IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユーエービー “ディメンス プリント”の特許一覧

特許7447371壁への貼り付け特性が改善された壁装材のための複合PVCフリーシート
<>
  • 特許-壁への貼り付け特性が改善された壁装材のための複合PVCフリーシート 図1a)
  • 特許-壁への貼り付け特性が改善された壁装材のための複合PVCフリーシート 図1b)
  • 特許-壁への貼り付け特性が改善された壁装材のための複合PVCフリーシート 図2
  • 特許-壁への貼り付け特性が改善された壁装材のための複合PVCフリーシート 図3
  • 特許-壁への貼り付け特性が改善された壁装材のための複合PVCフリーシート 図4
  • 特許-壁への貼り付け特性が改善された壁装材のための複合PVCフリーシート 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】壁への貼り付け特性が改善された壁装材のための複合PVCフリーシート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20240305BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20240305BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240305BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20240305BHJP
   E04F 13/18 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B32B27/12
B32B7/022
B32B27/32 Z
E04F13/07 B
E04F13/18 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020567156
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 IB2018053871
(87)【国際公開番号】W WO2019229498
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-01-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】523324890
【氏名又は名称】ユーエービー “ディメンス プリント”
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エティン、アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォロノヴィク、ジャロスラブ
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】久保 克彦
【審判官】▲高▼橋 杏子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-516691(JP,A)
【文献】登録実用新案第3131752(JP,U)
【文献】特開2010-229604(JP,A)
【文献】特開2011-208323(JP,A)
【文献】特開2013-226789(JP,A)
【文献】特開2016-166429(JP,A)
【文献】特開2014-80023(JP,A)
【文献】登録実用新案第3167956(JP,U)
【文献】特開2011-57844(JP,A)
【文献】特開2006-200047(JP,A)
【文献】特開昭58-58380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/12 , B32B 7/022 , B32B 27/32 , E04F 13/07 , E04F 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁装材のための複合シートであって、
0.1GPaより低い弾性率を有するポリオレフィン製の上層と、セルロース繊維および合成繊維を含む、1GPaより高い弾性率を有するベース層とを備え、
前記ベース層の吸湿膨張率は0.5%以下であり、
前記ベース層に対する前記上層の厚み比率は、2~6であ
前記ベース層は100ミクロン以上であり、
前記ベース層と前記上層の厚みの合計は1mm以下であり、
前記吸湿膨張率はFenchel, Mutek 4 N, Mutek 1 N, ISO 5635規格に基づいて測定される、複合シート。
【請求項2】
前記ベース層の吸湿膨張率が0.3%未満であり、前記ベース層に対する前記上層の厚み比率が3~6である、請求項1に記載の複合シート。
【請求項3】
