(外径側に)突出した曲線状を成している。
【0041】
ここで、第1歯元731b及び第2歯元732bの双方の曲率半径r1、r2を同じように大きくしていくと歯底720aが残存しなくなる可能性がある。
一方、歯底720aを残存させるためには大径歯車71(歯車)を大きくすることも考えられるが、その場合は歯車の小型化の妨げとなる。
そこで、2つの第1歯元731bの曲率半径r1と、第2歯元732bの曲率半径r2を異なるものとすることによって、歯元(第1歯元731b、第2歯元732b)における応力緩和と、歯底の残存と、歯車の小型化と、のバランスを考慮した歯車設計が可能となる。
これは、第1歯元731b及び第2歯元732bへの機能要求が必ずしも等価にならないという知見に基づく歯車設計である。
【0042】
本実施形態では、歯部73におけるドライブ側の側面である第1側面731の第1歯元731bの曲率半径r1を、コースト側の側面である第2側面732の第2歯元732bの曲率半径r2よりも大きくしている(r1>r2)。
これにより、無段変速機1を搭載した車両Vの前進走行において、歯元への応力集中を適切に緩和できる。よって、曲率半径を大きくしたことによりエッジEが生じることを防ぎつつ、歯部73の耐久性の向上が期待できる。
【0043】
さらに、歯元(第1歯元731b、第2歯元732b)の形状が、歯底720aとの接続点P2、P4付近で内径方向にえぐれた形状になると、接続点P2、P4付近に応力が集中しやすくなる。
そこで、本実施形態では、歯底720aとの接続点P2、P4に近づくほど、軸心(大径歯車71の中心(回転軸X3))からの距離L1、L2が小さくなるような歯車設計を採用している。
図6の場合には、第1歯元731bの軸心からの距離L1が、接続点P2に近づくにつれて小さくなっている(図中、L1→L1’参照)。さらに第2歯元732bの軸心からの距離L2が、接続点P4に近づくにつれて小さくなっている(図中、L2→L2’参照)。
【0044】
このような歯車設計を採用することにより、歯元(第1歯元731b、第2歯元732b)の形状が、歯底720aとの接続点P2、P4付近で内径方向(下側)にえぐれた形状となることを避けることができるようにしている。
【0045】
さらに、歯底720aとの接続点P2、P4付近における歯元(第1歯元731b、第2歯元732b)の形状が上に凸の曲線状となっていると、接続点P2、P4付近に応力が集中しやすくなる。
そこで、本実施形態では、歯元(第1歯元731b、第2歯元732b)の形状が、歯底720aとの接続点P2、P4に近づくほど、歯底720aとの交差角θ1、θ2(勾配)が小さくなる曲線状に形成されている。すなわち、歯元(第1歯元731b、第2歯元732b)の形状が、下側(内径側)に凸となる曲線状となっている。これにより、接続点P2、P4付近への応力集中を緩和できるようになっている。
【0046】
さらに、
図5に示すように、本実施形態の歯部73では、第1歯面731aの圧力角θ731と、第2歯面732aの圧力角θ732と、が等しくなるように設計している。
ここで、第1歯面731aの圧力角とは、大径歯車71の半径線Lcと、第1歯面731aの接点との交差角である。第2歯面732aの圧力角とは、大径歯車71の半径線Lcと、第2歯面732aの接点との交差角である。
【0047】
圧力角は歯車設計において重要なパラメータの一つであり、各種諸元(材料、寸法等)に基づき、精密に設計される必要がある。
よって、第1歯面731aの圧力角と、第2歯面732aの圧力角とが異なるように設計すると設計工数が増加する。
本実施形態では、第1歯面731aの圧力角θ731と、第2歯面732aの圧力角θ732と、が等しくなるように設計しているので、設計工数を減少させることができる。
