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  • 特許-偽造防止媒体 図1
  • 特許-偽造防止媒体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】偽造防止媒体
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/378 20140101AFI20240305BHJP
   B41M 3/14 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B42D25/378
B41M3/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019126075
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021011067
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】河野 美都子
(72)【発明者】
【氏名】牛腸 智
【審査官】山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】特許第5966253(JP,B2)
【文献】特開2000-335148(JP,A)
【文献】特開2005-059423(JP,A)
【文献】実開昭52-119397(JP,U)
【文献】特開平07-089215(JP,A)
【文献】特開2008-225081(JP,A)
【文献】特開平05-278372(JP,A)
【文献】特開平11-170697(JP,A)
【文献】再公表特許第2015/147176(JP,A1)
【文献】特開2008-162184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 15/02
B42D 25/00-25/485
B41M 1/00- 3/18
B41M 7/00- 9/04
G07D 7/00- 7/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、コピーによる偽造を防止する偽造防止機能層と、加熱された事を検知可能な感熱インキ層および感熱インキ層の一部を隠蔽する隠蔽インキ層と、をこの順に備えた偽造防止媒体であって、
感熱インキ層は、少なくとも、常温では透明であり、加熱されると不可逆的に発色する感熱インキ(A)と、常温では隠蔽インキ層と同色であり、加熱されると消色する感熱インキ(B)と、を備えており、
隠蔽インキ層は、平面視で、感熱インキ(A)の一部および感熱インキ(B)の周囲に配置されることで、感熱インキ(A)の一部および感熱インキ(B)を隠蔽することを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項2】
前記感熱インキ(A)の一部および前記感熱インキ(B)と、前記隠蔽インキ層とは、毛抜き合わせに備えられていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体。
【請求項3】
前記感熱インキ(A)の一部が前記隠蔽インキ層の上に備えられており、前記感熱インキ(B)は前記隠蔽インキ層と毛抜き合わせに備えられていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再利用防止機能を備えた偽造防止媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
物品が偽造されることを防止する方法として、偽造防止媒体を物品に貼付する方法がある。偽造防止媒体としては、偽造防止用機能性インキ、特殊印刷、ホログラム、磁気印刷、ICタグなどを使用した偽造防止ラベルの形態をとることが多い。
【0003】
しかしながら、偽造防止ラベルが物品に貼付されていたとしても、偽造防止ラベルを真正品から剥がし取り、偽造品に貼り付けると言った不正行為が後を絶たない。
【0004】
この様な偽造防止ラベルの不正な再利用を防止する方法としては、以下に挙げる様なものがある。
・ 偽造防止ラベルに切り欠きを設け、無理に剥がそうとすると、切り欠きがきっかけとなって偽造防止ラベルが破損してしまう方法。
・ 偽造防止ラベルの基材を脆性材料にする方法。
・ 偽造防止ラベルを剥がそうとすると表面の基材に“VOID”などの文字が現れ、物品にインキが付着するタイプの偽造防止ラベルを使用する方法。
・ 有機溶剤溶解染料が含有されていて、ラベル剥がしなど剥離液で剥がそうとした時、前記の染料が印刷部より滲み出すことで不正な再利用を防止する方法。
【0005】
しかしながら、これらの方法ではドライヤーなどの加熱手段を用いて偽造防止ラベルを加熱することにより、きれいに剥がし取り、再利用する事が可能である。
【0006】
この様な加熱手段を用いた不正な再利用を防止する先行技術としては、例えば、偽造防止ラベルの粘着層中に発泡粒子を含有させることで、ドライヤー等でラベルを加熱した場合、粘着層中の発泡粒子が発泡することで、再利用を防止する方法(特許文献1)や、ラベルの粘着剤を、溶剤などに溶解しない難溶性にすることで再利用を防止する方法(特許文献2)が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの方策を施した場合であっても、偽造防止ラベルを貼付した物品の表層ごと削ぎ落すことで、偽造防止ラベルに損傷を与えずに再利用が可能となる。
【0008】
その対策として、温度変化によって可逆的に色変化するインキ層を設けた偽造防止媒体(特許文献3)が開示されている。
この技術は、ラベルを70℃以上で加熱すると真正性を示す表示が消失し、-20℃以下に冷却すると、消失した表示が復元されると同時に、潜像として印刷してあった透明状態のインキが発色し、VOID(無効)という意味の表示が現れることで、再利用防止策となる。
