(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】研磨パッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/24 20120101AFI20240305BHJP
B24B 37/22 20120101ALI20240305BHJP
B24B 37/26 20120101ALI20240305BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B24B37/24 E
B24B37/22
B24B37/26
H01L21/304 622F
(21)【出願番号】P 2021150410
(22)【出願日】2021-09-15
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川コーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】藤稿 智史
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-154052(JP,A)
【文献】特開2018-065208(JP,A)
【文献】特開2000-288887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
H01L 21/304
B24D 3/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂繊維
不織布の表面に、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布
が積層されていることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
次の(a)~(e)の工程を有することを特徴とする研磨パッドの製造方法。
(a)易気化性化合物、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を混合してスラリーを調製する工程、
(b)前記スラリーを型枠に充填する工程、
(c)前記充填されたスラリーを冷却して固化させる工程、
(d)固化されたスラリーから易気化性化合物を昇華又は蒸発させ成形体を得る工程、
(e)前記成形体を加熱し、フッ素樹脂繊維又はポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を焼結する工程。
【請求項3】
次の(a)~
(d)、(f)、(g)の工程を有することを特徴とする研磨パッドの製造方法。
(a)易気化性化合物、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を混合してスラリーを調製する工程、
(b)前記スラリーを型枠に充填する工程、
(c)前記充填されたスラリーを冷却して固化させる工程、
(d)固化されたスラリーから易気化性化合物を昇華又は蒸発させ成形体を得る工程、
(f)前記成形体にフッ素樹脂繊維不織布を配置する工程、
(g)前記成形体
及びフッ素樹脂繊維不織布を加熱し、フッ素樹脂繊維
不織布、フッ素樹脂繊維又はポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を焼結する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハー、メモリーディスク、光学部品レンズ等を研磨する際に用いられる研磨パッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハーの加工プロセスでは、半導体ウェハーに用いる円柱状単結晶(インゴット)をスライスすることで円盤状に切り出す。次に、スライスした円盤状単結晶の表面粗さを大まかに取り除くため、ラッピング定盤を用いて1次ラッピング研磨(粗ラッピング)、2次ラッピング研磨(仕上げラッピング)を行う。その後、スライスした円盤状単結晶の表面の平坦性を更に向上させ、かつ、表面の微細な傷を除去して鏡面化するための1次研磨(粗研磨)、2次研磨(仕上げ研磨)を行う。
【0003】
前記1次研磨(粗研磨)、2次研磨(仕上げ研磨)の具体的な研磨方法としては、一般的には、化学機械研磨(ChemicalMechanicalPolishing:CMP)が採用される。CMPに用いる研磨パッドとしては、例えば、樹脂不織布(例えば、特許文献1参照)や発泡ポリウレタン(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-154051号公報
【文献】特開2014-128839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示されるような樹脂不織布や発泡ポリウレタンでは、半導体ウェハーの研磨加工において、研磨レートが低いという問題があった。研磨レートを上げるには研磨時の加重を上げる必要があるが、研磨時に生じる摺動熱も上がってしまうため、パッドの素材が熱で劣化してしまうという制約があった。さらに、樹脂不織布については、基材が短繊維からなる不織布であるため繊維同士の絡みが少なく研磨中に離脱した繊維でワーク(被研磨物)にスクラッチを生じてしまうため面品位に劣るという欠点もあった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高い加重をかけても摺動熱によるパッドの熱劣化がないため、研磨レートに優れ、得られる被研磨物の面品位にも優れる研磨パッド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、異なる2種以上の繊維を有する不織布が上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]フッ素樹脂繊維不織布の表面に、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布が積層されていることを特徴とする研磨パッド。
