(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】方法
(51)【国際特許分類】
A61K 41/00 20200101AFI20240305BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240305BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240305BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240305BHJP
A61K 31/5025 20060101ALN20240305BHJP
A61K 31/357 20060101ALN20240305BHJP
A61K 31/473 20060101ALN20240305BHJP
A61K 31/19 20060101ALN20240305BHJP
A61K 31/122 20060101ALN20240305BHJP
A61K 31/409 20060101ALN20240305BHJP
C07F 9/54 20060101ALN20240305BHJP
C09K 11/06 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K47/54
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K31/5025
A61K31/357
A61K31/473
A61K31/19
A61K31/122
A61K31/409
C07F9/54
C09K11/06
(21)【出願番号】P 2021520472
(86)(22)【出願日】2018-06-21
(86)【国際出願番号】 GB2018051744
(87)【国際公開番号】W WO2019243757
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】513227446
【氏名又は名称】オスロ ウニヴェルスィテーツスィーケフース ハーエフ
【氏名又は名称原語表記】OSLO UNIVERSITETSSYKEHUS HF
【住所又は居所原語表記】Postboks 450,Nydalen N-0424 Oslo,Norway
(73)【特許権者】
【識別番号】504339734
【氏名又は名称】コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス
(73)【特許権者】
【識別番号】520503887
【氏名又は名称】ウニヴェルシダッド ポリテクニカ デ バレンシア
(73)【特許権者】
【識別番号】520503223
【氏名又は名称】ヴギウカラキス ゲオルギオス シー
(73)【特許権者】
【識別番号】520503234
【氏名又は名称】ロータス ゲオルギオス
(73)【特許権者】
【識別番号】520503245
【氏名又は名称】ナショナル アンド カポディストリアン ユニヴァーシティー オヴ アテンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴギウカラキス ゲオルギオス シー
(72)【発明者】
【氏名】ロータス ゲオルギオス
(72)【発明者】
【氏名】テオドッシュウ テオドッシス ア
(72)【発明者】
【氏名】ベルグ クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ミゲル アンヘル ミランダ アロンソ
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104434876(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0202966(US,A1)
【文献】特表2009-542810(JP,A)
【文献】特表2009-511626(JP,A)
【文献】特表2008-536912(JP,A)
【文献】THEODOSSIS A THEODOSSIOU; ET AL,A NOVEL MITOTROPIC OLIGOLYSINE NANOCARRIER: TARGETED DELIVERY OF COVALENTLY 以下備考,MITOCHONDRION,NL,ELSEVIER,2011年08月04日,VOL:11,NR:6,PAGE(S):982-986,http://dx.doi.org/10.1016/j.mito.2011.08.004,BOUND D-LUCIFERIN TO CELL MITOCHONDRIA
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 41/00
A61K 31/00
A61K 47/50
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線力学療法による癌の治療で使用するためのミトコンドリアを標的とする化学発光剤を含む医薬組成物であって、前記化学発光剤は、ミトコンドリアを標的とし、かつミトコンドリアに蓄積することができる、少なくとも1つのミトコンドリア指向性部分に結合した少なくとも1つの化学発光部分を含むコンジュゲートであり、前記光線力学療法は、光増感剤またはその前駆体の同時または連続した使用を含み、さらに
前記化学発光部分は、ルミノール、イソルミノール、アクリジニウムエステル、およびそれらの誘導体からなる群から選択され、
前記ミトコンドリア指向性部分は、親油性ホスホニウムカチオンであり、かつ
前記光増感剤またはその前駆体は、5-アミノレブリン酸(5-ALA)、5-ALAの誘導体、もしくはこれらの薬学的に許容される塩、またはヒポクレリンA、ヒポクレリンB、またはセルコスポリンである、医薬組成物。
【請求項2】
前記コンジュゲートは、一般式(I)の化合物、またはその薬学的に許容される塩であって、
【化1】
式中、Aは請求項1に定義される化学発光部分を表し、
同じであっても異なっていてもよい各Lは、直接結合またはリンカー(例えば、有機リンカー)のいずれかであり、
同じであっても異なっていてもよい各Bは、請求項1に定義されるミトコンドリア指向性部分を表し、
nは、1~3の整数、好ましくは1であり、
xは、1~3の整数、好ましくは1である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記コンジュゲートは、式(II)の化合物、またはその薬学的に許容される塩であって、
【化2】
式中、A、L、およびBは、請求項2に定義される通りである、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記リンカーLは、C
1-3アルキル、-O(C
1-3)アルキル、-OH、シクロアルキルおよびアリール基から選択される1つ以上の基によって任意選択的に置換されるアルキレン鎖(好ましくはC
1-15アルキレン、例えば、C
2-11アルキレン)を含み、前記アルキレン鎖の1つ以上の-CH
2-基は、-O-、-CO-、-NR-(式中、Rは、HまたはC
1-6アルキル、好ましくはC
1-3アルキル、例えば、メチルである)、シクロアルキル、複素環、アリールおよびヘテロアリール基から独立して選択される基によって置き換えられてもよい、請求項2または請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記リンカーLは、-C
3H
6-、-C
4H
8-、-C
6H
12-、-C
8H
16-、-C
10H
20-、-C
11H
22-、-CO-CH
2-、-CO-C
3H
6、-CO-C
5H
10-、-CO-C
6H
12-、-CO-C
10H
20-、1~4個のエチレンオキシド単位を含むポリエチレングリコール基、
【化3】
(式中、aは1~6の整数、例えば、2~5である)からなる群から選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記コンジュゲートが、式(III)の化合物、またはその薬学的に許容される塩
【化4】
(式中、L
1はリンカー、例えば、請求項4または5に定義されるようなリンカーであり、
B
1は、請求項1に定義されるミトコンドリア指向性部分であり、
R
3は、水素、またはC
1-3アルキル(例えばメチル)等のアルキル基であり、
各R
4は、C
1-6アルキル、および-NR
5R
6から独立して選択され、
R
5およびR
6は、HおよびC
1-6アルキルから、好ましくはHおよびC
1-3アルキル(例えば-CH
3)から独立して選択され、
pは、0~3までの整数、好ましくは0、1または2、例えば0または1である)である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記コンジュゲートが、式(IIIa)または(IIIb)の化合物であって、
【化5】
式中、L
1、B
1、R
3、R
4、およびpは、請求項6に定義される通りである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
L
1は、
【化6】
(式中、aは1~10の整数、好ましくは3~10であり、
bは1~4までの整数、例えば2である)からなる群から選択される、請求項6または請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
B
1は、以下の基
【化7】
(式中、R
1はフェニル、トルエン(例えば、o-トルエン、m-トルエンまたはp-トルエン)、またはシクロヘキシルであり、
Xは、一価のアニオン、例えばCl、Br、またはIアニオンである)である、請求項6~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記コンジュゲートが、式(IV)の化合物、またはその薬学的に許容される塩
【化8】
(式中、L
2はリンカー、例えば、請求項4または5に定義されるようなリンカーであり、
B
2は、請求項1に定義されるミトコンドリア指向性部分であり、
各R
6は、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br、I)、およびC
1-6アルキル(例えばtBu)から独立して選択され、
qは、0~4の整数、好ましくは0または2であり、
Zは、一価のアニオン、例えば、Cl、Br、I、またはCF
3OSO
2アニオンである)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
L
2は、以下の基
【化9】
(式中、aは、1~10の整数、好ましくは3、4または5である)を表す、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
B
2は、以下の基
【化10】
(式中、R
1は、フェニル、トルエン(例えば、o-トルエン、m-トルエンまたはp-トルエン)、またはシクロヘキシルであり、Xは、一価のアニオン、例えばCl、Br、またはIアニオンである)である、請求項10または請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記コンジュゲートが、式(V)の化合物、またはその薬学的に許容される塩
【化11】
(式中、L
3はリンカー、例えば、請求項4または5に定義されるようなリンカーであり、
B
3は、請求項1に定義されるミトコンドリア指向性部分であり、
各R
7は、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br、I)、-CO
2R
8(式中、R
8は水素またはC
1-6アルキルである)、シアノ、およびC
1-6アルキル(例えば、tBu)から独立して選択され、
rは、0~5の整数、好ましくは0または3であり、
Zは、一価のアニオン、例えば、Cl、Br、I、またはCF
3OSO
2アニオンである)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物、
【請求項14】
L
3は、C
1-10アルキレン基、例えばC
1-6アルキレンである、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
B
3は、以下の基
【化12】
(式中、R
1はフェニル、トルエン(例えば、o-トルエン、m-トルエンまたはp-トルエン)、またはシクロヘキシルであり、Xは、一価のアニオン、例えばCl、Br、またはIアニオンである)である、請求項13または請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記コンジュゲートが、式(VII)の化合物、またはその薬学的に許容される塩
【化16】
(式中、L
5はリンカー、例えば、請求項4または5に定義されるようなリンカーであり、
B
4は、請求項1に定義されるミトコンドリア指向性部分であり、
各R
10は、C
1-6アルキル(例えばメチル)、および-NR
11R
12から独立して選択され、
R
11およびR
12は、HおよびC
1-6アルキルから、好ましくはHおよびC
1-3アルキル(例えば、-CH
3)から独立して選択され、
tは、0~3の整数、好ましくは1または2である)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記コンジュゲートが、式(VIIa)
【化17】
(L
5、B
4、R
11およびR
12は、請求項16に定義される通りであり、R
13は、HまたはC
1-3アルキルである)の化合物である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
L
5は、C
1-11アルキレン、好ましくはC
2-8アルキレン、例えばプロピレンである、請求項16または請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記光増感剤前駆体は、5-アミノレブリン酸(5-ALA)、その誘導体または薬学的に許容される塩である、請求項1~請求項18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