【0009】
しかしながら、この様な特性を備えた示温インキの種類が少ない為、バリエーションに乏しい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2000-293108号公報
【文献】特許第4887601号公報
【文献】特許第5966253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の事情に鑑み、本発明は、常温以上の温度で色変化するインキ層を用いることにより、加熱されたことを検知可能な偽造防止媒体において、色の種類や色変化する温度の選択肢がより多い偽造防止媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する手段として、本発明の請求項1に記載の発明は、基材上にコピーによる偽造を防止する偽造防止機能層と、加熱された事を検知可能な感熱インキ層および感熱インキ層の一部を隠蔽する隠蔽インキ層と、をこの順に備えた偽造防止媒体であって、
感熱インキ層は、少なくとも、常温では透明であり、加熱されると不可逆的に発色する感熱インキ(A)と、常温では隠蔽インキ層と同色であり、加熱されると消色する感熱インキ(B)と、を備えており、
隠蔽インキ層は、平面視で、感熱インキ(A)の一部および感熱インキ(B)の周囲に配置されることで、感熱インキ(A)の一部および感熱インキ(B)を隠蔽することを特徴とする偽造防止媒体である。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、前記感熱インキ(A)の一部および前記感熱インキ(B)と、前記隠蔽インキ層とは、毛抜き合わせに備えられていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体である。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、前記感熱インキ(A)の一部が前記隠蔽インキ層の上に備えられており、前記感熱インキ(B)は前記隠蔽インキ層と毛抜き合わせに備えられていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の偽造防止媒体によれば、常温では透明であり、加熱された事を検知可能な感熱インキ層および感熱インキ層の一部を隠蔽する隠蔽インキ層を備えている。その感熱インキ層は、常温では透明であり、加熱されると不可逆的に発色する感熱インキ層Aと、常温では隠蔽インキ層と同色で、加熱されると消色する感熱インキ層Bと、備えている。その為、物品に貼付された偽造防止媒体を常温より高温に加熱すると、透明だった感熱インキAが発色し、隠蔽インキ層と同じ色だった感熱インキBが消色する。その為、感熱インキAによる像が現れる。また、毛抜き合わせに備えられている感熱インキBが消色することにより像が現れる。この様に、本発明の偽造防止媒体においては、加熱で不可逆的に発色する感熱インキと、消色する感熱インキを使用している為、1種の感熱インキを使用する場合と比較して、使用可能な色の範囲を広げることが可能であり、優れた意匠性を備えた偽造防止媒体を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の偽造防止媒体を平面視した場合の一例を示す平面説明図。
図2】本発明の偽造防止媒体の一例を示す断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の偽造防止媒体を図1および図2を用いて説明する。
図1は、本発明の偽造防止媒体10、20を平面視した説明図である。図1(a)は感熱インキ(A)1と感熱インキ(B)2が、それぞれ発色および消色する前の状態を示している。“VOID”および“ID”という文字が隠蔽インキ層4と一部が重なって形成されている。見かけ上は、図1(c)の様に、ホログラムやパール加工による偽造防止層
3の上に隠蔽インキ層3が見えているのみである。図1(b)は、感熱インキ(A)1と感熱インキ(B)2が、それぞれ発色および消色した後の状態を示しており、“VOID”および“ID”という文字が浮かび上がっている。
【0018】
図2は、本発明の偽造防止媒体10、20の断面を示した説明図である。図2(a)は、図1(a)の感熱インキ(A)1と隠蔽インキ層4の断面を例示した説明図である。また、図2(b)は、図1(a)の感熱インキ(B)2と隠蔽インキ層4の断面を例示した説明図である。図2(a)と(b)は、感熱インキ(A)および感熱インキ(B)が、隠蔽インキ層4と毛抜き合わせに形成された場合を例示したものである。図2(c)は、感熱インキ(A)が隠蔽インキ層4の上に形成された場合を例示したものである。
【0019】
本発明の偽造防止媒体10は、基材上5にコピーによる偽造を防止する偽造防止機能層3と、加熱された事を検知可能な感熱インキ層および感熱インキ層の一部を隠蔽する隠蔽インキ層4と、をこの順に備えた偽造防止媒体である。
【0020】
感熱インキ層は、少なくとも、常温では透明であり、常温以上に加熱されると不可逆的に発色する感熱インキ(A)1と、常温では隠蔽インキ層4と同色であり、加熱されると消色する感熱インキ(B)2と、備えている。いずれも市販されている感熱インキを使用可能である。
【0021】
隠蔽インキ層4は、平面視で、感熱インキ(A)1の一部および感熱インキ(B)2と重なって備えられていることが特徴である。
【0022】
また、感熱インキ(A)1の一部および感熱インキ(B)2と、隠蔽インキ層4とは、毛抜き合わせに備えられていても良い。
【0023】
また、感熱インキ(A)1の一部が隠蔽インキ層4の上に備えられており、感熱インキ(B)2は隠蔽インキ層4と毛抜き合わせに備えられていても良い。
