(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20240305BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240305BHJP
B29D 30/58 20060101ALI20240305BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20240305BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20240305BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20240305BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240305BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240305BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240305BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C08J3/22 CEQ
B60C1/00 A
B29D30/58
C08L7/00
C08L9/00
C08L15/00
C08K3/36
C08K3/04
C08K3/013
C08L91/00
(21)【出願番号】P 2019190434
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 智浩
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/186755(WO,A1)
【文献】特開2019-001943(JP,A)
【文献】特開2017-002164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08J 99/00
B60C 1/00
B29D 30/58
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端変性スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、シリカを40~200質量部およびカーボンブラックを5~60質量部含有するゴム組成物の製造方法であって、
前記末端変性スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むゴム成分において、末端変性スチレンブタジエンゴム以外のゴム成分
、カーボンブラックの一部または全部
、およびシリカの一部または全部を含む原料を混練りしてマスターバッチを調製する工程1、ならびに
該工程1で得られたマスターバッチに、末端変性スチレンブタジエンゴム
、カーボンブラックの残部
、およびシリカの残部を混練りする工程2
を含むゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記工程1において、カーボンブラックは一部のみを混練りする請求項1記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記工程1におけるカーボンブラックの投入量が、カーボンブラックの合計投入量の20~95質量%である請求項2記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記工程1におけるシリカの投入量が、シリカの合計投入量の5~60質量%である請求項
1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
前記工程1におけるシリカの投入量が、ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して、5~50質量部である請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
前記工程1の原料が、ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して、オイルを0~10質量部含む請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
前記工程1に用いるゴム成分がブタジエンゴムを60~90質量%および天然ゴムを10~40質量%含む請求項1~6のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して、前記工程1に用いるシリカが5~50質量部、カーボンブラックが3~15質量部、オイルが0~10質量部である請求項1~7のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項9】
ゴム組成物中の末端変性スチレンブタジエンゴムの含有量が10~80質量%、ブタジエンゴムの含有量が10~60質量%および天然ゴムの含有量が5~30質量%である請求項1~8のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法により製造したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドの形状に押出し加工してトレッド部材を得る工程、
該トレッド部材を、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、成形して、未加硫タイヤを形成する工程、ならびに
該未加硫タイヤを、加硫機中で加熱加圧する工程
を含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の製造方法、および、該ゴム組成物の製造方法により得られたゴム組成物を用いてタイヤを製造するタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は自動車の低燃費性能の要求が強まり、タイヤ部材に用いるゴム組成物において、シリカおよび末端変性スチレンブタジエンゴムを含むゴム組成物が必要不可欠となっている。しかし、末端変性スチレンブタジエンゴムとその他のゴム成分とを含むゴム組成物の場合、全ゴム成分とシリカとを同時に混練りすると、末端変性スチレンブタジエンゴム中に多くのシリカが偏在し、シリカの分散性が悪化するという問題がある。なお、シリカの分散性が悪化すると、期待されるゴム物性が十分に発揮されない。
【0003】