内部癌の治療において、例えば深部癌の治療における、請求項1~請求項19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記癌は、神経膠腫および他の脳癌、肝癌および膵臓癌、乳癌、肺癌および前立腺癌、胆管癌、胃癌および結腸癌、膀胱癌、子宮頸部癌、頭頸部癌からなる群から選択される、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記癌はGBMである、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
少なくとも1つの薬学的に許容される担体または賦形剤と一緒に、請求項1~18のいずれか一項に記載の化学発光剤、および請求項1または請求項19に記載の光増感剤または光増感剤前駆体を含む、医薬組成物。
【請求項24】
光線力学療法による癌の治療に使用するための、好ましくは内部癌、例えば深部癌の治療に使用するための、請求項
23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
(i)請求項1~18のいずれか一項に記載の化学発光剤、別個に(ii)請求項1または請求項19に記載の光増感剤または光増感剤前駆体、ならびに任意選択的に(iii)光線力学療法の方法における(i)および(ii)の使用のための指示書、を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線力学療法(PDT)の方法における改善および該方法に関連する改善に関し、特に、外部光源を必要とせずに、過剰増殖細胞および/または異常な細胞を特徴とする疾患および状態の標的治療のためのそのような方法に関する。より具体的には、本発明は、腫瘍、特に、既存のPDT方法を使用した場合に到達できない腫瘍を治療するためのそのような方法に関する。
【0002】
本発明はさらに、ミトコンドリア親和性を有する新規化学発光剤、それらの調製方法、および光増感剤または光増感剤前駆体を使用するPDTの方法における細胞内光源としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
内部腫瘍の従来の治療は、典型的には、侵襲的手術、放射線療法、非治癒的化学療法、またはこれらの組み合わせを含む。多形神経膠芽腫(GBM)等の頭蓋内腫瘍は、その位置および悪性度が高い特徴のために治療するのが非常に困難な深部腫瘍の一例である。EUおよび米国では、毎年約28,000件のGBM等の悪性神経膠腫の新しい症例が診断されており、世界的には毎年240,000人の患者が診断されている。現在の標準的な治療法は、腫瘍の約99%を除去する高侵襲性(開頭)手術からなっているが、約10億個の細胞が残されるため、再発につながる。放射線療法は、手術の補助として用いられてもよく(60~65Gy)、手術と併せると、残された癌細胞を数百万個に減少させることができるが、放射線耐性癌細胞を内部に有するいくつかの場所にも転移する傾向があるGBM等の癌には大きな効果は発揮しない。さらに、放射線療法は、正常組織に対する癌性組織の破壊に特異的ではない。放射線療法に加えて、テモゾロミドによる化学療法も使用することができる。しかしながら、これらの治療法は、全体的な患者の生存を制限し、治癒的転帰をもたらさない。これらは主に細胞増殖抑制性であり、最終的に(治療から約1年以内に)細胞が耐性を発現し、治療が無効になる。手術と放射線療法の組み合わせにより、生存期間の中央値が4.5ヶ月(未治療)から12.1ヶ月に増加する。テモゾロミドによる追加の化学療法は、生存期間を14.6ヶ月に延長する。GBMと診断された成人の相対生存率は、診断から1年以内には30%未満であり、最初の診断から5年以上生存する患者はわずか3%である。
【0004】
そのため、GBM等の深部に位置する到達困難な腫瘍は、治療することが依然として非常に困難であり、既存の治療法が提供する生存率の増加はごくわずかである。したがって、改善された有効性を有する、より標的を定めた、低侵襲性の治療手法の開発が緊急に必要とされている。
【0005】
腫瘍の治療に使用されることが知られている他の方法は、PDTを含む。PDTは、局所的または全身的に光増感剤を投与した後、周囲の酸素と相互作用して細胞毒性中間体を生成する光活性化光に患部を曝露することを含む。これは、細胞の破壊および腫瘍血管系のシャットダウンをもたらす。
【0006】
PDTは、3つの、必須ではあるが、個別には化学毒性のない成分の相乗効果によって癌治療を提供する:(i)光増感剤(PS)、光活性化薬、(ii)PSを活性化するための適切な波長の光、および(iii)有毒種の最終発生源である酸素の存在。PDTの抗腫瘍効果は、主に3つの相互に関連する効果に分類することができる:(i)主にタイプIまたはタイプII機構のいずれかによって影響を受ける直接的な細胞毒性作用:前者は活性酸素種(ROS)を生成し、最終的にはヒドロキシルラジカルを生成するのに対し、PSの大部分において顕著であるタイプII機構は、有害な一重項酸素[O2(1Δg)または1O2]を生成する、(ii)腫瘍血管系への損傷、および(iii)PDT誘発性の酸化ストレスの結果として、全身性免疫の発達につながる可能性のある炎症反応の誘導。
【0007】
光線力学療法および診断の方法における使用が現在承認されている光増感剤には、その生合成非光感受性前駆体である5-アミノレブリン酸(5-ALA)から生成されるプロトポルフィリンIX(PpIX)が含まれる。5-ALAの外部投与に続いて、ヘムの生合成サイクルが、細胞ミトコンドリアにおける活性光増感剤PpIXへの変換を促進する。5-ALAで処理された癌細胞は、主にポルフォビリノーゲン脱アミノ酵素の量が多いために、かつ/またはフェロケラターゼの量が大幅に少ないために、大量のPpIXを蓄積する(この酵素は、ミトコンドリアマトリックス内のPpIXによる鉄のキレート化を触媒してヘムを生成し、後にヘムはミトコンドリアから輸送される)。その後の光への曝露により、PpIXは、その基底一重項状態からその励起一重項状態に励起される。次いで、項間交差を経て、より長寿命の励起された三重項状態になる。三重項状態のPpIXが酸素分子(基底三重項状態にある)と相互作用すると、PpIXから酸素へのエネルギー移動が起こる。これにより、2つの分子が互いにスピン反転する結果となり、PpIXが緩和してその基底一重項状態に戻る一方で、細胞毒性のある励起一重項状態の酸素分子が形成される。
【0008】
光増感剤はまた、癌性細胞および組織の光線力学的診断の方法における使用が知られており、腫瘍塊の外科的切除を誘導するためにも使用することができる。例えば、PDTは膀胱癌の治療における手術の補助として使用される。5-ALAによって誘発されるPpIX蛍光は、現在、GBMの治療における蛍光誘導切除のために術中にも使用されている(Stummer et al.,Lancet Oncol.,2006,7(5):392-401を参照)。しかしながら、従来のPDT手順の制限(例えば、光の到達性および組織への光浸透性)に起因して、現在、外科的介入を必要とせずにこの侵襲性状態を治療するためにそれを使用することはできない。
【0009】
抗癌治療としてのPDTの既存の方法の主な制限は、臨床医による治療領域の判断が不十分であること、治療される腫瘍体積の定義が不十分であること、および光活性化光が組織に浸透する深さ(約1.5cm)が制限されていることである。これは、効果のない治療および生存癌細胞の残存につながる。例えば、5-ALAベースのPDTは、日光角化症および基底細胞癌の治療に非常に高い治癒率を伴って特異的かつ効率的であるが、それは2mmより薄い病変の場合のみである。より厚い病変または非表在性癌の場合、5-ALA PDTは患者の治癒を保証することはできず、大きな腫瘍の場合は対症療法的であるに過ぎない。これは、PpIXの活性化波長(635nm)での光の組織浸透性が制限されているためである。
【0010】
場合によっては、PDTを用いて、固形臓器または食道等の中空臓器のより深くに位置する標的細胞を治療することができるが、これは通常、光増感剤の光活性化のために、カテーテルまたは内視鏡を誘導する光ファイバー等のデバイスの使用を伴う。これは複雑な手技であるだけでなく、体の特定の領域への到達を妨げ、治療にある程度の侵襲性をもたらす。またこれは、癌細胞全体を根絶することはできず、多病巣性疾患(例えば、神経膠腫)または多病巣性転移には適用することができない。したがって、表在性腫瘍の治療には適しているが、深部腫瘍細胞および解剖学的に到達しにくい病変の治療における既存のPDT法の使用は非常に制限されている。
【0011】
PDTの主な制約は、特に癌性病変が脳、肝臓、または膵臓等の深部臓器にある場合の、病変への光の到達であるため、光増感剤の投与後の光線力学的な細胞自殺に必要な光を提供する細胞内光源として生物発光または化学発光を利用するためにいくつかの努力がなされてきた。2003年に最初に開発されたそのような治療法の1つは、BLADe(BioLuminescence Activated Destruction)である。BLADeは、ホタルルシフェラーゼ酵素による細胞内トランスフェクションと、それに続く光増感剤、およびルシフェラーゼの天然基質であるルシフェリンの投与に依存する。この方法の主な欠点は、上記3つの因子とATPとの共局在の必要性、およびルシフェラーゼを産生するように細胞を遺伝子改変する必要性である。また、この共局在は、脆弱な細胞内一重項酸素標的に非常に近接していなければならない。
【0012】
それ以来、所望のPDT効果を達成するために発光を利用するいくつかの試みがなされてきた(例えば、Hsu et al.,Biomaterials,2013,34(4):1204-12;およびBaacirova et al.,Luminescence,2011,26(6):410-5を参照)。Laptev et al.(Br.J.Cancer,2006.95(2):189-96)は、細胞内発光によって細胞を死滅させるために、トランスフェリン-ヘマトポルフィリンコンジュゲートと一緒にルミノールを使用することを以前に提案した。それらは十分な概念実証(95%の細胞毒性)を提供したが、以下の欠点がこれらの方法に関連しており、診療所でそれらを実行することを不可能にしている:(i)非特異的な細胞内標的化、(ii)Laptevらの研究では、鉄供給源としてのトランスフェリンの必要性、および(iii)細胞内ROSに近接するための設計の欠如。
本発明は、これらの問題に対応し、臨床的に有効な、非侵襲的なPDTの方法を提供する。これは、細胞の過剰増殖を伴う全ての腫瘍型およびあらゆる状態の治療に使用できるが、従来のPDT技術を用いて到達できない内部腫瘍塊の治療に特に適している。
【発明の概要】
【0013】
本発明者らは、ここに、光増感剤、または光増感剤の前駆体(例えば、5-ALA)と、著しいミトコンドリア親和性を有する化学発光剤との併用を含むPDTの方法を提案する。このPDT法は、本明細書では一般に「LUMIBLAST」と称される。
【0014】
ミトコンドリア親和性は、「修飾された」化学発光剤、具体的には、少なくとも1つの化学発光部分が1つ以上のミトコンドリア標的化部分(本明細書では「ミトコンドリア指向性部分」または「ミトコンドリア指向性薬剤」とも称される)に結合した化学発光剤「コンジュゲート」の使用によって達成される。
【0015】
化学発光剤「コンジュゲート」の一例は、化学修飾されたルミノールである。ルミノールの化学修飾は、ルミノールを細胞ミトコンドリアに標的化し、ミトコンドリア膜を横断して効率的に輸送する化学基の結合を含む。細胞ミトコンドリアは、ルミノール発光に必要な活性酸素種および遷移金属触媒を提供する。さらに、PpIXはミトコンドリアで生合成されるため、効率的な活性化および有害な一重項酸素生成のためにルミノールに近接している。PpIX以外の他のミトコンドリアに局在する光増感剤も使用することができ、特に、癌部位の血液脳関門の破壊が、たとえ30:1の比であってもそれらが癌病変に選択的に蓄積するのに役立つ脳腫瘍に使用することができる。
【0016】
理論に拘束されることを望むものではないが、化学修飾されたルミノール(「ミトコンドリア指向性ルミノール」)は、ミトコンドリア呼吸の結果として発生したROSを利用すると考えられる。殺細胞性の低い活性酸素種は、電子伝達系(ETC)から漏出した電子によって生成され、この電子は、分子状酸素をスーパーオキシドアニオンに還元し、さらに過酸化水素に不均化する。これらの低致死性ROSは、ルミノールの活性化時に青色発光(λ
max=420nm)を生成することができる。ミトコンドリアのヘムまたは鉄-硫黄中心酵素は、化学発光を生成するために必要な鉄触媒作用を潜在的に促進し得る。ルミノール発光は、約405nmでピークに達するPpIX Soret吸収帯に適合するため、ミトコンドリアでPpIXをインサイチュで励起し、その結果、有害な一重項酸素を生成して、宿主細胞を死滅させると考えられる。このようにして、細胞の生存に直接の脅威をもたらさないミトコンドリアROSは、細胞毒性の高いROS、すなわち、細胞内から致命的な細胞損傷を与える一重項酸素に「アップグレード」される。標的部位で高レベルのPpIXが産生されるため、この作用は癌性病変に特異的である。この概念を
図1に示す:ここでは、修飾型のルミノールが自立した細胞内光源として使用され、標的細胞ミトコンドリアが「光のスイッチを入れる」ための電源として使用されている。その結果、これは腫瘍細胞内の光増感剤(例えばPpIX)の細胞毒性活性を活性化する。この理論的作用機序は、化学発光剤、ルミノール、および光増感剤としての5-ALA由来PpIXを特に参照して説明されているが、本明細書で論じられるように、他の化学発光剤および他の光増感剤も本発明で使用され得る。
【0017】
したがって、広義に言えば、本発明は、特に過剰増殖細胞および/または異常な細胞、例えば癌細胞に対してPDTを行うためにミトコンドリアを標的とするように、既知の化学発光剤、例えばルミノールの修飾を含む。この修飾の結果として、標的部位で光増感剤を活性化するために必要な発光は「自動」であり、多くの場合、より高いミトコンドリアROS形成を示す癌細胞ではさらに強い。