すなわち、左右歯面で圧力角を変える場合、左右歯面それぞれでかみ合い成立の検証が必要なため、別の歯車を設計することと同じ工数が必要となることから、設計工数が増加する。そこで、左右歯面の圧力角を同一にすることで、設計工数を減少させることができるようになるのである。
【0048】
ここで、第1歯面731aの圧力角θ731と、第2歯面732aの圧力角θ732とを等しくした場合、隣接する2つの歯部73、73の間のスペースが制約されることになる。
そこで、本実施形態では、歯底720a間に挟んで隣り合う2つの歯元(第1歯元731b、第2歯元732b)の曲率半径r1、r2を異なるものとすることで、大径歯車71(歯車)の大型化を抑制できるようにしている。
【0049】
そして、2つの歯元(第1歯元731b、第2歯元732b)のうち、ドライブ側の第1歯元731bの曲率半径r1を、コースト側の第2歯元732bの曲率半径r2よりも大きくしている(r1>r2)。
カウンタギア7の歯部73では、無段変速機1を搭載した車両Vが、エンジン2の回転駆動力で前進走行している時に、ドライブ側の第1側面731(第1歯面731a、第1歯元731b)に、エンジンの回転駆動力が入力される。
そして、無段変速機1を搭載した車両Vのコースト走行時に、コースト側の第2側面732(第2歯面732a、第2歯元732b)に、駆動輪9、9側からの回転駆動力が入力される。
【0050】
本実施形態では、第1歯元731bの曲率半径r1を、第2歯元732bの曲率半径r2よりも大きくすることで、前進走行時における歯部73の耐久性を、コースト走行時の耐久性よりも優先して高めている。
【0051】
ここで、カウンタギア7の大径歯車71が噛合する出力歯車57の歯部58においても、ドライブ側の第1側面581の第1歯元581bの曲率半径を、コースト側の第2側面582の第2歯元582bの曲率半径よりも大きくしていることが好ましい(
図3参照)。
かかる場合には、大径歯車71の歯部73の第1側面731と、出力歯車57の歯部58の第1側面581の両方を、車両Vの前進走行時の動力伝達に対して耐久性を高めることができる。
【0052】
なお、出力歯車57の歯部58において、コースト側の第2側面582の第2歯元582bの曲率半径を、ドライブ側の第1側面581の第1歯元581bの曲率半径を大きくしても良い。
かかる場合には、動力伝達に関与する一対の歯車(大径歯車71と出力歯車57)の噛み合い部分における歯部の耐久性を、ドライブ走行時とコースト走行時の両方において高めることが期待できる。
【0053】
図10および
図11は、歯部73の第1側面731と第2側面732の形成過程を説明する図である。
図10では、第1側面731と第2側面732に、第1仮歯面731a’と第2仮歯面732’が残されている状態が示されている。
図11では、第1仮歯面731a’と第2仮歯面732’を切削により切除した状態が示されている。
【0054】
カウンタギア7の製造工程は、炭素鋼などの素材金属の鍛造等により、カウンタギア7の基本形状を持つ中間部品を形成する工程を有している。
中間部品は、最終的に大径歯車71と小径歯車75になる円板状の領域を備えている。中間部品の円板状の領域の外周を、切削工具を利用して切削することで、外周に歯部73を備える大径歯車71と、外周に歯部を備える小径歯車75が形成される。
【0055】
本実施形態の大径歯車71の歯部73の形状は、歯面(第1歯面731a、第2歯面732a)以外の箇所を、設計形状に基づいて作り込んだのちに、歯面(第1歯面731a、第2歯面732a)の形状を仕上げることで形成される。
【0056】
具体的には、
図10に示すように、第1側面731の第1歯元731bと、第2側面732の第2歯元732bが、設計形状に基づく切削加工により形成される。
この状態では、第1歯元731bが、曲率半径r1で形成されていると共に、第2歯元732bが、曲率半径r2で形成されている。さらに、第1歯元731bと第2歯元732bとの間に、外径側に頂点を向けた弧状の歯底720aが形成されている。