特許文献1には、シリカと相互作用する官能基により変性された変性スチレンブタジエンゴムおよびその他のゴム成分を含むゴム成分、シリカおよびシランカップリング剤を含有するタイヤトレッド用ゴム組成物を、上記変性スチレンブタジエンゴム以外のその他のゴム成分と、シリカおよびシランカップリング剤とを混練りし、得られた混練物と上記末端変性スチレンブタジエンゴムとを混練りすることにより製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のゴム組成物は、具体的には、上記末端変性スチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムおよび未変性スチレンブタジエンゴムとをゴム成分として用いるものであり、さらに、カーボンブラックの使用については具体的な例示がない。一方、末端変性スチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むゴム組成物においては、末端変性スチレンブタジエンゴムのシリカとの相溶性は良好であるが、ブタジエンゴムや天然ゴムのシリカとの相溶性はそれほどでもないため、配合されたシリカがより末端変性スチレンブタジエンゴムに偏ってしまい、シリカの分散性が悪化するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、末端変性スチレンブタジエンゴムと、ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むゴム成分と、所定量のシリカならびに所定量のカーボンブラックを含有するゴム組成物であって、シリカ分散が向上し、低燃費性に優れたゴム組成物を得ることができるゴム組成物の製造方法、および、該ゴム組成物の製造方法により得られたゴム組成物を用いてタイヤを製造するタイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、末端変性スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むゴム成分、所定量のシリカならびに所定量のカーボンブラックを含有するゴム組成物を製造するに際し、末端変性スチレンブタジエンゴム以外のゴム成分を、カーボンブラックとのマスターバッチとして用いることにより、前記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]末端変性スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、シリカを40~200質量部、好ましくは50~150質量部、より好ましくは60~150質量部、より好ましくは70~120質量部、または、好ましくは40~150質量部、より好ましくは40~120質量部、または、好ましくは50~200質量部、より好ましくは60~200質量部、より好ましくは70~200質量部、およびカーボンブラックを5~60質量部、好ましくは7~50質量部、より好ましくは10~40質量部、または、好ましくは5~50質量部、より好ましくは5~40質量部、または、好ましくは7~60質量部、より好ましくは10~60質量部含有するゴム組成物の製造方法であって、
末端変性スチレンブタジエンゴム以外のゴム成分、およびカーボンブラックの一部または全部を含む原料を混練りしてマスターバッチを調製する工程1、ならびに
該工程1で得られたマスターバッチに、末端変性スチレンブタジエンゴム、およびカーボンブラックの残部を混練りする工程2
を含むゴム組成物の製造方法、
[2]前記工程1において、カーボンブラックは一部のみを混練りする上記[1]記載のゴム組成物の製造方法、
[3]前記工程1においてシリカの一部または全部を混練りし、前記工程2においてシリカの残部を混練りする上記[1]または[2]記載のゴム組成物の製造方法、
[4]前記工程1に用いるゴム成分がブタジエンゴムを60~90質量%、好ましくは65~88質量%、より好ましくは70~88質量%、より好ましくは75~85質量%、より好ましくは80~83質量%、または、好ましくは60~88質量%、より好ましくは60~85質量%、より好ましくは60~83質量%、または、好ましくは65~90質量%、より好ましくは70~90質量%、より好ましくは75~90質量%、より好ましくは80~90質量%、および天然ゴムを10~40質量%、好ましくは12~30質量%、より好ましくは15~25質量%、より好ましくは17~20質量%、または、好ましくは10~30質量%、より好ましくは10~25質量%、より好ましくは10~20質量%、または、好ましくは12~40質量%、より好ましくは15~40質量%、より好ましくは17~40質量%含む上記[1]~[3]のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法、
[5]ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して、前記工程1に用いるシリカが5~50質量部、好ましくは10~40質量部、より好ましくは20~30質量部、または、好ましくは5~40質量部、より好ましくは5~30質量部、または、好ましくは10~50質量部、より好ましくは20~50質量部、カーボンブラックが3~15質量部、好ましくは5~13質量部、より好ましくは7~10質量部、または、好ましくは3~13質量部、より好ましくは3~10質量部、または、好ましくは5~15質量部、より好ましくは7~15質量部、オイルが0~10質量部、好ましくは1~10質量部、より好ましくは2~8質量部、より好ましくは4~8質量部、または、好ましくは1~8質量部、または、好ましくは2~10質量部、より好ましくは4~10質量部である上記[1]~[4]のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法、
[6]ゴム組成物中の末端変性スチレンブタジエンゴムの含有量が10~80質量%、好ましくは20~70質量%、より好ましくは30~60質量%、または、好ましくは10~70質量%、より好ましくは10~60質量%、または、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~80質量%、ブタジエンゴムの含有量が10~60質量%、好ましくは20~50質量%、より好ましくは30~40質量%、または、好ましくは10~50質量%、より好ましくは10~40質量%、または、好ましくは20~60質量%、より好ましくは30~60質量%、および天然ゴムの含有量が5~30質量%、好ましくは6~20質量%、より好ましくは7~15質量%、または、好ましくは5~20質量%、より好ましくは5~15質量%、または、好ましくは6~30質量%、より好ましくは7~30質量%である上記[1]~[5]のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法、ならびに
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法により製造したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドの形状に押出し加工してトレッド部材を得る工程、
該トレッド部材を、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、成形して、未加硫タイヤを形成する工程、ならびに
該未加硫タイヤを、加硫機中で加熱加圧する工程