【0018】
例えば、5-ALA由来PpIXの形成は、癌性GBM病変に非常に特異的である。この高い特異性は、侵襲的手法を必要としないGBM治療の可能性をもたらすが、「ミトコンドリア指向性ルミノール」等のミトコンドリア指向性化学発光剤と5-ALAの全身投与だけで、脳の全GMB病変を根絶するのに十分である。GBMは、最初に発生した後、脳内で高度に移動し、様々な脳の場所で再表面化するため、これは特に重要である。GBMを治療するために使用される場合、本発明はまた、血液脳関門のGBM誘発性破壊を利用するため、修飾された化学発光剤(例えばルミノール)と光増感剤またはその前駆体(例えば5-ALA)の両方が、脳のGMB病変に効率的に到達する。
【0019】
本発明では、PDTにおいて従来的に使用されるランプまたはレーザー等の外部光源を必要とせずに、PDTが個々の腫瘍細胞に効果的に適用される(すなわち、PDT効果は、集団病変ではなく、単一細胞レベルである)。この新規治療手法は、組織内への光の浸透の深さがもはや制約ではない、PDTにおけるパラダイムシフトを意味する。これは、光化学的であるにもかかわらず、2つの個々の非化学療法薬の投与を伴う、癌の革新的な治療の基礎を確立する。そのため、有害な副作用のリスクなしに複数回繰り返すことができ、これにより、転移のリスクが最小限に抑えられ、治療の治癒可能性が最大化される。
【0020】
本発明はさらに、侵襲的手術、電離放射線または非治癒的化学療法を必要とすることなく、位置および侵襲性が高い性質のために現在は実質的に不治であるGBM等の内部癌の効果的な治療の必要性に対応する。そのような治療は、一次治療として、および/または繰り返される非侵襲的治療を通じて生涯にわたって疾患の進行を効果的に制御することができる光化学療法剤としてのいずれかであり得る。到達することができない癌の治療に対するこの新規手法は、過剰増殖細胞および/または異常な細胞を特徴とする他の疾患および状態の治療、特に、浅いまたは表面的なものを含む他の癌の治療にまで及ぶ。
【0021】
本発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用される場合、「化学発光剤」という用語は、細胞ミトコンドリア内で起こる化学反応の結果として発光することができる様々な薬剤のいずれか、すなわち、ミトコンドリアに局在すると「活性化」され得る任意の薬剤を包含することを意図している。より具体的には、化学発光剤は、細胞ミトコンドリアに存在する物質、または活性酸素種もしくは窒素種等の物質等の細胞ミトコンドリアで生成される物質のいずれかと反応した後に発光する薬剤である。そのような酸素種は、例えば、酸素ラジカル、酸素スーパーオキシドアニオン、ヒドロキシルラジカル等の任意の活性酸素種(ROS)、および過酸化水素を含む。窒素種は、例えば、一酸化窒素、ペルオキシ亜硝酸、窒素酸化物等を含む。理解されるように、本発明で使用するための任意の化学発光剤は、生理学的に許容されるであろう。
【0022】
本明細書で使用される場合、「化学発光部分」という用語は、任意の化学発光剤、または化学発光剤に由来する任意の部分、すなわちその誘導体を包含する。いずれの誘導体も、上記のように、親分子の発光特性を保持するべきである。これは同様に、インビボでの生理学的忍容性の要件を満たす必要がある。誘導体の例として、1つ以上の追加の官能基または非官能基(例えば、置換基)を担持する化学発光剤が挙げられる。「誘導体」という用語は、化学発光剤の断片または残基にも及ぶ。
【0023】
本明細書で使用される場合、「ミトコンドリア指向性部分」という用語は、ミトコンドリアを標的としてその中に蓄積することができる任意の生理学的に許容される薬剤を包含することが意図される。それはまた、親分子のミトコンドリア標的化特性を保持するミトコンドリア指向性薬剤の誘導体も包含する。「誘導体」という用語は、ミトコンドリア指向性薬剤の断片または残基にまで及ぶ。
【0024】
本明細書で使用される場合、「光増感剤前駆体」という用語は、代謝的に光増感剤に変換され、したがって本質的にそれと同等である任意の化合物を包含することが意図される。
【0025】
本明細書で使用される「薬学的に許容される塩」という用語は、本明細書に記載の化合物のいずれかの任意の薬学的に許容される有機塩または無機塩を指す。薬学的に許容される塩は、対イオン等の1つ以上の追加の分子を含み得る。対イオンは、親化合物の電荷を安定させる任意の有機基または無機基であり得る。化合物が塩基である場合、遊離塩基を有機酸または無機酸と反応させることにより、適切な薬学的に許容される塩を調製することができる。化合物が酸である場合、遊離酸を有機塩基または無機塩基と反応させることにより、適切な薬学的に許容される塩を調製することができる。
【0026】
「薬学的に許容される」という用語は、化合物または組成物が、製剤の他の成分または治療される患者(例えば、ヒト)と化学的および/または毒物学的に適合性があることを意味する。
【0027】
「医薬組成物」とは、医療目的で使用するのに適した任意の形態の組成物を意味する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「治療」という用語は、ヒトまたは非ヒト動物(例えば、非ヒト哺乳動物)に利益をもたらすことができる任意の治療的適応を含む。ヒトおよび動物の両方の治療が本発明の範囲内であるが、主に本発明はヒトの治療を目的としている。「治療」または「治療法」という用語は、治癒的および予防的な治療または治療法を包含する。
【0029】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、一価の飽和、直鎖状または分枝状の炭素鎖を指す。アルキル基の例として、限定されないが、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソ-ペンチル、ネオ-ペンチル、n-ヘキシル等が挙げられる。アルキル基は、好ましくは、1~6個の炭素原子、例えば1~4個の炭素原子を含む。
【0030】
本明細書で使用される「アルコキシ」という用語は、-O-アルキル基を指し、アルキルは、本明細書に定義される通りである。アルコキシ基の例として、限定されないが、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ等が挙げられる。
【0031】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、芳香環系を指す。そのような環系は、少なくとも1つの不飽和芳香環を含む。好ましいアリール基はフェニルである。特に明記しない限り、任意のアリール基は、ヒドロキシ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、アミノ、シアノ、およびニトロ基、またはハロゲン原子(例えば、F、ClまたはBr)から選択される1つ以上の置換基で置換することができる。1つより多くの置換基が存在する場合、これらは同じであっても異なっていてもよい。
【0032】
「シクロアルキル」という用語は、一価の飽和環状炭素系を指す。単環式シクロアルキル環は、3~8個の炭素原子を含み得、例として、限定されないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、およびシクロヘキシルが挙げられる。特に指定しない限り、任意のシクロアルキル基は、1つ以上の位置で適切な置換基で置換され得る。1つより多くの置換基が存在する場合、これらは同じであっても異なっていてもよい。適切な置換基として、ヒドロキシ、C1~6アルキル、C1~6アルコキシ、アミノ、シアノ、およびニトロ基、またはハロゲン原子(例えば、F、ClまたはBr)が挙げられる。
【0033】
「ハロゲン原子」という用語は、-F、-Cl、-Brまたは-Iを指す。
【0034】
本明細書で使用される「複素環」という用語は、飽和または部分的に不飽和の4~6員(好ましくは5または6員)の炭素環系を指し、少なくとも1つの環原子は、窒素、酸素、および硫黄から選択されるヘテロ原子であり、残りの環原子は炭素である。複素環構造は、炭素原子または窒素原子を介して分子の残りの部分に連結され得る。特に明記しない限り、本明細書に記載の任意の複素環は、同一であり得るかまたは異なり得る1つ以上の基、例えば、ヒドロキシ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、アミノ、シアノ、もしくはニトロ基、またはハロゲン原子(F、ClまたはBr)によって任意選択的に置換され得る。
【0035】
本明細書で使用される場合、「ヘテロアリール」という用語は、複素環式芳香族基を指す。これらが単環式である場合、これらは、窒素、酸素、および硫黄から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含み、かつ、芳香族系を形成するのに十分な共役結合を含む、5員環または6員環を含む。特に明記しない限り、本明細書に記載のヘテロアリール環は、任意選択的に、同一であり得るかまたは異なり得る1つ以上の基、例えば、ヒドロキシ、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、アミノ、シアノ、もしくはニトロ基、またはハロゲン原子(F、ClまたはBr)によって任意選択的に置換され得る。
【0036】
特に明記しない限り、全ての置換基は互いに独立している。
【0037】
下付き文字が整数0(すなわちゼロ)である場合、その下付き文字が言及する基が存在しないこと、すなわち、その特定の基の両側の基の間に直接結合が存在することが意図される。
【0038】
一態様では、本発明は、光線力学療法の方法に使用するためのミトコンドリアを標的とする化学発光剤(本明細書では「ミトコンドリア指向性化学発光剤」とも称される)を提供する。
【0039】
一実施形態において、本発明で使用するためのミトコンドリアを標的とする化学発光剤は、ミトコンドリアを選択的に標的とする少なくとも1つのミトコンドリア指向性部分に結合したまたは別様に関連した少なくとも1つの化学発光部分を含む化学発光剤「コンジュゲート」である。このコンジュゲートが1つより多くの化学発光部分を含む場合、これらは同じであっても異なっていてもよい。しかしながら、これらは概して同一である。化学発光部分が1つより多くのミトコンドリア指向性部分に結合している場合、ミトコンドリア指向性部分は同じであっても異なっていてもよいが、好ましくは同じである。一実施形態において、コンジュゲートは、単一のミトコンドリア指向性部分に結合したまたは別様に関連した単一の化学発光部分を含む。
【0040】
化学発光部分(または複数の部分)は、共有結合手段または非共有結合手段を介してミトコンドリア指向性部分(または複数のミトコンドリア指向性部分)に結合することができる。それは、例えば、静電相互作用、ファンデルワールス力、および/または水素結合を介してであり得る。典型的には、化学発光部分(または複数の部分)およびミトコンドリア指向性部分(または複数の部分)は、例えば、1つ以上の共有結合を介して、互いに共有結合する。場合によっては、化学発光部分(または複数の部分)は、連結基(または「スペーサー」)を介してミトコンドリア指向性部分(またはその各々)に共有結合し得る。
【0041】
本発明で使用するための化学発光剤「コンジュゲート」は、以下の一般式(I)を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩であり得、
【化1】
式中、Aは化学発光部分を表し、
同じであっても異なっていてもよい各Lは、直接結合またはリンカーのいずれかであり、
同じであっても異なっていてもよい各Bは、ミトコンドリア指向性部分を表し、
nは、1~3の整数、好ましくは1であり、
xは、1~3の整数、好ましくは1である。
【0042】
式(I)の一実施形態において、nおよびxの両方が1である。したがって、本発明で使用するための化学発光剤「コンジュゲート」は、式(II)の化合物、またはその薬学的に許容される塩であり得、
【化2】
式中、A、L、およびBは、本明細書に定義される通りである。
【0043】
本発明における使用に適した化学発光剤は当技術分野で既知であり、例えば、ルミノール、イソルミノール、ルシゲニン、アクリジニウムエステル、シュウ酸塩エステル、ならびにそれらの既知の類似体および誘導体を含む。任意の既知の化学発光タンパク質またはその誘導体も使用することができる。本発明で使用するための化学発光部分は、これらの薬剤のいずれかに「由来」し得る。適切な誘導体は、1つ以上の追加の官能基もしくは非官能基(例えば、置換基)を含み得るか、またはこれらは、化学発光活性を保持するそのような薬剤の断片もしくは残基を含み得る。
【0044】
本発明における使用に好ましいのは、ルミノール、イソルミノール、およびアクリジニウムエステルに由来する化学発光部分である。そのような化合物は、1つ以上の追加の置換基、例えば、C1-6アルキル、C1-6アルコキシ、アミノ、シアノ、およびニトロ基、またはハロゲン原子によって置換され得る。例えば、ルミノールまたはイソルミノールのフェニル環は、ハロゲン原子、およびC1-6アルキル基から選択される1つ以上(例えば、1つまたは2つ)の基によって置換され得る。
【0045】
理解されるように、共有結合またはリンカーを介してミトコンドリア指向性薬剤(または複数のミトコンドリア指向性薬剤)に結合するために、化学発光部分は、典型的には、親化学発光剤の「誘導体」である。例えば、これは、リンカーへのまたは直接ミトコンドリア指向性薬剤へのいずれかの共有結合の形成に続いて1つ以上の末端原子または基を欠いている可能性があり、したがって、元の分子の「残基」と見なされ得る。例えば、ルミノールの場合、第一級アミン基は、リンカーまたはミトコンドリア指向性部分のいずれかに対する結合点を形成することができるため、単一の水素原子の損失(すなわち-NH2から-NH-へ)によって「誘導体化」される。反応してミトコンドリア指向性薬剤(または複数の薬剤)と共有結合を形成し得る官能基の導入を含む、他の形態の誘導体化が想定され得る。任意の所与の化学発光剤に必要な「誘導体化」の特定の形態は、その構造に依存し、任意の熟練化学者によって容易に決定され得る。