弾性率が0.1GPaより高い追加の層を前記上層の上に備える、請求項1または2に記載の複合シート。
【請求項4】
前記追加の層の厚みは5~20ミクロンである、請求項3に記載の複合シート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の複合シートを備える壁装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁装材を生成するための複合シートに関し、特に、PVCフリーのラミネート複合シート、および、そのような複合シートを含む壁装材に関する。
【背景技術】
【0002】
全体の厚みが1mm未満である薄い壁装材は典型的には、装飾的なホットエンボス加工ポリ塩化ビニル(PVC)層である上層、および、紙または不織布基材である下層という2つの主な層からなる。壁装材のためのPVCフリー組成物は、PVC材料の環境問題に起因して、ますます重要になっている。ポリオレフィン(PO)製の壁装材は、そのようなPVCフリー壁装材の例である。しかし、ポリオレフィン製の壁装材は、生成時に熱カールが生じやすい。熱カールを最小化または回避するために、ポリオレフィン製の上層および不織布基材ベース層を有する壁装材は、生成中の加熱/冷却サイクルにおいて、安定した下層と比較して熱係数ミスマッチおよび収縮が小さい上層を有する必要がある。そのような壁装材は、欧州出願第14158061.3号に開示されている。ここでは、壁装材は、ベース層と、ベース層に結合した発泡性装飾層とを含む複合シートを備える。発泡層は、0.1GPaより低い弾性率を有する材料を含む。ベース層は、1GPaより高い弾性率を有する不織布材を含む。また、上層の弾性率とベース層の弾性率との間の弾性率比は0.05に維持される必要がある。
【0003】
ポリオレフィン上層を含む壁装材の貼設プロセスは、壁装材のベース層と、覆われる表面との間に接着性材料を塗布することを含む。使用される接着剤の大部分は水性である。セルロースを含むベース層は水分を吸収すると、特にクロスマシン方向(CD)に膨張する。これは、吸湿状態への膨張、および、乾燥状態への収縮によって紙のサイズの変化をもたらす。したがって、セルロース繊維の膨張は、吸湿膨張とも呼ばれる寸法の変化をもたらす。しかしながら、上層は膨張せず、したがって、下層が上層に与える応力は、カール(吸湿カールとしても言及される)を引き起こす。この吸湿カールは、複雑な貼設プロセスにつながる。なぜなら、貼設を実行するときに壁装材の縁が壁からはがれやすくなるからである。
【0004】
セルロース繊維に加えてポリエステル繊維を含む材料、すなわち、不織布材は、セルロース繊維のみの材料と比較して、大幅に低い吸湿膨張率を示す。PVC製の壁装材の場合、様々な種類の不織布、および、更には吸湿膨張率が高い単純な紙が使用される。なぜなら、比較的高い弾性率を有するPVC組成物は、大きい熱カールを生じさせることなくコーティングできるからである。より高い弾性率のPVCコーティングは、下層の吸湿膨張率を大幅に安定化し、カールが回避される。しかしながら、ポリオレフィン材料の場合、ポリオレフィンだけを含む上層の製造中に熱カールを回避するために、比較的低い弾性率、すなわち0.1GPa未満の上層が使用される必要がある。したがって、本出願において開示されるポリオレフィン製壁装材における吸湿カールを回避するために、層の特殊な特性が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の実施形態によれば、壁装材のための複合シートは、ベース層と、ベース層に結合された上層とを含む。上層はポリオレフィン化合物の発泡層からできている。複合シートは更に、発泡層に貼られる追加の層を含み得る。ベース層、発泡層、および、いくつかの実施形態において、追加の層により、湿性貼設プロセス中にポリオレフィン型壁装材の吸湿カールを回避することが可能になる。様々な層のパラメータに対する得られた吸湿カール依存性、および、ティモシェンコの方程式として知られる異種金属梁問題を、開発されたテスト方法と共に使用することにより、上述の問題が無いポリオレフィン製の壁装材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
新規性および進歩性があると思われる本発明の特徴は、特に添付の特許請求の範囲において説明される。しかしながら、発明自体は、添付の図面の共に以下の発明の詳細な説明を参照することによりもっともよく理解され得る。発明の詳細な説明は、非限定的な例である発明の例示的な実施形態を記載する。
図1】複合シートの層、a)2つの層の複合シート、b)3つの層の複合シートの位置を示す。
図2】吸湿膨張率が異なる(他のパラメータは一定である)不織布上の同様の上層を有する複合シートの吸湿カールの試験結果を示す。
図3】様々な不織布上の、上層と下層との厚み比率が異なる(他のパラメータが一定である)吸湿カールパラメータの試験結果を示す。