を含むタイヤの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム組成物の製造方法によれば、末端変性スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むゴム成分にシリカを配合したゴム組成物であっても、ゴム組成物全体でのシリカの分散を向上させることができる。また、本発明のゴム組成物の製造方法により得られるゴム組成物はシリカ分散が向上し、低燃費性に優れ、それにより、当該ゴム組成物を用いて製造されたタイヤは、低燃費性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一実施形態であるゴム組成物の製造方法は、末端変性スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムおよび天然ゴムを含むゴム成分100質量部に対して、シリカを40~200質量部およびカーボンブラックを5~60質量部含有するゴム組成物の製造方法であって、末端変性スチレンブタジエンゴム以外のゴム成分、およびカーボンブラックの一部または全部を含む原料を混練りしてマスターバッチを調製する工程1、ならびに該工程1で得られたマスターバッチに、末端変性スチレンブタジエンゴム、およびカーボンブラックの残部を混練りする工程2を含むゴム組成物の製造方法である。
【0011】
理論に拘束されることは意図しないが、通常、末端変性スチレンブタジエンゴムは、シリカとの相溶性が高く、末端変性スチレンブタジエンゴムにブタジエンゴムや天然ゴムを含むゴム成分を用いる場合、シリカが末端変性スチレンブタジエンゴムに偏る傾向があるが、本開示では、末端変性スチレンブタジエンゴム以外のゴム成分と、カーボンブラックとを混練りして調製したマスターバッチを用いることにより、末端変性スチレンブタジエンゴムを混練りした際に、シリカがこの末端変性スチレンブタジエンゴムに偏在することを防ぎ、結果として得られるゴム組成物におけるシリカ分散が向上し、低燃費性も相乗的に向上していると考えられる。
【0012】
<ゴム成分>
ゴム成分としては、末端変性スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)を含むものである。このゴム成分とは、ゴム組成物中の全ゴム成分を意味する。
【0013】
(末端変性SBR)
末端変性SBRとしては、シリカと相互作用することのできる官能基により少なくとも主鎖の一方の末端が変性された末端変性SBRであれば、特に制限なく使用することができる。この末端変性SBRは、さらに主鎖中にシリカと相互作用することのできる官能基を有する主鎖末端変性SBRであってもよい。より具体的には、例えば、SBRの少なくとも一方の末端を窒素、酸素、およびケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含む官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性SBRや、主鎖および末端に前記官能基を有する主鎖末端変性SBR等が挙げられる。また、末端変性SBRは伸展油を加えて柔軟性を調整した油展タイプのものと、伸展油を加えない非油展タイプのものとがあるが、このいずれも使用可能である。例えば、JSR(株)製のもの、旭化成ケミカルズ(株)製のもの、日本ゼオン(株)製のもの等を使用することができる。末端変性SBRは、1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
末端変性SBRを構成するSBRとしては特に限定されず、乳化重合により得られる乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合により得られる溶液重合SBR(S-SBR)、またそれらの水素添加されたSBR(水添E-SBR、水添S-SBR)などが挙げられる。
【0015】
変性剤としては、例えば、アミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ニトリル基、ピリジル基などの官能基を有する変性剤が挙げられる。なかでも、下記式(1)で表される化合物を変性剤として変性させた末端変性SBRが、低燃費性、破壊強度および耐亀裂成長性に優れるという理由から好ましい。
【0016】
【0017】
式(1)で表される化合物において、R1、R2およびR3は、同一もしくは異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(-COOH)、メルカプト基(-SH)またはこれらの誘導体を表す。
【0018】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの炭素数1~4のアルキル基などが挙げられる。
【0019】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基などの炭素数1~8のアルコキシ基(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4)などが挙げられる。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基などの炭素数5~8のシクロアルコキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基などの炭素数6~8のアリールオキシ基など)も含まれる。
【0020】
シリルオキシ基としては、例えば、炭素数1~20の脂肪族基、芳香族基が置換したシリルオキシ基(トリメチルシリルオキシ基、トリエチルシリルオキシ基、トリイソプロピルシリルオキシ基、ジエチルイソプロピルシリルオキシ基、t-ブチルジメチルシリルオキシ基、t-ブチルジフェニルシリルオキシ基、トリベンジルシリルオキシ基、トリフェニルシリルオキシ基、トリ-p-キシリルシリルオキシ基など)などが挙げられる。
【0021】
アセタール基としては、例えば、-C(RR’)-OR”、-O-C(RR’)-OR”で表される基を挙げることができる。前者としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、イソプロポキシメチル基、t-ブトキシメチル基、ネオペンチルオキシメチル基などが挙げられ、後者としては、メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、プロポキシメトキシ基、i-プロポキシメトキシ基、n-ブトキシメトキシ基、t-ブトキシメトキシ基、n-ペンチルオキシメトキシ基、n-ヘキシルオキシメトキシ基、シクロペンチルオキシメトキシ基、シクロヘキシルオキシメトキシ基などが挙げられる。
【0022】
R1、R2およびR3は、ゴム組成物の低発熱性およびゴム強度が好適に両立できるという点から、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
【0023】
上記式(1)で表される化合物において、R4およびR5は、同一もしくは異なって、水素原子またはアルキル基を表す。
【0024】
R4およびR5のアルキル基としては、例えば、前記アルキル基と同様の基を挙げることができる。