【0046】
式(I)または(II)において、化学発光部分は、以下の構造から選択され得る(式中、*は、リンカーLへの、またはミトコンドリア指向性薬剤への直接の結合点(または複数の点)を示す):
【化3】
(式中、各Rは、水素、またはC
1-3アルキル(例えばメチル)等のアルキル基であり、
Xは、一価のアニオン、例えば、Cl、Br、I、Otos、ClO
4、NO
3、PF
6、またはBF
4アニオンであり、
Yは、任意選択的に置換されたアリール(またはアリーレン)基、例えば任意選択的に置換されたフェニル(またはフェニレン)である)。
【0047】
Yが置換アリールまたはアリーレン基である場合、適切な置換基の例は、1つ以上のハロゲン原子(例えば、F、Cl、Br、I)、C1-6アルキル(例えば、tert.ブチル、プロピル、エチルまたはメチル)、-COOC1-6アルキル(例えば-COOCH3)、ニトロまたはシアノ基を含む。
【0048】
適切なミトコンドリア指向性部分は、ミトコンドリア膜を通過する能力のために親油性部分を含む。非局在化カチオン電荷を有する部分も特に適している。親油性カチオン、とりわけ、カチオン電荷が非局在するカチオンが、特に適している。電荷の非局在は、例えば、広範な共役を有する芳香族系、例えば、縮合環構造、および/または分子全体に分布する複数のカチオン中心の存在によって提供され得る。例えば、トリフェニルホスホニウムの場合、中心のリンカチオンの電荷は3つのフェニル基によって共有される。
【0049】
本発明で使用され得るミトコンドリア指向性薬剤の例として、ホスホニウムイオン、デカリニウムおよびデカリニウム誘導体、グアニジニウムおよびグアニジニウム誘導体、ローダミン123、ローダミン110、トリフェニルエチレン部分(例えば、タモキシフェンおよび誘導体)、および2,6-ビス(4-アミノフェニル)-4-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]チオピリリウムクロリドが挙げられる。任意の他の既知のミトコンドリア指向性薬剤も使用することができ、当業者によって適切な化合物が選択され得る。本発明における使用に好ましいのは、ホスホニウムイオン、ローダミン123、およびローダミン110から選択されるミトコンドリア指向性薬剤である。
【0050】
理解されるように、共有結合またはリンカーを介して化学発光部分(または複数の化学発光部分)に結合するために、ミトコンドリア指向性薬剤は、場合によっては、親ミトコンドリア指向性薬剤の「誘導体」であり得る。例えば、これは、リンカーへのまたは直接化学発光剤(または複数の薬剤)へのいずれかの共有結合の形成に続いて1つ以上の末端原子または基を欠いている可能性があり、したがって元の分子の「残基」と見なされ得る。任意の所与のミトコンドリア指向性薬剤に必要な「誘導体化」の特定の形態は、その構造に依存し、任意の熟練化学者によって容易に決定され得る。
【0051】
本発明において使用するためのミトコンドリア指向性薬剤の例は以下を含む:
【化4】
(式中、同じであっても異なっていてもよい(好ましくは同じである)各R
1は、例えば、以下から選択され得、
【化5】
Xは一価のアニオン、例えば、Cl、Br、I、Otos、ClO
4、NO
3、PF
6、またはBF
4アニオンである)。
【0052】
本発明における使用に適したミトコンドリア指向性薬剤の他の例は以下を含む(式中、*は、リンカーLへの、または化学発光剤への直接の結合点を示す):
【化6】
(式中、各Rは、水素およびC
1-6アルキル等のアルキル(例えば、メチルまたはエチル等のC
1-3アルキル)から独立して選択され、
各Xは、独立して、一価のアニオン、例えば、Cl、Br、I、Otos、ClO
4、NO
3、PF
6、またはBF
4アニオンである)。
【0053】
ミトコンドリア指向性部分として使用され得るホスホニウムイオンは、トリフェニルホスホニウム、トリシクロヘキシルホスホニウムおよびそれらのペルフルオロ誘導体、例えば、トリス-ペンタフルオロフェニルホスホニウム等の親油性ホスホニウムカチオンを含む。本明細書に記載の一例では、ルミノールの化学修飾は、ルミノール-TPPを生成するように、一連の異なるリンカー(例えば、可変長のアルキレン鎖)を介してルミノールの一級アミンにミトコンドリアに結合した親油性トリフェニルホスホニウムカチオン(TPP)を付加することによって達成されるように調整して設計される。この化合物のファミリーは、非局在化カチオン電荷のために、それらの過分極膜に起因して癌細胞によって優先的に取り込まれると予想される。
【0054】
上記の一般式(I)および(II)において、リンカーLの正確な性質は、これが化学発光部分をミトコンドリア指向性部分(または複数の部分)に連結するという目的の機能を果たし、したがって、化学発光部分のミトコンドリアへの標的化された送達を可能にする限り、本発明の性能にとって重要ではないと考えられる。リンカーは、剛性または可撓性であり得、所望の標的部位においてインビボで切断可能であり得る(例えば、光切断可能であり得る)。一般的に、それは有機基を含む。
【0055】
連結基Lは、本質的に親水性または疎水性であり得る。それは分岐(樹状を含む)鎖または直鎖のいずれかであり得るが、好ましくは直鎖である。連結基が分岐している場合、これは、例えば、1つより多くのミトコンドリア指向性部分を担持し得る。連結基は、脂肪族および/または芳香族であり得、1つ以上のシクロアルキル、複素環、アリール、またはヘテロアリール環を含み得る。したがって、連結基は、本質的に脂肪族、(多)環式および/または(多環)芳香族であり得る。
【0056】
リンカーの鎖長は異なり得るが、一般に、これは、1~20個の原子(例えば、1~20個の炭素原子)、好ましくは2~15、例えば、2~12個の原子を含む骨格を含み得る。
【0057】
リンカーLは、例えば、C1-3アルキル、-O(C1-3)アルキル、-OH、シクロアルキルおよびアリール基から選択される1つ以上の基によって任意選択的に置換されたアルキレン鎖(好ましくはC1-15アルキレン、例えばC2-11アルキレン)を含んでもよく、アルキレン鎖の1つ以上の-CH2-基は、-O-、-CO-、-NR-(Rは、HまたはC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えばメチルである)、シクロアルキル、複素環、アリールおよびヘテロアリール基から独立して選択される基によって置き換えられ得る。
【0058】
適切なリンカー基は、当技術分野の当業者によって容易に決定され得る。適切なリンカーの例は、任意選択的に置換されたアルキレン基、好ましくは非置換の直鎖アルキレン基、例えば、-C3H6-、-C4H8-、-C6H12-、-C8H16-、-C10H20-、および-C11H22-を含む。
【0059】
アルキレン鎖の1つ以上の-CH2-基がある基によって置換されている場合、これらは、-O-もしくは-CO-基によって、または複素環(例えば、ピペラジニレン基等の連飽和複素環)、またはアリール環(例えばフェニレン)にのいずれかによって置き換えられてもよい。1つ以上の-CO-が存在するそのようなリンカーの例は、-CO-CH2-、-CO-C3H6、-CO-C5H10-、-CO-C6H12-、および-CO-C10H20-を含む。2つ以上の-O-基が存在する適切なリンカーの他の例は、オリゴまたはポリエチレングリコール基、好ましくは1~4個のエチレンオキシド単位、例えば2または4個のエチレンオキシド単位を含むポリエチレングリコール基を含む。
【0060】
他の適切なリンカーの例は、以下を含み(以下の基において、リンカーのいずれかの末端は、化学発光部分に結合され得る)、
【化7】
式中、aは、1~6の整数、例えば2~5である。
【0061】
特定の実施形態において、本発明で使用するための化学発光剤コンジュゲートは、式(III)の化合物、またはその薬学的に許容される塩であり、
【化8】
式中、L
1は、本明細書に記載の任意のリンカーであり、
B
1は、本明細書に記載の任意のミトコンドリア指向性薬剤であり、
R
3は、水素、またはC
1-3アルキル(例えばメチル)等のアルキル基であり、
各R
4は、C
1-6アルキル、および-NR
5R
6から独立して選択され、
R
5およびR
6は、HおよびC
1-6アルキルから、好ましくはHおよびC
1-3アルキル(例えば-CH
3)から独立して選択され、
pは、0~3の整数、好ましくは0、1または2、例えば0または1である。
【0062】
式(III)の好ましい化合物は、式(IIIa)および(IIIb)の以下の化合物を含み、
【化9】
式中、L
1、B
1、R
3、R
4、およびpは、本明細書に定義される通りである。
【0063】
式(III)、(IIIa)および(IIIb)において、L
1は、好ましくは以下のうちの1つから選択され、
【化10】
式中、aは、1~10の整数、好ましくは3~10であり、
bは、1~4の整数、例えば2である。
【0064】
式(III)、(IIIa)または(IIIb)の一実施形態において、B
1は以下の基であり得、
【化11】
式中、R
1は、本明細書に定義される通りであり、例えば、フェニル、トルエン(例えば、o-トルエン、m-トルエンまたはp-トルエン)、またはシクロヘキシルであり、Xは一価のアニオン、例えば、Cl、Br、またはIアニオンである。
【0065】
特定の実施形態において、本発明で使用するための化学発光剤コンジュゲートは、式(IV)の化合物、またはその薬学的に許容される塩であり、
【化12】
式中、L
2は、本明細書に記載の任意のリンカーであり、
B
2は、本明細書に記載の任意のミトコンドリア指向性薬剤であり、
各R
6は、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br、I)、およびC
1-6アルキル(例えばtBu)から独立して選択され、
qは、0~4の整数、好ましくは0または2であり、
Zは、一価のアニオン、例えば、Cl、Br、I、またはCF
3OSO
2アニオンである。
【0066】
式(IV)の一実施形態において、L
2は以下の基を表し、
【化13】
式中、aは、1~10の整数、好ましくは3、4または5である。
【0067】
式(IV)の一実施形態において、B
2は以下の基であり得、
【化14】
式中、R
1は、本明細書に定義される通りであり、例えば、フェニル、トルエン(例えば、o-トルエン、m-トルエンまたはp-トルエン)、またはシクロヘキシルであり、Xは一価のアニオン、例えば、Cl、Br、またはIアニオンである。
【0068】
特定の実施形態において、本発明で使用するための化学発光剤コンジュゲートは、式(V)の化合物、またはその薬学的に許容される塩であり、
【化15】
式中、L
3は、本明細書に記載の任意のリンカーであり、
B
3は、本明細書に記載の任意のミトコンドリア指向性薬剤であり、
各R
7は、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br、I)、-CO
2R
8(式中、R
8は水素またはC
1-6アルキルである)、シアノ、およびC
1-6アルキル(例えば、tBu)から独立して選択され、
rは、0~5の整数、好ましくは0または3であり、
Zは、一価のアニオン、例えば、Cl、Br、I、またはCF
3OSO
2アニオンである。
【0069】
式(V)において、L3は、好ましくはC1-10アルキレン、例えばC1-6アルキレンである。
【0070】
式(IV)の一実施形態において、B
3は以下の基であり得、
【化16】
式中、R
1は、本明細書に定義される通りであり、例えば、フェニル、トルエン(例えば、o-トルエン、m-トルエンまたはp-トルエン)、またはシクロヘキシルであり、Xは一価のアニオン、例えば、Cl、Br、またはIアニオンである。
【0071】
特定の実施形態において、本発明で使用するための化学発光剤コンジュゲートは、式(VI)の化合物、またはその薬学的に許容される塩であり、
【化17】
式中、L
4は、本明細書に記載の任意のリンカーであり、
【0072】
A1は、本明細書に記載の任意の化学発光部分である。
【0073】
式(VI)において、L
4は、以下から選択され得、
【化18】
式中、aは1~10の整数、好ましくは4、5、または6である。
【0074】
式(VI)の一実施形態において、A
1は、以下のいずれかから選択され、
【化19】
式中、R
3は、水素、またはC
1-3アルキル(例えばメチル)等のアルキル基であり、
各R
4は、C
1-6アルキル、および-NR
5R
6から独立して選択され、
R
5およびR
6は、HおよびC
1-6アルキルから、好ましくはHおよびC
1-3アルキル(例えば-CH
3)から独立して選択され、
pは、0~3の整数、好ましくは0、1または2、例えば0または1であり、
Zは、一価のアニオン、例えば、Cl、Br、I、またはCF
3OSO
2アニオンであり、
各R
9は、ハロゲン(例えば、F、Cl、Br、I)、およびC
1-6アルキル(例えば、tBu)から独立して選択され、
sは、0~4の整数、好ましくは0、2、または3である。
【0075】
特定の実施形態において、本発明で使用するための化学発光剤コンジュゲートは、式(VII)の化合物、またはその薬学的に許容される塩であり、
【化20】
式中、L
5は、本明細書に記載の任意のリンカーであり、
B
4は、本明細書に記載の任意のミトコンドリア指向性薬剤であり、
各R
10は、C
1-6アルキル(例えばメチル)、および-NR
11R
12から独立して選択され、
R
11およびR
12は、HおよびC
1-6アルキルから、好ましくはHおよびC
1-3アルキル(例えば、-CH
3)から独立して選択され、
tは、0~3の整数、好ましくは1または2である。
【0076】
式(VII)の好ましい化合物は、以下の式(VIIa)の化合物を含み、
【化21】
式中、L
5、B
4、R
11およびR
12は本明細書に定義される通りであり、R
13はHまたはC
1-3アルキルである。