[2]次の(a)~(e)の工程を有することを特徴とする研磨パッドの製造方法。
(a)易気化性化合物、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を混合してスラリーを調製する工程、
(b)前記スラリーを型枠に充填する工程、
(c)前記充填されたスラリーを冷却して固化させる工程、
(d)固化されたスラリーから易気化性化合物を昇華又は蒸発させ成形体を得る工程、
(e)前記成形体を加熱し、フッ素樹脂繊維又はポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を焼結する工程。
【0009】
[3]次の(a)~(d)、(f)、(g)の工程を有することを特徴とする研磨パッドの製造方法。
(a)易気化性化合物、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を混合してスラリーを調製する工程、
(b)前記スラリーを型枠に充填する工程、
(c)前記充填されたスラリーを冷却して固化させる工程、
(d)固化されたスラリーから易気化性化合物を昇華又は蒸発させ成形体を得る工程、
(f)前記成形体にフッ素樹脂繊維不織布を配置する工程、
(g)前記成形体及びフッ素樹脂繊維不織布を加熱し、フッ素樹脂繊維不織布、フッ素樹脂繊維又はポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を焼結する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、研磨レートに優れ、得られる被研磨物の面品位にも優れる研磨パッド及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のフッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布からなる研磨パッドの製造工程。
【
図2】本発明のフッ素樹脂繊維不織布の表面に、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布が積層されている研磨パッドの製造工程。
【
図3】本発明の研磨パッドの製造工程に用いられる型枠の一例。
【
図7】実施例1の研磨パッドによる研磨結果のグラフ。
【
図8】実施例2の研磨パッドによる研磨結果のグラフ。
【
図9】実施例3の研磨パッドによる研磨結果のグラフ。
【
図10】比較例1の研磨パッドによる研磨結果のグラフ。
【
図11】実施例1の研磨パッドによる別の研磨結果のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の研磨パッド(以下、単にパッドともいう)は、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布からなる。
【0013】
本発明において、フッ素樹脂繊維としてはポリテトラフルオロエチレン繊維が使用でき、このポリテトラフルオロエチレン繊維はビスコース中にポリテトラフルオロエチレン粉末を分散させエマルジョン紡糸することにより得ることができる。本発明に使用できるフッ素樹脂繊維は、上記ポリテトラフルオロエチレン繊維以外に、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン/エチレン共重合体の含フッ素系高分子の繊維も使用できる。中でも研磨パッドの用途に好適であり、市販されている繊維を入手しやすい理由から、フッ素樹脂繊維としてポリテトラフルオロエチレン繊維を用いることが好ましい。
【0014】
本発明に使用するポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維は、引張り強度等の強度を上げるためには、フィブリル化したものを使用することが好ましい。フィブリル化のための手段としては、一般的な叩解機であるボールミル、ビーター、ランペンミル、PFIミル、SDR、DDR、その他リファイナー等を使用する。叩解度合いは、求められる強度との関係で決定される。強い強度が必要な場合は、叩解の程度を進めたポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維を用いるのが好ましい。
【0015】
上記フッ素樹脂繊維やポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の直径は、通常5μm~100μm、好ましくは10μm~60μm、長さは0.1mm~10mm、好ましくは0.5mm~6mmを用いる。研磨中に離脱した繊維でワーク(被研磨物)にスクラッチを生じさせないために、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の叩解を進めて、より短い繊維長の繊維を混合して用いることが好ましい。
【0016】
フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布におけるフッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維の割合は、フッ素樹脂繊維の量が95~5質量%、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の量が5~95質量%が好ましい。より好ましくはフッ素樹脂繊維の量が90~10質量%、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の量が10~90質量%である。フッ素樹脂繊維が95質量%より多く、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維が5質量%より少ない場合は、フッ素樹脂繊維の熱による変形の影響が大きくなるため好ましくない。また、逆にフッ素樹脂繊維が5質量%より少なく、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維が95質量%より多い場合は、パッドが高密度となり、内部にCMPスラリーを保持する空間が少なくなってしまうため好ましくない。
【0017】
フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布の厚さは、ワーク(被研磨物)によって異なるが、半導体ウェハーであれば0.01mm~1mm、好ましくは0.3mm~0.6mmである。不織布の厚さが0.01mmより薄い場合は、パッド表面へのスラリーの供給が極端に少なくなってしまうため好ましくなく、1mmより厚い場合はパッドの柔軟性(クッション性)が大きくなるため好ましくない。
【0018】
本発明の研磨パッドは、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布からなる研磨パッドであってもよいが、フッ素樹脂繊維不織布の表面に、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布が積層されていることが好ましい。
フッ素樹脂繊維不織布の表面に、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布が積層されていると寸法安定性を高める作用効果を得ることができる。
【0019】
フッ素樹脂繊維不織布の厚さは、ワーク(被研磨物)によって異なるが、半導体ウェハーであれば0.01mm~1mm、好ましくは0.3mm~0.6mmである。不織布の厚さが0.01mmより薄い場合は、パッド表面へのスラリーの供給が極端に少なくなってしまうため好ましくなく、1mmより厚い場合はパッドの柔軟性の影響が大きくなるため好ましくない。
【0020】
本発明において、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布からなる研磨パッドの製造方法は、次の(a)~(e)の工程を有する。
(a)易気化性化合物、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を混合してスラリーを調製する工程、
(b)前記スラリーを型枠に充填する工程、
(c)前記充填されたスラリーを冷却して固化させる工程、
(d)固化されたスラリーから易気化性化合物を昇華又は蒸発させ成形体を得る工程、
(e)前記成形体を加熱し、フッ素樹脂繊維又はポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を焼結する工程。
【0021】
<工程(a)>
工程(a)は、易気化性化合物、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を混合してスラリーを調製する。スラリーにおける各成分の配合量は、易気化性化合物100質量部に対して、フッ素樹脂繊維とポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維の合計量が0.5質量部~20質量部が好ましく、更に1質量部~15質量部が好ましい。易気化性化合物100質量部に対して、フッ素樹脂繊維とポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維の合計量が0.5質量部より少ないと、パッドの厚みを出すことが困難となるため好ましくない。また、易気化性化合物100質量部に対して、フッ素樹脂繊維とポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維の合計量が20質量部より多いとスラリーの流動性が失われてしまい型に流し込むことが困難になるため好ましくない。
【0022】
前記易気化性化合物は、常温常圧で昇華又は蒸発する化合物である。
ここで、常温とは、JIS Z8703に規定される温度、20℃±15℃、すなわち5~35℃のことである。常圧とは、標準気圧、すなわち1気圧のことである。
易気化性化合物の具体例としては、炭化水素、フッ素化炭化水素、塩素化炭化水素等が挙げられる。これらのなかでも、フッ素化炭化水素が好適である。易気化性化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記易気化性化合物は、常温常圧で昇華又は蒸発するため、研磨パッド製造時に温度コントロールが不要で容易に研磨パッドを製造することができる。
【0023】
フッ素化炭化水素のなかでも、気化性が高い点では、標準気圧において沸点が0℃以上100℃以下のフッ素化炭化水素が好ましく、下記式(1)で表される化合物がより好ましい。
C5H10-nFn ・・・(1)
ここで、式(1)におけるnは5~8の整数である。
前記式(1)で表される化合物のなかでも、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(沸点82℃)が好ましい。1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンは、速やかに気化する。さらに、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンは、保存しやすいという利点も有する。