【0025】
R4およびR5は、ゴム組成物の低発熱性およびゴム強度が好適に両立できるという点から、アルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、炭素数1~2のアルキル基がさらに好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0026】
上記式(1)で表される化合物において、nは整数を表す。nはゴム組成物の低発熱性およびゴム強度が好適に両立できるという点から、1~5の整数が好ましく、2~4の整数がより好ましく、3がさらに好ましい。nを1以上とすることにより、ケイ素原子と窒素原子との結合が容易となり、また、nを5以下とすることにより、変性剤としての効果を確保できる傾向がある。
【0027】
変性剤によるSBRの変性方法としては、特公平6-53768号公報、特公平6-57767号公報、特表2003-514078号公報などに記載されているジエン系ゴム変性方法や、従来公知の手法を用いることができる。例えば、SBRと変性剤とを接触させればよく、調製した重合体溶液中に変性剤を投入して反応させる方法等が挙げられる。
【0028】
末端変性SBRのスチレン含有量は、5質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。末端変性SBRのスチレン含有量を5質量%以上とすることにより、グリップ性能が向上する傾向がある。また、末端変性SBRのスチレン含有量は、60質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。末端変性SBRのスチレン含有量を60質量%以下とすることにより、BRや天然ゴムとの相溶性、耐摩耗性、低燃費性が向上する傾向がある。本明細書におけるSBRのスチレン含有量は、1H-NMR測定により算出される値である。
【0029】
末端変性SBRのゴム成分中の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。末端変性SBRのゴム成分中の含有量を10質量%以上とすることにより、低燃費性およびウェットグリップ性が向上する傾向がある。また、末端変性SBRのゴム成分中の含有量は、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。末端変性SBRのゴム成分中の含有量を85質量%以下とすることにより、加工性および補強性が向上する傾向がある。
【0030】
(BR)
BRとしては、特に限定されず、シス含量(シス1,4結合含有率)が90%以上のハイシスBR、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)、変性BRなどこの分野で通常使用されるものをいずれも好適に使用することができる。例えば、宇部興産(株)製のもの、日本ゼオン(株)製のものなどを好適に用いることができる。BRとしては、1種または2種以上を用いることができる。
【0031】
BRとしては、優れた耐摩耗性が得られるという点から、ハイシスBRが好ましい。BRのシス含量は、95%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシス含量は、赤外吸収スペクトル分析法により測定される値である。このようなハイシスBRとして、例えば、JSR(株)製のもの、日本ゼオン(株)製のもの、宇部興産(株)製のものなどが挙げられる。
【0032】
またBRとしては、充填剤との相互作用をより強固とし低燃費性に優れるという理由から、変性BRを用いることができる。変性BRとしては、末端および/または主鎖が変性された変性BR、スズ、ケイ素化合物などでカップリングされた変性BR(縮合物、分岐構造を有するものなど)、シリカと相互作用を持つ官能基により末端および/または主鎖が変性された変性BR、特に、シリル基、アミノ基、アミド基、水酸基、およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する変性BRなどが挙げられる。
【0033】
BRのゴム成分中の含有量は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。BRのゴム成分中の含有量を10質量%以上とすることにより、耐摩耗性が向上する傾向がある。また、BRの含有量は、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。BRのゴム成分中の含有量を60質量%以下とすることにより、耐亀裂成長性が向上する傾向がある。
【0034】
(天然ゴム)
上記天然ゴムには、天然ゴム(NR)や、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)などの改質天然ゴムなども含まれる。NRは特に限定されず、タイヤ製造において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20などが挙げられる。天然ゴムは、1種または2種以上を用いることができる。
【0035】
天然ゴムのゴム成分中の含有量は、5質量%以上が好ましく、6質量%以上がより好ましく、7質量%以上がより好ましい。天然ゴムのゴム成分中の含有量を5質量%以上とすることにより、加工性および補強性が向上する傾向がある。また、天然ゴムのゴム成分中の含有量は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がより好ましい。天然ゴムのゴム成分中の含有量を30質量%以下とすることにより、低燃費性が向上する傾向がある。
【0036】
(その他のゴム成分)
ゴム成分として、上記末端変性SBR、BRおよび天然ゴム以外のその他のゴム成分を含むこともできる。そのようなその他のゴム成分としては、通常のゴム組成物に用いられるゴム成分であれば特に限定されず、イソプレンゴム(IR)、未変性SBR、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。これらのその他のゴム成分は、1種または2種以上を用いることができる。一方、本開示の効果をより良好に発揮できるという理由から、ゴム成分は、その他のゴム成分は含まず、末端変性SBR、BRおよび天然ゴムのみとすることが好ましい。
【0037】
<充填剤>
本開示において、シリカおよびカーボンブラックは、充填剤として配合されるものである。本開示においては、シリカおよびカーボンブラックが所定量配合される他は、他の充填剤が配合されてもよい。そのような他の充填剤としては、通常この分野で使用されるものを適宜使用することができ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、クレー、タルクなどが挙げられる。他の充填剤は、1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
(シリカ)
本開示において、シリカは特に限定されず、ゴム工業において一般的なものを使用することができる。例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。シリカは、1種または2種以上を用いることができる。
