(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】アルカリ金属イオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240305BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20240305BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240305BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/46
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2019029932
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2018037704
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】麻田 裕矢
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 諒
(72)【発明者】
【氏名】掛谷 忠司
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087420(JP,A)
【文献】特開2016-192380(JP,A)
【文献】特開2013-222530(JP,A)
【文献】特開2014-086218(JP,A)
【文献】特開2016-066405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 4/46
H01M 4/36
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを含む負極活物質粒子を有する負極と、
硫化物固体電解質と
を備えるアルカリ金属イオン電池。
【請求項2】
マグネシウムを含む負極と、
硫化物固体電解質と
を備えるアルカリ金属イオン電池(但し、正極と、固体電解質と、負極とを有する全固体電池において、上記負極は、負極部材を備え、上記負極部材は、ステンレスメッシュのの表面にMg層が被覆してなり、放電時に上記負極部材表面においてLiのイオン化反応が進行し、充電時に上記負極部材表面においてLiの析出反応が進行することを特徴とする全固体電池は除く。)。
【請求項3】
負極合剤を有する負極と、
硫化物固体電解質と
を備え、
上記負極合剤は
、マグネシウムを含む負極活物質と、固体電解質
とを含有す
るアルカリ金属イオン電池。
【請求項4】
負極合剤を有する負極と、
硫化物固体電解質と
を備え、
上記負極合剤は
、マグネシウムを含む負極活物質と、導電剤、バインダー及び/又はフィラー
とを
含有するアルカリ金属イオン電池。
【請求項5】
上記負極が、A
XMg
YM
Z(Aは、アルカリ金属元素である。Mは、Mgと合金を形成可能なA以外の金属元素である。1>X≧0、1≧Y>0、0.3≧Z≧0、X+Y+Z=1)を含む請求項1
又は請求項2のアルカリ金属イオン電池。
【請求項6】
上記負極が、表面上にMgSを含有する被膜を備える請求項1
又は請求項2のアルカリ金属イオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属イオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン非水電解質二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、電気的に隔離された一対の電極を有する電極体、及び電極間に介在する非水電解質を備え、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。
【0003】
近年、理論容量が大きく体積膨張率が小さいマグネシウムが着目されている。従来技術においては、マグネシウム等を含む金属複合酸化物からなる負極活物質を用いた高容量でエネルギー密度が高いリチウムイオン二次電池が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハイブリッド電気自動車(以下、「HEV」ともいう。)やハイブリッド式の産業機械(重機、建機等)に用いられる非水電解質二次電池等の蓄電素子においては、放電容量のさらなる向上が望まれる。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、放電容量が良好なアルカリ金属イオン電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
非水電解質リチウムイオン電池における金属マグネシウム負極は、非水電解質としてエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を1:2の体積比で混合した溶媒にリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を1mol/dm3の濃度で溶解させた非水電解液を用いた場合には、Li+イオンと可逆的な反応を示さず、あらかじめ金属マグネシウムが金属Liと合金化されたLixMg(x≧0.6)合金を負極に用いることでLi+イオンと可逆的な反応が起こることが報告されている(Journal of Power Sources,2001,Vol92,70-80)。