前記式(1)で表される化合物は、nが5の化合物、nが6の化合物、nが7の化合物、nが8の化合物の2つ以上を含む混合物であってもよい。前記式(1)で表される化合物が混合物の場合であっても、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンを含むことが好ましい。また、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンは、凝固点が20℃より高いものが好ましい。
【0024】
また、フッ素化炭化水素としては、下記式(2)で表される化合物を使用することもできる。
下記式(2)において、X,Y,Zは、各々独立して、フッ素原子又は水素原子である。但し、X,Y,Zの少なくとも1つは水素原子である。nは2又は3である。
【0025】
【0026】
式(2)で表される化合物としては、例えば、1,2,3,3,4,4,5,5,-オクタフルオロシクロペンテン(沸点27℃)、1,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロシクロペンテン(沸点46℃)、1,2,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロシクロペンテン(沸点51℃)、3,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(沸点77℃)、1,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(沸点74℃)、2,3,4,4,5,5-ヘキサフルオロシクロペンテン(沸点68℃)、1,3,3,4,4,5,5,6,6-ノナフルオロシクロヘキセン(沸点64℃)、1,2,3,4,4,5,5,6,6-ノナフルオロシクロヘキセン(沸点70℃)、1,3,4,4,5,5,6,6-オクタフルオロシクロヘキセン(沸点88℃)、3,3,4,4,5,5,6,6-オクタフルオロシクロヘキセン(沸点86℃)等が挙げられる。
式(2)で表される化合物は1種を単独でもよいし、2種以上でもよい。
【0027】
炭化水素としては、例えば、ナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
塩素化炭化水素としては、例えば、1,4-ジクロロベンゼン等が挙げられる。
【0028】
<工程(b)>
工程(b)は、前記スラリーを型枠に充填する工程である。
型枠30としては、
図1(i)に示すように基体10の上にマスク20を設置したものが挙げられる。基体10は、例えば金属、セラミックス、ガラス等を挙げることができる。また、マスク20は、例えば樹脂、金属、セラミックス、ガラス等を挙げることができる。基体10は、表面が平坦な板状物である。マスク20は、
図3に示すように、枠100内に複数の貫通孔200を有する格子状マスクを挙げることができる。マスク20としては、
図3の格子状マスクに限らず適宜形状を選択する。スラリー40は、
図1(ii)に示すようにマスク20における複数の貫通孔に充填される。
【0029】
<工程(c)>
工程(c)は、前記充填されたスラリー40を冷却して固化させる工程である。
前記工程(b)で充填された型枠30内のスラリー40を冷凍庫などで冷却する。
また、凝固点が高い易気化性化合物をスラリーに使用した場合は、スラリーを充填する前の型枠を、該易気化性化合物よりも低い温度に予め冷却し、冷却された型枠にスラリーを充填することによって、冷凍庫などの外部からの冷却を必要としないでスラリーを冷却することができる。
上記のように、易気化性化合物が凍る際に、スラリー内の繊維と易気化性化合物の氷部との局在化が生じる(不均一な多孔体が生じる)。そのため、不均一な多孔体や繊維間に生じた大きな空隙がCMPスラリー(化学機械研磨剤)を良好に保持し、優れた研磨レートを有する研磨パッドを得ることができる。
【0030】
<工程(d)>
工程(d)は、固化されたスラリー40から易気化性化合物を昇華又は蒸発させ成形体を得る工程である。
前記工程(c)で冷却固化されたスラリー40から易気化性化合物を昇華又は蒸発させることによって成形体を得ることができる。易気化性化合物は、常温常圧で昇華又は蒸発するため、スラリー40に熱を加える必要がなく、型枠30内の冷却固化されたスラリー40を常温常圧で放置しておけばよい。
固化されたスラリー40から易気化性化合物を昇華又は蒸発させ成形体は、
図1(iii)に示すように、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布からなる成形体50となる。
【0031】
<工程(e)>
工程(e)は、前記成形体50を加熱し、フッ素樹脂繊維又はポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を焼結する工程である。
焼結は、型枠内に形成された成形体50を型枠内に保持したまま加熱すればよい。
焼結は、フッ素樹脂繊維間同士、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維間同士、又はフッ素樹脂繊維とポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維とが焼結される温度を加える。焼結温度は300℃~400℃が好ましい。
【0032】
工程(d)を経た後、焼結された成形体50を型枠から取り出すことによって、
図1(iv)に示すようなフッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布1からなる研磨パッド3を作製できる。研磨パッド3は、