【0077】
式(VII)および(VIIa)において、L5は、好ましくはC1-11アルキレン、より好ましくはC2-8アルキレン、例えばプロピレンである。
【0078】
本明細書に記載の化学発光剤コンジュゲートは、当技術分野で既知の方法および手順を使用して調製することができる。化学発光剤をミトコンドリア指向性部分に共有結合させるために使用され得る方法は、既知のカップリング技術を含む。使用される正確な方法は、化学発光剤、ミトコンドリア指向性薬剤、およびリンカー(存在する場合)の正確な性質、特に結合の形成に関与するペンダント官能基の性質に依存する。ペンダント官能基が結合パートナー上に既に存在する場合、これらは様々な部分を連結する際に使用され得る。必要に応じて、例えば、成分を結合するために使用され得る反応性官能基を含めるように、コンジュゲートの1つ以上の成分(すなわち、化学発光部分、リンカー、およびミトコンドリア指向性部分)を官能化することができる。適切な反応性基は、カルボン酸、ヒドロキシ、チオール、カルボニル、酸ハロゲン化物、第一級および第二級アミン、ハロゲン化アリールおよび擬ハロゲン化物、ハロゲン化アルキルおよび擬ハロゲン化物、ハロゲン化アルケニルおよび擬ハロゲン化物、末端アルキン、クリック可能な部分等を含む。そのような官能基を導入するための方法は、当技術分野で周知である。
【0079】
化学発光剤を1つ以上のミトコンドリア指向性薬剤に共有結合させるために使用され得る方法の例は以下を含むが、これらに限定されない:アミド結合形成、エーテル結合形成、エステル結合形成、チオエステル結合形成、クロスカップリング反応、オレフィンメタセシス反応、求電子性芳香族置換、クリック化学、求核性置換反応等。
【0080】
本明細書に記載のコンジュゲートの調製において出発物質として使用するための化合物は、文献から既知であるか、または市販され得る。あるいは、これらは、文献から既知の方法によって容易に得ることができる。本発明に従って使用するための化合物を調製する方法のより詳細な説明は、実施例に見出される。
【0081】
本明細書に記載の化学発光剤コンジュゲートは、それ自体が新規であり、本発明のさらなる態様を形成する。例えば、本明細書に記載の技術のいずれかを使用して、1つ以上の化学発光剤を1つ以上のミトコンドリア指向性薬剤に連結するステップを含むそれらの調製方法は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0082】
PDTで使用するために、本明細書に記載のミトコンドリア指向性化学発光剤は、光増感剤または光増感剤の前駆体と組み合わせて使用される。本発明の鍵は、化学発光剤が光増感剤を「活性化」できるようにするために、これらが細胞ミトコンドリア内で互いに近接しているべきであるということである。これらの薬剤は、PDTの方法において、患者に別々に、同時に、または連続して投与するために個別に提供され得る。あるいは、これらは、ミトコンドリア指向性化学発光剤および光増感剤(または前駆体)の両方が存在する単一の製剤として提供され得る。そのような製剤は、本発明の一部を形成する。
【0083】
本発明で使用するために、任意の光増感剤(または光増感剤前駆体)は、そのインビボ投与後に標的細胞のミトコンドリアに蓄積して、これが化学発光化合物に近接することを確実にすることができなければならない。例えば、これはミトコンドリアに局在する光増感剤またはその前駆体であり得る。
【0084】
ミトコンドリアを標的とすることができる光増感剤および前駆体の例として、5-ALAおよびその誘導体、mTHPC、テモポルフィン、クロリンe6、スルホン化アルミニウムフタロシアニン、アントラキノンおよびその誘導体(例えば、ヒペリシン、ヒポクレリン[A、B]、セルコスポリン、カルホスチン、エルシノクロム[A、B、C])、およびそれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。他のミトコンドリアに蓄積する光増感剤は当技術分野で既知であり、これらもまた本発明で使用することができる。
【0085】
他の既知の光増感剤および前駆体は、所望の標的化特性を付与するための適切な修飾を条件として、本発明において使用され得る。例えば、これらは、ミトコンドリア標的化能力を有する適切なナノ担体内にカプセル化され得る。これらの実施形態において、より広い範囲の光増感剤を使用することができ、PDTにおける使用に適した任意の既知の光増感剤(または前駆体)が使用され得ると想定される。一連の適切な薬剤が当技術分野で既知であり、それらは、例えば、5-アミノレブリン酸(5-ALA)および5-ALAの誘導体(プロトポルフィリンIXの産生をもたらす);ミトコンドリア指向性ポルフィリン;スルホン化され得るアルミニウムフタロシアニン(すなわちAlPcS)、例えばAlPcS2もしくはAlPcS2a等のジスルホン化アルミニウムフタロシアニン、またはアルミニウムフタロシアニンテトラスルホン酸(A1PcS4)等のフタロシアニン;スルホン化テトラフェニルポルフィリン(例えば、TPPS2a、TPPS4、TPPS1およびTPPS2o);テトラ(m-ヒドロキシフェニル)クロリン(m-THPC)等のクロリン(例えば、商品名Foscanで販売されているテモポルフィン);バクテリオクロリンおよびケトクロリンを含むクロリン誘導体;モノ-L-アスパルチルクロリンe6(NPe6)またはクロリンe6;ヘマトポルフィリンおよびベンゾポルフィリンを含む天然および合成ポルピリン;アントラキノンおよびその誘導体(例えば、ヒペリシン、ヒポクレリン[A、B]、セルコスポリン、カルホスチン、エルシノクロム[A、B、C])を含む。
【0086】
これらの光増感剤(または前駆体)のいずれかの薬学的に許容される塩も使用することができる。そのような塩は、薬学的に許容される有機または無機の酸または塩基との塩を含む。
【0087】
本発明で使用され得る5-ALAの誘導体は、インビボでPpIXを形成することができる5-ALAの任意の誘導体を含む。典型的には、そのような誘導体は、ヘムの生合成経路におけるPpIXの前駆体であり、したがって、投与後に標的部位でPpIXを産生することができる。PpIXの適切な前駆体は、5-ALAエステル等の5-ALAプロドラッグを含む。
【0088】
以下は、本発明で使用するためのとりわけ好ましい光増感剤および前駆体である:5-ALA、mTHPC、テモポルフィン、クロリンe6、スルホン化アルミニウムフタロシアニン、アントラキノンおよびそれらの誘導体(例えば、ヒペリシン、ヒポクレリン[A、B]、セルコスポリン、カルホスチン、エルシノクロム[A、B、C])、およびそれらの薬学的に許容される塩。本発明における使用に特に好ましいのは、5-ALAおよびその薬学的に許容される誘導体(例えば、薬学的に許容される塩、またはメチルもしくはヘキシルエステル)である。
【0089】
化学発光部分の特定の選択は、治療される腫瘍の性質を含む様々な要因に依存するが、当技術分野の当業者は容易に選択することができる。理解されるように、化学発光剤の選択はまた、それが放出する光の波長が光増感剤の光活性化に適しているべきであるため、PDT治療で使用される光増感剤にも依存する。
【0090】
適切な化学発光剤と光増感剤の「ペア」の例は、当業者によって容易に決定され得る。以下は、適切な非限定的な例として提供される。光増感剤がPpIX(例えば、5-ALAの投与後にインビボで生成される)である場合、ルミノールまたはイソルミノールを化学発光剤として使用することができる。光増感剤ヒペリシンは、化学発光剤ルシゲニンとの使用に特に適しているが、それは、これらの部分が、特に金属キレート剤DTPAおよびEDTA等の結合剤の存在下で、非常に効率的な分子内エネルギー移動のためのπスタックを形成できるためである。ルミノールとmTHPCは、非常に効率的なエネルギー移動ペアである。他の効率的なエネルギー移動ペアは、ルミノール-エリスロシンB、ルミノール-ヒポクレリン、ルミノール-セルコスポリン、ルミノール-カルホスチン、ルミノール-エルシノクロムアクリジンエステル-ヒポクレリン、ルシゲニン-ヒポクレリン、アクリジンエステル-セルコスポリン、ルシゲニン-セルコスポリン、アクリジンエステル-ヒペリシン、およびルシゲニン-ヒペリシンを含む。ヘマトポルフィリン誘導体(HPD)またはスルホン化アルミニウムフタロシアニンは、ルミノールまたはルシゲニンのいずれかとともに使用できる。しかしながら、これらは潜在的な機能的ペアの単なる示唆的な例であり、他のものが当業者によって容易に決定され得る。
【0091】
本明細書に記載のミトコンドリア指向性化学発光剤は、光線力学療法の方法における使用を意図しており、光線力学療法に応答する体内の細胞または組織の障害または異常の治療に使用するのに適している。そのような方法は、本明細書に記載の光増感剤または光増感剤の前駆体の同時の、別々の、または連続した使用を伴う。
【0092】
一般に、代謝的に活性な細胞は光線力学的治療に応答する。代謝的に活性な細胞の例は、細胞数の増加/細胞増殖の増加、細胞の異常な成熟および分化、または細胞の異常な増殖等の異常な成長を経験する細胞である。そのような成長パターンを特徴とする任意の状態は、本明細書に記載のPDT法に従って治療することができる。
【0093】
治療され得る障害または異常は、癌性増殖または腫瘍等の悪性および前悪性の癌状態、ならびにそれらの転移;肉腫および癌腫等の腫瘍、特に固形腫瘍を含む。本発明は、腫瘍、特に皮膚の表面下に位置する腫瘍、すなわち内部癌または深部癌の治療に特に適している。
【0094】
本発明によるPDTは、2つの様式で適用することができる:(i)古典的なPDTのように外部光源を必要とせずに、悪性もしくは前悪性状態(例えば、神経膠腫)の治療として、または(ii)疾患の再発もしくは播種のいずれかにつながる可能性のある、残された活動性の腫瘍性病巣を鎮圧するための、反復可能な、補助的な術後の光化学的治療として。治療は、反復治療セッションを通して生涯にわたって状態(例えば、脳癌)を管理および抑制するために効果的に使用することができる。原発性疾患の潜在性転移の治療も、事前の診断を必要とせずに実施され得る。
【0095】
本発明を使用して治療することができる腫瘍の例は、骨形成性および軟部組織肉腫を含む肉腫;癌腫、例えば、乳房、肺、脳、膀胱、甲状腺、前立腺、結腸、直腸、膵臓、胃、肝臓、子宮、肝臓、腎臓、前立腺、子宮頸部および卵巣の癌腫;ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫を含むリンパ腫;神経芽細胞腫、黒色腫、骨髄腫、ウィルムス腫瘍;急性リンパ芽球性白血病および急性骨髄芽球性白血病を含む白血病;星状細胞腫、神経膠腫および網膜芽細胞腫;中皮腫である。しかしながら、本発明は、非侵襲的に到達することが困難である深部にある癌性病変の治療において特定の価値を見出す。神経膠腫(例えば、GMB)の治療は、本発明の好ましい態様を形成する。
【0096】
代謝的に活性な細胞の他の例は、炎症を起こした細胞である。したがって、関節リウマチ等の炎症性疾患もまた、本発明によるPDT法を使用して治療することができる。
【0097】
本明細書に記載のPDT法のいずれかで使用するために、ミトコンドリアを標的とする化学発光剤は、一般に、少なくとも1つの薬学的に許容される担体または賦形剤を含む医薬組成物として提供される。そのような組成物は、本発明のさらなる態様を形成する。これらはまた、選択された光増感剤(または前駆体)を含み得るが、ほとんどの場合、光増感剤(またはその前駆体)は、患者への別個の投与のために異なる製剤として提供されることが想定される。
【0098】
本明細書に記載の医薬組成物は、当技術分野で周知の技術を使用して製剤化することができる。投与経路は、目的とする用途、特に治療される細胞または組織の位置に依存する。典型的には、これらは全身投与され、したがって、例えば皮内、皮下、腹腔内、静脈内もしくは腫瘍内注射によって、または点滴による注入によって、非経口投与に適合した形態で提供され得る。適切な剤形は、コンジュゲートおよび/または光増感剤(またはその前駆体)を1つ以上の不活性担体または賦形剤とともに含む懸濁液および溶液を含む。適切な担体は、生理食塩水、滅菌水、リン酸緩衝生理食塩水およびそれらの混合物を含む。好ましくは、組成物は、水または生理食塩水、例えばリン酸緩衝生理食塩水中の、水性懸濁液または溶液の形態で使用される。
【0099】
組成物は、乳化剤、懸濁剤、分散剤、粘度調整剤、可溶化剤、安定剤、緩衝剤、保存剤等の他の薬剤をさらに含んでもよい。組成物は、従来の滅菌技術によって滅菌され得る。
【0100】
一実施形態において、ミトコンドリアを標的とする化学発光剤は、静脈内または腫瘍内注射に適した水または生理食塩水(または任意の他の薬学的に関連する生体適合性ビヒクル)中の溶液の形態で提供される。これは、単回投与または反復投与のいずれかで投与することができる。
【0101】
一実施形態において、化学発光剤コンジュゲートは、徐放性製剤の形態で投与することができる。適切な遅延放出製剤は当技術分野で既知であり、インビボで薬剤を連続的に徐放することができる任意の製剤を含む。適切な遅延放出製剤の一例は、インビボでの持続放出を提供する注射可能なインプラントである。そのようなインプラントは、活性化合物のナノ粒子を含む生体適合性および生分解性ポリマーに基づくインサイチュ形成インプラントであり得る。これらは、化学発光剤の持続的な送達を提供して長期の発光を保証し、それにより、治療の最適化された治療効果を達成する。
【0102】
別の態様では、化学発光コンジュゲートは、生理学的温度で(すなわち、いったん体に送達されると)サーモゲルになる熱応答性製剤の形態で提供され得る。これらは、最大15時間、例えば10~15時間の期間にわたってそれらの負荷を最適に放出するように製剤化することができる。温度応答性ポリマーの使用により、皮下注射に適した、体温に応答してインサイチュで相転移を起こしてゲル化する、低粘度溶液の製剤化が可能になる。ゲルネットワークの熱硬化特性を最適化するために、様々なポリマーおよびそのコポリマーを使用することができる。そのようなポリマー材料は、当技術分野で既知であり、かつ使用されており、例えば、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、アルギン酸塩/ヒアルロン酸、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、およびポロキサマーを含む。