【0008】
そこで、本発明者らは、非水電解液由来の析出物による被膜が金属マグネシウム負極の表面に形成されることにより、金属マグネシウム負極とLi+イオンとの反応が阻害されており、この非水電解液由来の析出物を抑制することで金属マグネシウム負極とLi+イオンとの反応が阻害されることがなくなり、放電容量を向上できるのではないかと考え、本発明に至った。
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、マグネシウムを含む負極と、硫化物固体電解質とを備えるアルカリ金属イオン電池である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、放電容量が良好なアルカリ金属イオン電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態におけるアルカリ金属イオン電池を示す模式的断面図である。
【
図2】実施例の負極のX線回析(XRD)スペクトルである。
【
図3】実施例及び比較例の充放電サイクル性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様に係るアルカリ金属イオン電池は、マグネシウムを含む負極と、硫化物固体電解質とを備えるアルカリ金属イオン電池である。
【0013】
当該アルカリ金属イオン電池が、マグネシウムを含む負極と、硫化物固体電解質とを備えることで、放電容量及び充放電効率を向上できる。この理由については定かでは無いが、以下の理由が推測される。上述したように、金属マグネシウム負極を備える一般的な非水電解液リチウムイオン二次電池の場合、金属マグネシウム負極とLi+イオンとの反応が起こりにくいことが知られている。これは、初回充電時に非水電解液由来の析出物による被膜が金属マグネシウム負極の表面に形成されることにより、金属マグネシウム負極とLi+イオンとの反応が阻害されることによると考えられる。当該アルカリ金属イオン電池は、マグネシウムを含む負極と、硫化物固体電解質とを備えることで、マグネシウムを含む負極の表面に非水電解液由来の析出物による被膜が形成されることがない。その結果、金属マグネシウム負極とLi+イオンとの間で可逆的な反応が抑制されず、放電容量及び充放電効率を向上できると推察される。
【0014】
上記負極が、AXMgYMZ(Aは、アルカリ金属元素である。Mは、Mgと合金を形成可能なA以外の金属元素である。1>X≧0、1≧Y>0、0.3≧Z≧0、X+Y+Z=1)を含むことが好ましい。上記負極が、上記AXMgYMZを含むことで、放電容量及び充放電効率を高めることができる。
【0015】
上記負極が、表面上にMgSを含有する被膜を備えることが好ましい。上記被膜は、硫化物固体電解質中の硫黄と負極に含まれるマグネシウムとの反応によるものである。金属マグネシウムは、還元力が強いことから負極と硫化物固体電解質との界面にMgSが形成されやすいと推察される。このMgSは、他の固体電解質との界面に形成されるMgO等と比較してバンドギャップが狭く、電気伝導度に優れていると考えられることから、界面抵抗の上昇が抑制され、金属マグネシウムの絶縁化が軽減されて放電容量及び充放電効率をより高めることができると推察される。
【0016】
上記負極が、炭素材料を含むことが好ましい。
【0017】
上記負極が、上記炭素材料を含むことで、放電容量及び充放電効率を高めることができる。この理由については定かでは無いが、以下の理由が推測される。炭素材料とLi+イオンとの反応(炭素材料へのLi挿入)電位は、金属マグネシウムとLi+イオンとの反応電位よりも貴であるために、当該アルカリ金属イオン電池における充電反応では、マグネシウムを含む負極において炭素材料へのLi挿入が生じた後に、マグネシウムを含む負極活物質とLi+イオンとが反応すると考えられる。ここで、硫化物固体電解質-マグネシウムを含む負極活物質間でのLi移動に伴う抵抗よりも、硫化物固体電解質-炭素材料間、及び炭素材料-マグネシウムを含む負極活物質間でのLi移動に伴う抵抗の方が小さいと考えられる。その結果、マグネシウムを含む負極とLi+イオンとの反応抵抗が小さくなり、放電容量及び充放電効率を向上できると推察される。
【0018】
以下、本発明に係るアルカリ金属イオン電池の実施形態について詳説する。
【0019】
<アルカリ金属イオン電池>
図1は、本発明の一実施形態におけるアルカリ金属イオン電池10を示す模式的断面図である。二次電池であるアルカリ金属イオン電池10は、少なくとも負極層1と、正極層2とが固体電解質層3を介して配置される。負極層1は、負極基材層4及び負極合剤層5を有し、負極基材層4が負極層1の最外層となる。正極層2は、正極基材層7及び正極合剤層6を有し、正極基材層7が正極層2の最外層となる。