【0024】
(基材)
基材5としては、上質紙やコート紙やPETシートなどを想定する事が出来るが、印刷が可能なものであればどのようなものでもかまわない。ただし、本発明の偽造防止媒体10、20は加熱によって再利用防止機能を発現させる場合もあるため、感熱インキ層が変色する程度の加熱では変形しないような基材が望ましい。
【0025】
(偽造防止機能層)
偽造防止機能層3としては、各種偽造防止媒体を使用することが出来る。たとえばパールインキなど特殊な見た目を示すインキや、UVライト等で発光する蛍光インキに代表されるようなOVI(OPTICAL VARIABLE INK)やホログラムに代表されるOVD(OPTICAL VARIABLE DEVICE)などである。機械検知用の偽造防止機能層としては、特定の波長の赤外線を吸収するインキなどを使用することができる。また細紋印刷や、マイクロ文字、凹版印刷など、印刷方式による偽造防止機能もあわせて使用可能である。また偽造防止機能層は1種類に限るものではなく、複数組み合わせたり、多層構成になっていてもかまわないし、基材の全面を覆う必要も無く、部分的に設けられていたり、層構成の順番が異なっていてもかまわない。
【0026】
(隠蔽インキ層)
本発明の偽造防止媒体10、20で使用する隠蔽インキ層4としては、カーボンブラック等を含まない混色の墨インキや、濃色のインキなどを好適に使用することができる。
【0027】
(感熱インキ(A))
加熱によって不可逆的な色変化を起こす感熱インキ(A)1としては、コバルト、ニッケル、鉄、銅、クロム、マンガンなどの塩類と、これらの組成中にアミン、アンモニウム塩、炭酸基、しゅう酸基などを含む顔料を使用した不可逆性示温材料を顔料として作製したインキを使用することができる。
【0028】
(感熱インキ(B))
加熱によって可逆的な色変化を起こす感熱インキ(B)2としては、すでに様々な材料が開発されて公知となっている。最も広く知られているのはロイコ染料と呈色剤を混合したもので、一定温度以上になると染料と呈色剤が結びついて発色するものである。消色に関しては単に温度を下げるだけで消える場合や、適切な温度で一定時間加熱することにより消える場合など各種方式がある。また最近では市販のボールペンなどでも加熱によって消色させることができるフリクションインキ((株)パイロットコーポレーションの登録商標)を使用したものがあり、このようなタイプのインキも同様にロイコ染料を応用したもので、本発明において使用することができる。また、このような可逆的に色変化するインキは赤外域での吸収がないものが多いが、赤外域にも吸収がある材料も開発されており、利用することができる。
【実施例
【0029】
次に、本発明の偽造防止媒体の実施例について説明する。
【0030】
<実施例1>
基材として、厚さ50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを用意した。
【0031】
次に、このPETフィルムの片面にエンボスホログラムシートを、接着剤層を介して貼り合わせた。
【0032】
次に、不可逆的感熱インキとして、80℃に加熱することで、無色から不可逆的に発色する感熱性インキ(感熱インキ(A))としてサーマフレックスシリーズ(長瀬産業(株)製)のBLUE1を使用し、可逆的感熱インキ(感熱インキ(B))として、ロイコ染料を使用した感熱インキ(メタモカラー、パイロットインキ(株)製)を使用して、エンボスホログラムシートの上に、それぞれ図1(a)に示した様な感熱インキ(A)1と感熱インキ(B)2のインキパターンを印刷した。感熱インキ(A)は、加熱前は透明であるが、80℃以上に加熱すると発色する。感熱インキ(B)は、加熱前は色がついているが、80℃以上に加熱すると消色する。
【0033】
次に、図1(a)に示した様に、感熱インキ(A)1のパターンの一部と毛抜き合わせにして隠蔽インキ層4を印刷し、乾燥した。同様に、感熱インキ(B)2のパターンと毛抜き合わせにして隠蔽インキ層4を印刷し、乾燥した。隠蔽インキとしては、感熱インキ(B)2と色合わせをしたインキを使用した。印刷には、平版オフセット印刷を使用した。
【0034】
この様にして作製した印刷物は、図1(c)に示した様に、偽造防止機能層(ホログラムシート)3上に隠蔽インキ層4しか視認することができなかった。感熱インキ(A)1は無色透明であるためであり、また、感熱インキ(B)2は、隠蔽インキ層4と毛抜き合わせに印刷されていて、両者は同色であるため、視認することができなかった。しかしながら、オーブンに入れ、80℃に加熱すると、図1(b)に示した様に、感熱インキ(A)1が発色し、“VOID”というパターンが現れた。また、感熱インキ(B)2は消色するため、隠蔽インキ層4が色抜けした形で“ID”というパターンが現れた。
【0035】
以上の様にして、本発明の偽造防止媒体は、常温では視認できなかったパターンが、80℃に加熱する事によって視認可能なパターンとして浮かび上がる偽造防止媒体を得ることができた。
【0036】
以上、本発明の偽造防止媒体について説明した。本発明の偽造防止媒体においては、感熱インキとして、常温では透明で、加熱すると不可逆的に発色する感熱インキと、常温では隠蔽インキ層と同色であり、加熱すると消色するインキを使用して、いずれも加熱された事を検知可能とするものである。この様に2種類の感熱インキを使用している為、色のバリエーションが広がる。特に、消色インキとしては、色のバリエーションが広いため、意匠性が高い偽造防止媒体を提供可能である。また、2種類の感熱インキを使用することにより、色変化を起こす温度領域の幅も広げることが可能となる。
【符号の説明】
【0037】
1・・・感熱インキ(A)
2・・・感熱インキ(B)
3・・・偽造防止機能層
4・・・隠蔽インキ層
5・・・基材
10、20・・・偽造防止媒体
図1
図2