図4】吸湿膨張率に対する追加ポリマー層の影響の試験結果の比較表を示す。
図5】試験サンプルの吸湿カールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
添付の図面と連携して、本発明の技術的内容および詳細な説明は、好ましい実施形態(実行の範囲を限定するために使用されない)に従って以下に記載される。添付の特許請求の範囲に従う任意の同等の変形および修正はすべて、本発明によって請求される特許請求の範囲によって包含される。
【0008】
様々な層のパラメータへの吸湿カールの依存性は、熱的なミスマッチの差に起因する梁の曲率を計算するティモシェンコの方程式として知られる異種金属梁問題として解析できる。
【0009】
温度Tのとき、梁にはカールが無いが、温度がTに変化したとき、梁は曲率kを有する。
【数1】
ここで、mは厚み比率t/tであり、nは弾性率比E/Eであり、hは厚み合計t+tであり、ΔTは温度変化T-Tであり、Δαは熱係数ミスマッチα-αである。
【0010】
ティモシェンコ分析解法は、熱係数ミスマッチΔTΔαがベース層吸湿膨張率βΔTに置き換えられるときに、壁装材の複合シートの吸湿カールの値を定義することによって、壁装材の寸法安定性を評価するために適合および使用される。
ΔTΔα→β
そのため、吸湿カールの値は以下の式によって取得できる。
【数2】
ここで、βは無次元のベース層吸湿膨張率(単位は%)であり、mは上層tとベース層tとの厚み比率t/tであり、nは上層弾性率Eと下層弾性率Eとの弾性率比E/Eであり、hは上層tおよびベース層tの厚み合計t+tである。
【0011】
吸湿カールのプロセスは、室温、50%の相対湿度で生じ、ベース層の吸湿膨張率以外にはカールに大幅に影響する他の要因は無いと想定する。
【0012】
したがって、吸湿カールは、以下のうち少なくとも1つ(または任意の組み合わせ)によって大幅に、かつ十分に低下し得る。
・ベース層の吸湿膨張率を低下させる、および/または、
・上層とベース層との厚み比率を増加させる、および/または
上層の弾性率を増加させる
【0013】
しかしながら、特に、上層およびベース層の弾性率、当該組成物の全体の厚みにおいて、いくつかの制約に従う必要がある。上層およびベース層の弾性率に対する制約は、熱収縮に起因し、厚みの制限は、実際的に理由に起因する。すなわち、不織布のベースは通常は、100ミクロンより薄くすることができず、外観およびコストに起因して、壁装材の厚みの合計が1mmを超えることはほとんどなく、好ましくは0.8mmである。
【0014】
図面の図1のaを参照すると、本発明の第1実施形態による壁装材の複合シートは、上層(1)およびベース層(2)を含む。上層(1)は、0.1GPa未満の弾性率を有する、発泡状態にある例えばポリオレフィンなどの装飾的発泡性材料を含む。ベース層(2)は、1GPaより高い弾性率を有し、セルロースおよび合成繊維を含む基材を備える。上層(1)の弾性率とベース層(2)の弾性率との弾性率比は0.05である。ベース層(2)の吸湿膨張率は0.5%以下であり、上層(1)とベース層(2)との厚み比率は2~6であり、当該組成を含む壁装材の全体の厚みは、1mm以下、特に、0.8mm以下である。
【0015】
上記のような複合シートを含む壁装材の安定性は、上層(1)の弾性率を増加させることにより増加し得る、または、更に増加し得る。しかし、これは、ポリオレフィンだけの上層(1)の場合、製造中のカールの問題に起因して不可能である(EP特許出願第14158061.3号に記載される)。上層(1)の弾性率を増加させることによって壁装材の安定性を増加させるべく、高い弾性率を有するが、熱収縮に対する影響がない、または、ほとんどない追加の層(3)が、複合シートの製造中にポリオレフィン層(1)に貼られる。図面の図1のbを参照すると、本発明の別の実施形態による壁装材のための複合シートは、上層(1)を含み、上層(1)は、発泡状態のポリオレフィンを含み、ベース層(2)および追加の層(3)はポリマーを含む。ポリオレフィン層(1)は、0.1GPa未満の弾性率を有し、ベース層(2)は、1GPaより高い弾性率を有し、セルロースおよび合成繊維を含む基材を備える。追加の層(3)は、0.1GPaより高い、好ましくは、1GPaより高い弾性率を有し、厚みは5~20ミクロンである。追加の層(3)は、例えば、印刷インク層のような水性アクリル樹脂エマルジョン層などのポリマー層であり得る。アクリルポリマーの場合、ポリマーのガラス遷移温度が30℃より高い、好ましくは40℃より高いとき、弾性率は典型的には、室温で1GPaより高い。20ミクロンより大きい厚みを有する追加の層を使用すると、熱カールが生じる。一方、5ミクロンより小さい場合、吸湿カールに影響するほど十分大きくない。上層(1)の弾性率とベース層(2)の弾性率との弾性率比は0.05である。ベース層(2)の吸湿膨張率は0.5%以下であり、上層(1)と下層(2)との厚み比率は2~6であり、当該組成を含む壁装材の全体の厚みは、1mm以下、特に、0.8mm以下である。