図1に示すアルカリ金属イオン電池10においては、正極基材層7上に、正極合剤層6、固体電解質層3、負極合剤層5及び負極基材層4がこの順で積層されている。
【0020】
<負極層>
負極層1は、負極基材層4と、この負極基材層4の表面に積層される負極合剤層5とを備える。また、負極層1は負極基材層4と負極合剤層5との間に図示しない中間層を有していてもよい。以下、負極層1の各構成要素について詳細に説明する。
【0021】
[負極基材層]
負極基材層4は導電性を有する層である。負極基材層4の材質としては、導電体であればどのようなものでもよく、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン、金、銀、鉄、白金、クロム、スズ、インジウム及びこれらの一種以上を含む合金並びにステンレス合金からなる群から選択される一種以上の金属、炭素、導電性高分子、導電性ガラス等を挙げることができる。
【0022】
負極基材層4の平均厚さの下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましく、8μmがさらに好ましい。一方、負極基材層4の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。負極基材層4の平均厚さが前記下限以上とすることで、負極基材層4の強度を十分に高くできるため、負極層1を良好に形成できる。負極基材層4の平均厚さを前記上限以下とすることで、他の構成要素の体積を十分に確保できる。
【0023】
[負極合剤層]
負極合剤層5は、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成することができる。負極合剤は、マグネシウムを含む負極活物質を含有する。負極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダー、フィラー等の任意成分を含む。
【0024】
(負極活物質)
マグネシウムを含む負極活物質は、マグネシウムを含み、アルカリ金属イオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。負極活物質としては、AXMgYMZを含むことが好ましい。ここで、Aは、アルカリ金属元素である。Mは、Mgと合金を形成可能なA以外の金属元素である。また、1>X≧0、1≧Y>0、0.3≧Z≧0かつX+Y+Z=1である。
【0025】
Aで表されるアルカリ金属元素としては、例えばLi、Na、K、Rb、Cs等が挙げられる。これらの中では、エネルギー密度が高く、容易に高電圧を得られる観点からLiが好ましい。上記Aは、最初から負極に含まれる場合と充電時において吸蔵される場合がある。負極活物質に、正極活物質から放出されるアルカリ金属イオンA1と異なるアルカリ金属元素A2が含まれる場合、A2は、A1X1MgYからA1が脱離する反応電位よりも卑な電位で、A2X2MgYから脱離する元素であることが好ましく、A2X2MgYから脱離しない元素であることも好ましい。
【0026】
AがLiの場合、X/(X+Y)≧0.2が好ましい。LiXMgYの固相内リチウムイオン拡散は、LiXMgYが体心立方構造(β相)(X/(X+Y)≧0.3)のときに比べて、LiXMgYが六方細密構造(α相)(X/(X+Y)≦0.2)のときに低くなるためである。なお、充放電前にはLiを含まない金属マグネシウムを負極活物質として用いた場合であっても、充放電後にはLiXMgY(X/(X+Y)≧0.2)となる場合がある。
【0027】
LiXMgYにおいてX/(X+Y)≧0.2とする方法は特に限定されないが、例えば、負極合剤層上に金属リチウムを成膜してもよく、当該アルカリ金属イオン電池の製造工程において、負極とリチウムイオンとを反応させる充電工程を実施してもよい。
【0028】
Mで表されるMgと合金を形成可能なA以外の金属元素としては、例えばAl、Zn、Ag、Ni、Cu、Th等が挙げられる。これらの中では、質量エネルギー密度の観点からAlが好ましい。
【0029】
具体的なマグネシウムを含む負極活物質としては、例えば金属マグネシウム、Li0.2Mg0.8、Li0.14Mg0.56Al0.3等が挙げられる。これらの中では、金属マグネシウムが好ましい。
【0030】
マグネシウムを含む負極活物質の平均粒径は、例えば、0.01μm以上200μm以下としてもよい。これらの中でも、平均粒径の上限は150μmが好ましく、100μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。平均粒径の下限は、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。
マグネシウムを含む負極活物質の平均粒径を前記のようにすることで、放電容量及び充放電効率を向上できる。
【0031】
本明細書において、「平均粒径」とは、特に断りがない場合JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0032】
負極合剤は、マグネシウムを含む負極活物質に加えて、炭素材料から成る負極活物質を含むことが好ましい。