【0057】
そして、最終的に形成される歯面(第1歯面731aと、第2歯面732a)よりも歯溝部74側に膨らんだ、仮歯面(第1仮歯面731a’と、第2仮歯面732a’)が形成されている。
これら第1仮歯面731a’と、第2仮歯面732a’の表面を、切削工具を用いて切削することで、歯面(第1歯面731aと、第2歯面732a)が形成される(
図11参照)。
【0058】
ここで、本実施形態では、第1仮歯面731a’と第2仮歯面732a’を切削する際に、内径側の切削開始点Pc、Pcの位置が以下の条件を満たすように、第1仮歯面731a’と第2仮歯面732a’の形状と、切削条件が設定されている。
・第1仮歯面731a’と第2仮歯面732a’を切削する際に、表面の切削開始位置(えぐり発生位置)が、仮想円IMb上の同じ位置になる。仮想円IMbは、カウンタギア7の回転軸X3を中心とした仮想円である。
【0059】
すなわち、カウンタギア7の軸芯(回転軸X3)から第1仮歯面731a’側の切削開始点Pcまでの距離(えぐり発生径Rx)と、カウンタギア7の軸芯(回転軸X3)から第2仮歯面732a’側の切削開始点Pcまでの距離(えぐり発生径Rx)とが同じとなるようにしている。
ここで、えぐり発生位置とは、仮歯面(第1仮歯面731a’、第2仮歯面732a’)のうち最も突出した部分を意味する。
【0060】
これは、歯部73の第1側面731が、歯部58(
図3参照)の第1側面581に噛み合うときの歯面同士の接触面積と、歯部73の第2側面732が、歯部58の第2側面582に噛み合うときの歯面同士の接触面積とが、略同じとなるようにするためである。
これにより、歯部73と歯部58との噛み合いが安定して、歯車品質(歯面精度)が向上する。
【0061】
このように、本実施形態にかかるカウンタギア7の製造方法では、歯底720aと、第1歯元731bと、第2歯元732bと、第1仮歯面731a’と、第2仮歯面732a’と、を形成した後に、次の2つの工程を行う。
・第1仮歯面731a’を加工して第1歯面731aを形成する工程
・第2仮歯面732a’を加工して第2歯面732aを形成する工程
【0062】
歯面(第1歯面731a、第2歯面732a)以外の箇所を本発明の設計形状に基づき作りこんだ後に歯面(第1歯面731a、第2歯面732a)を仕上げることで歯車品質(歯面精度)を向上することができる。
【0063】
図12は、変形例を説明する図である。
上記の実施形態では、周方向で隣接する歯部73、73の第1歯元731bと第2歯元732bと間に、外径側に頂点を向けた歯底720aが存在する場合を例に挙げて説明をした(
図6参照)。
第1歯元731bと第2歯元732bを切削により形成する際の振れなどにより、歯底720aが残らない場合も生じ得る。
かかる場合であっても、第1歯元731bと第2歯元732bとの接続点P5に、エッジEが生じない形状であれば、歯元周りでの応力集中を緩和できる。よって、
図12に示す形状の歯元(第1歯元731bと第2歯元732b)を持つ歯部73Aもまた、本件発明の範囲に含まれる。
【0064】
以上の通り、本実施形態にかかる終減速機構6(歯車機構)は、以下の構成を有している。
(1)歯底720aと、
歯底720aと接続する第1歯元731bと、
歯底720aと接続する第2歯元732bと、
第1歯元731bと接続する第1歯面731aと、
第2歯元732bと接続する第2歯面732aと、を有する形状の歯部73を持つ大径歯車71(歯車)を有する。
歯底720aは、曲線状である。
第1歯元731bの曲率半径r1は、第2歯元732bの曲率半径r2よりも大きい(r1>r2)。