【0016】
第1および第2の実施形態の場合、ベース層(2)の吸湿膨張率は0.3%より低く、上層(1)とベース層(2)との厚み比率は3~6であり、当該組成を含む壁装材の全体の厚みは、1mm以下、特に、0.8mm以下であることが好ましい。
インハウス吸湿カール試験方法
【0017】
反復可能な方式で吸湿カールを測定すること、および、湿性貼設プロセス中の壁装材の挙動を予測することを可能にするテスト方法が開発された。
【0018】
機械方向に長辺を有する12×15cmサイズのサンプルが試験複合シートから切り出される。サンプルの裏は、室温および50%の相対湿度の条件で、標準的な水性接着剤でコーティングされ、すぐに1点でそれを保持して貼設される。サンプルはカールし、1分後、上部の縁と下部の縁との間の距離が測定される。吸湿カールパラメータは、上記距離の平均をサンプルの幅から減算することによって計算される。パラメータの範囲は0~12である。サンプルがロール状にカールする場合、距離はゼロとみなされ、パラメータは12に近い、または、12である。好ましくは、吸湿カールパラメータは、0に近い、または0である。この値が高いほど、壁装材を貼設することが難しくなる。
【0019】
異なる層の変動するパラメータを有する複合シートのサンプルが調製され、上記テスト方法に従って、その吸湿カール性能が測定された。図2図4の実行された試験のデータによれば、不織布の吸湿膨張率が低下するほど、複合シートの吸湿カールが低下する。この測定結果はまた、厚み比率の大きな影響を示す。すなわち、下層(2)に対する上層(1)の比率が2より高いとき、吸湿カールパラメータは急速に低下する。また、追加の層(3)におけるポリマー弾性率の影響がはっきりと見られる。0.1GPaより高い、好ましくは1GPaより高い弾性率を有するポリマーを使用することにより、吸湿カールパラメータは数単位だけ低下した。
【0020】
異なる吸湿カールパラメータkを有する壁装材を貼設するための試験では、7より大きい吸湿カールを有する壁装材は貼り付けが難しく、縁が壁上でカールする傾向があることが示された。最高の結果は吸湿カールパラメータが5以下の場合に得られた。
【0021】
第1実施形態によれば、複合シートは、ポリオレフィンを含む上部発泡層(1)と、0.25%の吸湿膨張率を有する不織布材を含むベース層(2)とを備え、上層(1)とベース層(2)との厚み比率は、約2.2~約3.9である。
【0022】
第1実施形態によれば、複合シートは、ポリオレフィンを含む上部発泡層(1)と、0.3%の吸湿膨張率を有する不織布材を含むベース層(2)とを備え、上層(1)とベース層(2)との厚み比率は、約3.5~約4.6である。
【0023】
第1実施形態によれば、複合シートは、ポリオレフィンを含む上部発泡層(1)と、0.5%の吸湿膨張率を有する不織布材を含むベース層(2)とを備え、上層(1)とベース層(2)との厚み比率は、約5である。
【0024】
第2実施形態によれば、複合シートは、上部発泡層(1)と、0.25%の吸湿膨張率を有する不織布材を含むベース層(2)と、0.2GPa~2GPaの弾性率を有する追加の層(3)とを備え、上層(1)はポリオレフィンを含む。
【0025】
第2実施形態によれば、複合シートは、上部発泡層(1)と、0.5%の吸湿膨張率を有する不織布材を含むベース層(2)と、1.2GPa~2GPaの弾性率を有する追加の層(3)とを備え、上層(1)はポリオレフィンを含む。
【0026】
吸湿膨張率という用語は、周知の試験方法による、乾燥したセルロース製の試料と湿ったセルロース製の試料との間の、クロスマシン方向の長さの差のパーセンテージとして計算されるパラメータを意味する。これらの方法は、限定されないが、Fenchel, Mutek 4 N, Mutek 1 N, ISO 5635規格に基づき得る。理論上、正確に実行されれば、測定は同様のデータを提供するはずである。吸湿膨張率が低いほど、セルロース複合体ベースの材料の寸法安定性が良くなる。吸湿膨張率パラメータは、壁装材のベースの製造者によって提供され、測定技法によって変動する。本発明の背景技術において記載されたような、壁装材の貼設プロセスにおける上記の問題を引き起こす、壁装材層の吸湿膨張率は、室温、50%の相対湿度で観察されることを理解すべきである。
【0027】
本説明は、本発明の多くの特徴および長所を構造的な詳細および特性と共に含むが、本説明は、本発明の実施形態の例として提供される。本発明の原理から逸脱することなく、特許請求の範囲において使用される用語の広く理解される定義に従って、詳細、特に材料の形、サイズ、およびレイアウトには変更があり得る。
図1a)】
図1b)】
図2
図3
図4
図5