【0033】
炭素材料から成る負極活物質としては、例えば、黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等が挙げられる。これらの中でも黒鉛が好ましい。
【0034】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0035】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素の結晶子サイズLcは、通常、0.80~2.0nmである。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチ由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0036】
ここで、「放電状態」とは、炭素材料から成る負極活物質を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、炭素材料から成る負極活物質から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0037】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。難黒鉛化性炭素は、通常、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し難い性質を有する。
【0038】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。易黒鉛化性炭素は、通常、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し易い性質を有する。
【0039】
負極合剤における炭素材料から成る負極活物質の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、3質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましい。一方、炭素材料から成る負極活物質の含有量の上限としては、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましく、30質量%がさらに好ましい。なお、ここで言う「炭素材料から成る負極活物質」とは、炭素材料であって、充放電に伴いリチウムイオンを吸蔵放出する材料のことを意味する。したがって、炭素材料から成る負極活物質は、後述する導電剤やフィラーとしての機能を有してもよい。
【0040】
負極合剤における負極活物質の含有量の下限としては、10質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。一方、負極活物質の含有量の上限としては、60質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、90質量%がよりさらに好ましく、95質量%であってもよい。負極活物質の含有量を前記範囲とすることで、当該アルカリ金属イオン電池の電気容量を高めることができる。
【0041】
(その他の任意の成分)
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックスなどが挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。上記負極活物質層における導電剤の含有量としては、例えば0.5質量%以上30質量%以下とすることができる。なお、上述した導電剤のうち、充放電に伴ってリチウムイオンを吸蔵放出する材料は、負極活物質としても作用する。
【0042】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアクリル酸等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。
【0043】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素などが挙げられる。なお、上述したフィラーのうち、充放電に伴ってリチウムイオンを吸蔵放出する材料は、負極活物質としても作用する。
【0044】
負極合剤層5の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、60μmがより好ましい。一方、負極合剤層5の平均厚さの上限としては、1000μmが好ましく、500μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。負極合剤層5の平均厚さが上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有するアルカリ金属イオン電池を得ることができる。一方、負極合剤層5の平均厚さを上記上限以下とすることで、高率放電性能に優れ、活物質利用率の高い負極を備えるアルカリ金属イオン電池を得ることができる。
【0045】