【0103】
化学発光コンジュゲートを含むナノ粒子および/またはマイクロ粒子も、長期間、例えば10~15時間にわたって活性物質の制御された連続的な放出をもたらすために提供され得る。そのような担体の例として、(i)ミセル担体、(ii)リポソーム、(iii)樹状またはポリマーナノ担体、および(iv)固体脂質ナノ粒子が挙げられる。任意のそのような粒子は、インサイチュで生成されるゲルネットワークにおいて活性物質を放出するためのリザーバを形成するように、本明細書に記載の熱応答性製剤に含まれ得る。
【0104】
本明細書に記載の組成物は、全身的に(例えば、経口的または非経口的に)投与することができるか、あるいは、これらは、患部またはその近くで局所的に(例えば、局部的に)適用することができる。投与経路は、治療される疾患の重症度、性質、および場所、ならびに使用される光増感剤(または前駆体)に依存する。全身投与することができる組成物は、プレーンなまたはコーティングされた錠剤、カプセル、懸濁液および溶液を含む。局所的に(例えば、局部的に)投与することができる組成物には、ゲル、クリーム、軟膏、スプレー、ローション、および当技術分野の他の従来の剤形のいずれかが含まれる。クリーム、軟膏およびゲルは、適切な増粘剤および/またはゲル化剤を添加した水性または油性基剤とともに製剤化することができる。
【0105】
典型的には、本明細書に記載の方法は、例えば静脈内注射による、光増感剤を含む有効量の組成物の投与という最初のステップを含み得る。次に、光増感剤(または前駆体)は、体の所望の標的領域に分布され、例えば、注射および/または点滴のいずれかによって静脈内に、ミトコンドリアを標的とする化学発光剤を投与する前に、活性光増感剤、例えば、PpIXのインサイチュ生成を可能にする。5-ALA投与後の細胞におけるPpIX生成の時間プロファイルは数時間であり得(典型的には、これは投与後2~10時間の間にピークに達する場合がある)、したがってミトコンドリアを標的とする化学発光剤の送達を遅延させることが望ましい。これは、その投与を遅延させることによって、または本明細書に記載される遅延放出製剤によって達成することができる。光増感剤の投与は、典型的には、ミトコンドリアを標的とする化学発光剤の投与の前に行われることが想定されるが、それにもかかわらず、これらの送達は、例えば、ミトコンドリアを標的とする化学発光剤が遅延放出製剤の形態(例えば、本明細書に記載のナノ粒子および/またはマイクロ粒子担体系のいずれかの形態)で提供される場合、同時であり得る。
【0106】
例えば、患者は、最初に5-ALA注射を受け、次に適切な時間枠で適切な治療域内で、ミトコンドリアを標的とする化学発光剤(例えば「ミトコンドリア指向性」ルミノール)の2回目の注射を受けるか、またはこの薬剤を含む点滴を必要な限り行う。この設定では、任意の治療後のモニタリングの対象となる必要性が最小限に抑えられる。
【0107】
本明細書に記載の組成物の有効用量、用量の数、および投与の正確なタイミングは、ミトコンドリアを標的とする化学発光剤の性質、光増感剤(または前駆体)、それらの投与様式(複数可)、治療される状態、患者等を含む様々な要因に依存し、それに応じて調節することができる。
【0108】
本発明のさらなる態様は、患者の細胞または組織の光線力学療法の方法に関し、前記方法は、前記細胞または組織に
(a)本明細書に記載の有効量のミトコンドリアを標的とする化学発光剤と、それと同時に、別々に、もしくは連続して、有効量の光増感剤もしくは光増感剤前駆体、または
(b)本明細書に記載のミトコンドリアを標的とする化学発光剤および光増感剤もしくは光増感剤前駆体を含む有効量の医薬組成物、を投与するステップを含む。
【0109】
さらなる態様において、本発明は、例えば本明細書に記載のPDT法のいずれかにおける、光線力学療法の方法における同時の、別々の、または連続した使用のために、本明細書に記載のミトコンドリアを標的とする化学発光剤、および光増感剤または前駆体を含む製品を提供する。
【0110】
さらにさらなる態様では、本発明は、以下を含むキットを提供する:(i)本明細書に記載のミトコンドリアを標的とする化学発光剤、別個に(ii)光増感剤または光増感剤前駆体、ならびに任意選択的に(iii)光線力学療法の方法における(i)および(ii)の使用のための指示書。使用される場合、キットの活性成分(すなわち、(i)および(ii))は、同時に、別々に、または連続して投与され得る。
【図面の簡単な説明】
【0111】
次に、本発明を、以下の非限定的な実施例および添付の図面を参照してさらに説明する。
【
図1】修飾型のルミノールが自立した細胞内光源として使用され、標的ミトコンドリアが、「光のスイッチを入れる」ための電源として使用され、腫瘍細胞内から感光性薬剤(PpIX)の細胞毒性活性を活性化する、本発明の背景にある概念の概略図。この表現は、決して本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【
図2】ミトコンドリアマトリックス環境に類似した生体模倣条件におけるミトコンドリア指向性ルミノール誘導体の発光。
【
図3】-プロピレングリコールにミトコンドリア指向性ルミノール誘導体を適用した後の細胞層からの発光。
【
図4】-ルミノール発光と様々な光増感剤との間のエネルギー移動:A)アルカリ性DMSO(KOH)中のルミノールの発光、B)ヒポクレリンA(HYPA)の添加、C)HYPAの代わりにヒペリシン(HYP)を追加、D)ローズベンガル(RB)の存在下でCuSO
4および尿素過酸化物を添加した炭酸水素塩水溶液(pH10.3)中のルミノール、E)532nmレーザーによる励起、F)D)と同様であるが、TPPS4を添加した炭酸緩衝液中のルミノール系。
【
図5】ルミノール発光と様々な光増感剤との間のエネルギー移動:A)DMSO-tert-ブトキシド中のルミノールのスペクトル、B)エリスロシンBは非常に強く、特に約500を吸収し、580nm付近で非常に強い蛍光を示す、C)DMSO-ルミノール溶液へのtert.ブトキシドの添加。
【
図6】-ミトコンドリア指向性ルミノール誘導体およびルミノールの共焦点顕微鏡写真。3つの列(左)で、2つの誘導体、すなわちDZ160およびAP47のミトコンドリア局在が、乳房腺癌細胞株MCF7および神経膠芽腫細胞株U87の2つの異なる細胞株において示されている。この3つの列の各列の3つの顕微鏡写真は、誘導体の局在、ミトコンドリアマーカーMitoTracker Greenの局在、およびマージ画像におけるこれら2つの局在のオーバーレイを示している。ルミノールの蛍光は左の列に示され、MitoTracker Greenの蛍光は中央の列に示される。それらのオーバーレイは3番目の列に示されている。右側の列(4列目)では、遊離ルミノールの細胞質ゾル局在が上の画像(縁取り付き)に示されているが、2つの例では、AP47およびDZ160の局在は、蛍光スピルオーバー、すなわち、MitoTrackerとルミノール誘導体チャネルとの間のクロストークを排除するために、MitoTracker Greenとともにインキュベートされなかった細胞に示されている。
【
図7】U87およびMCF7細胞に対するLUMIBLAST実験。
【
図8】CuSO
4の存在下におけるMCF7およびU87細胞中の化合物DZ168と、光増感剤としてのHYPAの使用。
【
図9】光増感剤としてのHYPA、およびDZ167トリフェニルホスホニウム-ルミノール誘導体の存在下においてCuSO
4によって媒介されるU87細胞中のLUMIBLAST効果。
【
図10】T98G多形神経膠芽腫細胞におけるセルコスポリンおよびエリスロマイシンb(画像では緑色)の細胞内局在。プローブであるMitoTracker Deep Red(画像では赤色)を使用して、2つの色素と細胞ミトコンドリアの共局在を評価した。
【
図11】U87、GBM細胞における光増感剤セルコスポリンと2つのルミノールミトコンドリア指向性誘導体、すなわちDZ203およびDZ196の使用によるLUMIBLAST効果。セルコスポリンの吸収および発光特性は左上の図に示され、ルミノールの発光は左下のグラフに示される。
【
図12】DZ167および5-ALAと個別にまたは組み合わせて(最初に5-ALA、次にDZ167)インキュベートしたMCF7細胞の代謝分析。酸素消費速度(左)は、細胞呼吸に対する調査された化合物の効果を表し、細胞外酸性化速度(ECAR)は、解糖のプロセスに対する選択された化合物の効果を示す。化合物の注射後、続いて細胞に、単一化合物投与の場合はオリゴマイシン、FCCPおよびアンチマイシンA+ロテノン(DZ167または5-ALA)を注射し、組み合わせ投与の場合はFCCPおよびアンチマイシンA+ロテノンを注射した(5-ALAおよびDZ167)。これらの後続の注射は、細胞呼吸への影響を解明するために行われ、オリゴマイシンの場合は、細胞の解糖能力も解明された。
【
図13】100μM CuSO
4の存在下(グレーのバー)または非存在下(斜線パターンの白いバー)で、5-ALA(1.2mM)とDZ203(400μM)を同時投与したMDA-MB-231乳癌細胞におけるLUMIBLAST効果。
【実施例】
【0112】
実施例1.アシル化前駆体としてのフタルイミド(中間体)の合成
【化22】
ステップ1:ニトロフタル酸12aまたは12b(12.6g、0.06mol)および無水酢酸(11.15mL、0.12mol)の混合物を1時間還流した。混合物を室温にし、トルエン(300mL)を加え、揮発性物質を真空で除去した。残差をジエチルエーテルで数回洗浄して、それぞれの無水物13aまたは13b(10.25g、90%)を白色固体として得た。
【0113】
ステップ2:酢酸(90mL)中の無水ニトロフタル酸13aまたは13b(10g、0.052mol)の溶液に、sec-ブチルアミン(7.85mL、0.078mol)を加え、混合物を5時間還流した。冷却後、混合物を真空で濃縮し、H2O(100mL)で希釈し、DCM(3×100mL)で抽出した。合わせた有機層を飽和NaHCO3水溶液および鹹水で洗浄し、無水Na2SO4で乾燥させ、濾過し、真空で濃縮して、それぞれのフタルイミド14aまたは14b(6.45g、50%)を白色固体として得た。
【0114】
ステップ3:MeOH(250mL)中のニトロフタルイミド14aまたは14b(9g、0.04mol)の脱気(Arでパージ)溶液に10%Pd/C(10mol%)を加え、混合物を水素雰囲気(20バール)中で24時間撹拌した。次に、溶液をセライトパッドで濾過し、溶媒を留去して、それぞれのフタルイミド15aまたは15b(6.1g、70%)を黄色固体として得た。
【0115】
実施例2.6-ブロモ-N-(2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)ヘキサンアミド(中間体)の合成
【化23】
6-ブロモヘキサン酸(2.14g、0.011mol)を塩化オキサリル(約10mL)に懸濁し、周囲温度で2時間撹拌し、過剰な塩化オキサリルを減圧下で留去した。残差(酸塩化物)を乾燥ジクロロメタン(10mL)に溶解し、アルゴン下0℃で乾燥DCM(15mL)中の15a(2.2g、0.01mol)およびピリジン(1.62ml、0.02mol)の溶液に滴下して加えた。添加後、混合物を周囲温度に加温し、24時間撹拌した。DCM(50mL)を加え、溶液を、H
2O(50mL)、1M HCl水溶液(50mL)、飽和NaHCO
3水溶液(50mL)、および鹹水(50mL)で洗浄し、乾燥させ(Na
2SO
4)、溶媒を減圧下で蒸発させた。フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、PE/EtOAc 6:1)により残差を精製して、アミド11a(2.80g、71%)を白色固体として得た。
【0116】
実施例3.11-ブロモ-N-(2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)ウンデカンアミド(中間体)の合成
【化24】
11-ブロモウンデカン酸(1.17g、4.4mmol)を塩化オキサリル(約7mL)に懸濁し、周囲温度で2時間撹拌し、過剰な塩化オキサリルを減圧下で留去した。残差(酸塩化物)を乾燥ジクロロメタン(5mL)に溶解し、アルゴン下0℃で乾燥DCM(15mL)中の15a(0.9g、4mmol)およびピリジン(0.65ml、8mmol)の溶液に滴下して加えた。添加後、混合物を周囲温度に加温し、24時間撹拌した。DCM(50mL)を加え、溶液を、H
2O(50mL)、1M HCl水溶液(50mL)、飽和NaHCO
3水溶液(50mL)、および鹹水(50mL)で洗浄し、乾燥させ(Na
2SO
4)、溶媒を減圧下で蒸発させた。フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、PE/EtOAc 6:1)により残差を精製して、アミド11a(1.3g、70%)を白色固体として得た。
【0117】
実施例4.6-ブロモ-N-(2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-5-イル)ヘキサンアミド(中間体)の合成
【化25】
6-ブロモヘキサン酸(1.29g、7mmol)を塩化オキサリル(約10mL)に懸濁し、周囲温度で2時間撹拌し、過剰な塩化オキサリルを減圧下で留去した。残差(酸塩化物)を乾燥ジクロロメタン(5mL)に溶解し、アルゴン下0℃で乾燥DCM(10mL)中の15b(1.3g、6mmol)およびピリジン(0.98ml、12mmol)の溶液に滴下して加えた。添加後、混合物を周囲温度に加温し、24時間撹拌した。DCM(50mL)を加え、溶液を、H
2O(50mL)、1M HCl水溶液(50mL)、飽和NaHCO
3水溶液(50mL)、および鹹水(50mL)で洗浄し、乾燥させ(Na
2SO