【0039】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、特に限定されないが、30m2/g以上が好ましく、50m2/g以上がより好ましく、120m2/g以上がさらに好ましい。シリカのN2SAを30m2/g以上とすることにより、十分な補強効果が得られる傾向、十分な耐摩耗性が得られる傾向がある。また、シリカのN2SAは、400m2/g以下が好ましく、200m2/g以下がより好ましい。シリカのN2SAを400m2/g以下とすることにより、十分なシリカの分散性、十分な低燃費性が得られる傾向がある。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0040】
シリカの合計含有量(全投入量)は、ゴム成分100質量部に対して40質量部以上であり、50質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましい。シリカの合計含有量がゴム成分100質量部に対して40質量部未満であると、低燃費性およびウェットグリップ性の観点から好ましくない。また、シリカの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して200質量部以下であり、150質量部以下が好ましく、120質量部以下がより好ましい。シリカの合計含有量がゴム成分100質量部に対して200質量部を超えると、シリカのゴム成分への分散性や加工性の観点から好ましくない。
【0041】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、特に限定されず、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイトなどが挙げられ、これらのカーボンブラックは1種または2種以上を用いることができる。
【0042】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、特に限定されないが、十分な補強性および耐摩耗性が得られる点から、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、加工性および分散性に優れ、発熱しにくいという点から、200m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましい。なお、N2SAは、JIS K 6217-2のA法に準じて測定することができる。
【0043】
カーボンブラックの合計含有量(全投入量)は、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上であり、7質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。カーボンブラックの合計含有量がゴム成分100質量部に対して5質量部未満であると、補強性の観点から好ましくない。また、カーボンブラックの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して60質量部以下であり、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましい。カーボンブラックの合計含有量がゴム成分100質量部に対して60質量部を超えると、加工性が悪化する傾向、低燃費性が低下する傾向、および耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0044】
(シランカップリング剤)
本開示においては、シリカを含有させるため、シランカップリング剤を使用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されるものではなく、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を併用することができ、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、2-クロロエチルトリメトキシシラン、2-クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、1種または2種以上を用いることができる。なかでも、加工性が良好である点から、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィドなどが好ましい。
【0045】
ゴム組成物中のシランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、4質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、6質量部以上がさらに好ましい。シランカップリング剤の含有量を4質量部以上とすることにより、より十分な分散性の向上効果が得られる傾向がある。また、該ゴム組成物中のシランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、15質量部以下が好ましく、12質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。シランカップリング剤の含有量を15質量部以下とすることにより、コストの増加に見合った効果が得られる傾向がある。
【0046】
(オイル)
本開示に係るゴム組成物には、オイルを配合することができる。オイルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、プロセスオイル、植物油脂またはその混合物を用いることができる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、例えば、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、サフラワー油、桐油などを用いることができる。オイルは、1種または2種以上を用いることができる。
【0047】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。オイルの含有量をゴム成分100質量部に対して5質量部以上とすることにより、ゴムの可塑化を促進させ、シリカの分散を向上し、低温での硬度を柔らかく保つなどの低温特性が向上する傾向がある。また、オイルの全ゴム成分100質量部に対する含有量は40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。オイルの含有量を全ゴム成分100質量部に対して50質量部以下とすることにより、加硫ゴムの引張強度および低発熱性が向上する傾向、加工性が良好となる傾向がある。なお、本明細書において、オイルの含有量は油展で使用されたオイルの量も含むものである。
【0048】