第1歯元731b及び第2歯元732bにおける歯底720aとの接続点P2、P4と接続する部分は、歯底720aとの接続点P2、P4に近づくほど大径歯車71の軸心(回転軸X3)からの距離L1、L2が小さくなり、且つ、接続点P2、P4に近づくほど勾配(歯底720aとの交差角θ1、θ2)が小さくなる曲線状である。
【0065】
この構成によると、下記のような考え方から、強度向上の観点を含めた歯車への機能要求に対してバランスのとれた形状を有する歯車を提供することができるようになる。
【0066】
(A)第1歯元731bと第2歯元732bとの間に歯底720aを残存させることにより、第1歯元731bと第2歯元732bとの間の領域における応力集中を緩和する。
なお、第1歯元731bと第2歯元732bとの間にエッジEのある形状は(
図7、
図8、
図9参照)、もはや歯底が不成立な状態であり、歯底がないこととほぼ同義である。
(B)歯底720aにおける応力集中を緩和するために歯底720aを曲線状とする。なお、エッジEのある歯底の形状は非曲線状である。
【0067】
(C)第1歯元731b及び第2歯元732bの双方の曲率半径を同じように大きくしていくと歯底720aが残存しなくなる可能性がある。
一方、歯底720aを残存させるためには大径歯車(歯車)を大きくすることも考えられるが、その場合は歯車の小型化の妨げとなる。
そこで、2つの歯元(第1歯元731b及び第2歯元732b)の曲率半径を異なるものとすることによって、歯元応力緩和と、歯底の残存と、歯車の小型化と、のバランスを考慮した歯車設計が可能となる。
これは、第1歯元731b及び第2歯元732bへの機能要求が必ずしも等価にならないという知見に基づく歯車設計である。
【0068】
(D)歯元(第1歯元731b及び第2歯元732b)と歯底(歯底720a)との接続点P2、P4付近で内径方向にえぐれた形状となると、接続点P2、P4付近に応力が集中しやすくなる。
そこで、歯底(歯底720a)との接続点P2、P4に近づくほど軸心(回転軸X3)からの距離L1、L2が小さくなるような歯車設計とする。これにより、歯元と歯底との接続点付近で内径方向にえぐれた形状、例えば特開平8-105513号公報の
図3に開示された形状となることを避けることができる。
(E)歯元(第1歯元731b及び第2歯元732b)と歯底(歯底720a)との接続点P2、P4付近における歯元の形状部分が上に凸の曲線状となっていると、接続点付近の応力が集中しやすくなる(
図7、
図8参照)。
そこで、歯底との接続点に近づくほど勾配が小さくなる曲線状、即ち、下に凸の曲線状とすることで接続点付近の応力集中を緩和することができる。
これにより、歯元とは底により、連続したRを描く形状となり、鋭いエッジEが形成されることを好適に防止できる。
【0069】
本実施形態にかかる終減速機構6(歯車機構)は、以下の構成を有している。
(2)歯底720aは、上に凸の曲線状である。
【0070】
歯底を、頂点を下側に向けた下に凸の曲線状となるように設計することも許容される。
しかし、下に凸の曲線状となるように設計した場合において、製造ばらつきに伴い、第1歯元731b側の歯底と第2歯元732b側の歯底とがえぐれすぎてしまうことにより、それぞれぶつかり合い、歯底にエッジEが形成されて非曲線状となる場合がある。
そこで、頂点を上側に向けた上に凸の曲線状の歯底720aが残存するような設計とすることより、えぐれすぎによる歯底のエッジ形成を抑制することができるようになる。
【0071】
本実施形態にかかる終減速機構6(歯車機構)は、以下の構成を有している。
(3)第1歯面731aの圧力角θ731(
図5参照)と、第2歯面732aの圧力角θ732(
図5参照)とが等しくなるように設計されている。
【0072】
圧力角は歯車設計において重要なパラメータの一つであり、各種諸元(材料、寸法等)に基づき、精密に設計される必要がある。よって、第1歯面731aの圧力角と第2歯面732aの圧力角とが異なるように設計すると設計工数が増加する。