上記負極が、表面上にMgSを含有する被膜を備えることが好ましい。上記被膜は、硫化物固体電解質中の硫黄と負極に含まれるマグネシウムとの反応によるものである。金属マグネシウムは、還元力が強いことから負極と硫化物固体電解質との界面にMgSが形成されやすいと推察される。このMgSは、他の固体電解質との界面に形成されるMgO等と比較してバンドギャップが狭く、電気伝導度に優れていると考えられることから、界面抵抗の上昇が抑制され、金属マグネシウムの絶縁化が軽減されて放電容量及び充放電効率をより高めることができると推察される。
【0046】
[中間層]
上記中間層は、負極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材と負極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0047】
<正極層>
正極層2は、正極基材層7と、この正極基材層7の表面に積層される正極合剤層6とを備える。また、正極層2は、負極層1と同様、正極基材層7と正極合剤層6との間に中間層を有していてもよい。この中間層は負極層1の中間層と同様の構成とすることができる。
【0048】
[正極基材層]
正極基材層7は、負極基材層4と同様の構成とすることができる。正極基材層7の材質としては、導電体であればどのようなものでもよく、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、タンタル、ニオブ、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン、金、銀、鉄、白金、クロム、スズ、インジウム及びこれらの一種以上を含む合金並びにステンレス合金からなる群から選択される一種以上の金属を挙げることができる。
【0049】
正極基材層7の平均厚さの下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、正極基材層7の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましく、50μmがさらに好ましい。正極基材層7の平均厚さが上記下限以上とすることで、正極基材層7の強度を十分に高くできるため、正極層2を良好に形成できる。一方、正極基材層7の平均厚さを上記上限以下とすることで、他の構成要素の体積を十分に確保できる。
【0050】
[正極合剤層]
正極合剤層6は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成することができる。また、正極合剤層6を形成する正極合剤は、負極合剤と同様、必要に応じて導電剤、バインダー、フィラー等の任意成分を含む。
【0051】
正極合剤層6に含まれる正極活物質としては、アルカリ金属イオン電池に通常用いられる公知のものが使用できる。上記正極活物質としては、例えばLixMOy(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα-NaFeO2型結晶構造を有するLixCoO2,LixNiO2,LixMnO3,LixNiαCo(1-α)O2,LixNiαMnβCo(1-α-β)O2等、スピネル型結晶構造を有するLixMn2O4,LixNiαMn(2-α)O4等)、LiwMex(AOy)z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Aは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO4,LiMnPO4,LiNiPO4,LiCoPO4,Li3V2(PO4)3,Li2MnSiO4,Li2CoPO4F等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。また、正極活物質としては、Li-Al、Li-In、Li-Sn、Li-Pb、Li-Bi、Li-Ga、Li-Sr、Li-Si、Li-Zn、Li-Cd、Li-Ca、Li-Ba等のリチウム合金、NaCrO2、NaNi1/2Mn1/2O2等のナトリウム遷移金属酸化物、KCoO2等のカリウム遷移金属酸化物、KVPO4、KVOPO4等のポリアニオン化合物などの反応電位が負極活物質よりも貴な材料を用いることができる。正極活物質層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
正極合剤層6の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、60μmがより好ましい。一方、正極合剤層6の平均厚さの上限としては、1000μmが好ましく、500μmがより好ましく、200μmがさらに好ましい。正極合剤層6の平均厚さが上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有するアルカリ金属イオン電池を得ることができる。一方、正極合剤層6の平均厚さを上記上限以下とすることで、高率放電性能に優れ、活物質利用率の高い負極を備えるアルカリ金属イオン電池を得ることができる。
【0053】
<固体電解質層>