本開示に係るゴム組成物には、必要に応じて、前記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、可塑剤(軟化剤)、ワックス、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛などを適宜配合することができる。
【0049】
可塑剤(軟化剤)、老化防止剤、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛はいずれも、タイヤのトレッドにおいて一般的に用いられるものを好適に用いることができる。
【0050】
可塑剤(軟化剤)は特に限定されず、従来、タイヤ用ゴム組成物において汎用されている各種軟化剤から任意に選択して用いることができる。可塑剤は、樹脂、液状ポリマー等である。可塑剤は、1種または2種以上を用いることができる。
【0051】
樹脂としては、特に限定されず、芳香族系石油樹脂などの従来タイヤ用ゴム組成物で慣用される樹脂を用いることができる。芳香族系石油樹脂としては例えば、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂、テルペン系樹脂、アクリル樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)などがあげられる。フェノール系樹脂としては、例えば、BASF社製、田岡化学工業(株)製のものなど、クマロンインデン樹脂としては、例えば、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製、JXTGエネルギー(株)製のものなど、スチレン系樹脂としては、例えば、アリゾナケミカル社製のものなどを使用することができる。テルペン系樹脂としては、例えば、アリゾナケミカル社製、ヤスハラケミカル(株)製のものなどを使用することができる。ロジン系樹脂としては、例えば、ハリマ化成(株)製、荒川化学工業(株)製のものなどを使用することができる。これらは1種または2種以上を用いることができる。なかでも、グリップ性能に優れるという理由から、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂、テルペン系樹脂およびアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一つを用いることが好ましく、特に、ウェットグリップ性能の向上の点からスチレン系樹脂が好ましい。
【0052】
樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上がさらに好ましい。また、樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性能の観点から、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0053】
本開示に係るゴム組成物には、その他、硫黄、含硫黄化合物などの加硫剤、加硫促進剤などを含有させることができる。
【0054】
加硫剤は特に限定されるものではなく、ゴム工業において一般的なものを使用することができるが、硫黄原子を含むものが好ましく、粉末硫黄が特に好ましく用いられる。
【0055】
加硫促進剤も特に限定されるものではなく、ゴム工業において一般的なものを使用することができ、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤などが挙げられる。なかでも、スルフェンアミド系、チウラム系、グアニジン系が好ましく、スルフェンアミド系がより好ましい。加硫促進剤は、1種または2種以上を用いることができる。
【0056】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)などが挙げられる。なかでも、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)が好ましい。
【0057】
チウラム系加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等が挙げられる。
【0058】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジンなどが挙げられる。
【0059】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤の含有量は、10.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、4.0質量部以下がさらに好ましい。このような範囲とすることで、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0060】
<ゴム組成物の製造>
本開示において、ゴム組成物は、末端変性SBR以外のゴム成分、およびカーボンブラックの一部または全部を含む原料を混練りしてマスターバッチを調製する工程1、および該工程1において得られるマスターバッチに、末端変性SBRおよびカーボンブラックの残部を混練りする工程2を含む製造方法により、製造することができる。各工程は、公知の混練機を用いることができ、例えば、密閉型混練機(バンバリーミキサー、ニーダー、インターナルミキサーなど)、オープンロールなどが挙げられる。
【0061】
さらに、上述の工程1および工程2で得られた未加硫ゴム組成物は、さらに加硫剤などと混練りする工程4および加硫工程などを行い、本開示に係るゴム組成物を製造することができる。また、工程2で得られた混練物は、工程4の前に再度混練りを行うこともできる(工程3)。
【0062】
(工程1)
マスターバッチ調製工程である工程1では、末端変性SBR以外のゴム成分を、カーボンブラックとのマスターバッチとすることにより、シリカのゴム組成物中での分散を向上させることができる。
【0063】
工程1に用いるゴム成分中のBRの含有量は、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、75質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましい。工程1に用いるゴム成分中のBRの含有量を60質量%以上とすることにより、耐摩耗性が向上する傾向がある。また、工程1に用いるゴム成分中のBRの含有量は、90質量%以下が好ましく、88質量%以下がより好ましく、85質量%以下がより好ましく、83質量%以下がさらに好ましい。工程1に用いるゴム成分中のBRの含有量を90質量%以下とすることにより、天然ゴムの配合量を十分確保することができる傾向がある。
【0064】
工程1に用いるゴム成分中の天然ゴムの含有量は、10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、15質量%以上がより好ましく、17質量%以上がさらに好ましい。工程1に用いるゴム成分中の天然ゴムの含有量を10質量%以上とすることにより、補強性が向上し、シート形成が容易となる傾向がある。また、工程1に用いるゴム成分中の天然ゴムの使用量は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。工程1に用いるゴム成分中の天然ゴムの含有量を40質量%以下とすることが低燃費性の観点から好ましい。