図3の格子状マスクを使用した場合、凹凸を有する形状となる。
【0033】
<工程(f)>
次にフッ素樹脂繊維不織布の表面に、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布が積層されている研磨パッドの製造方法について説明する。
フッ素樹脂繊維不織布の表面に、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布が積層されている研磨パッドの製造は、前記工程(d)までは同様にして型枠内に形成された焼結されていない成形体50を製造する。次に、該成形体50の上に
図2(i)に示すようにフッ素樹脂繊維不織布2を配置する。
【0034】
フッ素樹脂繊維不織布2におけるフッ素樹脂繊維は、前記記載のフッ素樹脂繊維を挙げることができる。フッ素樹脂繊維不織布2の製造方法は、通常の製紙に用いられる湿式抄造法が用いられる。すなわち、原材料繊維であるフッ素樹脂繊維を規定量秤量し、水中で攪拌し混合離解し、好ましくは、固形分濃度が0.5%以下になるように濃度調整したスラリーを長網式、円網式等の湿式抄造機に適用し、連続したワイヤーメッシュ状の脱水パートで脱水し、その後、多筒式ドライヤーやヤンキードライヤーで乾燥し一次シートを得る。該一次シートをフッ素樹脂繊維の融点以上の温度で熱処理して紡糸時のビスコース及び抄紙時の結着材を熱分解させ除去すると共に繊維の交点を融着させフッ素樹脂繊維不織布を得る。
フッ素樹脂繊維不織布の厚さは、100μm~1000μmであり、好ましくは300μm~600μmである。
【0035】
<工程(g)>
次に、
図2(ii)に示すように該フッ素樹脂繊維不織布2の上に加圧体60を配置する。加圧体60により成形体50及びフッ素樹脂繊維不織布2に加圧処理することによって、成形体50及びフッ素樹脂繊維不織布2における繊維の絡み合いが強固になりシート強度が向上する。加圧体60は、例えば金属、セラミックス、ガラス等を挙げることができる。
次に、前記成形体50及びフッ素樹脂繊維不織布2を加熱し、フッ素樹脂繊維不織布2と成形体50との繊維間を焼結すると共に、成形体50におけるフッ素樹脂繊維又はポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を焼結して結合する。
【0036】
焼結は、型枠30内に形成された成形体50及びフッ素樹脂繊維不織布2を型枠30内に保持したまま加熱すればよい。焼結は、フッ素樹脂繊維間同士、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維間同士、又はフッ素樹脂繊維とポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維とが焼結される温度を加える。焼結温度は300℃~500℃が好ましい。
焼結を経た後、
図2(iii)に示すように加圧体60を除去した後、焼結された成形体50(フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布1)及びフッ素樹脂繊維不織布2を型枠から取り出すことによって、
図2(iv)に示すようなフッ素樹脂繊維不織布2の表面に、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布1が積層した研磨パッド3を作製できる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
<フッ素樹脂繊維不織布>
次のようにしてフッ素樹脂繊維不織布の製造を行なった。
ポリテトラフルオロエチレン繊維(東レファインケミカル社製、商品名:トヨフロン、繊維長3mm)100質量部を水500質量部に分散させ、この水分散液を長網式抄紙機にて抄紙して、混抄紙を得、この混抄紙をポリテトラフルオロエチレン繊維の融点以上(500℃)で2分間熱処理して紡糸時のビスコースを熱分解させ除去すると共に繊維の交点を融着させ、更にポリテトラフルオロエチレン繊維の融点以下の温度(300℃)にて30時間加熱し残存カーボンを酸化除去して厚さ約500μmのフッ素樹脂繊維不織布を得た。
【0038】
<成形体>
次に、成形体の製造を行なった。
ポリテトラフルオロエチレン繊維(東レファインケミカル社製、商品名:トヨフロン、繊維長3mm)5質量部とフィブリル化したポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(東洋紡績社製、商品名:ザイロン、繊維長5mm)5質量部を1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン(凝固点:20℃、沸点:82℃)100質量部に混合しスラリーを得た。
次に、予め15℃以下に冷却させていた基体(ステンレス製板)の上に
図3の格子状マスク(ポリイミド樹脂製)を配置し、
図1(ii)のように該格子状マスク上に上記スラリーを充填した。該スラリーは、15℃以下に冷却させていたステンレス製板によって固化(凍結)した。
次に、固化(凍結)したスラリーが充填されたステンレス製板の格子状マスク全体を常温(25~35℃の範囲)常湿(45~85%(相対湿度))環境下で1時間放置してスラリー中の1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタンを昇華又は蒸発させ
図1(iii)のような成形体を得た。
【0039】
<研磨パッド>
次に、