4)、溶媒を減圧下で蒸発させた。フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、4% MeOH/DCM)により残差を精製して、アミド21a(1.12g、47%)を白色固体として得た。
【0118】
実施例5.11-ブロモ-N-(2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-5-イル)ウンデカナミド(中間体)の合成
【化26】
11-ブロモウンデカン酸(1.74g、7mmol)を塩化オキサリル(約7mL)に懸濁し、周囲温度で2時間撹拌し、過剰な塩化オキサリルを減圧下で留去した。残差(酸塩化物)を乾燥ジクロロメタン(5mL)に溶解し、アルゴン下0℃で乾燥DCM(15mL)中の15b(1.3g、6mmol)およびピリジン(0.98ml、12mmol)の溶液に滴下して加えた。添加後、混合物を周囲温度に加温し、24時間撹拌した。DCM(50mL)を加え、溶液を、H
2O(50mL)、1M HCl水溶液(50mL)、飽和NaHCO
3水溶液(50mL)、および鹹水(50mL)で洗浄し、乾燥させ(Na
2SO
4)、溶媒を減圧下で蒸発させた。フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、4% MeOH/DCM)により残差を精製して、アミド21b(1.62g、58%)を白色固体として得た。
【0119】
実施例6.(6-((2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アミノ)-6-オキソヘキシル)トリフェニルホスホニウムブロミド(中間体)の合成
【化27】
乾燥CH
3CN(15mL)中の11a(429mg、1.09mmol)およびトリフェニルホスフィン(570mg、2.17mmol)の溶液を72時間還流した。混合物を真空で濃縮し、残差をフラッシュクロマトグラフィー(10% MeOH/DCM)により精製して、表題化合物22a(362mg、51%)を白色固体として得た。
【0120】
実施例7.(6-((2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アミノ)-6-オキソヘキシル)トリ-p-トリルホスホニウムブロミド(中間体)の合成
【化28】
乾燥CH
3CN(6mL)中の11a(146mg、0.37mmol)およびトリ(p-トリル)ホスフィン(225mg、0.74mmol)の溶液を72時間還流した。混合物を真空で濃縮し、残差をフラッシュクロマトグラフィー(7% MeOH/DCM)により精製して、表題化合物22b(256mg、99%)を白色固体として得た。
【0121】
実施例8.(11-((2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アミノ)-11-オキソウンデシル)トリフェニルホスホニウムブロミド(中間体)の合成
【化29】
乾燥CH
3CN(5mL)中の11b(400mg、0.86mmol)およびトリフェニルホスフィン(678mg、2.58mmol)の溶液を72時間還流した。混合物を真空で濃縮し、残差をフラッシュクロマトグラフィー(7% MeOH/DCM)により精製して、表題化合物22c(321mg、37%)を白色固体として得た。
【0122】
実施例9.(11-((2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アミノ)-11-オキソウンデシル)トリ-p-トリルホスホニウムブロミド(中間体)の合成
【化30】
乾燥CH
3CN(7mL)中の11b(400mg、0.86mmol)およびトリ(p-トリル)ホスフィン(785mg、2.58mmol)の溶液を72時間還流した。混合物を真空で濃縮し、残差をフラッシュクロマトグラフィー(5% MeOH/DCM)により精製して、表題化合物22d(636mg、96%)を白色固体として得た。
【0123】
実施例10.(11-((2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アミノ)-11-オキソウンデシル)トリシクロヘキシルホスホニウムブロミド(中間体)の合成
【化31】
乾燥CH
3CN(5mL)中の11b(400mg、0.86mmol)およびトリシクロヘキシルホスフィン(723mg、2.58mmol)の溶液を72時間還流した。混合物を真空で濃縮し、残差をフラッシュクロマトグラフィー(5% MeOH/DCM)により精製して、表題化合物22e(406mg、63%)を白色固体として得た。
【0124】
実施例11.(6-((2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-4-イル)アミノ)-6-オキソヘキシル)トリ-p-トリルホスホニウムブロミド(中間体)の合成
【化32】
乾燥CH
3CN(4mL)中の21a(350mg、0.89mmol)およびトリ(p-トリル)ホスフィン(539mg、1.77mmol)の溶液を72時間還流した。混合物を真空で濃縮し、残差をフラッシュクロマトグラフィー(5% MeOH/DCM)により精製して、表題化合物23a(448mg、72%)を白色固体として得た。
【0125】
実施例12.(6-((2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-5-イル)アミノ)-6-オキソヘキシル)トリシクロヘキシルホスホニウムブロミド(中間体)の合成
【化33】
乾燥CH
3CN(4mL)中の21a(350mg、0.89mmol)およびトリシクロヘキシルホスフィン(497mg、1.77mmol)の溶液を72時間還流した。混合物を真空で濃縮し、残差をフラッシュクロマトグラフィー(5% MeOH/DCM)により精製して、表題化合物23b(529mg、88%)を白色固体として得た。
【0126】
実施例13.(11-((2-(sec-ブチル)-1,3-ジオキソイソインドリン-5-イル)アミノ)-11-オキソウンデシル)トリ-p-トリルホスホニウムブロミド(中間体)の合成
【化34】
乾燥CH
3CN(5mL)中の21b(523mg、1.72mmol)およびトリ(p-トリル)ホスフィン(523mg、1.72mmol)の溶液を72時間還流した。混合物を真空で濃縮し、残差をフラッシュクロマトグラフィー(5% MeOH/DCM)により精製して、表題化合物23c(449mg、68%)を白色固体として得た。
【0127】
実施例14.それぞれのフタルイミド22a~eのヒドラジン分解からのミトコンドリア指向性5-N-アシル化ルミノール誘導体1a~eの合成
【化35】
ヒドラジン水和物(0.18mL、3.04mmol)を、無水EtOH(6mL)中の所与のフタルイミド(22a~e、0.3mmol)の撹拌溶液に加え、混合物を2時間還流した。続いて、溶媒を真空で除去し、残差をH
2O(10mL)に溶解し、1MHCl水溶液で酸性化し、DCM(3×30mL)で抽出した。合わせた有機層を鹹水で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。粗残差をフラッシュクロマトグラフィー(5~15% MeOH/DCM)により精製して、それぞれのフタルヒドラジド1a(60%)、1b(32%)、1c(49%)、1d(60%)または1e(30%)を白色固体として得た。
【0128】
実施例15.それぞれのフタルイミド23a~cのヒドラジン分解からのミトコンドリア指向性6-N-アシル化イソルミノール誘導体2a~cの合成
【化36】
ヒドラジン水和物(0.37mL、6.4mmol)を、無水EtOH(15mL)中の所与のフタルイミド(23a~c、0.64mmol)の撹拌溶液に加え、混合物を3時間還流した。続いて、溶媒を真空で除去し、残差をH
2O(20mL)に溶解し、1MHCl水溶液で酸性化し、DCM(3×50mL)で抽出した。合わせた有機層を鹹水で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。粗残差をフラッシュクロマトグラフィー(15% MeOH/DCM)により精製して、それぞれのフタルヒドラジド2a(78%)、2b(62%)または2c(37%)を白色固体として得た。
【0129】
実施例16.1,2-ビス-(2-ヨードエトキシ)エタン(中間体)の合成
【化37】
ステップ1:公開されている手順に従って、トリエチレングリコールジ-(p-トルエンスルホン酸塩)39を調製した(Bonger et al.,Bioorg.Med.Chem.15:4841-4856,2007を参照)。水酸化カリウム(3g、53.47mmol)をアルゴン下0℃で乾燥ジクロロメタン(25mL)中のトリエチレングリコール(1g、6.66mmol)および塩化トシル(2.54g、13.32)の撹拌溶液中に少しずつ加え、室温で一晩撹拌したままにした。次に、DCM(25mL)を加え、混合物を氷/水に注ぎ、相を分離し、水相をDCM(2×40mL)で洗浄し、合わせた有機層を水(40mL)で洗浄し、乾燥させた(Na
2SO
4)。溶媒の蒸発により、39(2.44g、80%)が白い細粉として残った。
【0130】
ステップ2:公開されている手順に従って、1,2-ビス-(2-ヨードエトキシ)エタン40を調製した(Lee et al.,Bull.Korean Chem.Soc.36:1654,2015を参照)。ヨウ化ナトリウム(9.5g、0.06mol)をアセトン(150mL)中のトシレート39(10g、0.02mmol)の溶液に加え、混合物を60℃で一晩撹拌した。残りの沈殿物を濾別し、濾液を濃縮乾燥させた。残差をDCMと水との間で分配し、水相をDCMで洗浄し、合わせた有機層を水で洗浄し、乾燥させ(Na2SO4)、濃縮乾燥すると、40(6g、78%)が淡黄色固体として残った。
【0131】
実施例17.ヨウ化ホスホニウム(中間体)の合成
【化38】
公開されている手順(Lin et al.,J.Biol.Chem.277:17048,2002)に従って、ジヨード化合物(5mmol)およびそれぞれのホスフィン(1mmol)(ジヨード-プロパン、-ヘキサン、-デカンまたは-1,2-ビス(エチレンオキシ)エタン40)をフラスコ中で混合し、100℃で加熱し、得られた溶融物を暗所で3時間撹拌した。冷却後、ジエチルエーテルを反応混合物に加え、沈殿物を濾過し、エーテルで洗浄した。生成物をジクロロメタンに再溶解し、エーテルの添加により再度沈殿させ、それぞれのヨウ化ホスホニウム34(87%)、35(45%)、36(83%)、37(60%)、38(85%)または41(87%)を褐色固体として得た。
【0132】
実施例18.ミトコンドリア指向性5-N-アルキル化ルミノール誘導体3a-fの合成
【化39】
N-メチルピロリドン(2.5mL)中のヨウ化ホスホニウム(34~38または41、2.26mmol)の溶液にルミノール(400mg、2.26mmol)を加え、得られた溶液を110℃で24時間撹拌した。室温まで冷却した後、水(5mL)を加え、そのようにして形成された沈殿物を濾過し、Na
2S
2O
3水溶液および水で洗浄した。残差をクロマトグラフィーにかけ(シリカゲル、DCM、EtOAc/DCM、MeOH/EtOAc/DCM、最大40%のMeOH/DCM)、純粋な3a(24%)、3b(15%)、3c(25%)、3d(21%)、3e(20%)または3f(3%)を得た。
【0133】
実施例19.一般構造56のミトコンドリア指向性ルミノール誘導体の合成
【化40】
一般構造56による化合物は、化合物3a~dの合成に類似した方法で、式XXの既知の化合物のアルキル化によって調製することができる(Griesbeck et al.,Chem.Eur.J.21:9975,2015を参照)。
【0134】
実施例20.一般構造57のミトコンドリア指向性ルミノール誘導体の合成
【化41】
一般構造57(R=Me)による化合物は、以下の反応スキームに従って調製することができる。
【化42】
【0135】
実施例21.ミトコンドリア指向性アクリジニウムエステル誘導体の合成
【化43】
アルキル鎖にホスホニウム部分を有するミトコンドリア指向性アクリジウムエステル誘導体A1~5は、化合物1~3を調製するために使用されるのと同様の方法を用いて合成することができる。アクリジニン酸ACAから出発して、市販の置換フェノールを使用してエステル化を行う。これに続いて、A1~5に直接(化合物3の合成のように)、またはACCを介して(化合物1および2の合成のように)アルキル化を行う。
【0136】
実施例22.ミトコンドリア指向性アクリジニウムエステル誘導体の合成
アルキル鎖にホスホニウム部分を有するミトコンドリア指向性アクリジウムエステル誘導体B1~2は、以下のスキームに従って合成することができる。
【化44】
【0137】
この合成では、ミトコンドリア指向性鎖がフェノール部分に結合し、メチル化によって最終的にアクリジニウム部分が形成される。
【0138】
実施例23.ルミノール-ローダミンコンジュゲートRLumの合成
【化45】
過剰なアジピン酸クロリドをフタルイミド15aと反応させ、水による後処理後に酸R1を得る。R1塩化物をBoc保護ピペラジンと反応させてR2を形成し、ヒドラジン分解およびそれに続く加水分解後、ルミノール誘導体R4を生じさせる。次に、これをローダミン110とカップリングして、所望のルミノール-ロジウムコンジュゲートRLumを得る。
【0139】
実施例24.アクリジニウム-ローダミンコンジュゲートRhACの合成
【化46】
アクリジニウムエステルC1は、フェノールとのカップリングおよびそれに続くメチル化によってACAから調製される。カルボン酸誘導体C2は、公開されているものと同様の手順でC1を加水分解することによって調製される(Natrajan et al.,RSC Adv.,4:21852-21863,2014を参照)。ローダミン誘導体C4は、Boc保護ピペラジンとのカップリングおよびそれに続く加水分解によってローダミン110から調製される。C2とC4をカップリングし、所望のアクリジニウム-ローダミンコンジュゲートRhACを得る。
【0140】
実施例25~34.