固体電解質層3は、硫化物固体電解質を含有する。固体電解質層3が硫化物固体電解質を含有することで、イオン伝導度が良好であり、界面形成が容易である。硫化物固体電解質は、非晶質、ガラス、結晶等の構造を有する。また、硫化物固体電解質に、Li3PO4やハロゲン、ハロゲン化合物等を添加してもよい。
【0054】
硫化物固体電解質としては、Liイオン伝導性が高いことが好ましく、例えばLi2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-LiBr、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-P2S5-Li3N、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmS2n(ただし、m、nは正の数、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである。)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LixMOy(ただし、x、yは正の数、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである。)、Li10GeP2S12等を挙げることができる。これらの中でも、リチウムイオン伝導性が良好な観点から、Li2S-P2S5が好ましく、xLi2S-(100-x)P2S5(70≦x≦80)が好ましい。
【0055】
硫化物固体電解質の電気伝導度としては1×10-9Ω・cm以下が好ましい。固体電解質の体積抵抗率が上記範囲であることで、固体電解質層3の機能として必要な絶縁性を担保できる。上記硫化物固体電解質の電気伝導度は、JIS-K-0130(2008年)に準拠して測定される。
【0056】
負極合剤における負極活物質と固体電解質との含有割合としては、例えば質量比で負極活物質:固体電解質=95:5~10:90の範囲内であることが好ましく、90:10~15:85の範囲内であることがより好ましい。負極活物質と固体電解質との含有割合が上記範囲であることで、良好なイオン伝導性が確保できる。
【0057】
固体電解質層3の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、3μmがより好ましい。一方、固体電解質層3の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、20μmがより好ましい。固体電解質層3の平均厚さが上記下限以上とすることで、正極と負極とを確実に絶縁することが可能となる。一方、固体電解質層3の平均厚さを上記上限以下とすることで、アルカリ金属イオン電池のエネルギー密度を高めることが可能となる。
【0058】
<アルカリ金属イオン電池の製造方法>
当該アルカリ金属イオン電池の製造方法は、負極合剤作製工程と、固体電解質作製工程と、正極合剤作製工程と、負極層、固体電解質層及び正極層を積層する積層工程とを主に備える。
【0059】
[負極合剤作製工程]
本工程では、負極層を形成するための負極合剤が作製される。負極合剤の作製方法としては、特に制限はなく、例えばメカニカルミリング法等を用いて負極活物質を作製することを備える。
【0060】
[固体電解質作製工程]
本工程では、固体電解質層を形成するための上記固体電解質が作製される。本工程では、固体電解質の所定の材料をメカニカルミリング法により処理して得ることができる。また、溶融急冷法により固体電解質の所定の材料を溶融温度以上に加熱して所定の比率で両者を溶融混合し、急冷することにより固体電解質を作製してもよい。さらに、その他の固体電解質の合成方法としては、例えば真空封入して焼成する固相法、溶解析出などの液相法、気相法(PLD)、メカニカルミリング後にアルゴン雰囲気下で焼成することなどが挙げられる。
【0061】
[正極合剤作製工程]
本工程では、正極層を形成するための正極合剤が作製される。正極合剤の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極活物質の圧縮成形、正極合剤の所定の材料のメカニカルミリング処理、正極活物質のターゲット材料を用いたスパッタリング等が挙げられる。
【0062】
[積層工程]
本工程は、負極層、固体電解質層及び正極層が積層される。本工程では、負極層、固体電解質層、及び正極層を順次形成してもよいし、この逆であってもよく、各層の形成の順序は特に問わない。
【0063】
また、負極合剤、固体電解質及び正極合剤を一度に加圧成型することにより、負極層、固体電解質層及び正極層が積層されてもよい。また、正極層、負極層、又はこれらの層を予め成形し、固体電解質層と加圧成型して積層してもよい。
【0064】
[その他の実施形態]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0065】
本発明に係るアルカリ金属イオン電池の構成については特に限定されるものではなく、例えば中間層や接着層のように、負極層、正極層及び固体電解質層以外のその他の層を備えていてもよい。
【0066】
<実施例>