そこで、第1歯面731aの圧力角と第2歯面732aの圧力角とが等しくなるように設計することで、設計工数を減少させることができる。
【0073】
そして、第1歯面の圧力角と第2歯面の圧力角とを等しくした場合、隣接する2つの歯部73、73の間のスペースが制約されることになるので、2つの歯元の曲率半径を異なるものとすることが、歯車の大型化を抑制する上で重要な考え方となる。
【0074】
本実施形態にかかる終減速機構6(歯車機構)は、以下の構成を有している。
(4)終減速機構6(歯車機構)は、カウンタギア7と出力歯車57(一対の歯車)を有する。
カウンタギア7の歯部73の第1歯面731aと、出力歯車57の歯部58の第1歯面581aとが接触するように、カウンタギア7と出力歯車57が組付けられている
歯部73では、第1歯元731bの曲率半径r1が、第2歯元732bの曲率半径r2よりも大きい。
歯部58では、第1歯元581bの曲率半径が、第2歯元582bの曲率半径よりも大きい。
【0075】
カウンタギア7の歯部73の第1歯元731bと第2歯元732bの曲率半径が異なると共に、出力歯車57の歯部58の第1歯元581bと第2歯元582bの曲率半径が異なる場合、歯元の曲率半径が大きいほうの歯面と、歯元の曲率半径が小さい方の歯面とを接触させる向きで、カウンタギア7と出力歯車57(一対の歯車)を組み付けることが考えられる。
かかる場合、カウンタギア7の正回転(前進走行時の回転)および逆回転(後進走行時の回転)の双方において、歯部の応力耐性を平均的に向上させることができる。しかし、正回転と逆回転との間の負荷にギャップが大きいことが多いので、上記のような組付け方を採用することが好ましい。この組付け方は、歯元応力緩和と、歯底の残存と、歯車の小型化と、のバランスを考慮した組付け方であるといえる。
【0076】
本実施形態にかかる終減速機構6(歯車機構)の製造方法は、以下の構成を有している。(5)終減速機構6は、
歯底720aと、
歯底720aと接続する第1歯元731bと、
歯底720aと接続する第2歯元732bと、
第1歯元731bと接続する第1歯面731aと、
第2歯元732bと接続する第2歯面732aと、を有する形状の歯部73を持つ大径歯車71(歯車)を有する。
歯底720aは、曲線状である。
第1歯元731bの曲率半径r1は、第2歯元732bの曲率半径r2よりも大きい。
第1歯元731b及び第2歯元732bにおける歯底720aとの接続点P2、P4と接続する部分は、歯底720aとの接続点P2、P4に近づくほど大径歯車71の軸心からの距離L1、L2が小さくなり、且つ、接続点P2、P4に近づくほど勾配(歯底720aとの交差角θ1、θ2)が小さくなる曲線状である。
製造方法では、歯底720aと、第1歯元731bと、第2歯元732bと、第1仮歯面731a’と、第2仮歯面732a’と、を形成した後に、次の2つの工程を行う。
・第1仮歯面731a’を加工して第1歯面731aを形成する工程
・第2仮歯面732a’を加工して第2歯面732aを形成する工程
【0077】
歯面(第1歯面731a、第2歯面732a)以外の箇所を本発明の設計形状に基づき作りこんだ後に歯面を仕上げることで歯車品質(歯面精度)を向上することができる。
【0078】
本実施形態にかかる終減速機構6(歯車機構)の製造方法で作製される大径歯車71は、以下の構成を有している。
(6)第1歯面731aの圧力角θ731と、第2歯面732aの圧力角θ732とが等しくなるように設計されている
【0079】
圧力角は歯車設計において重要なパラメータの一つであり、各種諸元(材料、寸法等)に基づき、精密に設計される必要がある。
よって、第1歯面の圧力角と第2歯面の圧力角とを異なるように設計すると設計工数が増加する。そこで、第1歯面の圧力角と第2歯面の圧力角とを等しくなるように設計することで、設計工数を減少させることができる。