実施例25~34では、本発明によるミトコンドリア指向性コンジュゲートに言及するために以下のコードが使用される。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0141】
実施例25.ミトコンドリアマトリックスに類似した条件でのミトコンドリア指向性ルミノール誘導体の発光
ミトコンドリアマトリックス環境に見られるものを模倣する生体模倣条件で、ミトコンドリア指向性ルミノール誘導体の発光を調べた。ミトコンドリアマトリックスの高タンパク質含有量とヘムおよび金属含有酵素の存在量は、10%ウシ胎児血清(FBS)によりモデルで表した。
【0142】
pH7.9に設定されたトリス緩衝液(200μL、50mM)を、ABEL計測器(Knight Scientificから入手可能な携帯発光計)で使用するために試験管に加えた。次に、これに10%ウシ胎児血清(FBS)を補充した。調査対象の各化合物を100mMで加え、続いて尿素-H
2O
2(10mM)を加えた。発光の初期定常状態プロファイルが得られた後、2mMのCuSO
4をリアルタイムで注入した。その結果を
図2に提示する。
【0143】
実施例26.MCF7細胞におけるミトコンドリア指向性ルミノール誘導体の発光
MCF7細胞からの化学発光を、様々なルミノール誘導体の適用時に記録した。これを達成するために、3つのストラテジーを実行した:1)DMSOに溶解した化合物を、ルミノメーターの試験管のU字型の底にあるペレット化された細胞の単層(約500万)に適用した;2)化合物をプロピレングリコールに溶解し、上記と同じ細胞単層に適用した;および3)化合物をDMSOに溶解し、200μlのPBS中の細胞濃縮物(約500万細胞)に適用した。実験結果の特徴的な例を、DZ163(化合物3d)について
図3に提供する。
【0144】
細胞をT175フラスコ中で増殖させ、コンフルエンスまで増殖させた。次に、細胞をトリプシンにより剥離し、遠心分離して大きなペレットにし、12mlの培地(フェノールレッドを含まないRPMI1640)に再懸濁した。この懸濁液1mLを12本のフローサイトメトリーチューブの各々に導入し、これらを遠心分離して、細胞がU字型の底に膜を形成するようにした。チューブをABEL計測器に入れて走査した。次に、ルミノール部分(プロピレングリコール中100μM)を加え、最後に、必要に応じて、DMSOをリアルタイムで注入した。
【0145】
全ての場合において、細胞層の発光は、ルミノール誘導体の溶媒として、またはそれに続く添加剤として、DMSOを導入することによってのみ誘導した。過酸化水素等の追加の酸化剤、または金属等の任意の触媒は使用しなかった。純粋なDMSOは最終的に細胞を死滅させるが、発光の記録は瞬時(注入後数秒)であったことに留意するべきである。しかしながら、細胞死が起こった場合でも、DMSOはミトコンドリア指向性化合物の発光を促進した。おそらくは体積増加に起因して、分散した細胞において発光のレベルが実質的に減少した。
【0146】
実施例27.ルミノール発光と様々な光増感剤との間のエネルギー移動
発光ルミノールから様々な光増感剤へのエネルギー移動の実現可能性を調べた。化学発光の発光プロファイルは、Synapse CCDヘッドを備えたHoriba iHR320 f/4.1イメージング分光計を使用して記録した。ルミノール(100μM)の発光を、塩基(KOHまたはカリウムtert-ブトキシドのいずれか、100mM)の添加によりDMSO中で励起し、光増感剤を加えた。水に溶解したTPPS4の場合、ルミノール発光は尿素-H
2O
2(10mM)および触媒(2mMのCuSO
4)の添加により励起した。一重項酸素の記録は、Hamamatsu 5509-73 NIR PMT検出器を使用することで容易になった。カットオンが約1000nmのロングパスフィルターと、一重項酸素リン光の中心波長である1270nmを中心とするバンドパスフィルターの2つのフィルターを検出器の前に配置した。その結果を
図4および
図5に提示する。
【0147】
図4は、ルミノール発光とさまざまな光増感剤との間のエネルギー移動を示している。A)アルカリ性DMSO(KOH)中のルミノールの発光。B)ヒポクレリンA(HYPA)の添加、特徴的なHYPA蛍光が見られる(約600nm)。C)HYPAの代わりにヒペリシン(HYP)を添加、600と650に特徴的なHYP蛍光の二重ピークが見られる。D)ローズベンガル(RB)の存在下でCuSO
4および尿素過酸化物を添加した炭酸水溶液の緩衝液(pH10.3)中のルミノール、E)で532nmレーザー励起によって確認されるようにRBの特徴的な蛍光が明らかである。F)D)と同様に炭酸緩衝液中のルミノール系であるが、5-ALA由来PpIXとスペクトル的に類似したポルフィリンTPPS4を添加、TPPS4の特徴的な蛍光は存在しない。水系でのルミノール発光は、490nm付近のメインピークに加えて、400nm付近にこぶを示している。TPPS4の存在下(F)では、このこぶは著しく低下するが、このことは、490nmのメインピークを低下させると思われる他の光増感剤とは対照的に、TPPS4がこの領域で強く吸収することを示している。
【0148】
図5では、光増感剤エリスロシンBがカリウムtert.ブトキシドでアルカリ化されたDMSO中のルミノールに加えられる。A)DMSO-tert-ブトキシド中のルミノールのスペクトル。B)エリスロシンBは、特に約500付近で非常に強く吸収し、580nm付近で非常に強い蛍光を示す。C)DMSO-ルミノール溶液へのtert.ブトキシドの添加は、強力かつ長寿命のルミノール発光を引き起こし、また1270nm付近の発光は、この発光がヒスチジンによって消光されたため、一重項酸素の存在を示唆している。
【0149】
これらの実験は、多くの光増感剤がルミノール発光からエネルギーを受け取ることができることを示している。
【0150】
実施例28.ルミノール誘導体およびルミノールの顕微鏡写真
ルミノール誘導体の細胞内局在を調べた。ガラス底のペトリ皿に細胞を接種し、一晩増殖させた。細胞をルミノール部分で4時間処理してから、イメージングの15分前に、MitoTracker Green FMを加えた(100nm)。細胞をPBSで洗浄し、Zeiss LSM710共焦点顕微鏡にマウントした。ルミノールの蛍光を405nmで励起し、MitoTracker Green FMの蛍光を488nmで励起した。ルミノールの発光は420~490nm(赤色チャネル)で収集し、MitoTracker Green FMの蛍光はFITCチャネル(緑色チャネル)で収集した。続いて、緑色チャネルと赤色チャネルの画像をPhotoshopで重ね合わせてオーバーレイ画像を得た。これらの画像では、各場合において、黄色は、ルミノール誘導体とMitoTracker Green FM(したがって細胞ミトコンドリア)との共局在を示していた。
【0151】
図6の代表的な顕微鏡写真は、ミトコンドリア指向性化合物の細胞内局在と遊離ルミノールの細胞内局在の概要を示している。3つの列(左)で、2つの誘導体、すなわちDZ160およびAP47のミトコンドリア局在が、乳房腺癌細胞株MCF7および神経膠芽腫細胞株U87の2つの異なる細胞株において示されている。この3つの列の各列の3つの顕微鏡写真は、誘導体の局在、ミトコンドリアマーカーMitoTracker Greenの局在、およびマージ画像におけるこれら2つの局在のオーバーレイを示している。ルミノールの蛍光は左の列に示され、MitoTracker Greenの蛍光は中央の列に示される。それらのオーバーレイは3番目の列に示されている。右側の列(4列目)では、遊離ルミノールの細胞質ゾル局在が上の画像(縁取り付き)に示されているが、2つの例では、AP47およびDZ160の局在は、蛍光スピルオーバー、すなわち、MitoTrackerとルミノール誘導体チャネルとの間のクロストークを排除するために、MitoTracker Greenとともにインキュベートされなかった細胞に示されている。これは、ルミノール誘導体(ミトコンドリア)と遊離ルミノール(細胞質ゾル)の異なる局在を裏付けるものである。
【0152】
実施例29.U87およびMCF7細胞に対する5-ALA/ヒポクレリンAおよびHD92(AP47)
ルミノール誘導体の効率を調べた。最初に試験を行った誘導体はHD92(本明細書では「AP47」とも称される)であった。U87細胞を96ウェルプレートに接種した。次に、細胞を以下の群に分割した(群当たり少なくとも6つの並行試験):対照(培地のみ)、ALA対照(2mM)、HD92対照(500μM)、およびLUMIBLAST群(2mM 5-ALAおよび500μM HD92)。それに対応して、MCF7細胞を96ウェルプレートに接種し、一晩増殖させた。次に、細胞を以下の群に分割した(群当たり少なくとも6つの並行試験):対照(培地のみ)、ヒポクレリンA対照(HYPA 7μM)、HD92対照(500μM)、およびLUMIBLAST群(7μM HYPAおよび500μM HD92)。HYPAを用いた実験の場合、10μM FeSO4を用いておよび用いずにこれら4つの群を培地中でインキュベートした。これらのそれぞれの薬物ストラテジーを用いて細胞を一晩(約20時間)インキュベートした後、標準的なMTTアッセイを用いて細胞群を生存率について試験した。端的に述べると、全ての細胞群を0.5mg/mLのMTTとともに3時間インキュベートした。続いて、MTT培地をDMSO(100μL)と交換して、ホルマザンを可溶化した。Tecan Spark 10Mプレートリーダーを使用して、562nmでの吸光度についてウェルを読み取った。細胞毒性は、細胞を含まないウェルからブランク値を差し引いた後の対照(培地のみ)の吸光度のパーセンテージとして決定した。
【0153】
その結果を
図7に提示する。得られたデータから、これらの結果は非常に高濃度のHD92で得られたものであり、依然として準毒性であるが、化学的毒性の限界に非常に近いことが分かる。また、5-ALAは、LUMIBLAST効果をもたらす際に光増感剤としてHYPAよりも効率的ではないが、金属触媒、本発明の場合は低濃度のFeSO
4の存在下で、HYPA効果が達成されたことが分かる。このデータはまた、組み合わせた実験群の生存値がHD92(LTPP1)対照に対して示されているため、組み合わせた細胞毒性効果が、極めて重要であり、光増感剤(PS)とHD92の相乗効果の結果であることも示している。
【0154】
実施例30.MCF7およびU87細胞におけるHYPA、DZ168、およびCuSO4
MCF7およびU87細胞を96ウェルプレートに接種した。次に、細胞を以下の群に分割した(群当たり少なくとも6つの並行試験):対照(培地のみ)、HYPA対照(3μM)、DZ168対照(5、10、20、および30μM)、およびLUMIBLASTの組み合わせ(3μM HYPA+DZ168 5~30μM)。これらの細胞群のインキュベーションは、100μMのCuSO4を含む培地中でも繰り返した。これらのそれぞれの薬物ストラテジーを用いて細胞を一晩(約20時間)インキュベートした後、MTTアッセイを用いて細胞群を生存率について試験した。
【0155】
その結果を
図8に提示する。HYPAを光増感剤として使用した場合、MCF7細胞はHYPA+銅群で毒性の増強を示したが、U87細胞群は影響を受けなかった。
【0156】
実施例31.MCF7およびU87細胞におけるHYPA、DZ167、およびCuSO4
MCF7およびU87細胞を96ウェルプレートに接種した。次に、細胞を以下の群に分割した(群当たり少なくとも6つの並行試験):対照(培地のみ)、HYPA対照(5μM)、DZ167対照(25~200μM)、およびLUMIBLASTの組み合わせ(5μM HYPA+DZ167 25~200μM)。これらのインキュベーションは、50μMのCuS4を含む培地中で行った。これらのそれぞれの薬物ストラテジーを用いて細胞を一晩(約20時間)インキュベートした後、MTTアッセイを用いて細胞群を生存率について試験した。
【0157】
その結果を
図9に提示する。200μMの濃度のDZ167、5μMのHYPA、および50μMのCuSO
4で、U87細胞に相乗効果が見られる。
【0158】
実施例32.T98G多形神経膠芽腫細胞におけるセルコスポリンおよびエリスロマイシンBの細胞内局在
【0159】
セルコスポリンの細胞内局在とともに、エリスロシンBの細胞内局在を調べた。ガラス底のペトリ皿に細胞を接種し、一晩増殖させた。細胞をエリスロシンB(4μM)およびセルコスポリン(3μM)で4時間処理してから、イメージングの15分前に、MitoTracker Deep Red FMを加えた(100nm)。細胞をPBSで洗浄し、Zeiss LSM710共焦点顕微鏡にマウントした。セルコスポリンおよびエリスロシンBの蛍光を488nmで励起し、MitoTracker Deep Red FMの蛍光を633nmで励起した。セルコスポリンおよびエリスロシンBの発光は550nm超(緑色チャネル)で収集し、MitoTracker Deep Red FMの蛍光は640nm超(赤色チャネル)で収集した。続いて、緑色チャネルと赤色チャネルの画像をPhotoshopで重ね合わせてオーバーレイ画像を得た。これらの画像では、各場合において、黄色は、光増感剤とMitoTracker Green FM(したがって細胞ミトコンドリア)との共局在を示している。
図10の顕微鏡写真から、セルコスポリンおよびエリスロマイシンBは細胞ミトコンドリアと部分的に共局在しているため、それらをLUMIBLASTに使用できることが分かる。
【0160】
実施例33.U87GBM細胞におけるセルコスポリンおよびDZ203/DZ196
セルコスポリンの細胞内局在とともに、合成された誘導体DZ203(短いアルキルリンカー)およびDZ196(オリゴPEGリンカー)の細胞内局在を調べた。U87細胞を96ウェルプレートに接種した。次に、細胞を以下の群に分割した(群当たり少なくとも6つの並行試験):対照(培地のみ)、セルコスポリン対照(3μM)、DZ203対照(200μM)、DZ196対照(500μM)、およびLUMIBLASTの組み合わせ(3μMセルコスポリン+DZ203 200μMまたは3μMセルコスポリン+DZ196 500μM)。これらのインキュベーションは、100μMのCuSO
4を含むおよび含まない培地中で行った。これらのそれぞれの薬物ストラテジーを用いて細胞を一晩(約20時間)インキュベートした後、MTTアッセイを用いて細胞群を生存率について試験した。その結果は
図11に提示され、Cu(150μM)の存在下でDZ203(200μM)とともに24時間インキュベートしたセルコスポリンの非常に大きな効果を示している。DZ196(500μM)によるより小さな効果は、Cuの触媒効果なしで達成された。
【0161】
実施例33.DZ167および5-ALAを用いたMCF7細胞の代謝分析
ルミノール誘導体および光増感剤(ここではそれぞれAP47および5-ALAによって例示される)を投与した時の無傷の細胞の呼吸および解糖を調べるために代謝分析を行った。MCF7細胞をSeahorse XFe96代謝分析装置の96ウェルプレートに接種し、一晩放置してインキュベートした。実験の1時間前に、CO
2を含まない37℃のインキュベーターで、FBSを含まない非緩衝培地で細胞を1時間インキュベートした。次に、細胞を、呼吸活動に対応するそれらの酸素消費速度(OCR)および細胞の解糖活性に対応する細胞外酸性化速度(ECAR)について分析した。次に、XFe96代謝分析装置を使用して、
図12のグラフに示されるように、4つの条件(連続注入)で測定を行った。これらの注入は、ルミノールミトコンドリア指向性誘導体AP47(200μM)および5-ALA(1mM)を含んでおり、細胞代謝に対するそれらの効果およびそれらの組み合わせの効果を調べた。また、オリゴマイシン(1μM)、FCCP(1μM)、およびアンチマイシンAとロテノンの組み合わせ(それぞれ1μM)を使用して、細胞呼吸を調節した。オリゴマイシンは、ATP合成を阻害し、ATP生成に必要な呼吸量を明らかにし、FCCPは、ミトコンドリアのプロトン勾配を崩壊させ、最大電子伝達、したがって最大酸素消費を強制する。最後に、ロテノンとアンチマイシンAの混合物は、ミトコンドリア複合体IIIへの電子伝達を完全に阻害し、全ての呼吸活動を停止する。2-デオキシグルコース(2DG)も、細胞の解糖を完全に阻害するため、場合によっては、AP47および5-ALAが細胞の解糖に及ぼす影響を調べるためのツールとして細胞に注入した。
【0162】
実施例34.MDA-MB-231乳癌細胞における5-ALAおよびDZ203
MDA-MB-231細胞を96ウェルプレートに接種した。次に、細胞を以下の群に分割した(群当たり少なくとも6つの並行試験):対照(培地のみ)、5-ALA対照(1.2mM)、DZ203対照(400μM)、およびLUMIBLASTの組み合わせ(1.2mM 5-ALA+DZ203 400μM)。これらのインキュベーションは、触媒(100μMのCuSO
4)の存在下および非存在下で、培地中で行った。これらのそれぞれの薬物ストラテジーを用いて細胞を一晩(約20時間)インキュベートした後、MTTアッセイを用いて細胞群を生存率について試験した。その結果は
図13に提示され、触媒としてのCuの存在下における実質的な相乗効果を示している。