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
(アルカリ金属イオン電池セルの作製)
以下の工程に従い、アルカリ金属イオン電池セルを作製した。なお、以下の工程は、不活性雰囲気下(Ar)で実施した。
(1)錠剤成型器と同じ内径(10mmφ)のカーボンペーパー(基材層)を錠剤成型器の底部に配置した。
(2)カーボンペーパーに金属マグネシウム粒子(平均粒径160μm)と、75Li2S-25P2S5粉末とを質量比で70:30となるよう混合した後、充填して加圧することにより、負極合剤層を形成した。
(3)その上から所定の質量比の75Li2S-25P2S5粉末を添加して加圧することにより、固体電解質層を形成した。
(4)カーボンペーパーと金属マグネシウム粒子と75Li2S-25P2S5粉末とからなるペレットを錠剤形成器から取り出さないまま、その上から10mmφのIn、9mmφのLiの順に金属箔をのせ、加圧してアルカリ金属イオン電池セルを作製した。
【0068】
[実施例2及び実施例3]
(アルカリ金属イオン電池セルの作製)
次の点を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作をして、実施例2及び実施例3のアルカリ金属イオン電池セルを作製した。実施例2の負極合剤として金属マグネシウム粒子(平均粒径10μm)と75Li2S-25P2S5粉末とを質量比で40:60の割合で含有させた。また、実施例3の負極合剤として金属マグネシウム粒子(平均粒径10μm)と黒鉛粉末と75Li2S-25P2S5粉末とを質量比で40:10:50の割合で含有させた。対極として10mmφの金属Liを用い、実施例2及び実施例3のアルカリ金属イオン電池セルを作製した。
【0069】
[比較例1及び比較例2]
(アルカリ金属イオン電池セルの作製)
次の点を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作をして、比較例1及び比較例2のアルカリ金属イオン電池セルを作製した。基材層としてNiメッシュ、負極合剤として金属マグネシウム粒子とポリアクリル酸バインダーとを質量比で80:20の割合で含有させたものを用い、12mmφの合剤負極を作製した。電解質としては、EC及びDMCを1:2の体積比で混合した溶媒にLiTFSIを1mol/dm3の濃度で溶解させて比較例1の非水電解質とした。また、EC及びDMCを1:2の体積比で混合した溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/dm3の濃度で溶解させて比較例2の非水電解質とした。そして、対極として16mmφの金属Liを用い、比較例1及び比較例2のアルカリ金属イオン電池セルを作製した。
【0070】
(充電状態の負極のXRDパターンの測定)
電解質として固体電解質を用いた実施例1における負極の充放電反応が金属マグネシウムとLi+イオンとの反応によるものであるのかを確認するために、充電状態の負極のXRDパターンの測定を行った。なお、XRDパターンの測定にあたっては、セル解体による負極の取り出しからXRD測定器による測定までの工程はAr雰囲気下で実施した。
【0071】
図2は、実施例1の負極のX線回折(XRD)スペクトルである。
図2(a)は、2θ=10°~90°の範囲におけるXRDスペクトルを示し、
図2(b)は、
図2(a)をさらに拡大して2θ=50°~70°の範囲におけるXRDスペクトルを示す。
図2に示されるように、実施例1の充電状態の負極のXRDパターンにおける52°及び65°近傍にみられるピークの位置は、Li
0.36Mg
0.64合金のXRDパターンにおけるピークの位置と一致していた。このことから、実施例1の充電後にLi
XMg
Y合金が形成されたことがわかる。従って、固体電解質を用いることで、金属マグネシウムとLi
+イオンとが良好に反応しており、負極の充放電反応が金属マグネシウムとLi
+イオンとの反応によるものであることが示された。なお、XRDパターンの測定には、X線回折装置であるRINT PTR3(Rigaku社製)を用い、線源はCuKαとした。
【0072】
(充放電試験)
上記実施例1のアルカリ金属イオン電池セルについて、50℃環境下で充放電を実施した。充電は、充電電流0.0025C、充電終止電圧-0.6V(対極Li換算で0V)、総充電時間20時間の定電流定電圧(CCCV)充電とした。放電は、放電電流0.0025C、放電終止電圧0.9V(対極Li換算で1.5V)の定電流(CC)放電として1サイクルの初回充放電を行った。充電と放電の間には、30分の休止を設けた。なお、実施例1の1Cは金属マグネシウムの理論容量3350mAh/gを基準とした。ここで、金属マグネシウムにLi+イオンが吸蔵される還元反応を「充電」、Li+イオンが放出される酸化反応を「放電」という。
上記1サイクル目の放電容量を実施例1の「初回放電容量(mAh/g)」とした。
【0073】