図2(i)のように上記成形体の表面に前記で得たフッ素樹脂繊維不織布を設置した後、ステンレス製板をフッ素樹脂繊維不織布に当接して、フッ素樹脂繊維不織布に接していないステンレス製板面から荷重2.5KPaを5分加えた。その後、荷重を除去したステンレス製板を当接したフッ素樹脂繊維不織布、成形体が形成された格子状マスク及び基体を恒温槽内で温度400℃、60分間焼結処理を行い、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維間同士、又はフッ素樹脂繊維とポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維とが結合し焼結された成形体を得た。
【0040】
その後、上記焼結された成形体を格子状マスクから取り出し本発明のフッ素樹脂繊維不織布の表面に、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布が積層された研磨パッドを得た。該研磨パッドの厚さは、フッ素樹脂繊維不織布が約500μm、フッ素樹脂繊維とポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維からなる成形体が約600μmである。
該研磨パッドの研磨面(凹凸面)の写真を
図4に示した。該研磨パッドの凸状部は、一辺の長さが約3mmの正方形状を有している。該研磨パッドは、フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布からなる凸状部が確認できる。
【0041】
(実施例2)
研磨パッドの凸状部を一辺の長さが約3mmの六角状にした以外は実施例1と同様にして研磨パッドを作製した。
上記凸状部を一辺の長さが約3mmの六角状にした研磨パッドの研磨面(凹凸面)の写真を
図5に示した。
図5は、研磨パッドの研磨面(凹凸面)と1目盛りが0.5mmの定規とを同時に写した写真である。
【0042】
(実施例3)
研磨パッドの凸状部を一辺の長さが約2mmの正方形状にした以外は実施例1と同様にして研磨パッドを作製した。
上記凸状部を一辺の長さが約2mmの正方形状にした研磨パッドの研磨面(凹凸面)の写真を
図6に示した。
図6は、研磨パッドの研磨面(凹凸面)と1目盛りが0.5mmの定規とを同時に写した写真である。
【0043】
(比較例1)
ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維を除いた以外は前記実施例1と同様にして比較用の研磨パッドを得た。該研磨パッドは、実施例1と同様に研磨パッドの凸状部が、一辺の長さが約3mmの正方形状を有した研磨面(凹凸面)を有し、該凸状はポリテトラフルオロエチレン繊維のみのフッ素樹脂繊維不織布であった。
【0044】
[評価]
上述の各例の研磨パッドを直径30mmの円形に加工した。
<シリコンウェハーの研磨>
次に、プラズマTEOS(tetra ethoxy silane)酸化膜を表面に施したシリコンウェハーを用意し、該シリコンウェハーの表面を上記各例の研磨パッドを表面ドレス処理した後に研磨した。研磨パッドは、凹凸面をシリコンウェハーの表面に接触させた。
次に、研磨を次のように実施した。
(i)シリコンウェハーの表面にCMPスラリー(化学機械研磨剤:キャボットマイクロエレクトロニクス社製、商品名:SEMI-SPERSE 25-E)を2倍希釈して供給し、22.6kPaの圧力で研磨パッドを接触させた。
(ii)シリコンウェハーの表面に接触させた研磨パッドを速度50mm/秒で100mm直線状に移動し、この移動を60回行った後、研磨パッドをシリコンウェハーの表面から離間させた。
(iii)上記(i)及び(ii)の研磨工程を1サイクルとし、該サイクルを5回行った。
【0045】
<研磨量の測定>
次に、前記研磨されたシリコンウェハーの表面を、光学式膜厚計(フィルメトリクス社製、商品名:F40)を用いて、プラズマTEOS酸化膜の研磨量(オングストローム/サイクル)を測定した。当該測定された研磨量は、上記5サイクルの研磨を行った合計値である。
次に、上記5サイクルの合計研磨量を5で除算して1サイクルの平均値を算出し、その結果を
図7~
図10に示した。
図7は実施例1の研磨パッド、
図8は実施例2の研磨パッド、
図9は実施例3の研磨パッド、
図10は比較例1の研磨パッドの結果である。
図7~
図10に示したグラフにおける縦軸は研磨量(オングストローム/サイクル)、横軸は変位(mm)を示し、変位とはパッドの移動量を意味する。
また、
図7~
図10に示したグラフにおける研磨量の積分値を次表に示した。
【0046】
【0047】
図7~
図10及び表1から明らかなように、実施例1~実施例3の研磨パッドは比較例1の研磨パッドよりも研磨量が多く、研磨レートに優れていた。
【0048】
また、前記<シリコンウェハーの研磨>の評価において、研磨パッドへの圧力を22.6kPaから36.5kPaにかえた以外は同様にして実施例1の研磨パッドによるシリコンウェハーの研磨を行った。
そして、前記<研磨量の測定>と同様にして圧力36.5kPaにおけるシリコンウェハーの研磨量を測定した。その結果を、圧力22.6kPaにおけるシリコンウェハーの研磨量と比較図示したものを
図11に記した。なお、
図11に示したグラフにおける36.5kPaにおけるシリコンウェハーの研磨量の積分値は10203であった。
図11から明らかなように、実施例1における研磨パッドは、圧力を22.6kPaから36.5kPaに上げて加重を多く加えた状態であって、当該加重による高い摺動熱が発生しても優れた研磨レートが得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0049】
1 フッ素樹脂繊維及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維を含有する不織布
2 フッ素樹脂繊維不織布
3 研磨パッド
10 基体
20 マスク
30 型枠
40 スラリー
50 成形体
60 加圧体