【0065】
工程1におけるカーボンブラックの投入量は、ゴム成分へのシリカの分散向上およびシーティングの際の静電気量の抑制の観点から、ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、7質量部以上がさらに好ましい。また、工程1におけるカーボンブラックの投入量は、加工性、低燃費性および耐摩耗性の観点から、ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して、15質量部以下が好ましく、13質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0066】
また、工程1におけるカーボンブラックの投入量は、マスターバッチを用いることによるシリカの分散向上効果を十分に得る観点から、カーボンブラックの合計投入量(全投入量)の20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。さらに、工程1におけるカーボンブラックの投入量は全量でもよく、カーボンブラックの分散確保の観点から、カーボンブラックの合計投入量(全投入量)の95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
【0067】
工程1には、さらにシリカを用いることが好ましい。工程1にシリカを用いる場合、工程1におけるシリカの投入量は、混練り後のシートゴムの補強性の観点から、ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。また、工程1におけるシリカの投入量は、ゴム成分へのシリカの分散不良防止の観点から、ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0068】
また、工程1におけるシリカの投入量は、マスターバッチを用いる効果を十分に得る観点および末端変性SBRへのシリカの偏在を抑制する観点から、シリカの合計投入量(全投入量)の5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、14質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。さらに、工程1におけるシリカの投入量は全量でもよく、シート加工性の観点から、シリカの合計投入量(全投入量)の80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。
【0069】
工程1にシリカを用いる場合、さらにシランカップリング剤を使用することが好ましい。工程1にシランカップリング剤を用いる場合、工程1におけるシランカップリング剤の投入量は、BRおよび天然ゴムとシリカとの反応を十分なものとするという観点から、工程1におけるシリカの投入量100質量部に対して、4質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、6質量部以上がさらに好ましい。また、工程1におけるシランカップリング剤の投入量は、コストの増加に見合ったシリカの分散効果という観点から、工程1におけるシリカの投入量100質量部に対して、15質量部以下が好ましく、12質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、8質量部以下が特に好ましい。
【0070】
工程1には、ゴムの可塑化を促進させ、シリカの分散を促進するためにオイルを投入することが好ましい。オイルを投入する場合の工程1における投入量は、オイル投入の効果が十分に得られるという観点から、ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、4質量部以上がさらに好ましい。また、工程1におけるオイルの投入量は、オイルスリップによる生産性悪化防止の観点から、ゴム組成物中の全ゴム成分100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0071】
工程1における混練りは、特に限定されるものではないが、密閉型混練機で行うことが好ましく、ゴムのラッピングフィルム溶け残り防止および温度上昇起因の過度の可塑化によるシートゴム補強性低下防止の理由から、混練りゴム温度が150~165℃まで上昇するように実施することが好ましく、155~160℃まで上昇するように実施することがより好ましい。
【0072】
工程1における混練りは、粘度低下、シリカのゴム成分への分散性向上、シランの反応性向上の理由から、100~240秒間行うことが好ましく、120~180秒間行うことがより好ましい。
【0073】
(工程2)
工程2では、工程1で得られたマスターバッチに、末端変性SBR、残りのカーボンブラックを混練りする。BRおよび天然ゴムを含むゴム成分を上述の工程1で得られたマスターバッチとして末端変性SBRと混練りすることにより、ゴム組成物中のシリカの分散を向上させることができる。
【0074】
工程2における末端変性SBRの投入量は、全ゴム成分中10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、工程2における末端変性SBRの投入量は、全ゴム成分中80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0075】
工程2におけるカーボンブラックおよびシリカの投入量は、上述した工程1において投入した残部を投入することとなる。すなわち、工程1においてこれらの全量を投入した場合、工程2におけるこれらの投入量は0である。
【0076】
工程2にシリカを用いる場合、さらにシランカップリング剤を使用することが好ましい。工程2にシランカップリング剤を用いる場合、工程2におけるシランカップリング剤の投入量は、投入するシリカの量に合わせて工程1と同様に適宜調節することができる。
【0077】
工程2には、ゴムの可塑化を促進させ、シリカの分散を促進するためにオイルを投入することが好ましい。オイルを投入する場合の工程2における投入量は、オイル投入の効果が十分に得られるという観点から、全ゴム成分100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、8質量部以上がより好ましく、12質量部以上がさらに好ましい。また、工程2におけるオイルの投入量は、オイルスリップによる生産性悪化防止の観点から、全ゴム成分100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0078】
工程2では、カーボンブラックの残部、シリカの残部およびシランカップリング剤、オイル以外の配合剤を投入することもできる。なかでも、シリカ以外の補強用充填剤や可塑剤(軟化剤)、ワックス、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛などを配合することが好ましい。
【0079】