そして、第1歯面の圧力角と第2歯面の圧力角とを等しくした場合、隣接する2つの歯の間のスペースが制約されることになるので、2つの歯元の曲率半径を異なるものとすることが、歯車の大型化を抑制する上で重要な考え方となる。
【0080】
本実施形態にかかる終減速機構6(歯車機構)の製造方法は、以下の構成を有している。
(7)第1仮歯面731a’のえぐり発生径Rxと、第2仮歯面732a’のえぐり発生径Rxと、が揃うように第1仮歯面731a’及び第2仮歯面732a’が形成される。
【0081】
歯部73の第1側面731が歯部58の第1側面581に噛み合うときの、歯面同士の接触面積と、歯部73の第2側面732が、歯部58の第2側面582に噛み合うときの歯面同士の接触面積とが、略同じとなる。
これにより、歯部73と歯部58との噛み合いが安定して、歯車品質(歯面精度)が向上する。
【0082】
ここで、第1仮歯面731a’のえぐり発生径Rxと、第2仮歯面732a’のえぐり発生径Rxと、が揃うとは、以下のように言い換えることができる。
・仮歯面731a’、732a’の切削後(歯切り後)の中間製品において、曲率半径が大きい側と、曲率半径が小さい側において、えぐり発生位置の高さが揃う。
・後工程(ギヤシェービング、ギヤホーニング等)での歯面加工時に、工具とのかみ合いが開始する径が揃う
・歯部73の歯面(第1歯面731a、第2歯面732a)のかみ合いが安定し、歯車品質(歯面精度)を向上することができる。
【0083】
前記した実施形態では、カウンタギア7が、はす歯歯車であり、はす歯歯車の互いに噛み合う歯部の形状の場合を例に挙げて説明をした。本件発明は、平歯車などの他の歯車にも適用可能である。
【0084】
前記した実施形態では、一対の歯車が、一例として、はす歯の外歯歯車が噛合した平行歯車対である場合を例示した。
また、歯部の形状は、断面を歯車の軸方向から視た場合の歯車の表面(歯面の表面、歯元の表面、歯底の表面等)の描く線形状を意味する。なお、歯車の端面が断面と当該断面と同じ形状になる場合もある。
【0085】
本発明は、切削による形成においての現実解を追求することにより創出された発明である。切削による形成を行った場合は、その形状は歯形創成理論に基づく形状(歯形)となる。なお、本発明の適用範囲は切削のみに限定されるものではなく、鍛造等の他の方法でも形成しても良い。
【0086】
前記した実施形態では、エンジン2の回転動力の伝達経路上に位置する一対の歯車の場合を例示した。本件発明は、エンジン2とモータ(図示せず)の両方を搭載したハイブリッド車両や、モータ車両の動力伝達系路上に位置する一対の歯車に適用しても良い。
【0087】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0088】
56 :出力軸
57 :出力歯車
58 :歯部
581 :第1側面
581a :第1歯面
581b :第1歯元
582 :第2側面
581a :第2歯面
582b :第2歯元
6 :終減速機構
7 :カウンタギア
71 :大径歯車
72 :基部
720a :歯底
73、73X、73Y73Z :歯部
731 :第1側面
731a :第1歯面
731a’ :第1仮歯面
731b、731bx、731by、731bz :第1歯元
732 :第2側面
732a :第2歯面
732a’ :第2仮歯面
732b、732bx、732by、732bz :第2歯元
74 :歯溝部
75 :小径歯車
E :エッジ
L1 :距離
L2 :距離
P1、P2、P3、P4、P5 :接続点
Pc :切削開始点
R :歯元
Rx :えぐり発生径
X3 :回転軸(軸心)
r1、r1x、r1y、r1z :曲率半径
r2、r2x、r2y、r2z :曲率半径
θ1、θ2 :交差角
θ731、θ732 :圧力角