次に、比較例1及び比較例2のアルカリ金属イオン電池セルについて、50℃環境下で充放電を実施した。充電は、充電電流0.0025C、充電終止電圧0.02V、総充電時間20時間の定電圧(CCCV)充電とした。放電は、放電電流0.0025C、放電終止電圧1.5Vの定電流(CC)放電として1サイクルの初回充放電を行った。充電と放電の間には、30分の休止を設けた。なお、比較例1及び比較例2のアルカリ金属イオン電池の1Cは、実施例1と同様、金属マグネシウムの理論容量3350mAh/gを基準とした。
上記1サイクル目の放電容量を比較例1及び比較例2の「初回放電容量(mAh/g)」とした。
【0074】
さらに、実施例2及び実施例3のアルカリ金属イオン電池セルについて、50℃環境下で充放電を実施した。充電は、充電電流0.0075C、充電終止電圧0.01Vで定電流充電を行った後、0.01Vの定電圧で電流密度が0.00375Cに相当する値に減衰するまで定電圧充電し、放電は、放電電流0.0075C、放電終止電圧1.2Vの定電流(CC)放電として1サイクルの初回充放電を行った。充電と放電の間には、30分の休止を設けた。なお、実施例2及び実施例3のアルカリ金属イオン電池の1Cは、実施例1と同様、金属マグネシウムの理論容量3350mAh/gを基準とした。
上記1サイクル目の放電容量を実施例2及び実施例3の「初回放電容量(mAh/g)」とした。ここで、「初回放電容量」とは、金属マグネシウムの質量あたりの放電容量を意味する。
【0075】
(充放電カーブの特性)
図3は、実施例1及び比較例1~比較例2の充放電サイクル性能カーブを示すグラフである。
図3においては、電解質として硫化物固体電解質を用いた場合、液体電解質に比べて、充電カーブにおける1.2Vvs.Li/Li
+以下のショルダーが小さく、放電カーブにおけるMgとLi
+イオンとの脱合金化反応に起因する0.2Vvs.Li/Li
+近傍のプラトー領域が長いことが示されている。
【0076】
(充放電サイクル試験)
(1)充放電サイクル試験
実施例1、及び比較例1~比較例2のアルカリ金属イオン電池を、上記充電、休止及び放電の工程を1サイクルとして、このサイクルを5サイクル繰り返した。充電、放電及び休止ともに、50℃の恒温槽内で行った。
【0077】
(サイクル後の放電容量)
上記充電及び放電の工程について、5サイクル目の放電容量(mAh/g)を5サイクル後の放電容量とした。
【0078】
(サイクル後の充放電効率)
上記充電及び放電の工程について、5サイクル目の放電容量(mAh/g)の充電電気量(Ah)に対する放電容量の百分率を5サイクル後の充放電効率(%)として求め、5サイクル後のクーロン効率とした。
【0079】
(サイクル後の平均放電電位)
平均放電電位は、放電カーブから面積を求め、横軸の電気量で除した値であり、低いほど負極としての性能が良好である。より具体的には、サイクル後の作用極(負極)の平均放電電位は、
図3の放電曲線、直線y=0、直線x=(測定された放電容量)に囲まれた領域の面積(単位:mWh)を測定された放電容量(単位:mAh)で除した値として求めた。
【0080】
また、実施例1及び比較例1~比較例2の初回放電容量、並びに5サイクル後の放電容量、クーロン効率及び平均放電電位を以下の表1に示す。
【0081】
【0082】
表1に示されるように、電解液を使用した場合と比較して、硫化物固体電解質を用いた場合に、高い放電容量、高い充放電効率、及び低い平均放電電位を示す。比較例1~比較例2と比較して、実施例1は5サイクル後の放電容量、充放電効率及び平均放電電位が高く、充放電サイクル性能に優れていた。
【0083】
また、実施例2及び実施例3の初回放電容量を以下の表2に示す。
【0084】
【0085】
表2に示されるように、負極活物質として金属マグネシウムのみを使用した場合と比較して、金属マグネシウムと炭素材料とを併用した場合には、高い放電容量が得られる。
ここで、黒鉛の理論容量を372mAh/gとすると、実施例2に比べて、実施例3における金属マグネシウム粒子の質量あたりの放電容量は、372mAh/g×0.1(黒鉛粒子の質量%)÷0.4(金属マグネシウム粒子の質量%)=93mAh/gだけ増加することが期待される。しかしながら、実際には100mAh/g以上増加している。このことから、金属Mgと炭素材料とを併用することで、金属マグネシウム粒子の利用率が向上し、放電容量を向上できることが分かる。
【0086】
実施例1に比べ、実施例2は高い放電容量を示す。このような結果が得られた要因としては、負極合剤における硫化物固体電解質の含有割合を高くしたことと、金属マグネシウム粒子の平均粒径を160μmから10μmに変更したこととが考えられる。
特に、平均粒径が小さい金属マグネシウム粒子を用いることが、高い放電容量を得るために極めて有効であることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上のように、本発明に係るアルカリ金属イオン電池は、放電容量及び充放電効率が良好であるので、例えばHEV用のアルカリ金属イオン電池として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0088】
1 負極層
2 正極層
3 固体電解質層
4 負極基材層
5 負極合剤層
6 正極合剤層
7 正極基材層
10 アルカリ金属イオン電池