工程2における混練りは、密閉型混練機で行うことが好ましく、混練物の温度が150~165℃になるまで行うことが好ましい。
【0080】
(工程3)
工程3を設ける場合、工程3では工程2で得られた混練物を一度取り出し、密閉型混練機においてさらに混練りすることが好ましく、混練物の温度が145~155℃になるまで行うことが好ましい。工程3では、ゴム成分以外の薬剤、例えばオイル、可塑剤(軟化剤)、ワックス、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛などを配合することができる。
【0081】
(工程4)
工程4は、工程2(工程3がある場合は工程3)で得られた混練物を冷却などした後、加硫剤および加硫促進剤を含む加硫系薬剤を投入して、オープンロールなどで混練りし、未加硫ゴム組成物を得る工程である。
【0082】
工程4における混練りは、混練物の温度が95~105℃になるまで行うことが好ましい。
【0083】
工程4で得られた未加硫ゴム組成物を、公知の方法で加硫することで加硫ゴム組成物を得ることができる。
【0084】
本開示のゴム組成物の製造方法は、各種ゴム組成物に適用することができる。なかでも、低燃費性に優れたゴム組成物を製造することができる点から、タイヤを構成する各種タイヤ部材(例えば、トレッド、サイドウォール、カーカス、クリンチ、ビードなど)に好適に用いることができるが、特に、タイヤトレッドに用いることが好ましい。
【0085】
<タイヤの製造方法>
本開示のまた別の実施形態であるタイヤの製造方法は、上記ゴム組成物の製造方法により製造したゴム組成物を用いて、通常の方法により製造することができる。具体的には、上記ゴム組成物を未加硫の段階で所望のタイヤ部材の形状(例えば、トレッドの形状)に押出し加工し、タイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成形することにより未加硫タイヤを形成し、そしてこの未加硫タイヤを、加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを製造することができる。
【0086】
これらタイヤは、いずれの車両のタイヤとしても使用することができるが、特に、乗用車タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、冬用タイヤ、ランフラットタイヤ、高性能タイヤなどとして好適に使用される。
【実施例】
【0087】
以下、本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0088】
以下、実施例および比較例において用いた各種材料をまとめて示す。
末端変性SBR:ASAPRENE Y031(変性S-SBR、スチレン含有量:26質量%、旭化成(株)から入手可能)
NR:TSR20
BR:ウベポールBR150B(シス含量:97%、宇部興産(株)から入手可能)
カーボンブラック:ショウブラックN220(N2SA:115m2/g、キャボットジャパン(株)から入手可能)
シリカ(含水シリカ):ウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g、エボニックテグッサ社から入手可能)
シランカップリング剤:Si-69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックテグッサ社から入手可能)
オイル:JOMOプロセスX140((株)ジャパンエナジーから入手可能)
硫黄:粉末硫黄(軽井沢硫黄(株)から入手可能)
加硫促進剤:ノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、大内新興化学工業(株)から入手可能)
【0089】
実施例1~9および比較例1、2
(工程1)
表1に示す配合内容に従い、工程1に示す各種薬品を、(株)神戸製鋼所製の密閉型混練機(1.7Lのバンバリーミキサー)にて、薬品投入後、混練時間を150秒、混練ゴム温度が155℃まで上昇する混練りを実施して排出し、マスターバッチに相当する混練物を調製した。
【0090】
(工程2)
工程1で得られた混練物を前記バンバリーミキサーに入れ、表1の工程2に示す各種薬品を添加し、混練物の温度が160℃になるまで2.5分間混練りし、排出して、混練物を得た。なお、表1中の工程2薬品は、いずれもタイヤゴム組成物の製造に一般に使用される酸化亜鉛、老化防止剤、ステアリン酸およびワックスを含むものである。
【0091】
(工程4)
工程2で得られた混練物に、表1の工程4に示す各種薬品を添加し、2軸オープンロールを用いて、混練物の温度が100℃になるまで2分間混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。なお、工程3は行わなかった。
【0092】
得られた各未加硫ゴム組成物は、165℃で21分間、5.3mm厚の金型でプレス加硫し、試験用の加硫ゴム組成物とし、下記試験により評価を行った。それぞれの評価結果を表1に示す。
【0093】
<複素弾性率G*の測定>
RPA2000(アルファテクノロジーズ社製)を使用し、30℃、周波数10Hz、歪み2%の条件下で、各試験用加硫ゴム組成物のせん断モードの複素弾性率(G*)(Pa)を測定した。結果は、比較例1の測定結果を100とし、下記計算式により指数表示した。なお、複素弾性率指数が大きいほどシリカ分散に優れること、また、低燃費であることを示す。
(G*指数)={(比較例1の複素弾性率)/(各配合の複素弾性率)}×100
【0094】
<損失正接tanδの測定>
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、30℃、初期歪10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で、各試験用加硫ゴム組成物の損失正接(tanδ)を測定した。結果は、比較例1の測定結果を100とし、下記計算式により指数表示した。なお、tanδ指数が大きいほど転がり抵抗が低く、低燃費性に優れることを示す。
(tanδ指数)={(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)}×100
【0095】
<シリカ分散>
各試験用加硫ゴム組成物から、ミクロトームを用いて超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡にて観察した。シリカ分散の割合は、({1-(未分散シリカの容積)/(ゴムの容積)}×100)にて数値化した。未分散シリカは、13μm以上の塊をカウントし、その投影面積から容積に換算(シリカ比重で割る)した。数値が大きいほど、シリカは分散されている。
【0096】
【0097】
表1の結果より、末端変性SBR以外のゴム成分、およびカーボンブラックの一部または全部を含む原料混練りしてマスターバッチを調製する工程1、および工程1で得られたマスターバッチに末端変性SBRおよびカーボンブラックの残部を混練りする工程2を含む製造方法により製造されたゴム組成物では、シリカの分散性に優れ、低燃費性が向上していることがわかる。